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第121話「合格」(Cpss2第37話)3月14日号
気を失ったハイド達に、ミネルバは静かに魔力を集中すると、彼らを癒しの光で包む。彼女のオーラが彼らの傷を癒した。ハイド達はオーラの癒しの力によって意識を取り戻した。
ミネルバが手を差し出す。
ハイドはその手を素直に握る。
彼女は微笑むと、彼が立ち上がるのを助けた。
「…まさか、こんな結果は予想外でした。勿論、力の差は理解してましたが、この様な負け方は…。でも、勝負は勝負です。結果を受け入れましょう。」
そう言うと、彼はポケットからプレートをとり出して、彼女に手渡した。
「ありがとう。ハイドさん。」
彼女は礼を言い受け取ると、背後のシズクの方を振り向いてプレートを差し出した。
シズクは彼女から受け取ると、ポケットから自分達のプレートを出した。すると、ハイド達のプレートから呪印が飛び出し、光を放って宙を舞いながら融合し、冥の呪印となってクロノ達のプレートに収まった。
遂に、全ての呪印が揃ったのだ。
「これで、全て揃ったな。」
クロノが二人を見て言った。
シズクはプレートをポケットにしまうと、ハイド達の方を見た。
彼らは自分達の魔力で傷を癒し、立って埃を払っていた。
「ねぇ、そもそもあなたは始めからこの仕組みを知っていたの?」
シズクの質問に、ハイドが振り向いて言った。
「いえ、ただ、呪印の様な一定の属性を強く持った物質はそんなにあるものじゃない。たぶん、これは太陽石と同等の素材で出来ていて、その魔力吸収効果を利用して属性を与えているんじゃないかと考えたんです。その可能性が確信に変わったのは、4つの呪印が冥の呪印に融合した時だった。」
「それって、反属性同士が融合して冥が出来た…つまり、冥の均衡が起こっていたからよね。」
「はい。太陽石は元々は暗黒物質。自然界では太陽エネルギーを吸収する性質がありますが、素材自体は冥属性の均衡下にあるんです。つまり、冥の均衡は本来は異常ですから、必ず何かに結びつこうとする。その性質は何も太陽に限らない。人の持つ魔力もまた、その影響範囲にあるんです。」
「…確かに言われてみれば、魔力吸収する性質を持つ物質は多くないものね。」
「その通りです。」
シズクは彼の洞察力に素直に感心していた。
二人の話はクロノからすればさっぱりだが、簡単に言えば、暗黒石は太陽の光を吸収することで太陽石になるが、その吸収前の暗黒石は元々太陽光に限らずエネルギーを吸収しようとする性質が有り、その性質を利用して呪印は作られているため、全ての呪印は吸収したエネルギーの属性に変化するというものだった。
クロノがハイド達のもとに歩み寄り手を差し出した。
ハイドは他の勝利者とは違い、堂々と握手を求めるクロノに笑顔で手を差し出した。
二人の手がしっかりと握られる。
「君達の分まで頑張るぜ!」
「はい、あなたがたの戦いを見守っています。必ず勝って下さい。」
「あぁ。」
クロノは力強く頷いた。
二人は手を離すと、クロノは軽く手を挙げてチームメイトの元に戻った。
そして、程なくしてクロノ達はハイド達のもとを去った。
遂に揃った呪印を持ち、3人は入り口へ向けて歩き出す。
この洞窟は相変わらず真っ暗闇だが、今は始めと違って洞窟の印象は明るい空間に変わっていた。それはこの洞窟で獲得した魔力を感じ取る力が、この暗闇に姿は見えなくとも沢山の人の輝きがあり、1人ではない確かな実感があるからだ。
「…この洞窟は、面白い空間だな。」
クロノの唐突な言葉に、シズクが尋ねる。
「面白い?…まぁ、そうね。でも、どうして?」
「いや、最初は面倒だなって思ってたんだけどさ、俺はこの洞窟で始めて魔力ってものを知った様に感じる。今までは魔力は単なる不思議な力程度にしか考えていなかった。でもさ、ここでは魔力が目になり、手になり、足にもなることを知った。」
「そうですね。魔力はただの力ではありません。人の心が生み出す心の鏡でもあります。一説には、魔力にはもう1人の自分が隠れているとも言われています。」
「へぇ。」
ミネルバの話に、クロノはバンダーのヘルファイアを思い出していた。
あれほど強力な意思を持った魔法の化身とでも言うべきだろうか…そうした力すら生み出すことができる魔法。まだまだ自分には分からない事が沢山眠っているのだと、この試験を通してクロノは感じた。
「あ、見えたわ!」
シズクが歓喜の声を上げる。
遂に彼らの試験の終わりを告げる光が輝いているのが見える。
3人は足取りも軽やかに、一歩一歩近づいた。
そして、入り口へ辿り着いた。
そこには審判のカナッツが中央で待機していた。彼女も既に分かっていたのだろうか。先にゴールしていたチームが両サイドでクロノ達が進むのを見ていた。
3人はカナッツの前で止まると、シズクが全ての呪印がはめられたプレートをとり出して、カナッツへ手渡した。
彼女は笑顔で高らかに宣言する。
「おめでとうございます!ポチョチーム、第二次試験合格を認めます。」
その後はカナッツの正式な試験終了の放送が洞窟内部に響き渡り、全てのチームが入り口に帰還した。帰ってきたチームは早々に会場を去って行く。残ったのは合格した3チームのメンバーとカナッツ達審判団の姿だった。
「はい、まずは改めて皆さんの第二次試験合格をお祝い申し上げます。さて、ではこれから第三次試験についてご説明させて頂きます。
第三次試験は総当たり戦となります。三チームそれぞれが一試合ずつして勝敗を決し、一番勝利数の多いチームが三次試験のトップ合格と致します。つまり、この試験を受ける皆さんには既にこの試練の洞窟での合格は確定しています。ただし、この試験を棄権すると合格は取り消しになりますのでご注意下さい。
試合につきましては、明日正午開催とさせて頂きます。それまでの間は審判団の割り振りますお部屋にてお休み下さい。ただ、お部屋からの外出は禁止とさせて頂きます。何か必要なものがございましたらルームサービスでご用意させて頂きます。勿論、こちらの費用は全て試験運営本部でのご負担とさせて頂きますので、心置きなくご利用下さい。
では、お休みに入る前に、明日の試合の取り組みを発表させて頂きます。
第一試合、チームポチョ対チームメーガスかしまし娘。
第二試合、チームグリフィス対チームポチョ
第三試合、チームメーガスかしまし娘。対チームグリフィス
以上の様な形で進行いたします。試合開始10分前に皆様を試験会場にご案内致しますので、それまでごゆっくりおくつろぎ下さい。」
カナッツの説明後、三チームはそれぞれの部屋に案内された。
クロノ達はカナッツの誘導のもと、試験会場の洞窟から上の階へ行くエレベーターに乗り、階数にして30階の高さにある部屋に案内された。
その部屋はかなり広く、チームメンバーそれぞれの寝室とリビングやダイニングといった一通りの部屋の揃った展望部屋で、部屋の窓から見える景色は夕暮れの日の光に照らされた深い森の中に、壮大な規模の白が印象的な美しい闘技場の姿があった。
これが明日の試合会場に違いない。
「では、何かございましたら、このドア横の電話にて承っております。明日の試合までごゆっくり疲れを癒して下さい。」
カナッツはそう告げて部屋を出て行った。
三人は唐突な案内でこの部屋にきて何をしていいのかさっぱりだったので、リビングのソファーに深々と身体を沈めた。
「はぁ〜、さっきのカナッツの話だと、一応これで試験はクリアみたいだな。」
「えぇ。これでボッシュさんに会うための条件はクリアよね。」
クロノとシズクは自分達の果たすべき条件はクリアした事を知って、半ば緊張の糸が切れていた。とはいえ、三次試験の総当たり戦の相手はどれも強豪。一難去ってまた一難という感も拭えない。
「あのぉ、ミネルバさん、さっきのハイド達との戦いで出した防御フィールドって、パーテクトなんですか?」
シズクが不意に尋ねる。
ミネルバは困った様な表情で答える。
「えーと、そうですねぇ、近いものではあります。」
「さっきもそういう話でしたよね。元は同じものでしたっけ?」
「えぇ。正式な名前は『三色昼寝つき絶対防御』と祖父は話していましたが、父が更に改良を加えて攻撃特性を付けたことから、父はこの魔法をマイティガードと改めて呼んでいます。」
「へー。でも、これって誰もが使える魔法なの?例えば、私でも…とか?」
「いえ、この魔法が使えるのは知り得る限り私の一族以外にはいません。」
「そうなんだぁ。じゃぁ、パーテクトと条件は一緒なんですね。」
「そうですね。」
二人の遣り取りを聴いていたクロノだが、不意に腹の虫が鳴った。
「腹減った、何か頼もうぜ?」
「賛成!」
「ふふふ。」
シズクも彼に同意し、そんな二人を見て微笑むミネルバ。
三人は明日の試合に備えてゆっくりと夕暮れ時の幻想的景色を楽しんだ。
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