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第102話「ルール」
クロノ達は仕方なく火の呪印の間に戻った。
すると、今度は道も閉ざされずに中央まで進むことが出来た。
呪印獣のいた中央の祭壇に近づき、クロノが呼びかけた。
「なぁ、呪印はもう一つ出ないのか?」
彼の呼びかけは、虚しく空間に響きわたる。
「なぁ、誰か聴いてるんだろ?」
そこに天井から若い女性の声がした。
「審判を務めてますカナッツです。チームポチョの請求にお答えします。呪印は1チーム1試合一つのルールとなっており、今回の試合で獲得できる呪印の数は一つです。しかし、この試合に参戦したチームは二つとなっています。この場合、どちらか一方が先に獲得したものの勝ちとなります。」
「おい、1チーム1試合一つなんだろ?なら、ファイアブラストは2度目だから反則じゃないのか?」
「いいえ。呪印獲得試合時に複数のチームが参戦することは禁じていません。しかし、2つのチームが双方とも初めての試合の場合はこの限りではなく、どちらか一方をまず選択して試合をさせ、次のチームへ交代させます。」
「つまり、失敗したチームは、他のチームの試合に加わって奪う権利があるってことか?」
「そうなります。今回の試合結果により、火の呪印の総数は一つマイナスであることをお知らせします。では。」
「お、おい!!まだ聴きたいことが!!!」
「………」
カナッツの反応はこれ以降無く、仕方なく3人はこの結果を甘受するしかなかった。
シズクがそっとクロノの肩に手を置いて言った。
「クロノ、私、今度バンダーに会ったら…失格になるかもしれないけど許してね。」
「…お、おい。」
シズクの凄まじい怒りのオーラを感じる。
チームメイトの他二名もその気持ちは分かるが、さすがにこの勢いにはたじろいでいた。
3人は火の呪印はどこかでバンダーから取り戻すことにして、次の呪印の間をめざすことにした。現段階でこの場所から一番近い場所で強い反応を示しているのは地の魔力だった。彼らは地の呪印を目指すことにした。
相変わらず洞窟は真っ暗だった。だが、だいぶこの感覚にも慣れ、魔力で空間を把握しながら歩くという行動が身に付き始めていた。出だしの頃は色々と戸惑いながらだったが、火の呪印までの流れを経験した事で流れを把握した事も有り、心の余裕も出来てきていた。
しかし、地の呪印の方向に向かうと、何故か急激に体が重くなり始めた。
「なんなの、この重力は!?」
シズクは体全体が吸い付けられる様に強力な力を感じていた。
最初はほんの僅かに手足に痺れるような感覚を感じるだけだった。しかし、それは次第に強くなり、徐々に徐々に痺れは重みに変わっていた。強い重りを足枷のように付けて歩く感覚で済んでいた辺りまでは、まだ良かった。今では…
「だ、大丈夫か!?二人とも。」
「私は大丈夫です。私は地属性をESに含むので影響が少ないですが、お二人は天属性ですから大変でしょう。」
「俺は大丈夫。…もっとスゲー奴を知っているからな。」
クロノにとって、この重みは拭えない痛みだった。
この重力にすら勝てなくて、自分の達したい目標など夢に過ぎない。そう思うと余計に腹立たしく、この程度の力に負けるわけにはいかなかった。
「わ、私も大丈夫よぉ。でも、おかしいでしょ!こんな重力。」
大丈夫とは言ったものの、さすがにこんな状況を長く続けていくのは体力の消耗が大きすぎる。
シズクは二人に尋ねることで、出来れば色よい答えが返ってこないかと期待した。
「…そうですね。これは地の呪印のフィールドパワーの影響でしょう。大地に結びつける力が地属性の本来の姿。だから、地の呪印に近づくにつれて重力が増すんです。」
「へぇー…。」
「しかしよぉ、なんかまるで地面に吸い付けられるような感じだぜ?タコかここは。」
「…タコって。」
期待したのが馬鹿だったと自分を反省するシズク。
そんなことは全くお構いなしにマイペースに進む二人の後ろを、彼女はとぼとぼ力なく歩く…ところだが、実際は踏ん張りながら歩くのだった。だが、突然前の二人の歩みが止まる。いや、進めなくなったと言った方が正しいだろう。
彼女も二人のもとに近づいた時、今までとは比較にならない巨大な重力が足を縛りつけた。
「な、何、これ!?」
「…さ、すがに、進めねー、な。」
「困りましたねぇ。」
前方からは一際強い重力波動を感じる。紛れも無く地の呪印の間は近いはずだ。だが、このままでは一歩も進めそうにないことは確かだ。
何か方法が無いかと考えていると、天の魔力で飛翔することで対抗出来ないかと考え始める。火の呪印でもそうだったが、ここはフィールドパワーが大きな意味を持っている。ならばとばかりに、クロノは試しに刀にサンダガを込めると、一気に地面に突き刺した。すると、空間内の重力が一気に無になり、ふよふよと体が浮き始めた。
「お、やりぃ!俺って天才!」
「天の魔力で中和したのですね。なるほど、こうして空間のフィールド効果を変える事がここでの目的なのかしら。クロノさん、お手柄ですね。」
ミネルバに褒められて満更でもないクロノの魔力の揺れを感じて、シズクはより一層呆れていた。しかし、彼女もクロノの行動からようやくこの洞窟の謎が解けてきたようにも感じた。
この洞窟の呪印を守るモンスターも、空間属性を中和もしくは逆転させることで突破することができた。ここでは魔力の質のコントロールが問われており、空間属性を如何に上手く利用できるかが大きな鍵となっていると思われた。
三人はクロノを先頭に、彼が魔力を中和しながら呪印の間への最後の通路を通り抜けた。そして、遂にその後は何事も無く無事に地の呪印の間に入る事が出来た。
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