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【207】クロノプロジェクト先行版シーズン3第一話前編 REDCOW 11/5/28(土) 14:41
【208】クロノプロジェクト先行版シーズン3第一話後... REDCOW 11/5/28(土) 14:43
【209】クロノプロジェクト先行版シーズン3第二話前... REDCOW 11/7/1(金) 11:38
【210】クロノプロジェクト先行版シーズン3第二話後... REDCOW 11/7/1(金) 11:39
【211】クロノプロジェクト先行版シーズン3第三話 REDCOW 12/1/25(水) 0:27
【212】クロノプロジェクト先行版シーズン3第四話 REDCOW 16/5/2(月) 12:22

【207】クロノプロジェクト先行版シーズン3第一話...
 REDCOW  - 11/5/28(土) 14:41 -
  
 長らく時間がかかっておりますが、こちらに先行版として一話投稿しておきます。
 シーズン2最終話の続きとなっております。

第125話「古代の遺物」
 
「…お父様、結局彼らを取り逃がしてしまいました。」
「…うむ。だが、よくやった。この場は奴らを撃退しただけでも収穫だ。命を粗末にしてはならない。」
「しかし、これでは、この国は…」
「なぁに、この国を侮ってはいけない。なぁ、ワイナード?」
 
 フリッツは彼が支える男に明るく話しかけた。
 支えられた男…この国の現職大統領であるビネガー9世・ワイナード・ワイナリンは、不安な面持ちの娘へ穏やかに言った。
 
「彼の言う通りだ。お前の心配する事ではない。防衛はラモードに任せてある。また、今回の件で問題の閣僚を炙り出す事にも成功した。…ようやくこちらも表立って動けるようになる。」
「…お父様、お祖父様はお許しになられたのですか?」
「…父上もご理解下さるだろう。この様な状況を放置すれば、傷はいずれ大きくなる。確かにメディーナ20年の繁栄を築いたのは、父上とボッシュ博士の功績が大きい。だが、父上もボッシュ博士も御高齢だ。いつまでも頼るわけには行くまい。」
 
 そこに横から尋ねる声があった。
 
「…あの、大統領閣下、先程の話に出たボッシュ博士とお会いすることは出来ませんか?」
 
 クロノの声に、彼は振り向くとフリッツの支えを解いた。そして、自らの力で身体を支えると、姿勢を正して恭しく一礼した。
 彼の突然の行動に、礼をされた側もまた慌てて姿勢を正して礼を返した。
 
「お初にお目にかかります、トラシェイド公。娘がお世話になりました。」
「…やはり、あなたもご存知なんですね。一体、私のことはどのくらい有名なんですか。」
 
 クロノは半ば自分の身分のバレっぷりに驚くのを通り越して呆れすら感じていた。
 ここまでくると、発言した通りに正直どこまで知られているのか知りたいくらいだった。
 そんな彼に大統領はにこやかに答える。
 
「ははは、いや、話せば長くなるので簡潔に答えたい。まず、殿下のお尋ねになったボッシュ博士については、彼は今行方不明となっている。」
「行方不明?」
「突然消えた。…という状況だったと聞き及んでいます。詳しい話は研究院のルッコラ博士から聞いて下さい。これまでの調査で分かっていることは、少なくともパレポリの仕業ではないということだけです。」
「…自分で消えた?」
「…いや、それもわかりません。ルッコラ博士の見解では、疑問点は多数挙がる様だということです。ただ、殿下が来る事をボッシュ博士は予想されていた。」
「私の事を?」
「はい。そのために我々は世界中であなたの消息を調査していました。そして、20年の月日を経て、ようやくあなたは現れたということです。詳しくは移動しながら話しましょうか。」
 
 その後、クロノ達は大統領と共に試練の洞窟施設内へ護衛されながら移動を始めた。
 大統領の話では、ボッシュは初めからクロノの死亡説に対して疑問を感じていたという。特に王の死体は晒されたが、王太子夫妻の死体が無いということは当初から様々な方面で憶測を呼んだ。そうした中、ボッシュはメディーナが今後パレポリに屈しないためには、クロノの力がいずれ必要になると指摘していたという。
 大統領自身もその考えには同意していた。
 彼自身、魔族のみでパレポリと対峙して勝てる見込みは無く、数の力で圧倒されるのは目に見えていた。その為には人間との共生は必要不可欠な条件であったが、それを纏めるにはメディーナは多くの面で不備があった。
 当初は旧ガルディア難民の受け入れから始まったメディーナの移民政策は、元々仲の良いわけではない異人種間の交流を急速かつ大量に受け入れざるを得なかった。その結果、国内では人種間衝突は絶えず、多くの地域で混乱が生じた。しかし、それを取りなしたのはボッシュの存在だった。
 人間でありながら強力で高度な魔力と高い知識を持つボッシュの存在は、この国の危機の時に立ち上がった彼の存在感もあって融和の象徴として機能し、特に彼が学問においてメディーナを導いたことは、この国を平和的に発展させる上で大きく寄与した。
 魔族は一部の部族を除くと、総じてそれほど器用な民族ではない。特に魔法という力を使えることが彼らの学問的発展を妨げてきた面は否めなかった。だが、そこに魔法を使えない人間達の技術力が加わる事で、ボッシュは太古の時代の魔法科学を復活させることを可能にした。
 これは魔族と人間がお互いの力を認め合う良い機会となり、相互の融和が進む切っ掛けとなった。しかし、ここに来て魔力を持つものと持たざるものの格差も生まれつつあった。この溝は簡単に埋めようと思って埋められるものではない。
 その間もパレポリの脅威は大きくなる。
 この状況に対して短期間に人間達を纏めるためには、人間達の納得するカリスマが必要だった。それこそがクロノを探し求めた理由だという。
 
「…しかし、それは私に、再び歴史の表舞台に立てという事を、仰っているわけですね。」
 
 クロノは彼らの考える道が間違っているとは言えなかった。だが、それが意味することは、再び表立って道化を演じることを意味する。今後マールを助けたとして、あえて表立って彼女を危険に晒す結果となるこの動きに乗る事が正しいのか、彼は割り切れない物を感じていた。しかし、彼らとてタダで協力するとは言わないだろう。この時点でクロノが提供し得る取引材料もまた、彼らの言う道以外に無いことも確かだった。
 
「ようやく着きましたな。こちらをご覧下さい。」
 
 彼らは施設内の最深地層にあるドーム型の部屋にやってきた。そこの中央には驚くべき物体が安置されていた。
 
「これは…魔神器!?」
 
 クロノは思わず口にせずにはいられなかった。。

 後編へ続く
引用なし
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【208】クロノプロジェクト先行版シーズン3第一話...
 REDCOW  - 11/5/28(土) 14:43 -
  
 そこに後方から声がした。
 
「…その通りです。」
 
 振り向くと、そこには1人の若い魔族の男性がこちらへ向って歩いてきた。人種はジャリーだろう。だが、背はソイソーの様に高く、眉目も整った理知的な顔をしている。彼は近くに来ると、握手の手を差し出した。
 
「お初にお目にかかります。私がボッシュ博士の代理を務めますルッコラです。」
 
 クロノがそれに応じて悪手すると、彼はにっこりと微笑んだ。
 そんな彼に、クロノは脳裏の疑問をぶつけた。
 
「なぜ、これが?こんな危険な物をどうやって?」
「…これをご存知なのですね。さすが、ボッシュ様のお認めになる方だ。ただし、これはあなたが知る物とは違う。これを簡単に説明するなら、あなた方の魔力を引き出すための装置。魔力を増幅し、本来あるべき姿に整形するもの。」
「あるべき姿?」
「…左様。このシステムは失われたジール人が持っていたという高度な魔法技術を復活させることができる、いわば『リストガンの原型』と言えるでしょう。このシステムを稼働させられれば、メディーナに住まう魔族は勿論、魔族と触れ合ってきた人間達にも魔力を生じさせる事ができると考えています。」
「させられればってことは、動かないってことですか?」
 
 ルッコラは彼の質問に答えるでも無く、無言で装置へ向かって歩き始めた。そして、装置のコンソールに触れる。
 すると、鈍いブーンという音と共に、装置を囲む透明な円筒形の窓の中が青白く輝き始めた。
 
「システムは動きます。しかし、まだ開発は半ば。現状ではある一定の能力者の強化にしか役立たない。…これからあなたの魔力を引き出して差し上げましょう。まぁ、あなたに潜在的な魔力があればの話ですが。」
 
 彼はコンソールを操作し、システムをクロノにターゲットして実行させた。
 すると、クロノの足元を中心に青い魔法陣が形成され、そのサークルの外側を囲むように光のフィールドが円筒形に包み込んだ。
 
「な、なんだ!?力が…抜けて…いく…………うあぁあああ!!!!」
「クロノ!?」
 
 シズクが驚いて思わず彼の名を呼んだ。
 だが、その時クロノの身体からなにかが飛び出した。
 それは、黄金に輝いて宙を浮いていた。
 
「…私は………?」
 
 なんと、そこに現れたのはあのアウローラの姿だった。しかし、以前の彼女とは違い、彼女は次第に光が消えて行くと、服装も爽やかな白を基調に青のアクセントラインをいれた戦闘服のような物を身に纏っていた。
 
「アウローラ!?お前、どうやって!?」
 
 彼の問い掛けに彼女も戸惑っていたが、落ち着きを取り戻し答えた。
 
「…どうやら、あなたの中にある『あなた自身』が私を取り込んだ様ですね。」
「俺が取り込んだ!?えっと、ルッコラ博士、これはどういうことなんですか!?」
 
 ルッコラは向き直り言った。
 
「これはサーバント。」
「サーバント?」
「はい。」
「その、サーバントって一体何なんだ?バンダーが使っていた奴もそうなんだろ?たしか、死んだ人が精霊になったものがサーバントとか聞いた。だったら、俺の中から出て来るって変だろ!」
「…考えられるのは、どうやらあなたはサーバントを出さずして、あなた自身の中にこの精霊を取り込んだと思われます。これはとても特異な事です。本来、サーバントは術者間の合意の中で継承されるもの。そして、サーバントを宿すには自身のサーバントで取り込まなくてはならない。しかし、あなたは強引にマヨネーから奪ったと考えられます。」
「奪った?…………で、これは一体どうなるんだ???」
「彼女はあなたの魔力を得て実体化し、あなたと共に戦うでしょう。サーバントが繰り出す力は肉体の枷が離れる為、より強力な力を行使出来ます。そして、サーバントはあなたの心と連動し、その力を増幅することもあれば低下することもあります。」
「…そうか。しかし、俺にこんなものを施してどうするんだ?」
「あぁ、これは別に特別なものではありません。元々あなたに備わっていた力を引き出しているに過ぎない。先程も話した様に、この装置は元々有るものにしか作用できないのです。ですから、無から有は生じ得ない原理なのです。まぁ、あなたにこの力を分かり易く説明するならば、仮にあなたが亡くなったなら、あなたの肉体は失われても、その心と力は残るレベルにあなたが達している…つまり、精霊として残る力を持っているということです。これは強い力を持つ者の証の様なものです。」
「…俺が、精霊に?」
「この試験の合格者には全てこの処置を施す事にしています。これは、あの試験をクリア出来るレベルに到達している者には、死後サーバントとして力を残す可能性が有る事を意味します。そして、サーバントとなれる者は、サーバントを取り込んだり扱う事が出来る。…ボッシュ博士は仰った。世界中に眠るサーバントの力を結集しなければならないと。そして、その力を集めた時、パレポリを統べる者に挑戦するに値する力となるだろうと。…パレポリを倒すとはルーキスを倒す事。彼を越えられない限り、世界は変わりようが無い。」
「ルーキス?」
「パレポリ連邦共和国軍総帥のことです。彼は我々魔族を遥かに超越した力を使う。黒薔薇を統べるディアも相当強いですが、ルーキス1人で一国を滅ぼせる…と実際に闘ったボッシュ博士は仰った。」
 
 クロノ達はその後全員がこの処置を受けた。そして、一通りの説明を受けると、彼らは大統領と別れ、列車に乗ってフリッツやルッコラ博士と共にボッシュの街へ戻る事になった。その時、ミネルバもまた、クロノ達と別れる事になった。
 
 試練の洞窟駅ホームにて。

「お二人と行動を共にした事は、一生忘れません。また、お会いする日を、そして共に戦える日をお待ちしています。互いに全力を尽くしましょう。」
「あぁ、また会おうぜ!」
「ミネルバさん、ありがとう。」
 
 シズクがミネルバを抱擁した。ミネルバもそれに応じる。
 ホームには出発のベルが鳴り響いていた。
 
「旅の無事を祈っているわ。また会いましょう。」
「うん、またね。」
 
 二人が列車に乗った時、列車のドアがゆっくりと閉じられた。
 鈍い機械音が唸り、ゆっくりと走り始める。シズクが窓の外のミネルバを見た。
 彼女はシズクにそっと手を振って別れを惜しむ様に列車を見つめていた。
 次第に彼女の姿が遠ざかる。
 
 クロノはシズクの肩にそっと手を置くと、フリッツ達のもとへ行こうと告げた。


 先行版シーズン3第二話はまた今度余裕の有るときに。
 先行版はシーズン3世界への準備的内容で綴っております。
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【209】クロノプロジェクト先行版シーズン3第二話...
 REDCOW  - 11/7/1(金) 11:38 -
  
シーズン3先行版第二話をお送りします。
シーズン3先行版は8月中でとりあえず終了予定です。
正式版の開始予定はまだ未定ですが、それまで先行版でお楽しみ頂けましたら幸いです。

 第126話「抜け道」
 
「どうしても無理なんですか?」
 
 クロノはフリッツの応接室で話していた。
 向かい側に座るフリッツに対し、クロノはもどかしさを感じていた。
 
 
「ふぅ、幾ら科学が進歩しても自然現象には逆らえない。ここ暫くメディーナ周辺の南方航路は大きく荒れていてね。私の会社で出せるのはトルース便のみですよ。」
 
「しかし、先程のあなたの話では、トルースの警戒はかなり厳戒になったそうではないですか。それに、陸路では遅過ぎる。」
 
「確かにその通りです。まぁ、妙案が有れば行使したいものだが………大統領閣下の命もあってね、お二人を失う様な手助けは難しいわけです。これは私の死活問題にも直結する話。この国に住み商売するからには、その国の意向を無視出来ない。まぁ、何もこれは私に限った話ではない。ここに住まう全てのガルディア難民に言えるでしょうな。…あなたにもそれはお分かりになるはずだ。」
 
「…むぅ。」
 
 フリッツの言葉は最もなことだった。
 国を失った民が困窮する様は、トルースの現状から明らかだった。

 為政者の違いでそれまで可能であった事が大きく変化する。
 それは伝統や文化の制限のみならず、行動や意思の自由ですら縛られる。そして、間借りする身となった民は、その国へ既に命を救われたという恩がある。郷に入っては郷に従えと言ったものだが、これはお互いの関係を良好に保つ上で留意せざるを得ないことだろう。

 その時、クロノはふと思い立った。
 
「いや、道は…ある!」
「…と、言いますと?」
「中世の魔王軍は、魔岩窟という海底トンネルを掘ってゼナンへ攻め込んだんだ。…なら、そのトンネルが今も無事なら、もう一度通れるんじゃないのか?」
「魔岩窟…確か私もメディーナの歴史書でその名を見た気がします。しかし、そんな知識は何処で?」
「…詳しい事を説明するのは難しいが、通った事がある。その、勿論、400年も昔の話だ。埋まっていて使えない可能性の方が高いかもしれない。」
「…いやはや、驚く暇無く出てきますな。通った事がある…ですか。ふふ、面白い。調査してみる価値はある。詳しくお話を聞かせてもらいましょうか。」
「オーケー。宜しく頼むぜ!」
 
 フリッツはクロノの話を聞くと、彼を連れてルッコラ博士のもとへ向かった。そして、そこでルッコラの意見を仰いだ。

 博士はその案に興味を示し、考古学的にも価値ある調査であることから大統領府と掛け合い、政府からの援助も受けられる様手配してくれた。幸いにして、魔岩窟のメディーナ側入り口はフリッツが所有する鉱山に位置すると見られ、既に掘り貫かれた坑道から侵入し掘削を進めることで工期を短縮出来そうであった。ただ、大統領府側からは掘削協力の条件として、調査の終了後にクロノ達が通る事を許すという内容であった。クロノはその内容に難色を示し、調査への参加を申し出るが却下された。しかし、このまま引き下がる二人ではなかった。

 フリッツを説得したクロノは、アンダーソン商会の社員として調査隊に同行出来る様手配して貰った。こうして、二人は調査隊と共に坑道へ入る事に成功した。だが、現地へ出向いて予想外の事態に遭遇する。
 
「ようこそお二人さん、私がこちらの坑道を案内させて頂きますよ?」
「フリッツ!?」
「ほっほっほ」
 
 二人はまさかフリッツがここに来ているとは思わなかった。
 彼は会社の社長であり、そうそう簡単に動けるはずは無いと思っていたからだ。
 
「会社はどうしたんだ?」
「ん?あぁ、私は今日をもって会長へ就任し、社長は息子に譲った。というわけで一緒に行く時間を作りましたぞ。」
「…会長ってやることないのね。」
 
 シズクのつぶやきに対して、彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
 
「老いても耳は良くてねぇ。そうですな。会長とは言っても名誉職のようなもの。実質はただの隠居ですよ。仕事漬けに仕事をしましたからねぇ。そろそろ引退して旅行でもしようと思っていたんです。仕事の虫から解放された老人を暖かく迎えようと言う気持ちは…お嬢さんにはないとは残念だぁ。」

「な、なにもそんなことは言ってないわ。もう、好きにしてください。」
「しかし、旅行ってどういうことだ?まさか、…俺たちについて行くと?」
「…そのまさかです。」
「えぇ!?」
 
 二人は再度驚いた。
 まさか旅について行く気とは思っても見なかった。
 せいぜいただの見物程度だと思っていた二人からすれば、尚更だ。
 
「…一度あなた方の仰る時空の旅というものを見てみたくてね。私は実際に見てみないと納得出来ない性質(たち)で、協力する以上は真実を知りたいと思ったのですよ。我々も道楽で付き合っている訳じゃない。世の存亡を賭けたとでも言える勝負、勝って終わらないと始まりません。」
 
 そう話す彼の目はとても鋭く何かを見つめるようだった。
 彼の言うことはクロノ自身も、もし同じ立場に置かれたら考えただろう。自分自身も大人になってこれほど荒唐無稽な話は無いと思っている程のことに、彼は快く付き合ってくれている。こちらとしても彼が納得して付き合ってくれる材料になるなら、それはそれで構わないと感じていた。勿論、ここに仮にルッカが居たなら、彼女のことだ、様々なことを言っていたかもしれない。が、彼女はここに居ない。

 坑道を進むといくつかの分岐路を進み、地下深く潜ってゆく。
 深さにして地下80m程まで進んだだろうか。
 かなりの距離を歩いていた。
 そしてようやく目的の場所に着いた。

後半へ続く
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【210】クロノプロジェクト先行版シーズン3第二話...
 REDCOW  - 11/7/1(金) 11:39 -
  
 そこには二人の明らかに坑夫とは違う服装をした人物が立っていた。
 三人の歩く音に気がついて、そのうちの一人が振り向いた。
 
「ん?あぁ、お待ちしていました。」
 
 そう話したのは、なんとルッコラ博士だった。

「ルッコラ博士!?」
「おや、あなた方もご一緒ですか。それに、アンダーソンさんではないですか。直々の視察ですか?ご熱心ですな。」
「いや、私はこの二人の同行者だ。まぁ、このことは会社の従業員として宜しく頼む。」
「ほう、そういうことですか。なるほど。わかりました。お三方がいれば心強い。さぁ、参りましょうか。」

 ルッコラは特に驚くでもなく淡々と受け答えていた。
 彼の動じなさっぷりには3人とも何か思う所があったのか、互いの顔を見て苦笑していた。
 ここにきてこのメンバーの揃いにクロノは内心苦笑していた。
 調査隊のメンバーはクロノとシズクの他に、坑夫が1名に国立研究院から派遣の研究者が二名と聞いていた。しかし、そこに現状では坑夫として商会の会長さんが1名、そして研究員として最高責任者であるルッコラと助手のメキャベがやってきていた。しかし、幸いというべきか、彼は大統領府側の意向は知らない様で何の指摘も受けなかった。というよりむしろ歓迎されてしまった。    
 フリッツを先頭に坑道を進む。既に奥で重機による掘削作業をしている作業員がおり、フリッツはそこの坑夫達二名を道案内として同行させた。彼らの話では地下100m以上掘り貫いているという。だが、坑道の中は高い湿気を帯びており、かなり深くに下がって来ているはずだが蒸し暑さを感じるほどだ。
 道中はルッコラが調査状況について話してくれた。
 彼の話によると、地質調査結果から坑道の地層はとても固いデナドロ石を含む岩盤の層があり、これを中世に掘り貫いたとすれば驚異的な話だという。当時の魔法技術が現代より上にあるとしても、この途方も無い作業を為し得るには相当の努力が必要らしい。だが、その作業は困難では有るが不可能ではないという結論に至ったという。
 現代にも伝わるメディーナの魔法力を秘めた道具と、強力な魔力を持つティエンレン族を集中的に動員出来れば、当時でも出来ない訳ではない。ただし、現代と違って詳細な地質調査技術が有る訳では無いため、相当失敗したと考えられる。その証拠に彼が分析した情報によれば、幾つかのトンネルの残骸らしい穴が見つかったという。
 それらはいずれも途中でデナドロ石の固い壁にぶち辺り浸水していたため、掘削途中に浸水し中止したものと考えているそうだ。
 今回進んでいる坑道は新しく彫り貫いた中では一番良い調査報告が出ているそうで、ルッコラ博士が自ら出向いたのも実際にその目で歴史の遺物と対面したいという衝動かららしい。さすが学者。探究心のためなら、面倒事でも何のそのといった所だろうか。

「私はボッシュ博士からあなた方の話を聞いたとき、さすがに眉唾物だろうと思いました。どんな不可能も可能にする博士でも、時を行き来する等という荒唐無稽な話を真面目にされる様な方ではないと思っていたからです。しかし、あなた方は実際に現れた。博士が不可能を可能にするのであれば、あなた方も不可能を可能にしてくれる…いや、私は先入観に囚われるのは愚かだと思いました。私は学者だ。可能性を探求するのが私の使命なのだと。」
「先入観。だから私達を試した…わけでもないのよね。そのボッシュ博士は事前にあなたにそうする様に仕向けたんでしょ?」
「そうですね。お嬢さん、あなたの言う通りだ。でも、先入観が無かった訳でもない。博士の条件は正しいと同時に、私もあなた方を試したいと思った事は否定しませんよ。試験もね、博士は実は一次試験をクリアすれば実際にお会いする話だったんです。人間で一次試験を突破する魔力を持っている事自体、充分に珍しい話だ。だから、アンダーソンさんの様な方はとても珍しいことなのです。まして、あなた方は純粋な人間でありながら、歴代トップクラスの魔力を叩き出している。その時点で十分な資格があった。」
「じゃぁ、二次以降はルッコラさんが疑っていたから続行したってこと?」
「それは確かに私の意向も無くはないですが、大統領府からこの件は事前にお話があったからねぇ。試験で登場したという黒薔薇の捕獲も目当てにあった。とはいえ、まさかあんな歴史の遺物の様な人物が現れるとは、誰も思いもしなかった様だけど。」
「マヨネー…か。」
「先生、着きました。」

 到着を告げたのは博士の助手を務めるメキャベ博士。ルッコラの大学時代の後輩で、助手といっても国立研究院でも上級研究員として知られ、地質学研究の第一人者と目される人物らしい。この調査計画も実質の責任者は彼が担っているという。顔立ちはルッコラと比較するとずっと温和な印象で、人種は青い肌のジャリー種だ。背はクロノと同じくらいだろうか。
 
「ここが?」
 
 クロノが思わず呟いた。
 
 そこは坑道の途中の場所で、重機で掘ってはいるが、まだあまり進んでいない様に見える。
 
「この場所は坑道の途中の様に見えるでしょうが、先の方はもう調査してダメだと分かってね。元々ここを掘る話だったんですが、岩盤がデナドロで固くてね。迂回しようと思ってこの先を掘ったら浸水したので、ここに戻って来たわけですよ。いやはや、アンダーソンさんからすれば、この話はデナドロ鉱石の採取も出来て全く痛くもない話の様だが、私らからすれば厄介な鉱脈ですよ。これを中世に彫り貫いたというんだ。まったく中世の人々はとんだ化け物だ。」
 
 自分の先祖をとんだ化け物と言ってのけるルッコラに驚くクロノだが、ただじっと待っているわけにもいかなかった。
 
「俺達に出来る事はありませんか?見た所、重機の進みは本当に悪い様だし。」
「メキャベ君、どう思う?」
「そうですね。協力頂けたら確かに有り難いのですが、デナドロ鉱石はとても固く魔法耐性の強い石です。我々魔族が幾ら魔法を使えると言っても、この鉱石を彫り貫くのは簡単な話ではないんですよ。ですから、お手伝い頂く様なことは何も無いかと…。」
「デナドロが固いなら、その耐性を緩める事が出来れば良いんじゃないかしら?」
「え?」
 
 唐突なシズクの意見に、メキャベは戸惑った。
 
「確かにその通りですが、鉄やミスリル銀と違って、デナドロの分子構造はとても強固で、簡単に緩められる様な代物ではないですよ?」
「デナドロのES耐性は天寄りの耐性を持っているから、地の方向から天を中和して残りの火と水による冥化をさせてから、強力な天のエネルギーをぶつければぶっ壊れるんじゃない?」
「反属性化してから先天属性で破壊…それは考えても見なかった。確かに、ダイヤはダイヤで削らないと削れない。魔法効果も考えようによってはそういう扱い方もあるかも…。」
「幸いにして、地属性は私とメキャベ君、そしてアンダーソンさんがいる。天はクロノさん達の強力な一発を頂ければ出力は足りそうですね。やりましょうか。」
 
 ルッコラはこの話に早速乗り気の様だ。

 クロノ達は準備に取りかかった。坑夫を下がらせると、まずルッコラ達が地の魔法でデナドロ石の彫り貫きたい範囲に対し局所的に中和した。十分な中和には5分少々の時間が必要だったが無事に済んだ。今度はクロノ達の番である。
 
「シズク、用意は良いか?」
「はいな!」
 
 二人は同時にサンダガを放つ。通常のサンダガより倍の出力は有るだろう稲妻が正面の壁面と衝突した。それは驚くべき光景だった。魔法が衝突した瞬間、前方の壁がまるで押し出す様に綺麗に円筒形の形状をスライドさせて後退したのだ。それはとても気持ちの良い程の抜け方で、スポッとでも音を当てたくなる程の呆気なさだった。抜け穴の長さはおよそ20m程で抜けた様だが、抜けた先に彫り貫いた構造物は見えなかった。
 
「抜けましたな。どうやら浸水もしていない。進んでみましょうか。」
 
 ルッコラが先を進む。クロノ達も後に続いた。
 抜け穴の出口に着いたルッコラは、明かりで内部を照らした。
 見た所そこは大きな空洞が広がっていた。色とりどりの光苔が所々に繁茂し、地下100m以上の地底に広がる鍾乳洞の様な趣を持ったそこは、幻想的とでも言える空間だった。よく見ると、下の方に円筒形の岩石が落下の衝撃で砕けているのが見えた。
 
「…素晴らしい。こんな地下にこの様な空間が。しかも、空気がある。」
「抜け穴の壁面を見た所、地層的なスライドが認められます。緩やかに沈んだというよりは、とても急激な沈降が発生したと思われます。たぶん、この土地は数百年前は陸だった可能性もありそうです。あと、気になる点も。」
「気になる?」
「はい、幾つか人工的に手を加えられた様な痕跡を認めました。このデナドロの岩盤も、もしかしたら元々ここに有るものではなく、どこかから運んで来た可能性も考えられます。」
「では、当たりの様ですな。ワクワクするじゃないか。先を進もう。」
 
 フリッツがニコニコしながら歩き出す。
 抜け穴の先の空間は、出てすぐに左方向へ下る緩やかな坂が出来ていた。その坂の下には先程くりぬいた岩石が散乱しているが、道を塞ぐ様な状態ではなかった。彼らはそれらの間を縫う様に進む。すると、床に石畳の様な人工的に敷き詰められたものが見られた。
 
「(これは、一体?)」
 
 ルッコラは前を進みながら疑問に感じていた。それはクロノとて同様だ。過去に通った事がある魔岩窟はただの掘り貫いただけの洞窟で、これ程綺麗な石畳が敷き詰められていることは有り得なかった。これはクロノ達が通った後に加工されたのだろうか。いずれにしろ、不可解なものだ。
 先を更に進むと、大きな空洞に出た。前方には誰が見ても人工的に積み上げられたと分かる煉瓦組みの大きな壁面に、これまた大きな門扉が付いていた。クロノはこの扉の形状に見覚えを感じた。
 
「(おいおい、待てよ。そんなことがあるのか?)」
 
 クロノの既視感をよそに、ルッコラはつかつかと前を進み門を調べる。
 
「ふむ、これは凄い。この扉、どうやら中世のものだ。しかもかなり強固なシャイン鉱石を使用している。装飾も中世期の戦争時に描かれたものと酷似しているし…文字だ。何々……我が魔王軍の科学力は世界一……ビネガー・ワイナリン…………ビネガー1世のサインだ!?」
引用なし
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【211】クロノプロジェクト先行版シーズン3第三話
 REDCOW  - 12/1/25(水) 0:27 -
  
 第127話「アブソーブ」
 
 ルッコラは助手のメキャベと共にその場にしばし立ち止まり、門の詳細な形状は勿論、周囲の地質状況等を機器を使って調べ始めた。
 その間、クロノ達は近くの岩場に座って彼らの作業を待つことにした。というのも、これが政府の基本的な条件であるため、彼らの調査が全ての行動に優先するとされていた。
 シズクも最初はその場に座っていたが、退屈しのぎにルッコラの手伝いを始めた。
 彼女自身も興味が有るのだろうか。
 フリッツは坑夫達を下がらせると、クロノに話しかける。
 
「その表情、どうやら見覚えが有る様ですな。」
「…いや、正直な所、よくわからない。想像しているものだとは思うけど。」
「…その迷いは、むしろこの扉というより、あなた自身に向けられている様な言葉に聞こえますな。」
「はは、それは年の功って奴ですか?…うん、みんなが俺達のことを不思議がったり驚いたりするみたいに、俺もそんな何かを感じている。俺にとってのあの冒険は6年前の話だけど、あの時の俺にこんな迷いを感じる暇はなかった。迷う時間も足りないくらい、ずっとずっと…いっぱいだったんだ。」
 
 クロノの答えに、フリッツは視線を坑夫達の方へ移すと、彼もまた物思いに耽る様な表情をした。そして、下げていた鞄から水筒を取り出すと、蓋を空けた。
 
「飲みますか?」
「いや、良いです。」
「ははは、見てくれはウィスキーでも入っていそうですが、生憎酒は医者から止められてましてね、この中は普通の水ですよ。」

 彼はそう言い一口飲むと、一息吐いた。
 
「…私にも若い頃がありました。たぶん、同じ様に感じていた。その瞬間すら惜しくて足りないくらい。しかし、時とは妙なもので、その時が過ぎ行く程加速度を増すのに、思いはずっとゆっくりとしたものになる。いや、まるでその場に留まったまま取り残されるくらいに。」
「そういうものですか。だったら、俺はまだ途上です。」
「フフフ、そう。まだ始まったばかりです。戸惑う暇すら、まだ惜しんでいておかしくはない。同情はしますが、羨ましいものですな。」
「羨ましい?」
「はい。今がまさに青春です。若さ故の過ちも、まだまだ許される。こんなオヤジにもなると、そうそう隙も見せられない。願わくば…良い手本たらん…とね。」
「はは、それは大変だ。」
 
 二人がそんな話をしている頃、調査をしていた三人は情報をすり合わせていた。
 
「博士、このシャインの魔力減衰率を見た限りだと、製造年代は中世期とみてほぼ間違いないと思います。」
「周囲の壁面のデナドロ構成比は、基本的にこの周囲の鉱物から生成したとみて良いと思うわ。構造物の純度も当時の構造物を調べた年代測定資料の値と合致するし。」
「ふむ、メキャベくんもシズクさんもよく調べてくれました。特にシズクさん、この仕事が終わったらどうです?私の所で一緒に仕事しませんか?」
「え、私ですか?それは有り難いですが、ごめんなさい。」
「ほー、それは残念。でも、気が変わったらいつでも言ってください。私はいつでも歓迎しますよ。…さて、本題はこの扉をどう開けるかですが、これほどのデカ物です。手押しで開けたはずはない。まぁ、やろうと思えば現代の我々に不可能はありませんが、強引にやっては壊れてしまう。出来るだけ傷をつけたく有りません。当時の技術を考えるに、敵から攻められないために外部に無いのは当然として、内部的には開門用の魔力充填ラインがあったと考えられますから、それを利用します。」
「博士、シャインの先天属性は地。開門するならば天でこじ開けるのが早いかと。」
「メキャベ君、それではこの貴重な扉を破壊してしまう。もっとやんわり行かないとだめですよ。」
「じゃぁ、供給ラインに再充填するのが一番だと思うわ。」
「そうです。では、充填ラインはどこに有るか?通常の扉は蝶番か吊り上げ用の構造物に沿って存在します。この門は両開きの蝶番式ですので、その辺りに魔力を注ぐのが適当でしょう。さて、ES構成を調べてみますか。」
 
 ルッコラはそう言って門に手を当てた。
 そしてしばし集中すると、彼の手がほのかに緑色に輝いた。
 それはほんのわずかな時間であった。
 
「…わかりました。思った通り蝶番に沿って4つのラインが存在します。それが内部で一つにまとめられるイメージが感じられました。しかも、驚いたことにまだ生きている。…すばらしい。ES構成はシャインの地に合わせて力場を構成して門へ流し込む形で動かしましょうか。この作業を出来るのは私とアンダーソンさんが適任と思います。皆さんにお話しして始めましょう。」
 
 3人はクロノ達を呼ぶと、早速作業を開始した。
 門前に並んだルッコラとフリッツの二人は同時に地の魔力を注ぎ込む。
 すると門はゆっくりとその重い扉を開いた。
  
「さぁ、開きました。行きましょうか。」
 
 マイペースにルッコラは前を行く。
 この場はほぼルッコラを中心に動くのが無難だと、何故か皆納得していた。
  
 門の中に入ると、そこの内装は所々朽ちている部分もあるが、全体的には中世の面影を残していた。少なくともクロノにはそう感じられた。
 中の構造を見てようやくクロノは確信に至っていた。この場所は一度来たことがあると。…そんなクロノの気持ちとは関係なく、ルッコラは突き進む。
 入ってすぐの前方には階段が有り、エントランスホールの吹き抜け2階への階段がある。そこを上ると二手に分かれていたはずだが、両方の通路が崩壊していた。
 
「ふむ、どちらも行けそうにないですね。しかし、もしここが過去の戦争時代のものであったとすれば…」
 
 そう言ってルッコラは丹念に床を調べ始めた。すると、
 
「あぁ、ありました。」
「これは?」
「トリップフィールドです。ささ、皆さん集まって。」

 ルッコラは全員を集めると、フィールドを自身の魔力で活性化させた。その瞬間、クロノ達は先ほどまで見ていたエントランスホールとは全く違う場所へ運ばれていた。
 そこは綺麗に片付いているかの様に、かつての様を残していた。
 
「むぅ、400年以上の年月が経過しているはずなのに…この保存状態。すばらしい。しかし、これらの構造…ワイナリン築城様式の罠に酷似していますね。ふむ、皆さん、しばし待っていてください。」
 
 クロノもルッコラの見解を肯定していた。
 ここはビネガーが奥でハンドルを回して罠を動かしていた部屋だ。しかし、ビネガーが居ないこの場所で罠へ用心する必要は無いだろうと思われた。
 ルッコラは壁面を丹念に調べると、コンベア型の罠手前の通路上に魔法陣を書き始めた。そして、暫く瞑想をすると魔法を詠唱し始めた。
  
「…静まる闇の中に眠る心よ、我が呼びかけに応え、その姿を示せ。」
 
 詠唱が終わった瞬間、突然ベルトコンベアが動き始めた。そして、驚いている一同の前に怪しく青く光る炎が左右の奈落から浮き上がり、それは前方中央の通路上で合体した。合体の瞬間、閃光を発した炎はゆっくりとその場で揺らめいた。
 
「おぉ、やはり。ここにはサーバントがありましたか。」
「サーバント!?」

 クロノの驚きの声にルッコラはにっこりと微笑んで答えた。
 
「はい。我々魔族はこのサーバントの力を継承することで魔力を保持してきました。しかし、それは何も人体へ継承することに限りません。このようにある特定の条件を揃えてやりさえすれば、サーバントをとどめておくことも出来るのです。」
「サーバントを留める?」
「はい。留めることでエネルギーを引き出し、物を動かしたり魔法を遠隔的に発動させるといった便利な使い方が出来る様になります。中世の戦争で数の少ない魔族がどうやって人間に対抗することが出来たか?…それはこのサーバントの力なくして語れません。」
「で、これをどうするんだ?」
「これですか?では、少し見ていてください。」
 
 彼はそう言うとその場で何やら炎の方へ向き直り、右腕を手のひらを開いて前に突き出した。
 
「アブソーブ、エイリアス!」
 
 その瞬間、炎は揺らめくと小さな火の玉がそこから飛び出して、ルッコラの手のひらに吸収された。
 
「今のは何を…」
「見ての通り、吸収しました。エイリアスとは分身のこと。この炎から力を一部呼び出す権利を貰いました。エイリアスは自身のサーバントにエイリアス本体の持つ技術の一部を共有させてくれます。本来であればサーバントそのものを吸収してしまえば良いのですが、そうも出来ない場合が有ります。
 例えば、自分より強いサーバントとかですね。その場合、エイリアスを貰い受けることで本体との縁を作り、自分が強くなった時にサーバントを呼び出す権利を受けるわけです。エイリアスを受けた者はサーバントとの縁を通して、外界のエネルギーを供給する運び屋としての仕事を受けます。これにより地場に縛り付けられたサーバントがエイリアスを通して外界で行動出来るようにもなるわけです。つまり、ギブアンドテイクですね。」
 
※サーバント&エイリアスについて
 地場に縛り付けられたサーバントや天然サーバント等、各地にあるサーバントからは二つの方法で力を受け取ることが出来ます。アブソーブ命令に対して、術者がサーバントの能力を超えている場合はサーバント命令でサーバントそのものを強制的に吸収し、そのサーバントの持つ全ての能力を引き継ぐことができます。
 能力が低い場合やサーバント吸収許容量限界を超えている場合は、エイリアス命令でエイリアスを受け取ることでサーバントの持つ能力の一部を受け取り、自分のサーバントの能力を向上させたり、自分の装備の性能を向上させることができます。また、エイリアスを保持しながら戦い続けると、エイリアスにエネルギーが供給されます。
 一定のエネルギー供給を受けたエイリアスは、術者に対して本体を呼び出す権利を与えます。術者はその権利を行使することで、吸収せずともサーバントの持つ全ての能力を一度だけ利用で来ます。一度使うと再度エネルギー供給を受けないと使えません。エネルギー供給方法は戦闘での余剰エネルギーの充填の他に魔力を直接供給する方法があります。しかし、後者はとても巨大な魔力を消費するため現実的ではありません。
 術者がサーバントの能力を超えている状態でエイリアスを利用している場合は、発動条件を揃えることでサーバントをいつでも呼び出せる様になります。発動条件は術者との縁の強さの他にフィールド属性や魔力供給量が関係し、縁の深いエイリアスほど発動条件が緩和されます。ただし、発動条件はサーバント側の能力も強化されて行くに従って変化します。サーバントもまた、エイリアスのエネルギー供給を受けて進化していきます。
 エイリアスで所有するサーバントを吸収した場合、そのサーバントが持つコネクション(縁)は全てリセットされ、術者に全ての権限がゆだねられます。

 クロノ達はルッコラに促されるまま、この炎からエイリアスを受け取った。炎は全員にエイリアスを渡すと消えてしまった。
 
「この先もこのようなサーバントが存在する場所と出くわすこともあるかもしれません。その時は私の説明通りにして頂ければ問題無いでしょう。サーバントはとても重要なものです。エネルギー供給源であり、武器にもなりますし盾ともなります。サーバントの扱いは、くれぐれも大切に。」
 
 ルッコラはそうして再び奥へ進み始めた。
 そこにクロノがあわてて彼に言った。
 
「博士、罠は!?」
「罠?…あぁ、あのサーバントが動かしていたわけですから、私達は彼のエイリアスを受け取った時点で彼の仲間。問題有りません。」
「…はぁ。」
 
 クロノは半ば拍子抜けするものを感じつつ、彼の後に続いた。
引用なし
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【212】クロノプロジェクト先行版シーズン3第四話
 REDCOW  - 16/5/2(月) 12:22 -
  
第128話「ほのかな歪み」
 
 その後、クロノ達はギロチンが天井からぶら下がるコンベヤ床の部屋に来ていた。
 そこでもルッコラはしばし観察すると、魔法陣を描いてサーバントを呼び出してしまった。
 クロノ達はそこでもエイリアスを受け取ると、サーバントは消えて罠が無効化された。
 その次の通路では、かつてはまるまじろが転がってきたものだが、ここも通路へ入ってすぐの所でルッコラがサーバントを呼び出して無効化するという流れを実行し、全く問題無く進むことが出来た。
 次の部屋は落とし穴だらけの部屋であったはずだが、ここでもルッコラはサーバントを呼び出して無効化するとう一連の作業をして普通の床を歩く様に堂々と渡りきってしまった。その次も城の壁面にまるまじボンバーが転がってくるはずだが……以下略。
 次の部屋も次の部屋も、かつては大勢のモンスターと遭遇したものだが、ルッコラはそれら全てが無かったかの様に、遺跡探検をするツアーガイドのごとく彼の考察が展開されながら進んで行った。そして、ビネガーがかつていた場所までたどり着いた。
 
「ふむ、この魔法陣を超えた場所が最後だと良いですねぇ。私もさすがに疲れました。さて、皆さん向かいますか」
 
 エントランスホール同様に魔法陣から転移すると、そこは長く深く降りる階段があった。
 ルッコラはこれまで同様に周囲を調べるとサーバントを呼び出すことに成功する。一通りの行動を終えると言った。
 
「これで私たちは合計で8体のエイリアスを受け取りました。ディアブロス、魔王のしもべ、まるまじボンバー、ソーサラー、ナイトゴースト、セーブポイント、ジャグラー、バンプット……これらのサーバントはそれほど強いものではありませんが、それぞれ特殊能力を持っています。それぞれのサーバントでこれらの能力を活用すると良いでしょう。本来であれば吸収してしまえるものですが、今回は歴史的な調査もありますのでご容赦ください。さて、行きますか」
 
 ……オウォーゥ。
 
「?」

 何かの声がした気がした。
 だが、クロノ以外は誰も気がついていないようだ。
 気のせいか。
 階段を下りて行く一行。
 クロノはこの後の部屋が何の部屋かわかっていた。
 それ故に気のせいといっても油断は禁物に感じた。
 
 最後の段を降り、そこに開ける暗い闇への入り口をくぐり抜けた。
 ゆっくりと部屋の中央へ進む。懐中電灯の光で辺りを照らすと、前方に何かが座っている様に見えた。
 
「誰だ。」
 
 クロノの問いかけに、前方の何かがゆっくりと衣擦れの様な音を起こして振り向いた。
 その顔はしわがれているが、間違いなく危険な人物であることを確認出来た。
 
「あたしのことよね?そうよね?……うふふふふふぅ、ようこそ、我が家へ。まさかこんなに早くにあたしのアジトがバレるなんて思っても見なかったわよねぇ。まったく、あたし達のやることなすこと全てに立ちはだかるのが………あなたの顔だったのよねぇ。ぐふふぅ、でも、飛んで火に入る夏の虫とは、あなたみたいのを言うのよねぇ」
 
 しわがれた声で「彼女」は言った。
 すると後方をずしんずしんと音を立てて何かが入ってくるのが聞こえる。
 振り向くとそれはヘケランだった。しかも一体ではなく、複数体がどんどん入ってくる。
 
「あたしの可愛い坊や達、存分に遊んであげるのよねぇ。をーほっほほほほほほほほほほほ!!」
「!?」
 
 ヘケラン達が襲いかかる。クロノが抜刀して切り掛かるがあまり効いていない。
 フリッツが防御の為に魔力を集中すると、ダイヤプロテクトフィールドを発動させた。
 
「く、道を確保しなくては。私のフィールドもすぐに破られる。何か手は無いか!」
「……ここで行き止まりなんだ。ここは、元は魔王の部屋だったからな」
「なんと。……では袋小路」
「そういうことだ。……って、ん?……なんだアレ?」
 
 クロノは中央に小さな空間の歪みみたいなのを見つけた。
 これは魔法の力で空間に光が満たされなかったらわからないほどのものだったであろう。
 
「シズク!そこにある歪みを調べてみてくれ!」
「え、歪み?……あ、アレのこと?わかったわ!ちょっと待って」
 
 シズクがシーケンサーをバックから取り出して辺りを計測する。
 
「……これは、ゲート」
「やっぱりか。よし、開けるか?」
「うん、やってみる。ポチョ!」
「ぽーっ!」
 
 彼女の胸元からぽちょが飛び出した。……相変わらず何処で眠っているのだろうか。
 ポチョは早速ゲートを開き始める。しかし、あまりにも小さすぎて簡単に開きそうにない。
 
「時間が掛かりそうだわ。とにかくこの場はポチョが開くまでみんなで持ちこたえましょう!」
「あ、あの、どういうことですか?」
「詳しくは後だ。今はとにかく生き残ることを考えろ!」
「わかりました。メキャベ君、やってやろうじゃないですか」
「はい。」
 
 ダイヤフィールドが破壊された。
 ヘケランの巨体による体当たりで耐えきれなくなったフィールドが、まるでガラスが砕け散る様に細かく破砕され飛び散った。そこを抜けてクロノが再び切り掛かる。魔力を込めた刀の力によってヘケランの肉体が刻まれる。今度は確実に両断され、その体はなんと光となって消滅してしまった。
 その消え方を見てルッコラが言った。
 
「サーバント!?そうか、この数は全てヘケランのエイリアスです」
「ヘケランのエイリアス?」
「そうです。実体を出している存在を倒さない限り、永遠にエイリアスは出続けます」
「本体は……マヨネーか!」
 
 クロノが方向を転換しマヨネーへと切り掛かる。しかし、マヨネーはその攻撃を寸での所でひょいと、いとも簡単に扇子で受け止めた。だが、明らかな違いが生じていた。その持つ手は先程までのしわがれたものではなく、妖艶な程に青白く透き通る様な美しい肌をしていた。
 
「……うふふ、そんなに求めてくれて嬉しいわ。女は求められて綺麗になるのよね。どんな男もあたしの美の前にはひれ伏すの。…さぁ、あなたもあたしの僕になるのよねぇ〜〜!!!」
 
 若返ったマヨネーの瞳が赤く光った。
 周囲からハート形の炎が形成され、クロノへ襲いかかる。
 
「ぐあぁああ!!!」
 
 その炎をもろに食らってしまい、衝撃で強く地面へ叩き付けられる。
 不思議にもその炎は熱くはなかったが、衝突した時の衝撃は常識を外れた重圧だった。
 以前の「彼」も同じ炎を使っていたが、これはそれまでを遥かに超えている。
 何が彼をそれほどまで強くしたのだろうか。
 これはこの時点ではそんなことを思う暇等無かったが、間違いなく浮かび上がる疑問だ。
 そこへ追い打ちをかける様に炎が襲いかかるが、フリッツが彼の前へ出て左手に出したダイヤのシールドで炎を防いだ。
 彼も両の手でその衝撃に耐えたものの、その重圧でクロノ諸共後方へ押された程だった。
 クロノがよろめきながらも立ち上がり構える。
 
「うふふ、良いでしょぉ?この炎。思わず痺れちゃう程だと思うわよね?そこのオジさんもじんじん感じちゃったんじゃないかしら。もっともっと、痺れさせてあげちゃうのよねぇ〜♪」
 
 後方ではシズクがサンダガでヘケランの室内への侵入を妨害している間に、ルッコラとメキャベが力を合わせて一体一体ヘケランを滅していた。
 
「ぽーーーー!!!!」
 
 ポチョの声がする。
 振り向くと緑色に輝くゲートが空間にぱっくりと口を開けた。
 クロノは言った。
 
「みんな、先に入れ!」

 その声を聞いてポチョとシズクが入った。ルッコラ博士とメキャベ氏がそれに続く。
 クロノはフリッツを先に入らせると魔力を集中し始めた。
 
「な、なんなの!?」
 
 マヨネーが突然の状況の変化に困惑していた。そして、クロノの攻撃に備えた。
 クロノも構える。……だが、次の攻撃は無かった。
 
「……消えた」

 クロノ達の姿は消え、そこは先程までの闇に沈む静寂へ戻っていた。
引用なし
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