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【212】クロノプロジェクト先行版シーズン3第四話
 REDCOW  - 16/5/2(月) 12:22 -
  
第128話「ほのかな歪み」
 
 その後、クロノ達はギロチンが天井からぶら下がるコンベヤ床の部屋に来ていた。
 そこでもルッコラはしばし観察すると、魔法陣を描いてサーバントを呼び出してしまった。
 クロノ達はそこでもエイリアスを受け取ると、サーバントは消えて罠が無効化された。
 その次の通路では、かつてはまるまじろが転がってきたものだが、ここも通路へ入ってすぐの所でルッコラがサーバントを呼び出して無効化するという流れを実行し、全く問題無く進むことが出来た。
 次の部屋は落とし穴だらけの部屋であったはずだが、ここでもルッコラはサーバントを呼び出して無効化するとう一連の作業をして普通の床を歩く様に堂々と渡りきってしまった。その次も城の壁面にまるまじボンバーが転がってくるはずだが……以下略。
 次の部屋も次の部屋も、かつては大勢のモンスターと遭遇したものだが、ルッコラはそれら全てが無かったかの様に、遺跡探検をするツアーガイドのごとく彼の考察が展開されながら進んで行った。そして、ビネガーがかつていた場所までたどり着いた。
 
「ふむ、この魔法陣を超えた場所が最後だと良いですねぇ。私もさすがに疲れました。さて、皆さん向かいますか」
 
 エントランスホール同様に魔法陣から転移すると、そこは長く深く降りる階段があった。
 ルッコラはこれまで同様に周囲を調べるとサーバントを呼び出すことに成功する。一通りの行動を終えると言った。
 
「これで私たちは合計で8体のエイリアスを受け取りました。ディアブロス、魔王のしもべ、まるまじボンバー、ソーサラー、ナイトゴースト、セーブポイント、ジャグラー、バンプット……これらのサーバントはそれほど強いものではありませんが、それぞれ特殊能力を持っています。それぞれのサーバントでこれらの能力を活用すると良いでしょう。本来であれば吸収してしまえるものですが、今回は歴史的な調査もありますのでご容赦ください。さて、行きますか」
 
 ……オウォーゥ。
 
「?」

 何かの声がした気がした。
 だが、クロノ以外は誰も気がついていないようだ。
 気のせいか。
 階段を下りて行く一行。
 クロノはこの後の部屋が何の部屋かわかっていた。
 それ故に気のせいといっても油断は禁物に感じた。
 
 最後の段を降り、そこに開ける暗い闇への入り口をくぐり抜けた。
 ゆっくりと部屋の中央へ進む。懐中電灯の光で辺りを照らすと、前方に何かが座っている様に見えた。
 
「誰だ。」
 
 クロノの問いかけに、前方の何かがゆっくりと衣擦れの様な音を起こして振り向いた。
 その顔はしわがれているが、間違いなく危険な人物であることを確認出来た。
 
「あたしのことよね?そうよね?……うふふふふふぅ、ようこそ、我が家へ。まさかこんなに早くにあたしのアジトがバレるなんて思っても見なかったわよねぇ。まったく、あたし達のやることなすこと全てに立ちはだかるのが………あなたの顔だったのよねぇ。ぐふふぅ、でも、飛んで火に入る夏の虫とは、あなたみたいのを言うのよねぇ」
 
 しわがれた声で「彼女」は言った。
 すると後方をずしんずしんと音を立てて何かが入ってくるのが聞こえる。
 振り向くとそれはヘケランだった。しかも一体ではなく、複数体がどんどん入ってくる。
 
「あたしの可愛い坊や達、存分に遊んであげるのよねぇ。をーほっほほほほほほほほほほほ!!」
「!?」
 
 ヘケラン達が襲いかかる。クロノが抜刀して切り掛かるがあまり効いていない。
 フリッツが防御の為に魔力を集中すると、ダイヤプロテクトフィールドを発動させた。
 
「く、道を確保しなくては。私のフィールドもすぐに破られる。何か手は無いか!」
「……ここで行き止まりなんだ。ここは、元は魔王の部屋だったからな」
「なんと。……では袋小路」
「そういうことだ。……って、ん?……なんだアレ?」
 
 クロノは中央に小さな空間の歪みみたいなのを見つけた。
 これは魔法の力で空間に光が満たされなかったらわからないほどのものだったであろう。
 
「シズク!そこにある歪みを調べてみてくれ!」
「え、歪み?……あ、アレのこと?わかったわ!ちょっと待って」
 
 シズクがシーケンサーをバックから取り出して辺りを計測する。
 
「……これは、ゲート」
「やっぱりか。よし、開けるか?」
「うん、やってみる。ポチョ!」
「ぽーっ!」
 
 彼女の胸元からぽちょが飛び出した。……相変わらず何処で眠っているのだろうか。
 ポチョは早速ゲートを開き始める。しかし、あまりにも小さすぎて簡単に開きそうにない。
 
「時間が掛かりそうだわ。とにかくこの場はポチョが開くまでみんなで持ちこたえましょう!」
「あ、あの、どういうことですか?」
「詳しくは後だ。今はとにかく生き残ることを考えろ!」
「わかりました。メキャベ君、やってやろうじゃないですか」
「はい。」
 
 ダイヤフィールドが破壊された。
 ヘケランの巨体による体当たりで耐えきれなくなったフィールドが、まるでガラスが砕け散る様に細かく破砕され飛び散った。そこを抜けてクロノが再び切り掛かる。魔力を込めた刀の力によってヘケランの肉体が刻まれる。今度は確実に両断され、その体はなんと光となって消滅してしまった。
 その消え方を見てルッコラが言った。
 
「サーバント!?そうか、この数は全てヘケランのエイリアスです」
「ヘケランのエイリアス?」
「そうです。実体を出している存在を倒さない限り、永遠にエイリアスは出続けます」
「本体は……マヨネーか!」
 
 クロノが方向を転換しマヨネーへと切り掛かる。しかし、マヨネーはその攻撃を寸での所でひょいと、いとも簡単に扇子で受け止めた。だが、明らかな違いが生じていた。その持つ手は先程までのしわがれたものではなく、妖艶な程に青白く透き通る様な美しい肌をしていた。
 
「……うふふ、そんなに求めてくれて嬉しいわ。女は求められて綺麗になるのよね。どんな男もあたしの美の前にはひれ伏すの。…さぁ、あなたもあたしの僕になるのよねぇ〜〜!!!」
 
 若返ったマヨネーの瞳が赤く光った。
 周囲からハート形の炎が形成され、クロノへ襲いかかる。
 
「ぐあぁああ!!!」
 
 その炎をもろに食らってしまい、衝撃で強く地面へ叩き付けられる。
 不思議にもその炎は熱くはなかったが、衝突した時の衝撃は常識を外れた重圧だった。
 以前の「彼」も同じ炎を使っていたが、これはそれまでを遥かに超えている。
 何が彼をそれほどまで強くしたのだろうか。
 これはこの時点ではそんなことを思う暇等無かったが、間違いなく浮かび上がる疑問だ。
 そこへ追い打ちをかける様に炎が襲いかかるが、フリッツが彼の前へ出て左手に出したダイヤのシールドで炎を防いだ。
 彼も両の手でその衝撃に耐えたものの、その重圧でクロノ諸共後方へ押された程だった。
 クロノがよろめきながらも立ち上がり構える。
 
「うふふ、良いでしょぉ?この炎。思わず痺れちゃう程だと思うわよね?そこのオジさんもじんじん感じちゃったんじゃないかしら。もっともっと、痺れさせてあげちゃうのよねぇ〜♪」
 
 後方ではシズクがサンダガでヘケランの室内への侵入を妨害している間に、ルッコラとメキャベが力を合わせて一体一体ヘケランを滅していた。
 
「ぽーーーー!!!!」
 
 ポチョの声がする。
 振り向くと緑色に輝くゲートが空間にぱっくりと口を開けた。
 クロノは言った。
 
「みんな、先に入れ!」

 その声を聞いてポチョとシズクが入った。ルッコラ博士とメキャベ氏がそれに続く。
 クロノはフリッツを先に入らせると魔力を集中し始めた。
 
「な、なんなの!?」
 
 マヨネーが突然の状況の変化に困惑していた。そして、クロノの攻撃に備えた。
 クロノも構える。……だが、次の攻撃は無かった。
 
「……消えた」

 クロノ達の姿は消え、そこは先程までの闇に沈む静寂へ戻っていた。
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【211】クロノプロジェクト先行版シーズン3第三話
 REDCOW  - 12/1/25(水) 0:27 -
  
 第127話「アブソーブ」
 
 ルッコラは助手のメキャベと共にその場にしばし立ち止まり、門の詳細な形状は勿論、周囲の地質状況等を機器を使って調べ始めた。
 その間、クロノ達は近くの岩場に座って彼らの作業を待つことにした。というのも、これが政府の基本的な条件であるため、彼らの調査が全ての行動に優先するとされていた。
 シズクも最初はその場に座っていたが、退屈しのぎにルッコラの手伝いを始めた。
 彼女自身も興味が有るのだろうか。
 フリッツは坑夫達を下がらせると、クロノに話しかける。
 
「その表情、どうやら見覚えが有る様ですな。」
「…いや、正直な所、よくわからない。想像しているものだとは思うけど。」
「…その迷いは、むしろこの扉というより、あなた自身に向けられている様な言葉に聞こえますな。」
「はは、それは年の功って奴ですか?…うん、みんなが俺達のことを不思議がったり驚いたりするみたいに、俺もそんな何かを感じている。俺にとってのあの冒険は6年前の話だけど、あの時の俺にこんな迷いを感じる暇はなかった。迷う時間も足りないくらい、ずっとずっと…いっぱいだったんだ。」
 
 クロノの答えに、フリッツは視線を坑夫達の方へ移すと、彼もまた物思いに耽る様な表情をした。そして、下げていた鞄から水筒を取り出すと、蓋を空けた。
 
「飲みますか?」
「いや、良いです。」
「ははは、見てくれはウィスキーでも入っていそうですが、生憎酒は医者から止められてましてね、この中は普通の水ですよ。」

 彼はそう言い一口飲むと、一息吐いた。
 
「…私にも若い頃がありました。たぶん、同じ様に感じていた。その瞬間すら惜しくて足りないくらい。しかし、時とは妙なもので、その時が過ぎ行く程加速度を増すのに、思いはずっとゆっくりとしたものになる。いや、まるでその場に留まったまま取り残されるくらいに。」
「そういうものですか。だったら、俺はまだ途上です。」
「フフフ、そう。まだ始まったばかりです。戸惑う暇すら、まだ惜しんでいておかしくはない。同情はしますが、羨ましいものですな。」
「羨ましい?」
「はい。今がまさに青春です。若さ故の過ちも、まだまだ許される。こんなオヤジにもなると、そうそう隙も見せられない。願わくば…良い手本たらん…とね。」
「はは、それは大変だ。」
 
 二人がそんな話をしている頃、調査をしていた三人は情報をすり合わせていた。
 
「博士、このシャインの魔力減衰率を見た限りだと、製造年代は中世期とみてほぼ間違いないと思います。」
「周囲の壁面のデナドロ構成比は、基本的にこの周囲の鉱物から生成したとみて良いと思うわ。構造物の純度も当時の構造物を調べた年代測定資料の値と合致するし。」
「ふむ、メキャベくんもシズクさんもよく調べてくれました。特にシズクさん、この仕事が終わったらどうです?私の所で一緒に仕事しませんか?」
「え、私ですか?それは有り難いですが、ごめんなさい。」
「ほー、それは残念。でも、気が変わったらいつでも言ってください。私はいつでも歓迎しますよ。…さて、本題はこの扉をどう開けるかですが、これほどのデカ物です。手押しで開けたはずはない。まぁ、やろうと思えば現代の我々に不可能はありませんが、強引にやっては壊れてしまう。出来るだけ傷をつけたく有りません。当時の技術を考えるに、敵から攻められないために外部に無いのは当然として、内部的には開門用の魔力充填ラインがあったと考えられますから、それを利用します。」
「博士、シャインの先天属性は地。開門するならば天でこじ開けるのが早いかと。」
「メキャベ君、それではこの貴重な扉を破壊してしまう。もっとやんわり行かないとだめですよ。」
「じゃぁ、供給ラインに再充填するのが一番だと思うわ。」
「そうです。では、充填ラインはどこに有るか?通常の扉は蝶番か吊り上げ用の構造物に沿って存在します。この門は両開きの蝶番式ですので、その辺りに魔力を注ぐのが適当でしょう。さて、ES構成を調べてみますか。」
 
 ルッコラはそう言って門に手を当てた。
 そしてしばし集中すると、彼の手がほのかに緑色に輝いた。
 それはほんのわずかな時間であった。
 
「…わかりました。思った通り蝶番に沿って4つのラインが存在します。それが内部で一つにまとめられるイメージが感じられました。しかも、驚いたことにまだ生きている。…すばらしい。ES構成はシャインの地に合わせて力場を構成して門へ流し込む形で動かしましょうか。この作業を出来るのは私とアンダーソンさんが適任と思います。皆さんにお話しして始めましょう。」
 
 3人はクロノ達を呼ぶと、早速作業を開始した。
 門前に並んだルッコラとフリッツの二人は同時に地の魔力を注ぎ込む。
 すると門はゆっくりとその重い扉を開いた。
  
「さぁ、開きました。行きましょうか。」
 
 マイペースにルッコラは前を行く。
 この場はほぼルッコラを中心に動くのが無難だと、何故か皆納得していた。
  
 門の中に入ると、そこの内装は所々朽ちている部分もあるが、全体的には中世の面影を残していた。少なくともクロノにはそう感じられた。
 中の構造を見てようやくクロノは確信に至っていた。この場所は一度来たことがあると。…そんなクロノの気持ちとは関係なく、ルッコラは突き進む。
 入ってすぐの前方には階段が有り、エントランスホールの吹き抜け2階への階段がある。そこを上ると二手に分かれていたはずだが、両方の通路が崩壊していた。
 
「ふむ、どちらも行けそうにないですね。しかし、もしここが過去の戦争時代のものであったとすれば…」
 
 そう言ってルッコラは丹念に床を調べ始めた。すると、
 
「あぁ、ありました。」
「これは?」
「トリップフィールドです。ささ、皆さん集まって。」

 ルッコラは全員を集めると、フィールドを自身の魔力で活性化させた。その瞬間、クロノ達は先ほどまで見ていたエントランスホールとは全く違う場所へ運ばれていた。
 そこは綺麗に片付いているかの様に、かつての様を残していた。
 
「むぅ、400年以上の年月が経過しているはずなのに…この保存状態。すばらしい。しかし、これらの構造…ワイナリン築城様式の罠に酷似していますね。ふむ、皆さん、しばし待っていてください。」
 
 クロノもルッコラの見解を肯定していた。
 ここはビネガーが奥でハンドルを回して罠を動かしていた部屋だ。しかし、ビネガーが居ないこの場所で罠へ用心する必要は無いだろうと思われた。
 ルッコラは壁面を丹念に調べると、コンベア型の罠手前の通路上に魔法陣を書き始めた。そして、暫く瞑想をすると魔法を詠唱し始めた。
  
「…静まる闇の中に眠る心よ、我が呼びかけに応え、その姿を示せ。」
 
 詠唱が終わった瞬間、突然ベルトコンベアが動き始めた。そして、驚いている一同の前に怪しく青く光る炎が左右の奈落から浮き上がり、それは前方中央の通路上で合体した。合体の瞬間、閃光を発した炎はゆっくりとその場で揺らめいた。
 
「おぉ、やはり。ここにはサーバントがありましたか。」
「サーバント!?」

 クロノの驚きの声にルッコラはにっこりと微笑んで答えた。
 
「はい。我々魔族はこのサーバントの力を継承することで魔力を保持してきました。しかし、それは何も人体へ継承することに限りません。このようにある特定の条件を揃えてやりさえすれば、サーバントをとどめておくことも出来るのです。」
「サーバントを留める?」
「はい。留めることでエネルギーを引き出し、物を動かしたり魔法を遠隔的に発動させるといった便利な使い方が出来る様になります。中世の戦争で数の少ない魔族がどうやって人間に対抗することが出来たか?…それはこのサーバントの力なくして語れません。」
「で、これをどうするんだ?」
「これですか?では、少し見ていてください。」
 
 彼はそう言うとその場で何やら炎の方へ向き直り、右腕を手のひらを開いて前に突き出した。
 
「アブソーブ、エイリアス!」
 
 その瞬間、炎は揺らめくと小さな火の玉がそこから飛び出して、ルッコラの手のひらに吸収された。
 
「今のは何を…」
「見ての通り、吸収しました。エイリアスとは分身のこと。この炎から力を一部呼び出す権利を貰いました。エイリアスは自身のサーバントにエイリアス本体の持つ技術の一部を共有させてくれます。本来であればサーバントそのものを吸収してしまえば良いのですが、そうも出来ない場合が有ります。
 例えば、自分より強いサーバントとかですね。その場合、エイリアスを貰い受けることで本体との縁を作り、自分が強くなった時にサーバントを呼び出す権利を受けるわけです。エイリアスを受けた者はサーバントとの縁を通して、外界のエネルギーを供給する運び屋としての仕事を受けます。これにより地場に縛り付けられたサーバントがエイリアスを通して外界で行動出来るようにもなるわけです。つまり、ギブアンドテイクですね。」
 
※サーバント&エイリアスについて
 地場に縛り付けられたサーバントや天然サーバント等、各地にあるサーバントからは二つの方法で力を受け取ることが出来ます。アブソーブ命令に対して、術者がサーバントの能力を超えている場合はサーバント命令でサーバントそのものを強制的に吸収し、そのサーバントの持つ全ての能力を引き継ぐことができます。
 能力が低い場合やサーバント吸収許容量限界を超えている場合は、エイリアス命令でエイリアスを受け取ることでサーバントの持つ能力の一部を受け取り、自分のサーバントの能力を向上させたり、自分の装備の性能を向上させることができます。また、エイリアスを保持しながら戦い続けると、エイリアスにエネルギーが供給されます。
 一定のエネルギー供給を受けたエイリアスは、術者に対して本体を呼び出す権利を与えます。術者はその権利を行使することで、吸収せずともサーバントの持つ全ての能力を一度だけ利用で来ます。一度使うと再度エネルギー供給を受けないと使えません。エネルギー供給方法は戦闘での余剰エネルギーの充填の他に魔力を直接供給する方法があります。しかし、後者はとても巨大な魔力を消費するため現実的ではありません。
 術者がサーバントの能力を超えている状態でエイリアスを利用している場合は、発動条件を揃えることでサーバントをいつでも呼び出せる様になります。発動条件は術者との縁の強さの他にフィールド属性や魔力供給量が関係し、縁の深いエイリアスほど発動条件が緩和されます。ただし、発動条件はサーバント側の能力も強化されて行くに従って変化します。サーバントもまた、エイリアスのエネルギー供給を受けて進化していきます。
 エイリアスで所有するサーバントを吸収した場合、そのサーバントが持つコネクション(縁)は全てリセットされ、術者に全ての権限がゆだねられます。

 クロノ達はルッコラに促されるまま、この炎からエイリアスを受け取った。炎は全員にエイリアスを渡すと消えてしまった。
 
「この先もこのようなサーバントが存在する場所と出くわすこともあるかもしれません。その時は私の説明通りにして頂ければ問題無いでしょう。サーバントはとても重要なものです。エネルギー供給源であり、武器にもなりますし盾ともなります。サーバントの扱いは、くれぐれも大切に。」
 
 ルッコラはそうして再び奥へ進み始めた。
 そこにクロノがあわてて彼に言った。
 
「博士、罠は!?」
「罠?…あぁ、あのサーバントが動かしていたわけですから、私達は彼のエイリアスを受け取った時点で彼の仲間。問題有りません。」
「…はぁ。」
 
 クロノは半ば拍子抜けするものを感じつつ、彼の後に続いた。
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【210】クロノプロジェクト先行版シーズン3第二話...
 REDCOW  - 11/7/1(金) 11:39 -
  
 そこには二人の明らかに坑夫とは違う服装をした人物が立っていた。
 三人の歩く音に気がついて、そのうちの一人が振り向いた。
 
「ん?あぁ、お待ちしていました。」
 
 そう話したのは、なんとルッコラ博士だった。

「ルッコラ博士!?」
「おや、あなた方もご一緒ですか。それに、アンダーソンさんではないですか。直々の視察ですか?ご熱心ですな。」
「いや、私はこの二人の同行者だ。まぁ、このことは会社の従業員として宜しく頼む。」
「ほう、そういうことですか。なるほど。わかりました。お三方がいれば心強い。さぁ、参りましょうか。」

 ルッコラは特に驚くでもなく淡々と受け答えていた。
 彼の動じなさっぷりには3人とも何か思う所があったのか、互いの顔を見て苦笑していた。
 ここにきてこのメンバーの揃いにクロノは内心苦笑していた。
 調査隊のメンバーはクロノとシズクの他に、坑夫が1名に国立研究院から派遣の研究者が二名と聞いていた。しかし、そこに現状では坑夫として商会の会長さんが1名、そして研究員として最高責任者であるルッコラと助手のメキャベがやってきていた。しかし、幸いというべきか、彼は大統領府側の意向は知らない様で何の指摘も受けなかった。というよりむしろ歓迎されてしまった。    
 フリッツを先頭に坑道を進む。既に奥で重機による掘削作業をしている作業員がおり、フリッツはそこの坑夫達二名を道案内として同行させた。彼らの話では地下100m以上掘り貫いているという。だが、坑道の中は高い湿気を帯びており、かなり深くに下がって来ているはずだが蒸し暑さを感じるほどだ。
 道中はルッコラが調査状況について話してくれた。
 彼の話によると、地質調査結果から坑道の地層はとても固いデナドロ石を含む岩盤の層があり、これを中世に掘り貫いたとすれば驚異的な話だという。当時の魔法技術が現代より上にあるとしても、この途方も無い作業を為し得るには相当の努力が必要らしい。だが、その作業は困難では有るが不可能ではないという結論に至ったという。
 現代にも伝わるメディーナの魔法力を秘めた道具と、強力な魔力を持つティエンレン族を集中的に動員出来れば、当時でも出来ない訳ではない。ただし、現代と違って詳細な地質調査技術が有る訳では無いため、相当失敗したと考えられる。その証拠に彼が分析した情報によれば、幾つかのトンネルの残骸らしい穴が見つかったという。
 それらはいずれも途中でデナドロ石の固い壁にぶち辺り浸水していたため、掘削途中に浸水し中止したものと考えているそうだ。
 今回進んでいる坑道は新しく彫り貫いた中では一番良い調査報告が出ているそうで、ルッコラ博士が自ら出向いたのも実際にその目で歴史の遺物と対面したいという衝動かららしい。さすが学者。探究心のためなら、面倒事でも何のそのといった所だろうか。

「私はボッシュ博士からあなた方の話を聞いたとき、さすがに眉唾物だろうと思いました。どんな不可能も可能にする博士でも、時を行き来する等という荒唐無稽な話を真面目にされる様な方ではないと思っていたからです。しかし、あなた方は実際に現れた。博士が不可能を可能にするのであれば、あなた方も不可能を可能にしてくれる…いや、私は先入観に囚われるのは愚かだと思いました。私は学者だ。可能性を探求するのが私の使命なのだと。」
「先入観。だから私達を試した…わけでもないのよね。そのボッシュ博士は事前にあなたにそうする様に仕向けたんでしょ?」
「そうですね。お嬢さん、あなたの言う通りだ。でも、先入観が無かった訳でもない。博士の条件は正しいと同時に、私もあなた方を試したいと思った事は否定しませんよ。試験もね、博士は実は一次試験をクリアすれば実際にお会いする話だったんです。人間で一次試験を突破する魔力を持っている事自体、充分に珍しい話だ。だから、アンダーソンさんの様な方はとても珍しいことなのです。まして、あなた方は純粋な人間でありながら、歴代トップクラスの魔力を叩き出している。その時点で十分な資格があった。」
「じゃぁ、二次以降はルッコラさんが疑っていたから続行したってこと?」
「それは確かに私の意向も無くはないですが、大統領府からこの件は事前にお話があったからねぇ。試験で登場したという黒薔薇の捕獲も目当てにあった。とはいえ、まさかあんな歴史の遺物の様な人物が現れるとは、誰も思いもしなかった様だけど。」
「マヨネー…か。」
「先生、着きました。」

 到着を告げたのは博士の助手を務めるメキャベ博士。ルッコラの大学時代の後輩で、助手といっても国立研究院でも上級研究員として知られ、地質学研究の第一人者と目される人物らしい。この調査計画も実質の責任者は彼が担っているという。顔立ちはルッコラと比較するとずっと温和な印象で、人種は青い肌のジャリー種だ。背はクロノと同じくらいだろうか。
 
「ここが?」
 
 クロノが思わず呟いた。
 
 そこは坑道の途中の場所で、重機で掘ってはいるが、まだあまり進んでいない様に見える。
 
「この場所は坑道の途中の様に見えるでしょうが、先の方はもう調査してダメだと分かってね。元々ここを掘る話だったんですが、岩盤がデナドロで固くてね。迂回しようと思ってこの先を掘ったら浸水したので、ここに戻って来たわけですよ。いやはや、アンダーソンさんからすれば、この話はデナドロ鉱石の採取も出来て全く痛くもない話の様だが、私らからすれば厄介な鉱脈ですよ。これを中世に彫り貫いたというんだ。まったく中世の人々はとんだ化け物だ。」
 
 自分の先祖をとんだ化け物と言ってのけるルッコラに驚くクロノだが、ただじっと待っているわけにもいかなかった。
 
「俺達に出来る事はありませんか?見た所、重機の進みは本当に悪い様だし。」
「メキャベ君、どう思う?」
「そうですね。協力頂けたら確かに有り難いのですが、デナドロ鉱石はとても固く魔法耐性の強い石です。我々魔族が幾ら魔法を使えると言っても、この鉱石を彫り貫くのは簡単な話ではないんですよ。ですから、お手伝い頂く様なことは何も無いかと…。」
「デナドロが固いなら、その耐性を緩める事が出来れば良いんじゃないかしら?」
「え?」
 
 唐突なシズクの意見に、メキャベは戸惑った。
 
「確かにその通りですが、鉄やミスリル銀と違って、デナドロの分子構造はとても強固で、簡単に緩められる様な代物ではないですよ?」
「デナドロのES耐性は天寄りの耐性を持っているから、地の方向から天を中和して残りの火と水による冥化をさせてから、強力な天のエネルギーをぶつければぶっ壊れるんじゃない?」
「反属性化してから先天属性で破壊…それは考えても見なかった。確かに、ダイヤはダイヤで削らないと削れない。魔法効果も考えようによってはそういう扱い方もあるかも…。」
「幸いにして、地属性は私とメキャベ君、そしてアンダーソンさんがいる。天はクロノさん達の強力な一発を頂ければ出力は足りそうですね。やりましょうか。」
 
 ルッコラはこの話に早速乗り気の様だ。

 クロノ達は準備に取りかかった。坑夫を下がらせると、まずルッコラ達が地の魔法でデナドロ石の彫り貫きたい範囲に対し局所的に中和した。十分な中和には5分少々の時間が必要だったが無事に済んだ。今度はクロノ達の番である。
 
「シズク、用意は良いか?」
「はいな!」
 
 二人は同時にサンダガを放つ。通常のサンダガより倍の出力は有るだろう稲妻が正面の壁面と衝突した。それは驚くべき光景だった。魔法が衝突した瞬間、前方の壁がまるで押し出す様に綺麗に円筒形の形状をスライドさせて後退したのだ。それはとても気持ちの良い程の抜け方で、スポッとでも音を当てたくなる程の呆気なさだった。抜け穴の長さはおよそ20m程で抜けた様だが、抜けた先に彫り貫いた構造物は見えなかった。
 
「抜けましたな。どうやら浸水もしていない。進んでみましょうか。」
 
 ルッコラが先を進む。クロノ達も後に続いた。
 抜け穴の出口に着いたルッコラは、明かりで内部を照らした。
 見た所そこは大きな空洞が広がっていた。色とりどりの光苔が所々に繁茂し、地下100m以上の地底に広がる鍾乳洞の様な趣を持ったそこは、幻想的とでも言える空間だった。よく見ると、下の方に円筒形の岩石が落下の衝撃で砕けているのが見えた。
 
「…素晴らしい。こんな地下にこの様な空間が。しかも、空気がある。」
「抜け穴の壁面を見た所、地層的なスライドが認められます。緩やかに沈んだというよりは、とても急激な沈降が発生したと思われます。たぶん、この土地は数百年前は陸だった可能性もありそうです。あと、気になる点も。」
「気になる?」
「はい、幾つか人工的に手を加えられた様な痕跡を認めました。このデナドロの岩盤も、もしかしたら元々ここに有るものではなく、どこかから運んで来た可能性も考えられます。」
「では、当たりの様ですな。ワクワクするじゃないか。先を進もう。」
 
 フリッツがニコニコしながら歩き出す。
 抜け穴の先の空間は、出てすぐに左方向へ下る緩やかな坂が出来ていた。その坂の下には先程くりぬいた岩石が散乱しているが、道を塞ぐ様な状態ではなかった。彼らはそれらの間を縫う様に進む。すると、床に石畳の様な人工的に敷き詰められたものが見られた。
 
「(これは、一体?)」
 
 ルッコラは前を進みながら疑問に感じていた。それはクロノとて同様だ。過去に通った事がある魔岩窟はただの掘り貫いただけの洞窟で、これ程綺麗な石畳が敷き詰められていることは有り得なかった。これはクロノ達が通った後に加工されたのだろうか。いずれにしろ、不可解なものだ。
 先を更に進むと、大きな空洞に出た。前方には誰が見ても人工的に積み上げられたと分かる煉瓦組みの大きな壁面に、これまた大きな門扉が付いていた。クロノはこの扉の形状に見覚えを感じた。
 
「(おいおい、待てよ。そんなことがあるのか?)」
 
 クロノの既視感をよそに、ルッコラはつかつかと前を進み門を調べる。
 
「ふむ、これは凄い。この扉、どうやら中世のものだ。しかもかなり強固なシャイン鉱石を使用している。装飾も中世期の戦争時に描かれたものと酷似しているし…文字だ。何々……我が魔王軍の科学力は世界一……ビネガー・ワイナリン…………ビネガー1世のサインだ!?」
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【209】クロノプロジェクト先行版シーズン3第二話...
 REDCOW  - 11/7/1(金) 11:38 -
  
シーズン3先行版第二話をお送りします。
シーズン3先行版は8月中でとりあえず終了予定です。
正式版の開始予定はまだ未定ですが、それまで先行版でお楽しみ頂けましたら幸いです。

 第126話「抜け道」
 
「どうしても無理なんですか?」
 
 クロノはフリッツの応接室で話していた。
 向かい側に座るフリッツに対し、クロノはもどかしさを感じていた。
 
 
「ふぅ、幾ら科学が進歩しても自然現象には逆らえない。ここ暫くメディーナ周辺の南方航路は大きく荒れていてね。私の会社で出せるのはトルース便のみですよ。」
 
「しかし、先程のあなたの話では、トルースの警戒はかなり厳戒になったそうではないですか。それに、陸路では遅過ぎる。」
 
「確かにその通りです。まぁ、妙案が有れば行使したいものだが………大統領閣下の命もあってね、お二人を失う様な手助けは難しいわけです。これは私の死活問題にも直結する話。この国に住み商売するからには、その国の意向を無視出来ない。まぁ、何もこれは私に限った話ではない。ここに住まう全てのガルディア難民に言えるでしょうな。…あなたにもそれはお分かりになるはずだ。」
 
「…むぅ。」
 
 フリッツの言葉は最もなことだった。
 国を失った民が困窮する様は、トルースの現状から明らかだった。

 為政者の違いでそれまで可能であった事が大きく変化する。
 それは伝統や文化の制限のみならず、行動や意思の自由ですら縛られる。そして、間借りする身となった民は、その国へ既に命を救われたという恩がある。郷に入っては郷に従えと言ったものだが、これはお互いの関係を良好に保つ上で留意せざるを得ないことだろう。

 その時、クロノはふと思い立った。
 
「いや、道は…ある!」
「…と、言いますと?」
「中世の魔王軍は、魔岩窟という海底トンネルを掘ってゼナンへ攻め込んだんだ。…なら、そのトンネルが今も無事なら、もう一度通れるんじゃないのか?」
「魔岩窟…確か私もメディーナの歴史書でその名を見た気がします。しかし、そんな知識は何処で?」
「…詳しい事を説明するのは難しいが、通った事がある。その、勿論、400年も昔の話だ。埋まっていて使えない可能性の方が高いかもしれない。」
「…いやはや、驚く暇無く出てきますな。通った事がある…ですか。ふふ、面白い。調査してみる価値はある。詳しくお話を聞かせてもらいましょうか。」
「オーケー。宜しく頼むぜ!」
 
 フリッツはクロノの話を聞くと、彼を連れてルッコラ博士のもとへ向かった。そして、そこでルッコラの意見を仰いだ。

 博士はその案に興味を示し、考古学的にも価値ある調査であることから大統領府と掛け合い、政府からの援助も受けられる様手配してくれた。幸いにして、魔岩窟のメディーナ側入り口はフリッツが所有する鉱山に位置すると見られ、既に掘り貫かれた坑道から侵入し掘削を進めることで工期を短縮出来そうであった。ただ、大統領府側からは掘削協力の条件として、調査の終了後にクロノ達が通る事を許すという内容であった。クロノはその内容に難色を示し、調査への参加を申し出るが却下された。しかし、このまま引き下がる二人ではなかった。

 フリッツを説得したクロノは、アンダーソン商会の社員として調査隊に同行出来る様手配して貰った。こうして、二人は調査隊と共に坑道へ入る事に成功した。だが、現地へ出向いて予想外の事態に遭遇する。
 
「ようこそお二人さん、私がこちらの坑道を案内させて頂きますよ?」
「フリッツ!?」
「ほっほっほ」
 
 二人はまさかフリッツがここに来ているとは思わなかった。
 彼は会社の社長であり、そうそう簡単に動けるはずは無いと思っていたからだ。
 
「会社はどうしたんだ?」
「ん?あぁ、私は今日をもって会長へ就任し、社長は息子に譲った。というわけで一緒に行く時間を作りましたぞ。」
「…会長ってやることないのね。」
 
 シズクのつぶやきに対して、彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
 
「老いても耳は良くてねぇ。そうですな。会長とは言っても名誉職のようなもの。実質はただの隠居ですよ。仕事漬けに仕事をしましたからねぇ。そろそろ引退して旅行でもしようと思っていたんです。仕事の虫から解放された老人を暖かく迎えようと言う気持ちは…お嬢さんにはないとは残念だぁ。」

「な、なにもそんなことは言ってないわ。もう、好きにしてください。」
「しかし、旅行ってどういうことだ?まさか、…俺たちについて行くと?」
「…そのまさかです。」
「えぇ!?」
 
 二人は再度驚いた。
 まさか旅について行く気とは思っても見なかった。
 せいぜいただの見物程度だと思っていた二人からすれば、尚更だ。
 
「…一度あなた方の仰る時空の旅というものを見てみたくてね。私は実際に見てみないと納得出来ない性質(たち)で、協力する以上は真実を知りたいと思ったのですよ。我々も道楽で付き合っている訳じゃない。世の存亡を賭けたとでも言える勝負、勝って終わらないと始まりません。」
 
 そう話す彼の目はとても鋭く何かを見つめるようだった。
 彼の言うことはクロノ自身も、もし同じ立場に置かれたら考えただろう。自分自身も大人になってこれほど荒唐無稽な話は無いと思っている程のことに、彼は快く付き合ってくれている。こちらとしても彼が納得して付き合ってくれる材料になるなら、それはそれで構わないと感じていた。勿論、ここに仮にルッカが居たなら、彼女のことだ、様々なことを言っていたかもしれない。が、彼女はここに居ない。

 坑道を進むといくつかの分岐路を進み、地下深く潜ってゆく。
 深さにして地下80m程まで進んだだろうか。
 かなりの距離を歩いていた。
 そしてようやく目的の場所に着いた。

後半へ続く
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【208】クロノプロジェクト先行版シーズン3第一話...
 REDCOW  - 11/5/28(土) 14:43 -
  
 そこに後方から声がした。
 
「…その通りです。」
 
 振り向くと、そこには1人の若い魔族の男性がこちらへ向って歩いてきた。人種はジャリーだろう。だが、背はソイソーの様に高く、眉目も整った理知的な顔をしている。彼は近くに来ると、握手の手を差し出した。
 
「お初にお目にかかります。私がボッシュ博士の代理を務めますルッコラです。」
 
 クロノがそれに応じて悪手すると、彼はにっこりと微笑んだ。
 そんな彼に、クロノは脳裏の疑問をぶつけた。
 
「なぜ、これが?こんな危険な物をどうやって?」
「…これをご存知なのですね。さすが、ボッシュ様のお認めになる方だ。ただし、これはあなたが知る物とは違う。これを簡単に説明するなら、あなた方の魔力を引き出すための装置。魔力を増幅し、本来あるべき姿に整形するもの。」
「あるべき姿?」
「…左様。このシステムは失われたジール人が持っていたという高度な魔法技術を復活させることができる、いわば『リストガンの原型』と言えるでしょう。このシステムを稼働させられれば、メディーナに住まう魔族は勿論、魔族と触れ合ってきた人間達にも魔力を生じさせる事ができると考えています。」
「させられればってことは、動かないってことですか?」
 
 ルッコラは彼の質問に答えるでも無く、無言で装置へ向かって歩き始めた。そして、装置のコンソールに触れる。
 すると、鈍いブーンという音と共に、装置を囲む透明な円筒形の窓の中が青白く輝き始めた。
 
「システムは動きます。しかし、まだ開発は半ば。現状ではある一定の能力者の強化にしか役立たない。…これからあなたの魔力を引き出して差し上げましょう。まぁ、あなたに潜在的な魔力があればの話ですが。」
 
 彼はコンソールを操作し、システムをクロノにターゲットして実行させた。
 すると、クロノの足元を中心に青い魔法陣が形成され、そのサークルの外側を囲むように光のフィールドが円筒形に包み込んだ。
 
「な、なんだ!?力が…抜けて…いく…………うあぁあああ!!!!」
「クロノ!?」
 
 シズクが驚いて思わず彼の名を呼んだ。
 だが、その時クロノの身体からなにかが飛び出した。
 それは、黄金に輝いて宙を浮いていた。
 
「…私は………?」
 
 なんと、そこに現れたのはあのアウローラの姿だった。しかし、以前の彼女とは違い、彼女は次第に光が消えて行くと、服装も爽やかな白を基調に青のアクセントラインをいれた戦闘服のような物を身に纏っていた。
 
「アウローラ!?お前、どうやって!?」
 
 彼の問い掛けに彼女も戸惑っていたが、落ち着きを取り戻し答えた。
 
「…どうやら、あなたの中にある『あなた自身』が私を取り込んだ様ですね。」
「俺が取り込んだ!?えっと、ルッコラ博士、これはどういうことなんですか!?」
 
 ルッコラは向き直り言った。
 
「これはサーバント。」
「サーバント?」
「はい。」
「その、サーバントって一体何なんだ?バンダーが使っていた奴もそうなんだろ?たしか、死んだ人が精霊になったものがサーバントとか聞いた。だったら、俺の中から出て来るって変だろ!」
「…考えられるのは、どうやらあなたはサーバントを出さずして、あなた自身の中にこの精霊を取り込んだと思われます。これはとても特異な事です。本来、サーバントは術者間の合意の中で継承されるもの。そして、サーバントを宿すには自身のサーバントで取り込まなくてはならない。しかし、あなたは強引にマヨネーから奪ったと考えられます。」
「奪った?…………で、これは一体どうなるんだ???」
「彼女はあなたの魔力を得て実体化し、あなたと共に戦うでしょう。サーバントが繰り出す力は肉体の枷が離れる為、より強力な力を行使出来ます。そして、サーバントはあなたの心と連動し、その力を増幅することもあれば低下することもあります。」
「…そうか。しかし、俺にこんなものを施してどうするんだ?」
「あぁ、これは別に特別なものではありません。元々あなたに備わっていた力を引き出しているに過ぎない。先程も話した様に、この装置は元々有るものにしか作用できないのです。ですから、無から有は生じ得ない原理なのです。まぁ、あなたにこの力を分かり易く説明するならば、仮にあなたが亡くなったなら、あなたの肉体は失われても、その心と力は残るレベルにあなたが達している…つまり、精霊として残る力を持っているということです。これは強い力を持つ者の証の様なものです。」
「…俺が、精霊に?」
「この試験の合格者には全てこの処置を施す事にしています。これは、あの試験をクリア出来るレベルに到達している者には、死後サーバントとして力を残す可能性が有る事を意味します。そして、サーバントとなれる者は、サーバントを取り込んだり扱う事が出来る。…ボッシュ博士は仰った。世界中に眠るサーバントの力を結集しなければならないと。そして、その力を集めた時、パレポリを統べる者に挑戦するに値する力となるだろうと。…パレポリを倒すとはルーキスを倒す事。彼を越えられない限り、世界は変わりようが無い。」
「ルーキス?」
「パレポリ連邦共和国軍総帥のことです。彼は我々魔族を遥かに超越した力を使う。黒薔薇を統べるディアも相当強いですが、ルーキス1人で一国を滅ぼせる…と実際に闘ったボッシュ博士は仰った。」
 
 クロノ達はその後全員がこの処置を受けた。そして、一通りの説明を受けると、彼らは大統領と別れ、列車に乗ってフリッツやルッコラ博士と共にボッシュの街へ戻る事になった。その時、ミネルバもまた、クロノ達と別れる事になった。
 
 試練の洞窟駅ホームにて。

「お二人と行動を共にした事は、一生忘れません。また、お会いする日を、そして共に戦える日をお待ちしています。互いに全力を尽くしましょう。」
「あぁ、また会おうぜ!」
「ミネルバさん、ありがとう。」
 
 シズクがミネルバを抱擁した。ミネルバもそれに応じる。
 ホームには出発のベルが鳴り響いていた。
 
「旅の無事を祈っているわ。また会いましょう。」
「うん、またね。」
 
 二人が列車に乗った時、列車のドアがゆっくりと閉じられた。
 鈍い機械音が唸り、ゆっくりと走り始める。シズクが窓の外のミネルバを見た。
 彼女はシズクにそっと手を振って別れを惜しむ様に列車を見つめていた。
 次第に彼女の姿が遠ざかる。
 
 クロノはシズクの肩にそっと手を置くと、フリッツ達のもとへ行こうと告げた。


 先行版シーズン3第二話はまた今度余裕の有るときに。
 先行版はシーズン3世界への準備的内容で綴っております。
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【207】クロノプロジェクト先行版シーズン3第一話...
 REDCOW  - 11/5/28(土) 14:41 -
  
 長らく時間がかかっておりますが、こちらに先行版として一話投稿しておきます。
 シーズン2最終話の続きとなっております。

第125話「古代の遺物」
 
「…お父様、結局彼らを取り逃がしてしまいました。」
「…うむ。だが、よくやった。この場は奴らを撃退しただけでも収穫だ。命を粗末にしてはならない。」
「しかし、これでは、この国は…」
「なぁに、この国を侮ってはいけない。なぁ、ワイナード?」
 
 フリッツは彼が支える男に明るく話しかけた。
 支えられた男…この国の現職大統領であるビネガー9世・ワイナード・ワイナリンは、不安な面持ちの娘へ穏やかに言った。
 
「彼の言う通りだ。お前の心配する事ではない。防衛はラモードに任せてある。また、今回の件で問題の閣僚を炙り出す事にも成功した。…ようやくこちらも表立って動けるようになる。」
「…お父様、お祖父様はお許しになられたのですか?」
「…父上もご理解下さるだろう。この様な状況を放置すれば、傷はいずれ大きくなる。確かにメディーナ20年の繁栄を築いたのは、父上とボッシュ博士の功績が大きい。だが、父上もボッシュ博士も御高齢だ。いつまでも頼るわけには行くまい。」
 
 そこに横から尋ねる声があった。
 
「…あの、大統領閣下、先程の話に出たボッシュ博士とお会いすることは出来ませんか?」
 
 クロノの声に、彼は振り向くとフリッツの支えを解いた。そして、自らの力で身体を支えると、姿勢を正して恭しく一礼した。
 彼の突然の行動に、礼をされた側もまた慌てて姿勢を正して礼を返した。
 
「お初にお目にかかります、トラシェイド公。娘がお世話になりました。」
「…やはり、あなたもご存知なんですね。一体、私のことはどのくらい有名なんですか。」
 
 クロノは半ば自分の身分のバレっぷりに驚くのを通り越して呆れすら感じていた。
 ここまでくると、発言した通りに正直どこまで知られているのか知りたいくらいだった。
 そんな彼に大統領はにこやかに答える。
 
「ははは、いや、話せば長くなるので簡潔に答えたい。まず、殿下のお尋ねになったボッシュ博士については、彼は今行方不明となっている。」
「行方不明?」
「突然消えた。…という状況だったと聞き及んでいます。詳しい話は研究院のルッコラ博士から聞いて下さい。これまでの調査で分かっていることは、少なくともパレポリの仕業ではないということだけです。」
「…自分で消えた?」
「…いや、それもわかりません。ルッコラ博士の見解では、疑問点は多数挙がる様だということです。ただ、殿下が来る事をボッシュ博士は予想されていた。」
「私の事を?」
「はい。そのために我々は世界中であなたの消息を調査していました。そして、20年の月日を経て、ようやくあなたは現れたということです。詳しくは移動しながら話しましょうか。」
 
 その後、クロノ達は大統領と共に試練の洞窟施設内へ護衛されながら移動を始めた。
 大統領の話では、ボッシュは初めからクロノの死亡説に対して疑問を感じていたという。特に王の死体は晒されたが、王太子夫妻の死体が無いということは当初から様々な方面で憶測を呼んだ。そうした中、ボッシュはメディーナが今後パレポリに屈しないためには、クロノの力がいずれ必要になると指摘していたという。
 大統領自身もその考えには同意していた。
 彼自身、魔族のみでパレポリと対峙して勝てる見込みは無く、数の力で圧倒されるのは目に見えていた。その為には人間との共生は必要不可欠な条件であったが、それを纏めるにはメディーナは多くの面で不備があった。
 当初は旧ガルディア難民の受け入れから始まったメディーナの移民政策は、元々仲の良いわけではない異人種間の交流を急速かつ大量に受け入れざるを得なかった。その結果、国内では人種間衝突は絶えず、多くの地域で混乱が生じた。しかし、それを取りなしたのはボッシュの存在だった。
 人間でありながら強力で高度な魔力と高い知識を持つボッシュの存在は、この国の危機の時に立ち上がった彼の存在感もあって融和の象徴として機能し、特に彼が学問においてメディーナを導いたことは、この国を平和的に発展させる上で大きく寄与した。
 魔族は一部の部族を除くと、総じてそれほど器用な民族ではない。特に魔法という力を使えることが彼らの学問的発展を妨げてきた面は否めなかった。だが、そこに魔法を使えない人間達の技術力が加わる事で、ボッシュは太古の時代の魔法科学を復活させることを可能にした。
 これは魔族と人間がお互いの力を認め合う良い機会となり、相互の融和が進む切っ掛けとなった。しかし、ここに来て魔力を持つものと持たざるものの格差も生まれつつあった。この溝は簡単に埋めようと思って埋められるものではない。
 その間もパレポリの脅威は大きくなる。
 この状況に対して短期間に人間達を纏めるためには、人間達の納得するカリスマが必要だった。それこそがクロノを探し求めた理由だという。
 
「…しかし、それは私に、再び歴史の表舞台に立てという事を、仰っているわけですね。」
 
 クロノは彼らの考える道が間違っているとは言えなかった。だが、それが意味することは、再び表立って道化を演じることを意味する。今後マールを助けたとして、あえて表立って彼女を危険に晒す結果となるこの動きに乗る事が正しいのか、彼は割り切れない物を感じていた。しかし、彼らとてタダで協力するとは言わないだろう。この時点でクロノが提供し得る取引材料もまた、彼らの言う道以外に無いことも確かだった。
 
「ようやく着きましたな。こちらをご覧下さい。」
 
 彼らは施設内の最深地層にあるドーム型の部屋にやってきた。そこの中央には驚くべき物体が安置されていた。
 
「これは…魔神器!?」
 
 クロノは思わず口にせずにはいられなかった。。

 後編へ続く
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【205】ご覧の皆様へ文字色について
 REDCOW  - 10/9/23(木) 14:18 -
  
 掲示板の更新で、表示色が伏せ字状態になってしまいました。
 カーソルで本分を選択すれば読めますが、読みにくい場合はコピーして他のエディタ等にセーブしてご覧下さい。
 
 現状だと管理側で編集…できるのか?………な状態なので、サイドAの方で別途ログを整備する事にします。とはいえ、すぐには無理なので、ご覧の皆様やDoubleFlagさんには申し訳有りませんが、上記の様な感じで対応頂けましたら幸いです。
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【204】-32- (第九章 魔の村の人々10ルッカの家)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 21:07 -
  
 現代のコルゴー大陸、北の洞窟
 ゼナン大陸へもどる近道として海の道を通るためヘケランのいる北の洞窟に入ったクロノ、マール、シェア、そして途中から来たルッカ、ロボは、海の道を通るための道の前に塞がったヘケランと対峙しているところであった。
 途中から来たルッカ、ロボによりヘケランを追い詰めることになった。
 刃を向けているのはボッシュから(貸して)もらった細長い剣を突きつけた。
 しかし、その手は止まっている。
「止めを刺さないノカ」
 あと数ミリ動いただけでヘケランに刺さるような態勢であった。
「止めを刺して欲しいのか」
 冷徹にヘケランを見下げた。
「……」
 一同も思わず押し黙る。
「私たちはこの渦を通ればいいだけだからな」
 ヘケランに向けられていた圧迫感が同時に消えた。
 ヘケランは起き上がり、シェアを見下げた。
「カワッタニンゲンだ。
 400年前、魔王サマガラヴォス神を封印シタカイガアッタモノダ。
 ニンゲンもズイブン変わったモノダナ」
 その言葉にルッカが食いついた。
「『ラヴォス』を封印した? 召喚したんじゃなくて?」
「『召喚』ダト。バカをいうな。
 魔王さまハ命ヲかけてラヴォス神ヲ封印シタノダ。
 もうサッサと行けニンゲンドモ」
 ヘケランはそれだけ話すと、目を瞑りいびきを始めた。
「これ以上聞いても無駄のようね」
 四人と一体は逃げるように渦の中に入っていた。


 現代ゼナン大陸、ルッカの家
 シェアは湿った紙をタオルでぎゅっと絞り上げた。雑多なところが男っぽいのだが、協調性のあるバストとヒップは女性らしさをよく現している。黒シャツに黒ズボンと、髪の黒さもあいまって全身黒ずくめであるが、それが逆にきちっとしたシックな大人の女性であること見せている。
 失礼ではあるがまあ、正直こんなときでしかシェアを女性として認識しないであろう。
 海の道を通ったことで、塩まみれになった体をシャワーで流したのだ。
 さきに風呂に入っていたルッカは白いシャツとハーフパンツといったラフな格好をしながら、半田を片手に作業をしていた。その傍ではマールがなにやら難しそうな本の合間にあった簡単そうな本を見ていた。
「それでどうするんだ」
「当分はクロノ、マール、ロボは一緒にいてもらうわ」
「ルッカはどうするの?」
「私はまずこの『ゲートホルダー』の2号機を完成させてから、ガルディア城の森とでゲートを開いてから合流するつもりよ」
「よく分からんが、ルッカたちも色々大変なんだな」
 シェアはすっと近くにあるソファーに座った。
「シェアさんはどうするんですか?」
「私はここにもどってくるのが久しぶりだからな。まずは情報収集だよ」
「ということは、しばらくは北ゼナンにいるってことですか」
 粉末状の素をコップに2、3杯入れスプーンでかき混ぜた。

   カラン からん

 と音を立てながら、かき混ぜる。
「いや、南ゼナンの知り合いに会うのが先になる」
「パレポリに行くって事ですか」
「ん〜〜、まあね。半分以上は仕事のためだが……」
 その目は黒鞘に収められている剣に向けられている。
 手はカップを持ち、三分の一ほど飲み干す。
(甘いな)
 カチッと置き皿の上にカップを収め、ルッカを見る。
 手つきがらしく見え、ここに来ることが本当に久しぶりであることを感じていた。

(苦い)
 本を片手にマールがコーヒーに口をつけ、ゆっくりをカップを置いたところで玄関が開く。

   がちゃん

 扉から赤いツンツン頭の少年――クロノが入ってきた。
 マールはその姿を確認すると、本にしおりを挟み立ち上がった。
「ただいま、って言うのも変かな」
「ふふふ、確かにここはルッカの家だもんね」
 クロノは一人自分の家に戻っていた。
 裁判にて死刑宣告をされ、刑務所にいる中で一度も訪問を許されることが無かった母のジナを安心、無事であることを示すために帰ったのだ。ルッカが空中刑務所に侵入する前に、ジナに一言声をかけていたので『前の周』よりも大きな動揺が見られなかったが、喜んでいた。
 こうしてクロノも合流し、再び今後の予定をゆっくりと話し合った。

「すっかり洗い流してもらったんだな」
 調整作業も終了したロボが再び起動する。
 手足の駆動部分を重点的に動かし、動作の確認を行う。
「ハイ」
「ちょうどよい機会だから、軽量化とかオプションとか付けたからね。はじめは、動作の修正とかで時間がかかるかもしれないけど、ロボのためにもなるとおもうわ」
「全部機械で出来ているのか?」
「ええ、すべて私の手ではないけど」
 シェアはじっくりとロボの様子を拝見した。
「いやな、まだ他の大陸では完成なされていない全て機械でつくられたものを見るのは初めてだからな。さすがルッカといったところかな」
 照れくさく黙るルッカ。
「じゃあ、私は先に出るよ」
 シェアは黒鞘の剣を大事に持ち、ルッカの家を出て行った。
「さて、私たちも行くわよ」
 各々が手持ちの装備を確かめたところでクロノが言った。
「ルッカはここに残るんだろ」
「いいのよ。私も間に合ったら駆けつけるつもりだから」
「そうか、じゃあ行くからな」
「頑張って!」
 クロノたちは千年祭の行われている広場に向かった。
「こうやって歩いて『ゲート』に向かって歩くの考えたら、シルバードの存在の大きさを感じるね」
「タシカニ、移動して体力、エネルギーが消耗することを考えるト、移動キョリをタンシュクできるシルバードは大きいデスネ」
「でも、『前の週』多く歩いたから後々に体力面での心配が少なくッただろ」
「確かにね。はじめはあたしがいたからずっと休んでいたようなものだもんね」
「それはしょうがないだろ?」
「ソウデス。運動量がタリナイのは、アトデ付けていけばイイだけの話デス」
 ガシャン、ガシャンと強弱をつけて動くロボにマールが笑う。
「さて……」
 クロノたちはリーネの鐘をくぐり、ポットの前に立った。
 中央には小さい『ゲート』が見られる。
 そして、右側のポットが強く光っていた。
「コレハ……フタツの異常な重力場を観測していマス」
 右側のポッド、すなわちラヴォスに直接繋がっている『ゲート』が強くなっていたのだ。
「また、新たな分岐か」
「? ドウイウコトナノデスカ」
 マールは『ゲート』の影響が少ないところで、ロボに話した。
「前にここで少年、あの不思議な少年に出会ってね。
 新しい未来が出来るとき、新しい未来への分岐のときに、ラヴォスゲートが光るっていう話なの」
「つまり、この時間帯が未来の分岐点と言うこと。
 ここから先に進めば、その未来を選択すると言うことらしい。
 正直、ルッカから説明を受けたけどサッパリ分からなかった」
 マールも肯く。
「さて、どうする? このままラヴォスを倒しに行く?」
「はい」↓
<<<まだなし>>>

「いいえ」
「そうか、後悔しないな」
「するから、やっぱり行く」↓
<<<まだなし>>>

「ええ」
「じゃあ先に進むか」
 クロノたちはゲートホルダーで『ゲート』を安定化しそのなかへ入っていった。


 ルッカは一人、作業台にてゲートホルダーの2号機を製作していた。
 材料は……何とかなった。
 後は組み立てるだけ、といってもこの作業が一番神経を使うのだ。
 ふう、と一息。
 ルッカが立ち上がったところに、一冊の紙束が落ちた。
 なんとなく拾ったルッカは、その紙束に見覚えが無いことに気づく。
 タバンのだろうか、しかしそのなかで気になることがある。
 それは表紙が白紙だということ。
 ルッカは見やすいようにと最低限表紙をしっかりと書いて置く。
 しかし、これにはそれが無い。
 興味の中、紙束を一枚めくると驚愕の事が書かれていた。
 思わず、最後のページを開く。
 ルッカの予想通りだと、ここにあることが書かれているはずである。
「!!」
 その事実はやがて、ルッカを含めてたクロノたちに大きな運命の流転を引き起こす。
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【203】-31- (第九章 魔の村の人々9近海の主その...
 Double Flags  - 10/9/20(月) 21:05 -
  
「世界が狭いぞヘケラン。そして私に水を浴びさせたことを後悔させてやる」
 水に濡れたシェアは妙に色っぽかった。それはさておき、シェアの動きは守られているマールから見ても尋常では無かった。
(これがクロノの師匠……何回見てもすごい)
 ヘケランは動き出す。
 ヘケランは腕を大きく振りかぶった。手の先のツメが光る。
 瞬間的にヘケランの殺気が膨れる。
 シェアは剣でツメをさばいて、近接距離から離れようとする。

  ●うぉ〜た〜・ぼぉ〜る(青)

 眼前に体を覆うほどの水の出現。
(エレメントか!!)
 水がシェアを包む。
 とっさにヘケランは何かを手で落とした。
 みるとそれは矢。
 水に包まれるシェアはその様子を見た。
(弓矢? マールか)
 マールは離れたところから、弓を構えている。
 弓を中心に、魔法の構成が描かれる。

  ”アイスショット”

 無数の氷の矢がヘケランに向けられる。
 すでに避けるのは無理と判断したヘケランはエレメントを握る。

  ●う〜はぁ〜(緑)

 よほど強いグリッドレベルだったのか、氷の矢が風により吹き飛ばされる。
 同時にヘケランのエレメントから解放されたシェアは銃を構える。

   ダッダン

 2発の銃弾が近距離でヘケランの手を貫通する。

   クァッァァァッァァァァァァァァアアアアアア

 ヘケランは叫び、グリッドを開く。

  ●うぉ〜た〜・ぼぉ〜る(青)

 グリッドレベルの高いエレメントを使い、銃を構えたままのシェアを一瞬で包む。
 血の流れる腕を押さえると、別の気配を感じその場を離れる。
  ”王の頂(クラウン)”
 真空の刃を無数に放つクロノの一撃が飛ぶ。
 なぜかヘケランを透過する。
 ヘケランにダメージを与えられなかった代わりに、シェアを包んでいたエレメントを切り裂く。
 水の檻から解放されて、濡れた服を軽く払いシェアは銃を収め、細長い剣を抜く。

   カンッ

 音の鳴るほうを見ると、マールの弓矢をツメで払っていた。
 敵を見失わず、マールはヘケランを攻撃していた。
「残像ではないか、屈折か幻か」
 さっきのクロノの攻撃が素通りしたヘケラン。
 これは特殊能力と考えてよいだろう、すでにこのように不思議な力が追加されている敵と戦っているのでそれほど動揺もないが、これを打ち破る手を考えなければならない。
 ヘケランは肉ダンゴが転がっている様に突進する。

   ダダダダダダ

 地響きが周囲のものの足場を乱す。
 マールの矢を弾き勢いを増すヘケラン。
 シェア、クロノの脇を通り生み出した空圧で、二人の身動きをとめる。
 その時、クロノの目にヘケランの魔法の構成が見え、あの突進が魔法を隠すものだと気づくが空圧のため動けない。それはシェアも同じ。すぐに対応するために構える。
 ヘケランの魔力が動く。

  ”弾丸・うぉ〜たぁ〜が”

 水の魔法がクロノ、シェアに向けて高速で放たれる。
 クロノは刀でその一部を切り裂き、天の魔力で水の界面から強力な電気分解を起こしてその場をしのぎ、シェアはさっきと同じように空圧で魔法を切り裂いていた。
 連続で放たれる魔法の効果が切れると、クロノはすぐに動き出しヘケランを狙うがその斬撃は素通りしてしまう。

   キキキ

 少しはなれたところで金属のきしむ音。
 シェアがもう一体のヘケランの相手をしていた。
 どうも幻が、感覚を鈍らせる。
 ほんの少し前まで動いていたものが、瞬時に動かない映像と化す。
 全力で振るっているため、その反動だけが腕の中に残るというものは厳しい。
 一方で、シェアはヘケランを押していく。
 そして、

   ザッバッ

 ヘケランの指を二本斬り飛ばした。
 ヘケランの声は無い。
 そこに畳み掛けるように剣を突き出すが、シェアの反応速度をほんの一瞬越えて、叩きつける。
 地面に叩きつけられて、さらに滑る。
 大きく離れたのを確認すると、ヘケランは周囲に魔法陣を描く。慣れ様でもあり一気に何重にも魔法陣を描くと、その配置からさらに巨大な魔法陣を構成させた。

  ●ふりぃ〜ず・ふぃ〜とぉ〜(固有・青)

 白い波が襲う。
 一面を強烈な冷気によって極寒の空間による氷の粒が舞う。
 シェアは思わず、グリッドを手にエレメントで防ぎ、クロノはマールを守りつつ、雷撃で威力を減じた。

 マールはクロノに抱きかかえられるように冷気から守られた。二人は密着していたが、マールはクロノの体温の低下を強く感じた。
「クロノ」
 細く言葉を出すが、クロノは軽く笑うだけであった。
 見ると顔は真っ青、血流が悪くなっている。
 シェアさんを見ると体に霜が張り付かない様にゆっくり動く。
 クロノたちが動きを止めているのを見逃すはずはなく、ヘケランは突進を開始した。
 シェアはグリッドを握り、エレメントを使用する。

  ●ハイマッスル(赤)

 シェアの体が赤く光る。
 シェアはヘケランの動きに素早く反応して、避け、交わるところで斬りつけるが、幻。
 実体なき偶像を斬りつけたところで、ヘケランが反対方向からツメを使いはたきつける。
「くっ!!」
 辛うじてかわすが、いま地面は軽く霜がひかれ、滑りやすい。
 シェアは威力は無いが、その地面の中を技能でカバーし再びヘケランに斬りつけるが、それも幻。
 さっきのエレメントで一気に幻の数が増えたように見える。
 それを受け、クロノ、シェア、マールは防戦に近い形をとる。
 クロノは魔法の構成、発動させる。

  ”サンダガ”

 雷の中、ヘケランの一体が青のエレメントを発動。
 落雷寸前に水の壁が出来上がる。
 水は電気を表面上で流し、内部まで透過させない。
 わずかに表面に付着した埃の部分でしか、電気が流れることはなく、ヘケランは無傷。
 クロノは次の攻撃の準備をしようとした瞬間、ヘケランの突進をまともに受ける。

  ”ファイガ”

 洞窟の中心で淡い炎が、その熱気を全体に広げる。
 内壁についていた霜は一瞬で蒸発。
 ヘケランの幻も消滅。
 驚くヘケランにある塊が体当たりを掛ける。

   ガシャアアアアアン

 まともにぶつかったヘケラン。
 その間にシェアが剣を突きつけた。
 それまでヘケランはシェアの動きを見ている。
 筋肉をわずかに動かしただけで、シェアが一瞬でヘケランに止めをさせる最近距離。
 ヘケランは負けを認めざる得なかった。
 最後に現われたイレギュラーな存在。
 ルッカとロボの出現で、この勝負は決した。
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【202】-31- (第九章 魔の村の人々8近海の主)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 21:04 -
  
 現代のコルゴー大陸、ボッシュの小屋
「ふむ、なんという折れ方じゃ。
 一刀両断……というより、一刀粉砕という言葉があうじゃろう」
 ボッシュは赤い髪の少年、クロノを思い起こしていた。
 先ほど、いつものお得意先であるシェア・コンフォートの弟子という話だった。
 シェアも噂になるくらいの実力をもつ剣士であるが、あのクロノも相当の力を持っていおる。小屋の前でエレメントが暴走し、モンスター化したとき見せた剣技はなかなか完成されたものであった。あの歳であそこまで昇華しているとは、不思議な少年であった。
 彼の連れであるマールに関しても、千年祭で見たときも思ったのだが、いまどきの若者達をは顔つきが違った。
 それにしても、この時代にこのように折れるような戦いがあるとは考えもつかない。
 この国、この大陸……であるかは定かではないが、あの若者の剣をこれほどまでに破壊する力を持つ人物がいるとは。
 銘は”あおぞら”と言ったか? 以前はシェアが持っていた刀であったと思うが、それを譲ったということなのだろう。
 どれだけシェアがクロノという若者に期待しているか分かるというものだ。
 かつて、神をも殺す剣の製作に携わり、全ての力を変換させ、己の力とする剣をつくり、己の国の暴走を止めようかしていたがそれも敵わなかった。
 その後、戦いの刀匠としての役割を終えたと思っていたのだが。
 ボッシュは折れた刀”あおぞら”を作業台に置いた。
 守りの刀匠も悪くはないとこの時代に来て実感した。
 ボッシュは願う、再び戦いが起こらないことを、と。
 しかしボッシュは知らない。
 彼らが再びラヴォスと戦うことを……


 現代のコルゴー大陸、北の洞窟。
 ゼナン大陸にもどるために北の洞窟の最奥にある海の道を通るべく、クロノ、マール、シェアは颯爽と最奥にたどり着いた。
 この近海の主、ヘケランがいる開けた場所にたどり着いた。
 ヘケラン。二本の角をもち、青い巨体である海獣である。その大きさは成体で2メートル近くに達する。水系の魔法、エレメントを使用することから魔族である可能性が高いが人間の間での明確な線引きは無いためよく分かっていない。生息域は中央大陸群のクテラ大陸周辺の海域で、稀に貿易船を襲うことがあるといわれているが、実際は生活領域に人間が立ち入っているということが最近の調査から分かっている。水辺などで多く見られるが、中には海流に乗って他の中央大陸群の海岸で見られる場合もある。このことからヘケランは海中を主に生息していると言われているが、そのあたりの確認はされていない。人語も話すことから魔物と区別されている。
 そんなヘケラン。
「あれが主か? 今までに多くのヘケラン種を見たことがあるがオレほど大きな個体を見たことが無いな」
 三人の目の前に現われたヘケランは、三メートルはゆうに越えていた。
「そうなんですか? いままでヘケランをそんなに近くで見たことがないから分かりませんけど」
「そんなに大きいものなのですか」
 マールとクロノは、この個体以外は見たことが無く。ヘケランというのはこの大きさだというイメージがある。
「魔の村が近くにあるからなのか、それともあの個体が特別に大きいのかもしれないな」
 そんなことを三人が話していると、ヘケランがゆっくりと動き振り返ってきた。
「お前らがココに入ってキタニンゲンカ。
 ニンゲンとは、久しいナ。
 久しいゾ、一年近く見ていなかったカラナ」
 ヘケランは口を大きく開け、大きな牙を見せながらしゃべりかけてきた。
「その先を開けてもらいたいのだが」
 シェアが一歩前に出る。
「ふむ、それに断ったら?」
「無理にでも開けてもらうだけだ」
「ニンゲンよ。ワレハ魔のモノ。ニンゲンのルールはシラン」
 クロノが刀を構えた。
「……ワレに刃を向けるノカ、ニンゲンヨ。
 ワレは人は喰ワヌ、ユエヒトヲ捕ラエルコトハナイ。
 ガ、コノ先に進ミタイノナラ、刃をムケルノモ、シカタガない」
 その巨体から動き始める。


  ”サンダー”

 雷撃がヘケランを襲う。
 しかしヘケランは悠々と避け、湿った地面に当たる。
   がごがごがごがががが
 ヘケランの突進が空気の波を作り出しながら襲い来る。
 クロノは空気の波の幾分かを受け、壁に叩きつけられた。
「クロノっっっ」
 すぐに標的を変え、その巨体からを無視した動きをする。
 マールに狙いをつけたヘケランに、2つの間にシェアが出る。
 ヘケランは手を掲げた。

  ”うぉ〜たぁ〜・しょっと”

 水塊がヘケランの手元を離れる。
 シェアはそれに動じることなく剣を振り下げた。

  ”かまいたち”

 シェアの剣でつくられた真空の刃が水を断つ。

   バシャン

 水の塊がマールを過ぎたあたりで形を保てなくなり、破砕する。
 シェアはその瞬間、黒鞘に包まれた剣を握り、抜き出す。
 刀身が瞬時に光ったかと思うと、再び鞘にしまう。
「?? 何をシタ」
「何もないさ、ただ封じただけだ」
「??」
 ヘケランを攻撃を再開した。

  ”うぉ〜たぁ〜・しょっと”

 再び氷の塊がシェアを襲う。
 同じようにシェアは剣を振り下ろそうとするが、剣の刃のない平らなところを水の塊に押し付け、水の塊をつくっている境界を崩す。

   バシャァァアアン

 もろに水を浴びるが、勢いの無くなった水からダメージを受けることはない。
 同時に、自分の重心を変えつつ、場所を移動する。
 その場を予想したように同じ水の塊が放たれていた。さらにその後にはいくつもの塊があった。この連続攻撃のためマールを巻き込まないようにシェアは場所を移したのだ。
 自分に対するダメージを最小にしつつ、避け、斬り、突く。
 水の塊は総崩れる。
「……ニンゲンカ、オマエ」
 さすがに全て防がれるとは思ってなかったヘケランは思わず漏らした。
「世界が狭いぞヘケラン。そして私に水を浴びさせたことを後悔させてやる」
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【201】-30- (第九章 魔の村の人々7北の洞窟)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:58 -
  
 ボッシュに教えられたのは北にある山のふもとの鍾乳洞。
 先を歩くシェアの剣技は鮮やかであった。
 無駄なく歩き、立ち向かってきたモンスターを有無をいわずに斬り去っていく。
 モンスターの習性なのかあるいは、シェアから何かが出ているのかモンスターは皆シェアに向かっていく。
 モンスターの近づく速さに合わせて、その歩調を微妙にずらし間合いに入った瞬間に金属の閃光と共に斬る。
 わずか一撃で瞬時に仕留めている。
 超人的技能と能力。
 この高いレベルであるクロノの速さが嘘のようである。
 その剣技に魅入りれながら安全な道をクロノ、マールが歩きその先を歩くシェア。
 歩いていながらシェアを見るとふと違和感に気づき、クロノが声をかけた。
「師匠。その剣は?」
 クロノが指したのは、シェアの腰にある黒塗りの鞘に納められたもの。
 見た目、剣そのものであるが、シェアが先ほどから使っているのはボッシュからもらった細い長剣。脇差の剣を抜こうともしない。
「これか」
 シェアは脇差の剣を黒塗りの鞘ごと片手で取った。
 正直、剣というのは金属のかたまりである。ふつうなら早々簡単に持てるものでもないのだが、シェアは軽々と持ち上げた。平均の筋力とはまた何はずれたものをもっていることがこの様子からもうかがえるが、それを口に出したら殴られるのは目に見えているのでクロノは単純な疑問の方を先に口を出した。
「武器を待たない主義の師匠がもっているんですから」
 昔から、シェアは武器というものをもたない。
 それはシェアの流儀はそこにある物を最大限に使い、ありとあらゆるものを武器とすることにある。
 足元にある石をはじめ、森の中でモンスターの退治を行ったときは、借り物の剣であったり木の枝だったりした。物に執着しないと始め思っていたが、そうでもないらしい。なんでも、固定の武器を持つことでの何かを防いでいるのだとか。
 真偽はクロノが直接聞いても教えてくれないために不明である。
 そんな師匠が大事そうに抱えている(ように見えた)剣があれば気になるものである。
「これは東の大陸でもらったものだ。この剣があるために……。
 クロノやマールさんは知っているか? 神剣の存在を……」


 同刻同時代 ボッシュの小屋
「え! ええ〜〜〜!!!」
 小屋の中に大きな声が響き渡る。
 声を出したのは少女――ルッカである。
 親切な魔族の家でクロノたちを別れ、一つしかないゲートホルダーのためロボを呼びに行き、再び現代のメディーナ帰ってきたのである。
 メディーナに着いたルッカとロボはすぐさまボッシュの小屋に向かった。のだが、クロノたちはもぬけの殻。思わず扉を開けるとき大きな声を出してしまったルッカからすれば、その恥ずかしさを含みつつボッシュに詰め寄り、話を聞いた。
「どぉゆうことよ。説明しなさいよ」
 ぐりんぐりんとボッシュの肩をゆらす。
「や、やめてくれ〜」
 言葉に出し、ほんの少しだけルッカの手が緩んだ。
「シェアという剣士とともにゼナン大陸に向かったよ」
 と、ルッカの手が止まった。
「シェア……シェアってあの有名な剣士の」
「そう、シェア・こん……」「なんでシェア師匠がここにいるのよ」
 ボッシュの言葉をさえぎるようにルッカが言葉を出した。
 あまりの勢いで思わずボッシュの言葉も止まる。
「それは知らんよ」
「……んん」
 ボッシュの顔を見るが、それは正直に知らないという顔を見せていた。
 そこでルッカは少し考えるが、思考を変える。
「ん? 別にシェア師匠の理由は知らなくていいよね。
 ボッシュ、それで彼らは北にある洞窟に行ったの?」
「ああ、このコルゴー大陸からのゼナン大陸への連絡船は出ておらん。
 北の洞窟から海の道を通って抜ける方法をとったんじゃが」
 ボッシュは一呼吸を置いた。
「確か、ヘケランが住んでおる。あやつを通り抜けてゼナンに抜けるのは一苦労じゃろう。
 まあ、シェアがおるから心配は無いだろうがおぬしらも行くのか?」
 それは、少し考えたほうがいいということなのだろうが、ルッカはそれに反してすぐに返答した。
「ええ」
 すっとルッカを見る。
「ふむ、そうか。ならこれを持っていくが良い」
 ゆっくりを何かを考えるように目を動かし、戸棚の引き出しから何かを取り出した。
 それをルッカに手を出させゆっくりを握らせる。ルッカに渡されたのは『エレメント』である。
 幾つかの『エレメント』がルッカの手のひらで見えている。
「これは」
 受け取ったルッカは、なぜこのようなものをと問うように聞いた。
 経験の浅いルッカにはそれがどれほどの『エレメント』であるか判断は出来ないが、そもそも『エレメント』自体早々見られるものではないことぐらい分かっている。
「彼らに渡そうと思っていたものだよ。彼らには世話になったからな、餞別と思ってくれていい」
「??」
「亜人の少女から渡されたものといえば分かってもらえるじゃろう」
 おそらくはここでクロノたちがやった何かであろうことに関係しているのだろう、ルッカは考えるのをやめ、にこりとしたボッシュから素直に受け取った。
「ええ、ありがとうボッシュさっきは失礼したわ」

 車両モードに変形したロボと共に北の洞窟の中を進むルッカ。
「ルッカサン、シェアサンハタシカ、ルッカサンの銃の師匠デシタネ」
 ガタガタと揺れるロボの車体上にしがみ付きながらその質問に答えた。
「ええ、私の銃の師匠であると共にクロノの剣の師匠でもあるわ。 おそらく現在にて単独においては最強といえるし、黒髪の英雄と呼ばれるぐらいの人。
 数年前にトルースの町にやってきて気まぐれに私たちに武器の使い方を教えてくれたのよ」
「ズイブンスゴイ人ナノデスネ。イゼンニ、お会いしたトキハ、ソノヨウナ感じはシマセンデシタ」
「ええ、師匠がこの話を人前でするの嫌がるからね」
「ソウナノデスカ」

   クォォォォォォォォォンンン

 奇妙な鳴き声が洞窟中に響き渡る。
「鳴き声??」
 そこへ緊急を告げるロボの声がする。
「ルッカサン、気をつけてください。冷風が近づいてきます」
 ロボが言葉に出した瞬間、目に白い波がこっちに向かってくるのがうつった。
  ”ファイア”
 瞬時に使い慣れた簡単な構成を紡ぎ、魔力を発動させる。
 赤い炎が冷風の進行を曲げる。だがわずかに冷風の方が強く暖風となって押し返される。
「くっ」
 生ぬるい程度の風であったため無事ルッカとロボはその場に留まった。

   フィユユユユユユュュュ

 さらに洞窟内で音が響きあい、奇妙な音を作り出していた。
「ダイジョウブデスカ? ルッカサン」
「何なの今の?」

   ガシャン ガシャン カシャン

 ルッカが周りを見ると、洞窟内の氷柱が少し大きくなっており、幾つかが落下する。
「魔法?」
「いえ、少し魔法とは違う波動パターンデス。おそらくエレメントなのでしょう」
「自然環境に関係しているとスペッキオが言っていたけど、影響範囲が広すぎるわ」
「クロノサンたちは大丈夫でショウカ?」
「シェア師匠がいるから心配はないと思うけど、進むわよロボ」
「ワカシマシタ」
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【200】:-29- (第九章 魔の村の人々6師匠)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:56 -
  
 時代は現代、ボッシュの小屋。
 ボッシュの小屋の前で、『エレメント』を倒したクロノとマール、そしてクロノが師匠と呼ぶ三人と、小屋の入り口に居た老人――ボッシュとウサギに近い黒い羽の生えた亜人の少女が小屋の中にいる。
 さすがに、小屋の中に五人は窮屈に感じられる。
 そこに一人頭を下げ続けている者がいる。
「すみません。ありがとうございました。ありがとうございましたぁ」
 擬ウサギの亜人に頭を下げられクロノとマールは、あまりの必死さにまごついていた。
 クロノは普段人に頭を下げられるということに、慣れていないしマールの場合はこれほど真摯に頭を下げられるという場面に遭遇したことは少ない。
 それより何より、二人にとって亜人というのは珍しい種族であり、千年祭でもチラッとしか見たことが無いため、少々好奇の目が入ってしまっているといこともある。
「それよりターニィ怪我は無いか?」
 師匠の一言に顔を上げるウサギの亜人の少女。
「あ、はいぃっ!」
「それは良かった」
「いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけしまして」
 形がけでなく心からそういっているように聞こえ、クロノ、マールは好印象を持つような言葉であった。
「それよりあの『エレメント』の出自を調べておいてくれ」
 ターニィと呼ばれた擬ウサギの亜人の肩に手をかけやさしく言う。ほほが少し赤くなりながからもターニィはうなずく。
「よろしく頼むよ」
「わかりました、超特急でやってきますよぉ」
 ターニィは家の主人であるボッシュに挨拶もそこそこ、飛び出していった。
 大きな音を立てて扉を開け閉めする様子に、老人はいやな顔をするでもなく見ていた。おそらく彼女がこの部屋を出るときはいつもあのような感じなのだろう。
 その目は微笑ましいものを見るようでもあった。その目ががらりと変わり、何かを思い出すようにクロノたちを見る。
「お主たちは確か……千年祭におった」
「クロノです」「マールです」
「おお、確かあの時はそこのお嬢ちゃんがなにやら困っておったようだが無事、解決したのかね」
「ええ、だいたいは……」
 と、言葉を濁すマール。
 と言うのも、ボッシュとは千年祭でマールがこの千年祭初日に戻っていることについて何か知っているかの知れないと相談したのだが、相談されたボッシュには自分達のように『前の周』の記憶が無く途方にくれていたことがあった。あれだけ必死に説明したのがから顔を覚えられても不思議ではない、途中『前の周』と同じくペンダントについても聞かれたし、印象としてはばっちりだったかもしれない。
「何だ、クロノはボッシュさんを知り合いなのか?」
「ええ、ちょっと」
 やはり言葉を濁すクロノ。どうも、師匠を前にするとなんともいい難い気分になる。緊張が走ると言うのだろうか? マールはクロノの微妙な雰囲気を感じ取りあまりクロノを刺激しないようにと内心考えていた。
「ほう、シェアさんと知り合いなのかい?」
「まあな、このクロノには数年間生きる術を教えたことがある」
「い、生きる術……ですか」
 なんだか大きな言葉で表現された言葉に、意味が分からないマールであったがクロノにとっては相当ダメージを与えられたらしく動きがかくかくとなっている、ように見えた。
「まあ、ほんの少し剣術を指南しただけだよ、マールディア様」
 言葉の後半をボッシュには聞こえない程度の声で発し、一瞬でマールを石化させる。
 と、マールは記憶を引き出していた。
 実のところ、マールはシェアというクロノの師匠とは『前の周』で出会っているのである。
 中世の時代に南ゼナン大陸の中央に鎮座する巨大な砂漠をロボと中世にすむフィオナがよみがえられせた巨大な森。この周ではまだ砂漠であるがその中に建てられた神殿に行くとき、森で迷ったクロノたちとであったのが彼女である。
 なぜかそのとき師匠さんは弓術の訓練をしていたが、あの時危うくカエルが射抜かれそうになっていたのであった。
 その後にもガルディアでヤクラ親子の登場で苦戦を強いられた私たちの前に現われたこともあった。ガルディアの名家であるシェアの親族がヤクラによって不遇の死を受けたことにあるという出来事もあった。
 そのときに彼女にはマールの家柄はバレていはいるのだが……。
「なぜここにいるのかわかりませんが、おとなしく城へ帰ったほうがいいですよ」
 シェアはそうつぶやいた。
 その言葉から、シェアがわたし達と同じように『前の周』記憶があるという可能性が少なくなった。
 もし『前の周』のことを知っているのであれば、マールがガルディア王と喧嘩して家出していることやクロノたちと共に何の旅をしているのか知っているはずであったからである、とマールは考えた。
 シェアに対して苦笑いを返すしかない。
 それを乾いた笑いで返すシェア。
「そうそう、クロノ聞いたぞ? 何でも捕まっていたそうではないのか。よく無事だったな」
 振られたクロノはやっと硬直が解けたところであるタイミングで来た。
「ええ、執行猶予というやつですよ」
 言葉では平気を装っているが言葉尻がかすんでいる。
「ほお、それでなんだお前達はこの魔族の大陸にいるんだ?」
「それは……」
 言葉に詰まってしまう。
 というのも、ゼナン大陸とこの魔族の大陸であるコルゴー大陸とには連絡船が存在していないのだ。
「ちょっとチョラスに行ったついでにクロノに無理を行って寄ってもらったんですよ」
 すかさずマールが助けにはいる。
 それに事実、このコルゴー大陸とチョラスのあるクテラ大陸には連絡船が通ってる。
 チョラスのあるクテラ大陸はこの中央大陸群でもっとも商業の発達した大陸であり、多くの地域と貿易が行われている。というのもクテラ大陸周辺の海流の流れが他の場所よりゆるやかであることが大きな理由である。かつて、ゼナン大陸とコルゴー大陸との間にも連絡船をつなぐ計画があったのだが、両大陸の住民と海流がひどく強いため海流を上手く越えられるような船を建造することが難しく、安定した航海できずまたその必要性が無かったために、いつの間にか計画が頓挫されてしまったのだ。現在ではパレポリあたりでは、海流を越すことが出来る船も建造可能であるが、その必要性の無さから再びその計画が前に出ることがなくなっているのである。
「ふ〜ん、マールさんがね」
 ニヤニヤとしている師匠に居心地がさらに悪くなるクロノ。
「と、ところで師匠さんはなぜここに?」
「師匠さんと言うのはやめてくれよ。私は確かにクロノの師匠かもしれないが、君の師匠ではないんだ。
 気軽にシェアと呼んでくれればいいよ。
 で、ここに来た理由なんだが、出来の悪いお弟子様がなにやら捕まったらしいから。
 しかも裁判のお相手があの悪名高いガルディアの大臣と言う話ではないか、これは今回を逃したらもう二度と顔を崇められなくなるってことでやってきた訳だな」
 なんとなく、クロノを脅している雰囲気があるのは、無事であるクロノを喜んでいると同時になにやら言わんとしたいことがあるのであろう。
 今この場には他人であるわたしがいるからあまり言うことが出来ないのであろう。
 それが逆に師匠の印象を悪くしているように思える。
「というは建前で」
 ほっ、息をつくクロノ。
「実際は、さっきの『エレメント』だよ」
「『エレメント』?って」
 対先ほどまでスペッキオから出てきたあたらしい言葉がすぐに現代で聞くのは不思議に雰囲気がある、そんなことを考えながらおもわずつぶやいてしまったマール。
「そうか、確かに『エレメント』はゼナン大陸ではあまり聞かない言葉だな。
 まあ、簡単に言うとこの大自然のエネルギーが蓄積された物体といったところかな」
 そういってシェアは服の間からエレメントを取り出す。
「ゼナンでも、火を生み出したり夜の電灯などに応用されている」
「えっ、あれも全部エレメントなんですか!」
「まあ、全部とは言えないが大体はエレメントが使われているな」
 スペッキオから現代でも応用されているとは聞いていたが、まさかそんなところまで使われていることに驚くマール。
「その便利な便利なエレメントが最近、この中央大陸で暴走したりモンスター化したりして事件になっているんだ」
「? 聞いたことがないよ」
「聞いたことないのは、しょうがない事だよ」
 シェアはまるで世間話をするように口調を変えた。
「事件と言ってもチョラスといった中央の東の方の話だ。西に位置するガルディアまで届かない可能性があるし、ほんの二回ほどしか起こっていない。
 もともと『エレメント』が暴走、モンスター化するのは、東や西の大陸はよく起こっていたが中央大陸群の中では聞いたことが無い。
 その調査もかねてここにいるんだ」
「そんなんですか」
 と、一呼吸置いてマールが言葉を口にした。
「そんなこと話してもいいんですか? 話を聞くと大陸レベルでの話じゃないですか」
「まあね。でも、君たちなら何か知っているのかと思ってな」
「!」
 不注意にも二人は反応してしまう。
 『前の周』でも勘のいい人であったことを念頭に置くべくであったと感じた。
「まあ、あまり勘繰りを入れるのはよくないことだと思っているが、最近私の回りが物騒で、ほとほと困り果てていたところなんだよ」
「物騒なことですか?」
「まあ、最近損な役回りが悪くてな」
 シェアは遠く、別の空間を見ていた。
 こんなときに虚空を見られても困るのだが、この人は。
「それでこれからどうするんだ? ゼナンに戻るのか?」
「ええ、そのつもりです」
「なるほど、それでボッシュに会いに来たのか。道を尋ねるために」
「そうなんです」
「だそうだ、ボッシュ」
 それまで黙っていたこの小屋の主である老人――ボッシュに声をかけると、黒眼鏡をゆっくり動かした。
 いつみても温和な印象を受けるボッシュである。
 この人がまた現代になじんだ雰囲気とまだ何か別の雰囲気をまとう、長い人生を歩んできたものがもつ独特の雰囲気を出しているのは、彼が先にあったガッシュやハッシュと共に古代の三賢者と呼ばれ、古代より現代に飛ばされてきたことが少なくともうかがえる。
 そんなボッシュは歳を感じさせない軽い口調で話した。
「ふむ、客というわけではないのは残念だが、久々の人間じゃからのお。
 祭りでの縁もあることだし、すこし荒っぽいがゼナン大陸に向かう手っ取り早い方法を教えよう」
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【199】-28- (第九章 魔の村の人々5異国の来訪者)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:54 -
  
 中世ガルディア城 客人向けの一室
 黒髪の少女は、少女はベッド揺すっていた。
「お……起きなさい」
 ベッドに寝ている別の少女は、くぅくぅと寝息を立てている。
「もう少し寝かしてあげたほうがよろしいのでは?」
 この部屋の清掃などを行う女性が言ってくるが少女はそれを断る。
「いいえ、これほど立派な部屋。
 それはこの国でよほど主要な地であることが考えられます。
 これ以上長居することは出来ません」
 そういった少女。
 ほんのすこし前にこの隣のベットで目が覚め、そのとき清掃していた彼女から自分たちが誰かに助けられ、眠っていたことを知ったばかりである。
 女性から見れは多少は混乱しているだろうと考えてしまう。
「私たちは気にしませんよ」
 やんわりとやさしくいう。
「ですが、聞けばここ数日とはいえこの場所を占領した挙句、海岸を打ち上げられたところを助けられるという、感謝しきれない恩人に挨拶をしなければいけません」
 ゆっくりと、丁寧な言葉遣いで話す少女。
 長髪の少女は、一般の同年代よりはしっかりしていることがうかがえた。
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。
 ガルディア国王様やリーネ様はとてもお優しいですから」
「? 今なんと?」
「え? 今急がなくても言いと」
「いえ、その後です」
「? ガルディア国王様とリーネ様ですか?」
「!! 王様と言うことはここはガルディア城内ですか!?」
「ええ、まあ」
 突然声を高くされ、言葉にどもる女性。
 少女はすこし固まり、状況を把握するために頭を回転させた。
「……」
「あ、あの」
 女性が突然固まった少女を気に声をかけるが反応はない。
 それでも心配でずっと見ていたら、突然動いた。
「ならなおさら!
 早く起きなさいスティア!!」
 思わず怒鳴ってしまった。それでもスティアと呼ばれた少女は起きない。
  コンコンコン
 早い音で三回ノックされると、軽い木の扉が開いた。
「どうしたんだ!?」
 一人の兵士が入ってきたのだ。
 おそらく
 少女の声が大きかったために、良くは聞こえなかったが何事かと入ってきたのだろう。
「いえ、ちょっと……」
 女性が言おうとするが、少女たちが薄着なのに気づいて兵士の身体の向きをムリヤリ変えた。
「ここは私に任せて持ち場に戻りなさい」
「だが……」
「言い訳無用ですよ、新人兵士さん」
 新人兵士。
 戦争が激化する中で、ガルディア王国は苦肉の策として徴兵を行っていた。
 力のある青年、あるいは働き盛りの青年、少年たちは、有志ではあるがガルディアの兵士として国の前線で戦うことが、義務ではないが公然となされ始めてきた。
 そのため、ガルディア城内では、騎士団の兵士より現在は町などの有志の兵士、新人兵士が多くなっていた。
 彼らに、訓練をつませると同時に城内の見回りを行わせていた。
 もちろん、ヤクラの件があってから魔物や魔族が人間の姿をしていると言うことも考えられるので、素性が分からないものは前線へ行かされたりしている。
 また、王族に関しては騎士団が直属に守っているのが現状である、そのため王様はともかくリーネ様を見たことがない兵士も多々いるのも確かである。
 そのような背景もあり、城内では特にイベントらしいイベントもおきず、刺激や変化に敏感な新人兵士たちは、ちょっとした変化(今回の場合は大声)でも、ノックの後、確認せずに突然部屋に入り込むことがしばしばあった。
 城内ではそれほど大きなことは起きないはずだが、初めて持ち場を任されたり、魔物たちの恐怖になれていない新人兵士はこのように空回りをしてしまうのである。それを昔から城内で働いている侍女たちからすれば、確かに刺激はあるが仕事の邪魔になったりと苦労をしているのであった。
 新人兵士を部屋の外に追い出すと、その騒ぎでベッドに居た少女がやっと起き出す。
「んんんうんん」
 半身を起こし、眼を擦り現状を把握。
 自分の身なりを半分眼が閉じた状態で行い、自分できゅっと頬をつねる。
 その行為を一通り行うと、首を振り辺りを見た。
「ルア姉さんおはようございます」
 おはようございます、といいつつ部屋の窓からはもう陽が高く昇りきりおり始めている。
「ふう、やっと起きたわね」
「はい。
 姉さん、ごめん。わたしの……」
「気にしないでいいわ。船が落ちのは、あなただけのせいじゃない。
 わたしの状況判断のミスとあの嵐が非常に大きかったこと。
 でも助かったんだからいいじゃない」
「……」
 ルアと呼ばれた少女は、女性に向き直った。
「あの、私たちの持ち物は……」
「ちゃんとあるわよ」
 女性はゆっくりとした歩きでベッドの端の方へ行き、タンスから彼女たちの持ち物を出した。
「とりあえず、拾えるものは拾ってきたわ。
 失礼と思ったけどこんなご時勢だから中身を拝見しちゃったけど……」
「そのへんは構いません。助けていただいただけでも十分ですから」
「この書状。ここの文字じゃないみたいだから読めなかったけど、すごいわね。海の水にあてられても消えないどころか、にじまないなんて」
「ええ、それはロウによって特殊に書かれた物ですから」
「ロウ?」
「はい」
「ところであなた達は、いったいどこから来たの?」
 ベッドに寝ていた少女が答える。
「わたし達はここから西に位置するエスト大陸からとある命のために来ました」
「エストから来たんですか。
 たしか戦争が始まってから、交易が止まってしまったのでとく内情はわからないのですが、なぜ今? 私たちの手を助けてくれるのですか」
 気体を込めて女性が言うが、あまりその感じはしない。
「わたし達は種族間の戦争には手を貸しません。
 それが私たちエストの民が長い間築きあげてきた歴史ですから、わたし達はある目的のためにここに来ました」
「そう、それであなた達の目的とは」
「それは……」
 ルアはいいよどむが、スティアが代わりに続けた。
「四精霊教会からの命で中央大陸に伝わる聖剣グランドリオンの封印あるいは破壊です」
 女性は目を丸くした。
「グランドリオンの、破壊?」
「はい、詳しくは述べられませんが、そのためにはるばる西の大陸からここに来ました。
 このことで相談したく、中央大陸の覇者ガルディア王国の王に会いたく……」
  ガシっ
 ルアは女性に肩をつかまれた。
「?」
「急ぐのですか? 急いだほうが?」
「え、ええ、早いほうが……」
「分かりました。特別に王に謁見することを許しましょう」
「?」「?」
「すぐに用意しますから、あなた達も身なりを整えておきなさい」
 女性の突然の物腰の変化にとまどうルア。
「あ、あの、そんなに早く会うことが出来るのでしょうか?」
 現在は戦乱の中である。
 戦時に重要な、それこそ西の大陸が全面協力してくれるという話ならば、これほど早くの謁見も可能であろうが、ことがことである。
 正直ルアは、数日はかかると考えていた。
 それがこれほどまでに早く、しかも直接王に意見を通さず決定してしまうこの女性。
 いったい何者?
「あなたはいったい……」
「申し遅れました。ガルディア王国の王妃リーネです。今後ともお見知りおきを……」
 女性、リーネは恭しく、綺麗に挨拶を述べると部屋から出て行った。
 その様子を見て、ルアはものすごい国であると感じた。

「ありがとうございました」
 謁見の間にて、ルアとスティアは深々と頭を下げた。
 再び顔を上げると、かわらずガルディア王とリーネ王妃がいた。
 リーネ王妃は、さっきまで来ていた服装とは違い、青白いドレスを着ていた。気品溢れる物腰でこちらをにこやかに見てる。ガルディア王はここ少しの間戦況が変化したこともあってか少しやつれ気味である。それでも一国の王をしての重責をもつ威圧感が出ていた。
「以前、ガルディアは異国の者に救われた経緯があるゆえ、異国のものに対しては礼を持って接しておるだけ」
「そうなのですか」
 ルアは手ごたえを感じていた。
 この国は現在戦争中である。
 最悪、間者と間違われる恐れもあった。
 そのため出立時にはそれらしきものはすべて置いていった。怪しいと言ったら先ほどみせた書状であろう。
 ルアは続けた。
「わたし達は西の大陸エスタットから来たのですが、私たちの同胞が建てたマノリア修道院。
 修道院が悪用されたという話を聞いたのですが」
 ガルディア王は責めるべきところを先に言われてしまい、しばし思考した。
 その思考が終わらないうちにルアは続ける。
「わたし達はそのマノリア修道院の取り壊しを提言します」
「……真か?」
「はい、本山の方からの達しでもあります。
 本来、聖の主体となるべき修道院が悪しき物に利用され、その地に住むものに迷惑をかけたのであるならば、わたし達四精霊教の教義に反します。
 取り壊していただきたい。
 もちろん、四精霊教からも補助はします」
「そうか。
 しかし、そなたらも分かっての通り現在戦争中でな、緊急避難の地としてあの場所は使われておる。
 早急にというのは無理な話だ。
「分かりました。
 ならば戦争後ということでお願いします」
「覚えておこう」
「それにわたし達もあまり、城の迷惑をかけるのはまずいかと思うので、そこで寝泊りさせてよろしいですか?」
「それほど迷惑と言うわけではないのですけど」
 とリーネ。
「わたし達はあまり一つのところに寝泊りしていると、兵の士気にも関わるかと思うます」
「そうか? まあ、許可をしておこう。
 自由に修道院は使って良いぞ」
「ありがとうございます。
 そしてもう一つおねがいが……」
「……グランドリオンのことだな」
「はい」
「ねにゆえグランドリオンを?」
「それは数ヶ月前のことです。
 わたし達が所属する四精霊教会と言うエスタット最大の教会で定例の神議があります。
 そこで行われた占術によって、グランドリオンがいずれ悪しき力により滅びをもたらすという結果がでたのです」
「せんじゅつ?」
「いわば占いのようなものです」
「しかし、聖剣と名のついたグランドリオンが悪しき力持つというのか。信じられん」
「わたし達はその原因を探るために、そして探った後の対処として危険とみなせば封印、あるいは破壊を行うためにきました」
「原因を探るか。二人には残念ながら帰ってもらうしかあるまい」
「! どういうことですか?
 それは協力してくれないと?」
「そうではない。
 現在グランドリオンの行方が分かっておらん。
 数年前にグランドリオンの使い手はたしかにこのガルディアにおった。
 しかしそれも消息不明、もっていたグランドリオンとともにだ。
 それゆえ、情報があまりないのだ」
「大丈夫です。
 そのあたりは調査済みです。
 わたし達はグランドリオンを探し出し、占術が正しいのかどうか確かめるためにここに来たのです。
 グランドリオンはこの中央大陸では聖剣とよばれるもの。
 そうは破壊という選択肢は取りません」
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【198】-27- (第九章 魔の村の人々4魔女その二)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:53 -
  
  風の洞窟。
 グランドリオンの刃を手に入れたカエルはその場でクレフォースという魔女から『エレメント』についての講義を乾いた地面の上で聴いていた。
 クレフォース、茶色の長髪を束ね、カエルを上回る長身、鋭いブルーアイ整ったら体型に、バックパック。身軽な格好であるがこれが彼女がいたるところで奇跡を起こし、何十年も生きていると知っていなかったら、魅力的な女性であっただろう。
(まあ、性格にも難ありだが)
 そんな視線に気づいたのかクレフォースのするどい眼がカエルを睨みつける。
「なんだ」
 裏声で脅すように、まためんどくさそうに発する言葉はすこし念がこもっているようにも感じられる。
 カエルは特に何もないといい、クレフォースは講義を続けた。
 その言い草からは、知らなくても知っていてもどうせどうせそう代わらないだろうということが暗に言われている様でもあった。
 何でも元々クレフォースは、エレメントについて教えるためにカエルを探していたのだと言う。
 このグランドリオンのある風の洞窟で二人が出会ったのはほとんど偶然だと言う話だ。
 クレフォースは講義が終わると、グランドリオンの刃を投げ渡した。
 それを斬らないように上手く受け取るカエル。
 もう慣れたことなので、「何をするんだ!」ということもいうつもりはなかった。
「それで、一体何が起きているんだ。こんなものは前はなかったぞ?」
 カエルは宙に浮かんだグリッドとエレメントを見る。
 まだ数えるほどしかグリッドの穴は開いていない。
 幾つかはクレフォースが選別としてもらっているが、まだ何か物足りない形はしている。
「それが歴史の改変の結果だ、といっていた依頼者の少年は」
「いいのか依頼者は明かさないんじゃなかったのか?」
「依頼が終わったからいいんだよ」
「そうなのか?」
(それにしても、少年か)
 カエルはマノリア修道院で出合った少年のことを思い出していた。
 恐らく同一人物だろう。
(名を確かフツヌシだったか)
「それで私はそいつに依頼されてお前を探していた。
 そのなかでお前らが何をやったのかも知っている」
「すべてを?」
「まあ、人から聞いた伝聞だ。どこまでが本当か私には判断が難しいがな」
「じゃあ、今オレがここにいる理由は……」
「まあ、伝聞の中で私がお前にいえることはそんなにない」
「……なぜだ?」
「それは私が関わるべき問題ではないからだ。
 私は本当はこの時期に君たちの前に現われることはない、そういう歴史だったはずだ。
 お前と私の関わり合いは、もっと前の時間に始まり終わっているはずだった。
 それに私もこの時期にゼナン大陸に寄るつもりはなかった。
 何らかの作用、この場合は少年であるがそれによってこの歴史は複雑になっている。
 これ以上複雑になれば、解決できるものも解決できなくなる。
 全ての始まりはなんだったのか?
 そんなことを気にしていては、この先の解決方法が見つからないんだよ。
 今を生きるものからすればね。
 問題なのは、時間と次元。空間と平面。
 世界はある一定の率で進んでいる」
「?」
 あまり理解してそうにないカエルの顔を見てため息をついた。
「簡単に言うと、一度起きた世界はその率が流れる。
 お前のように時間を跳躍するものに干渉されない限りは常に一定に保とうとしている。
 そして、お前達のようなものがいれば歴史は意外にも簡単に変わる。
 変わった事で様々な影響が現われる。
 しかし、歴史はその影響を最小限にするため、僅かな変化を作り出し、大きな変化を起こらないようにしている。
 あるときは記憶をかえ、あるときは物質をかえ、あるときは現象を変えてな。
 簡単に言うと星はその辻褄合せを行っているに過ぎないのだ」
「? ……」
「まだわからないようだな」
 クレフォースは手元から同じ型の十本のナイフを取り出した。
「例えばここに十本の同じ種類のナイフを突き刺す。
 そこでお前は歴史を登っていき、このうちの五本をとりお前はここに戻っておく。
 するとここには十五本のナイフが存在するわけだ。
 そして、お前が持ってきたナイフをそのままにここのナイフの内の五本を違う型のナイフにする。
 するとどうなる?」
「???」
「答えは簡単、歴史はお前が今もっている型のナイフを持ち出したことになる。
 違う型はそのままこの地面に埋まっているんだ。
 そこでお前は考える。
 抜き出したときは、無造作に取り出していた五本が全て同じ型のナイフである確率は100だ。
 しかし、今ではすべて同じ型である確率は50だ。
 だが、お前が同じ型のナイフを取る確率は100になる。
 なぜだか分かるか?」
「??」
 さらに混乱を極めるカエルに追い討ちをかけるようにクレフォースは説明を続ける。
「その歴史の矛盾を、歴史が書き換えているからだよ。
 お前の記憶の中では確かに全部同じ型のナイフだったかもしれない。
 しかし、実際は半分は違う型のナイフだ。
 ここでの矛盾を解消するために歴史はほんのすこし変化を起こす。
 例えば、途中の時代でこの半分のナイフの価値が上がり、誰かが盗んでいってしまったとか、嵐が起こり違う型だけが埋まってしまったとか、同じ型のナイフが取りやすい位置にまるでそれを取らんとするように置かれていたりとか。
 最後に、君の記憶違いだと言う思い過ごしを頭の中で書き換えられるわけだ」
「記憶を書き換えるだと?」
「考えられないことではないだろう? 世界のバランスを取るためにはそれはほんの小さな変化だ。
 誰が気にするでもないような、でも重要な違いだ。
 ふふ。
 まだ混乱しているな。
 答えはゆっくり探せ、私のような長く生きた人間は少しうがった見方をしてしまうかなら。
 自分ひとりで抱え込むことでもないからな、仲間にでも相談してみるといい。
 きっとその答えがこの世界で起きていることだと理解して欲しい。
 まあ、あくまでも私の見解だがな。
 カエルよ」
「なんだ」
 まだ、混乱と理解しようと考える中でせめぎあっているカエル。
「私はここで去るが言っておくことが一つある。
 この後、王が倒れ橋が襲撃され、お前はバッヂをタータ少年に渡す必要がある」
「そんなことまで知っているのか」
「大体はな、言っておくことは時間のバランスを崩さないことだ」
 カエルが何かを言い返そうとするが、クレフォースはそのままグレンの風に乗り洞窟から去ってしまった。
「時間のバランスを崩すな、か」
「でも、マスターはちゃんとやっていると思うよ。
 責められることはもう償ったはずさ」
 聖剣グランドリオンの精霊であるグランは姿を現しカエルに声をかけてきた。
 先ほどまでカエルがクレフォースに講義をしている間黙って聞いていたためにその存在を端の方に避けていた。
 ふわりと少年の姿でグランとリオンが姿を見せる。
「そうか?」
(こういうのは悩んでいてもしょうがないのよ。前を見て進むしかないんだから)
「「ドリーンねえちゃんん」」
「姉さん?」
 聞こえてきた第三の声。
 しかしその姿は見えず、ただただ声だけが残る。
 そしてその声に覚えがあった。
「エンハーサに居たドリーンか」
(覚えててくれてありがとうね。
 やっとグランとリオンのマスターに共鳴できたよ)
「今度は姉ちゃんもついてくるの?」
(ええ、そのつもりよ。
 カエル君が私の媒体を持っている限りはね)
「媒体?」
 考えるが、ドリーンの媒体となるものはもっていない。
 グランとリオンと姉弟と言うことだから、あの赤い石と同じもので出来ているものだろうと予想できるが、今のカエルには思う付かない。
(あなたが持っている『金の石』よ)
 言われてカエルは金の石を取り出した。
 すると目の前にグランとリオンに近い姿が現われる。
「フリーランサーから得た金の石か……」
 確かにこのデナドロ山で唯一挑んできたフリーランサーが落としたものである。
「何気なく持っていたが」
 確か前の周でも金の石を得たんだっけ。

 カエルはかつて、前の世界でサイラスの墓に行った後、しっかりと自分のケジメをつけるために新生グランドリオンと共に、デナドロ山を訪れた。
 そのときにもフリーランサーが襲ってきて、そこで受け取ったのだ。

(それでこれからどうするのカエル君?)
 ドリーンにいわれてしばし考えたカエル。
「タータにこのバッヂを渡すところからはじめようと思う」
(そう、じゃあグラン)
「何? ドリーン姉ちゃん」
(カエル君を山の麓まで風で送って)
「分かった」
 二つ返事でグランは風を起こし、その風はカエルを包み山の上に上昇し、ふんわりと麓まで降り立った。
 その間ほんの数秒。
 グランが調整しているためか、それほど気持ち悪くはならない。
 しかし、景色がいいとはいえ急激に高所から降り立つのはあまり体には良くはない。
 視覚的問題だ。
 いつもの通りカエルは降り立ったその場でうずくまり、自分の感覚を元に戻す。


 同刻 中世ガルディア城。
 さらに言うなら客人向けの寝室である。
 今は魔王軍と戦争中であるため、このガルディアに旅の客人が訪れることは少なく幾つかの部屋が使われずに残っている。
 その一室にはベッドが二つ、その一つのベッドには少女が静かな寝息を立ている。
 少女は半分以上が毛布に包まれているためによく分からないが、このガルディア王国ではめずらしい黒髪の少女であった。その黒髪は単髪で、簡単に結んでいた。寝ているためかまだ幼さの残る顔つき、まだ十代半ばといったところか。そんな顔の中はそれなりの歴史があるらしく、薄くだが傷跡が見られる。
 もうひとつのベッドで寝ていた主はすでに起き上がり、今寝ている少女を起こそうとしていた。これも黒髪の少女ではあるが、寝ている少女がすこし成長した感が見られる顔つき。すこしきつい印象をもたれるであろう細い顔に黒瞳。まだ寝起きらしく、髪の毛はぼさぼさであるが、長髪が上手く落ちている。その髪を直さずに少女はベッド揺すっていた。
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【197】-26- (第九章 魔の村の人々3魔女)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:45 -
  
 デナドロ山の風の洞窟近く。
 風が強く、まるでここに来るものを拒むようにも感じられる。
 その中で寄ってこなかったモンスターに打って変わって、ただ一匹。
 フリーランサーが襲いかかってきた。
 カエルはそれをやすやすと退け、グランドリオンのかけらのある風の洞窟の中に入っていった。
 わずかな光、それは神秘的な空間を作り出していた。固く湿った地面、太陽の光が最も集まる場所にそれはあった。
 それに近づくカエルの中に一つの疑問が浮かんだ。
 誰も止めてこないのである。
 いつもならグランとリオンが駆け寄って止めてくるはずなのに。
 カエルは周囲の気配を探った。
 ……。
 しかし、二人の気配は、ない。
「!」
 代わりにこの小さな洞窟全体に広がる奇妙な気配に気づいた。
 体が震えた。
 何者かがそこにあるという気配。
 別に戦う気も、探る気もない。
 ただあるだけの気配、その気配、カエルはどこかで感じたことがあった。
「私だ、醜きカエルよ」
 カエルは掴んでいたシャインブレードから手を離した。
「おっと、安心するのはまだ早いぞ。グレン・コンフォート」
「……何の様だ魔女」
 姿の見えない相手に向かいカエルに話しかける。
「少しな、借りを返さなくちゃいけないくてな」
「オレの呪いを解けなかった借りか?」
「私は解く情報を与えたはずだ。お前の対価ではそれしか出来ないよ」
「それなら何の様だ」
「試練だよ。私が考えた課題をこなすだけの話だ」
「? 納得できないが内容は」
「私と戦うことだよ」
「………」
 カエルは洞窟の入り口を見ると人影が見えた。
 カエルが魔女と呼んだ女――クレフォース・ムートン。
 かつてゼナン大陸に現われ、いくつもの奇跡を起こしたと言われている女性。魔王軍の出現と共にその姿を消し、魔王軍によって殺されたとさえ噂された。
 しかし実際、彼女は世界中を旅していたため、期間が経ちゼナンの地を去ったに過ぎなかったのだ。カエルはこの姿になって偶然彼女を見つけ出し、呪いを解く方法を聞いたが魔王を倒さなければならないと教えられる。
 その後聞いた対価としてたまに面倒なことを押し付けられることあった。そのことからカエルから魔女と呼ばれている。

  シュッ

 突然クレフォースからナイフが投げられ、カエルの足元に突き刺さる。
「……上手くよけたね」
「ふざけるなよ、一体誰がお前に俺を鍛えろっていうんだ」
「ふっ」
 不適に笑うクレフォース。
「依頼者のことは明かせないよ。
 それに私がそんなふざけたことを言うなんて一度もなかっただろ」
「……」
 カエルは苦い顔をした。
 何回もこき使われていたことを思い出し、たしかに彼女はふざけた事をいうことはなかった。
 いや、普通に考えたらふざけたことかもしれないが本人はまじめに言っているからたちが悪いのだ。
 彼女の気配が見える。
 こうなることは予想は付いていた。
(覚悟か)

 クレフォースは実際何も考えていなかった。
 今のカエルの実力を知るということで、簡単に戦うという選択をしたまでだ。
 現在、カエルの手にあるのは銘は知らないが、相当な魔力を秘めている剣だという。
 油断は出来ない。まあ、はじめからするつもりはないが。
 両手甲にそれなりの硬度のある金属。両足には別の金属が仕込んであるコンバットブーツ。
 女性の体には十分に重いはずだが、もう何年の前からこの装備で世界を歩いてきたクレフォースにとっては慣れたものである。
 クレフォースの考えでは、とりあえず体術のみで相手をしなければならないと考えていた。
 実力の程では自分を倒せるまでいけるか、少し分からない。
 依頼者からは自由にしていいといわれていたが、それはそれで困ったものである。


 カエルの斬撃はすべて手甲によって軌道をずらされ、焦りを感じていた。
 世界中を旅して手に入れたと思われる体力。
 一向に疲れが見られない。
 ついには強い脚力を持って攻撃され始めている。
 何か靴に仕込んであるのか、一発一発が重い。
 剣の間合いを取ることも出来ない。
 カエルの足が崩れる。
 しかし、カエルは自分の体制が崩れるのを利用した。
 不意に下がった大勢でクレフォースの隙を作る。

(ジャンプ斬り)

 下から、カエル自身の持つ脚力で斬り上げる。
 その攻撃にクレフォースは反応が遅れてしまい、斬られる。
 体が上下に交差し、カエルはクレフォースを飛び越え着地。
 すぐに振り返る。
 クレフォースは斬られた腕を押さえた。
 深くはない、十分に避けられたものでもあった。
 だからといって、浅くはなかった。
「まあ、よくやったといったところか」
 クレフォースはニヤリと顔を向けた。
「避けられたはずだ、が」
 構えをとかず、クレフォースを見るカエル。
「確かに避けられたかもしれないな。
 でもそれでは試練にならないだろう?」
 と言いつつ、クレフォースの額から汗がひたりと流れる。
(限界だったのか?)
「では第二の試練だ」

 簡単なことである。
 クレフォースはそう思っていた。
 相手の実力とこれから与える力の弱点を知らせればいい話だ。
 実体験として。
 としたものの、どのような試練にするか悩んでいたのは事実。
 とりあえず戦ってみてから考えるか、というは、実際行動をしてから考えるという自分の旅の信念に近いものがあると今さら思う。
 ずいぶん行き当たりばったりではあるが、この性格なかなか直らないものであると考えながら、クレフォースは小さく口を動かした。

(呪文か)
 カエルは身構え、自分の魔力を掴む。

  ●ヒール

 クレフォースの傷が瞬時に消えた。
(魔法の構成も見られなかった? 魔力の流れは少し違ったようだが)
 クレフォースは何が起きているかわからないカエルを見て眼を細くした。
 カエルは身震えを感じ、足に力を入れ、剣を握る。
 クレフォースに向かい突進をし、一閃。
 しかし、その目の前に白い光が被さる。
 足が地面から離れる。
 カエルがそれに気づいたときには、冷たい風の衝撃が全身を打ち付ける。
 引きずられるような形で、数メイトル飛ばされる。
 カエルがその風の範囲から避け、体勢を立て直すと同じ風が向かってきた。
(魔法ではないが、魔力を感じる。詠唱がないから異国の兵器か)
 二発目の風も避けながら、冷静に分析する。
 そして、その兵器の特性を見極めようとしていた。
 クレフォースもカエルが、この力を待っていることに気づき、動きを止めた。
 カエルが次の手を考えようとしたとき、クレフォースはカエルに急接近してきた。
「くっ」
 バランスの悪い中、カエルはクレフォースが放つわざに防御にはいる。

  ●踵落とし

  ダンッ

 クレフォースの放った蹴りは地面を打ち付ける、弱い地面は簡単にえぐれた。
 危険と判断したカエルは持ち前の脚力でその攻撃そのものを避けていたのだ。
 カエルはすぐに剣を動かす。
「破!」
 魔力を練りこんだ剣により、周囲の圧力を巻き込んだ大きな流れを作り出す。
 クレフォースは手甲を前に出し、同時に発動。

  ●プロテクト・フォール

 クレフォースの発動した何かがカエルの魔力を霧散させる。
 それを見たカエルは、クレフォースが魔力を使った何かを行っていることに気づく。
 少し間をとりカエルは考えながら、クレフォースの様子を見る。
 体力の消耗も、疲労も見られない。
 顔に出ないだけかとさっきは思っていたが、どうも動きが鋭くなってきている気がする。
 そこにクレフォースから魔力の流れが見えた。

  ●ヒート

 力を持ったな何かが、湿った空間であるこの洞窟が一気に乾く。

  クアォォォォオォンン

 ファイガに近い熱風がカエルを襲う。

(もし防げなければ終わりだな)
 そうクレフォースは考えていた。
 依頼者から明示されたのは、『エレメント』の使い方。
 今や一般技術に取り込まれつつあつ、この『エレメント』と言う技術。
 それをカエルが実戦で使えるようになる程度というなんともあやふやな形で言われていた。
 それを言われてクレフォースが一番初めに浮かんだのは、『エレメント』の有効性はどこにあるかというものであることと、ついでに未知の力に対する対処法である。
 『エレメント』というのは、魔法に比べて詠唱時間が少なく、使用する魔力もそれほど多くないなどの利点がある。
 だが、与えられた力をただ使っているだけではその不利な点が見えにくくなる。
 本当の実戦それを知ってからでは遅すぎる。
 だから、カエルには実体験としてエレメントの利点と不利な点の二つを示そうとしていた。
(まあ、どうやって知らしめるかを考えたのはついさっきだが……)
 しかも、カエルの場合はグランドリオンとか言う聖剣を手に入れる前と時間制限があったため急いでここまで来たのだ。
 はじめこの風の洞窟に入った時も急いでいたため奇妙な空気を作り出してしまっていた。
 ここまでしなければならないと面倒だと思いつつ、受けた借りは返さなければならないのがこの世界である。
(だが、自分の身を滅ぼすほどの借りを作ったもの。
 それに対する世界のバランスがいま崩れようとしているの事実である。
 世界の理の、いや自分の種族の理をもつ自分としてはなんとも苦しいものだろうか)
 クレフォースは思考をやめ、次のエレメントを手に持つ。
「何を掴んだ?」
(カエルの声!)
 気配に向けて放つ。

  ●ウィンド

 ヒートの熱気残る中、それを巻き込んで風を作り出す。
(避けたか)
 手ごたえがなかった。
 その姿を見失い、全方位へのエレメントを発動させる。

  ●ヘルプラント

 『エレメント』の力に答え、そこから放たれる魔力が形作る。
 巨大な植物の口が洞窟全体の生物を呑み込もうとした。
 そこに、魔力を含んだ斬撃がそれ自体、巨大な植物を消した。

 エレメントで作り上げられた植物が消え、クレフォースは手をあげた。
「私の負けだカエル」
 突き立てられたのは、剣。
 幾つか打開の策は浮かんだが、クレフォースはそれを全部消し去った。
 それを見たカエルは、何を言うでもなく剣を鞘に収めた。
「この魔力で破壊できる、その力は何だ?」
「これが君に与える次の力だ。ステップアップおめでとう」
「次の力?」
「そうだ。私が本気で使えば君の魔力で防御できないのは今のカエルなら分かるだろう?」
 確かに。
 魔法が使えるようになり、魔力の流れが見えるようになったカエルから見れば、この魔女がどれほどの魔力を持っているのか感じられる。
 しかしどこか引っかかる。
「何を知っているんだ魔女よ」
「大抵のことは分かっている。
 なんせ、私たちの一族は知識を集めるために世界を旅しているのだからな」
 カエルはこれで、この世界の謎がすこし明らかになるかもしれないということが浮かんだが、この魔女にやられたいままでのことを考えると容易な話ではない。
 あるいは、さらに複雑な事態が待っていることを予感せざるえなかった。
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【196】-25- (第九章  魔の村の人々2魔族と魔物)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:40 -
  
 時は少しさかのぼりA.D.600。
 ヤクラ戦後、一人中世に残ったカエルはデナドロ山に登っていた。
 グランドリオンを復活させるためにその刀身を求めていたために登っていたのだ。
 カエルは思いのほか順調に登っていた。魔物が多いデナドロ山でも威圧でなかなか出てこず、ほとんど襲ってこなかった。
「これは思ったより早く着きそうだな」
 一人つぶやき、カエルは思い出していた。
 かつてサイラスと共にこの山を登り、グランとリオンの試練をサイラスが受けたことを。


 青色の鋼のよろいを取り付け、その間から見られる鍛えられた筋肉。その重たい筋肉を感じさせない速さでグランに近づき、剣で叩きつけた。
 すでに目を回し倒れたリオン、そしてグラン。そう時間が経たないうちにグランドリオンを守る精霊が倒された。
「さすがだなサイラス」
 緑色の髪が特徴的な青年――グレンは、グランドリオンの精霊を倒した男――サイラスに激励を飛ばした。
「ああ、ひとまずはな」
 まだサイラスの表情は厳しい。
 グレンもその様子に気になり、ふとさっき倒れていた精霊が浮かび上がるのを見た。
「本当にすごいな。僕たちを本気にさせたのは久しぶりだよ」
「なっ!」
 驚きに声を上げるグレン。
「まだまだグランドリオンの試練は終わっていないようだな」
 サイラスは再び剣を構えた。
「君の名前は?」
 精霊の一人、リオンが声をかけてきた。
「サイラスだ」
「サイラスか、サイラス」
「ならサイラス。今度は僕たちも本気で行くからね」
「分かった」
「あはは、こんなにもあっさり負けたのは本当に久しぶりだからな」
「今回はどうなんだろうね、兄ちゃん」
 精霊はそれぞれの距離をとった。
「勇気のグランに――」
「――知恵のリオン!」
「「コンフュージョン」」
 二人の姿が重なり、光を放つ。
 その光量のため、目を閉じる。
 再び目を開けるとそこに現われたのは黄緑色の巨人。
 巨大な筋肉の団子といった形の体形に、力を象徴するような角をもつ巨人であった。


 思い起こしているうちのカエルは山頂にたどり着いていた。
 後は下っていき、風の洞窟へ行けばグランドリオンの元へたどり着けるはずだ。
 そして山頂にはいつもどおりマモが一人座っていた。
「よう」
 カエルは何気なく声をかけていた。
 マモは振り返りもせず一言。
「山はいいよね」
「ああ、確かに山はいいな」
「いいんだよねこれが」
「あんたはずっとここにいるのか?」
 なんとなくカエルは聞いてみた。
「そんなことないモ。
 マモは自由に旅をして、自由に山に登っていいるモ。
 マモ一族はそうやって生きてきたモ」
「同族には会うのか」
「年に一回会えばいいほうダモ」
「寂しくはないのか?」
「そんなことはないモ、昔はそうでもなかったけど、マモたちもう何百年も一人で旅をして、一人で一生を過ごしてきたモ。
 それはマモ一族でなくても、ほとんどの魔物はそうだモ。
 一緒に生きているのは、生きている場所が一緒だからだモ。
 いわゆる共生という奴だモ。
 だからマモのような旅の魔物はいつも一人が当たり前だモ。
 お前、おかしな事いうモ。
 そんなこと聞くなんてまるで人間みたいな事いうモ」
「人間みたいか・・・あはは」
「人間みたなにおいだけどちょっと違う。亜人どもとも微妙に臭いが違う。
 魔力を見ても魔物に近い奴なのに」
 マモは崖から起き上がり、カエルをじっと見た。
「それともお山の大将みたいに、魔物と魔族に人間の格好をさせている奴なのかモ」
「お山の大将?」
「この辺でお山の大将って言ったら奴しかいないモ。
 ヤクラの奴だモ。
 マモ一族には及ばないけど、少しの知恵と力があるからこの辺で威張り散らしていた馬鹿な奴も。
 あまつさえ人間に退治されるなんて大バカだモ。
 お前も誰かにつくときは、マモのような立派な奴につくモ。
 あんな馬鹿につくとろくな事がないモ」
(ふ〜〜ん、人間から見れば魔物も魔族もあまり変わらないように見えても、人間と同じ長い時間を過ごしてきたのだ。
 社会の形成がなされてもおかしくないか)
 少し魔物と魔族に興味が湧いたカエルはマモに次の質問をぶつけた。
「魔物と魔族は何が違うんだ?」
「・・・お前そんなことも知らないのか?
 全く最近の新種や若い魔物は一体何を学んでいるモ。
 あとで長寿会にしっかり言っておく必要があるモ」
「長寿会?」
「今のお前には関係ない話モ。
 そんなことより、マモが少し教授してやるからそこに座るモ」
 言われてカエルはその場に腰を下ろす。
 山頂近くといってもこのあたりは余り人も獣も通らないため、草のじゅうたんとなってカエルを包む。
「まずはお前が魔物だって言うことはわかっているモ?」
「あ、ああ」
 生返事をしたカエルを睨みつけるマモ。
「分からないって言う顔をしているモ」
「・・・・・・」
「まあいいも。
 これから説明するから、しかと聞くが言いモ。
 返事は!」
「はい」
 しぶしぶと声を上げるカエル。
「まず魔物だモ。
 魔物はすっとすっと昔から住んでいる種族のことだモ。
 人間や龍人よりももっともっと昔から、この星の自然のちから中で進化してきたものモ」
「龍人」
 聞きなれない言葉に思わずつぶやく。
「お前そんなことも知らないのか。
 龍人はここからもっともっと東、極東と呼ばれるところに住んでいる種族だモ。
 人間より少し前に出てきたヤツらが長い年月の中、自らは進化したとか言って龍人とか言っている世間知らずな奴モ。
 あいつらは、先祖が人間に助けられたからといって、大地のおきてに従い人間の住む世界には干渉しないと決めた奴だモ」
(なるほど、確かに前のときはマールが僅かな恐竜人を助けたのだったな。それが恐竜人の進化を呼び、龍人となったわけか)
「あんな偏屈な奴らはどうでもいいも、今は魔物の話だモ・
 魔物の中には、知能が高いマモのような種族もいれば知能が低い種族もいるモ。
 一般にこの人のはびこっている世界では、知能の低く人間を襲うものが魔物と呼ばれているモ」
「なるほど、でもそれはオレが魔物だっていう話にはならないぞ」
「そうだけど、これから話す、魔族の話がここに通じてくるわけなんだモ。
 魔族って言うのは、いわば人間の亜種だモ」
「!!」
「ふん、驚いているのかモ?」
「確かに共通点があるけど……」
 カエルの頭の中にはその事実はすんなり入っていかなかった。
「人間っていうのは、自然に感化されやすくひ弱な生き物だモ。
 天から魔法が降ってきたときに、その力に耐えられなかった人間が魔物化した人間が今では魔族と呼ばれているモ」
「人が魔物化……」
「姿や形が人に近いものが魔族といわれているけど、実際は違うモ。
 魔族は人間の機能の一部が以上発達したものモ。
 多くは魔法の力を得たりしている奴がいるけど、肉体的、体術などが強くなったものがいるモ。それが今の魔族の種族に関係しているモ」
「天から魔法が降ってきたというが……」
「マモたちはそれを魔素と読んでいるモ」
(魔素……、ラヴォスのことだな)
「遥か遥か昔、天より降った隕石が魔法の力を落とし、それを浴びた人間が魔族へ。
 魔物はさらに強力な生物へ、恐竜人は龍人へと進化していったものモ」
「他にも亜人というものがいるけど、あれはエレメントの影響で人間が魔族化したものモ。
 実際の人間とあんまり変わらないけど、少数だから稀にマモたちの世界に来ることがあるモ。
 まあ、亜人は世界に広まっていないからそんなに見ることは余りないモ」
(亜人か、確かにゼナンではあまり見ないな)
「勉強になったか?」
「ああ、色々と、ありがとう」
(ふむ、つまり自然に発生してきたものが人間、恐竜人、魔物。
 ラヴォスが降ってきたことにより、人間が魔族に、恐竜人が龍人になった。
 そして、エレメントによって、人間が亜人になった……のか?
 ? エレメントとは?)
「そうか、それは良かったモ。これをもっていくといいモ」
 マモはスコップをカエルに渡した。
「それはマモ一族の交友の証として渡すものモ。
 ありがたく受け取っておくモ」
 そのスコップはマモの手に合わせた小さいものであった。
「それを見せれば世界中のマモ一族がお前達に手を貸してくれるモ。
 それに地面を掘ることが出来る優れものだモ」
「? なぜ、このスコップを」
「マモはずっと一人で旅をしてきたモ。
 その中でなかなか他の魔物と話す機会が少ないモ。
 こんなに長くマモの話を交流場(コミュニティ)の場以外で聞いてくれたのは久しぶりだモ。
 ありがたく受けとるモ」
「有難く受け取っておくモ」
「堅苦しい奴モ。
 もっと気軽に生きて行くも」
「出来れば、そうなりたいものだが」
「本当に人間みたいな奴も、でもお前見たいな奴が人間だったら、この大陸はどんなに住みやすいことになるモ」
「はは」
 軽い笑い。
 この姿だからこそ、グランドリオンだけでなく手に入れられるものがあるか……。
「じゃあな」
 カエルは腰を上げ、立ち上がる。
「また来るモ」
 そしてしばしの休息は終わった。
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【195】-24- (第九章  魔の村の人々1邂逅)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:39 -
  
「知っている。僕じゃ君を倒せない」
「同時にオレもお前を倒せない。
 『相克』
 それがお前らがオレに与えた呪い」
「でも、それは……」
「それで再び時間を繰り返そうというのか? 彼らに再び悪夢を見せようというのだな」
「………」
「オレは、オレはのやり方で変えてみせる。この世界を、自分の運命を」
「………それは……」
「邪魔をしたければ、邪魔をするがいい。思う存分に、彼らを使ってな。
 お前……お前達がオレ達にやったことをオレは赦せない」
「………」
「黙っているんだったら消えろ!!」
「…………………………………………また来るよ」
 少年は消えた。
 いつものように、もう何回も見た光景。
 いつものようにあの少年の後ろを追ってしまう。
 自分は少年に止めて欲しかったのだろうか。
 それはもう何回も考えた。
 でも自分の中の復讐は終わっていない。
「もう、あの頃の自分には戻れないんだ。過ぎた時間は戻せない」


 現代 メディーナ村


  グオォン

 民家のタンスから三人が飛び出してきた。クロノ、ルッカ、マールである。
「おおお、お兄ちゃん。タンスから人間が出てきたよ」
「全く、人様の家に無断で入ってくるとは礼儀を知らない奴だな」
 この家の主らしい魔族二人の言葉を聞いてマールはつぶやいた。
「また言われちゃったね」
「しかたないさ」
「さあ、二人とも離れて」
 ルッカは再びゲートホルダーを取り出し、起動させた。
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
「二人は先にボッシュの家に行ってて、魔族さんたち、ごめんねまた来るけど」
  グオォン
 タンスを開け、ルッカはロボを連れてくるために時空の壁を越えた。
「すごいね、最近の人間は消えたり現われたりできるんだ」
「人間もずいぶん忙(せわ)しなくなったものだな」
 感心している魔族の兄弟をよそにクロノとマールは外に出ようとする。
「ちょっと待つんだ」
「え、ええ?」
 二人は呼び止められ、思わず立ち止まる。
「ここがどこだか分かっているのか」
「メディーナ村だろ」
「そう、このメディーナ村は、魔族の村。
 400年前、人間との戦いに負けた魔族の子孫によってつくられた村だ。この村に住む魔族のほとんどは人間に対して憎しみを抱いている。
 気をつけな。
 西の山の洞窟の近くに、ちょっと変わった人間のおじいさんが住んでいるんだ。きっと兄ちゃん達の力になってくれるよ」
 クロノとマールは顔を見合わせた。
「教えてくれて、ありがとう!
 でも…… なぜ私達に親切にしてくれるの? 魔族は人間を憎んでいるのでしょう?」
 マールの言葉に魔族は、静かに答えた。
「人間と魔族が戦ったのは400年も昔の事だ。いつまでも過去に囚われていても仕方がない。
 まあ、私達のような考えを持った魔族はほとんどいないが……」
 その魔族の目には、今の魔族たちを哀れんでいるようでもあった。


 メディーナの村を出たクロノとマールは石の敷き詰められた街道を行く。
「前はただの草原に獣道っぽかったのに」
「……歴史が変わっているということなんだろうな。
 なにかメディーナの村との交易があるのかもしれない」
 その街道をしばらく歩いていくとボッシュの家が見えてきた。
「前より早くついたね」
「これもあの街道のおかげなんだろうな」
  キィィィィィイイ
 高い金属音が響く。
 二人は体を強張らせた。
「今のは……?」
 知っているわけではなかったが、マールを見る。
「早く行こうクロノ」
 二人は音の近く、ボッシュの小屋へ駆け出した。

 近づくと2つの何かの戦闘が行われていた。
 一つは巨大な目玉を持った緑色の巨人。大きさはボッシュの小屋ほどの大きさもある。
 緑の巨人が動くたびに、近くの木の葉が散る。さらには木の葉は地面に落ちる前に茶色に変色する。
 二人はさらに近づくいていくと、そこでは一人の人物が戦っていた。
 その姿が確認された後、クロノはすぐにカタナの柄を持つ。
「師匠!」
 先に一気に駆け抜けるクロノを援護するようにマールは瞬時に補助魔法の構成を行った。

  ”ヘイスト”

 クロノの体が濃い赤に包まれる。一気に加速する。
 そのタイミングを計ったように、師匠と呼ばれた人物は後ろへと下がる。

  ”流々舞”

 クロノの抜刀によって、巨人の片腕を切り落とす。
 巨人はバランスを失いかけるが、すぐに足を出し蹴り上げてきた。
 わざの直後でクロノは巨人の足にまともにぶつかる。
 クロノが師匠と呼んだ人物のさらに後方へととばされ、背を一回打ち付けられ、地面に転がり回転しながら止まった。
 クロノはすぐに体勢を立て直し、緑の巨人を見る。その姿はすでにもとのまま、斬り取られた片腕が生えていた。
「なっ!」
 片腕がいきなり生えた緑の巨人に、再びクロノはカタナを握る。
 そんなところで師匠と呼んだ人物がクロノに声をかけてきた。
「久しいなクロノ」
「お久しぶりです師匠。ですが、この状況は一体なんなのですか」
「油断していた」
 師匠が見せたのは右手にある折れた剣を見せた。
「まさか、観賞用の剣がこれほどまで脆いとは」
「あれを使ったんですか?」
 クロノの記憶の中に、ボッシュの小屋にてボッシュのいつも立っている場所にの後ろに飾ってあった剣を思い出した。
 観賞用であったために見栄えはよく、持ちやすいがどこか実戦で使ったら脆い感じが見えていたのだ。
「?」
「それよりなんでそんな折れた剣をいつまでも持っているんですか?」
 言われ師匠は自分の折れた剣を見る。
「これか? これにはこれの使い方があるんだ」
 師匠はマールを見て、
「マール、援護はいい。
 ボッシュとタァーー、亜人を守ってくれ」
 名前を呼ばれたマールは驚きながらも、すぐにボッシュの小屋をみてそこにいる二人、ボッシュと亜人の二人を見つけマールは二人に駆け寄り声をかけた。
 それを確認すると、再びのろのろと動く緑の巨人に向き直る師匠。
「師匠、これは一体?」
 この事態の説明を求めたがクロノは制止された。
「話も何も後にしろ、この『エレメント』を倒す。さっきのようにあいつを切り刻め」
「『エレメント』って」
「話は後だっていただろ?」
 やさしく言い返されクロノは剣を構え、師匠の前に出た。
 場所を代わりクロノが緑の巨人に対峙する。
 そのクロノに対して緑の巨人は大きな腕を振り下げた。
 クロノは飛び上がり、直撃を防ぐが、風と突然出現した葉っぱに弾き飛ばされてしまう。
 吹き飛ばされながらも体をひねり、地面に着地。攻撃対象を自分に向けさせるためにクロノはグリッドを開き、白のエレメントを発動させる。

  ●レーザー(白)

 高圧縮された光が一直線に放たれる。

  クアォォォォオォォォオオオオン

 光は緑の巨人におなかに穴を開けた。
 巨人の注意がこっちに向く。
 クロノは加速している体で素早く巨人の下にもぐりこみカタナで一閃した。
 しかし途中でクロノのカタナは止まる。
 緑の巨人から吹き出した葉っぱによって止められてしまう。
  ザザザザザ
 その葉っぱは巨人の体から放出される。クロノはたじろぐが、カタナを持ち直しわざを放つ。
  ”回転斬り”
  バササササササササ
 葉が割れるように斬られていく。
「もう大丈夫だ」
 その声と共にクロノの視界に影が映る。
 クロノはわざを止め、体についた葉っぱを払いながら巨人と距離をとるように後ろに下がる。
  ガガガ
 奇妙な鳴き声が響くと、巨人の巨大な目玉にさっきまで師匠が持っていた折れた剣が突き刺さっていた。
 口のない巨人がうななき、それでも巨人は倒れない。とくに目玉が弱点というわけではないらしかった。
 師匠はそれでもにやりと笑い、手元が強く光る。

  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)

 師匠は連続して青く見える氷を緑の巨人にぶつけ、凍らせていく。
 緑の巨人が半身凍ったところで、師匠は巨大な銃口を持つウェポンを手に持ち弾丸を放った。

  ズダン

  パアァァァァァァァァンンン

 近距離での弾丸は緑の巨人の氷の残骸を撒き散らした。
 あたりが冷たい空気と風につつまれていく。
 緑の巨人の半身は、その後薄くなり消えていった。
 師匠の手から光が消えた。
「師匠」
 クロノが師匠に走りよる。
「助かったよ。クロノ」
「今のは一体?」
 さっきの質問を再び行う。
「エレメントという物質がモンスター化した姿さ。
 見る限り魔族、魔物に似た姿をしているが全く別の不思議な生命体。
 最近になってこの中央大陸の東側で見られるようになった新種の生命体さ」
「エレメントのモンスター?」
 寄ってきたマールがつぶやいた。
「ああ、東の大陸じゃよく見られる生命体なんだが……」
「なんでそんな遠い所の生物がここまで来ているのか」
「さあ? この大陸でははじめて見たからな、原因はよく分かっていないんだ。
 ところで、なんでこの魔族の大陸にお前達が?」
「そ、それは……」
「? まあいい、話は後でゆっくり聞こうか」
 師匠に促されるようにボッシュの小屋に入っていった。
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【194】-23- (第八章 時の最果てE現代へ)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:33 -
  
 星砂の男はタマゴを取り出す。
 そのタマゴは、以前見たクロノ・トリガー、時の卵とは少し違っていた模様であった。
 そして数を数え始めた。
「……4……3……2……1…0」
 麻袋が一瞬光る。
「何をしたの??」
「マール!!」
「もう出してもいいぞ」
 いわれて麻袋の中から手を取り出す。
 出した手には何も無かった。
「一体、マールに何をした」
「ふん、お嬢さんには何もしていないさ。何かをしたというならその中に入っている”星砂”だ」
「?? 星砂に…」
「あんたらの時間のエンコード、いわゆる時間軸、場所、並行次元などいくつかの次元の座標、っつってもわかるか?」
「ええ、なんとか」「ハイ」
 メンバーのインテリ、ルッカとロボが肯く。
「それをこのデコード・エッグ、またの名をクロノ・リペア、時の修復によってこの”星砂”に刻み込んだ。
 これによってお前達の言う『前の周』の記憶を持たないものに、『前の周』の記憶を【思い出させる】ことができる」
「へっ」
「”星の砂”はこの星からはみ出たものだ、そしてこのときの最果て、この部屋に来るまでに、様々な時空間を通ってきた。
 ゆえに、様々な時空間の記憶が凝縮されているということだ。それにこのデコード・エッグで少し細工すれば、相手にあんたらがかつて過ごしてきたときの時間平面の記憶が、あんたらの経験した時間に合わせて掘り起こすことができる。
 いや、重ね合わせるといったほうがよいのか。話しを聞くと、今のあんたらは2つの記憶。『前の周』と『今の周』の記憶があるという。相手にもそれと同じ状態が生まれるということだ」
「じゃあ、この”星砂”を大陸中にばら撒けば」
「んなことしたら、大陸中大混乱でしょ」
「それもあるが、星のバランスが崩れる。
 もともと”星砂”は余分なエネルギーの塊、あまり使うな。
 それと…」
 再び星砂の男はクロノに小さなものを投げた。
 受け取るクロノが見ると、それは、
「砂時計?」
「それはオレ様が作った特別性の物だ。それをひっくり返して全て落ちていくところまで見せれば、さっきの”星砂”の効力はなくなる。
 もちろん”星砂”は回収できないが、流れ出た”星砂”はやがて再びここにたどり着くから気にしなくてもいいぞ。
 最終的にこの空間に戻ってくれば、星のバランスを崩さなくて済むからな」
「ありがとう」
「ふん、言われることのほどではない」
 そういいながら、黒いローブで隠れた男の口が少しにやけているようにみえる。
「どうやら、あんたらがしっかりしていないと、この星も危ういらしいからな」
「星砂さんは何か知っているの?」
「知らんよ。さっき、あんたらから聞いた話以外はな
 ほらさっさと行け、”星砂”が無くなったらまた来るがいい」
 再び礼を言って、クロノたちはこの星砂の部屋を去った。

 そして、星砂の男一人。
 砂の落ちる音だけの世界。
 星砂の男は作業に戻る。
「運命と因果か、皮肉なものだ」
 自らでた言葉を振り払い、再び”星砂”を紡ぎ始めた。


「どうじゃった」
 部屋の中央にいた老人――ハッシュは、時の最果ての二階部分から帰ってきた彼らを迎えた。
「ええ、貴重なものが手に入ったわ」
 満足そうに、眼鏡をかけた勝気そうな少女――ルッカは言った。
「それにしても、あの男は一体何なの? 『前の周』にはいなかったわよ」
 あの男というのは、砂に包まれていた階段の上の部屋にいた星砂の男と名乗る人物のことである。
「あいつはしばらく前にここに流れ着いてな。いつになっても元の時代に戻る気が起きないようだから仕事を与えてここに住まわしているのじゃよ」
「彼はここから出れないといっていたが?」
 と、赤い髪と腰脇につけた刀が特徴的な少年――クロノが疑問調に言った。
「それはあやつでは『タイムゲート』を開くことが出来ないからじゃよ。
 まあ、正確にはゲートを安定できないだけなんじゃが」
「じゃあ、このゲートホルダー(改)を使えば彼を元の時代に……」
「ふぉっふぉっふぉ、それでもあいつは戻らんじゃろう。
 あやつの時代ゲートが閉じているということもあるが、戻ろうとする意志が見られん。それだとまたここへ戻ってきてしまうだろうからのう。
 元の時代で何があったか知らんが、星砂の作業をするのはわしにはちと辛い、あやつにはまだまだやってもらわんといまはまずい。
 まあ、頃合いをみて適当な時代に送り出すわい、気にせんでいい」
「ソウデスカというと、奥に部屋にいるヒトたちも同じナノデスカ」
「?」
 老人は誰のことを言っているのか分からず、少し黙ったのち、口にした。
「ああ、あいつらのことか。あれはちょっと事情が違うあいつらは便利屋みたいなものじゃ」
「はあ」
「まあ、あいつらのことはあまり気にするな。
 それよりその砂は大事に使いことじゃ、世界は微妙なバランスを保っているのだからのお」
「そうなんだ、注意してつかうわ、ありがとうハッシュさん」
 笑顔でハッシュ老人に言った少女――マール。
「じゃあそろそろ行くわね」
「この先、何が起こるかわからん。知っている物語だからといって油断せんことじゃ」
「わかっています、ありがとうハッシュ」
「それじゃあそろそろ行くね」
「ああ、気をつけるのじゃ」
「アリガトウゴザイマシタ」
 クロノは老人ハッシュに礼をすると、マールたちの後を追いかけた。

 三人と一体が消えた後、老人ハッシュは再び眠りに付こうかと思ったところ。梯子から、カランカラン、と音を立てて何かが落ちてくる。
 目を開け、老人ハッシュは見る。
 手のひらに乗る小さなものは、さっき星砂の男が持っていたデコード・エッグであった。
「全く乱暴に扱ってからに」
 これはもともと自分が作り、先ほど星砂の男に貸したものだ。
 無論、少しの衝撃では壊れんが、万が一ということもある。
 ほんの少し冷や冷やした。
 老人ハッシュは卵を手に取り、今からやるべきことを思い出した。
 迷子の少年を元の世界に送ることだった。
 老人ハッシュはスペッキオの部屋を開けた。
「おい、ヌゥマモンジャーはいるか?」
 そこにいたのは青い野カエルであった。
「んん? あいつら寝てるぞ」
 ヌゥマモンジャーの部屋とスペッキオの部屋は出入り口とは別に、ちょっとした通路で繋がっている。
「じゃあ、さっさと起こせ。少年を元の世界に戻すぞ」
「少年? 少年ってこのボーズか?」
 ひょっこりとスペッキオの後ろから少年が現われる。
「こいつすごいぞ。すごい魔法の才能を思っている。さっきのにーちゃんたちよりもだ」
「にーちゃんって、あの赤いツンツンした頭の? 確か、クロノ、マール、ルッカ、ロボだっけ?」
「ほら、記憶力もいい、将来、かなり化けるぞ」
「ほう、それはそれは楽しみじゃ。さてさて、元の時代に戻るぞ」
 老人ハッシュは少年に近づく。
「僕、英雄になれるかな?」
「英雄?」
「そう、昔魔王軍を倒したっていう英雄と同じ英雄に」
「ああ、慣れるとも。さあ、スペッキオよ。ヌゥマモンジャーを起こすのじゃ」
「おう」

 中央の部屋に、ハッシュ、スペッキオ、マモ、ヌウ、少年が集まる。
「さあヌゥマモンジャーよ、この子を無事送り届けるのじゃ」
「全く、魔物使いの荒いジジイダモ」
「そんなんだなぁ〜」
「つべこべ言うな」
 老人ハッシュはデコード・エッグを発動させる。
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
 すると、少年を中心としてゲートが広がる。
 もともとデコード・エッグはもののエンコードを読み取り、その時代へ飛ぶためのゲートを開く道具である。
 もちろん、エンコードはそれぞれ別々であるから、開けるゲートも一種類のみであったため、クロノたちにはあまり意味がなさないものであった。
 して、老人ハッシュは少年に一言。
「もう会うことは無いだろうが、元気でな」
「おじいちゃんもね」
  グオォン
 ゲートともに少年とヌゥマモンジャー、そしてスペッキオは消える。
「さて」
 老人ハッシュは再びいつもと同じ定位置に戻った。
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【193】-22- (第八章 時の最果てD星砂)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:31 -
  
 話を聞き終えた星砂の男はうなる。
「世界を救うね。あのバケモノ(ラヴォス)を倒したお前らなら可能かもしれないな。
 それに、お前らの話からすれば『前の周』にはこの部屋は無かったというのだからな」
「この砂だらけのこの部屋、一体何なの?」
「さっきもいったがこの砂は”星砂”……オレは何年も…何十年もここで過ごしてきた、ように感じている。この砂とともに。
 実際はどうかは分からないけどな。なんせ、この時の最果ては普通と時の流れが違う。それもこの空間の特性というもの」
「この空間の特性?」
「この空間の時の流れが違うということ。あえて言うなら、普通の空間と朝に食事を摂る時間が同じだとする」
 一息ついて、星砂の男は続けた。
「五時間後に昼食を摂るとすると、あんたらの時間は、……そうだな現代という時間の中ではしっかり五時間後であるが、この時の最果てでは三時間ぐらいしか経過していない、お前らがおやつでも食っている時間にやっとこっちは昼食を摂るという具合に、ずれが生じているわけだ」
 クロノとマールはイマイチ理解していないが、ルッカは簡単にまとめた。
「時間の進み方が違うってこと?」
「まあ、そういうことだな、ここに流れている時間も、他の空間の時間も一律ではあるが、二つは重なることも交差することも無い。
 ゆえにここは時の最果て、どこの時間とも交わらない最も果てにある場所なわけだ。
 まあ二周目? っていうのか? 
 それを経験しているあんたらならこのぐらい聞いたり、理解しているだろう?」
「いや、ぜんぜん」
 マールが答え、クロノも首を横に振る。
 なんとか理解しようとしているルッカ。
「ツマリハ、ワタシタチノ過ゴシタ『前の周』の時ノ最果テと、コノ二周目ノ時ノ最果テは全く同ジモノデアル、というのデスカ?」
「まあ、可能性の問題だ。お前らの『前の周』の時の最果てではここは無かったというのだから、俺がここに落とされる前で、下のジジイがここを作る必要がなかった時なのだろうな。
 その一方で、もしかすると『前の周』とは違う時間平面の時の最果ての可能性もあるということだ」
「?」「?」
「でも、もし『前の周』の時の最果てと二周目の時の最果てが同じだとすると、いろいろな矛盾が起きる気がするのだけど」
「そう、そして、ここからが本題だ。
 時間が変化することにより生じる矛盾、それを解決させるのがこの”星砂”だ」
 星砂の男は一握りの砂、星砂を掴んだ。
 パラパラと砂を落としてく。
「この”星砂”は、星の力を利用した純粋なエネルギーだ」
「星の力? 星の力って、魔法のこと?」
「近い存在ではある、ただし魔法のような物理的現象として現われる超常現象の類ではなく、これは純粋なエネルギーの塊だ」
「これが全て星のエネルギー?」
 マールは両手一杯に砂をもつ。
 じっくり見るが、特に黄金に輝くわけでもなく、光を放つわけでもない。
 普通の砂より、ただ細かいようにも見える。
 ただ、ただ、細かい粒。
 そこからは魔力も、力も感じない。
「でもこれは一体」
「”星砂”は外から持ち込まれるエネルギーが、星の限界を超えない程度に取り出し、その余分なエネルギーを星が自らのエネルギーに変換し物質化させ、安定化させたもの。
 余分なエネルギーはその分だけ、星を痛まさせる。人間でいう、肥満体質になるってことだな。余分なエネルギーを安定な状態にするためにこの”星砂”という形を取ってバランスを保っているわけだ」
「外から持ち込まれるエネルギー?」
「そう、星は様々なエネルギーが外から持ち込まれているのだ。
 太陽の光をはじめ、重力、隕石といったものから、時間、空間、ありとあらゆるもののにエネルギーが存在している。
 この星は常にエネルギーに当てられ、消費している。
 そうやってバランスをとっていた」
「隕石って、ラヴォスもその外から持ち込まれたエネルギーだっていうの?」
「そう、ラヴォスもこの星にエネルギーを持ち込んだものの一つといえる」
「ラヴォスも……、?
 でも、ラヴォスが存在していたときはこの部屋は無かった」
 話の流れが掴みかけていたクロノがいった。
「……ということは、ラヴォスもこの星にエネルギーを持ち込んだのに、この部屋は『前の周』にはなかった。つまりは余分なエネルギーがそのとき発生していなかったってことか?」
「まあそうなるだろうな、生成と消費がバランスよくなっていたということなんだろう」
「それはラヴォスは、この星の生命の遺伝子を吸収し、この星のエネルギーを消費してバランスをとっていたっていうこと?」
「かもしれんな」
 とルッカの問いに、あえて仮定で答える星砂の男。
「オソラク、ラヴォスハそうやって星のバランスヲ崩サズニ、ワレワレニ分カラナイヨウニしていたのではないデショウカ?」
「でも、わたし達がラヴォスを倒したから、この余分なエネルギーが生まれたって事?」
「そうなるわね」
「じゃあ、わたし達が……」
「おいおい、あんたらあんまり悪い方向に考えるなよ。
 結局、ラヴォスは星を滅ぼしたんだろ? 滅ぼされたんじゃあ意味がない。 一体いくつの命を救ってきたの分からんだろう? そのエネルギーは、決して無駄なエネルギーではないはずだ。あんたらは十分よくやったよ。
 それに、ラヴォスのせいでこの”星砂”が生成されたのかは実際のところは分からない」
「それは本当なの?」
「ああ、確かにラヴォスが倒されることが確定した時間平面、つまりこの平面においては
この部屋ができるほどの余分なエネルギーが生じたのは事実だが、それが決してラヴォスのせいとは言い切れない。実際わかっていないしな、調べるにしてもどうにも」
「つまり、他の何かが余分なエネルギーを出していたってことか」
「かもな」
「何か……たしかに、ガッシュさんが言っていたエネルギーの嵐っていうも、エネルギーの放出と考えれば、大量に余分なエネルギーが発生するてことにも繋がってくるね」
「んん!! なんか近づいて気がするわね。今回の原因に……」
 一息ついたように星砂の男は立ち上がった。
「あんたらがこの余分なエネルギーの原因をなくしてもらえば、俺の仕事も楽になっていいがな」
「仕事って、あなたはここで何をしているの?」
「この余分なエネルギーを還元、外へ運んでいるのさ」
「外って?」
「この星の外、他のエネルギーの足りない星とか空間とかそんなものに向けて、宇宙空間に飛ばしている」
「この宇宙空間に、ってどういう風にこの星から飛ばせるの?」
「それは、教えられん。こっちにもいろいろあってな。話すわけにはいかないんだよな」
「なんで、ケチ」
「何とでも言え、こればっかりは話すとなかなかやり難くなる」
「う〜〜」
 興味ありげに見るルッカの視線を外し、星砂の男は続けた。
「このエネルギーはジュースだ。星という名のコップに入るジュース」
 星砂の男はどこからとも無く、取っ手の付いたコップと黄色いジュースの入ったボトルを手にしていた。
「コップの中には決められた量しか入らない、しかもその中にはコップの中に元々入っている水のある、この水はこの星が生み出すエネルギーだ」
 星砂の男はクロノたちにコップの中を見せた。その中には透明な液体が入っている。
「これをコップに注ぐ」
 ボトルに入ったジュースを注ぎ込んだ。
 それは一定のスピードで注がれていく。
 やがてコップの容量をこえて、ジュースはコップの外面を汚しながらこぼれていく。
「こぼれちゃっているけどいいの?」
「このこぼれた分が余分なエネルギーだ。さてどうする?」
 突然星砂の男が質問をしてきた。
「飲む」
「分かった、飲んでみよう」

  ジュルルルル

 そういって、コップを空中に停止させ、またどこからとも無く長いストローを出し、器用にボトルからジュースを流しながら(なぜかジュースは無尽蔵に出てくる)、長いストローでジュースを飲みはじめるが、ボトルの口の方が大きく、全く追いつかず、ジュースは流れ出る。
「それが消費ね」
「そうだ」
 ストローを口から外した星砂の男が言った。
「さて、このコップから流れ出るジュースを……」
 星砂の男は少し深い皿を取り出し、コップの真下の空間に停止させた。
「この皿でとめる」
「その皿がこの空間ね」
「それはちょっと違う」
「?」
「正確にはこの空間は……」
 星砂の男は、茶色の手袋をした手をその皿に向けた。
 そして、その空間に魔法の構成が現われる。

  ”アイス”

  カキィん

 氷の魔法は、皿にではなくその中に入っているジュースを凍らした。
 星砂の男は、その氷をボールに移し変え、アイスピックで割る(すでに星砂の男が何を取り出しても驚かなくなっている)。

   ガッッズガツガツガツ

「皿はこの星が余分なエネルギーを星砂にするための器、そしてこのボールがこの空間だ。
 ジジイもはじめは少量だったからほっといたが、次第に星砂の量が多くなっていくから、この部屋を作った。そして……」
 ボールからジュースの氷を一粒取り出して…

  ヒュン

 マールに向けてやんわり投げた。
 マールはそれをキャッチした
「食ってみろ」
 首を立てに振り、氷の粒のジュースを噛み砕いた。
「ひゅめたふて(冷たくて)、ほいひぃぃ(おいしい)」
 マールの笑顔に満足し、ルッカ、クロノ、ロボにも氷の粒を投げ渡す。
「この投げる仕事が俺の仕事」
「ツマリ、ワタシタチハ他ノ星トイウコトデスネ」
「といういこと、これが”星砂”のつくられる仕組み。これと似たようなものが、この星の中でも起こっている」
「ふひひなもほね(不思議なものね)」
 とマール。
「口ん中、整理してから喋れ」
 星砂の男に注意される。
「すごいシステムね」
「まあ、大自然の神秘ってところか。だが問題もある」
「ソウナノデスカ」
「ああ、コップはジュースがこぼれた時点でコップ自身を汚している。
 注がれたジュースともともと中に入っていた水、この二つが混ざり合いコップを汚す。やがてコップの外側、外壁にべたべたしたものが付いていく。
 このストローでも吸える量は違ってくるし、ジュースの量も水の量も変化する。
 あるときは大量に液体がコップをあふれ出し、またあるときは少量の液体がコップをあふれ出す。
 では、コップの外側が汚れていたら、君はどうする?」
「……洗う」
「洗う、確かに洗う。洗うためには水がいる。
 水はこの星が生み出したエネルギーだ。
 外からのエネルギーはすべてジュースだからな。
 まあなんだ、ジュースにせよコップが汚れてしまうのには変わらないからな」
「それって……」
 ルッカが何かを言おうとしたところで、クロノにさえぎられる。
「なら、外からのエネルギーを減らすしか」
「単純だな」
 即返して、クロノを少しむっとさせた。
「外からのエネルギーは、あまり悪ものと考えるのはよくない。なぜなら、星は刺激がないと慢性的に弱ってくるからな。外のエネルギーという刺激があってこその生物の進化がある。
 全てを否定するのは、それこそ自滅の道を歩まんとするものだ。その辺り気をつけろ。全てはバランスだ」
「ってことは、やっぱりエネルギーの嵐の原因は少しずつ探っていくしかないのか」
「ソレガ確実デスネ」
「楽な道は無いか」
「そうなるな。頑張れ若者よ」
(まあ、外のエネルギーをどうやって遮断するのかを考えるのが難しいと思うがな)
 などと心の中でつぶやき、星砂の男はクロノに麻袋を投げ渡した。
 クロノが中を広げるとそこには”星砂”がはいっていた。
「これは?」
 そういったマールの手首を掴み、その麻袋の中に突っ込ませた。
「えっ? 何」
「抜くなよ」
 星砂の男はタマゴを取り出す。
 そのタマゴは、以前見たクロノ・トリガー、時の卵とは少し違っていた模様であった。
 そして数を数え始めた。
「……4……3……2……1…0」
 麻袋が一瞬光る。
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【192】-21- (第八章 時の最果てC梯子の先)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:23 -
  
 クロノはある物をイメージした。
 イメージは魔法の構成などで養っているために、意外とリアルに想像できる。すると手元の白い板は変化を始める。
   グォン
 白い板は金属の板に変化していた。
「イメージしていたのとちがうな」
「イメージに失敗すると大抵は、金属の板になる、理由は知らんが」
 周りを見るとルッカ以外は皆、金属の板になっていた。
「ああ、何でこう失敗しちゃうんだろ」
「機械に新たなイメージをサセルノハ難シイデス」
「イメージどおりの形にならないわね」
 そんなクロノたちに老人ハッシュは、
「これがなくてはグリッドでエレメントが使いこなせないからのお。
 ゆっくりやるといい、ゆっくり慣れていくのじゃ」
 クロノは再びイメージする。
 それはグリッドにゆっくりと伝わっていく。
 グリットはそのイメージにゆっくりと合わせていく。
   ブオン
 クロノの手元にはリストバンドが現われていた。
 マールやロボも自分がイメージしたとおりのものができたらしく、さっきの金属板のものではなくなっている。
「成功したようじゃな。では、どれどれ」
 老人ハッシュはクロノのリストバンド(グリッド)に触れた。
 するとリストバンドは消え、クロノの目の前の空間にグリッドが浮かぶ。
『え』
「このようにグリッドを知っているものが、それを認識しつつ、物質状態のグリッドをつかむと自分ではなく、相手のグリッドが開いてしまう。ここに注意しておいたほうがよい」
「誰かに盗まれることがあるのか」
「いや、グリッドは盗まれんがかわりに6時間以上はめたままのエレメントが盗まれてしまうのじゃ。
 なかなか細工のしようがないからのお。
 バレてしまえば一発じゃ、充分気をつけておくことじゃ。
 ……さて、それでは次どこに行く気なんじゃ」
「現代に戻ろうかと思う。
 前にも話していたし、ハッシュの話を聞いてて、やっぱりオレたちがやってきたことが複雑に絡み合っているというのだったら、やっぱ同じ流れで進めていけば何かおかしなところが見つかりやすいんじゃないかって思って」
「なるほど、確かにそれが一番分かりやすいかもしれんのお。
 じっくり考えるのじゃ、でなければみつからんこともある」
「ところでさっきここに来た子供は?」
「? ああ、さっきのは……なんじゃったかのお」
「おいおい」「ハッシュサン」
「おお、思い出した、確かその部屋で休んでもらっているのじゃ」
 老人が指差したのは、先ほどまでいたスペッキオの部屋に入る扉の横。同じくらいの扉があった。
「?? さっきまではなかったのに」
「コレハ一体ドウイウコトナンデショウカ?」
「それに梯子も……」
 先ほどまで見えなかった扉の隣には確かに梯子がかかっていた。
「不思議に思っておるな、これが認識じゃよ。
 目に映るものが全てではなく、時に目に映らない大切なものがある……」
「ねえ、中でなんか聞こえるけど」「ん? どれどれ」
   ガチャガチャ
 ドアノブを押したり引いたり捻ったりしているが、開く気配はない。どうやらカギがかかっているようだ。
「ねえ、ここカギがかかっているんだけど」
「ふう」
 話を途中で切られてしまいハッシュは少ししょんぼりとしていたが、それに答える。
「ああ、この中の住人がカギをかけておるのだろう。
 全く普段は開けっ放しだというのにこんなときだけ」
「え! ここにはハッシュとスペッキオ以外に住んでいるの」
「? 知らんかったのか。
 その扉の先には、あるとき突然この空間に落ちてきてな、勝手に住み込んできたのじゃ。
 まあ、ときたまわしの使いとして他の時代に行ってもらうことがあるが、今ヤツらにさっきの子どもの世話をしてもらっているのだよ」
 マールが扉に耳を近づけると、

「もっと静かに……モ」
「だなぁ〜〜」
「…!!!」
「あ、こら…………ダモ」

「確かに誰かいるわね。三人? かしら」
「まあ、あいつらにはあまり関わらんほうがよいだろう。それよりそこの梯子に登ってみるがいい」
「この先には何があるんですか?」
「そこは星砂の部屋につながっとる。まあ、行ってみるがいい」
 言われて三人と一体は梯子を上った。


「夜の星みたいだ」
 梯子を上って出た空間は、真上に夜の星空のようなものが広がっていた。瞬きを惜しむぐらいの綺麗な空。吸い込まれそうな暗い中に小さな点、星がパチパチと輝いている。
「綺麗な場所だな」
「そうね」
「それにしても、この黒。まるで魔王が出てきそうな雰囲気ね」
 魔王というのは、『前の周』でかつて中世を支配する魔族の王としてクロノたちと敵対し、そして紆余曲折ありながら最後にはラヴォスと戦った古代人のことである。その魔力と古代人としての知識は幾度となくクロノたちを助けた。その魔王にはよく『闇』の中にいる。そんなイメージがあった。夜になるとふといなくなり、いつの間にかみんなとともに敵と戦っている。そんな不思議な人物であった。
「客か……」
 くぐもった声がした。
 クロノたちにはその気配を感じることはできず、それはすっと彼らの前に現われた。
 黒いローブを身に纏い、見えるのは片目だけ、そのほとんどを布で覆っている。目立つ黒い色のローブも、この暗闇の空間では体型さえも分からない。
「ジャキ?」
 マールの放った言葉に、その黒いローブの男は顔がこわばった。
「人違いだ。オレはそんな名前じゃない。
 オレはただの男、この星砂の部屋の住人。
 ん〜〜、そうだなこの部屋の名をとって星砂の男といったところか」
「星砂の男ねえ」
 確かにその男、明らかに魔王とは雰囲気が違った。
 何か傲慢な感じがする。
「そう、星砂。この部屋に広がる星砂を管理する役目を押し付けられた男だ」
「広がる星砂って」
 ルッカは足元を見た。
 そこには床とばかり思っていたが硬い砂が敷き詰められていた。
「コノ床ニアルモノガ星砂デスカ」
「そうだ、といってもお前達のいるところは少し固めてある。下のジジイがうるさくてな、しかたなく固めたんだ。少し歩けば感触の違う地面が広がっているからな。
 砂って知っているか?」
「ええ」
「お前達が思っている砂とは少し感触が違うから、歩くときこけるなよ」
 星砂の男はこちらに背を向けて歩き出した。
 一度振り返り、
「付いて来い、どうせしたのジジイから何も聞いていないんだろ?」
 いわれ、クロノたちはバランスを保ちながらも地面に砂と、上に夜空の浮かぶ空間を歩いた。


 しばらく歩いたところで星砂の男は足を止めた。しばらくといっても、まだあの登ってきた梯子が見える位置だ。
 星砂の男の隣には上の空間から落ちてくる砂の細い柱がみえる。そこでゆっくりと星砂の男は座った。
「おまえらもその辺で座れ」
 促されたクロノたちは感触の悪い砂の上に座った。
「この砂って、空から落ちてくるの?」
「星空から落ちる砂、だから星砂だ。
 そうそう、お前達の紹介がまだだったな。どうせ、下のジジイに言われてきたんだろ? あのジジイが呼んだって事は、なんかここに役立つものがあるんだろな。遠慮せず、お前らのことは話してみろ」
 しかし、なんとなく話し辛い。
 クロノたち、三人と一体は顔を見合わせた。
 そんな、話しをすべきかどうか悩んでいるクロノたちを見て。
「あんま気にするな、おれはここの住人だ。たいていの事は驚かんし、悪い目で見ることもない。さっさと話しちまえ」
 そう言われてクロノは自分たちのことを話し始めた。
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