|
そこに後方から声がした。
「…その通りです。」
振り向くと、そこには1人の若い魔族の男性がこちらへ向って歩いてきた。人種はジャリーだろう。だが、背はソイソーの様に高く、眉目も整った理知的な顔をしている。彼は近くに来ると、握手の手を差し出した。
「お初にお目にかかります。私がボッシュ博士の代理を務めますルッコラです。」
クロノがそれに応じて悪手すると、彼はにっこりと微笑んだ。
そんな彼に、クロノは脳裏の疑問をぶつけた。
「なぜ、これが?こんな危険な物をどうやって?」
「…これをご存知なのですね。さすが、ボッシュ様のお認めになる方だ。ただし、これはあなたが知る物とは違う。これを簡単に説明するなら、あなた方の魔力を引き出すための装置。魔力を増幅し、本来あるべき姿に整形するもの。」
「あるべき姿?」
「…左様。このシステムは失われたジール人が持っていたという高度な魔法技術を復活させることができる、いわば『リストガンの原型』と言えるでしょう。このシステムを稼働させられれば、メディーナに住まう魔族は勿論、魔族と触れ合ってきた人間達にも魔力を生じさせる事ができると考えています。」
「させられればってことは、動かないってことですか?」
ルッコラは彼の質問に答えるでも無く、無言で装置へ向かって歩き始めた。そして、装置のコンソールに触れる。
すると、鈍いブーンという音と共に、装置を囲む透明な円筒形の窓の中が青白く輝き始めた。
「システムは動きます。しかし、まだ開発は半ば。現状ではある一定の能力者の強化にしか役立たない。…これからあなたの魔力を引き出して差し上げましょう。まぁ、あなたに潜在的な魔力があればの話ですが。」
彼はコンソールを操作し、システムをクロノにターゲットして実行させた。
すると、クロノの足元を中心に青い魔法陣が形成され、そのサークルの外側を囲むように光のフィールドが円筒形に包み込んだ。
「な、なんだ!?力が…抜けて…いく…………うあぁあああ!!!!」
「クロノ!?」
シズクが驚いて思わず彼の名を呼んだ。
だが、その時クロノの身体からなにかが飛び出した。
それは、黄金に輝いて宙を浮いていた。
「…私は………?」
なんと、そこに現れたのはあのアウローラの姿だった。しかし、以前の彼女とは違い、彼女は次第に光が消えて行くと、服装も爽やかな白を基調に青のアクセントラインをいれた戦闘服のような物を身に纏っていた。
「アウローラ!?お前、どうやって!?」
彼の問い掛けに彼女も戸惑っていたが、落ち着きを取り戻し答えた。
「…どうやら、あなたの中にある『あなた自身』が私を取り込んだ様ですね。」
「俺が取り込んだ!?えっと、ルッコラ博士、これはどういうことなんですか!?」
ルッコラは向き直り言った。
「これはサーバント。」
「サーバント?」
「はい。」
「その、サーバントって一体何なんだ?バンダーが使っていた奴もそうなんだろ?たしか、死んだ人が精霊になったものがサーバントとか聞いた。だったら、俺の中から出て来るって変だろ!」
「…考えられるのは、どうやらあなたはサーバントを出さずして、あなた自身の中にこの精霊を取り込んだと思われます。これはとても特異な事です。本来、サーバントは術者間の合意の中で継承されるもの。そして、サーバントを宿すには自身のサーバントで取り込まなくてはならない。しかし、あなたは強引にマヨネーから奪ったと考えられます。」
「奪った?…………で、これは一体どうなるんだ???」
「彼女はあなたの魔力を得て実体化し、あなたと共に戦うでしょう。サーバントが繰り出す力は肉体の枷が離れる為、より強力な力を行使出来ます。そして、サーバントはあなたの心と連動し、その力を増幅することもあれば低下することもあります。」
「…そうか。しかし、俺にこんなものを施してどうするんだ?」
「あぁ、これは別に特別なものではありません。元々あなたに備わっていた力を引き出しているに過ぎない。先程も話した様に、この装置は元々有るものにしか作用できないのです。ですから、無から有は生じ得ない原理なのです。まぁ、あなたにこの力を分かり易く説明するならば、仮にあなたが亡くなったなら、あなたの肉体は失われても、その心と力は残るレベルにあなたが達している…つまり、精霊として残る力を持っているということです。これは強い力を持つ者の証の様なものです。」
「…俺が、精霊に?」
「この試験の合格者には全てこの処置を施す事にしています。これは、あの試験をクリア出来るレベルに到達している者には、死後サーバントとして力を残す可能性が有る事を意味します。そして、サーバントとなれる者は、サーバントを取り込んだり扱う事が出来る。…ボッシュ博士は仰った。世界中に眠るサーバントの力を結集しなければならないと。そして、その力を集めた時、パレポリを統べる者に挑戦するに値する力となるだろうと。…パレポリを倒すとはルーキスを倒す事。彼を越えられない限り、世界は変わりようが無い。」
「ルーキス?」
「パレポリ連邦共和国軍総帥のことです。彼は我々魔族を遥かに超越した力を使う。黒薔薇を統べるディアも相当強いですが、ルーキス1人で一国を滅ぼせる…と実際に闘ったボッシュ博士は仰った。」
クロノ達はその後全員がこの処置を受けた。そして、一通りの説明を受けると、彼らは大統領と別れ、列車に乗ってフリッツやルッコラ博士と共にボッシュの街へ戻る事になった。その時、ミネルバもまた、クロノ達と別れる事になった。
試練の洞窟駅ホームにて。
「お二人と行動を共にした事は、一生忘れません。また、お会いする日を、そして共に戦える日をお待ちしています。互いに全力を尽くしましょう。」
「あぁ、また会おうぜ!」
「ミネルバさん、ありがとう。」
シズクがミネルバを抱擁した。ミネルバもそれに応じる。
ホームには出発のベルが鳴り響いていた。
「旅の無事を祈っているわ。また会いましょう。」
「うん、またね。」
二人が列車に乗った時、列車のドアがゆっくりと閉じられた。
鈍い機械音が唸り、ゆっくりと走り始める。シズクが窓の外のミネルバを見た。
彼女はシズクにそっと手を振って別れを惜しむ様に列車を見つめていた。
次第に彼女の姿が遠ざかる。
クロノはシズクの肩にそっと手を置くと、フリッツ達のもとへ行こうと告げた。
先行版シーズン3第二話はまた今度余裕の有るときに。
先行版はシーズン3世界への準備的内容で綴っております。
|
|
|