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『サイラス、魔王を打倒せんと志立て名剣グランドリオン手にするも、魔王の前に倒れる。サイラスの朋友グレン、その志引き継ぎ、グランドリオンと共に魔王を葬る。
――ガルディア史録
閉じていた目を開き、グレンは胸の前で合わせていた手をゆっくりと下ろした。テルミナの外れにある霊廟、その一角に墓標代わりに突き刺さった龍の聖剣・イルランザーの前に片膝をついている。
兄貴は死ぬはずじゃなかった。魔剣グランドリオンの捜索日前夜、兄ダリオは笑って言ったのだ。見つけるだけで、触れはしない。俺は誰も、恨みたくないからと。
「それよりも、グレン。お前に言っておきたい事がある。」
微笑みはそのままで、しかし真剣な眼差しで、ダリオはグレンに向き直った。密かに尊敬する兄に見つめられ、グレンは照れ隠しに茶化して言った。
「なんだよ、兄貴。リデルお嬢様の事か?兄貴がいない間守れって言うんなら、言われなくてもやるつもりだぜ?」
「そうじゃない。いやそれもあるけど、今はその話じゃないんだ。」
そこで少し言い淀んだが、ダリオは意を決したようにあの事を口にした。
「これから先、俺にもしもの事があった時に…この剣をお前に託したい。」
この剣、という所で腰のイルランザーの柄に手をかける。グレンは慌てた。
「やめてくれよ、縁起でもない。大体、なんで俺なんだよ、俺はまだ龍騎士団の中じゃ下っぱだぜ。実力から言っても次の剣の持ち主はカーシュだろう?」
グレンの反論に晴れやかに笑って、ダリオは言い放った。
「俺はお前に継いでほしいんだよ。この剣は親父から継いだものだ。だからお前にだって継ぐ権利はある。実力だって、お前にはまだまだ可能性があるじゃないか。」
その言葉を思い出す度に謝っていた。ゴメン。俺にはイルランザーを継ぐ資格がないんだ。だからこの剣はずっと兄貴の物だよ。継承者を途絶えさせるのは惜しいかもしれないけど、俺には継げない。俺自身が継がせない。
親父がまだ生きていた頃、いつも言っていた。グレンというのは、昔の勇者の名前だ、そこから取ったんだ。だからお前はきっと良い騎士になるぞ、と。
しかし、ふたを開けてみれば剣の腕は平凡、短気で未だに下っぱ騎士の一人でしかない。ダリオの方がよっぽど英雄らしいし、実際グレンの中では英雄は兄以外の何者でもなかった。イルランザーだって、名ばかりは立派だが見かけ倒れの自分に受け継がれるよりは、永遠に英雄らしいダリオの剣でいたいに違いない。
立ち上がったグレンの目の端に、光る何かが映った。そちらへ顔を向けると、金属製の長い物が流れ着いているのが見えた。歩み寄ってそれが何か理解した時、無数の声がグレンの頭の中に響き…。
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