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【61】時の花 No,0 冥香 07/2/16(金) 19:10

【64】時の花 No,3 冥香 07/2/16(金) 19:32
【65】時の花 No,4 冥香 07/2/16(金) 19:37

【64】時の花 No,3
 冥香  - 07/2/16(金) 19:32 -
  
 薄暗い通路を進みながら、プロメテスは連綿と語る。それは彼が「生まれる前から」探し続けてきた、死に瀕した星に蒔くための「種」にまつわる話だった。

 「マザーが……イエ、まだ情報センターと呼ばれる施設のホストコンピュータだった『彼女』が保有していた古い情報から、ワタシはある興味深い人物のデータを見ツケマシタ」

 L.アシュティア。AD1000ごろのガルディアという王国にいたとされる工学博士。彼女が長からざる生涯のあいだに遺した「時空と並行世界に関する研究」のファイルが、情報センターの膨大な電子資料のなかには眠っていた。

 「断片的で、しかも研究そのものが彼女の死によって中断されてしまったようで、実証されるには至っていないのですが、コレが打開策にはならないだろうかと、ワタシは考エテイマス」
 「具体的にはどうするんだ?」
 注意深く周囲を見回しながら、リュートはプロメテスに問うた。

 プロメテドーム。マザーとリンクするコンピュータの制御するドームだが、すでにRシリーズによるダミー回路への待避が完了しているため、ガードロボの攻撃を受けることはない。だが、この時代に生きる者の習性として、気を抜くことができないのである。時代がかった愛用のサーベルは、抜き放たれて利き手に納まっている。

 「時を、越えることはできないデショウカ?」
 ヒトのように表情を変えることのないロボットであるが、プロメテスの表情はこのとき昂揚する気持ちに輝いたようにも見える。
 「時を、越える?」
 「……どういうこと?」
 ヴァンとティアも、相次いで訪ねた。
 「ドリームプロジェクトからのメッセージにもある『ラヴォス』という怪物を、監視しているひとがいるノデス。実際にお会いしたことはないノデスガ、どうもこの世界の機械文明とは違った科学に精通した方らしく、あるいは……」
 「……やり直す、というのか?ラヴォスとやらが現れる前の時代から?」
 鉄兜のような頭部を、プロメテスは器用にうなずかせた。リュートが、金色の大きな目を瞬かせて嘆息した。
 「途方も無い話だな」
 言いながら、彼は仲間が一人歩みを止めたことに気づいて振り返った。

 「……?どうした、ティア」
 「うん。……うん!やろうよ、それ!」
 「え?」
 「歴史を、変えちゃおう!」
 「ほ…本気か?ティア」
 「本気だよ。生き物の世界を取り戻すためには、何でもするって決めたよね?だったら、やろうよ。ね?ヴァン!リュート!」
 頭の高さのずいぶん違う二人は斜めに視線を交し合ったが、やがてどちらからとなく苦笑した。
 「そうだね、他に目ぼしいネタがあるわけでもない」
 「ああ、何てこった。人間てヤツぁ追い詰められるととんでもないことを考えてくれる」

 弱肉強食の世界を、決して「強」ではない立場で生き抜いてきた者たちである。無鉄砲なばかりではないはずだ。彼らは、この突拍子もない作戦に確かに光明を見た。それは、本当に暗い闇のなかだからこそ判別できたような、小さな小さな光明だったのかもしれないが。

 「では、これを預けておきマショウ」
 プロメテスが、ティアに何やら小さなものを差し出した。
 「これは……、種?」
 「新型の情報媒体デス。このなかに、アシュティア博士の『時を越えるマシンに関する研究資料』のデータをダウンロードしておきマシタ」
 「えっと、じゃあ……」

 不意にドーム内に警報が鳴り響き、ティアの質問は遮られた。警報に続いてそこここの扉が開閉する音が重なり、ドーム内の静穏は一瞬にして破られた。
 『侵入者アリ!侵入者アリ!B-1.B-2ぶろっくノがーでぃあんハ、タダチニさーちと迎撃を開始セヨ!』
 「何だとっ!?マザーとのリンクは切ってあるんじゃなかったのかっ!?」
 リュートは反射的にプロメテスに疑惑の目を向けたが、当のプロメテスも狼狽している様子だ。
 「まさか!そんなハズは!?」
 困惑するプロメテスのサーチシステムが、このドームには異質な反応を捕らえた。彼が向いた方向に、ヴァンが素早く目を向ける。何度となくロボットたちと闘った経験のある彼女も見たことのないモデルの、小さな虫のようなロボットが単眼をちかちかと光らせていた。
 「新型の斥候ロボットか!」
 素早く照準を合わせ、ヴァンは装備していた愛用のオートライフルのトリガーを引いた。すばらしい精度でロボットの単眼を破壊する。だがすでに、自分たちを取り巻く状況はこれ以上無いほどに悪化してしまっている。

 「伏せて下サイ!」
 プロメテスが叫ぶ。だが間に合わない。
 「うわあっ!」
 「きゃあっ!」
 ガードロボが横様に放ったレーザービームが、四人の肌と装甲を灼いた。
 「ぐっ、くそうっ!」
 後ろの二人を庇う形で広範囲に負傷を追ってしまったリュートが、呻き声を上げる。
 「リュート!」
 「リュートサン!」
 駆け寄る仲間たちを振り解くように、リュートは立ち上がった。そして叫ぶ。
 「ティア!行け!」
 「……え?」
 「逃げろ!」
 「な…何言ってるの!?そんな、わたしだけ」
 「種を!」
 「あっ!」
 ティアだけでなく、ヴァンもプロメテスも、顔を上げる。周囲を警戒しながら、プロメテスも言う。
 「行って下サイ。ティアサン。南の大陸の、『死の山』の麓へ。そこにいる監視者に、その種を渡して下サイ。お願イシマス」
 言い終わると同時に、プロメテスは三人を抱えるようにして後方に押しやった。それとほぼ同時だった。
 「プロメテスッ!!」
 複数のレーザービームが、プロメテスの背に横殴りの驟雨となって命中した。ドーム内が一瞬、漂白されたかのような白い閃光に満たされる。
 「プロメテスーッ!」

 自らも重ねて傷を負いながら、二人の人間と一人の亜人は、血の通わぬ仲間の名を叫んだ。ティアの手のなかで小さな種が、こんなときだというのに奇妙に温かい感触を彼女に伝えていた。
引用なし
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【65】時の花 No,4
 冥香  - 07/2/16(金) 19:37 -
  
AD1000 ―花を咲かせる者たち―


 すっかり見慣れた星空だ。短くない眠りの間に星座の位置が変わったことなど、小さなことだ。自分が生まれたとき、空に星が存在することは知っていたが、それを見ることが可能であることを知ったのはずいぶんと後になってからだった。
 ふと、ロボはそんなことを思った。

 森は暗い。焚き火はまだ燃えていたが、弱々しい炎は周囲を照らす力をすでに失っていた。それでもロボには火を囲んで眠る仲間たちの姿が見える。

 “暗い世界で生きていかなくちゃならないから”

 彼を生み出した者のひとりが、そう言ってアイセンサーの集光装置のプログラムを入念に調整している姿を、今でも思い出すことができる。
 「思い出す」……?
 いや、それは正しくない表現なのではないか?なぜならその時、自分は未だ「生まれてはいなかった」のだから。
 それでもロボは知っている。会ったこともない、「生みの親たち」の想いを。

 微かな葉鳴りを、ロボの集音装置は拾った。火を挟んだ向かいで、「彼女」の面影を強く宿す少女が寝返りを打ったようだ。悪い夢でも見ているのか、時折煩わしげに首を動かす仕草が気にかかる。

 彼女の左隣で突然、くしゃみが上がった。周囲で眠る者たちの幾人かが、眠りながらもびくりと身をすくませるほど盛大なそれを放ったのは、硬質の赤毛を好き勝手に跳ねさせた少年だった。

 “こいつに全てを背負わせて……、もしかすると、おれたちはとんでもない酷いことをしてるのかもしれない”

 まだ生まれてさえいない、「生物」ですらない自分に、記憶のなかの「彼」は痛いほどの想いを込めて言ったのだ。

 “ごめんな。いっしょに闘えなくて……、ごめんな”

 何やらむにゃむにゃ言いながら手足を縮めて眠る少年に、ロボは「彼」の姿を重ねる。

 風が強くなってきたようだ。木々が茂らせた葉をざわめかせ、消えかかっていた焚き火は空気を孕んで再び赤々と燃え上がる。しかしそこで燃え止しを使い果たしたのか、風が再び落ち着きを取り戻したとき、それはひと筋の煙を残して今度こそ消えた。辺りを完全な闇が覆う。

 月のない夜だ。人の目はもはや役目を為さないはずだ。だが、ロボは確かに自分に向けられている視線に気づいた。星空の微かな光を集めて、獣のそれのように闇のなかで光る双眸がその主だった。
 「……余計なことを考えているようだな」
 双眸の持ち主が、闇の先から面白くもなさそうに声をかけてきた。彼の声もまた、ロボの最も古い記憶を揺さぶってくる。

 “心を与える……だと?つまらん。それこそ要らぬ苦痛を強いるだけだ”

 絶望の世界に生きることを生まれる前に定められた自分の行く末を、最も危惧した者。突き放すかのような声音の裏に、ひとの目の届きづらい心の奥に、自分自身で持て余すかのように不器用な優しさを抱いていた「彼」が、かつて自分に贈った言葉。

 「今は休め。せめて、赦されるあいだくらいは安らうことだ」

 ロボの返事を待たずに再び眠りに落ちた彼を、そして先の二人の少年と少女、さらに金の髪を束ねた高貴な面差しの少女、豪気ながら彼女と共通するけはいを持つ佳人、異形の剣士……、決戦を前にわずかな休息を取る戦士たちを順繰りに見回して、ロボは胸中に呟いた。

 ああ、自分は今再び、共に戦う仲間を得た。

 もう一度見上げる空は、相変わらずの星の海。この輝く夜空がいつの日か止まぬ砂嵐に閉ざされるとは、知っていても到底信じられぬ。
 いや、もう二度と、「この星を死なすこと」は赦されない。「土を耕した者たち」と、「種を蒔いた者たち」のためにも。

 今度は、自分たちがこの星に「花を咲かせる」番だ。

 「彼ら」との思い出は、遥か未来に築かれたものだ。まだ生まれてさえいない者たちとの思い出を抱くのは、おかしなことかもしれない。だが、
 「見てくれてイマスヨネ?ドン……、レイ……、アルノ……、リュート……、ヴァン……、そして、ティア……。アナタたちの育てた種は、もうすぐ花開キマス!」


                                    了
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