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【6】INTERMEZZO 冥香 06/4/3(月) 21:44
【24】感想〜 REDCOW 06/5/7(日) 0:56
【25】Re:感想〜 冥香 06/5/10(水) 15:46

【6】INTERMEZZO
 冥香  - 06/4/3(月) 21:44 -
  
 「まるで、闇ですら輝いているみたい」
 遠くで誰かがそう囁くのが聴こえた。それに答える声も。
 「ああ、解放されたことを喜んでいるみたいだ」
 なるほど、夜が輝いている。月も星も、……透けるような闇でさえも、「輝いている」と表現されるに相応しい。少々水気の多い焚きつけをくべられた火が昇らせる、もうもうたる白煙を吸っても、夜は濁るけはいを見せない。

 現れたのも費えたのも、遥かな太古ということになるのか。昨夜までは……、奇妙な表現ではあるが自分たちにとっての「昨夜」までは、王国暦千年のこの時代にも「それ」は確かに存在したのに。

 闇のなかの闇。闇を圧し拉ぐ闇。
 黒の夢。

 夜の闇よりも暗い闇でありながら、月や星に勝る強い輝きを纏うそれは、自分たちによる干渉がなかったなら、さらに千年の未来においても変わらぬ威容を誇ったはずだった。
 現にひとつの可能性として、その「未来」を見て来さえした。

 相反するものを同時に有し、
 時の流れを嘲笑うかのような不変を保ち、
 万物を支配しようとする意志を具現するかのように、天高くに浮かび……、
 それは自身の影を以って、地を這う者たちをひれ伏させようとした。

 ……そして、それは滅びた。

 「傲慢の報いだ」
 彼は呟いた。わざと声に出して。他でもない、自分自身に聞かせるために。
 「報い」などではない。分かっているだろう?それは言い分け、責任の転嫁だ。
 彼を責める、もう一人の自分。抗うように、彼は首を振った。
 「違う」
 違わぬ。手を下したのは、お前自身だろう?
 「……黙れ!」
 「え、何を?」
 戸惑いと驚きを含んだ返事は、耳が拾ったれっきとした「声」。

 息を呑んで振り返る彼の様子に、彼女は肩を竦めたようだった。焚き火を背にしているため、表情はうかがえない。眼鏡のレンズが満月のように光るばかり。
 無言で、彼は元通り彼女に背を向けた。動揺を気取られたことも口惜しいが、何より独りになりたかった。それなのに、すぐ傍らに立つけはい。
 酒精と芳香が鼻をくすぐった。それに釣られて、不覚にもそちらを向いてしまう。しばし葛藤。しかし敗北を認めざるをえず、彼は突き出されたカップを受け取った。
 「お疲れさま……は、まだ早いかしら。いよいよこれからだもの、ね」
 カップを彼に手渡して、彼女は自分のために持ってきていたカップを両の掌で包み込んだ。立ち昇る温かな湯気が彼女の眼鏡を曇らせたが、心得たようなタイミングで吹いた夜風がそれを拭っていった。

 「……もしかして、責めてたりする?自分を」
 「…………」
 「やっぱり!……だめよ。あんたに、そんな資格はないわ!」
 言いきられた言葉の不可解さに、彼は思わず言った者の顔を覗き込んだ。
 「資格がない……だと?」
 どういう意味だ?とは、口に出すまでもないだろう。
 「そうよ。だって、あんたはやらなきゃならないことをやったんだもの。それが正しかったかどうかは、分からないけど……」
 ふぅーっと、熱いカップを吹く音。
 「でも、一番選びたくなかったはずの選択肢が、一番に選ばなきゃならないものだって知ってたから……、だから、あんたはそれを選んだ。そうでしょう?」
 ああ、そうだとも。
 彼のなかで、もう一人の自分が嗤う。
 だからお前……俺は、この手で母親を、
 「あんたのこと、すごいと思う。偉いと思うわ。あんたほど強い人間を、わたしは他に知らない」
 彼の自嘲を知り、それを止めようというのか、彼女は彼の正面に立ち、自分よりずっと高い位置にある瞳……血潮の色を透かした双眸を見上げた。彼からは見下ろす位置にある彼女の瞳は、焚き火の光を受けて彼の瞳とは違う紅に輝いている。
 「あんた自身はどう思っているか知らないけど……、きっと『彼女』はあれで救われたんだと思う。ハッシュさんも、そう言ってたわ。あんたは、『やるべきこと』をやったのよ。だから……!」
 びしっと、彼女は人差し指を彼の鼻先に突きつけた。
 「だから、あんたを責める資格なんて、誰にもないわ!たとえ、あんた自身であってもね!」

 思わず眼を見開いて身を反らせた彼の腕を、彼女は力任せに叩いた。それは親愛を示す動作だが、慣れぬ彼は少しよろめいた。カップの中身を危うく溢しそうになる。にやりと不敵に笑って、彼女は彼のカップに自分のそれを軽くぶつけた。
 「前祝なんだから、辛気臭いのはナシよ!」
 一気に傾け、一気に呷る。「ぷはーっ」と少女らしからぬ息を吐くと、彼女は「あんたもやりなさいよ」と言うように彼に顎をしゃくった。
 「……何だ、貴様、酔っていたのか」
 苦笑が漏れた。それが今までにない穏やかなものであることを、彼自身は気づいていなかったが、彼女のほうでは気づいただろうか。
 「何よ!せっかくの酒の席で酔わないほうがおかしいわ!あんた、人生でひとつ損してる!」
 半ば無理やりのような勧めに応じて酒を乾した彼の手を、彼女は引いた。焚き火の……仲間たちのもとへ、導くために。

 行きすがら、またしても彼女は彼の鼻先に指を突きつけた。空のカップを持ったままの、手の指を。
 「見てらっしゃい!次のときは、ちゃーんと酔わせてあげるから!何てったって『勝利の美酒』なんだから、酔えないはずがないわ!でしょ?」
 「そうだな」
 彼の顔に笑みはなく、それ以上に真摯な賛同があった。彼女も笑いを収め、繋いだ手に微かに力を込める。
 「絶対、勝つんだから!期待してるわよ!」
 「言われるまでもない。貴様こそ、足を引っ張ってくれるなよ」
 「可愛くないヤツ!」
 「貴様ほどではない」
 「……ほんと、可愛くない」

 暗がりから手を繋いだまま現れた二人を、仲間たちが冷やかした。一際しつこくからかってきた誰かのカップに、彼女は生のままの酒をどぶどぶ注いで呷らせた。どっと、場が沸く。他の仲間から振舞われた酒を口に運びながら、彼も静かに笑った。

 明日は「運命の時」だ。

 ある者は復讐のために、ある者は未来のために、またある者は自分が生きる世界のために、運命の時へ向かう。
 「すべてを滅ぼすはずの者」が待つ時代へ。

 「また、みんなでこんなふうに騒ぎたいね」
 ひとしきり笑った後に、誰かが囁く声。そして、それに答える声。
 「そうだなあ、また……」

 皆で、誰一人欠けることなく、……未来を勝ち取った後で。

 この輝く夜の下で。

                                  了


 ごあいさつ

はじめまして、冥香(みょうが)と申します。

クロノ・トリガーSS、初めて投稿させていただきます。
ゲーム中でのタイムスケールとしては、「黒の夢攻略後、最終決戦前夜」のエピソードということになります。

「彼」と「彼女」……自分のなかではイチ押しカップルだったりします。同士極少ですが(寂笑…)
「誰と誰なのかさっぱり分からない」と思われてしまったら……、すみません、それは自分の力不足であります。さらに精進いたしますので、ご容赦を。

最後になりますが、
読んで下さった皆様方、ありがとうございました!またお会いしましょう!
引用なし
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【24】感想〜
 REDCOW  - 06/5/7(日) 0:56 -
  
 どうも、沢山の作品の投稿有り難うございます。
 なかなか読む時間をとれなかったのですが、今回じっくり読ませて頂きました。

 いやぁ、話の進め方が上手いなぁ。
 やっぱ付け焼き刃の私よりしっかりした文章で楽しかったです。

 決戦前夜に「彼」が悩んだのだろうかどうかでは、物語内部での母親の扱い方は人ではないって感覚で割り切っている感がありましたが、普通の人の感覚で判断するならば親を自分の手で殺害するというのは葛藤があって然るべきですもんね。(^^;

 で、魔王は思うより行動するタイプなのだろうとは思いますが、行動に値するほどに強く思うタイプでもあるんだろうと思います。故に、突き進む力が強い分だけ、自分が被る様々な壁を越える痛みを半ば強引に受け入れることで正当化している感はありますね。
 彼が正当化した様々な痛みや重いが何処かで吹き出すんじゃないか?っていうと、実はそこら辺は割り切りもかなり早い人ではないかと思いまして、キーワード「皿(何)」と関係しない限りの問題はかなり容赦なく切り捨てられる、まぁ、問題を消去法で片づける能力の持ち主だと思います。

 ただ、その縛りが消えた時…彼は自分の人生に満足するかといえば、たぶん沢山の不満が残るのかもしれないと思います。それを受け入れてくれるかどうか、が、今回の話のポイントの一つだったのかもしれませんね。しかし、彼が望む相手は彼女じゃないのかもしれないですが。でも、その望む相手は彼を望みはしないでしょうね。

 まぁ、消化不良な彼を誰が受け入れるのかは…とても興味深い部分かもしれません。
 ただ、持っているものが重いから、その重みに耐えられる精神の持ち主って限られますよね。(^^;

 色々に勝手に妄想しちゃいました。w
 他の作品にも近日感想を書けたらと思いますが、とりあえずはこの辺で。

 あ、そうそう。クロノプロジェクトへの署名有り難うございます。m(__)m
引用なし
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【25】Re:感想〜
 冥香  - 06/5/10(水) 15:46 -
  
▼REDCOW様:
うわわっ!!?
管理人様、ご感想どうもありがとうございます!
すみません!このところお絵描き板のほうにばかり入り浸っておりまして、こちらの書き込みに気づくのが遅れてしまいました!
ええと、ではレス返しをさせていただきます!

> やっぱ付け焼き刃の私よりしっかりした文章で楽しかったです。

いえ!自分はまだまだ「付け焼き刃」です!
特に「ノートにペンで書く」のと、「Web上に書き込む」のとは、こんなにも違うものかと戸惑っています。(ネット暦、かなり浅いです)
管理人様をはじめ皆さんの作品を読んで、勉強させていただいている最中です。はぁ〜。

> 決戦前夜に「彼」が悩んだのだろうかどうかでは、物語内部での母親の扱い方は人ではないって感覚で割り切っている感がありましたが、普通の人の感覚で判断するならば親を自分の手で殺害するというのは葛藤があって然るべきですもんね。(^^;

……これは、話を練っているときも実際に書き始めてからも、自分には荷の重いテーマでした。
ロボでも同じような話を考えていたのですが、あまりの重さに頓挫してしまったくらい……。こちらの作品は、魔王様に対する「愛」の強さ故に書き上げましたが(笑)

> ただ、その縛りが消えた時…彼は自分の人生に満足するかといえば、たぶん沢山の不満が残るのかもしれないと思います。それを受け入れてくれるかどうか、が、今回の話のポイントの一つだったのかもしれませんね。しかし、彼が望む相手は彼女じゃないのかもしれないですが。でも、その望む相手は彼を望みはしないでしょうね。

このご意見は、自分にとってはとてつもなくショッキングであり、また興味深いものでした。
「魔王がサラを望むほどには、サラは魔王を望まないだろう」(という意味であってますよね;;)
自分の知る限り、これほどキッパリと言い切った方はREDCOW様しかいらっしゃらないです。
そうなんです。
自分もそう思います。でも、それを認めたくない気持ちが強いことも、また事実です。
この姉弟(特に弟)のファンとしては、「彼らには再会を果たして共に生きてほしい」と思ってしまうので……。
でも、魔王はすでに「そのこと」に気づいているのではないかと思います。それでも、影を追わずにはいられない……。彼女を見つけたら見つけたで、喜び勇んで名乗りをあげたりせず、相手からは見えないところから、そっと力添えをするのみ……、なんじゃないか、とか。
あああっ!!なんか書いてて悲しくなってきた!(妄想爆発、スミマセン;)
この話題はこのへんで。しくしく…。

> まぁ、消化不良な彼を誰が受け入れるのかは…とても興味深い部分かもしれません。
 ただ、持っているものが重いから、その重みに耐えられる精神の持ち主って限られますよね。(^^;

ヤバイです。この話題に関しては、何ページでも語れそうです(待っ)
蛇足のごあいさつでも白状致しましたが、自分は「魔王ルッカ」の信者でございます(笑)
このふたりは、抱えているものが似ているような気がします。
かたや魔王は、抱える「後悔と痛み」を周囲の皆に知られてますが、かたやルッカの「後悔と痛み」は一部の仲間しか知らない……。
でも似たものを抱える魔王は、ルッカの抱える「それ」を、なんとなく感じ取るのではないかと……。
「傷の舐め合い」じゃないけど、そしらぬふりをしながら、互いの脆い部分を支え合えるんじゃないかなぁ〜、とか。
ゴメンナサイ!妄想の坂を転げ落ちそうなので、この話題はここまで!

> 色々に勝手に妄想しちゃいました。w

これはもう、作者冥利に尽きるうれしいお言葉です!どんどん妄想して下さいませ!
ってゆーか、このコメントを書いてる時点で、自分のほうが妄想爆(止)

> 他の作品にも近日感想を書けたらと思いますが、とりあえずはこの辺で。

ご多忙中のなか、本当に本当に、ご感想ありがとうございました!
近日でなくても、お時間のあるときでぜんぜんOKです!

> あ、そうそう。クロノプロジェクトへの署名有り難うございます。m(__)m

「Webで公開する小説」という形式を学ぶ上で、自分がいちばん参考にさせていただいた作品が、「CP3シーズン1」でした。
「学ぶ」ために読み始めたのに、いつの間にか物語に引き込まれてしまったものです。
先行公開版も楽しく読ませていただきました。シーズン2も待ち遠しいです!

……はぁぁ〜。随分と語ってしまいました。お絵描き板ではとっくにバラしてますが、自分「レス魔」でございまして……(笑)

ご感想どうもありがとうございました!
それでは、このへんで。
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