新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃PCホーム ┃使い方 ┃携帯ホーム  
28 / 38 ツリー ←次へ | 前へ→

【34】序章 REDCOW 06/8/14(月) 21:56

【52】通力 REDCOW 06/8/21(月) 12:02
【53】運命の赤い麻紐 REDCOW 06/8/23(水) 20:50
【54】ジャストミート REDCOW 06/9/2(土) 5:13
【56】500 REDCOW 06/10/20(金) 2:01

【52】通力
 REDCOW  - 06/8/21(月) 12:02 -
  
「ジュリエットさんが…て、本当にどういうことなんですか?」
「…それ以上は秘密ですわ。ただ、この子を産んで後悔はしていません。こんなに男らしく育ったんですもの。」
 
 僕は詳しく聞くのはやめた。
 彼らには彼らにしかわからない事情があって、わざわざ秘密にしているんだろう。そこに僕みたいな外野が不必要に情報に触れることは良くないって思った。何より、誰が聞いているともしれないここでかれらが秘密にしなくてはならない事情を聴くことは、少なくとも適切な場所とは呼べない。
 僕は適当に話題を変えることにした。

「わかりました。えっと、では他に幾つか聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「はい、猊下。」
「その、この世界って戦争とか無いんですか?」
「戦争?……ございますわ。」
 
 ジュリエットさんはそういうと哀しげに近くの花壇に咲く花の方を見た。
 その花は黄色いすいせんの様な可愛らしい球根草だと思われた。
 
「わがアスファーンはこの地域に根ざす大国として知られています。しかし、我が国と他国の外交関係が決して良好であったわけではありません。古くは漆黒の瞳の賢者様が我が国は勿論、世界を導かれたこともある我が国ですが、今はそれ以来脈々と受け継がれる通力の力を怖れ、敵視する勢力があるのです。」
「通力?」
「えぇ。通力とは自然の力と通じて奇跡を起こす能力です。元は12の力が我が国に集いましたが、今では半分の力のみで、我が国に他国をどうこうするほどの意図も無ければ力も無いのが実情です。しかし、人は持てる者と持たざる者の差を気にするものです。我が国に今でも6つの力があるということは、彼らにしてみれば脅威なのでしょう。」
 
 なんだなんだ!?
 今度は突然RPGの定番の魔法っぽいものがあるっぽい発言がでてきたぞ。
 僕は内心わくわくしていた。

「あの、その通力って、僕も扱えるモノなの?」
「猊下ですか?…そうですねぇ、伝説の漆黒の瞳の賢者様は全ての力を調和したと言います。もしかしたら、猊下にも力があるのかもしれませんわ。」
「え、そうなんだ!」
 
 僕は心の中で万歳と両手を上げた。
 やっとなんとなく世界の雰囲気に合った夢の様な能力が使えそうな兆し。
 
「えっと、その力はどうやって使えば…」
 
 その時、城門から駆けてくる1人の兵士の姿があった。
 その兵士は城内を目指していたようだが、僕らを前庭に認めて駆け寄ってきた。
 
「バルムドゥール殿下!カールグリーフが我が国に兵を向けてきました。」
「何!?で、今何処だ。」
「は、現在、ドーリア領付近まで接近。ドーリア公が軍を率いて対峙しておられます。現在スタインベルト軍が援軍に向かっているという報が入っておりますが、カールグリーフの背後にエメレゲが動いているのではないかと…。」
「ガイファーか。よし、分かった。陛下の所へは俺もお前と一緒に付いていこう。来い!」
「は!」
 
 そういうと、カイルは兵士を連れて駆けて行った。
 僕は呆然とその状況を見ているしかなかった。でも、隣のジュリエットさんは哀しげな表情のまま花を見ていた。

 戦争が起こる。
 それはシミュレーションRPGみたいな争いなのかも知れないけれど、失われるのは本物の命。…僕は背筋が凍る様な嫌な感じや急激に冷や汗みたいなものが吹き出すのを感じた。
 
 遊びじゃない。
 誰かの命を失うなんて有っていいわけが無い。どんな人にも家族がいて、友達がいて、哀しむ人がいる。兵士だけじゃない。戦争をすれば沢山の人が家族を失い、命を消していくんだ…。
 
 …止めなきゃ。
 
 僕は無性に何かに突き動かされるように動いていた。
 
「…猊下?」
 
 気がついた時には馬小屋に走っていた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/418 (KHTML, like G...@221x241x93x140.ap221.ftth.ucom.ne.jp>

【53】運命の赤い麻紐
 REDCOW  - 06/8/23(水) 20:50 -
  
「猊下!お待ちください!」
 
 ジュリエットさんの声が近づく。
 彼女は思わず駆け出した僕のあとを付いてきていた。
 そして、
 
「私もお供致します。それに、猊下、乗馬はお得意で?」
「あ…いえ。」
「ウフフ、なら私が猊下を戦場へ送らせていただきますわ。」
 
 ジュリエットさんはニッコリと微笑むと、突然来ていたワンピースを豪快に脱ぎ捨てた。
 僕はあまりに突然の大胆な行動にあらぬ期待をしていたが、その期待はあっさりと裏切られ、彼女は勇壮な深紅に背中に金糸で唐獅子牡丹を描いたような軍服を着て現れた。…っていうか、何故軍服をワンピースの下に。っつか、ズボンはどっから!?いやいや、唐獅子牡丹!?!
 
「さぁ、行きますよ!」
 
 掛け声一声、彼女は厩舎の白馬に僕を乗せると颯爽とカイル同様に華麗に馬上に乗り、手綱を持って城内を駆け出した。その手綱捌きは手慣れたもので、馬はびゅんびゅんと速さを増した。 
 
「ジュリエットさん、そ、その、」
「ジュリーよ!」
「あ、ジュリーさん!どうして僕を?」
「…猊下、アスファーンは賢者様が開かれた国。そして私は司祭です。猊下にお仕えするのが務め。」
「ジュリーさん…。」
 
 彼女の言葉は、僕に何かを期待していることを示していた。でも、咄嗟に飛び出してしまっただけで僕に何か策があるわけじゃない。だけど…何もしないで後悔はしたくない!!!
 僕はジュリーさんの背から迫り来る視界を眺めていた。前方には広大な草原と、何の舗装も無い土で開かれた王国公道が続いた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーー

 
「ウフフ、まさかあなたと剣を交える日が来るとはね。でも、嫌いじゃないわ。」
 
 ドーリア公国軍を率いるダーグスタは馬上から敵軍勢を見据えていった。
 その彼の腕には輝く文様が現れていた。
 前方の敵軍勢は3000騎。ドーリア軍は2000騎であり、数の上でも相手側が優勢である。特にこの戦場は平地であり細かい策を弄することが出来ないため、純粋な数と練度がものを言う。しかし、それは本物の中世での話しだ。
 ドーリア公を中心に光の円陣が形成される。黄金に輝く円陣は次々にその支配域を広げ、広大な平地に展開する自軍兵力を包み込む様に形成された。
 
 それを見た敵側でも閃光が走る。
 敵軍将ガイファー・ブルーノ・カールグリーフ公爵の手から青い閃光が輝き、彼を中心に青き光の円陣が形成された。その支配域は急速に拡大し彼らの軍勢をドーリア軍同様に包み込んだ。
 
「ウフ、兄上だからって、容赦しないわよーーー!!!!」
 
 ドーリア軍が動く、V字型に形成された隊列陣形はカールグリーフ軍の正面を突破する戦術だ。これに対し、カールグリーフ公爵は隊列を崩さず対峙の構えを解かなかった。ドーリア軍の前衛とカールグリーフ軍の前衛が接触する。
 両軍の兵士との衝突面で青と黄金の閃光が走り弾き合う。二つの力は互角かどちらかというとドーリア公の力が上のようだ。カールグリーフ軍の前衛部隊が次々に黄金の陣営の中に取り込まれていく。すると、彼らはカールグリーフ軍からドーリア軍に投降し始めた。
 情勢の不利を悟ったカールグリーフ公爵は衝突部隊を徐々に後退させながら全軍を後退させ始めた。その間もドーリア軍は勢いに乗り次々にカールグリーフ軍を吸収していく。
 
「…かかった。」
 
 それは突然起こった。
 後退していたカールグリーフ軍は、後退していたと見せかけてドーリア軍を包囲していた。カールグリーフ公爵はこのチャンスを逃さなかった。
 
「ムン!!!」
 
 カールグリーフ公爵は自身の魔法陣でドーリア公の黄金の陣を包み込むと急速に力を抑圧させ始めた。
 
「っち、セコイ戦い方するのね。それだけの軍勢を持ちながら。」
「…フン。」
 
 それは兵士達の包囲が厚くなれば厚くなるほど上昇し、徐々にドーリア軍に寝返った兵士達は勿論、今度はドーリアの兵士達もカールグリーフ側につき始めた。すると、もっと強力な力が働き抑圧し始める。
 
「ダーグ。力はお前に譲る。俺は頭さ。」
「…嫌な男。腐ってるにも程があるわ。」
「そう言ってられるのも今の内。お前も俺の下僕になる運命だ。呪うなら賢者様とこのアスファーンの血を呪うんだな。」
 
 カールグリーフ公爵の力は遂にドーリア公1人を縛るに至る。…と思われたが、その時石つぶてがカールグリーフ公の顔面に直撃した。いや。よく見ると普通なら死ぬよと思うほど大きな漬物石…。憐れ、カールグリーフ公の顏は真っ平らに潰れてしまったと思われたが、彼はその悲劇を背負うのを低調にお断りするかのように、静かに片手で寸での所でその石を掴んでいた。
 彼が視線を向けた先には、一騎の馬に跨がる女性と少年の姿がみとめられた。
 
「ガイファー、あなたって人は。」
 
 ジュリエットは哀しみの目を彼に向けた。
 そのわなわなと震える可憐で細い片腕には、もう一つの漬物石を待機させて。
 
「…姉上、よしてください。そのような石で私を醜い姿に変えて、あなたは兄弟として恥ずかしく思われないのですか。」
「…思う。でも許せない!!!なら、一思いに醜い壁におなりなさい!!!」
 
 目茶苦茶だった。
 彼の後ろに乗る少年は、手綱を握るこの女性の側から離れてすぐにでも他人の振りをしたくてたまらなかった。しかし、彼と彼女は運命の赤い麻紐で固く結ばれていた。…もとい、結束されていた。

「…な、なんでこうなるわけ。」
 
 少年はじたばた動いた。しかし、彼女は自分の片腕にくくり付けた紐を引っ張る。するとキュッと締め上げられ、余計に少年は動けなくなった。
 
「…ジュ、ジュリーさん。どうしてぼくがしばられなくては…」
「だって、あなたがいなかったら、私が出てきた意味が無いじゃない。」
「え、だって、これじゃ僕全く関係ないじゃないですか。」
「そんなことないわ!私をここまで奮い立たせて下さったのも猊下のおかげ!かくなる上は私が全身全霊を賭けて愛して差し上げるのが務めですわ!!!」
 
 少年は自分がとんでもないものを起こしてしまったことを後悔した。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/418 (KHTML, like G...@i60-36-252-143.s05.a001.ap.plala.or.jp>

【54】ジャストミート
 REDCOW  - 06/9/2(土) 5:13 -
  
 僕は何とかしてこの場をどうにかしたかった。
 彼らの軍勢は完全にドーリア軍を包囲していた。でも、ジュリーさんの攻撃は図らずもカールグリーフ公の集中力を解き、術の進行がストップしていた。
 
「ジュリーさん、兎に角落ち着いてください。ジュリーさんの力でなんとかならないんですか?」
 
 僕の言葉にジュリーさんは反応せず、まだ左手に漬物石を持ったままカールグリーフ公を見ていた。
 
「ガイファー、今すぐ軍を引きなさい。」
 
 その声はとても低かった。底知れぬ怒り、いや、哀しみだろうか。ジュリーさんの声の音色には僕には分からない彼との沢山の感情が詰まっている様に感じた。
 
「…幾ら姉上の命でも譲れない。…いや、最早手遅れだ。」
 
 彼はそういうと後方を振り向いた。
 僕等は彼の見た方角をみた。そこには沢山の軍隊の姿があった。その数は5000くらいだろうか、カールグリーフ軍とドーリア軍まで加えたなら一万を越える…。
 僕がそんなことを頭で思い描いている時、ジュリーさんは怒りに左腕をわなわな震わせていた。
 
「あれはエメレゲ都市同盟。」
「え、エメレゲ都市同盟?」
 
 ジュリーさんは僕の問い掛けには答えず、カールグリーフ公を睨むと左手に持った漬物石を器用にも利き腕の様に滑らかな動きで豪快に完璧なコントロールで投げ切った。漬物石は彼女が手から離す寸前に加えたひねりも入り、回転してまるで魔球の様に見えたに違いない。
 石はど真ん中ジャストミートでカールグリーフ公の腹に入ると、憐れカールグリーフ公は30m向こうまで吹っ飛ばされ、兵士達の頭上に落下した。
 僕はマジで目が点になった。いや、これがならないでいられるか!ってくらい…。
 でも、彼女はそれさえも計算ずくの様で、すぐに次の行動に移った。
 彼女は突然馬上から降りると、両手を上に上げて深呼吸するみたいな姿勢をすると、ふぅっと一息吐いて、両腕を真ん中で合掌して構えた。すると、彼女の体から白い光が輝いて地面に魔法陣が輝いた。
 あまりに突然のことに驚いたけど、彼女はまるで風の様にさらさらと流れるように動くと、それに合わせて風が舞い、その風がドーリア軍とカールグリーフ軍を包み込む。両軍を包み込んだ風は白い輝きの粒がキラキラと舞い散り、その輝きに触れた兵士達が次々に我に返り始めた。
 
「ジュリーさん…」
 
 僕は魔法の力は勿論、ジュリーさんの持つ力の凄さを知った。
 彼女はあれだけいがみ合っていた両軍の兵士をあっさりと呪縛から解いたのだから。
 ジュリーさんは一通りの行動を終えると、ダーグさんの方を向いて大声で言った。
 
「ダーグ!私は非戦なんだから、あなたしっかり指揮するのですよ!!負けたら承知しないわよ!」
 
 彼女はそういうと微笑んだ。
 当の言われた側はといえば、頭を掻きつつ苦笑しながら片手を上げて答えた。どうやら同意したらしい。彼は全軍に対して魔法陣を広げると、ドーリアとカールグリーフ両軍で5000の兵力をその指揮下におさめた。そして、
 
「我らが猊下の作りし大地を汚す不届き者を成敗する!いざ、我の願いに報いよ!!!」
 
 ダーグさんの声が木霊する。すると全軍がウォーーーー!!!って声と共に一声にエメレゲ都市同盟軍に向かって走り始めた。その速さは元々騎馬の多いアスファーン側だけに、エメレゲ軍も驚いたのか突然の攻撃に後退を始めた。
 
「ぐぅ、使えん男だ。引け!全軍退却だ!!!」
 
 エメレゲ都市同盟軍を率いた老将カント・ブル・ムスタークは全軍に退却を命じると、後退する軍の最後方に向けて手をかざした。すると、彼の手の平が輝いて横一文字に一斉に光線が飛んだ。その光線は追い上げるドーリア軍の手前を射ぬき、着地面が衝突時に爆音と共に砂ぼこりを吹き上げて視界と進軍を遮った。
 ドーリア公は怯まずに領域外部まで彼らの軍を追っていった。
 
 僕とジュリーさんは誰もいなくなった戦場に取り残された。
 …結局僕には何もできなかったけど、これで良かったのかな。
 
「ジュリーさん、最初からこうするつもりだったんですか?」
 
 ジュリーさんはまたも僕の問い掛けには答えず、黙々と突然前へ歩き始めた。
 僕は馬上でただ見ているだけしか出来ないでいると、彼女は前方で1人の男の人の姿を見つけた。
 僕は慌てて馬を降りてジュリーさんのもとに駆け寄ると、その人は先程ジュリーさんが漬物石で吹っ飛ばしたカールグリーフ公だった。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/418 (KHTML, like G...@221x241x93x138.ap221.ftth.ucom.ne.jp>

【56】500
 REDCOW  - 06/10/20(金) 2:01 -
  
「…いいえ。幸運が重なっただけですわ。」
 
 ジュリーさんはそういうと僕の後方を目を細めてみやった。僕がそれにならって後ろを振り向くと、そこには王都からの援軍の姿があった。援軍を率いるのは白髪の初老の男性だった。とても品の良いルックスをしていて、どことなくカイルにも通じる物を感じる。
 その後ろにはカイルの姿もあった。カイルは僕等に気がつくと、初老の男に何かを告げたようだった。程なくして全軍の進軍が止まると、初老の男性とカイルが付きの者を従えて馬から下りて近づいてきた。
 ジュリーさんはそれを見ても動じずにカールグリーフ公の頭を膝に乗せていた。
 
「ジュリエット、カールか。」
「えぇ。」
 
 初老の男性は静かにそう問いかけると、ジュリーさんもまた静かに肯定するだけだった。二人の間には軍を利用し反旗を翻した謀反人をどうこうしようなんて気は無いように見える。そこにカイルがすぐに反応して付きの兵士達にカールグリーフ公を負傷者として丁重に運ぶよう命じた。彼の命令でカールグリーフ公は負傷者として運ばれていく。ジュリーさんは運ばれていくカールグリーフ公に付いて行った。
 
 僕はカイルと初老の男性に何を言っていいのか正直分からなかった。目前で展開される事柄の全てが非現実的過ぎて僕のキャパシティーを越えている事態ばかりだった。でも、おかしい。こんなに色々なことが起こったのに妙に落ち着いている。…まるで、昔経験していたかのように。
 運ばれていったのを見届けると、初老の男性が僕に話しかけてきた。

「君が賢者様の生まれ変わりという少年ですか?」
「あ、…えーと、僕にはわからないですが、そうらしいです。」
「分からない?…はっはっはっ、そうか。いや、そういうものだろうね。自分から賢者だというほうがよっぽど怪しい。なんとなく、私は君が自然に感じるよ。」
「ありがとうございます。あ、僕はシグレ・クルマと申します。失礼ですが、あなたのお名前は?」
「丁寧にありがとう。私はジスカール・アスファーン。我が王の弟だ。この王都の軍の指揮を預かっている。」
「あ、じゃぁ、追わない方が良いと思いますよ?」
「なぜ?」
「いや、敵軍の勢力は全部で5000ですが、追っていったダーグスタさんの軍は、彼の2000とカールグリーフ公の軍の3000を合わせて5000でした。同じ数で領内でしかも平地部という状況に、アスファーン軍側の構成が騎兵ということを考えても、圧倒的に有利だと思います。ダーグスタさんには援軍がこれる体制があると伝えて領外に追い出させたら、軍を引くように命じるだけで済むかと思います。もし不安に感じられて援軍を出したいということでしたら、騎兵で500程を国旗を持たせて横一列に突っ走らせてはどうでしょう?」
 
 僕の言葉にジスカールさんは驚いた表情で暫く止まっていた。何か不味いことを言ったかなと思っていると、突然シャキンとスイッチが入った様に矢継ぎ早に部下に命令を下し始めた。しかも、その命令の内容は僕の言った内容に沿ったものだった。
 
「今王都を空にするわけにはいきません。あなたはしっかりと敵と味方の勢力を把握している様に感じられる。ならば、あなたに従うのが正しい。」
「え、そんな、確かに数は正しいとは思いますが、これは飽くまで子どもの考えたことですよ?」
「子ども?タダの子どもかどうかは今にわかります。」
 
 彼はそういうと、500の軍勢を援軍としてカイルに任せて送り出し王都へ帰還の号令を出した。僕も彼に王都へ一緒に帰る様に言われたけど、カイルのことが気になった。たったの500人で何ができるんだろうか。もし僕の言葉が間違っていたら…カイルは殺されてしまうかも知れない。そう思ったら無責任に発した自分が嫌になる。

「僕もカイルの軍に同行させてください!」
 
 僕の突然の申し出に初老の男性は困ったような表情をしたが、優しく微笑んで言った。

「心配性の様ですな。あなたの采配は正しい。しかし、ご自分の采配に責任を持たれることもまた大切なことです。良いでしょう。部下を1人あなたにつけます。彼に連れていくよう指示しましょう。」
 
 そういうとジスカールさんは彼のすぐ後ろに仕えていた、緑の髪の僕とそう変わらない少年っぽい兵士に声を掛けて指示を与えた。彼は僕に馬を寄せると手を差し出した。
 
「どうぞ、お手を。」
「うん。」
 
 僕は右手で彼の手を握った。すると、彼が僕を握った手でふわりと軽々上に上げてくれた。なんか呆気ないくらいに簡単に馬上に乗った僕を確認すると、彼は僕に彼に捕まるよう促すと、すぐに馬を走らせ始めた。その視界の前方には先行するカイルの軍が見えた。
引用なし
パスワード
<Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/418.8 (KHTML, like...@221x241x93x138.ap221.ftth.ucom.ne.jp>

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃一覧表示 ┃トピック表示 ┃検索 ┃設定 ┃PCホーム ┃使い方 ┃携帯ホーム  
28 / 38 ツリー ←次へ | 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
38412
(SS)C-BOARD v3.8 is Free