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物凄く遅くなって申し訳有りません。
CPss2最終40話の登場です。
第124話「彼方からの呼び声…前編」(CPss2第40話)
周囲で沢山の争う声が聞こえる。
大勢の兵隊と観衆の戦いという…一見すると歪んだ一方的な闘争になろうはずが、観衆もまた魔力を使える人々が多数いるこの国では、互角か場合によってはそれ以上の大差がつくこともあるだろう。
そんな争いの真っ只中にいるクロノ達。彼の前方にはガーネットと2匹のヘケラン、そしてマヨネーがこちらを見ている。彼は刀に手を添えた。ガーネットが魔力を集中させ始める。
クロノが動く。素早く抜刀し様に「かまいたち」を走らせると、右手を刀に当てサンダーを込め跳躍する。そこに間髪居れずシズクが彼のタイミングに合わせてサンダガを放った。クロノがガーネットに迫る手前で2匹のヘケランが前へ進み出て攻撃を受け止める。刀の斬撃はヘケランの固いながら弾力のある強固な皮膚によって弾かれ、その身体は魔法攻撃を帯電して吸収した。
「ウガァァァァアアアアア!!!!」
ヘケラン達が胸を叩き咆哮すると、帯電していた稲妻を放電した。シズクが素早くトラップフィールドで電力を吸収し還元するが、その時ガーネットが微笑みを浮かべて魔法を放った。
彼女の指先からビー玉程の小さな球状の炎が現れると、それは瞬時に大きくなり直径1m程の火球に成長し、その球から次々にサッカーボール程の大きさの球がクロノ達に襲いかかる。ファイアボールの襲撃にシズクが炎のバリアフィールドを張るが、出力がまるで追いついていない。こぼれた火球をクロノが一歩前へ出て刀で切り落とす。だが、そこに親玉である1mの大火球が迫る。想定外の大物の登場に慌てる彼の後方から、急速に冷気が迫るのを感じた。
後ろを振り向くと、ミネルバを中心に青白い輝きを放つ魔法陣が形成され、そこからメキメキと氷の結晶が発生して、クロノ達を氷の結晶が覆った。
火球が衝突する。
熱と冷気の衝突に魔力の反作用が生じ大爆発が起こる。氷は粉々に砕け散り、火の粉が四方に飛んで蒸気が周囲を覆った。
真っ白な靄に包まれた闘技場だが、この視界ゼロにも関わらず両者は攻撃の手を緩めなかった。ミネルバのフィールドが破壊された瞬間、前方からヘケラン達の咆哮が飛ぶ。その咆哮は低周波の振動波…天然のウーハーとなってクロノ達の身体に衝撃を伝える。
全く防御体制がとれていない想定外の攻撃に3人はもろにダメージを負うが、クロノはその振動波のダメージにも関わらず切り込む。そこにシズクがファイアを、ミネルバがアイスを放った。
ヘケランの一体が前に出て攻撃を受け止める。しかし、
「グギャァアアっ!?!………」
ドォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーン!!!
ヘケランが両断された。その瞬間、熱と冷気の反作用による大爆発が切断面から発生して、彼は叫び終える事なく四散した。突然の相棒の惨状に驚く暇無く、彼の敵が既に目前に構えていた。
「へへ。反作用切りってとこか。」
「ぐえ!?ギャアアアアアアアア………」
ドォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーン!!!
爆風に乗りクロノは仲間達のもとに戻る。爆発で靄も晴れ、ようやくお互いの姿が確認出来るようになった。敵はヘケランの喪失にも関わらず余裕の表情で構えていた。
ガーネットが口を開く。
「遊びはお仕舞ね。本番はこれから。」
彼女は右手をそっと前に差し出した。すると彼女の掌から黒き薔薇の花びらが吹き出し、彼女の身体を覆いつくしたかと思った瞬間、薔薇が一斉に四散すると、そこには先ほどまでの服装とは違ったゴシック調の美しい衣装を纏ったガーネットが現れた。
「お初にお目にかかります。殿下。私はグラネテュス・バイパー。以前、私の妹がお世話になりました。」
「…殿下、殿下って、お前らみんな知ってやがるんだな。で、妹って誰だ?」
「…お忘れかしら。そう、あの子も不憫ね。…アメテュス…と言えば分かって下さるかしら?」
「…黒薔薇。」
「えぇ。」
彼女はクロノの反応に微笑みを浮かべると、恭しく一礼した。
クロノが問い掛ける。
「お前の目的は何だ。」
「…私の仕事はディア様のご命令に従うまで。この仕事の依頼主は、お隣の方ですわ。」
クロノがマヨネーの方を見た。
マヨネーはツンとした表情で言い放つ。
「お黙り小娘!あたしの命令に従うのがあなたの仕事よね?おわかりよね?…ったく、あの男の部下はろくな奴がいないのよね。」
「…そう。では、私の仕事はこれまでの様ですわね。閣下は貴殿の計画が無事に成功するまでで良いと仰いました。既にあなたの計画通り、あなたの姿は全国にテレビ放送で配信され、地下に潜っていたあなた方の勢力も表に出られる算段がお付きでしょう。…くれぐれも閣下に感謝致しますように。…ごきげんよう。」
彼女は別れの言葉を告げると、すーっと影のように実体が薄くなり消えてしまった。
マヨネーが口をあんぐりして驚く。だが、それにも増して怒りが込み上げて叫んだ。
「キィーーーーーーーーー!!!!もう、あんな女どうでもいいよね!それより、クロノ!あんたは逃がさないのよね。」
「…お前がどうやってこの時代に生きているかは知らねぇ。だが、俺の前に立ちはだかる奴は斬る。」
「…短期は損気なのよね。あたしが無策でこの場にいると思ったら大間違いなのよね。昔のあたしは力に溺れていたわ。でも、今は違う。あたしは変わったのよね。この煌めくボディ、美しくしなやかな力。…どんなに真似しようとも人間には真似の出来ない、ティエンレンのみに為しえる長命が実現した力よ。」
「ティエンレン…?」
「…魔族の中でも最も魔力が強い種族をティエンレンと言います。彼らは総じて長命種が多いとされています。」
ミネルバがクロノの疑問に答える。
クロノはふと考えた。彼女の言っていることが本当であるならば、三魔騎士の中で何故マヨネーだけがティエンレンなのだろうか。魔族の世界はよくわからないが、400年前の魔王戦争とは、「魔族の主流」が起こした事なのではなかったのか。例えば、ジャキを担いで三魔騎士は戦争を仕掛けたというが、実際はたまたまジャキが居ただけであるなら、戦争は起らないと言えたのだろうか。
ビネガーが数世代の子孫を残し、ソイソーもティエンレンではないとすると、マヨネーの存在が一際異質に感じられるのと同時に、魔族という種族の構成がより複雑なものである様に感じられた。だが、彼はこれ以上考えるのはやめる事にした。…目前の敵をまずはなんとかしなくてはならない。
「…さて、あたしもあなた達に構っている暇は無いのよね。これから忙しくなるのよね〜。なんせ、あたしは時の人なのよね♪」
マヨネーが話ながら何やら右手の先に魔力を集中し始めた。その力の質は今まで感じた事の無い程の凝縮された天の魔力だ。彼は何をしようというのだろうか。
不気味な笑みを浮かべて彼は言った。
「…我が血に封印せし化身、その姿を盟約に従い示しなさい。アウローラ!!」
右手に集った魔力の塊が急速に人型を形成し始めた。同時にマヨネーから大幅に魔力が失われたのが感じられた。
光り輝く人型の化身は次第に実体化し、長くしなやかな黒髪を伸ばした美しい女性となった。漆黒のエナメル質の様な光沢を持ったキャミソールを身に着け、ネット状のミニスカートを履き、その編み目から光沢のビキニパンツが透けていた。
そのあまりにも悩殺的姿に、思わずクロノの鼻の下が伸びた。が、慌てて表情を引き締めた。
「アウローラ、あたしの代わりに彼らを始末することを命じるのよね。」
「…。」
アウローラは彼の言葉に何の返答もせず、静かに悲しげな表情でたたずんでいた。
マヨネーはそんな彼女に苛ついて声を荒げる。
「ちょっと!そんなあたし可哀想でしょって表情やめてくれない!!!ちょっと可愛いからって良い気にならないで欲しいのよね。あなたの主はこのあたし!主の命令には元気よく答えるのよね!おわかり?」
「…はい。ご主人様。」
「…ふん、いいわ。じゃ、任せたわよ。命に代えても命令を守りなさい。以上よ。ふん。」
マヨネーは彼女に命じると、すーっと透過してその場から消えてしまった。
「あ!?ちょっ!!!待ちなさい!」
シズクが慌ててサンダーを走らせるが、既に消え去った後だった。
そこにアウローラがクロノ達に向けてしなやかに右手を伸ばした。
「!?」
その瞬間、3人に目掛けて光線が飛ぶ。一瞬にして3人が貫かれた。
クロノは咄嗟に刀を構えた事で光線を屈折させて避けたが右肩を打ち抜かれ、ミネルバとシズクは胸を打ち抜かれてその場に倒れた。
「シズク!?ミネルバさん!?」
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