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【131】其はいかにして魔剣となりしか  プロローグ meg 08/5/18(日) 20:53

【141】其はいかにして魔剣となりしか  エピローグ meg 08/6/9(月) 14:48
【142】あとがき。 meg 08/7/5(土) 16:06
【143】其はいかにして魔剣となりしか  外伝 meg 08/7/5(土) 18:27

【141】其はいかにして魔剣となりしか  エピロー...
 meg  - 08/6/9(月) 14:48 -
  
「もう体の方はいいの、グレン君?」
 呼びかけられてグレンは振り返った。大陸出身の少女が微笑みを浮かべて立っている。その後ろの建物、パブの室内では、カーシュ達がささやかな祝杯を上げている頃で、にぎやかな声がもれ聞こえてくる。
 目覚めた時、見知らぬ町の宿のベッドに寝かされていて、リデルやカーシュが安堵の笑みと共に名前を呼んだ。霊廟でグランドリオンを手にした自分を、みんなが助けようとしてくれていた事を彼らから聞かされ、協力してくれたというこの少女を紹介された。グランドリオンがもう魔剣でなくなった事も聞いた。
 様々な事が解決された中で、けれどグレンは今一つすっきりできないでいた。あんなに嬉しそうにしているリデルを見るのは久しぶりで、カーシュもその事を本当に喜んでいて、そんな彼らにはどうしても打ち明けられず、独り物思いにふけっていた所だった。
 軽快な足取りでそばに寄ってきた少女は、少し顔を仰向けて、頭一つ分上にあるグレンの顔を覗き込んだ。
「元気がないみたいだけど、何か気にかかる事があるの?わたしでよければ聞くよ。」
 年下のこの少女から君付けで呼ばれている事には、なぜか腹が立たなかった。元気いっぱいといった感じなのにどこか大人びた雰囲気を持つこの少女になら、話しても大丈夫な気がした。少女の方を見ず、まっすぐ前を向いたままでグレンは慎重に言葉を口にした。
「グランドリオンを手にした時…大勢の人間の声が聞こえたんだ。なぜ自分は死んだんだ、なぜこんな目にあったんだ、そんな自分の運命を呪っている声が頭の中で響いて、気が狂いそうだった。」
 突然語り始めた事に驚く事もなく、少女はじっと耳を傾けていた。
「でも、そんな中で二つの声だけは別の事を言っていた。一つは、王国に平和を、と。もう一つは、友のため、仲間のために、と。その二つの声がなかったら、きっと俺は発狂していたと思う。その声だけを聞くようにしていたら、体が勝手に動いて…ここまでたどり着いたんだ。」
 北の方角に目を向ける。木々の間から月光を浴びて浮かび上がっているのは、無意識に目指していた勇者の墓だ。
「そっかぁ…。」
 どこか感慨深げに少女がつぶやく。にこ、と人好きのする笑顔をグレンに向けた。
「グレン君は、四百年前の二人の勇者の声を聞いたんだね。」
「勇者の、声…?」
「そう。」
 グレンの戸惑いにあっさりとうなずいて、数歩前に歩みながら少女が語る。
「グランドリオンは、手にする人の意志によって、強くもなり弱くもなる。人の意志に呼応する剣なの。だから今でも、彼らの声がまだ剣に残っていたんだわ。あの剣の精霊、グランとリオンが気に入った人達だからなおさらね。」
 くるりと振り向いて、もう一度笑う。その顔が、ふと陰った。
「ああ、だからだわ。あんなにもはっきりとジール女王の声が吹き込まれていたのは…意志に呼応するからこそなんだ。」
 悲しげな少女を見ていて、グレンも一つ思い出した事があった。あの剣が見つかったのは亡者の島の最奥。つまり、グランドリオンを手にして聞こえたのは、そこに渦巻く亡者達の声だったのではないだろうか。人の意志に呼応するからこそ、グランドリオンは魔剣になったのだ。
 まだ頭の中に残る呪詛の声が、少しずつ消えていくのをグレンは感じていた。そんな中、それまでは気づかなかった聞き覚えのある声がかすかに、だが力強く叫ぶのが聞こえた。
 友をこの手で殺すくらいなら、自分が死んでもかまわない!
「兄貴…。」
 無意識につぶやいた言葉を聞いた少女はきょとんとしたが、気にしない事にしたのかすぐににこっと笑ってグレンの袖を引っ張った。
「わたしお腹すいちゃった。何か食べようよ。」
 月明かりの下で、少女の青い瞳が銀色に輝いている。そこに自分の姿が映っているのを見下ろして、グレンはふ、と口元をほころばせた。
「なぁ、勇者の事をやけによく知っているんだな。もう少し詳しく聞かせてくれないか。」
 幼い頃、父にさんざん聞かされた、自分の名前の由来。今までは重荷でしかなかった。しかし、声を聞き、少女の話を聞いて、何か惹かれるものがあった。彼らの事を知りたくなった。
 少女は二つ返事で了解し、パブへと戻りながらどこから話そうかと思案している。グレンはもう一度勇者の墓を振り返った。グランドリオンを手にし、中世で活躍した二人の勇者。彼らが安らかに眠る場所。もっと早くに来ていれば、兄の最後の願いを叶えられたかもしれない。
「グレンくーん、早くおいでよ!」
「今行く!」
 答えてグレンは少女の方へと歩みを進めた。
         Fin
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【142】あとがき。
 meg  - 08/7/5(土) 16:06 -
  
 「トリガー」の中世の雰囲気が好きです。
 特にグランドリオンの一連のイベントは気に入っていたので、クロスプレイ時には「魔剣?!」と多大なショックを受けました。せめて納得のいくエピソードをと考えたのがこの作品です。
 舞台設定としては、アナザーの方の真エンディング後で、仲間達はセルジュとの冒険を忘れているという事になっています。というのは、エンディングでのキッドの独白から推測してそうなのではと、私が思っただけですが。
 なぜアナザーにしたかというと、セルジュの旅には不参加の少女が、セルジュと同じ世界にはいないのではないかと考えたからです。あと、シルベーラは、ルッカが“時を渡る翼”を元に、飛行機能を重視して造ったという設定。そうでないとエルニドから出られないからね。
 「運命」のいなくなったアナザーワールドの人々、とりわけセルジュと関わった人々にとって、“彼女”はセルジュにとってのキッドと同じく外の世界へと誘う存在だと思います。「運命」によって閉鎖空間となっていたエルニド。「運命」の消滅後は、それまでよりも大陸との交流が深まることでしょう。
 …ところで、個人的に“少女”の事をもう少し書きたくなってしまったのですが(汗)。という訳で、外伝作りました。こちらも読んでいただけると幸いです。
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【143】其はいかにして魔剣となりしか  外伝
 meg  - 08/7/5(土) 18:27 -
  
「リデルお嬢様?」
 呼ばれてリデルは振り返った。カーシュがこちらへ近づいてくる所だった。いたずらが見つかった子どものようにリデルが少し笑う。
「見つかってしまいましたね…。」
「どうしたんです、こんな遅い時間に外に出るなんて。今日はいろいろあった事だし、早めにお休みになった方が…。」
 カーシュの言葉を遮って、リデルはぽつりとつぶやいた。
「あの子と、言い争いをしてしまったのです。それで、少し頭を冷やそうと思って。」
 あの子、というのが彼らをここチョラスまで運んでくれた少女の事を指しているのは明白だった。カーシュの眉が急角度に跳ね上がる。
「なにい、あの小娘、お嬢様にどんな失礼な事を言いやがったんですか?!」
 最初から悪いのは少女の方と決めてかかっている。憤然として発した言葉は、リデルによって打ち消された。
「いいえ、私が悪かったの。」
「え?」
 怒りの矛先を失って、カーシュが間抜けな声を出す。遠くを見つめて、リデルは小さくつぶやいた。
「私が、なぜあんなにもグランドリオンの呪いに執着していたのか、尋ねられたのです。だから私は、ダリオの事を話した…。」
 息を飲む気配。背後のカーシュが今、どんな顔をしているのか、前を向いたままのリデルには判らない。
「そうしたら、まだ半分も話し終えないうちに、あの子、恐い目をして言ったんです。あなたは贅沢だ、って。」
「贅沢…?」
 おうむ返しにカーシュが訊き返す。
「ええ。大陸の方では、パレポリが起こした戦のために、肉親と生き別れになったり、死別したりした人は大勢いるって。そんな人達でさえ、今は日々の暮らしを精一杯生きているのに、あなたは自分の立場をいい事に、周りの心配や気遣いにもかまわず自分の悲しみに閉じこもっているって。」
 そっと自嘲の笑みを浮かべ、うつむくリデル。
「その時はかっとなって、あなたに何が判るの、なんて言い返してしまったけれど、よく考えてみればその通りだったと思うんです。今まで私は、自分の事ばかりだった。一番辛かったのは家族を亡くしたグレンのはずなのに、グレンは私ほど長く悲しんではいなかった。カーシュ、あなただって、目の前でダリオを失ってショックだったはずなのに、むしろ私の事を気遣ってくれていた。父上にも、心配をかけてばかりで…。」
 振り返ると、複雑な色をしたカーシュの目と視線がぶつかった。いつの頃からか、カーシュは今のような様々な思いの混ざった目をして自分を見ていた。リデルにはそれが何なのか、想像もつかないのだけれど、少なくとも心配してくれているのだという事は判った。
「だから、決してあの子を怒ったりしないで。あの子は間違った事は言っていない。周りに甘えていた私の目を覚ましてくれた、ただそれだけだから。」
「まあ、お嬢様がそう言うなら、やめておきますけど…それにしても、言葉がきつすぎじゃないですかね。」
 自分が言われたかのように怒っているカーシュに、リデルはくすりと笑みをこぼす。
「いいんです。代わりにあなたが怒ってくれているから。」
「え、いや、そ、それは…。」
 思いがけない言葉にうろたえ、照れたカーシュは耳まで真っ赤になったが、夜の闇に紛れているためリデルは気づかない。
「明日はちゃんとあの子に謝らなければいけませんね。もう乗せてあげない、なんて言われたら、エルニドに帰れませんから。…話を聞いてくれてありがとう、カーシュ。私、もう部屋に戻りますね。」
 おやすみなさい、と言ってリデルが平屋造りの宿の中へと姿を消し、カーシュは反射的に挨拶を返してそれを見送った。するとそこへおどけたような声が降ってきた。
「どうしてそこで気づかないのかなぁ、リデルさんは。」
 ぎょっとして辺りを見回したカーシュは、宿の屋根の上に人影を見つけて二度驚いた。ずいぶん距離があったのだが、目のいいカーシュにはその人物がリデルとの話題に出ていた少女だとしっかり見えていた。
「てめえ、小娘、そんな所から盗み聞きを…。」
 言いかけた言葉は途中で途切れてしまった。怒声を聞き流して月を見上げた少女が、独りぼっちの迷子のような瞳をしているのを見てしまったからだった。出逢ってからずっと、笑顔を絶やさなかった少女。リデルとの言い争いの際恐い目をしてみせたというが、少女のそんな様子が今さらだが想像できなかった。
 こほん、と意味のないせき払いをして、改めて少女に呼びかける。
「なあ、一つ訊きたいんだが…。」
 少女が誰であるのか判らないといったように、ぼんやりとこちらを見下ろしてくる。しかしそれも一瞬の事で、身軽に屋根から降りてきた時には笑顔が復活していた。
「なあに、カーシュさん。」
「バカ、危ないからわざわざ飛び降りて来なくても…って、そうじゃなくてだな…明日、俺達をエルニドまで送った後は、どうするつもりなんだ?」
 少女がちょっと首を傾げる。なぜそんな事を訊くのか、と訊ね返されたらカーシュも答えに詰まるのだが、少女は素直に答える事にしたようだった。
「そうね…ちょっとだけエルニドを観光しようかな。その後は、また父さん達を探しに行かなきゃね。」
 虚空を見つめる真剣なまなざしと、リデルとの会話にあった言葉が重なってはっとする。そんなカーシュの考えを読んだかのように少女は続けた。
「そう、わたし、父さんと母さんの顔知らないんだ。赤ちゃんの頃に離ればなれになっちゃったから。父さん達はよんどころない事情で帰って来れないみたいだし、だったらわたしから会いに行こうかなっ、て。」
 言うべきなのかとしばらくためらい、カーシュはできるだけ重く聞こえないように注意しながら問いかけた。
「どこにいるとか、安否とかも判らないのに、か?」
「判らないからこそ、よ。」
 意外にも、きっぱりとした答えが返ってくる。
「わたしが探さなきゃ、ほかの誰も探さない。確かな事が判るまでは、探し続けるわ。父さん達も、わたしが無事だって事、知らないだろうしね。」
 振り向いた少女は、安心させようとしたのか微笑んでいた。
「やだなあ、カーシュさんがそんな顔しなくたっていいじゃない。わたしは大丈夫だからさ、父さん達を信じているから。」
「だがよ…パレポリを恨みたくならねえか?」
「別に。今さら歴史の流れを嘆いたって仕方ないもの。わたしは今生きているんだし、今やれる事を精一杯やるだけよ。」
 笑顔さえ浮かべて少女は宣言した。
 やっと十代半ばに手が届いたくらいの少女が、たった一人で、生きているかも判らない両親を探し続けている。原因となったパレポリを憎む事もなく、ただ両親の無事だけを信じて…。その笑顔を見下ろしながら、思わずにはいられない。この少女の青い瞳が見つめる先に、何が待っているのだろうかと。
 やりきれない思いが胸を占める。少女は少し困った顔をしてカーシュを見上げていたが、やがてこちらに背を向けて歌いだした。優しいメロディと愛おしさに満ちた言葉が、透き通った少女の歌声となり、夜の町に静かに響く。一通り歌い終わると、思わず聞き惚れていたカーシュに微笑みかけた。
「母さんが、父さんに贈った歌なの。昔、父さん達が旅をしていた頃に、一度父さんが無茶をして瀕死になった事があって、その時母さんが父さんへの思いを歌ったんだって。小さい頃に、母さんの親友の博士が教えてくれたの。」
「…何でそんな歌を今歌うんだ?」
 尋ねると、微笑みが少しいたずらっぽい雰囲気を帯びた。
「カーシュさんを元気づけてあげようと思って。」
 励まそうとしていたのはこっちのはずなのに、逆に励まされている。カーシュは眉間にしわを寄せたが、不快という訳ではなかった。
「ふん、生意気言ってんじゃねえぞ小娘。」
 言葉は荒いが口調は落ち着いていた。ふふっと少女が笑う。
「さて、そろそろ寝ないと明日起きられなくなっちゃう。部屋に戻った方がいいよ、カーシュさん。」
「てめえはどうすんだよ?」
「今戻るとリデルさんと鉢合わせしちゃうからなあ。シルベーラで寝るよ。」
 苦笑する少女を見て、二人が喧嘩中だった事を思い出す。呼び止めて説得する事もできたのだろうが、その前に少女はさっさと愛機に歩み寄っていってしまった。肩をすくめると、カーシュは助言に従う事にする。
 宿の扉に手をかけた時、ふと思った。リデルは少女の歌を聞いていただろうか。もしそうだったとして、歌が歌なだけに妙な勘違いをされるのではないか。そんな事を考えて少し青ざめるカーシュなのだった。
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