新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃PCホーム ┃使い方 ┃携帯ホーム  
1 / 38 ツリー 前へ→

【207】クロノプロジェクト先行版シーズン3第一話前編 REDCOW 11/5/28(土) 14:41

【210】クロノプロジェクト先行版シーズン3第二話後... REDCOW 11/7/1(金) 11:39
【211】クロノプロジェクト先行版シーズン3第三話 REDCOW 12/1/25(水) 0:27
【212】クロノプロジェクト先行版シーズン3第四話 REDCOW 16/5/2(月) 12:22

【210】クロノプロジェクト先行版シーズン3第二話...
 REDCOW  - 11/7/1(金) 11:39 -
  
 そこには二人の明らかに坑夫とは違う服装をした人物が立っていた。
 三人の歩く音に気がついて、そのうちの一人が振り向いた。
 
「ん?あぁ、お待ちしていました。」
 
 そう話したのは、なんとルッコラ博士だった。

「ルッコラ博士!?」
「おや、あなた方もご一緒ですか。それに、アンダーソンさんではないですか。直々の視察ですか?ご熱心ですな。」
「いや、私はこの二人の同行者だ。まぁ、このことは会社の従業員として宜しく頼む。」
「ほう、そういうことですか。なるほど。わかりました。お三方がいれば心強い。さぁ、参りましょうか。」

 ルッコラは特に驚くでもなく淡々と受け答えていた。
 彼の動じなさっぷりには3人とも何か思う所があったのか、互いの顔を見て苦笑していた。
 ここにきてこのメンバーの揃いにクロノは内心苦笑していた。
 調査隊のメンバーはクロノとシズクの他に、坑夫が1名に国立研究院から派遣の研究者が二名と聞いていた。しかし、そこに現状では坑夫として商会の会長さんが1名、そして研究員として最高責任者であるルッコラと助手のメキャベがやってきていた。しかし、幸いというべきか、彼は大統領府側の意向は知らない様で何の指摘も受けなかった。というよりむしろ歓迎されてしまった。    
 フリッツを先頭に坑道を進む。既に奥で重機による掘削作業をしている作業員がおり、フリッツはそこの坑夫達二名を道案内として同行させた。彼らの話では地下100m以上掘り貫いているという。だが、坑道の中は高い湿気を帯びており、かなり深くに下がって来ているはずだが蒸し暑さを感じるほどだ。
 道中はルッコラが調査状況について話してくれた。
 彼の話によると、地質調査結果から坑道の地層はとても固いデナドロ石を含む岩盤の層があり、これを中世に掘り貫いたとすれば驚異的な話だという。当時の魔法技術が現代より上にあるとしても、この途方も無い作業を為し得るには相当の努力が必要らしい。だが、その作業は困難では有るが不可能ではないという結論に至ったという。
 現代にも伝わるメディーナの魔法力を秘めた道具と、強力な魔力を持つティエンレン族を集中的に動員出来れば、当時でも出来ない訳ではない。ただし、現代と違って詳細な地質調査技術が有る訳では無いため、相当失敗したと考えられる。その証拠に彼が分析した情報によれば、幾つかのトンネルの残骸らしい穴が見つかったという。
 それらはいずれも途中でデナドロ石の固い壁にぶち辺り浸水していたため、掘削途中に浸水し中止したものと考えているそうだ。
 今回進んでいる坑道は新しく彫り貫いた中では一番良い調査報告が出ているそうで、ルッコラ博士が自ら出向いたのも実際にその目で歴史の遺物と対面したいという衝動かららしい。さすが学者。探究心のためなら、面倒事でも何のそのといった所だろうか。

「私はボッシュ博士からあなた方の話を聞いたとき、さすがに眉唾物だろうと思いました。どんな不可能も可能にする博士でも、時を行き来する等という荒唐無稽な話を真面目にされる様な方ではないと思っていたからです。しかし、あなた方は実際に現れた。博士が不可能を可能にするのであれば、あなた方も不可能を可能にしてくれる…いや、私は先入観に囚われるのは愚かだと思いました。私は学者だ。可能性を探求するのが私の使命なのだと。」
「先入観。だから私達を試した…わけでもないのよね。そのボッシュ博士は事前にあなたにそうする様に仕向けたんでしょ?」
「そうですね。お嬢さん、あなたの言う通りだ。でも、先入観が無かった訳でもない。博士の条件は正しいと同時に、私もあなた方を試したいと思った事は否定しませんよ。試験もね、博士は実は一次試験をクリアすれば実際にお会いする話だったんです。人間で一次試験を突破する魔力を持っている事自体、充分に珍しい話だ。だから、アンダーソンさんの様な方はとても珍しいことなのです。まして、あなた方は純粋な人間でありながら、歴代トップクラスの魔力を叩き出している。その時点で十分な資格があった。」
「じゃぁ、二次以降はルッコラさんが疑っていたから続行したってこと?」
「それは確かに私の意向も無くはないですが、大統領府からこの件は事前にお話があったからねぇ。試験で登場したという黒薔薇の捕獲も目当てにあった。とはいえ、まさかあんな歴史の遺物の様な人物が現れるとは、誰も思いもしなかった様だけど。」
「マヨネー…か。」
「先生、着きました。」

 到着を告げたのは博士の助手を務めるメキャベ博士。ルッコラの大学時代の後輩で、助手といっても国立研究院でも上級研究員として知られ、地質学研究の第一人者と目される人物らしい。この調査計画も実質の責任者は彼が担っているという。顔立ちはルッコラと比較するとずっと温和な印象で、人種は青い肌のジャリー種だ。背はクロノと同じくらいだろうか。
 
「ここが?」
 
 クロノが思わず呟いた。
 
 そこは坑道の途中の場所で、重機で掘ってはいるが、まだあまり進んでいない様に見える。
 
「この場所は坑道の途中の様に見えるでしょうが、先の方はもう調査してダメだと分かってね。元々ここを掘る話だったんですが、岩盤がデナドロで固くてね。迂回しようと思ってこの先を掘ったら浸水したので、ここに戻って来たわけですよ。いやはや、アンダーソンさんからすれば、この話はデナドロ鉱石の採取も出来て全く痛くもない話の様だが、私らからすれば厄介な鉱脈ですよ。これを中世に彫り貫いたというんだ。まったく中世の人々はとんだ化け物だ。」
 
 自分の先祖をとんだ化け物と言ってのけるルッコラに驚くクロノだが、ただじっと待っているわけにもいかなかった。
 
「俺達に出来る事はありませんか?見た所、重機の進みは本当に悪い様だし。」
「メキャベ君、どう思う?」
「そうですね。協力頂けたら確かに有り難いのですが、デナドロ鉱石はとても固く魔法耐性の強い石です。我々魔族が幾ら魔法を使えると言っても、この鉱石を彫り貫くのは簡単な話ではないんですよ。ですから、お手伝い頂く様なことは何も無いかと…。」
「デナドロが固いなら、その耐性を緩める事が出来れば良いんじゃないかしら?」
「え?」
 
 唐突なシズクの意見に、メキャベは戸惑った。
 
「確かにその通りですが、鉄やミスリル銀と違って、デナドロの分子構造はとても強固で、簡単に緩められる様な代物ではないですよ?」
「デナドロのES耐性は天寄りの耐性を持っているから、地の方向から天を中和して残りの火と水による冥化をさせてから、強力な天のエネルギーをぶつければぶっ壊れるんじゃない?」
「反属性化してから先天属性で破壊…それは考えても見なかった。確かに、ダイヤはダイヤで削らないと削れない。魔法効果も考えようによってはそういう扱い方もあるかも…。」
「幸いにして、地属性は私とメキャベ君、そしてアンダーソンさんがいる。天はクロノさん達の強力な一発を頂ければ出力は足りそうですね。やりましょうか。」
 
 ルッコラはこの話に早速乗り気の様だ。

 クロノ達は準備に取りかかった。坑夫を下がらせると、まずルッコラ達が地の魔法でデナドロ石の彫り貫きたい範囲に対し局所的に中和した。十分な中和には5分少々の時間が必要だったが無事に済んだ。今度はクロノ達の番である。
 
「シズク、用意は良いか?」
「はいな!」
 
 二人は同時にサンダガを放つ。通常のサンダガより倍の出力は有るだろう稲妻が正面の壁面と衝突した。それは驚くべき光景だった。魔法が衝突した瞬間、前方の壁がまるで押し出す様に綺麗に円筒形の形状をスライドさせて後退したのだ。それはとても気持ちの良い程の抜け方で、スポッとでも音を当てたくなる程の呆気なさだった。抜け穴の長さはおよそ20m程で抜けた様だが、抜けた先に彫り貫いた構造物は見えなかった。
 
「抜けましたな。どうやら浸水もしていない。進んでみましょうか。」
 
 ルッコラが先を進む。クロノ達も後に続いた。
 抜け穴の出口に着いたルッコラは、明かりで内部を照らした。
 見た所そこは大きな空洞が広がっていた。色とりどりの光苔が所々に繁茂し、地下100m以上の地底に広がる鍾乳洞の様な趣を持ったそこは、幻想的とでも言える空間だった。よく見ると、下の方に円筒形の岩石が落下の衝撃で砕けているのが見えた。
 
「…素晴らしい。こんな地下にこの様な空間が。しかも、空気がある。」
「抜け穴の壁面を見た所、地層的なスライドが認められます。緩やかに沈んだというよりは、とても急激な沈降が発生したと思われます。たぶん、この土地は数百年前は陸だった可能性もありそうです。あと、気になる点も。」
「気になる?」
「はい、幾つか人工的に手を加えられた様な痕跡を認めました。このデナドロの岩盤も、もしかしたら元々ここに有るものではなく、どこかから運んで来た可能性も考えられます。」
「では、当たりの様ですな。ワクワクするじゃないか。先を進もう。」
 
 フリッツがニコニコしながら歩き出す。
 抜け穴の先の空間は、出てすぐに左方向へ下る緩やかな坂が出来ていた。その坂の下には先程くりぬいた岩石が散乱しているが、道を塞ぐ様な状態ではなかった。彼らはそれらの間を縫う様に進む。すると、床に石畳の様な人工的に敷き詰められたものが見られた。
 
「(これは、一体?)」
 
 ルッコラは前を進みながら疑問に感じていた。それはクロノとて同様だ。過去に通った事がある魔岩窟はただの掘り貫いただけの洞窟で、これ程綺麗な石畳が敷き詰められていることは有り得なかった。これはクロノ達が通った後に加工されたのだろうか。いずれにしろ、不可解なものだ。
 先を更に進むと、大きな空洞に出た。前方には誰が見ても人工的に積み上げられたと分かる煉瓦組みの大きな壁面に、これまた大きな門扉が付いていた。クロノはこの扉の形状に見覚えを感じた。
 
「(おいおい、待てよ。そんなことがあるのか?)」
 
 クロノの既視感をよそに、ルッコラはつかつかと前を進み門を調べる。
 
「ふむ、これは凄い。この扉、どうやら中世のものだ。しかもかなり強固なシャイン鉱石を使用している。装飾も中世期の戦争時に描かれたものと酷似しているし…文字だ。何々……我が魔王軍の科学力は世界一……ビネガー・ワイナリン…………ビネガー1世のサインだ!?」
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_6_7) AppleWebKit/534.30 (KHTML, like...@i60-35-28-52.s05.a001.ap.plala.or.jp>

【211】クロノプロジェクト先行版シーズン3第三話
 REDCOW  - 12/1/25(水) 0:27 -
  
 第127話「アブソーブ」
 
 ルッコラは助手のメキャベと共にその場にしばし立ち止まり、門の詳細な形状は勿論、周囲の地質状況等を機器を使って調べ始めた。
 その間、クロノ達は近くの岩場に座って彼らの作業を待つことにした。というのも、これが政府の基本的な条件であるため、彼らの調査が全ての行動に優先するとされていた。
 シズクも最初はその場に座っていたが、退屈しのぎにルッコラの手伝いを始めた。
 彼女自身も興味が有るのだろうか。
 フリッツは坑夫達を下がらせると、クロノに話しかける。
 
「その表情、どうやら見覚えが有る様ですな。」
「…いや、正直な所、よくわからない。想像しているものだとは思うけど。」
「…その迷いは、むしろこの扉というより、あなた自身に向けられている様な言葉に聞こえますな。」
「はは、それは年の功って奴ですか?…うん、みんなが俺達のことを不思議がったり驚いたりするみたいに、俺もそんな何かを感じている。俺にとってのあの冒険は6年前の話だけど、あの時の俺にこんな迷いを感じる暇はなかった。迷う時間も足りないくらい、ずっとずっと…いっぱいだったんだ。」
 
 クロノの答えに、フリッツは視線を坑夫達の方へ移すと、彼もまた物思いに耽る様な表情をした。そして、下げていた鞄から水筒を取り出すと、蓋を空けた。
 
「飲みますか?」
「いや、良いです。」
「ははは、見てくれはウィスキーでも入っていそうですが、生憎酒は医者から止められてましてね、この中は普通の水ですよ。」

 彼はそう言い一口飲むと、一息吐いた。
 
「…私にも若い頃がありました。たぶん、同じ様に感じていた。その瞬間すら惜しくて足りないくらい。しかし、時とは妙なもので、その時が過ぎ行く程加速度を増すのに、思いはずっとゆっくりとしたものになる。いや、まるでその場に留まったまま取り残されるくらいに。」
「そういうものですか。だったら、俺はまだ途上です。」
「フフフ、そう。まだ始まったばかりです。戸惑う暇すら、まだ惜しんでいておかしくはない。同情はしますが、羨ましいものですな。」
「羨ましい?」
「はい。今がまさに青春です。若さ故の過ちも、まだまだ許される。こんなオヤジにもなると、そうそう隙も見せられない。願わくば…良い手本たらん…とね。」
「はは、それは大変だ。」
 
 二人がそんな話をしている頃、調査をしていた三人は情報をすり合わせていた。
 
「博士、このシャインの魔力減衰率を見た限りだと、製造年代は中世期とみてほぼ間違いないと思います。」
「周囲の壁面のデナドロ構成比は、基本的にこの周囲の鉱物から生成したとみて良いと思うわ。構造物の純度も当時の構造物を調べた年代測定資料の値と合致するし。」
「ふむ、メキャベくんもシズクさんもよく調べてくれました。特にシズクさん、この仕事が終わったらどうです?私の所で一緒に仕事しませんか?」
「え、私ですか?それは有り難いですが、ごめんなさい。」
「ほー、それは残念。でも、気が変わったらいつでも言ってください。私はいつでも歓迎しますよ。…さて、本題はこの扉をどう開けるかですが、これほどのデカ物です。手押しで開けたはずはない。まぁ、やろうと思えば現代の我々に不可能はありませんが、強引にやっては壊れてしまう。出来るだけ傷をつけたく有りません。当時の技術を考えるに、敵から攻められないために外部に無いのは当然として、内部的には開門用の魔力充填ラインがあったと考えられますから、それを利用します。」
「博士、シャインの先天属性は地。開門するならば天でこじ開けるのが早いかと。」
「メキャベ君、それではこの貴重な扉を破壊してしまう。もっとやんわり行かないとだめですよ。」
「じゃぁ、供給ラインに再充填するのが一番だと思うわ。」
「そうです。では、充填ラインはどこに有るか?通常の扉は蝶番か吊り上げ用の構造物に沿って存在します。この門は両開きの蝶番式ですので、その辺りに魔力を注ぐのが適当でしょう。さて、ES構成を調べてみますか。」
 
 ルッコラはそう言って門に手を当てた。
 そしてしばし集中すると、彼の手がほのかに緑色に輝いた。
 それはほんのわずかな時間であった。
 
「…わかりました。思った通り蝶番に沿って4つのラインが存在します。それが内部で一つにまとめられるイメージが感じられました。しかも、驚いたことにまだ生きている。…すばらしい。ES構成はシャインの地に合わせて力場を構成して門へ流し込む形で動かしましょうか。この作業を出来るのは私とアンダーソンさんが適任と思います。皆さんにお話しして始めましょう。」
 
 3人はクロノ達を呼ぶと、早速作業を開始した。
 門前に並んだルッコラとフリッツの二人は同時に地の魔力を注ぎ込む。
 すると門はゆっくりとその重い扉を開いた。
  
「さぁ、開きました。行きましょうか。」
 
 マイペースにルッコラは前を行く。
 この場はほぼルッコラを中心に動くのが無難だと、何故か皆納得していた。
  
 門の中に入ると、そこの内装は所々朽ちている部分もあるが、全体的には中世の面影を残していた。少なくともクロノにはそう感じられた。
 中の構造を見てようやくクロノは確信に至っていた。この場所は一度来たことがあると。…そんなクロノの気持ちとは関係なく、ルッコラは突き進む。
 入ってすぐの前方には階段が有り、エントランスホールの吹き抜け2階への階段がある。そこを上ると二手に分かれていたはずだが、両方の通路が崩壊していた。
 
「ふむ、どちらも行けそうにないですね。しかし、もしここが過去の戦争時代のものであったとすれば…」
 
 そう言ってルッコラは丹念に床を調べ始めた。すると、
 
「あぁ、ありました。」
「これは?」
「トリップフィールドです。ささ、皆さん集まって。」

 ルッコラは全員を集めると、フィールドを自身の魔力で活性化させた。その瞬間、クロノ達は先ほどまで見ていたエントランスホールとは全く違う場所へ運ばれていた。
 そこは綺麗に片付いているかの様に、かつての様を残していた。
 
「むぅ、400年以上の年月が経過しているはずなのに…この保存状態。すばらしい。しかし、これらの構造…ワイナリン築城様式の罠に酷似していますね。ふむ、皆さん、しばし待っていてください。」
 
 クロノもルッコラの見解を肯定していた。
 ここはビネガーが奥でハンドルを回して罠を動かしていた部屋だ。しかし、ビネガーが居ないこの場所で罠へ用心する必要は無いだろうと思われた。
 ルッコラは壁面を丹念に調べると、コンベア型の罠手前の通路上に魔法陣を書き始めた。そして、暫く瞑想をすると魔法を詠唱し始めた。
  
「…静まる闇の中に眠る心よ、我が呼びかけに応え、その姿を示せ。」
 
 詠唱が終わった瞬間、突然ベルトコンベアが動き始めた。そして、驚いている一同の前に怪しく青く光る炎が左右の奈落から浮き上がり、それは前方中央の通路上で合体した。合体の瞬間、閃光を発した炎はゆっくりとその場で揺らめいた。
 
「おぉ、やはり。ここにはサーバントがありましたか。」
「サーバント!?」

 クロノの驚きの声にルッコラはにっこりと微笑んで答えた。
 
「はい。我々魔族はこのサーバントの力を継承することで魔力を保持してきました。しかし、それは何も人体へ継承することに限りません。このようにある特定の条件を揃えてやりさえすれば、サーバントをとどめておくことも出来るのです。」
「サーバントを留める?」
「はい。留めることでエネルギーを引き出し、物を動かしたり魔法を遠隔的に発動させるといった便利な使い方が出来る様になります。中世の戦争で数の少ない魔族がどうやって人間に対抗することが出来たか?…それはこのサーバントの力なくして語れません。」
「で、これをどうするんだ?」
「これですか?では、少し見ていてください。」
 
 彼はそう言うとその場で何やら炎の方へ向き直り、右腕を手のひらを開いて前に突き出した。
 
「アブソーブ、エイリアス!」
 
 その瞬間、炎は揺らめくと小さな火の玉がそこから飛び出して、ルッコラの手のひらに吸収された。
 
「今のは何を…」
「見ての通り、吸収しました。エイリアスとは分身のこと。この炎から力を一部呼び出す権利を貰いました。エイリアスは自身のサーバントにエイリアス本体の持つ技術の一部を共有させてくれます。本来であればサーバントそのものを吸収してしまえば良いのですが、そうも出来ない場合が有ります。
 例えば、自分より強いサーバントとかですね。その場合、エイリアスを貰い受けることで本体との縁を作り、自分が強くなった時にサーバントを呼び出す権利を受けるわけです。エイリアスを受けた者はサーバントとの縁を通して、外界のエネルギーを供給する運び屋としての仕事を受けます。これにより地場に縛り付けられたサーバントがエイリアスを通して外界で行動出来るようにもなるわけです。つまり、ギブアンドテイクですね。」
 
※サーバント&エイリアスについて
 地場に縛り付けられたサーバントや天然サーバント等、各地にあるサーバントからは二つの方法で力を受け取ることが出来ます。アブソーブ命令に対して、術者がサーバントの能力を超えている場合はサーバント命令でサーバントそのものを強制的に吸収し、そのサーバントの持つ全ての能力を引き継ぐことができます。
 能力が低い場合やサーバント吸収許容量限界を超えている場合は、エイリアス命令でエイリアスを受け取ることでサーバントの持つ能力の一部を受け取り、自分のサーバントの能力を向上させたり、自分の装備の性能を向上させることができます。また、エイリアスを保持しながら戦い続けると、エイリアスにエネルギーが供給されます。
 一定のエネルギー供給を受けたエイリアスは、術者に対して本体を呼び出す権利を与えます。術者はその権利を行使することで、吸収せずともサーバントの持つ全ての能力を一度だけ利用で来ます。一度使うと再度エネルギー供給を受けないと使えません。エネルギー供給方法は戦闘での余剰エネルギーの充填の他に魔力を直接供給する方法があります。しかし、後者はとても巨大な魔力を消費するため現実的ではありません。
 術者がサーバントの能力を超えている状態でエイリアスを利用している場合は、発動条件を揃えることでサーバントをいつでも呼び出せる様になります。発動条件は術者との縁の強さの他にフィールド属性や魔力供給量が関係し、縁の深いエイリアスほど発動条件が緩和されます。ただし、発動条件はサーバント側の能力も強化されて行くに従って変化します。サーバントもまた、エイリアスのエネルギー供給を受けて進化していきます。
 エイリアスで所有するサーバントを吸収した場合、そのサーバントが持つコネクション(縁)は全てリセットされ、術者に全ての権限がゆだねられます。

 クロノ達はルッコラに促されるまま、この炎からエイリアスを受け取った。炎は全員にエイリアスを渡すと消えてしまった。
 
「この先もこのようなサーバントが存在する場所と出くわすこともあるかもしれません。その時は私の説明通りにして頂ければ問題無いでしょう。サーバントはとても重要なものです。エネルギー供給源であり、武器にもなりますし盾ともなります。サーバントの扱いは、くれぐれも大切に。」
 
 ルッコラはそうして再び奥へ進み始めた。
 そこにクロノがあわてて彼に言った。
 
「博士、罠は!?」
「罠?…あぁ、あのサーバントが動かしていたわけですから、私達は彼のエイリアスを受け取った時点で彼の仲間。問題有りません。」
「…はぁ。」
 
 クロノは半ば拍子抜けするものを感じつつ、彼の後に続いた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_6_7) AppleWebKit/535.7 (KHTML, like ...@i220-220-158-157.s05.a001.ap.plala.or.jp>

【212】クロノプロジェクト先行版シーズン3第四話
 REDCOW  - 16/5/2(月) 12:22 -
  
第128話「ほのかな歪み」
 
 その後、クロノ達はギロチンが天井からぶら下がるコンベヤ床の部屋に来ていた。
 そこでもルッコラはしばし観察すると、魔法陣を描いてサーバントを呼び出してしまった。
 クロノ達はそこでもエイリアスを受け取ると、サーバントは消えて罠が無効化された。
 その次の通路では、かつてはまるまじろが転がってきたものだが、ここも通路へ入ってすぐの所でルッコラがサーバントを呼び出して無効化するという流れを実行し、全く問題無く進むことが出来た。
 次の部屋は落とし穴だらけの部屋であったはずだが、ここでもルッコラはサーバントを呼び出して無効化するとう一連の作業をして普通の床を歩く様に堂々と渡りきってしまった。その次も城の壁面にまるまじボンバーが転がってくるはずだが……以下略。
 次の部屋も次の部屋も、かつては大勢のモンスターと遭遇したものだが、ルッコラはそれら全てが無かったかの様に、遺跡探検をするツアーガイドのごとく彼の考察が展開されながら進んで行った。そして、ビネガーがかつていた場所までたどり着いた。
 
「ふむ、この魔法陣を超えた場所が最後だと良いですねぇ。私もさすがに疲れました。さて、皆さん向かいますか」
 
 エントランスホール同様に魔法陣から転移すると、そこは長く深く降りる階段があった。
 ルッコラはこれまで同様に周囲を調べるとサーバントを呼び出すことに成功する。一通りの行動を終えると言った。
 
「これで私たちは合計で8体のエイリアスを受け取りました。ディアブロス、魔王のしもべ、まるまじボンバー、ソーサラー、ナイトゴースト、セーブポイント、ジャグラー、バンプット……これらのサーバントはそれほど強いものではありませんが、それぞれ特殊能力を持っています。それぞれのサーバントでこれらの能力を活用すると良いでしょう。本来であれば吸収してしまえるものですが、今回は歴史的な調査もありますのでご容赦ください。さて、行きますか」
 
 ……オウォーゥ。
 
「?」

 何かの声がした気がした。
 だが、クロノ以外は誰も気がついていないようだ。
 気のせいか。
 階段を下りて行く一行。
 クロノはこの後の部屋が何の部屋かわかっていた。
 それ故に気のせいといっても油断は禁物に感じた。
 
 最後の段を降り、そこに開ける暗い闇への入り口をくぐり抜けた。
 ゆっくりと部屋の中央へ進む。懐中電灯の光で辺りを照らすと、前方に何かが座っている様に見えた。
 
「誰だ。」
 
 クロノの問いかけに、前方の何かがゆっくりと衣擦れの様な音を起こして振り向いた。
 その顔はしわがれているが、間違いなく危険な人物であることを確認出来た。
 
「あたしのことよね?そうよね?……うふふふふふぅ、ようこそ、我が家へ。まさかこんなに早くにあたしのアジトがバレるなんて思っても見なかったわよねぇ。まったく、あたし達のやることなすこと全てに立ちはだかるのが………あなたの顔だったのよねぇ。ぐふふぅ、でも、飛んで火に入る夏の虫とは、あなたみたいのを言うのよねぇ」
 
 しわがれた声で「彼女」は言った。
 すると後方をずしんずしんと音を立てて何かが入ってくるのが聞こえる。
 振り向くとそれはヘケランだった。しかも一体ではなく、複数体がどんどん入ってくる。
 
「あたしの可愛い坊や達、存分に遊んであげるのよねぇ。をーほっほほほほほほほほほほほ!!」
「!?」
 
 ヘケラン達が襲いかかる。クロノが抜刀して切り掛かるがあまり効いていない。
 フリッツが防御の為に魔力を集中すると、ダイヤプロテクトフィールドを発動させた。
 
「く、道を確保しなくては。私のフィールドもすぐに破られる。何か手は無いか!」
「……ここで行き止まりなんだ。ここは、元は魔王の部屋だったからな」
「なんと。……では袋小路」
「そういうことだ。……って、ん?……なんだアレ?」
 
 クロノは中央に小さな空間の歪みみたいなのを見つけた。
 これは魔法の力で空間に光が満たされなかったらわからないほどのものだったであろう。
 
「シズク!そこにある歪みを調べてみてくれ!」
「え、歪み?……あ、アレのこと?わかったわ!ちょっと待って」
 
 シズクがシーケンサーをバックから取り出して辺りを計測する。
 
「……これは、ゲート」
「やっぱりか。よし、開けるか?」
「うん、やってみる。ポチョ!」
「ぽーっ!」
 
 彼女の胸元からぽちょが飛び出した。……相変わらず何処で眠っているのだろうか。
 ポチョは早速ゲートを開き始める。しかし、あまりにも小さすぎて簡単に開きそうにない。
 
「時間が掛かりそうだわ。とにかくこの場はポチョが開くまでみんなで持ちこたえましょう!」
「あ、あの、どういうことですか?」
「詳しくは後だ。今はとにかく生き残ることを考えろ!」
「わかりました。メキャベ君、やってやろうじゃないですか」
「はい。」
 
 ダイヤフィールドが破壊された。
 ヘケランの巨体による体当たりで耐えきれなくなったフィールドが、まるでガラスが砕け散る様に細かく破砕され飛び散った。そこを抜けてクロノが再び切り掛かる。魔力を込めた刀の力によってヘケランの肉体が刻まれる。今度は確実に両断され、その体はなんと光となって消滅してしまった。
 その消え方を見てルッコラが言った。
 
「サーバント!?そうか、この数は全てヘケランのエイリアスです」
「ヘケランのエイリアス?」
「そうです。実体を出している存在を倒さない限り、永遠にエイリアスは出続けます」
「本体は……マヨネーか!」
 
 クロノが方向を転換しマヨネーへと切り掛かる。しかし、マヨネーはその攻撃を寸での所でひょいと、いとも簡単に扇子で受け止めた。だが、明らかな違いが生じていた。その持つ手は先程までのしわがれたものではなく、妖艶な程に青白く透き通る様な美しい肌をしていた。
 
「……うふふ、そんなに求めてくれて嬉しいわ。女は求められて綺麗になるのよね。どんな男もあたしの美の前にはひれ伏すの。…さぁ、あなたもあたしの僕になるのよねぇ〜〜!!!」
 
 若返ったマヨネーの瞳が赤く光った。
 周囲からハート形の炎が形成され、クロノへ襲いかかる。
 
「ぐあぁああ!!!」
 
 その炎をもろに食らってしまい、衝撃で強く地面へ叩き付けられる。
 不思議にもその炎は熱くはなかったが、衝突した時の衝撃は常識を外れた重圧だった。
 以前の「彼」も同じ炎を使っていたが、これはそれまでを遥かに超えている。
 何が彼をそれほどまで強くしたのだろうか。
 これはこの時点ではそんなことを思う暇等無かったが、間違いなく浮かび上がる疑問だ。
 そこへ追い打ちをかける様に炎が襲いかかるが、フリッツが彼の前へ出て左手に出したダイヤのシールドで炎を防いだ。
 彼も両の手でその衝撃に耐えたものの、その重圧でクロノ諸共後方へ押された程だった。
 クロノがよろめきながらも立ち上がり構える。
 
「うふふ、良いでしょぉ?この炎。思わず痺れちゃう程だと思うわよね?そこのオジさんもじんじん感じちゃったんじゃないかしら。もっともっと、痺れさせてあげちゃうのよねぇ〜♪」
 
 後方ではシズクがサンダガでヘケランの室内への侵入を妨害している間に、ルッコラとメキャベが力を合わせて一体一体ヘケランを滅していた。
 
「ぽーーーー!!!!」
 
 ポチョの声がする。
 振り向くと緑色に輝くゲートが空間にぱっくりと口を開けた。
 クロノは言った。
 
「みんな、先に入れ!」

 その声を聞いてポチョとシズクが入った。ルッコラ博士とメキャベ氏がそれに続く。
 クロノはフリッツを先に入らせると魔力を集中し始めた。
 
「な、なんなの!?」
 
 マヨネーが突然の状況の変化に困惑していた。そして、クロノの攻撃に備えた。
 クロノも構える。……だが、次の攻撃は無かった。
 
「……消えた」

 クロノ達の姿は消え、そこは先程までの闇に沈む静寂へ戻っていた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10.8; rv:45.0) Gecko/20100101 Firefox/4...@ZH176031.ppp.dion.ne.jp>

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃PCホーム ┃使い方 ┃携帯ホーム  
1 / 38 ツリー 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
38411
(SS)C-BOARD v3.8 is Free