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「世界が狭いぞヘケラン。そして私に水を浴びさせたことを後悔させてやる」
水に濡れたシェアは妙に色っぽかった。それはさておき、シェアの動きは守られているマールから見ても尋常では無かった。
(これがクロノの師匠……何回見てもすごい)
ヘケランは動き出す。
ヘケランは腕を大きく振りかぶった。手の先のツメが光る。
瞬間的にヘケランの殺気が膨れる。
シェアは剣でツメをさばいて、近接距離から離れようとする。
●うぉ〜た〜・ぼぉ〜る(青)
眼前に体を覆うほどの水の出現。
(エレメントか!!)
水がシェアを包む。
とっさにヘケランは何かを手で落とした。
みるとそれは矢。
水に包まれるシェアはその様子を見た。
(弓矢? マールか)
マールは離れたところから、弓を構えている。
弓を中心に、魔法の構成が描かれる。
”アイスショット”
無数の氷の矢がヘケランに向けられる。
すでに避けるのは無理と判断したヘケランはエレメントを握る。
●う〜はぁ〜(緑)
よほど強いグリッドレベルだったのか、氷の矢が風により吹き飛ばされる。
同時にヘケランのエレメントから解放されたシェアは銃を構える。
ダッダン
2発の銃弾が近距離でヘケランの手を貫通する。
クァッァァァッァァァァァァァァアアアアアア
ヘケランは叫び、グリッドを開く。
●うぉ〜た〜・ぼぉ〜る(青)
グリッドレベルの高いエレメントを使い、銃を構えたままのシェアを一瞬で包む。
血の流れる腕を押さえると、別の気配を感じその場を離れる。
”王の頂(クラウン)”
真空の刃を無数に放つクロノの一撃が飛ぶ。
なぜかヘケランを透過する。
ヘケランにダメージを与えられなかった代わりに、シェアを包んでいたエレメントを切り裂く。
水の檻から解放されて、濡れた服を軽く払いシェアは銃を収め、細長い剣を抜く。
カンッ
音の鳴るほうを見ると、マールの弓矢をツメで払っていた。
敵を見失わず、マールはヘケランを攻撃していた。
「残像ではないか、屈折か幻か」
さっきのクロノの攻撃が素通りしたヘケラン。
これは特殊能力と考えてよいだろう、すでにこのように不思議な力が追加されている敵と戦っているのでそれほど動揺もないが、これを打ち破る手を考えなければならない。
ヘケランは肉ダンゴが転がっている様に突進する。
ダダダダダダ
地響きが周囲のものの足場を乱す。
マールの矢を弾き勢いを増すヘケラン。
シェア、クロノの脇を通り生み出した空圧で、二人の身動きをとめる。
その時、クロノの目にヘケランの魔法の構成が見え、あの突進が魔法を隠すものだと気づくが空圧のため動けない。それはシェアも同じ。すぐに対応するために構える。
ヘケランの魔力が動く。
”弾丸・うぉ〜たぁ〜が”
水の魔法がクロノ、シェアに向けて高速で放たれる。
クロノは刀でその一部を切り裂き、天の魔力で水の界面から強力な電気分解を起こしてその場をしのぎ、シェアはさっきと同じように空圧で魔法を切り裂いていた。
連続で放たれる魔法の効果が切れると、クロノはすぐに動き出しヘケランを狙うがその斬撃は素通りしてしまう。
キキキ
少しはなれたところで金属のきしむ音。
シェアがもう一体のヘケランの相手をしていた。
どうも幻が、感覚を鈍らせる。
ほんの少し前まで動いていたものが、瞬時に動かない映像と化す。
全力で振るっているため、その反動だけが腕の中に残るというものは厳しい。
一方で、シェアはヘケランを押していく。
そして、
ザッバッ
ヘケランの指を二本斬り飛ばした。
ヘケランの声は無い。
そこに畳み掛けるように剣を突き出すが、シェアの反応速度をほんの一瞬越えて、叩きつける。
地面に叩きつけられて、さらに滑る。
大きく離れたのを確認すると、ヘケランは周囲に魔法陣を描く。慣れ様でもあり一気に何重にも魔法陣を描くと、その配置からさらに巨大な魔法陣を構成させた。
●ふりぃ〜ず・ふぃ〜とぉ〜(固有・青)
白い波が襲う。
一面を強烈な冷気によって極寒の空間による氷の粒が舞う。
シェアは思わず、グリッドを手にエレメントで防ぎ、クロノはマールを守りつつ、雷撃で威力を減じた。
マールはクロノに抱きかかえられるように冷気から守られた。二人は密着していたが、マールはクロノの体温の低下を強く感じた。
「クロノ」
細く言葉を出すが、クロノは軽く笑うだけであった。
見ると顔は真っ青、血流が悪くなっている。
シェアさんを見ると体に霜が張り付かない様にゆっくり動く。
クロノたちが動きを止めているのを見逃すはずはなく、ヘケランは突進を開始した。
シェアはグリッドを握り、エレメントを使用する。
●ハイマッスル(赤)
シェアの体が赤く光る。
シェアはヘケランの動きに素早く反応して、避け、交わるところで斬りつけるが、幻。
実体なき偶像を斬りつけたところで、ヘケランが反対方向からツメを使いはたきつける。
「くっ!!」
辛うじてかわすが、いま地面は軽く霜がひかれ、滑りやすい。
シェアは威力は無いが、その地面の中を技能でカバーし再びヘケランに斬りつけるが、それも幻。
さっきのエレメントで一気に幻の数が増えたように見える。
それを受け、クロノ、シェア、マールは防戦に近い形をとる。
クロノは魔法の構成、発動させる。
”サンダガ”
雷の中、ヘケランの一体が青のエレメントを発動。
落雷寸前に水の壁が出来上がる。
水は電気を表面上で流し、内部まで透過させない。
わずかに表面に付着した埃の部分でしか、電気が流れることはなく、ヘケランは無傷。
クロノは次の攻撃の準備をしようとした瞬間、ヘケランの突進をまともに受ける。
”ファイガ”
洞窟の中心で淡い炎が、その熱気を全体に広げる。
内壁についていた霜は一瞬で蒸発。
ヘケランの幻も消滅。
驚くヘケランにある塊が体当たりを掛ける。
ガシャアアアアアン
まともにぶつかったヘケラン。
その間にシェアが剣を突きつけた。
それまでヘケランはシェアの動きを見ている。
筋肉をわずかに動かしただけで、シェアが一瞬でヘケランに止めをさせる最近距離。
ヘケランは負けを認めざる得なかった。
最後に現われたイレギュラーな存在。
ルッカとロボの出現で、この勝負は決した。
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