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【128】Re:森の記憶
 meg  - 08/5/14(水) 23:07 -
  
▼megさん:
> マルコ、あなたは見てくれているかしら?
> わたしとあなた、そして彼とで暮らしたこの小屋の周りは、彼が来てくれたあの日よりもずいぶんと緑の多い所になってきたわ。荒野の固くなった土を耕して種をまき、砂漠化した土地には水をたっぷりまいて苗を植え、三人で手分けして手入れしてきたわよね。とても大変だったけれど、とても楽しかったわ。
>
> 彼はいつもわたし達のことを気に掛けてくれたわね。わたし達の子どもが生まれた時、喜んでくれた。手が離せない時は代わりにあやしてくれた。あなたが亡くなった時、わたしや子ども達を一生懸命慰めてくれた。そして今、足が悪くなってあまり草木の世話ができなくなったわたしの代わりに、手入れをしてくれている。彼にはお世話になりっぱなしで、どれだけ感謝してもし足りないくらいだわ。
>
> でも、最近は心配なの。彼は出逢った頃と何も変わらず、休みなく働いても少しも疲れを見せない。老いてしまったわたしはもうすぐ彼の前からいなくならなければならない。そこから先は、彼はたった一人でこの木々の世話をし続けなければならない。いくら彼が長く生きられるといっても、独りぼっちは寂しいと思うの。以前はよく訪ねてきた彼の仲間の騎士さんも、何年か前から来なくなってしまった。わたしの夢を叶えるために仲間の元から離れ、尽くしてくれる彼に、わたしは何をしてあげたらいいのかしら。
>
> ああマルコ、わたしはもう彼とお別れしなければならないわ。結局彼には何もしてあげられなかったけれど、わたしは彼と出逢えてよかったと心から思う。彼に出逢わなければわたしの夢は叶わなかった。あなたもきっと、そう思っているわよね?
> マルコ、わたしもうすぐ、あなたの元へ行きます。そうしたら、彼が育ててくれている森を、二人で見守っていきましょうね。
>
>「フィオナサン……」
> 人の気配が消えた小屋を整理していた彼は、彼女の書き残した文章を見つけ、長い間そこにたたずんでいた。
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【127】蛇足。
 meg  - 08/5/14(水) 23:05 -
  
と、いう訳で予告していた短編です。お楽しみいただけたでしょうか。
〉ネタになったのはトリガーの地底砂漠の一件です。クロノ達が中世から現代へ渡る時は一瞬ですが、中世に残ったロボは四百年という長い歳月を過ごした。その間には様々な出来事があったはず。その中のひとつはそれまで一緒にいたフィオナとの別れもある訳で……。きっとこんな感じだったのでは、と思い勢いで書きました。←おーい(汗)
……なんかホントに蛇足ですね。
〉次は今度こそグランドリオンにまつわる話を書きたいと思います。長いですが……(汗)。気長に待っていただけると幸いです。では。
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【126】森の記憶
 meg  - 08/5/14(水) 22:43 -
  
 マルコ、あなたは見てくれているかしら?
 わたしとあなた、そして彼とで暮らしたこの小屋の周りは、彼が来てくれたあの日よりもずいぶんと緑の多い所になってきたわ。荒野の固くなった土を耕して種をまき、砂漠化した土地には水をたっぷりまいて苗を植え、三人で手分けして手入れしてきたわよね。とても大変だったけれど、とても楽しかったわ。

 彼はいつもわたし達のことを気に掛けてくれたわね。わたし達の子どもが生まれた時、喜んでくれた。手が離せない時は代わりにあやしてくれた。あなたが亡くなった時、わたしや子ども達を一生懸命慰めてくれた。そして今、足が悪くなってあまり草木の世話ができなくなったわたしの代わりに、手入れをしてくれている。彼にはお世話になりっぱなしで、どれだけ感謝してもし足りないくらいだわ。

 でも、最近は心配なの。彼は出逢った頃と何も変わらず、休みなく働いても少しも疲れを見せない。老いてしまったわたしはもうすぐ彼の前からいなくならなければならない。そこから先は、彼はたった一人でこの木々の世話をし続けなければならない。いくら彼が長く生きられるといっても、独りぼっちは寂しいと思うの。以前はよく訪ねてきた彼の仲間の騎士さんも、何年か前から来なくなってしまった。わたしの夢を叶えるために仲間の元から離れ、尽くしてくれる彼に、わたしは何をしてあげたらいいのかしら。

 ああマルコ、わたしはもう彼とお別れしなければならないわ。結局彼には何もしてあげられなかったけれど、わたしは彼と出逢えてよかったと心から思う。彼に出逢わなければわたしの夢は叶わなかった。あなたもきっと、そう思っているわよね?
 マルコ、わたしもうすぐ、あなたの元へ行きます。そうしたら、彼が育ててくれている森を、二人で見守っていきましょうね。

「フィオナサン……」
 人の気配が消えた小屋を整理していた彼は、彼女の書き残した文章を見つけ、長い間そこにたたずんでいた。
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【125】なか書き
 meg  - 08/5/13(火) 18:03 -
  
どーも、megです。「Green Dream」お楽しみいただけたでしょうか。
小説を投稿できるところを探してたどり着き、皆さんの作品を読むうちにひらめいたのがコレでした。ルッカともあろう者が簡単にヤマネコにやられる訳がない!と思ったので。本人もクロスでそう言ってましたし。(手紙でしたけど)
話は変わりまして、クロスの設定でひとつ不満だったのがグランドリオン魔剣説。勇者の剣がなんでっ!?と思い、勝手にその辺の物語をでっち上げることにしました。
が……かなり長くなっております。(汗)我ながらとんでもないなぁ…と(遠い目)。
なので、その前にもうひとつ短い話を。これはトリガープレイ中に思いついたもの。どうぞ乞うご期待!
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【124】CPss2第38話「第3次試験開催(後編)」(...
 REDCOW  - 08/5/2(金) 16:13 -
  
第122話「第3次試験開催」(CPss2第38話)
 
 
 第三次試験が始まった。
 
 
 試験は円形の舞台から落ちたり、ギブアップを宣言すれば終了する。ただし、戦闘で相手を殺害することは許されておらず、死亡に至らしめた場合は反則として負けとなる。また、舞台に上がってから何もせずに時間を稼ぐ行為も反則で警告され、その警告を3回受けると反則負けとなる。戦闘方法は3人で自由に連携して攻撃出来るので、チームワークを駆使して如何に相手を舞台から落とすまたはギブアップさせるかで勝利が決まる。
 メーガスかしまし娘。は試合開始早々にお得意のリフレクトフィールドを形成した。彼女達は持久戦に持ち込む気らしく、攻撃してくる様子は無い。…冷静に彼らは彼らで魔力差を計算したのだろう。まともに戦えば確実に攻撃力で劣る彼女達は、完全に防ぐ事で戦い抜く気らしい。
 
 
「…彼女達、見たところ魔力はそんなに多くないと思うから、力押しで叩けるとは思うけど、それにはあのフィールドを超える魔力供給を続けるってことだから、超えるまでは反射で私達がダメージ負う計算よ。持久戦と考えると面倒な相手ね。」
 
 
 シズクの分析は正しいのだろう。あのフィールドを超える魔力供給はそう簡単に出来るものではない。ヒカルのシャイニングですら跳ね返したフィールドだ。そう簡単には行かないだろう。特に、以前の彼女達は不必要な魔力供給はセーブしている様に見えた。たぶんあの時、クロノの魔力供給が仮に無くとも、彼女達は自力で十分にシャイニングを防ぐ事は出来たに違いない。
 クロノは突然構えると魔力を集中し始めた。次第に彼を中心に魔力が集中し身体が浮き上がり、その彼の足元には青白い輝きを放って魔法陣が形成され始めた。
 
 
「ちょ、クロノ!?あんた、私の話聞いてたの!!?」
「試す価値はある。」
「え!?」
「(シャイニング)」
 
 
 彼を中心に莫大な魔力が吹き出すと、それが一斉にメーガスかしまし娘。に向かって襲いかかる。その出力はヒカルを遥かに上回り、闘技場全体に青い光の柱が立つほどだった。
 だが、その魔力の流れは急速に反転を始める。
 
 
「(さすがにきついわね。)これでお仕舞な私達じゃないわけ。」
 
 
 強力な魔力の流れは、まるでアミラがシャイニングを放っているかのように彼女を中心に魔力の流れが集約すると、一気に反転を始めたのだ。
 
 
「いや、マジ!?ちょ、クロノ、あんた、あんなのどうすんのよ!!!もう!」
 
 
 シズクが慌てて天のバリアフィールドを形成して吸収を狙うが、その許容量を遥かに超えたシャイニングの魔力流には焼け石に水だった。クロノもあまり慣れていないフィールド形成を試みるが、失敗に終わり、手を前に構えて防御姿勢をとった。
 しかし、覚悟していた痛みは一向に起こらない。
 
 
「大丈夫ですよ、お二人とも。」
 
 
 ミネルバがマイティガードを発動していた。
 シャイニングの反転流は全てマイティガードが受け止めて無傷で済んでいた。
 
 
「ふぇ〜、助かったぁ。」
「ちょ、なんであんたが安心してるのよ。元はと言えば私の話をきかないあんたの責任でしょう!!」
「まぁまぁ、助かったし良いじゃないか?」
「それは、私が言うセリフでしょう…。はぁ。しかし、シャイニングも駄目な奴を、どう戦う訳?」
「…私がやってみましょう。」
 
 
 そう言うと、ミネルバがフィールドを操作して以前のようにボコボコと球体を宙に浮かせ始めた。ふよふよと浮かび上がった球体は、突如鋭利に突出してメーガスかしまし娘。へ向かって刃を向けた。だが、その刃もフィールドに触れる直前で勢いが止まると、ジリジリと後退を始めて、結局全ての突起は元の球体に戻り、ボコボコと吹っ飛ばされたかの様にポンポンとマイティガードフィールドに戻ってしまった。
 
 
「お宅らの技はそんなものなわけ?…もうちょっと楽しませて貰えるかと思ったけど、この程度なら恐るるに足らずなわけ。」
 
 
 アミラが憎まれ口を叩く。
 しかし、彼女の言う通り、手詰まり感は否めない。このまま何もしなくても時間切れで反則を取られ、戦っても跳ね返されてしまう。何か無いか。
 その時クロノはふと思いついた。
 先ほどシズクが放ったトラップフィールド。あの時はシャイニングの前に焼け石に水だったが、もし、シャイニングじゃなかったら違う結果が出たのではないか。だが、そんな小さな攻撃ではフィールドには傷すら付けられない。しかし、反射によるダメージを吸収出来れば、向こう側の魔力の限界まで戦い抜く事は出来る。
 それでも、1人で器用に魔法を放ちながらフィールドを形成し続けるのは厳しい。同じ出力で常にフィールドを形成させながら攻撃する他に無いが、そんなことが可能なのだろうか。
 
 
「シズク、俺の出力に合わせてトラップフィールドを造れるか?その、完璧にシンクロさせるんだ。」
「………!、OK。良いわ。そういう事なら私がフィールドは引き受けた!」
「おし!なら、ミネルバさんはバックアップ!俺とシズクで攻撃するぜ!行くぜ!」
「はいな!」
 
 
 二人が目を閉じて魔力を集中し始める。
 魔力の上昇をシンクロさせるために、クロノがシズクの肩に手を触れた。すると、シズクにクロノの魔力が流れ始めるのと同時に、クロノにシズクの魔力が流れはじめる。
 二人は試練の洞窟を思い浮かべていた。お互いの魔力を感じながら、互いの力を近づける。試練を超えた二人には難しい事ではなかった。
 二人は同時に目を開くと、同時に構えた。
 
「は!」
 
 掛け声も重なるほどシンクロした二人は、同時に魔法を放った。
 シズクのトラップフィールドが形成されるのと時を同じくしてクロノのサンダーがメーガスかしまし娘を狙う。サンダーは当然のように跳ね返されて来るが、そこはシズクのフィールドが完全に吸収した。
 それを確認すると互いを見て頷き、ニヤリと笑みを浮かべた。
 二人は再び魔法を放った。だが、今度は一発ではない。連続で何発も同時に放ち始めた。しかし、その出力では案の定全く向こうには効いていないことも見て取れた。だが、二人は止めるでも無く、延々と魔法を放ち続けた。
 
 
「(あ〜、もぅ、セコイ攻撃で鬱陶しいったら何なわけ?シャイニングの連発ならともかく、こんなサンダーごときに負けるあたしじゃないわけ。ったく、こんなモノに貴重な魔力を使わせないでほしいわけ。…貴重な魔力、………しまった!向こうの狙いはそれ!?でも、まって、今の今まで気にしていなかったけど、これって本当にサンダー!?…ダメージがあたらないから分からなかったけど、この出力は既にサンダガを超えているわけ…。)…やってくれるじゃない。マルタ、リーパ、ちょっと場が天に流れ過ぎなわけ。OK?」
「はい、お姉様。」
「はい、お姉様。」
 
 
 二人の妹達が魔力を集中し始める。
 すると、リフレクトフィールドが黄金に輝き始め、なんと、クロノの放つサンダーを吸収し始めた。
 
 
「なんだ!?」
「随分舐めた真似してくれたわけ。あたし達も馬鹿じゃないこと忘れてるわけ?」
「忘れていません。この時を待っていました。」
 
 
 そう言ってミネルバがマイティガードを発動させると、彼女はフィールドを形成するのではなく、そのまま大きな魔力を込めた刃として、一瞬でリフレクトフィールドを貫通した。
 リフレクトフィールドがまるでガラスが破裂するかのように、キラキラと輝く破片をまき散らして崩壊する。その事態にクロノ達は勿論、アミラもまた呆然とその場に立ち尽くした。
 
 
「…私達のフィールドが……負けなわけ。」
「はい、お姉様。」
「はい、お姉様。」
 
 
 二人の妹達の悪気の無い返事が、アミラの心に深く突き刺さった。
 
 
「試合終了!メーガスかしまし娘。チームの敗北宣言により、ポチョチームの勝利です!!」
 
 
 会場が大きな歓声をあげた。
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【123】CPss2第38話「第3次試験開催(前編)」(...
 REDCOW  - 08/5/2(金) 16:12 -
  
第122話「第3次試験開催」(CPss2第38話)
 
 
 パンパン!パン!パパン!パンパン!
 
 
 闘技場の上空に開催の合図が打ち上げられる。
 白き壮麗なる競技場は日の光に照らされてキラキラと輝きを纏い、その威容は見るものを圧倒する。その姿は近くに見ることでより一層強く感じられる。
 正午の太陽の輝きに照らされる闘技場までの通路脇に見える庭園は、ボッシュの街で見た国立研究院の敷地の木々同様に独特のデザインで綺麗に整えられた樹木が植えられている。
 クロノ達は美しい庭に和みながら通路を進んでいた。
 およそ緊張感とは真逆にありそうな3人だが、カナッツに案内されて進む闘技場への道すがら、彼女から不意に話があった。
 
 
「…みなさん、いいですか?」
 
 
 彼女の声は静かでいつものように冷静だった。
 彼女の問い掛けにクロノが答える。
 
 
「なんだ?」
 
 
 彼女は振り向く事も無く、歩きながら言った。
 
 
「次の試験では大統領閣下もお見えになります。また、国営放送MBSでも配信される大切な試合となります。つまり、この試合は国民の皆様の目に触れることをご了承下さい。」
「………え?………シズク、どういうことだ???」
 
 
 カナッツの話にいまいち理解出来ない彼はシズクに尋ねた。
 その尋ねられた方は、見るとそれは湯気が出てきそうなほど真っ赤な様子だった。
 
 
「ど、どういうことですって?それはねぇ、私達の姿が全国の皆さんに届けられますよ!ってことよ。おわかり???」
「…そうか。そんなに沢山の人が見るのかぁ。格好良くしなきゃな?」
 
 
 クロノは彼女の説明に困るどころか、全く動じていない様子だった。
 シズクがそんな彼の反応に腹が立ちつつも、カナッツに尋ねた。
 
 
「あぁーもう!!…ねぇ、それってもし『不測の事態』が起きた場合は、どうなるわけ?」
 
 
 カナッツはシズクの問い掛けに少し間を置くと、答えた。
 
 
「生放送ですから、そのまま流れるでしょうね。」
「…そう。」
 
 
 カナッツの言葉にシズクはぞっとするものを感じた。
 そして、その不測の事態が起こる可能性が高いであろうこの試合で、メディーナはあえて生放送中継をするというのだ。この国の政府が何を考えているのかは定かではないが、相当な動揺が国内に起こる可能性は否定出来ない。
 そうまでしてメディーナ政府がこの試合を「演出」する意味は何処にあるのだろうか。どちらにしても、メディーナ政府も相当の自信を持って挑んでいるのだろう。そうでなければ、単なる無能といわざるを得ない。
 だが、彼女は不意に疑問も感じた。
 この件でメディーナ国民であるミネルバの反応はといえば、驚くでもなく冷静だった。彼女の落ち着き振りはもはや珍しい事ではないが、彼女からすれば普通の事なのだろうか。
 
 闘技場のゲートをくぐると、長く暗いまっすぐな通路が続いていた。正面には日の光を浴びて白く輝く階段があり、どことなく雰囲気は試練の洞窟に似ている。
 カナッツを先頭に歩く3人は、次第に高くなる闘技場から漏れ入る騒めきの音に鼓動が高鳴るのを感じた。
 階段手前でカナッツが止まった。
 
 
「ここまでで私の案内は終ります。皆さんの御健闘をお祈りします。」
 
 
 そう言うと彼女は手を前へ向けて促した。
 3人は互いに頷き確認すると、クロノを先頭に階段を上った。
 光が視界に溢れる。
 
 
「チーム、ポチョの登場です!!!」
 
 
 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
 
 
 マイクで大きな声でチーム名が呼び上げられ登場が伝えられると、一斉に会場の観客達が声援を送る。白く艶やかに輝く丸い闘技場は日の光を浴びてキラキラと輝き、前方に見えるその舞台まで階段からの通路は続いていた。
 たぶん、このまま進むべきなのだろう。
 舞台には既にメーガスかしまし娘。チームやグリフィスチームが上がっていた。
 クロノは躊躇う事無く舞台へ上がった。
 
 
「全国の皆様、今期は3チームが揃いました修了生達です。
 試練の洞窟修了生闘技会は今期で通算57回目となりました。
 最初の第1回開催は20年前となる紀元13005年(王国歴1005年)からとなりますが、その後5年ごとに見直し、第一回時期は年1回の開催でした本試験も、その5年後には年2回、そのまた5年後には現在同様の年4回の季節開催となりました。
 今期の開催につきまして、共和国第6代大統領、ビネガー9世・ワイナード・ワイナリン閣下より開催宣言をお伝えします。」
 
 
 放送が終ると、闘技場に溢れていた歓声が静まり、観衆の耳目が一点に集中するのがわかる。その視線の先には舞台より上方に作られた美しい彫刻が施された観戦展望台より立ち上がり、観衆へ向けて手を振って笑顔で応える大統領の姿があった。
 クロノはビネガー9世大統領と聞いて昔のビネガーの姿を思い出していたが、実際に目前に見える人物は殆ど人間と変わらない顔をしていた。
 大統領がマイクの前に立ち胸に手を当てて敬礼をすると、観衆が一斉に同様の姿勢をした。よく見ると他のチームメンバーもそうしていたので、クロノも彼らに倣った。
 
 
「…国民の皆様、そして、世界中より本試験を楽しみに来て下さいましたお客様へ、私、ビネガーより心よりの感謝を申し上げます。
 本試験は共和国の発展において多くの人材を育て、供給する重要な役割を果たしてきました。我々に力の正しい扱い方を示し、文明社会の一員として担う役割をお示し下さいました国父ボッシュ博士が、本来であればこのご挨拶をされているわけですが、今大会へはご多忙ということもあり、私が僭越ながら代わりを務めさせて頂きます。
 人の王国が消えて20年あまり、世界は大きく変わりました。この20年は人類史を紐解いても比類なき激動の20年と呼べるでしょう。この僅かな時間、人と我々の間の関係もまた大きく変わりました。
 今や、我が国は勿論、遠く大陸における人と魔を持つ人々の違いは、時を経るごとに少なくなりつつあります。そして、人もまた我らの持つ魔の力に目覚め、その力を文明の力として活かし、我らとの良好な関係を望むような時代になりました。
 魔の力はいにしえの頃は悪しきものとして恐れられましたが、今では人の生活に欠かせぬ繁栄のための重要なファクターです。それ故に、本試験の重要度は年々増加しており、本試験修了生には多大なる期待を持って、我々の社会の一員としてがんばって頂きたいと思います。
 既に修了生の皆様には、本試験の合格が伝えられているものと思います。この闘技場での闘技は、それらの成果を披露する舞台です。存分に戦って、私達にその成果を見せて下さい。では、最後に、辛く困難な試験を合格された勇敢なる若者達。私は君達に輝かしい未来を築いてもらいたい。」
 
 
 大統領が深々と礼をした。
 それに向けて舞台にいる者たちは敬礼で答えた。
 大勢の歓声と拍手が一斉に湧き上がる。
 
 セレモニーはその後試合内容のアナウンスが有り、第一試合の開始が宣言された。
 舞台にはクロノ達チームポチョとメーガスかしまし娘。が上がった。
 
 
「はい、開始して下さい!」
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【122】CPss2第37話「合格」(3月14日号)
 REDCOW  - 08/4/12(土) 11:30 -
  
第121話「合格」(Cpss2第37話)3月14日号
 
 
 気を失ったハイド達に、ミネルバは静かに魔力を集中すると、彼らを癒しの光で包む。彼女のオーラが彼らの傷を癒した。ハイド達はオーラの癒しの力によって意識を取り戻した。
 ミネルバが手を差し出す。
 ハイドはその手を素直に握る。
 彼女は微笑むと、彼が立ち上がるのを助けた。
 
 
「…まさか、こんな結果は予想外でした。勿論、力の差は理解してましたが、この様な負け方は…。でも、勝負は勝負です。結果を受け入れましょう。」
 
 
 そう言うと、彼はポケットからプレートをとり出して、彼女に手渡した。
 
 
「ありがとう。ハイドさん。」
 
 
 彼女は礼を言い受け取ると、背後のシズクの方を振り向いてプレートを差し出した。
 シズクは彼女から受け取ると、ポケットから自分達のプレートを出した。すると、ハイド達のプレートから呪印が飛び出し、光を放って宙を舞いながら融合し、冥の呪印となってクロノ達のプレートに収まった。
 遂に、全ての呪印が揃ったのだ。
 
 
「これで、全て揃ったな。」
 
 
 クロノが二人を見て言った。
 シズクはプレートをポケットにしまうと、ハイド達の方を見た。
 
 彼らは自分達の魔力で傷を癒し、立って埃を払っていた。
 
 
「ねぇ、そもそもあなたは始めからこの仕組みを知っていたの?」
 
 
 シズクの質問に、ハイドが振り向いて言った。
 
 
「いえ、ただ、呪印の様な一定の属性を強く持った物質はそんなにあるものじゃない。たぶん、これは太陽石と同等の素材で出来ていて、その魔力吸収効果を利用して属性を与えているんじゃないかと考えたんです。その可能性が確信に変わったのは、4つの呪印が冥の呪印に融合した時だった。」
「それって、反属性同士が融合して冥が出来た…つまり、冥の均衡が起こっていたからよね。」
「はい。太陽石は元々は暗黒物質。自然界では太陽エネルギーを吸収する性質がありますが、素材自体は冥属性の均衡下にあるんです。つまり、冥の均衡は本来は異常ですから、必ず何かに結びつこうとする。その性質は何も太陽に限らない。人の持つ魔力もまた、その影響範囲にあるんです。」
「…確かに言われてみれば、魔力吸収する性質を持つ物質は多くないものね。」
「その通りです。」
 
 
 シズクは彼の洞察力に素直に感心していた。 
 二人の話はクロノからすればさっぱりだが、簡単に言えば、暗黒石は太陽の光を吸収することで太陽石になるが、その吸収前の暗黒石は元々太陽光に限らずエネルギーを吸収しようとする性質が有り、その性質を利用して呪印は作られているため、全ての呪印は吸収したエネルギーの属性に変化するというものだった。
 クロノがハイド達のもとに歩み寄り手を差し出した。
 ハイドは他の勝利者とは違い、堂々と握手を求めるクロノに笑顔で手を差し出した。
 二人の手がしっかりと握られる。
 
 
「君達の分まで頑張るぜ!」
「はい、あなたがたの戦いを見守っています。必ず勝って下さい。」
「あぁ。」
 
 
 クロノは力強く頷いた。
 二人は手を離すと、クロノは軽く手を挙げてチームメイトの元に戻った。
 そして、程なくしてクロノ達はハイド達のもとを去った。
 
 遂に揃った呪印を持ち、3人は入り口へ向けて歩き出す。
 この洞窟は相変わらず真っ暗闇だが、今は始めと違って洞窟の印象は明るい空間に変わっていた。それはこの洞窟で獲得した魔力を感じ取る力が、この暗闇に姿は見えなくとも沢山の人の輝きがあり、1人ではない確かな実感があるからだ。
 
 
「…この洞窟は、面白い空間だな。」
 
 
 クロノの唐突な言葉に、シズクが尋ねる。
 
 
「面白い?…まぁ、そうね。でも、どうして?」
「いや、最初は面倒だなって思ってたんだけどさ、俺はこの洞窟で始めて魔力ってものを知った様に感じる。今までは魔力は単なる不思議な力程度にしか考えていなかった。でもさ、ここでは魔力が目になり、手になり、足にもなることを知った。」
「そうですね。魔力はただの力ではありません。人の心が生み出す心の鏡でもあります。一説には、魔力にはもう1人の自分が隠れているとも言われています。」
「へぇ。」
 
 
 ミネルバの話に、クロノはバンダーのヘルファイアを思い出していた。
 あれほど強力な意思を持った魔法の化身とでも言うべきだろうか…そうした力すら生み出すことができる魔法。まだまだ自分には分からない事が沢山眠っているのだと、この試験を通してクロノは感じた。
 
 
「あ、見えたわ!」
 
 
 シズクが歓喜の声を上げる。
 遂に彼らの試験の終わりを告げる光が輝いているのが見える。
 3人は足取りも軽やかに、一歩一歩近づいた。
 そして、入り口へ辿り着いた。
 そこには審判のカナッツが中央で待機していた。彼女も既に分かっていたのだろうか。先にゴールしていたチームが両サイドでクロノ達が進むのを見ていた。
 3人はカナッツの前で止まると、シズクが全ての呪印がはめられたプレートをとり出して、カナッツへ手渡した。
 彼女は笑顔で高らかに宣言する。
 
 
「おめでとうございます!ポチョチーム、第二次試験合格を認めます。」
 
 
 その後はカナッツの正式な試験終了の放送が洞窟内部に響き渡り、全てのチームが入り口に帰還した。帰ってきたチームは早々に会場を去って行く。残ったのは合格した3チームのメンバーとカナッツ達審判団の姿だった。
 
 
「はい、まずは改めて皆さんの第二次試験合格をお祝い申し上げます。さて、ではこれから第三次試験についてご説明させて頂きます。
 第三次試験は総当たり戦となります。三チームそれぞれが一試合ずつして勝敗を決し、一番勝利数の多いチームが三次試験のトップ合格と致します。つまり、この試験を受ける皆さんには既にこの試練の洞窟での合格は確定しています。ただし、この試験を棄権すると合格は取り消しになりますのでご注意下さい。
 試合につきましては、明日正午開催とさせて頂きます。それまでの間は審判団の割り振りますお部屋にてお休み下さい。ただ、お部屋からの外出は禁止とさせて頂きます。何か必要なものがございましたらルームサービスでご用意させて頂きます。勿論、こちらの費用は全て試験運営本部でのご負担とさせて頂きますので、心置きなくご利用下さい。
 では、お休みに入る前に、明日の試合の取り組みを発表させて頂きます。
 
 第一試合、チームポチョ対チームメーガスかしまし娘。
 第二試合、チームグリフィス対チームポチョ
 第三試合、チームメーガスかしまし娘。対チームグリフィス
 
 以上の様な形で進行いたします。試合開始10分前に皆様を試験会場にご案内致しますので、それまでごゆっくりおくつろぎ下さい。」
 
 
 カナッツの説明後、三チームはそれぞれの部屋に案内された。
 クロノ達はカナッツの誘導のもと、試験会場の洞窟から上の階へ行くエレベーターに乗り、階数にして30階の高さにある部屋に案内された。
 その部屋はかなり広く、チームメンバーそれぞれの寝室とリビングやダイニングといった一通りの部屋の揃った展望部屋で、部屋の窓から見える景色は夕暮れの日の光に照らされた深い森の中に、壮大な規模の白が印象的な美しい闘技場の姿があった。
 これが明日の試合会場に違いない。
 
 
「では、何かございましたら、このドア横の電話にて承っております。明日の試合までごゆっくり疲れを癒して下さい。」
 
 
 カナッツはそう告げて部屋を出て行った。
 三人は唐突な案内でこの部屋にきて何をしていいのかさっぱりだったので、リビングのソファーに深々と身体を沈めた。 
 
 
「はぁ〜、さっきのカナッツの話だと、一応これで試験はクリアみたいだな。」
「えぇ。これでボッシュさんに会うための条件はクリアよね。」
 
 
 クロノとシズクは自分達の果たすべき条件はクリアした事を知って、半ば緊張の糸が切れていた。とはいえ、三次試験の総当たり戦の相手はどれも強豪。一難去ってまた一難という感も拭えない。
 
 
「あのぉ、ミネルバさん、さっきのハイド達との戦いで出した防御フィールドって、パーテクトなんですか?」
 
 
 シズクが不意に尋ねる。
 ミネルバは困った様な表情で答える。
 
 
「えーと、そうですねぇ、近いものではあります。」
「さっきもそういう話でしたよね。元は同じものでしたっけ?」
「えぇ。正式な名前は『三色昼寝つき絶対防御』と祖父は話していましたが、父が更に改良を加えて攻撃特性を付けたことから、父はこの魔法をマイティガードと改めて呼んでいます。」
「へー。でも、これって誰もが使える魔法なの?例えば、私でも…とか?」
「いえ、この魔法が使えるのは知り得る限り私の一族以外にはいません。」
「そうなんだぁ。じゃぁ、パーテクトと条件は一緒なんですね。」
「そうですね。」
 
 
 二人の遣り取りを聴いていたクロノだが、不意に腹の虫が鳴った。
 
 
「腹減った、何か頼もうぜ?」
「賛成!」
「ふふふ。」
 
 
 シズクも彼に同意し、そんな二人を見て微笑むミネルバ。
 三人は明日の試合に備えてゆっくりと夕暮れ時の幻想的景色を楽しんだ。
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【121】CPss2第36話「鬼だ。」(3月7日号)
 REDCOW  - 08/4/5(土) 14:28 -
  
第120話「鬼だ。」(CPss2第36話)
 
 
「僕らは負けるわけにはいかない!!!ランタ、ティタ、行くよ!」
「おう!」
「えぇ!」
 
 
 3人が構える。
 瞬時に魔力を集中すると、3人は魔力を結集して連携発動させた。
 
 
「ヴェイパーストーム!!!」
 
 
 あまりに急な攻撃に焦るクロノ達。だが、冷静にミネルバは水のトラップフィールドを展開すると、ハイドの水の魔力を吸収し連携の相乗効果を減衰させた。そして、続けてシズクとクロノが連携し天のバリアフィールドを展開。ヴェイパーストームは強固なフィールド効果によって相殺されてしまった。
 クロノが相殺した後すぐににシズクに目配せすると、シズクがハイド達へ向かってサンダガを連打で放つ。それに対してティタがトラップフィールドを展開して魔力を吸収すると、その魔力を利用してサンダガを返してきた。しかし、返されたサンダガはミネルバの形成した水のバリアフィールドによって減衰され、シズクのトラップフィールドで吸収された。
 だが、その時ハイドは判断ミスをしていた事に気付く。
 シズクの後方で魔力を溜めていたクロノの足元に魔法陣が形成されだしていることに気付いたハイドは、ティタとランタに呼びかけるとすぐに構えた。
 
 
「(シャイニング)」
 
 
 クロノの身体が宙へ浮き上がる。
 全身から湧き出す魔力は、まるで無尽蔵に感じられるほどに対象を威圧しただろう。あふれ出した力は彼の足元の魔法陣を中心に一気に支配を広げ、空間を青白い光で満たした。
 
 
「(やったか!?)」
 
 
 爆風で空間が溢れ返る。
 行き場を失った力は洞窟全体へ巨大な爆発力を伝える。しかし、洞窟内部は特殊な魔力のフィールドに包まれており、シャイニングの大出力も壁その物を大きく破壊する事はなかった。だが、その力の本来の標的であるものも壊すには至らなかった。
 
 
「…パーテクトフィールド。」
 
 
 シズクが呟く。
 ハイドの形成した絶対防御魔法であるパーテクトは、彼らを完全に安全に包み込み保護していた。シャイニングの爪痕は、彼らのフィールド周囲を中心にクレーターが出来るほどだったが、彼らには傷一つ付けられていなかった。
 
 
「…あの時と一緒かよ。」
 
 
 クロノは思い出していた。
 あの結婚式の夜、今の旅を始める切っ掛けの戦いの最中に目の当たりにしていた状況。
 自分の最大最強の魔法は、防御フィールドによって再び完全な形で阻まれたのだ。
 
 
「…如何にシャイニングが天属性最強のエインシェントスペルだとしても、その不完全な術式では僕のパーテクトを崩す事は出来ない。」
 
 
 ハイドが不敵に言った。
 背後でランタが魔法を放つ。
 突如クロノ達の目前に冥の魔力が急速に集り始める。
 
 
「(ダークボム!?)」
 
 
 シズクとクロノが合わせ掛けで天のフィールドを形成するが、そのフィールドの形成に合わせるかのように冥の魔力がフィールド内部に進入する。
 
 
「(間に合わない!!)」
 
 
 クロノは咄嗟にサンダガを放って魔力集中の分散を図るが、もはやその程度で制御し得るほど小さな出力ではなく、逆にその魔力ごと飲み込まれた。
 臨界に達する。
 
 
 ドドォォォォォォォォォーーーン!!!
 
 
 完全にクロノ達の至近距離で爆発を起こしたダークボムだが、ランタは手を抜かずに連続でダークボムを放ち、相手が反撃する暇を与えない腹積りでいた。だが、一度に放てる魔力にも限界がある。特にハイド達はクロノ達と比べれば圧倒的に魔力放出可能量は限られている。ハイドはランタの攻撃を制止すると、クロノ達の状態を確認した。
 パーテクトの青白い輝きに照らされ、次第に爆風が晴れて向こう側が見え始める。
 そこには、ハイドの全く想定外の事態が起っていた。
 
 
「…そんな、どうして…」
 
 
 そこに現れたのは、自分達ど同様に青白い輝きのヴェールに包まれたクロノ達の無傷な姿だった。そして、それを放っているのは1人の女性の様だった。
 
 
「…ハイドロン無しでパーテクトを…しかも…1人で。どうして!?」
 
 
 ハイドの困惑の言葉に、クロノ達の前に立ちフィールドを形成するミネルバが静かに答える。
 
 
「…私の使う魔法は、あなたのパーテクトではないわ。でも、そうですね、私の使う魔法もまたパーテクトと同じ効果を持っている。…元は同じものですもの。」
「…まさか、あなたは…!?」
「察しの通りです。…私達の家系はパーテクトフィールドの問題点に早い段階から気付いていました。この力を本来の目的通りに機能させるには、その発動条件のハードルは後々私達自身のリスクになることを予見していました。ですから、私達の先祖は、この魔法の単独発動を模索したのです。…そして、先祖であり、我が一族の宗主は完全な防御フィールドの単独発動に成功したのです。」
 
 
 彼女の話を聞くハイドは呆然といった表情だった。
 彼同様に困惑する背後の二人も、動揺の色を隠せない。
 しかし、ハイドは気を引き締めると、フィールドを強化して言った。
 
 
「その様な亜流の力に、我が一族一万年の歴史を重ねて完成させたパーテクトが負けるはずが無い!!!」
 
 
 ランタが再びダークボムを発動する。
 だが、ミネルバの防御フィールド内部にはダークボムの魔力は進入できない。ランタが焦り試行を繰り返すが上手く行かない。
 ミネルバの口が開く。
 
 
「その魔法はパーテクトのフィールドに極小の穴を開けて、そこから魔力を供給することで、あたかも外部に自由に魔力を行使できるように見せかけているだけのもの。確かにそのコントロールは元祖と認めますわ。でも、我が一族が昔のままだと思ったら大間違いです。」
 
 
 そう言うと彼女は魔力を集中する。
 すると、フィールドから無数の突起が発生し、それはやがてポコポコと空中へ飛び出すように浮き上がる。そして、ミネルバが意識を集中すると、ハイド達目掛けて突進を開始した。
 
 
「!?」
 
 
 ハイドがフィールドへの魔力を強化する。
 だが、それは彼にも信じられない事だった。
 ミネルバの魔法はフィールドを難なく貫通し、ハイド達へ直撃したのだ。
 彼らが直撃を受けて背後の壁面へ突き飛ばされる。
 
 
「ぐあぁああ!!」
「きゃぁ!」
「ぐっ!!」
 
 
 直撃を受け壁に激突した彼らは、そのまま倒れ込んだ。
 
 
「あ、…えーと、…み、ミネルバさん?」
 
 
 今までの戦いと一回りも二回りも違うミネルバの戦いに驚くクロノ。シズクも唖然といった表情だ。確実にいえる事は、この戦いはどうやら彼女の勝利だ。
 ミネルバは魔法を解くと、ゆっくりハイド達に近づいた。
 彼女が近づいてくるのを見て、ハイドが必死に立ち上がろうとする。
 
 
「ま、まだ、勝負は終って、いません!」
 
 
 彼の言葉とは裏腹に身体は言うことを聞いてくれないようだ。彼の身体はよろめき、前方に向かって倒れそうになるのを必死にこらえて踏み出して支えようと踏ん張るが、それすらも間に合わぬようによろめく傾きの方が彼の身体の自由を奪っていた。
 ミネルバは倒れ込む彼を支える。
 
 
「…立派でした。でも、私の方が今回は上でしたね。」
 
 
 彼女の言葉に彼の目前の視界が真っ白になった。
 気を失ったようだった。
 
 
「………鬼だ。」 
 
 
 それを見ていた周囲の者達の誰もが、心の中でそう呟いていた。
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【120】CPss2第35話「変化」(2月29日号)
 REDCOW  - 08/3/29(土) 13:24 -
  
第119話「変化」(CPss2第35話)
 
 
 クロノ達は洞窟の奥深くの空洞に来ていた。
 そこでシズクが火を放ち明かりを灯すと、貰った呪印球を一つ取り出した。
 シズクの取り出したのは水の呪印だった。
 
 
「呪印を変えるということは、たぶん、今出ている属性を相殺する魔力を注入し、相殺した後で欲しい呪印の魔力を注ぎ込めば変化するんじゃないかしら。…試しにまずはこの水の呪印を火の呪印に変えてみるわね。」
 
 
 シズクはそう言うと呪印を左の手のひらに置くと、右手で魔力を注ぎ始めた。
 すると、水の呪印が火の呪印の様な橙色のマーブルが入った模様を浮かべて変化し始めた。彼女はそのまま魔力を注ぎ続ける。
 
 
「あ、変わった!」
 
 
 遂に水の呪印の刻印が火の呪印の刻印に変化した。
 それは紛れも無い、橙色の火の呪印球だった。
 
 
「……マジだな。ってことは、地の呪印は天の魔力を注いで行けば天の呪印か!俺、やってみるぜ!貸してくれ!」
 
 
 クロノが目を輝かせて右手を差し出した。
 シズクが笑って地の呪印を彼の掌の上に置いた。
 彼は左手をかざすと、魔力を注ぎ始めた。すると、水の呪印の時と同様に地の呪印に天の呪印の様な白く透き通ったマーブルが入り始めた。
 
 
「行け行け行け!!!おーしおしおし!!キタァーーーーーーー!!!」
 
 
 彼の歓喜の叫び通り、地の呪印は見事に天の呪印に変化した。
 これで属性のある呪印は全て揃った。だが、最後の一つ、冥の呪印を作らなくてはならない。
 
 
「あのよぉ、冥ってどうやって作るんだ?」
「う〜ん、単純にとりあえず属性を打ち消した状態が冥よね。まぁ、地の呪印でまず中和してみたら良いんじゃないかしら?」
「オッケー!」
 
 
 シズクはそういうと、もう一つの地の呪印球を彼の手に乗せた。
 クロノは魔力をそっと込め始めた。
 ゆっくりと魔力が注ぎ込まれ、マーブル状の模様が浮かび始める。それは次第に明るい色に変わり始めた。そして、
 
 
「あ、天に変わっちゃったじゃない!注ぎ過ぎよ!!!」
「あ、わりぃー、仕方ない。ここはミネルバさんの出番だな。」
「わかりました。こちらへ。」
 
 
 ミネルバが左手を差し出した。
 頭をポリポリ掻きながら、クロノはミネルバに呪印球を手渡した。
 それを受け取ると、彼女はゆっくりと地の魔力を込め始めた。天の呪印球はゆっくりと黒いマーブルが入り始める。だが、また込め過ぎてしまったのか地の呪印に変化してしまった。
 
 
「あれ、そんなに込めていないはずなんですが…ごめんなさい。」
「っかしぃなぁ。…もしかして、冥は作れないじゃないか?」
「ちょっと貸してみて、私がやってみる。」
 
 
 シズクはミネルバから呪印球を受け取ると、今度は彼女がゆっくりと時間を掛けて天の魔力を注ぎ始めた。それはとてもゆっくりと確認するように込められた。だが、またしても地の呪印は、冥という刻印は一瞬たりと出ずに天の呪印に変わってしまった。
 
 
「…う〜ん、どうしてだろう。これは元から冥の変化はやっぱり無いみたいね。」
 
 
 その時、ミネルバが言った。
 
 
「あの、もしかしたらですけど、冥の呪印球は4つの呪印球が集らないと作れないんじゃないかしら…?」
「…そうかもしれないわね。ってことは、ハイド達も私達を必要としているってことになるわね。」
「…その通りだよ。」
 
 
 その声は3人の背後の入り口から聞こえた。
 そこには彼らの話していたハイド達、コア・ガードチームの3人の姿が有った。
 
 
「…あら、随分とタイミング良いわね。」
「ははは、皮肉屋だなぁ。シズクさん。」
 
 
 ハイドが微笑んだ。
 シズクはプイと顔をそらす。
 そんな彼女に苦笑しつつ、横からクロノが言った。
 
 
「どうやら、君達と戦わないとクリア出来ないみたいだな。」
「そうなりますね。ただ、僕は予想外でした。本当はファイアブラストかメーガスと戦ってクリアかなと思っていたから、ここであなた方と戦う事になるとは思っていませんでしたよ。」
「あぁ、俺達もこんなにてこずるとは思ってなかったぜ。ははは、でも、お陰で色々とここの事が分かってきた気がするぜ。」
「…そうですか。さて、長話は不要でしょう。ここは決着をつけるべき時です。」
「そうだな。」
「あなたは強い。だから、僕らは全力で戦わせて頂きます!」
「あぁ、望むところだ!!!」
 
 
 両者一斉に構えた。
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【119】CPss2第34話「託す」(2月22日号)
 REDCOW  - 08/3/29(土) 13:22 -
  
第118話「託す」(CPss2第34話)
 
 
「なんだ、お前達まで来たケロ?」
 
 
 クロノ達の姿を見て驚いたようにカエゾーが言った。
 見ると、そこにはフロノ・ノ・コリガーチームと腐れ縁チームの姿が有った。
 クロノは彼の言葉を聞いて尋ねた。
 
 
「ん?までって、もしかして、ハイド達も来たのか?」
「そうケロよ。」
 
 
 その質問に横から笑顔でカエミが答えた。
 そして彼女は続ける。
 
 
「そういえば、バトルを申し込まれたケロ。でも、話に聞けばもう枠が埋まっているそうケロね?だから、必要な分だけあげたケロよ?」
 
 
 どうやら、彼らはハイドの話を聞いて試験が終ったものと思ったらしい。ならばとばかりに、クロノ達はその言葉に乗る事にした。
 
 
「その、俺達も呪印が欲しいんだ。良かったら君らから一つずつで良いから、君達の呪印が欲しい。」
 
 
 クロノの言葉に奥に座っていたヒカリが言った。
 
 
「どういうことだ?…お前達といい、コア・ガードといい、そんなものを今更集めてどうするんだ?」
 
 
 クロノは彼のズバリな質問に答えに窮する。
 そこに、彼の質問にシズクが前に出て答えた。
 
 
「実験よ。」
「実験?」
「…呪印は5つ必要だけど、既に枠は埋まったわ。でも、試験の終わりは宣言されていない。変だと思わない?」
「…確かにな。だが、それがどうして呪印を集める事になる?」
「残った呪印で何が出来るのか、最後まで試してみたいのよ。私達はまだこの試験には裏道が残されている様に思うの。」
「…そうか。だけどよ、お前達は何の為にこの試験を受けているんだ?…思えば、お前達は一体何者なんだ。見たところどう見てもただの人間だろ?なのに、なんでそんなに強力な魔力を持っている。」
「それは…。」
 
 
 シズクはさすがに何て答えて良いのか分からなかった。
 しばしの沈黙が辺りを支配するかに思えたその時、クロノが言った。
 
 
「俺達は人間だ。でも、魔力を持ってしまった。だけどさ、本当は人間も魔族も元は同じなんだろ?…なら、人間の中にも魔力を持っていることを知らずに育つ奴だってきっといる。いや、正しくは眠っている奴ってとこか。俺はその中で目覚めてしまった奴だ。魔力については、俺にも分からない。ただ、俺は知りたいんだ。俺達が魔力を持った理由だけじゃない。色々なことをボッシュに聴きたいから、ボッシュが示した条件にしたがってこの試験を受けている。」
 
 
 クロノの話にヒカリは勿論、彼の仲間やフロノ・ノ・コリガーチームの面々も驚いた表情をしている。
 
 
「…おい、それって、つまり、ボッシュ様に会う為にやっているってのか?」
「そうだ。」
「………、ボッシュって呼び捨てているけど、お前、ボッシュ様がどんな方か知っているのか?この国の父だぞ?そんな雲の上の人物にお前みたいな人間が会わせてもらえるわけないだろ?」
「…でも、魔力は凄いケロね。それだけの力があるなら、ボッシュ様じゃなくても注目はするかもケロ…」
「…。」
 
 
 二つのチームのメンバーは、クロノのあまりにも突飛な話にどう考えていいのか困惑していた。彼の話が本当だとしたら、この人間達は一体何者なのかという謎が更に深まる様に感じられた。
 そこに腕組みをして静かに座っていたベンが言った。
 
 
「…その昔、国父ボッシュ様には若い人間の友人が居たという。その人は人間達の王国の若い夫妻だった。」
「…おい、ベン。それって、俺にだって分かるぞ。滅んだ王国の死んだ王太子夫婦のことだろ。名前は確か…マールディア・ガルディア王女と、その婚約者の名前がトラシェイド公………トラシェイド………クロノ・トラシェイド………クロノ・トラシェイド!?って、おい、マジなら今は40超えたおっさんのはずだろ!?」
「…トラシェイド公にはもう一つの伝説がある。」
「…未来を救った…ケロ?」
 
 
 カエミの言葉に場の雰囲気は一層混乱に拍車が掛る。
 
 
「待てよ待てよ、おい、なら、何か?こいつがトラシェイド公で、未来の時代であるここに来たってことかよ。んな阿呆なことあっか!」
 
 
 ヒカリの反発に、ベンが冷静に言った。
 
 
「ヒカリ、これは全て推測だ。彼がトラシェイド公であるとは限らない。第一、君の言った通り、本当なら彼の若さを説明できない。もしそれさえ本当だとしても、過去から未来へ飛ぶなんて話を納得できるはずも無い。…だけど、冷静に考えてみよう。僕らの目的は何だった。」
「…黒薔薇を倒すことだ。」
 
 
 ヒカリの言葉に、クロノ達の方が今度は驚いた。
 
 
「黒薔薇!?おい、どういうことなんだ!」
 
 
 クロノの予想外の反応にヒカリは困惑しつつ言った。
 
 
「俺達の一族は奴らに殺された。ベンのゾガリ一族も、俺のイジューインも、イーマのター一族も、黒薔薇の暗躍にしてやられた。奴らは20年前の戦いで手を焼いた、エインシェントを継承するティエンレン一族を恐れている。」
「どうやって、ここに黒薔薇が来ると知ったんだ?」
「政府のエージェントが俺達の様な一族を保護している。情報は彼らからだ。」
「…そうか。」
 
 
 クロノは彼らの話から大枠が見え始めた様に感じた。
 確かにクロノも変だとは感じていた。これほどの魔力の高いメンバーが一度に集る事があるのだろうかという事は勿論、黒薔薇の存在すら不自然な符合と言えた。少なくとも、メディーナ政府は自分達の存在を確実に掴んでおり、その存在を利用している可能性は否定できない状況だろうと言えた。
 
 
「俺達はコア・ガードのハイドも黒薔薇を追っていると聴いた。そして、たぶん、その黒薔薇がグリフィスだということも突き止めた。だが、この状況を見るに、ここに集っている受験者はみんな黒薔薇に何らかの縁がある奴ってことなんじゃないか。」
 
 
 クロノの言葉にベンが頷いて答えた。
 
 
「あなたの話した通りだと思います。フロノ・ノ・コリガーチームは大陸フィオナ出身。フィオナでは黒薔薇の暗躍で、魔法剣の名門フォレスト家の長子が行方不明と聴く。」
 
 
 ベンの話にフログが頷いた。
 そして、おもむろに人間語で話始めた。
 
 
「如何にも。」
 
 
 彼はそう答えると、静かに目を閉じて瞑想する。
 すると、彼の体から膨大な蒸気が飛び出した。それは彼の体を一瞬見失うほどの量だった。その蒸気が晴れると、そこには緑髪の人間の姿が有った。ただ、その姿は人間というよりは魔族の特徴を多く持っている。
 彼は姿勢を正し、呼吸を整えると話した。
 
 
「…驚かれただろうが、この姿の変異はフォレスト家の血縁者のみに現れるフォレストの血。我が家はフォレスト家とは無縁ではない。フォレスト流剣術を継承する血縁一門衆である。此度は首長会の決定に従い、メディーナ政府の情報に基づいて派遣された、いわば調査隊としてここに来ている。勿論、可能であれば確保/処刑もその視野に入れていたが…この試験のレベルの高さに少々驚いてもいた所だ。しかし、目的を同じにする者達が集っているというならば、頷ける。」
「フログ様、良いんですか!?ご身分を明かされても。」
「…案ずる事は無い。既にグリフィスというチームが抜けているのだろう。ならば、ここにはメディーナ政府が用意した刺客兼エサの我々が居るのみということだろう。」
「エサケロ!?」
「そうだ。我々は皆揃いも揃ってエインシェント使いだ。ならば彼らの目的に合致するエサだということだ。」
「…なるほどケロ。」
「しかし、だとしたら、なぜメディーナ政府はグリフィスを捕らえない?」
 
 
 ヒカリが当然誰もが思う疑問を述べた。
 それに対して、ミネルバが静かに言った。
 
 
「…ビネガードクトリンの縛りね。私達は人間の争いに関与しない。故に人間との争いも極力避け、兆発・脅しに乗らないことを主義として掲げている。これは、長い時代の倣いに従い、我々の動く道としての大切な基本原則。」
「それが、パレポリを野放しにする事をよしとするってのかよ!」
「それは、私達にも尊厳が有る。私達の自由と自立が脅かされるならば、少なくとも私は立ち上がります。」
「…。」
 
 
 ヒカリは彼女の言葉にそれ以上反論を出す事が出来なかった。
 確かに彼女の言う通り、誰もが感じている事でありながら、それを変えないのには意味があり、同時にそうした縛りは自分達自信の必要に応じて変える事もできるということは、誰にも分かっている事だった。それをしないのは誰のせいでもない、自分自身の問題なのだと。
 そこに、フログがクロノの方を振り向いて言った。
 
 
「クロノ殿、あなたに我らの呪印を託そう。」
「良いんですか?…その、俺達を信じて。」
「…信じるも何も、我々には力が無い。力が無い者に語る資格は与えられない。だが、そうした者にも『託す』ことは出来る。己の信じる道を進むと思える者に、それが実現可能だと思える者に。我々はあなた方に託してみようと思う。」
「…有り難う。」
「待った、その提案、俺達も乗るぜ。俺達の呪印も持って行け。たぶん、奴らに勝てるのはお前らくらいじゃないと無理だろ。」
「ヒカリ………、ベンくん、君も良いのかな。」
「…一応リーダーだからねぇ。それにボクもイーマも同意見かな。イーマ?」
「えぇ。彼の言う通りよ。」
「ということだ。納得してくれたかな?」
「有り難う。みんな。」
 
 
 クロノは彼らに感謝し深々と礼をした。
 その姿は見る者に何かわからないが神々しく感じるオーラが有った。
 そんな彼にヒカリが立ち上がって小突いた。驚き困惑して頭を上げたクロノの腕を掴み、彼はがっちりと握手して言った。
 
 
「絶対勝てよ。」
「あぁ。必ず。」
 
 
 クロノも強く握り返し答えた。
 その後、クロノは2チームの全ての呪印を譲り受け、天の呪印の間を後にした。
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【118】CPss2第33話「枠」(2月15日号)
 REDCOW  - 08/3/29(土) 13:21 -
  
 遅くなっておりますが、徐々に取り戻して行けたらと思います…。
 一挙掲載ですが、あんまり取り戻せてないなぁ。|-゜)

第117話「枠」(CPss2第33話)
 
 
「やられた。」
 
 
 シズクは力なく言った。
 その場に居た全ての者がそう思っていた。
 これでメーガスかしまし娘。が抜けたことで、2チームが抜けたと考えられる。そして、たぶん、この試験はこれまで分かってきたことを総合すると、一つのチームが抜ける為には2つのチーム分の呪印を集める必要があるということであり、参加していた8つのチームの内の4チームは必ず敗退することになる。そして、より厄介な問題は「呪印を集め損なう」チームの存在があり、実際は4チーム未満しか通貨不可能だということだ。
 これまでに確実に分かっている事は、ファイアブラストチームは火の呪印を入手することに失敗していること。他にも乙子組、フロノ・ノ・コリガー、腐れ縁の3チームは天の呪印の入手に失敗している。この段階ですでに2チーム分の枠は消えていることになる。
 となると、今抜けたメーガスかしまし娘。チームの合格で枠が埋まったことになる。
 
 
「…さて、枠は埋まった。俺らは先行くで。じゃあな。」
 
 
 バンダー達はそう言って静かにスタート地点へと歩いていった。
 クロノもそれを見て歩き出そうとしたその時、シズクが言った。
 
 
「待って、ねぇ、ちょっと変じゃない?」
 
 
 彼女の言葉に二人の足が止まる。
 クロノが振り向いて尋ねた。
 
 
「何でだ?」
「考えてみてよ。今まであれだけルールだの言って強制してきた審判のカナッツが何も言わないのっておかしくない?普通に試験が終ったなら、何か放送で呼びかけても良い訳よね?じゃないと、まだダンジョンに居る人達はずっと彷徨い続けることになる。」
「…確かにな。でも、バンダー達が言った通り、計算上は枠が埋まってるだろ?」
「えぇ。でも、ハイド達の言っていた言葉が気になるじゃない。」
「まだまだ方法はある。…でしたわね。」
 
 
 ミネルバがハイドの言葉を言った。
 シズクがそれに頷く。
 
 
「えぇ。彼は方法があるって言ったわ。つまり、この試験には敗者復活の仕組みが隠されているってことじゃないかしら?」
「…しかし、そんな話は一度も聞いた事がありません。試験合格者は必ず呪印を持ち帰っているのですから。」
「そこよ!例えばよ、今ある呪印だけど、全ての枠が埋まった段階で二つ以上ある呪印を交換してくれるとかって窓口がどこかに出来るとか?」
「それは有りません。この試験はもう一度受けられる以上、そうしたサービスを設ける必要が無いので設置されていないはずです。」
「…それもそうよねぇ。普通に考えたら、何度も受けられるものなんだもんね…。うーん、でも、何か引っかかるのよねぇ。」
 
 
 その時、シズクはふっと思い浮かぶものが有った。
 それはコア・ガードチームの呪印がグリフィスチームのプレートへ、冥の呪印となってはまる瞬間のものだった。
 
 
「………あ!?」
「どうした、何か分かったか?」
「冥の呪印よ!」
「?」
「冥の呪印は4つの呪印が集る事で一つの冥の呪印が生まれるでしょ?ってことは、4つの呪印は冥に変換されたわけよね。」
 
 
 二人がこくこくと頷く。
 シズクは真剣な表情で話を続けた。
 
 
「変換できるということは、呪印のエネルギーは変異するものってことだから、こうは考えられないかしら?呪印はどれも元は一緒だってこと。…つまり、火の呪印は水の呪印にも変わるんじゃないかしら?」
「………、だとすれば、さっきハイド達がバトルしたっぽい魔力の動きは頷けるわけか。」
「そうですわね。彼らの行動がシズクさんの言葉通りだとすれば、残された呪印を集める行動の理由になる。ならば、急ぎましょう。私達の手元の2つの他にあと3つ集めれば、理論的には全て揃える事が可能になります。」
 
 
 3人は頷くと、急いでダンジョンの奥深くへと走って行った。
 3人が去ったのを見て、そこに静かに彼らの来た道を進む者があった。
 
 
「…ツー」
「きゅー!」
「…カー」
「きゅー!」
「…行くわよ。」
 
 
 コツコツとヒールの靴音が響く。
 そこにのしのしと二人の大男が彼女の背後に続く。
 
 
「(…へー、色々と考えるのね。ま、私の知った事じゃないけど。スイソ族の坊やの行動がそう繋がるとはね。…なら、上がってくるのはどちらかしら。…どっちが来ても、私の勝ちは揺るぎないけど。)…フフフ。」
 
 
 グリフィスチームはまだゴールしていなかった。
 だが、彼女達は遂にゴールした。
 
 
「おめでとうございます!グリフィスチーム、第二次試験合格を認めます。」
 
 
 ここに完全に2チームが正規の手順で抜けた。
 
 
 クロノ達は天の呪印の間へ走っていた。
 そこには3チーム残っていたはずだ。ハイド達も3チームと総当たりで戦うことはないだろう。だとしたら、先ほどの戦闘反応での1チーム分を引いた2チームはまだ居ると見て良さそうだった。
 考えを整理すると、現在2チーム16コの呪印が消えていることになる。残っている数は乙子組と腐れ縁とフロノ・丿・コリガーチームに推定で10コ程度残っていると考えられる。とすると、ファイアブラストが抜けている現在、ハイド達が仮に5つ入手しても5つ残り、クロノ達が入手出来る数は残る計算だ。
 何より、現在の状況は普通に試験を受けていては「誰も合格できない」という状況であり、必ずどこかのチームと遭遇しなければならない状況下にある。勝手に抜けられる可能性は無いが、なるべく早く動く事に越した事は無い。
 
 
「もうすぐね。」
 
 
 迷路の闇を明るく照らす白い四角が近づいてくる。
 呪印の間に近づくにつれて視覚が戻ってくる。
 暗い闇ばかりの迷路だが、光があるということはそれだけで安心できるのは不思議なことだ。
 
 クロノ達は天の呪印の間に到着した。
引用なし
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【117】CPss2第32話「ゴール。」(2月8日号)
 REDCOW  - 08/3/21(金) 10:28 -
  
第116話「ゴール。」
 
 
「をほほほほほほほほほほっ!!!逃がさないわよ〜〜〜。」
 
 
 なんと、そこにはメーガスかしまし娘。の姿があった。
 彼ら三姉妹がバンダー達の前に立ちふさがる。
 
 
「クソ女、そこどけ!」
「あ〜ら、随分と言ってくれるじゃないわけ?おたくみたいな赤い赤いチェリーちゃんには私の魅力はわからないわけ?可愛そうなわけ?そうなわけ〜?をほほほ〜♪」
 
 
 バンダーはこんな問答につきあっている余裕は無かった。
 彼の判断は速かった。
 ファイアブラストのメンバーが強行突破を試みる。
 しかし、
 
 
「マルタ、リーパ。」
「はい、お姉さま!」
「はい、お姉さま!」
 
 
 反応するのは三姉妹の方が僅かに早かった。
 
 
「うぐはぁ!?」
 
 
 バンダー達は突然空間の壁にぶつかり、全身を強く打ち付けてしまった。
 なんと彼女らは通路上に見えない壁を作り出していたのだ。これでは、もはや彼女達の申し込みを受け付ける以外に選択肢は無い。
 バンダーは思わず唇を噛んだ。

「(この一番良いところであいつらは…)…あんたら、そないに俺のことが好きなんか?そうなんか?そりゃー、有り難迷惑って奴やなぁ〜はっはっは。」
「自意識過剰も休み休み言った方が良いんじゃないわけ〜?…あたしはねぇ、目前に立ちふさがる良い男をひれ伏させるのが好きなわけ。そこんとこ、よろしく。ウフフ………さぁ、勝負よ!」
 
 
 そう言うや否や彼女達はお決まりのフォーメーションを組み、早々と準備を整えた。
 
 
『デルタ!リフレクターーー!!!」
 
 
 アミラが高らかに叫ぶと、彼女達の周囲に鈍い輝きを放ったフィールドが形成された。
 バンダーは心の中で苦笑していた。
 彼の目論みでは彼女達に対峙するのは「万全な体制」が整った後のはずだった。しかし、現在はクロノ達との戦いで既に大幅に消耗し、切り札であるヘル・ファイアも使った後だった。この状況で彼女らのフィールドを破壊するのは容易な話ではない。
 彼の想定し得る最悪の状況といえる。だが、それをそうだと認めたところで何かが起るわけではない。
 
 
「…(道が無いなら、作ればいい。)メンバル!ヤッパ!俺に魔力よこせ!」
「!OK!」
「…うん、わかった。」

 
 二人はバンダーの要請に従い、自らの魔力をバンダーに託した。バンダーはそれらの魔力を得て魔力を回復させると構えた。
 
 
「(…二人の残り少ない魔力を集めてもこれだけか。…いや、こんなにあるんや。これを大事に使わんでどないする。誰の戦いでも無い。俺の戦いや。)…ほなら、いっちょ気張っていくぜ!」
 
 
 バンダーが魔力を集中する。
 彼を中心に急速に魔力が上昇し、その圧力が熱となって空間に伝わる。
 
 
「…我が血に眠りし炎の化身よ、その盟約を今解き放つ。」
 
 
 彼が唱え終えると、瞬時に彼の足元を中心に魔法陣が展開され、炎が吹き出す。そして、一際大きな炎が吹き上がると、そこに新たなる存在が現れた。
 
 
「…ほぅ、二度目か。だが、随分と余裕の無さそうな顔付きだな。はっはっは、良いぜ。その顔。そういう顔じゃなきゃ、俺も燃えねぇからなぁ。」
「…ごたごたうるせぇ!我がサーバント、ヘルファイア!その炎で、目前の敵を焼き尽くせ!フルパワーだ!!!」
「…ほぉ、いいぜぇ!やってやる、その代わり、お前の体はしらねぇぞ!はっはっは!!!」
「っち。」
 
 
 ヘルファイアが構える。すると、彼を中心に真円を描いて炎が吹き出した。そして、次々にその輪が描き出されると、そこから煮えたぎるマグマがふよふよと漂うように上昇して壁を作った。
 
 
「(人の事言えないけど、嫌らしい魔法ね。さすが最強の炎術師の家系は伊達じゃないわけ)」
 
 
 彼女は一層魔法に集中する。
 そんな彼女の緊張を察して、二人の妹も姉に従うように真剣な眼差しになった。
 
 
『ボルケーノ』
 
 
 ヘルファイアが唱えると、メーガスかしまし娘。の反射フィールドに灼熱のマグマが襲いかかる。マグマはその膨大な熱でフィールド内部の人間を焼き尽くさん勢いだ。
 
 
「へっへっへ、如何にフィールドが最強だろうが、魔力の放つ熱には勝てねえだろう。」
「…ふふふ、寝言は寝てから言ってくれないわけ?ブルーアース!!!」
 
 
 アミラはエレメントを発動。ブルーアースがフィールドを水属性に転換した。すると、急速にヘルファイアのボルケーノの出力が低下し始めた。そこに、彼女は間髪入れずに構える。
 
 
「あたしらが防御専門だと思っちゃ間違いなわけ。…リーパ、マルタ?」
「はい、お姉様!フラッド!」
「はい、お姉様!アイスバーグ!」
 
 
 リーパとマルタのエレメントが発動する。
 巨大な流氷の津波がヘルファイアへ向けて襲いかかる。
 ヘルファイアは両腕を前につき出して防御の構えをした。
 そこに流れが襲いかかる。ヘルファイアの全身から炎のフィールドが膨大に吹き出して、前方から流れてくる全ての水を蒸発させ始める。
 
 
「…しぶといわねぇ。なら、あたしがフィニッシュなわけ。」
 
 
 アミラが二人の妹の攻撃では倒せない事を見越していたかのように、集中していた魔力をフィールドから前方に集約した。
 
 
「押して駄目なら引いて見ろと人は言うけど…あたしは更に押してあげるわけ。リフレクター攻撃形態!デルタ・リフレクトリーム!!!」
 
 
 リフレクターフィールドが前方に集中したかと思うと、その魔力を前方に突き出してアミラが突進した。リフレクトフィールド纏ったアミラが進む道の全ての魔力が濃密に圧縮されたリフレクトフィールドの斥力によって弾かれ、彼女の進む道を開ける。
 
 
「…ぐぅ、女、やるな。」
「…うふ。」
 
 
 アミラの右ストレートが完璧にヘルファイアの懐に決まった。
 ヘルファイアはその衝撃で姿を保てなくなり、光の粒となって消滅した。
 その強烈な衝撃は術者であるバンダーにも伝わった。
 
 
「…ぐぅぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…参った。」
「バンダー!?」
「…バンダー。」
 
 
 メンバルが駆け寄り彼のよろめく体を支える。ヤッパも心配で彼の近くに寄った。
 バンダーは彼らの支えを受けながら懐から呪印プレートを取り出した。
 
 
「…負けたからな。さぁ、受け取れ。」
「…あんたはなかなか楽しめたわ。強くて良い男は大好きよ。そして、潔い所はもっと好きね。」
 
 
 そう言うとアミラは近づいてにっこり微笑むと頬に口付けし、彼からプレートを受け取った。
 
 
「な!?」
「うふ。」
「ちょ、ちょっとー!」 
 
 
 バンダーは虚を突かれ驚き、メンバルは彼女の行動に憤る。
 そんな二人にお構いなくアミラはプレートを受け取って、前方に向かってダッシュを始めた。それに続くように二人の妹もダッシュして続けた。
 
 彼女達は暗い洞窟から光有る方向へ一心不乱に走り続けた。
 そして、遂に…
 
 
「おめでとうございます!メーガスかしまし娘。チーム、第二次試験合格を認めます。」
「やったわー!!!よく頑張ったわ!あたし達!」
「はい、お姉様!」
「はい、お姉様!」
 
 
 第二次試験合格チーム「メーガスかしまし娘。」決定。
 
 
「…あ。」
 
 
 …その場に居て、輝きに向かってあまりにも爽やかに走る彼らを見て、バンダー達はともかく、クロノ達は彼らから奪う最大のチャンスであったものを見逃してしまった。
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【116】クロノプロジェクトをご覧の皆様へ。
 REDCOW  - 08/3/2(日) 23:01 -
  
こんばんは、REDCOWです。
ここ暫く更新が滞って申し訳有りません。

とりあえず、遅れている分は徐々に掲載して行く予定で進めてはいるのですが、毎週連載は守れそうにないです。不規則ですが、出来上がり次第毎週金曜を期日に掲載できればどんどんするという形で対応してゆきます。

今現在の私自身のモチベーションを上げられない事情があって、それをどう折り合いつけて良いのか正直わかりません。本当に楽しんで下さっている方には申し訳ないと思いますが、再開をお待ち下されば幸いです。

これからもクロノプロジェクトで楽しんで頂けたら有り難いなと思います。
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【115】CPss2第31話「ヘルファイア」(2月1日号)
 REDCOW  - 08/2/15(金) 16:48 -
  
第115話「ヘルファイア」(2月1日号)
 
 
「さぁ、どうぞご自由に。」
 
 
 シズクはそう言うや否や、フィールドに両手から魔法を放った。だが、フィールドに吸収された後は何も起こらなかった。
 メンバルは急速に魔力を上昇させると、その力を両手に集めた。
 
 
「…私が勝って、決まりよ!!!」 
 
 
 メンバルが魔法を放った。その出力はもはやアイスガというにははばかられるほどに巨大な氷の塊がシズク目掛けて振り掛かる。
 だが、シズクは平然と構えると右手の指を一度弾いた。
 
 
 キッ!
 
 
 空間に響き渡る甲高い乾いた音が合図であったかのように、突如彼女の周囲を強力な火のフィールドが包み込む。バリアフィールドが展開されると、メンバルのアイスガを易々と蒸発させた。そして、左手の指を弾いた。
 
 
 キッ!
 
 
 それは一瞬だった。
 
 シズクの周囲から閃光が走ると、一瞬にしてメンバルを光が貫いた。
 それは一瞬の出来事だが、サンダーだ。しかも、通常では考えられないほどの魔力を込めた。
 
 メンバルがプスプスと音を立てて立ち上がろうとする。だが、その意思とは裏腹に体はついてゆかず、彼女はそこに気絶した。
 
 勝負は大方の予想に反して、あっという間に決まってしまった。
 バンダーが驚いて面張るに駆け寄る。
 
 
「さぁ、これで一勝一分けよ。クロノ、後は『確実』に宜しくね。」
 
 
 彼女はクロノの肩を叩くと後方に去った。
 呆気にとられていたクロノだが、ニヤリと笑って前へ出る。
 
 バンダーはメンバルに応急処置を施すと、それまでの締まらない表情とは違った真剣な顔付きでクロノの前に対峙した。
 
 
「…ほな、大将戦といこうやないか。」
 
 
 バンダーはそう言うと、魔法の詠唱を始めた。
 
 
「我が血に眠りし炎の化身よ、その盟約を今解き放つ。」
 
 
 彼が唱え終えると、瞬時に彼の足元を中心に魔法陣が展開され、炎が吹き出す。そして、一際大きな炎が吹き上がると、そこに新たなる存在が現れた。
 
 
「(急激に魔力が落ちた…なんだアレは?)」
 
 
 クロノは目前で展開される物事を冷静に分析していた。彼は魔力を急速に集中させ詠唱を終えると、魔法効果が現れたのを機会に急激に魔力が激減した。だが、魔法効果は一切起こらず、変わりに魔物とも人ともつかない存在が現れた。
 
 
「…バンダー、久しいな。」
「…我がサーバント、ヘルファイア。我が力となりて、目前の敵を燃やし尽くせ。」
「…フッ、お前に使われるほど、俺は落ちぶれてはいない。だが、奴なら良いだろう。我が相手に不足無し。その望み、従おう。」
 
 
 そういうと、ヘルファイアと呼ばれた化身は、バンダーの前に仁王立ちで構えた。すると、瞬時に彼を中心にバリアフィールドが展開されるのを皮切りに、次々に魔法効果が発動し始めた。
 
 
「(な、なんだ!?)」
 
 
 クロノ目掛けて突然猛攻撃が始まる。
 フィールドから次々に炎が巻き起こりクロノに向かって吹き上がる。
 クロノは剣を構えると、風のフィールドを造り防いだ。
 だが、それは突然起こった。
 
 
 ピンポンパンポン♪

 
「戦闘中の両チームの皆様、直ちに戦闘を中止して下さい。」
 
 
 突然の放送に、両者が天上を見上げた。
 
 
「この試合は、チームポチョの反則負けとします。」
「ちょ、何それ!?」
 
 
 シズクが抗議の声を上げる。
 すると、毎度のごとく冷静にカナッツの返答が返ってきた。

 
「チームポチョ、クロノ選手が本試合において抜刀致しました。本試験では対人戦中における物理攻撃武器の使用を認めておりません。よって、クロノ選手の反則によりバンダー選手の勝利が確定いたします。以上」
 
 
 プツ
 
 
『…バンダー、俺の役目は終わったな。』
 
 
 ヘルファイアはそう言うとかき消えるように消え去った。
 バンダーも半ば呆然としていたが、急激に魔力消費の負荷が体にのしかかる。
 
 
「…ま、そゆことやから、天の呪印くれ。」
 
 
 シズクはバンダーの方を睨むと、渋々懐からプレートをとり出すと、天の呪印を外して手渡した。
 
 
「…月の無い夜は、気をつける事ね。」
 
 
 シズクはぼそりと渡し様呟いた。
 バンダーは背筋に寒い風を感じるようだった。しかし、こうしていられないと、バンダーは急いでその場を去ろうとした。だが、そこに予想外の事態が待ちかまえていた。
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【114】CPss2第30話「降参」(1月25日号)
 REDCOW  - 08/2/15(金) 16:46 -
  
第114話「降参」(1月25日号分)
 
 
「…動かないのね。ならば、こちらから行かせて頂きます!」
 
 
 ミネルバが宣言するやいなや、彼女は杖を振りかざす。
 すると、急速に水の魔力が集中し巨大な氷の刃を幾つも作り出した。
 
 
「如何に皮下脂肪が厚かろうと、研ぎ澄まされた刃の前には無力です。はっっっ!」
 
 
 無数の氷の刃が降り注ぐ。これほどの大きさの氷の刃を受けては、さすがにどんな生物でもただでは済まないだろう。アイスガを超えた強力な氷の刃が容赦なくヤッパへ向かう。
 だが、なんと、彼は突如肉で埋もれた目をカッと見開くと、あの巨体に似合わず俊敏に寸でのところで避け、その後も的確に文字通り驚異的なスピードでまるで羽が生えた様にふわりと優雅な微笑みを浮かべて華麗に見切って見せたのだ。あの彼を見て、この動きは誰もが予想できなかっただろう。しかし、彼の仲間達は驚いていない様子だ。
 ヤッパは全て綺麗に避け終ると、また何事も無かったかのように菓子袋からペロペロキャンディを取り出すと、これまたとても幸せそうに舐め出した。
 
 
「…なんか、とても見てはいけない生命体を見てしまった気がする。」
 

 シズクがぼそりと呟いた。
 流石にこの感想にはクロノ達は勿論、彼の仲間達も同意せざるを得なかった。
 
 ミネルバは作戦を変えた。
 相手が異常に高速な回避が出来るならば、回避する余地を与えない作戦にでた。しかし、それは彼女にとって賭けでもあった。
 
 
「(私の魔力では長期戦は無理。一か八か、賭けるしかないわね。)ハッ!!!」
 
 
 周囲から急速に熱が奪われてゆく。
 ミネルバが杖を構えて魔力を集中し始めると、彼女を中心に青い輝きを放って魔法陣が形成される。それは次第に輝きを強め、円筒形の光の柱となった。そして、次第に陣は支配を広げ、ヤッパを中心に陣を形成させた。
 
 
「…我は求めん!汝全てに凍れる時を!………フラッド!!!」
 
 
 陣が一斉に閃光を発する。そして、陣を中心に膨大な冷気の煙を噴き出して鋭利な氷の刃が次々に襲いかかる。
 
 クロノ達は驚いた。
 この魔法はハイドが使った魔法だ。しかも、その出力はハイドに引けを取らないどころか凌駕する程の魔力が込められている。あの大人しいミネルバさんからは想像できないほどのパワーだ。
 だが、ヤッパは大口を開けると、下から生えてくる氷の刃をガリガリと食べ始めた。その早さたるは恐るべきもので、出て来る全ての氷をがっつくように食らいついていた。
 
 
「クッ!」
 
 
 ミネルバはそれを見て更に魔力出力を上げる。
 だが、ヤッパはそれに対応するかのように懐からシロップをとり出すと、氷にドバドバ注ぎ込んでガツガツと噛み砕いて行く。その表情は幸せそうに目尻が下がり、幸福を感じているようだ。
  
 
「(これだけの魔力を注いでも効果が無いなんて…)」
 
 
 彼女はこのまま攻撃を続けても埒が明かないと悟った。しかし、彼女にはもう他に使えそうな魔法は無かった。
 
「(ここまで来たんだから、負けたくない。)」
 
 その思いはクロノ達に対する面目もあるが、己の意地として譲りたくない気持ちだった。だが、その思いとは裏腹な言葉が脳裏を過る。
 
 
「引き際を知らぬ者は、全てを失う。お前はまだそれが分からぬか。」
 
 
 幼き頃より父から厳しく言われてきた。
 戦いは「今」が全てではない。
 常に戦いであり、いつまでも戦い続けられる力を持ち得るものが、真の勝者となる。
 …それは父が言わなくとも、代々語り継がれた歴史的な事実として学んできた。
 
 ここで無理をしてみたところで、勝率は99%無いだろうという確信はあった。
 元々出力の弱い水に対して相手は最強属性である天。こちら側が魔力出力を上げたところで、天へ対抗するには通常の1、5倍程度の出力を常に続けなければ拮抗しない。勿論、継続する事自体は可能だが、問題は拮抗しているだけでは勝てないということだ。
 彼女は既にアイスガを超えて氷牙も使い、水属性エインシェントの一つであるフラッドすら使ってしまった。残された選択肢は決して多くない。しかも、この試験は「まだ続く」のである。
 
 
「降参よ。」
 
 
 その言葉には誰もが驚いた。
 さすがにクロノ達は勿論、相手のメンバー達も驚きを隠せなかった。しかし、彼女が口に出した以上、それを認めないわけにはいかない。
 
 
「ちょっと、ミネルバさん!どうして!」
「シズク!」
 
 
 クロノがシズクの疑問の声を制する。
 その行動にシズクは更に反発した。
 
 
「ちょっ!クロノまで!?どうして、こんな中途半端な…」
「シズク、良いんだ。」
 
 
 そこにミネルバがシズクの方を向き、深々と礼をした。
 
 
「ごめんなさい。」
「ミネルバさん…。」
 
 
 彼女の謝罪を聞いては、シズクもそれ以上の追求はできなかった。
 そこに、話が片づいたのを見てバンダーがクロノ達に問い掛ける。
 
 
「さて、お次は誰や?俺達はメンバルが相手になるで。」
 
 
 メンバルがにっこり微笑んで前に出る。
 
 
「私がやるわ!」
 
 
 颯爽とシズクが前へ進み出た。
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【113】CPss2第29話「個人戦」
 REDCOW  - 08/1/21(月) 1:21 -
  
遅くなって申し訳有りません。

えと、今週号はおやすみします。(^^;
仕事で出張が入る為、ネットに接続すら出来るか分からないので。

とりあえず、今月末から雪祭り辺りまでは遅れたりとかありそうです。
楽しみにお待ちの皆様には本当に申し訳有りません。


第113話「個人戦」
 
 
「来たか、チームポチョ。」
 
 
 そこに現れたのは、探し求めていたチームの一つ、ファイアブラストだった。
 彼らは通路の中央で陣取った。
 
 
「火の呪印、返してもらうわよ!!!」
 
 
 シズクが怒りの形相で叫ぶ。その表情はクロノですらぎょっとするとほど。
 そんな彼女に、バンダーはたじろぎながら、
 
 
「お、おい、そないに怒る事あらへんやないか。俺かてこの試験のルールがあるさかい、仕方なくあんたらの呪印をもろたんやで?恨みっこ無しや、な?」
「いいえ、恨みます。そして、返してもらうわ。すぐ!!!」
「…へへ、そうかい。いや、それは俺らへの挑戦ってことでオーケーやな?」
「えぇ。叩きのめす!!!」
 
 
 シズクの握りしめた拳から火が吹き出す。
 急速に高まり出している彼女の魔力にバンダーは内心驚いていたが、彼も何の考えも無しに挑戦を受けるわけではない。
 
 
「んじゃ、お互いフェアに行こうやないか。見たところ、俺らとあんたらじゃ、あんたらの方が上やから連携されるとかなわん。せやから、ここは堂々と一対一で勝負ってことでどうや?」
「個人戦?…どうする、クロノ?」
 
 
 バンダーの提案は彼らの思惑も有っての話なのだろう。だが、個人戦ならばクロノ達も不利な話ではなかった。彼らが認めている通り、魔力レベルはこちらが上。だとすれば個人で戦っても力押しで十分競り勝てるとも言える。
 
 
「俺は構わない。ミネルバさんはどう思う?」
「私も異存は有りません。どちらでも対応します。」
「シズクは?」
「わ、私もOKよ!!」
 
 
 二人の強気のコメントに、シズクも負けるわけにはいかなかった。
 それをみてクロノはにやりと笑い、バンダーの提案に回答する。
 
 
「じゃ、俺達に異存はない。その提案、受けよう。」
 
 
 クロノの力強い回答に、バンダーは内心苦っていた。
 
 
「さよか。(うは、スゲー余裕やな。こえぇ〜)ほなら、さっそく先方だしてくれや。うちはこのヤッパが出るで!」
 
 バンダーが出してきたのは、超肥満巨漢のヤッパだった。
 ヤッパは他の事は全く関係ないと言わんばかりに菓子袋から菓子を出して、むしゃむしゃと一心不乱に食べ続けていた。その異様な程の食べっぷりは、見るものから食欲を奪う様だ。クロノ達3人もまたその例外に漏れず、少なからぬ嫌悪感を感じていた。
 そこに1人歩み出る姿が有った。
 
 
「…私がお相手しましょう。」
 
 
 ミネルバが前に出た。
 彼女は杖を出すと、ヤッパの前に対峙した。
 
 
「ミネルバさん、ホントに良いの?」
 
 
 シズクの問いに彼女は微笑んで言った。
 
 
「私も頑張らなくちゃ。ね?」
 
 
 彼女の回答を聞いて、バンダーはコクリと頷いて言った。
 
 
「ほな、そこのお嬢に決定やな。したら、第一試合開始や!」
 
 
 そう言うと彼は右手に魔力を集中すると、地面に一気にその拳を叩付けた。
 めり込むほどの力は地面に衝撃音とともに爆炎を吹き上げ、まるでそれは試合を放棄する事を拒むかのようにサークル状に囲むと、二人を赤々と照らした。
 バンダーの小細工にシズクが抗議する。
 
 
「何なのこれ!!ミネルバさんは水属性だと知っていてやっているの!!!すぐにやめないなら、私も考えがあるわ。」
 
 
 彼女の抗議に、彼は悪びれもせず返した
 
 
「な〜に、これはリングや。この炎は試合がしっかりフェアに行われているか視覚的に把握する為や。闇の中では何してるかわからへんやろ?」
「そんなもの必要ないわ。」
「…必要あらへんかどうかは、本人達が決める事やろ。で、どうなんや、お嬢はん?」
 
 
 彼に振られたミネルバは、振り向く事もなくヤッパを見据えて答えた。
 
 
「あなたの仰る通り、フィールドへの影響は軽微です。私はあなたの対応に不満はありません。続行します。」
 
 
 彼女の答えにバンダーはにっこり頷いてシズクの方を見ると、シズクもさすがに抗議の声を上げるわけにもいかず、彼女は渋々要求を取り下げた。
 
 
「…少しでも変な動きを見せたら、私は躊躇無くあんたを消し炭に変えるからね。覚えておきなさい。」
 
 
 要求は取り下げても、シズクの闘争心はより一層燃えているようだった。
 バンダーは内心肝を冷やしつつ、試合に視線を移した。
 
 
 試合を開始してからの二人は微動だにせず、ただにらみ合いが続いた。いや、正しくはヤッパの方は相変わらず菓子を食べ続けているのだが、それ以上の動きを見せるわけでも無く、ただマイペースに快調に食べ続けている。一見すると、これは何か全く別の試合をしているのではないかと思うほどに、戦闘というには場違いな雰囲気が漂っていた。


「………嫌ね。ここは。」
 
 
 彼女はいい加減にこの場の雰囲気に飽きてきていた。任務とはいえ、この闇の中を二人の巨漢を連れて歩くというのはなかなか暑苦しい話だ。しかも、この二人はまともな会話をしない。もはや独り歩きしている様なものだ。であるにも関わらず二人の男が背後にいる鬱陶しさは無い。
 
 
「(…困ったわね。)」
 
 
 彼女としては、既に条件を揃えているので、戻るだけだった。だが、入り口付近に複数の気配が有るのはどうにも具合が悪い。いい加減お仕舞にしたいところだが、この試験に強行突破はご法度。勿論、やって出来なくは無いが、それをしてしまってはこれまでの苦労が水の泡と言えた。
 だが、既に相当の実りはあった。
 この洞窟内部だけでも、目を見張るような宝の山であることは確かであった。4体の呪印獣に特殊フィールドの存在は、それだけですら十分な価値のある代物と言えた。それに加えてこの試験には予想通りに複数のエインシェントの使い手が集っていた。
 エインシェントの使い手がこれほどに集る機会はそうは無い。当然といえば当然の話だが、彼らも十中八九で自分達の動きを読んできているだろうといえた。しかし、それでも表向きのアクションを取らないのは、彼らがまだ表立って行動を起こす準備が整っていない事の現れであり、利はこちらにあると言えた。
 ただ、予想外に術者達のレベルは上がっていた。そのレベルは十分に脅威となり得るものであり、確かに上層部が脅威と感じた事は正しいと言えた。しかし、何より厄介な事は、術者の中にも自分達の存在を知る者がいるということだった。
 
 だが、これは予想の範囲とも言えた。
 相手は太古の文明を統べた賢者ボッシュである。メディーナをこれほどの大国にした知力は侮れない。彼らはわざとこちらの流れに乗っている可能性を否定できない以上、こちらも滅多な行動を取れないジレンマが有る。しかし、ジレンマで縛られているのはこちらだけではない。特に将来有望な戦士となりうる少年少女が多く集るこの場での事件は、メディーナ政府にも大きなダメージになる事は免れない。両国関係を崩したくないメディーナは、セオリー通りならば正規の行動に出る可能性は低い。そして、何より幸運なことはクロノの存在といえた。
 この難しい時期に絶妙なタイミングで彼は現れた。
 彼は沢山のカードを用意してくれた。彼女にとっては幸運のラッキーガイだ。
 
 
「(…さて、ラッキーはどこまで続くかしら?)」
 
 
 彼女は気配を巡らしながら、クロノ達の試合を見届けようとしていた。
引用なし
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【112】CPss2第28話「光」
 REDCOW  - 08/1/11(金) 14:44 -
  
新年明けましておめでとうございます。
先週号はお休みさせて頂きましたが、今週より再開させて頂きます。
2000年元旦から開始して9年目に入ろうとしてます。長々とマイペースな制作でどうなってんだ!?とか思う方もいらっしゃるかと思いますが、今年もお付き合い下さいましたら幸いです。

from REDCOW.

第112話「光」
 
 ハイド達と別れたクロノ達は、再び暗い迷路を彷徨っていた。
 まずは冥の呪印の前に、火の呪印を見つけなくてはならない。
 火の呪印は試験突破間近と思われる「メーガスかしまし娘。」または「ファイアブラスト」が持っていることは確かだろう。だが、この2つのチームは流石と言うべきか、全く気配を読む事が出来ない。
 迷路の中では魔力が視覚であると同時に死角にすらなる。もしも、ハイド達の戦いを観なかったら、彼が言った通り、冥の呪印の間を延々と探し続けていた可能性は否定できず、クロノ達は幸運と言えた。だが、道が見えただけでは、先に進む事は出来ない。
 この試験はただ進めば良いのではなく、条件をクリアしなくてはならないのだから。
 そこに歩き疲れたシズクが言った。
 
 
「ねぇ、ただ探し回るのは非効率だと思うわ。ここは、二つのチームがクリア間近という点を考慮して、スタート地点に戻ると考えた方がベターだと思うの。どう?」
 
 
 シズクの提案にミネルバが答えた。
 
 
「確かに、その提案は合理的判断ですね。でも、それは私達以外のチームも同様に考える可能性は否定できません。つまり、そこが誰もが通る場所であるならば、私達が無用な挑戦を受ける可能性もあるということです。」
 
 
 ミネルバの指摘に、シズクは
 
 
「…そうね。ミネルバさんの意見はその通りね。わざわざ魔力を殺していても、そこに行ってしまったら隠す事はできない。でも、こうは考えられないかな?…その、さっきのハイドの分析は確かだと思うのよ。私達と対等に戦えるのはメーガスかしまし娘とファイアブラストとグリフィス。でも、逆を言えばこの3チーム以外は勝てるということよね?」
 
 
 シズクの話に思わずクロノが笑った。
 
 
「ははは、大胆にきたな。でも、そうだな。俺達は例え天の呪印の間で戦ったヒカルと再戦したとしても、一対一なら勝てるだろう。…この戦い、そろそろ賭けに出る時に来ているかもな。」
 
 
 クロノの言葉からは自信も伺われる力強い音色が含まれていた。
 彼の言葉にミネルバも意を決した様だ。
 
 
「そうですね。クロノさんの仰る通りかもしれません。シズクさん、私の弱気な発言は不見識でしたわ。今は試験。私も賭けなくてはならないのですよね。」
「あ、いいよ。そんなの気にしなくて。そういう現実的な反論が無きゃ、私達って割と突っ走っちゃう方だから。ミネルバさんがいてバランス取っていると思う。さぁ、決まったし、行きましょう!」
 
 
 3人は迷路をスタート地点へ向けて戻り始めた。
 その間、先ほどの位置からそう遠くない方で幾度か戦闘らしきものがあったらしく、魔力反応が感じられた。この反応はハイド達だろうか。まだそんなに遠くには行っていないだろうことから、そう想像して間違いは無いだろう。
 スタート地点への途上、3人は語らいながら歩いた。
 
 
「しかし、ミネルバさんは凄く冷静だよな。同じ水属性でも、マールなんて凄く危なっかしいのに、ミネルバさんはいつも凄く透き通る水面って感じかな。」
 
 
 クロノの視点に、ミネルバは微笑んで言った。
 
 
「フフフ、性格と属性は関係ないですわ。それは育った環境が作るものです。私は昔から危ない橋を渡ってはならないと言われて育ちました。それこそ、石橋を叩いて叩き過ぎて、仕舞には割ってしまうんじゃないかなと思うほどに。でも、それが悪い事でも無いからこそ、私は否定せずにその教えを受け入れて育ちました。その結果が今の私ですわ。」
 
 
 彼女は自分で話しながら幼少の頃を思い出していた。
 彼女の父はとても堅実で厳格な性格の持ち主で、彼女が話す通り、幼少の頃から彼女を厳しく、それでいて危険を心配し著しく避けて育てた。彼女はそんな父の姿勢に疑問を思う事も知らず育った。
 
 何より、彼女は父親を尊敬していた。彼女が幼少の頃から、既に父は立派な政治家として国民の多くから支持を受け、そして立派に多くの人々に幸せをもたらす働きをしていた。確かに細かく見てゆけば不満が出ても不思議ではないが、彼女からすれば父親は英雄であり、多くの人から尊敬される父の姿が誇りでもあった。
 
 しかし、彼女も成長し、父の仕事の一端を知る年頃になると、彼女の中にも少なからぬわだかまりは生じた。それは彼女自身が育つ中で培った慎重さや堅実さが、政治家としてのダイナミズムを失い、この国を支える力として不安を感じる様になったからだ。
 
 
 父は、この国を人間達の争いに巻き込ませてはならないと考えていた。
 
 
 それは国父として讚えられるボッシュ博士が残した意向に沿うもので、確かにこの国が25年という長期の繁栄を築く力となった。しかし、それは同時にパレポリという大国を野放しに巨大化させる片棒を担いでしまう結果にもなった。
 今ではこの国が繁栄した以上に巨大なパレポリが、自国との同盟を破棄する動きすら見せてきている。近年、トルースを拠点に軍事力を増強したパレポリ海軍は、次第に領海を侵犯することが増えた。
 それは最初は単なるミスの範囲であり、そう大きく捉えるべき問題ではなかった。だが、パレポリとメディーナの利害が衝突する機会が増えた現在、そうした小さな問題が大きな問題への切っ掛けになる可能性は否定できなかった。
 
 パレポリが攻撃的な対応を見せてきているのに対して、メディーナの動きはとても緩慢で不安を隠せるようなものではなかった。確かにメディーナは科学技術の上ではパレポリを上回っており、先端産業である魔法科学産業分野でのメディーナ企業のシェアはパレポリも無視できない。しかし、企業はうつろう器に過ぎず、それは力ではない。
 人々がメディーナという国に不安を感じた時、この国はその姿を保てるだろうか。そして、それが彼女の父が守り続けてきた信念で耐え得るのだろうか。…メディーナ政界の派閥の中には過激な路線を主張する者たちもいる。今は好景気の中にいるメディーナだが、一度不景気に転落した時、メディーナ政界は一気に右傾化する可能性を否定できない。
 彼女はそんな中で、彼女の父が自身に課したこの課題を受けて感じていた。父も彼女同様に不安を持っているのだと。しかし、それをそうだと認めたところで何が出来るのだろうか。彼女は自分の不安のやり場を父の責任にしていたが、自分自身ではどうしたかったのだろうか。
 
 
 この試験は父からの答えだと思えた。
 
 
 何も考えず与えられることに慣れてきた自身に、自分で考えて動く機会を与えられたことこそ、この国が培ってきた最も大切なことなのだと。そして、この試験は武器を否定し魔力という心の力を最大の判断材料とした。
 
 
 魔力には心が表れる。
 
 
 魔力も武器同様に人を殺める力にもなるが、この力は正しい力を使う者を見極める目安になる。その性質上偽れない力は、心を浮き彫りにする。
 
 自分のすぐ隣を歩く二人の人達の心は勿論、この試験を目指した人々の心の力は、思っていたより力強く、そして清々しい。
 こんな晴れやかな心が有り、そして、そうした人達を守る為に動けるのであれば、例えそれが無謀であろうとも、例えそれが今にも落ちそうな橋だとしても、壊れそうな物は直せばいいし、危ない物は無害化する努力を惜しむべきではない。
 
 信念は、曲げない為にあるわけではなく、目的を果たす為に心を支える魔法の言葉であり、慎重さも心配も全ては人を思う気持ちが生み出すものなのだと。
 
 彼女は、父を尊敬している。
 それだけに、この試験は必ず突破しなければならない。
 
 
「あ、光だ!」
 
 
 シズクが思わず言った。
 彼らの前方遠くに確かに光が見えた。それはまだ点の様だが、スタート地点の室内の明かりが白く光を放っている。
 全くの闇の中でそれの持つ存在感の大きさは、見るだけで人の心に明かりを灯すほどだ。…いかに闇に慣れたと言っても、世界は本来光で溢れており、その輝きを忘れる事は出来ない。
 まだゴールする条件を備えていないとはいえ、3人の感情は高揚する。
 だが、遂に何者かが前方の光を遮った。
 
 
「へへ、待ってたぜ。」
 
 
 そのシルエットは、忘れもしなかった。
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【111】CPss2第27話「暗闇の理由…後編」
 REDCOW  - 07/12/29(土) 17:35 -
  
 クロノプロジェクトシーズン2をご覧の皆様、いつも有り難うございます。
 今年もあと僅かですが、お風邪など引かれていませんでしょうか?

 今回は年末年始をゆっくりとお楽しみ頂けるよう、ちょっとばかり増量してお送りしております。
 この制作も来年で8年目ですが、シーズン2に入ってクロノプロジェクトオリジナルの世界観が色々と出て来る様になりました。拙い文では有りますが、これからも頑張って書いて行くので、今後ともお楽しみ下さいましたら幸いですし、この世界を気に入って下さったら有り難いなと思います。
 
 
第111話「暗闇の理由…後編」
 
 
「…まさか、エインシェントの使い手がまだ生き残っていたとは。」
 
 
 女は呟くように言うと、慌てるでも無く攻撃態勢を解いた。そして、前に立つ二人の屈強な男達に後方へ下がるよう命じる。
 男達は彼女の命令に従うと、静かに後方へ退いた。
 
 
「…その魔法は厄介だけど、私達の力が効かない事と同様に、あなた達の力も使えない。…だけどその完全防御にも唯一問題がある。その魔法、何分もつのかしら?」
 
 
 女の指摘は的を得ていた。
 確かにパーテクトはその完全さ故に内側からも攻撃が不可能である。これは絶対防御を成立させる上で間違いなくぶち当たる壁であり避けられない。しかし、この防御にもほころびが有る。彼女が言う通り、維持する事がとても難しい魔法でもあるのだ。
 この魔法は魔力供給自体は一度の発動で済むが、それを維持・コントロールするには例え魔族と言えども誰もが出来ることではない。しかも、それは「継承する血統内」ですら確実ではなく、故に婚姻関係を結ぶ相手との関係が考慮されもした。
 だが、ハイドは彼女の指摘にも怯む事は無かった。
 
 
「ランタ、頼むぜ!」
「おう。」
 
 
 ランタはハイドの頼みに待ってましたとばかりに集中していた魔力を前方へ向けて構えた。
 
 
「(ダークボム)」
 
 
 ランタはなんとパーテクトフィールド内部で魔法を発動させた。しかも、なんと魔法効果は女達を中心に外で起こり、冥の魔力が女達を直撃する。
 しかし、彼女は瞬時に冥のフィールドを張り巡らすと、直撃の効果を低減させた。そして、間髪入れずに右手から火の玉を、左手から氷の刃を出して攻撃する。だが、パーテクトのバリアフィールドは完全にその攻撃をはじき飛ばしてしまった。
 ランタがそこに第二撃のダークボムを放つ。
 今度は完全に彼女の目前で弾けた。彼女にはフィールドを張る暇もなかったはずだった。だが、彼女はその力をまるで受けなかったかのように平然とした顔で立っていた。
 
 
「…私に直撃を与えられたことはお褒めしましょう。でも、これであなた方の力量は把握しました。パーテクトとダークボムのコラボレーションは素晴らしい。でも、この攻撃にも限界がある。」
 
 
 そう言うと彼女は静かに少年たちの方へ歩み寄る。
 その右手からは水の魔力が、左手からは天の魔力が集中するのが感じられる。
 
 
「させるか!」
 
 
 ランタが叫ぶ。
 第3撃を用意していたランタが、前方からゆっくり近づく彼女に向けてロックオンする。しかし、そこに屈強な男二人が素早く彼女の前に盾となった。
 
 
「ツー!」
「カー!」
 
 
 ダークボムが発動する。
 漆黒の負のエネルギーが生けるものから急速に生気を吸い膨張する。その力は空間全体から奪い取るような引力となり、二人の男達に襲いかかる。
 そして、ついに臨海に達した。
 
 
 ドドォォォォォォォォォォォン!!!
 
 
 それまでの二撃を大きく上回る威力が、周囲に巨大な爆発音と衝撃の振動を伝える。それはクロノ達にも伝わる。
 
 
「くっ、すげーな。やったか…?」
 
 
 思わず呟くクロノだったが、彼は煙が消えて現れたものを見て驚いた。
 いや、これは放った当人も驚愕を隠せなかった。
 
 
「マジか!?」
 
 
 そこに現れたのは無傷で堂々と並び立つ男達と、その背後で笑みを浮かべる女性の姿だった。彼女が男の肩に手を触れると、男達は静かに彼女の側面へと並び立ち、道を開けた。彼女はそれが当然という表情でまっすぐ前方の少年達を見据えて、ゆっくりと歩き始めた。
 彼女のヒールの靴音がコツコツとゆっくり近づく。
 
 ハイドは自信たっぷりに近づく彼女に内心恐怖を感じ始めていた。いや、もう既に彼の背後にいる二人の仲間達の方は、完全に彼女に圧せられていた。しかし、パーテクトが有る限り、彼女は自分に触れる事は叶わない。いくら近づいても彼女が触れることは起こりえないはずなのだ。だが、彼女はそんなことは全く問題無いと言わんばかりに、さも余裕だという表情で自信たっぷりにゆっくり近づいてくる。
 
 
「…なかなか楽しかったわ。でも…」
  
 
 彼女が遂にパーテクトのバリアフィールドに右手で触れる。すると、彼女の水の魔力が徐々にフィールドの水の魔力に反応して同化を始めた。
 
 
「!?」
 
 
 同化を始めた魔力が、今度は徐々に彼女の方へ制御が移り始めた。そして、彼女の左手がフィールドに触れた。
 その途端…
 
 
 パキィィィィィィィィーーーーーン!!!
 
 
 …フィールドは粉々になり、キラキラと輝く塵となって舞い散る。
 
 
「そ、…んな、どお…し、て……?」
 
 
 ハイドには一瞬何が起こったのか分からなかった。
 それと同時に言いようの無い恐怖が、足先から駆け登ってくるのを感じた。
 
 砕け散ったフィールドの欠片が、仄かな青い光となって辺りを照らしている。
 前方の彼女は、微笑みながら腰を下ろし、その両手を彼の肩に伸ばす。
 
 
「…え?」
 
 
 彼女は、少年を優しくそっと抱きしめた。
 
 
「…良く頑張ったわ。良い子ね。でも、私には残念ながら効かないの。気を落とさないでね。」
 
 
 彼女はそう耳元で囁くと、彼のポケットから静かにプレートをとり出した。そして、微笑んでゆっくりと立ち上がると、プレートを自身の持つプレートを出して近づけた。
 すると、なんと少年たちのプレートから全ての呪印球が飛び出して浮かび、眩い輝きを端って融合した。4つの呪印球は、1つの黒い冥の呪印に変化したのだ。
 呪印球はそのまま彼女のプレートに吸い寄せられるように近づくと、プレートが反応して新たな呪印を収納するくぼみが真ん中に出来上がった。呪印はその新たなスペースへ静かに収まった。
 
 
「では、これは返すわね。」
 
 
 彼女が少年たちのプレートを持ち主に手渡した。
 手渡された本人は、もはや完全に戦意を失い、その成り行きに任せるかのごとく受け取るしか出来ていなかった。
 
 
「さようなら。」
 
 
 彼女はそう告げると、ゆっくりと靴音をコツコツ響き渡らせて闇の中へ消えた。
 少年はその場に崩れた。
 
 
 クロノ達はそれを見て急いで駆け寄った。
 
 
「おい、大丈夫か!」
 
 
 クロノの問い掛けに少年は我に返るように振り向くと、ゆっくり立ち上がった。
 
 
「…恥ずかしい所を見せてしまった様だね。…確か、チームポチョさん達だね。まぁ、見ての通り、傷は無い。大丈夫だ。」
 
 
 少年は静かにそう言うと、手に持ったプレートに目を落とした。
 
 
「…無様だよね。でも、正直、完敗だった。あの途方もない魔力…まるで底が見えなかった。あの一瞬は…僕らには真似の出来ない次元かもしれない。」
 
 
 彼は冷静に分析していた。
 そんな彼の冷静さに、クロノは正直に驚いていた。
 
 
「あのさ…」
 
 
 クロノが言いかけた時、少年の方が思い出したかのように言った。
 
 
「あ、そうだ。あなた方、見たところ強いですよね?」
「へ?」
「たぶん、僕ら以外で上位に残るとしたら、あなた方を入れると、他はメーガスかしまし娘。かファイアブラストでしょう。さっきの奴らはグリフィスだと思うけど、たぶん、彼らに勝てる術者って話になると、あなた方くらいだと思う。他の人達はきっと冥の呪印の間を探し廻るに違い有りませんし。」
「え、あ、はぁ。」
「僕はあなた方に託したい。」
「え?」
「その、感じるんです。あなたの中から僕らの一族が守ってきた力を。あなた方ならグリフィスに勝てる。そう思うんです。だから、この杖を持って行って欲しい。」
 
 
 少年はそう言うとクロノに杖を差し出した。
 クロノは少年の行動に困惑した。
 
 
「そんなことされても困るぜ。それに、俺は杖なんて使えないし。」
「良いんです。ここで逃してしまうぐらいなら、いっそあなた方に倒して欲しいんだ。」
「どういうことだ?グリフィスは何かあるのか?」
 
 
 クロノの問い掛けに、少年は真剣な表情になった。
 
 
「…彼らは、たぶん僕の推測が正しければ黒薔薇だ。」
「なんだと!?」
「奴らは僕の村を焼き払ったんだ。それだけじゃない。奴らはエインシェントの使い手の根絶を狙っていた。」
「エインシェント?」
 
 
 クロノは彼の言葉に全く理解できていなかったが、黒薔薇という存在には注目せざるを得なかった。そこにミネルバが口を開いた。
 
 
「失われた限られた種族間でしか継承されていない魔法の事です。先ほどの魔法…あなたはスイソ族の生存者ということですね。」
 
 
 彼女の問い掛けに、彼はこくりと頷き言った。
 
 
「…ここへの潜入がどんな目的かはわからないけど、この試験が魔法を使う者を対象にしている以上、奴らのターゲットとなる対象は多いはずです。きっと、ただでは済まない。奴らに対抗するには生半可な力では無理です。だから、僕はあなた方に力を託す。必ず第三試験へ進んで欲しい。杖はそのための保険だと思って下さい。」
「保険?」
「そうです。保険です。」
 
 
 クロノは彼の真剣な眼差しを見るまでも無く、黒薔薇という単語が出た時点で答えは決まっていた。
 
 
「君の願いは俺も答える用意がある。だけど、その杖は要らない。それは君の物だ。」
「しかし、この杖があれば…」
 
 
 そこに少年の言葉を遮るように、ミネルバが言った。
 
 
「あなたの思いは分かりましたわ。でも、クロノさんの仰る通り、私もその杖はあなたが持つべきだと思います。その杖はあなたの一族が命がけで大事にした宝のはずです。それに、私達には私達の戦い方が有ります。人生は長いのですから、あなた自身が再挑戦することをお考えになって。」
 
 
 彼女はそう言うとにっこり微笑み、彼らにケアルを唱えて傷を癒した。
 少年は彼女の言葉に頷き、杖を仕舞った。
 そこに、その成り行きを静かに見守っていたシズクが、少年に問いかけた。
 
 
「ねぇ、これからどうするの?例えば〜、私達に挑戦して奪い返すって手もあるわけよね?」
 
 
 彼女の質問は確かに当然思い当たる話だった。
 だが、少年は彼女に笑顔で言った。
 
 
「はは、託した以上、そんなことはしませんよ。でも、まだ試験を諦めてはいないですよ。まだまだ方法はある。では、また。」
 
 
 そう言うと、彼らは闇の中へ消えた。
 すると、舞い散っていた青い光も彼らが去るのを追うように消え去り、再び空間は闇に閉ざされた。
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【110】CPss2第26話「暗闇の理由…中編」
 REDCOW  - 07/12/21(金) 14:28 -
  
第110話「暗闇の理由…中編」
 
 
「ハイド、お前は隠れてなさい。何が有っても、出てはならぬぞ。」
「父上、僕も戦います。」
「だめよ、ハイド。あなたが居なくなっては、誰に私達の思いは伝わるの。あなたは生きるのよ。」
「母上…」
 
 
 母上は僕にそう言うと眠りの魔法を掛けて僕が眠りについた後、二人は僕に完全結界を張って地下室の闇に隠した。
 父上と母上は、封主(ほうしゅ)といい、特に母上は代々伝わる太古の結界を守る家系だった。
 
 封主の仕事は結界の張られた遺跡を清らかに保ち、その安定を来るべき主が現れるまで維持する事に有った。
 実際、その結界は簡単な力では解く事は出来ない特殊な魔力で作られていて、現代のどんな魔法をもってしても解呪は不可能と言われていた。だが、解呪は不可能でも結界自体が危険な代物で、これを悪用しようと思えば相当な力になるものと思われていた。
 故に、危険であっても遺跡を狙う者は何時の時代も絶えない。
 封主はそんな盗賊から遺跡を守る役目もになっていた。
 僕らの一族は数千年の昔からこの場所を守り続けてきたことで、他の魔族には無い特別な力を授かってもいた。
 
 
 それは、完全な防御。
 
 
 僕らの一族は遺跡を悪者から保護する為に、究極の防御フィールドである「パーテクト」を生み出した。
 パーテクトは完全な防御結界であり、どんな攻撃でも無効化する究極の防御魔法。
 プロテクトとリフレクは本来別の魔法であり、しかも魔法攻撃効果を相殺するには同じ属性のフィールド、または倍の出力の反属性フィールドが必要になる。さらに物理防御フィールドであるプロテクトを、完全プロテクト化するには莫大な魔力出力が必要となる。
 勿論、このパーテクトはこの条件を満たしても簡単に誰もが使える魔法じゃない。
 まず、1人で使う事は不可能で、魔法を形成するには水属性と天属性の使用者を必要とする。そして、水属性の詠唱者は封主の血を受け継いでいる必要が有る。封主は結界から出て来る魔力を長い年月浴びて得られる、特別な斥力フィールドの形成能力の素質を持ち、魔法の発動に欠かせない。誰もが魔力を浴びたからと使えるものじゃない理由はそこにある。
 一度形成されたフィールドは能力者以外は解除できず、長時間高い防御性能を誇る。故に、その力を欲する者もまた絶えない。僕らは決められた婚姻関係を結び、その力を外に広めずに大切に守り続ける必要があった。
 
 僕の父はティエンレン一族の中でも珍しい、天の魔力を受け継ぐ一族「イジューイン」の長の次子。イジューイン一族は門外不出の究極の天の魔法を使えることで、古代の魔王もその力に手を焼いたと言う。故に、イジューインは魔王の命令を聞きはしなかったティエンレン一族の一つだ。
 僕らの一族の婚姻の条件は、体制に組み込まれない確実な力と極めて純度の高い天属性の能力者だったから、イジューインと母の一族であるスイソ族はとても仲が良かった。当然の如く交流も有り、決められた婚姻とは言っても、知らない仲ではなかった。実際、両親はとても仲が良かった。
 
 だけど、あの日、全ては崩れ去った。
 
 
「どうしても、抵抗するんだね。究極の絶対防御とやらを、見せてもらおうじゃないか。」
 
 
 長い髪をさらさらと揺らす長身の黒装束の男は、赤く禍々しい輝きを放つ宝石をはめたステッキを持ち、構えた。
 
 
「誰にもこの先へは進ませない。」
「行くわよ、あなた!」
「おう!」
 
 
 二人は構え集中した。
 すると、彼らの周りを分厚く透き通る氷の結界が張られた。その広さは背後の彼らの村をもすっぽりと包み込むほどだった。しかし、黒装束の男は余裕の表情で言い放った。
 
 
「児戯だね。これなら、君らの忌み嫌う彼らよりずっと劣ってるよ。こんなもの、僕自らが手を下す必要は無いね。」
「何だと!!」
 
 
 夫が反発する。その瞬間、フィールドが揺らいだ。無理もない、彼ら夫妻自身、これほどのフィールドを形成するのは生まれて初めてのことなのだ。
 妻は挑発に乗らずじっとこらえて集中し、フィールドを安定させた。
 黒装束の男はそんな彼らの焦りを見透かすように微笑むと、宙を見上げた。すると、彼の視線の先から彼同様の黒装束を纏った1人の少女が現れた。
 
 
「私の仕事ですか。」
「そうだ。君の仕事だ。」
「分かりました。早速遂行致します。」
 
 
 少女はそう言うと、静かにふわりと降り立ち、夫妻の結界に向けて手をかざした。
 
 
「…効果属性、天。制御属性、水。フィールドプロテクト解析。ESバランス解析。属性効果に特殊修正確認。フィールドプロテクトに時空反応を確認。ES確認、ティエンレンF、水。ティエンレンM、天。目標を消去します…」
 
 
 その後、夫妻の結界は少女の力によって崩壊した。
 彼らは圧倒的な力で彼らの村を焼き、それに関わる全てを攻撃した。
 
 
 …僕は幸い見つからずに難を逃れ、気がついた時には先生の家のベッドで眠っていた。
 彼女の話では急襲された後、たまたま通りかかって僕を見つけたらしい。
 完全な防御結界に包まれた僕は、完全に崩壊していた地下室の土砂と岩の下敷きになっていても、無傷で眠っていたらしい。二人の結界は完璧に機能していたんだ…。
 
 僕の力はどんなに頑張っても完璧にはならない。それは、僕がどんなに頑張っても半分だからだ。
 もう1人の力…天の使い手がいなければ、僕は完璧にはなれない。
 
 先生は僕に彼女が知り得る全ての知恵を授けてくれた。
 彼女には恩義が有る前に、母親の様な掛け替えのない人だと思う。だから、彼女の悲しむ姿は見たくない。…でも、この戦いは、引くわけには行かない。
 
 僕には分かる。
 
 この女の中に流れる熱い魔力の底流に、深く暗い闇の様な負の魔力が流れているのを。
 彼女はあの時村を襲った彼らの仲間に違いない。
 彼女を締め上げれば、彼らの情報を得る事が出来るまたと無いチャンスだ。
 
 確かに僕は不完全だ。
 でも、…今は1人じゃない。
 
 
「ティタ、君の力を僕に貸して欲しい!」
「うん、任せて!」
「ランタ、君を頼りにしてるよ。」
「…貸しはメディーナ駅前のヘケラン丼だ。」
「へへ。」
 
 
 少年が杖を横一文字に構える。
 彼に続く様に少女が魔力を集中する。
 
 
「(…パーテクト。)」
 
 
 少年を中心に円を描くように魔法陣が形成される。
 少女が魔力を地面へ向けて注ぎ込むと、青白く輝く紋様が浮かび上がり、一気に氷のドームが形成された。魔法陣の輝きが周囲をうっすら青く照らし、空間に居る者たちを浮かび上がらせた。
 女が一瞬眉を動かした。
 少年はそれを見てニヤリと微笑した。
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【109】CPss2第25話「暗闇の理由…前編」
 REDCOW  - 07/12/14(金) 14:30 -
  
第109話「暗闇の理由…前編」
 
 高らかに叫んだクロノだが、そこに脇からぬぅっと出て来る気配があった。
 
「おわぁ!?な、なんだよシズク!」
「…そこのおにーさーん。威勢が良いけど、何かお忘れではありません?」
「・・・・・何?」
「火がまだよ。バンダーに奪われたでしょ。」
「…あ。」
 
 クロノは彼女の指摘にぽりぽりとばつが悪そうに頭を掻いた。そう、クロノ達はまだ火の呪印を手に入れていない。冥の呪印の前にバンダー達を探し出して奪い返さなくてはならないのだ。
 
「くっそ、…でもよぉ、今思ったんだが、冥の呪印はプレートの何処に収まるんだ?プレートには穴が4つしか無いだろ?」
 
 シズクは彼の指摘に、仕舞っていたプレートを出して手で探った。
 確かに穴は4つしかない。
 
「ほんとだ。どうするのかしら。…と言う前に、私、思い出したけど、この迷路には4つの属性の魔力は感じるけど、冥の魔力って感じないわよね?」
「あぁ、そういえばそうだな。」
 
 二人のやりとりにミネルバが思わず笑った。
 
「フフフッ、もう、お二人とも面白いわねぇ。そもそも、お二人は冥の魔力なんて感じた事がお有りなんですか?」
 
 二人は彼女の指摘にしばし考えた。だが、確かに思い当たるようなものは無い。
 クロノ自身は魔王の魔力を感じた事が有ったが、それは属性魔法を使っている時だけで、魔力の圧力こそ感じた事はあるが、冥の力らしきものは感じた事がなかった。
 二人の困った波動を感じて、再び微笑みながら彼女が言った。
 
「冥の魔力なんて感じませんよ。冥は元々全ての均衡を保った状態。つまり、この世界その物が冥の均衡で出来ているんです。感じるはずがないんです。」
「え、ちょ、待ってくれよ?なら、俺達は元から冥の魔力を感じているってことでもあるわけだよな?」
「そうともいえますね。」
「ということはさ、この迷宮から冥の呪印の間を探すのって至難の業だろ?もしかして、この暗闇の理由はそこか?」
「あっ!?」
 
 3人が一斉に止まった。
 クロノの推測は確かにその可能性が高かった。
 二人はクロノの推測に、ようやくこの試験の闇の理由が見えた気がした。
 
「…ちょっと、…もしかして、最後は壁をバタバタ叩いて歩くとかってオチじゃないでしょうねぇ。あ"あああああー!!!!んもぅ、なんなのこの試験の理不尽っぷり!」
 
 シズクは気が狂わんばかりに頭を掻きむしって怒りを鎮めていた。
 ミネルバも自分で言っていた事の重大さに気付き、流石の彼女も内心穏やかではなかった。
 
「うはぁ…、先が思いやられるぜ…。」
 
 3人は力なく再び歩み始めた。
 何はともあれ、まずはバンダーを見つけなくてはならない。

 クロノは集中してバンダー達の魔力を探した。だが、今更になって気付いた事だが、ここには8チームの魔力がいるはずだが、どういうわけか4チーム分の魔力が消えていた。
 何かの間違いかと思い、更に深く全体をまるで見渡すように探ったが、それでも反応が感じられなかった。
 いや、そう思っていた矢先に、突然2つのチームの存在が現れた。
 それもごく至近距離で。
 
 クロノが察知したのと同様に二人も気配を感じたようで、3人は静かに気配に近づいた。
 そこはホールのような開けた場所らしく、空間全体が2つのチームの魔力で満たされて行くのが感じられる。
 3人はホールより少し外れから中の様子を探った。
 
 
「…探したぞ。」
 
 
 少年の声がする。
 そこに新たな声が反応する。
 
 
「…そう。でも、私は貴方の事を知らないわ。」
 
 
 その声は女性で、とても穏やかで冷静だった。
 
 
「お前は知らなくとも、僕は忘れない。この領域に踏み入った事を後悔するがいい。」
 
 
 少年はそう言うと、一気に魔力を解放した。
 その魔力は凍てつくような水の魔力。それも今までのどんな使い手をも超越した途方もないエネルギーを感じる。
 
 
「(なんだ!?こんな水の魔力があるのか…)」
 
 
 クロノは内心の驚きと共に、この後の動きにわくわくするものを感じていた。
 少年の相手である女性は、彼の動きに一呼吸置くと呟いた。
 
 
「…根に持つ男は好きじゃないわ。それに坊や、私は子どもが嫌いなの。あなたがもう少し大人じゃなきゃ、つまらないわ。」
 
 彼女はそう言うと微笑んだ。すると、彼女の意思に応えるかのように二人の巨体の男が彼女の前に並んだ。
 
「ツー!」
「カー!」
 
 二人はそう叫ぶと、深く深呼吸をして少年たちの前に対峙した。
 少年は巨漢を前にしても怯まず、手を前にかざして呼び出す。
 
 
「我が支え、今呼び出さん。ハイドロン!!!」
 
 
 少年の声に反応して一振りの杖が現れた。それは青き輝きを放ち、空間を照らす見事な宝石を先端に持つ杖。少年は杖をしっかりと持つと、巨漢男に向かって構えた。
 少年を中心に魔法陣が次々と展開し、支配を広げ始める。その陣は少年の杖の動きに従い、全てが女性と巨漢男達のもとに集った。
 
 
「我は求めん!汝ら全てに凍れる時を!フラッド!!!」
 
 
 陣が一斉に閃光を発する。そして、陣を中心に膨大な冷気の煙を噴き出して鋭利な氷の刃が次々に襲いかかる。
 巨漢男達が悲鳴をあげて負傷する。しかし、女は瞬時にそれらを全てかき消した。彼女の周りから爆炎が吹き上がり、空間を赤々と照らす。
 
 
「ケア!」
 
 
 女がエレメントを発動させ、巨漢男達の傷を癒す。
 彼女は何事も無かったかのように涼しげな表情で少年を見据えていた。
 
 
「…終わりですか?」
 
 
 彼女の不敵な言葉に、少年は内心の思いを封じて冷静に返した。
 
 
「…これからだ。」
 
 
 両チームの力は確かに少年が言う通り、まだまだ計り知れないものが感じられた。
引用なし
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