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第105話「あめ」(CPss2第21話)
一面に降り注ぐ光の雨が容赦なく全ての者を攻撃する。
5属性の中で最も強力な破壊力を持つ天の魔力は生半可な防御では全てを防ぐのは不可能。しかし、それでも一度負けているであろう全てのチームも、この試験に来るだけの力はあるのだろう。第一射は何とか防いでいる様だが、このままではやられるのは時間の問題だろう。そして、それはクロノ達も例外ではない。
「なんなの!?圧倒的じゃない。こんな力がこの国にあるなんて…」
シズクの驚きの声に、ミネルバが言う。
その声はシズクとは違うが、彼女も困惑している様に感じられる。
「私もここまでとは思いませんでした。先ほどの地の呪印といい、この力は扱い方を間違えると恐ろしいことになる。(お父様は何を…)」
二人の驚きにクロノはというと、元々先天属性が天であることもあり、彼にはまだこの攻撃は温い様子だった。彼は魔力を集中すると、地面に向かって天のフィールドを張った。彼のフィールドは3人をドーム状にすっぽり包み込むと、それまでの攻撃を一切受け付けないバリアフィールドを形成した。
「ナイス!クロノ!」
「へへ。」
クロノがフィールドを張った頃、時を同じくして他の2チームも同様のフィールドを張っていた。ただ、フロノ・丿・コリガーチームだけは天とは逆の地のフィールドを形成していた。…どうやら天属性の術者がいないらしい。
「ゲコゲコ、頑張るけろーーー!!」
「ゲロロロロロロロロロロロロロ…」
必死にフィールドを張るフロノ・ノ・コリガーチーム。しかし、強力な属性攻撃に対抗するアンチ属性フィールドでのバリア形勢は通常の倍の魔力を要する為、急速に魔力を消費して行く。だが、蛙族は元々地と水の属性が通常より高い種族であることもあり、高い地属性のES効果が地属性の魔法出力を通常より低い力で発動させることができる。
4チーム4様の防御体制が整ったが、エンジェルバードの第2射が襲いかかる。
光の雨は眼下のチャレンジャーの対応を見て倍以上の出力となって降り注ぐ。必死でフィールドを張っていたフロノ・ノ・コリガーチームだが、突如倍に増えた魔力に堪えられずフィールドが消滅しようとしていた。
「(き、消えるゲロ!?)」
3人は皆消滅を覚悟し祈るように目を瞑った。しかし、彼らの恐れていた事態は起こらない。恐る恐る目を開ける3人の頭上には天のフィールドがあった。そして、一人の男が立っていた。
「大丈夫か。フィールドを延長した。」
「だ、大丈夫だケロ。あなたはチームぽちょの…ありがとうだケロ。」
「なーに、気にするな。困った時はお互い様だろ?それに、ここをクリアしないことには出られない。とりあえず目的は一緒だろ?」
「そうケロね。」
フロノ・ノ・コリガーチームは笑顔を見せると、クロノ達のもとに合流した。
チームリーダーであるカエゾーが人間の言葉で挨拶した。
「迎えてくれて感謝する。俺はカエゾー・カエ。そして、彼女はカエミ、んでもって、彼は勇者グレンの血を引くフログだ。」
「え、勇者グレン?」
クロノは驚いた。この時代にもカエルの血を引く者が居て、実際に会えるとは思いもしなかったからだ。しかし、紹介されたフログは静かに否定する。
「…フログ、フォレストだ。助太刀感謝する。だが、先に言っておくが、俺は勇者ではないぞ。」
「しかし、フォレストって姓は…」
「フォレストなんて有り触れた名だ。フィオナに来れば幾らでも会える。特にグレンは伝説では蛙男で、我々の一族を導いたと聞く。それに敬意を表してフォレスト姓を名乗った蛙族は多い。」
「はは、そ、そうか。」
彼の冷静な否定に、クロノもそれ以上聴く事は出来なかった。
そこにフロノ・ノ・コリガーチームの紅一点であるカエミが挨拶する。
「カエミです!助けてくれて有り難う!」
「あぁ、どーも。一緒に頑張ろうな。」
互いの簡単な紹介をして合流を済ませた2チームは、尚も降り続く光の雨に対して対策を考えていた。だが、考えている内にどんどん魔力が増強されてきており、その出力に耐えかねて遂に1チームが被弾した。
「ぎゃぁあああああああ」
「あ〜〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「うふぅぅぅ〜〜〜〜ん、………もっと。」
最後の悲鳴はともかく、時は一刻を争う状況と言えた。クロノはシズクにバリアフィールドを引き継がせると、一か八かの賭けに出た。
目をつぶり魔力を集中する。
クロノの体が浮き上がり、全身から青いオーラが漏れ出し、彼の足元に魔法陣が形成される。その魔法陣は次々に支配圏を広げ、急速に空間全体に魔法陣が描かれ埋め尽くす。
青きオーラは空間を満たし、その魔法陣からは青く輝く粒子が吹き出して舞い始める。
「(そろそろか…………今だ!)えい!!!」
クロノは目を開けて勢い良く宙から地面に向けてパンチを当てた。そのパンチは地面に描かれた魔法陣の中心にめり込む。すると急速に全ての魔法陣が反応し、膨大な青い輝きが空間を一斉に膨れ上がるように満たした。クロノ最大最強の魔法、シャイニング。
だが、効果は全く現れなかった。
そこに現れたのは、青色の鈍い輝きを放つ全チームを覆う巨大な天属性のドーム状のバリアフィールドだった。
フィールド内部に突如保護されて驚く乙子組と腐れ縁チーム。だが、彼らが驚いている間に頭上のエンジェルバードが第3射を仕掛けた。
「(これで、終わりよ。)」
天から降り注ぐ光が、全てを破壊する。
…はずであったが、全ての光が青きドームに衝突した瞬間、なんと、飴になった。
「え”!?」
全員が驚いた。
降り注ぐ光の雨は全て飴となって降り注ぎ、全ての攻撃は無害な甘いキャンディーとなってしまった。…だが、落下してくる物が痛いことには変わりない。
そこにフログが魔力を集中すると、全チームの頭上に地属性のフィールドを張り、まるで受け皿の様に飴を受け始めた。
「…これで痛く無いだろう。」
もはや全く無害なものとなってしまった光の雨。
そんな状況にエンジェルバードは怒り、それまでの最大級の魔力で第4射を放った。それはそれまでと違ってバケツをひっくり返した雨の様な膨大な量となって降り注ぐ。しかし、それさえもフィールドは全て飴に変換し、何もかも無害化してしまっていた。
受け皿には大量の飴が溜まっている。
「…あなた方の勝利を認めましょう。そう、全ての力は受け流す事もできる。力はあなたの敵ではなく、味方ともなることを覚えていて下さい。」
そう言うと、彼女は光の粒子になると、他の呪印獣同様に呪印球となった。
天の呪印をクリアしたのだ。
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