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「お兄ちゃん、行かないで、私を独りぼっちにしないで!」
私の前のお兄さんはすうっと青く透き通る輝きとなって、哀しそうな瞳を投げ掛けて消えてしまった。私は大切な母と、多くの兄弟姉妹を一夜にして失ってしまった。
初めは哀しくて仕方なかった。
まだ5歳の私にはあまりに残酷な別れだったけど、私は次第にその当時の記憶を薄めていった。それは昔から自分が強い痛みを感じると、それを感じたのが嘘のように消えてしまったから。
そんなだから、私は自分の体を大切にしようなんて思わなかった。
ただ、がむしゃらに生きて生きて生き抜いて、あの猫の亜人を殺し、みんなの敵を取ることしか頭には無かった。
しかし、生きる為には食べ物が要る。
でも、こんな小さな身寄りの無い私に食事を与える様な余裕の有る人間はいなかった。
そう、私は生きる為なら何でもした。
毎日毎日、それは生きる為に行われる行動。
初めは夜にこっそりと畑から頂くことにしていた。
食事だけならそれで良かった。
でも、それだけじゃ足りないものもある。
ガルディアには私と同じような身寄りの無い子どもが沢山いた。
私は次第に彼らと共に行動を始め、徐々に強盗に手を染める様になった。
それでも私達にはルールが有った。
パレポリや外国の裕福な奴から盗むこと…それが私達のルール。
強きものから奪い、弱き者たちで分け合う。
それは当然に思えた。いや、今でもそれに間違いは無い。
私はそうやって大きくなり、10代になる頃には立派に盗賊だった。
大きくなった私は盗賊として次第に自分の本来の目的に目覚めていく。
ただの盗賊として動いていた私の耳に、「凍てついた炎」という名の宝石の話が舞い込んできた。それはパレポリも求め、世界中に探索させているらしい。私はそいつを自分が先にかっさらって、憎たらしいパレポリに一泡吹かせてやろうと思った。
そう思ったらすぐに私は行動した。
あらゆるつてを使って情報を集め、世界中を旅して回った。
そして、次第に1人の人物の存在が私の中に現れた。
亜人、ヤマネコ。
パレポリに情報をもたらし、自らもその宝石を求めて探し歩く者。それがヤマネコ。
そして、そのヤマネコこそが私の家族を焼き払った張本人だった。
この勝負、絶対に負けられない。
私は仲間を集めてヤマネコの移動する先を全て見て回った。
次第に奴の詳しい情報が入り始め、徐々に奴の行動を予測できるようになった。
そして、奴はエルニドへ派遣されることが決まった。
…いや、表向きはそうなっていたが、今回はパレポリからも全権が与えられ、隠密裏に何かを仕掛けようとしていた。
奴は見つけたのかも知れない。
私はそう直感した。
すぐに私もエルニドに向かったが、奴の方が一枚上手だった。
エルニドに入った船の中で私達の情報を先に入手していたパレポリの部隊が、突然船室に突入してきた。私達は海に逃げる他なかった。だが、エルニド近海の海流は荒く、仲間とはそこでバラバラになり、私が気がついた時には、一つの島の浜辺の上だった。
そこはエルニド諸島本島、オパーサの浜という綺麗な砂浜だった。
立ち上がった私の目前に広がったのは美しい海と、抜けるような青空と、何処までも続く地平線だった。そこにはさらさらとした海風が私の髪をなぜ、暖かい太陽の輝きが私をキラキラと包み込む。
楽園というものは…こういう所を言うんだろうな。
漠然とそう思った。
その島の美しい自然はしばらく私を魅了し、私はゆっくりと日が沈むまで散策した。
そして、夕日が沈みかけ、世界をオレンジ色に染め上げる頃、私は1人の男に出会った。
信じられなかった。
いや、ここは楽園。…奇跡が起きても不思議じゃない。
人生は奇しくも不思議な因果を持っている。だから、人は嫌だ嫌だと言いつつもそれにしがみつき、そして、見たことも無いほんの僅かな奇跡を知ろうとするのだ。
ほんの僅かな幸せという名の奇跡を。
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