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第115話「ヘルファイア」(2月1日号)
「さぁ、どうぞご自由に。」
シズクはそう言うや否や、フィールドに両手から魔法を放った。だが、フィールドに吸収された後は何も起こらなかった。
メンバルは急速に魔力を上昇させると、その力を両手に集めた。
「…私が勝って、決まりよ!!!」
メンバルが魔法を放った。その出力はもはやアイスガというにははばかられるほどに巨大な氷の塊がシズク目掛けて振り掛かる。
だが、シズクは平然と構えると右手の指を一度弾いた。
キッ!
空間に響き渡る甲高い乾いた音が合図であったかのように、突如彼女の周囲を強力な火のフィールドが包み込む。バリアフィールドが展開されると、メンバルのアイスガを易々と蒸発させた。そして、左手の指を弾いた。
キッ!
それは一瞬だった。
シズクの周囲から閃光が走ると、一瞬にしてメンバルを光が貫いた。
それは一瞬の出来事だが、サンダーだ。しかも、通常では考えられないほどの魔力を込めた。
メンバルがプスプスと音を立てて立ち上がろうとする。だが、その意思とは裏腹に体はついてゆかず、彼女はそこに気絶した。
勝負は大方の予想に反して、あっという間に決まってしまった。
バンダーが驚いて面張るに駆け寄る。
「さぁ、これで一勝一分けよ。クロノ、後は『確実』に宜しくね。」
彼女はクロノの肩を叩くと後方に去った。
呆気にとられていたクロノだが、ニヤリと笑って前へ出る。
バンダーはメンバルに応急処置を施すと、それまでの締まらない表情とは違った真剣な顔付きでクロノの前に対峙した。
「…ほな、大将戦といこうやないか。」
バンダーはそう言うと、魔法の詠唱を始めた。
「我が血に眠りし炎の化身よ、その盟約を今解き放つ。」
彼が唱え終えると、瞬時に彼の足元を中心に魔法陣が展開され、炎が吹き出す。そして、一際大きな炎が吹き上がると、そこに新たなる存在が現れた。
「(急激に魔力が落ちた…なんだアレは?)」
クロノは目前で展開される物事を冷静に分析していた。彼は魔力を急速に集中させ詠唱を終えると、魔法効果が現れたのを機会に急激に魔力が激減した。だが、魔法効果は一切起こらず、変わりに魔物とも人ともつかない存在が現れた。
「…バンダー、久しいな。」
「…我がサーバント、ヘルファイア。我が力となりて、目前の敵を燃やし尽くせ。」
「…フッ、お前に使われるほど、俺は落ちぶれてはいない。だが、奴なら良いだろう。我が相手に不足無し。その望み、従おう。」
そういうと、ヘルファイアと呼ばれた化身は、バンダーの前に仁王立ちで構えた。すると、瞬時に彼を中心にバリアフィールドが展開されるのを皮切りに、次々に魔法効果が発動し始めた。
「(な、なんだ!?)」
クロノ目掛けて突然猛攻撃が始まる。
フィールドから次々に炎が巻き起こりクロノに向かって吹き上がる。
クロノは剣を構えると、風のフィールドを造り防いだ。
だが、それは突然起こった。
ピンポンパンポン♪
「戦闘中の両チームの皆様、直ちに戦闘を中止して下さい。」
突然の放送に、両者が天上を見上げた。
「この試合は、チームポチョの反則負けとします。」
「ちょ、何それ!?」
シズクが抗議の声を上げる。
すると、毎度のごとく冷静にカナッツの返答が返ってきた。
「チームポチョ、クロノ選手が本試合において抜刀致しました。本試験では対人戦中における物理攻撃武器の使用を認めておりません。よって、クロノ選手の反則によりバンダー選手の勝利が確定いたします。以上」
プツ
『…バンダー、俺の役目は終わったな。』
ヘルファイアはそう言うとかき消えるように消え去った。
バンダーも半ば呆然としていたが、急激に魔力消費の負荷が体にのしかかる。
「…ま、そゆことやから、天の呪印くれ。」
シズクはバンダーの方を睨むと、渋々懐からプレートをとり出すと、天の呪印を外して手渡した。
「…月の無い夜は、気をつける事ね。」
シズクはぼそりと渡し様呟いた。
バンダーは背筋に寒い風を感じるようだった。しかし、こうしていられないと、バンダーは急いでその場を去ろうとした。だが、そこに予想外の事態が待ちかまえていた。
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