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第107話「我慢比べ」
乙子組組長であるフォースは、チームメイトのパーとパンチに用意を促すと構えた。
それに対し、対峙するメーガスかしまし娘。達は余裕の表情でそれを眺めている。フォースはそんな彼女達の余裕っぷりが腹立たしくて仕方なかった。そして、思い出されるのは、前回の敗戦の記憶。…彼らは彼女らに屈服したのだ。無残に。
しかし、今回の彼は同じ轍を踏むまいと用意してきていた。それは乙子組としての意地を、いや、男としての意地を通す為の決意ともいえる努力だった。
「俺達を前に余裕かましているたぁ、良い度胸だ。だが、今回の俺達はお前達に負けんぞ!!!」
「そうっすよぉ、アニキの言う通りっす!」
「乙子組を舐めちゃダメダメ。」
一通り彼らの売り文句が終っても、対する相手は呆れたように余裕で構えていた。
フォースはとても腹立たしかったが、ここで感情に溺れるわけにはいかない。彼らはこの時を待ったのだから。
「乙子組ーーーーーっ!ふぁぁいおっ!(Fight!)」
フォースが叫ぶ。
厳つい体でポージングを決めると、彼を中心に天の魔法陣が展開される。そして、それに呼応するように右隣で同様にポージングを決めたパーから火が吹き出し、左隣で同様にポージングを決めたパンチから水が噴き出した。
「いざ、デルタ、エクストリーム!!!」
フォースが突進する。それに引かれるようにパーとパンチの火と水が混ざり合い、天の魔力がその力を推力に変えてフォースのスピードを加速する。
巨大な魔力を纏ったフォースの突進に、ようやくメーガスかしまし娘。が動き出した。
「マルタ!リーパ!良いわね!」
二人の妹に促す姉でありリーダーであるアミラに対し、彼女達からも準備が整ったことを同時の返答で返した。
「はい、おねーさま」
「はい、おねーさま」
アミラは頷くと、妹達の3歩前へ出て合掌し、魔力を集中し始めた。
そして、三姉妹の三女であるマルタが構えて叫ぶ。
「メーガスかしまし娘。ーーーーーー!!!」
マルタの叫びにリーパが続く。
「デルタっ!!!」
リーパが同様に構えて叫んだ時、リーパとマルタの体から魔力が放出され、それらは全てアミラに注がれた。彼女はその力が充填されると、最後の決めぜりふを叫んだ。
「リフレクターっっ!!!!」
アミラが叫びながら合掌した手を前に突き出す。
すると、彼女達全体に薄い青緑のバリアフィールドが展開された。
だが、それ以上は何にも起こらない。
その間にもフォースの突進は続き、遂に彼が目前に迫った。
デルタストームの力をフォースの力技で引っ張り集約して体当たりするデルタエクストリームは、その技の性質上単体の魔力だけではなく、強力な物理的エネルギーも味方にできる。しかも試験の違反に繋がらない自然発生する空間エネルギーをも味方にできるため、単に突進しているだけではない。
この勝負、その場の誰もが乙子組の勝利を確信した。
しかし、
スポコーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
なんと、突然フォースがあらぬ方向に吹っ飛んだ。しかも、ただ吹っ飛んだわけじゃない。彼らは自分達の魔力エネルギーに半ば感電したかのような反応を起こして爆発し、吹っ飛んでいた。そして、無残にもフォースの巨体は彼らの仲間を下敷きとして着地した。
3重の力を持った彼らの力も、メーガスかしまし娘。の張り巡らしたバリアフィールドであるデルタリフレクターによって、その力の全てを完全に跳ね返されたのだ。勝負はあっという間に着いた。
「さぁ、お次はどなた?」
あまりの格の違いにフロノ・ノ・コリガーチームが逃亡を計る。だが、アミラは見逃さず、即座にまるで魔力を鞭のように収束させると投げはなった。
放たれた魔力の鞭はゴムの様に伸びて彼らを拘束する。
「つ、捕まえるなんて卑怯ゲロ!」
「あたし達は降参ケロよー!」
「…無様。」
フロノ・ノ・コリガーチームも戦意喪失の降参を決めた。だが、それを見ても対峙するチームがあった。
「ヒカリ、あのフィールド…たぶん冥のフィールドで、しかも有り得ない高レベルの出力で安定していると見たけど、やれる?」
ベンの問い掛けに、ヒカリは行動で示した。
彼は構えると魔力を集中し始める。
彼を中心に青い天の魔法陣が浮き上がる。それは次第に支配を広げ、空間全体に浸透を始めた。その魔力は先ほどのクロノの魔力にも匹敵する。
あまりの出力の高さにクロノも構えて加勢しようとした。だが、アミラはその動きに軽く手を挙げてにっこり微笑んで静止すると、再度前方を見て先ほど同様にデルタリフレクターの構えに入った。
その間にも天の魔法陣の出力は上昇する。元々この空間が天の呪印の間であることも相まって、その出力は高レベルになっても安定して上昇を続けた。
「(…やれやれ、ぼくらもこの攻撃に賭ける他ないですね。)イーマ、君の力を僕に貸して貰えないかな?」
ベンの願いに、彼女は笑顔で応じた。
「えぇ、良いわ。本当に…腐れ縁ね。」
「…まったく。」
彼女は呆れたように自身の全魔力をベンに託すと、彼もまた自身の魔力を全て引き出し、それらを合わせてボール状に収束させてヒカリに投げつけた。
「思う存分、ぶつけて下さい!!!!」
ボールがヒカリに衝突すると、その力はまるで飲み込まれるようにすうっと吸い込まれた。そして、時を同じくして彼の魔力が急激に上昇した。
「(シャイニング)」
陣が力を解放する。空間にいる全ての存在を圧殺する様な激しい魔力の波が襲いかかる。これには思わずクロノ達も防御フィールドを展開しないではいられないが、その巨大さに追いつかない。慌てるクロノ達を、アミラは微笑んで両手を上げると、そのフィールドを拡大して保護した。
「お、おい、他の奴らも保護してやってくれないか?」
「えー、面倒よぉ。それに、彼らは敵よ?」
「…んなもん、勝負が終っちまえば関係ないだろ。わかった、俺の魔力も貸す。」
そう言うとクロノはアミラに自身の魔力を注ぎ込んだ。
アミラは驚いた。
なぜなら、今まで感じた事が無い程の巨大な奥行きを感じる魔力の流れが入ってくるのだ。通常の魔力は自身に転換されれば馴染んでしまうが、クロノの持つ魔力は彼女の中に流れてきてもなおクロノの存在感を感じる。そして、その力は途方もなく底の知れない巨大な、まるで空の上を漂っている様な力だ。
彼女は全身に鳥肌が立つのを感じた。と同時に、これほどの力があれば空間を拡大することは不可能ではないと感じた。というのも、彼女自身はクロノに言われずとも拡大する用意は有った。だが、このフィールドはとてもデリケートで巨大な魔力を常にコントロールする必要があり、彼女達の魔力ではさすがに今の空間が限度であった。また、空間を拡大し仲間に入れるということは、この鉄壁の防御が消えて無防備になるということでもあった。
しかし、今ならばクロノの願いも叶えると同時に、彼女達も試した事の無い領域へ行ける気がした。何より、彼らは約束を違わずに自分達を仮に保護下に入れるチームが攻撃してきても守ってくれるだろう。…アミラは大人しく彼の厚意を受け入れると、魔力を集中する。
空間が拡大し乙子組とフロノ・ノ・コリガーチームのメンバーが領域の保護下に入った。
それと時を同じくしてシャイニングの攻撃が始まる。
莫大な力のうねりが防御フィールド全体に負荷をかける。アミラはさすがにこれほどの力はこれまで扱った事がなく、対抗するにも普段通りとは行かない。
空間の向こうで魔力の流れを見ながら、ベンがつぶやいた。
「…我慢比べか。」
ベンの瞳の向こうで展開される勝負は、それほどに結果の分からない力比べとなっているように感じられた。
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