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第116話「ゴール。」
「をほほほほほほほほほほっ!!!逃がさないわよ〜〜〜。」
なんと、そこにはメーガスかしまし娘。の姿があった。
彼ら三姉妹がバンダー達の前に立ちふさがる。
「クソ女、そこどけ!」
「あ〜ら、随分と言ってくれるじゃないわけ?おたくみたいな赤い赤いチェリーちゃんには私の魅力はわからないわけ?可愛そうなわけ?そうなわけ〜?をほほほ〜♪」
バンダーはこんな問答につきあっている余裕は無かった。
彼の判断は速かった。
ファイアブラストのメンバーが強行突破を試みる。
しかし、
「マルタ、リーパ。」
「はい、お姉さま!」
「はい、お姉さま!」
反応するのは三姉妹の方が僅かに早かった。
「うぐはぁ!?」
バンダー達は突然空間の壁にぶつかり、全身を強く打ち付けてしまった。
なんと彼女らは通路上に見えない壁を作り出していたのだ。これでは、もはや彼女達の申し込みを受け付ける以外に選択肢は無い。
バンダーは思わず唇を噛んだ。
「(この一番良いところであいつらは…)…あんたら、そないに俺のことが好きなんか?そうなんか?そりゃー、有り難迷惑って奴やなぁ〜はっはっは。」
「自意識過剰も休み休み言った方が良いんじゃないわけ〜?…あたしはねぇ、目前に立ちふさがる良い男をひれ伏させるのが好きなわけ。そこんとこ、よろしく。ウフフ………さぁ、勝負よ!」
そう言うや否や彼女達はお決まりのフォーメーションを組み、早々と準備を整えた。
『デルタ!リフレクターーー!!!」
アミラが高らかに叫ぶと、彼女達の周囲に鈍い輝きを放ったフィールドが形成された。
バンダーは心の中で苦笑していた。
彼の目論みでは彼女達に対峙するのは「万全な体制」が整った後のはずだった。しかし、現在はクロノ達との戦いで既に大幅に消耗し、切り札であるヘル・ファイアも使った後だった。この状況で彼女らのフィールドを破壊するのは容易な話ではない。
彼の想定し得る最悪の状況といえる。だが、それをそうだと認めたところで何かが起るわけではない。
「…(道が無いなら、作ればいい。)メンバル!ヤッパ!俺に魔力よこせ!」
「!OK!」
「…うん、わかった。」
二人はバンダーの要請に従い、自らの魔力をバンダーに託した。バンダーはそれらの魔力を得て魔力を回復させると構えた。
「(…二人の残り少ない魔力を集めてもこれだけか。…いや、こんなにあるんや。これを大事に使わんでどないする。誰の戦いでも無い。俺の戦いや。)…ほなら、いっちょ気張っていくぜ!」
バンダーが魔力を集中する。
彼を中心に急速に魔力が上昇し、その圧力が熱となって空間に伝わる。
「…我が血に眠りし炎の化身よ、その盟約を今解き放つ。」
彼が唱え終えると、瞬時に彼の足元を中心に魔法陣が展開され、炎が吹き出す。そして、一際大きな炎が吹き上がると、そこに新たなる存在が現れた。
「…ほぅ、二度目か。だが、随分と余裕の無さそうな顔付きだな。はっはっは、良いぜ。その顔。そういう顔じゃなきゃ、俺も燃えねぇからなぁ。」
「…ごたごたうるせぇ!我がサーバント、ヘルファイア!その炎で、目前の敵を焼き尽くせ!フルパワーだ!!!」
「…ほぉ、いいぜぇ!やってやる、その代わり、お前の体はしらねぇぞ!はっはっは!!!」
「っち。」
ヘルファイアが構える。すると、彼を中心に真円を描いて炎が吹き出した。そして、次々にその輪が描き出されると、そこから煮えたぎるマグマがふよふよと漂うように上昇して壁を作った。
「(人の事言えないけど、嫌らしい魔法ね。さすが最強の炎術師の家系は伊達じゃないわけ)」
彼女は一層魔法に集中する。
そんな彼女の緊張を察して、二人の妹も姉に従うように真剣な眼差しになった。
『ボルケーノ』
ヘルファイアが唱えると、メーガスかしまし娘。の反射フィールドに灼熱のマグマが襲いかかる。マグマはその膨大な熱でフィールド内部の人間を焼き尽くさん勢いだ。
「へっへっへ、如何にフィールドが最強だろうが、魔力の放つ熱には勝てねえだろう。」
「…ふふふ、寝言は寝てから言ってくれないわけ?ブルーアース!!!」
アミラはエレメントを発動。ブルーアースがフィールドを水属性に転換した。すると、急速にヘルファイアのボルケーノの出力が低下し始めた。そこに、彼女は間髪入れずに構える。
「あたしらが防御専門だと思っちゃ間違いなわけ。…リーパ、マルタ?」
「はい、お姉様!フラッド!」
「はい、お姉様!アイスバーグ!」
リーパとマルタのエレメントが発動する。
巨大な流氷の津波がヘルファイアへ向けて襲いかかる。
ヘルファイアは両腕を前につき出して防御の構えをした。
そこに流れが襲いかかる。ヘルファイアの全身から炎のフィールドが膨大に吹き出して、前方から流れてくる全ての水を蒸発させ始める。
「…しぶといわねぇ。なら、あたしがフィニッシュなわけ。」
アミラが二人の妹の攻撃では倒せない事を見越していたかのように、集中していた魔力をフィールドから前方に集約した。
「押して駄目なら引いて見ろと人は言うけど…あたしは更に押してあげるわけ。リフレクター攻撃形態!デルタ・リフレクトリーム!!!」
リフレクターフィールドが前方に集中したかと思うと、その魔力を前方に突き出してアミラが突進した。リフレクトフィールド纏ったアミラが進む道の全ての魔力が濃密に圧縮されたリフレクトフィールドの斥力によって弾かれ、彼女の進む道を開ける。
「…ぐぅ、女、やるな。」
「…うふ。」
アミラの右ストレートが完璧にヘルファイアの懐に決まった。
ヘルファイアはその衝撃で姿を保てなくなり、光の粒となって消滅した。
その強烈な衝撃は術者であるバンダーにも伝わった。
「…ぐぅぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…参った。」
「バンダー!?」
「…バンダー。」
メンバルが駆け寄り彼のよろめく体を支える。ヤッパも心配で彼の近くに寄った。
バンダーは彼らの支えを受けながら懐から呪印プレートを取り出した。
「…負けたからな。さぁ、受け取れ。」
「…あんたはなかなか楽しめたわ。強くて良い男は大好きよ。そして、潔い所はもっと好きね。」
そう言うとアミラは近づいてにっこり微笑むと頬に口付けし、彼からプレートを受け取った。
「な!?」
「うふ。」
「ちょ、ちょっとー!」
バンダーは虚を突かれ驚き、メンバルは彼女の行動に憤る。
そんな二人にお構いなくアミラはプレートを受け取って、前方に向かってダッシュを始めた。それに続くように二人の妹もダッシュして続けた。
彼女達は暗い洞窟から光有る方向へ一心不乱に走り続けた。
そして、遂に…
「おめでとうございます!メーガスかしまし娘。チーム、第二次試験合格を認めます。」
「やったわー!!!よく頑張ったわ!あたし達!」
「はい、お姉様!」
「はい、お姉様!」
第二次試験合格チーム「メーガスかしまし娘。」決定。
「…あ。」
…その場に居て、輝きに向かってあまりにも爽やかに走る彼らを見て、バンダー達はともかく、クロノ達は彼らから奪う最大のチャンスであったものを見逃してしまった。
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