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シーズン3先行版第二話をお送りします。
シーズン3先行版は8月中でとりあえず終了予定です。
正式版の開始予定はまだ未定ですが、それまで先行版でお楽しみ頂けましたら幸いです。
第126話「抜け道」
「どうしても無理なんですか?」
クロノはフリッツの応接室で話していた。
向かい側に座るフリッツに対し、クロノはもどかしさを感じていた。
「ふぅ、幾ら科学が進歩しても自然現象には逆らえない。ここ暫くメディーナ周辺の南方航路は大きく荒れていてね。私の会社で出せるのはトルース便のみですよ。」
「しかし、先程のあなたの話では、トルースの警戒はかなり厳戒になったそうではないですか。それに、陸路では遅過ぎる。」
「確かにその通りです。まぁ、妙案が有れば行使したいものだが………大統領閣下の命もあってね、お二人を失う様な手助けは難しいわけです。これは私の死活問題にも直結する話。この国に住み商売するからには、その国の意向を無視出来ない。まぁ、何もこれは私に限った話ではない。ここに住まう全てのガルディア難民に言えるでしょうな。…あなたにもそれはお分かりになるはずだ。」
「…むぅ。」
フリッツの言葉は最もなことだった。
国を失った民が困窮する様は、トルースの現状から明らかだった。
為政者の違いでそれまで可能であった事が大きく変化する。
それは伝統や文化の制限のみならず、行動や意思の自由ですら縛られる。そして、間借りする身となった民は、その国へ既に命を救われたという恩がある。郷に入っては郷に従えと言ったものだが、これはお互いの関係を良好に保つ上で留意せざるを得ないことだろう。
その時、クロノはふと思い立った。
「いや、道は…ある!」
「…と、言いますと?」
「中世の魔王軍は、魔岩窟という海底トンネルを掘ってゼナンへ攻め込んだんだ。…なら、そのトンネルが今も無事なら、もう一度通れるんじゃないのか?」
「魔岩窟…確か私もメディーナの歴史書でその名を見た気がします。しかし、そんな知識は何処で?」
「…詳しい事を説明するのは難しいが、通った事がある。その、勿論、400年も昔の話だ。埋まっていて使えない可能性の方が高いかもしれない。」
「…いやはや、驚く暇無く出てきますな。通った事がある…ですか。ふふ、面白い。調査してみる価値はある。詳しくお話を聞かせてもらいましょうか。」
「オーケー。宜しく頼むぜ!」
フリッツはクロノの話を聞くと、彼を連れてルッコラ博士のもとへ向かった。そして、そこでルッコラの意見を仰いだ。
博士はその案に興味を示し、考古学的にも価値ある調査であることから大統領府と掛け合い、政府からの援助も受けられる様手配してくれた。幸いにして、魔岩窟のメディーナ側入り口はフリッツが所有する鉱山に位置すると見られ、既に掘り貫かれた坑道から侵入し掘削を進めることで工期を短縮出来そうであった。ただ、大統領府側からは掘削協力の条件として、調査の終了後にクロノ達が通る事を許すという内容であった。クロノはその内容に難色を示し、調査への参加を申し出るが却下された。しかし、このまま引き下がる二人ではなかった。
フリッツを説得したクロノは、アンダーソン商会の社員として調査隊に同行出来る様手配して貰った。こうして、二人は調査隊と共に坑道へ入る事に成功した。だが、現地へ出向いて予想外の事態に遭遇する。
「ようこそお二人さん、私がこちらの坑道を案内させて頂きますよ?」
「フリッツ!?」
「ほっほっほ」
二人はまさかフリッツがここに来ているとは思わなかった。
彼は会社の社長であり、そうそう簡単に動けるはずは無いと思っていたからだ。
「会社はどうしたんだ?」
「ん?あぁ、私は今日をもって会長へ就任し、社長は息子に譲った。というわけで一緒に行く時間を作りましたぞ。」
「…会長ってやることないのね。」
シズクのつぶやきに対して、彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「老いても耳は良くてねぇ。そうですな。会長とは言っても名誉職のようなもの。実質はただの隠居ですよ。仕事漬けに仕事をしましたからねぇ。そろそろ引退して旅行でもしようと思っていたんです。仕事の虫から解放された老人を暖かく迎えようと言う気持ちは…お嬢さんにはないとは残念だぁ。」
「な、なにもそんなことは言ってないわ。もう、好きにしてください。」
「しかし、旅行ってどういうことだ?まさか、…俺たちについて行くと?」
「…そのまさかです。」
「えぇ!?」
二人は再度驚いた。
まさか旅について行く気とは思っても見なかった。
せいぜいただの見物程度だと思っていた二人からすれば、尚更だ。
「…一度あなた方の仰る時空の旅というものを見てみたくてね。私は実際に見てみないと納得出来ない性質(たち)で、協力する以上は真実を知りたいと思ったのですよ。我々も道楽で付き合っている訳じゃない。世の存亡を賭けたとでも言える勝負、勝って終わらないと始まりません。」
そう話す彼の目はとても鋭く何かを見つめるようだった。
彼の言うことはクロノ自身も、もし同じ立場に置かれたら考えただろう。自分自身も大人になってこれほど荒唐無稽な話は無いと思っている程のことに、彼は快く付き合ってくれている。こちらとしても彼が納得して付き合ってくれる材料になるなら、それはそれで構わないと感じていた。勿論、ここに仮にルッカが居たなら、彼女のことだ、様々なことを言っていたかもしれない。が、彼女はここに居ない。
坑道を進むといくつかの分岐路を進み、地下深く潜ってゆく。
深さにして地下80m程まで進んだだろうか。
かなりの距離を歩いていた。
そしてようやく目的の場所に着いた。
後半へ続く
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