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【148】-01- (第一章 旅立ち!夢見る千年祭)
 Double Flags  - 08/8/12(火) 2:20 -
  
 今日はガルディア王国建国1000年を祝うお祭り、千年祭。その記念すべき初日であった。
 そんな日にクロノとマールの二人は出会った。
 1つの違和感を残して。


 リーネの鐘の前、わずかに汗の滲んだ額をおさえつつ二人は話しはじめた。
「クロノ、どう?」
「いや、何の収穫もないよ。どうなっているんだこれは」
 腰に二本の刀を差した赤い髪の少年――クロノは首からペンダントを下げた金髪でポニーテイルの少女――マールに言った。
 彼らは、ほんの少し前に『ここ』に戻ってきたのである。
 それこそ、何もかも終えて、物語で言うならエンドロールが流れているころだろう。
 二人の記憶が確かなら、クロノとマール、そしてもう一人の少女が『ここ』に戻ってきたのは夜中である。
 それがいつの間にか朝に、しかもベッドで寝ていたのだ。
 ベッドの中にいつの間にかいることに気づいたクロノは母親が起こしに来る前に飛び起き、母親の存在を確認した。
 しかし、話しかけてみるが、どうにも要領を得ない返事しか返ってこない。
 すぐに外へ出ると、そこには他の大陸からの人々が港から降り立つところであった。
 ますます混乱し、幼馴染でさっきともに『ここ』へ帰ってきた少女――ルッカの家に行くがそこにはルッカはおらず、直ったはずのルッカの母親ララさんの足が悪いままであった。
 ルッカの家を飛び出し、そのままガルディア城へ向かうが門前払いを食らう。
 衛兵に対しては何を言っても無駄であった。
 仕方なくリーネ広場へ向かったクロノ。
 そこには同じように動揺していたマールが、武器商人――ボッシュに何か言っているところであった。
 しかしボッシュはどうにも困った様子。
 クロノはすぐにマールに話しかけ、ことの事態を把握しようと話し合い、とりあえず情報を集めることにしたのであった。
 それでもなんの情報は得られない。
 それこそ、クロノとマールがはじめてであった千年祭の初日と同じ反応を皆がするのだ。
 そんな時二人に、一人の少年が歩いてきた。
 その少年に気づいた二人。
 少年からは、懐かしいような、恐ろしいような、奇妙な感じがにじみ出ていた。

 見た目11.12歳程度の少年がクロノとマールの前に突然現われ言った。
「君たちにはもっと強くなってもらいたい。
 まだ足りない。だから、強くなってもらわなくてはいけないんだ」
 クロノはその少年の目線に合わせてるためにしゃがんだ。
「君はこの世界のことをしっているのかい?」
 少し強めに、少年の肩を掴んだ。
 マールはそれを注意しようとしたが、少年はそれを簡単に振りほどいた。
 いや、クロノの目の前からその少年は消失し、少し先に居た。
 クロノとマールは驚き固まった。
「やっぱり気づいていたんだ。よかった。時間が繰り返しているって」
 目を合わせるクロノとマール。
「!」
「それならいいかな。頑張って、
 少ししかヒントはあげられないけど」
 それだけ言って少年は、文字通り消えてしまった。
 少年が消えてしまったことは周りを見る限り、自分たちだけしか気づいていないようだった。

 一瞬で現れた少年は、それは陽炎のように消えてしまった。
 呆然としているしかなかったマールは、なんとか声を絞り出す。
「クロノ、あの子の話どう思う?」
「・・・・・・何がなんだか、さっぱりだ。
 『繰り返している』ことに気づいていて。
 いや、あの少年が繰り返しているんだって言うんだっていう、信じられないけどそれが現実だっていうことを・・・・・・」
 クロノの声はそこで小さくなり、ふたたび声を出す。
「繰り返しているって言うなら、次に起きるのはリーネ様の誘拐だ。
 そうなら、俺は中世でもうマールに消えて欲しくないと思っている」
 思わず体に、拳に力が入っていた。
「わたしもクロノにもう死んでほしくない」
 古代のことを言っているのだろ。
 あの事件はクロノにとっても、それはマールを初め仲間たちにとっても、強烈な出来事であった。
「それにしても何が起こっているんだ」
 何もつかめないという事実がそこにある。
「…クロノ」
  カン、カラン、カン
 リーネの鐘が鳴る。
「またこの鐘が始まりか…」
「これはわたしとクロノの始まり」
 サッとマールはクロノの手を掴んだ。
「さっ、行こう。ルッカなら何か掴んでいるかもしれない」
 引っ張るマールにクロノはつられた。
 それはこれから何があっても大丈夫だといえる強さを感じた。
 ふたりははじまりの場所、あの広場に向かった。

 広場には多くの人が集まっていた。
 クロノとマールは思っていたよりも早くその広場に入ることができた。
 二人の記憶では、それが完成するのはもう少し後の時間であったからだ。
 広場ではルッカが装置の調子を見ている。
 広場に入ってきたクロノとマールに気づくと近づいてきた。
「やっと来たわねクロノ。準備は万全、さあ早くのって」
 その様子に少しクロノは戸惑った。
「ルッカ実は・・・」
 それを見て、すぐにルッカはその先の発言を手で制した。
「やっぱり、わたしと同じ時間軸のクロノよね」
 それは何を意味しているのかクロノにははじめ分からなかった。
「ルッカ?」
 疑問を声にしたマールにルッカはにこっとした。
「時間が繰り返しているのよマール。
 わたし達の冒険が始まったこの場所の時間軸に
 はじめはなんだか訳が分からなかったわ
 だって、いきなりこの空間転送装置の前に座っていたんだもん
 横ではタバンがこれの配線いじっているし」
 タバンを指差すと、それに気づいたタバンがクロノに気づいて簡単に声をかけすぐに装置の前に戻った。近づこうとしているちびっ子をいなしていた。
「すぐに嫌な予感がして家に戻ると母さんが足が治っていなくて
 さすがにその時は動揺したわ
 そして、考えたわ
 時間が移動できるようになったきっかけのヒト
 そのヒトがまだやってほしいことがあるんじゃないかって
 だからまた時間を戻したんじゃないかって」
「・・・」
 クロノとマールは唖然とルッカを見た。
「どうしちゃったの二人とも」
「ルッカすご〜〜い」
「ええ、まあサイエンティストだから」
 気をよくしたルッカが高笑いをしようとした時にさっきの少年があられた。
「三人そろったね」
 ルッカは高揚した気分を邪魔され、不機嫌に子供の方を向く。
「あんた何者?」
 そのときルッカは、少年にいつか古代であった不思議な少年――ジャキのときと同じようで全く別の何かを感じた。
 それはクロノとマールがその少年に感じたものに近いものでもあった。
「ルッカ」
「『真実を求めれば現われる
  わたしが消えた後もそれが残らん』」
 呪文にも似た何か不思議な言葉であった。
 ひどく、その言葉が三人に響きわたる。
「なんだそれは」
「アドニー・コンフォートの『銀楼』」
 そっとマールがつぶやいた。
「コンフォートって、あの!」
 ルッカの記憶にはその名が強く残っている。
「これは中世の偉人である歴史家が残したもの
 彼女はこれから起こる何かに気づいていたのかもしれない」
「意味が分からない」
「君たちには一つの選択肢がある。
 これは常に君たちに付きまとうこと…」
 少年はクロノの言葉を無視して進めた。
「ラヴォスゲートは現代にもある」
「!!」
「それに乗っていけばいつでもラヴォスを
 それも君たちの好きなタイミングで倒せる。
 もちろん、いますぐに行かなくてもいい
 ただ、その道を選ぶたびに僕は君たちの周りに現われる
 その道でいいのかと」
「どういうことだ」
「これから君たちにやってもらいたいことがある。
 でも、まだ今の君たちじゃ足りないんだ」
「足りないって」
「もう少し経験をつまないと」
「わたし達に何をさせようとしているの」
「それは君たちの手で見つけたほうがいいんだ。
 僕が直接いってもその本当の意味が分からない。
 対処できない
 今じゃダメなんだ
 ラヴォスゲートはあの小さなカプセルから行ける
 頑張って」
 三人が少年の指した先、装置の一方側に小さな光が見える。
 少年の方を振り返るとそこには少年の姿かたちが消えていた。

 クロノたちは実験を手早く終わらせ、観客を帰らせた。
「どう思うクロノ」
「なんともいえないな」
「せっかく救った世界なのに」
 クロノは小さなカプセル、ラヴォスゲートを見た。
「だったらもう一回救えばいいんだよ」
 マールの発言にクロノとルッカは、はっとした。
「そうよ、もう一回回ってもう一回救ってやればいいじゃない」
「そうだな、やろう」
 三人は決意を新たにポットに向かった。
「でもどうやって?」
 マールがそんな疑問を発した。
「あの少年は何かに気づいて欲しかったような気がするの」
「どういうこと」
「もう一回わたし達が繰り返すことで、
 前の時間軸
 前の周に気がつかなかった何かに気づいて欲しい
 つまりは、もう一回わたし達の行動を
 洗いなおして気づかせようとしているのよ」
「何を?」
「何かよ、何か」
「そこまで気づかせたいものって何なんだろうな」
「まあ、とりあえず進んでいけばわかるわよ
 今は絶対的に情報が足りないんだから」
「じゃあ行くね」
 マールはいつの間にかポットの中に入っていた。
「早っ!」
「そう、とりあえず進んでみろ、の精神よ」
「それでオレの幼い頃、一体何回ひどい目にあったことか」
「ぐずぐず言わない、さあ手伝って」
「おねがいねクロノ」
「分かっているよ。
 今回はマールが消える前に全部終わらせてやるからな」
「その調子よ、クロノ」
 ルッカとタバンは装置を動かしゲートを発動させる。
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
  グオォン
 ゲートが開かれマールは吸い込まれていく。

 残されたクロノとルッカはすぐに中世へ旅立った。
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【147】強くてクロノTrigger まえがき
 Double Flags  - 08/8/12(火) 2:14 -
  
この物語は、クロノトリガーの二周目の物語を創作したものです。

色々と見てきたけれども、二周目の、強くてニューゲームを題材とした小説らしきものは見当たりませんでした。
楽しめるようなものであるか、分かりませんがこれを機にまだ完結していないEDまでいけたらなどと考えております。
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【146】CPss2あとがき
 REDCOW  - 08/7/20(日) 0:37 -
  
 あとがき
 
 この物語は週刊としながら後半戦は月一で、最終話に至っては二ヵ月後とかになってしまい本当に申し訳有りませんでした。こんなに遅くなるとは自分でも思っていなかったのですけど、なんか悪戯に時間を消費してしまった割には書けてなかったりで、終わりとしてはとても完成度的には悔やまれます。

 本当はもう少しこの後にシーズン2分は繋がる内容がある予定でしたが、編集に時間を掛けられそうになかったので中途半端な区切りとはなりましたが、今後の「先行公開版シーズン3」という感じで間の話を何回かに分けて掲載して行くつもりです。

 シーズン2では色々と新しい要素を出す事を中心に展開してきました。

 シーズン1ではクロノ世界のもう一つの視点と共に登場した魔族内ヒエラルキーや種の違いが、シーズン2ではメディーナという現代の魔族の国の環境の中で語られる感じになってみたり、魔法についてもシーズン1で出てきたフィールド技術についての細い活用が出てきたりといった感じに、クロノプロジェクト世界になってからの戦い方を中心にやってみたのがこのシーズン2での試みでした。
 シーズン1と比較するとオリジナル要素が多いので、クロノトリガーという物語として見た場合は随分と異質な世界が生まれていると思います。これを見て「もはやクロノでも何でもないやい!」っていう感想が出ても不思議ではないと思うので、その辺は甘んじて受け入れたいと思っています。(^^;
 ただ、これらの要素は今後の冒険でも色々と出て来るものなので、クロノ達が新しい戦い方に慣れてゆく課程という流れの中で、ご覧の皆様にもなんとな〜く伝わったら嬉しいなとか思っています。(^^;

 相変わらず文章が未熟故に、表現力とか自分の力量不足は否めません。
 見て下さっている方には本当に誤字とかも多いので(直せよ!)、お見苦しい文章となっておりますが、これらの修正はとりあえず追って出来る範囲でさせて頂けたら幸いです。(^^;;;;

 さて、本年(2008年)七月七日にクロノ・トリガーDS版の今冬発売が発表されました。ようやくクロノとしては久々な原作元の新作です。
 まぁ、リメイクですので完全な新作ではないですが、本当に新しいクロノが生まれて新しいクロノファンが沢山出来てくれたらこんなに嬉しいことはありません。私は素直にこの動きを歓迎しています。
 携帯ゲーム機への移植という事で、私はDSもPSPも持っていないので、今年の冬はDSと一緒にクロノを買わなくてはプレイできません。…クロノDS発売記念のDSとか出たら一緒に買うんですけどね?(スクエニさん、出しませんか?)

 なんだかんだとこの企画も今年で八年目。物凄く長寿な企画となっております。しかも、シナリオ的にはまだまだ長いという有り様。(´д`) …なんとか自分が若い内に作り上げたいですが、そうこう言っている内に良い歳になってきちゃいました。(´ω、` *)
 でも、年齢とか関係なく楽しめるクロノの素晴らしさは偉大ですね。今になって本当にそう思います。幾つになっても時を遡る事が出来る。

 クロノはクロノ達だけが時間旅行しているわけじゃないことを、改めて実感している今日この頃です。そして、そんなステキな時間をDSで新しくプレイヤーになる方々も感じられる年齢になるまで楽しんで貰えたら、クロノは本当に幸せ者ですね。(^ω^)

 それでは、シーズン3は来年くらいに公開予定で今の所考えていますが、色々と詳細が決まり次第センターとかで告知出しますんで、こちらのクロノ達も楽しみにして貰えたら幸いです。

 では、シーズン3でまた会いましょう。

 感想は返信としてこの下につづけて下さい。
 ございましたらお返事させて頂きます。
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【145】CPss2第40話「彼方からの呼び声(後編)...
 REDCOW  - 08/7/20(日) 0:35 -
  
第124話「彼方からの呼び声…後編」(CPss2第40話)
 
 
 慌ててクロノは二人へ向ってケアルを放つ。だが、あまり効いていない。止血程度の応急処置にはなっただろうが、彼らが1人で治療に至れるほどの力は望めないだろう。
 血の気が失せるのを感じた。このままでは二人は死んでしまう。しかし、二人を回復させる余裕など無い。なぜなら、前方の敵はそんな暇など与えないだろうから。
 アウローラが再び光線を放つ。彼女の指先から幾筋もの光線が飛び出した。その光は一撃のみであるならば防げただろうが、連続的なものであるなら防げるはずは無かった。しかし、目前で起こった事は彼女の想定から外れていた。
 
 
「…なんだってんだ。…許さねぇ。」
「!?」
 
 
 クロノの身体から青白い光が漏れだし、鈍く輝き始める。
 アウローラは前方へ急速に天の魔力が集るのを感じた。それは単なる魔力の集中とは何かが違った。それはまるで空間そのものが彼の魔力に反応して集っているような印象を受けた。彼女は何か得体の知れない恐怖と同時に、この殺伐とした場には不釣り合いな温かいオーラも感じた。
 
 
「…前の男、そなたの名は。」
「…クロノ。」
「…そう。ならば、私を撃ちなさい。」
「…撃つ?」
 
 
 アウローラの指先から再び光線が走る。その出力は先ほどよりも強力で、より多く射出された。だが、それらの攻撃もクロノは前方に刀を構えて全て弾き返した。
 
 
「…私は己の意思で物事を決められない。全てはマヨネーなる者の意思に従う他に無い。故に、この行動全てが彼の命じるままとなっている。あの者に従うは私の本意ではない。だから、撃つのです。」
 
 
 アウローラの話はよく分からなかったが、つまり彼女は操られているということだろう。しかし、それ以前にアウローラは魔力の集合体であって、生きているようには思えない。彼女の存在自体が謎だった。
 
 
「お前は何だ?」
「…私は人の心の力が死して残り続けた化身。太古の時代、魔の力が失われ行くのを惜しみ生まれた、より高度な魔力を獲得するための器。人の生きる道を守る為に作られた精霊とも言うわ。」
「…精霊?グランやリオンみたいな奴か?」
「…そう。聖剣グランドリオンとは、失われ行く高度な人の心を宿した器。彼らは剣に己の力を宿す事で、永い時を超える術を持ちえたのでしょう。しかし、私のような者は彼らの時代より未来に生まれた、技術的にも未熟な時代の産物。滅び去りし都の末裔達が失われ行く力を惜しみ、その力を体内に宿す事で代々受け継がれたもの。人はその存在をサーバントと呼ぶわ。」
「サーバント?」
 
 
 再び光線が飛ぶ。その出力は先ほどまでとは比較にならない大きさだ。だが、クロノは咄嗟に前方に天のフィールドを張ると、前傾姿勢をとり、刀の先に魔力を集中した。
 フィールドに光線が衝突する。
 激しい振動がフィールドを揺らす。しかし、程なくしてその揺れは消え、光線もすうっとフィールドへ飲み込まれただした。クロノのフィールドが彼女の光線を凌駕し吸収したのだ。
 
 
「…で、なんでマヨネーなんかに宿っているんだ。」
「…わからない。」
「わからない?」
「…わからない。気がついた時には、私はあの者の呪縛に縛られていた。覚えていることは、そうだ、…恐ろしく邪悪な魔力を使う者を見た気がする。あの者も空の魔力を使うが、もっと恐ろしい異質な力だった。…それ以外はわからない。」
「空の魔力?」
「天に通じ、全ての空を支配する究極の魔力。天を超越する者。」
「天を超えてるのか。…それで、お前をどうしたら良い。」
「撃ちなさい。もはや私にはどうすることもできない。」
「…そうか。」
 
 
 クロノが魔力を集中する。
 彼は前方に天のバリアフィールドを張り巡らせる事に集中した。そこにアウローラの光線が再び撃ち放たれる。フィールドは2射目までは弾き飛ばすが、3射目以降の攻撃に対しては軌道を若干そらすのが精一杯で貫通していた。だが、それに対してもクロノは持ち前の根性で対応させ始める。アウローラは微動だにせず撃ち放っているが、それ以外は何もする様子が無かった。
 クロノは彼女が射終る瞬間を見計らって突撃する。それに反応するように彼女はクロノを狙い撃つ。そのいくつかは彼の腕や頬を擦るが、刀で受け流し素早く交わすと彼女の懐へ一直線で駆け登った。
 
 
「えっ…」
 
 
 後僅かだった。
 クロノが彼女に切り掛かる最後の瞬間、彼女は彼の利き腕である左肩を射ぬくと、すぐさまもう片手の先から光線を発し、彼の胸を貫いた。
 一瞬の出来事に何が何だか解らぬ間に彼の身体は後方へ高く舞い上がった。そして、気がついた時には空が一面に広がり、鮮やかな青い空が次第に白くぼやけるのを感じていた。
 
 
…、


…、


…青いな。


 全てが白濁した。


「…ロノ…クロノ、クロノ。」
「…誰だ。」
「…誰でも無い。あなた自身よ。」
「…俺自身?」
「…そう。あなた。いいえ、俺よ。」
「…は、ははは。なんだよそれ。気持ち悪い冗談だな。第一、俺は男だ。」
「…えぇ。そうね。」
「…で、その『俺さん』が何の用だよ。」
「…逃げないで。」
「逃げる?」
「あなたから逃げないで。」
「…俺から?…俺は逃げも隠れもしないぜ。…でも、今は眠い。」
「そうじゃないわ。あなたは、知っている。」
「…何をだ。」
「だけど、怖いのよね。」
「…怖い?俺が?」
「そう。あなたは本当の自分の怖さを知っているわ。だから、あなたはその自分から目を背けている。」
 
 
 唐突に視界になにかが広がるのを感じた。それは自分の住み慣れた実家の風景だ。しかし、その視界は少々低く感じた。
 そこは家の裏庭で、母親が洗濯物を干しているのが見える。
 表情が若い。随分過去の記憶の様だ。
 彼女がこちらを向いた。その表情はとても嬉しそうに微笑んで何かを言っている。視界が彼女の方へ急ぎ足で向うのを感じる。彼女のエプロンに埋もれた時、彼女の手が彼の頭の上に触れたようだ。…温もりを感じる。
 だが、視界は突然動いた。
 その方向には大きな男の足らしきものが映った。その男とは距離にして2m程離れていて、首から上の方は見えない。だが、その足は徐々に近づいてくる。そして、それと同時に身の毛が総毛立つものを感じた。
 次の瞬間、視点は激しく動くと、前方の男が稲光を発してよろける。その時一瞬顔が見えたように感じた。ハッキリとは解らないが、その男がほんの僅かな瞬間自分をギロリと睨んだように見えた。
 彼は透けるように消え去ると、視点はあらぬ方向へ動く。
 天を仰ぎ見る様に現れたその顔は…
 
 
「(…アウローラ?)」
 
 
 視界はそのままの位置を動かず次第に白んでいった。
 そして再び白い世界に戻ってきてしまった。
 
 
「…おい、『俺』さんよう、これはどういうことだ。」
「…逃げないで。あなた自身から。」
「…さぁな。俺は俺だよ。」
 
 
 そう答えた瞬間、鈍い痛みが襲う。
 胸を貫く鈍痛。先ほどの光線が貫通したからだろう。だが、仄かな暖かみも感じる。でも、息苦しいし、しびれるような感覚が全身に走っているのを感じる。
 
 
「…止血は出来ましたわお姉様。」
「こちらも処置完了ですわ、お姉様。」
「マルタ、リーパ、もう少し急ぐわけ!ぐ!」
 
 
 彼が目を開くと、そこにはマルタの幼い顔が見えた。彼女は彼の胸の傷に右手を置いて治癒の魔法の詠唱に集中している。彼女の手から出て来るオーラが、この胸の傷の痛みを和らげているのだろう。…どうやら、メーガスかしまし娘達がクロノ達を守っている様だ。
 
 
「気がつかれましたのね。」
「…あぁ。助けてくれたんだな。有り難う。」
 
 
 クロノはそう言うや右手を胸に置く彼女の手の上にそっと自分の左手を添え、自らの魔力で傷を癒すオーラを増幅させた。その力は瞬時に効果を示し、彼の傷はみるみるうちに治癒された。
 傷が癒えると、そのまま起き上がり様に言った。
 
 
「…二人を頼む。」
「はい。ですが、あなたは?」
「俺は、戦う。」
「わかりました。お二人の治療は任せて下さい。」
「あぁ。」
 
 
 彼は立ち上がると、前方で防御フィールドを展開するアミラの左隣に歩み寄った。
 
  
「…ちょっと、遅いわけ!早く何とかするわけ!!!」
 
 
 必至の形相のアミラに、クロノは頭をポリポリ掻いて答えた。
 
 
「あ、わりぃわりぃ。…うし!なんとか運が戻ってきたぜ。俺はここでは止まれねぇんだ。」 
 
 
 クロノが魔力を集中し始める。
 彼の足元からシャイニングの発動前に生じる魔法陣が形成され始めた。その陣は彼のフィールド全域は勿論、その周囲の地面をもその支配域に組み込み始めた。青白い光が次第にアウローラから発生する天の光を侵食し始める。
 
 
「うぐ!?、アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 
 
 アウローラの足元へ迫ったクロノの魔力と、アウローラを形成するマヨネーの魔力が衝突する。激しい音と光を放ち、バチバチと彼女の周りで魔力同士が喧嘩を始めた。幾筋ものスパークが起こり、彼女の身体をクロノの魔法陣が縛り上げる。それは遂に彼女の全身に及んだ。
 その時、クロノの頭の中になにかが話しかけてきた。
 
「…私の出番だな。」
 
 その声はそう告げると、突然それは現れた。
 集中するクロノの魔力が乱れた瞬間、彼の身体からまるで魔力が引きはがされるかのように人の姿をして抜けた。
 それは、実体こそ見えず透き通る青白い輝きでしかないが、長い髪を持った女性のように見える。
 
「(…おかえりなさい。私。)」
 
 青い輝きは他の誰にも聞こえない声で、前方にいるアウローラへ告げた。
 その瞬間、一際大きな甲高い爆発音が当たりに響き渡る。
 眩い閃光を走らせ爆発したアウローラの身体は、侵食された青白い光の粒となって四散した。
 そして、青白い女性姿の輝きが手を広げると、次々にその光の粒を吸収してゆく。それは最初は舞い散る雪をゆっくりと吸い取るようだったが、次第に勢いを増してあっという間に全ての光を吸収し尽くした。それが終った途端、青白い女性姿の輝きはクロノの元にスウッと帰って行くように消えてしまった。
 
 
「…終ったのか?」
 
 
 アウローラが消えると、抵抗する観衆達も突然撤収を始めた。
 防衛軍がそれを追って彼らに続いた。急速に闘技場から人の声が消えてゆく。
 まだ癒えぬ傷を負ったまま、ミネルバが崩れた観覧席にてフリッツに支えられている父のもとへ跳躍する。
 クロノ達も彼女の後に続いた。
 
 
…どうやらこの場の戦いは、勝ったらしい。


 クロノプロジェクトシーズン2最終話はこれで完了です。
 長い間ご覧下さって有り難うございました。
 
 次のページにあとがきを掲載。
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【144】CPss2第40話「彼方からの呼び声(前編)...
 REDCOW  - 08/7/20(日) 0:10 -
  
物凄く遅くなって申し訳有りません。
CPss2最終40話の登場です。 
 
第124話「彼方からの呼び声…前編」(CPss2第40話)
 
 
 周囲で沢山の争う声が聞こえる。
 大勢の兵隊と観衆の戦いという…一見すると歪んだ一方的な闘争になろうはずが、観衆もまた魔力を使える人々が多数いるこの国では、互角か場合によってはそれ以上の大差がつくこともあるだろう。
 そんな争いの真っ只中にいるクロノ達。彼の前方にはガーネットと2匹のヘケラン、そしてマヨネーがこちらを見ている。彼は刀に手を添えた。ガーネットが魔力を集中させ始める。
 
 クロノが動く。素早く抜刀し様に「かまいたち」を走らせると、右手を刀に当てサンダーを込め跳躍する。そこに間髪居れずシズクが彼のタイミングに合わせてサンダガを放った。クロノがガーネットに迫る手前で2匹のヘケランが前へ進み出て攻撃を受け止める。刀の斬撃はヘケランの固いながら弾力のある強固な皮膚によって弾かれ、その身体は魔法攻撃を帯電して吸収した。
 
 
「ウガァァァァアアアアア!!!!」
 
 
 ヘケラン達が胸を叩き咆哮すると、帯電していた稲妻を放電した。シズクが素早くトラップフィールドで電力を吸収し還元するが、その時ガーネットが微笑みを浮かべて魔法を放った。
 彼女の指先からビー玉程の小さな球状の炎が現れると、それは瞬時に大きくなり直径1m程の火球に成長し、その球から次々にサッカーボール程の大きさの球がクロノ達に襲いかかる。ファイアボールの襲撃にシズクが炎のバリアフィールドを張るが、出力がまるで追いついていない。こぼれた火球をクロノが一歩前へ出て刀で切り落とす。だが、そこに親玉である1mの大火球が迫る。想定外の大物の登場に慌てる彼の後方から、急速に冷気が迫るのを感じた。
 後ろを振り向くと、ミネルバを中心に青白い輝きを放つ魔法陣が形成され、そこからメキメキと氷の結晶が発生して、クロノ達を氷の結晶が覆った。
 火球が衝突する。
 熱と冷気の衝突に魔力の反作用が生じ大爆発が起こる。氷は粉々に砕け散り、火の粉が四方に飛んで蒸気が周囲を覆った。
 真っ白な靄に包まれた闘技場だが、この視界ゼロにも関わらず両者は攻撃の手を緩めなかった。ミネルバのフィールドが破壊された瞬間、前方からヘケラン達の咆哮が飛ぶ。その咆哮は低周波の振動波…天然のウーハーとなってクロノ達の身体に衝撃を伝える。
 全く防御体制がとれていない想定外の攻撃に3人はもろにダメージを負うが、クロノはその振動波のダメージにも関わらず切り込む。そこにシズクがファイアを、ミネルバがアイスを放った。
 ヘケランの一体が前に出て攻撃を受け止める。しかし、
 
 
 「グギャァアアっ!?!………」
 
 
 ドォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーン!!!
 
 
 ヘケランが両断された。その瞬間、熱と冷気の反作用による大爆発が切断面から発生して、彼は叫び終える事なく四散した。突然の相棒の惨状に驚く暇無く、彼の敵が既に目前に構えていた。
 
 
「へへ。反作用切りってとこか。」
「ぐえ!?ギャアアアアアアアア………」
 
 
 ドォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーン!!!
 
 
 爆風に乗りクロノは仲間達のもとに戻る。爆発で靄も晴れ、ようやくお互いの姿が確認出来るようになった。敵はヘケランの喪失にも関わらず余裕の表情で構えていた。
 ガーネットが口を開く。
 
 
「遊びはお仕舞ね。本番はこれから。」
 
 
 彼女は右手をそっと前に差し出した。すると彼女の掌から黒き薔薇の花びらが吹き出し、彼女の身体を覆いつくしたかと思った瞬間、薔薇が一斉に四散すると、そこには先ほどまでの服装とは違ったゴシック調の美しい衣装を纏ったガーネットが現れた。
 
 
「お初にお目にかかります。殿下。私はグラネテュス・バイパー。以前、私の妹がお世話になりました。」
「…殿下、殿下って、お前らみんな知ってやがるんだな。で、妹って誰だ?」
「…お忘れかしら。そう、あの子も不憫ね。…アメテュス…と言えば分かって下さるかしら?」
「…黒薔薇。」
「えぇ。」
 
 
 彼女はクロノの反応に微笑みを浮かべると、恭しく一礼した。
 クロノが問い掛ける。
 
 
「お前の目的は何だ。」
「…私の仕事はディア様のご命令に従うまで。この仕事の依頼主は、お隣の方ですわ。」
 
 
 クロノがマヨネーの方を見た。
 マヨネーはツンとした表情で言い放つ。 
 
 
「お黙り小娘!あたしの命令に従うのがあなたの仕事よね?おわかりよね?…ったく、あの男の部下はろくな奴がいないのよね。」
「…そう。では、私の仕事はこれまでの様ですわね。閣下は貴殿の計画が無事に成功するまでで良いと仰いました。既にあなたの計画通り、あなたの姿は全国にテレビ放送で配信され、地下に潜っていたあなた方の勢力も表に出られる算段がお付きでしょう。…くれぐれも閣下に感謝致しますように。…ごきげんよう。」
 
 
 彼女は別れの言葉を告げると、すーっと影のように実体が薄くなり消えてしまった。
 マヨネーが口をあんぐりして驚く。だが、それにも増して怒りが込み上げて叫んだ。
 
 
「キィーーーーーーーーー!!!!もう、あんな女どうでもいいよね!それより、クロノ!あんたは逃がさないのよね。」
「…お前がどうやってこの時代に生きているかは知らねぇ。だが、俺の前に立ちはだかる奴は斬る。」
「…短期は損気なのよね。あたしが無策でこの場にいると思ったら大間違いなのよね。昔のあたしは力に溺れていたわ。でも、今は違う。あたしは変わったのよね。この煌めくボディ、美しくしなやかな力。…どんなに真似しようとも人間には真似の出来ない、ティエンレンのみに為しえる長命が実現した力よ。」
「ティエンレン…?」
「…魔族の中でも最も魔力が強い種族をティエンレンと言います。彼らは総じて長命種が多いとされています。」
 
 
 ミネルバがクロノの疑問に答える。
 クロノはふと考えた。彼女の言っていることが本当であるならば、三魔騎士の中で何故マヨネーだけがティエンレンなのだろうか。魔族の世界はよくわからないが、400年前の魔王戦争とは、「魔族の主流」が起こした事なのではなかったのか。例えば、ジャキを担いで三魔騎士は戦争を仕掛けたというが、実際はたまたまジャキが居ただけであるなら、戦争は起らないと言えたのだろうか。
 ビネガーが数世代の子孫を残し、ソイソーもティエンレンではないとすると、マヨネーの存在が一際異質に感じられるのと同時に、魔族という種族の構成がより複雑なものである様に感じられた。だが、彼はこれ以上考えるのはやめる事にした。…目前の敵をまずはなんとかしなくてはならない。
 
 
「…さて、あたしもあなた達に構っている暇は無いのよね。これから忙しくなるのよね〜。なんせ、あたしは時の人なのよね♪」
 
 
 マヨネーが話ながら何やら右手の先に魔力を集中し始めた。その力の質は今まで感じた事の無い程の凝縮された天の魔力だ。彼は何をしようというのだろうか。
 不気味な笑みを浮かべて彼は言った。
 
 
「…我が血に封印せし化身、その姿を盟約に従い示しなさい。アウローラ!!」
 
 
 右手に集った魔力の塊が急速に人型を形成し始めた。同時にマヨネーから大幅に魔力が失われたのが感じられた。
 光り輝く人型の化身は次第に実体化し、長くしなやかな黒髪を伸ばした美しい女性となった。漆黒のエナメル質の様な光沢を持ったキャミソールを身に着け、ネット状のミニスカートを履き、その編み目から光沢のビキニパンツが透けていた。
 そのあまりにも悩殺的姿に、思わずクロノの鼻の下が伸びた。が、慌てて表情を引き締めた。
 
 
「アウローラ、あたしの代わりに彼らを始末することを命じるのよね。」
「…。」
 
 
 アウローラは彼の言葉に何の返答もせず、静かに悲しげな表情でたたずんでいた。
 マヨネーはそんな彼女に苛ついて声を荒げる。
 
 
「ちょっと!そんなあたし可哀想でしょって表情やめてくれない!!!ちょっと可愛いからって良い気にならないで欲しいのよね。あなたの主はこのあたし!主の命令には元気よく答えるのよね!おわかり?」
「…はい。ご主人様。」
「…ふん、いいわ。じゃ、任せたわよ。命に代えても命令を守りなさい。以上よ。ふん。」
 
 
 マヨネーは彼女に命じると、すーっと透過してその場から消えてしまった。
 
 
「あ!?ちょっ!!!待ちなさい!」
 
 
 シズクが慌ててサンダーを走らせるが、既に消え去った後だった。
 そこにアウローラがクロノ達に向けてしなやかに右手を伸ばした。
 
 
「!?」
 
 
 その瞬間、3人に目掛けて光線が飛ぶ。一瞬にして3人が貫かれた。
 クロノは咄嗟に刀を構えた事で光線を屈折させて避けたが右肩を打ち抜かれ、ミネルバとシズクは胸を打ち抜かれてその場に倒れた。
 
 
「シズク!?ミネルバさん!?」
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【143】其はいかにして魔剣となりしか  外伝
 meg  - 08/7/5(土) 18:27 -
  
「リデルお嬢様?」
 呼ばれてリデルは振り返った。カーシュがこちらへ近づいてくる所だった。いたずらが見つかった子どものようにリデルが少し笑う。
「見つかってしまいましたね…。」
「どうしたんです、こんな遅い時間に外に出るなんて。今日はいろいろあった事だし、早めにお休みになった方が…。」
 カーシュの言葉を遮って、リデルはぽつりとつぶやいた。
「あの子と、言い争いをしてしまったのです。それで、少し頭を冷やそうと思って。」
 あの子、というのが彼らをここチョラスまで運んでくれた少女の事を指しているのは明白だった。カーシュの眉が急角度に跳ね上がる。
「なにい、あの小娘、お嬢様にどんな失礼な事を言いやがったんですか?!」
 最初から悪いのは少女の方と決めてかかっている。憤然として発した言葉は、リデルによって打ち消された。
「いいえ、私が悪かったの。」
「え?」
 怒りの矛先を失って、カーシュが間抜けな声を出す。遠くを見つめて、リデルは小さくつぶやいた。
「私が、なぜあんなにもグランドリオンの呪いに執着していたのか、尋ねられたのです。だから私は、ダリオの事を話した…。」
 息を飲む気配。背後のカーシュが今、どんな顔をしているのか、前を向いたままのリデルには判らない。
「そうしたら、まだ半分も話し終えないうちに、あの子、恐い目をして言ったんです。あなたは贅沢だ、って。」
「贅沢…?」
 おうむ返しにカーシュが訊き返す。
「ええ。大陸の方では、パレポリが起こした戦のために、肉親と生き別れになったり、死別したりした人は大勢いるって。そんな人達でさえ、今は日々の暮らしを精一杯生きているのに、あなたは自分の立場をいい事に、周りの心配や気遣いにもかまわず自分の悲しみに閉じこもっているって。」
 そっと自嘲の笑みを浮かべ、うつむくリデル。
「その時はかっとなって、あなたに何が判るの、なんて言い返してしまったけれど、よく考えてみればその通りだったと思うんです。今まで私は、自分の事ばかりだった。一番辛かったのは家族を亡くしたグレンのはずなのに、グレンは私ほど長く悲しんではいなかった。カーシュ、あなただって、目の前でダリオを失ってショックだったはずなのに、むしろ私の事を気遣ってくれていた。父上にも、心配をかけてばかりで…。」
 振り返ると、複雑な色をしたカーシュの目と視線がぶつかった。いつの頃からか、カーシュは今のような様々な思いの混ざった目をして自分を見ていた。リデルにはそれが何なのか、想像もつかないのだけれど、少なくとも心配してくれているのだという事は判った。
「だから、決してあの子を怒ったりしないで。あの子は間違った事は言っていない。周りに甘えていた私の目を覚ましてくれた、ただそれだけだから。」
「まあ、お嬢様がそう言うなら、やめておきますけど…それにしても、言葉がきつすぎじゃないですかね。」
 自分が言われたかのように怒っているカーシュに、リデルはくすりと笑みをこぼす。
「いいんです。代わりにあなたが怒ってくれているから。」
「え、いや、そ、それは…。」
 思いがけない言葉にうろたえ、照れたカーシュは耳まで真っ赤になったが、夜の闇に紛れているためリデルは気づかない。
「明日はちゃんとあの子に謝らなければいけませんね。もう乗せてあげない、なんて言われたら、エルニドに帰れませんから。…話を聞いてくれてありがとう、カーシュ。私、もう部屋に戻りますね。」
 おやすみなさい、と言ってリデルが平屋造りの宿の中へと姿を消し、カーシュは反射的に挨拶を返してそれを見送った。するとそこへおどけたような声が降ってきた。
「どうしてそこで気づかないのかなぁ、リデルさんは。」
 ぎょっとして辺りを見回したカーシュは、宿の屋根の上に人影を見つけて二度驚いた。ずいぶん距離があったのだが、目のいいカーシュにはその人物がリデルとの話題に出ていた少女だとしっかり見えていた。
「てめえ、小娘、そんな所から盗み聞きを…。」
 言いかけた言葉は途中で途切れてしまった。怒声を聞き流して月を見上げた少女が、独りぼっちの迷子のような瞳をしているのを見てしまったからだった。出逢ってからずっと、笑顔を絶やさなかった少女。リデルとの言い争いの際恐い目をしてみせたというが、少女のそんな様子が今さらだが想像できなかった。
 こほん、と意味のないせき払いをして、改めて少女に呼びかける。
「なあ、一つ訊きたいんだが…。」
 少女が誰であるのか判らないといったように、ぼんやりとこちらを見下ろしてくる。しかしそれも一瞬の事で、身軽に屋根から降りてきた時には笑顔が復活していた。
「なあに、カーシュさん。」
「バカ、危ないからわざわざ飛び降りて来なくても…って、そうじゃなくてだな…明日、俺達をエルニドまで送った後は、どうするつもりなんだ?」
 少女がちょっと首を傾げる。なぜそんな事を訊くのか、と訊ね返されたらカーシュも答えに詰まるのだが、少女は素直に答える事にしたようだった。
「そうね…ちょっとだけエルニドを観光しようかな。その後は、また父さん達を探しに行かなきゃね。」
 虚空を見つめる真剣なまなざしと、リデルとの会話にあった言葉が重なってはっとする。そんなカーシュの考えを読んだかのように少女は続けた。
「そう、わたし、父さんと母さんの顔知らないんだ。赤ちゃんの頃に離ればなれになっちゃったから。父さん達はよんどころない事情で帰って来れないみたいだし、だったらわたしから会いに行こうかなっ、て。」
 言うべきなのかとしばらくためらい、カーシュはできるだけ重く聞こえないように注意しながら問いかけた。
「どこにいるとか、安否とかも判らないのに、か?」
「判らないからこそ、よ。」
 意外にも、きっぱりとした答えが返ってくる。
「わたしが探さなきゃ、ほかの誰も探さない。確かな事が判るまでは、探し続けるわ。父さん達も、わたしが無事だって事、知らないだろうしね。」
 振り向いた少女は、安心させようとしたのか微笑んでいた。
「やだなあ、カーシュさんがそんな顔しなくたっていいじゃない。わたしは大丈夫だからさ、父さん達を信じているから。」
「だがよ…パレポリを恨みたくならねえか?」
「別に。今さら歴史の流れを嘆いたって仕方ないもの。わたしは今生きているんだし、今やれる事を精一杯やるだけよ。」
 笑顔さえ浮かべて少女は宣言した。
 やっと十代半ばに手が届いたくらいの少女が、たった一人で、生きているかも判らない両親を探し続けている。原因となったパレポリを憎む事もなく、ただ両親の無事だけを信じて…。その笑顔を見下ろしながら、思わずにはいられない。この少女の青い瞳が見つめる先に、何が待っているのだろうかと。
 やりきれない思いが胸を占める。少女は少し困った顔をしてカーシュを見上げていたが、やがてこちらに背を向けて歌いだした。優しいメロディと愛おしさに満ちた言葉が、透き通った少女の歌声となり、夜の町に静かに響く。一通り歌い終わると、思わず聞き惚れていたカーシュに微笑みかけた。
「母さんが、父さんに贈った歌なの。昔、父さん達が旅をしていた頃に、一度父さんが無茶をして瀕死になった事があって、その時母さんが父さんへの思いを歌ったんだって。小さい頃に、母さんの親友の博士が教えてくれたの。」
「…何でそんな歌を今歌うんだ?」
 尋ねると、微笑みが少しいたずらっぽい雰囲気を帯びた。
「カーシュさんを元気づけてあげようと思って。」
 励まそうとしていたのはこっちのはずなのに、逆に励まされている。カーシュは眉間にしわを寄せたが、不快という訳ではなかった。
「ふん、生意気言ってんじゃねえぞ小娘。」
 言葉は荒いが口調は落ち着いていた。ふふっと少女が笑う。
「さて、そろそろ寝ないと明日起きられなくなっちゃう。部屋に戻った方がいいよ、カーシュさん。」
「てめえはどうすんだよ?」
「今戻るとリデルさんと鉢合わせしちゃうからなあ。シルベーラで寝るよ。」
 苦笑する少女を見て、二人が喧嘩中だった事を思い出す。呼び止めて説得する事もできたのだろうが、その前に少女はさっさと愛機に歩み寄っていってしまった。肩をすくめると、カーシュは助言に従う事にする。
 宿の扉に手をかけた時、ふと思った。リデルは少女の歌を聞いていただろうか。もしそうだったとして、歌が歌なだけに妙な勘違いをされるのではないか。そんな事を考えて少し青ざめるカーシュなのだった。
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【142】あとがき。
 meg  - 08/7/5(土) 16:06 -
  
 「トリガー」の中世の雰囲気が好きです。
 特にグランドリオンの一連のイベントは気に入っていたので、クロスプレイ時には「魔剣?!」と多大なショックを受けました。せめて納得のいくエピソードをと考えたのがこの作品です。
 舞台設定としては、アナザーの方の真エンディング後で、仲間達はセルジュとの冒険を忘れているという事になっています。というのは、エンディングでのキッドの独白から推測してそうなのではと、私が思っただけですが。
 なぜアナザーにしたかというと、セルジュの旅には不参加の少女が、セルジュと同じ世界にはいないのではないかと考えたからです。あと、シルベーラは、ルッカが“時を渡る翼”を元に、飛行機能を重視して造ったという設定。そうでないとエルニドから出られないからね。
 「運命」のいなくなったアナザーワールドの人々、とりわけセルジュと関わった人々にとって、“彼女”はセルジュにとってのキッドと同じく外の世界へと誘う存在だと思います。「運命」によって閉鎖空間となっていたエルニド。「運命」の消滅後は、それまでよりも大陸との交流が深まることでしょう。
 …ところで、個人的に“少女”の事をもう少し書きたくなってしまったのですが(汗)。という訳で、外伝作りました。こちらも読んでいただけると幸いです。
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【141】其はいかにして魔剣となりしか  エピロー...
 meg  - 08/6/9(月) 14:48 -
  
「もう体の方はいいの、グレン君?」
 呼びかけられてグレンは振り返った。大陸出身の少女が微笑みを浮かべて立っている。その後ろの建物、パブの室内では、カーシュ達がささやかな祝杯を上げている頃で、にぎやかな声がもれ聞こえてくる。
 目覚めた時、見知らぬ町の宿のベッドに寝かされていて、リデルやカーシュが安堵の笑みと共に名前を呼んだ。霊廟でグランドリオンを手にした自分を、みんなが助けようとしてくれていた事を彼らから聞かされ、協力してくれたというこの少女を紹介された。グランドリオンがもう魔剣でなくなった事も聞いた。
 様々な事が解決された中で、けれどグレンは今一つすっきりできないでいた。あんなに嬉しそうにしているリデルを見るのは久しぶりで、カーシュもその事を本当に喜んでいて、そんな彼らにはどうしても打ち明けられず、独り物思いにふけっていた所だった。
 軽快な足取りでそばに寄ってきた少女は、少し顔を仰向けて、頭一つ分上にあるグレンの顔を覗き込んだ。
「元気がないみたいだけど、何か気にかかる事があるの?わたしでよければ聞くよ。」
 年下のこの少女から君付けで呼ばれている事には、なぜか腹が立たなかった。元気いっぱいといった感じなのにどこか大人びた雰囲気を持つこの少女になら、話しても大丈夫な気がした。少女の方を見ず、まっすぐ前を向いたままでグレンは慎重に言葉を口にした。
「グランドリオンを手にした時…大勢の人間の声が聞こえたんだ。なぜ自分は死んだんだ、なぜこんな目にあったんだ、そんな自分の運命を呪っている声が頭の中で響いて、気が狂いそうだった。」
 突然語り始めた事に驚く事もなく、少女はじっと耳を傾けていた。
「でも、そんな中で二つの声だけは別の事を言っていた。一つは、王国に平和を、と。もう一つは、友のため、仲間のために、と。その二つの声がなかったら、きっと俺は発狂していたと思う。その声だけを聞くようにしていたら、体が勝手に動いて…ここまでたどり着いたんだ。」
 北の方角に目を向ける。木々の間から月光を浴びて浮かび上がっているのは、無意識に目指していた勇者の墓だ。
「そっかぁ…。」
 どこか感慨深げに少女がつぶやく。にこ、と人好きのする笑顔をグレンに向けた。
「グレン君は、四百年前の二人の勇者の声を聞いたんだね。」
「勇者の、声…?」
「そう。」
 グレンの戸惑いにあっさりとうなずいて、数歩前に歩みながら少女が語る。
「グランドリオンは、手にする人の意志によって、強くもなり弱くもなる。人の意志に呼応する剣なの。だから今でも、彼らの声がまだ剣に残っていたんだわ。あの剣の精霊、グランとリオンが気に入った人達だからなおさらね。」
 くるりと振り向いて、もう一度笑う。その顔が、ふと陰った。
「ああ、だからだわ。あんなにもはっきりとジール女王の声が吹き込まれていたのは…意志に呼応するからこそなんだ。」
 悲しげな少女を見ていて、グレンも一つ思い出した事があった。あの剣が見つかったのは亡者の島の最奥。つまり、グランドリオンを手にして聞こえたのは、そこに渦巻く亡者達の声だったのではないだろうか。人の意志に呼応するからこそ、グランドリオンは魔剣になったのだ。
 まだ頭の中に残る呪詛の声が、少しずつ消えていくのをグレンは感じていた。そんな中、それまでは気づかなかった聞き覚えのある声がかすかに、だが力強く叫ぶのが聞こえた。
 友をこの手で殺すくらいなら、自分が死んでもかまわない!
「兄貴…。」
 無意識につぶやいた言葉を聞いた少女はきょとんとしたが、気にしない事にしたのかすぐににこっと笑ってグレンの袖を引っ張った。
「わたしお腹すいちゃった。何か食べようよ。」
 月明かりの下で、少女の青い瞳が銀色に輝いている。そこに自分の姿が映っているのを見下ろして、グレンはふ、と口元をほころばせた。
「なぁ、勇者の事をやけによく知っているんだな。もう少し詳しく聞かせてくれないか。」
 幼い頃、父にさんざん聞かされた、自分の名前の由来。今までは重荷でしかなかった。しかし、声を聞き、少女の話を聞いて、何か惹かれるものがあった。彼らの事を知りたくなった。
 少女は二つ返事で了解し、パブへと戻りながらどこから話そうかと思案している。グレンはもう一度勇者の墓を振り返った。グランドリオンを手にし、中世で活躍した二人の勇者。彼らが安らかに眠る場所。もっと早くに来ていれば、兄の最後の願いを叶えられたかもしれない。
「グレンくーん、早くおいでよ!」
「今行く!」
 答えてグレンは少女の方へと歩みを進めた。
         Fin
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【140】其はいかにして魔剣となりしか  vol.5
 meg  - 08/6/6(金) 14:39 -
  
「やれやれ、人の墓の前で何を騒いでいるのかと思えば…まさかグランドリオンに呪いをかけるとはな。親子そろって強力な呪いの使い手だぜ。」
 三人の後ろから声が聞こえた。いつの間にかそこにグレンがいて、床のグランドリオンを拾い上げていた。カーシュとリデルはそれぞれの表情に戸惑いの色を浮かべた。彼らの知っているグレンとは明らかに雰囲気が違う。独り言のようにカーシュは問いかけた。
「誰だ、てめえ…?」
 一方、少女も混乱しているようだった。
「なんで…今のはウォータガ…魔法が使えるなんて…それに、墓って…?あっ、まさか…!!」
 音がしそうなほどのすごい勢いでカーシュを振り向く。
「カーシュさん、もしかしてこの奥にお墓がもう一つあったりした?!」
「あ、ああ、確かにあった。それで、その前にグレンを寝かせて来たんだ。」
「…じゃ、じゃあ…もしかして彼の体を借りているのは…。」
 少女は静かに彼の中にいる人物に呼びかけた。
「…グレンさん…?」
 こちらを見つめる相手を見返して少女は少し表情をほころばせ、他の二人の反論がある前に言葉を続けた。
「それとも、カエルさんと呼んだ方がいいかな。」
 返ってきたのは微笑みだった。
「好きにしてくれ。」
「どういう事ですか…?」
 ジールを気にしながらリデルが問う。そちらに向き直って少女は先ほどと同じく簡潔に答えた。
「今、彼の体にはさっきカーシュさんが言ってたお墓に眠っている人が乗り移っているの。サイラスさんの親友で魔王を打ち破った、彼と同じ名前の人がね。」
「まあ、そういう事だ。こいつはまだ覚醒しそうもないし、悪いとは思ったがしばらく体を借りている。」
 とんとんと胸のあたりを親指でつつきながらカエルは苦笑した。その顔が不意に険しくなる。
「さあ、中途半端な説明で悪いが、おしゃべりはこのくらいにしてあいつをさっさと倒しちまおうぜ。精神だけになっても憎悪し続けるほどの執念を持った奴だ、ここで倒さないとあんた達も一生呪われる事になる。」
 ジールはやっとの事で体勢を整えた所だった。身構えてジールから目を離さずに、カーシュが誰にともなく問う。
「だが、実体のない奴をどうやって倒すんだよ?さっきやったがアクスは効かなかった。剣もボウガンも同じだろうぜ。」
「確かに物理攻撃は効かないでしょうけど、他にもいろいろと方法はあるでしょう?」
 カーシュを横目で見て少女は軽く笑う。
『許さぬ…許さぬぞ…虫ケラどもめ…許さぬ…!!』
 もはやジールは憎悪の塊と化している。
「みんな、行くよ!」
 少女のかけ声と共に一斉に動く。突進するジールを白い光線が押しとどめ、室内にも関わらず竜巻が吹き荒れて押し戻す。そこへ高圧の水が叩きつけられジールは再び吹っ飛んだ。
「いっけええええ!!」
 三人の後ろで魔法を編んでいた少女が叫んだ。ジールの頭上に巨大な氷塊が現れ、ずしりと押しつぶす。強力な魔法により造られたそれは、実体のないジールさえも太刀打ちできず、霧の体は霧散した。
『なぜ…なぜ邪魔をする…許せぬ…。』
 ジールの呪詛に誰かの涼やかな声が重なる。
『邪悪なものに惹かれ、邪悪になったあなただけれど、夢見たのは多くの人間と同じく永遠の命だったのね…でもそんなのはあり得ないの。死のない命は生きていないのと同じ…。それに、どんなに純粋な夢でも、わたしの弟達に呪いをかけたあなたを、わたしは許しはしないわ。』
 その声が語り終えないうちに、ジールは今度こそ完全に消滅した。
「…つっ…かれたぁぁぁ…。」
 沈黙を破った少女は座り込んでいた。力が抜けたといった感じだ。カーシュが振り返って見下ろす。
「すげえじゃねぇか、あの氷の塊。あんなの初めて見たぜ。」
 その言葉に座り込んだままの少女がえへへ、と照れたような笑みを返す。
「わたしも初めてだったんだけどさ。」
「これで終わったんですね…もう誰も、グランドリオンの呪いで苦しむ事はなくなるんですね…。」
 リデルが泣きそうな声でつぶやく。
 カエルがグランドリオンを床に置いた。ぐるりと三人を見回して言う。
「そろそろ俺は行かなければならない。気がかりだったグランドリオンの事も無事解決したしな。感謝するぜ。」
 光に包まれたかと思うとグレンの体から力が抜け、慌ててカーシュが支える。そこには見知らぬ男の姿があった。ただし足は床についておらず宙に浮き、体は透けている。
 少女が感心したように男を見る。
「カエルさん、元の姿に戻れたんだね。」
「ああ、誰かさんのおかげでな。」
 カエルがふっと笑う。
「最後にまた会えて良かったぜ、マール。」
「え?」
 少女はきょとんとし、すぐにああ、と納得した。
「そっか、言ってなかったんだっけ、わたしの事。」
「何の話だ?」
 訊ねてから、カエルはふと、少女の後ろ頭で揺れる白いものに既視感を覚える。リボンにするにしては幅が広く長すぎるそれが何かを理解すると同時に、いたずらっぽい笑顔でカエルを見上げた少女は、簡潔に告げた。
「わたし、マールの娘です。」
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【139】其はいかにして魔剣となりしか  vol.4
 meg  - 08/6/4(水) 20:41 -
  
 もと来た方へ引き返し入り口まで戻ると今度は右へ進む。その先には三人の探している人物がいた。
「あ…。」
 リデルがその場に立ち尽くす。そこは広い部屋で、入り口以外に奥へ続く三つの扉がある。グレンはそのうちの真ん中の扉の前にいた。しかし、振り返ったグレンの目には邪悪な光がある。手にするグランドリオンにも邪悪な気がまとわりついていた。
「グレン…!」
 リデルは思わず駆け寄りかけてなんとか踏みとどまる。その一瞬のすきをついてグレンが襲いかかろうとしたが、しゅっと空気を切る音がしてグレンの動きが止まった。
 細かく震える一本の矢が彼の袖と壁とを縫い付けている。振り返ったリデルが見たのはボウガンを構えた少女の姿だった。リデルの視線を受けて少女がにこっと笑う。
「これ、セイレーンっていう銘なの。母さんが昔、使っていたものだって。」
 解説する少女をしり目に、カーシュがリデルのそばに駆け寄る。
「リデルお嬢様、今のグレンには何を言っても言葉は届きません。戦うしかないのです。」
「でも…わたしにはグレンを傷つける事なんて…。」
 蛇骨館を旅立つ時にはなかった迷いが、グレンを目の前にして生じているらしい。カーシュがさらに言葉をかけようとした時、びりっと布地の裂ける音がした。グレンが自由の身となり、まだ気持の定まらないリデルに突進する。カーシュは振り返ると頭上に落ちてくるグランドリオンの刃を愛用のアクスで受け止めた。普段のグレンからは想像もつかないほどの重い斬撃に、我知らず歯を食いしばって耐える。そのまま数合を切り結んだが、次の叩きつけるような激しい一撃に後ろの壁まで吹っ飛ばされ、したたか背中をぶつけて息が詰まった。壁の突起で切ったのか、肩のあたりに血がにじむ。
 目の前で行われる攻防にリデルは声もない。グレンがリデルに標的を変えて向かってくるが、二人の間に少女が割り込んだ。グランドリオンの刃をセイレーンという銘のボウガンで受け止めようとしてただ一振りで素手になってしまう。少女の手を離れたボウガンは部屋の隅へ滑っていき、所有者はあまりの力にしりもちをついた。
 グレンの目が危険な光を放った。少女の上にグランドリオンを振り下ろす。
 リデルは思わず目をつぶった。
 キィィン…ッ!
 澄んだ金属音が響き渡った。リデルが恐る恐る目を開くと、少女は手の中の何かで刃を受け止めていた。グレンが目を大きく見開いている。
「う…あああああっ!!」
 グレンの口から絶叫がほとばしり出た。ふらりと少女から離れるとグランドリオンを取り落とし、頭を両手で抱え込んでしばらく苦悶していたが、やがて崩れるように倒れ込んでしまった。
「な…にが…起こったんだ?」
 呆然としてカーシュがつぶやく。少女はしばらくグランドリオンを見つめていたかと思うと、そっとその柄に触れた。リデルが息を飲んだが少女はけろりとして振り返った。
「もう大丈夫みたい。ちょっと予定とは違ったけど、ま、終わりよければすべて良しって事で。」
「予定って?」
 リデルが不審そうに聞き返すと、少女は手の中の小さな亀裂の入ったブローチを見せた。グランドリオンが振り下ろされる寸前、とっさに胸元から引きちぎって刃を防いだのだ。
「このブローチ、知り合いのおじいちゃんからもらったんだけど、グランドリオンと同じ、ドリストーンっていう石からできているの。そして、グランドリオンにグランとリオンが宿っているように、このブローチにも二人のお姉さんのドリーンさんが宿っているの。だから、うまくブローチをグランドリオンに接触させられたら粛正できるかなって思ってたのよ。」
「だからってあんな危ない事しなくたっていいだろバカ。怪我したらどうすんだ?」
 やっと動けるようになったカーシュが近寄って軽く少女を小突く。少女はカーシュを見上げてくすっと笑った。
「あれ、心配してくれてたの?」
 う、と言葉に詰まったカーシュを楽しげに見ていた少女の顔が不意にこわばった。視線を追ったカーシュもリデルも、その先にあったものを見てはっと緊張した。黒い霧のような邪気のようなものがそこに漂い、だんだんと人の形を形成していく。どこからともなく女の声が聞こえた。
『許さぬ…わらわの邪魔立てをするか…許さぬ…!』
「カーシュさん、グレン君を奥に運んで!取り憑かれたら厄介だわ!」
 少女の指示に従い、カーシュは未だ意識のないグレンの体を担ぎ上げて一番近い真ん中の扉から奥の部屋に走った。サイラスの部屋にあったのと同じ材質、同じ形の墓の前にグレンを仰向けに寝かせてすぐに引き返す。
 あの広い部屋まで戻ってぎょっとした。黒い霧が、今ははっきりと女の姿をしていた。まるで影のように全身が真っ黒で目鼻立ちは判らない。それがボウガンを拾い上げた少女とリデルの前で口をきいている。
『許さぬ…わらわはラヴォス神を復活させねばならぬ…ラヴォス神と共に永遠の命を得るのだ…邪魔する者は許さぬ…!』
「ラヴォス神?!まさか…あなたはジール女王?」
 少女が愕然とした様子で黒い女に呼びかける。リデルが目で問うと少女は簡単に説明する。
「ずっと昔にあった魔法王朝、ジール王国の女王よ。ラヴォスというのは、星に寄生し星のエネルギーを吸い取る宇宙生命体。ジール王国の人々はラヴォスのエネルギーを利用しようとして制御できずに滅びたの。」
「だったら、こいつは死んでいるはずじゃねぇのか?」
 二人の横に並びながらカーシュが話に加わると少女はジールから目を離さないまま答えた。
「ジール女王はラヴォスの影響で強力な力を得ていたらしいの。だから多分、体が滅びても精神が残るようにしていたのかも…。」
 なぜそんなに詳しいのかとカーシュは尋ねなかった。そんな場合ではないというのもあったが、それよりも先にジールの口調が変わってタイミングを逃したのもある。
『おお…あの者達が、あの男が邪魔しなければ、わらわは永遠となれたのに…何の力もない虫ケラども…特にあの男、一度はラヴォス神によって身も魂も滅ぼされたはずが、どんな手を使ったか知らぬがよみがえり、ラヴォス神に刃向かい続けたのだ…』
 少女がほんの少しひるむような様子を見せた。一歩、二歩と後ずさり、三歩目でようやく踏みとどまる。『許さぬ…わらわは邪魔をした虫ケラどもを許さぬ…!それを思い知らせる為、虫ケラどもの一人が手にしていたこの剣にわらわの精神の一部を乗り移らせ、呪いをかけたのだ…!』
 突然、ジールの影がぎらりと目のあたりを光らせた。
『おお、あの男のにおいがする…!あの男の気配がするぞ!そう…そこの小娘から…!』
 ジールは突進した。その先には動けずにいる少女がいた。とっさにカーシュは数歩踏み出しアクスを振るうが、実体のないジールの体を両断する事はできなかった。
「危ない!」
 リデルの警告が少女に飛んだ時、声に応じたかのように少女の足元から水が吹き出した。不意をつかれたジールはまともに高圧の水を浴び、吹っ飛ぶ。
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【138】Re:感想です
 meg  - 08/6/4(水) 17:56 -
  
 あわわ、感想いただいちゃった(挙動不審)
 こんな私情入りまくりの文に感想をくださってありがとうございます!実はマールよりルッカ派なもので…(苦笑)
 えっと、「Green Dream」は一応これで完結です。←ぉぃ この先は読んでくださった方のご想像におまかせしようかと。…この先が思いつかないというのもありますが(汗)
 「其はいかにして〜」の方ですが、この先意外な(?)展開を持って来る予定ですので、どうぞお楽しみに!というところです。新キャラは私の願望から生まれたものですが、判る人には判ります。他にもいろいろと語りたい事はありますが、続きは物語が完結してからという事で。
 …そろそろ訳の判らない事を口走り出したのでやめにします。(汗)読みやすく判りやすい文章を心がけて書き進めていきますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。_(_^_)_
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【137】感想です
 REDCOW  - 08/6/3(火) 19:12 -
  
はじめまして、作品読ませて頂きました。(^^)

>どーも、megです。「Green Dream」お楽しみいただけたでしょうか。
>小説を投稿できるところを探してたどり着き、皆さんの作品を読むうちにひらめいたのがコレでした。ルッカともあろう者が簡単にヤマネコにやられる訳がない!と思ったので。本人もクロスでそう言ってましたし。(手紙でしたけど)
 ここら辺のネタは私もいつか書く予定なんですけど、ほんとに想像を掻き立てる部分ですよね。(笑)この後にどのような方向に進むのか楽しみです。(^^)

>話は変わりまして、クロスの設定でひとつ不満だったのがグランドリオン魔剣説。勇者の剣がなんでっ!?と思い、勝手にその辺の物語をでっち上げることにしました。
>が……かなり長くなっております。(汗)我ながらとんでもないなぁ…と(遠い目)。
>なので、その前にもうひとつ短い話を。これはトリガープレイ中に思いついたもの。どうぞ乞うご期待!
 魔剣の話については、新しいキャラが出てきたりと、これからの展開が色々とmegさんのクロノプロジェクトという感じで楽しみですね。なにより文章の運びが上手い!読んでいて凄くスムーズに流れる感じなんで凄いなぁって思いました。
 
 続きを楽しみにしています♪
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【136】CPss2第39話「誤算(後編)」(3月28日号分)
 REDCOW  - 08/6/2(月) 20:36 -
  
第123回「誤算(後編)」(CPss2第39話)
 
 
 騒めく闘技場。
 人々の声が暗い通路の中で反響して伝わってくる。
 
 
「チーム、ポチョの登場です!」
 
 
 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
 
 
 大観衆の声援を受けて、クロノ達が闘技場に入場する。2度目ともなると最初の緊張はもはや感じる事も無かったが、3人は違う方向で緊張感を感じていた。
 次の試合の相手は、今までの相手とはまるで桁が違う相手だ。あのハイドのパーテクトを素手で破壊して見せたのだから、少なくともガーネットと呼ばれる女の力は侮れない。
 アナウンスが場内に木霊する。
 
 
「チーム、グリフィスの登場です!」
 
 
 クロノ達が闘技場に上がる頃、相手チーム名がアナウンスされる。
 3人の向かい側の入り口から出て来るグリフィスチームのメンバー達は、相変わらずガーネットを先頭に二人の大男が後を歩くというスタイルのままだった。
 ガーネットは闘技場に入ると観衆に向って投げキッスを放つ。その行為に観衆の声がより大きくなった様に感じられた。
 
 
「…何あれ。感じ悪い。」
 
 
 シズクがぶっきらぼうに言った。
 クロノは何も感じなかったが、同性にはあまり受けの良くない行為だったのだろうか。
 そんなシズクの反応などを気に留める事も無く、彼女は威風堂々とでも言うべきだろうか、クロノ達3人の前に余裕の表情で現れた。
 
 
「…お手柔らかに。」
 
 
 彼女は微笑みを浮かべて挨拶を述べると、手を差し出した。
 クロノがそれに応じる。
 
 
「こちらこそ。」
 
 
 二人が握手を交わす。
 その時、彼女の視線がクロノの目を捉えた様に感じられたが、それは一瞬で、すぐににっこりと微笑むと手を離した。
 
 
「君達は、何の為にこの試験に臨んでいるんだ?」
 
 
 クロノが単刀直入に質問した。
 彼の質問に、彼女は悪びれるでも無く微笑みを讚えて答えた。
 
 
「そんなこと決まってるわ。楽しいからよ。」
 
 
 彼女の回答は何とも普通過ぎて、どう考えて良いか分からなかった。クロノ自身、正直な気持ちで言えばこの試験を楽しんでいた。
 好き嫌いで言えば、強い奴と戦えることや難しい事にチャレンジすることは苦しくも有るが楽しく好きだった。特に、それら困難を超えられた時の達成感はやめられない。
 根っからの体育系の彼からすれば、うじうじ悩んでいるよりは突き進んでぶっ壊すくらい単純明快な方が、気持ちが良いしスッキリすると言えた。彼女の反応はクロノからすれば正直共感出来なくはないものだっただけに、余計に判断に躊躇った。
 だが…、
 
 
「…そう、祭りは派手な方が大好きだから。」
 
 
 彼女はそう続けると、不意に視線を変えた。そして、投げキッスを贈った。
 その相手はVIP席で観戦する大統領へ向けたものだった。
 
 大統領がそんな彼女の行動に笑顔で手を振った。
 しかし、次の瞬間、VIP観覧席が爆発した。
 
 
 ドォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーン!!!
 
 
 爆風と悲鳴が飛び交う。
 騒然とした場内が煙が引けるに従い、沈黙する。
 煙の向こう深手を負いつつもフィールドを張って防いでいる大統領の姿があった。しかし、その力も限界と見え、フィールドが消失しかけている。
 
 
「お父様!?」
 
 
 ミネルバが叫ぶ。彼女は急いで走り、観覧席で必至にフィールドに集中し立っている大統領の元へ飛んだ。
 
 
「親思いねぇ。でも…」
 
 
 突然の出来事に、皆何が起こったのか困惑していると、ガーネットの背後に立つ二人の男が突如体中がゴムのように弾力を持ったかのごとくうごめき、なにやら巨大に変貌を始めた。
 その皮膚はみるみるうちに青くなり、ゴツゴツとした象の様な固い皮膚に変化してゆく。その顔は人間とは似ても似つかないものであり、遂にその変化が一定の形で定まった。
 そこに現れたのは巨大な二頭のヘケランだった。
 
 そして、ガーネットが桃色の宝石の玉を上空に投げた。するとその玉が粉々に爆発し、キラキラと舞い散る破片が降下しながら次第に人の形に整形され始めた。そして、
 
 
「…をーっほっほっほっほっほっほ。お久し振り………なのヨネ〜♪」
 
 
 そこに現れたのは、見まごう事はない。
 その妖艶な美貌の持ち主は、中世で見た魔王軍三魔騎士が1人…空魔士マヨネーの姿だった。
 彼女…もとい彼は、その美しき美貌を精一杯振りまくように手を広げ、高らかに観衆に言い放った。
 
 
「…あたしはマヨネー。400年の日月を経て、皆様にこの姿を披露するのよね〜!」
 
 
 観衆は突然の宣告になんとも反応しようがなかった。まずマヨネーという単語が出て来るまでに数秒の時間を要した。そして、目前に見える奇怪な美貌の持ち主を見て、歴史書に記されるマヨネー=男というイメージとはあまりにかけ離れた「女性」の登場に、どう理解すればいいのか…無理からぬ反応だった。
 しかし、そんな反応は織り込み済みとでも言うかのように、「彼」は観衆に向けて話しかけた。
 
 
「親愛なる全ての魔の力を持つ国民の皆様へ申し上げるわ!今やあたし達魔族の力、『魔力』が世界の最も高き頂に祭り上げられたことは、全ての世界の人類の知るところとなったわ。これはどういうことかしら?…あたし達が400年も昔に魔王様と共に戦った理想こそが、今の社会の姿を示したのよ?…人類は、あたし達の正当なる戦いを否定しておきながら、これはどういう了見なのよね〜?
 残念な事に、この国の政治は『魔族の共和国』でありながら、実際は人間達が裏で操る傀儡政権に成り下がっているのよね〜。あたしはおかしいと思うのよね。そうは思わない?…だって、この試験で上がってきた受験生は、人間達のメーカーで働くのよね〜?
 誤解無きように申し上げるわ!あたしはパレポリも許さない!でも、今のメディーナの体たらくはもっと許せないのよね〜!だから立ち上がったのね。…勿論、そう豪語するだけの力もあるのよね〜。」
 
 
 そういうと、彼女…もとい彼は右腕を天高く垂直に振り上げた。
 すると、すっくと闘技場の観客席で立ち上がる人々が現れた。
 
 
「あたしの忠実なる支持者の皆様なのよね〜。おや、あらら、よく見たら、国務大臣さんや財務大臣さんのお顔もあるわよね〜?うふふ、そうよねぇ〜?どうみたってあたしとビネガーじゃ、あたしの方が魅力的ですものね〜。」
「おだまりなさい!この痴れ者が。大統領閣下への狼藉では飽き足らず、我々国民が築き上げた国家への侮辱、断じて許すわけには参りません!」
 
 
 ミネルバが大統領の身体を支えながら、彼を代弁するようにマヨネーを断じた。それに対して彼は不敵な笑みを浮かべて言った。
 
 
「うふふ、そこの娘、おまえは国家を語るに足らんのよね。国民の皆様は最近の世論調査でも賢明な判断をされているのよね。代弁するならば…この国に必要なものは人間の顔色を窺う臆病主義ではない。もはや自らに革新する力を持たない人間に代わり、我々魔族の栄光の光を掲げられる強き指導者を欲している。そして、それはあたしをおいてこの国に正当なる魔の力を持った者が居て?…魔族は純血種が衰退し、人間との混血が進んだ結果「魔の力」を失いかけている。今が最後のチャンスなの。それは、おわかりよね?」
「お前の言葉は国を破滅に追い込む!平和は啀み合う事から生まれはしない!平和の無い所に…」
「おだまりなさい!!!全ては何を決めるかも国民が決めるべき事。私はこの腐った人間への中立という建前にNoを宣言する。それに賛同する者は、あたしと共に立ち上がるだけ。あたしを批判する前に、恥じるべきは己と知りなさい。」
 
 
 マヨネーの気迫がミネルバを圧倒的に凌駕した。
 ミネルバの反論を押さえ込んだその時、マヨネーに対して、闘技場の最上階に囲むように国防軍が銃口を向けて立ち並んだ。
 
 
「撃てー!!!」
 
 
 号令下、斉射される。
 しかし、マヨネーの周囲には緑色に輝くバリアフィールドが張り巡らされており、全ての攻撃は無力化されていた。彼は微笑すると、バリアフィールドに吸着させていた銃弾を全て出元へ返す様に弾いた。
 攻撃を受けて数人が防御体制をとれず貫通し倒れたが、多くの兵士は防ぎ切り突入を開始した。だが、そこに突入を妨害する者たちが現れた。なんと、それは先ほどの観衆の中でマヨネーの呼び掛けに応えた人々だった。彼らは魔法を使って兵士達に攻撃を仕掛ける。兵士達は無闇な攻撃は出来ず、場内は混乱し始めた。と、その時。
 
 
「おい、クロノ!観客は俺達が引き受ける!お前はあいつをなんとかしろ!!!」
 
 
 その声はヒカルの声だった。
 彼だけじゃない、腐れ縁チームのメンバーは勿論、フロノ・ノ・コリガー、乙子組、コアガードのメンバー達も闘技場の四方に現れてマヨネー側についた人々を押さえるのに参戦した。
 
 
「…ミネルバ、私は大丈夫だ。…お前も共に戦いなさい。」
「お父様!?」
「ここで火の粉を飛ばすわけにはいかん。」
「…わかりました。」
「大丈夫ですよ。お嬢さん。」
 
 そこに現れたのは、白いスーツを着た彼女もよく知る老紳士の姿だった。
 
 
「…アンダーソンさん!?」
「はっはっは。まぁ、彼の事は私に任せなさい。これでも、私もね…」
 
 
 彼は突然片手を上げ、掌を見せると、その中心に水晶を発生させた。
 
 
「!?…あなたは!?」
「人間で魔法が使えるのは…あそこの彼だけじゃないってことだよ。これがどういう意味かわかるね?…マヨネーの言った言葉もまた、この国の全てを表さないということだ。行きなさい。」
 
 
 彼はにっこりと微笑んで掌を握ると、魔力の集中を解いて歩み寄った。そして、古い友の肩を支えた。彼女は促されるまま彼に父を任せると、深々と頭を下げて闘技場のクロノのもとへ跳躍した。
 
 
「…フリッツ、完璧な誤算だった。…してやられたよ。」
「まぁ、そうでもないでしょ?…彼らもまた誤算が生じているさ。」
「…であれば良いが。」
「…信じよう。今は若い者達を。我々ができるのは、それを支えることさ。」
「…そうだな。老いたもんだ。」
「おおう、老いたさ。あんなに綺麗な娘さんに育つんだから。」
 
 
 二人は微笑み、娘を見送った。
 彼らの眼下ではクロノ達と合流し、力を合わせて対峙する姿が見えた。
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【135】CPss2第39話「誤算(前編)」(3月28日号分)
 REDCOW  - 08/6/2(月) 20:35 -
  
第123回「誤算(前編)」(CPss2第39話)
 
 
 ミネルバの活躍で呆気なくも突然に試合は終了してしまった。これには仲間であるクロノ達も驚かざるを得なかった。
 会場はしばしの休憩時間となり、第二試合の予告が行われている。
 
 
「ミネルバさん、今のは…?」
「彼女達のフィールドは冥による完全無属性反射フィールドを形成していました。しかし、先ほどの黄金の輝きは無属性反射フィールドから天の吸収フィールドに変化したのです。私のマイティガードであれば、無属性反射フィールド同士の衝突では無力でしたが、属性のあるフィールドに対しては貫通できます。」
「…凄い。でも、そうか、俺達が魔力をシンクロして調整した様に、相手の魔力も慎重に探ればわかる。こりゃ、ミネルバさんがいなけりゃ勝てないや。ははは。」
 
 
 クロノは思わず笑った。
 自分自身としては、アミラが察知した通りに力押しで魔力出力限界まで持って行くつもりだったが、彼女が属性変異させることまでは頭に無かった。それに対して冷静にミネルバは相手の動向を見て、的確にまさにバックアップしてくれた。
 だが、その時、ミネルバが目前でよろめいた。
 クロノは慌てて彼女の身体を支えた。
 
 
「おい、大丈夫か!?」
「ミネルバさん!?」
「…大丈夫です。ただ、少々魔力を使い過ぎたようです。」
「マイティガードか。」
「えぇ。…でも、試験も後僅か。…戦い抜きます。」
「…無理するなよ。俺達もいる。」
「はい。有り難う。」
 
 
 彼女は相当堪えている様に伺えた。
 あのマイティーガードは全属性の斥力フィールドを形成するだけに、想像以上に彼女から魔力を奪うのだろう。彼女自身は頑張ると言ってはいるが、実際にこれ以上の負担を彼女に強いるのは無理だろう。…とはいえ、次の試合はあのグリフィスとなる。そう負担をかけずに済むような話には終らないだろう。
 クロノは改めて気を引き締めた。
 
 休憩の選手控室のソファで休憩する3人。
 ウェイターの持ってきたドリンクを飲みながら休んでいると、先ほど戦ったメーガスかしまし娘。チームの面々が彼らの前に現れた。
 
 
「はぁい、チームポチョ。」
「おぅ、君らの分も戦うぜ。」
「ちょ、何言ってくれるわけ!!…もう、腹の立つのも忘れるわけ。調子狂うったら。おたくら、特にそこの緑女の魔法!あれは何なわけ!?」
 
 
 アミラの質問に、ミネルバは答えようとしない。
 
 
「…あら、回答拒否なわけ。まぁ良いわけ。あたしらは忠告に来たわけ。次の相手、あいつらやばいわけ。洞窟であいつらの戦いを観たけど、とんでもないわけ。あんな化け物、どうやって戦えば勝てるわけ。特にあの女、ガーネットと言ったかしら…あいつの先天属性は火みたいだけど、そんなことお構いなしに何でも使いこなしていたわけ。普通じゃないわけ。百歩譲って認めてやっても、あの魔力は尋常じゃないわけ。」
 
 
 彼女の忠告はクロノ達もハイドと彼らの戦闘を見て感じていた。彼女のあの絶対的な余裕は、それ相応の力のある現れ。彼らに弱点らしい弱点は無いだろう。今までの相手は何らかの弱点があり戦術次第で対応出来たが、次の相手は正攻法で戦う他無い。まさに力のぶつかり合いになるだろう。
 
 
「忠告有り難う。ところで、君達はグリフィスについて、他に何か無いのか?」
 
 
 クロノの問い掛けに、アミラは人さし指をあごにあてて考えるように答えた。
 
 
「他に何かって何なわけ?…まぁ、強いて挙げるなら、あたしの嫌いなタイプってとこかしら。ああいう女は大っ嫌いなわけ。いかにもあたし綺麗でしょ?秀才で何でもおできになりますわよ〜なタカビーな所とか、超ムカツクわけ。じゃ、精々頑張るわけ。さらばいば〜い。」
「さらばいば〜い。」
「さらばいば〜い。」
 
 
 3人がお決まり(?)の別れの言葉を口にして控室を去っていく。
 アミラの答えに、三人は思わず苦笑を禁じえなかった。
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【134】其はいかにして魔剣となりしか  vol.3
 meg  - 08/6/2(月) 17:15 -
  
 東の島にある小さな町、チョラス。町そのものには特筆するような事はないが、西の岬には偉大な冒険家トマ・レバインの墓が、そして北の森には勇者の墓と呼ばれる屋敷がある。
 宿と一続きになっている小さなパブに、変わった三人組がやって来た。一人は派手な服装の男、一人は長い髪の美女、最後の一人は緑色の服の少女。最年少らしい緑色の服の少女が愛想良くパブの店主に話しかけているのを、他の二人が見守っている。少女は人探しをしていると言い、相手の特徴を簡単に話した。その青年が北の森に向かっていたという目撃証言を得ると、最後に少女はチョラス名物のレバイン酒を一杯注文した。しかも持ち帰りでと言う少女に理由を問うと、お墓参りに行くんです、と笑いながら答えた。
――すぐに済むからと少女に言われ、一行はまず岬へ向かっていた。
「おい小娘、なんで西の岬なんだよ?グレンは北の森にいるはずだろうが。」
 カーシュの不満たらたらの声に、少女は振り返って笑顔で答える。
「その前に、別の人のお墓参りを済ませとこうと思って。」
「この先には冒険家のお墓があると聞きましたけど…お酒をお供えするのですか?」
「そうだけど、そうじゃないのよ。」
 意味深な言葉にカーシュはいら立った顔をしている。
「どういう意味だよ?」
「見てれば判るわ。ほら、着いた。」
 白い石でできた墓に、確かにトマ・レバインと名前が彫ってあった。その前に立った少女は酒の入ったジョッキを墓の上にかかげ、なんと墓石に中の酒を振りかけた。
「何やってんだバカ!墓に酒をぶっかけるなんて非常識だろうが!」
「いいのいいの、この人のお墓はね。さ、次は勇者の墓に行くよ。」
 カーシュに怒鳴られても悪びれずにもと来た道を戻っていく。後を追いかけながらリデルが首をかしげた。
「けれど、なぜ勇者の墓と呼ばれているのでしょう?」
「ああ、それはね、あそこに葬られている人がかつてガルディア王国に貢献したサイラスっていう名前の騎士さんなんだって。四百年くらい昔はグランドリオンは勇者の剣とされていて、剣に選ばれた勇者しか触る事ができなかったんだって。」
「剣にえらばれるぅ?!どうやって剣が所有者を決めるっていうんだよ?」
 カーシュがすっとんきょうな声をあげる。
「あの剣にはグランとリオンっていう精霊が宿っているの。その子達が気に入った人が所有者になれるみたい。」
「みたいって…。」
あまりにも曖昧な基準にさすがにカーシュも呆れる。少女はその言葉が聞こえなかったかのように続ける。
「それで、そのサイラスさんもグランドリオンに選ばれた人だから、きっとグランドリオンに導かれてグレン君もそこにいると思うの。」
「では、行きましょう。」
 グレンの名を聞いて気が急いたリデルは、早足で歩き出した。
――北の森にたたずむ、古めかしくも立派な館。それが勇者の墓だ。中に足を踏み入れるといきなりふた手に分かれていた。少女はぐるりと辺りを見回すと左の道を指し示す。
「確か、サイラスさんのお墓があるのは左よ。」
「お前、来た事があるのか?さっきの呼び名の由来といい、やけに詳しく知っているが。」
 カーシュの何気ない質問に少女はえっという顔をしたが、すぐに笑って答える。
「ううん、初めてだけど、わたしの父さんと母さんが来た事あるらしくって、その話を思い出しながらしゃべっているんだ。」
 さあ行こう、と言って少女は先に立って歩き出した。その後をカーシュとリデルが追う。階段を登り通路へ出ると奥の部屋に向かう。そこがサイラスの墓だった。
「あれ?」
 しかし、そこにいるはずのグレンはいなかった。少女が部屋をぐるりと見回しながら不思議そうにつぶやく。
「おっかしいなあ、きっとこっちだと思ったのに…。」
「別に不思議がる事はねぇよ。ここにいるのは間違いねえんだから、こっちじゃなければ反対側に決まってんだろ。」
「でも、あっちには何もないはず…あ、リデルさん?」
 カーシュと言い合いをしていた少女は、リデルが無言で引き返して行くのを見て慌てて声をかけた。リデルは肩ごしに振り向いた。
「行きましょう。早くグレンをあの呪いから解放してあげないと。」
 リデルが焦っているのがカーシュには痛いほど判った。部屋を出ていく後ろ姿を見つめる目がほんの少し揺らぐ。
「カーシュさん、もしかしてリデルさんの事好き?」
 突然横から声をかけられて危うく飛び上がりそうになった。少女が隣にいた事を失念していたのだ。カーシュを見上げる瞳にはからかいの色もなければ真剣な様子もない。ただの世間話、といった感じだった。
「…お嬢様に言ったらただじゃおかねえ。」
 ごまかすのが下手なカーシュはそれだけを口にした。
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【133】其はいかにして魔剣となりしか  vol.2
 meg  - 08/5/25(日) 20:28 -
  
「こんにちは。今日は天気がいいわね。」
 あり得ない所から挨拶されて、リデルは驚いて振り向いた。テラスの手すりの向こうに見た事のない白い乗り物が宙に浮かんで、そのハンドルを握る少女がにこやかに笑いかけながらこちらを見ていた。
 青空に映えるオレンジ色の髪は後頭部で一房だけを白いリボンで束ねてあり、あざやかな緑色のボレロの前を赤い石がはめ込まれたブローチでとめている。白いシャツにボレロとおそろいのハーフパンツ、左手にブレスレットをして足元は革のサンダル。謎の乗り物に乗っている事を除けば、いたって普通の少女だ。
 リデルが呆気にとられて言葉が出ないでいると、少女は再び話しかけて来た。
「こんな立派なお屋敷って、わたし初めて見たわ。ここってあなたのおうちなの?」
「え、ええ…。」
 遠慮がちに返事をすると、少女は目を輝かせた。
「すごい、あなたってお嬢様なのね!エルニド諸島で初めて出逢った人がお嬢様なんて、とっても素敵!」
 無邪気にはしゃいでいる少女を見ていて、リデルも思わず笑みがこぼれた。少女の方へと近寄りながらこちらからも話しかけてみる。
「エルニドで初めて、って事はあなたは大陸から来たのね。エルニドには何をしに来たの?」
 少女は一瞬きょとんとしたが、すぐ何かに思い当たってぽんと右の手のひらを左の拳で打った。
「忘れるとこだった。探し物があったんだわ。この海域のどこかにあると聞いて来たんだけど…。」
 ちょっと考えて少女はリデルに問いかけた。
「ね、このお屋敷に宝物庫ってある?」
「ええ…あるにはありますけど。」
「じゃあ、そこに剣とか置いてない?」
「さあ…わたしは宝物庫に入った事がないので判らないのですが…。では、あなたが探しているのは剣なのですか?」
 少女はこくりとうなずいた。
「そうなの。実はね、伝説の名剣…グランドリオンを探しているの。」
 リデルが剣の名を聞いてはっと息を飲んだと同時にテラスと室内を隔てる扉が勢いよく開いた。父の蛇骨や四天王がテラスになだれ込んでくる。リデルと話している手すりの向こうの少女を怪しい者とみなしたのか、先頭のカーシュがリデルに向かって叫んだ。
「リデルお嬢様、そいつから離れて下さい!」
「どうして?」
 至極素朴な疑問を口にしたのはリデルではなく少女の方だった。乗り物からテラスへと身軽に飛び降りると面白そうにカーシュを見る。横槍を入れられてカーシュは一瞬言葉に詰まったが、すぐに言い返す。
「てめえが怪しいからだ!」
「怪しいってどこが?」
「人の所有地に勝手に踏み込んで来る奴のどこが怪しくないっていうのよっ!」
 後ろからマルチェラがカーシュの加勢をする。さらにその後ろから、蛇骨がリデルに呼びかける。
「とにかく、こっちに来なさいリデル。」
 リデルは蛇骨の声に従いかけて踏みとどまると、蛇骨に言葉を返した。
「少し、待って下さい。」
 そして蛇骨が何か言うよりも早く、少女に問いかけていた。
「なぜグランドリオンを探しているの?伝説の名剣とはどういう事?」
 テラスになだれ込んできた全員がグランドリオンの名を聞いて緊張したが、少女はあっけらかんとして言い放った。
「グランドリオンを持って、お墓参りに行こうと思って。」
 笑顔さえ浮かべて言う少女にカーシュは呆れたように反論した。
「グランドリオンは魔剣だぜ。そんなものを持っていったって喜ばれる訳ないだろ。大体、手にしたら最後、呪われちまって墓参りどころじゃねぇぞ。」
「喜ばれない訳ないじゃない、かつて自分が手にした名剣だもの。中世の時代に魔王を葬ったとされている伝説の剣なのよ。」
 噛み合っていない会話に、ゾアが割り込んだ。
「どっちにしろ、今はここにはない。グレンの奴がこの海域外に持ち出してしまったんだ。」
 少女が驚いて目を見開いた。続く反応は、予想外の言葉だった。
「グレン?」
 あごに指をあてて考え込む少女の様子にリデルは小首をかしげ、すぐにはっとした顔になって詰め寄った。
「あなた、グレンの行き先に心当たりがあるの?」
「え?う、うん、グランドリオンの行き着く先って言ったらあそこかなあって思う所はあるけど…。」
「じゃあ、わたしをそこへ連れていって下さい!あなたの乗り物なら潮の流れに影響される事はないから、海域外に出る事は可能でしょう?」
 しばらく静観していた蛇骨が驚いて声を荒らげた。
「リデル?!」
「お願いします、行かせて下さい父上。」
 リデルの必死な目を見て蛇骨は理解した。リデルが自分の手でグランドリオンの呪いからグレンを救いたいと願っている事を。婚約者だったダリオの死を乗り越えるために、グランドリオンの呪いと戦おうとしている。
 思わずため息が出た。意志を曲げないリデルの性格と、そんな娘に甘い自分とに。
「仕方がないな。」
 リデルはその返答に表情を明るくした。
「ありがとうございます。」
 すると、カーシュやマルチェラが我先にと主張する。
「俺も行くぜ!」
「あたしも!」
 リデルが少女の方を振り向くと、苦笑気味の声が二人に答えた。
「シルベーラは四人乗りなんだけど。」
 あの乗り物はシルベーラというらしい。
「帰りはどうするのよ?」
「どうするって?」
 マルチェラの疑問に少女が短く説明する。
「グレン君とやらも乗らなきゃ、でしょ。」
「あ、そっか。」
 少し考えて、マルチェラは意味ありげな笑みと共に半歩前のカーシュの背中を軽くたたいた。
「仕方ないな。譲ってあげるわよ。」
「…そりゃどうもありがとよ。」
 少しやけ気味にカーシュが答えた。
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【132】其はいかにして魔剣となりしか  vol.1
 meg  - 08/5/21(水) 0:03 -
  
「なぜあの剣を手にしてしまったの…?お願い、帰ってきて…」
 エルニド諸島本島の北に位置する、蛇骨館。その最上階のテラスで、女性は一人つぶやいた。背後でぱしゃ、と水音がしてぺたぺたぺたと水気を含んだ足音と共に歩み寄ってきた者が、幼い声で女性に話しかけた。
「信じて行動を起こせば、きっと結果が返ってくるって誰だったか言ってました。きっと大丈夫です、帰ってきますヨ。」
 大きな瞳、葉っぱの眉、頭に大きな花をのせた足元の生き物に、女性は微笑みかけた。
「ありがとう、フィオ。」
――一方、蛇骨館の前庭は慌ただしい空気に包まれていた。
「こっちにはいなかったであります!」
「向こうにもいなかったんだな!」
 ソルトンとシュガールの報告を聞いて、カーシュはチッと舌打ちし足を踏み鳴らした。
「クソッ、どこ行きやがったんだあいつは!」
 そこへ跳ぶような足取りで少女が駆け戻ってきた。カーシュが振り返って問いかける。
「どうだ、いたかマルチェラ?」
 マルチェラは横に首を振った。
「だめ、見つかんない。」
「困った事になった…どこかで問題を起こしていなければいいが。」
 難しそうな顔をして腕を組んだ蛇骨が、館を仰ぎ見てつぶやいた。
「娘もショックを受けていたようだしな…」
 その言葉にカーシュの目がほんの少しだけ揺らいだが、それに気づく者はいなかった。
「もう、何なのよあいつ!お祭りの真っ最中だってのに、トラブル起こすなんて!見つかったら飛んでいって一発お見舞いしてやるんだから!」
「そいつは少し難しいかも知れんぞ。」
 腰に手をあてて怒るマルチェラの言葉に、いつの間にか戻ってきたゾアが口を挟んだ。マルチェラは勢いよく振り返り抗議する。
「何よ、どーいう事?!」
「実はさっきテルミナ港で目撃証言が出たんだが…」
 ゾアの口調が妙に歯切れが悪い。鉄の仮面をかぶっているために表情は分からないが、どうやら困惑しているようだ。
「港という事は、船を使ったのか?しかし今の時期はまだ潮の流れも速いから、この海域を出る事はできん。探すのに苦労はせんだろう。」
「いや、船は使っとらんのですよ大佐。その…魔剣の影響ですかね、とんでもない事をやってのけたのです。」
「もう!いい加減はっきりしたらどうなのよっ!」
 詰め寄ったマルチェラが上目遣いににらむと、ゾアはようやく重い口を開いた。
「それが…奴は海の上を歩いて行っちまったんだ。」
 一瞬、その場がしいんと静まり返る。
「む?」
「は?」
「へ?」
 全員の見事にそろった疑問符のコーラスに、ゾアが言葉を繰り返す。
「だから、奴は水面を歩いて…」
「んなバカな事があるかっ!どこの世界に水の上を歩く人間がいるっていうんだ?!」
 思考停止状態からいち早く脱したカーシュが食ってかかるが、返ってきたのは冷静な声だった。
「俺も港で見た時は目を疑った。しかし、それが現実なんだ。なんなら目撃者にも確かめてくるといい。」「でも…あいつは海を渡ってどこへ行く気なの?」
 まだ呆然としたままのマルチェラがぽつんとつぶやいた。
 再び訪れた沈黙は、中庭から聞こえてきた騎士達の声によって破られた。中庭からソルトンとシュガールが駆け出して来て報告する。
「変な物が空を飛んでいるんだな!」
「この館の周りをぐるぐる回っているのであります!」
「空を?」
 不審そうにつぶやいて蛇骨が天を仰ぐ。四天王の三人もそれに習い、そして見た。四枚の羽がある、卵型をした白い物体が曲線を描いて飛んでいるのを。
 気が付けば誰からともなくその物体を追って走り出していた。中庭には大勢の騎士も集まって来ていて、あれはパレポリの新兵器ではないかと騒ぐ者、ただぽかんと見上げる者、根拠なく打ち落とすべきだと主張する者、様々だ。
 その時、謎の物体が空中で停止した。そこは最上階のテラスの前で、そこにはよく見知った若い女性の姿が…。
「リデルお嬢様!」
 叫ぶと同時にカーシュは風のような勢いで走り出した。
「待て、カーシュ!」
 ゾアの制止も効果はなく、仕方なしに蛇骨とゾア、マルチェラは後を追った。「まったく、お嬢様の事となったら後先考えず突っ走っちゃうんだから!」
 走りながらマルチェラはぼやいた。
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【131】其はいかにして魔剣となりしか  プロロー...
 meg  - 08/5/18(日) 20:53 -
  
『サイラス、魔王を打倒せんと志立て名剣グランドリオン手にするも、魔王の前に倒れる。サイラスの朋友グレン、その志引き継ぎ、グランドリオンと共に魔王を葬る。
   ――ガルディア史録
 
 閉じていた目を開き、グレンは胸の前で合わせていた手をゆっくりと下ろした。テルミナの外れにある霊廟、その一角に墓標代わりに突き刺さった龍の聖剣・イルランザーの前に片膝をついている。
 兄貴は死ぬはずじゃなかった。魔剣グランドリオンの捜索日前夜、兄ダリオは笑って言ったのだ。見つけるだけで、触れはしない。俺は誰も、恨みたくないからと。
「それよりも、グレン。お前に言っておきたい事がある。」
 微笑みはそのままで、しかし真剣な眼差しで、ダリオはグレンに向き直った。密かに尊敬する兄に見つめられ、グレンは照れ隠しに茶化して言った。
「なんだよ、兄貴。リデルお嬢様の事か?兄貴がいない間守れって言うんなら、言われなくてもやるつもりだぜ?」
「そうじゃない。いやそれもあるけど、今はその話じゃないんだ。」
 そこで少し言い淀んだが、ダリオは意を決したようにあの事を口にした。
「これから先、俺にもしもの事があった時に…この剣をお前に託したい。」
 この剣、という所で腰のイルランザーの柄に手をかける。グレンは慌てた。
「やめてくれよ、縁起でもない。大体、なんで俺なんだよ、俺はまだ龍騎士団の中じゃ下っぱだぜ。実力から言っても次の剣の持ち主はカーシュだろう?」
 グレンの反論に晴れやかに笑って、ダリオは言い放った。
「俺はお前に継いでほしいんだよ。この剣は親父から継いだものだ。だからお前にだって継ぐ権利はある。実力だって、お前にはまだまだ可能性があるじゃないか。」
 その言葉を思い出す度に謝っていた。ゴメン。俺にはイルランザーを継ぐ資格がないんだ。だからこの剣はずっと兄貴の物だよ。継承者を途絶えさせるのは惜しいかもしれないけど、俺には継げない。俺自身が継がせない。
 親父がまだ生きていた頃、いつも言っていた。グレンというのは、昔の勇者の名前だ、そこから取ったんだ。だからお前はきっと良い騎士になるぞ、と。
 しかし、ふたを開けてみれば剣の腕は平凡、短気で未だに下っぱ騎士の一人でしかない。ダリオの方がよっぽど英雄らしいし、実際グレンの中では英雄は兄以外の何者でもなかった。イルランザーだって、名ばかりは立派だが見かけ倒れの自分に受け継がれるよりは、永遠に英雄らしいダリオの剣でいたいに違いない。
 立ち上がったグレンの目の端に、光る何かが映った。そちらへ顔を向けると、金属製の長い物が流れ着いているのが見えた。歩み寄ってそれが何か理解した時、無数の声がグレンの頭の中に響き…。
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【130】あとがき
 Fate  - 08/5/15(木) 12:26 -
  
どうも初カキコのFateです。今回は”ミゲルの詩”をお届けします。しばらくは、このような超短編物を何個かお届けします。いつかでっかい長編をやりたいですw
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【129】ミゲルの詩
 Fate  - 08/5/15(木) 12:23 -
  
運命・・・
そもそも運命は誰が決める?
神か?
星か?
それとも、
ヒト自身?
どれも正解に限りなく近いが、
真実にはほど遠い
では、
私の運命は誰が定めた?
フェイトか?
それが一番妥当な答えだとしたら、
私は何と無力なのだろう
いや、違う。
ヒトは皆、無力だ
もし私でなく、君がこの運命を定められたとしたら?
どんな恐怖からも逃れることができる、
この運命を。
断る?
そんなの、きれごとだよ・・・
ヒトは皆、
”死”が怖いんだから
いや、
もしも、
すでに”死んだ”人物なら
どう答えるかな?
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