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第118話「託す」(CPss2第34話)
「なんだ、お前達まで来たケロ?」
クロノ達の姿を見て驚いたようにカエゾーが言った。
見ると、そこにはフロノ・ノ・コリガーチームと腐れ縁チームの姿が有った。
クロノは彼の言葉を聞いて尋ねた。
「ん?までって、もしかして、ハイド達も来たのか?」
「そうケロよ。」
その質問に横から笑顔でカエミが答えた。
そして彼女は続ける。
「そういえば、バトルを申し込まれたケロ。でも、話に聞けばもう枠が埋まっているそうケロね?だから、必要な分だけあげたケロよ?」
どうやら、彼らはハイドの話を聞いて試験が終ったものと思ったらしい。ならばとばかりに、クロノ達はその言葉に乗る事にした。
「その、俺達も呪印が欲しいんだ。良かったら君らから一つずつで良いから、君達の呪印が欲しい。」
クロノの言葉に奥に座っていたヒカリが言った。
「どういうことだ?…お前達といい、コア・ガードといい、そんなものを今更集めてどうするんだ?」
クロノは彼のズバリな質問に答えに窮する。
そこに、彼の質問にシズクが前に出て答えた。
「実験よ。」
「実験?」
「…呪印は5つ必要だけど、既に枠は埋まったわ。でも、試験の終わりは宣言されていない。変だと思わない?」
「…確かにな。だが、それがどうして呪印を集める事になる?」
「残った呪印で何が出来るのか、最後まで試してみたいのよ。私達はまだこの試験には裏道が残されている様に思うの。」
「…そうか。だけどよ、お前達は何の為にこの試験を受けているんだ?…思えば、お前達は一体何者なんだ。見たところどう見てもただの人間だろ?なのに、なんでそんなに強力な魔力を持っている。」
「それは…。」
シズクはさすがに何て答えて良いのか分からなかった。
しばしの沈黙が辺りを支配するかに思えたその時、クロノが言った。
「俺達は人間だ。でも、魔力を持ってしまった。だけどさ、本当は人間も魔族も元は同じなんだろ?…なら、人間の中にも魔力を持っていることを知らずに育つ奴だってきっといる。いや、正しくは眠っている奴ってとこか。俺はその中で目覚めてしまった奴だ。魔力については、俺にも分からない。ただ、俺は知りたいんだ。俺達が魔力を持った理由だけじゃない。色々なことをボッシュに聴きたいから、ボッシュが示した条件にしたがってこの試験を受けている。」
クロノの話にヒカリは勿論、彼の仲間やフロノ・ノ・コリガーチームの面々も驚いた表情をしている。
「…おい、それって、つまり、ボッシュ様に会う為にやっているってのか?」
「そうだ。」
「………、ボッシュって呼び捨てているけど、お前、ボッシュ様がどんな方か知っているのか?この国の父だぞ?そんな雲の上の人物にお前みたいな人間が会わせてもらえるわけないだろ?」
「…でも、魔力は凄いケロね。それだけの力があるなら、ボッシュ様じゃなくても注目はするかもケロ…」
「…。」
二つのチームのメンバーは、クロノのあまりにも突飛な話にどう考えていいのか困惑していた。彼の話が本当だとしたら、この人間達は一体何者なのかという謎が更に深まる様に感じられた。
そこに腕組みをして静かに座っていたベンが言った。
「…その昔、国父ボッシュ様には若い人間の友人が居たという。その人は人間達の王国の若い夫妻だった。」
「…おい、ベン。それって、俺にだって分かるぞ。滅んだ王国の死んだ王太子夫婦のことだろ。名前は確か…マールディア・ガルディア王女と、その婚約者の名前がトラシェイド公………トラシェイド………クロノ・トラシェイド………クロノ・トラシェイド!?って、おい、マジなら今は40超えたおっさんのはずだろ!?」
「…トラシェイド公にはもう一つの伝説がある。」
「…未来を救った…ケロ?」
カエミの言葉に場の雰囲気は一層混乱に拍車が掛る。
「待てよ待てよ、おい、なら、何か?こいつがトラシェイド公で、未来の時代であるここに来たってことかよ。んな阿呆なことあっか!」
ヒカリの反発に、ベンが冷静に言った。
「ヒカリ、これは全て推測だ。彼がトラシェイド公であるとは限らない。第一、君の言った通り、本当なら彼の若さを説明できない。もしそれさえ本当だとしても、過去から未来へ飛ぶなんて話を納得できるはずも無い。…だけど、冷静に考えてみよう。僕らの目的は何だった。」
「…黒薔薇を倒すことだ。」
ヒカリの言葉に、クロノ達の方が今度は驚いた。
「黒薔薇!?おい、どういうことなんだ!」
クロノの予想外の反応にヒカリは困惑しつつ言った。
「俺達の一族は奴らに殺された。ベンのゾガリ一族も、俺のイジューインも、イーマのター一族も、黒薔薇の暗躍にしてやられた。奴らは20年前の戦いで手を焼いた、エインシェントを継承するティエンレン一族を恐れている。」
「どうやって、ここに黒薔薇が来ると知ったんだ?」
「政府のエージェントが俺達の様な一族を保護している。情報は彼らからだ。」
「…そうか。」
クロノは彼らの話から大枠が見え始めた様に感じた。
確かにクロノも変だとは感じていた。これほどの魔力の高いメンバーが一度に集る事があるのだろうかという事は勿論、黒薔薇の存在すら不自然な符合と言えた。少なくとも、メディーナ政府は自分達の存在を確実に掴んでおり、その存在を利用している可能性は否定できない状況だろうと言えた。
「俺達はコア・ガードのハイドも黒薔薇を追っていると聴いた。そして、たぶん、その黒薔薇がグリフィスだということも突き止めた。だが、この状況を見るに、ここに集っている受験者はみんな黒薔薇に何らかの縁がある奴ってことなんじゃないか。」
クロノの言葉にベンが頷いて答えた。
「あなたの話した通りだと思います。フロノ・ノ・コリガーチームは大陸フィオナ出身。フィオナでは黒薔薇の暗躍で、魔法剣の名門フォレスト家の長子が行方不明と聴く。」
ベンの話にフログが頷いた。
そして、おもむろに人間語で話始めた。
「如何にも。」
彼はそう答えると、静かに目を閉じて瞑想する。
すると、彼の体から膨大な蒸気が飛び出した。それは彼の体を一瞬見失うほどの量だった。その蒸気が晴れると、そこには緑髪の人間の姿が有った。ただ、その姿は人間というよりは魔族の特徴を多く持っている。
彼は姿勢を正し、呼吸を整えると話した。
「…驚かれただろうが、この姿の変異はフォレスト家の血縁者のみに現れるフォレストの血。我が家はフォレスト家とは無縁ではない。フォレスト流剣術を継承する血縁一門衆である。此度は首長会の決定に従い、メディーナ政府の情報に基づいて派遣された、いわば調査隊としてここに来ている。勿論、可能であれば確保/処刑もその視野に入れていたが…この試験のレベルの高さに少々驚いてもいた所だ。しかし、目的を同じにする者達が集っているというならば、頷ける。」
「フログ様、良いんですか!?ご身分を明かされても。」
「…案ずる事は無い。既にグリフィスというチームが抜けているのだろう。ならば、ここにはメディーナ政府が用意した刺客兼エサの我々が居るのみということだろう。」
「エサケロ!?」
「そうだ。我々は皆揃いも揃ってエインシェント使いだ。ならば彼らの目的に合致するエサだということだ。」
「…なるほどケロ。」
「しかし、だとしたら、なぜメディーナ政府はグリフィスを捕らえない?」
ヒカリが当然誰もが思う疑問を述べた。
それに対して、ミネルバが静かに言った。
「…ビネガードクトリンの縛りね。私達は人間の争いに関与しない。故に人間との争いも極力避け、兆発・脅しに乗らないことを主義として掲げている。これは、長い時代の倣いに従い、我々の動く道としての大切な基本原則。」
「それが、パレポリを野放しにする事をよしとするってのかよ!」
「それは、私達にも尊厳が有る。私達の自由と自立が脅かされるならば、少なくとも私は立ち上がります。」
「…。」
ヒカリは彼女の言葉にそれ以上反論を出す事が出来なかった。
確かに彼女の言う通り、誰もが感じている事でありながら、それを変えないのには意味があり、同時にそうした縛りは自分達自信の必要に応じて変える事もできるということは、誰にも分かっている事だった。それをしないのは誰のせいでもない、自分自身の問題なのだと。
そこに、フログがクロノの方を振り向いて言った。
「クロノ殿、あなたに我らの呪印を託そう。」
「良いんですか?…その、俺達を信じて。」
「…信じるも何も、我々には力が無い。力が無い者に語る資格は与えられない。だが、そうした者にも『託す』ことは出来る。己の信じる道を進むと思える者に、それが実現可能だと思える者に。我々はあなた方に託してみようと思う。」
「…有り難う。」
「待った、その提案、俺達も乗るぜ。俺達の呪印も持って行け。たぶん、奴らに勝てるのはお前らくらいじゃないと無理だろ。」
「ヒカリ………、ベンくん、君も良いのかな。」
「…一応リーダーだからねぇ。それにボクもイーマも同意見かな。イーマ?」
「えぇ。彼の言う通りよ。」
「ということだ。納得してくれたかな?」
「有り難う。みんな。」
クロノは彼らに感謝し深々と礼をした。
その姿は見る者に何かわからないが神々しく感じるオーラが有った。
そんな彼にヒカリが立ち上がって小突いた。驚き困惑して頭を上げたクロノの腕を掴み、彼はがっちりと握手して言った。
「絶対勝てよ。」
「あぁ。必ず。」
クロノも強く握り返し答えた。
その後、クロノは2チームの全ての呪印を譲り受け、天の呪印の間を後にした。
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