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【34】序章 REDCOW 06/8/14(月) 21:56

【54】ジャストミート REDCOW 06/9/2(土) 5:13
【56】500 REDCOW 06/10/20(金) 2:01

【54】ジャストミート
 REDCOW  - 06/9/2(土) 5:13 -
  
 僕は何とかしてこの場をどうにかしたかった。
 彼らの軍勢は完全にドーリア軍を包囲していた。でも、ジュリーさんの攻撃は図らずもカールグリーフ公の集中力を解き、術の進行がストップしていた。
 
「ジュリーさん、兎に角落ち着いてください。ジュリーさんの力でなんとかならないんですか?」
 
 僕の言葉にジュリーさんは反応せず、まだ左手に漬物石を持ったままカールグリーフ公を見ていた。
 
「ガイファー、今すぐ軍を引きなさい。」
 
 その声はとても低かった。底知れぬ怒り、いや、哀しみだろうか。ジュリーさんの声の音色には僕には分からない彼との沢山の感情が詰まっている様に感じた。
 
「…幾ら姉上の命でも譲れない。…いや、最早手遅れだ。」
 
 彼はそういうと後方を振り向いた。
 僕等は彼の見た方角をみた。そこには沢山の軍隊の姿があった。その数は5000くらいだろうか、カールグリーフ軍とドーリア軍まで加えたなら一万を越える…。
 僕がそんなことを頭で思い描いている時、ジュリーさんは怒りに左腕をわなわな震わせていた。
 
「あれはエメレゲ都市同盟。」
「え、エメレゲ都市同盟?」
 
 ジュリーさんは僕の問い掛けには答えず、カールグリーフ公を睨むと左手に持った漬物石を器用にも利き腕の様に滑らかな動きで豪快に完璧なコントロールで投げ切った。漬物石は彼女が手から離す寸前に加えたひねりも入り、回転してまるで魔球の様に見えたに違いない。
 石はど真ん中ジャストミートでカールグリーフ公の腹に入ると、憐れカールグリーフ公は30m向こうまで吹っ飛ばされ、兵士達の頭上に落下した。
 僕はマジで目が点になった。いや、これがならないでいられるか!ってくらい…。
 でも、彼女はそれさえも計算ずくの様で、すぐに次の行動に移った。
 彼女は突然馬上から降りると、両手を上に上げて深呼吸するみたいな姿勢をすると、ふぅっと一息吐いて、両腕を真ん中で合掌して構えた。すると、彼女の体から白い光が輝いて地面に魔法陣が輝いた。
 あまりに突然のことに驚いたけど、彼女はまるで風の様にさらさらと流れるように動くと、それに合わせて風が舞い、その風がドーリア軍とカールグリーフ軍を包み込む。両軍を包み込んだ風は白い輝きの粒がキラキラと舞い散り、その輝きに触れた兵士達が次々に我に返り始めた。
 
「ジュリーさん…」
 
 僕は魔法の力は勿論、ジュリーさんの持つ力の凄さを知った。
 彼女はあれだけいがみ合っていた両軍の兵士をあっさりと呪縛から解いたのだから。
 ジュリーさんは一通りの行動を終えると、ダーグさんの方を向いて大声で言った。
 
「ダーグ!私は非戦なんだから、あなたしっかり指揮するのですよ!!負けたら承知しないわよ!」
 
 彼女はそういうと微笑んだ。
 当の言われた側はといえば、頭を掻きつつ苦笑しながら片手を上げて答えた。どうやら同意したらしい。彼は全軍に対して魔法陣を広げると、ドーリアとカールグリーフ両軍で5000の兵力をその指揮下におさめた。そして、
 
「我らが猊下の作りし大地を汚す不届き者を成敗する!いざ、我の願いに報いよ!!!」
 
 ダーグさんの声が木霊する。すると全軍がウォーーーー!!!って声と共に一声にエメレゲ都市同盟軍に向かって走り始めた。その速さは元々騎馬の多いアスファーン側だけに、エメレゲ軍も驚いたのか突然の攻撃に後退を始めた。
 
「ぐぅ、使えん男だ。引け!全軍退却だ!!!」
 
 エメレゲ都市同盟軍を率いた老将カント・ブル・ムスタークは全軍に退却を命じると、後退する軍の最後方に向けて手をかざした。すると、彼の手の平が輝いて横一文字に一斉に光線が飛んだ。その光線は追い上げるドーリア軍の手前を射ぬき、着地面が衝突時に爆音と共に砂ぼこりを吹き上げて視界と進軍を遮った。
 ドーリア公は怯まずに領域外部まで彼らの軍を追っていった。
 
 僕とジュリーさんは誰もいなくなった戦場に取り残された。
 …結局僕には何もできなかったけど、これで良かったのかな。
 
「ジュリーさん、最初からこうするつもりだったんですか?」
 
 ジュリーさんはまたも僕の問い掛けには答えず、黙々と突然前へ歩き始めた。
 僕は馬上でただ見ているだけしか出来ないでいると、彼女は前方で1人の男の人の姿を見つけた。
 僕は慌てて馬を降りてジュリーさんのもとに駆け寄ると、その人は先程ジュリーさんが漬物石で吹っ飛ばしたカールグリーフ公だった。
引用なし
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【56】500
 REDCOW  - 06/10/20(金) 2:01 -
  
「…いいえ。幸運が重なっただけですわ。」
 
 ジュリーさんはそういうと僕の後方を目を細めてみやった。僕がそれにならって後ろを振り向くと、そこには王都からの援軍の姿があった。援軍を率いるのは白髪の初老の男性だった。とても品の良いルックスをしていて、どことなくカイルにも通じる物を感じる。
 その後ろにはカイルの姿もあった。カイルは僕等に気がつくと、初老の男に何かを告げたようだった。程なくして全軍の進軍が止まると、初老の男性とカイルが付きの者を従えて馬から下りて近づいてきた。
 ジュリーさんはそれを見ても動じずにカールグリーフ公の頭を膝に乗せていた。
 
「ジュリエット、カールか。」
「えぇ。」
 
 初老の男性は静かにそう問いかけると、ジュリーさんもまた静かに肯定するだけだった。二人の間には軍を利用し反旗を翻した謀反人をどうこうしようなんて気は無いように見える。そこにカイルがすぐに反応して付きの兵士達にカールグリーフ公を負傷者として丁重に運ぶよう命じた。彼の命令でカールグリーフ公は負傷者として運ばれていく。ジュリーさんは運ばれていくカールグリーフ公に付いて行った。
 
 僕はカイルと初老の男性に何を言っていいのか正直分からなかった。目前で展開される事柄の全てが非現実的過ぎて僕のキャパシティーを越えている事態ばかりだった。でも、おかしい。こんなに色々なことが起こったのに妙に落ち着いている。…まるで、昔経験していたかのように。
 運ばれていったのを見届けると、初老の男性が僕に話しかけてきた。

「君が賢者様の生まれ変わりという少年ですか?」
「あ、…えーと、僕にはわからないですが、そうらしいです。」
「分からない?…はっはっはっ、そうか。いや、そういうものだろうね。自分から賢者だというほうがよっぽど怪しい。なんとなく、私は君が自然に感じるよ。」
「ありがとうございます。あ、僕はシグレ・クルマと申します。失礼ですが、あなたのお名前は?」
「丁寧にありがとう。私はジスカール・アスファーン。我が王の弟だ。この王都の軍の指揮を預かっている。」
「あ、じゃぁ、追わない方が良いと思いますよ?」
「なぜ?」
「いや、敵軍の勢力は全部で5000ですが、追っていったダーグスタさんの軍は、彼の2000とカールグリーフ公の軍の3000を合わせて5000でした。同じ数で領内でしかも平地部という状況に、アスファーン軍側の構成が騎兵ということを考えても、圧倒的に有利だと思います。ダーグスタさんには援軍がこれる体制があると伝えて領外に追い出させたら、軍を引くように命じるだけで済むかと思います。もし不安に感じられて援軍を出したいということでしたら、騎兵で500程を国旗を持たせて横一列に突っ走らせてはどうでしょう?」
 
 僕の言葉にジスカールさんは驚いた表情で暫く止まっていた。何か不味いことを言ったかなと思っていると、突然シャキンとスイッチが入った様に矢継ぎ早に部下に命令を下し始めた。しかも、その命令の内容は僕の言った内容に沿ったものだった。
 
「今王都を空にするわけにはいきません。あなたはしっかりと敵と味方の勢力を把握している様に感じられる。ならば、あなたに従うのが正しい。」
「え、そんな、確かに数は正しいとは思いますが、これは飽くまで子どもの考えたことですよ?」
「子ども?タダの子どもかどうかは今にわかります。」
 
 彼はそういうと、500の軍勢を援軍としてカイルに任せて送り出し王都へ帰還の号令を出した。僕も彼に王都へ一緒に帰る様に言われたけど、カイルのことが気になった。たったの500人で何ができるんだろうか。もし僕の言葉が間違っていたら…カイルは殺されてしまうかも知れない。そう思ったら無責任に発した自分が嫌になる。

「僕もカイルの軍に同行させてください!」
 
 僕の突然の申し出に初老の男性は困ったような表情をしたが、優しく微笑んで言った。

「心配性の様ですな。あなたの采配は正しい。しかし、ご自分の采配に責任を持たれることもまた大切なことです。良いでしょう。部下を1人あなたにつけます。彼に連れていくよう指示しましょう。」
 
 そういうとジスカールさんは彼のすぐ後ろに仕えていた、緑の髪の僕とそう変わらない少年っぽい兵士に声を掛けて指示を与えた。彼は僕に馬を寄せると手を差し出した。
 
「どうぞ、お手を。」
「うん。」
 
 僕は右手で彼の手を握った。すると、彼が僕を握った手でふわりと軽々上に上げてくれた。なんか呆気ないくらいに簡単に馬上に乗った僕を確認すると、彼は僕に彼に捕まるよう促すと、すぐに馬を走らせ始めた。その視界の前方には先行するカイルの軍が見えた。
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