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彼女らは、再び平和を取り戻した。
いとおしく鼓動を打つ、この大地の平和を。
宿敵であったニズベールはもちろん、ラヴォスは滅んだのだ。
クロノと、ルッカと、マールと、カエル。そしてロボと魔王。
全ての仲間と共に戦い、別れを告げ、この地に戻ってきたのだ。
後悔の念は何も無い。
たしかに別れの辛さはあったのだが、自らの使命を背負うにはそんなことは捨てなくてはならなかった。
生い茂る木々、聳える山々、不定期に噴火する火山、静かな洞窟………
これらを守り、未来を守る使命。
「ヌゥ!!いるか?」
狩りの森の奥深く、ヌゥの居る草むらに向かいエイラが叫ぶ。
だが、あたりは鳥の鳴き声しかしない。
草の音がなったと思えば、それは小動物だった。
「エイラだ!ヌゥ!どこいる?」
相変わらず応答は無い。居ないのだろうか。
エイラは仕方なく、狩りの森を後にしようと方向転換をして走り出す。
最近、ヌゥは姿を見せなくなっていた。
イオカの村民は心配していたので様子を見に来たが、ヌゥは居なかった。
一体、どこへ姿を消したのだろう。
エイラは自分のテントへ戻った。
「じじ ヌゥ、いない」
エイラはテントの入り口の布を持ち上げ、中に居た老人に話す。
『じじ』と呼ばれた老人は、真っ白で長い髪と髭で覆われていて、顔は識別できない。
大きな壷に火をかけ、なにやら煮込んでいる。
「そうか………。
エイラ よく聞け。
昔から、ヌゥ居なくなる 不幸の前触れ、言う。
何か、よくないこと 起こる!
早く、ヌゥ 探す!」
老人は興奮気味に語った。
エイラはたまらず問う。
「不幸、なに起きる?
ヌゥ、どして居ない!?」
そんな問いかけに、老人は一度手を止める。
そしてエイラのほうへとゆっくりと向かう。
「ヌゥ、危険あると、逃げる。
なに 起こるか、わからない。
ラルバの酋長、何か 知ってるはず!」
「ラルバの酋長だな!
ラルバ 行ってくる!」
エイラは老人の答えも聞かず、そのまま走り出してしまった。
………ラルバ、移動する民。
どこいるか 分からない。
ラルバ、勘 鋭い民 たくさん。
ヌゥと 一緒に、逃げたか?
エイラはまず、火事で焼けてしまった村の跡地を訪ねてみた。
ここには以前、ヌゥも居たし数名のラルバの民が居た。
焦げ臭い匂いが漂ったままの村の跡地は、いかにも危なげな雰囲気を醸し出していた。
だが、エイラは戸惑うことなく村跡地の奥へ進んで行く。
濃い霧が、行く手を阻むが嗅覚と聴覚の優れるエイラには大した障害でもなかった。
空には多数の吸血蝙蝠が舞っていた。
「ラルバの民!いるか?」
エイラは一度立ち止まって叫んだ。
その声は不気味にこだまする。
「イオカの酋長、エイラだ!誰か いるか?」
しかし、反応は無かった。
ここにはラルバは居ない。
すでにどこかへ移ったのだろう。
あきらめて、引き返そうとしたとき、たしかにエイラの耳には声が聞こえた。
「……誰だ!?どこにいる?」
エイラの叫びに小さな声で答える何者か。
エイラはその声の主を探すために、耳をすませる。
………こっちだ………
エイラ、こっちだ………………
「わかった!今、行くぞ!」
エイラは確かに声の主の居場所を掴んだらしく、さらに奥へと進んでいった。
周りの木々は恐ろしい形相でエイラを見つめている。
奥へ奥へと進んで行き、エイラはある場所で止まった。
それは焼け跡の一番奥の大木の根元だった。
そしてエイラはしゃがみ込み、声の主だと思われる人物の居場所を確認し、その手を握る。
「エイラ………?」
声の主はまさに虫の息だった。
若い若い、女性だ。
寝たきりのまま、起き上がれない。
エイラはその女性をを抱きかかえ、立ち上がる。そして、
「テント、行くぞ!
元気の水 飲んだらきっと、よくなる!」
エイラはそのまま走り、テントへ向かう。
一刻も早く、水を飲ませなければ。
その気持ちしか、エイラには無かった。
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