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第106回「不利」(CPss2第22話)
シズクが跳躍する。
それと時を同じくして他のチームも呪印球目掛けてジャンプした。だが、ジャンプ力では蛙族に及ぶ種族は居ない。
「いただきだゲロ!」
「あ、ちょっと!」
カエオが素早くキャッチしてフログにパスを回す。
だが、
「パーーーーーーーーー!!!!はっはっはぁ」
そこに乙子組副リーダー(?)パー・ヤネンが豪快なパスカットを決めて呪印球を弾く。しかし、弾いては意味が無いとすかさずチームメンバーから突っ込みのパンチが走る。
「いやぁぁーーーーん、そこ、だめよぉ〜〜〜〜!!!」
奇声を発しながら、怪しいお仕置きの始まる乙子組を他所に、その隙に腐れ縁チームの紅一点である、紫の髪に金色の瞳をもった美少女イーマが、華麗に魔力で引き寄せる。彼女の地属性の魔力が引力となって、後僅かで彼女の手に入る瞬間、そこに猛烈な勢いでシズクがラリアット体制で突進。
「うはははははははははは!あたしの前にいたら、跳ね飛ばすわよぉおお!!!!」
彼女が驚いて身を咄嗟に引いた隙を突いて、シズクはしっかりと呪印球を右手でキャッチすると、左手で予め貯め込んでいた火の魔力を地面に叩付けた。
ゴォオオオオオオオオオ!!!!
「きゃぁ!」
シズクを捕まえようとしていた矢先に起こった爆発に、イーマが思わず悲鳴を上げて身をかわす。シズクは爆発の反動を利用して後方に素早く跳躍。
…こうして、チームポチョは火の呪印と同じ轍は踏まなかった。
だがしかし、それを確認して一斉に3チームがチームポチョに対戦を申し込んだ。
基本的に拒否できないルール上承諾せざるを得ないが、3対1という不利な状況に腑に落ちないシズクが、天上を向き審判に大声で抗議する。
「ねぇ!ちょっとぉ!3対1なんて、どう見てもおかしいよ!」
彼女の抗議に、待ってましたとばかりに即座に応答があった。
「…審判のカナッツです。チームポチョの要求は却下します。この戦闘はルール上の違反項目に抵触せず、全て正当な手続きの上に進行しています。」
「え”ー!!!マジ、何よそれ!ちょっと!一方的過ぎじゃないのよぉ!!!」
「ルールですから。皆様のご健闘をお祈り申し上げます。」
彼女の無情な宣告に、シズクは怒りを露に天上のスピーカーに向けて睨みをきかすと、すぐに構えた。
彼女の姿勢を見て、攻撃に回る3チームもまた構えた。
「…悪く思うなよ。」
ヒカリのその一言が口火を切るように、一気に3チームの猛烈な魔法攻撃が開始される。クロノ達はバリアフィールドの展開に全力で魔力を集中し防ぐが、流石にクロノ達にも3チーム同時の強烈な魔法攻撃を防ぐのは容易ではない。しかも、彼らの攻撃は全ての属性を含んでおり、フィールドへの対応も必然的に全属性に効果のある冥属性フィールドを展開しなくてはならないが、その為には反属性の反作用の均衡を取らなくてはならず、天属性主体のクロノ達には不利に働いた。
「くぅ、奴ら、さっきの戦いを観て学習したってことか!?」
クロノが苦る。
先ほどの戦いで出したシャイニングを見て、確かに彼らがクロノ達の実力を考えて共同戦線を張っていると見るのは妥当な判断と言えた。しかし、妥当なだけでは次は無い。だが、それはこちらも同じ事と言えた。
「…引いて駄目なら、押してみるっきゃ無いでしょ!」
シズクはそう言うと、ミネルバに目配せする。彼女もまたシズクの意図を理解し、魔力を集中し始めた。
シズクは火の魔力をミネルバの出力に合わせて安定させると、二人は同時に前方フィールド向こうの敵に向かってそれを投げ掛けた。
火と水の反作用属性が反発し猛烈な爆発が起こる。
反作用ボム。…昔、ルッカが発案した魔法攻撃だ。
だが、前方では爆風の向こうで腐れ縁チームのベンとイーマが同様の反作用フィールドを放ち、相殺していた様だ。そして、攻撃が終ると間髪を入れずにヒカリが跳躍すると、両手に貯めていた天属性の魔力を放った。彼の足元には青白く光り輝く魔法陣が支配を広げている。
…これは紛れも無い、天属性最大最強の魔法、
「シャイニンーーーグ!!!」
彼を中心に爆発的に天の魔力が空間に作用し始め、猛烈な勢いで魔力の中心目掛けて空間が歪曲していく。膨大な重力と反発する斥力が波のように押し寄せ、圧縮し加圧された空間から膨大なエネルギーが吹き出す。
クロノは驚き、自身もシャイニングを咄嗟に放つ。
だが、準備の整ったヒカリのものと比べると、その魔力の出力は格段に弱い。
それを見てシズクとミネルバはもう一度反作用ボムをシャイニングに向けて出力を上げて放つ。
ドォォオオオオオオオオオオン!!!!!
直撃だった。
その衝撃はクロノ達の背後の壁面を抉るような爪痕として残されていた。だが、爆風の後に現れたのは、誰もが予想しえなかったものだった。
「わて〜ら、よーきな、かしましむすめ〜♪」
そこに現れたのは、クロノ達の前に立つ3人の女性の姿。
その1人、赤い全身タイツ状のスーツを着た、見事なボディラインの女性がクロノに言った。
「この戦い、お宅らに加担するよ。その代わり、あんたらに天の呪印はくれてやるから、あたしらは奴らの他の呪印を頂く。どうだい?」
「…よし、良いぜ。その条件飲んだ!約束忘れないでくれよ。」
「ウフ、おーきに。良い男は返事も色良いねぇ〜。さて、リーパ、マルタ、纏まったよ。用意は良い?」
「はい、おねーさま!」
「準備万端ですわ。おねーさま。」
二人の妹の返事に、メーガスかしまし娘リーダーであるアミラは、そのしなやかな肢体を妖艶にくねらせると、突如何かのポーズをとった。すると、それに時を同じくして二人もポージングを決めた。
「愛は!」
「どろどろ!」
「昼ドラのプリンセスになりたかったけど、ちょっと難しいんじゃなぁいって言われてもめげない、そんなしなやかな女性って良いわよねぇって思いながらも、がさつさが抜けない自称セブンティーンな27歳独身絶賛婿募集中のアミラ、with、メーガス、かしまし娘ぇええええ!!!」
沈黙が支配する。
多少気後れしている面々を他所に、そこに先頭に立って彼女達に立ち向かう勇姿があった。突如何処からともなくバンジョーと、口笛の渋いBGMが鳴り始める。
「ほぉ、もはやバブルと共に弾けたと思われていた絶滅危惧種、ボディコン(死語)美女集団、かしまし女の登場か。」
「アニキ、やっちまいましょう!ここでやらねば男がすたるっってもんすよ!」
「そおっす!今度こそ奴らに目に物見せてやりましょう!!!」
「お前達、…強くなったなぁ。兄ちゃんは嬉しいぃ!!!」
何やらベタな芝居と共に対抗心を燃やし、筋肉馬鹿変態男3人組と思われていた乙子組が、珍しく男らしき姿で彼女らに対峙した。
その情景は、誰もが確かに緊迫していることには間違いないと考えるだろうが、何か激しく間違っている様に感じられた。
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