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【34】序章 REDCOW 06/8/14(月) 21:56

【43】真っ黒と真っ白 REDCOW 06/8/17(木) 12:46
【44】光 REDCOW 06/8/18(金) 15:48
【49】お姉様 REDCOW 06/8/19(土) 11:41
【51】古文書 REDCOW 06/8/20(日) 21:24
【52】通力 REDCOW 06/8/21(月) 12:02
【53】運命の赤い麻紐 REDCOW 06/8/23(水) 20:50
【54】ジャストミート REDCOW 06/9/2(土) 5:13
【56】500 REDCOW 06/10/20(金) 2:01

【43】真っ黒と真っ白
 REDCOW  - 06/8/17(木) 12:46 -
  
「…ヴヴヴ、何故我らに逆らう。」
「…我が痛み、お前も分からぬはずは無かろう。」
「…誤りし生命の道を正すは我らの定め。お前は見たくないのか、夢を。」
 
 夢…、何を言っているんだ?
 
 僕は真っ暗な闇の中にいた。
 そんな闇の中にとても低い嫌な声が響いてくる。
 何が何だか分からないことをぶつぶつ呟く様に。
 
「わからないよ。何が言いたいの?」
 
 僕は思い切って声を発してみた。
 でも沈黙が波紋の様に広がって行くように吸い込まれて消えた。
 
「…グレ。」
 
 え?何??
 突然先程とは違う僕を呼ぶ声が聞こえる。
 
「シグレ。シグレ!!!」
 
 僕は目を開けた。そこには僕の名を呼ぶカイルの見下ろす顏があった。
 視線の先には天蓋の白い天井が見える。…アスファーンだ。
 
「あの、どうしたの?」
「どうしたも何も、もう朝だ。」
「…え、あ。」
 
 彼の言う通りだった。窓の外はちょっと陰って見えるが朝日だろう。
 山々がキラキラと光り輝いている。
 
 僕は起き上がりベッドから出た。ふとカイルの方を見ると、昨日とは違ってとっても軽装の服を着ていた。これが彼の普段着なのだろうか?…そんなことを考えつついると、カイルが口を開いた。
 
「お前、風呂でも入っとけ。」
「あ、うん。」
 
 そう言うと彼はベルを鳴らした。するとドアが開いて執事の人が現れたかと思うと、彼と小声で何やら話した。そして、執事の人がテレビとかでも見たこと有る使用人を呼ぶあのパンパンという手を叩く奴をやった。
 うへー、さっすがお城だとか思っていると、早速ぞろぞろと使用人の服を着た屈強そうな男達が現れた。スゲーとか思って見ていると、なにやら僕の方に近づいてくる。
 
「え、え!?えぇええええ!?!」
 
 男達は僕をひょいとまるで胴上げでもするかのごとく担ぎ上げると、ずんずんと部屋の外へ歩き出した。その足は徐々に早くなり駆け足と言っても良い。
 
「うわぁああああ!?おい、どうしちゃったわけ!?ねぇ、待ってよ!誰か止めて〜〜〜〜!!!」

 僕がそう叫んだ時、急にピタッと止まったかと思うとひょいっと投げ出された。
 
「え!」
 
 バッシャーーーン!!!
 
 僕は一瞬何が起こったのか分からなかった。
 …いやぁ、でも、良い湯加減。って違う!!!!
 あぁ!?何、風呂だけど、どうしてこうなんの!?…しかも服のまんまだし。
 僕が混乱していると、執事のおじさんがゆっくり恭しく現れた。
 
「猊下。着替えをご用意させていただきましたので、上がられましたらそちらにお着替えください。今お召しの服は私めがしっかりとクリーニングして後程お部屋の方へお運び申し上げますので、脱衣室にそのままお置きください。」
「は、はぁ。」
「着替えの服のサイズは猊下に合う様にお選びさせて頂きましたが、もしも合わぬようでしたら外に待機しております者をお呼びくだされば、すぐにご用意させて頂きます。では、ごゆっくりお寛ぎくださいませ。」
 
 な…、そんなことのために僕を担いで湯に放り投げちゃうわけ!?っていうか、何であんなに丁寧に話ながら猊下とか言いつつ放り投げちゃうわけ!?!って、僕そこに怒るべき!?………はぁ。
 
 あぁ、流されてる。色々な意味で流されてるよ僕。
 僕は仕方なく着ている濡れた服を脱いだ。まさかこんな広い風呂の中で服を脱ぐとは思わなかったけど、いや、ホントに広いなぁ。なんかどっかの観光地の1000人入れる風呂もビックリな感じ。っていうか、これ、温泉なのかな。なんとなく硫黄の香りがする。
 
「ぐぇぇぇぇ〜〜〜…。」
 
 温泉ってどうしてこんな声が出ちゃうんだろう。
 もう本能的に出てくるこの変な声。でも、なんか温泉って感じがするよな。
 
「まぁ!誰かと思ったら、あなたが噂の猊下ねぇ〜!」
「え”!?」
 
 突然女の人の声がしたかと思ったら、僕の目を後ろから両手で塞がれてしまった。
 
「いやぁ〜ん、可愛いお・は・だ!やっぱ若いって良いわねぇ〜♪」
「あ、あの、その、こ、これは何かの間違いで、あ、えーと、その、手を離してくれませんか。」
「ウフフ、駄〜目♪」
 
 その女の人はあろうことか僕に体を密着させてきた。僕の背中に温もりが伝わってくる。何よりアレやコレやあんなところが僕の背後で密着していると思うと、さすがに健康な男子である僕には刺激が強過ぎて…
 
「あ、あら、猊下!?」
 
 …あぁ、頭真っ白。
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【44】光
 REDCOW  - 06/8/18(金) 15:48 -
  
「…どこだ、ここ。」
  
 僕はどういうわけか空の上にいた。
 何がどうなって浮いているのか分からないが、じたばたしてみた所で落ちないことは分かった。
 なんとなく薄曇りの夕暮れ時だろうか、沢山の車が飛んでいる。SF映画みたいにさも当然の様に浮いているんだ。

 世界全体が鉛の様に鈍い輝きを帯びて太陽の光を照り返す。その姿は異様だが偉容でもある。こういうのを未来って言うんだろうな。
 
 ふと近づいてみたいと思ったけど、眼下の都市へはやっぱり降りることは出来ない。下を向こうが何をしようが、ただただくるくると回っているだけ。懸命な努力も虚しく疲れだけが残った。
 僕は仕方なく見ているしかなかった。すると突然視点が上昇し始めた。その早さは凄まじい重力を伴うような速さで、僕が打ち上げられている様な圧力を感じ目を閉じた。その圧力は10秒くらいだろうか。突然それが収まったので目を開けると、そこは宇宙だった。
 
 宇宙から見た地球なんて初めて見る。
 確かに有名な宇宙飛行士が残した言葉のように青い宝石。ここが僕の生れた世界。
 人生にとても印象深い感動のシーンを上げるなら、ここは間違いなくその場所の一つになるに違いない。そんなことを思っていると、突然前方に何かの光が一つ走った。
 
 いや、それだけじゃない。
 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十、十一、十二…もう、無いかな。
 その光はゆっくりと世界中に散らばって降りていく。その時地上からも幾筋もの光がまるで出迎えるかのように走る。だけど、それは途中で衝突して閃光をたて始めた。そして、地上の光はまもなく消滅し、宇宙からの光は地上に到達すると緋色の閃光をあげて、まるで核爆発を起こしたような巨大なドーム型の爆発を作り出すと、その波は波紋が広がるように広域に広がった。
 その爆発は他の地域に落ちた光からも生じ、次々に世界を飲み込んでいく。
 
 僕は何が起こっているのか理解できなかった。
 言えることは、綺麗な迫力ある映画のワンシーンにしか見えないってこと。でも、僕がこの真空の宇宙で呼吸して漂っているという非現実的な現象を除けば、視覚に映っているそれはとてもリアルな空間での出来事だった。
 
 僕はアスファーンの書庫で見つけた本の記述を思い出した。
 
「…古の12の神。」
 
 これがソレなのか?
 だとしたら………あんまりだ。
 
 僕の目から思わず涙が溢れてきた。
 そこに、何処からともなく声が聞こえる。
 
「…下。猊下。」
 
 僕は目をゆっくりと開いた。
 目前にはとても綺麗な金髪のお姉さんの姿。白いぴちぴちの綺麗なレースの刺繍のが入ったワンピースを着た彼女は、僕を膝枕していた。…って、膝枕!?思わず僕は飛び起きた。
 
「あ、あの、ぼ、僕は一体!?」
 
 飛び起きた僕の周囲には執事のおじいさんに、カイルの姿もある。
 カイルは複雑そうな顔をして苦笑交じりに僕に言った。
 
「…さすがに気絶は無いぞ。まぁ、姉上も年頃の女性が聖職者と混浴するという状況は話しにならないが。」
「なぁに、カイル。聖職者ですもの、間違いはないじゃないですの。ウフフ、ね?猊下?」
「え…」
 
 僕はどう応えていいか分からなかった。
 というか、あれ、僕、裸!?
 
「う、うわ!?あ、あの、ふ、服は!?!」
「ほれ。」
 
 僕はカイルから服を慌てて受け取った。
 なんてこった。失敗するにも程があるよ……。
 
「あ、ありがとう!っていうか!みんな出ていってください!!!」
「えー!今更良いじゃないですか〜!私は猊下の全てをもう知った仲ですのよぉ〜?」
「す全て!?って違う!そんなの絶対ダメ!っていや、あ、もう!!!はやく出ていってください!!!」
 
 僕は力の限り叫んだ。
 彼らは僕の剣幕にさすがに応じてくれて、渋々という感じだけど外に出ていってくれた。
 その後の僕は、泣きたい様な気持ちを胸に仕舞いながら、服を広げてみた。
 
「…え。」
 
 僕は思わず凍った。
 いや、これで終わるとは思わなかったけど、これは…。
 一挙に到来する情けなさとやるせなさと虚しさと…僕はさすがに自分を呪った。
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【49】お姉様
 REDCOW  - 06/8/19(土) 11:41 -
  
 出された服は白タイツに白いぴっちりシャツ。
 そして、頭からすっぽり被って前後にばさばさいっている、ドラ○エの僧侶が来ているようなアレ。

 そりゃ賢者ったら聖職者なのかもしれないけれど、僕別に悟り開いたわけでも無ければ、賢者って自覚すら無いんだけど…。しかし、置かれた服はこれのみ。まさか白タイツ白シャツ姿だけで出るわけにもいかず、とりあえず下着だけまず穿いた。
 
 ただ、下着が白ブリーフというのがまた…なんで今更僕は…。だけど、コイツを穿いてみて思ったのだけど、このまま誰かを呼ぶくらいなら白タイツコスプレの方がまだマシだと思えてくるのだから、なんとも術中にハマっているような気がしてならない。
 いや、絶対罠に決まってる。…って力説する自分が虚しいけど。
 
 仕方なくコスプレした僕は脱衣室を出ることにした。外にはあの3人が待っているに違いない。もはや裸まで晒したと半ば開き直りも入りつつ、思い切って僕はドアを開けた。
 そこには案の定3人の姿が…、
 
「まぁ、猊下!よくお似合いですわ!」
「孫にも衣装って奴だな。」
「サイズもぴったりでございますな、猊下。」
 
 三人三様に褒め言葉が飛び込んできた。でも、表情は絶対笑いを堪えている。…というか、あのお姉さんの顔を見たら、再度自分の痴態を晒してしまったことを急激に思い出す。さすがに簡単に割切れるものでは無いらしい…。
 
「あ、あの…。この服以外ありませんか。」
「えぇ〜!お似合いですよ〜!勿体ないわ〜!」
「そうだぞ!こんなおもし、もとい素晴らしい絵は見たことないぞ俺は。」
「お気に召しませんでしたか、猊下。」
 
 し、白々しい。くそぉ、完璧に遊ばれている。
 僕は沸々と湧き上がる怒りを感じていた。もはやここまで壊れてしまえば何も怖くない。
 
「すぐに僕の服を乾かして返してください。それがダメなら、他のあなた方が着ている様な一般的な服を用意してください。僕は悟りを開いたわけでも無ければ、賢者であると言った覚えはありません。」
 
 僕は今出し得る最大級の憎悪を燃やした表情で3人を睨み付け言い放った。それは3人を一瞬で串刺しにする。
 
「あ、あぁ、分かりましたわ猊下!ほ、ほら、カイル!あんた服あるでしょ!」
「あ、姉上!?お、ぉお!わ、わかりました。い、今すぐ用意しよう!!」
「バルムドゥール殿下、殿下の服では大き過ぎます。私めが殿下のお小さくなった服を取寄せさせますので、お任せください。」
「おう、ボブ、至急頼むぞ!!」
 
 その後15分程してカイルにボブと呼ばれていた執事のお爺さんが、一着の服を持ってやってきた。その服は青を基調にした制服みたいな服だった。袖などには銀糸でラインが入っていて、さすが王子様って感じの豪華さもある。…これはこれでちょっと恥ずかしかったけど、白タイツ姿よりは天地の差ほど違いがある。
 僕はその服に再び脱衣室で着替え直すと、3人のもとに戻った。
 
「まぁ、猊下!カイルのちょっと昔を見ているみたいで可愛い!」
「ほぅ。」
「いかがでございましょう、猊下。」
「うん、今度のはとても着心地が良いです。わがまま聞いてくれて有り難うございます。」
「いえ、お礼でございましたらバルムドゥール殿下へお伝えください。では、私はこれにて失礼させて頂きます。」
 
 そう言うとボブさんは礼をして静かにその場を去っていった。
 
「えっと、あの、あなたはカイル殿下のお姉様なんですよね?その、先程は本当に申し訳ありません。」
「いいえ。私も聖職者としてこの国の司祭をさせていただいております身。間違いなど起こり得ません。ご安心下さいませ。」
「え”!?司祭!?!」
「はい、猊下。宜しくご指導賜りたく申し上げます。」
 
 そう言うとお姉さんは深々と礼をしてきた。慌てて礼を返す僕。
 礼を直ると、お姉さんは続けた。
 
「それと、申し遅れました。私はジュリエット・マルーン・アスファーン。この子達の一番上の姉でございます。ジュリーとお呼びくださいませ。猊下。」
 
 ニッコリと微笑んだジュリーさんは、今までの15年の人生の中で奇跡的な程の綺麗な笑顔で、こんな人にこれから他に会う機会があるのだろうかと思うほどの絶世の美女だった。
 
「んと、えー、ジュリーさん…って、その、一番上?」
「はい。私が我が王国6人兄弟の一番上でございます。」
「六人兄弟!?」
「あら、存じ上げませんでしたか?猊下。」
「あ、はい。初耳です。」
 
 僕は驚いた。クウォルツさんが一番上で、その下くらいだろうと思っていたということもあるけど、その前にこの兄弟が6人もいるということが…。カーライル、クウォルツ、ダーグスタ、ジュリエットの4人は見たけど、この他に二人…どんな人なんだろう。というか、彼らの年齢構成が分からないのでイマイチポジションがハッキリしないけど。
 
「左様でしたか。では、ここではなんですから、お食事でもご一緒にしながら、お話でもいかがです?」
「あ、別に僕はそれほどお腹も空いていないので…」
「では、ティーと菓子ではいかがでしょうか。」
 
 その時のジュリエットさんの表情は、世の男という男全ては絶対服従したくなるんじゃないかと思えるほど、なんだか断るのが勿体なく感じた。カイルも微笑を讚えて彼女に従っているようだし、ここは彼と同様に従っておくとしよう。
 え?僕が単に食事がしたいんだろって?違うよ、仕方なくだよ、仕方なく。…とは言いつつも、確かに僕の心は踊っていた。
 
「あぁ、はい。では、お言葉に甘えて。」
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【51】古文書
 REDCOW  - 06/8/20(日) 21:24 -
  
 僕たちは城の前庭に来ていた。
 ここは色とりどりの花が咲き乱れるとても手入れの行き届いた庭園で、花の香りが風で運ばれてとても心地よい空間だった。そこに用意された白いテーブルに日傘と白い椅子が3脚。四角い白いテーブルには、東側を背にジュリエットさんが座り、南側にカイルが、北側に僕が座った。西側には給仕の係りの人がお茶とお菓子を出し入れするのにやってきてくれていた。
 僕は出されたお茶を飲んだ。
 
「美味しい!これ、なんていうお茶なんですか?」
「これはミレディティーですわ。」
「ミレディ?」
「あぁ、あそこに生えている赤い花がミレディ。」
 
 僕はジュリエットさんの指し示した方向をみた。そこには確かに赤い花が咲いていた。なんとなく薔薇に似ている。つまり、これはローズティーってことかな。
 
「…さて、そろそろ本題と行きましょうか。カイル。」
 
 彼女はそう言うと、カイルの方を向いた。カイルは彼女の言葉に頷くと僕の方を向いた。
 
「シグレ、お前の国は二ホンと言ったな。」
「うん。」
 
 僕が頷くと、ジュリエットさんはおもむろに本をテーブルの上に置いた。その本はとても古くてくたびれていた。
 
「これは?」
「我が国に代々伝わる古文書です。ここには創世の以前の世界のことが書かれています。」
「これをどうして僕に?」
「とにかく開いてみてください。」
「うん。」
 
 僕はその本を手にとり、ゆっくりとページを開いた。そこには僕にもわかる日本語で文字がかかれている。内容は日記のようだ。
 
 今日、連邦政府はガーディアンフォース12の使用許可を出した。…もう、これしかないのか。私はなぜあんなものを見つけてしまったのだろう。いや、まだ終わったわけではない。

 宇宙の動向が緊迫してきた。連邦木星基地がやられた。奴らは化け物か。ガーディアンフォース12の発射が間に合うかギリギリか。プランBも実行せざるを得ないか。
 
 アステロイドベルトを越えたという報告があった。奴らの技術をトレースしているが、それを上回るスピードで迫っている。連邦艦隊は火星に防衛ラインを張ったが、時間稼ぎにもなるかどうか…。
 
 今日、プランBを実行に移した。我が子にはすまないことをしたが、人類は今消えるわけにはいかない。彼らにも良心があるならば、我々の世界を…いや、もはやここまできてしまったのだ。楽観は控えるべきだ。…もうすぐ日本に帰る許可も下りる。
 
 火星軍が全滅したらしい。もう数日もせずに来るだろう。出来る限りのことはした。我が人生に悔いは無い…いや、一つあるか。最後くらいはリンと一緒にいたかった。愛している、リン。
 
 来たか。月防衛ラインを突破される前にはなんとか間に合った。ガーディアンフォース12を使っても世界の破滅は免れない。だが、彼らもただでは済まない。ざまあみろ。最後は我々が勝つ。
 
 この後の記述は無かった。
 この日記の文字は印刷された文字のようで、この作者の死後に作られたのだろうか。
 推測するに、これは「古の12の神」と関係があるんだろう。
 
「猊下、この本の内容は分かりましたか?」
「あ、はい。」
「では、どんな内容かお話してくださいませんか?」
「え、あぁ、わかりました。」
 
 僕は本の内容を聞かせた。二人は静かに僕の話を真面目に聴いてくれた。
 
「…姉上。」
 
 カイルがジュリエットさんの方を向いた。ジュリエットさんは頷くともう一冊の本を出した。
 
「猊下、この私が持っている本はあなたの読まれた本の翻訳本です。今あなたが読まれた本を読める方は、もはやこの世界には残っていないのです。」
「え、じゃぁ、その翻訳は?」
「これは何百年も昔の時代に訳された本の写本です。ですからこの本に書かれている内容と少しズレがありますが、大筋で猊下の読まれた原板と違いありません。…猊下、申し訳ありません。」
 
 突然ジュリエットさんが僕に深々と謝罪した。僕は突然過ぎて何がどうしたのかさっぱり分からなくて慌てて頭を上げるように促した。
 
「あの、何故謝るんですか?」
 
 僕の問い掛けにカイルが口を開いた。
 
「これは俺が言い出したことだ。お前が二ホンという国の名を出したから、大昔の国の名前じゃないかとおもってな。姉上の統べる教会に本は保管されている。だから姉上に無理を言って持ってきてもらったのさ。」
「それじゃ、僕を調べる為に?」
「あぁ。」
「ごめんなさい。猊下。」
 
 僕は呆気にとられた。
 あんなにコミカルなまでにとぼけた人達だと思ったのに、やっぱり彼らは政治家って人達で、僕が考えている以上に色々なことを考えている人達だったんだ。いや、確かにどこの馬の骨とも知れない少年にこれほどの待遇をする国ってのも変だけどさ…。
 
「謝ることはないよ。で、僕のことはどう思ったんですか?」
 
 僕の問い掛けにジュリエットさんは、

「猊下は、やっぱり猊下でした!」
「え!?」
「もう、この古代文字を解読できちゃうだけで最高ですわ!」
「あららら…」
 
 何か知らないけれど、僕はもっと信じてもらえることになったらしい。
 これは喜んでいいのやら…。
 僕はぽりぽり頭を掻きながらどうしたものかと考えていると、ふと昨日の言葉を想い出してカイルに尋ねた。
 
「あの、カイル。君のお母さんの所へ行くんじゃなかったっけ?」
「そうだ。」
「じゃぁ、会いに行こうよ。」
「だから、来ただろう。」
「え?」
 
 僕は頭が混乱した。
 ここにいるのは僕とカイルとジュリエットさん。他には給仕の人達くらい。
 
「えーと、どこ?」
 
 カイルは僕の問い掛けに指を指し示した。
 その先は…マジ。
 
「えーーー!!!!っていうか、だって、兄弟なんでしょ!?」
「そういうことになっている。」
「ウフフ、ひみつよ〜♪」
「な!?えーーー!?!っていうか、さっきカイルは年頃って!?」
「適齢期には変わりないだろう。」
「………いや、そうだけど…って違うでしょ!?」
 
 あぁ、なんか頭痛くなってきた。
 僕はこの王国の家族構成に激しく疑問を感じつつ、なんとなくこれだけでは済まされない暗雲を感じながら、苦笑を禁じ得なかった。
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【52】通力
 REDCOW  - 06/8/21(月) 12:02 -
  
「ジュリエットさんが…て、本当にどういうことなんですか?」
「…それ以上は秘密ですわ。ただ、この子を産んで後悔はしていません。こんなに男らしく育ったんですもの。」
 
 僕は詳しく聞くのはやめた。
 彼らには彼らにしかわからない事情があって、わざわざ秘密にしているんだろう。そこに僕みたいな外野が不必要に情報に触れることは良くないって思った。何より、誰が聞いているともしれないここでかれらが秘密にしなくてはならない事情を聴くことは、少なくとも適切な場所とは呼べない。
 僕は適当に話題を変えることにした。

「わかりました。えっと、では他に幾つか聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「はい、猊下。」
「その、この世界って戦争とか無いんですか?」
「戦争?……ございますわ。」
 
 ジュリエットさんはそういうと哀しげに近くの花壇に咲く花の方を見た。
 その花は黄色いすいせんの様な可愛らしい球根草だと思われた。
 
「わがアスファーンはこの地域に根ざす大国として知られています。しかし、我が国と他国の外交関係が決して良好であったわけではありません。古くは漆黒の瞳の賢者様が我が国は勿論、世界を導かれたこともある我が国ですが、今はそれ以来脈々と受け継がれる通力の力を怖れ、敵視する勢力があるのです。」
「通力?」
「えぇ。通力とは自然の力と通じて奇跡を起こす能力です。元は12の力が我が国に集いましたが、今では半分の力のみで、我が国に他国をどうこうするほどの意図も無ければ力も無いのが実情です。しかし、人は持てる者と持たざる者の差を気にするものです。我が国に今でも6つの力があるということは、彼らにしてみれば脅威なのでしょう。」
 
 なんだなんだ!?
 今度は突然RPGの定番の魔法っぽいものがあるっぽい発言がでてきたぞ。
 僕は内心わくわくしていた。

「あの、その通力って、僕も扱えるモノなの?」
「猊下ですか?…そうですねぇ、伝説の漆黒の瞳の賢者様は全ての力を調和したと言います。もしかしたら、猊下にも力があるのかもしれませんわ。」
「え、そうなんだ!」
 
 僕は心の中で万歳と両手を上げた。
 やっとなんとなく世界の雰囲気に合った夢の様な能力が使えそうな兆し。
 
「えっと、その力はどうやって使えば…」
 
 その時、城門から駆けてくる1人の兵士の姿があった。
 その兵士は城内を目指していたようだが、僕らを前庭に認めて駆け寄ってきた。
 
「バルムドゥール殿下!カールグリーフが我が国に兵を向けてきました。」
「何!?で、今何処だ。」
「は、現在、ドーリア領付近まで接近。ドーリア公が軍を率いて対峙しておられます。現在スタインベルト軍が援軍に向かっているという報が入っておりますが、カールグリーフの背後にエメレゲが動いているのではないかと…。」
「ガイファーか。よし、分かった。陛下の所へは俺もお前と一緒に付いていこう。来い!」
「は!」
 
 そういうと、カイルは兵士を連れて駆けて行った。
 僕は呆然とその状況を見ているしかなかった。でも、隣のジュリエットさんは哀しげな表情のまま花を見ていた。

 戦争が起こる。
 それはシミュレーションRPGみたいな争いなのかも知れないけれど、失われるのは本物の命。…僕は背筋が凍る様な嫌な感じや急激に冷や汗みたいなものが吹き出すのを感じた。
 
 遊びじゃない。
 誰かの命を失うなんて有っていいわけが無い。どんな人にも家族がいて、友達がいて、哀しむ人がいる。兵士だけじゃない。戦争をすれば沢山の人が家族を失い、命を消していくんだ…。
 
 …止めなきゃ。
 
 僕は無性に何かに突き動かされるように動いていた。
 
「…猊下?」
 
 気がついた時には馬小屋に走っていた。
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【53】運命の赤い麻紐
 REDCOW  - 06/8/23(水) 20:50 -
  
「猊下!お待ちください!」
 
 ジュリエットさんの声が近づく。
 彼女は思わず駆け出した僕のあとを付いてきていた。
 そして、
 
「私もお供致します。それに、猊下、乗馬はお得意で?」
「あ…いえ。」
「ウフフ、なら私が猊下を戦場へ送らせていただきますわ。」
 
 ジュリエットさんはニッコリと微笑むと、突然来ていたワンピースを豪快に脱ぎ捨てた。
 僕はあまりに突然の大胆な行動にあらぬ期待をしていたが、その期待はあっさりと裏切られ、彼女は勇壮な深紅に背中に金糸で唐獅子牡丹を描いたような軍服を着て現れた。…っていうか、何故軍服をワンピースの下に。っつか、ズボンはどっから!?いやいや、唐獅子牡丹!?!
 
「さぁ、行きますよ!」
 
 掛け声一声、彼女は厩舎の白馬に僕を乗せると颯爽とカイル同様に華麗に馬上に乗り、手綱を持って城内を駆け出した。その手綱捌きは手慣れたもので、馬はびゅんびゅんと速さを増した。 
 
「ジュリエットさん、そ、その、」
「ジュリーよ!」
「あ、ジュリーさん!どうして僕を?」
「…猊下、アスファーンは賢者様が開かれた国。そして私は司祭です。猊下にお仕えするのが務め。」
「ジュリーさん…。」
 
 彼女の言葉は、僕に何かを期待していることを示していた。でも、咄嗟に飛び出してしまっただけで僕に何か策があるわけじゃない。だけど…何もしないで後悔はしたくない!!!
 僕はジュリーさんの背から迫り来る視界を眺めていた。前方には広大な草原と、何の舗装も無い土で開かれた王国公道が続いた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーー

 
「ウフフ、まさかあなたと剣を交える日が来るとはね。でも、嫌いじゃないわ。」
 
 ドーリア公国軍を率いるダーグスタは馬上から敵軍勢を見据えていった。
 その彼の腕には輝く文様が現れていた。
 前方の敵軍勢は3000騎。ドーリア軍は2000騎であり、数の上でも相手側が優勢である。特にこの戦場は平地であり細かい策を弄することが出来ないため、純粋な数と練度がものを言う。しかし、それは本物の中世での話しだ。
 ドーリア公を中心に光の円陣が形成される。黄金に輝く円陣は次々にその支配域を広げ、広大な平地に展開する自軍兵力を包み込む様に形成された。
 
 それを見た敵側でも閃光が走る。
 敵軍将ガイファー・ブルーノ・カールグリーフ公爵の手から青い閃光が輝き、彼を中心に青き光の円陣が形成された。その支配域は急速に拡大し彼らの軍勢をドーリア軍同様に包み込んだ。
 
「ウフ、兄上だからって、容赦しないわよーーー!!!!」
 
 ドーリア軍が動く、V字型に形成された隊列陣形はカールグリーフ軍の正面を突破する戦術だ。これに対し、カールグリーフ公爵は隊列を崩さず対峙の構えを解かなかった。ドーリア軍の前衛とカールグリーフ軍の前衛が接触する。
 両軍の兵士との衝突面で青と黄金の閃光が走り弾き合う。二つの力は互角かどちらかというとドーリア公の力が上のようだ。カールグリーフ軍の前衛部隊が次々に黄金の陣営の中に取り込まれていく。すると、彼らはカールグリーフ軍からドーリア軍に投降し始めた。
 情勢の不利を悟ったカールグリーフ公爵は衝突部隊を徐々に後退させながら全軍を後退させ始めた。その間もドーリア軍は勢いに乗り次々にカールグリーフ軍を吸収していく。
 
「…かかった。」
 
 それは突然起こった。
 後退していたカールグリーフ軍は、後退していたと見せかけてドーリア軍を包囲していた。カールグリーフ公爵はこのチャンスを逃さなかった。
 
「ムン!!!」
 
 カールグリーフ公爵は自身の魔法陣でドーリア公の黄金の陣を包み込むと急速に力を抑圧させ始めた。
 
「っち、セコイ戦い方するのね。それだけの軍勢を持ちながら。」
「…フン。」
 
 それは兵士達の包囲が厚くなれば厚くなるほど上昇し、徐々にドーリア軍に寝返った兵士達は勿論、今度はドーリアの兵士達もカールグリーフ側につき始めた。すると、もっと強力な力が働き抑圧し始める。
 
「ダーグ。力はお前に譲る。俺は頭さ。」
「…嫌な男。腐ってるにも程があるわ。」
「そう言ってられるのも今の内。お前も俺の下僕になる運命だ。呪うなら賢者様とこのアスファーンの血を呪うんだな。」
 
 カールグリーフ公爵の力は遂にドーリア公1人を縛るに至る。…と思われたが、その時石つぶてがカールグリーフ公の顔面に直撃した。いや。よく見ると普通なら死ぬよと思うほど大きな漬物石…。憐れ、カールグリーフ公の顏は真っ平らに潰れてしまったと思われたが、彼はその悲劇を背負うのを低調にお断りするかのように、静かに片手で寸での所でその石を掴んでいた。
 彼が視線を向けた先には、一騎の馬に跨がる女性と少年の姿がみとめられた。
 
「ガイファー、あなたって人は。」
 
 ジュリエットは哀しみの目を彼に向けた。
 そのわなわなと震える可憐で細い片腕には、もう一つの漬物石を待機させて。
 
「…姉上、よしてください。そのような石で私を醜い姿に変えて、あなたは兄弟として恥ずかしく思われないのですか。」
「…思う。でも許せない!!!なら、一思いに醜い壁におなりなさい!!!」
 
 目茶苦茶だった。
 彼の後ろに乗る少年は、手綱を握るこの女性の側から離れてすぐにでも他人の振りをしたくてたまらなかった。しかし、彼と彼女は運命の赤い麻紐で固く結ばれていた。…もとい、結束されていた。

「…な、なんでこうなるわけ。」
 
 少年はじたばた動いた。しかし、彼女は自分の片腕にくくり付けた紐を引っ張る。するとキュッと締め上げられ、余計に少年は動けなくなった。
 
「…ジュ、ジュリーさん。どうしてぼくがしばられなくては…」
「だって、あなたがいなかったら、私が出てきた意味が無いじゃない。」
「え、だって、これじゃ僕全く関係ないじゃないですか。」
「そんなことないわ!私をここまで奮い立たせて下さったのも猊下のおかげ!かくなる上は私が全身全霊を賭けて愛して差し上げるのが務めですわ!!!」
 
 少年は自分がとんでもないものを起こしてしまったことを後悔した。
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【54】ジャストミート
 REDCOW  - 06/9/2(土) 5:13 -
  
 僕は何とかしてこの場をどうにかしたかった。
 彼らの軍勢は完全にドーリア軍を包囲していた。でも、ジュリーさんの攻撃は図らずもカールグリーフ公の集中力を解き、術の進行がストップしていた。
 
「ジュリーさん、兎に角落ち着いてください。ジュリーさんの力でなんとかならないんですか?」
 
 僕の言葉にジュリーさんは反応せず、まだ左手に漬物石を持ったままカールグリーフ公を見ていた。
 
「ガイファー、今すぐ軍を引きなさい。」
 
 その声はとても低かった。底知れぬ怒り、いや、哀しみだろうか。ジュリーさんの声の音色には僕には分からない彼との沢山の感情が詰まっている様に感じた。
 
「…幾ら姉上の命でも譲れない。…いや、最早手遅れだ。」
 
 彼はそういうと後方を振り向いた。
 僕等は彼の見た方角をみた。そこには沢山の軍隊の姿があった。その数は5000くらいだろうか、カールグリーフ軍とドーリア軍まで加えたなら一万を越える…。
 僕がそんなことを頭で思い描いている時、ジュリーさんは怒りに左腕をわなわな震わせていた。
 
「あれはエメレゲ都市同盟。」
「え、エメレゲ都市同盟?」
 
 ジュリーさんは僕の問い掛けには答えず、カールグリーフ公を睨むと左手に持った漬物石を器用にも利き腕の様に滑らかな動きで豪快に完璧なコントロールで投げ切った。漬物石は彼女が手から離す寸前に加えたひねりも入り、回転してまるで魔球の様に見えたに違いない。
 石はど真ん中ジャストミートでカールグリーフ公の腹に入ると、憐れカールグリーフ公は30m向こうまで吹っ飛ばされ、兵士達の頭上に落下した。
 僕はマジで目が点になった。いや、これがならないでいられるか!ってくらい…。
 でも、彼女はそれさえも計算ずくの様で、すぐに次の行動に移った。
 彼女は突然馬上から降りると、両手を上に上げて深呼吸するみたいな姿勢をすると、ふぅっと一息吐いて、両腕を真ん中で合掌して構えた。すると、彼女の体から白い光が輝いて地面に魔法陣が輝いた。
 あまりに突然のことに驚いたけど、彼女はまるで風の様にさらさらと流れるように動くと、それに合わせて風が舞い、その風がドーリア軍とカールグリーフ軍を包み込む。両軍を包み込んだ風は白い輝きの粒がキラキラと舞い散り、その輝きに触れた兵士達が次々に我に返り始めた。
 
「ジュリーさん…」
 
 僕は魔法の力は勿論、ジュリーさんの持つ力の凄さを知った。
 彼女はあれだけいがみ合っていた両軍の兵士をあっさりと呪縛から解いたのだから。
 ジュリーさんは一通りの行動を終えると、ダーグさんの方を向いて大声で言った。
 
「ダーグ!私は非戦なんだから、あなたしっかり指揮するのですよ!!負けたら承知しないわよ!」
 
 彼女はそういうと微笑んだ。
 当の言われた側はといえば、頭を掻きつつ苦笑しながら片手を上げて答えた。どうやら同意したらしい。彼は全軍に対して魔法陣を広げると、ドーリアとカールグリーフ両軍で5000の兵力をその指揮下におさめた。そして、
 
「我らが猊下の作りし大地を汚す不届き者を成敗する!いざ、我の願いに報いよ!!!」
 
 ダーグさんの声が木霊する。すると全軍がウォーーーー!!!って声と共に一声にエメレゲ都市同盟軍に向かって走り始めた。その速さは元々騎馬の多いアスファーン側だけに、エメレゲ軍も驚いたのか突然の攻撃に後退を始めた。
 
「ぐぅ、使えん男だ。引け!全軍退却だ!!!」
 
 エメレゲ都市同盟軍を率いた老将カント・ブル・ムスタークは全軍に退却を命じると、後退する軍の最後方に向けて手をかざした。すると、彼の手の平が輝いて横一文字に一斉に光線が飛んだ。その光線は追い上げるドーリア軍の手前を射ぬき、着地面が衝突時に爆音と共に砂ぼこりを吹き上げて視界と進軍を遮った。
 ドーリア公は怯まずに領域外部まで彼らの軍を追っていった。
 
 僕とジュリーさんは誰もいなくなった戦場に取り残された。
 …結局僕には何もできなかったけど、これで良かったのかな。
 
「ジュリーさん、最初からこうするつもりだったんですか?」
 
 ジュリーさんはまたも僕の問い掛けには答えず、黙々と突然前へ歩き始めた。
 僕は馬上でただ見ているだけしか出来ないでいると、彼女は前方で1人の男の人の姿を見つけた。
 僕は慌てて馬を降りてジュリーさんのもとに駆け寄ると、その人は先程ジュリーさんが漬物石で吹っ飛ばしたカールグリーフ公だった。
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【56】500
 REDCOW  - 06/10/20(金) 2:01 -
  
「…いいえ。幸運が重なっただけですわ。」
 
 ジュリーさんはそういうと僕の後方を目を細めてみやった。僕がそれにならって後ろを振り向くと、そこには王都からの援軍の姿があった。援軍を率いるのは白髪の初老の男性だった。とても品の良いルックスをしていて、どことなくカイルにも通じる物を感じる。
 その後ろにはカイルの姿もあった。カイルは僕等に気がつくと、初老の男に何かを告げたようだった。程なくして全軍の進軍が止まると、初老の男性とカイルが付きの者を従えて馬から下りて近づいてきた。
 ジュリーさんはそれを見ても動じずにカールグリーフ公の頭を膝に乗せていた。
 
「ジュリエット、カールか。」
「えぇ。」
 
 初老の男性は静かにそう問いかけると、ジュリーさんもまた静かに肯定するだけだった。二人の間には軍を利用し反旗を翻した謀反人をどうこうしようなんて気は無いように見える。そこにカイルがすぐに反応して付きの兵士達にカールグリーフ公を負傷者として丁重に運ぶよう命じた。彼の命令でカールグリーフ公は負傷者として運ばれていく。ジュリーさんは運ばれていくカールグリーフ公に付いて行った。
 
 僕はカイルと初老の男性に何を言っていいのか正直分からなかった。目前で展開される事柄の全てが非現実的過ぎて僕のキャパシティーを越えている事態ばかりだった。でも、おかしい。こんなに色々なことが起こったのに妙に落ち着いている。…まるで、昔経験していたかのように。
 運ばれていったのを見届けると、初老の男性が僕に話しかけてきた。

「君が賢者様の生まれ変わりという少年ですか?」
「あ、…えーと、僕にはわからないですが、そうらしいです。」
「分からない?…はっはっはっ、そうか。いや、そういうものだろうね。自分から賢者だというほうがよっぽど怪しい。なんとなく、私は君が自然に感じるよ。」
「ありがとうございます。あ、僕はシグレ・クルマと申します。失礼ですが、あなたのお名前は?」
「丁寧にありがとう。私はジスカール・アスファーン。我が王の弟だ。この王都の軍の指揮を預かっている。」
「あ、じゃぁ、追わない方が良いと思いますよ?」
「なぜ?」
「いや、敵軍の勢力は全部で5000ですが、追っていったダーグスタさんの軍は、彼の2000とカールグリーフ公の軍の3000を合わせて5000でした。同じ数で領内でしかも平地部という状況に、アスファーン軍側の構成が騎兵ということを考えても、圧倒的に有利だと思います。ダーグスタさんには援軍がこれる体制があると伝えて領外に追い出させたら、軍を引くように命じるだけで済むかと思います。もし不安に感じられて援軍を出したいということでしたら、騎兵で500程を国旗を持たせて横一列に突っ走らせてはどうでしょう?」
 
 僕の言葉にジスカールさんは驚いた表情で暫く止まっていた。何か不味いことを言ったかなと思っていると、突然シャキンとスイッチが入った様に矢継ぎ早に部下に命令を下し始めた。しかも、その命令の内容は僕の言った内容に沿ったものだった。
 
「今王都を空にするわけにはいきません。あなたはしっかりと敵と味方の勢力を把握している様に感じられる。ならば、あなたに従うのが正しい。」
「え、そんな、確かに数は正しいとは思いますが、これは飽くまで子どもの考えたことですよ?」
「子ども?タダの子どもかどうかは今にわかります。」
 
 彼はそういうと、500の軍勢を援軍としてカイルに任せて送り出し王都へ帰還の号令を出した。僕も彼に王都へ一緒に帰る様に言われたけど、カイルのことが気になった。たったの500人で何ができるんだろうか。もし僕の言葉が間違っていたら…カイルは殺されてしまうかも知れない。そう思ったら無責任に発した自分が嫌になる。

「僕もカイルの軍に同行させてください!」
 
 僕の突然の申し出に初老の男性は困ったような表情をしたが、優しく微笑んで言った。

「心配性の様ですな。あなたの采配は正しい。しかし、ご自分の采配に責任を持たれることもまた大切なことです。良いでしょう。部下を1人あなたにつけます。彼に連れていくよう指示しましょう。」
 
 そういうとジスカールさんは彼のすぐ後ろに仕えていた、緑の髪の僕とそう変わらない少年っぽい兵士に声を掛けて指示を与えた。彼は僕に馬を寄せると手を差し出した。
 
「どうぞ、お手を。」
「うん。」
 
 僕は右手で彼の手を握った。すると、彼が僕を握った手でふわりと軽々上に上げてくれた。なんか呆気ないくらいに簡単に馬上に乗った僕を確認すると、彼は僕に彼に捕まるよう促すと、すぐに馬を走らせ始めた。その視界の前方には先行するカイルの軍が見えた。
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