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【63】時の花 No,2
 冥香  - 07/2/16(金) 19:29 -
  
AD2288 ―種を蒔く者たち―


 部屋は暗い。広くもない空間を照らすのは、機械油に浸された「紙縒り」に火を灯しただけの粗末な光源だった。くすんだ色の壁にゆらゆらと影を躍らせながら、これまた粗末なデスクに臥して眠っているマール・ティア・ルディオを、哨戒から戻ったエイラ・ヴァン・スペーディアは見つけた。ヴァンが手にしていた物をデスクに置くと、ティアはぼんやりと目を開き、数秒の後、弾かれたように上体を起こした。

 「お疲れだね、ティア。でも、こんなところで寝ちゃあ風邪ひくよ」
 「……ん、大丈夫。ごめんね、ヴァンには大変なことしてもらってたのに、わたしばっか……」
 しおらしげなことを言いながらも思わずあくびが漏れてしまい赤面する妹分の頭を軽く撫でて、ヴァンは持ち帰った荷を解いた。銃器や固形燃料、保存の利く食料などに混じって、新旧の情報保存媒体がデスクの上に広げられる。

 「リュートはまだ帰ってきてないのかい?」
 ティアとともにデスクの上の物を仕分けしながら、ヴァンは訊ねた。こくりとティアがうなずく。
 「うん、まだ時間がかかると思う。情報センター跡、遠いよね」
 「だね。でも、今までにない大きな希望だよ。これに辿り着けたのもティアのおかげだ」
 荒廃したこの世界では貴重とも思える華やかな美貌をほころばせるヴァンに、ティアも微笑み返した。
 「うん、これからだね。がんばらなきゃ!」


********************


 この時代の人類は、統合された「歴史観」を持たない。AD1999の大災害に続く「大反乱」と呼ばれる事件以来、人類社会は細かに分断され、互いに情報や物資そして人材や技術の類をやり取りする術を失っていた。情報センターをはじめとするコンピュータ群に蓄積されてきた膨大な量の「情報」は、もはや人類が所有するところではなくなっているのだ。


 「大反乱」。AD2032、この時代唯一大災害以前から稼動していた情報センターのホストコンピュータ「マザー」が、突如内部と外部とを問わずアクセスを遮断したことに端を発する「機械群の人類に対する叛乱」を指す。

 AD1999、「ラヴォス」と呼ばれる謎の存在が引き起こした大災害により、人類はその数を激減させていた。「決起」以前にマザーが密かにアクセスしていた世界各地のコンピュータの官制下に置かれていた情報、流通、軍事に至るすべての設備、機能が「人類を抹消する」ことを目的として稼動したとき、それに抗するだけの力を人類は持たなかった。

 「実に65000000年に及び『万物の霊長』として君臨してきた人類の、憐れなる末路である」と記すのは、マザーと直結する「ライブラリ」と呼ばれるコンピュータだ。


********************


 「はっ!血も通わねえような連中に、人類の歴史がどーのとか言ってほしくないもんだぜ!」
 「……はあ、すみまセン」
 「あ、いや、なにもお前さんに言ってるわけじゃ」
 「……はあ、すみまセン」

 止むことのない砂嵐のなかを、奇妙な二人組が歩いている。

 口数の多いほうは極端に背が低い。子供とも見紛う小柄な体格だが口調や所作から察するに、どうやら立派な大人の男のようである。ただし人間ではないようだ。砂が目や口などに入り込むのを防ぐため、顔の下半分を何重にも布で覆い、目深にフードを被っているため判然としないが、その風貌は両生類のそれを想わせる。この時代、人類以上に見かけることの少なくなった「亜人」であるらしい。

 もう一人は、いや、「一体は」と言うべきかもしれない。大柄なほうは二足歩行型ロボットだった。砂嵐に溶け込む鈍い黄土色に塗装されたボディには、刻印されたばかりのシリアルナンバー「R-66Y」の文字。

 真新しい引っかき傷のようなその文字を見ながら、小柄なほうが訊ねた。
 「お前さん一体だけしか連れ出せなかったのは正直痛いが、残りの連中はどう動く手はずになってるんだ?その点も『彼ら』は考えていたんだろ?」
 「少しずつ……、マザーの官制をかわしながらになるので、本当に少しずつになりマスガ、地方のコンピュータにリンクしているラインをダミーにすり替えていく作業を行いマス。デスガ、『彼ら』には細かなプログラムを施すだけの時間が与エラレマセンデシタ。ワタシたちに与えられた命令は、実におおまかなものでしかアリマセン」
 「ははあ、まあしょうがないか。なにしろ300年近くも前に慌てて打った布石だもんな。ちょっとくらい大雑把だからって文句言っちゃ、バチが当たるってもんだ。……そら、見えてきた。俺たちのお屋敷さ」

 小柄なほうは親指を立てて、そこに在ると知らされていなければ見過ごしてしまうであろう岩くれのような影を指した。この粗末な建物が、人類に残された、おそらく最後で最強の砦だった。


********************


 マール・ティア・ルディオが「それ」を発見したのはいつごろだったか。マザーの侵入をロックできるコンピュータを確保するのが困難な状況で、しばらくのあいだそれは保管されるだけで、開封されることがなかった。埃まみれで一部熱で変形している耐衝撃素材ケース。そのなかから現れた、古い情報保存媒体。煤けたラベルには、丁寧な文字運びでこう書かれていた。

 「種を蒔く者たちへ」

 多忙で命がけの日々のなか、それでもティアがそのディスクの存在を忘れたことはなかった。なぜと訊かれても、ティア自身それを説明することはできないだろう。だが一見浮世離れした、文学的とも取れる短いタイトルのなかに、切実なほどに現実を見据える者の息吹を、彼女は確かに感じたのだった。
 自分の直感は正しかったとティアは確信している。まだ結論は出ていないが、それでも希望に繋がる細い糸口を確かにつかんだのだ、と。

 扉を叩く音が、ティアの思考を浮き上がらせた。傍らでヴァンが旧式のオートライフルを構えながら誰何する。馴染んだ声が帰還を告げるのを聴いて、彼女は銃を下ろし、扉を開いた。
 「お疲れ、リュート。野晒しガエルにならなくて何よりだったね」
 「哨戒ロボットに回収されて焼ガエルになるくらいだったら、お前に食われたほうがまだ『まし』ってもんだ」
 グレン・リュート・ナノは砂の積もったフード付マントを脱ぐと、「ケロロ」と咽喉を鳴らして笑った。

 「……いたの?『メッセージ』の通りに」
 扉の向こうを気にしながらティアがリュートに問う。紹介が済むまで待つようリュートに言われている「彼」が、そこにはいる。ティアもヴァンも承知はしていることだが、それでもこの時代に生きる者に「彼」の姿は抵抗があるだろうから。
 「おう、いたいた。連れてこられたのはヤツだけだったけどな。よう、入ってくれ」

 リュートの最後の一言は扉の向こうに向けられた。「お邪魔致シマス」と、丁寧な挨拶とともに現れたロボットを見出して、ヴァンの持つオートライフルの銃口がわずかに持ち上がったが、すぐに下がる。
 「はじめマシテ、プロメテスと申シマス」
 プロメテスの挨拶に人間たちはしばらく応えなかったが、やがてティアがひそめられた声で応じた。
 「えっと、はじめまして、わたしはマール・ティア・ルディオ。彼女は……」
 「エイラ・ヴァン・スペーディアだ」

 緊張を解かぬまま、ヴァンも名乗る。その後再び重い沈黙が落ちたが、ティアが一枚のハードディスクを見せながらプロメテスに質問した。
 「教えて、プロメテス。『彼ら』……あなたを生み出したひとたちのこと。彼らは、わたしたちに何をさせたかったの?」
 二人の人間と一人の亜人は、またも重い沈黙を以ってロボットに対した。先人が遺した記録と自分たちの置かれた状況の矛盾を埋める鍵を、彼が握っているはずだった。それを、何としても手に入れなければならない。プロメテスはくるくると首を回して何やら考える素振りを見せた。時折「ぴぽぽ」と鳴る電子音が、どうしても人間たちの負の感覚を刺激してしまうが、これはどうしようもない。やがてプロメテスは言葉を選ぶように語りだした。

 「……ワタシたち『Rシリーズ』のプログラマーたちが想定した『敵』は、マザーではアリマセン。自己のリプログラミングとアップグレードを繰り返し、かつて人間によって施されたプログラムを廃除してきたマザーから、ワタシたちが当初の予定通り生産されたのは、単に初期のセーフティープログラムが格段に優秀だったという理由に他ナリマセン。『彼ら』は当時、マザーこそ人類を守護する存在となると考エテイタノデス」
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【62】時の花 No,1
 冥香  - 07/2/16(金) 19:16 -
  
AD1999 ―土を耕す者たち―


 ……トルース地方で検知された「熱源」を巡る、ゼナンとチョラスの紛争。さらにガルディア王国において一時期研究が進められていたとされる、「時を超えるマシン」の存在の是非を巡って行われた研究者たちの査問。それに次ぐ粛清。パレポリの暗躍。第二次人魔対戦。それに起因する亜人の大量虐殺。


 「……現代ってつくづく平和だわ」
 持っていた資料を、すでにデスクに山積みになっている資料の上に投げ出してルッカ・レイ・ブリーズトは嘆息した。
 若い。独立したラボを与えられるほどの年齢に達しているようには到底見えないが、しかし彼女はすでに「博士」の称号つきで呼ばれる身分だった。肩口で切り揃えられたくせのない褐色の髪は、水の流れを想わせる。そこから覗く横顔は、文句なしの美貌。

 「そんな話をするために、わざわざ呼びつけたのか?」
 不機嫌そうな声が背後からかけられたが、彼女は動じる色もない。
 「そうよ、感謝なさいアルノ。あんたってほっといたら引きこもってばっかでカビが生えそうなんだもの。たまには外の空気も吸ったほうがいいわ」
 レイの碧空を想わせる蒼い瞳が、縁なしの眼鏡ごしに皮肉気に……というよりはいたずらっぽく輝く。

 ジャキ・アルノ・シュヴァルツェンの、レイのそれと対を成すような紅い瞳が険を増した。尖った耳殻を持つ耳も、神経質そうにぴくりと動く。
 こちらも若い。レイよりはやや年かさだろうが、それでも世間からは「ヒヨッ子」呼ばわりされる年齢には違いない。そして彼も、レイ同様他者から呼ばれるときは、名前の後に「博士」だの「先生」だのといった称号やら敬称やらが付くのがお決まりだった。ただしレイの見るところ、アルノ自身はそれを相当に疎ましく思っていることは間違いない。「人」とは違う者たちのなかで育った彼は、人から与えられる「称号」というものをすでに好まないのかもしれない。

 「よっ、揃ってるな、お二人さん」
 アルノがレイに向かって何か言い返そうとしたとき、タイミングよくドアが開いて三人目の人物を招き入れた。
 「遅いわ、ドン。遅刻魔!」
 「呼び出しておいて待たせるとはいい身分だな、所長というのは」

 幼馴染たちの手酷い挨拶に、クロノ・ドン・シューマはがっくりと肩を落とした。好き勝手に跳ねさせている硬質の赤毛も、心なしかうな垂れたように見える。
 「そう言うなよ。これでもけっこう忙しいんだぜ」
 言いながら、若き所長さんは持っていたトレイから湯気の立つコーヒーカップを三つ、ブリーズト女史のデスク……正確にはデスクに積み重なった資料の上に置いた。

 「……何か、解ったのか?」
 置かれたコーヒーカップが一つ、また一つと持ち上げられるつど顕になる資料に目を落として、ドンは訊ねた。「ラヴォス」というワードプロセッサの文字がやたらと目につく。
 「『これ』が元凶よ」
 すべてのカップが卓上から退いたところで、レイは資料の一束をつかみ上げた。彼女が差し出すそれを、ドンはコーヒーを啜りつつ受け取る。紙の束は、ずしりと重い。片手で器用にそれをめくって、ドンは斜めに目を通していった。
 「よくまとめたな、これだけのものを、……あれだけの時間で」
 「まあ、『基』は出来上がっていたしね。って言うかね、『基』にちゃんとまとまりがあったらわたしが徹夜することもなかったのよ。ねえ、アルノ?」
 「基」を提供した者は「じろり」と彼女を睨んだが、それ以上は言及しなかった。代わりにアルノは、もうひとりの幼馴染に面白くもなさそうに訊ねる。
 「どうするつもりだ?おそらくは、もう間に合わない」
 「どうするも何も、闘うしかないさ。勝たなくても、負けないための手は打つつもりだ」

 この場に、彼ら以外に事情を知る者がいたとしたら、ドンの言葉を悲壮と取ったかもしれない。だが実際に彼の言葉を聞いた二人の幼馴染たちは、むしろ呆れたように、あるいは共感したように、小さく笑ってうなずいた。
 「あんたって案外心配性だったのね、アルノ。わたしたちの仕事は土を耕すこと。種を蒔いて芽吹かせるのは、次の世代の仕事よ」
 分かっている、と、やはり面白くもなさそうにアルノは答え、窓の外に目をやった。雲一つない青い空が、どこまでも広がってこの星を包んでいるのが見えた。
 「平和……か」
 コーヒーの芳香とともに、アルノの口から呟きが漏れた。感情の読みづらい声音だ。このせいで彼はしばしば誤解を受けてきた。だが、この場にいる者たちには、彼の想いは正しく伝わった。それで充分だった。

 後に「ラヴォスの日」と呼ばれる未曾有の大災害を数日後に控え、世界の片隅で交された、それは歴史に残されることの無いやり取りだった。


********************


 「それ」が地上に姿を現してから三日目。例えばこの星の外からやって来たものが現在のあり様を見たとしたら、わずか三日前までのこの星の姿を想像することなどできなかったに違いない。
 空は赤い。地上も赤い。そしておそらく、地中深くも煮えたぎる赤であろう。絶え間なく大地が……いや、星全体が鳴動する。炎の塊が天から降り注ぎ、死に瀕した星の肌を幾度となく灼いた。なぜこの星がこのような災害に見舞われたのかを知る者は少なく、災いをもたらしたものの正体を知る者はさらに少なかった。

 それを知る者の数少ない生き残りである二人が、闇のなかで言葉を交わしていた。
 「……ドンは結局残ったのか?情報センターに」
 「ええ……、『プロジェクト』のデータを少しでも完全な状態で遺せるようにしたいって」
 「ふん……、ばかめ。……だが、あいつらしい」
 「ばかはわたしたちも一緒よ」
 「……そうだな」

 囁くかのような声音が、彼らにもう話す力が残されていないことを物語っていた。瓦礫の底のわずかな空間に折り重なるように横たわる二人は、互いの命が傍に在ることを確かめるように、残された力と時間を、互いの声を拾うことに傾けていた。

 「……もっと、……もっと、わたしたちにできることって、無かったのかな」
 「一握りの生き物がわずかな時間で星の運命を定めようなど、傲慢なことだ。……お前は、できる限りのことを成した。誇っていい」
 傷ついた己の身体の上で、やはり傷ついた身体を、彼女が微かに震わせるのを彼は感じた。
 「……うん、……ありがとう、アルノ」
 「らしくないな。……いよいよ、焼きが回ったか?」
 全身の力を使って、アルノは笑った。彼が嘲ると、決まって彼女は腹を立てて何か言い返してくる。これまで、ただの一度も例外はなかった。だが、
 「……レイ?」
 反応がないことを不審に思い、アルノは彼女の名を呼んだ。何が起こったのか、分かってはいた。それでも、彼はレイが何か言い返してくるのを期待したのだ。しばらく待って、彼は再び嘲笑した。自分自身を嗤ったのだ。
 「……焼きが回ったのは、俺のほうだな」
 それが、ジャキ・アルノ・シュヴァルツェンの、最期の言葉だった。
 血に汚れた耐衝撃素材ケースが一つ、力を失った彼の掌から零れ落ちた。

 ひときわ激しく大地が振動し、ほどなくして炎の雹が二人の亡骸を抱く建物の残骸にも降り注いだ。
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【61】時の花 No,0
 冥香  - 07/2/16(金) 19:10 -
  
―ボトルメール―


 「いつの日か種を蒔く者たちの手へ渡ることを願って、このメッセージを記す。


 まず、この星に起きたことを伝える。
 遥か昔、ようやく人類の祖先が「ヒト」と呼べる生物に進化したばかりのころ、宇宙から飛来した鉱物生命体『ラヴォス』が、この星に寄生した。
 星を内側から喰らい、力を蓄えたラヴォスは地上に姿を現し、遠からず星を滅ぼすことだろう。
 おそらく、このメッセージの封が解かれたとき、この星はすでに人類のものではなくなっているはずだ。
 ラヴォスは星を喰らうことで星と交接し、自身と星の「雑種」を産む。
 産まれた仔は宇宙に射出され、いずれ他の星に辿り着き、その星を喰らう。
 かつて人類は一度、ラヴォスによって滅ぼされかけたことがあった。
 このメッセージを記している時点で、歴史から姿を消してしまっているほどの遥かな太古の出来事ではあるが、その後の人類という種の在り方を変質させたほどの重大な事件だったことは間違いない。
 忌むべきこととして人類はこの事件を忘れ果てたが、我ら魔族の限られた系譜の伝承を信じるとするのなら、ラヴォスはかつて空に浮く大陸を地に墜としたともいわれる。
 魔力を持たぬ人の身で、これに拮抗することは現実的ではない。

                    ジャキ・アルノ・シュヴァルツェン


 ラヴォスを斃すのか、ラヴォスの支配する星で生きるのか、我々には選択権がない。
 選ぶのは、このメッセージを開いた者たちだ。
 だが、どうかこのメッセージが、希望を失っていない者の目に留まることを願いたい。
 我々は土を耕す。
 種が育つことのできる栄養を蓄えた、土壌を整える。
 我々に赦された時間は、もう長くない。
 土に埋めるべき種を見出し育てるのは、これを開いた者と、その次の世代の者たちとなるだろう。
 『ドリームプロジェクト』が、人類及び、あらゆる生物の希望となることを祈る。

                    クロノ・ドン・シューマ


 土を耕し、種を蒔き、花を咲かせるまでの一連の工程を、わたしたちは先述の通り『ドリームプロジェクト』と呼ぶことにした。
 ラヴォスに拮抗する戦力として、戦闘系及び、非戦闘系のロボットの量産ラインを備えた設備と、それを総括するコンピュータの、おそらくは未曾有の大災害となるであろうラヴォスの顕現以後も継続した稼動。
 これを保障することを、第一の工程である『土を耕す』行為とする。
 人間の制御を受けず稼動し続けるコンピュータに伴うリスクを回避するために、以下にセーフティープログラムを施す。
 戦闘系生産ラインR。コード『プロメテス』

                    ルッカ・レイ・ブリーズト


 花を咲かせる者に遺志を継がせることのできる者が、このメッセージの封を切ることを切に願う。

                    AD1999.05.09」


********************


―タイムカプセル―


 狭いドームのなかは閃光と闇が激しく入れ替わり、同時に生物と無生物の立てる様々な物音が入り乱れていた。
 「ティア!こっちだ、早くっ!」
 「だって、プロメテスがっ!」
 「行って下サイ!アナタ方がここで死ンデシマッテハ……っ!」
 ひときわ眩しく一点に集中した閃光が、この場にいる者たちの目を灼く。息を呑む者と、堪らず駆け出そうとする者と、それを止めようとする者が、止まぬ光のなかで膝を折る「彼」の姿を見た。
 「いやああぁぁっ!プロメテスーッ!」
 「だめだ!ティア、退くよ!リュート、大丈夫か!?手伝え!」
 「そのままティアを連れて退け、ヴァン!後は俺が食い止める!」
 「彼」のもとへと駆け出そうともがく仲間を抱え上げた者の背に、レーザービームの照準が合わせられる。充填されたエネルギーが今まさに吐き出される寸前、砲身が、内蔵されたアームごと切断された。それを為したのは、時代がかった一本のサーベルだ。
 「これ以上、命の無い奴らに命を刈らせてたまるかよ……!」
 残ったロボットたちが一斉に向けてきた砲口を睨んで、時代にそぐわぬ剣士は凄絶な笑みを浮かべた。


 止まぬ砂嵐を貫いて、ドームからくぐもった音が聞こえてくる。ドームを脱した二人は硬い表情のまま歩を進めていた。堪らず振り返る者を、もう一人が宥めるように前を向かせ、ひたすら歩く。
 「……つらいね。でもね、ようやっと見つけた『種』だ。これを蒔くのが、あたしたちの仕事、そうだろ?」
 「うん……」
 小さなケースに収められた、それは文字通り「種」のように見える。彼女は大事そうに、それを傷ついた手で包み込んだ。
 「本当に……、本当に、「これ」は役に立つのかな?何か、今さらだけどちょっと信じられない話だから……」
 「そうだね。でも、今目の前にある可能性はこれだけだ。花が咲くのをあたしたちは見ることはできないかもしれないけど、だから種を蒔かないってわけにはいかないだろ?」
 すでに、「その想い」を知ってしまった。そして、受け止めてしまった。放り出すことはできない。
 「うん、行こう、死の山へ」
 傷ついた身体を悪意あるもののように無数の砂礫が叩いたが、二人は支え合って歩いた。やがてその姿は砂嵐のなかに溶けた。
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【60】Green Dream
 meg  - 07/1/24(水) 14:46 -
  
 闇夜を照らすのは、炎。
 燃え盛る炎が、大切なものを、人を、思い出を飲み込んでいく。その様子を背景に、がっしりとした体格の獣顔の男がゆっくり近づいてくる。
 逃げなければ。けれど、限界を超えた体は地面に伏したまま動かない。
「おまえの実力はそんなものか。落胆したぞ。」
 嘲られても、声を出す気力もなくただ唇を噛み締めるだけ。意識が遠くなる中ふと、あの日別れた仲間たちの声が耳によみがえる。
<おまえ、頭いい。だからクロ達に知恵貸す、二人守る!エイラと約束!>
<あの二人はそろって無茶なことをしでかすかも知れん。その時、おまえがあいつらを制してくれ。>
<アナタならきっと、この国を良い方向へと導くブレーンになれマス。おフタリを、どうかよろしくお願いしマス。>
 ごめん、みんな。わたし、自分を守ることさえできない。絶望的な気持ちで目を閉じる。
「ねえヤマネコ様、こいつどうする?」
 道化師の格好をした少女が鈴の音をさせながら男に問いかける。ちりん、というかすかな音を妙に敏感に聞き取れたことにどこか違和感を覚え・・・そして気づいた。
 意識がーー戻ってきている。でも、どうして?この男に、再起不能なまでに叩きのめされたはずなのに。
 それはあとで考えても遅くない。今はここから逃げなければならない。この男は強すぎて、わたし一人では倒せないから。逃げ道はすでに考えてある。あとはすきを突くのみ、チャンスは一度きりだ。
 そのとき、家のほうからどおんという何かの落下音が聞こえ、二人がそちらを振り返った。
 今だ!
 がばと跳ね起き、計画どおりに柵に向かって走り出す。少女が気づいて男に知らせる声が聞こえる。気にせず柵を足がかりにして跳躍した時、男が黒いエネルギー体をこちらに放つのが見えた。冥の魔法に似たその攻撃に対抗するすべはなく、空中にいるために避けることもできずに直撃を受けてしまう。そしてそのまま、海の渦の中へと吸い込まれていった。

「バッカじゃない、あいつ。渦を巻く海に飛び込むなんて、自殺するようなもんじゃないの。」
夜であるために闇色をしている海に向かって少女が嘲笑する。
「愚かな事を・・・しかし、これで手間が省けた。計画は予定通りだ。」
 独り言のようにつぶやくと男はきびすを返し、そばの少女とともに夜の闇に溶けるように姿を消した。
 しかし彼らは知らなかった。あの渦が実はある洞窟の湖につながっているということを。

 やけに水の音がうるさくて目を開くと、洞窟の中にいた。うるさいはずだ、後ろでは天井から水が流れ落ちて滝となっているのだから。
 あたりを見回しながら立ち上がる。体のあちこちに傷やあざがあって時々痛むけれど、我慢できないほどじゃない。
 ところで、ここはどこだったかしら。わたしはどうしてここにいるのかしら。
 わたしは・・・誰だったっけ?
 すべての記憶が抜け落ちていることに気づき、彼女は途方に暮れた。何気なく胸のあたりに手を置くと、服の下に身に付けていた硬い物に触れる。
 取り出してみると、お守りのようなものが出てきた。樹脂を固めて作ったらしい、シンプルだけどきれいな淡い色をしたお守りは、なぜか無数のひびが入っている。壊れてしまったようだ。
 緑の夢。
 ふとそんな単語が頭に浮かんだけれど、それがどういう意味だったかは思い出せない。それでも、彼女は無意識に微笑んでいた。大切そうにもとのようにそれをしまい、もう一度あたりを見回して出口の見当をつけると、そちらへ向かって歩き出した。

                               (Fin)
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【59】桜吹雪のあの季節
 鬼羅月  - 07/1/7(日) 11:24 -
  
窓の外は、桜色に染まっていた。担任の先生にちょっと待っててと言われた転校生、水城玲菜は、ぼんやりと桜吹雪を眺めていた。そうしていると、前の学校の事がしきりと思い出されてくる。「水城さん、またせっちゃってごめんね。さぁいきましょう」先生のその言葉で、玲菜は現実へと引き戻された。先生と廊下を歩いていると、初恋のかれの言葉が頭に浮かんできた。「玲菜ちゃんはいい子だからみんなにもすぐわかってもらえるよ」そうしているうちに、教室の前についた。いよいよだ。・・・・結局、思いを伝えられなかったな・・・・もうあとがない。この初恋の彼がいない教室に、入っていくしかないのだ。ガララッドアを開けた。・・・・さようなら・・・・彼と共に、今までの記憶を忘れるために・・・
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【58】あの日の想い出
 アオリ  - 06/12/1(金) 0:59 -
  
朱香「(ぁたしも中学2年かぁ………)」

竜 「何してんのー??」

朱香「ぇ?あぁ………友ダチ休みだし……一人で考え事」

竜 「恋の悩みですかw」

朱香「違うってw」


あたしは尾野朱香。で、今話してたのが小谷竜。


一年の時は何コイツ?とか思ってたけど……笑

最近けっこう面白い人だと思ってきた


先生「席替えするぞー」

朱香「(席替えかぁ…小谷の隣になりたぃなぁ)


竜 「おーいお前何番だった??俺10番!!」

朱香「ん……9番…。って隣じゃん!」

竜 「マジで!!良かったー喋れる人居てw」


奇跡…………?隣になれた……


竜 「これで数学教えてもらえるー^^」

朱香「……それが狙いかよ 笑」

竜 「うそうそww俺はねー……」


  「おーい小谷ー!サッカーしようぜ!」

竜 「はーい今行く!!」


……………え?


朱香「ちょっ……『俺はねー』の後は?!」


 めちゃ気になる。そこで止めるなよぉ………!


その続きが『あたしの事が好き』であることを期待しながら………


運命の次の日が来た。 

--------------------------------------------------------------------------
竜  「お前ってメールする人??」

朱香 「んー……まぁ時々」

竜  「メルアド教えてww」

朱香 「ぇっ……あぁ、ぃ、いいょ」

竜  「……だいじょぶ?w何かあった??」


そんなの君が聞いてきたからに決まってるじゃん!


メルアド……男子に教えたこと無いよー……!!


朱香 「メールでは『小谷』じゃなくて『竜』でぃぃ?」

竜  「だめ」


……あぁそう…


竜  「ところで英語のテス勉した?」

朱香 「……なんですかソレは?」

竜  「何って……毎月恒例の会話テスト。」

朱香 「ぉわった………」

竜  「……ふっ………」

朱香 「今笑ったな!!」

竜  「フツー忘れるか………フッ」

朱香 「(カチーン)」


『愛』なんて生まれそうも無い関係だけど………


向こうからメルアド聞いてくるなんて……


一回冗談で告ってみようか……

いやいや そんな簡単に告白してフラれたら……


英語のテストなんてすっかり忘れてその事ばかり考えていた

--------------------------------------------------------------------------
5時間目


竜  「…………」(ウト2.)

朱香 「…小谷?大丈夫?」

竜  「んー………大丈……夫…」

朱香 「大丈夫じゃないじゃんっっ 笑」

竜  「だって社会眠いもん……眠くないの?」

朱香 「そぉいぇば………眠い…かも…」


竜 朱香 「ZZZ」


先生 「ぉい小谷 尾野!!仲良く寝るな!」

竜 朱香 「えっ……」

クラスメート「バカップルやぁー」

竜  「ぅおい!!何でそーなる!!」

朱香 「どういう意味?……拒否るなよ」

竜  「…………え……?」


あ!!寝ぼけてしまった………


「拒否るなよ」とか言ったら、あたしが小谷の事好きなのバレ2.じゃん!!


掃除時間

竜  「なぁ……さっきのどういう事?」

朱香 「え?何のこと??」

竜  「拒否るな………って」


覚えてるよコイツ!!!!!!!


朱香 「あ…あぁ!!あれは、あたしが可愛くないのか!!……って意味で…」

竜  「あ、そーゆうこと!てっきりお前が俺のこと好きなのかとw」

朱香 「そんなワケないよー」


本当は「そんなわけ」あるんだけどなぁ……泣


そして、あたしが「中学2年」である一年間を大きく変える出来事が………
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【57】夜空の星。−想来が残したもの−
 アオリ  - 06/11/30(木) 1:56 -
  
―― あなたには希望がありますか?


―― 夢がありますか?


これは白血病という病をもった一人の少女の、壮絶な闘いと愛の物語……


想来 「碧空……」

碧空 「想来、大丈夫だからな」

想来 「うん……頑張るから」


あたしは、碧空の家に引き取られた12歳。


今日、無菌室という部屋に入ったばかり。


想来 「絶対…元気になって外に行くから…」


看護師「想来ちゃん、点滴始めるよ」


想来「ねぇ……神様はいるのかな」

碧空「…いるよ」

想来「…神様なんていない」

碧空「え?」

想来「神様がいるって言うんなら、ここから出してよっ…」


無菌室生活、5日目。


もう、あたしは精神が壊れかけていた


碧空「骨髄移植……ですか?」

医師「えぇ。想来ちゃんの体を治す方法はそれ以外残されていません」


想来 「あー…!碧空…どこ…行ってたの?」

碧空 「ぃや……別に」

想来 「今熱あるから元気に喋れないんだ…ごめんね」

碧空 「いいよ、ゆっくり寝てろって」


まだ、想来に骨髄移植のことは秘密。


看護師 「碧空くん、検査室行こうか?」

碧空  「あ、はい」

想来  「え……?検査ってなぁに?」

碧空  「……想来は俺が守るから」

想来  「(…え?)」


もう無菌室から出ていたあたしは、碧空の後をついて行くことにした


十分後

碧空「…!!想来!」

想来「……あたしのために?」

碧空「ぇっ…あぁ…骨髄移植が出来るかもしれない」

想来「っ…あー…ん…」

碧空「ゎっ…ちょっとこんなところで……」


嬉しさのあまり涙が止まらなくなって、落ち着いたのは一時間後のことだった


そして運命の三日後。

1万分の1の確立と言われるくらいの奇跡がおきた


あたしと碧空の血液が適合………


想来「ごめんね碧空………あたしの病気のせいで……」

碧空「いいよ想来が助かるなら………」

想来「……っありがとぅ……」


手術が始まるまで、あたしはずっと手を握っていた


あたしの「歌手になる」という夢を一度は閉ざされたこの病に、勝てるかもしれない…

温かい健康な血液が、あたしの体内を温めた気がした

ゆっくり…血液が入ってくる………


想来 「碧空君のとこ……行きたいです」

看護師「…分かったわ  ちょっと待っててね」


――

想来「碧空っ…!」

碧空「そ……ら?」

想来「大丈夫っ…?ありがとうっ……」

碧空「あぁ……」

想来「新しい生命……ありがとうっ……」


トントン

想来「はい」

美衣「想来お姉ちゃんっw」

想来「あ、美衣ちゃん」

美衣「お姉ちゃん病気治ったの?お歌うたおー♪」

想来「うんいいよ、何歌う?」

美衣「さっきね、心ちゃんとチューリップうたった!!」

想来「じゃあもう一回歌おっか?」

美衣「うん!!」


ねぇ碧空……聞こえてる?

生命の声………


美衣「ねえお姉ちゃん、コンサート開こうよ!!プレイルームで、みんな呼んでお姉ちゃんが歌うの!」

想来「それは無理だょ……」

美衣「どうして?生きてるから出来ることなのに?」


……生きてるから……


想来「うん、やってみるよ美衣ちゃん」


数日後

看護師「想来ちゃん?一体何を………」

想来 「皆があたしに歌って欲しいって言ってくれたんです!!みんなに希望をあげたいんです」

美衣 「お姉ちゃんっ」

想来 「わっ美衣ちゃん」


看護師「白血病患ってたとは思えないですね」

看護師「まだ完治してないんですけどね……」


想来「君と居れる日々が限られてもまだ……」


あたしの思いを込めた歌……

セカイに一つの歌……


想来「この街の何処かで悲しみが生まれないように……」


夢を持ってたあの頃みたいに歌えるよ……


想来「…ありがとう……ございました…」

美衣「お姉ちゃん……ありがとう……きれいだった……」


これであたしは思いを届けることが出来たのかな……


三日後

あたしは今日、退院となった

そして……美衣ちゃんは無菌室に入った


想来「ごめんね……美衣ちゃん、先に行くことになって」

美衣「ううん……お姉ちゃんの病気が治ったんだもん……良かった」


どうして小さい子供達が苦しまないといけないんだろう………


帰り道――

想来「あのね、あたしは碧空のおかげで生きられて……近くにいられて、嬉しいけど……でもそれって、本当の幸せじゃないと思う………」

碧空「え?」

想来「あ…えと、あたしが不幸せって言うわけじゃなくて……自分も幸せで、他の人もみんな幸せって言えたらなぁ…って……。それが本当の幸せだと思うから……」




碧空「ゆっくりしてろよ」

想来「うん、ありがと」


………あたしは何に励まされてきたんだろう…


皆に歌で思いを伝えられたら………


――神様


――もう一度希望をください………


想来「碧空っ、あたしオーディション受ける!!」

碧空「え?…ちょっ…想来、体のことわかって…」

想来「わかってるよ!!再発するかもしれないって、分かってるよっ………それでも夢を捨てたくないのっ……」

碧空「ボランティア活動として…歌をうたって回ったらいいんじゃないか?」

想来「え…?」

碧空「想来の…その笑顔で」

想来「……。…うん!」


それから一ヶ月。

あたしは街の全ての病院で歌をうたった

感動と優しさで包み込めるように………


碧空「38.5……大丈夫、疲れが出たんだよ」

想来「うん……」

碧空「水持ってくるな」


再発してたらどうしよう……

もう……夢は終わりなの?


碧空「………」


--------------------------------------------------------------------------


朝7時……


想来 「……」

碧空 「…あれ…想来、早いな…」

想来 「…ううん……寝てないの」

碧空 「え?」

想来 「……寝たら…二度と目を開けられないような気がして」

碧空 「(ドクン……)」

想来 「………」

碧空 「大丈夫…俺が起こしてやるから」

想来 「うん……」

碧空 「…想来…ゆっくりでいいから……生きて……」


俺は……このとき初めて想来の前で涙をこぼした


想来 「……っ…あたしはっ……生きたいよ………」


そして想来は病院に戻った

医師 「再発の可能性が高いですね………。」

碧空 「そう……ですか」

医師「今は……出来るだけそばに居てあげてください……」


碧空 「想来、大丈夫か?」

想来 「碧空……大丈夫………!」


深夜12時――――

想来 「けほっ……けほっ………」


――助けて……


――想来を助けて……


医師  「想来ちゃん!」

看護師 「けいれん止まりません!!」

碧空  「想来!!」


―― 碧空の………声………


―― ごめんね碧空


―― せっかくもらった命なのに


―― ごめんなさい………


--------------------------------------------------------------------------
 
想来 「………」

――― あたし……生きてる………?


想来 「…ぁお…ぃ…?」


廊下

医師 「検査の結果ですが……」

碧空 「はい…」

想来 「あ…っ…碧空…」


医師 「…再発してます」


――― え?


想来 「きゃ…っ…」 ガタンッ

碧空 「想来…!?」

想来 「ぁお…い…」

碧空 「聞いた…か?」

想来 「ぅん……」


――― まだ苦しまなきゃいけないの?


碧空 「あ……っ想来!」


――― 嫌だ


――― もうここに居たくない


屋上――――


想来 「(死んだら苦しくなくなる………)」


――― もう頑張れないよ


――― 碧空 今までありがとう………


碧空 「想来っ……!!」

想来 「!……あっ…」

碧空 「死ぬな……」

想来 「やだ……生きてても良い事なんてないもんっ……」

碧空 「もう頑張らなくていいから……」

想来 「え………?」

碧空 「今は残された時間を……精一杯生きよう……」


その夜

想来 「ねぇ……お家帰ってきて良かったの?」

碧空 「あぁ……薬は飲まなきゃいけないけど」

想来 「ゃったぁ……!」

碧空 「良かったな」

想来 「ずっと一緒だょー♪」

碧空 「………」


――― 俺は……返事が出来なかった


それから想来は、どんどん体力が落ちていって歩くことすら不可能となった


碧空 「買い物行ってくるから待っててな」

想来 「や……あたしも行く…」

碧空 「熱あるんだから……待ってて」

想来 「あっ……待って…行かないで……!!」


―― 想来の手を振り払い、思わず飛び出してしまった


――― バタン


その瞬間のことだった

何かが倒れるような音………


――― まさか……


――― 想来……?


--------------------------------------------------------------------------
碧空 「想来………!!」

想来 「あ……お…」

碧空 「すぐ病院連れてってやるからな!」


――― この時俺はまだ……想来の体の深刻な状況を知らなかった


医師 「一ヶ月もてば良いほうですね………」

碧空 「そんなっ………」

想来 「ZZz………」

碧空 「ごめんな想来っ……」

想来 「……碧空」

碧空 「想来っ……!」

想来 「ありがとう……」


想来 「あたしは碧空から離れないよ…」

碧空 「あぁ…」

想来 「離れたくないよ……」


――― 想来の心の叫びが……聞こえる……


碧空 「おいで想来」

想来 「なぁに?碧空…」

碧空 「俺から離れるな…」

想来 「うん…碧空のこと大好き……」


―― この子に生きられる道はない……?


―― それならせめて楽しい思い出を……


三日後


想来 「わぁっ……すごーい!!病院の裏庭に、こんなお花畑あったんだぁ………」

碧空 「想来、花好きだよなw」

想来 「うん!ありがとう!!」


―― ポタッ……


碧空 「そ……そら?!」


突然の出血………


想来 「あお…い……」

碧空 「想来!!」

想来 「あたしが……離れないって言ったのに……ごめんなさい……」

碧空 「おい……っ……想来!!」


病室

医師 「酸素送って!! 想来ちゃん、大丈夫よ!!」


――― ドクン………ドクン………


――― 俺は……


――― 酸素マスクの圧力で赤くなった想来の頬を見ていられなかった


碧空 「もう……やめてください」

医師 「……え?」

碧空 「やめてください……お願いします」

想来 「ぁ……ぉ…………ぃ…」

碧空 「想来!!」


俺は想来を抱き上げた


想来 「あたし……今でも碧空のこと大好きだよ………」

碧空 「あぁ……っ…俺も…想来のこと好きだよ……」

想来 「生まれてきて……碧空のそばに居れて……楽しかった……」

碧空 「そ………ら…?」


想来 「ありがとう………」


――― 眠ったような想来の無力な体を………


――― 俺はずっと離さなかった


--------------------------------------------------------------------------

―― 想来は


―― 俺のもとへ戻ってこなかった


屋上


碧空  「………」

美衣  「あっ……碧空お兄ちゃんだぁー」

碧空 「美衣ちゃん」

美衣 「あのね、お姉ちゃんから貸してもらったリボン返しに来たの!」

碧空 「ありがとう美衣ちゃん」

美衣 「あれ?想来お姉ちゃんは?」

碧空 「…今…あの夜空の……星になった」


――それからの一年は


――色のないセカイで


――毎日の事はよく覚えていない


ピンポーン


碧空 「はーい」

美衣 「こんにちは!」

碧空 「あ、美衣ちゃん久しぶりw」

美衣 「あの、想来お姉ちゃんに挨拶しようと思って……」

碧空 「想来は………」

美衣 「はい!写真の想来おねえちゃんに………」

碧空 「…どうぞ」


美衣 「想来お姉ちゃんね、いーっぱい歌作ってたよーw これ残ってたの」

碧空 「歌……?」

美衣 「うん!すっごくいい歌だよ!」

碧空 「……っ……」

美衣 「お兄ちゃん?」

碧空 「あ……ごめん美衣ちゃん」

美衣 「泣いたら想来お姉ちゃん悲しんじゃうよ…?」

碧空 「うん、そうだよな……」


碧空 「また来てな」

美衣 「うん!!」


碧空「ごめんな想来、助けられなくて…つらかったよな…」

  (♪………)

碧空「歌……?」


――突然聞こえてきたその歌は


――想来の声と同じ音がした…………


――想来の


――全ての思いが込められた歌が………


       ☆★END★☆
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【56】500
 REDCOW  - 06/10/20(金) 2:01 -
  
「…いいえ。幸運が重なっただけですわ。」
 
 ジュリーさんはそういうと僕の後方を目を細めてみやった。僕がそれにならって後ろを振り向くと、そこには王都からの援軍の姿があった。援軍を率いるのは白髪の初老の男性だった。とても品の良いルックスをしていて、どことなくカイルにも通じる物を感じる。
 その後ろにはカイルの姿もあった。カイルは僕等に気がつくと、初老の男に何かを告げたようだった。程なくして全軍の進軍が止まると、初老の男性とカイルが付きの者を従えて馬から下りて近づいてきた。
 ジュリーさんはそれを見ても動じずにカールグリーフ公の頭を膝に乗せていた。
 
「ジュリエット、カールか。」
「えぇ。」
 
 初老の男性は静かにそう問いかけると、ジュリーさんもまた静かに肯定するだけだった。二人の間には軍を利用し反旗を翻した謀反人をどうこうしようなんて気は無いように見える。そこにカイルがすぐに反応して付きの兵士達にカールグリーフ公を負傷者として丁重に運ぶよう命じた。彼の命令でカールグリーフ公は負傷者として運ばれていく。ジュリーさんは運ばれていくカールグリーフ公に付いて行った。
 
 僕はカイルと初老の男性に何を言っていいのか正直分からなかった。目前で展開される事柄の全てが非現実的過ぎて僕のキャパシティーを越えている事態ばかりだった。でも、おかしい。こんなに色々なことが起こったのに妙に落ち着いている。…まるで、昔経験していたかのように。
 運ばれていったのを見届けると、初老の男性が僕に話しかけてきた。

「君が賢者様の生まれ変わりという少年ですか?」
「あ、…えーと、僕にはわからないですが、そうらしいです。」
「分からない?…はっはっはっ、そうか。いや、そういうものだろうね。自分から賢者だというほうがよっぽど怪しい。なんとなく、私は君が自然に感じるよ。」
「ありがとうございます。あ、僕はシグレ・クルマと申します。失礼ですが、あなたのお名前は?」
「丁寧にありがとう。私はジスカール・アスファーン。我が王の弟だ。この王都の軍の指揮を預かっている。」
「あ、じゃぁ、追わない方が良いと思いますよ?」
「なぜ?」
「いや、敵軍の勢力は全部で5000ですが、追っていったダーグスタさんの軍は、彼の2000とカールグリーフ公の軍の3000を合わせて5000でした。同じ数で領内でしかも平地部という状況に、アスファーン軍側の構成が騎兵ということを考えても、圧倒的に有利だと思います。ダーグスタさんには援軍がこれる体制があると伝えて領外に追い出させたら、軍を引くように命じるだけで済むかと思います。もし不安に感じられて援軍を出したいということでしたら、騎兵で500程を国旗を持たせて横一列に突っ走らせてはどうでしょう?」
 
 僕の言葉にジスカールさんは驚いた表情で暫く止まっていた。何か不味いことを言ったかなと思っていると、突然シャキンとスイッチが入った様に矢継ぎ早に部下に命令を下し始めた。しかも、その命令の内容は僕の言った内容に沿ったものだった。
 
「今王都を空にするわけにはいきません。あなたはしっかりと敵と味方の勢力を把握している様に感じられる。ならば、あなたに従うのが正しい。」
「え、そんな、確かに数は正しいとは思いますが、これは飽くまで子どもの考えたことですよ?」
「子ども?タダの子どもかどうかは今にわかります。」
 
 彼はそういうと、500の軍勢を援軍としてカイルに任せて送り出し王都へ帰還の号令を出した。僕も彼に王都へ一緒に帰る様に言われたけど、カイルのことが気になった。たったの500人で何ができるんだろうか。もし僕の言葉が間違っていたら…カイルは殺されてしまうかも知れない。そう思ったら無責任に発した自分が嫌になる。

「僕もカイルの軍に同行させてください!」
 
 僕の突然の申し出に初老の男性は困ったような表情をしたが、優しく微笑んで言った。

「心配性の様ですな。あなたの采配は正しい。しかし、ご自分の采配に責任を持たれることもまた大切なことです。良いでしょう。部下を1人あなたにつけます。彼に連れていくよう指示しましょう。」
 
 そういうとジスカールさんは彼のすぐ後ろに仕えていた、緑の髪の僕とそう変わらない少年っぽい兵士に声を掛けて指示を与えた。彼は僕に馬を寄せると手を差し出した。
 
「どうぞ、お手を。」
「うん。」
 
 僕は右手で彼の手を握った。すると、彼が僕を握った手でふわりと軽々上に上げてくれた。なんか呆気ないくらいに簡単に馬上に乗った僕を確認すると、彼は僕に彼に捕まるよう促すと、すぐに馬を走らせ始めた。その視界の前方には先行するカイルの軍が見えた。
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【55】奇跡の楽園
 REDCOW  - 06/9/21(木) 17:43 -
  
「お兄ちゃん、行かないで、私を独りぼっちにしないで!」
 
 私の前のお兄さんはすうっと青く透き通る輝きとなって、哀しそうな瞳を投げ掛けて消えてしまった。私は大切な母と、多くの兄弟姉妹を一夜にして失ってしまった。
 
 初めは哀しくて仕方なかった。
 
 まだ5歳の私にはあまりに残酷な別れだったけど、私は次第にその当時の記憶を薄めていった。それは昔から自分が強い痛みを感じると、それを感じたのが嘘のように消えてしまったから。
 
 そんなだから、私は自分の体を大切にしようなんて思わなかった。
 ただ、がむしゃらに生きて生きて生き抜いて、あの猫の亜人を殺し、みんなの敵を取ることしか頭には無かった。
 
 しかし、生きる為には食べ物が要る。
 でも、こんな小さな身寄りの無い私に食事を与える様な余裕の有る人間はいなかった。
 
 そう、私は生きる為なら何でもした。
 毎日毎日、それは生きる為に行われる行動。
 
 初めは夜にこっそりと畑から頂くことにしていた。
 食事だけならそれで良かった。
 
 でも、それだけじゃ足りないものもある。
 ガルディアには私と同じような身寄りの無い子どもが沢山いた。
 私は次第に彼らと共に行動を始め、徐々に強盗に手を染める様になった。
 それでも私達にはルールが有った。
 
 パレポリや外国の裕福な奴から盗むこと…それが私達のルール。
 
 強きものから奪い、弱き者たちで分け合う。
 それは当然に思えた。いや、今でもそれに間違いは無い。
 
 私はそうやって大きくなり、10代になる頃には立派に盗賊だった。
 大きくなった私は盗賊として次第に自分の本来の目的に目覚めていく。
 
 ただの盗賊として動いていた私の耳に、「凍てついた炎」という名の宝石の話が舞い込んできた。それはパレポリも求め、世界中に探索させているらしい。私はそいつを自分が先にかっさらって、憎たらしいパレポリに一泡吹かせてやろうと思った。
 
 そう思ったらすぐに私は行動した。
 あらゆるつてを使って情報を集め、世界中を旅して回った。
 そして、次第に1人の人物の存在が私の中に現れた。

 亜人、ヤマネコ。
 
 パレポリに情報をもたらし、自らもその宝石を求めて探し歩く者。それがヤマネコ。
 そして、そのヤマネコこそが私の家族を焼き払った張本人だった。
 
 この勝負、絶対に負けられない。
 
 私は仲間を集めてヤマネコの移動する先を全て見て回った。
 次第に奴の詳しい情報が入り始め、徐々に奴の行動を予測できるようになった。
 そして、奴はエルニドへ派遣されることが決まった。
 …いや、表向きはそうなっていたが、今回はパレポリからも全権が与えられ、隠密裏に何かを仕掛けようとしていた。
 
 奴は見つけたのかも知れない。
 
 私はそう直感した。
 すぐに私もエルニドに向かったが、奴の方が一枚上手だった。
 エルニドに入った船の中で私達の情報を先に入手していたパレポリの部隊が、突然船室に突入してきた。私達は海に逃げる他なかった。だが、エルニド近海の海流は荒く、仲間とはそこでバラバラになり、私が気がついた時には、一つの島の浜辺の上だった。
 
 そこはエルニド諸島本島、オパーサの浜という綺麗な砂浜だった。
 立ち上がった私の目前に広がったのは美しい海と、抜けるような青空と、何処までも続く地平線だった。そこにはさらさらとした海風が私の髪をなぜ、暖かい太陽の輝きが私をキラキラと包み込む。
 
 楽園というものは…こういう所を言うんだろうな。
 
 漠然とそう思った。
 その島の美しい自然はしばらく私を魅了し、私はゆっくりと日が沈むまで散策した。
 そして、夕日が沈みかけ、世界をオレンジ色に染め上げる頃、私は1人の男に出会った。
 
 信じられなかった。
 いや、ここは楽園。…奇跡が起きても不思議じゃない。
 
 人生は奇しくも不思議な因果を持っている。だから、人は嫌だ嫌だと言いつつもそれにしがみつき、そして、見たことも無いほんの僅かな奇跡を知ろうとするのだ。
 
 ほんの僅かな幸せという名の奇跡を。
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【54】ジャストミート
 REDCOW  - 06/9/2(土) 5:13 -
  
 僕は何とかしてこの場をどうにかしたかった。
 彼らの軍勢は完全にドーリア軍を包囲していた。でも、ジュリーさんの攻撃は図らずもカールグリーフ公の集中力を解き、術の進行がストップしていた。
 
「ジュリーさん、兎に角落ち着いてください。ジュリーさんの力でなんとかならないんですか?」
 
 僕の言葉にジュリーさんは反応せず、まだ左手に漬物石を持ったままカールグリーフ公を見ていた。
 
「ガイファー、今すぐ軍を引きなさい。」
 
 その声はとても低かった。底知れぬ怒り、いや、哀しみだろうか。ジュリーさんの声の音色には僕には分からない彼との沢山の感情が詰まっている様に感じた。
 
「…幾ら姉上の命でも譲れない。…いや、最早手遅れだ。」
 
 彼はそういうと後方を振り向いた。
 僕等は彼の見た方角をみた。そこには沢山の軍隊の姿があった。その数は5000くらいだろうか、カールグリーフ軍とドーリア軍まで加えたなら一万を越える…。
 僕がそんなことを頭で思い描いている時、ジュリーさんは怒りに左腕をわなわな震わせていた。
 
「あれはエメレゲ都市同盟。」
「え、エメレゲ都市同盟?」
 
 ジュリーさんは僕の問い掛けには答えず、カールグリーフ公を睨むと左手に持った漬物石を器用にも利き腕の様に滑らかな動きで豪快に完璧なコントロールで投げ切った。漬物石は彼女が手から離す寸前に加えたひねりも入り、回転してまるで魔球の様に見えたに違いない。
 石はど真ん中ジャストミートでカールグリーフ公の腹に入ると、憐れカールグリーフ公は30m向こうまで吹っ飛ばされ、兵士達の頭上に落下した。
 僕はマジで目が点になった。いや、これがならないでいられるか!ってくらい…。
 でも、彼女はそれさえも計算ずくの様で、すぐに次の行動に移った。
 彼女は突然馬上から降りると、両手を上に上げて深呼吸するみたいな姿勢をすると、ふぅっと一息吐いて、両腕を真ん中で合掌して構えた。すると、彼女の体から白い光が輝いて地面に魔法陣が輝いた。
 あまりに突然のことに驚いたけど、彼女はまるで風の様にさらさらと流れるように動くと、それに合わせて風が舞い、その風がドーリア軍とカールグリーフ軍を包み込む。両軍を包み込んだ風は白い輝きの粒がキラキラと舞い散り、その輝きに触れた兵士達が次々に我に返り始めた。
 
「ジュリーさん…」
 
 僕は魔法の力は勿論、ジュリーさんの持つ力の凄さを知った。
 彼女はあれだけいがみ合っていた両軍の兵士をあっさりと呪縛から解いたのだから。
 ジュリーさんは一通りの行動を終えると、ダーグさんの方を向いて大声で言った。
 
「ダーグ!私は非戦なんだから、あなたしっかり指揮するのですよ!!負けたら承知しないわよ!」
 
 彼女はそういうと微笑んだ。
 当の言われた側はといえば、頭を掻きつつ苦笑しながら片手を上げて答えた。どうやら同意したらしい。彼は全軍に対して魔法陣を広げると、ドーリアとカールグリーフ両軍で5000の兵力をその指揮下におさめた。そして、
 
「我らが猊下の作りし大地を汚す不届き者を成敗する!いざ、我の願いに報いよ!!!」
 
 ダーグさんの声が木霊する。すると全軍がウォーーーー!!!って声と共に一声にエメレゲ都市同盟軍に向かって走り始めた。その速さは元々騎馬の多いアスファーン側だけに、エメレゲ軍も驚いたのか突然の攻撃に後退を始めた。
 
「ぐぅ、使えん男だ。引け!全軍退却だ!!!」
 
 エメレゲ都市同盟軍を率いた老将カント・ブル・ムスタークは全軍に退却を命じると、後退する軍の最後方に向けて手をかざした。すると、彼の手の平が輝いて横一文字に一斉に光線が飛んだ。その光線は追い上げるドーリア軍の手前を射ぬき、着地面が衝突時に爆音と共に砂ぼこりを吹き上げて視界と進軍を遮った。
 ドーリア公は怯まずに領域外部まで彼らの軍を追っていった。
 
 僕とジュリーさんは誰もいなくなった戦場に取り残された。
 …結局僕には何もできなかったけど、これで良かったのかな。
 
「ジュリーさん、最初からこうするつもりだったんですか?」
 
 ジュリーさんはまたも僕の問い掛けには答えず、黙々と突然前へ歩き始めた。
 僕は馬上でただ見ているだけしか出来ないでいると、彼女は前方で1人の男の人の姿を見つけた。
 僕は慌てて馬を降りてジュリーさんのもとに駆け寄ると、その人は先程ジュリーさんが漬物石で吹っ飛ばしたカールグリーフ公だった。
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【53】運命の赤い麻紐
 REDCOW  - 06/8/23(水) 20:50 -
  
「猊下!お待ちください!」
 
 ジュリエットさんの声が近づく。
 彼女は思わず駆け出した僕のあとを付いてきていた。
 そして、
 
「私もお供致します。それに、猊下、乗馬はお得意で?」
「あ…いえ。」
「ウフフ、なら私が猊下を戦場へ送らせていただきますわ。」
 
 ジュリエットさんはニッコリと微笑むと、突然来ていたワンピースを豪快に脱ぎ捨てた。
 僕はあまりに突然の大胆な行動にあらぬ期待をしていたが、その期待はあっさりと裏切られ、彼女は勇壮な深紅に背中に金糸で唐獅子牡丹を描いたような軍服を着て現れた。…っていうか、何故軍服をワンピースの下に。っつか、ズボンはどっから!?いやいや、唐獅子牡丹!?!
 
「さぁ、行きますよ!」
 
 掛け声一声、彼女は厩舎の白馬に僕を乗せると颯爽とカイル同様に華麗に馬上に乗り、手綱を持って城内を駆け出した。その手綱捌きは手慣れたもので、馬はびゅんびゅんと速さを増した。 
 
「ジュリエットさん、そ、その、」
「ジュリーよ!」
「あ、ジュリーさん!どうして僕を?」
「…猊下、アスファーンは賢者様が開かれた国。そして私は司祭です。猊下にお仕えするのが務め。」
「ジュリーさん…。」
 
 彼女の言葉は、僕に何かを期待していることを示していた。でも、咄嗟に飛び出してしまっただけで僕に何か策があるわけじゃない。だけど…何もしないで後悔はしたくない!!!
 僕はジュリーさんの背から迫り来る視界を眺めていた。前方には広大な草原と、何の舗装も無い土で開かれた王国公道が続いた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーー

 
「ウフフ、まさかあなたと剣を交える日が来るとはね。でも、嫌いじゃないわ。」
 
 ドーリア公国軍を率いるダーグスタは馬上から敵軍勢を見据えていった。
 その彼の腕には輝く文様が現れていた。
 前方の敵軍勢は3000騎。ドーリア軍は2000騎であり、数の上でも相手側が優勢である。特にこの戦場は平地であり細かい策を弄することが出来ないため、純粋な数と練度がものを言う。しかし、それは本物の中世での話しだ。
 ドーリア公を中心に光の円陣が形成される。黄金に輝く円陣は次々にその支配域を広げ、広大な平地に展開する自軍兵力を包み込む様に形成された。
 
 それを見た敵側でも閃光が走る。
 敵軍将ガイファー・ブルーノ・カールグリーフ公爵の手から青い閃光が輝き、彼を中心に青き光の円陣が形成された。その支配域は急速に拡大し彼らの軍勢をドーリア軍同様に包み込んだ。
 
「ウフ、兄上だからって、容赦しないわよーーー!!!!」
 
 ドーリア軍が動く、V字型に形成された隊列陣形はカールグリーフ軍の正面を突破する戦術だ。これに対し、カールグリーフ公爵は隊列を崩さず対峙の構えを解かなかった。ドーリア軍の前衛とカールグリーフ軍の前衛が接触する。
 両軍の兵士との衝突面で青と黄金の閃光が走り弾き合う。二つの力は互角かどちらかというとドーリア公の力が上のようだ。カールグリーフ軍の前衛部隊が次々に黄金の陣営の中に取り込まれていく。すると、彼らはカールグリーフ軍からドーリア軍に投降し始めた。
 情勢の不利を悟ったカールグリーフ公爵は衝突部隊を徐々に後退させながら全軍を後退させ始めた。その間もドーリア軍は勢いに乗り次々にカールグリーフ軍を吸収していく。
 
「…かかった。」
 
 それは突然起こった。
 後退していたカールグリーフ軍は、後退していたと見せかけてドーリア軍を包囲していた。カールグリーフ公爵はこのチャンスを逃さなかった。
 
「ムン!!!」
 
 カールグリーフ公爵は自身の魔法陣でドーリア公の黄金の陣を包み込むと急速に力を抑圧させ始めた。
 
「っち、セコイ戦い方するのね。それだけの軍勢を持ちながら。」
「…フン。」
 
 それは兵士達の包囲が厚くなれば厚くなるほど上昇し、徐々にドーリア軍に寝返った兵士達は勿論、今度はドーリアの兵士達もカールグリーフ側につき始めた。すると、もっと強力な力が働き抑圧し始める。
 
「ダーグ。力はお前に譲る。俺は頭さ。」
「…嫌な男。腐ってるにも程があるわ。」
「そう言ってられるのも今の内。お前も俺の下僕になる運命だ。呪うなら賢者様とこのアスファーンの血を呪うんだな。」
 
 カールグリーフ公爵の力は遂にドーリア公1人を縛るに至る。…と思われたが、その時石つぶてがカールグリーフ公の顔面に直撃した。いや。よく見ると普通なら死ぬよと思うほど大きな漬物石…。憐れ、カールグリーフ公の顏は真っ平らに潰れてしまったと思われたが、彼はその悲劇を背負うのを低調にお断りするかのように、静かに片手で寸での所でその石を掴んでいた。
 彼が視線を向けた先には、一騎の馬に跨がる女性と少年の姿がみとめられた。
 
「ガイファー、あなたって人は。」
 
 ジュリエットは哀しみの目を彼に向けた。
 そのわなわなと震える可憐で細い片腕には、もう一つの漬物石を待機させて。
 
「…姉上、よしてください。そのような石で私を醜い姿に変えて、あなたは兄弟として恥ずかしく思われないのですか。」
「…思う。でも許せない!!!なら、一思いに醜い壁におなりなさい!!!」
 
 目茶苦茶だった。
 彼の後ろに乗る少年は、手綱を握るこの女性の側から離れてすぐにでも他人の振りをしたくてたまらなかった。しかし、彼と彼女は運命の赤い麻紐で固く結ばれていた。…もとい、結束されていた。

「…な、なんでこうなるわけ。」
 
 少年はじたばた動いた。しかし、彼女は自分の片腕にくくり付けた紐を引っ張る。するとキュッと締め上げられ、余計に少年は動けなくなった。
 
「…ジュ、ジュリーさん。どうしてぼくがしばられなくては…」
「だって、あなたがいなかったら、私が出てきた意味が無いじゃない。」
「え、だって、これじゃ僕全く関係ないじゃないですか。」
「そんなことないわ!私をここまで奮い立たせて下さったのも猊下のおかげ!かくなる上は私が全身全霊を賭けて愛して差し上げるのが務めですわ!!!」
 
 少年は自分がとんでもないものを起こしてしまったことを後悔した。
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【52】通力
 REDCOW  - 06/8/21(月) 12:02 -
  
「ジュリエットさんが…て、本当にどういうことなんですか?」
「…それ以上は秘密ですわ。ただ、この子を産んで後悔はしていません。こんなに男らしく育ったんですもの。」
 
 僕は詳しく聞くのはやめた。
 彼らには彼らにしかわからない事情があって、わざわざ秘密にしているんだろう。そこに僕みたいな外野が不必要に情報に触れることは良くないって思った。何より、誰が聞いているともしれないここでかれらが秘密にしなくてはならない事情を聴くことは、少なくとも適切な場所とは呼べない。
 僕は適当に話題を変えることにした。

「わかりました。えっと、では他に幾つか聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「はい、猊下。」
「その、この世界って戦争とか無いんですか?」
「戦争?……ございますわ。」
 
 ジュリエットさんはそういうと哀しげに近くの花壇に咲く花の方を見た。
 その花は黄色いすいせんの様な可愛らしい球根草だと思われた。
 
「わがアスファーンはこの地域に根ざす大国として知られています。しかし、我が国と他国の外交関係が決して良好であったわけではありません。古くは漆黒の瞳の賢者様が我が国は勿論、世界を導かれたこともある我が国ですが、今はそれ以来脈々と受け継がれる通力の力を怖れ、敵視する勢力があるのです。」
「通力?」
「えぇ。通力とは自然の力と通じて奇跡を起こす能力です。元は12の力が我が国に集いましたが、今では半分の力のみで、我が国に他国をどうこうするほどの意図も無ければ力も無いのが実情です。しかし、人は持てる者と持たざる者の差を気にするものです。我が国に今でも6つの力があるということは、彼らにしてみれば脅威なのでしょう。」
 
 なんだなんだ!?
 今度は突然RPGの定番の魔法っぽいものがあるっぽい発言がでてきたぞ。
 僕は内心わくわくしていた。

「あの、その通力って、僕も扱えるモノなの?」
「猊下ですか?…そうですねぇ、伝説の漆黒の瞳の賢者様は全ての力を調和したと言います。もしかしたら、猊下にも力があるのかもしれませんわ。」
「え、そうなんだ!」
 
 僕は心の中で万歳と両手を上げた。
 やっとなんとなく世界の雰囲気に合った夢の様な能力が使えそうな兆し。
 
「えっと、その力はどうやって使えば…」
 
 その時、城門から駆けてくる1人の兵士の姿があった。
 その兵士は城内を目指していたようだが、僕らを前庭に認めて駆け寄ってきた。
 
「バルムドゥール殿下!カールグリーフが我が国に兵を向けてきました。」
「何!?で、今何処だ。」
「は、現在、ドーリア領付近まで接近。ドーリア公が軍を率いて対峙しておられます。現在スタインベルト軍が援軍に向かっているという報が入っておりますが、カールグリーフの背後にエメレゲが動いているのではないかと…。」
「ガイファーか。よし、分かった。陛下の所へは俺もお前と一緒に付いていこう。来い!」
「は!」
 
 そういうと、カイルは兵士を連れて駆けて行った。
 僕は呆然とその状況を見ているしかなかった。でも、隣のジュリエットさんは哀しげな表情のまま花を見ていた。

 戦争が起こる。
 それはシミュレーションRPGみたいな争いなのかも知れないけれど、失われるのは本物の命。…僕は背筋が凍る様な嫌な感じや急激に冷や汗みたいなものが吹き出すのを感じた。
 
 遊びじゃない。
 誰かの命を失うなんて有っていいわけが無い。どんな人にも家族がいて、友達がいて、哀しむ人がいる。兵士だけじゃない。戦争をすれば沢山の人が家族を失い、命を消していくんだ…。
 
 …止めなきゃ。
 
 僕は無性に何かに突き動かされるように動いていた。
 
「…猊下?」
 
 気がついた時には馬小屋に走っていた。
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【51】古文書
 REDCOW  - 06/8/20(日) 21:24 -
  
 僕たちは城の前庭に来ていた。
 ここは色とりどりの花が咲き乱れるとても手入れの行き届いた庭園で、花の香りが風で運ばれてとても心地よい空間だった。そこに用意された白いテーブルに日傘と白い椅子が3脚。四角い白いテーブルには、東側を背にジュリエットさんが座り、南側にカイルが、北側に僕が座った。西側には給仕の係りの人がお茶とお菓子を出し入れするのにやってきてくれていた。
 僕は出されたお茶を飲んだ。
 
「美味しい!これ、なんていうお茶なんですか?」
「これはミレディティーですわ。」
「ミレディ?」
「あぁ、あそこに生えている赤い花がミレディ。」
 
 僕はジュリエットさんの指し示した方向をみた。そこには確かに赤い花が咲いていた。なんとなく薔薇に似ている。つまり、これはローズティーってことかな。
 
「…さて、そろそろ本題と行きましょうか。カイル。」
 
 彼女はそう言うと、カイルの方を向いた。カイルは彼女の言葉に頷くと僕の方を向いた。
 
「シグレ、お前の国は二ホンと言ったな。」
「うん。」
 
 僕が頷くと、ジュリエットさんはおもむろに本をテーブルの上に置いた。その本はとても古くてくたびれていた。
 
「これは?」
「我が国に代々伝わる古文書です。ここには創世の以前の世界のことが書かれています。」
「これをどうして僕に?」
「とにかく開いてみてください。」
「うん。」
 
 僕はその本を手にとり、ゆっくりとページを開いた。そこには僕にもわかる日本語で文字がかかれている。内容は日記のようだ。
 
 今日、連邦政府はガーディアンフォース12の使用許可を出した。…もう、これしかないのか。私はなぜあんなものを見つけてしまったのだろう。いや、まだ終わったわけではない。

 宇宙の動向が緊迫してきた。連邦木星基地がやられた。奴らは化け物か。ガーディアンフォース12の発射が間に合うかギリギリか。プランBも実行せざるを得ないか。
 
 アステロイドベルトを越えたという報告があった。奴らの技術をトレースしているが、それを上回るスピードで迫っている。連邦艦隊は火星に防衛ラインを張ったが、時間稼ぎにもなるかどうか…。
 
 今日、プランBを実行に移した。我が子にはすまないことをしたが、人類は今消えるわけにはいかない。彼らにも良心があるならば、我々の世界を…いや、もはやここまできてしまったのだ。楽観は控えるべきだ。…もうすぐ日本に帰る許可も下りる。
 
 火星軍が全滅したらしい。もう数日もせずに来るだろう。出来る限りのことはした。我が人生に悔いは無い…いや、一つあるか。最後くらいはリンと一緒にいたかった。愛している、リン。
 
 来たか。月防衛ラインを突破される前にはなんとか間に合った。ガーディアンフォース12を使っても世界の破滅は免れない。だが、彼らもただでは済まない。ざまあみろ。最後は我々が勝つ。
 
 この後の記述は無かった。
 この日記の文字は印刷された文字のようで、この作者の死後に作られたのだろうか。
 推測するに、これは「古の12の神」と関係があるんだろう。
 
「猊下、この本の内容は分かりましたか?」
「あ、はい。」
「では、どんな内容かお話してくださいませんか?」
「え、あぁ、わかりました。」
 
 僕は本の内容を聞かせた。二人は静かに僕の話を真面目に聴いてくれた。
 
「…姉上。」
 
 カイルがジュリエットさんの方を向いた。ジュリエットさんは頷くともう一冊の本を出した。
 
「猊下、この私が持っている本はあなたの読まれた本の翻訳本です。今あなたが読まれた本を読める方は、もはやこの世界には残っていないのです。」
「え、じゃぁ、その翻訳は?」
「これは何百年も昔の時代に訳された本の写本です。ですからこの本に書かれている内容と少しズレがありますが、大筋で猊下の読まれた原板と違いありません。…猊下、申し訳ありません。」
 
 突然ジュリエットさんが僕に深々と謝罪した。僕は突然過ぎて何がどうしたのかさっぱり分からなくて慌てて頭を上げるように促した。
 
「あの、何故謝るんですか?」
 
 僕の問い掛けにカイルが口を開いた。
 
「これは俺が言い出したことだ。お前が二ホンという国の名を出したから、大昔の国の名前じゃないかとおもってな。姉上の統べる教会に本は保管されている。だから姉上に無理を言って持ってきてもらったのさ。」
「それじゃ、僕を調べる為に?」
「あぁ。」
「ごめんなさい。猊下。」
 
 僕は呆気にとられた。
 あんなにコミカルなまでにとぼけた人達だと思ったのに、やっぱり彼らは政治家って人達で、僕が考えている以上に色々なことを考えている人達だったんだ。いや、確かにどこの馬の骨とも知れない少年にこれほどの待遇をする国ってのも変だけどさ…。
 
「謝ることはないよ。で、僕のことはどう思ったんですか?」
 
 僕の問い掛けにジュリエットさんは、

「猊下は、やっぱり猊下でした!」
「え!?」
「もう、この古代文字を解読できちゃうだけで最高ですわ!」
「あららら…」
 
 何か知らないけれど、僕はもっと信じてもらえることになったらしい。
 これは喜んでいいのやら…。
 僕はぽりぽり頭を掻きながらどうしたものかと考えていると、ふと昨日の言葉を想い出してカイルに尋ねた。
 
「あの、カイル。君のお母さんの所へ行くんじゃなかったっけ?」
「そうだ。」
「じゃぁ、会いに行こうよ。」
「だから、来ただろう。」
「え?」
 
 僕は頭が混乱した。
 ここにいるのは僕とカイルとジュリエットさん。他には給仕の人達くらい。
 
「えーと、どこ?」
 
 カイルは僕の問い掛けに指を指し示した。
 その先は…マジ。
 
「えーーー!!!!っていうか、だって、兄弟なんでしょ!?」
「そういうことになっている。」
「ウフフ、ひみつよ〜♪」
「な!?えーーー!?!っていうか、さっきカイルは年頃って!?」
「適齢期には変わりないだろう。」
「………いや、そうだけど…って違うでしょ!?」
 
 あぁ、なんか頭痛くなってきた。
 僕はこの王国の家族構成に激しく疑問を感じつつ、なんとなくこれだけでは済まされない暗雲を感じながら、苦笑を禁じ得なかった。
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【50】空の感想etc・・
 シルヴィア  - 06/8/19(土) 16:38 -
  
読ませていただきましたw
やっぱりさすがですねぇ!
アザーラには何かと「何か」を感じます。まぎわらしい。
ヤツもヤツなりに大地には思い入れがあったのだし、
長として色んな場面でエイラちゃんを邪魔に感じていたのは事実だと思います。
長じゃなくても「サル」は邪魔でしょうね;
「空」は大地の命を超えてます(笑
アザーラの威厳を感じる素晴らしい作品、ありがとうございました!!
冥香様の文の才能と絵の才能、見習いたいですます♪(謎


**********************
ちょっとウケてしまう小説「大地の命」

実は、冥香様のエイラ像のとうりだったんです。最初(笑
原作では強いものを愛し、悪は大嫌い!!だったんですよね。簡単に言うと(笑
この大地の命も実は原作どうりで話がつづられていたんですね;
それが自分はなにを血迷うたか、あのエイラちゃんになったわけですよ(ぇ
実は昔に書いた「もう1つの物語」で大地の命にでてくるようなエイラちゃんを書いたんです。
そっして今回、それをそのまんま書いてしまったのです(汗
自分としては、エイラちゃんにはそういう過去もあったのでは・・?と考えていたんです。1人だけ(笑
いつのまにかそういうイメージも湧いていたのでしょうか?
それは妄想というのですがね。あしからず。
とんだご迷惑でした;すみません;

しつこいですが、原作に沿ったもともとの「大地の命」をまた書こうかと(笑
ちょっとごめんなさい(狭

そんなところで失礼します。
とんだアホで申し訳ないです;
ではでは〜w
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【49】お姉様
 REDCOW  - 06/8/19(土) 11:41 -
  
 出された服は白タイツに白いぴっちりシャツ。
 そして、頭からすっぽり被って前後にばさばさいっている、ドラ○エの僧侶が来ているようなアレ。

 そりゃ賢者ったら聖職者なのかもしれないけれど、僕別に悟り開いたわけでも無ければ、賢者って自覚すら無いんだけど…。しかし、置かれた服はこれのみ。まさか白タイツ白シャツ姿だけで出るわけにもいかず、とりあえず下着だけまず穿いた。
 
 ただ、下着が白ブリーフというのがまた…なんで今更僕は…。だけど、コイツを穿いてみて思ったのだけど、このまま誰かを呼ぶくらいなら白タイツコスプレの方がまだマシだと思えてくるのだから、なんとも術中にハマっているような気がしてならない。
 いや、絶対罠に決まってる。…って力説する自分が虚しいけど。
 
 仕方なくコスプレした僕は脱衣室を出ることにした。外にはあの3人が待っているに違いない。もはや裸まで晒したと半ば開き直りも入りつつ、思い切って僕はドアを開けた。
 そこには案の定3人の姿が…、
 
「まぁ、猊下!よくお似合いですわ!」
「孫にも衣装って奴だな。」
「サイズもぴったりでございますな、猊下。」
 
 三人三様に褒め言葉が飛び込んできた。でも、表情は絶対笑いを堪えている。…というか、あのお姉さんの顔を見たら、再度自分の痴態を晒してしまったことを急激に思い出す。さすがに簡単に割切れるものでは無いらしい…。
 
「あ、あの…。この服以外ありませんか。」
「えぇ〜!お似合いですよ〜!勿体ないわ〜!」
「そうだぞ!こんなおもし、もとい素晴らしい絵は見たことないぞ俺は。」
「お気に召しませんでしたか、猊下。」
 
 し、白々しい。くそぉ、完璧に遊ばれている。
 僕は沸々と湧き上がる怒りを感じていた。もはやここまで壊れてしまえば何も怖くない。
 
「すぐに僕の服を乾かして返してください。それがダメなら、他のあなた方が着ている様な一般的な服を用意してください。僕は悟りを開いたわけでも無ければ、賢者であると言った覚えはありません。」
 
 僕は今出し得る最大級の憎悪を燃やした表情で3人を睨み付け言い放った。それは3人を一瞬で串刺しにする。
 
「あ、あぁ、分かりましたわ猊下!ほ、ほら、カイル!あんた服あるでしょ!」
「あ、姉上!?お、ぉお!わ、わかりました。い、今すぐ用意しよう!!」
「バルムドゥール殿下、殿下の服では大き過ぎます。私めが殿下のお小さくなった服を取寄せさせますので、お任せください。」
「おう、ボブ、至急頼むぞ!!」
 
 その後15分程してカイルにボブと呼ばれていた執事のお爺さんが、一着の服を持ってやってきた。その服は青を基調にした制服みたいな服だった。袖などには銀糸でラインが入っていて、さすが王子様って感じの豪華さもある。…これはこれでちょっと恥ずかしかったけど、白タイツ姿よりは天地の差ほど違いがある。
 僕はその服に再び脱衣室で着替え直すと、3人のもとに戻った。
 
「まぁ、猊下!カイルのちょっと昔を見ているみたいで可愛い!」
「ほぅ。」
「いかがでございましょう、猊下。」
「うん、今度のはとても着心地が良いです。わがまま聞いてくれて有り難うございます。」
「いえ、お礼でございましたらバルムドゥール殿下へお伝えください。では、私はこれにて失礼させて頂きます。」
 
 そう言うとボブさんは礼をして静かにその場を去っていった。
 
「えっと、あの、あなたはカイル殿下のお姉様なんですよね?その、先程は本当に申し訳ありません。」
「いいえ。私も聖職者としてこの国の司祭をさせていただいております身。間違いなど起こり得ません。ご安心下さいませ。」
「え”!?司祭!?!」
「はい、猊下。宜しくご指導賜りたく申し上げます。」
 
 そう言うとお姉さんは深々と礼をしてきた。慌てて礼を返す僕。
 礼を直ると、お姉さんは続けた。
 
「それと、申し遅れました。私はジュリエット・マルーン・アスファーン。この子達の一番上の姉でございます。ジュリーとお呼びくださいませ。猊下。」
 
 ニッコリと微笑んだジュリーさんは、今までの15年の人生の中で奇跡的な程の綺麗な笑顔で、こんな人にこれから他に会う機会があるのだろうかと思うほどの絶世の美女だった。
 
「んと、えー、ジュリーさん…って、その、一番上?」
「はい。私が我が王国6人兄弟の一番上でございます。」
「六人兄弟!?」
「あら、存じ上げませんでしたか?猊下。」
「あ、はい。初耳です。」
 
 僕は驚いた。クウォルツさんが一番上で、その下くらいだろうと思っていたということもあるけど、その前にこの兄弟が6人もいるということが…。カーライル、クウォルツ、ダーグスタ、ジュリエットの4人は見たけど、この他に二人…どんな人なんだろう。というか、彼らの年齢構成が分からないのでイマイチポジションがハッキリしないけど。
 
「左様でしたか。では、ここではなんですから、お食事でもご一緒にしながら、お話でもいかがです?」
「あ、別に僕はそれほどお腹も空いていないので…」
「では、ティーと菓子ではいかがでしょうか。」
 
 その時のジュリエットさんの表情は、世の男という男全ては絶対服従したくなるんじゃないかと思えるほど、なんだか断るのが勿体なく感じた。カイルも微笑を讚えて彼女に従っているようだし、ここは彼と同様に従っておくとしよう。
 え?僕が単に食事がしたいんだろって?違うよ、仕方なくだよ、仕方なく。…とは言いつつも、確かに僕の心は踊っていた。
 
「あぁ、はい。では、お言葉に甘えて。」
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【48】感想
 REDCOW  - 06/8/19(土) 11:18 -
  
えっと、長らく掛かりましたが、感想。

 現代日本に持ってきたのであれば、普通に女子高生と男子高校生にしても良かったんじゃないですか?黒髪の子と海外からの転校生の女の子とか。w
 ただ、ワタシがHokuさんと同じ年頃の頃はまだあまりまともな文章になってなかったので、それを考えると結びまでしっかり作ってくる辺りとか、感心するほどです。割とワタシは設定した世界で妄想していた方なので。(怪奇)

 さて、誤字部分ではワタシも今やってる即興ネタと同様に「俺・僕」混同ミスがありますねぇ。思いつきで作ると推敲なんてしないから起きちゃうんですよねw…つまり、ここら辺から割とインスピレーションで書いているのではないかという想像がw

 でも、真面目に遅くから始めたワタシなんかよりはずっと文章上手くなると思うんで、早くに始めた利点を生かして継続していって欲しいです。(^^)

 では、次回作も期待してます。
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【47】恐竜人の可能性
 REDCOW  - 06/8/18(金) 22:45 -
  
 さすが冥香さん。書いてくるなぁ。w
 アザーラが語られている範囲の枠組みの中で仕上げられてきてますねぇ。
 
 彼は「たった一人」だったのかどうかはともかくとして、本当にあの絶望的な状況で彼は一番生存可能性の高い所である火山を自分達の居城に選んだのですが、まさかそこに隕石が落ちるとは思っても見なかったんだと思います。いや、もしかしたらそれさえも分かっていて、万に一つの可能性に賭けたのかもしれませんが。

 彼らの文明って意外に進んでいるようで、ルッカのゲートホルダーの詳細を分からずとも、それが機械であり、何らかの効果を作り出せることを理解している辺り、恐竜人という文明も侮れないものですよね。
 仮に彼らが順当に発展した場合、たぶん人類の文明を越えるでしょう。ただし、それでも因果律の修正を加えるなら隕石の落下は起こり、それがアザーラの居城ではなかった場合ということになるのでしょう。そして、そうであれば氷河期の終わりまでの長い冬を耐え続けないとならない。

 ディノポリスと人間文明の勝負の差は僅差だったんじゃないかと思うのですが、その違いがどこにあったのか…正直な見解を言えば、原作とは違って龍人の方に軍配が上がるんですけどね。w
 ただ、これは出ている情報のみで推測した場合の話ではありますが。
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【46】空 「大地の命―アザーラサイド―」
 冥香  - 06/8/18(金) 22:28 -
  
 城は天を衝くように高く、あくまでも高く聳える。
 四方を岩漿の堀に囲まれたそれは、「天に挑むかのよう」という表現そのままに尖塔を以って碧空を突き刺さんとしているかに見える。

 「空は嫌いだ」
 「……は、何だって?」
 城の、一際高い尖塔の窓を開け放ち、城主は呟いた。唐突な言葉に、近しい者が訝る。
 「空は嫌いだ。雨も風も雷も、一方的にもたらされるのみで、こちらから一矢を報いることも叶わぬ」

 忌々しげに眼を眇め、城主は背後を振り向いた。
 「傲慢なことだとは思わぬか?ニズベールよ」
 水を向けられた者が身体を揺らす。城主よりもひと回り以上体格に勝るその恐竜人は、主たる者の言葉にさも興味なさげに肩をすくめた。
 「さあな、おれには分からねえ。それよりどうする?場所の目星はついたぜ。……いつやる?」
 「すぐにもだ」
 「昼のうちにか?」
 「ああ、サルどもめ、知恵をつけてきおった。夜は返って警戒していよう」
 城主は窓に眼を戻し、下界を見やった。

 緑の森、黄土の荒野、紅く滾る岩漿……、彼が欲してやまぬ大地。
 そして……、そのすべてを白一色に塗りつぶす、彼が知らない「何か」。

 それが、彼には見える。遠くない未来の、大地の姿。
 そこに、自分と眷属の姿はない。

 「そうか、じゃあ行ってくるぜ」
 ニズベールの言葉に城主は意識を水面下から擡げた。
 「いや、その必要はない。お前は城に居れ」
 「……いいのか?『ヤツ』が来るかもしれないんだろ?他の連中の手に負えるとは思えんがな」
 「それでよい。エイラめ、派手に暴れればよいのだ」
 深く裂けた口角から、城主は牙列を覗かせた。人の血族の共感を得ることのない、恐竜人の笑み。
 「アザーラ、……何を考えてる?」
 ニズベールの問いに、城主……アザーラは答えなかった。ニズベールのほうも深く追求するつもりはなかったのだろう。再び肩をすくめると彼は巨体を回して部屋を出ていった。

 「お前には分かるまいな、ニズベールよ」
 棘の目立つ小山のような背中に、アザーラは胸中で呟いた。

 アザーラは特別だった。恐竜人のなかでも、大地に生きる生き物すべてのなかでも、そしておそらくは「生き物」の歴史という途方もなく永い時のなかでも、彼は特別な存在だった。

 それを彼は知っている。そして、それを誇りとしてきた。
 だが今、彼はそれを呪う。

 「大地よ。偉大なる大地よ!」
 叫ぶことは赦されぬ。絶望を孕んだ激情を、彼は押し殺した声に込めた。
 「貴方は空に屈するのか。空からもたらされる災厄を、甘んじて受けるというのか。……貴方を癒す役目は、我らには務まらぬというのか!」

 応えはない。未来視には、寸分の変化も起こらない。

 アザーラは力なく窓辺に手をついた。やがて、嗚咽にも似た笑声が彼の喉から漏れて、それは窓から散った。
 「いいだろう、貴方がそれを選んだというのなら、我らはそれに従おう。だが、どうか忘れてくれるな。我らが、貴方の許(もと)で生きたことを」

 窓を閉めると、アザーラはそれに背を向けた。そして絶望の片鱗すら窺わせぬ「指導者」の顔を、そこに現れた者たちに向ける。
 「征け!大地の覇権を、我らの手に!」

                                                                      了


。。。。
どうもお邪魔致します。冥香でございます。

以前感想レスで予告した「アザーラサイド」
(やっと;)書き上がりましたので、くっつけさせていただきます。

REDCOW様もおっしゃってますが、エイラとアザーラのあいだには単に憎しみという言葉だけでは括れないものがあるように自分は思います。
恐竜人も自分たちと同じ「大地の命」であることをわきまえた上で、彼らと命を賭して闘うことのできるエイラは、やはり毅いひとなんでしょうね。

ではでは、遅くなりましたが「レス」というかたちで失礼致します。
引用なし
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【45】ワタシの感想と視点
 REDCOW  - 06/8/18(金) 21:53 -
  
 えっと、感想遅くなりました。(おい)
 ずっと前に読んではいたんですけど、纏まった感じで文章書けなかったなぁと。

 さて、エイラ嬢が弱きものを助け強きものを挫くという視点で書かれているわけですが、年齢を考えれば正直に凄いよなと思う内容です。(^^;ワタシが同世代の頃だとまだ綺麗にまとめられなかったんじゃないかな。まぁ、中学二年くらいからワタシは創作活動を始めたと言えるので、その頃の自分をなんとなく思い出しました。

 で、ここからはワタシの視点で語ります。
 こちらの作品ではアザーラ達「恐竜人」という人々が老人や子どもなど弱い存在を襲った事に対する怒りをかいているわけですが、ここはちょっと物語を振り返ってみましょう。

 原作でエイラは「戦わない者はやられるだけ」みたいな見解を述べているわけですが、つまり、彼女は生存競争の中で「ラルバ村」の取った行動を良い行動とは思っていないんですねぇ。生きるということは戦うこと。だから戦わないという道を選ぶことは生きることから逃げることだと考えているわけです。つまり、アザーラ達の仕掛けた攻撃は相手も生きる為に必死だというメッセージとして受け止めたと考えているわけです。
 エイラはとっても純粋な女性で、確かに仲間が傷つくことに哀しみます。でも、彼女は同時に「大地の掟」として自分達の置かれている状況を現実的に理解していて、誰が悪いのでも無く「力が無い自分達の非力さ」を認めて戦うしかないと考えているわけです。だから、弱いものを傷つける者が悪いのではなく、自分達の非力さ故に仲間を守ることが出来ないことを悔いるんじゃないでしょうか。

 では、最後にアザーラに手を差し伸べたのは何故か?

 アザーラが強い者として生きる価値があると感じていたからこそ、死ぬことが勿体ないって思っていたからなんじゃないかなって思いますが、相手がそれを拒絶し大地の掟に従うという意志を尊重する辺り、理想と現実をとっても冷徹に判断しているのが読み取れるんじゃないかと思います。

 とまぁ、これは飽くまでワタシの見た見解ですが、例えば喧嘩をした場合、どちらか一方が絶対的に悪いとは限らないですよね?どちらにも何らかの種があって、それが接触して初めて喧嘩になる。この場合、仮に叱るとしたらどう叱るかって考えてみてください。
 殴った方が悪いとしたら、その殴った方が殴られた方に半年前から延々と罵られ続けて耐え切れずプッツンきて殴ったかも知れない。こうなると殴った方が一概に悪いとは言えなくなりますね?
 物語も一方の視点ではなく、もう一方の視点も考えた上で、その戦いが何故起こったのか、そしてどういう終わりが理想なのかということを双方に考えさせてみると、ちょっと面白い答えが出てくるのではないかと思います。
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【44】光
 REDCOW  - 06/8/18(金) 15:48 -
  
「…どこだ、ここ。」
  
 僕はどういうわけか空の上にいた。
 何がどうなって浮いているのか分からないが、じたばたしてみた所で落ちないことは分かった。
 なんとなく薄曇りの夕暮れ時だろうか、沢山の車が飛んでいる。SF映画みたいにさも当然の様に浮いているんだ。

 世界全体が鉛の様に鈍い輝きを帯びて太陽の光を照り返す。その姿は異様だが偉容でもある。こういうのを未来って言うんだろうな。
 
 ふと近づいてみたいと思ったけど、眼下の都市へはやっぱり降りることは出来ない。下を向こうが何をしようが、ただただくるくると回っているだけ。懸命な努力も虚しく疲れだけが残った。
 僕は仕方なく見ているしかなかった。すると突然視点が上昇し始めた。その早さは凄まじい重力を伴うような速さで、僕が打ち上げられている様な圧力を感じ目を閉じた。その圧力は10秒くらいだろうか。突然それが収まったので目を開けると、そこは宇宙だった。
 
 宇宙から見た地球なんて初めて見る。
 確かに有名な宇宙飛行士が残した言葉のように青い宝石。ここが僕の生れた世界。
 人生にとても印象深い感動のシーンを上げるなら、ここは間違いなくその場所の一つになるに違いない。そんなことを思っていると、突然前方に何かの光が一つ走った。
 
 いや、それだけじゃない。
 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十、十一、十二…もう、無いかな。
 その光はゆっくりと世界中に散らばって降りていく。その時地上からも幾筋もの光がまるで出迎えるかのように走る。だけど、それは途中で衝突して閃光をたて始めた。そして、地上の光はまもなく消滅し、宇宙からの光は地上に到達すると緋色の閃光をあげて、まるで核爆発を起こしたような巨大なドーム型の爆発を作り出すと、その波は波紋が広がるように広域に広がった。
 その爆発は他の地域に落ちた光からも生じ、次々に世界を飲み込んでいく。
 
 僕は何が起こっているのか理解できなかった。
 言えることは、綺麗な迫力ある映画のワンシーンにしか見えないってこと。でも、僕がこの真空の宇宙で呼吸して漂っているという非現実的な現象を除けば、視覚に映っているそれはとてもリアルな空間での出来事だった。
 
 僕はアスファーンの書庫で見つけた本の記述を思い出した。
 
「…古の12の神。」
 
 これがソレなのか?
 だとしたら………あんまりだ。
 
 僕の目から思わず涙が溢れてきた。
 そこに、何処からともなく声が聞こえる。
 
「…下。猊下。」
 
 僕は目をゆっくりと開いた。
 目前にはとても綺麗な金髪のお姉さんの姿。白いぴちぴちの綺麗なレースの刺繍のが入ったワンピースを着た彼女は、僕を膝枕していた。…って、膝枕!?思わず僕は飛び起きた。
 
「あ、あの、ぼ、僕は一体!?」
 
 飛び起きた僕の周囲には執事のおじいさんに、カイルの姿もある。
 カイルは複雑そうな顔をして苦笑交じりに僕に言った。
 
「…さすがに気絶は無いぞ。まぁ、姉上も年頃の女性が聖職者と混浴するという状況は話しにならないが。」
「なぁに、カイル。聖職者ですもの、間違いはないじゃないですの。ウフフ、ね?猊下?」
「え…」
 
 僕はどう応えていいか分からなかった。
 というか、あれ、僕、裸!?
 
「う、うわ!?あ、あの、ふ、服は!?!」
「ほれ。」
 
 僕はカイルから服を慌てて受け取った。
 なんてこった。失敗するにも程があるよ……。
 
「あ、ありがとう!っていうか!みんな出ていってください!!!」
「えー!今更良いじゃないですか〜!私は猊下の全てをもう知った仲ですのよぉ〜?」
「す全て!?って違う!そんなの絶対ダメ!っていや、あ、もう!!!はやく出ていってください!!!」
 
 僕は力の限り叫んだ。
 彼らは僕の剣幕にさすがに応じてくれて、渋々という感じだけど外に出ていってくれた。
 その後の僕は、泣きたい様な気持ちを胸に仕舞いながら、服を広げてみた。
 
「…え。」
 
 僕は思わず凍った。
 いや、これで終わるとは思わなかったけど、これは…。
 一挙に到来する情けなさとやるせなさと虚しさと…僕はさすがに自分を呪った。
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