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第92話「原始的」
二人は部屋を出ると、車内をゆっくり歩き始めた。
「どうやら随分面倒らしいな。」
「えぇ。」
二人は青年の話を思い出して考えていた。
彼らの言う「魔力を駆使する」とはどういうことなのだろうか。この試験は強い魔力は勿論、高い魔力の制御能力が必要ということだが、自分達の魔法のコントロールがそれほど悪いものではないという自信はあった。だが、クロノは何故か腑に落ちないものを感じていた。
もしも、今自分が使っている力の使い方が間違いで、実はより効率的に扱える方法や、より強力な力に変える方法が有るとしたなら、確かにこの試験の意味はある。
その時クロノはふと思い出した。
それは古代ジール文明の人々がクロノ達の魔法能力を「原始的」という表現で言い表していた事だった。彼らの言が正しく、そしてその文明で最高級地位に君臨した3賢者の一人であるボッシュが課した試験であるなら、確かにこの試験には深い意味があるのかもしれない。
だが、二人にはもう一つ気になる事が有った。
「それより、あいつの言っていたことが一つ気になる。」
「もう一人の宛のこと?」
「あぁ。俺達は二人だけじゃないか?」
「チームであれば良いのなら、いるわよ?」
「え?」
「ポチョ!」
「はぁ?」
彼女が呼ぶと、ポチョが彼女の胸元から飛び出してくる。
「ポー!」
ポチョは元気いっぱいに飛び跳ねて応えた。
クロノは思わず笑った。
「ハッハッハッ、ゴメン!ポチョのこと忘れてたぜ!」
「ポー!」
「ポチョはこう見えても結構凄いのよ!まともに彼と戦ったら、クロノとでも良い戦いができると思うわ?不足あるかしら?」
「へぇ、そっか?お前は強いんだな。頼りにしてるぜ!」
クロノはそう言うとポチョの頭を撫でた。ポチョはエッヘンと胸を張るように立ってすましていた。
「腹が空いてきたなぁ。飯食わないか?」
「もう?」
「シズクは要らないのか?俺は燃費悪ぃんだよ。」
「んもぅ!仕方ないわねェ。確か切符に食堂の食券も付いていたわね。食堂に行きましょう。」
「おう。」
二人の部屋は列車の後方二両目にある。この列車は全部で8両編成で中央5号車に食堂がある。その他、食堂車隣の4両目には売店もあり、試練の洞窟までのちょっとした旅行気分の味わえる寝台列車になっている。
試練の洞窟までは列車で丸一日かかるため、この寝台列車の空間はとても有り難いものだった。
二人は食堂車へ向けて歩みを進めた。6号車に入ると、恐ろしく研ぎ澄まされた様な目を持った背の高い少年と、冷静で落ち着いた物腰の端正な顔立ちの少年、そしてとても上品な服装をした少女の3人組がいた。彼らはクロノ達が入ると一斉に視線を向けた。
「(なんだなんだ!?異様な威圧…)やぁ、君達も試験を受けるんだね?」
クロノが彼らに問いかけた。
その問い掛けに端正な顔立ちの少年が答えた。
「はい。ということはあなたもお受けになるんですね。見たところ、相当な天力をお持ちですね。お隣の方も相当な魔力をお持ちなのでしょうか。」
少年は一目見てクロノの能力を当てて尋ねてきた。そして、この反応は間違いなく他の二人も同様の答えに到達していたに違いない。
クロノはシズクの方を見ると、彼女も構えている様で、やはり同じ驚きを感じているのだろうか。
「ははは、まぁ、試験受けるだけの能力はあると思うぜ。君らはもう3人組なのか?」
クロノの答えに先ほどの少年はそれまでと違って笑顔で答えた。
「はい。まぁ、僕らにその質問を出されたと言う事は、まだお決まりじゃないんですね。でも、あなた方ならきっと良い方が現れますよ。二次試験でお会いしましょう。」
少年はそう言うと、二人の仲間達と共に7号車側へ歩いて行った。
二人は少年の最後の言葉が引っかかった。
「気が早ぇなぁ。もう二次試験かよ。」
「…よっぽどの自信というか、あの人達、確かに相当強そうだったわ。それほど的外れな話じゃないわね。」
「あぁ。…ったく、どうなってんだ。未来は。」
シズクはクロノの感想をよそに、何やら怒っている様子だった。
「どうした?」
「…さっきの子、私達のメンバーが決まってないって断定したじゃない。気に入らないのよね。もう揃っているんだから。」
「あ!…そうか、俺すっかり聞き流していた。」
クロノの反応に、彼女の怒りはまるでぷしゅーという音を立てて萎む風船の様に吹き飛び、墜落した。
「…上手がいたわ。」
二人は再び進み、食堂車に到着した。
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