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【69】CPss2第1話「湿った闇の中で」
 REDCOW  - 07/6/29(金) 16:54 -
  
第85話「湿った闇の中で」

 
「う、うぅぅ……」
 
 
 ひんやりとした感触が頬に伝わる。
 ざーざーと流れたり、滴る水の音が聴こえる。
 全身に悪寒が走りとても寒い。
 
 開いた視界に入ってきたのは暗闇だった。
 深い闇にほんのりと輝く光苔の緑の光が若干の明かりとなって、辺りの景色がどのような物かを伝えてくれる。
 
 周囲の壁は一面石で出来ており、氷柱のようなものも見える。どうやら洞窟の中らしい。
 
「(…俺は…)」
 
 最後に残っていた記憶は、船長に促され救命ポッドに駆け込んだ事だった。その後激しい揺れが襲い、意識を失ったのだろう。
 一体ここは何処だろうか。そして、あの後どうやって自分はここに行き着いたのだろう。体を起こして周囲を見回した。だが、まだ目が慣れておらずよくわからない。ただハッキリ分かる事は、仄かな緑の光と体の感覚だった。
 
「痛っ…」
 
 あまり信心深い方ではないが、ここは正直に神に感謝すべきだろうか。
 奇跡的に体は若干の痛みはあるものの異常はなかった。だが、全身ずぶ濡れで非常に寒い。洞窟の温度も低く、寒さが堪える。
 目が慣れてきてから周りを眺めると、洞窟のおぼろげな姿と共に何人かの人が倒れているのが確認できた。そのうちの1人に仲間の姿があった。彼は彼女のもとに近寄り、口元に耳を近付ける。
 彼女は呼吸をしており、どうやら無事で眠っているだけのようだ。体の方も出血は見られず、無事にみえた。
 安堵した彼は、彼女の名前を呼びかけた。
 
 
「シズク、シズク。」
「うぅん、なーに?………え?ここは?」
「洞窟の中らしい。俺にもよくわからない。」
 
 
 シズクが起き上がる。
 寝ぼけてハッキリとしている様ではなかったが、どうやら彼女も異常は無いらしい。
 
 
「あ、クロノ、……私達、船が渦に巻き込まれたのよ…ね…?」
「あぁ。」
「でも、ここは………?」
「俺もさっき目覚めたばかりだ。わからない。だが、奇跡的に助かったことは確からしい。」
「そうね。…!、他にも助かった人がいるのかしら。」
 
 
 彼女はすっくと起きて立ち上がる。だが、立ち上がった瞬間、全身ずぶ濡れのため、洞窟の冷気も相まって悪寒が体中に走る。しかし、今はそんなことに気圧されているわけにはいかない。震えを押さえて急いで他の人を調べた。
 二人の他には四人の乗り組み員が倒れていた。いずれも彼らが同乗したポッドにいた人達で、その中には船長も含まれていた。
 シズクが辺りをよく見ると、壊れたポッドの破片らしきものが周囲に幾つも散らばっていることが確認できた。どうやらポッドはここまでバラバラになりつつも全員を運んだのだろう。
 
 
「船長さん、大丈夫ですか?」
 
 
 シズクが船長の頬に手を置き呼び掛ける。
 
 
「……。」
「…そんな。」
 
 
 シズクは脈を計るために首の頸動脈を探ったが、既に脈は無く体も冷たかった。
 
 
「他の人は!?」
 
 
 急いで他の者の安否を調べたが、彼女の期待とは裏腹に既に亡くなっていた。しかし、それを素直には受け入れられない彼女は、エレメント「ケア」を発動したが、既に体は受け付けなかった。
 
 
「…私達だけなのね。」
「…あぁ。」
 
 
 二人は黙祷し、4人の冥福を祈った。
 シズクは近くに散乱していた流木をかき集めて魔法で火をつけた。
 ボッという音と共にパチパチと燃え上がり、辺りを仄かなオレンジの光が包む。
 
 
「…まずは冷えきった体を温めましょう。幸いここは密閉されていない。さっきから向こうから風の音が聴こえるもの。」
 
 クロノは彼女の意外な程の冷静な状況判断に驚いた。確かに通気が無い場所に風の音など聞こえるはずはない。ならばこの風は確かに地上との接続を伝えるシグナルといえた。時々彼女の冷静さには驚かされる。
 
「ここはどこか見当がつくか?」
「…わからないわ。海底深くの鍾乳洞の様にも見えるわね。もしそうなら、死が若干伸びたに過ぎないわね。シーケンサーで調べられたらなんとかわかるかもしれないけど、シーケンサーも渦潮の衝撃で壊れてるみたい。」
 
 
 彼女はそういってゲートシーケンサーを見せた。確かに動かず何も表示されない。
 
 
「直せないのか?」
「そうしたいのはやまやまだけど、荷物も飲み込まれて消えてしまったから、精度の良い工具が無ければ、これの修理はここではとても無理だわ。」
「そうか。」
 
 
 二人は暖をとって体が十分に乾いた頃を見計らって動き出すことにした。
 
 洞窟はシズクの言った通り、奥から風が入ってきていた。風の来る方向へ進むと、細いながらも人が通れる道があった。そこを通り抜けると大きな空洞に通じ、何やら向こうの方で音が聴こえる。その音は何かを削る重機の音の様だ。
 
 
「この空洞には道が無いみたいだけど、何かの作業音がするわね。」
「しかし、出るにはどっかに穴を開ける必要があるな。」
 
 
 クロノが構えようとすると、シズクがそれを制止した。
 
 
「待って、こっちに向かって掘ってるわ。それも近い!」
 
 
 シズクはそう言うと壁から離れて待機する。
 クロノもそれに倣って後方に退いた。
 すると壁からの音が大きくなり、遂に目前の壁が大きく煙りを上げて突き破られた。
 現れたのは、人が1人乗れる大きさのドリルのついた重機だった。
 二人は開通に両手を上げて喜んだ。
 
 
「に、人間!?………あ、あんた方どっから来たべ!?」
 
 
 作業員の魔族の男性が驚いて二人に問う。
 無理もない。本来なら人なんて居るはずも無い場所から現れたのだから。
 
 
「わからない、だが、有難う!これで出られる。出口はどっちへ向かえば良い?」
 
 
 歓喜し訪ねるクロノに、半ば流される様に答える魔族の男性。…彼自身、あまりに飲み込めない事態に、流される様に答える他に何も浮かばなかった。
 
 
「んぁ?お、おぉ。出口はこの坑道を真直ぐ行って、突き当りを左に曲がればあとは看板出てるべ。」
「そうか!サンキュー!よし、行こうぜシズク!」
「はいな!」
 
 
 二人は足早にその場を去って行った。
 作業員は呆然として口を開けて座席に座りながら、そのまま後ろ姿を見送っていた。
 
 
 作業員の言に従い道を進むと、上り勾配の道に自然になっていた。
 二人は作業員の言葉の正しさを実感して、無事に脱出できることを喜びつつ夢中でただひたすら歩き続けた。そして前方に真っ白に輝く光で満たされた出口が見えた。
 
 出口を出ると、そこには大きな機関車のプラットホームらしきものが展開されていた。線路が何本も敷かれてあり、周囲には牽引車の無い貨物車に多くの石が積まれて置かれていた。積まれている石はトルースで見た石にも似ているが、色が少し違うようだ。どうやらここは鉱山だったのだろうか。
 二人はホームに上がった。そこに一台の機関車が前方からゆっくり入ってくるところだった。大きな駆動音と線路を擦る車輪の金属音が耳障りに聞こえる。
 
 目前の機関車は完全にプラットホームに停止した。すると、後方から何やら音がする。その音はレールを駆動する音、後方から登場したのは石を満杯にした沢山の貨物車だった。最後尾の機関車が牽引している。
 貨物車はゆっくりとホームに入り、既に止まっている機関車の連結部と連結した。それが終わると、最後尾の機関車が連結を外し、再び鉱山へ向かってゆっくりと出発する。
 
 
「この列車に乗って行こう。」
 
 
 突然クロノが言った。
 彼女は彼の提案に同意したいところだが、自分達は切符も無い。しかも客車でも無い貨物車に乗るのは不安があった。
 
 
「大丈夫かしら?」
「別に構わないじゃないか。乗れれば街に入れるんだろ?だったら使わない手はない。」
「まぁ…そうね。」
 
 
 彼女は苦笑しつつも同意した。確かに一番手っ取り早い。
 クロノはそう決めると、足早に先頭に止まっている機関車の運転席の方へ駆け寄った。そして、中にいる魔族の男性に声をかける。
 
 
「すまない!一つ頼みたいことがあるんだ!」
 
 
 クロノの呼び掛けに、魔族の男性は面倒そうにゆっくりと振り向く、男は呼び掛けた相手を見て驚愕の表情を見せた。
 
 
「え、ぇえ!?!お、おい…、あんた…昔タンスから出たことあるか?」
「タンス???……え?もしかして、君はあの時の!?!」
 
 
 驚いた事に、彼は昔ゲートで出た先に住む住人だった。まさかこんな形で会えるとも思わず、お互いがお互いの存在に驚くと同時に、懐かしさが込み上げた。
 
 
「本当に覚えが有るのか!?!マジかよ!?うぉお!久々だなぁ!懐かしい!どうしてまたこんな所に?」
「う、うーん、説明が難しいんだが…ははは。」
 
 
 クロノは今まで起こったことを順を追って簡単に説明した。その時にシズクを紹介した。運転士の名はカルロと言い、今もメディーナに住んでいるらしい。
 
 
「…ははは、あんたはいつも変わったことになってんな。ま、安心しな!このMBー1は長距離を走るマシンだからな、交代用の仮眠室が後部にある。あんたらはそこに乗ると良いぜ。ここで会ったのも何かの縁だ。楽しく行こうぜ!」
 
 
 カルロはそう言うと二人を機関車に乗るよう促した。どうやら出発時刻らしい。
 彼は二人が乗り込んだのを確認すると最後に乗り、施錠確認を行うと運転席についた。
 
 
「後方よーし!左右よーし!前方よーし!…出発進行!」
 
 
 出発の起動音が鳴り響く。
 システムがオンラインになりエンジンが駆動を始めると、車内にその駆動音が伝わり少々煩く感じた。
 機関車がゆっくりと動き始める。
 線路の継ぎ目を踏むガタンゴトンという音が徐々に早くなる。
 空いた窓から風がそよぎ、運転席から見える視界は次々に通り過ぎて行く。鉱山が遠くに見える頃には安定した駆動音に変わっていて、随分と煩く無くなっていた。
 いや、慣れただけかもしれないし、風の音で紛れたのかもしれない。だが、心地よい眠気を誘う揺れが、特にそう感じさせたのかもしれない。
 
 二人は疲れていた。
 沢山眠っていたかもしれないというのに、体と言うものはまったく不思議なものだ。
 様々なことがあり、ようやく安全が確保されたことに安堵したこともあるのだろう。二人は暫く深く眠りについた。
 
 列車は草原の中を駆け抜けた。
引用なし
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【70】CPss2第2話「ボッシュ、ボッシュ、ボッシュ...
 REDCOW  - 07/7/6(金) 16:03 -
  
第86話「ボッシュ、ボッシュ、ボッシュ」
 
 
 機関車はヘケラン山を抜けると西南方向へと進んだ。
 現在のメディーナは首都メディーナの他に2つの都市がある。
 
 一つは過去の時代にパレポリ海軍と遭遇した土地に築かれた軍事都市「南メディーナ」、もう一つは西南に築かれた学問と経済の中心都市「ボッシュ」があった。
 
 クロノ達を乗せた機関車はボッシュの街へ向かって走っていた。
 ボッシュの街へ近付くにつれて人家が見え始め、草原が整備されて行くのが見える。
 街は多くの緑があり、石畳に煉瓦の建物のトルースの雰囲気とはまた違って、暖かみのある明るい町並みが見えてくる。
 
 
「よぉ、着いたぜ!はっはっは、終点だ!さぁ、降りた降りた!っといっても、外にホームはねぇがな。」
 
 
 カルロが大声で眠っている二人を起こした。
 
 
「…ふわぁ………着いたのか?」
「おぅよ!ボッシュの街へようこそ!」
「…ボッシュ。………えぇ!?ボッシュ!?!」
 
 
 クロノは耳を疑った。
 カルロが不思議そうに尋ねる。
 
 
「どうかしたかい?」
「いや、本当にここはボッシュって言うのか?」
「そうだぜ!メディーナの建国の父の名さ!」
「建国の父?」
 
 
 クロノの不思議そうな目に、カルロが自信満々に話し始めた。
 
 
「…その昔、メディーナをパレポリが大船団を率いて恫喝にきた時、ボッシュ様は俺等に勝つ為の策を示し、一致団結して国難の危機から救って下さったのさ。
 それ以来ボッシュ様を慕う俺等メディーナ人は、ボッシュ様が住んだこの地に集まり、ボッシュ様から様々な教えを請い、現在の繁栄を築いたというわけさ。へへ、ま、ガキでも知ってる話さ。」
 
 
 カルロの話はクロノも驚くべき内容だった。
 思わず言葉が漏れる。
 
 
「…へぇ〜。あのボッシュが…」
「お?クロノはボッシュ様と会ったことがあるのかい?」
「あ?あぁ、まぁ、それなりに…」
「おぉ、そいつぁすげぇ!一度話を聞かせてくれよ。」
「ははは、あぁ。まぁ、いつか…な。」
 
 
 クロノは苦笑しつつ機関車を降りた。
 カルロが降りたクロノ達に線路からの出口を教えてくれた。二人はそれに感謝を告
げると、彼の言葉に従ってまず線路をでて駅前の広場に出た。
 
 街はこの時代のトルースの同様に混み合い騒がしかったが、活気が違っている様に思えた。何より人々には笑みが溢れ、談笑しながら通りを行き交っていた。
 クロノはこの表情の違いに正直に驚いたと同時に、メディーナの活気を見て自分の知る過去のトルースの姿を重ねていた。
 
 
「クロノ、これからどこへ行くつもり?」
「そうだなぁ、折角ボッシュの名前が出たんだ…ボッシュに会いに行ってみようぜ。」
「さっきも知り合いみたいな話振りだけど、どこで知り合ったの?」
「ん?大昔からの縁さ。」
「何それ?」
「ははは、まぁ、とりあえず何処にいるか探してみようぜ。ま、随分と有名らしいからすぐわかりそうだな。」
 
 
 二人は街を歩いてみた。すると、二人の予想に違わずボッシュの名は沢山出て来た。しかし、その量は半端じゃ無かった。
 
 ボッシュ通り、ボッシュ銀行、ボッシュビル、ボッシュ書店、ボッシュ料理店、ボッシュ病院………街の至る所にボッシュの名が溢れていた。考えてみれば当然で、この街の名はボッシュなのだから、至る所にボッシュの名があっても何ら不思議は無い。
 二人はどこから取っ掛かりを付けて良いのかわからない程の量に困惑していた。
 
 
「なんなの?全部ボッシュじゃない!」
「す、すげぇなぁ。さすが街の名もボッシュ。ボッシュづくしってわけだ。逆に分かりにくい。」
「こういう場合は書店や図書館に限るわね。さっき見たボッシュ書店へ行ってみましょう。」
「あぁ。」
 
 
 ボッシュ書店は駅のすぐ近くのボッシュビルの1階にある書店で、その上にはボッシュ料理店の看板がある。書店の中は広く様々な書籍が所狭しと並んおり、本の種類によってコーナーが分けられていた。
 店頭には週刊誌などの雑誌が並び、奥には小説や写真集など様々な専門書が並んでいる棚があった。
 シズクは迷わずに教育書籍のコーナーに進んで行った。
 
「教科書のコーナー?」
「そう。ここが一番私達には必要なコーナーね。」
 
 シズクは棚の本を物色する。
 その中から近代メディーナという、高校教育用の教科書を取り出し目を通す。
 
 
「メディーナ語が読めるのか?」
「えぇ。メディーナ語は元はジール語なの。元々魔族の人達は一番ジールの文化を多く継承しているから。でも、それは基本的には世界の言語も同じで、難しそうに見えるけど、単語の文法的語順の関係とかは現代ガルディア語と一緒なのよ。あ、ほら、ここの並びなんか見てみて。この単語はガルディア語もジール語から派生したということがわかる言葉ね。」
「本当だ。これは国って言葉か?」
「そう。基本的には大きくガルディア語と違わないから、ガルディア語からメディーナ語に入るのはそう難しいことじゃないわ。」
「へぇ。」
「でも、面白いことがわかったわ。この国ではガルディアの人々も本当に多く暮らしているそうよ。だから教科書もほら、そこなんか表紙のタイトルはメディーナ語だけど、ガルディア語の教科書よ。まぁ、町中でも結構ガルディア語の看板もあったしね。」
 
 
 シズクはその書籍を指差す。
 クロノはそれを手に取り開いた。
 
 
「本当だ。」
「この本屋にはガルディア語の本も多く置いてあるわ。第二言語的位置付けみたいね。クロノも自分で見たい本を探してみるといいわ。」
「あぁ、じゃぁ、俺も他を見てくる。」
 
 
 二人は暫く本を立ち読みした。
 そこで分かったことは、カルロの言っていた通りの事が歴史として残っており、まだボッシュは生きており、この時代では国立研究院というメディーナ科学の最高機関で研究を続けているということであった。
 二人はそれを知ると、早速マップコーナーで立地を調べて店を出た。
 
 国立研究院は街のど真ん中にドデカイ敷地を構える複合教育施設で、国立研究院施設を中心にボッシュ大学やボッシュの街の教育機関が林立している。
 敷地の広さから、徒歩で行くより駅前から出ている無料送迎バスを利用した方が良いとガイドでは解説しており、二人もバスを利用することにした。
 駅から研究院までの所用時間は30分。
 多くの木々で囲まれたキャンパスの中に、手入れの行き届いているちょっと変わった庭園があり、その庭園の中央に目的地である国立研究院の豪華で奇抜な建物が立っていた。
 門前には警備員が立ち、鋭い視線を周囲に張り巡らせている。そこにクロノ達が門を通過しようとすると、警備員がその進路を妨害した。
 
 
「許可は受けていますか。当研究院への出入りは一般の方の立ち入りを禁止しております。」
「許可は無いが、古い友人のクロノが来たとボッシュに伝えてくれないか。」
「そのような要求はお受けできません。紹介状または許可証が無いのでしたら、残念ながらここをお通しすることは出来ません。お帰り下さい。」
「そこを何とか頼む!ボッシュに伝えてくれるだけで良いんだ!な?上司か誰かでも良いから俺の言っていることを伝えてくれないか。」
「申し訳有りませんがこれは規則ですので、我々の一存で変更できることではありません。お帰り下さい。」
 
 
 そう言うと警備員は二人を押し戻すかの様に一歩前進してきた。
 クロノは手荒な真似はしたくなかったので、仕方なく引き下がることにした。
 そんな彼にシズクが不満そうに言った。
 
 
「強引に入っちゃえばこっちのもんだったんじゃないの?知り合いなんでしょ?」
「まぁな。でも、この国でもお尋ね者はさすがにまずいだろ。」
 
 
 クロノはそう言うと苦笑した。
 シズクもそれをみて、なるほどと納得して自分も苦笑していた。
 
 二人はバスで再び駅へ戻ることにした。
 バスが駅に着く頃には空は夕焼けの黄色に染まり、二人は空腹を感じ始めていた。
 
 
「…腹減った。今日の宿を探そう。」
「そうね。」
「金も有ることだし、安宿は良くないんだろ?普通の所に泊まろうぜ。」
「フフフ、学習したのね。」
「…おいおい。」
 
 
 二人は駅前のホテルに入った。
 そのホテルはそれなりの外観を備えた街に合った洗練された雰囲気を持っており、エントランスからフロントまでの作り込みは、トルースのホテルにも負けない静かだが品の良いものだった。
 
 
「いらっしゃいませ。」
「泊まりたいんだが、部屋はあるか?」
「お客さまは、御予約はされていますか?」
「いや、すまないがしていない。なんとかなるか?」
「わかりました。では、どの程度のお部屋を御所望でございましょうか?スイート、ビジネス、エコノミーの3タイプを御用意しております。エコノミーでしたら価格も50Gとお安く御提供させてい頂いております。」
 
 
 クロノはシズクの方を振り向いて聞いた。
 
 
「どうする?」
「そうねぇ、ビジネスでも良いんじゃない?」
「そうか?なら、ビジネスで頼む。」
「ビジネスでございますね?わかりました。価格は100Gですが宜しいですか?当館では料金を前払いで頂いております。」
 
 クロノは財布をポケットから出そうと手を突っ込んだ。しかし、ガサゴソとするが、あるはずの物が無い。…額から汗が滲む。
 シズクがいつまでたっても財布を出さないのを見て心配し、恐るべき予想を察知する。
 
 
「もしかして…?」
「…あぁ。」
「どうして!?ちょっと、ちゃんとよく調べてよ?」
 
 
 二人のやり取りを見て困惑する従業員をよそに、二人は必死に探し始める。
 
 
「お客さま…」
「ちょ、ま、待ってくれ!今探しているから。」
 
 
 クロノは必死で探したが、元々軽装なので調べるべき所は限られていた。
 
 
「……ない。」
「………」
 
 
 二人は思わず石の様にその場にピシっと固まった。
引用なし
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【71】CPss2第3話「老紳士」
 REDCOW  - 07/7/13(金) 21:58 -
  
第87話(CPss2第3話)「老紳士」
 
 
 従業員は困惑の表情で二人を見ているしかなかった。
 
 そこに待ち合いのソファーで座っていた、白いスーツを着た老紳士というに相応し
い威厳と品を備えた男性が、フロントの方へにこやかにゆっくりとやってきた。
 
 
「君、良いかな?」
「はい?」
「こちらの方々の費用は私が払おう。部屋はいつもの部屋で良い。」
「宜しいのですか?」
「あぁ。」
 
 
 そう言うと老紳士は財布から1000メディーナゴールド分の小切手を取りだし払った。
 二人は驚いて老紳士を見た。
 
 
「あの…」
「いやぁ、良いんだ。さぁ、鍵を貰いなさい。」
「え、いや、そんな受け取れません。」
「ハハハ、若者は年寄りの厚意は素直に受け取るものだよ。」
 
 
 クロノは老紳士の笑顔に圧倒され、それ以上何も言えそうな気がしなかった。彼は老紳士の申し出に乗り、部屋の案内の説明を受けて鍵を貰った。
 二人は老紳士に深々と礼をすると、老紳士は笑顔で二人に言った。
 
 
「まぁ、お腹も空いているでしょう?どうです、私達とご一緒に食事でも?」
「食事まで!?そんな、見ず知らずの方にそのようなことまで…」
「いや、夫婦二人だけの食事より、お若いお二人を入れた食事の方が楽しい。食事は沢山の人と囲んだ方が楽しいと、そうは思いませんか?」
「た、確かに。…では、お言葉に甘えて。」
 
 
 二人は彼の食事の誘いも受けると、二人をロビーのソファに座る一人の年配の女性のもとへ案内した。
 
 
「私の妻です。」
「どうも。初めまして。お若い方とお食事できるなんて、今日はいい日ですわ。」
 
 
 彼が紹介した婦人はとても若々しく品の良い笑顔で、二人に静かに挨拶をした。
 クロノは彼女に手を差し出し握手を求めた。それに対し彼女は静かに応じ、二人と握手を交わした。それが終ると、老紳士夫妻の厚意にクロノは再び礼を伝えた。
 

「御配慮、有り難うございます。」
「フフフ、いいえ。礼には及びませんわ。ね?」
「ハハハ、まぁ、どうぞ我々の部屋へご案内しよう。」
 
 
 老紳士がそう言うと、どっからともなくそそくさとホテルのボーイ達が現れ、夫妻と二人の荷物持ち、彼らの上司が鍵を持ち先頭に立って老紳士夫妻とクロノ達を夫妻の部屋へ案内してくれた。
 その様子は半ば大名行列の様で、夫妻と二人の後を数人のボーイが綺麗に2列に並び進む異様な光景が展開されていた。
 部屋は最上階の西向きのスイートで、外側の壁は窓になっていてボッシュの街の夜のパノラマがネオンの光りを放っており、それはまるで宝石のように輝いていた。
 ボーイ達の上司が老紳士に伝える。
 
 
「こちらがアンダーソン様の今夜のお部屋にございます。」
「うむ。支配人ありがとう。では、早速だが食事の用意を頼みたい。」
「はい、畏まりました。早速ご用意致します。」
 
 
 二人は老紳士の言葉に驚いた。
 まさかあの中年の従業員が支配人だったとは…、確かにボーイよりは上司だろうことは想像ができたが、支配人だとは思いもしなかった。二人はこの老紳士がどのような人物なのか、少々不安を感じ始めていた。
 
 食事の用意は驚く程早くに整った。
 ものの五分もしない内に、入口から次々と料理が運ばれて来て食卓に並んだ。
 料理長らしき魔族の男性がメニューについて説明すると、老紳士はチップを渡して人払いをした。
 部屋にはクロノ達と夫妻だけになった。
 それを確認すると、老紳士が笑顔で言った。
 
 
「さぁ、頂きましょう。」
 
「では、お言葉に甘えて頂きます。」
「有り難うございます。頂きます。」
 

 二人はとにかく空腹だったので食べに食べた。
 もはやここまできてしまったらどれだけ食べようが多かれ少なかれ結果は同じ。ならばとばかりに二人の頭で弾き出された結論は明快であった。
 老夫婦はその様子をワインを飲み、マイペースに料理を口に入れつつ見ていた。
 クロノはある程度腹が満たされた段階で、コップの水で喉を潤すと老紳士に話し掛ける。
 
 
「なぜ、俺達の食事や宿の面倒を見てくれたのですか?俺はあなたを知らない。初対面だと思うのですが?」
 
 
 老紳士はクロノの質問にワインを一口飲んでから答えた。
 
 
「…いやぁ、似ているんですよ。」
「似ている?」
「そうです。私の古き記憶にある人物にあなたがよく似ておられたからですよ。あなたの顔を一目見た時からそうしたいと思いました。」
 
 
 クロノは老人の言葉掴めなかった。
 たぶん、自分に会ったことがある人間なのかもしれない。しかし、自分の記憶を辿ってもそれらしい顔は思い出せない。特に、こんなに立派な身なりの人間と親しい付き合いをした覚えは無かった。
 もしかしたら、自分とよく似た人がいるのかもしれない。もう少し先を聞いてみることにした。
 
 
「その方はどんな方なんですか?」
「私の命の恩人ですよ。その人がいなければ…今の私はいなかったと言っても過言じゃない。だが、その方は遠い昔に不運な運命を辿ってしまった。もう…二度とは会えない。その当時の私には今程の力は無かったので、結局恩返しはできずに終わってしまった。」
「それで、俺を通してその人に恩返しする気分になろうと?」
「はっはっはっ、まぁ、そんな所ですよ。若い時は全力で力を得ようとしましたが、今になってみれば、その力をもってすら過去を埋めることはできないのですよ。哀しい現実です。ははは、なんかしんみりしちゃいますな。」
 
 
 老紳士は微笑むとワインと一口飲んだ。
 そんな彼に婦人が微笑んで話しかける。
 
 
「いやねぇ。あなたったら。でも、皆さんはラッキーね。この人はいつもこんなにしゃべる人じゃないのよ。ね?」
「おいおい、私をさも暗そうに言わんでおくれよ。」
「あら、そう?」
「ははは、お前にはかなわんな。確かに何年ぶりだろう?こんな楽しい夕食を食べたのは。あの子が生きていれば、お嬢さんくらいの歳になるのかねぇ。」
「あなた、その話はよして。お客様の前で失礼よ。」
「あぁ、すまん。」
 
 
 そう言うと老人はワインをまた一口飲んで外を見た。
 窓からはメディーナ国立研究院の森が見える。
 
 
「あの、聞いて良いですか?」
「何かな?お嬢さん。」
「まだ、私達自己紹介をしていません。私はシズクです。そして彼はクロノです。」
「クロノ!?」
 
 老紳士の驚きの反応に二人は身構える。
 今まで和やかだった会食の雰囲気は凍りついた。
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【73】CPss2第4話「恩」
 REDCOW  - 07/7/24(火) 19:29 -
  
第88話(CPss2第4話)「恩」
 
 
「…なにか?」
 
 
 緊張が走る。
 張りつめた空気の中、クロノが老紳士に静かに問い掛けた。
 彼の問い掛けに、老紳士は姿勢を正すと、深くイスに身を沈めて答えた。
 
 
「いや、まさかな。…これは私の独り言だと思ってくれていい。私の名はフリッツ・アンダーソン。元はトルースに暮らす商人でした。だが、御存じの通り、ガルディアは今はもう無い。私はトルースから逃れて、このメディーナの地で商業を営んでおります。妻の名はエレン。」
 
 
 老人はそう話すと、イスから起き上がり、ワイングラスに手を伸ばした。彼は一口飲むと、一息呼吸して外の方を見ていた。
 わざとなのか、彼は目を合わせようとはしない。だが、その窓に映る表情はするどく鋭
敏な頭脳を働かせている様に思われた。
 クロノは外を眺める彼に倣い、外を見つめる老紳士に視線を合わせて話した。
 
 
「…あなたの仰る恩人とは、俺のことなのか?」
「…そう、思われますか?」
 
 
 クロノの静かな問いかけに、老紳士も静かに問い返した。
 クロノは正面のフリッツと名乗る老紳士が「自分の記憶の中にあるフリッツ」なのか…そして、そのフリッツが何故自分と接触したのかを考えていた。だが、答えは目前にある。元来深く考えるより行動することを優先する彼は、迷わず正面からぶつかる事にした。
 
 
「…少なくとも、あなたは俺と過去の恩人が似ていると思っているからこそ、この夕食に招待したわけだ。」
「…そうです。だが、私にはあなたが本人だと言う確証は無いし、そう思う根拠もない。確かに似ている。しかし、それもよく似たそっくりさんだと思っているにすぎない。第一、私の若い頃の話です。もし生きているなら、もう良い年ですな。」
 
 
 老人の言葉はもっともだ。
 彼の話は過去の人物の話であり、当然彼の言う通りに相当の年齢に達しているだろう。
 
 
「…確かに。だが、俺も…あなたを何故か知っている。」
「…ほう、是非聞かせて頂きたい。」
 
 
 クロノは彼の求めに頷き応じた。
 一息付くと、ゆっくりと話し始める。
 
 
「…あれは、俺の時間で五年前の話しだ。
 俺はヤクラの奴にはめられて、冤罪で牢に入れられた。
 だが、俺はそこに留まるつもりは無かった…」
 
 
 ー 五年前 ー
 
 
 …刑務所はとても寒かった。
 
 
 ガルディア大陸は北に位置しており、冬は雪が降り、夏もそう暑くならない。
 当時の季節は夏の終わり。…夜は夏と言えども寒かった。
 
 
 クロノは外が夕焼けになる頃を待って動き出した。
 看守を倒すことは容易かったが、道が入り組んでいて何処が出口なのかわからない。
 特に監獄に入る前に気絶させられていたために、何処をどう通ってきたのかまるでわからなかった。脱出するためには一つ一つ道を探るしかない。彼は一つ一つの道を慎重に探し歩いた。そして、その道の先で拷問部屋を見つけた。
 
 中に入ると人の気配がした。
 初めは亡霊かと思ったが、よく見ると古びた骨董品並みの処刑道具に人が仕掛けられていた。
 
 
「おい大丈夫か?今助けてやるよ。」
「あぁ、助かった。死ぬかと思ったよ。俺はトルースでグッズマーケットやってるフリッツだ。いやぁ、まさか、こんなことになるとは思わなかったよ。助かったぁ。」
「どうする?俺についてくるか?」
「いや、自由になれば何とかなる。それに先を急いでいるんじゃないか?俺は荷物を探してから出たい。」
「1人より2人の方が心強くないか?」
「まぁな。はは、出口で会えたらよろしくな。」
 
 
 フリッツはそう言うと荷物を探しに走って出て行った。
 クロノはその後刑務所を脱出し、助けにきたルッカと共にドラゴン戦車を倒し、マールと共にゲートから現代を脱出したのだった。
 
 
「…あの後、無事に出てからあなたの店に行った時、あなたはお礼にミドルポーションをくれたよな。エレンさんはあなたのことを心配していたから、無事帰って来たあの店で見せてくれた笑顔が忘れられないよ。」
 
 
 クロノの話に、フリッツは勿論、彼の隣に座るエレンも目をパチクリとしていた。
 
  
「…信じられん。まさか…あの話は本当だったのか。」
「あの話?」
「…あなたは、いや、殿下は千年祭のパレードの時にマールディア王女様と共に『未来を救った』という名目で祝われていたではないですか?…私共市民の側からしたら、当時は何がなんだかわからなかったが、…今の貴方の姿がそれを意味するのであれば…本当だったのかと。」
 
 
 フリッツは自分で話している今ですら半信半疑だった。だが、今目前にいる存在はどう見ても過去の記憶にあるその人としか言いようがなかった。
 クロノもまた、自分が出会った人物の未来をこの目で見る事になるとは、夢にも思わない気分だった。困惑する気持ちはお互い様であった。
 
 
「…確かに、俺にも説明しようがない。だが、俺が本人であることに変わりはないとしか言い様が無い。証明する根拠も物証すらも無いけどな。あと、殿下はやめてくれないか?今は殿下でもなんでもない。」
「いや、私の監獄のことを知っている人間はそうはいない。まして、どうして抜けられたかを知っている人間は1人しかいない。あなたが紛れも無く本人であることは確かでしょう。
 …しかし、驚いた。まさか25年目にして恩返しする時が来るとは。
 …神の思し召しだ。」
 
 
 フリッツの言葉に、クロノは静かに言った。
 その目は真剣だ。
 
 
「…恩返しか。なら、あなたはこんなことは可能か?」
「どんなことでしょう?」
「国立研究院に入る許可を取ることだ。」
 
 
 フリッツの眉が動く。一瞬険しい表情を見せたが、それはほんの一瞬であった。
 
 
「ほう、可能ですが、何故研究院などに?」
「ボッシュに会いたい。たぶん、今この時代でマールを救い出す策を持っている奴はボッシュしかいない。」
 
 
 クロノの言葉はフリッツの表情を曇らせた。
 
 
「マールディア様が………、何があったのです?」
 
 
 クロノは思わず顔をうつむかせ言った。
 
 
「パレポリにさらわれた。」
「なんと………、」
 
 
 クロノはこれまでの話をフリッツに話した。
 フリッツはその話を黙って静かに聴き、聞き終えると少し考えてから答えた。
 
 
「…わかりました。では、しばしお待ちを。」
「えぇ。」
 
 
 そう言うとフリッツはテーブルに置いてあるベルを鳴らした。
 すると、ベルボーイがやって来た。
 
「御用でございますか?」
「ペンと紙を持って来て欲しい。」
「畏まりました。すぐにご用意致します。」
 
 
 ボーイが言うや否や、すぐに後方から新たなボーイが現れて、ペンと紙がフリッツの目前に用意された。
 
 
「有難う。下がってくれ。」
 
 
 ボーイは一礼すると、静かにその場を去った。
 フリッツはペンを持つと、紙にすらすらと文を書き始めた。
 そして書き終えると、クロノにそれを渡した。
 
 
「これを研究院の入口で渡せば大丈夫でしょう。」
「これは…」
 
 
 そこにはフリッツによるボッシュへの紹介状が書かれていた。
 
 
「私からの紹介状です。それさえ有ればこの国の大抵の場所は入ることが出来ます。まぁ、会ったばかりで私のことを信用しろと言うのも難しいでしょうが、どうか信じてお使い下さい。」
 
 
 フリッツはそういうとにっこりと微笑んだ。
 婦人のエレンも微笑んでいた。
 クロノは二人に感謝の気持ちを込めて、深々と頭を下げた。
 
「有り難うございます。」
 
 フリッツは彼の礼に一瞬物を言うのを忘れた。
 彼の姿からは、何かオーラとでも言うのだろうか、とても常人の持ち合わせていない威厳の様な力が感じられた。
 
「あぁ、礼など要りません。頭を上げて下さい。今日は良い夕食だった。こちらこそ有難う。」
 
 そう言うと、フリッツはベルを鳴らした。
 後方からボーイが歩いてくる。
 
「さて、お疲れでしょう。今日は有り難う。私の名刺を渡しておこう。普段は飛び回っているが、ご連絡が有ればいつでもお力になります。」
 
 フリッツはポケットから名刺入れをとり出すと、クロノに手渡した。
 名刺にはアンダーソン・コーポレーションという企業名と連絡先、そして彼の名前が出ていた。クロノはこの名前に昔の記憶が呼び出された。
 
「あの、フリッツ。アンダーソンって、あのアンダーソン?」
「あのとは?」
「いや、王室ご用達のアンダーソン社だろ?」
「えぇ、仰る通りです。」
 
 クロノは今さらながら彼の身なりの理由が理解できた。彼の目前にいる人物は、ガルディア王国時代から王国を代表する商会の息子だったのだ。
 フリッツは側に来たボーイに言った。
 
 「お客様が部屋に戻られる。お部屋へ案内してくれないか?」
 
 ボーイは頷くと、二人のイスを引き部屋へ案内した。
 クロノ達はフリッツ夫婦にもう一度礼を告げると、ボーイに案内されて自分達の部屋へと去って行った。
 
 
 二人だけになった部屋。
 エレンは夜景を見ながら微笑んで言った。
 
 
「…不思議なこともあるのね。」
 
 
 彼女の言葉は彼も思っていた。
 フリッツはワインを一口含むと、彼もまた夜景を見て答える。
 
 
「…そうだな。だが、情報は本当だったらしい。…となれば、満更悪く無いではないか?」
 
 
 フリッツはそういうと国立研究院の森を見た。森の向こうには壮麗なモニュメンントタワーを持つ国立研究院があり、タワーの頂上が赤くサインを出している。
 
 
「そうね。こんな時代だからと暗いことばかりを信じるのは、…いい加減に終わりにしたいものね。」
「あぁ。」
 
 
 夫婦は暫く窓を見つめながら語っていた。
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【74】CPss2第5話「条件」
 REDCOW  - 07/8/1(水) 11:15 -
  
 毎度ご覧下さっております皆様へお詫び
 
 ご覧の通りと言うか、クロノ・センターの更新もままならずこちらでの更新も連載と言いながら遅れて申し訳有りません。ここしばらくは私生活の仕事の処理など色々と山積しておりまして、サイトの更新が思うように行っておりません。ただ、この掲示板上での連載は今後も掲載を続けますので、センターのトップが更新されていなくとも、こちらの更新は出来る限り続けますので、宜しくお願いします。

第89話(CPss2第5話)「条件」
 
 
 翌日、クロノ達はフリッツから貰った手紙を持って再び国立研究院の門前に来ていた。
 門前にいる警備員はクロノ達に寄ってくる。
 
「失礼ですが、許可証または紹介状はお持ちですか?」
「許可証はないが、この手紙を貰ってきた。これでは駄目だろうか?」
 
 クロノはそう言うと警備員に手紙を手渡した。
 警備員は手紙を受け取ると、表のサインを見て答える。
 
「アンダーソン様より御紹介の方ですね?」
「あぁ。」
「確かに手紙を確認致しました。既にお通しするよう許可が出ておりますので、どうぞお通り下さい。」
「へ?あ、あぁ…ありがとう。」
 
 クロノ達はあまりに呆気無く手紙の中身も確認もせずに通してくれたので気が抜けた。門を潜り建物の入口に入ると正面にカウンターが有り、薄い桃色のスーツを着た若い女性が1人座っていた。
 
「ようこそ国立研究院へ。許可証はお持ちですか?」
 
 クロノは彼女の言葉に持ってきた手紙を渡した。受付嬢はその手紙を受け取り、サインを確認するとクロノに返した。
 
「確かに確認致しました。今日はどの様なご用件でお越しになりましたか?」
「ボッシュに会いたい。会えるか?」
 
 クロノの言葉に女性は困った様な顔をして返答した。
 
「申し訳有りませんが、ボッシュ所長は現在不在です。代理の者として所長に会いたい方は上級研究主任のルッコラ博士が応対しておりますので、ルッコラ博士にお取り次ぎ致します。では、応接室にご案内致しますので、こちらに。」
 
 そう言うと女性は立ち上がりカウンターから出ると、二人を応接室に案内した。
 応接室は入口から入って右の通路の突き当りに有り、中に入ると大きな窓から陽の光が入り、外の綺麗に手入れされた庭園が見える。
 窓の近くにテーブルとソファーが有り、二人はそこに座るよう促された。二人が座ると女性は暫くそのままお待ち下さいと言い残して、部屋を出ていった。

 二人はソファで寛いで待つことにした。
 部屋はしんと静かで、まるで時が止まったように音のしない落ち着いた空間だった。
 
 少しして先ほどの受付嬢とは違う女性が紅茶とお菓子をもって入って来た。彼女もまた薄桃色のスーツを着ていた。制服だろうか。彼女はテーブルに静かに置きにっこりと微笑んで挨拶をした。
 そんな彼女に二人は礼を言うと、女性は会釈をして部屋を静かに去って行った。
 二人は遠慮無くお菓子と茶を飲みルッコラ博士の登場を待った。しかし、数分待っても待ち人は来ない。
 
「遅いわねェ。」
「あぁ、まぁ急ぐわけじゃない。久々のゆっくりした時間だ、暇を楽しもうぜ。」
「それは良いけど、何するの?」
「そ、そうだな………しりとりでもするか?」
 
 シズクはクロノの意外な言葉に笑った。
 
「ハハハ、もう、何を言い出すかと思えば。えぇ、良いわよ!受けて立つわ!どちらから始める?」
 
 二人はしり取りをして暇を潰した。
 それから2時間後…
 
「り?またー?えー、う〜ん、無い!降参よ!もう。しかし、遅すぎるわ!どうなってるのかしら?」
「あぁ、さすがに遅すぎる。俺も疲れてきた。」
「こうなったら、こっちから出向きましょう!」
 
 シズクはそう言うとドアの方に歩いて行く。
 そして、ドアのノブに手をかけた時に、スピーカーがオンになって声がした。
 
「…遅くなりました。申し訳ない。私がボッシュ博士の代理を務めるルッコラです。」
 
 その声は男性で、年齢は思ったより若いだろうか。
 そんな落ち着いた声の主にシズクは憤りの声を上げる。
 
「キー!今頃スピーカーで!もう!」
「お怒りの御様子ですね、お嬢さん。では、私からお二人に是非受けて頂きたいお話があります。これはボッシュ博士の意志でもあるので、聴いて頂きたい。」
 
 二人は彼のボッシュの意志という言葉を聴いて首をかしげた。
 そんな彼らの疑問にお構いなく彼の話は続く。
 
「お二人にはここから東、首都メディーナより北東にある古代遺跡付近にある『試練の洞窟』に行って、試練を受けて頂きます。その試練については、お二人なら簡単でしょう。それを無事クリアした証を持ってまたおいで下さい。その時にボッシュ博士とのお話を取りなしましょう。」
「なんだと?…ボッシュと会うにはフリッツの紹介でも駄目なのか?って、伝わるわけないか。」
「いや、お二人の声は伝わっておりますよ。先程からのしりとりも、実に楽しそうに話している声が聴こえておりました。」
 
 ルッコラの話に二人が赤面する。
 
「…アンダーソン氏の紹介は承知しております。しかし、ボッシュ博士は必ず面会希望者に試練の洞窟のクリアを条件としております。これは彼と会う絶対条件なのです。」
「ここには今いないのか?」
「彼は所用で留守です。お会いしたくても今回は無理です。しかし、仮に居たとして、どんなに親しくとも彼は会わないでしょう。物事には順序がある。その順序を守れぬ相手をあなたならどう思いますか?」
「…一理ある。わかった。その試練、受けよう。」
「わかりました。では、受け付けの者に列車の切符を渡してありますので、お受け取り下さい。往復分あります。それで試練の洞窟へお向かい下さい。では、ご健闘を。」
 
 そう言うとスピーカーはオフになった。
 クロノが椅子から立ち上がる。
 
「よし、行こう。」
 
 シズクは彼の物分かりの良さが不可解だった。それに、彼の言う試練というものの内容も気になった。
 
「本当に、受けて良かったの?」
 
 彼女の疑問に対して、彼の方は既に割り切っているようだ。
 
「なに、簡単だと言っていただろ?それさえクリアできないなら、確かに会う資格ねぇじゃん。俺は受けるぜ!」
「ん、もう!面倒なことばっかり。」
「ははは、ぼやくなよ。」
「もう、あなたと旅した時点で諦めてますよーだ!ベー!」
 
 シズクは舌を出してクロノに意地悪く返答した。
 クロノは笑って部屋の戸を開けて出た。その後は受付嬢から切符を貰い、早速向かうことにした。
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【75】CPss2第6話「発車」
 REDCOW  - 07/8/3(金) 14:18 -
  
クロノプロジェクト第90話(シーズン2第6話)「発車」
 
 
 ボッシュ駅
 
 
「えーと、えーと、試練の洞窟へ行くのは…」
 
 シズクは駅の路線図を眺めていた。
 路線図には様々なラインが出ていた。確かに首都より先に試練の洞窟という駅がある。
 
「あったあった、えーと、これは四番線ね。」
 
 彼女に従ってクロノはその後を歩いた。
 改札で切符を見せてホームへ。
 一番ホームから地下の連絡通路に入る階段を降り、そのまま四番ホームへ。
 丁度夕方に差し掛かってきており、多くのビジネスマンや学生が歩き、帰宅ラッシュが始まろうとしていた。
 
 四番ホームへ上ると、そこには既に列車が止まっていた。
 見るとその列車は寝台車になっており、切符の指定席も寝台車に合わせてあった。その列車の終点が試練の洞窟になっており、乗ればそのまま試練の洞窟まで寝ながら行けるらしい。
 
「しっかし、すげーよなぁ。この機関車って奴はトルースのもメディーナのも、でけーのに速いよな。ほんの僅かな未来だぜ?信じられるか!?」
 
 クロノは目を輝かせて見ていた。
 これまでの旅では感心している暇もなかったが、こうして改めて余裕を持って眺めていられる時間が与えられると、初めて見た時同様に驚きと感動を感じていた。
 
「はいはい、そうね。」
 
 そんな彼の感想を他所に、シズクは粛々と事態を運びたい気持ちでいっぱいで、切符を眺めながら目的の車両を探していた。
 
「7号車のA1とA2だから……最後から二両目ね。」
 
 シズクは探しながら考えていた。というのも、他のホームには沢山の人がいたが、このホームにはそれほどの人数はいない。たぶん、このホームは一般客はあまり利用しないホームなのだろう。…つまり、今ここで待っている人々または乗り込む客全てが試練の洞窟へ向かう可能性が有るということ。
 車両は八両編成で寝台車という割には長い列車ではない。途中停車駅に首都メディーナが設定されている所を見ると、そこで新たに乗り込む客または客車の連結があるのだろうか。何より気になるのは、試練の洞窟は「そんなに小規模」な試験なのだろうか。
 
 彼女は書店で見た教科書コーナーの事を思い出していた。
 そこには確かに「対策!試練の洞窟」とか、「絶対受かる!試練の洞窟」などといった受験参考書が一つのコーナーを作る程の大きな割合を占めていた。つまり、この国でこの試験はとても重要なポジションを占めているということ。それがこれほどの小規模な車両で運ばれる事に違和感を覚えた。
 あの時興味も無かったので読まなかったが、仮に年に一度であるなら、この車両だけではなく沢山の本数があるだろう。しかし、このホームは特別なホーム扱いのようで、他のホームに有るような時刻表や広告といった掲示物は無かった。
 何れにせよ、この列車に乗らなければ話は始まらない。彼女は目的の車両を見つけると、先導するように乗車した。
 
 車両の入り口は各車両の端に一つだけ有り、押しボタンを押すとドアが開き入る事が出来る。車内に入るとすぐ向かい側にはもう一つ乗車口があり、向かい側ドア側に廊下が作られていた。廊下に入る前に内扉があり、入り口と客車が隔離されていた。二人の乗車した車両は、左側が8号車への連結部の入り口で、右側が7号車内への扉だった。
 彼女はドアノブを持ってスライドドアを開け入ると、車内は幾つかの部屋に分かれている様で、右サイドには数えたところ4つドアがあり、左サイド壁面には少し大きめの頭から膝丈ほどある大きな車窓が並び夕日が射し込んで輝いていた。幅は人二人分の幅で、すれ違うには十分といった程度だが、その分部屋は広いのかもしれない。
 
 二人の部屋は6号車側ドア付近の部屋だった。部屋のドアにプレートで「A01〜04」と出ており、どうやら二人の他にもう二人いる計算だ。
 
 シズクがドアを開けると、中は正面に廊下と比較すると控えめな車窓とテーブルと呼ぶには小さな棚がはりついている。そして、両サイドに二段ベッドが備え付けられていた。切符に表示されていた指定席のベッドは入って右側の二段で、下がA01で上がA02だ。二人はそれを見て上をシズクが、下をクロノが使うことにした。
 向かい側のベッドには既に横になりながら本を読む15〜6程度の少年が下のベッドに、上にはかなり頭の良さそうな顔をした大学生程度の青年が荷物を整理していた。彼らは二人の入室にも我関せずの態度で無反応だった。彼らの人種は勿論二人とも魔族だ。
 
「やぁ、君たちも試練の洞窟へ行くのかい?」
 
 クロノが問い掛けた。
 二人は彼の問い掛けに振り向くが、何も返事をせず自分の作業を再度始めてしまった。
 彼らの反応に内心腹が立ちつつも冷静に続ける。
 
「なぁ、まぁ、短い間だけど宜しくな。俺はクロノって言うんだ、上にいるのはシズクって言うんだ。」
「宜しくね!」
 
 今度はシズクもクロノの紹介に合わせて笑顔で声を掛けた。すると、彼女の声に反応して二人は「宜しく」とぼそりと答えた。
 覇気の無い返事に、内心彼女もいらいらが積もり始める。
 
「もう、大の男が揃って元気ないわねぇ。どうして?」
 
 シズクの問い掛けに、ようやく大学生風の青年が振り向き答えた。
 
「どうして…って、君達知らないの?」
「何を?」

 その時、車内放送が入り、会話が一時的に止まる。

「この列車は只今より、終点試練の洞窟へ向けて出発致します。現地への到着は9時間後、途中メディーナ駅で停車致します。それでは受験者の皆様、ご健闘をお祈りしています。なお、受験者の皆様は当列車4号車にございます食堂を無料でご利用になれます。ご利用の際は切符をお持ちになってお越し下さい。皆様のご利用をお待ちしております。」
 
 プラットホームでも発車の合図の音楽が流れていた。
 それが鳴り終わると、プシューという音と共に機械的な音が入り、ドアが閉まったようだ。
 
 一瞬の静寂。
 
 ガタンという音と共に、列車はゆっくりと線路を走り始めた。
引用なし
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【76】CPss2第7話「要件」
 REDCOW  - 07/8/11(土) 13:38 -
  
第91話「要件」
 
 徐々に速度が増す。
 次第に加速する早さに合わせて、レールとレールの接続部を渡る時の「ガタン」という音が早くなる。
 
「…走り出したわね。で、何を教えてくれるのかしら?」
 
 彼女の問い掛けに、青年は静かに答えた。
 
「あぁ、試練の洞窟のことだよ。」
「え、それがどうかしたの。」
 
 シズクの反応に、青年より先に下の少年がぶっきらぼうに言った。
 
「はぁ、何も知らないのか、マジ?…この列車に乗ったら皆敵だと思わなきゃな。この列車から試練は始まってるのさ。」
「…?、何それ。どういうこと?…ねぇ、私達は何も説明を受けてないのよぉ。あなた頭良さそうだから説明してくれない?」
 
 彼女はぶっきらぼうな少年を無視し、青年に向けて笑顔で問い掛けた。
 青年は彼女の笑顔の問い掛けに、先ほどまでの冷たい表情とは180度違った含羞む様な照れ笑いを浮かべて答えた。
 
「うーん、…仕方ないなぁ。試練の洞窟はメディーナ人にとって出世できるかどうかの重要な試練なんだ。ここをクリア出来ない人は、メディーナの最先端産業に務めることはまず無理だ。だからみんな必死に勉強したり修行をしてここに来るんだ。」
「へぇ、勉強するの。でも、修行って何?」
「ははは、本当に何も知らないんだなぁ。修行は魔力を高める訓練さ。ここは知恵だけじゃ乗り切ることは出来ない。」
 
 そう言うと青年はベッドから降りた。そして、片腕を二人に見えるように差し出し目をつぶり集中を始めると、彼の片腕にボウッと青い輝きが集まり、光の玉が浮かび上がった。見事な水の魔力の集中が伺える。
 
 「…強い魔力と、それを駆使する能力が無くてはクリア出来ないんだ。だから皆必死さ。魔族だからって誰もが強い魔力を持って、思い通りの魔法を使えるわけじゃないからね。」
 
 彼は話しの区切り良い所で魔力の集中を解き、光の玉を消した。
 そして二人に問いかけた。
 
「人間とのハーフなら尚更キツイだろう。だけど、見たところ君達は純粋な人間の様だね、大丈夫なのかい?」
 
 彼の問い掛けに、彼女は何ら不安な表情を浮かべず笑顔で答えた。
 
「私達は大丈夫よ。ね〜?」
 
 彼女がクロノに笑顔で同調を求める。クロノは笑いながらコクリと頷いてみせた。
 そんな二人のやり取りに青年も少年も疑問の表情は隠さなかった。
 
「本当かい?…しかし、何故魔族じゃないのに。まぁ、最近はハーフも増えたから人間の外見をしてる人も見かけるが、君達はどう見てもオリジナルだよね?」
「そうね。でも、魔力なら大丈夫よ。ほら!」
 
 彼女は青年がしたように片手を差し出し、そこに火の玉を浮かべて見せた。
 クロノも彼女の真似をするように片手を出して、そこに稲妻を走らせて見せた。
 青年も少年も驚いた。彼らは純粋な人間である二人が魔法を使っただけではなく、青年がしたような魔力の集中の為の時間をおかずに即座に魔力を集中し、とても小さな力で押さえた上で放出して見せた事だった。
 
「…ホントだ。」
「ね?大丈夫でしょ。」
「…君達は一体。」
「そんなことどうでも良いじゃない。それより折角こうして出会ったんだから、短い間でも楽しく過ごしましょう?」
 
 シズクはそう言うと青年に握手を求めた。
 青年は彼女の提案に笑顔で手を差し出したが、少年は違った。
 
「フン、おまえらわかってねぇな。俺達は試練を受けると決めた時点で敵同士なんだぞ。馴れ合ってる場合か。それとも、余裕だからそんな感覚でいられるのか。フン!」
 
 少年の反発に、彼女の顔から笑みが消える。
 
「…なによ!別にその場限りの戦いじゃない、なんでそんなのにストレス溜めなくちゃならないのよ!馬鹿馬鹿しい!」
 
 彼女の突然の豹変振りに青年は勿論、クロノも驚く。しかし、少年は全く怯まず言った。
 
「へん、どうせ現実の試験を知ってびびるのがオチさ。そうそう、そこのにーちゃんが言い忘れてるようだが、試験は3人一組だぜ?あんたらもう1人の宛はあるのか?ま、精々頑張るんだな。」
 
 少年は話し終えると、また横になり本を読み始めた。
 
「なんなのよ!!もう!」
「…シズク、少し歩こう。」
 
 クロノの呼び掛けに、彼女は怒りを渋々収めて同意した。
 彼らが部屋から去ると、青年は少年へ振り向き様水の玉を投げはなった。
 少年は冷静に片手を出すと、水の玉を受け止めた。
 
「にーちゃん、何のつもりだ。」
「…君は彼らにああは言ったが、宛ては有るのかい。」
「…。」
「僕はベン。ゾガリ一族の三男坊ってところだ。君の手の平のタトゥー、見たところイジューイン家の紋章だね。」
「…イジューインなんて関係ねぇよ。俺は奴らの系図にはいないからな。」
「そうなんだ。…じゃ、もう一度聞こう。何かの縁だ。もし宛てが無いなら、僕と組まないか?」
「…考えておく。」
「…そうか。なら、それはOKだと解釈しておくよ。」
 
 少年は青年の言葉に反応せず、尚も本を読んでいた。
 青年はそんな彼に微笑みを浮かべると、窓の方を向き外を眺めた。
 外は街を離れ、一面草原の道を進もうとしているところだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
作者のREDCOWです。

ここしばらく不安定な更新で申し訳有りません。ご迷惑お掛けしておりますが、サイトが更新されていなくても、こちらはなるべく早く更新するように務めておりますので、今後とも宜しくお願いします。

あと、シーズン1でやっていたhtml版の方ですが、こちらはとりあえずしばらく保留で、シーズン2についてはこの掲示板を継続利用していきます。また、クロノステーションでおなじみのxabyさんによるクロノプロジェクト携帯版サイトにてシーズン1(全80話)が全てご覧頂けるようになりました。お友達の中でPCが無い方でも携帯電話よりお読み頂けますので、良かったらお知らせ下さいましたら幸いです。

http://www.chronocenter.com/jp/i/cp/

また、クロステでもシーズン2を掲載初めました。場合によってはこちらの方が早い場合も有るかもしれません。良かったらクロステもご利用下さいましたら幸いです。

http://www.chronocenter.com/cs/
(携帯/PCどちらからもご登録・ご利用頂けます。無料です。)

今後ともクロノ・センターでお楽しみ下さい。
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【77】CPss2第8話「原始的」
 REDCOW  - 07/8/17(金) 10:46 -
  
第92話「原始的」
 

 二人は部屋を出ると、車内をゆっくり歩き始めた。
 
「どうやら随分面倒らしいな。」
「えぇ。」
 
 二人は青年の話を思い出して考えていた。
 彼らの言う「魔力を駆使する」とはどういうことなのだろうか。この試験は強い魔力は勿論、高い魔力の制御能力が必要ということだが、自分達の魔法のコントロールがそれほど悪いものではないという自信はあった。だが、クロノは何故か腑に落ちないものを感じていた。
 もしも、今自分が使っている力の使い方が間違いで、実はより効率的に扱える方法や、より強力な力に変える方法が有るとしたなら、確かにこの試験の意味はある。
 
 その時クロノはふと思い出した。
 
 それは古代ジール文明の人々がクロノ達の魔法能力を「原始的」という表現で言い表していた事だった。彼らの言が正しく、そしてその文明で最高級地位に君臨した3賢者の一人であるボッシュが課した試験であるなら、確かにこの試験には深い意味があるのかもしれない。
 だが、二人にはもう一つ気になる事が有った。
 
「それより、あいつの言っていたことが一つ気になる。」
「もう一人の宛のこと?」
「あぁ。俺達は二人だけじゃないか?」
「チームであれば良いのなら、いるわよ?」
「え?」
「ポチョ!」
「はぁ?」
 
 彼女が呼ぶと、ポチョが彼女の胸元から飛び出してくる。
 
「ポー!」
 
 ポチョは元気いっぱいに飛び跳ねて応えた。
 クロノは思わず笑った。
 
「ハッハッハッ、ゴメン!ポチョのこと忘れてたぜ!」
「ポー!」
「ポチョはこう見えても結構凄いのよ!まともに彼と戦ったら、クロノとでも良い戦いができると思うわ?不足あるかしら?」
「へぇ、そっか?お前は強いんだな。頼りにしてるぜ!」
 
 クロノはそう言うとポチョの頭を撫でた。ポチョはエッヘンと胸を張るように立ってすましていた。
 
「腹が空いてきたなぁ。飯食わないか?」
「もう?」
「シズクは要らないのか?俺は燃費悪ぃんだよ。」
「んもぅ!仕方ないわねェ。確か切符に食堂の食券も付いていたわね。食堂に行きましょう。」
「おう。」
 
 二人の部屋は列車の後方二両目にある。この列車は全部で8両編成で中央5号車に食堂がある。その他、食堂車隣の4両目には売店もあり、試練の洞窟までのちょっとした旅行気分の味わえる寝台列車になっている。
 試練の洞窟までは列車で丸一日かかるため、この寝台列車の空間はとても有り難いものだった。
 
 二人は食堂車へ向けて歩みを進めた。6号車に入ると、恐ろしく研ぎ澄まされた様な目を持った背の高い少年と、冷静で落ち着いた物腰の端正な顔立ちの少年、そしてとても上品な服装をした少女の3人組がいた。彼らはクロノ達が入ると一斉に視線を向けた。
 
「(なんだなんだ!?異様な威圧…)やぁ、君達も試験を受けるんだね?」
 
 クロノが彼らに問いかけた。
 その問い掛けに端正な顔立ちの少年が答えた。
 
「はい。ということはあなたもお受けになるんですね。見たところ、相当な天力をお持ちですね。お隣の方も相当な魔力をお持ちなのでしょうか。」
 
 少年は一目見てクロノの能力を当てて尋ねてきた。そして、この反応は間違いなく他の二人も同様の答えに到達していたに違いない。
 クロノはシズクの方を見ると、彼女も構えている様で、やはり同じ驚きを感じているのだろうか。

「ははは、まぁ、試験受けるだけの能力はあると思うぜ。君らはもう3人組なのか?」
 
 クロノの答えに先ほどの少年はそれまでと違って笑顔で答えた。
 
「はい。まぁ、僕らにその質問を出されたと言う事は、まだお決まりじゃないんですね。でも、あなた方ならきっと良い方が現れますよ。二次試験でお会いしましょう。」
 
 少年はそう言うと、二人の仲間達と共に7号車側へ歩いて行った。
 二人は少年の最後の言葉が引っかかった。

「気が早ぇなぁ。もう二次試験かよ。」
「…よっぽどの自信というか、あの人達、確かに相当強そうだったわ。それほど的外れな話じゃないわね。」
「あぁ。…ったく、どうなってんだ。未来は。」
 
 シズクはクロノの感想をよそに、何やら怒っている様子だった。
 
「どうした?」
「…さっきの子、私達のメンバーが決まってないって断定したじゃない。気に入らないのよね。もう揃っているんだから。」
「あ!…そうか、俺すっかり聞き流していた。」

 クロノの反応に、彼女の怒りはまるでぷしゅーという音を立てて萎む風船の様に吹き飛び、墜落した。
 
「…上手がいたわ。」
 
 二人は再び進み、食堂車に到着した。
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【81】CPss2第9話「食堂車」
 REDCOW  - 07/8/24(金) 12:04 -
  
第93話「食堂車」(CPss2第9話)
 
 
「すげー…。」
 
 
 クロノは思わずつぶやいた。
 
 二人はドアの中の空間に驚いていた。
 そこは、天井は一面六角形に切り抜かれたガラス窓があり、暮れ行く空を雲が流れて行くのが見える。両サイドの壁も全てフレーム以外は窓になっていて、メディーナの雄大な景色を一望できた。そのパノラマは壮麗で、押し寄せては消えて行く風の様な、そんな爽快感の味わえる空間となっていた。
 
「すげーな…、列車だけでもすげーと思ったけど、この中も凄くないか?」
「そ、そうね。…随分力が入ってるわね。聴いてみよっか?」
 
 シズクはそう言うと、食堂のテーブルに座る一人の魔族の女性に問いかけた。
 その女性は、青緑色の透き通るような美しい輝きをもった長い髪を白いリボンで束ね、尖った耳に白い肌をしていた。その表情は落ち着きがあり、服装もまた白を基調にエメラルドグリーンのラインを使用したスーツを着ており、少女とは違う大人の女性を感じられた。
 彼女のテーブルには赤ワインがあり、ワイングラスに注がれた赤ワインが車両の揺れで静かに揺れている。
 
「あの、すいません、私達初めてこの列車に乗ったのですが、凄いですね。この車両。」
 
 女性は彼女の問いかけににこやかに振り向くと、答えた。
 
「そうね。もうすぐ日も完全に暮れたら、星を見ながらディナーが楽しめる…確かそれがこの列車の触れ書きだったかしら。」
 
 女性はそういうと外へ視線を移した。
 二人もそれにつられて外を見た。

 外はもうすぐ日が完全に沈む薄明かりで、食堂車内のランプの様な照明が美しい輝きを損なわずその景観を楽しませてくれる。
 シズクが更に彼女に質問する。
 
「あのぉ、もしかして、…あなたも試練の洞窟へ?」
 
 彼女はシズクの質問に先ほどの少年達とは違って笑顔で答えてくれた。
 
「えぇ、これで5度目なんです。ふふふ、五回も落ちても諦めきれません。」
「え、五度目…あ、あのぉ、失礼ですが、何故落ちたのか理由を聞いても…?」
「あぁ、私の経験談を聞きたい?なら、立ち話もなんですし、良かったらご一緒にディナーでも楽しみません?」
 
 彼女の意外な提案に、二人はうんうんと頷いた。
 そんな二人を見て微笑むと、彼女は二人を向かい側の席に座るよう勧めた。
 二人はそれに応じて席に着いた。
 それを見て彼女は話し始めた。
 
「…理由は簡単よ。私の魔力が弱いから。」
「魔力の強さが一番問われるんですか?」
「えぇ、まず、一番必要なものはそれよ。でも、単なる強さは本当の強さではないわ。確かに力押しで何でも解決できれば楽な話だけど、実際はどんな力も使いようでしょ。この試験は私達魔族が持って生まれた力を、正確に、そして効果的に使うことが出来るかどうかを要求される。とはいえ、これは入り口。そう言う意味では、試されることはシンプルとも言えるわね。」
「えーと、それは、魔力をどう扱うことが試されるんですか?」
「それは試験を実際に受けたらわかるわ。でも、そうね、大切なことはコントロールすることかしら。ふふふ、私もなかなか上手く行かなくて人のこと言えないけど、それなりに努力を重ねてきたつもりよ。今度こそは。」
「そうですかぁ。でも、その意気ですよ!お互い頑張りましょうね!」

 シズクの励ましの言葉に彼女は微笑むと、突然手をあげた。
 すると、すぐにクロノ達の背後からウエイターがやってきて、二人にメニューを渡した。だが、渡されたメニューを見て二人は困惑した。
 
「うわ、これメディーナ語か?。」
「ここはメディーナなんだから当然じゃない。でも、困ったわねぇ、私にもよくわからない言葉だわ。」
 
 二人の困惑状況に、女性が思わず笑った。
 
「フフフ、その文字は私にもわからないわ。」
「え"ぇ〜〜〜〜〜!?!」
「その文字はメディーナ語でもないし、読むものでもないの。ただ、こうして目をつぶって文字の輪郭をなぞれば…見えてくるのよ。」
 
 二人は女性に促されて同じ様にしてみる。
 だが、いまいち何をしているのかさっぱりわからず、何が見えてくるのかも分からなかった。しかし、女性が嘘を言っているようにも見えず、更に謎が深まる。
 
「何かコツはあるんですか?」
 
 シズクの質問に、女性はワインを一口飲み答える。
 
「そうねぇ、このメニューはただなぞれば良いわけじゃないの。お二人とも何か重要なことを忘れていません?…この試験は?」
 
 女性がいたずらっぽく微笑んで二人に問いかける。
 シズクは彼女の問いかけにピンときたようだが、クロノはまだ全くわからない様だ。
 
「わかったわ、こういうことね。」
「え?え?」
 
 シズクはわからないクロノに構わず、まず自分一人で実践した。
 彼女は目を閉じると、メニューをなぞり始める。
 
 魔力が体から吹き出し、そしてメニューブックへと吸い込まれて行った。すると、突然メニューブックが宙を浮き、小さな爆発と共に煙に包まれ、ゆっくりとシズクの目前のテーブルに降下してきた。
 煙が晴れると、そこには前菜とスープの入った器と、スプーンなど一式があった。
 
「こういうことなのね〜!面白い!あぁ、でも、これだけ?ちょっと寂しいわねぇ。」
 
 そこに、背後から静かにウエイターがやってきてシズクに告げる。
 
「メインディッシュとデザートはいつ頃お運び致しましょうか?」
「え?あ、まだあるのね。良かった!そうねぇ、メインは出来次第で、デザートはそれが終わったら手を上げるから、その時に頼むわ。」
「畏まりました。」
「あ、一つ聴いて良いかしら?」
「何か?」
「この料理高そうだけど…その、私持ち合わせ無いから、払えそうにない金額ならやめたいんだけど?」
 
 シズクの質問に、ウエイターはにっこり微笑み答えた。
 
「ご安心下さい。こちらの料理は全てチケットに含まれております。」
「あら、そう?…後で色々言っても払えないからね。」
「大丈夫です。心置きなくお食事をお楽しみ下さい。」
 
 そう告げるとウエイターは下がっていった。
 二人のやり取りを見て、クロノが感心してみていた。
 
「うへぇ〜、タダ?…マジかよ。なら俺も!」
 
 彼はそういうと、シズク同様に魔力をメニューブックに注ぎ込む。
 すると同様に浮き上がり爆発したかと思うと、ゆっくり落ちてきてテーブルの上に乗った。
 煙が晴れると、そこにはシズクと同じ前菜とスープが乗っていた。
 そして、すぐにウエイターが飛んできて料理を運ぶ時間を尋ねたので、彼もシズクと同じにしてもらった。
 
「やったね!」
 
 二人はハイタッチを決めて喜んだ。そして、早速クロノがスプーンを持ってスープを口元に運ぶ。そんな二人を見て、にこやかに微笑みながら女性が祝福した。
 
「おめでとう。お二人とも。凄いわね。私は初めての時は料理を出すことすら出来なかったわ。お二人はすぐにできるなんて、相当の能力をお持ちですのね。」
「いやぁ、それほどでも。」
 
 クロノは女性の言葉に、照れてだらだらスープをこぼす。
 
「あ!汚い!もう、何鼻の下伸ばしてるの!…このことマールさんに言っちゃおっかなぁ〜?」
「な!?お、おい、それは勘弁!」
 
 シズクの言葉に、一瞬顔面蒼白になるクロノ。二人はその表情を見逃さなかった。
 ミネルバはシズクの出した名前の人物について訪ねた。
 
「マールさん?」
「あ、彼の奥さんです。」
「まぁ、ご結婚されていたのね。そうねぇ、これだけの色男を放っておく女性なんていないわよね。」
「あはは、それほどでもぉ。」
 
 クロノは彼女に煽てられて満更でもなく嬉しいらしい。
 彼女はクロノの反応に内心苦笑しつつ、それまでしていなかった肝心なことについて切り出した。
 
「そういえば、私達自己紹介していなかったわね。私はミネルバ。ボッシュ大学院で政治学の勉強をしています。宜しく。」
 
 彼女の自己紹介に、クロノは頭をかきながら笑って答える。
 
「オレはクロノ。今は失業中で…その、旅をしているんだ。この子とは旅先でたまたま出会って、目的が同じだから一緒に旅をしている。」
「シズクと言います。ミネルバさん、宜しく。」
 
 シズクが笑顔で会釈をした。
 彼女もまたにっこり微笑んで応じた。
 
「えぇ、こちらこそ。しかし、クロノさんは失業されたのですか。以前はどんなお仕事を?」
 
 彼女の質問にクロノは内心困りつつ、無難な所を選んだ。
 
「う〜ん、まぁ、公務員をね。」
「フフフ、わかった。何か不始末をしたのね?で、クビになったんでしょ?それも、普通のヘマじゃないわね。それで家を出ているって所かしら?」
「あははは、はは、ミネルバさんにはかなわないなぁ…」
 
 クロノの困りながらの発言に、ミネルバは勝手に推測して納得してくれた様だ。
 内心では当たらずもと遠からずと感じていたクロノだが、ポリポリ頭を掻きながら彼女がそれで納得してくれたならば良いと安堵して笑っていた。
 
 それからはゆっくりと食事の時間となった。
 3人は他愛もない話をしながら、夕日が沈み星が瞬き始めた空と大地を望み、流れ行く星空と大地のシルエットを楽しんだ。
 食事も済ませ、二人も飲み物を頼んで飲んでいる頃、彼女が二人に尋ねる。
 
「ところで、見た所二人だけのようだけど、他に誰かいるの?」
「へ?いや。」
「え、だって、試験は三人一組よ?もう一人いないと出られないじゃない?」
「えーと、動物とかって出られるのかなぁ…なんて?」
 
 クロノの質問に、ミネルバの目が点になり止まったかと思うと、突然笑いだした。
 
「フフフフ、何それ?それって、冗談よねぇ?試験は遺伝子的に人以外は駄目よ。」
「えー、うそ!?」
 
 ミネルバの発言に驚く二人。
 それまでぽちょでイケルと思っていただけに、不意打ちの発言だった。
 
「ねぇ、宛が無いなら、私と組まない?」
「え?ミネルバさんも1人???」

 ミネルバの意外な申し出に驚く二人。
 
「えぇ、私、いつも一緒に受けていた友達がみんな受かっちゃって。私独り最後に残っちゃったの。で、1人で受けることになったのよ。でも、この試験は3人一組でしょ?私もメンバーを探していたの。あなた達が良ければ、私と組みましょう?」
「えぇ、ミネルバさんならこちらこそ宜しくお願いします!」
「フフ!有り難う。じゃ、そうと決まったら乾杯しましょう?」
 
 ミネルバはウエイターを呼ぶと、シズクにあわせてソフトドリンクを頼み、ウエイターの持って来たオレンジジュースの満たされたグラスで乾杯した。
 
 3人はその後も暫く談笑した。
 ミネルバの話によると、試験には4つの関門があり、一つ一つクリアする中で振るいにかけられる様に絞られて行くという。
 
 降り口を決めて落ち合うことにした3人は、それぞれゆっくりと列車の旅を楽しんだ。
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【84】CPss2第10話「新たなる乗客」
 REDCOW  - 07/9/3(月) 20:11 -
  
 更新遅くなりましたが、とりあえず10話掲載しておきます。
 楽しみにしていた方は、本当に遅くなり申し訳有りません。

第94話「新たなる乗客」(CPss2第10話)
 
 列車は途中の停車駅である首都メディーナ駅に到着しようとしていた。
 町は水晶のように輝き、青を基調とした美しい町並みは芸術品の様な輝きを持っていた。そして、この首都メディーナの玄関口であるこのメディーナ駅は、毎日数十万人の乗降客を誇るメディーナ交通の中心地でもある。
 
 メディーナ駅に入った列車はボッシュ駅同様に専用のホームへ誘導される。この街からも試練の洞窟への参加者は多数有り、ボッシュ駅と同様の人数が乗り込む予定だ。
 ホームには既に沢山の受験生が到着を待って並んでおり、それぞれがこの試験に対して相当の意気込みを持って参加していることは想像に難くない。そんなピリピリとした空気で張りつめていた。
 
「ハイド、君はもう少しリラックスした方が良い。」
 
 長身の若い魔族の男が、彼の仲間にそう諭す。
 ハイドと呼ばれた少年は、仲間の心配に謝意を告げた。
 
「すまない。つい。」
 
 だが、彼を諭した長身の男の方をいかにも面白くないという表情で、緋色の髪に黒い肌をした少女が少年を気遣うように言った。
 
「良いのよ。こんな状況で緊張しない方がおかしいんだから。ランタの言うことは気にすること無いわ。」
「…はは、ありがとう。ティタ。ランタ。」
 
 少年の反応に、二人は顔を見合わせてお互いの世話焼きっぷりに苦笑した。
 
 3人は列車の扉が開くと、一番手に車内に入っていった。
 
 沢山の受験者が車内へと入る。
 クロノ達も含めたこの試験に参加するのが初めての者は、その様子を車窓から眺めていた。
 
「すげーな。」
「随分いるのねぇ。」
 
 二人の感心の声に、同室の大学生風の魔族の青年…ベンが言った。
 
「僕も初めてなんですが、さすが首都ですね。」
「あぁ、すげーよな。でっけー駅。」
 
 クロノの反応に、後方から批判の声が上がる。
 
「ふつー、人の方を見るだろ!あれ見て何も感じないのかよ!!!」
 
 少年…後にベンから聞いて知ったヒカルは、クロノの緊張感の無さに苛立っている様だった。
 
「良いじゃない。私達がどんな反応しようと。私達には人より街の方が新鮮なの。OK?おわかり?」
「うっせー!ぶーす!」
「なにぉおお!?!」
 
 シズクが怒り少年にまるで猫の様に飛びかかった。それに対して驚く少年だが、負けじと応戦する。
 そんな二人の姿にベンがつぶやいた。
 
「…なんだかんだと良いながら、仲良いじゃないですか。」
 
 その呟きに二人はハモった。
 
「良くない!!!」
 
 彼らがそんなやり取りをしている頃、粗方列車に乗ったホームに上ってくる人影があった。階段を上るのは一人の女性と二人の男性。女性を先頭に二人の男はまるで付き人の様に背後を歩いていた。
 階段を上り終え、ホームに接続する車両のドア前に立つと、女性が右側を振り向き言った。
 
「ツー!」
 
 彼女の言葉に、背後の男が可愛らしい奇声を発した。
 
「キュー!」
 
 彼女はその返事を聞くと、すぐに左横を振り向き言った。
 
「カー!」
 
 すると左横の男性もまた、右横の彼同様に可愛らしい奇声で答えた。
 
「キュー!」
 
 彼女はその返事を確認すると頷き、車内に静かに侵入を開始する。
 背後の二人も右横の男性から先に、左横の男性が最後に乗り込んだ。
 
 彼らが乗り込むと、ホームに発車の音楽が鳴り響く。
 
 
「待て待て待て待てぇぇーーーーーーーー!!そこのれっしゃぁああ!!!」
 
 階段を駆け上る音がする。
 赤い髪を逆立てた青年が慌てて駆け上り、ドアが閉まらない様に手で押さえる。
 そこに少年の背後から少々遅れて少女が辿り着き中に入る。
 
「は、早く!ヤッパ!!!」
 
 彼女の呼びかける相手は、見事な巨体を揺らしてゆっくりと階段を上ってきていた。…いや、彼なりに急いでいるらしい。
 あまりの遅さに二人は見ていられず、青年が駆け寄って背後からヤッパと呼ばれた少年を押した。少女は先ほど青年がしていたように、ドアが閉まらぬよう押さえた。
 
「はよしぃ!もう列車出発するで!はよ!」
「…もぅ、だめ。」
 
 少年はそう言うとゆっくりとまるでスローモーションが掛かったようにゴロリと転がった。それは誰の目にも「終わった」と感じさせる瞬間だった。だが、奇跡は起こった。
 
「え゛!?ちょ、あ、きゃぁあああ!!!!」
 
 なんと、少年はそのままゴロリと転がりながら列車に乗り込んだ。…入り口でドアを押さえていた彼女を巻き込んで。それはあまりに突然の出来事で判断つけかねていた。だが、その時出発の合図がなり終わった。青年は我に返ると急いで列車に飛び乗った。
 
 プシューーーーーーッドン。
 
 間一髪飛び乗った彼の体は、少年の腹の上でぷにょぷにょとした感触を感じながら、ほっと一息吐いた。
 しかし、彼は忘れていた。

「(…どうして、あたしがこうなんのよ。)」
 
 彼らが彼女の犠牲を知るのは、列車がもう少し進んだ頃だった。
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【88】CPss2第11話「絶対防衛主義」
 REDCOW  - 07/9/8(土) 10:16 -
  
第95話「絶対防衛主義」(CPss2第11話)
 
 翌朝
 
「おはよう。」
「おはよう!ミネルバさん。」
「昨夜はよく眠れました?」
「えぇ、そりゃもう!」
 
 ミネルバの問いに元気よく答えるクロノ。
 彼女はその表情に思わず笑う。
 シズクが異様な元気のよさに怪訝な顔をして言った。
 
「随分元気ねぇ。もう、女の人だったら誰でも良いのねぇ。」
「うへぇ〜〜!?なんでそうなるんだ!」
 
 シズクは自分の言葉に慌てる彼を見て、にやりと笑う。
 そのやりとりをみていたミネルバはニコニコと微笑んでいた。
 
 程なくして列車は試練の洞窟駅に到着した。
 洞窟駅というから地下にあるのかと思っていたクロノだが、実際は森の中だった。
 
 時刻は朝七時。
 自分でもよく起きれたなと内心思いつつ、ドアが開くのを待った。
 
 3人は列車の出口に集まっていた。
 
 
 ドアが開く。
 そこには警備員の様な男達が、まるで乗客が降りるのを拒むように立ち並んでいた。
 車内放送が入る。
 
「…乗客の皆様、まだ降りないでお静かにお待ち下さい。今からお一人ずつ降りて頂きますが、その際にドア前の係員が一人一人チケットを拝見させて頂きます。乗客の皆様は係員が告げるゲート番号のゲートへ向かってください。なお、指定のゲートと違うゲートに入った時点で試験は失格となりますので、お間違いなくお進み下さい。では、お一人ずつ降りてください。」
 
 車内放送が終わると、列車を一人一人おり始めた。
 皆言われた通りにチケットを手に持ち係員に差し出すと、係員は事務的に素早く背後にいる数人の係員の一人にチケットを渡して何かを告げる。受け取った係員はチェックして受験者に指示を告げ、それを返却した。その間にチケットを受け取る係員は次の受験者からチケットを受け取り、また背後の空いている係員に渡して何かを告げチェックさせた。
 その流れは次第に幾つかの列となり、沢山の人の流れがホームを満たし始める。
 
 クロノ達の順番が回ってきた。
 彼らはまずクロノから降りた。
 
「チケットを拝見します。」
 
 警備員がそう告げると、クロノは予め出せる様に準備していたチケットを手渡す。すると、警備員は背後にいるもう一人の警備員に何かを小声で告げてチケットを渡し、クロノに前に進む様促した。そして次のシズクが降りてくるのを待っていた。
 クロノは前に進むと先程の背後にいた警備員がチケットを渡し、行き先を告げる。
 
「あなたは2番ゲートへお進み下さい。二番ゲートへは床のピンクのラインをお進みください。」
 
 クロノはチケットを受け取ると少し進み、二人が来るのを待っていた。程なくして二人も降りてくる。
 
「どうだった?俺は2番ゲートだったぜ。」
 
 クロノの言葉に、二人はニッコリ微笑んで同じだと言った。
 3人は一緒にゲートへと進む。途中に4番や3番などのゲートへ進む人の列が見える。2番ゲートの前にはあまり人が居ないので、スムーズに進んだ。
 その先に見える一番ゲートへは一際多くの人が並んでいた。
 
「凄い数が並んでるんだな。」
「ゲートの違いって何かあるんですか?」
 
 二人の発言にミネルバは苦笑いし言った。
 
「ゲートを出れば分かるわ。」
 
 そういうと彼女は先を急ぐ様に進んだ。
 二人もその後をついて行った。
 
 2番ゲート行きの通路は入ってすぐに下に降りる階段があり、そこを降りるとすぐに右側へ伸びる通路があった。通路は突き当たりまで200mほど有り、そこを左に曲がると再び200m程続く通路があった。そこも突き当たりがあり、右に曲がると改札らしき物が100m程進んだ前方に有った。
 改札は4つ有るが、開いているのは2つだけ。しかも、こちら側から出る一方しか開いておらず、向こうから入ってくるゲートは無い様だ。改札口には大きな青いドアのついてない囲いが立っており、少々駅の改札にしては他とは違い、なんとも異様な雰囲気である。
 そこには4人の先程ホームで見た警備員の様な服を着た係員が立っていた。ホームと違うのはこちらは皆女性だということだ。それぞれの改札口に二人組みで立っていた。
 まずミネルバが先に進んで改札をした。
 
「チケットを拝見させて頂きます。」
 
 まず前方に立っていた係員がチケットを受け取ると、先へ進む様に促される。その間にチケットは後方のもう一人の係員に手渡され、何らかの機械にスキャンされる。ミネルバがゲートを潜り終わると、係員はチケットを手渡した。
 
「おめでとうございます。一次試験合格です。二次試験頑張ってください。」
「えぇ、ありがとう。」
 
 ミネルバはチケットを受け取ると少し前に進み、振り返ると微笑み二人に来る様促した。
 二人はそれを見て頷くと、一緒に二つあるゲートにそれぞれ入っていった。ミネルバ同様にチケットを渡し青いゲートを潜ると、突然ベルが同時に鳴った。
 
「お、おい、なんだ!?」
「何か問題有るのかしら?」
 
 二人の不安な表情に、係員は苦笑しつつ言った。
 
「いえ、一次試験合格です。おめでとうございます。ただ、お二人の魔力レベルがですねぇ…」
「何よぉ、勿体ぶらずハッキリして頂戴よぉ。」
 
 詰め寄るシズクに、係員は困った表情でたじろぎながらも答えた。
 
「このゲートで計測不能な魔力が検出されまして、機械がエラーを出したんです。この機械で計測不能の数値を出した人はそういません。お二方は凄いですねぇ。」
「え?へ、へぇ〜?そうなの。あは、あはは、あは。」
 
 二人は頭を掻きつつチケットを受け取り、ミネルバのもとに合流した。
 ミネルバは微笑んで言った。
 
「おめでとう。一次試験合格よ。」
 
 彼女の言葉にも二人は不可解に感じていた。
 クロノが思わず尋ねる。
 
「しかし、どこで試験があったんだ?」
 
 クロノは自分の頭の中でこれまでの行動を回想していた。列車に乗って、食事をして、寝て、駅に着いて………思い当たる試験らしきものは無かった。

「試験なんて見なかったわね。」
 
 シズクも同様の結論の様だ。 
 二人の疑問にミネルバは簡単に回答した。
 
「食事よ。」
「食事!?」
 
 二人は思いも寄らない答えに驚いた。
 ミネルバはそんな二人の反応に微笑んで続けた。
 
「思い出して?あの食堂では魔力使わないと注文出来ない仕組みだったわよね?」
「えぇ、そういえばそうね。でも、食事なんかで何が分かるの?」
「この試験では基本的に食事込みのチケットを使い、食堂車利用が義務づけられているの。だから、まず食堂で食事をしなかった人はアウト。次に、食堂を利用した人は出現させたディナーの内容によって振り分けられるわ。一番下は軽食程度、次は簡単な一品料理、その次に定食セット、最後が私達が食べたフルコースよ。」
「へぇ〜、俺たちって成績優秀?」
「フフフ、そうね。お二人はかなり優秀よ。あのゲートで計測不能の魔力反応が出たのなんて、私が知る限りはボッシュ様やルッコラ博士、それにビネガーくらいね。」
 
 クロノは最後の名前に驚いた。
 
「いぃい!?ビネガー???」
「どうしたの?」
「いや、その、ビネガーってどんな人なんだ?」
「ビネガー8世第二代共和国大統領よ。この国が今あるのは、ボッシュ様は勿論、彼の存在無くして語れないわ。」
「どうゆうことだ?」
 
 そこにシズクが言った。
 
「ビネガー主義ね。」
 
 彼女の言葉にミネルバは頷くと、話し始めた。
 
「この国の外交戦略のことよ。ビネガー8世は王国歴で言う1004年に来襲したパレポリに対して、ボッシュ様が纏めた共和国の初代防衛大臣として対峙した人物よ。パレポリに対して独特の防衛戦術で共和国を鉄壁の防御で守り、ガルディアでさえ後に屈したパレポリの軍勢を退却させた手腕の持ち主。外交でパレポリとの同盟を樹立すると、彼は後に2代大統領に就任した際、ビネガードクトリンを発表。人間の軍事への無干渉絶対防衛主義を打ち立て、現代に続くこの国の行くべき道を定めた人よ。」
「ビネガー主義…、つまり、メディーナは同盟を結びながら、パレポリと同盟軍を結成したことは無いのか?」
「そうよ。この国は飽くまで人間との直接的争いへの干渉を避ける事を第一に外交をしているの。でも、それは自分達の平和が脅かされなければという前提においてね。もっとも、最近の私達の様な若い世代の中には、このビネガー主義を臆病主義と揶揄する人もいるわね。」
 
 クロノは自分の記憶では落ちぶれているはずのビネガーが、この国では再び権威を誇っているという事実は勿論、自分が知っているつもりの歴史とは確かに違うことを感じる話だった。何より、彼女の話が本当であるならば、ガルディアへ来襲したパレポリの軍勢の中にいた魔族達の背景が変わってくる。
 メディーナ共和国と言う不思議な国の不思議な事情は勿論、この国の置かれた特殊なポジションは、まだ色々な話が隠れていそうだった。
 
「平和を当然と思えば、戦が恋しくなる。特に玩具が揃っていたらな。」
 
 クロノは自分で言葉を発しながら自戒するように思っていた。
 ガルディアが戦争を止められなかったことは、長く続いた平和故の出来事だったのではないかと。
 
 当時の元老院や貴族院の非現実的な認識の上に立った外交観や、まだまだ未整備だった国民から直接選挙で意見を聴く仕組みなど、人々の気持ちと議会の気持ちは大きく離れていた。確かに予兆はあり、幾らでも動く余地があった。
 あの当時にこの国で表立って立ち上がったボッシュの様に、もし自分達がもっと真剣に世界中を眺めて政治に取り組んでいたら、あるいは…。
 
 こうして過去を回想して、本当は違う未来があったはずだと思っている安易な認識は、過去に歴史を変えた自分達の力を過信していた面から起きたことは否めない。ボッシュが立ち上がったのは何故だろう?…それは、彼がこの時代に「生きる」ことを選択したからなのではないか。そして、自分自身はボッシュとは反対に、この時代に生きていることをどこか他所の事に思っていたのではないか。
 
 彼女の話を聞いて、早くボッシュに会い、彼のとった行動の理由を聞きたいと感じていた。
 ミネルバは彼の言葉を聞いて、静かに言った。
 
「そうね。」
 
 クロノが先を進んだ。
 二人も後を追った。
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【90】CPss2第12話「第二次試験」
 REDCOW  - 07/9/15(土) 10:56 -
  
第96話「第二次試験」
 
 改札の向こうには再び100m程進んだ先が右折しており、右折したすぐ先には道がなく、係員らしき女性の他に、先に改札を通過した面々が立っていた。
 係員の女性がクロノ達の姿を見て近づいてくる。
 
「ようこそ試練の洞窟へ。一次試験合格おめでとうございます。これから皆様を二次試験の行われる試練の洞窟へとご案内致します、カナッツと申します。」
 
 カナッツという係員の女性は若く、桃色の肌に薄いピンクの髪をしている。どうやらミアンヌの血筋らしい。
 シズクが彼女に質問した。
 
「試練の洞窟とはどういう場所なんですか?」
 
 シズクの質問に対して、カナッツは微笑んで答えた。
 
「それは時期にわかりますよ。フフ。それより、もう暫くお待ち下さい。一次試験を通過されました受験生の皆様が、全てご到着次第移動致します。それまではここでお寛ぎ下さい。」
「わかりました。どうも。」
 
 クロノ達三人は、隅の誰もいないスペースに移動した。
 
「…どれくらい来るんだろうな?ミネルバさん知ってる?」
 
 クロノの問い掛けに、ミネルバは落ち着いた様子で答えた。
 
「そう多く無いはずね。魔族と言っても大半は普通の人間と変わらないから、私達のレベルに到達している人はいつも少ないの。今ここに来ているのはあそこの少年組と、向こうに見える女の子達と、あ、あいつは知ってるわ。炎術使いのバンダーよ。」
「炎術使いのバンダー?」
「えぇ、あいつは強烈な術を持っているのに………まだ合格してなかったのね。不思議。」
 
 二人はミネルバの反応にガクっときた。
 気を取り直して、シズクがミネルバに質問する。
 
「ねぇ、二次試験ってどんな感じなんですか?」
 
 シズクの問いに彼女は微笑んであっさりと答えた。
 
「二次試験は宝探しよ。」
「宝探し?」
「えぇ。まぁ、詳しくはそこの係りの人が説明すると思うけど、洞窟の中から宝を探して戻ってきた人が合格。これからはチームで行動するわ。」
「へぇ〜。」
 
 そうこう話している間に全員揃った様だ。
 
 先程ミネルバが触れた炎術士バンダーのチームや少年達や女の子達、そして、ムサい男二人と一緒に一際目立つ、美人でクールなショートの黒髪の人間の女性、列車で見かけた学生達、カエル人の3人組や、厳つくいかにも屈強そうな男達3人組がいた。
 カナッツが全員に呼びかける。
 
 
「さあ、皆さん!ようやく一次試験の通過者が揃いました。まずは皆さんの通過をお祝い申し上げます!では、これより二次試験に入りたいと思います。これから皆さんにチーム登録をして頂きます。既にこちらにいらっしゃる方はご存知の事と思われますが、二次試験はチームプレイです。予めメンバーが決まっている方達から順にご登録下さい。登録はあちらのテーブルで待機しております事務にてお済ませ下さい。」
 
 カナッツの説明にどよめきの起こる一角も有ったが、大半は織り込み済みの様子で次々にリーダと思われる者が登録へ集まって行く。
 程なくして登録が全て済んだ。
 クロノ達の他に現れたのは、全部で21人、7チームの様だった。
 
 チーム名一覧
 
 ファイアブラスト
 リーダー=バンダー・クラフト メンバル・カーメン ヤッパ・マイウー
 
 コアガード
 リーダー=ハイド・スイソ ティタ・チタ ランタ・ノイド
 
 メーガスかしまし娘。
 リーダー=アミラ・ゼー リーパ・ゼー マルタ・ゼー
 
 乙子組
 リーダー=フォース・キン パー・ヤネン パンチ・ラー
 
 グリフィス
 リーダー=ガーネット・スネークヘッド ツー・キュー カー・キュー
 
 腐れ縁
 リーダー=ヒカリ・イジューイン ベン・ゾガリ イーマ・ター
 
 フロノ・ノコリガー
 リーダー=カエゾー・カエ カエミ・ゲコ フログ・フォレスト
 
 ポチョ
 リーダー=クロノ・トラシェイド シズク・ユキムラ ミネルバ・ワイナリン
 
 
「…以上7チームが決まりました。それでは、これより二次試験会場となる試練の洞窟に移動致します。皆様、危ないですから壁の手すりにお掴まり下さい。」
 
 カナッツは全員が手すりを掴んだのを確認すると、ポケットからリモコンを取出しスイッチを入れた。すると「ガタン」という音と共に揺れ始め、なんと、どんどん部屋が沈下し始めたではないか。クロノが驚いている間にもどんどん後方の入って来た通路が離れて行くのが見える。
 
 降下はそれから5分ほど続き止まった。
 カナッツは止まった事を確認すると言った。
 
「皆さん着きました。壁から離れて中央に集まってください。」
 
 カナッツは集まった事を確認するとリモコンを再び操作する。
 すると前方の壁が上がり、後方の壁が締まった。前方をみると通路が開けていた。しかし、明かりは無く、奥は真っ暗で見えない。辛うじて今までいる部屋の明かりが射して、通路だと確認出来る程度だった。
 横の壁が開く。
 すると、そこから台車を押して沢山の筒を運ぶ係員が現れた。台車の上には筒の他に小さな手で持てる大きさーーだいたい縦20cm横15cmくらいーーのプレートが複数置かれていた。
 周囲がどよめいていると、カナッツはその台車の上にあるプレートを一つ手に取り説明を始めた。
 
「えー、皆さん。これから二次試験を開始致します。皆さんにはこれからお配りするプレートに呪印を集めてもらいます。呪印とは、魔法力を込めた魔法陣の文字です。
 それぞれ属性を持ち、地水火天の4つの属性を示します。そして、これに加えて最後にもう一つ「冥」の呪印をこのプレートに移し、持ち帰って来てください。持ち帰り方は自由です。…尚、この試験はサバイバルレースでもあります。
 これより受験生同士の戦闘も許可されます。しかし、この洞窟の内部では魔法以外の攻撃は使えません。また、どんな攻撃も魔法を利用したものでなくては効果はありません。
 
 そして、これより基本的な戦闘のルールを説明致します。皆さんはこのルールに従って戦闘して頂くことになります。ルールに反した行動をとられましたら、即時停戦の勧告とともに、違反者に対するペナルティが発動します。
 これに従わなかった場合は即時失格となりますので、皆さん確実に覚えておいて下さい。
 
 1、この試験内での武器による人への攻撃を禁じます。
 これは安全性の確保のため不測の事態を回避するためです。このため、基本的に使用できる有効な直接攻撃は、体のみでの攻撃に限定されます。しかし、人以外の物に対してはその限りでは有りません。この他、魔法力を高めるロッドなどの道具の使用は認めます。
 
 2、他のグループから戦闘を申し込まれ場合、これに必ず応じて下さい。そして、勝負を決して下さい。拒否された場合はその時点で失格です。また、これは勝負を申し込む側も撤回が出来ないことを意味する事をお忘れなく。
 勝負に負けた方は相手から呪印を一つ奪うことができます。しかし、差し出す物が無い場合は失格となりますのでご注意下さい。ただし、この戦闘を実行する側は最低でも既に呪印獲得のアクションを起こしていなくてはなりません。…これは呪印獲得をせずにチームの削り合いをすることを禁じる処置です。ご理解下さい。
 
 以上が戦闘に必要なルールです。
 この範囲内に沿って私ども審判は判断を下し、時に仲裁致します。審判の裁定には必ず従って下さい。
 なお、これらの判断については、戦闘中に私の名前を御呼び下されば応答することも出来ます。判断に迷うことがありましたら、お気軽に私にお尋ね下さい。
 
 では、私がこれよりプレートとこちらにございますたいまつをお渡ししますので、それをお持ちになられたチームから順次試験場へお入り下さい。では、ご健闘を。」
 
 カナッツの最後の言葉に合わせて、係員達が台車の上にあるプレート一枚とたいまつーー先程の筒ーーを手に持ち、配る準備は万端という様子を見せた。
 他のチームが次々に動き、プレートとたいまつを受け取っていく。
 そして、プレートを受け取ったグループは順次暗闇の中に消えていった。
 
 ミネルバが二人にいった。
 
「私達も行きましょう」
「あぁ。」
「うん。」
 
 3人もプレートとたいまつを受け取り、暗い闇の中へと入っていった。
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【92】CPss2第13話「闇」
 REDCOW  - 07/9/22(土) 11:54 -
  
第97話「闇」(CPss2第13話)

 チリチリ。
 
 クロノの持つたいまつの明かりが辺りを照らす。
 道にある明かりはたいまつの明かりのみ。
 
 5番目に出発したクロノ達の前方には、既に気配はなく、どうやら奥深く先に進んでいるらしい。また、途中幾つかの分岐点が有った事から、それらのどこかへと分かれたのだろう。
 後方から来るチームも、どこかで分かれたのか既に迫る気配もない。…迷路の様に入り組んだこの試験場は全てのチームを飲み込み、何処へ導くというのだろう………?
 
 クロノが後方を歩くミネルバに問いかけた。
 
 
「なぁ、ミネルバさん、これからどうしたら良いんだ?…宝探しはわかるが、こう手がかりが無いと、さっぱりわかんねー。」
 
 
 彼の問いかけはミネルバの隣を歩くシズクも感じていたことだった。彼女もミネルバの方を向いた。ミネルバは微笑んで前方を見据えて歩きながら答える。
 
 
「この迷路は私もクリアした事は無いわ。でも、途中までなら。今向かっているのは水の呪印の間よ。」
「水の呪印の間?」
「基本的には、呪印の間には呪印を護るモンスターがいるわ。この試験ではそれらのモンスターに勝たなくてはダメなの。さもなければ呪印は得られず、そしてクリアも不可能になってしまう。」
「強いのか?」
 
 
 彼女はその言葉に初めて振り向くと答えた。
 
 
「…そうね。強いかもしれない。でも、私達なら大丈夫よ。自信を持って。」
 
 
 彼女はそういうと二人を先導した。
 しかし、その時急に光が弱くなり始めた。
 クロノが慌ててたいまつを見ると、火の勢いがどんどん弱くなり始めた。
 
 
「任せて。」
 
 
 シズクはそういうと、たいまつに向けてファイアを放った。
 だが、炎は強くなるどころか一層弱くなり、遂に消えてしまった。
 炎が消えた事で、3人は互いの姿を完全に見失ってしまった。
 
 
「ちょ、みんな慌てないでね。今明かりを出すから。」
 
 
 シズクが再びファイアを小さく出してお互いの姿を確認すると、クロノの持つたいまつに火を灯そうとした。だが、火はつかず、完全に燃料が尽きているようだった。
 困惑してミネルバに尋ねる。
 
 
「どうしたら良いの?このままじゃ真っ暗じゃない。」
 
 
 ミネルバはシズクの言葉に微笑んで言った。
 
 
「フフ、なら目を慣らすだけよ。さぁ、消して。」
「え…」
 
 
 ミネルバはそういうと、そっとシズクの指を手で覆った。すると、彼女の手から冷気の風が立ち込めて、彼女の炎は静かに消えてしまった。
 
 
「どうして?」
「この試験はこれが狙いなのよ。」
「え…」
 
 
 二人は彼女の言葉に驚いて言葉を失った。
 彼女は続ける。
 
 
「みんな、良く思い出して?この試験が何のために行われているかを。」
 
 
 彼女の言葉にいち早く反応したのはシズクだった。
 
 
「…魔力。そうか、魔力を探るのね。」
「正解。」
 
 
 ミネルバが優しく答える。
 そこにクロノが尋ねる。
 
 
「んじゃ、このたいまつどうすりゃ良いんだ?もう要らないなら、放置しても良いのか?」
「あ、それはそうね。ガス欠だし、壁の隅にでも邪魔にならない様に置いておけば問題ないはずよ。」
「そうか。なら…、」
 
 
 クロノは道の側壁にそっとたいまつを寝かせ置いた。
 
 
「よし!んじゃ、ぼちぼちサーチするか!どれどれ、おーいるいる!魔力を探るとごっそりわかるんだな。」
「えー、もう慣れたの?…つまんないわ。」
 
 
 ミネルバの言葉に3人はお互いにくすくすと笑うと、闇の中を再び力強く歩き始めた。
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【95】CPss2第14話「目覚めたそこは」
 REDCOW  - 07/9/28(金) 16:30 -
  
第98話「目覚めたそこは」(CPss2第14話)
 
「ーーう、うぅ、…………ここは、………私?」
 
 目を開けると、目前には低い天井が見えた。
 部屋は薄暗く、仄かに明かりを灯す電気スタンドが見える。
 
「……なんで、寝てるの。」
 
 彼女はゆっくり起き上がる。
 それまで寝ていた場所が柔らかな布団の中で、低い天井に感じたのは天蓋付きのベッドだからということがわかる。それ以外にも高価で歴史的価値のある調度品の数々…どこかの屋敷の一室には違いない。
 
 彼女はそっとベッドから足を出した。
 そこにはご丁寧にもスリッパが置かれており、とても細かい刺繍の施されたレース付きの可愛いデザインに思わず目が輝く。だが、そんなことに心奪われているわけにはいかない。彼女は気を引き締めるようにパチリと頬を両手で叩くと、しゃっきりと立ち上がり辺りを見回した。
 
 部屋の広さは40畳ほど。白い壁に美しい木製家具が並び、重厚な雰囲気を醸し出していた。窓は厚いカーテンで閉められている。
 彼女は窓辺へ行きカーテンをそっと開いて外を見た。

 外は何も無い遠い闇と、眼下に散らばる宝石のような夜景が広がっていた。彼女はこの窓から脱出することは絶望的であることは勿論、窓自体が割らない限り出られない作りになっていることを知った。しかし、考えたくは無いが、全ての選択肢が閉ざされた時は、この窓も一つの選択肢である事も考慮に入れざるを得ない現実も感じた。
 窓の外に見える宝石達は何処の街だろうか。とてもカラフルに輝く光はトルースの夜景とは全く豪華さが違った。相当に栄えた美しい輝きを放つ街並み…ふと胸が痛んだ。
 
 その時、窓とは反対側にあるドアが開いた。
 彼女が振り向いた時には、一人の男が入ってきていた。その男は赤い顎髭を生やした年配の男性だった。しかし、彼女はその男性を前に戸惑いを感じていた。
 彼女の心の準備なんてお構いなく、男は静かに歩きながら話しかけてきた。
 
「…よく、眠れたかな。」
 
 その声は聞き覚えが有った。
 それは忘れもしない、彼女を追いつめた張本人。
 
「…お陰様で。」
 
 彼女の返答に、男は微笑むと歩みを止めて言った。
 
「…そう、構えなくて良い。命を狙っているわけじゃない。」
 
 彼の言葉に、彼女は冷静に言った。
 
「そうね。それが目的なら、私はあなたとここで話す機会はなかった。信じましょう。でも、ボランティアで政治は動かない。あなたの目的は何かしら。」
 
 彼女の凛とした表情と言葉に、いくら没落しようと、その品位は失われないことに笑みが漏れた。
 
「ふふふ、はっはっはっ。いや、ボランティアではないことを認めよう。大したものだ。私が望むものは…なぁに、簡単な話だ。『静かに暮らしてくれればいい。』それだけだ。」
「それは私も望むこと。しかし、その為に民を見殺しにするという愚挙を犯すは恥ずべき事。あなたからすれば、私は老いたる王国の亡霊でしょう。でも、亡霊であるからこそ、私は静かにしている気は無いわ。」
 
 彼は彼女の言葉にしばし間を置くと、彼女とは離れた窓にむかって歩き始めた。そして語りかける。
 
「…見たかな。」
 
 彼がカーテンをそっと開き、眼下の都市に目を落とす。
 
「…世界は本当に君の信じた幸せを謳歌していたのかね。それが本当であるならば、この街はこうも輝いたであろうか。」
「何を言いたいの。」
「我が国はどうかね。君の知る姿とは大きく変わってしまったが、紛れも無く君の知るあの街の未来の姿だ。」
「………。」

 彼女は薄々感づいていた。そして、彼の言う現実というものも、こうして実際に目の当たりにして、実感とでも言おう感想が浮かび上がろうとしていた。しかし、それを認めてどうしようというのだろう。認めて見殺しにした民を尻目に安穏と暮らせと彼は言う。だが、確かにこの街がこれほどの発展を見せたのであれば、千年の歴史を誇る王国というものは、同時に千年もの繁栄のチャンスを奪ってきたのだろうか。…戸惑いは止まらない。
 
 彼はそんな彼女の葛藤を知ってか知らずか、微笑んで言った。
 
「深刻に考える事はない。歴史は流れ、いつしか君が望もうと望むまいと変わる時が来る。君が見ているものは、それが遅く現れたか、早く現れたかの違いに過ぎない。」
 
 彼の言葉は確かにその通りなのかもしれない。
 時代はいつかこのような道を流れたかもしれない事は、彼女自身が既に気付いていた。それは未来に王国が消え、全く違うシステムの中で人々が生活していた事実を実際に見ていたからこそ、彼の言葉の意味がよく分かる。いや、それはまるで彼もこの事実を共有していたかの様な話でもある。不意に疑問が湧いた。
 
「…随分慣れた口ぶりね。」
「口だけではない。私は、事実を話しているまでだ。」
 
 そう言うと彼はカーテンを戻し、ゆっくりとドアに向かって歩き始めた。
 
「…すまないが、しばらくはこの部屋のみで暮らしてもらう事になるだろう。何か必要ならベッドの横の電話から連絡するが良い。連絡方法は電話横のガイドブックに出ている。…何度も言うようだが悪いようにはしない。お姫さまらしくお淑やかに宜しくな。」
 
 静かにドアを開くと、彼はそのまま振り向きもせず部屋を出ていった。
 彼は無防備といっても過言ではないほど、一度も振り向かず彼女に背中を見せて歩いていた。いつでも彼女には彼を攻撃する隙はあったはずだった。しかし、彼女はしなかった。いや、それをしようがなかった。
 あまりにも大きなプレッシャーを前に、彼が去った後も足を動かす事ができなかった。足だけではない、怒りとは裏腹に怖れで押しつぶされていた彼女は何も動けず、ただ彼が去るのを見守る事しかできなかったのだ。

 それはあまりにも屈辱的な間だった。
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【96】CPss2第15話「水の呪印」
 REDCOW  - 07/10/5(金) 10:51 -
  
第99話「水の呪印」(CPss2第15話)
 
 呪印の間への道は、魔力の質を辿って進む。
 この迷宮は魔力を読み解くことが出来る者に道を示すかの様に、壁面にも微弱な魔力が発せられている。この微弱な魔力がどうやら先程のカナッツの言っていた「魔力しか使えない」という状況を作り出す監視システムの役割も果たしている様だ。
 いわば、この空間は魔力を持つ者に光を与え、魔力を持たぬ者を闇が閉ざす様にできていると言えた。
 
 3人はミネルバを先頭に水の呪印の間を目指している。
 そこへの道は面白い事に、水の魔力が風の様に通路から流れてくることから「感じる」ことが出来る。魔力はまるで五感を刺激する様に様々な情報を彼らに伝え、それと同時に五感では知り得ない広域の様々な情報をも知ることが出来る。これはなんとも不思議な感覚と言えた。
 
 そんなことを考えていた時、クロノは水の呪印の間に近づくにつれて寒気を感じ始めた。
 悪寒?…それにしては魔力は安定している。どうやら本当に空間全体から冷気を感じているらしい。
 
 
「なぁ、なんか寒くねぇか?」
 
 
 クロノの言葉にシズクが震えた声で答えた。
 
 
「ううぅ、寒いってもんじゃないわよ。どうしてそんなに平然と言えるわけ?信じられない。」
 
 
 シズクの反応に苦笑気味にミネルバも答える。
 
 
「…そうね。私は先天属性が水だから耐えられるけど、普通の人の感覚ではこの冷気は…マイナス20℃って所かしら…」
「そうなのか?」
 
 
 クロノは首を傾げながら腑に落ちない感覚もありつつも足を進めた。前方からは一際強い冷気の風が立ち込める。次第に空間全体に冷気が満たされていくのが感じられ、足元から強烈な寒気が押し寄せてくる。それはまるで姿は見えないが靄(もや)のように伝わり、3人の足を強く凍てつかせる。
 シズクはたまらず立ち止まり、魔力を集中するとファイアをフィールドに打ち込む。しかし、あまりの巨大な冷気の前に、彼女のファイアはーー表現は逆転しているがーー焼け石に水であった。
 
 
「さむーーーい!!なんなのぉーーーー!?!」

 もはや発狂とでも言うべきだろうか、彼女の限界はとうに越えた恐ろしい寒気の来襲に体の震えが止まらない。そんな彼女をミネルバが気遣い彼女の前に立ちそっと抱き寄せる。

「シズク、ファイトよ。」
「うぅうう、も、もー、こんなとこさっさとクリアしてやるぅぅうぅぅ。」
 
 
 震えの止まらないシズクだが、彼女は半ば意地になってミネルバの抱擁から離れると、冷気に耐えてヒステリックにつかつかと進んだ。
 すると、突然空間認識が拡大した様に感じた。
 
 
「え…、これって。」
 
 
 シズクの背後から二人も追いついた。
 ミネルバが静かに答える。
 
 
「ようやく到着ね。」
「ここが水の呪印の間…すげぇ冷気の出元って奴だな。」
「えぇ。」
 
 
 空間からは巨大な冷気が立ち込めていた。
 それは魔力を持たぬ者を一瞬で凍り付かせてしまうだろう。まるで3人を威嚇している様にもとれる力が体全体で痛い程感じられ、動く事すら大儀なことに感じられた。
 
 その時、前方で突然青い閃光が走る。まぶしい光に目を覆う3人。恐る恐る目を開けると、空間をほのかに青白い光が照らしていた。
 突然の視界の回復に驚く二人に対し、ミネルバは冷静に前方を見つめていた。彼女の視線の先は、部屋の中央の円形の台座の上に据えられた氷のオブジェ。このオブジェこそが光の主の様だ。
 よく見ると、この部屋は円形のドーム状の構造をしており、壁面には沢山の文字と紋様が描き込まれている。文字は魔法の呪文だろうか。古代ジールで見たような文字や紋様も見受けられる。
 
 3人はクロノを先頭に台座へと近づいた。
 そして台座の前に立つと再び青白い閃光が走り、氷のオブジェは粉々に砕けると光の粒となり、それは次第に巨大なモンスターの姿を形成した。
 その姿は一角の角を持ち、緑の鬣を生やした動物の姿をしていた。体長は2mほどだろうか。胸元にはブルーの球体がはめ込まれ、それが青白く時折輝いている。その光はまばゆく神秘的なオーラが感じられ、見る者の心を吸い寄せる様な力を感じる。
 体全体から巨大な水の魔力を発散させている様は、主と言うにふさわしかった。
 
 
「…試練を受けし者、良く来た。我が名はアーヴァンクル。呪印を欲する者は我に挑戦し、勝利せよ。」
 
 ガラガラガラガラガラガラ!!!ドン!
 
 アーヴァンクルはクロノ達に語りかけるとすぐ、後方の入り口を塞いでしまった。
 クロノとシズクは突然の出来事に驚いて後方を見たが、ミネルバは冷静にアーヴァンクルを見据えると構えた。
 
「クロノ、シズク、落ち着いて構えるのよ!」
「え!えぇ。」
「お、おう。」
 
 ミネルバの言葉に慌ててモンスタ−の方へ向き直る二人。
 彼女は魔法でロッドを出現させると、それに魔力を込め始めた。
 
「来る!!!」
 
 アーヴァンクルの胸元の宝石が一際輝く。
 空色の閃光が走ると強烈な冷気が吹き出し、周囲の壁が次々にぺきぺきと音を立てて氷で敷き詰められ始める。
 
 シズクがすぐさまファイガを放つ。
 しかし、アーヴァンクルに向けて放たれたファイガは、そのまますり抜けて後方の壁に衝突し爆発してしまった。爆風が一瞬冷気を和らげるが、その爆風すらあっという間に冷却され、ガラガラと音を立てて地面へと落下して行く。
 
 
「な、なんなの!?これじゃどう戦えばいいわけ!?!」
 
 
 シズクの驚きは当然だった。
 この試練の洞窟では魔法でしか戦えないという話だった。しかし、その魔法がすり抜けてしまったのだから動揺しないはずが無い。だが、そこに冷静にミネルバが動く。
 
 
「お願い!!!」
 
 
 ミネルバのロッドから青い光線が地面へ向けて放たれる。
 光が放たれた地面には瞬時に魔法陣が描かれ、その上に立つ3人を円形の陣が垂直に光を放ち保護し始めた。すると、部屋を覆っていた冷気から解放され、常温並みに保温された。
 彼女が二人に言う。
 
 
「いい、みんな。ここでの戦いは敵を倒すのではなく、如何にこの魔力を手名付けるかを考えて。」
「手名付ける?どうすればいいの!?」
「私達が扱いやすい力に変えるのよ。例えば、この空間の魔力を中和すること。」
「中和する…あ、そうか。フィールドパワーね。フィールドエレメントを中和すれば、魔力も中和される…」
 
 
 シズクは彼女の言葉に納得すると、まだチンプンカンプンといった締まりのない表情をしたクロノに向けて言った。
 
 
「クロノ、これから私に力を貸して!」
 
 
 突然振られて、クロノは困惑した表情で尋ねた。
 
 
「お、おう、で、どうするんだ?」
「私のファイアを空間全体に放つの。」
「ん!そうか、火炎車輪か。よし!」
 
 
 クロノは刀を抜き放つ構えた。
 シズクは魔力を集中すると、通常より高い魔力を込めてクロノへ向けてファイアを放った。
 クロノはファイアの炎を刀で受け止める。魔力が上手く刀に吸収されたことを確認すると、一気に跳躍して水平に円を描く様に魔力を解き放った。
  
 水平に放たれた炎の魔力は爆炎に変わり、激しく部屋一面の壁面に衝突し吸収された。そして、その後瞬時に氷が熱せられ蒸発し、空間が常温程度に保温された。
 すると…
 
 
「…見事な連携だ。力を認め、我がオーブを持つ事を認めよう。」
 
 
 アーヴァンクルは話し終えると青白い閃光を発して輝き、そして見る見るうちに小さく縮むと、胸元の宝石の中に吸収されてしまった。
 宝石は静かに降下を始めると、クロノの手の中にゆっくりと収まった。
 
 
「へへ、これで一個目ゲット!」
 
 
 クロノはそういうとオーブをかざす様に仰ぎ見た。
 球の中には文字が封入されていた。だが、何かがおかしい。よく見るとそれが不思議なことに、どの方向へ回してみても必ず自分の見ている方向へ文字が向いているのだった。
 
 
「おもしれぇなぁ。どっちに回しても必ず俺の方を向くぞ、この文字。」
 
 
 クロノの言葉にミネルバが微笑んで言った。
 
 
「その文字は幻の文字なの。」
「幻?」
「魔力を持たない人には見えない特殊な力が働いているの。だから、見えている人の方に必ず文字が見える。」
「へー…」
 
 
 クロノは感心してしばし見ると、シズクに球を手渡した。
 シズクは受け取るとすぐにプレートへ球をはめ込む。すると、オーブは光を失ってはめ込まれた。
 その時、突然前方の壁が動き、奥へ続く道が現れた。
 
 
「あ、道!?あら、呪印も光らなくなっちゃった。」
 
 
 シズクが驚いて前方とオーブを交互に見ているのに対して、ミネルバは冷静にオーブを
見て言った。
 
 
「フフ、主催者も余程視覚を使われるのが嫌な様ね。」
「えー、そういう理由なの?」
「さぁ。」
 
 
 ミネルバはそういうと、ロッドを仕舞って服を直した。
 
 
「さぁ、次へ行きましょう?」
 
 
 彼女の呼びかけに、クロノとシズクは笑顔で答えた。
 
 
「おう!」
「えぇ。」
 
 ミネルバが歩き始める。
 クロノもその後を行き、シズクも慌ててプレートを仕舞うと二人の後に続いた。


●あとがき。
※来週でCP通算100話です。
 細々とやってきた割に100話って我ながら凄いと思いました。
引用なし
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【97】CPss2第16話「揺らぎ」
 REDCOW  - 07/10/12(金) 10:18 -
  
毎度クロノプロジェクトをご覧下さいまして有り難うございます。
拙い文章ではありますが、2000年の計画開始から7年目を過ぎて、ようやく連載100話目を達成することができました。

長いなが〜〜〜〜い物語ではありますが、それでも徐々に今後も頑張って行きますので、感想とか暖かい励ましとか頂けたら有り難いです。

皆さんの中にクロノ達の未来の一つの姿として残れたら幸いです。

作者REDCOWより


第100話「揺らぎ」(CPss2第16話)
 
 
 水の呪印の間に現れた新しい通路も、また闇の中。
 闇の中を進む3人。
 
 ただ、さすがにもうこの環境へは体が慣れてきた様で、感覚的に魔力を感じて空間を認識する事が出来た。それによって多くの情報が再び入ってくる。いや、これは目で見ている以上の情報量だ。特に呪印の間への道がわかることは勿論、人の動きさえも感じられることは発見といえた。目で見ていては感じられない人の動きが、魔力という力を通してある程度わかる。これに面識があれば誰が動いているかすらも特定できるかもしれない。
 だが、同時に力の限界も感じた。空間認識もこの迷路が特別に魔力を発するように出来ているからわかるのであって、これが通常の洞窟などでどの程度認識できるのかはわからなかった。それに、空間認識限界範囲感じられ、この洞窟の全体像を全て把握することは無理なようだ。ただ、それでも細かく内部の状況を感じる事が出来るようになってきていた。
 それは先程までいた呪印の間では分からなかった事だが、どうやら誰かが呪印の間にて勝負をしていると、呪印の魔力を感じる事ができないようだった。そして、呪印の間の中に入ると、逆に外部の魔力を感じる事が出来なくもなるようだった。
 何故そのような処置が施されているのかは分からないが、なにやらまだまだこの迷路には様々な謎が隠されているのかもしれない。
 
 クロノを先頭に後方を二人が歩く。
 彼は初めのうちは空間認識に集中し過ぎていてよく分からなかったが、次第に慣れと共に落ち着いた事で、今まで気にしていなかった感覚に気付く。それは、魔力は人の感情などといった人間の精神にも関係する力だけあり、僅かに後方を歩く二人の魔力の動きを感じる様になった。
 勿論、これは別に今初めて分かったわけではない。過去にも魔力自体は感じてきていた。しかし、魔力から感情の様な物を感じたのは初めてのことだった。
 今までは常に視覚や様々な五感が人を捉えて認識していたが、ここは言わば第六感のみで全てを把握しなければならない空間。故にその六感に全てを集中する。すると、今まで漠然と感じてきた魔力に人それぞれの色や形が有るように感じられ、そして、その動きは人の感情すら表しているようにも感じられる。
 二人は対照的な感情を持って歩いているようだった。
 シズクはいつもの自信たっぷりな感覚とは違い、まだこの空間に慣れていないことや視覚の喪失による不安があるのだろう…、
 
 
「おい、シズク、」
「な、何?」
「俺達はちゃんといる。安心しろ。」
「え、えぇ。って、もぅ、何その余裕!むかつくー!」
「ははは、わりぃわりぃ。」
 

 クロノに反発する言葉とは裏腹に、シズクの心の揺らぎが止まった。
 彼女からはずっと揺らぐ心が感じられた。しかし、もうこれで大丈夫だろう。
 
 そして、一方のミネルバは、シズクとは対照的に静かで穏やかな感情を感じた。
 彼女はさすがに過去にこの迷路を経験している事もあり、余裕は勿論、自信すら窺わせるほどに鋭敏で知性的なものを感じる。
 しかし、それでいて優しさがある。
 
 
「クロノさん」
「え?」
「……私の心は如何でしたか?」
「いぃ?」
 
 
 突然の問い掛けに驚くクロノ。
 あまりのズバリな言葉に、何を言って良いのか頭が真っ白になった。
 そんな彼の反応に彼女は悪戯っぽく笑うと、彼にやんわり諭すように話しかける。
 
 
「ふふふ、あまり女性を隅々まで舐める様に覗くのは感心しませんよ。」
「うぅ!?……ごめんなさい。」
「はい。良いお返事です。ふふふ。」
 
 
 二人のやりとりを聴いて、不思議そうに思うシズクが彼女に尋ねた。
 
 
「どういうこと?さっきのクロノといい、今のミネルバさんと良い。」
「それはね、魔力から心を感じ取っているからよ。」
「心?どうやって?」
 
 
 シズクは二人だけ分かって、自分が分からない事に大層不満という声だった。
 そんなシズクにミネルバは優しく答える。
 
 
「魔力には揺らぎがあります。それは人のバイオリズムに沿って魔力が揺らぐからです。そして、揺らぎは感情の起伏によって変化します。怒った時は激しく、哀しい時は静かに…そんな当たり前に私達が持っている感情は、魔力にも表れるんです。」
「…揺らぎ…?」
 
 
 シズクが二人の魔力に集中する。
 すると、先程までは空間を把握する為に全神経を集中していたために分からなかったが、確かに二人の魔力には揺らぎがあり、そのパターンは一定ではなかった。
 
 
「…なんとなくだけど…そうね、そう言われれば…そうなの…かな???」
 
 
 まだ半信半疑なシズクではあったが、仮にそうであったとすれば、先程のクロノの言葉にも納得がいった。何よりクロノは自分のことを心配して声を掛けてくれた…ちょっと嬉しかった。
 
 
「そ、そろそろ火の呪印が近いよ。」
 
 
 シズクは赤面していることを紛らわすかのように言った。実際に見えないのだから分かるはずが無いのに、思わずそうしないではいられなかった。
 二人はシズクの可愛い反応に微笑みを浮かべながら、火の呪印への道を歩いた。

 3人は集めやすい呪印から集めることにしていた。
 彼らのいた場所から比較的近くて集めやすいと思われるのは地と火だが、火の方が使い手もいることから難易度は低く感じられた。
 特に地の場合は地の術を無効化するフィールドを張れる術士が一人もいないため、先に火を取っておいてから地を回った方がロスが少ないと思われた。
 
 火の呪印の間が近づくにつれて徐々に空間に熱が帯び始めた。
 先程の水の呪印同様、どうやら呪印の間の近くの空間には呪印の持つフィールド属性効果が漏れ出している様だった。しかし、その方が魔力だけではない空間認識を得られて確実さを感じられた。
 この辺は主催者側のサービスなのだろうか…クロノはそんなことを感じつつ先を急ぐ。
 
 どんどん上がる気温。
 最初は少し肌寒いくらいの温度の迷宮だったが、今は既に摂氏30度を越え、40度を越えようとしている。だが、それでも熱は上昇する気配を見せ、当たり前といえばそれまでだが、一向に下がる気配は無い。
 
 額から落ちてくる汗を拭いながら、遂に3人は目的の火の呪印の間に出た。
 入った瞬間に後方の入り口が塞がれ、その瞬間にボウッと大きな音を立てて中央の台座から緋色の閃光を放って炎が吹き上がる。すると空間に突然視覚が戻り思わず目を覆った。
 
 気温は摂氏80度。とても普通の空間ではない。
 思わず火傷するほどに熱いが、ミネルバは即座に水のフィールドを造り、3人を熱から保護した。
 その時、突然声が上がる。
 
 
「はっはっは!待ってたぜチームポチョ!!!」
 
 
 発せられた声の主は、クロノ達のすぐ横にいた。
 なんと、どういうわけか他のチームがその場に一緒に居合わせていたのだった。
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【98】CPss2第17話「ファイアブラスト」
 REDCOW  - 07/10/19(金) 10:58 -
  
第101話「ファイアブラスト」(CPss2第17話)
 

「バンダー!?…どうしてあなた方が。」
 
 
 ミネルバの問いに、バンダーと呼ばれた赤い髪の青年はニッコリ笑って言った。
 
 
「そない驚くなや。まぁ、俺かてなんも意味なくここにおらへん。どや、共同戦線と行こうや?」
「どういうこと。」
「どうもこうも…おぉっと、話してる暇はねぇよって!前見ぃ!」
「え!?」
 
 
 中央の台座の炎が巨大な獣の形に整形され始める。
 その形は体は四足動物の様な体つきをしているが二足で立ち上がっており、頭は大きな角を二本生やし、額に水の呪印同様に火の呪印がはめ込まれていた。
 
 
「我が名はフレアビースト。フィールドは閉じられた。空間に存在する者は全て、我が炎の前に灰となるがいい。」
 
 
 その瞬間、轟音と共に炎が吹き出す。
 ミネルバは即座にフィールドの水属性を強化し防ぐ。しかし、その出力が追いつかない。もはや防ぎきれないと思った瞬間、突然ミネルバのフィールドは炎を押し返して安定を始めた。これは自分の力ではなく、明らかに他の人の力が加わっていた。
 驚いたミネルバが力の出所を見ると、バンダーのメンバーの女の子が魔力を注いでいる事に目が止まった。
 そこにバンダーが言う。
 
 
「あんたらだけじゃ無理だ!わかったろ?俺らと一緒に合わせがけすれば耐えられる!!」
 
 
 悔しいが、確かに彼の言う通りだった。
 ミネルバがクロノを見ると、クロノも頷いた。
 
 
「わかったわ!で、どうするの!」
「おぅ、ほんまか?ほな、俺んとこのメンバルがあんたらのフィールドと直結するさかい、少し待っときぃ!」
 
 
 バンダーの言葉の後、空間を包み込む炎を切り裂くように道が現れ、炎術師バンダー率いるファイアブラストのメンバーが、クロノ達と合流した。
 
 
「ほな、よろしくな!」
 
 
 バンダーが笑顔でクロノに握手を求める。
 クロノはそれに快く手を差し出した。
 
 
「君たちは一度ここを知っているんだな。」
「おぅよ!ここの炎は厄介やでぇ!俺は炎術師やしな。まぁ、メンバルの氷には自信あんねんけど、さすがにこれはなぁ…。せやから、誰か強ぇ奴が来んか待ってたっちゅうわけや。」
 
 
 そう言ってぽりぽりと苦笑いして頭を掻くバンダーに対し、いかにもうさん臭そうという表情でいるシズクの姿があった。
 彼女はじろりと横目にみると、彼にいった。
 
 
「策はあるの?」
「策?策………策、サクサクサク、ん!?この菓子旨いなぁ!」
 
 
 シズクの問い掛けに彼は懐から唐突に菓子を出して食べた。ウエハースの様な菓子をさくさくと軽快な音を鳴らして食べる彼の表情は、とても旨いと訴えているかのようだ。だが、彼女の質問の答えにはなっていない。
 
 
「無いのね???」
「………はい。」
 
 
 彼は彼女の無表情な冷たい一言に凍りつき、しおしおしおと萎れるように小さく隅に縮むと正直に答えた。
 彼女はその答えに呆れたように溜め息を一つ吐くと、魔獣の方を向いて構え、手に魔力を集めて一気に放出した。
 
 
「えい!!!」
「火ぃぃ!?!」
 
 
 バンダーは思わず目玉が飛び出しそうなほど驚いた。
 彼女が放った魔法は、水でも氷でも風でもなく火。自分が使う魔法と同じならば、フレアビーストの属性とも同じ。どう考えても回復させているとしか思えない。
 案の定、シズクの放ったファイアは、フレアビーストの体にボシュっという音と共に吸収されてしまった。
 
 
「…やっぱり駄目ね。」
「当たり前や!んなこと、どないなアホでもわかるわ!!」
「…やかましいわ!黙ってて無策野郎。」
「なっ!?」
「無策じゃないなら言ってみなさい!」
「………はい。無策です。」
 
 
 バンダーは何も言えず、再び隅で小さくイジイジ体育座りをして彼女の言葉を肯定した。彼女もまた再度溜め息を吐くと話始めた。
 
 
「えっと、良いかしら。私は水の呪印から推測して、この魔獣もフィールドと一体化していると見たわ。でも、単なる水属性で圧倒しただけでは焼け石に水って言うぐらいだから、多分倒せない。だから、もう一つの火の消し方を実践してみようと思う。」
 
 
 彼女の提案にクロノが問う。
 
 
「もう一つの消し方?」
「そう。クロノ、火はどうやって燃えるかしら?」
「どうやってって、燃えるものがいるだろ?あと、火種と、空気か?」
「そうね。燃えるものと火種と空気。これで彼の弱点は明らかよね?彼が唯一作り出せない物が弱点と見たわ。」
「作り出せないもの?………空気か?」
 
 
 彼女はにやりと微笑み言った。
 
 
「…私が天のフィールドでみんなを宙に浮かせるから、その後クロノ、空間にカマイタチ宜しく。そして、ミネルバさんとメンバルさんで出来るだけ強力なシャボンアイスを作って保護して。その間、バンダーさんは一瞬水のフィールドを解かないといけないから、わかるわね?」
 
 
 彼女の問い掛けに一同がフムフムと頷いていると、隅の方で体育座りしていた青年が、突如わが世の春のごとき勢いで彼女の前に現れた。
 
 
「おぅ!火で相殺やな。相殺なんやな!?そうか!そういうことか!…んで、真空なら燃えない。その手があったわ!!頭ええなぁ!嬢ちゃぁん!」
 
 
 彼は彼女の頭を笑顔で撫でようとした…が、それは一瞬で顔面が蒼白になった。彼の目前の女性は、この世のものとも思えない形相で彼の行動を片手で丁重にお断りしていた。
 
「嬢ちゃんじゃないわ。私はシズク。そう。でも、真空は私達にとっても諸刃の剣。真空から私達を保護しなくてはならないわ。更にこの空間の炎もある…そのためにカマイタチに負けない水と天のバリアが要る。」

 シズクの作戦に一同が同意すると、その作戦は実行される事となった。
 各自が準備に入る。
 
 
「用意は良いわね?、行くよ!」
 
 
 シズクの体から天の魔力が放出され、全員が徐々に宙に浮かび始める。そして、うっすらと天のフィールドが球状に形成された。
 それを確認すると、クロノ・ミネルバ・バンダー・メンバルの4人がそれぞれの顔を見て確認する。そして、次の瞬間ミネルバとメンバルの水のフィールドが解除された。そして、それを合図にクロノがカマイタチを地面に向けて思いっきり放つ。
 
「行っけぇぇぇえええ!!!!」
 
 巨大な真空波が地面に衝突すると、その衝撃が空間全体を激震させる。すると空間の火のフィールドが不安定になり始めた。
 それと時を同じくしてバンダーは火のフィールドを張り、ミネルバとメンバルのフィールド形勢を待つ。
 
 
「うぅ、くぅぅ!こ、こないな炎…そうそう出ぇへんでぇ!」
 
 
 地面に刻み込まれた真空の傷跡から、天の力が輝く刃となって空間全域に急速に染み渡り始める。遂に真空のフィールドが生じようとしていた。
 
 
「ま、まだか!!はよぉ、せぇぇえええいいい!!!」
 
 
 バンダーが叫んだのと時を同じくして、遂に彼の待ちに待っていた効果が現れた。
 まずミネルバのシャボンフィールドが張り巡らされると、その水をメキメキと水晶の様に透き通る氷のフィールドが染み渡った。
 氷のフィールドが完成した。
 
 
「はひぃぃ!?………ふぅ。へっ!、無茶させるよって…。…ほっ。」
 
 
 へたるようにその場に構えを解き崩れるバンダー。
 クロノ達も空間の推移を見つめた。
 
 空間が急速に冷えて行く。
 真空は空気の供給をカットするとともに、空間を冷却し始めた。その力は並の氷の魔力を遥かに越える驚異的なパワーとなり、フレアビーストの体は徐々に冷気が支配を広げ、足の先から始まった侵食は、頭の先までに至り、遂に完全に空間が冷却された。
 
 
「ぐぅううぅぅぅぅ…、見事な連携だ。…力を認め、オーブを授けよう。」
 
 
 ミネルバとメンバルはバリアフィールドを解いた。フィールドはキラキラと輝く雪の粒となって地面に舞い落ちる。そこに魔獣の体が粉々に砕けると光子の粒に変わり、その光は一点に集束すると球となり固まった。その情景は芸術的ですら有り、クロノ達は輝き舞い落ちる雪の中に光る火の呪印球がゆっくりと落ちてくるのを見つめていた。
 すると前方の壁が開いた。 
 
 
「頂き!!!」
 
 
 その時、全く予想外の事が起こった。
 なんと、バンダーはジャンプして火の呪印球をキャッチすると、そのままの勢いで3人とも示し合わせていたかのように前方の出口から素早く逃亡を始めたのだ。
 
 
「待ちなさい!!!!」
 
 
 シズクが叫ぶ。
 3人は慌ててバンダー達を追いかけた。
 だが、それは突然襲った。
 
 
 ブバッ!!!!!
 
 
 それはクロノがあと少しで追いつく瞬間だった。
 人一倍肥満男のヤッパの放った毒ガスは、瞬殺といっていい程の激臭をまき散らした。
 3人はその場に悶え苦しみ、追跡を断念せざるを得なかった。
引用なし
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【101】CPss2第18話「ルール」
 REDCOW  - 07/10/26(金) 10:23 -
  
第102話「ルール」
 
 クロノ達は仕方なく火の呪印の間に戻った。
 すると、今度は道も閉ざされずに中央まで進むことが出来た。
 呪印獣のいた中央の祭壇に近づき、クロノが呼びかけた。
 
 
「なぁ、呪印はもう一つ出ないのか?」
 
 
 彼の呼びかけは、虚しく空間に響きわたる。
 
 
「なぁ、誰か聴いてるんだろ?」
 
 
 そこに天井から若い女性の声がした。
 
 
「審判を務めてますカナッツです。チームポチョの請求にお答えします。呪印は1チーム1試合一つのルールとなっており、今回の試合で獲得できる呪印の数は一つです。しかし、この試合に参戦したチームは二つとなっています。この場合、どちらか一方が先に獲得したものの勝ちとなります。」

「おい、1チーム1試合一つなんだろ?なら、ファイアブラストは2度目だから反則じゃないのか?」
「いいえ。呪印獲得試合時に複数のチームが参戦することは禁じていません。しかし、2つのチームが双方とも初めての試合の場合はこの限りではなく、どちらか一方をまず選択して試合をさせ、次のチームへ交代させます。」
「つまり、失敗したチームは、他のチームの試合に加わって奪う権利があるってことか?」
「そうなります。今回の試合結果により、火の呪印の総数は一つマイナスであることをお知らせします。では。」
「お、おい!!まだ聴きたいことが!!!」
「………」
 
 
 カナッツの反応はこれ以降無く、仕方なく3人はこの結果を甘受するしかなかった。
 シズクがそっとクロノの肩に手を置いて言った。
 
 
「クロノ、私、今度バンダーに会ったら…失格になるかもしれないけど許してね。」
「…お、おい。」
 
 
 シズクの凄まじい怒りのオーラを感じる。
 チームメイトの他二名もその気持ちは分かるが、さすがにこの勢いにはたじろいでいた。
 
 3人は火の呪印はどこかでバンダーから取り戻すことにして、次の呪印の間をめざすことにした。現段階でこの場所から一番近い場所で強い反応を示しているのは地の魔力だった。彼らは地の呪印を目指すことにした。
 
 相変わらず洞窟は真っ暗だった。だが、だいぶこの感覚にも慣れ、魔力で空間を把握しながら歩くという行動が身に付き始めていた。出だしの頃は色々と戸惑いながらだったが、火の呪印までの流れを経験した事で流れを把握した事も有り、心の余裕も出来てきていた。
 しかし、地の呪印の方向に向かうと、何故か急激に体が重くなり始めた。
 
 
「なんなの、この重力は!?」
 
 
 シズクは体全体が吸い付けられる様に強力な力を感じていた。
 最初はほんの僅かに手足に痺れるような感覚を感じるだけだった。しかし、それは次第に強くなり、徐々に徐々に痺れは重みに変わっていた。強い重りを足枷のように付けて歩く感覚で済んでいた辺りまでは、まだ良かった。今では…
 
 
「だ、大丈夫か!?二人とも。」
「私は大丈夫です。私は地属性をESに含むので影響が少ないですが、お二人は天属性ですから大変でしょう。」
「俺は大丈夫。…もっとスゲー奴を知っているからな。」
 
 
 クロノにとって、この重みは拭えない痛みだった。
 この重力にすら勝てなくて、自分の達したい目標など夢に過ぎない。そう思うと余計に腹立たしく、この程度の力に負けるわけにはいかなかった。

 
「わ、私も大丈夫よぉ。でも、おかしいでしょ!こんな重力。」
 
 
 大丈夫とは言ったものの、さすがにこんな状況を長く続けていくのは体力の消耗が大きすぎる。
 シズクは二人に尋ねることで、出来れば色よい答えが返ってこないかと期待した。
 
 
「…そうですね。これは地の呪印のフィールドパワーの影響でしょう。大地に結びつける力が地属性の本来の姿。だから、地の呪印に近づくにつれて重力が増すんです。」
「へぇー…。」
「しかしよぉ、なんかまるで地面に吸い付けられるような感じだぜ?タコかここは。」
「…タコって。」
 
 
 期待したのが馬鹿だったと自分を反省するシズク。
 そんなことは全くお構いなしにマイペースに進む二人の後ろを、彼女はとぼとぼ力なく歩く…ところだが、実際は踏ん張りながら歩くのだった。だが、突然前の二人の歩みが止まる。いや、進めなくなったと言った方が正しいだろう。
 彼女も二人のもとに近づいた時、今までとは比較にならない巨大な重力が足を縛りつけた。
 
 
「な、何、これ!?」
「…さ、すがに、進めねー、な。」
「困りましたねぇ。」
 
 
 前方からは一際強い重力波動を感じる。紛れも無く地の呪印の間は近いはずだ。だが、このままでは一歩も進めそうにないことは確かだ。
 何か方法が無いかと考えていると、天の魔力で飛翔することで対抗出来ないかと考え始める。火の呪印でもそうだったが、ここはフィールドパワーが大きな意味を持っている。ならばとばかりに、クロノは試しに刀にサンダガを込めると、一気に地面に突き刺した。すると、空間内の重力が一気に無になり、ふよふよと体が浮き始めた。
 
 
「お、やりぃ!俺って天才!」
「天の魔力で中和したのですね。なるほど、こうして空間のフィールド効果を変える事がここでの目的なのかしら。クロノさん、お手柄ですね。」
 
 
 ミネルバに褒められて満更でもないクロノの魔力の揺れを感じて、シズクはより一層呆れていた。しかし、彼女もクロノの行動からようやくこの洞窟の謎が解けてきたようにも感じた。
 この洞窟の呪印を守るモンスターも、空間属性を中和もしくは逆転させることで突破することができた。ここでは魔力の質のコントロールが問われており、空間属性を如何に上手く利用できるかが大きな鍵となっていると思われた。
 
 三人はクロノを先頭に、彼が魔力を中和しながら呪印の間への最後の通路を通り抜けた。そして、遂にその後は何事も無く無事に地の呪印の間に入る事が出来た。
引用なし
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【102】CPss2第19話「呪印解放」
 REDCOW  - 07/11/2(金) 9:54 -
  
第103話「呪印解放」
 
 中に入ると、火の呪印の間同様に入り口の封鎖が起こり、完全に閉まった音が聞き取れると、徐々に中心の呪印を守るモンスター像が光り輝き、視界が戻った。
 戻った視界に現れた空間は洞窟の岩肌そのもまのくりぬかれた空間で、一面砂が敷き詰められていた。
 中心に立つ蛇とも竜とも言い表せるであろう判別の付かない姿をしたモンスター像から声がする。
 
 
「我は地が呪印を守りし者。その力、全てを揺るがし、その拳、金剛を極める者。我に挑戦せしは己らか?」
 
 
 モンスター像はぼんやりと明滅を繰り返しながら問い掛けてきた。
 代表してクロノが答えた。
 
「あぁ、俺達だ。」
 
 彼の声を聞くと、モンスター像は突然輝き、表面にヒビが入るとピシピシと音を立てて表面が崩れ始めた。そして、剥離した表層の下から屈強な肉体が現れた。
 
「我が名はミドガルズオルム。大地を揺るがし、全てを震わせる者。お前達が我が前に震え泣くのを楽しみにしておる。」
 
 そう言うと、モンスターは突然オーバーモーションで尾を振り上げると、そのまま地面に無かって急速に叩きつけた。
 
 巨大な衝撃が走る。
 
 その力は一瞬で空間に広がり共振し、三人は身動きが出来ぬほどの振動に襲われる。咄嗟の受け身もとれずにいると、次の瞬間、地面に急速にめり込みだし、三人に巨大な重力のプレッシャーが襲いかかる。
 
 モンスターはしたり顔で見ていた。
 最早この者達に抵抗する術などない。
 このままリタイヤを宣言し、彼の仕事は勝利に終わるに違いない。だが、彼としては気が抜けなかった。なぜなら、ここ最近の試練の挑戦者の中には、彼の予想外の力を持った者たちが増えていたからだ。しかし、何としても負けるわけにはいかない。彼には勝たねばならぬ理由がある。
 
 
「(あと6チームだ。それで俺は自由になる。こいつらをやれば、あと5…)………!?」
 
 
 モンスターは目前の状況に驚いた。
 彼がアレコレ考えている間に、三人は体の自由を取り戻して普通に立っているではないか。しかし、あの状況でどうやって。
 
 
「驚いたかしら?でも残念ね。私達、この手の攻撃には慣れてるの。これよりもっと強烈な奴を受けた事があるんだから。」
「…そういうことだ。観念してもらうぜ。っといっても、お前に攻撃しても無駄なんだよな。」
 
 
 そういうと、クロノはシズクに目配せする。
 彼女はクロノの意図を理解すると自分の魔力の影響範囲を広げ、クロノとミネルバをその影響圏に入れた。すると、三人の体はすうっとゆっくり浮き上がった。
 彼はそれを確認すると魔力を集中し始める。次第に青白い輝きが全身から湧き出し、彼の足下に無数の魔法陣が描き出され、その支配を広げた。
 
 
「(なんだこいつは!?これは…天の法陣!…しかも、こいつは最高位の天空陣!?この時代にこんな化け物がいるなんて!?!)…ちょ、おい、待て、そんな力を使われたら、この空間その物が!」
「問答無用。はぁああああああ!!!!!!」
 
 
 ゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
 
 
 クロノの周囲に敷かれた魔法陣が爆発的に支配を広げる。
 その力は一瞬で地の重力を崩壊させ、全ての物体に浮力となる斥力を発生させた。
 突然の力の転換に耐えられず空間にヒビが入る。
 
 
「ま、まて!くそ、なんで俺様が!?!」
 
 
 モンスターはそう言うと、全魔力を注いで空間を繋ぎ止め始めた。しかし、クロノの魔力は途方もなく膨大で、半ば無謀にも思えた。だが、このまま放置しては自由どころの騒ぎではない。
 
 
「くぅ、管理者!印の解放を要求する!我が印の力を解き放て!」
 
 
 彼の言葉に呼応するかのように、モンスターの額に輝く呪印が青白く一際強く輝いた。
 そして、
 
 
「うごぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
「!?」
 
 
 咆哮とともにモンスターの体からの魔力が突如膨れ上がる。
 その魔力は巨大な引力となって空間に浸透し、それまで崩壊しようかという程に空間を満たした斥力フィールドを力押しで制し始める。
 クロノはそれに負けじと魔力を放出し続けるが、時既に遅く、瞬間的に増大してしまった力を抑えることは容易ではない。じりじりとクロノの劣勢が濃厚にになりだした。だが、ここで負けては先に進めない。
 しかし、そこに放送が入る。
 
 
「現在戦闘をしているチームぽちょに戦闘の終了を通告します。直ちに戦闘を終了して下さい。この戦闘の結果はチームぽちょの勝利として決着はついています。」
 
 
 突然の放送に戸惑う3人。
 シズクが理由を尋ねる。
 
 
「本当に勝利なの?どうして?」
「既に呪印獣は印を解放しています。本来呪印獣はその印の力の中で活動しなければなりません。しかし、現在の状態は異常事態です。よって緊急時対応として不戦勝と処理し、この戦闘を終結させるものとします。」
「それって、これはやばいってこと?」
「いいえ。あなた方の戦闘を終了すれば、呪印獣も不必要な魔力の行使をやめます。」
 
 
 カナッツの言葉にシズクはクロノの方を振り向き頷いた。
 彼はその合図を見て戦闘態勢を解いた。すると、確かに呪印獣は攻撃をやめて空間の維持に向けて魔力を注ぎ始めた。
 
 
「…ぐぅぅぅ、お前達のせいで俺はこんな作業までしなければならんのだ。少しは反省しろよ。くぅぅ。」
 
 
 そう言うと呪印獣は一気に魔力を放出した。
 その力はがたがたに歪んでいた空間を一瞬にして見事に修正した。
 
 
「お前達の勝利は放送の通りだ。我が呪印をお前達に授ける。受け取れ。」 
 
 
 彼はその言葉の後、光の粒子となって一点にその光が収束すると呪印球になった。その色は茶褐色をしており、黄金の輝きを放っていた。呪印球はゆっくりと降下してシズクの持つプレートに収まった。
 
 
「これで3つ目の属性を通過した。次は天だな。」
「えぇ。」
 
 3人はなんとか無事に手に入った呪印球に安堵しつつ、次なる天の呪印の間を目指して歩き始めた。
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【103】CPss2第20話「天国と地獄」
 REDCOW  - 07/11/9(金) 12:46 -
  
第104話「天国と地獄」(CPss2第20話)
 
 
 天の呪印への道を進み始めたクロノ達3人は、呪印のフィールドが近づくにつれて前方から光が見え始めた。天の呪印の間への道は前方から光を放っており、空間認識に視覚が徐々に戻り始める。3人は視覚があることに安堵しながら進んでいると、前方でプラズマ放電らしきものが無数に走っているのが見えてきた。
 
 
「あれって、…やっぱり天のフィールドのせいよねぇ。」
「だな。」
 
 
 シズクの言葉にクロノも苦りながら同意する。
 ミネルバは落ち着いて前方を見て立ち止まると、プラズマ放電に向けてウォーターを放つ。
 
 彼女のウォーターの水球は宙をふよふよ浮いて進むと、徐々に放電している電気を吸収し帯電させ始めた。彼女はそれを確認すると、ウォーターの出力を上げてどんどん吸い上げる。彼女の考えた方法は上手く行くように思えた。しかし、電気エネルギーを次々に帯電させてゆくウォーター内部の電力は莫大なものとなり始めていた。その力は次第にウォーターの呪縛の許容量を超え、魔力の流れを伝ってミネルバにも襲い始める。
 だが、彼女はそれも見越していた。
 もう片方の腕を伸ばすと、彼女は地の魔力を集中する。そして、無数の砂粒が手のひらから水球へ向けて放たれた。
 砂は帯電する水を吸収すると、周囲の壁に拡散して吸着した。
 プラズマ放電は見事にアースされ、その場から消え去った。
 
 
「ミネルバさん、お見事!」
「さすが、ミネルバさん!」
「フフ、私も少しくらい良いところ見せないとね。」
 
 
 彼女の見事な活躍で開かれた道を進む三人。
 彼らは遂に光溢れる前方の呪印の間に辿り着いた。
 
 入った途端、視界があまりの眩しさにホワイトアウトしてしまうほど、そこは光でいっぱいだった。徐々に戻り出した視界の先には今までの部屋とはまるで違う空間がそこに展開されていた。
 全体は今までとは全く違う高さのホールになっており、白い壁全ての壁面に空と雲が描かれ、そこはまるで天国の様な雰囲気だった。
 
 
「何、ここ…、どうしてここだけ装飾が立派なわけ。」
 
 
 シズクの疑問はもっともだったが、それよりももっと厄介な問題があった。
 後方の扉が閉まる音がする。
 すると、同時に空間に複数の気配が現れた。
 
「待っていたわ!ゴルァアアアア!!!!」
「一緒に戦うゲロ」
「なんだ、君達か。」
 
 なんと、そこに現れたのは、奇妙なマッスル男3人組の乙子組、蛙族のチームであるフロノ・ノ・コリガー、そして、列車で同室だった少年と青年に少女が加わった腐れ縁チームが居た。
 
 
「もしかして、あんた達…負けたのね。」
 
 
 シズクのズバリな指摘に、3チームが一斉に反発する。
 
 
「そんなん、ズバリ言われたら、恥ずかしくてお嫁に行けないわ!ゴルァアアアア!!!」
「悪いかゲロー!!」
「…。」
 
 
 3人は彼ら3チームと否応なく共に戦わなくてはならない現実を複雑な心境で見ていた。そんな中、シズクが3チームに話しかける。
 
 
「ねぇ、とりあえずは共同戦線よ。分かってるわね!」
 
 
 彼女の問い掛けに3チームは同意した。
 そんな彼らのやり取りをしている間に、中央の台座が輝く。そして、黄金に光輝く光球が空へ舞い上がると、その光は黄金の羽をまき散らして拡散し、光球のあった宙を舞う一羽の鳥がいた。
 その鳥は輝く長い尾を持ち、黄金の羽毛に覆われた見事なクジャクだった。
 エンジェルバードが問い掛ける。その声は美しく透き通るような若い女性の声だった。
 
 
「私は天上人に仕えし者。人はエンジェルバードと呼びます。私に挑戦すると言うあなた方の力を、見て差し上げましょう。もし、私に勝てたならば、あなた方の力を認め、私の力を授けます。さぁ、どなたから始めるのですか?」
 
 
 エンジェルバードの問い掛けに、シズクが元気よく言った。
 
 
「全員よ!!!!」
 
 
 彼女の言葉に、他の3チームのメンバーは一斉に苦り顔になった。
 
 
「まじなのーーーー!?!」
「そ、そこは、普通1チームずつとかいうゲロよ?」
 
 
 そんな彼らの反発を他所に、シズクは勿論、クロノ達も臨戦態勢だった。
 それを見て渋々3チームもエンジェルバードに向かって構えた。
 
 エンジェルバードは、下の騒ぎとは関係ないと言わんばかりに優雅に宙を漂っていた。その神々しい輝きは、見ているものを惹き込む程のオーラを放ってさえいるだろう。だが、これほどの神々しさが有ろうと、下の者たちは理解とは程遠いポジションに立っている。いくらオーラが有ろうと理解しない下の人々の存在は、彼女にとって不愉快なことだた。
 
「(…どうせ皆私のことを理解しないのです。全ては力に溺れるが人の流れ。私を理解した人々と同じように…、ならばせめて私が教えて差し上げましょう。人の限界を。)
 
 彼女はその美しい翼を大きく広げると、魔力を集中した。
 彼女の翼から無数の羽が空を舞う。それは幻想的で美しい時がまるでゆっくりと流れ行く様な優雅さを醸し出していた。誰もが目を奪われ、意識を集中するに違いない。
 だが、その優雅さは一瞬で豹変した。

「な!?」
 
 シズクが驚き反応するが追いつかない。
 エンジェルバードの羽は無数の光線となって天より振り注ぎ、全ての者へ容赦ない攻撃を仕掛けた。巨大な天のエネルギーが空間を満たし、そのフィールド効果が光線のエネルギーを増幅させる。
 
 天国は一瞬で地獄と化した。
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【105】CPss2第21話「あめ」
 REDCOW  - 07/11/16(金) 10:49 -
  
第105話「あめ」(CPss2第21話)
 
 
 一面に降り注ぐ光の雨が容赦なく全ての者を攻撃する。
 5属性の中で最も強力な破壊力を持つ天の魔力は生半可な防御では全てを防ぐのは不可能。しかし、それでも一度負けているであろう全てのチームも、この試験に来るだけの力はあるのだろう。第一射は何とか防いでいる様だが、このままではやられるのは時間の問題だろう。そして、それはクロノ達も例外ではない。
 
 
「なんなの!?圧倒的じゃない。こんな力がこの国にあるなんて…」
 
 
 シズクの驚きの声に、ミネルバが言う。
 その声はシズクとは違うが、彼女も困惑している様に感じられる。
 
 
「私もここまでとは思いませんでした。先ほどの地の呪印といい、この力は扱い方を間違えると恐ろしいことになる。(お父様は何を…)」
 
 
 二人の驚きにクロノはというと、元々先天属性が天であることもあり、彼にはまだこの攻撃は温い様子だった。彼は魔力を集中すると、地面に向かって天のフィールドを張った。彼のフィールドは3人をドーム状にすっぽり包み込むと、それまでの攻撃を一切受け付けないバリアフィールドを形成した。
 
 
「ナイス!クロノ!」
「へへ。」
 
 
 クロノがフィールドを張った頃、時を同じくして他の2チームも同様のフィールドを張っていた。ただ、フロノ・丿・コリガーチームだけは天とは逆の地のフィールドを形成していた。…どうやら天属性の術者がいないらしい。
 
 
「ゲコゲコ、頑張るけろーーー!!」
「ゲロロロロロロロロロロロロロ…」
 
 
 必死にフィールドを張るフロノ・ノ・コリガーチーム。しかし、強力な属性攻撃に対抗するアンチ属性フィールドでのバリア形勢は通常の倍の魔力を要する為、急速に魔力を消費して行く。だが、蛙族は元々地と水の属性が通常より高い種族であることもあり、高い地属性のES効果が地属性の魔法出力を通常より低い力で発動させることができる。
 
 4チーム4様の防御体制が整ったが、エンジェルバードの第2射が襲いかかる。
 光の雨は眼下のチャレンジャーの対応を見て倍以上の出力となって降り注ぐ。必死でフィールドを張っていたフロノ・ノ・コリガーチームだが、突如倍に増えた魔力に堪えられずフィールドが消滅しようとしていた。
 
 
「(き、消えるゲロ!?)」
 
 
 3人は皆消滅を覚悟し祈るように目を瞑った。しかし、彼らの恐れていた事態は起こらない。恐る恐る目を開ける3人の頭上には天のフィールドがあった。そして、一人の男が立っていた。
 
 
「大丈夫か。フィールドを延長した。」
「だ、大丈夫だケロ。あなたはチームぽちょの…ありがとうだケロ。」
「なーに、気にするな。困った時はお互い様だろ?それに、ここをクリアしないことには出られない。とりあえず目的は一緒だろ?」
「そうケロね。」
 
 
 フロノ・ノ・コリガーチームは笑顔を見せると、クロノ達のもとに合流した。
 チームリーダーであるカエゾーが人間の言葉で挨拶した。
 
 
「迎えてくれて感謝する。俺はカエゾー・カエ。そして、彼女はカエミ、んでもって、彼は勇者グレンの血を引くフログだ。」
「え、勇者グレン?」
 
 
 クロノは驚いた。この時代にもカエルの血を引く者が居て、実際に会えるとは思いもしなかったからだ。しかし、紹介されたフログは静かに否定する。
 
 
「…フログ、フォレストだ。助太刀感謝する。だが、先に言っておくが、俺は勇者ではないぞ。」
「しかし、フォレストって姓は…」
「フォレストなんて有り触れた名だ。フィオナに来れば幾らでも会える。特にグレンは伝説では蛙男で、我々の一族を導いたと聞く。それに敬意を表してフォレスト姓を名乗った蛙族は多い。」
「はは、そ、そうか。」
 
 
 彼の冷静な否定に、クロノもそれ以上聴く事は出来なかった。
 そこにフロノ・ノ・コリガーチームの紅一点であるカエミが挨拶する。
 
 
「カエミです!助けてくれて有り難う!」
「あぁ、どーも。一緒に頑張ろうな。」
 
 
 互いの簡単な紹介をして合流を済ませた2チームは、尚も降り続く光の雨に対して対策を考えていた。だが、考えている内にどんどん魔力が増強されてきており、その出力に耐えかねて遂に1チームが被弾した。
 
 
「ぎゃぁあああああああ」
「あ〜〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「うふぅぅぅ〜〜〜〜ん、………もっと。」
 
 
 最後の悲鳴はともかく、時は一刻を争う状況と言えた。クロノはシズクにバリアフィールドを引き継がせると、一か八かの賭けに出た。
 
 目をつぶり魔力を集中する。
 クロノの体が浮き上がり、全身から青いオーラが漏れ出し、彼の足元に魔法陣が形成される。その魔法陣は次々に支配圏を広げ、急速に空間全体に魔法陣が描かれ埋め尽くす。
 青きオーラは空間を満たし、その魔法陣からは青く輝く粒子が吹き出して舞い始める。
 
 
「(そろそろか…………今だ!)えい!!!」
 
 
 クロノは目を開けて勢い良く宙から地面に向けてパンチを当てた。そのパンチは地面に描かれた魔法陣の中心にめり込む。すると急速に全ての魔法陣が反応し、膨大な青い輝きが空間を一斉に膨れ上がるように満たした。クロノ最大最強の魔法、シャイニング。
 だが、効果は全く現れなかった。
 そこに現れたのは、青色の鈍い輝きを放つ全チームを覆う巨大な天属性のドーム状のバリアフィールドだった。
 フィールド内部に突如保護されて驚く乙子組と腐れ縁チーム。だが、彼らが驚いている間に頭上のエンジェルバードが第3射を仕掛けた。
 
 
「(これで、終わりよ。)」
 
 
 天から降り注ぐ光が、全てを破壊する。
 …はずであったが、全ての光が青きドームに衝突した瞬間、なんと、飴になった。
 
 
「え”!?」
 
 
 全員が驚いた。
 降り注ぐ光の雨は全て飴となって降り注ぎ、全ての攻撃は無害な甘いキャンディーとなってしまった。…だが、落下してくる物が痛いことには変わりない。
 そこにフログが魔力を集中すると、全チームの頭上に地属性のフィールドを張り、まるで受け皿の様に飴を受け始めた。
 
 
「…これで痛く無いだろう。」
 
 
 もはや全く無害なものとなってしまった光の雨。
 そんな状況にエンジェルバードは怒り、それまでの最大級の魔力で第4射を放った。それはそれまでと違ってバケツをひっくり返した雨の様な膨大な量となって降り注ぐ。しかし、それさえもフィールドは全て飴に変換し、何もかも無害化してしまっていた。
 受け皿には大量の飴が溜まっている。
 
 
「…あなた方の勝利を認めましょう。そう、全ての力は受け流す事もできる。力はあなたの敵ではなく、味方ともなることを覚えていて下さい。」
 
 
 そう言うと、彼女は光の粒子になると、他の呪印獣同様に呪印球となった。
 天の呪印をクリアしたのだ。
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【106】CPss2第22話「不利」
 REDCOW  - 07/11/23(金) 11:09 -
  
第106回「不利」(CPss2第22話)
 
 
 シズクが跳躍する。
 それと時を同じくして他のチームも呪印球目掛けてジャンプした。だが、ジャンプ力では蛙族に及ぶ種族は居ない。
 
 
「いただきだゲロ!」
「あ、ちょっと!」
 
 
 カエオが素早くキャッチしてフログにパスを回す。
 だが、
 
 
「パーーーーーーーーー!!!!はっはっはぁ」
 
 
 そこに乙子組副リーダー(?)パー・ヤネンが豪快なパスカットを決めて呪印球を弾く。しかし、弾いては意味が無いとすかさずチームメンバーから突っ込みのパンチが走る。
 
 
「いやぁぁーーーーん、そこ、だめよぉ〜〜〜〜!!!」
 
 
 奇声を発しながら、怪しいお仕置きの始まる乙子組を他所に、その隙に腐れ縁チームの紅一点である、紫の髪に金色の瞳をもった美少女イーマが、華麗に魔力で引き寄せる。彼女の地属性の魔力が引力となって、後僅かで彼女の手に入る瞬間、そこに猛烈な勢いでシズクがラリアット体制で突進。
 
 
「うはははははははははは!あたしの前にいたら、跳ね飛ばすわよぉおお!!!!」
 
 
 彼女が驚いて身を咄嗟に引いた隙を突いて、シズクはしっかりと呪印球を右手でキャッチすると、左手で予め貯め込んでいた火の魔力を地面に叩付けた。
 
 
 ゴォオオオオオオオオオ!!!!
 
 
 「きゃぁ!」
 
 
 シズクを捕まえようとしていた矢先に起こった爆発に、イーマが思わず悲鳴を上げて身をかわす。シズクは爆発の反動を利用して後方に素早く跳躍。
 
 …こうして、チームポチョは火の呪印と同じ轍は踏まなかった。
 
 だがしかし、それを確認して一斉に3チームがチームポチョに対戦を申し込んだ。
 基本的に拒否できないルール上承諾せざるを得ないが、3対1という不利な状況に腑に落ちないシズクが、天上を向き審判に大声で抗議する。
 
 
「ねぇ!ちょっとぉ!3対1なんて、どう見てもおかしいよ!」
 
 
 彼女の抗議に、待ってましたとばかりに即座に応答があった。
 
 
「…審判のカナッツです。チームポチョの要求は却下します。この戦闘はルール上の違反項目に抵触せず、全て正当な手続きの上に進行しています。」
「え”ー!!!マジ、何よそれ!ちょっと!一方的過ぎじゃないのよぉ!!!」
「ルールですから。皆様のご健闘をお祈り申し上げます。」
 
 
 彼女の無情な宣告に、シズクは怒りを露に天上のスピーカーに向けて睨みをきかすと、すぐに構えた。
 彼女の姿勢を見て、攻撃に回る3チームもまた構えた。
 
 
「…悪く思うなよ。」
 
 
 ヒカリのその一言が口火を切るように、一気に3チームの猛烈な魔法攻撃が開始される。クロノ達はバリアフィールドの展開に全力で魔力を集中し防ぐが、流石にクロノ達にも3チーム同時の強烈な魔法攻撃を防ぐのは容易ではない。しかも、彼らの攻撃は全ての属性を含んでおり、フィールドへの対応も必然的に全属性に効果のある冥属性フィールドを展開しなくてはならないが、その為には反属性の反作用の均衡を取らなくてはならず、天属性主体のクロノ達には不利に働いた。
 
 
「くぅ、奴ら、さっきの戦いを観て学習したってことか!?」
 
 
 クロノが苦る。
 先ほどの戦いで出したシャイニングを見て、確かに彼らがクロノ達の実力を考えて共同戦線を張っていると見るのは妥当な判断と言えた。しかし、妥当なだけでは次は無い。だが、それはこちらも同じ事と言えた。
 
 
「…引いて駄目なら、押してみるっきゃ無いでしょ!」
 
 
 シズクはそう言うと、ミネルバに目配せする。彼女もまたシズクの意図を理解し、魔力を集中し始めた。
 シズクは火の魔力をミネルバの出力に合わせて安定させると、二人は同時に前方フィールド向こうの敵に向かってそれを投げ掛けた。
 
 火と水の反作用属性が反発し猛烈な爆発が起こる。
 反作用ボム。…昔、ルッカが発案した魔法攻撃だ。
 
 だが、前方では爆風の向こうで腐れ縁チームのベンとイーマが同様の反作用フィールドを放ち、相殺していた様だ。そして、攻撃が終ると間髪を入れずにヒカリが跳躍すると、両手に貯めていた天属性の魔力を放った。彼の足元には青白く光り輝く魔法陣が支配を広げている。
 …これは紛れも無い、天属性最大最強の魔法、
 
 
「シャイニンーーーグ!!!」
 
 
 彼を中心に爆発的に天の魔力が空間に作用し始め、猛烈な勢いで魔力の中心目掛けて空間が歪曲していく。膨大な重力と反発する斥力が波のように押し寄せ、圧縮し加圧された空間から膨大なエネルギーが吹き出す。
 
 クロノは驚き、自身もシャイニングを咄嗟に放つ。
 だが、準備の整ったヒカリのものと比べると、その魔力の出力は格段に弱い。
 それを見てシズクとミネルバはもう一度反作用ボムをシャイニングに向けて出力を上げて放つ。
 
 
 ドォォオオオオオオオオオオン!!!!!

 
 直撃だった。
 
 その衝撃はクロノ達の背後の壁面を抉るような爪痕として残されていた。だが、爆風の後に現れたのは、誰もが予想しえなかったものだった。
 
「わて〜ら、よーきな、かしましむすめ〜♪」
 
 そこに現れたのは、クロノ達の前に立つ3人の女性の姿。
 その1人、赤い全身タイツ状のスーツを着た、見事なボディラインの女性がクロノに言った。
 
「この戦い、お宅らに加担するよ。その代わり、あんたらに天の呪印はくれてやるから、あたしらは奴らの他の呪印を頂く。どうだい?」
「…よし、良いぜ。その条件飲んだ!約束忘れないでくれよ。」
「ウフ、おーきに。良い男は返事も色良いねぇ〜。さて、リーパ、マルタ、纏まったよ。用意は良い?」
「はい、おねーさま!」
「準備万端ですわ。おねーさま。」
 
 
 二人の妹の返事に、メーガスかしまし娘リーダーであるアミラは、そのしなやかな肢体を妖艶にくねらせると、突如何かのポーズをとった。すると、それに時を同じくして二人もポージングを決めた。
 
 
「愛は!」
「どろどろ!」
「昼ドラのプリンセスになりたかったけど、ちょっと難しいんじゃなぁいって言われてもめげない、そんなしなやかな女性って良いわよねぇって思いながらも、がさつさが抜けない自称セブンティーンな27歳独身絶賛婿募集中のアミラ、with、メーガス、かしまし娘ぇええええ!!!」
 
 
 沈黙が支配する。
 
 
 多少気後れしている面々を他所に、そこに先頭に立って彼女達に立ち向かう勇姿があった。突如何処からともなくバンジョーと、口笛の渋いBGMが鳴り始める。

 
「ほぉ、もはやバブルと共に弾けたと思われていた絶滅危惧種、ボディコン(死語)美女集団、かしまし女の登場か。」
「アニキ、やっちまいましょう!ここでやらねば男がすたるっってもんすよ!」
「そおっす!今度こそ奴らに目に物見せてやりましょう!!!」
「お前達、…強くなったなぁ。兄ちゃんは嬉しいぃ!!!」
 
 
 何やらベタな芝居と共に対抗心を燃やし、筋肉馬鹿変態男3人組と思われていた乙子組が、珍しく男らしき姿で彼女らに対峙した。
 
 その情景は、誰もが確かに緊迫していることには間違いないと考えるだろうが、何か激しく間違っている様に感じられた。
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【107】CPss2第23話「我慢比べ」
 REDCOW  - 07/11/30(金) 13:59 -
  
第107話「我慢比べ」
 
 乙子組組長であるフォースは、チームメイトのパーとパンチに用意を促すと構えた。
 それに対し、対峙するメーガスかしまし娘。達は余裕の表情でそれを眺めている。フォースはそんな彼女達の余裕っぷりが腹立たしくて仕方なかった。そして、思い出されるのは、前回の敗戦の記憶。…彼らは彼女らに屈服したのだ。無残に。
 しかし、今回の彼は同じ轍を踏むまいと用意してきていた。それは乙子組としての意地を、いや、男としての意地を通す為の決意ともいえる努力だった。
 
 
「俺達を前に余裕かましているたぁ、良い度胸だ。だが、今回の俺達はお前達に負けんぞ!!!」
「そうっすよぉ、アニキの言う通りっす!」
「乙子組を舐めちゃダメダメ。」
 
 
 一通り彼らの売り文句が終っても、対する相手は呆れたように余裕で構えていた。
 フォースはとても腹立たしかったが、ここで感情に溺れるわけにはいかない。彼らはこの時を待ったのだから。
 
 
「乙子組ーーーーーっ!ふぁぁいおっ!(Fight!)」
 
 
 フォースが叫ぶ。
 厳つい体でポージングを決めると、彼を中心に天の魔法陣が展開される。そして、それに呼応するように右隣で同様にポージングを決めたパーから火が吹き出し、左隣で同様にポージングを決めたパンチから水が噴き出した。
 
 
「いざ、デルタ、エクストリーム!!!」
 
 
 フォースが突進する。それに引かれるようにパーとパンチの火と水が混ざり合い、天の魔力がその力を推力に変えてフォースのスピードを加速する。
 巨大な魔力を纏ったフォースの突進に、ようやくメーガスかしまし娘。が動き出した。
 
 
「マルタ!リーパ!良いわね!」
 
 
 二人の妹に促す姉でありリーダーであるアミラに対し、彼女達からも準備が整ったことを同時の返答で返した。
 
 
「はい、おねーさま」
「はい、おねーさま」
 
 
 アミラは頷くと、妹達の3歩前へ出て合掌し、魔力を集中し始めた。
 そして、三姉妹の三女であるマルタが構えて叫ぶ。
 
 
「メーガスかしまし娘。ーーーーーー!!!」
 
 
 マルタの叫びにリーパが続く。
 
 
「デルタっ!!!」
 
 
 リーパが同様に構えて叫んだ時、リーパとマルタの体から魔力が放出され、それらは全てアミラに注がれた。彼女はその力が充填されると、最後の決めぜりふを叫んだ。
 
 
「リフレクターっっ!!!!」
 
 
 アミラが叫びながら合掌した手を前に突き出す。
 すると、彼女達全体に薄い青緑のバリアフィールドが展開された。
 だが、それ以上は何にも起こらない。
 その間にもフォースの突進は続き、遂に彼が目前に迫った。
 デルタストームの力をフォースの力技で引っ張り集約して体当たりするデルタエクストリームは、その技の性質上単体の魔力だけではなく、強力な物理的エネルギーも味方にできる。しかも試験の違反に繋がらない自然発生する空間エネルギーをも味方にできるため、単に突進しているだけではない。
 この勝負、その場の誰もが乙子組の勝利を確信した。
 しかし、
 
 
 スポコーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
 
 
 なんと、突然フォースがあらぬ方向に吹っ飛んだ。しかも、ただ吹っ飛んだわけじゃない。彼らは自分達の魔力エネルギーに半ば感電したかのような反応を起こして爆発し、吹っ飛んでいた。そして、無残にもフォースの巨体は彼らの仲間を下敷きとして着地した。
 3重の力を持った彼らの力も、メーガスかしまし娘。の張り巡らしたバリアフィールドであるデルタリフレクターによって、その力の全てを完全に跳ね返されたのだ。勝負はあっという間に着いた。
 
 
「さぁ、お次はどなた?」
 
 
 あまりの格の違いにフロノ・ノ・コリガーチームが逃亡を計る。だが、アミラは見逃さず、即座にまるで魔力を鞭のように収束させると投げはなった。
 放たれた魔力の鞭はゴムの様に伸びて彼らを拘束する。
 
 
「つ、捕まえるなんて卑怯ゲロ!」
「あたし達は降参ケロよー!」
「…無様。」
 
 
 フロノ・ノ・コリガーチームも戦意喪失の降参を決めた。だが、それを見ても対峙するチームがあった。
 
 
「ヒカリ、あのフィールド…たぶん冥のフィールドで、しかも有り得ない高レベルの出力で安定していると見たけど、やれる?」
 
 
 ベンの問い掛けに、ヒカリは行動で示した。
 彼は構えると魔力を集中し始める。
 彼を中心に青い天の魔法陣が浮き上がる。それは次第に支配を広げ、空間全体に浸透を始めた。その魔力は先ほどのクロノの魔力にも匹敵する。
 あまりの出力の高さにクロノも構えて加勢しようとした。だが、アミラはその動きに軽く手を挙げてにっこり微笑んで静止すると、再度前方を見て先ほど同様にデルタリフレクターの構えに入った。
 その間にも天の魔法陣の出力は上昇する。元々この空間が天の呪印の間であることも相まって、その出力は高レベルになっても安定して上昇を続けた。
 
 
「(…やれやれ、ぼくらもこの攻撃に賭ける他ないですね。)イーマ、君の力を僕に貸して貰えないかな?」
 
 
 ベンの願いに、彼女は笑顔で応じた。
 
 
「えぇ、良いわ。本当に…腐れ縁ね。」
「…まったく。」
 
 
 彼女は呆れたように自身の全魔力をベンに託すと、彼もまた自身の魔力を全て引き出し、それらを合わせてボール状に収束させてヒカリに投げつけた。
 
 
「思う存分、ぶつけて下さい!!!!」
 
 
 ボールがヒカリに衝突すると、その力はまるで飲み込まれるようにすうっと吸い込まれた。そして、時を同じくして彼の魔力が急激に上昇した。
 
 
「(シャイニング)」
 
 
 陣が力を解放する。空間にいる全ての存在を圧殺する様な激しい魔力の波が襲いかかる。これには思わずクロノ達も防御フィールドを展開しないではいられないが、その巨大さに追いつかない。慌てるクロノ達を、アミラは微笑んで両手を上げると、そのフィールドを拡大して保護した。
 
 
「お、おい、他の奴らも保護してやってくれないか?」
「えー、面倒よぉ。それに、彼らは敵よ?」
「…んなもん、勝負が終っちまえば関係ないだろ。わかった、俺の魔力も貸す。」
 
 
 そう言うとクロノはアミラに自身の魔力を注ぎ込んだ。
 アミラは驚いた。
 なぜなら、今まで感じた事が無い程の巨大な奥行きを感じる魔力の流れが入ってくるのだ。通常の魔力は自身に転換されれば馴染んでしまうが、クロノの持つ魔力は彼女の中に流れてきてもなおクロノの存在感を感じる。そして、その力は途方もなく底の知れない巨大な、まるで空の上を漂っている様な力だ。
 彼女は全身に鳥肌が立つのを感じた。と同時に、これほどの力があれば空間を拡大することは不可能ではないと感じた。というのも、彼女自身はクロノに言われずとも拡大する用意は有った。だが、このフィールドはとてもデリケートで巨大な魔力を常にコントロールする必要があり、彼女達の魔力ではさすがに今の空間が限度であった。また、空間を拡大し仲間に入れるということは、この鉄壁の防御が消えて無防備になるということでもあった。
 しかし、今ならばクロノの願いも叶えると同時に、彼女達も試した事の無い領域へ行ける気がした。何より、彼らは約束を違わずに自分達を仮に保護下に入れるチームが攻撃してきても守ってくれるだろう。…アミラは大人しく彼の厚意を受け入れると、魔力を集中する。

 空間が拡大し乙子組とフロノ・ノ・コリガーチームのメンバーが領域の保護下に入った。
 それと時を同じくしてシャイニングの攻撃が始まる。
 
 莫大な力のうねりが防御フィールド全体に負荷をかける。アミラはさすがにこれほどの力はこれまで扱った事がなく、対抗するにも普段通りとは行かない。
 空間の向こうで魔力の流れを見ながら、ベンがつぶやいた。
 
 
「…我慢比べか。」
 
 
 ベンの瞳の向こうで展開される勝負は、それほどに結果の分からない力比べとなっているように感じられた。
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【108】CPss2第24話「魅惑のミラクル」
 REDCOW  - 07/12/7(金) 12:14 -
  
第108話「魅惑のミラクル」
 
 
「…凄い。」
 
 
 ミネルバが思わず呟く。
 彼女の目前に広がる戦いは次元の違う物のように感じられた。今までの試験の歴史でこれほどの戦いは有っただろうか。自身の知り得る範囲では聞いた事の無いことが起こっている。それはとても恐ろしい事だ。
 
 
「ぐ、ぐぅうう!!!」
 
 
 ヒカルが唸る。
 既にクロノが先ほど放ったシャイニングの出力の倍は有ろうかという巨大な魔力に、体の全体から悲鳴が上がっていた。ただでさえコントロールの難しいシャイニングという魔法を、これほどの大出力で長時間使い続けることは並大抵ではない。だが、ヒカル自身は既にそんな事は関係の無い事だった。
 
 目前の敵を倒す…ただ、それだけだ。
 
 アミラは相手の出力の高さに対応を苦慮していた。だが、彼女としてもこのままこの力に対抗し続けるのは得策ではなかった。
 
 
「…仕方ないわね。あまり使いたくなかったけど……マルタ!リーパ!返すわよ!」
「はい!お姉様。」
「はい!お姉様。」
 
 
 二人の返事を聞くと、彼女は集中した。すると急速にバリアフィールドの厚さが厚くなった。それを確認すると、彼女はフィールドへの魔力供給を打ち切り、新しい魔法の集中を始めた。
 魔力供給を打ち切られたフィールドは、一時的に分厚くなったとはいえ徐々に抵抗力を弱め、次第に削られ始めた。
 
 
「…メーガスかしまし娘。〜」
 
 
 アミラが唐突にお決まり(?)の決め台詞の宣言を始めた。
 
 
「…魅惑のミラクル〜〜〜、ミラー!ミラーッッ!!!」
 
 
 そう叫ぶと、彼女はまるで押し出すような動作をして魔力を解放した。
 すると、突然冥の黒きバリアフィールドは明るく輝く光を放って、一瞬にしてヒカルの魔力を跳ね返した。
 
 
「!?」
 
 
 ドドオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォン!!!!
 
 
 巨大な爆風が巻き起こる。
 シャイニングの閃光が空間全体を満たし、猛烈なエネルギーの渦がアミラのフィールドにも襲いかかる。その力は大きな振動となって少なからず伝わり、中にいる者たちを動揺させる。
 
 
「だ、大丈夫かケロ!?」
「いやん、怖いわ!」
 
 
 カエオとパンチが不安を口にする。しかし、アミラは不敵に言った。
 
 
「心配無用よ。さて、私達の勝利は確定の様ね。」
 
 
 そう言うと前方を見据えた。
 そこにはボロボロになった腐れ縁チームを保護する光の幕が見えた。
 
 
「…最後にエンジェルバードに救われたようね。でも、彼らは再起不能よ。」
 
 
 彼女はそう言い放つとフィールドを解き、つかつかと腐れ縁チームのもとへ行くと、魔力で呪印プレートを引き出し、そこから一つ呪印を引き抜いた。緋色に輝く火の呪印だ。
 彼女はそれを仕舞うと、二人の妹達に目配せした。
 彼女達はそれを合図に、フロノ・ノ・コリガーチームと乙子組から魔力で呪印を奪った。
 
 
「あぁ、勝手にぃ!!!」
「あんまりだケロォ…」
 
 
 2チームから不満が漏れる。
 しかし、アミラはそんな彼らに反論した。
 
 
「あたしらはあなた方に呪印争奪のバトルを申し込んでいるワケ。つまり、お宅らはそれに同意したわけだから、負けた以上は差し出すのがルールなワケ。…それとも、失格の方が良かったワケ?」
 
 
 彼女の言葉は正論だった。
 2チームは大人しく彼女の言に同意した。
 彼女らはそれを確認すると、にっこりと微笑んでクロノの方を見た。
 
 
「うふ、あなたと戦えて良かったわぁ!」
「おう!こちらこそありがとよ!」
 
 
 クロノはそう言って頷くと、彼女は再び微笑んで別れを告げた。
 
 
「では、さらばいば〜い♪」
「さらばいば〜い♪」
「さらばいば〜い♪」
 
 
 メーガスかしまし娘。は謎の別れの挨拶を残し、再び闇の中に消えて行った。
 クロノ達も去ろうとしたが、敗者として残るチームが気にかかった。
 
 
「元気出せ。まだ終っていない。頑張れよ。」
「もう、終わりだケロ。」
 
 カエオの力ない言葉が返る。
 フロノ・丿・コリガーチームはまるで真っ白と言わんばかりの状態だった。すぐ隣の乙子組も………ここは触れないでおこう。
 クロノ達は身支度を整えると、光のヴェールで守られた腐れ縁チームのもとへ行った。
 
 
「大丈夫か…って、大丈夫じゃないよな。」
「…、…、…るせい。さっさと消えやがれ。」
「…そうか。凄かったぜ。じゃぁ。」
 
 
 クロノの言葉に、ヒカルが少し微笑んだ気がした。
 クロノは新しく現れた通路へ向けて歩き出す。
 それにシズクが続く。
 最後尾のミネルバは、彼らに深々と一礼を捧げると、彼女もまた彼らに続き闇の中へ歩く。
 
 
「おーし、最後は冥だ!」
 
 
 クロノの力強い声が洞窟に響いた。
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【109】CPss2第25話「暗闇の理由…前編」
 REDCOW  - 07/12/14(金) 14:30 -
  
第109話「暗闇の理由…前編」
 
 高らかに叫んだクロノだが、そこに脇からぬぅっと出て来る気配があった。
 
「おわぁ!?な、なんだよシズク!」
「…そこのおにーさーん。威勢が良いけど、何かお忘れではありません?」
「・・・・・何?」
「火がまだよ。バンダーに奪われたでしょ。」
「…あ。」
 
 クロノは彼女の指摘にぽりぽりとばつが悪そうに頭を掻いた。そう、クロノ達はまだ火の呪印を手に入れていない。冥の呪印の前にバンダー達を探し出して奪い返さなくてはならないのだ。
 
「くっそ、…でもよぉ、今思ったんだが、冥の呪印はプレートの何処に収まるんだ?プレートには穴が4つしか無いだろ?」
 
 シズクは彼の指摘に、仕舞っていたプレートを出して手で探った。
 確かに穴は4つしかない。
 
「ほんとだ。どうするのかしら。…と言う前に、私、思い出したけど、この迷路には4つの属性の魔力は感じるけど、冥の魔力って感じないわよね?」
「あぁ、そういえばそうだな。」
 
 二人のやりとりにミネルバが思わず笑った。
 
「フフフッ、もう、お二人とも面白いわねぇ。そもそも、お二人は冥の魔力なんて感じた事がお有りなんですか?」
 
 二人は彼女の指摘にしばし考えた。だが、確かに思い当たるようなものは無い。
 クロノ自身は魔王の魔力を感じた事が有ったが、それは属性魔法を使っている時だけで、魔力の圧力こそ感じた事はあるが、冥の力らしきものは感じた事がなかった。
 二人の困った波動を感じて、再び微笑みながら彼女が言った。
 
「冥の魔力なんて感じませんよ。冥は元々全ての均衡を保った状態。つまり、この世界その物が冥の均衡で出来ているんです。感じるはずがないんです。」
「え、ちょ、待ってくれよ?なら、俺達は元から冥の魔力を感じているってことでもあるわけだよな?」
「そうともいえますね。」
「ということはさ、この迷宮から冥の呪印の間を探すのって至難の業だろ?もしかして、この暗闇の理由はそこか?」
「あっ!?」
 
 3人が一斉に止まった。
 クロノの推測は確かにその可能性が高かった。
 二人はクロノの推測に、ようやくこの試験の闇の理由が見えた気がした。
 
「…ちょっと、…もしかして、最後は壁をバタバタ叩いて歩くとかってオチじゃないでしょうねぇ。あ"あああああー!!!!んもぅ、なんなのこの試験の理不尽っぷり!」
 
 シズクは気が狂わんばかりに頭を掻きむしって怒りを鎮めていた。
 ミネルバも自分で言っていた事の重大さに気付き、流石の彼女も内心穏やかではなかった。
 
「うはぁ…、先が思いやられるぜ…。」
 
 3人は力なく再び歩み始めた。
 何はともあれ、まずはバンダーを見つけなくてはならない。

 クロノは集中してバンダー達の魔力を探した。だが、今更になって気付いた事だが、ここには8チームの魔力がいるはずだが、どういうわけか4チーム分の魔力が消えていた。
 何かの間違いかと思い、更に深く全体をまるで見渡すように探ったが、それでも反応が感じられなかった。
 いや、そう思っていた矢先に、突然2つのチームの存在が現れた。
 それもごく至近距離で。
 
 クロノが察知したのと同様に二人も気配を感じたようで、3人は静かに気配に近づいた。
 そこはホールのような開けた場所らしく、空間全体が2つのチームの魔力で満たされて行くのが感じられる。
 3人はホールより少し外れから中の様子を探った。
 
 
「…探したぞ。」
 
 
 少年の声がする。
 そこに新たな声が反応する。
 
 
「…そう。でも、私は貴方の事を知らないわ。」
 
 
 その声は女性で、とても穏やかで冷静だった。
 
 
「お前は知らなくとも、僕は忘れない。この領域に踏み入った事を後悔するがいい。」
 
 
 少年はそう言うと、一気に魔力を解放した。
 その魔力は凍てつくような水の魔力。それも今までのどんな使い手をも超越した途方もないエネルギーを感じる。
 
 
「(なんだ!?こんな水の魔力があるのか…)」
 
 
 クロノは内心の驚きと共に、この後の動きにわくわくするものを感じていた。
 少年の相手である女性は、彼の動きに一呼吸置くと呟いた。
 
 
「…根に持つ男は好きじゃないわ。それに坊や、私は子どもが嫌いなの。あなたがもう少し大人じゃなきゃ、つまらないわ。」
 
 彼女はそう言うと微笑んだ。すると、彼女の意思に応えるかのように二人の巨体の男が彼女の前に並んだ。
 
「ツー!」
「カー!」
 
 二人はそう叫ぶと、深く深呼吸をして少年たちの前に対峙した。
 少年は巨漢を前にしても怯まず、手を前にかざして呼び出す。
 
 
「我が支え、今呼び出さん。ハイドロン!!!」
 
 
 少年の声に反応して一振りの杖が現れた。それは青き輝きを放ち、空間を照らす見事な宝石を先端に持つ杖。少年は杖をしっかりと持つと、巨漢男に向かって構えた。
 少年を中心に魔法陣が次々と展開し、支配を広げ始める。その陣は少年の杖の動きに従い、全てが女性と巨漢男達のもとに集った。
 
 
「我は求めん!汝ら全てに凍れる時を!フラッド!!!」
 
 
 陣が一斉に閃光を発する。そして、陣を中心に膨大な冷気の煙を噴き出して鋭利な氷の刃が次々に襲いかかる。
 巨漢男達が悲鳴をあげて負傷する。しかし、女は瞬時にそれらを全てかき消した。彼女の周りから爆炎が吹き上がり、空間を赤々と照らす。
 
 
「ケア!」
 
 
 女がエレメントを発動させ、巨漢男達の傷を癒す。
 彼女は何事も無かったかのように涼しげな表情で少年を見据えていた。
 
 
「…終わりですか?」
 
 
 彼女の不敵な言葉に、少年は内心の思いを封じて冷静に返した。
 
 
「…これからだ。」
 
 
 両チームの力は確かに少年が言う通り、まだまだ計り知れないものが感じられた。
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【110】CPss2第26話「暗闇の理由…中編」
 REDCOW  - 07/12/21(金) 14:28 -
  
第110話「暗闇の理由…中編」
 
 
「ハイド、お前は隠れてなさい。何が有っても、出てはならぬぞ。」
「父上、僕も戦います。」
「だめよ、ハイド。あなたが居なくなっては、誰に私達の思いは伝わるの。あなたは生きるのよ。」
「母上…」
 
 
 母上は僕にそう言うと眠りの魔法を掛けて僕が眠りについた後、二人は僕に完全結界を張って地下室の闇に隠した。
 父上と母上は、封主(ほうしゅ)といい、特に母上は代々伝わる太古の結界を守る家系だった。
 
 封主の仕事は結界の張られた遺跡を清らかに保ち、その安定を来るべき主が現れるまで維持する事に有った。
 実際、その結界は簡単な力では解く事は出来ない特殊な魔力で作られていて、現代のどんな魔法をもってしても解呪は不可能と言われていた。だが、解呪は不可能でも結界自体が危険な代物で、これを悪用しようと思えば相当な力になるものと思われていた。
 故に、危険であっても遺跡を狙う者は何時の時代も絶えない。
 封主はそんな盗賊から遺跡を守る役目もになっていた。
 僕らの一族は数千年の昔からこの場所を守り続けてきたことで、他の魔族には無い特別な力を授かってもいた。
 
 
 それは、完全な防御。
 
 
 僕らの一族は遺跡を悪者から保護する為に、究極の防御フィールドである「パーテクト」を生み出した。
 パーテクトは完全な防御結界であり、どんな攻撃でも無効化する究極の防御魔法。
 プロテクトとリフレクは本来別の魔法であり、しかも魔法攻撃効果を相殺するには同じ属性のフィールド、または倍の出力の反属性フィールドが必要になる。さらに物理防御フィールドであるプロテクトを、完全プロテクト化するには莫大な魔力出力が必要となる。
 勿論、このパーテクトはこの条件を満たしても簡単に誰もが使える魔法じゃない。
 まず、1人で使う事は不可能で、魔法を形成するには水属性と天属性の使用者を必要とする。そして、水属性の詠唱者は封主の血を受け継いでいる必要が有る。封主は結界から出て来る魔力を長い年月浴びて得られる、特別な斥力フィールドの形成能力の素質を持ち、魔法の発動に欠かせない。誰もが魔力を浴びたからと使えるものじゃない理由はそこにある。
 一度形成されたフィールドは能力者以外は解除できず、長時間高い防御性能を誇る。故に、その力を欲する者もまた絶えない。僕らは決められた婚姻関係を結び、その力を外に広めずに大切に守り続ける必要があった。
 
 僕の父はティエンレン一族の中でも珍しい、天の魔力を受け継ぐ一族「イジューイン」の長の次子。イジューイン一族は門外不出の究極の天の魔法を使えることで、古代の魔王もその力に手を焼いたと言う。故に、イジューインは魔王の命令を聞きはしなかったティエンレン一族の一つだ。
 僕らの一族の婚姻の条件は、体制に組み込まれない確実な力と極めて純度の高い天属性の能力者だったから、イジューインと母の一族であるスイソ族はとても仲が良かった。当然の如く交流も有り、決められた婚姻とは言っても、知らない仲ではなかった。実際、両親はとても仲が良かった。
 
 だけど、あの日、全ては崩れ去った。
 
 
「どうしても、抵抗するんだね。究極の絶対防御とやらを、見せてもらおうじゃないか。」
 
 
 長い髪をさらさらと揺らす長身の黒装束の男は、赤く禍々しい輝きを放つ宝石をはめたステッキを持ち、構えた。
 
 
「誰にもこの先へは進ませない。」
「行くわよ、あなた!」
「おう!」
 
 
 二人は構え集中した。
 すると、彼らの周りを分厚く透き通る氷の結界が張られた。その広さは背後の彼らの村をもすっぽりと包み込むほどだった。しかし、黒装束の男は余裕の表情で言い放った。
 
 
「児戯だね。これなら、君らの忌み嫌う彼らよりずっと劣ってるよ。こんなもの、僕自らが手を下す必要は無いね。」
「何だと!!」
 
 
 夫が反発する。その瞬間、フィールドが揺らいだ。無理もない、彼ら夫妻自身、これほどのフィールドを形成するのは生まれて初めてのことなのだ。
 妻は挑発に乗らずじっとこらえて集中し、フィールドを安定させた。
 黒装束の男はそんな彼らの焦りを見透かすように微笑むと、宙を見上げた。すると、彼の視線の先から彼同様の黒装束を纏った1人の少女が現れた。
 
 
「私の仕事ですか。」
「そうだ。君の仕事だ。」
「分かりました。早速遂行致します。」
 
 
 少女はそう言うと、静かにふわりと降り立ち、夫妻の結界に向けて手をかざした。
 
 
「…効果属性、天。制御属性、水。フィールドプロテクト解析。ESバランス解析。属性効果に特殊修正確認。フィールドプロテクトに時空反応を確認。ES確認、ティエンレンF、水。ティエンレンM、天。目標を消去します…」
 
 
 その後、夫妻の結界は少女の力によって崩壊した。
 彼らは圧倒的な力で彼らの村を焼き、それに関わる全てを攻撃した。
 
 
 …僕は幸い見つからずに難を逃れ、気がついた時には先生の家のベッドで眠っていた。
 彼女の話では急襲された後、たまたま通りかかって僕を見つけたらしい。
 完全な防御結界に包まれた僕は、完全に崩壊していた地下室の土砂と岩の下敷きになっていても、無傷で眠っていたらしい。二人の結界は完璧に機能していたんだ…。
 
 僕の力はどんなに頑張っても完璧にはならない。それは、僕がどんなに頑張っても半分だからだ。
 もう1人の力…天の使い手がいなければ、僕は完璧にはなれない。
 
 先生は僕に彼女が知り得る全ての知恵を授けてくれた。
 彼女には恩義が有る前に、母親の様な掛け替えのない人だと思う。だから、彼女の悲しむ姿は見たくない。…でも、この戦いは、引くわけには行かない。
 
 僕には分かる。
 
 この女の中に流れる熱い魔力の底流に、深く暗い闇の様な負の魔力が流れているのを。
 彼女はあの時村を襲った彼らの仲間に違いない。
 彼女を締め上げれば、彼らの情報を得る事が出来るまたと無いチャンスだ。
 
 確かに僕は不完全だ。
 でも、…今は1人じゃない。
 
 
「ティタ、君の力を僕に貸して欲しい!」
「うん、任せて!」
「ランタ、君を頼りにしてるよ。」
「…貸しはメディーナ駅前のヘケラン丼だ。」
「へへ。」
 
 
 少年が杖を横一文字に構える。
 彼に続く様に少女が魔力を集中する。
 
 
「(…パーテクト。)」
 
 
 少年を中心に円を描くように魔法陣が形成される。
 少女が魔力を地面へ向けて注ぎ込むと、青白く輝く紋様が浮かび上がり、一気に氷のドームが形成された。魔法陣の輝きが周囲をうっすら青く照らし、空間に居る者たちを浮かび上がらせた。
 女が一瞬眉を動かした。
 少年はそれを見てニヤリと微笑した。
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【111】CPss2第27話「暗闇の理由…後編」
 REDCOW  - 07/12/29(土) 17:35 -
  
 クロノプロジェクトシーズン2をご覧の皆様、いつも有り難うございます。
 今年もあと僅かですが、お風邪など引かれていませんでしょうか?

 今回は年末年始をゆっくりとお楽しみ頂けるよう、ちょっとばかり増量してお送りしております。
 この制作も来年で8年目ですが、シーズン2に入ってクロノプロジェクトオリジナルの世界観が色々と出て来る様になりました。拙い文では有りますが、これからも頑張って書いて行くので、今後ともお楽しみ下さいましたら幸いですし、この世界を気に入って下さったら有り難いなと思います。
 
 
第111話「暗闇の理由…後編」
 
 
「…まさか、エインシェントの使い手がまだ生き残っていたとは。」
 
 
 女は呟くように言うと、慌てるでも無く攻撃態勢を解いた。そして、前に立つ二人の屈強な男達に後方へ下がるよう命じる。
 男達は彼女の命令に従うと、静かに後方へ退いた。
 
 
「…その魔法は厄介だけど、私達の力が効かない事と同様に、あなた達の力も使えない。…だけどその完全防御にも唯一問題がある。その魔法、何分もつのかしら?」
 
 
 女の指摘は的を得ていた。
 確かにパーテクトはその完全さ故に内側からも攻撃が不可能である。これは絶対防御を成立させる上で間違いなくぶち当たる壁であり避けられない。しかし、この防御にもほころびが有る。彼女が言う通り、維持する事がとても難しい魔法でもあるのだ。
 この魔法は魔力供給自体は一度の発動で済むが、それを維持・コントロールするには例え魔族と言えども誰もが出来ることではない。しかも、それは「継承する血統内」ですら確実ではなく、故に婚姻関係を結ぶ相手との関係が考慮されもした。
 だが、ハイドは彼女の指摘にも怯む事は無かった。
 
 
「ランタ、頼むぜ!」
「おう。」
 
 
 ランタはハイドの頼みに待ってましたとばかりに集中していた魔力を前方へ向けて構えた。
 
 
「(ダークボム)」
 
 
 ランタはなんとパーテクトフィールド内部で魔法を発動させた。しかも、なんと魔法効果は女達を中心に外で起こり、冥の魔力が女達を直撃する。
 しかし、彼女は瞬時に冥のフィールドを張り巡らすと、直撃の効果を低減させた。そして、間髪入れずに右手から火の玉を、左手から氷の刃を出して攻撃する。だが、パーテクトのバリアフィールドは完全にその攻撃をはじき飛ばしてしまった。
 ランタがそこに第二撃のダークボムを放つ。
 今度は完全に彼女の目前で弾けた。彼女にはフィールドを張る暇もなかったはずだった。だが、彼女はその力をまるで受けなかったかのように平然とした顔で立っていた。
 
 
「…私に直撃を与えられたことはお褒めしましょう。でも、これであなた方の力量は把握しました。パーテクトとダークボムのコラボレーションは素晴らしい。でも、この攻撃にも限界がある。」
 
 
 そう言うと彼女は静かに少年たちの方へ歩み寄る。
 その右手からは水の魔力が、左手からは天の魔力が集中するのが感じられる。
 
 
「させるか!」
 
 
 ランタが叫ぶ。
 第3撃を用意していたランタが、前方からゆっくり近づく彼女に向けてロックオンする。しかし、そこに屈強な男二人が素早く彼女の前に盾となった。
 
 
「ツー!」
「カー!」
 
 
 ダークボムが発動する。
 漆黒の負のエネルギーが生けるものから急速に生気を吸い膨張する。その力は空間全体から奪い取るような引力となり、二人の男達に襲いかかる。
 そして、ついに臨海に達した。
 
 
 ドドォォォォォォォォォォォン!!!
 
 
 それまでの二撃を大きく上回る威力が、周囲に巨大な爆発音と衝撃の振動を伝える。それはクロノ達にも伝わる。
 
 
「くっ、すげーな。やったか…?」
 
 
 思わず呟くクロノだったが、彼は煙が消えて現れたものを見て驚いた。
 いや、これは放った当人も驚愕を隠せなかった。
 
 
「マジか!?」
 
 
 そこに現れたのは無傷で堂々と並び立つ男達と、その背後で笑みを浮かべる女性の姿だった。彼女が男の肩に手を触れると、男達は静かに彼女の側面へと並び立ち、道を開けた。彼女はそれが当然という表情でまっすぐ前方の少年達を見据えて、ゆっくりと歩き始めた。
 彼女のヒールの靴音がコツコツとゆっくり近づく。
 
 ハイドは自信たっぷりに近づく彼女に内心恐怖を感じ始めていた。いや、もう既に彼の背後にいる二人の仲間達の方は、完全に彼女に圧せられていた。しかし、パーテクトが有る限り、彼女は自分に触れる事は叶わない。いくら近づいても彼女が触れることは起こりえないはずなのだ。だが、彼女はそんなことは全く問題無いと言わんばかりに、さも余裕だという表情で自信たっぷりにゆっくり近づいてくる。
 
 
「…なかなか楽しかったわ。でも…」
  
 
 彼女が遂にパーテクトのバリアフィールドに右手で触れる。すると、彼女の水の魔力が徐々にフィールドの水の魔力に反応して同化を始めた。
 
 
「!?」
 
 
 同化を始めた魔力が、今度は徐々に彼女の方へ制御が移り始めた。そして、彼女の左手がフィールドに触れた。
 その途端…
 
 
 パキィィィィィィィィーーーーーン!!!
 
 
 …フィールドは粉々になり、キラキラと輝く塵となって舞い散る。
 
 
「そ、…んな、どお…し、て……?」
 
 
 ハイドには一瞬何が起こったのか分からなかった。
 それと同時に言いようの無い恐怖が、足先から駆け登ってくるのを感じた。
 
 砕け散ったフィールドの欠片が、仄かな青い光となって辺りを照らしている。
 前方の彼女は、微笑みながら腰を下ろし、その両手を彼の肩に伸ばす。
 
 
「…え?」
 
 
 彼女は、少年を優しくそっと抱きしめた。
 
 
「…良く頑張ったわ。良い子ね。でも、私には残念ながら効かないの。気を落とさないでね。」
 
 
 彼女はそう耳元で囁くと、彼のポケットから静かにプレートをとり出した。そして、微笑んでゆっくりと立ち上がると、プレートを自身の持つプレートを出して近づけた。
 すると、なんと少年たちのプレートから全ての呪印球が飛び出して浮かび、眩い輝きを端って融合した。4つの呪印球は、1つの黒い冥の呪印に変化したのだ。
 呪印球はそのまま彼女のプレートに吸い寄せられるように近づくと、プレートが反応して新たな呪印を収納するくぼみが真ん中に出来上がった。呪印はその新たなスペースへ静かに収まった。
 
 
「では、これは返すわね。」
 
 
 彼女が少年たちのプレートを持ち主に手渡した。
 手渡された本人は、もはや完全に戦意を失い、その成り行きに任せるかのごとく受け取るしか出来ていなかった。
 
 
「さようなら。」
 
 
 彼女はそう告げると、ゆっくりと靴音をコツコツ響き渡らせて闇の中へ消えた。
 少年はその場に崩れた。
 
 
 クロノ達はそれを見て急いで駆け寄った。
 
 
「おい、大丈夫か!」
 
 
 クロノの問い掛けに少年は我に返るように振り向くと、ゆっくり立ち上がった。
 
 
「…恥ずかしい所を見せてしまった様だね。…確か、チームポチョさん達だね。まぁ、見ての通り、傷は無い。大丈夫だ。」
 
 
 少年は静かにそう言うと、手に持ったプレートに目を落とした。
 
 
「…無様だよね。でも、正直、完敗だった。あの途方もない魔力…まるで底が見えなかった。あの一瞬は…僕らには真似の出来ない次元かもしれない。」
 
 
 彼は冷静に分析していた。
 そんな彼の冷静さに、クロノは正直に驚いていた。
 
 
「あのさ…」
 
 
 クロノが言いかけた時、少年の方が思い出したかのように言った。
 
 
「あ、そうだ。あなた方、見たところ強いですよね?」
「へ?」
「たぶん、僕ら以外で上位に残るとしたら、あなた方を入れると、他はメーガスかしまし娘。かファイアブラストでしょう。さっきの奴らはグリフィスだと思うけど、たぶん、彼らに勝てる術者って話になると、あなた方くらいだと思う。他の人達はきっと冥の呪印の間を探し廻るに違い有りませんし。」
「え、あ、はぁ。」
「僕はあなた方に託したい。」
「え?」
「その、感じるんです。あなたの中から僕らの一族が守ってきた力を。あなた方ならグリフィスに勝てる。そう思うんです。だから、この杖を持って行って欲しい。」
 
 
 少年はそう言うとクロノに杖を差し出した。
 クロノは少年の行動に困惑した。
 
 
「そんなことされても困るぜ。それに、俺は杖なんて使えないし。」
「良いんです。ここで逃してしまうぐらいなら、いっそあなた方に倒して欲しいんだ。」
「どういうことだ?グリフィスは何かあるのか?」
 
 
 クロノの問い掛けに、少年は真剣な表情になった。
 
 
「…彼らは、たぶん僕の推測が正しければ黒薔薇だ。」
「なんだと!?」
「奴らは僕の村を焼き払ったんだ。それだけじゃない。奴らはエインシェントの使い手の根絶を狙っていた。」
「エインシェント?」
 
 
 クロノは彼の言葉に全く理解できていなかったが、黒薔薇という存在には注目せざるを得なかった。そこにミネルバが口を開いた。
 
 
「失われた限られた種族間でしか継承されていない魔法の事です。先ほどの魔法…あなたはスイソ族の生存者ということですね。」
 
 
 彼女の問い掛けに、彼はこくりと頷き言った。
 
 
「…ここへの潜入がどんな目的かはわからないけど、この試験が魔法を使う者を対象にしている以上、奴らのターゲットとなる対象は多いはずです。きっと、ただでは済まない。奴らに対抗するには生半可な力では無理です。だから、僕はあなた方に力を託す。必ず第三試験へ進んで欲しい。杖はそのための保険だと思って下さい。」
「保険?」
「そうです。保険です。」
 
 
 クロノは彼の真剣な眼差しを見るまでも無く、黒薔薇という単語が出た時点で答えは決まっていた。
 
 
「君の願いは俺も答える用意がある。だけど、その杖は要らない。それは君の物だ。」
「しかし、この杖があれば…」
 
 
 そこに少年の言葉を遮るように、ミネルバが言った。
 
 
「あなたの思いは分かりましたわ。でも、クロノさんの仰る通り、私もその杖はあなたが持つべきだと思います。その杖はあなたの一族が命がけで大事にした宝のはずです。それに、私達には私達の戦い方が有ります。人生は長いのですから、あなた自身が再挑戦することをお考えになって。」
 
 
 彼女はそう言うとにっこり微笑み、彼らにケアルを唱えて傷を癒した。
 少年は彼女の言葉に頷き、杖を仕舞った。
 そこに、その成り行きを静かに見守っていたシズクが、少年に問いかけた。
 
 
「ねぇ、これからどうするの?例えば〜、私達に挑戦して奪い返すって手もあるわけよね?」
 
 
 彼女の質問は確かに当然思い当たる話だった。
 だが、少年は彼女に笑顔で言った。
 
 
「はは、託した以上、そんなことはしませんよ。でも、まだ試験を諦めてはいないですよ。まだまだ方法はある。では、また。」
 
 
 そう言うと、彼らは闇の中へ消えた。
 すると、舞い散っていた青い光も彼らが去るのを追うように消え去り、再び空間は闇に閉ざされた。
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【112】CPss2第28話「光」
 REDCOW  - 08/1/11(金) 14:44 -
  
新年明けましておめでとうございます。
先週号はお休みさせて頂きましたが、今週より再開させて頂きます。
2000年元旦から開始して9年目に入ろうとしてます。長々とマイペースな制作でどうなってんだ!?とか思う方もいらっしゃるかと思いますが、今年もお付き合い下さいましたら幸いです。

from REDCOW.

第112話「光」
 
 ハイド達と別れたクロノ達は、再び暗い迷路を彷徨っていた。
 まずは冥の呪印の前に、火の呪印を見つけなくてはならない。
 火の呪印は試験突破間近と思われる「メーガスかしまし娘。」または「ファイアブラスト」が持っていることは確かだろう。だが、この2つのチームは流石と言うべきか、全く気配を読む事が出来ない。
 迷路の中では魔力が視覚であると同時に死角にすらなる。もしも、ハイド達の戦いを観なかったら、彼が言った通り、冥の呪印の間を延々と探し続けていた可能性は否定できず、クロノ達は幸運と言えた。だが、道が見えただけでは、先に進む事は出来ない。
 この試験はただ進めば良いのではなく、条件をクリアしなくてはならないのだから。
 そこに歩き疲れたシズクが言った。
 
 
「ねぇ、ただ探し回るのは非効率だと思うわ。ここは、二つのチームがクリア間近という点を考慮して、スタート地点に戻ると考えた方がベターだと思うの。どう?」
 
 
 シズクの提案にミネルバが答えた。
 
 
「確かに、その提案は合理的判断ですね。でも、それは私達以外のチームも同様に考える可能性は否定できません。つまり、そこが誰もが通る場所であるならば、私達が無用な挑戦を受ける可能性もあるということです。」
 
 
 ミネルバの指摘に、シズクは
 
 
「…そうね。ミネルバさんの意見はその通りね。わざわざ魔力を殺していても、そこに行ってしまったら隠す事はできない。でも、こうは考えられないかな?…その、さっきのハイドの分析は確かだと思うのよ。私達と対等に戦えるのはメーガスかしまし娘とファイアブラストとグリフィス。でも、逆を言えばこの3チーム以外は勝てるということよね?」
 
 
 シズクの話に思わずクロノが笑った。
 
 
「ははは、大胆にきたな。でも、そうだな。俺達は例え天の呪印の間で戦ったヒカルと再戦したとしても、一対一なら勝てるだろう。…この戦い、そろそろ賭けに出る時に来ているかもな。」
 
 
 クロノの言葉からは自信も伺われる力強い音色が含まれていた。
 彼の言葉にミネルバも意を決した様だ。
 
 
「そうですね。クロノさんの仰る通りかもしれません。シズクさん、私の弱気な発言は不見識でしたわ。今は試験。私も賭けなくてはならないのですよね。」
「あ、いいよ。そんなの気にしなくて。そういう現実的な反論が無きゃ、私達って割と突っ走っちゃう方だから。ミネルバさんがいてバランス取っていると思う。さぁ、決まったし、行きましょう!」
 
 
 3人は迷路をスタート地点へ向けて戻り始めた。
 その間、先ほどの位置からそう遠くない方で幾度か戦闘らしきものがあったらしく、魔力反応が感じられた。この反応はハイド達だろうか。まだそんなに遠くには行っていないだろうことから、そう想像して間違いは無いだろう。
 スタート地点への途上、3人は語らいながら歩いた。
 
 
「しかし、ミネルバさんは凄く冷静だよな。同じ水属性でも、マールなんて凄く危なっかしいのに、ミネルバさんはいつも凄く透き通る水面って感じかな。」
 
 
 クロノの視点に、ミネルバは微笑んで言った。
 
 
「フフフ、性格と属性は関係ないですわ。それは育った環境が作るものです。私は昔から危ない橋を渡ってはならないと言われて育ちました。それこそ、石橋を叩いて叩き過ぎて、仕舞には割ってしまうんじゃないかなと思うほどに。でも、それが悪い事でも無いからこそ、私は否定せずにその教えを受け入れて育ちました。その結果が今の私ですわ。」
 
 
 彼女は自分で話しながら幼少の頃を思い出していた。
 彼女の父はとても堅実で厳格な性格の持ち主で、彼女が話す通り、幼少の頃から彼女を厳しく、それでいて危険を心配し著しく避けて育てた。彼女はそんな父の姿勢に疑問を思う事も知らず育った。
 
 何より、彼女は父親を尊敬していた。彼女が幼少の頃から、既に父は立派な政治家として国民の多くから支持を受け、そして立派に多くの人々に幸せをもたらす働きをしていた。確かに細かく見てゆけば不満が出ても不思議ではないが、彼女からすれば父親は英雄であり、多くの人から尊敬される父の姿が誇りでもあった。
 
 しかし、彼女も成長し、父の仕事の一端を知る年頃になると、彼女の中にも少なからぬわだかまりは生じた。それは彼女自身が育つ中で培った慎重さや堅実さが、政治家としてのダイナミズムを失い、この国を支える力として不安を感じる様になったからだ。
 
 
 父は、この国を人間達の争いに巻き込ませてはならないと考えていた。
 
 
 それは国父として讚えられるボッシュ博士が残した意向に沿うもので、確かにこの国が25年という長期の繁栄を築く力となった。しかし、それは同時にパレポリという大国を野放しに巨大化させる片棒を担いでしまう結果にもなった。
 今ではこの国が繁栄した以上に巨大なパレポリが、自国との同盟を破棄する動きすら見せてきている。近年、トルースを拠点に軍事力を増強したパレポリ海軍は、次第に領海を侵犯することが増えた。
 それは最初は単なるミスの範囲であり、そう大きく捉えるべき問題ではなかった。だが、パレポリとメディーナの利害が衝突する機会が増えた現在、そうした小さな問題が大きな問題への切っ掛けになる可能性は否定できなかった。
 
 パレポリが攻撃的な対応を見せてきているのに対して、メディーナの動きはとても緩慢で不安を隠せるようなものではなかった。確かにメディーナは科学技術の上ではパレポリを上回っており、先端産業である魔法科学産業分野でのメディーナ企業のシェアはパレポリも無視できない。しかし、企業はうつろう器に過ぎず、それは力ではない。
 人々がメディーナという国に不安を感じた時、この国はその姿を保てるだろうか。そして、それが彼女の父が守り続けてきた信念で耐え得るのだろうか。…メディーナ政界の派閥の中には過激な路線を主張する者たちもいる。今は好景気の中にいるメディーナだが、一度不景気に転落した時、メディーナ政界は一気に右傾化する可能性を否定できない。
 彼女はそんな中で、彼女の父が自身に課したこの課題を受けて感じていた。父も彼女同様に不安を持っているのだと。しかし、それをそうだと認めたところで何が出来るのだろうか。彼女は自分の不安のやり場を父の責任にしていたが、自分自身ではどうしたかったのだろうか。
 
 
 この試験は父からの答えだと思えた。
 
 
 何も考えず与えられることに慣れてきた自身に、自分で考えて動く機会を与えられたことこそ、この国が培ってきた最も大切なことなのだと。そして、この試験は武器を否定し魔力という心の力を最大の判断材料とした。
 
 
 魔力には心が表れる。
 
 
 魔力も武器同様に人を殺める力にもなるが、この力は正しい力を使う者を見極める目安になる。その性質上偽れない力は、心を浮き彫りにする。
 
 自分のすぐ隣を歩く二人の人達の心は勿論、この試験を目指した人々の心の力は、思っていたより力強く、そして清々しい。
 こんな晴れやかな心が有り、そして、そうした人達を守る為に動けるのであれば、例えそれが無謀であろうとも、例えそれが今にも落ちそうな橋だとしても、壊れそうな物は直せばいいし、危ない物は無害化する努力を惜しむべきではない。
 
 信念は、曲げない為にあるわけではなく、目的を果たす為に心を支える魔法の言葉であり、慎重さも心配も全ては人を思う気持ちが生み出すものなのだと。
 
 彼女は、父を尊敬している。
 それだけに、この試験は必ず突破しなければならない。
 
 
「あ、光だ!」
 
 
 シズクが思わず言った。
 彼らの前方遠くに確かに光が見えた。それはまだ点の様だが、スタート地点の室内の明かりが白く光を放っている。
 全くの闇の中でそれの持つ存在感の大きさは、見るだけで人の心に明かりを灯すほどだ。…いかに闇に慣れたと言っても、世界は本来光で溢れており、その輝きを忘れる事は出来ない。
 まだゴールする条件を備えていないとはいえ、3人の感情は高揚する。
 だが、遂に何者かが前方の光を遮った。
 
 
「へへ、待ってたぜ。」
 
 
 そのシルエットは、忘れもしなかった。
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【113】CPss2第29話「個人戦」
 REDCOW  - 08/1/21(月) 1:21 -
  
遅くなって申し訳有りません。

えと、今週号はおやすみします。(^^;
仕事で出張が入る為、ネットに接続すら出来るか分からないので。

とりあえず、今月末から雪祭り辺りまでは遅れたりとかありそうです。
楽しみにお待ちの皆様には本当に申し訳有りません。


第113話「個人戦」
 
 
「来たか、チームポチョ。」
 
 
 そこに現れたのは、探し求めていたチームの一つ、ファイアブラストだった。
 彼らは通路の中央で陣取った。
 
 
「火の呪印、返してもらうわよ!!!」
 
 
 シズクが怒りの形相で叫ぶ。その表情はクロノですらぎょっとするとほど。
 そんな彼女に、バンダーはたじろぎながら、
 
 
「お、おい、そないに怒る事あらへんやないか。俺かてこの試験のルールがあるさかい、仕方なくあんたらの呪印をもろたんやで?恨みっこ無しや、な?」
「いいえ、恨みます。そして、返してもらうわ。すぐ!!!」
「…へへ、そうかい。いや、それは俺らへの挑戦ってことでオーケーやな?」
「えぇ。叩きのめす!!!」
 
 
 シズクの握りしめた拳から火が吹き出す。
 急速に高まり出している彼女の魔力にバンダーは内心驚いていたが、彼も何の考えも無しに挑戦を受けるわけではない。
 
 
「んじゃ、お互いフェアに行こうやないか。見たところ、俺らとあんたらじゃ、あんたらの方が上やから連携されるとかなわん。せやから、ここは堂々と一対一で勝負ってことでどうや?」
「個人戦?…どうする、クロノ?」
 
 
 バンダーの提案は彼らの思惑も有っての話なのだろう。だが、個人戦ならばクロノ達も不利な話ではなかった。彼らが認めている通り、魔力レベルはこちらが上。だとすれば個人で戦っても力押しで十分競り勝てるとも言える。
 
 
「俺は構わない。ミネルバさんはどう思う?」
「私も異存は有りません。どちらでも対応します。」
「シズクは?」
「わ、私もOKよ!!」
 
 
 二人の強気のコメントに、シズクも負けるわけにはいかなかった。
 それをみてクロノはにやりと笑い、バンダーの提案に回答する。
 
 
「じゃ、俺達に異存はない。その提案、受けよう。」
 
 
 クロノの力強い回答に、バンダーは内心苦っていた。
 
 
「さよか。(うは、スゲー余裕やな。こえぇ〜)ほなら、さっそく先方だしてくれや。うちはこのヤッパが出るで!」
 
 バンダーが出してきたのは、超肥満巨漢のヤッパだった。
 ヤッパは他の事は全く関係ないと言わんばかりに菓子袋から菓子を出して、むしゃむしゃと一心不乱に食べ続けていた。その異様な程の食べっぷりは、見るものから食欲を奪う様だ。クロノ達3人もまたその例外に漏れず、少なからぬ嫌悪感を感じていた。
 そこに1人歩み出る姿が有った。
 
 
「…私がお相手しましょう。」
 
 
 ミネルバが前に出た。
 彼女は杖を出すと、ヤッパの前に対峙した。
 
 
「ミネルバさん、ホントに良いの?」
 
 
 シズクの問いに彼女は微笑んで言った。
 
 
「私も頑張らなくちゃ。ね?」
 
 
 彼女の回答を聞いて、バンダーはコクリと頷いて言った。
 
 
「ほな、そこのお嬢に決定やな。したら、第一試合開始や!」
 
 
 そう言うと彼は右手に魔力を集中すると、地面に一気にその拳を叩付けた。
 めり込むほどの力は地面に衝撃音とともに爆炎を吹き上げ、まるでそれは試合を放棄する事を拒むかのようにサークル状に囲むと、二人を赤々と照らした。
 バンダーの小細工にシズクが抗議する。
 
 
「何なのこれ!!ミネルバさんは水属性だと知っていてやっているの!!!すぐにやめないなら、私も考えがあるわ。」
 
 
 彼女の抗議に、彼は悪びれもせず返した
 
 
「な〜に、これはリングや。この炎は試合がしっかりフェアに行われているか視覚的に把握する為や。闇の中では何してるかわからへんやろ?」
「そんなもの必要ないわ。」
「…必要あらへんかどうかは、本人達が決める事やろ。で、どうなんや、お嬢はん?」
 
 
 彼に振られたミネルバは、振り向く事もなくヤッパを見据えて答えた。
 
 
「あなたの仰る通り、フィールドへの影響は軽微です。私はあなたの対応に不満はありません。続行します。」
 
 
 彼女の答えにバンダーはにっこり頷いてシズクの方を見ると、シズクもさすがに抗議の声を上げるわけにもいかず、彼女は渋々要求を取り下げた。
 
 
「…少しでも変な動きを見せたら、私は躊躇無くあんたを消し炭に変えるからね。覚えておきなさい。」
 
 
 要求は取り下げても、シズクの闘争心はより一層燃えているようだった。
 バンダーは内心肝を冷やしつつ、試合に視線を移した。
 
 
 試合を開始してからの二人は微動だにせず、ただにらみ合いが続いた。いや、正しくはヤッパの方は相変わらず菓子を食べ続けているのだが、それ以上の動きを見せるわけでも無く、ただマイペースに快調に食べ続けている。一見すると、これは何か全く別の試合をしているのではないかと思うほどに、戦闘というには場違いな雰囲気が漂っていた。


「………嫌ね。ここは。」
 
 
 彼女はいい加減にこの場の雰囲気に飽きてきていた。任務とはいえ、この闇の中を二人の巨漢を連れて歩くというのはなかなか暑苦しい話だ。しかも、この二人はまともな会話をしない。もはや独り歩きしている様なものだ。であるにも関わらず二人の男が背後にいる鬱陶しさは無い。
 
 
「(…困ったわね。)」
 
 
 彼女としては、既に条件を揃えているので、戻るだけだった。だが、入り口付近に複数の気配が有るのはどうにも具合が悪い。いい加減お仕舞にしたいところだが、この試験に強行突破はご法度。勿論、やって出来なくは無いが、それをしてしまってはこれまでの苦労が水の泡と言えた。
 だが、既に相当の実りはあった。
 この洞窟内部だけでも、目を見張るような宝の山であることは確かであった。4体の呪印獣に特殊フィールドの存在は、それだけですら十分な価値のある代物と言えた。それに加えてこの試験には予想通りに複数のエインシェントの使い手が集っていた。
 エインシェントの使い手がこれほどに集る機会はそうは無い。当然といえば当然の話だが、彼らも十中八九で自分達の動きを読んできているだろうといえた。しかし、それでも表向きのアクションを取らないのは、彼らがまだ表立って行動を起こす準備が整っていない事の現れであり、利はこちらにあると言えた。
 ただ、予想外に術者達のレベルは上がっていた。そのレベルは十分に脅威となり得るものであり、確かに上層部が脅威と感じた事は正しいと言えた。しかし、何より厄介な事は、術者の中にも自分達の存在を知る者がいるということだった。
 
 だが、これは予想の範囲とも言えた。
 相手は太古の文明を統べた賢者ボッシュである。メディーナをこれほどの大国にした知力は侮れない。彼らはわざとこちらの流れに乗っている可能性を否定できない以上、こちらも滅多な行動を取れないジレンマが有る。しかし、ジレンマで縛られているのはこちらだけではない。特に将来有望な戦士となりうる少年少女が多く集るこの場での事件は、メディーナ政府にも大きなダメージになる事は免れない。両国関係を崩したくないメディーナは、セオリー通りならば正規の行動に出る可能性は低い。そして、何より幸運なことはクロノの存在といえた。
 この難しい時期に絶妙なタイミングで彼は現れた。
 彼は沢山のカードを用意してくれた。彼女にとっては幸運のラッキーガイだ。
 
 
「(…さて、ラッキーはどこまで続くかしら?)」
 
 
 彼女は気配を巡らしながら、クロノ達の試合を見届けようとしていた。
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【114】CPss2第30話「降参」(1月25日号)
 REDCOW  - 08/2/15(金) 16:46 -
  
第114話「降参」(1月25日号分)
 
 
「…動かないのね。ならば、こちらから行かせて頂きます!」
 
 
 ミネルバが宣言するやいなや、彼女は杖を振りかざす。
 すると、急速に水の魔力が集中し巨大な氷の刃を幾つも作り出した。
 
 
「如何に皮下脂肪が厚かろうと、研ぎ澄まされた刃の前には無力です。はっっっ!」
 
 
 無数の氷の刃が降り注ぐ。これほどの大きさの氷の刃を受けては、さすがにどんな生物でもただでは済まないだろう。アイスガを超えた強力な氷の刃が容赦なくヤッパへ向かう。
 だが、なんと、彼は突如肉で埋もれた目をカッと見開くと、あの巨体に似合わず俊敏に寸でのところで避け、その後も的確に文字通り驚異的なスピードでまるで羽が生えた様にふわりと優雅な微笑みを浮かべて華麗に見切って見せたのだ。あの彼を見て、この動きは誰もが予想できなかっただろう。しかし、彼の仲間達は驚いていない様子だ。
 ヤッパは全て綺麗に避け終ると、また何事も無かったかのように菓子袋からペロペロキャンディを取り出すと、これまたとても幸せそうに舐め出した。
 
 
「…なんか、とても見てはいけない生命体を見てしまった気がする。」
 

 シズクがぼそりと呟いた。
 流石にこの感想にはクロノ達は勿論、彼の仲間達も同意せざるを得なかった。
 
 ミネルバは作戦を変えた。
 相手が異常に高速な回避が出来るならば、回避する余地を与えない作戦にでた。しかし、それは彼女にとって賭けでもあった。
 
 
「(私の魔力では長期戦は無理。一か八か、賭けるしかないわね。)ハッ!!!」
 
 
 周囲から急速に熱が奪われてゆく。
 ミネルバが杖を構えて魔力を集中し始めると、彼女を中心に青い輝きを放って魔法陣が形成される。それは次第に輝きを強め、円筒形の光の柱となった。そして、次第に陣は支配を広げ、ヤッパを中心に陣を形成させた。
 
 
「…我は求めん!汝全てに凍れる時を!………フラッド!!!」
 
 
 陣が一斉に閃光を発する。そして、陣を中心に膨大な冷気の煙を噴き出して鋭利な氷の刃が次々に襲いかかる。
 
 クロノ達は驚いた。
 この魔法はハイドが使った魔法だ。しかも、その出力はハイドに引けを取らないどころか凌駕する程の魔力が込められている。あの大人しいミネルバさんからは想像できないほどのパワーだ。
 だが、ヤッパは大口を開けると、下から生えてくる氷の刃をガリガリと食べ始めた。その早さたるは恐るべきもので、出て来る全ての氷をがっつくように食らいついていた。
 
 
「クッ!」
 
 
 ミネルバはそれを見て更に魔力出力を上げる。
 だが、ヤッパはそれに対応するかのように懐からシロップをとり出すと、氷にドバドバ注ぎ込んでガツガツと噛み砕いて行く。その表情は幸せそうに目尻が下がり、幸福を感じているようだ。
  
 
「(これだけの魔力を注いでも効果が無いなんて…)」
 
 
 彼女はこのまま攻撃を続けても埒が明かないと悟った。しかし、彼女にはもう他に使えそうな魔法は無かった。
 
「(ここまで来たんだから、負けたくない。)」
 
 その思いはクロノ達に対する面目もあるが、己の意地として譲りたくない気持ちだった。だが、その思いとは裏腹な言葉が脳裏を過る。
 
 
「引き際を知らぬ者は、全てを失う。お前はまだそれが分からぬか。」
 
 
 幼き頃より父から厳しく言われてきた。
 戦いは「今」が全てではない。
 常に戦いであり、いつまでも戦い続けられる力を持ち得るものが、真の勝者となる。
 …それは父が言わなくとも、代々語り継がれた歴史的な事実として学んできた。
 
 ここで無理をしてみたところで、勝率は99%無いだろうという確信はあった。
 元々出力の弱い水に対して相手は最強属性である天。こちら側が魔力出力を上げたところで、天へ対抗するには通常の1、5倍程度の出力を常に続けなければ拮抗しない。勿論、継続する事自体は可能だが、問題は拮抗しているだけでは勝てないということだ。
 彼女は既にアイスガを超えて氷牙も使い、水属性エインシェントの一つであるフラッドすら使ってしまった。残された選択肢は決して多くない。しかも、この試験は「まだ続く」のである。
 
 
「降参よ。」
 
 
 その言葉には誰もが驚いた。
 さすがにクロノ達は勿論、相手のメンバー達も驚きを隠せなかった。しかし、彼女が口に出した以上、それを認めないわけにはいかない。
 
 
「ちょっと、ミネルバさん!どうして!」
「シズク!」
 
 
 クロノがシズクの疑問の声を制する。
 その行動にシズクは更に反発した。
 
 
「ちょっ!クロノまで!?どうして、こんな中途半端な…」
「シズク、良いんだ。」
 
 
 そこにミネルバがシズクの方を向き、深々と礼をした。
 
 
「ごめんなさい。」
「ミネルバさん…。」
 
 
 彼女の謝罪を聞いては、シズクもそれ以上の追求はできなかった。
 そこに、話が片づいたのを見てバンダーがクロノ達に問い掛ける。
 
 
「さて、お次は誰や?俺達はメンバルが相手になるで。」
 
 
 メンバルがにっこり微笑んで前に出る。
 
 
「私がやるわ!」
 
 
 颯爽とシズクが前へ進み出た。
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【115】CPss2第31話「ヘルファイア」(2月1日号)
 REDCOW  - 08/2/15(金) 16:48 -
  
第115話「ヘルファイア」(2月1日号)
 
 
「さぁ、どうぞご自由に。」
 
 
 シズクはそう言うや否や、フィールドに両手から魔法を放った。だが、フィールドに吸収された後は何も起こらなかった。
 メンバルは急速に魔力を上昇させると、その力を両手に集めた。
 
 
「…私が勝って、決まりよ!!!」 
 
 
 メンバルが魔法を放った。その出力はもはやアイスガというにははばかられるほどに巨大な氷の塊がシズク目掛けて振り掛かる。
 だが、シズクは平然と構えると右手の指を一度弾いた。
 
 
 キッ!
 
 
 空間に響き渡る甲高い乾いた音が合図であったかのように、突如彼女の周囲を強力な火のフィールドが包み込む。バリアフィールドが展開されると、メンバルのアイスガを易々と蒸発させた。そして、左手の指を弾いた。
 
 
 キッ!
 
 
 それは一瞬だった。
 
 シズクの周囲から閃光が走ると、一瞬にしてメンバルを光が貫いた。
 それは一瞬の出来事だが、サンダーだ。しかも、通常では考えられないほどの魔力を込めた。
 
 メンバルがプスプスと音を立てて立ち上がろうとする。だが、その意思とは裏腹に体はついてゆかず、彼女はそこに気絶した。
 
 勝負は大方の予想に反して、あっという間に決まってしまった。
 バンダーが驚いて面張るに駆け寄る。
 
 
「さぁ、これで一勝一分けよ。クロノ、後は『確実』に宜しくね。」
 
 
 彼女はクロノの肩を叩くと後方に去った。
 呆気にとられていたクロノだが、ニヤリと笑って前へ出る。
 
 バンダーはメンバルに応急処置を施すと、それまでの締まらない表情とは違った真剣な顔付きでクロノの前に対峙した。
 
 
「…ほな、大将戦といこうやないか。」
 
 
 バンダーはそう言うと、魔法の詠唱を始めた。
 
 
「我が血に眠りし炎の化身よ、その盟約を今解き放つ。」
 
 
 彼が唱え終えると、瞬時に彼の足元を中心に魔法陣が展開され、炎が吹き出す。そして、一際大きな炎が吹き上がると、そこに新たなる存在が現れた。
 
 
「(急激に魔力が落ちた…なんだアレは?)」
 
 
 クロノは目前で展開される物事を冷静に分析していた。彼は魔力を急速に集中させ詠唱を終えると、魔法効果が現れたのを機会に急激に魔力が激減した。だが、魔法効果は一切起こらず、変わりに魔物とも人ともつかない存在が現れた。
 
 
「…バンダー、久しいな。」
「…我がサーバント、ヘルファイア。我が力となりて、目前の敵を燃やし尽くせ。」
「…フッ、お前に使われるほど、俺は落ちぶれてはいない。だが、奴なら良いだろう。我が相手に不足無し。その望み、従おう。」
 
 
 そういうと、ヘルファイアと呼ばれた化身は、バンダーの前に仁王立ちで構えた。すると、瞬時に彼を中心にバリアフィールドが展開されるのを皮切りに、次々に魔法効果が発動し始めた。
 
 
「(な、なんだ!?)」
 
 
 クロノ目掛けて突然猛攻撃が始まる。
 フィールドから次々に炎が巻き起こりクロノに向かって吹き上がる。
 クロノは剣を構えると、風のフィールドを造り防いだ。
 だが、それは突然起こった。
 
 
 ピンポンパンポン♪

 
「戦闘中の両チームの皆様、直ちに戦闘を中止して下さい。」
 
 
 突然の放送に、両者が天上を見上げた。
 
 
「この試合は、チームポチョの反則負けとします。」
「ちょ、何それ!?」
 
 
 シズクが抗議の声を上げる。
 すると、毎度のごとく冷静にカナッツの返答が返ってきた。

 
「チームポチョ、クロノ選手が本試合において抜刀致しました。本試験では対人戦中における物理攻撃武器の使用を認めておりません。よって、クロノ選手の反則によりバンダー選手の勝利が確定いたします。以上」
 
 
 プツ
 
 
『…バンダー、俺の役目は終わったな。』
 
 
 ヘルファイアはそう言うとかき消えるように消え去った。
 バンダーも半ば呆然としていたが、急激に魔力消費の負荷が体にのしかかる。
 
 
「…ま、そゆことやから、天の呪印くれ。」
 
 
 シズクはバンダーの方を睨むと、渋々懐からプレートをとり出すと、天の呪印を外して手渡した。
 
 
「…月の無い夜は、気をつける事ね。」
 
 
 シズクはぼそりと渡し様呟いた。
 バンダーは背筋に寒い風を感じるようだった。しかし、こうしていられないと、バンダーは急いでその場を去ろうとした。だが、そこに予想外の事態が待ちかまえていた。
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【116】クロノプロジェクトをご覧の皆様へ。
 REDCOW  - 08/3/2(日) 23:01 -
  
こんばんは、REDCOWです。
ここ暫く更新が滞って申し訳有りません。

とりあえず、遅れている分は徐々に掲載して行く予定で進めてはいるのですが、毎週連載は守れそうにないです。不規則ですが、出来上がり次第毎週金曜を期日に掲載できればどんどんするという形で対応してゆきます。

今現在の私自身のモチベーションを上げられない事情があって、それをどう折り合いつけて良いのか正直わかりません。本当に楽しんで下さっている方には申し訳ないと思いますが、再開をお待ち下されば幸いです。

これからもクロノプロジェクトで楽しんで頂けたら有り難いなと思います。
引用なし
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【117】CPss2第32話「ゴール。」(2月8日号)
 REDCOW  - 08/3/21(金) 10:28 -
  
第116話「ゴール。」
 
 
「をほほほほほほほほほほっ!!!逃がさないわよ〜〜〜。」
 
 
 なんと、そこにはメーガスかしまし娘。の姿があった。
 彼ら三姉妹がバンダー達の前に立ちふさがる。
 
 
「クソ女、そこどけ!」
「あ〜ら、随分と言ってくれるじゃないわけ?おたくみたいな赤い赤いチェリーちゃんには私の魅力はわからないわけ?可愛そうなわけ?そうなわけ〜?をほほほ〜♪」
 
 
 バンダーはこんな問答につきあっている余裕は無かった。
 彼の判断は速かった。
 ファイアブラストのメンバーが強行突破を試みる。
 しかし、
 
 
「マルタ、リーパ。」
「はい、お姉さま!」
「はい、お姉さま!」
 
 
 反応するのは三姉妹の方が僅かに早かった。
 
 
「うぐはぁ!?」
 
 
 バンダー達は突然空間の壁にぶつかり、全身を強く打ち付けてしまった。
 なんと彼女らは通路上に見えない壁を作り出していたのだ。これでは、もはや彼女達の申し込みを受け付ける以外に選択肢は無い。
 バンダーは思わず唇を噛んだ。

「(この一番良いところであいつらは…)…あんたら、そないに俺のことが好きなんか?そうなんか?そりゃー、有り難迷惑って奴やなぁ〜はっはっは。」
「自意識過剰も休み休み言った方が良いんじゃないわけ〜?…あたしはねぇ、目前に立ちふさがる良い男をひれ伏させるのが好きなわけ。そこんとこ、よろしく。ウフフ………さぁ、勝負よ!」
 
 
 そう言うや否や彼女達はお決まりのフォーメーションを組み、早々と準備を整えた。
 
 
『デルタ!リフレクターーー!!!」
 
 
 アミラが高らかに叫ぶと、彼女達の周囲に鈍い輝きを放ったフィールドが形成された。
 バンダーは心の中で苦笑していた。
 彼の目論みでは彼女達に対峙するのは「万全な体制」が整った後のはずだった。しかし、現在はクロノ達との戦いで既に大幅に消耗し、切り札であるヘル・ファイアも使った後だった。この状況で彼女らのフィールドを破壊するのは容易な話ではない。
 彼の想定し得る最悪の状況といえる。だが、それをそうだと認めたところで何かが起るわけではない。
 
 
「…(道が無いなら、作ればいい。)メンバル!ヤッパ!俺に魔力よこせ!」
「!OK!」
「…うん、わかった。」

 
 二人はバンダーの要請に従い、自らの魔力をバンダーに託した。バンダーはそれらの魔力を得て魔力を回復させると構えた。
 
 
「(…二人の残り少ない魔力を集めてもこれだけか。…いや、こんなにあるんや。これを大事に使わんでどないする。誰の戦いでも無い。俺の戦いや。)…ほなら、いっちょ気張っていくぜ!」
 
 
 バンダーが魔力を集中する。
 彼を中心に急速に魔力が上昇し、その圧力が熱となって空間に伝わる。
 
 
「…我が血に眠りし炎の化身よ、その盟約を今解き放つ。」
 
 
 彼が唱え終えると、瞬時に彼の足元を中心に魔法陣が展開され、炎が吹き出す。そして、一際大きな炎が吹き上がると、そこに新たなる存在が現れた。
 
 
「…ほぅ、二度目か。だが、随分と余裕の無さそうな顔付きだな。はっはっは、良いぜ。その顔。そういう顔じゃなきゃ、俺も燃えねぇからなぁ。」
「…ごたごたうるせぇ!我がサーバント、ヘルファイア!その炎で、目前の敵を焼き尽くせ!フルパワーだ!!!」
「…ほぉ、いいぜぇ!やってやる、その代わり、お前の体はしらねぇぞ!はっはっは!!!」
「っち。」
 
 
 ヘルファイアが構える。すると、彼を中心に真円を描いて炎が吹き出した。そして、次々にその輪が描き出されると、そこから煮えたぎるマグマがふよふよと漂うように上昇して壁を作った。
 
 
「(人の事言えないけど、嫌らしい魔法ね。さすが最強の炎術師の家系は伊達じゃないわけ)」
 
 
 彼女は一層魔法に集中する。
 そんな彼女の緊張を察して、二人の妹も姉に従うように真剣な眼差しになった。
 
 
『ボルケーノ』
 
 
 ヘルファイアが唱えると、メーガスかしまし娘。の反射フィールドに灼熱のマグマが襲いかかる。マグマはその膨大な熱でフィールド内部の人間を焼き尽くさん勢いだ。
 
 
「へっへっへ、如何にフィールドが最強だろうが、魔力の放つ熱には勝てねえだろう。」
「…ふふふ、寝言は寝てから言ってくれないわけ?ブルーアース!!!」
 
 
 アミラはエレメントを発動。ブルーアースがフィールドを水属性に転換した。すると、急速にヘルファイアのボルケーノの出力が低下し始めた。そこに、彼女は間髪入れずに構える。
 
 
「あたしらが防御専門だと思っちゃ間違いなわけ。…リーパ、マルタ?」
「はい、お姉様!フラッド!」
「はい、お姉様!アイスバーグ!」
 
 
 リーパとマルタのエレメントが発動する。
 巨大な流氷の津波がヘルファイアへ向けて襲いかかる。
 ヘルファイアは両腕を前につき出して防御の構えをした。
 そこに流れが襲いかかる。ヘルファイアの全身から炎のフィールドが膨大に吹き出して、前方から流れてくる全ての水を蒸発させ始める。
 
 
「…しぶといわねぇ。なら、あたしがフィニッシュなわけ。」
 
 
 アミラが二人の妹の攻撃では倒せない事を見越していたかのように、集中していた魔力をフィールドから前方に集約した。
 
 
「押して駄目なら引いて見ろと人は言うけど…あたしは更に押してあげるわけ。リフレクター攻撃形態!デルタ・リフレクトリーム!!!」
 
 
 リフレクターフィールドが前方に集中したかと思うと、その魔力を前方に突き出してアミラが突進した。リフレクトフィールド纏ったアミラが進む道の全ての魔力が濃密に圧縮されたリフレクトフィールドの斥力によって弾かれ、彼女の進む道を開ける。
 
 
「…ぐぅ、女、やるな。」
「…うふ。」
 
 
 アミラの右ストレートが完璧にヘルファイアの懐に決まった。
 ヘルファイアはその衝撃で姿を保てなくなり、光の粒となって消滅した。
 その強烈な衝撃は術者であるバンダーにも伝わった。
 
 
「…ぐぅぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…参った。」
「バンダー!?」
「…バンダー。」
 
 
 メンバルが駆け寄り彼のよろめく体を支える。ヤッパも心配で彼の近くに寄った。
 バンダーは彼らの支えを受けながら懐から呪印プレートを取り出した。
 
 
「…負けたからな。さぁ、受け取れ。」
「…あんたはなかなか楽しめたわ。強くて良い男は大好きよ。そして、潔い所はもっと好きね。」
 
 
 そう言うとアミラは近づいてにっこり微笑むと頬に口付けし、彼からプレートを受け取った。
 
 
「な!?」
「うふ。」
「ちょ、ちょっとー!」 
 
 
 バンダーは虚を突かれ驚き、メンバルは彼女の行動に憤る。
 そんな二人にお構いなくアミラはプレートを受け取って、前方に向かってダッシュを始めた。それに続くように二人の妹もダッシュして続けた。
 
 彼女達は暗い洞窟から光有る方向へ一心不乱に走り続けた。
 そして、遂に…
 
 
「おめでとうございます!メーガスかしまし娘。チーム、第二次試験合格を認めます。」
「やったわー!!!よく頑張ったわ!あたし達!」
「はい、お姉様!」
「はい、お姉様!」
 
 
 第二次試験合格チーム「メーガスかしまし娘。」決定。
 
 
「…あ。」
 
 
 …その場に居て、輝きに向かってあまりにも爽やかに走る彼らを見て、バンダー達はともかく、クロノ達は彼らから奪う最大のチャンスであったものを見逃してしまった。
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【118】CPss2第33話「枠」(2月15日号)
 REDCOW  - 08/3/29(土) 13:21 -
  
 遅くなっておりますが、徐々に取り戻して行けたらと思います…。
 一挙掲載ですが、あんまり取り戻せてないなぁ。|-゜)

第117話「枠」(CPss2第33話)
 
 
「やられた。」
 
 
 シズクは力なく言った。
 その場に居た全ての者がそう思っていた。
 これでメーガスかしまし娘。が抜けたことで、2チームが抜けたと考えられる。そして、たぶん、この試験はこれまで分かってきたことを総合すると、一つのチームが抜ける為には2つのチーム分の呪印を集める必要があるということであり、参加していた8つのチームの内の4チームは必ず敗退することになる。そして、より厄介な問題は「呪印を集め損なう」チームの存在があり、実際は4チーム未満しか通貨不可能だということだ。
 これまでに確実に分かっている事は、ファイアブラストチームは火の呪印を入手することに失敗していること。他にも乙子組、フロノ・ノ・コリガー、腐れ縁の3チームは天の呪印の入手に失敗している。この段階ですでに2チーム分の枠は消えていることになる。
 となると、今抜けたメーガスかしまし娘。チームの合格で枠が埋まったことになる。
 
 
「…さて、枠は埋まった。俺らは先行くで。じゃあな。」
 
 
 バンダー達はそう言って静かにスタート地点へと歩いていった。
 クロノもそれを見て歩き出そうとしたその時、シズクが言った。
 
 
「待って、ねぇ、ちょっと変じゃない?」
 
 
 彼女の言葉に二人の足が止まる。
 クロノが振り向いて尋ねた。
 
 
「何でだ?」
「考えてみてよ。今まであれだけルールだの言って強制してきた審判のカナッツが何も言わないのっておかしくない?普通に試験が終ったなら、何か放送で呼びかけても良い訳よね?じゃないと、まだダンジョンに居る人達はずっと彷徨い続けることになる。」
「…確かにな。でも、バンダー達が言った通り、計算上は枠が埋まってるだろ?」
「えぇ。でも、ハイド達の言っていた言葉が気になるじゃない。」
「まだまだ方法はある。…でしたわね。」
 
 
 ミネルバがハイドの言葉を言った。
 シズクがそれに頷く。
 
 
「えぇ。彼は方法があるって言ったわ。つまり、この試験には敗者復活の仕組みが隠されているってことじゃないかしら?」
「…しかし、そんな話は一度も聞いた事がありません。試験合格者は必ず呪印を持ち帰っているのですから。」
「そこよ!例えばよ、今ある呪印だけど、全ての枠が埋まった段階で二つ以上ある呪印を交換してくれるとかって窓口がどこかに出来るとか?」
「それは有りません。この試験はもう一度受けられる以上、そうしたサービスを設ける必要が無いので設置されていないはずです。」
「…それもそうよねぇ。普通に考えたら、何度も受けられるものなんだもんね…。うーん、でも、何か引っかかるのよねぇ。」
 
 
 その時、シズクはふっと思い浮かぶものが有った。
 それはコア・ガードチームの呪印がグリフィスチームのプレートへ、冥の呪印となってはまる瞬間のものだった。
 
 
「………あ!?」
「どうした、何か分かったか?」
「冥の呪印よ!」
「?」
「冥の呪印は4つの呪印が集る事で一つの冥の呪印が生まれるでしょ?ってことは、4つの呪印は冥に変換されたわけよね。」
 
 
 二人がこくこくと頷く。
 シズクは真剣な表情で話を続けた。
 
 
「変換できるということは、呪印のエネルギーは変異するものってことだから、こうは考えられないかしら?呪印はどれも元は一緒だってこと。…つまり、火の呪印は水の呪印にも変わるんじゃないかしら?」
「………、だとすれば、さっきハイド達がバトルしたっぽい魔力の動きは頷けるわけか。」
「そうですわね。彼らの行動がシズクさんの言葉通りだとすれば、残された呪印を集める行動の理由になる。ならば、急ぎましょう。私達の手元の2つの他にあと3つ集めれば、理論的には全て揃える事が可能になります。」
 
 
 3人は頷くと、急いでダンジョンの奥深くへと走って行った。
 3人が去ったのを見て、そこに静かに彼らの来た道を進む者があった。
 
 
「…ツー」
「きゅー!」
「…カー」
「きゅー!」
「…行くわよ。」
 
 
 コツコツとヒールの靴音が響く。
 そこにのしのしと二人の大男が彼女の背後に続く。
 
 
「(…へー、色々と考えるのね。ま、私の知った事じゃないけど。スイソ族の坊やの行動がそう繋がるとはね。…なら、上がってくるのはどちらかしら。…どっちが来ても、私の勝ちは揺るぎないけど。)…フフフ。」
 
 
 グリフィスチームはまだゴールしていなかった。
 だが、彼女達は遂にゴールした。
 
 
「おめでとうございます!グリフィスチーム、第二次試験合格を認めます。」
 
 
 ここに完全に2チームが正規の手順で抜けた。
 
 
 クロノ達は天の呪印の間へ走っていた。
 そこには3チーム残っていたはずだ。ハイド達も3チームと総当たりで戦うことはないだろう。だとしたら、先ほどの戦闘反応での1チーム分を引いた2チームはまだ居ると見て良さそうだった。
 考えを整理すると、現在2チーム16コの呪印が消えていることになる。残っている数は乙子組と腐れ縁とフロノ・丿・コリガーチームに推定で10コ程度残っていると考えられる。とすると、ファイアブラストが抜けている現在、ハイド達が仮に5つ入手しても5つ残り、クロノ達が入手出来る数は残る計算だ。
 何より、現在の状況は普通に試験を受けていては「誰も合格できない」という状況であり、必ずどこかのチームと遭遇しなければならない状況下にある。勝手に抜けられる可能性は無いが、なるべく早く動く事に越した事は無い。
 
 
「もうすぐね。」
 
 
 迷路の闇を明るく照らす白い四角が近づいてくる。
 呪印の間に近づくにつれて視覚が戻ってくる。
 暗い闇ばかりの迷路だが、光があるということはそれだけで安心できるのは不思議なことだ。
 
 クロノ達は天の呪印の間に到着した。
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【119】CPss2第34話「託す」(2月22日号)
 REDCOW  - 08/3/29(土) 13:22 -
  
第118話「託す」(CPss2第34話)
 
 
「なんだ、お前達まで来たケロ?」
 
 
 クロノ達の姿を見て驚いたようにカエゾーが言った。
 見ると、そこにはフロノ・ノ・コリガーチームと腐れ縁チームの姿が有った。
 クロノは彼の言葉を聞いて尋ねた。
 
 
「ん?までって、もしかして、ハイド達も来たのか?」
「そうケロよ。」
 
 
 その質問に横から笑顔でカエミが答えた。
 そして彼女は続ける。
 
 
「そういえば、バトルを申し込まれたケロ。でも、話に聞けばもう枠が埋まっているそうケロね?だから、必要な分だけあげたケロよ?」
 
 
 どうやら、彼らはハイドの話を聞いて試験が終ったものと思ったらしい。ならばとばかりに、クロノ達はその言葉に乗る事にした。
 
 
「その、俺達も呪印が欲しいんだ。良かったら君らから一つずつで良いから、君達の呪印が欲しい。」
 
 
 クロノの言葉に奥に座っていたヒカリが言った。
 
 
「どういうことだ?…お前達といい、コア・ガードといい、そんなものを今更集めてどうするんだ?」
 
 
 クロノは彼のズバリな質問に答えに窮する。
 そこに、彼の質問にシズクが前に出て答えた。
 
 
「実験よ。」
「実験?」
「…呪印は5つ必要だけど、既に枠は埋まったわ。でも、試験の終わりは宣言されていない。変だと思わない?」
「…確かにな。だが、それがどうして呪印を集める事になる?」
「残った呪印で何が出来るのか、最後まで試してみたいのよ。私達はまだこの試験には裏道が残されている様に思うの。」
「…そうか。だけどよ、お前達は何の為にこの試験を受けているんだ?…思えば、お前達は一体何者なんだ。見たところどう見てもただの人間だろ?なのに、なんでそんなに強力な魔力を持っている。」
「それは…。」
 
 
 シズクはさすがに何て答えて良いのか分からなかった。
 しばしの沈黙が辺りを支配するかに思えたその時、クロノが言った。
 
 
「俺達は人間だ。でも、魔力を持ってしまった。だけどさ、本当は人間も魔族も元は同じなんだろ?…なら、人間の中にも魔力を持っていることを知らずに育つ奴だってきっといる。いや、正しくは眠っている奴ってとこか。俺はその中で目覚めてしまった奴だ。魔力については、俺にも分からない。ただ、俺は知りたいんだ。俺達が魔力を持った理由だけじゃない。色々なことをボッシュに聴きたいから、ボッシュが示した条件にしたがってこの試験を受けている。」
 
 
 クロノの話にヒカリは勿論、彼の仲間やフロノ・ノ・コリガーチームの面々も驚いた表情をしている。
 
 
「…おい、それって、つまり、ボッシュ様に会う為にやっているってのか?」
「そうだ。」
「………、ボッシュって呼び捨てているけど、お前、ボッシュ様がどんな方か知っているのか?この国の父だぞ?そんな雲の上の人物にお前みたいな人間が会わせてもらえるわけないだろ?」
「…でも、魔力は凄いケロね。それだけの力があるなら、ボッシュ様じゃなくても注目はするかもケロ…」
「…。」
 
 
 二つのチームのメンバーは、クロノのあまりにも突飛な話にどう考えていいのか困惑していた。彼の話が本当だとしたら、この人間達は一体何者なのかという謎が更に深まる様に感じられた。
 そこに腕組みをして静かに座っていたベンが言った。
 
 
「…その昔、国父ボッシュ様には若い人間の友人が居たという。その人は人間達の王国の若い夫妻だった。」
「…おい、ベン。それって、俺にだって分かるぞ。滅んだ王国の死んだ王太子夫婦のことだろ。名前は確か…マールディア・ガルディア王女と、その婚約者の名前がトラシェイド公………トラシェイド………クロノ・トラシェイド………クロノ・トラシェイド!?って、おい、マジなら今は40超えたおっさんのはずだろ!?」
「…トラシェイド公にはもう一つの伝説がある。」
「…未来を救った…ケロ?」
 
 
 カエミの言葉に場の雰囲気は一層混乱に拍車が掛る。
 
 
「待てよ待てよ、おい、なら、何か?こいつがトラシェイド公で、未来の時代であるここに来たってことかよ。んな阿呆なことあっか!」
 
 
 ヒカリの反発に、ベンが冷静に言った。
 
 
「ヒカリ、これは全て推測だ。彼がトラシェイド公であるとは限らない。第一、君の言った通り、本当なら彼の若さを説明できない。もしそれさえ本当だとしても、過去から未来へ飛ぶなんて話を納得できるはずも無い。…だけど、冷静に考えてみよう。僕らの目的は何だった。」
「…黒薔薇を倒すことだ。」
 
 
 ヒカリの言葉に、クロノ達の方が今度は驚いた。
 
 
「黒薔薇!?おい、どういうことなんだ!」
 
 
 クロノの予想外の反応にヒカリは困惑しつつ言った。
 
 
「俺達の一族は奴らに殺された。ベンのゾガリ一族も、俺のイジューインも、イーマのター一族も、黒薔薇の暗躍にしてやられた。奴らは20年前の戦いで手を焼いた、エインシェントを継承するティエンレン一族を恐れている。」
「どうやって、ここに黒薔薇が来ると知ったんだ?」
「政府のエージェントが俺達の様な一族を保護している。情報は彼らからだ。」
「…そうか。」
 
 
 クロノは彼らの話から大枠が見え始めた様に感じた。
 確かにクロノも変だとは感じていた。これほどの魔力の高いメンバーが一度に集る事があるのだろうかという事は勿論、黒薔薇の存在すら不自然な符合と言えた。少なくとも、メディーナ政府は自分達の存在を確実に掴んでおり、その存在を利用している可能性は否定できない状況だろうと言えた。
 
 
「俺達はコア・ガードのハイドも黒薔薇を追っていると聴いた。そして、たぶん、その黒薔薇がグリフィスだということも突き止めた。だが、この状況を見るに、ここに集っている受験者はみんな黒薔薇に何らかの縁がある奴ってことなんじゃないか。」
 
 
 クロノの言葉にベンが頷いて答えた。
 
 
「あなたの話した通りだと思います。フロノ・ノ・コリガーチームは大陸フィオナ出身。フィオナでは黒薔薇の暗躍で、魔法剣の名門フォレスト家の長子が行方不明と聴く。」
 
 
 ベンの話にフログが頷いた。
 そして、おもむろに人間語で話始めた。
 
 
「如何にも。」
 
 
 彼はそう答えると、静かに目を閉じて瞑想する。
 すると、彼の体から膨大な蒸気が飛び出した。それは彼の体を一瞬見失うほどの量だった。その蒸気が晴れると、そこには緑髪の人間の姿が有った。ただ、その姿は人間というよりは魔族の特徴を多く持っている。
 彼は姿勢を正し、呼吸を整えると話した。
 
 
「…驚かれただろうが、この姿の変異はフォレスト家の血縁者のみに現れるフォレストの血。我が家はフォレスト家とは無縁ではない。フォレスト流剣術を継承する血縁一門衆である。此度は首長会の決定に従い、メディーナ政府の情報に基づいて派遣された、いわば調査隊としてここに来ている。勿論、可能であれば確保/処刑もその視野に入れていたが…この試験のレベルの高さに少々驚いてもいた所だ。しかし、目的を同じにする者達が集っているというならば、頷ける。」
「フログ様、良いんですか!?ご身分を明かされても。」
「…案ずる事は無い。既にグリフィスというチームが抜けているのだろう。ならば、ここにはメディーナ政府が用意した刺客兼エサの我々が居るのみということだろう。」
「エサケロ!?」
「そうだ。我々は皆揃いも揃ってエインシェント使いだ。ならば彼らの目的に合致するエサだということだ。」
「…なるほどケロ。」
「しかし、だとしたら、なぜメディーナ政府はグリフィスを捕らえない?」
 
 
 ヒカリが当然誰もが思う疑問を述べた。
 それに対して、ミネルバが静かに言った。
 
 
「…ビネガードクトリンの縛りね。私達は人間の争いに関与しない。故に人間との争いも極力避け、兆発・脅しに乗らないことを主義として掲げている。これは、長い時代の倣いに従い、我々の動く道としての大切な基本原則。」
「それが、パレポリを野放しにする事をよしとするってのかよ!」
「それは、私達にも尊厳が有る。私達の自由と自立が脅かされるならば、少なくとも私は立ち上がります。」
「…。」
 
 
 ヒカリは彼女の言葉にそれ以上反論を出す事が出来なかった。
 確かに彼女の言う通り、誰もが感じている事でありながら、それを変えないのには意味があり、同時にそうした縛りは自分達自信の必要に応じて変える事もできるということは、誰にも分かっている事だった。それをしないのは誰のせいでもない、自分自身の問題なのだと。
 そこに、フログがクロノの方を振り向いて言った。
 
 
「クロノ殿、あなたに我らの呪印を託そう。」
「良いんですか?…その、俺達を信じて。」
「…信じるも何も、我々には力が無い。力が無い者に語る資格は与えられない。だが、そうした者にも『託す』ことは出来る。己の信じる道を進むと思える者に、それが実現可能だと思える者に。我々はあなた方に託してみようと思う。」
「…有り難う。」
「待った、その提案、俺達も乗るぜ。俺達の呪印も持って行け。たぶん、奴らに勝てるのはお前らくらいじゃないと無理だろ。」
「ヒカリ………、ベンくん、君も良いのかな。」
「…一応リーダーだからねぇ。それにボクもイーマも同意見かな。イーマ?」
「えぇ。彼の言う通りよ。」
「ということだ。納得してくれたかな?」
「有り難う。みんな。」
 
 
 クロノは彼らに感謝し深々と礼をした。
 その姿は見る者に何かわからないが神々しく感じるオーラが有った。
 そんな彼にヒカリが立ち上がって小突いた。驚き困惑して頭を上げたクロノの腕を掴み、彼はがっちりと握手して言った。
 
 
「絶対勝てよ。」
「あぁ。必ず。」
 
 
 クロノも強く握り返し答えた。
 その後、クロノは2チームの全ての呪印を譲り受け、天の呪印の間を後にした。
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【120】CPss2第35話「変化」(2月29日号)
 REDCOW  - 08/3/29(土) 13:24 -
  
第119話「変化」(CPss2第35話)
 
 
 クロノ達は洞窟の奥深くの空洞に来ていた。
 そこでシズクが火を放ち明かりを灯すと、貰った呪印球を一つ取り出した。
 シズクの取り出したのは水の呪印だった。
 
 
「呪印を変えるということは、たぶん、今出ている属性を相殺する魔力を注入し、相殺した後で欲しい呪印の魔力を注ぎ込めば変化するんじゃないかしら。…試しにまずはこの水の呪印を火の呪印に変えてみるわね。」
 
 
 シズクはそう言うと呪印を左の手のひらに置くと、右手で魔力を注ぎ始めた。
 すると、水の呪印が火の呪印の様な橙色のマーブルが入った模様を浮かべて変化し始めた。彼女はそのまま魔力を注ぎ続ける。
 
 
「あ、変わった!」
 
 
 遂に水の呪印の刻印が火の呪印の刻印に変化した。
 それは紛れも無い、橙色の火の呪印球だった。
 
 
「……マジだな。ってことは、地の呪印は天の魔力を注いで行けば天の呪印か!俺、やってみるぜ!貸してくれ!」
 
 
 クロノが目を輝かせて右手を差し出した。
 シズクが笑って地の呪印を彼の掌の上に置いた。
 彼は左手をかざすと、魔力を注ぎ始めた。すると、水の呪印の時と同様に地の呪印に天の呪印の様な白く透き通ったマーブルが入り始めた。
 
 
「行け行け行け!!!おーしおしおし!!キタァーーーーーーー!!!」
 
 
 彼の歓喜の叫び通り、地の呪印は見事に天の呪印に変化した。
 これで属性のある呪印は全て揃った。だが、最後の一つ、冥の呪印を作らなくてはならない。
 
 
「あのよぉ、冥ってどうやって作るんだ?」
「う〜ん、単純にとりあえず属性を打ち消した状態が冥よね。まぁ、地の呪印でまず中和してみたら良いんじゃないかしら?」
「オッケー!」
 
 
 シズクはそういうと、もう一つの地の呪印球を彼の手に乗せた。
 クロノは魔力をそっと込め始めた。
 ゆっくりと魔力が注ぎ込まれ、マーブル状の模様が浮かび始める。それは次第に明るい色に変わり始めた。そして、
 
 
「あ、天に変わっちゃったじゃない!注ぎ過ぎよ!!!」
「あ、わりぃー、仕方ない。ここはミネルバさんの出番だな。」
「わかりました。こちらへ。」
 
 
 ミネルバが左手を差し出した。
 頭をポリポリ掻きながら、クロノはミネルバに呪印球を手渡した。
 それを受け取ると、彼女はゆっくりと地の魔力を込め始めた。天の呪印球はゆっくりと黒いマーブルが入り始める。だが、また込め過ぎてしまったのか地の呪印に変化してしまった。
 
 
「あれ、そんなに込めていないはずなんですが…ごめんなさい。」
「っかしぃなぁ。…もしかして、冥は作れないじゃないか?」
「ちょっと貸してみて、私がやってみる。」
 
 
 シズクはミネルバから呪印球を受け取ると、今度は彼女がゆっくりと時間を掛けて天の魔力を注ぎ始めた。それはとてもゆっくりと確認するように込められた。だが、またしても地の呪印は、冥という刻印は一瞬たりと出ずに天の呪印に変わってしまった。
 
 
「…う〜ん、どうしてだろう。これは元から冥の変化はやっぱり無いみたいね。」
 
 
 その時、ミネルバが言った。
 
 
「あの、もしかしたらですけど、冥の呪印球は4つの呪印球が集らないと作れないんじゃないかしら…?」
「…そうかもしれないわね。ってことは、ハイド達も私達を必要としているってことになるわね。」
「…その通りだよ。」
 
 
 その声は3人の背後の入り口から聞こえた。
 そこには彼らの話していたハイド達、コア・ガードチームの3人の姿が有った。
 
 
「…あら、随分とタイミング良いわね。」
「ははは、皮肉屋だなぁ。シズクさん。」
 
 
 ハイドが微笑んだ。
 シズクはプイと顔をそらす。
 そんな彼女に苦笑しつつ、横からクロノが言った。
 
 
「どうやら、君達と戦わないとクリア出来ないみたいだな。」
「そうなりますね。ただ、僕は予想外でした。本当はファイアブラストかメーガスと戦ってクリアかなと思っていたから、ここであなた方と戦う事になるとは思っていませんでしたよ。」
「あぁ、俺達もこんなにてこずるとは思ってなかったぜ。ははは、でも、お陰で色々とここの事が分かってきた気がするぜ。」
「…そうですか。さて、長話は不要でしょう。ここは決着をつけるべき時です。」
「そうだな。」
「あなたは強い。だから、僕らは全力で戦わせて頂きます!」
「あぁ、望むところだ!!!」
 
 
 両者一斉に構えた。
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【121】CPss2第36話「鬼だ。」(3月7日号)
 REDCOW  - 08/4/5(土) 14:28 -
  
第120話「鬼だ。」(CPss2第36話)
 
 
「僕らは負けるわけにはいかない!!!ランタ、ティタ、行くよ!」
「おう!」
「えぇ!」
 
 
 3人が構える。
 瞬時に魔力を集中すると、3人は魔力を結集して連携発動させた。
 
 
「ヴェイパーストーム!!!」
 
 
 あまりに急な攻撃に焦るクロノ達。だが、冷静にミネルバは水のトラップフィールドを展開すると、ハイドの水の魔力を吸収し連携の相乗効果を減衰させた。そして、続けてシズクとクロノが連携し天のバリアフィールドを展開。ヴェイパーストームは強固なフィールド効果によって相殺されてしまった。
 クロノが相殺した後すぐににシズクに目配せすると、シズクがハイド達へ向かってサンダガを連打で放つ。それに対してティタがトラップフィールドを展開して魔力を吸収すると、その魔力を利用してサンダガを返してきた。しかし、返されたサンダガはミネルバの形成した水のバリアフィールドによって減衰され、シズクのトラップフィールドで吸収された。
 だが、その時ハイドは判断ミスをしていた事に気付く。
 シズクの後方で魔力を溜めていたクロノの足元に魔法陣が形成されだしていることに気付いたハイドは、ティタとランタに呼びかけるとすぐに構えた。
 
 
「(シャイニング)」
 
 
 クロノの身体が宙へ浮き上がる。
 全身から湧き出す魔力は、まるで無尽蔵に感じられるほどに対象を威圧しただろう。あふれ出した力は彼の足元の魔法陣を中心に一気に支配を広げ、空間を青白い光で満たした。
 
 
「(やったか!?)」
 
 
 爆風で空間が溢れ返る。
 行き場を失った力は洞窟全体へ巨大な爆発力を伝える。しかし、洞窟内部は特殊な魔力のフィールドに包まれており、シャイニングの大出力も壁その物を大きく破壊する事はなかった。だが、その力の本来の標的であるものも壊すには至らなかった。
 
 
「…パーテクトフィールド。」
 
 
 シズクが呟く。
 ハイドの形成した絶対防御魔法であるパーテクトは、彼らを完全に安全に包み込み保護していた。シャイニングの爪痕は、彼らのフィールド周囲を中心にクレーターが出来るほどだったが、彼らには傷一つ付けられていなかった。
 
 
「…あの時と一緒かよ。」
 
 
 クロノは思い出していた。
 あの結婚式の夜、今の旅を始める切っ掛けの戦いの最中に目の当たりにしていた状況。
 自分の最大最強の魔法は、防御フィールドによって再び完全な形で阻まれたのだ。
 
 
「…如何にシャイニングが天属性最強のエインシェントスペルだとしても、その不完全な術式では僕のパーテクトを崩す事は出来ない。」
 
 
 ハイドが不敵に言った。
 背後でランタが魔法を放つ。
 突如クロノ達の目前に冥の魔力が急速に集り始める。
 
 
「(ダークボム!?)」
 
 
 シズクとクロノが合わせ掛けで天のフィールドを形成するが、そのフィールドの形成に合わせるかのように冥の魔力がフィールド内部に進入する。
 
 
「(間に合わない!!)」
 
 
 クロノは咄嗟にサンダガを放って魔力集中の分散を図るが、もはやその程度で制御し得るほど小さな出力ではなく、逆にその魔力ごと飲み込まれた。
 臨界に達する。
 
 
 ドドォォォォォォォォォーーーン!!!
 
 
 完全にクロノ達の至近距離で爆発を起こしたダークボムだが、ランタは手を抜かずに連続でダークボムを放ち、相手が反撃する暇を与えない腹積りでいた。だが、一度に放てる魔力にも限界がある。特にハイド達はクロノ達と比べれば圧倒的に魔力放出可能量は限られている。ハイドはランタの攻撃を制止すると、クロノ達の状態を確認した。
 パーテクトの青白い輝きに照らされ、次第に爆風が晴れて向こう側が見え始める。
 そこには、ハイドの全く想定外の事態が起っていた。
 
 
「…そんな、どうして…」
 
 
 そこに現れたのは、自分達ど同様に青白い輝きのヴェールに包まれたクロノ達の無傷な姿だった。そして、それを放っているのは1人の女性の様だった。
 
 
「…ハイドロン無しでパーテクトを…しかも…1人で。どうして!?」
 
 
 ハイドの困惑の言葉に、クロノ達の前に立ちフィールドを形成するミネルバが静かに答える。
 
 
「…私の使う魔法は、あなたのパーテクトではないわ。でも、そうですね、私の使う魔法もまたパーテクトと同じ効果を持っている。…元は同じものですもの。」
「…まさか、あなたは…!?」
「察しの通りです。…私達の家系はパーテクトフィールドの問題点に早い段階から気付いていました。この力を本来の目的通りに機能させるには、その発動条件のハードルは後々私達自身のリスクになることを予見していました。ですから、私達の先祖は、この魔法の単独発動を模索したのです。…そして、先祖であり、我が一族の宗主は完全な防御フィールドの単独発動に成功したのです。」
 
 
 彼女の話を聞くハイドは呆然といった表情だった。
 彼同様に困惑する背後の二人も、動揺の色を隠せない。
 しかし、ハイドは気を引き締めると、フィールドを強化して言った。
 
 
「その様な亜流の力に、我が一族一万年の歴史を重ねて完成させたパーテクトが負けるはずが無い!!!」
 
 
 ランタが再びダークボムを発動する。
 だが、ミネルバの防御フィールド内部にはダークボムの魔力は進入できない。ランタが焦り試行を繰り返すが上手く行かない。
 ミネルバの口が開く。
 
 
「その魔法はパーテクトのフィールドに極小の穴を開けて、そこから魔力を供給することで、あたかも外部に自由に魔力を行使できるように見せかけているだけのもの。確かにそのコントロールは元祖と認めますわ。でも、我が一族が昔のままだと思ったら大間違いです。」
 
 
 そう言うと彼女は魔力を集中する。
 すると、フィールドから無数の突起が発生し、それはやがてポコポコと空中へ飛び出すように浮き上がる。そして、ミネルバが意識を集中すると、ハイド達目掛けて突進を開始した。
 
 
「!?」
 
 
 ハイドがフィールドへの魔力を強化する。
 だが、それは彼にも信じられない事だった。
 ミネルバの魔法はフィールドを難なく貫通し、ハイド達へ直撃したのだ。
 彼らが直撃を受けて背後の壁面へ突き飛ばされる。
 
 
「ぐあぁああ!!」
「きゃぁ!」
「ぐっ!!」
 
 
 直撃を受け壁に激突した彼らは、そのまま倒れ込んだ。
 
 
「あ、…えーと、…み、ミネルバさん?」
 
 
 今までの戦いと一回りも二回りも違うミネルバの戦いに驚くクロノ。シズクも唖然といった表情だ。確実にいえる事は、この戦いはどうやら彼女の勝利だ。
 ミネルバは魔法を解くと、ゆっくりハイド達に近づいた。
 彼女が近づいてくるのを見て、ハイドが必死に立ち上がろうとする。
 
 
「ま、まだ、勝負は終って、いません!」
 
 
 彼の言葉とは裏腹に身体は言うことを聞いてくれないようだ。彼の身体はよろめき、前方に向かって倒れそうになるのを必死にこらえて踏み出して支えようと踏ん張るが、それすらも間に合わぬようによろめく傾きの方が彼の身体の自由を奪っていた。
 ミネルバは倒れ込む彼を支える。
 
 
「…立派でした。でも、私の方が今回は上でしたね。」
 
 
 彼女の言葉に彼の目前の視界が真っ白になった。
 気を失ったようだった。
 
 
「………鬼だ。」 
 
 
 それを見ていた周囲の者達の誰もが、心の中でそう呟いていた。
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【122】CPss2第37話「合格」(3月14日号)
 REDCOW  - 08/4/12(土) 11:30 -
  
第121話「合格」(Cpss2第37話)3月14日号
 
 
 気を失ったハイド達に、ミネルバは静かに魔力を集中すると、彼らを癒しの光で包む。彼女のオーラが彼らの傷を癒した。ハイド達はオーラの癒しの力によって意識を取り戻した。
 ミネルバが手を差し出す。
 ハイドはその手を素直に握る。
 彼女は微笑むと、彼が立ち上がるのを助けた。
 
 
「…まさか、こんな結果は予想外でした。勿論、力の差は理解してましたが、この様な負け方は…。でも、勝負は勝負です。結果を受け入れましょう。」
 
 
 そう言うと、彼はポケットからプレートをとり出して、彼女に手渡した。
 
 
「ありがとう。ハイドさん。」
 
 
 彼女は礼を言い受け取ると、背後のシズクの方を振り向いてプレートを差し出した。
 シズクは彼女から受け取ると、ポケットから自分達のプレートを出した。すると、ハイド達のプレートから呪印が飛び出し、光を放って宙を舞いながら融合し、冥の呪印となってクロノ達のプレートに収まった。
 遂に、全ての呪印が揃ったのだ。
 
 
「これで、全て揃ったな。」
 
 
 クロノが二人を見て言った。
 シズクはプレートをポケットにしまうと、ハイド達の方を見た。
 
 彼らは自分達の魔力で傷を癒し、立って埃を払っていた。
 
 
「ねぇ、そもそもあなたは始めからこの仕組みを知っていたの?」
 
 
 シズクの質問に、ハイドが振り向いて言った。
 
 
「いえ、ただ、呪印の様な一定の属性を強く持った物質はそんなにあるものじゃない。たぶん、これは太陽石と同等の素材で出来ていて、その魔力吸収効果を利用して属性を与えているんじゃないかと考えたんです。その可能性が確信に変わったのは、4つの呪印が冥の呪印に融合した時だった。」
「それって、反属性同士が融合して冥が出来た…つまり、冥の均衡が起こっていたからよね。」
「はい。太陽石は元々は暗黒物質。自然界では太陽エネルギーを吸収する性質がありますが、素材自体は冥属性の均衡下にあるんです。つまり、冥の均衡は本来は異常ですから、必ず何かに結びつこうとする。その性質は何も太陽に限らない。人の持つ魔力もまた、その影響範囲にあるんです。」
「…確かに言われてみれば、魔力吸収する性質を持つ物質は多くないものね。」
「その通りです。」
 
 
 シズクは彼の洞察力に素直に感心していた。 
 二人の話はクロノからすればさっぱりだが、簡単に言えば、暗黒石は太陽の光を吸収することで太陽石になるが、その吸収前の暗黒石は元々太陽光に限らずエネルギーを吸収しようとする性質が有り、その性質を利用して呪印は作られているため、全ての呪印は吸収したエネルギーの属性に変化するというものだった。
 クロノがハイド達のもとに歩み寄り手を差し出した。
 ハイドは他の勝利者とは違い、堂々と握手を求めるクロノに笑顔で手を差し出した。
 二人の手がしっかりと握られる。
 
 
「君達の分まで頑張るぜ!」
「はい、あなたがたの戦いを見守っています。必ず勝って下さい。」
「あぁ。」
 
 
 クロノは力強く頷いた。
 二人は手を離すと、クロノは軽く手を挙げてチームメイトの元に戻った。
 そして、程なくしてクロノ達はハイド達のもとを去った。
 
 遂に揃った呪印を持ち、3人は入り口へ向けて歩き出す。
 この洞窟は相変わらず真っ暗闇だが、今は始めと違って洞窟の印象は明るい空間に変わっていた。それはこの洞窟で獲得した魔力を感じ取る力が、この暗闇に姿は見えなくとも沢山の人の輝きがあり、1人ではない確かな実感があるからだ。
 
 
「…この洞窟は、面白い空間だな。」
 
 
 クロノの唐突な言葉に、シズクが尋ねる。
 
 
「面白い?…まぁ、そうね。でも、どうして?」
「いや、最初は面倒だなって思ってたんだけどさ、俺はこの洞窟で始めて魔力ってものを知った様に感じる。今までは魔力は単なる不思議な力程度にしか考えていなかった。でもさ、ここでは魔力が目になり、手になり、足にもなることを知った。」
「そうですね。魔力はただの力ではありません。人の心が生み出す心の鏡でもあります。一説には、魔力にはもう1人の自分が隠れているとも言われています。」
「へぇ。」
 
 
 ミネルバの話に、クロノはバンダーのヘルファイアを思い出していた。
 あれほど強力な意思を持った魔法の化身とでも言うべきだろうか…そうした力すら生み出すことができる魔法。まだまだ自分には分からない事が沢山眠っているのだと、この試験を通してクロノは感じた。
 
 
「あ、見えたわ!」
 
 
 シズクが歓喜の声を上げる。
 遂に彼らの試験の終わりを告げる光が輝いているのが見える。
 3人は足取りも軽やかに、一歩一歩近づいた。
 そして、入り口へ辿り着いた。
 そこには審判のカナッツが中央で待機していた。彼女も既に分かっていたのだろうか。先にゴールしていたチームが両サイドでクロノ達が進むのを見ていた。
 3人はカナッツの前で止まると、シズクが全ての呪印がはめられたプレートをとり出して、カナッツへ手渡した。
 彼女は笑顔で高らかに宣言する。
 
 
「おめでとうございます!ポチョチーム、第二次試験合格を認めます。」
 
 
 その後はカナッツの正式な試験終了の放送が洞窟内部に響き渡り、全てのチームが入り口に帰還した。帰ってきたチームは早々に会場を去って行く。残ったのは合格した3チームのメンバーとカナッツ達審判団の姿だった。
 
 
「はい、まずは改めて皆さんの第二次試験合格をお祝い申し上げます。さて、ではこれから第三次試験についてご説明させて頂きます。
 第三次試験は総当たり戦となります。三チームそれぞれが一試合ずつして勝敗を決し、一番勝利数の多いチームが三次試験のトップ合格と致します。つまり、この試験を受ける皆さんには既にこの試練の洞窟での合格は確定しています。ただし、この試験を棄権すると合格は取り消しになりますのでご注意下さい。
 試合につきましては、明日正午開催とさせて頂きます。それまでの間は審判団の割り振りますお部屋にてお休み下さい。ただ、お部屋からの外出は禁止とさせて頂きます。何か必要なものがございましたらルームサービスでご用意させて頂きます。勿論、こちらの費用は全て試験運営本部でのご負担とさせて頂きますので、心置きなくご利用下さい。
 では、お休みに入る前に、明日の試合の取り組みを発表させて頂きます。
 
 第一試合、チームポチョ対チームメーガスかしまし娘。
 第二試合、チームグリフィス対チームポチョ
 第三試合、チームメーガスかしまし娘。対チームグリフィス
 
 以上の様な形で進行いたします。試合開始10分前に皆様を試験会場にご案内致しますので、それまでごゆっくりおくつろぎ下さい。」
 
 
 カナッツの説明後、三チームはそれぞれの部屋に案内された。
 クロノ達はカナッツの誘導のもと、試験会場の洞窟から上の階へ行くエレベーターに乗り、階数にして30階の高さにある部屋に案内された。
 その部屋はかなり広く、チームメンバーそれぞれの寝室とリビングやダイニングといった一通りの部屋の揃った展望部屋で、部屋の窓から見える景色は夕暮れの日の光に照らされた深い森の中に、壮大な規模の白が印象的な美しい闘技場の姿があった。
 これが明日の試合会場に違いない。
 
 
「では、何かございましたら、このドア横の電話にて承っております。明日の試合までごゆっくり疲れを癒して下さい。」
 
 
 カナッツはそう告げて部屋を出て行った。
 三人は唐突な案内でこの部屋にきて何をしていいのかさっぱりだったので、リビングのソファーに深々と身体を沈めた。 
 
 
「はぁ〜、さっきのカナッツの話だと、一応これで試験はクリアみたいだな。」
「えぇ。これでボッシュさんに会うための条件はクリアよね。」
 
 
 クロノとシズクは自分達の果たすべき条件はクリアした事を知って、半ば緊張の糸が切れていた。とはいえ、三次試験の総当たり戦の相手はどれも強豪。一難去ってまた一難という感も拭えない。
 
 
「あのぉ、ミネルバさん、さっきのハイド達との戦いで出した防御フィールドって、パーテクトなんですか?」
 
 
 シズクが不意に尋ねる。
 ミネルバは困った様な表情で答える。
 
 
「えーと、そうですねぇ、近いものではあります。」
「さっきもそういう話でしたよね。元は同じものでしたっけ?」
「えぇ。正式な名前は『三色昼寝つき絶対防御』と祖父は話していましたが、父が更に改良を加えて攻撃特性を付けたことから、父はこの魔法をマイティガードと改めて呼んでいます。」
「へー。でも、これって誰もが使える魔法なの?例えば、私でも…とか?」
「いえ、この魔法が使えるのは知り得る限り私の一族以外にはいません。」
「そうなんだぁ。じゃぁ、パーテクトと条件は一緒なんですね。」
「そうですね。」
 
 
 二人の遣り取りを聴いていたクロノだが、不意に腹の虫が鳴った。
 
 
「腹減った、何か頼もうぜ?」
「賛成!」
「ふふふ。」
 
 
 シズクも彼に同意し、そんな二人を見て微笑むミネルバ。
 三人は明日の試合に備えてゆっくりと夕暮れ時の幻想的景色を楽しんだ。
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【123】CPss2第38話「第3次試験開催(前編)」(...
 REDCOW  - 08/5/2(金) 16:12 -
  
第122話「第3次試験開催」(CPss2第38話)
 
 
 パンパン!パン!パパン!パンパン!
 
 
 闘技場の上空に開催の合図が打ち上げられる。
 白き壮麗なる競技場は日の光に照らされてキラキラと輝きを纏い、その威容は見るものを圧倒する。その姿は近くに見ることでより一層強く感じられる。
 正午の太陽の輝きに照らされる闘技場までの通路脇に見える庭園は、ボッシュの街で見た国立研究院の敷地の木々同様に独特のデザインで綺麗に整えられた樹木が植えられている。
 クロノ達は美しい庭に和みながら通路を進んでいた。
 およそ緊張感とは真逆にありそうな3人だが、カナッツに案内されて進む闘技場への道すがら、彼女から不意に話があった。
 
 
「…みなさん、いいですか?」
 
 
 彼女の声は静かでいつものように冷静だった。
 彼女の問い掛けにクロノが答える。
 
 
「なんだ?」
 
 
 彼女は振り向く事も無く、歩きながら言った。
 
 
「次の試験では大統領閣下もお見えになります。また、国営放送MBSでも配信される大切な試合となります。つまり、この試合は国民の皆様の目に触れることをご了承下さい。」
「………え?………シズク、どういうことだ???」
 
 
 カナッツの話にいまいち理解出来ない彼はシズクに尋ねた。
 その尋ねられた方は、見るとそれは湯気が出てきそうなほど真っ赤な様子だった。
 
 
「ど、どういうことですって?それはねぇ、私達の姿が全国の皆さんに届けられますよ!ってことよ。おわかり???」
「…そうか。そんなに沢山の人が見るのかぁ。格好良くしなきゃな?」
 
 
 クロノは彼女の説明に困るどころか、全く動じていない様子だった。
 シズクがそんな彼の反応に腹が立ちつつも、カナッツに尋ねた。
 
 
「あぁーもう!!…ねぇ、それってもし『不測の事態』が起きた場合は、どうなるわけ?」
 
 
 カナッツはシズクの問い掛けに少し間を置くと、答えた。
 
 
「生放送ですから、そのまま流れるでしょうね。」
「…そう。」
 
 
 カナッツの言葉にシズクはぞっとするものを感じた。
 そして、その不測の事態が起こる可能性が高いであろうこの試合で、メディーナはあえて生放送中継をするというのだ。この国の政府が何を考えているのかは定かではないが、相当な動揺が国内に起こる可能性は否定出来ない。
 そうまでしてメディーナ政府がこの試合を「演出」する意味は何処にあるのだろうか。どちらにしても、メディーナ政府も相当の自信を持って挑んでいるのだろう。そうでなければ、単なる無能といわざるを得ない。
 だが、彼女は不意に疑問も感じた。
 この件でメディーナ国民であるミネルバの反応はといえば、驚くでもなく冷静だった。彼女の落ち着き振りはもはや珍しい事ではないが、彼女からすれば普通の事なのだろうか。
 
 闘技場のゲートをくぐると、長く暗いまっすぐな通路が続いていた。正面には日の光を浴びて白く輝く階段があり、どことなく雰囲気は試練の洞窟に似ている。
 カナッツを先頭に歩く3人は、次第に高くなる闘技場から漏れ入る騒めきの音に鼓動が高鳴るのを感じた。
 階段手前でカナッツが止まった。
 
 
「ここまでで私の案内は終ります。皆さんの御健闘をお祈りします。」
 
 
 そう言うと彼女は手を前へ向けて促した。
 3人は互いに頷き確認すると、クロノを先頭に階段を上った。
 光が視界に溢れる。
 
 
「チーム、ポチョの登場です!!!」
 
 
 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
 
 
 マイクで大きな声でチーム名が呼び上げられ登場が伝えられると、一斉に会場の観客達が声援を送る。白く艶やかに輝く丸い闘技場は日の光を浴びてキラキラと輝き、前方に見えるその舞台まで階段からの通路は続いていた。
 たぶん、このまま進むべきなのだろう。
 舞台には既にメーガスかしまし娘。チームやグリフィスチームが上がっていた。
 クロノは躊躇う事無く舞台へ上がった。
 
 
「全国の皆様、今期は3チームが揃いました修了生達です。
 試練の洞窟修了生闘技会は今期で通算57回目となりました。
 最初の第1回開催は20年前となる紀元13005年(王国歴1005年)からとなりますが、その後5年ごとに見直し、第一回時期は年1回の開催でした本試験も、その5年後には年2回、そのまた5年後には現在同様の年4回の季節開催となりました。
 今期の開催につきまして、共和国第6代大統領、ビネガー9世・ワイナード・ワイナリン閣下より開催宣言をお伝えします。」
 
 
 放送が終ると、闘技場に溢れていた歓声が静まり、観衆の耳目が一点に集中するのがわかる。その視線の先には舞台より上方に作られた美しい彫刻が施された観戦展望台より立ち上がり、観衆へ向けて手を振って笑顔で応える大統領の姿があった。
 クロノはビネガー9世大統領と聞いて昔のビネガーの姿を思い出していたが、実際に目前に見える人物は殆ど人間と変わらない顔をしていた。
 大統領がマイクの前に立ち胸に手を当てて敬礼をすると、観衆が一斉に同様の姿勢をした。よく見ると他のチームメンバーもそうしていたので、クロノも彼らに倣った。
 
 
「…国民の皆様、そして、世界中より本試験を楽しみに来て下さいましたお客様へ、私、ビネガーより心よりの感謝を申し上げます。
 本試験は共和国の発展において多くの人材を育て、供給する重要な役割を果たしてきました。我々に力の正しい扱い方を示し、文明社会の一員として担う役割をお示し下さいました国父ボッシュ博士が、本来であればこのご挨拶をされているわけですが、今大会へはご多忙ということもあり、私が僭越ながら代わりを務めさせて頂きます。
 人の王国が消えて20年あまり、世界は大きく変わりました。この20年は人類史を紐解いても比類なき激動の20年と呼べるでしょう。この僅かな時間、人と我々の間の関係もまた大きく変わりました。
 今や、我が国は勿論、遠く大陸における人と魔を持つ人々の違いは、時を経るごとに少なくなりつつあります。そして、人もまた我らの持つ魔の力に目覚め、その力を文明の力として活かし、我らとの良好な関係を望むような時代になりました。
 魔の力はいにしえの頃は悪しきものとして恐れられましたが、今では人の生活に欠かせぬ繁栄のための重要なファクターです。それ故に、本試験の重要度は年々増加しており、本試験修了生には多大なる期待を持って、我々の社会の一員としてがんばって頂きたいと思います。
 既に修了生の皆様には、本試験の合格が伝えられているものと思います。この闘技場での闘技は、それらの成果を披露する舞台です。存分に戦って、私達にその成果を見せて下さい。では、最後に、辛く困難な試験を合格された勇敢なる若者達。私は君達に輝かしい未来を築いてもらいたい。」
 
 
 大統領が深々と礼をした。
 それに向けて舞台にいる者たちは敬礼で答えた。
 大勢の歓声と拍手が一斉に湧き上がる。
 
 セレモニーはその後試合内容のアナウンスが有り、第一試合の開始が宣言された。
 舞台にはクロノ達チームポチョとメーガスかしまし娘。が上がった。
 
 
「はい、開始して下さい!」
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【124】CPss2第38話「第3次試験開催(後編)」(...
 REDCOW  - 08/5/2(金) 16:13 -
  
第122話「第3次試験開催」(CPss2第38話)
 
 
 第三次試験が始まった。
 
 
 試験は円形の舞台から落ちたり、ギブアップを宣言すれば終了する。ただし、戦闘で相手を殺害することは許されておらず、死亡に至らしめた場合は反則として負けとなる。また、舞台に上がってから何もせずに時間を稼ぐ行為も反則で警告され、その警告を3回受けると反則負けとなる。戦闘方法は3人で自由に連携して攻撃出来るので、チームワークを駆使して如何に相手を舞台から落とすまたはギブアップさせるかで勝利が決まる。
 メーガスかしまし娘。は試合開始早々にお得意のリフレクトフィールドを形成した。彼女達は持久戦に持ち込む気らしく、攻撃してくる様子は無い。…冷静に彼らは彼らで魔力差を計算したのだろう。まともに戦えば確実に攻撃力で劣る彼女達は、完全に防ぐ事で戦い抜く気らしい。
 
 
「…彼女達、見たところ魔力はそんなに多くないと思うから、力押しで叩けるとは思うけど、それにはあのフィールドを超える魔力供給を続けるってことだから、超えるまでは反射で私達がダメージ負う計算よ。持久戦と考えると面倒な相手ね。」
 
 
 シズクの分析は正しいのだろう。あのフィールドを超える魔力供給はそう簡単に出来るものではない。ヒカルのシャイニングですら跳ね返したフィールドだ。そう簡単には行かないだろう。特に、以前の彼女達は不必要な魔力供給はセーブしている様に見えた。たぶんあの時、クロノの魔力供給が仮に無くとも、彼女達は自力で十分にシャイニングを防ぐ事は出来たに違いない。
 クロノは突然構えると魔力を集中し始めた。次第に彼を中心に魔力が集中し身体が浮き上がり、その彼の足元には青白い輝きを放って魔法陣が形成され始めた。
 
 
「ちょ、クロノ!?あんた、私の話聞いてたの!!?」
「試す価値はある。」
「え!?」
「(シャイニング)」
 
 
 彼を中心に莫大な魔力が吹き出すと、それが一斉にメーガスかしまし娘。に向かって襲いかかる。その出力はヒカルを遥かに上回り、闘技場全体に青い光の柱が立つほどだった。
 だが、その魔力の流れは急速に反転を始める。
 
 
「(さすがにきついわね。)これでお仕舞な私達じゃないわけ。」
 
 
 強力な魔力の流れは、まるでアミラがシャイニングを放っているかのように彼女を中心に魔力の流れが集約すると、一気に反転を始めたのだ。
 
 
「いや、マジ!?ちょ、クロノ、あんた、あんなのどうすんのよ!!!もう!」
 
 
 シズクが慌てて天のバリアフィールドを形成して吸収を狙うが、その許容量を遥かに超えたシャイニングの魔力流には焼け石に水だった。クロノもあまり慣れていないフィールド形成を試みるが、失敗に終わり、手を前に構えて防御姿勢をとった。
 しかし、覚悟していた痛みは一向に起こらない。
 
 
「大丈夫ですよ、お二人とも。」
 
 
 ミネルバがマイティガードを発動していた。
 シャイニングの反転流は全てマイティガードが受け止めて無傷で済んでいた。
 
 
「ふぇ〜、助かったぁ。」
「ちょ、なんであんたが安心してるのよ。元はと言えば私の話をきかないあんたの責任でしょう!!」
「まぁまぁ、助かったし良いじゃないか?」
「それは、私が言うセリフでしょう…。はぁ。しかし、シャイニングも駄目な奴を、どう戦う訳?」
「…私がやってみましょう。」
 
 
 そう言うと、ミネルバがフィールドを操作して以前のようにボコボコと球体を宙に浮かせ始めた。ふよふよと浮かび上がった球体は、突如鋭利に突出してメーガスかしまし娘。へ向かって刃を向けた。だが、その刃もフィールドに触れる直前で勢いが止まると、ジリジリと後退を始めて、結局全ての突起は元の球体に戻り、ボコボコと吹っ飛ばされたかの様にポンポンとマイティガードフィールドに戻ってしまった。
 
 
「お宅らの技はそんなものなわけ?…もうちょっと楽しませて貰えるかと思ったけど、この程度なら恐るるに足らずなわけ。」
 
 
 アミラが憎まれ口を叩く。
 しかし、彼女の言う通り、手詰まり感は否めない。このまま何もしなくても時間切れで反則を取られ、戦っても跳ね返されてしまう。何か無いか。
 その時クロノはふと思いついた。
 先ほどシズクが放ったトラップフィールド。あの時はシャイニングの前に焼け石に水だったが、もし、シャイニングじゃなかったら違う結果が出たのではないか。だが、そんな小さな攻撃ではフィールドには傷すら付けられない。しかし、反射によるダメージを吸収出来れば、向こう側の魔力の限界まで戦い抜く事は出来る。
 それでも、1人で器用に魔法を放ちながらフィールドを形成し続けるのは厳しい。同じ出力で常にフィールドを形成させながら攻撃する他に無いが、そんなことが可能なのだろうか。
 
 
「シズク、俺の出力に合わせてトラップフィールドを造れるか?その、完璧にシンクロさせるんだ。」
「………!、OK。良いわ。そういう事なら私がフィールドは引き受けた!」
「おし!なら、ミネルバさんはバックアップ!俺とシズクで攻撃するぜ!行くぜ!」
「はいな!」
 
 
 二人が目を閉じて魔力を集中し始める。
 魔力の上昇をシンクロさせるために、クロノがシズクの肩に手を触れた。すると、シズクにクロノの魔力が流れ始めるのと同時に、クロノにシズクの魔力が流れはじめる。
 二人は試練の洞窟を思い浮かべていた。お互いの魔力を感じながら、互いの力を近づける。試練を超えた二人には難しい事ではなかった。
 二人は同時に目を開くと、同時に構えた。
 
「は!」
 
 掛け声も重なるほどシンクロした二人は、同時に魔法を放った。
 シズクのトラップフィールドが形成されるのと時を同じくしてクロノのサンダーがメーガスかしまし娘を狙う。サンダーは当然のように跳ね返されて来るが、そこはシズクのフィールドが完全に吸収した。
 それを確認すると互いを見て頷き、ニヤリと笑みを浮かべた。
 二人は再び魔法を放った。だが、今度は一発ではない。連続で何発も同時に放ち始めた。しかし、その出力では案の定全く向こうには効いていないことも見て取れた。だが、二人は止めるでも無く、延々と魔法を放ち続けた。
 
 
「(あ〜、もぅ、セコイ攻撃で鬱陶しいったら何なわけ?シャイニングの連発ならともかく、こんなサンダーごときに負けるあたしじゃないわけ。ったく、こんなモノに貴重な魔力を使わせないでほしいわけ。…貴重な魔力、………しまった!向こうの狙いはそれ!?でも、まって、今の今まで気にしていなかったけど、これって本当にサンダー!?…ダメージがあたらないから分からなかったけど、この出力は既にサンダガを超えているわけ…。)…やってくれるじゃない。マルタ、リーパ、ちょっと場が天に流れ過ぎなわけ。OK?」
「はい、お姉様。」
「はい、お姉様。」
 
 
 二人の妹達が魔力を集中し始める。
 すると、リフレクトフィールドが黄金に輝き始め、なんと、クロノの放つサンダーを吸収し始めた。
 
 
「なんだ!?」
「随分舐めた真似してくれたわけ。あたし達も馬鹿じゃないこと忘れてるわけ?」
「忘れていません。この時を待っていました。」
 
 
 そう言ってミネルバがマイティガードを発動させると、彼女はフィールドを形成するのではなく、そのまま大きな魔力を込めた刃として、一瞬でリフレクトフィールドを貫通した。
 リフレクトフィールドがまるでガラスが破裂するかのように、キラキラと輝く破片をまき散らして崩壊する。その事態にクロノ達は勿論、アミラもまた呆然とその場に立ち尽くした。
 
 
「…私達のフィールドが……負けなわけ。」
「はい、お姉様。」
「はい、お姉様。」
 
 
 二人の妹達の悪気の無い返事が、アミラの心に深く突き刺さった。
 
 
「試合終了!メーガスかしまし娘。チームの敗北宣言により、ポチョチームの勝利です!!」
 
 
 会場が大きな歓声をあげた。
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【135】CPss2第39話「誤算(前編)」(3月28日号分)
 REDCOW  - 08/6/2(月) 20:35 -
  
第123回「誤算(前編)」(CPss2第39話)
 
 
 ミネルバの活躍で呆気なくも突然に試合は終了してしまった。これには仲間であるクロノ達も驚かざるを得なかった。
 会場はしばしの休憩時間となり、第二試合の予告が行われている。
 
 
「ミネルバさん、今のは…?」
「彼女達のフィールドは冥による完全無属性反射フィールドを形成していました。しかし、先ほどの黄金の輝きは無属性反射フィールドから天の吸収フィールドに変化したのです。私のマイティガードであれば、無属性反射フィールド同士の衝突では無力でしたが、属性のあるフィールドに対しては貫通できます。」
「…凄い。でも、そうか、俺達が魔力をシンクロして調整した様に、相手の魔力も慎重に探ればわかる。こりゃ、ミネルバさんがいなけりゃ勝てないや。ははは。」
 
 
 クロノは思わず笑った。
 自分自身としては、アミラが察知した通りに力押しで魔力出力限界まで持って行くつもりだったが、彼女が属性変異させることまでは頭に無かった。それに対して冷静にミネルバは相手の動向を見て、的確にまさにバックアップしてくれた。
 だが、その時、ミネルバが目前でよろめいた。
 クロノは慌てて彼女の身体を支えた。
 
 
「おい、大丈夫か!?」
「ミネルバさん!?」
「…大丈夫です。ただ、少々魔力を使い過ぎたようです。」
「マイティガードか。」
「えぇ。…でも、試験も後僅か。…戦い抜きます。」
「…無理するなよ。俺達もいる。」
「はい。有り難う。」
 
 
 彼女は相当堪えている様に伺えた。
 あのマイティーガードは全属性の斥力フィールドを形成するだけに、想像以上に彼女から魔力を奪うのだろう。彼女自身は頑張ると言ってはいるが、実際にこれ以上の負担を彼女に強いるのは無理だろう。…とはいえ、次の試合はあのグリフィスとなる。そう負担をかけずに済むような話には終らないだろう。
 クロノは改めて気を引き締めた。
 
 休憩の選手控室のソファで休憩する3人。
 ウェイターの持ってきたドリンクを飲みながら休んでいると、先ほど戦ったメーガスかしまし娘。チームの面々が彼らの前に現れた。
 
 
「はぁい、チームポチョ。」
「おぅ、君らの分も戦うぜ。」
「ちょ、何言ってくれるわけ!!…もう、腹の立つのも忘れるわけ。調子狂うったら。おたくら、特にそこの緑女の魔法!あれは何なわけ!?」
 
 
 アミラの質問に、ミネルバは答えようとしない。
 
 
「…あら、回答拒否なわけ。まぁ良いわけ。あたしらは忠告に来たわけ。次の相手、あいつらやばいわけ。洞窟であいつらの戦いを観たけど、とんでもないわけ。あんな化け物、どうやって戦えば勝てるわけ。特にあの女、ガーネットと言ったかしら…あいつの先天属性は火みたいだけど、そんなことお構いなしに何でも使いこなしていたわけ。普通じゃないわけ。百歩譲って認めてやっても、あの魔力は尋常じゃないわけ。」
 
 
 彼女の忠告はクロノ達もハイドと彼らの戦闘を見て感じていた。彼女のあの絶対的な余裕は、それ相応の力のある現れ。彼らに弱点らしい弱点は無いだろう。今までの相手は何らかの弱点があり戦術次第で対応出来たが、次の相手は正攻法で戦う他無い。まさに力のぶつかり合いになるだろう。
 
 
「忠告有り難う。ところで、君達はグリフィスについて、他に何か無いのか?」
 
 
 クロノの問い掛けに、アミラは人さし指をあごにあてて考えるように答えた。
 
 
「他に何かって何なわけ?…まぁ、強いて挙げるなら、あたしの嫌いなタイプってとこかしら。ああいう女は大っ嫌いなわけ。いかにもあたし綺麗でしょ?秀才で何でもおできになりますわよ〜なタカビーな所とか、超ムカツクわけ。じゃ、精々頑張るわけ。さらばいば〜い。」
「さらばいば〜い。」
「さらばいば〜い。」
 
 
 3人がお決まり(?)の別れの言葉を口にして控室を去っていく。
 アミラの答えに、三人は思わず苦笑を禁じえなかった。
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【136】CPss2第39話「誤算(後編)」(3月28日号分)
 REDCOW  - 08/6/2(月) 20:36 -
  
第123回「誤算(後編)」(CPss2第39話)
 
 
 騒めく闘技場。
 人々の声が暗い通路の中で反響して伝わってくる。
 
 
「チーム、ポチョの登場です!」
 
 
 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
 
 
 大観衆の声援を受けて、クロノ達が闘技場に入場する。2度目ともなると最初の緊張はもはや感じる事も無かったが、3人は違う方向で緊張感を感じていた。
 次の試合の相手は、今までの相手とはまるで桁が違う相手だ。あのハイドのパーテクトを素手で破壊して見せたのだから、少なくともガーネットと呼ばれる女の力は侮れない。
 アナウンスが場内に木霊する。
 
 
「チーム、グリフィスの登場です!」
 
 
 クロノ達が闘技場に上がる頃、相手チーム名がアナウンスされる。
 3人の向かい側の入り口から出て来るグリフィスチームのメンバー達は、相変わらずガーネットを先頭に二人の大男が後を歩くというスタイルのままだった。
 ガーネットは闘技場に入ると観衆に向って投げキッスを放つ。その行為に観衆の声がより大きくなった様に感じられた。
 
 
「…何あれ。感じ悪い。」
 
 
 シズクがぶっきらぼうに言った。
 クロノは何も感じなかったが、同性にはあまり受けの良くない行為だったのだろうか。
 そんなシズクの反応などを気に留める事も無く、彼女は威風堂々とでも言うべきだろうか、クロノ達3人の前に余裕の表情で現れた。
 
 
「…お手柔らかに。」
 
 
 彼女は微笑みを浮かべて挨拶を述べると、手を差し出した。
 クロノがそれに応じる。
 
 
「こちらこそ。」
 
 
 二人が握手を交わす。
 その時、彼女の視線がクロノの目を捉えた様に感じられたが、それは一瞬で、すぐににっこりと微笑むと手を離した。
 
 
「君達は、何の為にこの試験に臨んでいるんだ?」
 
 
 クロノが単刀直入に質問した。
 彼の質問に、彼女は悪びれるでも無く微笑みを讚えて答えた。
 
 
「そんなこと決まってるわ。楽しいからよ。」
 
 
 彼女の回答は何とも普通過ぎて、どう考えて良いか分からなかった。クロノ自身、正直な気持ちで言えばこの試験を楽しんでいた。
 好き嫌いで言えば、強い奴と戦えることや難しい事にチャレンジすることは苦しくも有るが楽しく好きだった。特に、それら困難を超えられた時の達成感はやめられない。
 根っからの体育系の彼からすれば、うじうじ悩んでいるよりは突き進んでぶっ壊すくらい単純明快な方が、気持ちが良いしスッキリすると言えた。彼女の反応はクロノからすれば正直共感出来なくはないものだっただけに、余計に判断に躊躇った。
 だが…、
 
 
「…そう、祭りは派手な方が大好きだから。」
 
 
 彼女はそう続けると、不意に視線を変えた。そして、投げキッスを贈った。
 その相手はVIP席で観戦する大統領へ向けたものだった。
 
 大統領がそんな彼女の行動に笑顔で手を振った。
 しかし、次の瞬間、VIP観覧席が爆発した。
 
 
 ドォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーン!!!
 
 
 爆風と悲鳴が飛び交う。
 騒然とした場内が煙が引けるに従い、沈黙する。
 煙の向こう深手を負いつつもフィールドを張って防いでいる大統領の姿があった。しかし、その力も限界と見え、フィールドが消失しかけている。
 
 
「お父様!?」
 
 
 ミネルバが叫ぶ。彼女は急いで走り、観覧席で必至にフィールドに集中し立っている大統領の元へ飛んだ。
 
 
「親思いねぇ。でも…」
 
 
 突然の出来事に、皆何が起こったのか困惑していると、ガーネットの背後に立つ二人の男が突如体中がゴムのように弾力を持ったかのごとくうごめき、なにやら巨大に変貌を始めた。
 その皮膚はみるみるうちに青くなり、ゴツゴツとした象の様な固い皮膚に変化してゆく。その顔は人間とは似ても似つかないものであり、遂にその変化が一定の形で定まった。
 そこに現れたのは巨大な二頭のヘケランだった。
 
 そして、ガーネットが桃色の宝石の玉を上空に投げた。するとその玉が粉々に爆発し、キラキラと舞い散る破片が降下しながら次第に人の形に整形され始めた。そして、
 
 
「…をーっほっほっほっほっほっほ。お久し振り………なのヨネ〜♪」
 
 
 そこに現れたのは、見まごう事はない。
 その妖艶な美貌の持ち主は、中世で見た魔王軍三魔騎士が1人…空魔士マヨネーの姿だった。
 彼女…もとい彼は、その美しき美貌を精一杯振りまくように手を広げ、高らかに観衆に言い放った。
 
 
「…あたしはマヨネー。400年の日月を経て、皆様にこの姿を披露するのよね〜!」
 
 
 観衆は突然の宣告になんとも反応しようがなかった。まずマヨネーという単語が出て来るまでに数秒の時間を要した。そして、目前に見える奇怪な美貌の持ち主を見て、歴史書に記されるマヨネー=男というイメージとはあまりにかけ離れた「女性」の登場に、どう理解すればいいのか…無理からぬ反応だった。
 しかし、そんな反応は織り込み済みとでも言うかのように、「彼」は観衆に向けて話しかけた。
 
 
「親愛なる全ての魔の力を持つ国民の皆様へ申し上げるわ!今やあたし達魔族の力、『魔力』が世界の最も高き頂に祭り上げられたことは、全ての世界の人類の知るところとなったわ。これはどういうことかしら?…あたし達が400年も昔に魔王様と共に戦った理想こそが、今の社会の姿を示したのよ?…人類は、あたし達の正当なる戦いを否定しておきながら、これはどういう了見なのよね〜?
 残念な事に、この国の政治は『魔族の共和国』でありながら、実際は人間達が裏で操る傀儡政権に成り下がっているのよね〜。あたしはおかしいと思うのよね。そうは思わない?…だって、この試験で上がってきた受験生は、人間達のメーカーで働くのよね〜?
 誤解無きように申し上げるわ!あたしはパレポリも許さない!でも、今のメディーナの体たらくはもっと許せないのよね〜!だから立ち上がったのね。…勿論、そう豪語するだけの力もあるのよね〜。」
 
 
 そういうと、彼女…もとい彼は右腕を天高く垂直に振り上げた。
 すると、すっくと闘技場の観客席で立ち上がる人々が現れた。
 
 
「あたしの忠実なる支持者の皆様なのよね〜。おや、あらら、よく見たら、国務大臣さんや財務大臣さんのお顔もあるわよね〜?うふふ、そうよねぇ〜?どうみたってあたしとビネガーじゃ、あたしの方が魅力的ですものね〜。」
「おだまりなさい!この痴れ者が。大統領閣下への狼藉では飽き足らず、我々国民が築き上げた国家への侮辱、断じて許すわけには参りません!」
 
 
 ミネルバが大統領の身体を支えながら、彼を代弁するようにマヨネーを断じた。それに対して彼は不敵な笑みを浮かべて言った。
 
 
「うふふ、そこの娘、おまえは国家を語るに足らんのよね。国民の皆様は最近の世論調査でも賢明な判断をされているのよね。代弁するならば…この国に必要なものは人間の顔色を窺う臆病主義ではない。もはや自らに革新する力を持たない人間に代わり、我々魔族の栄光の光を掲げられる強き指導者を欲している。そして、それはあたしをおいてこの国に正当なる魔の力を持った者が居て?…魔族は純血種が衰退し、人間との混血が進んだ結果「魔の力」を失いかけている。今が最後のチャンスなの。それは、おわかりよね?」
「お前の言葉は国を破滅に追い込む!平和は啀み合う事から生まれはしない!平和の無い所に…」
「おだまりなさい!!!全ては何を決めるかも国民が決めるべき事。私はこの腐った人間への中立という建前にNoを宣言する。それに賛同する者は、あたしと共に立ち上がるだけ。あたしを批判する前に、恥じるべきは己と知りなさい。」
 
 
 マヨネーの気迫がミネルバを圧倒的に凌駕した。
 ミネルバの反論を押さえ込んだその時、マヨネーに対して、闘技場の最上階に囲むように国防軍が銃口を向けて立ち並んだ。
 
 
「撃てー!!!」
 
 
 号令下、斉射される。
 しかし、マヨネーの周囲には緑色に輝くバリアフィールドが張り巡らされており、全ての攻撃は無力化されていた。彼は微笑すると、バリアフィールドに吸着させていた銃弾を全て出元へ返す様に弾いた。
 攻撃を受けて数人が防御体制をとれず貫通し倒れたが、多くの兵士は防ぎ切り突入を開始した。だが、そこに突入を妨害する者たちが現れた。なんと、それは先ほどの観衆の中でマヨネーの呼び掛けに応えた人々だった。彼らは魔法を使って兵士達に攻撃を仕掛ける。兵士達は無闇な攻撃は出来ず、場内は混乱し始めた。と、その時。
 
 
「おい、クロノ!観客は俺達が引き受ける!お前はあいつをなんとかしろ!!!」
 
 
 その声はヒカルの声だった。
 彼だけじゃない、腐れ縁チームのメンバーは勿論、フロノ・ノ・コリガー、乙子組、コアガードのメンバー達も闘技場の四方に現れてマヨネー側についた人々を押さえるのに参戦した。
 
 
「…ミネルバ、私は大丈夫だ。…お前も共に戦いなさい。」
「お父様!?」
「ここで火の粉を飛ばすわけにはいかん。」
「…わかりました。」
「大丈夫ですよ。お嬢さん。」
 
 そこに現れたのは、白いスーツを着た彼女もよく知る老紳士の姿だった。
 
 
「…アンダーソンさん!?」
「はっはっは。まぁ、彼の事は私に任せなさい。これでも、私もね…」
 
 
 彼は突然片手を上げ、掌を見せると、その中心に水晶を発生させた。
 
 
「!?…あなたは!?」
「人間で魔法が使えるのは…あそこの彼だけじゃないってことだよ。これがどういう意味かわかるね?…マヨネーの言った言葉もまた、この国の全てを表さないということだ。行きなさい。」
 
 
 彼はにっこりと微笑んで掌を握ると、魔力の集中を解いて歩み寄った。そして、古い友の肩を支えた。彼女は促されるまま彼に父を任せると、深々と頭を下げて闘技場のクロノのもとへ跳躍した。
 
 
「…フリッツ、完璧な誤算だった。…してやられたよ。」
「まぁ、そうでもないでしょ?…彼らもまた誤算が生じているさ。」
「…であれば良いが。」
「…信じよう。今は若い者達を。我々ができるのは、それを支えることさ。」
「…そうだな。老いたもんだ。」
「おおう、老いたさ。あんなに綺麗な娘さんに育つんだから。」
 
 
 二人は微笑み、娘を見送った。
 彼らの眼下ではクロノ達と合流し、力を合わせて対峙する姿が見えた。
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【144】CPss2第40話「彼方からの呼び声(前編)...
 REDCOW  - 08/7/20(日) 0:10 -
  
物凄く遅くなって申し訳有りません。
CPss2最終40話の登場です。 
 
第124話「彼方からの呼び声…前編」(CPss2第40話)
 
 
 周囲で沢山の争う声が聞こえる。
 大勢の兵隊と観衆の戦いという…一見すると歪んだ一方的な闘争になろうはずが、観衆もまた魔力を使える人々が多数いるこの国では、互角か場合によってはそれ以上の大差がつくこともあるだろう。
 そんな争いの真っ只中にいるクロノ達。彼の前方にはガーネットと2匹のヘケラン、そしてマヨネーがこちらを見ている。彼は刀に手を添えた。ガーネットが魔力を集中させ始める。
 
 クロノが動く。素早く抜刀し様に「かまいたち」を走らせると、右手を刀に当てサンダーを込め跳躍する。そこに間髪居れずシズクが彼のタイミングに合わせてサンダガを放った。クロノがガーネットに迫る手前で2匹のヘケランが前へ進み出て攻撃を受け止める。刀の斬撃はヘケランの固いながら弾力のある強固な皮膚によって弾かれ、その身体は魔法攻撃を帯電して吸収した。
 
 
「ウガァァァァアアアアア!!!!」
 
 
 ヘケラン達が胸を叩き咆哮すると、帯電していた稲妻を放電した。シズクが素早くトラップフィールドで電力を吸収し還元するが、その時ガーネットが微笑みを浮かべて魔法を放った。
 彼女の指先からビー玉程の小さな球状の炎が現れると、それは瞬時に大きくなり直径1m程の火球に成長し、その球から次々にサッカーボール程の大きさの球がクロノ達に襲いかかる。ファイアボールの襲撃にシズクが炎のバリアフィールドを張るが、出力がまるで追いついていない。こぼれた火球をクロノが一歩前へ出て刀で切り落とす。だが、そこに親玉である1mの大火球が迫る。想定外の大物の登場に慌てる彼の後方から、急速に冷気が迫るのを感じた。
 後ろを振り向くと、ミネルバを中心に青白い輝きを放つ魔法陣が形成され、そこからメキメキと氷の結晶が発生して、クロノ達を氷の結晶が覆った。
 火球が衝突する。
 熱と冷気の衝突に魔力の反作用が生じ大爆発が起こる。氷は粉々に砕け散り、火の粉が四方に飛んで蒸気が周囲を覆った。
 真っ白な靄に包まれた闘技場だが、この視界ゼロにも関わらず両者は攻撃の手を緩めなかった。ミネルバのフィールドが破壊された瞬間、前方からヘケラン達の咆哮が飛ぶ。その咆哮は低周波の振動波…天然のウーハーとなってクロノ達の身体に衝撃を伝える。
 全く防御体制がとれていない想定外の攻撃に3人はもろにダメージを負うが、クロノはその振動波のダメージにも関わらず切り込む。そこにシズクがファイアを、ミネルバがアイスを放った。
 ヘケランの一体が前に出て攻撃を受け止める。しかし、
 
 
 「グギャァアアっ!?!………」
 
 
 ドォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーン!!!
 
 
 ヘケランが両断された。その瞬間、熱と冷気の反作用による大爆発が切断面から発生して、彼は叫び終える事なく四散した。突然の相棒の惨状に驚く暇無く、彼の敵が既に目前に構えていた。
 
 
「へへ。反作用切りってとこか。」
「ぐえ!?ギャアアアアアアアア………」
 
 
 ドォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーン!!!
 
 
 爆風に乗りクロノは仲間達のもとに戻る。爆発で靄も晴れ、ようやくお互いの姿が確認出来るようになった。敵はヘケランの喪失にも関わらず余裕の表情で構えていた。
 ガーネットが口を開く。
 
 
「遊びはお仕舞ね。本番はこれから。」
 
 
 彼女は右手をそっと前に差し出した。すると彼女の掌から黒き薔薇の花びらが吹き出し、彼女の身体を覆いつくしたかと思った瞬間、薔薇が一斉に四散すると、そこには先ほどまでの服装とは違ったゴシック調の美しい衣装を纏ったガーネットが現れた。
 
 
「お初にお目にかかります。殿下。私はグラネテュス・バイパー。以前、私の妹がお世話になりました。」
「…殿下、殿下って、お前らみんな知ってやがるんだな。で、妹って誰だ?」
「…お忘れかしら。そう、あの子も不憫ね。…アメテュス…と言えば分かって下さるかしら?」
「…黒薔薇。」
「えぇ。」
 
 
 彼女はクロノの反応に微笑みを浮かべると、恭しく一礼した。
 クロノが問い掛ける。
 
 
「お前の目的は何だ。」
「…私の仕事はディア様のご命令に従うまで。この仕事の依頼主は、お隣の方ですわ。」
 
 
 クロノがマヨネーの方を見た。
 マヨネーはツンとした表情で言い放つ。 
 
 
「お黙り小娘!あたしの命令に従うのがあなたの仕事よね?おわかりよね?…ったく、あの男の部下はろくな奴がいないのよね。」
「…そう。では、私の仕事はこれまでの様ですわね。閣下は貴殿の計画が無事に成功するまでで良いと仰いました。既にあなたの計画通り、あなたの姿は全国にテレビ放送で配信され、地下に潜っていたあなた方の勢力も表に出られる算段がお付きでしょう。…くれぐれも閣下に感謝致しますように。…ごきげんよう。」
 
 
 彼女は別れの言葉を告げると、すーっと影のように実体が薄くなり消えてしまった。
 マヨネーが口をあんぐりして驚く。だが、それにも増して怒りが込み上げて叫んだ。
 
 
「キィーーーーーーーーー!!!!もう、あんな女どうでもいいよね!それより、クロノ!あんたは逃がさないのよね。」
「…お前がどうやってこの時代に生きているかは知らねぇ。だが、俺の前に立ちはだかる奴は斬る。」
「…短期は損気なのよね。あたしが無策でこの場にいると思ったら大間違いなのよね。昔のあたしは力に溺れていたわ。でも、今は違う。あたしは変わったのよね。この煌めくボディ、美しくしなやかな力。…どんなに真似しようとも人間には真似の出来ない、ティエンレンのみに為しえる長命が実現した力よ。」
「ティエンレン…?」
「…魔族の中でも最も魔力が強い種族をティエンレンと言います。彼らは総じて長命種が多いとされています。」
 
 
 ミネルバがクロノの疑問に答える。
 クロノはふと考えた。彼女の言っていることが本当であるならば、三魔騎士の中で何故マヨネーだけがティエンレンなのだろうか。魔族の世界はよくわからないが、400年前の魔王戦争とは、「魔族の主流」が起こした事なのではなかったのか。例えば、ジャキを担いで三魔騎士は戦争を仕掛けたというが、実際はたまたまジャキが居ただけであるなら、戦争は起らないと言えたのだろうか。
 ビネガーが数世代の子孫を残し、ソイソーもティエンレンではないとすると、マヨネーの存在が一際異質に感じられるのと同時に、魔族という種族の構成がより複雑なものである様に感じられた。だが、彼はこれ以上考えるのはやめる事にした。…目前の敵をまずはなんとかしなくてはならない。
 
 
「…さて、あたしもあなた達に構っている暇は無いのよね。これから忙しくなるのよね〜。なんせ、あたしは時の人なのよね♪」
 
 
 マヨネーが話ながら何やら右手の先に魔力を集中し始めた。その力の質は今まで感じた事の無い程の凝縮された天の魔力だ。彼は何をしようというのだろうか。
 不気味な笑みを浮かべて彼は言った。
 
 
「…我が血に封印せし化身、その姿を盟約に従い示しなさい。アウローラ!!」
 
 
 右手に集った魔力の塊が急速に人型を形成し始めた。同時にマヨネーから大幅に魔力が失われたのが感じられた。
 光り輝く人型の化身は次第に実体化し、長くしなやかな黒髪を伸ばした美しい女性となった。漆黒のエナメル質の様な光沢を持ったキャミソールを身に着け、ネット状のミニスカートを履き、その編み目から光沢のビキニパンツが透けていた。
 そのあまりにも悩殺的姿に、思わずクロノの鼻の下が伸びた。が、慌てて表情を引き締めた。
 
 
「アウローラ、あたしの代わりに彼らを始末することを命じるのよね。」
「…。」
 
 
 アウローラは彼の言葉に何の返答もせず、静かに悲しげな表情でたたずんでいた。
 マヨネーはそんな彼女に苛ついて声を荒げる。
 
 
「ちょっと!そんなあたし可哀想でしょって表情やめてくれない!!!ちょっと可愛いからって良い気にならないで欲しいのよね。あなたの主はこのあたし!主の命令には元気よく答えるのよね!おわかり?」
「…はい。ご主人様。」
「…ふん、いいわ。じゃ、任せたわよ。命に代えても命令を守りなさい。以上よ。ふん。」
 
 
 マヨネーは彼女に命じると、すーっと透過してその場から消えてしまった。
 
 
「あ!?ちょっ!!!待ちなさい!」
 
 
 シズクが慌ててサンダーを走らせるが、既に消え去った後だった。
 そこにアウローラがクロノ達に向けてしなやかに右手を伸ばした。
 
 
「!?」
 
 
 その瞬間、3人に目掛けて光線が飛ぶ。一瞬にして3人が貫かれた。
 クロノは咄嗟に刀を構えた事で光線を屈折させて避けたが右肩を打ち抜かれ、ミネルバとシズクは胸を打ち抜かれてその場に倒れた。
 
 
「シズク!?ミネルバさん!?」
引用なし
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【145】CPss2第40話「彼方からの呼び声(後編)...
 REDCOW  - 08/7/20(日) 0:35 -
  
第124話「彼方からの呼び声…後編」(CPss2第40話)
 
 
 慌ててクロノは二人へ向ってケアルを放つ。だが、あまり効いていない。止血程度の応急処置にはなっただろうが、彼らが1人で治療に至れるほどの力は望めないだろう。
 血の気が失せるのを感じた。このままでは二人は死んでしまう。しかし、二人を回復させる余裕など無い。なぜなら、前方の敵はそんな暇など与えないだろうから。
 アウローラが再び光線を放つ。彼女の指先から幾筋もの光線が飛び出した。その光は一撃のみであるならば防げただろうが、連続的なものであるなら防げるはずは無かった。しかし、目前で起こった事は彼女の想定から外れていた。
 
 
「…なんだってんだ。…許さねぇ。」
「!?」
 
 
 クロノの身体から青白い光が漏れだし、鈍く輝き始める。
 アウローラは前方へ急速に天の魔力が集るのを感じた。それは単なる魔力の集中とは何かが違った。それはまるで空間そのものが彼の魔力に反応して集っているような印象を受けた。彼女は何か得体の知れない恐怖と同時に、この殺伐とした場には不釣り合いな温かいオーラも感じた。
 
 
「…前の男、そなたの名は。」
「…クロノ。」
「…そう。ならば、私を撃ちなさい。」
「…撃つ?」
 
 
 アウローラの指先から再び光線が走る。その出力は先ほどよりも強力で、より多く射出された。だが、それらの攻撃もクロノは前方に刀を構えて全て弾き返した。
 
 
「…私は己の意思で物事を決められない。全てはマヨネーなる者の意思に従う他に無い。故に、この行動全てが彼の命じるままとなっている。あの者に従うは私の本意ではない。だから、撃つのです。」
 
 
 アウローラの話はよく分からなかったが、つまり彼女は操られているということだろう。しかし、それ以前にアウローラは魔力の集合体であって、生きているようには思えない。彼女の存在自体が謎だった。
 
 
「お前は何だ?」
「…私は人の心の力が死して残り続けた化身。太古の時代、魔の力が失われ行くのを惜しみ生まれた、より高度な魔力を獲得するための器。人の生きる道を守る為に作られた精霊とも言うわ。」
「…精霊?グランやリオンみたいな奴か?」
「…そう。聖剣グランドリオンとは、失われ行く高度な人の心を宿した器。彼らは剣に己の力を宿す事で、永い時を超える術を持ちえたのでしょう。しかし、私のような者は彼らの時代より未来に生まれた、技術的にも未熟な時代の産物。滅び去りし都の末裔達が失われ行く力を惜しみ、その力を体内に宿す事で代々受け継がれたもの。人はその存在をサーバントと呼ぶわ。」
「サーバント?」
 
 
 再び光線が飛ぶ。その出力は先ほどまでとは比較にならない大きさだ。だが、クロノは咄嗟に前方に天のフィールドを張ると、前傾姿勢をとり、刀の先に魔力を集中した。
 フィールドに光線が衝突する。
 激しい振動がフィールドを揺らす。しかし、程なくしてその揺れは消え、光線もすうっとフィールドへ飲み込まれただした。クロノのフィールドが彼女の光線を凌駕し吸収したのだ。
 
 
「…で、なんでマヨネーなんかに宿っているんだ。」
「…わからない。」
「わからない?」
「…わからない。気がついた時には、私はあの者の呪縛に縛られていた。覚えていることは、そうだ、…恐ろしく邪悪な魔力を使う者を見た気がする。あの者も空の魔力を使うが、もっと恐ろしい異質な力だった。…それ以外はわからない。」
「空の魔力?」
「天に通じ、全ての空を支配する究極の魔力。天を超越する者。」
「天を超えてるのか。…それで、お前をどうしたら良い。」
「撃ちなさい。もはや私にはどうすることもできない。」
「…そうか。」
 
 
 クロノが魔力を集中する。
 彼は前方に天のバリアフィールドを張り巡らせる事に集中した。そこにアウローラの光線が再び撃ち放たれる。フィールドは2射目までは弾き飛ばすが、3射目以降の攻撃に対しては軌道を若干そらすのが精一杯で貫通していた。だが、それに対してもクロノは持ち前の根性で対応させ始める。アウローラは微動だにせず撃ち放っているが、それ以外は何もする様子が無かった。
 クロノは彼女が射終る瞬間を見計らって突撃する。それに反応するように彼女はクロノを狙い撃つ。そのいくつかは彼の腕や頬を擦るが、刀で受け流し素早く交わすと彼女の懐へ一直線で駆け登った。
 
 
「えっ…」
 
 
 後僅かだった。
 クロノが彼女に切り掛かる最後の瞬間、彼女は彼の利き腕である左肩を射ぬくと、すぐさまもう片手の先から光線を発し、彼の胸を貫いた。
 一瞬の出来事に何が何だか解らぬ間に彼の身体は後方へ高く舞い上がった。そして、気がついた時には空が一面に広がり、鮮やかな青い空が次第に白くぼやけるのを感じていた。
 
 
…、


…、


…青いな。


 全てが白濁した。


「…ロノ…クロノ、クロノ。」
「…誰だ。」
「…誰でも無い。あなた自身よ。」
「…俺自身?」
「…そう。あなた。いいえ、俺よ。」
「…は、ははは。なんだよそれ。気持ち悪い冗談だな。第一、俺は男だ。」
「…えぇ。そうね。」
「…で、その『俺さん』が何の用だよ。」
「…逃げないで。」
「逃げる?」
「あなたから逃げないで。」
「…俺から?…俺は逃げも隠れもしないぜ。…でも、今は眠い。」
「そうじゃないわ。あなたは、知っている。」
「…何をだ。」
「だけど、怖いのよね。」
「…怖い?俺が?」
「そう。あなたは本当の自分の怖さを知っているわ。だから、あなたはその自分から目を背けている。」
 
 
 唐突に視界になにかが広がるのを感じた。それは自分の住み慣れた実家の風景だ。しかし、その視界は少々低く感じた。
 そこは家の裏庭で、母親が洗濯物を干しているのが見える。
 表情が若い。随分過去の記憶の様だ。
 彼女がこちらを向いた。その表情はとても嬉しそうに微笑んで何かを言っている。視界が彼女の方へ急ぎ足で向うのを感じる。彼女のエプロンに埋もれた時、彼女の手が彼の頭の上に触れたようだ。…温もりを感じる。
 だが、視界は突然動いた。
 その方向には大きな男の足らしきものが映った。その男とは距離にして2m程離れていて、首から上の方は見えない。だが、その足は徐々に近づいてくる。そして、それと同時に身の毛が総毛立つものを感じた。
 次の瞬間、視点は激しく動くと、前方の男が稲光を発してよろける。その時一瞬顔が見えたように感じた。ハッキリとは解らないが、その男がほんの僅かな瞬間自分をギロリと睨んだように見えた。
 彼は透けるように消え去ると、視点はあらぬ方向へ動く。
 天を仰ぎ見る様に現れたその顔は…
 
 
「(…アウローラ?)」
 
 
 視界はそのままの位置を動かず次第に白んでいった。
 そして再び白い世界に戻ってきてしまった。
 
 
「…おい、『俺』さんよう、これはどういうことだ。」
「…逃げないで。あなた自身から。」
「…さぁな。俺は俺だよ。」
 
 
 そう答えた瞬間、鈍い痛みが襲う。
 胸を貫く鈍痛。先ほどの光線が貫通したからだろう。だが、仄かな暖かみも感じる。でも、息苦しいし、しびれるような感覚が全身に走っているのを感じる。
 
 
「…止血は出来ましたわお姉様。」
「こちらも処置完了ですわ、お姉様。」
「マルタ、リーパ、もう少し急ぐわけ!ぐ!」
 
 
 彼が目を開くと、そこにはマルタの幼い顔が見えた。彼女は彼の胸の傷に右手を置いて治癒の魔法の詠唱に集中している。彼女の手から出て来るオーラが、この胸の傷の痛みを和らげているのだろう。…どうやら、メーガスかしまし娘達がクロノ達を守っている様だ。
 
 
「気がつかれましたのね。」
「…あぁ。助けてくれたんだな。有り難う。」
 
 
 クロノはそう言うや右手を胸に置く彼女の手の上にそっと自分の左手を添え、自らの魔力で傷を癒すオーラを増幅させた。その力は瞬時に効果を示し、彼の傷はみるみるうちに治癒された。
 傷が癒えると、そのまま起き上がり様に言った。
 
 
「…二人を頼む。」
「はい。ですが、あなたは?」
「俺は、戦う。」
「わかりました。お二人の治療は任せて下さい。」
「あぁ。」
 
 
 彼は立ち上がると、前方で防御フィールドを展開するアミラの左隣に歩み寄った。
 
  
「…ちょっと、遅いわけ!早く何とかするわけ!!!」
 
 
 必至の形相のアミラに、クロノは頭をポリポリ掻いて答えた。
 
 
「あ、わりぃわりぃ。…うし!なんとか運が戻ってきたぜ。俺はここでは止まれねぇんだ。」 
 
 
 クロノが魔力を集中し始める。
 彼の足元からシャイニングの発動前に生じる魔法陣が形成され始めた。その陣は彼のフィールド全域は勿論、その周囲の地面をもその支配域に組み込み始めた。青白い光が次第にアウローラから発生する天の光を侵食し始める。
 
 
「うぐ!?、アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 
 
 アウローラの足元へ迫ったクロノの魔力と、アウローラを形成するマヨネーの魔力が衝突する。激しい音と光を放ち、バチバチと彼女の周りで魔力同士が喧嘩を始めた。幾筋ものスパークが起こり、彼女の身体をクロノの魔法陣が縛り上げる。それは遂に彼女の全身に及んだ。
 その時、クロノの頭の中になにかが話しかけてきた。
 
「…私の出番だな。」
 
 その声はそう告げると、突然それは現れた。
 集中するクロノの魔力が乱れた瞬間、彼の身体からまるで魔力が引きはがされるかのように人の姿をして抜けた。
 それは、実体こそ見えず透き通る青白い輝きでしかないが、長い髪を持った女性のように見える。
 
「(…おかえりなさい。私。)」
 
 青い輝きは他の誰にも聞こえない声で、前方にいるアウローラへ告げた。
 その瞬間、一際大きな甲高い爆発音が当たりに響き渡る。
 眩い閃光を走らせ爆発したアウローラの身体は、侵食された青白い光の粒となって四散した。
 そして、青白い女性姿の輝きが手を広げると、次々にその光の粒を吸収してゆく。それは最初は舞い散る雪をゆっくりと吸い取るようだったが、次第に勢いを増してあっという間に全ての光を吸収し尽くした。それが終った途端、青白い女性姿の輝きはクロノの元にスウッと帰って行くように消えてしまった。
 
 
「…終ったのか?」
 
 
 アウローラが消えると、抵抗する観衆達も突然撤収を始めた。
 防衛軍がそれを追って彼らに続いた。急速に闘技場から人の声が消えてゆく。
 まだ癒えぬ傷を負ったまま、ミネルバが崩れた観覧席にてフリッツに支えられている父のもとへ跳躍する。
 クロノ達も彼女の後に続いた。
 
 
…どうやらこの場の戦いは、勝ったらしい。


 クロノプロジェクトシーズン2最終話はこれで完了です。
 長い間ご覧下さって有り難うございました。
 
 次のページにあとがきを掲載。
引用なし
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【146】CPss2あとがき
 REDCOW  - 08/7/20(日) 0:37 -
  
 あとがき
 
 この物語は週刊としながら後半戦は月一で、最終話に至っては二ヵ月後とかになってしまい本当に申し訳有りませんでした。こんなに遅くなるとは自分でも思っていなかったのですけど、なんか悪戯に時間を消費してしまった割には書けてなかったりで、終わりとしてはとても完成度的には悔やまれます。

 本当はもう少しこの後にシーズン2分は繋がる内容がある予定でしたが、編集に時間を掛けられそうになかったので中途半端な区切りとはなりましたが、今後の「先行公開版シーズン3」という感じで間の話を何回かに分けて掲載して行くつもりです。

 シーズン2では色々と新しい要素を出す事を中心に展開してきました。

 シーズン1ではクロノ世界のもう一つの視点と共に登場した魔族内ヒエラルキーや種の違いが、シーズン2ではメディーナという現代の魔族の国の環境の中で語られる感じになってみたり、魔法についてもシーズン1で出てきたフィールド技術についての細い活用が出てきたりといった感じに、クロノプロジェクト世界になってからの戦い方を中心にやってみたのがこのシーズン2での試みでした。
 シーズン1と比較するとオリジナル要素が多いので、クロノトリガーという物語として見た場合は随分と異質な世界が生まれていると思います。これを見て「もはやクロノでも何でもないやい!」っていう感想が出ても不思議ではないと思うので、その辺は甘んじて受け入れたいと思っています。(^^;
 ただ、これらの要素は今後の冒険でも色々と出て来るものなので、クロノ達が新しい戦い方に慣れてゆく課程という流れの中で、ご覧の皆様にもなんとな〜く伝わったら嬉しいなとか思っています。(^^;

 相変わらず文章が未熟故に、表現力とか自分の力量不足は否めません。
 見て下さっている方には本当に誤字とかも多いので(直せよ!)、お見苦しい文章となっておりますが、これらの修正はとりあえず追って出来る範囲でさせて頂けたら幸いです。(^^;;;;

 さて、本年(2008年)七月七日にクロノ・トリガーDS版の今冬発売が発表されました。ようやくクロノとしては久々な原作元の新作です。
 まぁ、リメイクですので完全な新作ではないですが、本当に新しいクロノが生まれて新しいクロノファンが沢山出来てくれたらこんなに嬉しいことはありません。私は素直にこの動きを歓迎しています。
 携帯ゲーム機への移植という事で、私はDSもPSPも持っていないので、今年の冬はDSと一緒にクロノを買わなくてはプレイできません。…クロノDS発売記念のDSとか出たら一緒に買うんですけどね?(スクエニさん、出しませんか?)

 なんだかんだとこの企画も今年で八年目。物凄く長寿な企画となっております。しかも、シナリオ的にはまだまだ長いという有り様。(´д`) …なんとか自分が若い内に作り上げたいですが、そうこう言っている内に良い歳になってきちゃいました。(´ω、` *)
 でも、年齢とか関係なく楽しめるクロノの素晴らしさは偉大ですね。今になって本当にそう思います。幾つになっても時を遡る事が出来る。

 クロノはクロノ達だけが時間旅行しているわけじゃないことを、改めて実感している今日この頃です。そして、そんなステキな時間をDSで新しくプレイヤーになる方々も感じられる年齢になるまで楽しんで貰えたら、クロノは本当に幸せ者ですね。(^ω^)

 それでは、シーズン3は来年くらいに公開予定で今の所考えていますが、色々と詳細が決まり次第センターとかで告知出しますんで、こちらのクロノ達も楽しみにして貰えたら幸いです。

 では、シーズン3でまた会いましょう。

 感想は返信としてこの下につづけて下さい。
 ございましたらお返事させて頂きます。
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【155】クロノプロジェクト用語集みたいな。
 REDCOW  - 08/8/23(土) 11:27 -
  
クロノプロジェクト用語集

こちらでは、とりあえず掻い摘んで必要なCP用語を紹介!

・先天属性
 天水火冥のトリガーオリジナル4属性に「地」属性をプラスした5属性。クロノトリガーとクロノクロス両方の魔法効果を吸収する上で「地」属性を加えた5つの属性でエレメントを定義する為に追加。クロノクロス色属性を当てはめている。ただ、クロノクロス色属性は厳密な振り分けをすると、黄色属性などは地属性のアップヘイバルと天属性のライトニングが同居しているなど、判断の付け難いエレメントもあるため、大まかに分けてそれぞれの効果で判断しています。(苦しいなぁw)
 
天=緑+白
水=青
火=赤
地=黄
冥=黒
 
・ジャリー
 トリガーでおなじみの魔族のキャラクター。ジャリーは人間と殆ど変わらない寿命の種族で、違いは姿や肌の色だけで人間との交雑も可能な程人種が近い種族。彼らの一生の感覚は人間とほぼ同じで、同じ魔族でも長命なティエンレンからすると「あっという間」の人生といえる。そんな彼らはその短い寿命の中で人間と同様に努力する人々も多く、基本的には真面目な人々も多い。ただ、その迫害の歴史の長さ故に、地域やグループによっては歪んだ人々も多数いることは彼らの不幸と言える。
 スプリガンの夫として登場した男性もジャリーで、ティエンレンである彼女との人生の差を苦悩する姿が登場。
 
・ティエンレン
 魔族の有力者の血筋。長命でとても強力な魔力を秘める種族で、長らく魔族達を統率する指導者が多い。彼らの知識は総じて高く、メディーナでは古代文明から伝わると言われる程高度な技能を持つ技師も多い。彼らの技術は魔力と密接に関わり、魔力無くして全ての高度な技術は継承出来ない。そして、それは高度であればあるほど高い能力を必要とする為、種族内では純粋さを問う血族も多数いる。よって、婚姻はティエンレン同士が一般的。
 
・トラップフィールド
 クロノ・クロスでは特定の魔法を吸収する領域を作り出す魔法のこと。
 CPでは特定の攻撃の反属性魔法を自分周囲に放出することで、相手の魔法エネルギーを相殺するフィールドを一定範囲に張り巡らせる技術。フィールドは攻撃を受ける事で減少または消滅。
 強力な術者が使えば完全なバリアや地雷の様な攻撃的な効果も出せるが、相手より弱い場合や反属性ではない場合は、相手の魔法効果を低減させる緩衝剤や同化による無効化となる。CP内で使われる用語の使い分けとして現状で考えているのは、トラップフィールドが主に他属性の魔法による反撃フィールドであるのに対して、バリアフィールドと読んでいる方は同属性または相反属性による防御フィールドとなる方向ですが、作者も完璧に使い慣れているわけじゃないので、突っ込みは無用の方向でw
 
・フィオナの森
 AD600〜1000年の間に生まれた新しい大森林地帯。フィオナのもとに預けられたロボにカエルも後に加わって大きく発展する森の中に生まれた多人種が共生する森。幾度か人間達による攻撃に遭うが、その都度森の住民達は武装し撃退。その後カエルによってガルディア国王と話がつき、ガルディア国王がフィオナに封土する形で自治が認められ、正式にガルディア王国の保護領の一つとなることで王国側からの攻撃は無くなる。以後400年の時間の中で王国との通商関係も広がる。首都フィオリーナ他、いくつかの街を持つ。
●フィオナの森の人々
・蛙族
 主にカエルが過去に住んだ「お化け蛙の森」の住民達で構成。彼らは魔王戦争後、パレポリの人間達による攻撃に遭い、新たなる安住の地を求めていた。そこで長老の息子カエオ夫婦を中心に北に生まれた「新たな森」を作っているというカエルのもとへ移住する決断をする。カエルの側は開拓するにも人手不足であったこともあり快く彼らを受け入れた。以後、彼らは最も森の育成に貢献する。主な蛙族はカエオ。
・魔族
 魔族には幾つかの人種があるが、この森には魔王戦争時代の有力者の血筋であるティエンレン他、ジャリーやミアンヌなど多種の魔族が住まう。魔族達は蛙族を保護し、傷付いた魔族達を匿うかつての宿敵であるカエルを頼り、世界中で戦後迫害を受けた魔族達の安住の地として森を目指した。主なティエンレンは武器職人のギニアスやカエルの妻レンヌ。ジャリー種の代表的な人物はソイソー。
・亜人
 様々な生物の特徴を持った人間。亜人は魔族に一般的には属するものとされているが、元々魔力の無い人々も多く、姿形以外は人間と殆ど変わらない。中には強力な魔力を持つ「例外的」な種族も存在するが、基本的には普通の人間と同じ様な人々。
・人間
 フィオナの他にも多数の人間が住んでいる。彼らは主に魔族と恋に落ちた者たちなど、異種族間交際の結果生まれた両種族からの差別や迫害に苦しみこの森へ移住してきた人々。フィオナの他にギニアスの妻ハリーやカエル(グレン)もその1人と言える。
●フィオナの森の産業/文化
・木製品/繊維製品
 フィオナの森産の木製アクセサリーや衣服は現代では高級な輸出産品としてブランドが確立される。不思議な苗の力によって育まれた強力な魔力を秘める製品は、魔力に限らず一般の人々へも様々な効用を発揮し、王侯貴族は勿論、世界中の消費者に親しまれている。
・食品
 森の中のいくつかの地域で四季のあるフィオナの森では、様々な作物が生産されている。中でもデナドロ山方面の森で植生するデナドリュフは高級珍味として高値で取引されている。その他、東側の海岸沿いに幾つか漁労を中心とした集落もあり、海産品も重要な産品となっている。
・武器/防具
 武器職人ギニアスを中心に築き上げられた伝統の武具は、西のメディーナに匹敵する強力な魔力を秘めつつ軽量化を実現した武具が多数揃う。森に住まう彼らの為に最適化された軽装で動きやすい武具は、彼らの要求に応えるだけの耐久性も確保した。
・剣術
 カエルとソイソーによって築かれた住民達を守る為に生まれた剣術。カエルの剣術とソイソーの剣術は両刃刀と片刃刀の違いが有る為、両者の剣術は基本的には流派として融合する事は無かった。しかし、400年の時間の中で両派の後継者達が互いの剣術を極める事で両派は剣の違いを吸収し、ソイソーが伝えた「魔法剣」を育む。
 宗家であるフォレスト家とソイソー一族の下には一門衆としてそれぞれの人種の代表が集い、彼らはフィオナの森の外交等の議決に大きな権限を持つ。

・メディーナ
 AD600年の敗戦後、西の大陸である根拠地メディナにて発展した魔族の共和国。クロノ達の歴史改変によって恨みを持つ人々は消え、現実的に生活を改善し平和主義の人々が実権を握る。だが、王国歴1004年のパレポリによる戦争で方針を大きく転換。国父として崇められるボッシュを中心に組織された新メディーナ政府は、初代防衛大臣であるビネガー8世による「ビネガードクトリン」により、専守防衛不干渉主義を徹底、同時にパレポリに対しては同盟という形で条約が結ばれ、以後、軍事的に強化を怠りなくしつつ、ガルディア難民など世界中の難民を受け入れながら国力を大きく発展させる多民族国家。
 
・南メディーナ戦争(AD1004)
 パレポリ・チョラス連合艦隊が南メディーナ湾岸に集結し、パレポリ側全権大使としてディア・ノイアが砲艦外交を展開。メディーナ全権代表はパレポリ側の降伏要求を拒否し開戦。軍事力の差は圧倒的にパレポリに軍配が上がるかに見えたが、ボッシュ率いるメディーナ軍は徹底的に抗戦しこれを撃退。遂にパレポリ側が停戦交渉を持ち掛け停戦する。両国は同盟する形で結論を得るが、その当時の対戦でメディーナ国民は強い衝撃を受け、平和友好路線から現実路線に急速に転換して行く切っ掛けとなった。
 
・ボッシュ
 国父ボッシュのもとに集った門下生達が築き上げた学問と経済の都市。首都メディーナの西側に位置する草原地帯に生まれた都市は、次第に西側に広がり海まで延びて港湾都市となり商業的にも発展。ガルディア難民達も含めた多くの人々が住まう国際都市として世界的に有名な巨大都市に数えられる。近隣諸地域の中継点としても重要な都市となり、北のトルースを始めとして、西側のフィオナやエルニド、パレポリの船舶もボッシュを中継する。
引用なし
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