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第99話「水の呪印」(CPss2第15話)
呪印の間への道は、魔力の質を辿って進む。
この迷宮は魔力を読み解くことが出来る者に道を示すかの様に、壁面にも微弱な魔力が発せられている。この微弱な魔力がどうやら先程のカナッツの言っていた「魔力しか使えない」という状況を作り出す監視システムの役割も果たしている様だ。
いわば、この空間は魔力を持つ者に光を与え、魔力を持たぬ者を闇が閉ざす様にできていると言えた。
3人はミネルバを先頭に水の呪印の間を目指している。
そこへの道は面白い事に、水の魔力が風の様に通路から流れてくることから「感じる」ことが出来る。魔力はまるで五感を刺激する様に様々な情報を彼らに伝え、それと同時に五感では知り得ない広域の様々な情報をも知ることが出来る。これはなんとも不思議な感覚と言えた。
そんなことを考えていた時、クロノは水の呪印の間に近づくにつれて寒気を感じ始めた。
悪寒?…それにしては魔力は安定している。どうやら本当に空間全体から冷気を感じているらしい。
「なぁ、なんか寒くねぇか?」
クロノの言葉にシズクが震えた声で答えた。
「ううぅ、寒いってもんじゃないわよ。どうしてそんなに平然と言えるわけ?信じられない。」
シズクの反応に苦笑気味にミネルバも答える。
「…そうね。私は先天属性が水だから耐えられるけど、普通の人の感覚ではこの冷気は…マイナス20℃って所かしら…」
「そうなのか?」
クロノは首を傾げながら腑に落ちない感覚もありつつも足を進めた。前方からは一際強い冷気の風が立ち込める。次第に空間全体に冷気が満たされていくのが感じられ、足元から強烈な寒気が押し寄せてくる。それはまるで姿は見えないが靄(もや)のように伝わり、3人の足を強く凍てつかせる。
シズクはたまらず立ち止まり、魔力を集中するとファイアをフィールドに打ち込む。しかし、あまりの巨大な冷気の前に、彼女のファイアはーー表現は逆転しているがーー焼け石に水であった。
「さむーーーい!!なんなのぉーーーー!?!」
もはや発狂とでも言うべきだろうか、彼女の限界はとうに越えた恐ろしい寒気の来襲に体の震えが止まらない。そんな彼女をミネルバが気遣い彼女の前に立ちそっと抱き寄せる。
「シズク、ファイトよ。」
「うぅうう、も、もー、こんなとこさっさとクリアしてやるぅぅうぅぅ。」
震えの止まらないシズクだが、彼女は半ば意地になってミネルバの抱擁から離れると、冷気に耐えてヒステリックにつかつかと進んだ。
すると、突然空間認識が拡大した様に感じた。
「え…、これって。」
シズクの背後から二人も追いついた。
ミネルバが静かに答える。
「ようやく到着ね。」
「ここが水の呪印の間…すげぇ冷気の出元って奴だな。」
「えぇ。」
空間からは巨大な冷気が立ち込めていた。
それは魔力を持たぬ者を一瞬で凍り付かせてしまうだろう。まるで3人を威嚇している様にもとれる力が体全体で痛い程感じられ、動く事すら大儀なことに感じられた。
その時、前方で突然青い閃光が走る。まぶしい光に目を覆う3人。恐る恐る目を開けると、空間をほのかに青白い光が照らしていた。
突然の視界の回復に驚く二人に対し、ミネルバは冷静に前方を見つめていた。彼女の視線の先は、部屋の中央の円形の台座の上に据えられた氷のオブジェ。このオブジェこそが光の主の様だ。
よく見ると、この部屋は円形のドーム状の構造をしており、壁面には沢山の文字と紋様が描き込まれている。文字は魔法の呪文だろうか。古代ジールで見たような文字や紋様も見受けられる。
3人はクロノを先頭に台座へと近づいた。
そして台座の前に立つと再び青白い閃光が走り、氷のオブジェは粉々に砕けると光の粒となり、それは次第に巨大なモンスターの姿を形成した。
その姿は一角の角を持ち、緑の鬣を生やした動物の姿をしていた。体長は2mほどだろうか。胸元にはブルーの球体がはめ込まれ、それが青白く時折輝いている。その光はまばゆく神秘的なオーラが感じられ、見る者の心を吸い寄せる様な力を感じる。
体全体から巨大な水の魔力を発散させている様は、主と言うにふさわしかった。
「…試練を受けし者、良く来た。我が名はアーヴァンクル。呪印を欲する者は我に挑戦し、勝利せよ。」
ガラガラガラガラガラガラ!!!ドン!
アーヴァンクルはクロノ達に語りかけるとすぐ、後方の入り口を塞いでしまった。
クロノとシズクは突然の出来事に驚いて後方を見たが、ミネルバは冷静にアーヴァンクルを見据えると構えた。
「クロノ、シズク、落ち着いて構えるのよ!」
「え!えぇ。」
「お、おう。」
ミネルバの言葉に慌ててモンスタ−の方へ向き直る二人。
彼女は魔法でロッドを出現させると、それに魔力を込め始めた。
「来る!!!」
アーヴァンクルの胸元の宝石が一際輝く。
空色の閃光が走ると強烈な冷気が吹き出し、周囲の壁が次々にぺきぺきと音を立てて氷で敷き詰められ始める。
シズクがすぐさまファイガを放つ。
しかし、アーヴァンクルに向けて放たれたファイガは、そのまますり抜けて後方の壁に衝突し爆発してしまった。爆風が一瞬冷気を和らげるが、その爆風すらあっという間に冷却され、ガラガラと音を立てて地面へと落下して行く。
「な、なんなの!?これじゃどう戦えばいいわけ!?!」
シズクの驚きは当然だった。
この試練の洞窟では魔法でしか戦えないという話だった。しかし、その魔法がすり抜けてしまったのだから動揺しないはずが無い。だが、そこに冷静にミネルバが動く。
「お願い!!!」
ミネルバのロッドから青い光線が地面へ向けて放たれる。
光が放たれた地面には瞬時に魔法陣が描かれ、その上に立つ3人を円形の陣が垂直に光を放ち保護し始めた。すると、部屋を覆っていた冷気から解放され、常温並みに保温された。
彼女が二人に言う。
「いい、みんな。ここでの戦いは敵を倒すのではなく、如何にこの魔力を手名付けるかを考えて。」
「手名付ける?どうすればいいの!?」
「私達が扱いやすい力に変えるのよ。例えば、この空間の魔力を中和すること。」
「中和する…あ、そうか。フィールドパワーね。フィールドエレメントを中和すれば、魔力も中和される…」
シズクは彼女の言葉に納得すると、まだチンプンカンプンといった締まりのない表情をしたクロノに向けて言った。
「クロノ、これから私に力を貸して!」
突然振られて、クロノは困惑した表情で尋ねた。
「お、おう、で、どうするんだ?」
「私のファイアを空間全体に放つの。」
「ん!そうか、火炎車輪か。よし!」
クロノは刀を抜き放つ構えた。
シズクは魔力を集中すると、通常より高い魔力を込めてクロノへ向けてファイアを放った。
クロノはファイアの炎を刀で受け止める。魔力が上手く刀に吸収されたことを確認すると、一気に跳躍して水平に円を描く様に魔力を解き放った。
水平に放たれた炎の魔力は爆炎に変わり、激しく部屋一面の壁面に衝突し吸収された。そして、その後瞬時に氷が熱せられ蒸発し、空間が常温程度に保温された。
すると…
「…見事な連携だ。力を認め、我がオーブを持つ事を認めよう。」
アーヴァンクルは話し終えると青白い閃光を発して輝き、そして見る見るうちに小さく縮むと、胸元の宝石の中に吸収されてしまった。
宝石は静かに降下を始めると、クロノの手の中にゆっくりと収まった。
「へへ、これで一個目ゲット!」
クロノはそういうとオーブをかざす様に仰ぎ見た。
球の中には文字が封入されていた。だが、何かがおかしい。よく見るとそれが不思議なことに、どの方向へ回してみても必ず自分の見ている方向へ文字が向いているのだった。
「おもしれぇなぁ。どっちに回しても必ず俺の方を向くぞ、この文字。」
クロノの言葉にミネルバが微笑んで言った。
「その文字は幻の文字なの。」
「幻?」
「魔力を持たない人には見えない特殊な力が働いているの。だから、見えている人の方に必ず文字が見える。」
「へー…」
クロノは感心してしばし見ると、シズクに球を手渡した。
シズクは受け取るとすぐにプレートへ球をはめ込む。すると、オーブは光を失ってはめ込まれた。
その時、突然前方の壁が動き、奥へ続く道が現れた。
「あ、道!?あら、呪印も光らなくなっちゃった。」
シズクが驚いて前方とオーブを交互に見ているのに対して、ミネルバは冷静にオーブを
見て言った。
「フフ、主催者も余程視覚を使われるのが嫌な様ね。」
「えー、そういう理由なの?」
「さぁ。」
ミネルバはそういうと、ロッドを仕舞って服を直した。
「さぁ、次へ行きましょう?」
彼女の呼びかけに、クロノとシズクは笑顔で答えた。
「おう!」
「えぇ。」
ミネルバが歩き始める。
クロノもその後を行き、シズクも慌ててプレートを仕舞うと二人の後に続いた。
●あとがき。
※来週でCP通算100話です。
細々とやってきた割に100話って我ながら凄いと思いました。
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