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【211】クロノプロジェクト先行版シーズン3第三話
 REDCOW  - 12/1/25(水) 0:27 -
  
 第127話「アブソーブ」
 
 ルッコラは助手のメキャベと共にその場にしばし立ち止まり、門の詳細な形状は勿論、周囲の地質状況等を機器を使って調べ始めた。
 その間、クロノ達は近くの岩場に座って彼らの作業を待つことにした。というのも、これが政府の基本的な条件であるため、彼らの調査が全ての行動に優先するとされていた。
 シズクも最初はその場に座っていたが、退屈しのぎにルッコラの手伝いを始めた。
 彼女自身も興味が有るのだろうか。
 フリッツは坑夫達を下がらせると、クロノに話しかける。
 
「その表情、どうやら見覚えが有る様ですな。」
「…いや、正直な所、よくわからない。想像しているものだとは思うけど。」
「…その迷いは、むしろこの扉というより、あなた自身に向けられている様な言葉に聞こえますな。」
「はは、それは年の功って奴ですか?…うん、みんなが俺達のことを不思議がったり驚いたりするみたいに、俺もそんな何かを感じている。俺にとってのあの冒険は6年前の話だけど、あの時の俺にこんな迷いを感じる暇はなかった。迷う時間も足りないくらい、ずっとずっと…いっぱいだったんだ。」
 
 クロノの答えに、フリッツは視線を坑夫達の方へ移すと、彼もまた物思いに耽る様な表情をした。そして、下げていた鞄から水筒を取り出すと、蓋を空けた。
 
「飲みますか?」
「いや、良いです。」
「ははは、見てくれはウィスキーでも入っていそうですが、生憎酒は医者から止められてましてね、この中は普通の水ですよ。」

 彼はそう言い一口飲むと、一息吐いた。
 
「…私にも若い頃がありました。たぶん、同じ様に感じていた。その瞬間すら惜しくて足りないくらい。しかし、時とは妙なもので、その時が過ぎ行く程加速度を増すのに、思いはずっとゆっくりとしたものになる。いや、まるでその場に留まったまま取り残されるくらいに。」
「そういうものですか。だったら、俺はまだ途上です。」
「フフフ、そう。まだ始まったばかりです。戸惑う暇すら、まだ惜しんでいておかしくはない。同情はしますが、羨ましいものですな。」
「羨ましい?」
「はい。今がまさに青春です。若さ故の過ちも、まだまだ許される。こんなオヤジにもなると、そうそう隙も見せられない。願わくば…良い手本たらん…とね。」
「はは、それは大変だ。」
 
 二人がそんな話をしている頃、調査をしていた三人は情報をすり合わせていた。
 
「博士、このシャインの魔力減衰率を見た限りだと、製造年代は中世期とみてほぼ間違いないと思います。」
「周囲の壁面のデナドロ構成比は、基本的にこの周囲の鉱物から生成したとみて良いと思うわ。構造物の純度も当時の構造物を調べた年代測定資料の値と合致するし。」
「ふむ、メキャベくんもシズクさんもよく調べてくれました。特にシズクさん、この仕事が終わったらどうです?私の所で一緒に仕事しませんか?」
「え、私ですか?それは有り難いですが、ごめんなさい。」
「ほー、それは残念。でも、気が変わったらいつでも言ってください。私はいつでも歓迎しますよ。…さて、本題はこの扉をどう開けるかですが、これほどのデカ物です。手押しで開けたはずはない。まぁ、やろうと思えば現代の我々に不可能はありませんが、強引にやっては壊れてしまう。出来るだけ傷をつけたく有りません。当時の技術を考えるに、敵から攻められないために外部に無いのは当然として、内部的には開門用の魔力充填ラインがあったと考えられますから、それを利用します。」
「博士、シャインの先天属性は地。開門するならば天でこじ開けるのが早いかと。」
「メキャベ君、それではこの貴重な扉を破壊してしまう。もっとやんわり行かないとだめですよ。」
「じゃぁ、供給ラインに再充填するのが一番だと思うわ。」
「そうです。では、充填ラインはどこに有るか?通常の扉は蝶番か吊り上げ用の構造物に沿って存在します。この門は両開きの蝶番式ですので、その辺りに魔力を注ぐのが適当でしょう。さて、ES構成を調べてみますか。」
 
 ルッコラはそう言って門に手を当てた。
 そしてしばし集中すると、彼の手がほのかに緑色に輝いた。
 それはほんのわずかな時間であった。
 
「…わかりました。思った通り蝶番に沿って4つのラインが存在します。それが内部で一つにまとめられるイメージが感じられました。しかも、驚いたことにまだ生きている。…すばらしい。ES構成はシャインの地に合わせて力場を構成して門へ流し込む形で動かしましょうか。この作業を出来るのは私とアンダーソンさんが適任と思います。皆さんにお話しして始めましょう。」
 
 3人はクロノ達を呼ぶと、早速作業を開始した。
 門前に並んだルッコラとフリッツの二人は同時に地の魔力を注ぎ込む。
 すると門はゆっくりとその重い扉を開いた。
  
「さぁ、開きました。行きましょうか。」
 
 マイペースにルッコラは前を行く。
 この場はほぼルッコラを中心に動くのが無難だと、何故か皆納得していた。
  
 門の中に入ると、そこの内装は所々朽ちている部分もあるが、全体的には中世の面影を残していた。少なくともクロノにはそう感じられた。
 中の構造を見てようやくクロノは確信に至っていた。この場所は一度来たことがあると。…そんなクロノの気持ちとは関係なく、ルッコラは突き進む。
 入ってすぐの前方には階段が有り、エントランスホールの吹き抜け2階への階段がある。そこを上ると二手に分かれていたはずだが、両方の通路が崩壊していた。
 
「ふむ、どちらも行けそうにないですね。しかし、もしここが過去の戦争時代のものであったとすれば…」
 
 そう言ってルッコラは丹念に床を調べ始めた。すると、
 
「あぁ、ありました。」
「これは?」
「トリップフィールドです。ささ、皆さん集まって。」

 ルッコラは全員を集めると、フィールドを自身の魔力で活性化させた。その瞬間、クロノ達は先ほどまで見ていたエントランスホールとは全く違う場所へ運ばれていた。
 そこは綺麗に片付いているかの様に、かつての様を残していた。
 
「むぅ、400年以上の年月が経過しているはずなのに…この保存状態。すばらしい。しかし、これらの構造…ワイナリン築城様式の罠に酷似していますね。ふむ、皆さん、しばし待っていてください。」
 
 クロノもルッコラの見解を肯定していた。
 ここはビネガーが奥でハンドルを回して罠を動かしていた部屋だ。しかし、ビネガーが居ないこの場所で罠へ用心する必要は無いだろうと思われた。
 ルッコラは壁面を丹念に調べると、コンベア型の罠手前の通路上に魔法陣を書き始めた。そして、暫く瞑想をすると魔法を詠唱し始めた。
  
「…静まる闇の中に眠る心よ、我が呼びかけに応え、その姿を示せ。」
 
 詠唱が終わった瞬間、突然ベルトコンベアが動き始めた。そして、驚いている一同の前に怪しく青く光る炎が左右の奈落から浮き上がり、それは前方中央の通路上で合体した。合体の瞬間、閃光を発した炎はゆっくりとその場で揺らめいた。
 
「おぉ、やはり。ここにはサーバントがありましたか。」
「サーバント!?」

 クロノの驚きの声にルッコラはにっこりと微笑んで答えた。
 
「はい。我々魔族はこのサーバントの力を継承することで魔力を保持してきました。しかし、それは何も人体へ継承することに限りません。このようにある特定の条件を揃えてやりさえすれば、サーバントをとどめておくことも出来るのです。」
「サーバントを留める?」
「はい。留めることでエネルギーを引き出し、物を動かしたり魔法を遠隔的に発動させるといった便利な使い方が出来る様になります。中世の戦争で数の少ない魔族がどうやって人間に対抗することが出来たか?…それはこのサーバントの力なくして語れません。」
「で、これをどうするんだ?」
「これですか?では、少し見ていてください。」
 
 彼はそう言うとその場で何やら炎の方へ向き直り、右腕を手のひらを開いて前に突き出した。
 
「アブソーブ、エイリアス!」
 
 その瞬間、炎は揺らめくと小さな火の玉がそこから飛び出して、ルッコラの手のひらに吸収された。
 
「今のは何を…」
「見ての通り、吸収しました。エイリアスとは分身のこと。この炎から力を一部呼び出す権利を貰いました。エイリアスは自身のサーバントにエイリアス本体の持つ技術の一部を共有させてくれます。本来であればサーバントそのものを吸収してしまえば良いのですが、そうも出来ない場合が有ります。
 例えば、自分より強いサーバントとかですね。その場合、エイリアスを貰い受けることで本体との縁を作り、自分が強くなった時にサーバントを呼び出す権利を受けるわけです。エイリアスを受けた者はサーバントとの縁を通して、外界のエネルギーを供給する運び屋としての仕事を受けます。これにより地場に縛り付けられたサーバントがエイリアスを通して外界で行動出来るようにもなるわけです。つまり、ギブアンドテイクですね。」
 
※サーバント&エイリアスについて
 地場に縛り付けられたサーバントや天然サーバント等、各地にあるサーバントからは二つの方法で力を受け取ることが出来ます。アブソーブ命令に対して、術者がサーバントの能力を超えている場合はサーバント命令でサーバントそのものを強制的に吸収し、そのサーバントの持つ全ての能力を引き継ぐことができます。
 能力が低い場合やサーバント吸収許容量限界を超えている場合は、エイリアス命令でエイリアスを受け取ることでサーバントの持つ能力の一部を受け取り、自分のサーバントの能力を向上させたり、自分の装備の性能を向上させることができます。また、エイリアスを保持しながら戦い続けると、エイリアスにエネルギーが供給されます。
 一定のエネルギー供給を受けたエイリアスは、術者に対して本体を呼び出す権利を与えます。術者はその権利を行使することで、吸収せずともサーバントの持つ全ての能力を一度だけ利用で来ます。一度使うと再度エネルギー供給を受けないと使えません。エネルギー供給方法は戦闘での余剰エネルギーの充填の他に魔力を直接供給する方法があります。しかし、後者はとても巨大な魔力を消費するため現実的ではありません。
 術者がサーバントの能力を超えている状態でエイリアスを利用している場合は、発動条件を揃えることでサーバントをいつでも呼び出せる様になります。発動条件は術者との縁の強さの他にフィールド属性や魔力供給量が関係し、縁の深いエイリアスほど発動条件が緩和されます。ただし、発動条件はサーバント側の能力も強化されて行くに従って変化します。サーバントもまた、エイリアスのエネルギー供給を受けて進化していきます。
 エイリアスで所有するサーバントを吸収した場合、そのサーバントが持つコネクション(縁)は全てリセットされ、術者に全ての権限がゆだねられます。

 クロノ達はルッコラに促されるまま、この炎からエイリアスを受け取った。炎は全員にエイリアスを渡すと消えてしまった。
 
「この先もこのようなサーバントが存在する場所と出くわすこともあるかもしれません。その時は私の説明通りにして頂ければ問題無いでしょう。サーバントはとても重要なものです。エネルギー供給源であり、武器にもなりますし盾ともなります。サーバントの扱いは、くれぐれも大切に。」
 
 ルッコラはそうして再び奥へ進み始めた。
 そこにクロノがあわてて彼に言った。
 
「博士、罠は!?」
「罠?…あぁ、あのサーバントが動かしていたわけですから、私達は彼のエイリアスを受け取った時点で彼の仲間。問題有りません。」
「…はぁ。」
 
 クロノは半ば拍子抜けするものを感じつつ、彼の後に続いた。

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