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中世ガルディア城 客人向けの一室
黒髪の少女は、少女はベッド揺すっていた。
「お……起きなさい」
ベッドに寝ている別の少女は、くぅくぅと寝息を立てている。
「もう少し寝かしてあげたほうがよろしいのでは?」
この部屋の清掃などを行う女性が言ってくるが少女はそれを断る。
「いいえ、これほど立派な部屋。
それはこの国でよほど主要な地であることが考えられます。
これ以上長居することは出来ません」
そういった少女。
ほんのすこし前にこの隣のベットで目が覚め、そのとき清掃していた彼女から自分たちが誰かに助けられ、眠っていたことを知ったばかりである。
女性から見れは多少は混乱しているだろうと考えてしまう。
「私たちは気にしませんよ」
やんわりとやさしくいう。
「ですが、聞けばここ数日とはいえこの場所を占領した挙句、海岸を打ち上げられたところを助けられるという、感謝しきれない恩人に挨拶をしなければいけません」
ゆっくりと、丁寧な言葉遣いで話す少女。
長髪の少女は、一般の同年代よりはしっかりしていることがうかがえた。
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。
ガルディア国王様やリーネ様はとてもお優しいですから」
「? 今なんと?」
「え? 今急がなくても言いと」
「いえ、その後です」
「? ガルディア国王様とリーネ様ですか?」
「!! 王様と言うことはここはガルディア城内ですか!?」
「ええ、まあ」
突然声を高くされ、言葉にどもる女性。
少女はすこし固まり、状況を把握するために頭を回転させた。
「……」
「あ、あの」
女性が突然固まった少女を気に声をかけるが反応はない。
それでも心配でずっと見ていたら、突然動いた。
「ならなおさら!
早く起きなさいスティア!!」
思わず怒鳴ってしまった。それでもスティアと呼ばれた少女は起きない。
コンコンコン
早い音で三回ノックされると、軽い木の扉が開いた。
「どうしたんだ!?」
一人の兵士が入ってきたのだ。
おそらく
少女の声が大きかったために、良くは聞こえなかったが何事かと入ってきたのだろう。
「いえ、ちょっと……」
女性が言おうとするが、少女たちが薄着なのに気づいて兵士の身体の向きをムリヤリ変えた。
「ここは私に任せて持ち場に戻りなさい」
「だが……」
「言い訳無用ですよ、新人兵士さん」
新人兵士。
戦争が激化する中で、ガルディア王国は苦肉の策として徴兵を行っていた。
力のある青年、あるいは働き盛りの青年、少年たちは、有志ではあるがガルディアの兵士として国の前線で戦うことが、義務ではないが公然となされ始めてきた。
そのため、ガルディア城内では、騎士団の兵士より現在は町などの有志の兵士、新人兵士が多くなっていた。
彼らに、訓練をつませると同時に城内の見回りを行わせていた。
もちろん、ヤクラの件があってから魔物や魔族が人間の姿をしていると言うことも考えられるので、素性が分からないものは前線へ行かされたりしている。
また、王族に関しては騎士団が直属に守っているのが現状である、そのため王様はともかくリーネ様を見たことがない兵士も多々いるのも確かである。
そのような背景もあり、城内では特にイベントらしいイベントもおきず、刺激や変化に敏感な新人兵士たちは、ちょっとした変化(今回の場合は大声)でも、ノックの後、確認せずに突然部屋に入り込むことがしばしばあった。
城内ではそれほど大きなことは起きないはずだが、初めて持ち場を任されたり、魔物たちの恐怖になれていない新人兵士はこのように空回りをしてしまうのである。それを昔から城内で働いている侍女たちからすれば、確かに刺激はあるが仕事の邪魔になったりと苦労をしているのであった。
新人兵士を部屋の外に追い出すと、その騒ぎでベッドに居た少女がやっと起き出す。
「んんんうんん」
半身を起こし、眼を擦り現状を把握。
自分の身なりを半分眼が閉じた状態で行い、自分できゅっと頬をつねる。
その行為を一通り行うと、首を振り辺りを見た。
「ルア姉さんおはようございます」
おはようございます、といいつつ部屋の窓からはもう陽が高く昇りきりおり始めている。
「ふう、やっと起きたわね」
「はい。
姉さん、ごめん。わたしの……」
「気にしないでいいわ。船が落ちのは、あなただけのせいじゃない。
わたしの状況判断のミスとあの嵐が非常に大きかったこと。
でも助かったんだからいいじゃない」
「……」
ルアと呼ばれた少女は、女性に向き直った。
「あの、私たちの持ち物は……」
「ちゃんとあるわよ」
女性はゆっくりとした歩きでベッドの端の方へ行き、タンスから彼女たちの持ち物を出した。
「とりあえず、拾えるものは拾ってきたわ。
失礼と思ったけどこんなご時勢だから中身を拝見しちゃったけど……」
「そのへんは構いません。助けていただいただけでも十分ですから」
「この書状。ここの文字じゃないみたいだから読めなかったけど、すごいわね。海の水にあてられても消えないどころか、にじまないなんて」
「ええ、それはロウによって特殊に書かれた物ですから」
「ロウ?」
「はい」
「ところであなた達は、いったいどこから来たの?」
ベッドに寝ていた少女が答える。
「わたし達はここから西に位置するエスト大陸からとある命のために来ました」
「エストから来たんですか。
たしか戦争が始まってから、交易が止まってしまったのでとく内情はわからないのですが、なぜ今? 私たちの手を助けてくれるのですか」
気体を込めて女性が言うが、あまりその感じはしない。
「わたし達は種族間の戦争には手を貸しません。
それが私たちエストの民が長い間築きあげてきた歴史ですから、わたし達はある目的のためにここに来ました」
「そう、それであなた達の目的とは」
「それは……」
ルアはいいよどむが、スティアが代わりに続けた。
「四精霊教会からの命で中央大陸に伝わる聖剣グランドリオンの封印あるいは破壊です」
女性は目を丸くした。
「グランドリオンの、破壊?」
「はい、詳しくは述べられませんが、そのためにはるばる西の大陸からここに来ました。
このことで相談したく、中央大陸の覇者ガルディア王国の王に会いたく……」
ガシっ
ルアは女性に肩をつかまれた。
「?」
「急ぐのですか? 急いだほうが?」
「え、ええ、早いほうが……」
「分かりました。特別に王に謁見することを許しましょう」
「?」「?」
「すぐに用意しますから、あなた達も身なりを整えておきなさい」
女性の突然の物腰の変化にとまどうルア。
「あ、あの、そんなに早く会うことが出来るのでしょうか?」
現在は戦乱の中である。
戦時に重要な、それこそ西の大陸が全面協力してくれるという話ならば、これほど早くの謁見も可能であろうが、ことがことである。
正直ルアは、数日はかかると考えていた。
それがこれほどまでに早く、しかも直接王に意見を通さず決定してしまうこの女性。
いったい何者?
「あなたはいったい……」
「申し遅れました。ガルディア王国の王妃リーネです。今後ともお見知りおきを……」
女性、リーネは恭しく、綺麗に挨拶を述べると部屋から出て行った。
その様子を見て、ルアはものすごい国であると感じた。
「ありがとうございました」
謁見の間にて、ルアとスティアは深々と頭を下げた。
再び顔を上げると、かわらずガルディア王とリーネ王妃がいた。
リーネ王妃は、さっきまで来ていた服装とは違い、青白いドレスを着ていた。気品溢れる物腰でこちらをにこやかに見てる。ガルディア王はここ少しの間戦況が変化したこともあってか少しやつれ気味である。それでも一国の王をしての重責をもつ威圧感が出ていた。
「以前、ガルディアは異国の者に救われた経緯があるゆえ、異国のものに対しては礼を持って接しておるだけ」
「そうなのですか」
ルアは手ごたえを感じていた。
この国は現在戦争中である。
最悪、間者と間違われる恐れもあった。
そのため出立時にはそれらしきものはすべて置いていった。怪しいと言ったら先ほどみせた書状であろう。
ルアは続けた。
「わたし達は西の大陸エスタットから来たのですが、私たちの同胞が建てたマノリア修道院。
修道院が悪用されたという話を聞いたのですが」
ガルディア王は責めるべきところを先に言われてしまい、しばし思考した。
その思考が終わらないうちにルアは続ける。
「わたし達はそのマノリア修道院の取り壊しを提言します」
「……真か?」
「はい、本山の方からの達しでもあります。
本来、聖の主体となるべき修道院が悪しき物に利用され、その地に住むものに迷惑をかけたのであるならば、わたし達四精霊教の教義に反します。
取り壊していただきたい。
もちろん、四精霊教からも補助はします」
「そうか。
しかし、そなたらも分かっての通り現在戦争中でな、緊急避難の地としてあの場所は使われておる。
早急にというのは無理な話だ。
「分かりました。
ならば戦争後ということでお願いします」
「覚えておこう」
「それにわたし達もあまり、城の迷惑をかけるのはまずいかと思うので、そこで寝泊りさせてよろしいですか?」
「それほど迷惑と言うわけではないのですけど」
とリーネ。
「わたし達はあまり一つのところに寝泊りしていると、兵の士気にも関わるかと思うます」
「そうか? まあ、許可をしておこう。
自由に修道院は使って良いぞ」
「ありがとうございます。
そしてもう一つおねがいが……」
「……グランドリオンのことだな」
「はい」
「ねにゆえグランドリオンを?」
「それは数ヶ月前のことです。
わたし達が所属する四精霊教会と言うエスタット最大の教会で定例の神議があります。
そこで行われた占術によって、グランドリオンがいずれ悪しき力により滅びをもたらすという結果がでたのです」
「せんじゅつ?」
「いわば占いのようなものです」
「しかし、聖剣と名のついたグランドリオンが悪しき力持つというのか。信じられん」
「わたし達はその原因を探るために、そして探った後の対処として危険とみなせば封印、あるいは破壊を行うためにきました」
「原因を探るか。二人には残念ながら帰ってもらうしかあるまい」
「! どういうことですか?
それは協力してくれないと?」
「そうではない。
現在グランドリオンの行方が分かっておらん。
数年前にグランドリオンの使い手はたしかにこのガルディアにおった。
しかしそれも消息不明、もっていたグランドリオンとともにだ。
それゆえ、情報があまりないのだ」
「大丈夫です。
そのあたりは調査済みです。
わたし達はグランドリオンを探し出し、占術が正しいのかどうか確かめるためにここに来たのです。
グランドリオンはこの中央大陸では聖剣とよばれるもの。
そうは破壊という選択肢は取りません」
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