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第101話「ファイアブラスト」(CPss2第17話)
「バンダー!?…どうしてあなた方が。」
ミネルバの問いに、バンダーと呼ばれた赤い髪の青年はニッコリ笑って言った。
「そない驚くなや。まぁ、俺かてなんも意味なくここにおらへん。どや、共同戦線と行こうや?」
「どういうこと。」
「どうもこうも…おぉっと、話してる暇はねぇよって!前見ぃ!」
「え!?」
中央の台座の炎が巨大な獣の形に整形され始める。
その形は体は四足動物の様な体つきをしているが二足で立ち上がっており、頭は大きな角を二本生やし、額に水の呪印同様に火の呪印がはめ込まれていた。
「我が名はフレアビースト。フィールドは閉じられた。空間に存在する者は全て、我が炎の前に灰となるがいい。」
その瞬間、轟音と共に炎が吹き出す。
ミネルバは即座にフィールドの水属性を強化し防ぐ。しかし、その出力が追いつかない。もはや防ぎきれないと思った瞬間、突然ミネルバのフィールドは炎を押し返して安定を始めた。これは自分の力ではなく、明らかに他の人の力が加わっていた。
驚いたミネルバが力の出所を見ると、バンダーのメンバーの女の子が魔力を注いでいる事に目が止まった。
そこにバンダーが言う。
「あんたらだけじゃ無理だ!わかったろ?俺らと一緒に合わせがけすれば耐えられる!!」
悔しいが、確かに彼の言う通りだった。
ミネルバがクロノを見ると、クロノも頷いた。
「わかったわ!で、どうするの!」
「おぅ、ほんまか?ほな、俺んとこのメンバルがあんたらのフィールドと直結するさかい、少し待っときぃ!」
バンダーの言葉の後、空間を包み込む炎を切り裂くように道が現れ、炎術師バンダー率いるファイアブラストのメンバーが、クロノ達と合流した。
「ほな、よろしくな!」
バンダーが笑顔でクロノに握手を求める。
クロノはそれに快く手を差し出した。
「君たちは一度ここを知っているんだな。」
「おぅよ!ここの炎は厄介やでぇ!俺は炎術師やしな。まぁ、メンバルの氷には自信あんねんけど、さすがにこれはなぁ…。せやから、誰か強ぇ奴が来んか待ってたっちゅうわけや。」
そう言ってぽりぽりと苦笑いして頭を掻くバンダーに対し、いかにもうさん臭そうという表情でいるシズクの姿があった。
彼女はじろりと横目にみると、彼にいった。
「策はあるの?」
「策?策………策、サクサクサク、ん!?この菓子旨いなぁ!」
シズクの問い掛けに彼は懐から唐突に菓子を出して食べた。ウエハースの様な菓子をさくさくと軽快な音を鳴らして食べる彼の表情は、とても旨いと訴えているかのようだ。だが、彼女の質問の答えにはなっていない。
「無いのね???」
「………はい。」
彼は彼女の無表情な冷たい一言に凍りつき、しおしおしおと萎れるように小さく隅に縮むと正直に答えた。
彼女はその答えに呆れたように溜め息を一つ吐くと、魔獣の方を向いて構え、手に魔力を集めて一気に放出した。
「えい!!!」
「火ぃぃ!?!」
バンダーは思わず目玉が飛び出しそうなほど驚いた。
彼女が放った魔法は、水でも氷でも風でもなく火。自分が使う魔法と同じならば、フレアビーストの属性とも同じ。どう考えても回復させているとしか思えない。
案の定、シズクの放ったファイアは、フレアビーストの体にボシュっという音と共に吸収されてしまった。
「…やっぱり駄目ね。」
「当たり前や!んなこと、どないなアホでもわかるわ!!」
「…やかましいわ!黙ってて無策野郎。」
「なっ!?」
「無策じゃないなら言ってみなさい!」
「………はい。無策です。」
バンダーは何も言えず、再び隅で小さくイジイジ体育座りをして彼女の言葉を肯定した。彼女もまた再度溜め息を吐くと話始めた。
「えっと、良いかしら。私は水の呪印から推測して、この魔獣もフィールドと一体化していると見たわ。でも、単なる水属性で圧倒しただけでは焼け石に水って言うぐらいだから、多分倒せない。だから、もう一つの火の消し方を実践してみようと思う。」
彼女の提案にクロノが問う。
「もう一つの消し方?」
「そう。クロノ、火はどうやって燃えるかしら?」
「どうやってって、燃えるものがいるだろ?あと、火種と、空気か?」
「そうね。燃えるものと火種と空気。これで彼の弱点は明らかよね?彼が唯一作り出せない物が弱点と見たわ。」
「作り出せないもの?………空気か?」
彼女はにやりと微笑み言った。
「…私が天のフィールドでみんなを宙に浮かせるから、その後クロノ、空間にカマイタチ宜しく。そして、ミネルバさんとメンバルさんで出来るだけ強力なシャボンアイスを作って保護して。その間、バンダーさんは一瞬水のフィールドを解かないといけないから、わかるわね?」
彼女の問い掛けに一同がフムフムと頷いていると、隅の方で体育座りしていた青年が、突如わが世の春のごとき勢いで彼女の前に現れた。
「おぅ!火で相殺やな。相殺なんやな!?そうか!そういうことか!…んで、真空なら燃えない。その手があったわ!!頭ええなぁ!嬢ちゃぁん!」
彼は彼女の頭を笑顔で撫でようとした…が、それは一瞬で顔面が蒼白になった。彼の目前の女性は、この世のものとも思えない形相で彼の行動を片手で丁重にお断りしていた。
「嬢ちゃんじゃないわ。私はシズク。そう。でも、真空は私達にとっても諸刃の剣。真空から私達を保護しなくてはならないわ。更にこの空間の炎もある…そのためにカマイタチに負けない水と天のバリアが要る。」
シズクの作戦に一同が同意すると、その作戦は実行される事となった。
各自が準備に入る。
「用意は良いわね?、行くよ!」
シズクの体から天の魔力が放出され、全員が徐々に宙に浮かび始める。そして、うっすらと天のフィールドが球状に形成された。
それを確認すると、クロノ・ミネルバ・バンダー・メンバルの4人がそれぞれの顔を見て確認する。そして、次の瞬間ミネルバとメンバルの水のフィールドが解除された。そして、それを合図にクロノがカマイタチを地面に向けて思いっきり放つ。
「行っけぇぇぇえええ!!!!」
巨大な真空波が地面に衝突すると、その衝撃が空間全体を激震させる。すると空間の火のフィールドが不安定になり始めた。
それと時を同じくしてバンダーは火のフィールドを張り、ミネルバとメンバルのフィールド形勢を待つ。
「うぅ、くぅぅ!こ、こないな炎…そうそう出ぇへんでぇ!」
地面に刻み込まれた真空の傷跡から、天の力が輝く刃となって空間全域に急速に染み渡り始める。遂に真空のフィールドが生じようとしていた。
「ま、まだか!!はよぉ、せぇぇえええいいい!!!」
バンダーが叫んだのと時を同じくして、遂に彼の待ちに待っていた効果が現れた。
まずミネルバのシャボンフィールドが張り巡らされると、その水をメキメキと水晶の様に透き通る氷のフィールドが染み渡った。
氷のフィールドが完成した。
「はひぃぃ!?………ふぅ。へっ!、無茶させるよって…。…ほっ。」
へたるようにその場に構えを解き崩れるバンダー。
クロノ達も空間の推移を見つめた。
空間が急速に冷えて行く。
真空は空気の供給をカットするとともに、空間を冷却し始めた。その力は並の氷の魔力を遥かに越える驚異的なパワーとなり、フレアビーストの体は徐々に冷気が支配を広げ、足の先から始まった侵食は、頭の先までに至り、遂に完全に空間が冷却された。
「ぐぅううぅぅぅぅ…、見事な連携だ。…力を認め、オーブを授けよう。」
ミネルバとメンバルはバリアフィールドを解いた。フィールドはキラキラと輝く雪の粒となって地面に舞い落ちる。そこに魔獣の体が粉々に砕けると光子の粒に変わり、その光は一点に集束すると球となり固まった。その情景は芸術的ですら有り、クロノ達は輝き舞い落ちる雪の中に光る火の呪印球がゆっくりと落ちてくるのを見つめていた。
すると前方の壁が開いた。
「頂き!!!」
その時、全く予想外の事が起こった。
なんと、バンダーはジャンプして火の呪印球をキャッチすると、そのままの勢いで3人とも示し合わせていたかのように前方の出口から素早く逃亡を始めたのだ。
「待ちなさい!!!!」
シズクが叫ぶ。
3人は慌ててバンダー達を追いかけた。
だが、それは突然襲った。
ブバッ!!!!!
それはクロノがあと少しで追いつく瞬間だった。
人一倍肥満男のヤッパの放った毒ガスは、瞬殺といっていい程の激臭をまき散らした。
3人はその場に悶え苦しみ、追跡を断念せざるを得なかった。
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