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【168】-14- (第六章 廃墟を越えて……4.ガード...
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:37 -
  
 クロノとマールは鉄筋の上を渡り問題のガードマシンの部屋の前に来ていた。『前の周』と同じなら、あと数歩でガードマシンのセンサーに引っかかるだろう。
「ルッカになにをもらったんだ?」
「うん、なんかふくろを渡されて」
 ごそごそと出す。
 取り出したものは手甲とペンチであった。
「ペンチ??」
「どっかの工具みたいだな」
「一つは太陽石とにじの貝がらを利用した攻撃力強化の手袋、命名ライフショットと空間を湾曲させることができるペンチって説明書には書いてあるけど」
「どういう仕組みなんだ」
「さあ?」
「じっくり読む時間がないから本番で確かめるしかないかな」
「大丈夫なのか?」
「緊急時マニュアルには、セーフティがかかっているから大丈夫だって」
「……」
「………」
「心配は残るが、急いでルッカを追わないといけないからな」
 クロノは一歩踏み出した。

   ピーピーピーピー

 警告音が部屋中に鳴り響く。
 同時に巨大なガードロボが出現する。
 姿かたちは『前の周』のものと同じであった。
 大きな図体に地面につかずにわずかに浮いている。その横にビットが浮いている。
 戦闘開始。
 クロノはすぐに壁を使い大きく跳び上がった。
  凍れる・・・
 マールは唱えた“アイスガ”の呪文をクロノのカタナに絡みつかせる。

  “アイスガソード”

 魔力でカバーした氷のカタナは一体のビットを直撃し

   ダアァァアアン

 瞬時に爆砕した。

  ”サンダー・ショット”

 右手により『天』属性の魔力を込めたナイフをガードロボに放つ。
 ナイフはガードロボ本体に直撃し大きく震わした。
 クロノはナイフが直撃したのを確認し、カタナを構えると、

   ドフゥン

 クロノが衝撃波で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
 クロノはどこからの攻撃か気づく前に、マールの声が聞こえた。
「ビットを……」
 最後まで聞こえるまえに、クロノは体を少しずらした。

   ピュン

 ビットを見ると何か光るものが見え、肩に何か熱いものが通り過ぎるのを感じた。
 左肩に少し火傷のあとができた。
 ビットの攻撃は『前の周』ではこの圧縮ビームは軽くかただが痺れる程度だが今回はそうも行かない威力らしい。

  ”サンダー”
  ”サンダー”
  ”サンダー”

 連続雷撃、『天』の属性を持つ魔力の塊がガードマシンに直撃した。

   ドフゥン

 再び衝撃波がクロノを襲った。

  ”アイスガ・カルン”

   クルウゥゥゥン カン

 冷気はビットを包み、浮力を消し去り床に落とした。
 ガードマシンに注視しながらクロノの方に近づくマール。
「イマイチ能力が掴めないな」
「ビットの行動を停止しても、なんかすぐに復活しそうだけど」
 凍らせたビットは氷の塊に包まれながらもがたがたと揺れている。

  ”ケアル”

 マールの回復呪文はクロノの火傷を癒し、マールはクロノが立ち上がるのに手を貸す。
「大丈夫?」
「ああ」
 例え回復呪文で傷を治癒させたとしても痛みは残る、まだクロノの肩は痺れていた。
 クロノが再びカタナを構えるとマールは離れた。
 沈黙を続けるガードマシンに近づく。

  ”らくよう”

 わざの発動するまえに腕が伸びきったところで、重くなった。剣先はガードマシンにわずかなところで力及ばず止まった。
 クロノはその重さに何とか踏みとどまり、無理に横薙ぎに力を加えるため、カタナを傾けるが重さが増し、それが体全体に広がっていく感じがする。
 わずか数秒の間で体が動かないほどになり動けなくなっていた。

  ”ライフ・ショット”

 マールの声に呼応するかのように魔力の矢がガードマシンの中心に突き刺さり、消える。
 マールはさらに弓を引く。
 同じところに矢は刺さり。さらに弓を引く。
 強化された魔力の矢を放ったところで途中で消え去った。
 重さから逃れることができたクロノはその場をはなれ、マールの近くに行く。
「たすかったよ」
 クロノはガードマシンの能力に気づいたことを話した。
「たぶん、空気を操るとみた」
「空気?」
「衝撃波や近くに行ったとき、なんか空気が薄く感じた」
「どうするの?」
「サポートしてくれ」
 なにも言わずにマールは呪文の構成を始めた。

  ”ヘイスト”

 クロノの体がわずかに赤みをおびる。
 クロノはカタナを構え、ガードマシンに近づいた。
 体がだるくなる。
 そのときビットが動き出す。

  ”サンダガ”

 雷撃の波がガードマシン、ビットを巻き込み爆裂させる。

  ドゴォォォォォン

 体に感じていた気だるさが一気に抜ける。
 ビットはその機能を停止した。
 ガードロボの方は一時的に機能を停止していたが、クロノを認識し動き出す。

   ピーピーピーピー

 ガードマシンの警告音がなる。
 同時に冷気が辺りを包んだ。

  ”アイスガ”

 無数の氷がガードマシンを襲う。
 続いてマールは呪文を発動させる。

  ”アイスランス”

 人二人分の大きさの氷の刃が一気にガードロボを貫く。
 そこへクロノがカタナに『天』属性の魔力を込めたカタナを振り下ろす。

  ”サンダーブレイド”

 カタナに纏った”サンダー”の力が貫かれたガードマシンの装甲から中身をえぐるように斬り込む。

  ”かいてんぎり”

 追い討ちをかけるようにガードマシンを斬った。


 クロノはガラクタとなったガードマシンを見ていた。
 その表情は神妙でありマールは声をかけるのを戸惑った。
「……クロノ?」
「やるせないな」
 クロノは食料庫へ歩いていった。
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【167】-13- (第六章 廃墟を越えて……3.アリス...
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:29 -
  
 革命家と名乗るリュト・サペルと別れたクロノ、ルッカ、マールはトランドームへ向かった。トランドームでは、『前の周』と同じく食糧不足で悩んでいた。
 未来はわずかに違っていても抱える問題は変わっていないこと。それはやがて来る未来において食糧という問題は重要な位置を示すことを認識させられた。
 一行は32号廃墟を抜けてアリスドームへ向かった。

「お前達は一体何者だ、どこから来た」
 アリスドームの入り口で若者、といってもクロノたちよりも年齢は上でぐらいの男に聞かれた。クロノは「旅の者だ、トランドームから来た」と答えると、男は続いて言った。
「革命家とかいうものじゃないんだな」
「革命家?」
 三人の頭の中にはバンゴドームで別れたリュト・サペルが思い浮かんだ。
 クロノがその名を言おうとするとルッカが引っ張り黙らせた。
 トランドームでもクロノたちは似たようなことを聞かれていた。そこではドームの人たちに聞くとリュト・サペルに対する良い印象を持っていなかったのだ。
「誰ですか、それは?」
 マールが初めて聞いたかのように、聞き返すと若者がクロノとルッカの二人を奇妙に見ながらも答えた。
「名前は知らん、俺達にロボットを倒すのを手伝ってくれっていってきた奴だ。
 俺達はロボットには手を出さないって決めたんだ。あんなのに勝てるはずがない
 特にこのドームはロボットが沢山いる。
 そんなとこでロボットを倒そうなんて思う奴はいないよ」
 そうはき捨てた。
 その言葉の端々から、余計な真似はするな、よそ者は関わるな、そんな気配が伝わってくる。
 その空気に飲まれないように言葉を出す。
「私達は食料を探しにトランドームから来たの」
 若者は三人を軽く見定める。
「食料を探しにか、ご苦労なこった」
 そういって若者は後ろに下がっていった。
 その背は、お前らに期待はしていない。
 そんなことがありありと感じられた。
「ちょ、ちょっと」
 ルッカが若者に手をかける。

  パサ

 若者は軽くその手を払いのけると言い放った。
「どこのドームも一緒さ、ここでも食糧不足は変わらんさ」
 ルッカの目にはその男が少し諦めているように見え、若者は少し周囲を見て様子をうかがっているようだった。
 ドームの中から一つの塊が動いた。
 のそりのそり動くものは近くに来ると人間であることがかろうじて分かるものだ。
 姿は老人、ドンであった。
 かつて、『前の周』でこのアリスドームの人をある程度まとめていたこのドームの長老格の人物であり、マールの子孫でもある男だ。
「しゃべってもいいだろ」
 しゃがれた声で若者にそう話した。
「いいのか?」
「ああ、ここに来た。
 トランドームやバンゴドームから来たという。
 それはこの者たちは32号廃墟を抜けてきたということではないか。
 あそこのミュータントを倒すことができたのなら何とかなるかも知れん」
「しかし…」
 しぶる若者。
「わしらも限界なんだ」
 老人ドンは強く三人を見た。
「食料庫はそこの階段を下りたところにある。
 そこにはガードロボがいてな我々ではどうにもならんのじゃ」
「大丈夫よ、わたしたち強いから」
 胸を張ってマールは言った。
 ドンはにこりとわらいもとの場所に帰っていった。
 よろしく頼む、ということなのだろう。
 クロノたちが階段を下りる所で若者に止められた。
「少し前に同じことを言ってドームの食料庫にいった奴がいるが帰ってこない。
 あいつは自分だけ生き延びようなんて考える奴じゃない、それが帰ってこないということはロボットにやられたんだろ。
 気をつけろ、死ぬなよ」
 それだけ言ってまたドームの入り口の方へ歩いていった。


「よう! また会ったな」
 階段を下りると再びあの軽い声が聞こえてきた。
「「「!!!」」」
 見たことのある男が、操作パネルの前に立っていた。
「どうした? そんな驚いた顔をして」
「リュト・サペルっっ!! どうしてあなたがここに」
 灰色のローブをした、正直顔があまり見えない男がそこにいた。
「ん〜そうだな。その前にリュト・サペルって言うのは呼びにくいだろ? 
 なんかかっこよく、アーベルシュタイツァーなんて…」
「よけい呼びにくくなっているよリュトさん」
「そう! そんな感じでいい」
 革命家リュト・サペルはそれを聞くとすぐに操作パネルの方に向き直った。
「だから、何であなたがいるのよ」
「ん〜、やっぱり何か障害があるな」
「聞きなさいって」
 ルッカが再び声をかけようと近づくと、いきなり振り返った。
 ルッカは瞬間的に後ろに下がる。
 リュト・サペルのローブから見える目はまっすぐな黒瞳をしていた。
(!!!)
 するとリュト・サペルは、通路のない右側の扉を見た。
  はっ!
 力をこめて吐いた息をあげるとリュト・サペルは跳ね上がり、右側の扉の前に飛び移った。
「マジか」
 クロノも思わず呟く。
「じゃあ、用事があるんで」
 リュト・サペルはすぐに扉の先に進んでいった。
 呆然としている中、ルッカがいち早く回復した。
「私、追うわ」
「は? 何言ってるんだ」
 クロノに返事をせず、すぐに段差のある通路のない道に
「とああぁ」

  タンッ タンッ タンッ

 装置パネルを利用して上手く駆け上がる。
「三段跳び?」
「ちょっとルッカ、どうするのよ」
 登りきったところでやはり少し段差があり、あまりこちらの方へ寄らず壁側にしがみついているような形のルッカへ聞いた。
「マールとクロノは先に食料庫に行って…」
「なに言ってるの!」
「私じゃ、登るので精一杯だからとっとと操作パネルを使えるようにして…」
「じゃあ、何で登るのよ!!」
「ちょっと気になることが……よろしく……、マール、新兵器を使うときなんだから」
 ルッカは左の扉の中に消えていった。
 マールはクロノに向き直った。
「どうしようクロノ」
「ルッカなら大丈夫さ、いまはガードロボを倒して進むことだけを考えよう。それにあっち側はそれほどの敵もいなかったし」
 クロノはマールの手を引き左側の扉に入っていった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
 声をかける相手は聞こえているのないのかどんどん先に進んでいく。
 襲いかかる昆虫型のミュータント(それとも昆虫?)を素手で倒している。
 両手を合わせて握り、それを襲いかかるバグに当てるだけでバグは蒸発したように倒される。
(素手で甲虫を! 一体どうなっているの)
 すぐに灰となる虫を呼吸を整えてみると焼き焦げたような痕が見える。
 しかしバグはすぐに灰となってしまうためにあまり観察できない。
 どうやって甲虫を倒しているのか考えているうちにリュト・サペルは先のドアに入ってしまう。


 ルッカがドアを抜けるとリュト・サペルが立っていた。
「ここまで来たのか」
 言葉の中に呆れが入っている中で、さらにはしょうがないという感じが出ていた。
「あんたが人の話を聞かずに……どんどん進むからでしょ」
 途中、今おかれている状況に気づき声量を小さくする。
「これから先は危険なロボットがいるんだが……」
「大丈夫よ!!」
 ルッカは再び声を大きくしてしまい一体のロボットが近づいてくる。
「気づかれたか、少しはなれていろ」
 リュト・サペルは再び両手を合わせて、ちょうど、クロノが一本のカタナを持つような持ち方でロボットを斬り込む形で突進する。
「よけて」
 そんなリュト・サペルに後ろから声がした。
 左によけた瞬間、銃声が

  ドォキョッン

 弾丸は一気にロボットを貫き、心臓部をえぐるだけではなく二分の一ほど装甲を持っていった。
「なんと」
 驚きの声を上げた。
「このルッカ様が作った特別製のミラクルショットの敵ではないわ」
「自分でつくったのか?」
「そうよ」
「……見たこともない材質だな、あれほどの威力が出るのは内部に何かあるのか」
 リュト・サペルがミラクルショットに触れようとするが、ルッカはすぐに手を引っ込めた。
「それは企業秘密よ。
 それよりあなたこそ素手でミュータントを倒すなんてどんな鍛え方してるのよ」
「素手で倒した? 何を言ってるんだ、そんなこと出来るわけないじゃないか」
「でもさっきこうやって」
 先ほど見たリュト・サペルの動作をなぞるように繰り返す。
 両手を合わせて握る。
「あ、あ〜あ、それかそれは見ていれば分かる」
 リュト・サペルはそういうと次のフロアに入っていってしまった。

   キュィィィィィィイン

 けたたましい音と共にロボット達が向かってくる。
 先に進んだリュト・サペルを小走りで向かっていき、ロボット達に対しての臨戦態勢を取る。すぐに手元のミラクルショットを構えるルッカをリュト・サペルは手で制した。
 見てろ、ということなのだろう、狙いをつけるのは止めたがミラクルショットからは手を離さずリュト・サペルを見た。
 リュト・サペルは同じように手を合わせて握り、近づくロボットに向かった。
 その速さはクロノに劣るがそれでも早く、階段で見た高い身体能力がうかがえる。
 巧みにロボットのタックルなどをかわし。
 数体のロボット達はそれにほんろうされる。
 そのうちの一体がリュト・サペルから少しはなれて止まった。
 ロボットの目?のようなものが光る。圧縮レーザーである。
 リュト・サペルはその一体に瞬時に近づき、そのロボットに対してレーザーが発射さえる前に手を振り下ろした。

   グァァン

 何か赤白い光が見えた。
 ロボットは振り下ろされた握ッた両手により焼き焦げ、停止した。
(なに!! いまの)
 ルッカはスコープを掛けさらに詳しく見る。
 その後のリュト・サペルの動作は早かった。
 仲間が倒れたことを認識したのか、他のロボットも動きが止まる。
 これではリュト・サペルにやってくれといっているようなものである。
 リュト・サペルのはなつ赤く白の混じった光によってほとんど瞬時に機能停止にロボット達は追い込まれる。
 まるで踊りのステップを踏むかのように動いたと思うと、あっという間にこの状況。
「すごい」
 その鮮やかさに思わずこぼれた。
 かなり弱いロボットだが、これほど鮮やかに破壊するとは、リュトには十分な余裕が残っているというこのなのだろう。
「これが俺の武器だ」
 差し出したのは黒い手のひらに収まる球体。
「強力なエネルギーを凝縮させた兵器」
「まあ、兵器っていうと結構、恐ろしいものだが、凝縮と電磁場の方向性を調整することができる、エネルギーブレイド。
 昔の武器の名にちなんで、ファイアシャベリンと俺は呼んでいる。
 東の技工士が作ったのもだ」
 技工士という言葉をルッカは聞いたことがないが、おそらく現代でいうボッシュのような鍛冶屋のことだろうと想像した。
「なんで一瞬しかブレイドを出さないの? 節約?」
「節約のためってこともあるが、これは凝縮させて高熱をもったレーザーを放出するだけの武器だ。
 ロボットの中には光学システムの他に、熱源センサーを持っているロボットもいる。
 それらをごまかすために一瞬しか出さないのさ。
 ほらさっき、一体をこれで倒したら他のロボットの行動パターンが変化したように見えただろ? それは全部この熱源に反応したからさ」
 確かにルッカのスコープにも強力な熱源が見られたからその正体が分かったのだ。
「わかったかい?」
 それでもあまりルッカは納得していなかった。
「まあ、十分この場所のロボとに対応できるから、もうついてくるな、とは言わないさ。
 先に行くぞ」
 リュト・サペルは再び歩みをはやめた。
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【166】-12- (第六章 廃墟を越えて……2.バンゴ...
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:12 -
  
 ガルディアの森のゲートからバンゴドームに出た少年少女――クロノ、マール、ルッカの前の扉―バンゴドームだた一つの出入り口が開いた。
 振り返る三人の目の前には長身の灰色のローブを着て、フードによってマスク代わりに顔を隠した体格から男らしい人物が、銃、のようなものを構えていた。
 男の視線が三人を捉えるとすぐにそれをしまった。
「いや、すまん、まだロボット達がいると勘違いしてな」
 頭の方に手をあげ敵意のないことを示すその男は明るい口調で話し出した。
「でもここはずいぶん前に重力変動が起こって廃棄されたはずなんだが、まあもともと倉庫だって話だけど」
 そこでルッカが前にでて。
「そう、なんだか分からないけど私たち気づいたらここにいて」
 後ろでおお、とルッカにギリギリ聞こえるぐらいの歓声を上げる二人。
「そうか、重力変動にね」
 そういいながら男は鑑定するかのように三人を見る。
 この時代のアンティークにも残されているかわからないカタナを二本下げた少年とここでは見かけない元気のよさがにじみ出ている少女と妙に探るような感じで話す少女、明らかに怪しいことこの上ない。
 第一、格好がこの時代にそぐわない気がした。
 それでもその男は話を進める。
「ふ〜ん。
 重力変動に巻き込まれてきたのか、最近多いね。
 となるとあんたらも他の大陸から来たってわけか」
「他の大陸?」
 まだ少し気になる表現もあったが、あえてルッカはそこだけ聞き返した。
「なるほど、あんたらまだ外に出ていないな? ちょい外に出てみ?」
 そういって三人は、その男に連れられるように外へ出た。


 バンゴドームの外は三人にとって、『前の周』で見た光景とほとんど同じであった。
 瓦礫の山と空中を舞う灰。
 土はパサパサとして砂漠化手前。
 あたり一面を灰のほかにスモッグのような煙が世界を包んでいる。
「これは……」
 とすこしワザとらしくいってしまうルッカ。
「あんたらがどこの大陸から来たか分からないが、だいたい同じようなもので違う。
 ここはあんたらがいた大陸とは違う。
 つってもふつーは分からないよな、ここの人間の多くもそうだった、当然か」
「??」
 三人はいまいちこの男の言うことがつかめなかった。
「まあ簡単に説明すると、過去の世界地図によればこの大陸を中央大陸あるいは中央大陸群と呼んでいた。
 先にいっておくがなんでここが中央大陸って付けられているのかは知らないぞ。
 それでここを中心に、南北東西に大陸が存在していたらしい。
 そのあと名称が確定した後も大小さまざまな大陸が発見されていったけど、この大陸を中央大陸、北の大陸は少し呼び名が違ったらしいが、西の大陸、東の大陸、南の大陸という名前は固定されていた。
 時代は流れ、これら大陸間の交流やなんやらで巨大組織を成立させていったわけだが……」
 この辺りの知識はいくつかの移動手段を持った現代人の三人は知っていた。
「知ってるかどうか、あんたらの歳じゃわからないが、大崩壊が起こり、ロボット達が暴走を起こしたりなんかして大陸間交流とその手段は失われてしまったらしいんだ。
 そううち人の記憶から他の大陸のことが消えていった。
 なんせ大崩壊とロボットの暴走があったから、他の大陸との交流手段がなく、地形も変形していたからなしょうがないことだがな」
 わかったか? といって三人の様子を見る。
 まあ、あまり疑問符が浮かんでいないのである程度は理解したと思う。そう考えるとこの大陸の人間よりもずいぶん豊かな大陸にいたことが分かる。
「で、この大陸に来て調べたことなんだが。
 この星はまだいくつかの大陸が残されている、あんたらの来た大陸や、俺の来た大陸色々だ。
 あんたらはそこからポッとここに落ちてきてしまったわけなんだな」
「聞いてるとあなたはこの中央大陸の人間じゃないみたいだけど」
「ああ、東の大陸から跳んできた」
「とんで? どうやってとんでくるのよ。交流がなかったんじゃないの?」
「それが最近、内の大陸で空間移動装置っていう、長距離を瞬間的に移動できる装置を直すことができてな。
 大陸間の交流を始めようって話だったんだ」
「だったんだって、どういうことなんか問題でもあるの?」
「それなんだが、あんたらはどうやってここに来た?」
 逆に聞かれてルッカが戸惑うところにクロノが助け舟を出した。
「分からない、気づいたらここについていた」
「じゃあ、あんたらはどこから来たんだ? なんか主要な都市とかドーム名とかあるだろう、地域名でもいい」
「それはガルディア……むぐ……もご…もご」
 ガルディアと言ったクロノをルッカとマールで抑える。
「(ちょっとなにいいだすのよ、バカじゃない、バカ、バカ、バカ)」
 小声でクロノに言い放つ。
「ふごふご……もごご」
 マールに口を押さえられてて反論もないクロノ。
「ええっとね」
 クロノをマールに任せ、考え出す。
「(ああ、クロノ、あんまり喋らないで、あと手かまないで)」
 といってもクロノはルッカによって一瞬に手首を紐で結ばれ動かせず、マールが手で口を止めているので息苦しいだけなのである。
 そんな二人を置いてルッカは言った。
「ア、アシュティアドームよ」
((うわっ、自分の名前をドームにしちゃったよ))
 ふたりはそんなルッカに驚き、さらに内心ドキドキであった。
「アシュティアドームか……」
 ルッカは二人にもまさる冷や汗ものであった。
 この時間だとても長く感じられた。
「近いな」
(((あるのかよ!! しかも近いのかよ!!!)))
 三人は心の中で突っ込みをいれつつ、この後どう撒くか頭をスロットのごとくフル回転させた。
 そんな三人の様子を知ってか、知らずか男は続ける。
「確か中央大陸の監視者ドームの分館がそんな名前だったか? あのとき見かけたかな」
 なぜかさらに窮地に陥る三人、ドツボの奥に入りかけたところ、マールがクロノの手を離した。
 とたんにクロノは前に倒れるが無視。
「本当ですか? 実は私の母が何年か前にアシュティアドームに行くといったきり帰ってこなくって。
 はじめアシュティアドームって言うのがどういうところなのか分からなくって。
 二人に手伝ってもらって、他の大陸にあるって聞いたからどうにかして他の大陸にわたる方法を探してやってきたんです」
 マールが一気に捲くし立てると、少し間が開いた。
 内心マールは上手く辻褄合せができたかなと思った。
「ということは、君のお母さんはあの団体の人なのかな」
「あの団体?」
 正直なに言われても相手が勝手に勘違いしてくれることを祈りながら
「……知らないのか。
 アシュティアドームなら私も知っている。道案内もかねて同行しようか?」
「結構です」
 ルッカはきっぱりと断った。するとその男はにやりとした。
「心配するな。共に人間。機械の恐怖にさらされてきた者同士。
 機械共の勝手な考えで死んでいくものを見過ごせはしない」
 そう強く言う男だが、ルッカにとってはあまりよくはない考えであった。
「あなた一体……」
 その自信はどこから、と続けようとするが男によってさえぎられる。
「人は私のことを革命家と呼ぶ。
 革命家リュト・サペル。
 機械が支配しつつあるこの世界を機械から解放するために活動している」
「革命家?」「機械の支配?」
 クロノとマールは疑問の声を上げた。
「ああ、彼らは人口の調整という理由から、自分達に不都合な人間、機械のことを研究していた者、オレのような思想の持ち主、力を持ったものを捕らえ殺している。
 こんな事許されるはずはないと思った。
 オレはこの機械の支配から人を解放するためにドームの人に声をかけている」
 リュト・サペルの話でクロノとマールは不思議な感覚に包まれた。
 それが何のか分からないが、それとは別にクロノたちはジェノサイドームでの光景を思い出していた。
「それはここに支配する機械が現れたってこと?」
「いいや」
 リュト・サペルは否定した。
「ここの大陸の人々は機械に恐怖し、倒す力を持とうとはしない。
 何人のも仲間が、知り合いが捕らえ、殺されてしまったのを知っているからな。
 だから臆病になるのは分かる。
 しかし、それでも戦わなくてはいけないとき時がある。
 大崩壊から数百年。
 それで疲弊した人間に手の裏を返したように暴走した機械。
 恐怖によって支配する世界は我慢できない。
 それに突然ここの大陸の機械が、ヒトと共存して、このボロボロになった世界を共に歩まんとしていた機械がなぜ我々ヒトに敵意を持ったのか知りたい。
 勘違いしないで欲しい、オレの目的は機械の排除ではなく、機械からのヒトの解放だということを」
 ルッカは少し考えた言った。
「残念だけど私達はあなたを支持することができないわ。
 私達にはかけがえのないロボットの知り合いがいるの。
 彼はとても大切な友達だから、あなたの意見には賛同できないわ」
 それはルッカだけでなく、クロノもマールも同じであった。
「そうか、まだ正気を保った機械がいるとは、貴重な機械だ。
 大切にするんだな」
 リュト・サペルはそういってあっさりバンゴドームから去っていった。
 クロノたちは感じていた。
 このリュト・サペルという男は機械の排除ではないといっているが、実際は機械に対しての憎しみがあるのではないかと。
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【165】-11- (第六章 廃墟を越えて……1.)
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:11 -
  
 ガルディアの森からゲートを通ってバンゴドームに抜け出した三人、クロノ、マール、ルッカの三人。
 三人はこれからのことについて話し合いを始めた。
「許せないわね」
「いきなり、どうゆうことなのルッカ?」
「なんかさあ、全部あの少年の手の上で動かされているような気がして」
「??」
 ルッカの言いたい事が、わかっていない様子のクロノとマールに向かって言った。
「つまりは。この現象を引き起こしているのはあの少年の仕業っていうことよ」
「この現象って、俺たちが二周目に存在しているってことが?」
「おそらく、おそらくよ。あくまで仮説の域を出ないけど」
 ルッカは息を置き、二人をあらためて見直してから話し出した。
「……あの少年は言ったわ。
 私たちにやってもらいことがあるって、そして経験も積んでもらいたいとも。
 つまり今の私たちじゃ足りなくて、それでも私達に何かをやってほしいってことよ」
「今のわたしたちに足りないもの?」
「あるいは見逃しているもの、ね」
 ルッカはその指を何も無い宙でくるりと回す。
「想像がつかないな」
「そうよねぇ、今の私たちじゃ想像がつかない。
 だから、あの少年が現われて私たちの進む方向を直していく、間違った道を行かないようにしているんじゃないかっておもうのよ」
「別にかまわないじゃないか、進むべき道が分かっていることは楽で」
「構うわよ!!
 つまり私たちの行動は全部少年によって誘導されているってことよ!!
 あの少年のやりたいことが何なのか聞かされていないことから考えると」
「わたし達が操り人形になっているってこと?」
「そう、少年が何を考えているか分からないのに、知らない間に片棒を担ぐのはいやよ」
 ルカが拳をぐっと握った。
「つまり、あの少年は悪い奴かもしれないってこと?」
「……ええ、まあ……でも悪い奴っていうことも見方によるわ。
 悪いなんて判断はその人の立場によって違うもの。
 例えば、ジールや恐竜人にとって私たちは悪だったといえるでしょうね」
「でもジールはこの星を……」
「マール、これはあくまでも見方によってちがうってことよ。
 ジールもはじめはこの星を滅ぼそうとしていたわけではないはずよ。
 単に永遠の命を求めて、力を求めてしまったから、ああなってしまった。
 のかもしれない」
「ラヴォスに利用されたってことか」
「そうともいえるわ、それに恐竜人もあの大陸から追い出した私たちは、彼らにとって悪だったでしょうね」
「でも解決したんじゃないか? 『前の周』で、これ以上何を望むっていうんだ?」
「確かに、言い過ぎかもしれないけど恐竜人は私たちがいなければ滅亡していたのは確かね」
「あの少年が何が目的で私たちの前に現われたのか……」
「意外とあの少年がすべての原因で、最後に自分を倒して欲しいってパターンじゃないかしら」
「それは……」
「そうね……、言ってしまってからなんだけど、あまり想像したくないわね」
「ああ、でも……まさか、また未来はこのままなんてな」
 そこはすでに捨てられたドーム。
 人だけでなく、ロボットやミュータントさえいない。
 灰の空気が漂う空間。
 それはクロノ達が見た、希望が閉じてしまった未来だ。
「あの救った未来はどこに、未来のロボはどうしたんだろう?」
「また壊れているかもしれないわね……」
 マール、ルッカは少し沈んだ気持ちになった。
「にして一体何があったの?
 この未来で、あの少年の言うことを信じるなら、ラヴォスは私たちが倒すことは確定済みなはずなのに」
「何かがあったってことだろ」
「その何かが重要なのはわかっているけど」
 そこでマールはすっと立ち上がった。
「わたしたちはこんな野望に屈してはいけないのよ」
「へっ?」
「野望よ、野望。
 こんなの許せないよ! せっかく救った未来を!!」
「マール?」
 クロノもルッカも呆気に取られている。
「だって、こんなのおかしいよ、こんなのってあんまり、あんまりだよ」
 肩を落とし崩れた。
「マール……」
 それを呆然と見ていたクロノは、ふと何かが繋がった。
「野望か」
 低く、確かめるようにクロノは言った。
「クロノ?」
 マールを見ていたルッカは顔を上げた。
「『前の周』の世界では、オレたちが過去に何かやるとその後のすべての時代に何かしら影響がでていた。
 メディーナの村、パレポリ、黒の夢、すべてオレたちが何かをやってきた結果つくられたものだよな」
「ええ」
「それはオレたちが巻き込まれたから起きた結果なんだよな」
「巻き込まれたって言う表現が正しいかどうか分からないけど。
 まあ、そうなるわね」
 ルッカには今だクロノが何を言いたいのか分からない。
「でも、オレ達の記憶は変化する前の物が残っていた、これはなぜなんだ」
「変化の前の記憶?」
「つまり、『前の周』だけでなく、『今の周』の記憶も持っているってこと」
「それは、私たちがその変化を目のあたりにして……ってあれ?」
「それっておかしなことだよな。
 オレ達の頭の中にはメディーナの村がまだ人間と友好的ではないときの記憶と友好的な記憶が混在している。
 一見見逃しがちで、そのときはラヴォスを倒せば世界が救えるって思っていたからあんま考えなかったけどな」
「確かにヒトの記憶って曖昧なところがあるから、そういう風に二重に記憶があることに何の疑問も浮かばなかった」
「でもそれの何がまずいの、クロノ」
 クロノは二本のカタナの鞘を腰から抜きだし、目の前に二本の鞘のまま手に持った。
「この武器は共に『前の周』の世界で鍛えられたもの。
 マールの弓やルッカの銃も同じだろ?」
 肯く二人。
「オレたちは取り残されているんだ、世界の変化に」
「取り残されているって、それは逆じゃないの?
 私たちの方が進んでいるんでしょ?」
「世界が変化しているのに、変化前の記憶が残っているのに?」
「あっ」
「二重の記憶を持つこと、本来そこにあるはずのないものを持っていること。
 変わった側から見ればオレ達は過去の遺物をいつまでも引きずっている存在だってこと」
「!! それって私たちの存在の否定じゃない!」
 その言葉にマールはびくっとした。
「でも、オレ達はここにいる」
 なだめるような声でやさしく言う。
 クロノは再び腰に二本のカタナをさした。
「これはオレ達が世界から否定されているとは思えないよ」
「確かにそうだけど」
「逆に二周目があるってことは、必要とされているって事なんだろ?」
 まだルッカは納得のいっていないようだった。
「だったら、あの少年はなんでわたし達の前だけに見えるのも……」
「そういうことなんだろうな、必要のある人間にしか見えない」
「なんか選ばれしものってかんじね」
「まあ、『前の周』での冒険は偶然だった。
 それでも戦い、生き残った俺たちだから選ばれたのかもしれない」
「わたしは偶然でもよかったと思う、それでクロノやルッカ、それにみんなに会えたから」
「私もマールに会えてよかったわよ? たぶん私じゃ、未来を変えようなんて思わなかったから」
「アリスドームのことね」
「そうよ、あのとき、ここぞってときなのにクロノッたらどもるんだもん」
「しょッしょうがないだろ!! 驚いていたんだから」
 そう、あの時クロノは未来であるということに少し絶望していた。
 この未来のあまりの悲惨さに。
 だからあの時、自分がラヴォスを倒すなんていう、あんなすごいものを倒すなんていうことは思いつかなかった。
「で、今回はもうラヴォスの心配はしなくていいんだよな」
「たぶんね、あの少年の言う通りなら」
「少年……。ほんと何者なんだろう」
「未来を見せてくれる少年、それは少年が未来を知っているってことかな?」
「たぶん、あの少年のやってもらいたい何かっていうのは、過去の遺物を持っているオレ達だからこそできることなんだろ。
 この過去の遺物を使ってもらわないとこの星は救えない。
 今度も何があろうとやってやろう」」
  ほおぉぉぉ
 という声がマールとルッカの口から洩れる。
「今度はどもらずに言えたわねクロノ」
「ルッカ!!」
「うん、すごい決心だよ」
「マールもそこまで驚かなくてもいいだろ」
「あはははは、ごめんごめん、ついね。
 でも、私達だからできることか、なんかそう思うと、なんかいいほうに向かっているって気がするわ。
 私達のやっていることは、まだ間違いじゃないって。
 その辺はさすがクロノね、前向きぃ〜前向きぃ〜」
 それは愛刀”あおぞら”を失ったクロノ自身の一つの結論だった。
 失ったものに意味がなければクロノは今、ひどく混乱していたどろう。
 自分に対しての区切りをつけるための結論でもあった。
 そんなミュージックが流れる中、突然ドームの出入り口が開いた。
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【164】放課後レター
 柚子  - 08/9/18(木) 0:55 -
  
*5leeter*


「きゃっ!」

あたしは少しだけ大きな声を出してしまった。


だって…


下駄箱を開けると―――・・・・


「か…カエル?!」


なんと蛙が飛びだしてきたのだ!!!


「…と思ったら、カエルのおもちゃかぁ・・・」


びっくりした。
こんなことをするのは、絶対に、ぜ〜ったいに
ヤツしかいないッ!!!!

あぁ…だから流晴、下駄箱に注意しろ!なんて言ったんだぁ…
そういえば、帰るとき、やけにあっさりしてたし。


「妃?どうかした?」

きみちゃんが声をかける。

「う、ううん。なんでもないっ!!」

あたしはとっさに、そのカエルのおもちゃを後ろに隠し、
少しあとずさりをした。


カサッ


足になにかの感触がした。
どうやら、紙らしいものを踏んづけてしまったようだ。


「そう?ならいいんだけど…」

きみちゃんは少し不思議そうな顔をしている。
だが、すぐに他の子とおしゃべりを始めた。


あたしは、しゃがみこんで、踏んづけてしまったものを確認する。


白い封筒だった。
後ろをめくってみるが、名前は書かれていない。
多分、あたしの下駄箱から落ちたんだろう。
それまで、その床には何も落ちていなかったんだから。

間違っていたら悪いと思いつつも、
封筒の中身を見てみる。


そこには――――


 『星埜 妃様

   放課後、お話がありますので裏庭まで来て下さい。
   待っています。』


とだけ書かれていた。


差出人の名前は書かれていなかったが、
あたしの頭の中には1人の人物の顔が浮かんだ。

絶対、あいつだ…!!!
あいつしか、いないもんッ!!


「妃、もう行こう?」

きみちゃんが、あたしに向かって言う。

「……ごめん、きみちゃん。急に用事ができちゃった・・」

「えぇ〜?!」

きみちゃんが驚いた声を出した。

「ごめんね。楽しんできてね」


きみちゃんたちと別れて、さっそく呼ばれている裏庭へと向かう。


もぉ〜!!せっっかく、久しぶりに遊べると思ったのにぃ〜〜
こーなったら、ただじゃおかないッ!!!
一言、文句を言ってやらないと気が済まないッ!!!!


裏庭へと到着した。
辺りを見回すが、誰もいない。
差出人は、まだみたいだ。


あたしの後ろの方で、足音がした。
誰かが歩いてくる。


「もぉ〜!!!こんなところに呼び出して一体なんの用よ!
 せっかく今日は、きみちゃんたちと遊べると思ったのにぃっ
 また、あたしをからかう気?
 だいたい、今日のカエルのおもちゃ…あれ何なのよ!!
 もぅ、すっごくびっくりしたんだから!!!
 ちょっと、なんとか言ったらどうなの?!流晴っ!!!」


一気にまくしたて、あたしは後ろを振り返った。


え?


あたしは目を疑った。
だって、あたしの後ろにいたのは――――
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【163】放課後レター
 柚子  - 08/9/15(月) 22:37 -
  
*4leeter*


キーンコーン カーンコーン


放課後のチャイムが鳴る。
今日は、始業式だから早めに学校が終わる。
まだ12時っ

これから部活の人も、友達と遊ぶ人も
みんな慌ただしく教室から出ていく。
あたしもその中の一人なワケで・・・
みんなと教室から出ようとしていた。

これから、きみちゃんと他の友達と遊びに行く約束をしているのだ!!!
久しぶりだから、すっごく楽しみ☆


「ばいば〜い」

教室にいる子達に声をかける。
チラッとあたしの席を見ると、
そこには流晴たちがたむろっていた。
まぁ、隣は流晴の席なんだけどね・・・

そんなことを考えていると
バチッと流晴と目があってしまった。


「あ?妃、もー帰ンの?」

「う、うん」

不意だったので、なんだかどもってしまった。

「流晴は?まだ帰んないの?」

「んー、もうちょっとで帰る」


「妃ぃ〜?!置いてくよーー」

廊下できみちゃんの声が響く。

「えぇ??待ってよぉ〜」

あたしがそう答えると、

「んぢゃぁな」

と流晴が言った。

「う、うん。ばいばい・・?」


流晴の態度に違和感を感じながらも、
きみちゃんたちのいる廊下へと急いだ。

なんだろ?さっきの流晴・・・
いつもと違う・・気がする。
やけに、あっさりしていたとゅーか…
いつもみたいに、からかわれると思ったのに。


「あ!妃!!」

後ろから思いついたように、流晴に声をかけられた。

「お前の下駄箱、注意しろよ!」

「う、うん?」

何がなんだか分からず、とりあえず返事をして
教室を後にした。


「ごめん、ごめん。」

廊下で待っててくれたきみちゃんたちに謝る。


「じゃ、行こっか!」


みんなで玄関まで向かう。
これからどこに行こうか、なに食べようかで
すっかり盛り上がってしまって、
流晴の謎の言葉はすっかり消えてしまっていた。


玄関に着き、自分の下駄箱に手をかけて、
一瞬開けるのをためらった。
ふいに流晴の言葉が頭の中に蘇る。

 “お前の下駄箱、注意しろよ!”


あれは一体どういう意味なんだろう?
おそるおそる自分の下駄箱を開けてみる。
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【162】-10- (第五章 王国裁判IV脱出)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:58 -
  
   カーーン、カン、カン

 クロノにとって気味の悪い音。
 金属音と床に響く音。
 愛刀の“あおぞら”が折れた。
 師匠よりもらった真剣。『前の周』で多くを共にしたカタナが二つに折れる。
 剣先が石床の上で、明かりの炎に揺れて光る。
「届かなかったか」
 さらにカタナを構えるジーノ。その腕には薄く長い傷ができていた。
 ジーノは二本のカタナを完全に押し切ることができなかった。クロノは上手く、カタナを一本失いつつもジーノの技を流したのだ、ただその代償は大きい。
 ジーノの技は斬るものより、武器破壊に近い破壊力があった。
 魔法の付与も使わずこれだけの力を発揮していたのだ。
 それだけでも恐ろしいことである。
 これが破壊の技というモノか。
 カタナの本来の形とは別のもののようにそれは感じられた。
「次は防げまい」
 ジーノはふたたび同じ構え。
 次は防げるか。
 否。
 そんな思いがクロノの中を埋めた。
 『前の周』ラヴォスと戦ったときとは別の、何かが襲ってくる。
 振り払うようにジーノを見る。

   ドォォォォォォォォォン

 部屋を揺らす地響き、忘れていたように残っていた机の上のコップが落ちる。

   カラン

 音は橋の方からであった。
 ジーノを見ると、バランスを崩し倒れていた。

   ごほっ!!こほっ!!こほっ!

 落ちた埃がのどに当たったのかセキをしていた。
 クロノは折れたあおぞらの先をもち、部屋を出た。
 せきが止まりジーノもその後を追いかける。


「マール、ルッカ」
 二人を呼ぶ。
 周りには機械の残骸が散らばっている。
 やはりドラゴン戦車を倒したようだ。
「クロノ、おそい〜」
「すなまかった」
 そんな一言を交わし、大臣橋を今回も渡り(マールは初体験)階段を下りる。
 その後、所長室からジーノが来る。
 騎士長は大臣の前に止まり、
「追いかけますか? 大臣」
 冷淡に話しかけるジーノ。
 その態度に大臣は苛立ちながら、
「その前にわしをたすけんかい!!」
 怒鳴り散らす。
 が、騎士長にはそれは全く効かず、大臣を兵士二人ともども助けた。
 助け出された大臣は穴の開いた橋の下と見ないように向きをかえる。
「どうせここから逃げ出せん」
 大臣は長く続く階段を見ながら、降りる音を聞きつつニヤリと笑っていた。


 階段を下りながらクロノは話しかけた。
「マール、やっぱりこの後警備官がいるのか」
「たぶんね。
 だけど今回は騎士長がいるから」
「……上手く逃げられるかどうか分からないか」
「うん」
「さっきも、なんの連絡手段もないあんなところでいきなり現われるなんて、
 かなり頭の切れる騎士長ね。
 ふたたびここに来るとき厄介な相手になるわ」
 そんなことを言ったルッカに、クロノは黙っていた。
 折れた刀の刃を鞘に包み階段を降りる。


 正面の入り口手前で、『前の周』のように囲まれたクロノたち。
「度が過ぎますぞマールディア様。
 囚人を逃がすなどとは」
「大臣!!」
 どこから現われたのか、それよりどうやってあの状態から抜け出したのか、大臣は騎士長と共に中央の入り口にいた。
「クロノは無罪よ!!
 あなたこそなんでクロノを死刑にしたのよ!!
 裁判では…」
「何のことを言っておりますか、マールディア様。
 そこのクロノ少年は反省のために独房に入っていたのですから。
 それを死刑とは。
 ふう、何を言い出すかと思えば……」
 そのとき一人の警護官が大臣に耳打ちする。
 フム、大臣はいきなり大声を出した。
「頭が高ーい! ガルディア王33世様のおな〜り〜ッ!」
 大臣と騎士長は左右に分かれ、中央に入り口が開かれると共に堂々とガルディア王、この国の王がでてくる。
 その姿は威厳のあるものであった。多くのものが彼に慕う。引き付ける。有無を言わさない態度、強固な姿勢をみせていた。
「父上……」
「いいかげんにしろマールディア。
 お前は、一人の個人である前に一国の王女なのだぞ。」
「ちがう、ちがう、ちがうもん!
 今の父上と話しても何も聞いてくれない、何も信じてくれない」
「何を言い出すか、信じないとは。
 城下になど出てから悪い影響を受けおって!」
「行こう! クロノ! ルッカ!」
 マールは二人を連れて外へ出て行った。
 呆然と見ている王をはじめ警備兵。
「何をしておる! 追えッ! 追え〜いッ!!
 大臣が叱咤して警護官がマールらを追いかけ始めた。
 すぐに大臣もその後を追う。
 騎士長のジーノも国王に一礼をして外へ出る。
「マールディア……」
 一人、国王は扉の先、ガルディアの森その先を見ていた。


 騎士長ジーノは大臣たちクロノのいった方向とはちがう場所にいた。
 一人、ガルディアの森の少しはずれたところにある湖に一人たたずんでいた。
 湖は澄み、城での騒動が嘘の様でもあった。
 ジーノはそのほとりに行き、座り込んだ。
  ごはっ!!ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!
 どす黒く、変色した液体、血液を体内から吐き出す。
 血は辺りの草の葉、茎、花を変色させた。
(いつ見てもいやな色。しかしそれももう慣れた)
 胸に手を当て、片手から瓶を取り出し、その中に入っている粒――薬を二、三粒取り出す。
 そして西方で手に入れた薬を湖の水と共に体内の中に流し込む。
 現在の先端医療は西方が握っていた。
 西方で直せないものは、不治の病とされるほどに。
 心臓の鼓動が少しずつ平時に戻っていく、その脈動が分かる。
 ジーノは寝そべりながら先ほどのことを思い出していた。
「クロノといったか。面白い少年だ」
 おそらくその正体は、ジーノの予想するものであろう。
 自分は祖父アラン・プリースト・コンフォートの後を継ぎ、祖父に代わってガルディア王国軍の騎士長を任せられた。
 あの父たちがジーノの役職に、自分より上の役職に、嫌に思うことはあるまい、彼らはそういう人たちだ、長年のコンフォート家という役割が分かっている人たちだ。
 しかし、自分に剣技をすべて伝えられなかったことはどうだろうか。
 途中祖父は亡くなり、すでに第一線から離れていた父に会う機会も、軍としての忙しさから失ってしまった。
 妹は父が亡くなると放浪の旅に出て、たまに地方での武勇伝を聞くぐらいだ。
 彼らが、俺に伝えられなかったものを彼は手にしているのだろうか?
  ………
 そう考えてばかばかしくなった。
 軍の道に若くして入ってすでにそういったことは考えても仕方が無いことだと思っている。
 自分でこの道を選んだのだから。
 軍に入り、騎士長に上り詰めてからも剣技に関しては鍛えていた。
 それがガルディア軍の騎士長としての役目だと、部下になんと言われようともそう考えていた。
(王女も自分で道を決めることができるように育ったか)
 そう考えると外に出たことも悪くはない、そうジーノは思っている。
 ジーノは体の向きをかえて、湖とは逆に広がるガルディアの森を見、聞き、感じる。
 自然のざわめきが聞こえる。
 外交などから帰ってくると、いつもこうやって自分の護るものを確かめていた。
 今回は忙しく、久々の帰還であった。
(それにしても)
 よくよく考えてみると不思議なものはあの少年ばかりではない。
 マールディア様はどこに行っていたのか。
 帰ってくる前なので詳しくはまだ聞いていないが
 この大陸では行く場所に限りがある。秘密裏に国中を探し、有効性をみてパレポリやサンドリノ地方の砂漠民族にも捜索して回ったという話だ。
 それにもかかわらず、それこそひょっこり城に現われた。
 あれほど探したのに見つかることは無かったというのに。
  ………
 このガルディアで何かが起こり始めているのか? 建国千年祭の最中、歴史的事件が起こるには都合がよすぎる。
(まあどちらにせよ。
 ガルディアの一端を握る者としてこの行方を見届けなければならない。)
 心地よい風により意識の遠のく中、ガルディア軍騎士長。
 かつて、ガルディアの勇者と呼ばれた血を受け継ぐ者の中で、最後の、ガルディアの護り手となる男はしばしの休息を取る。
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【161】-09- (第五章 王国裁判IIIガルディアの護...
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:57 -
  
 部屋中が書類、木片などでぼろぼろになっていた。
 狭い空間で二人、カタナを構える二人。ともに息を切らし、それでも相手の隙を突こうと目を走らせる。
「……」
 二本のカタナを扱うクロノと中段の構えで向かえているジーノ。

(似ているな)
 ジーノはクロノの太刀筋を見て、自分に近いものを感じた。それは自分の師である祖父や父、妹のだれかがクロノという少年が関わり合いを持っているということ。たしかこの少年はトルースに住んでいると考えると、関わりや繋がりがないとは全くいえない。
 多くの相手をこのカタナで戦ってきたが、こうも自分の剣術とにていると、自分が弟子を取ってその稽古をつけているようだと感じられる。祖父をはじめ、父や妹などはこのようなものを感じていたのだろうか。早くしてガルディア軍の中に入りその役を負っていた自分ではあまり考えられないものである。マールにしても兄弟子としておきながら、祖父から習ったものはまったく別のもの、手合わせなどはなかった。
 あとは確たる証拠があれば…、もしそうであるならば、このクロノという少年、自分の家系に伝わる剣術をここまで使いこなせるという才能、いや努力のなせる技、それに感心する。
 そしてここまで自分なりに昇華させていることを。
(不思議な少年だ。確かめたいが、今は逃がさないことを優先にしなければ)
 ガルディアの騎士長として任命されてから、私事を切り離して考えてきた。自分の欲のために進んではいけないと。
 フッと気を入れる。
 クロノ少年もそれに気づき身構える。
 ジーノは自分から仕掛けていった。
 中段からの横薙ぎ。
 クロノはそれを受けるが、ジーノは突然右手をカタナの添える手からはずした。力の割合でクロノのカタナが、ジーノのカタナを押す。
 ジーノはそのあいた手で肩に手を当てる。

   ガクッ

 骨がすれる音。
 突然のバランスを崩したところに、その力を利用されてクロノの顔面は、地面に吸い寄せられる。だが、地面に打つ前にクロノは体を捻り、転がった。
 直接ぶつかるよりもダメージを減らし、散らばる書類に巻かれながら立ち上がる。
 手にはしっかりとカタナが握られていた。
「古武術?」
 クロノにほとんど回避不可能な技をかけたのに対してのこの対応、それは東の大陸で使われる武術の一つに近かったためにそんな言葉が出る。そしてこの中央大陸群、特にこのゼナン大陸で普通見られるものではない。いよいよもって、このクロノ少年の正体が見え始める。
 優先としておきながら、見極めてみたくなった。
(ここで揺すりをかけてみるか)
「お前の師は誰だ」
「!」
 とたんにクロノが固まる。
 ただそれも瞬間的なもので、すぐに隙のみせぬ構えを取る。
(かかったか)
 いきなりストレートに聞く、こういったやり取りは苦手と見える。まあ、それも演技だということも考えられるが。
「黙っていても分かるぞ。
 お前の師は私よりも強いからな」
 バンダナにわずかな汗がにじみ出ている。
 あせりなのか、それとも演技なのか。前者と判断したいものだ、あまり父親らの弟子とは戦いたくないというのが正直なところ半分、どんなものなのかもっと確かめたいと思うのが半分である。
 ジーノは力を緩め、半歩進む。
 たまらずクロノは動く。

  ”破”

 吐く息で力を強める。

  ”裂”

 その剣を迎え撃つ。
  ……
 金属音はなく、互いにすれ違う形となり、互いに服の先を奪っただけだった。
 これで確信が持てた。
 ジーノの使う剣術は元々人間外の、競技としてでなく戦闘を主眼と置いたものであった。そのため致命傷にならないのは『打たない』ことになっている。知能の低い魔物、人間を襲う魔物は、単純である。彼らは人間に対して力で見ると絶対的有利とおもっている。そのため、自分の有利を、人間から傷を受けることはないと思っているために、その自分で作り出した壁を崩されると逃げるか、余計に暴れだすことが多い。それを考えると、知能を持った魔物、魔族は、相手のするのが幾分か楽であるが、多くは知能の低くて人を襲う魔物、魔族を相手にするため、敵に対して致命傷にならない技は『打たない』ようになる、いわば独特の癖である。
 まあ、外へ教えるときは競技用に消化した剣術を教えているのだが、この少年は本来のものを学んでいるし、経験も多い。
「面白い」
 思わずつぶやく。
 そして付け加えるように言葉を出す。
「一刀、即断」

 クロノは自分の顔が険しくなったのが感じられる。
 『一刀、即断』というのは師匠がよく漏らしていた言葉だ。
 ジーノはさらにつづける。
「マールディア様が気にかけるのも納得がいく……だから危険だ」
 コンフォートは構えを取る。
 その構えを見てクロノは体が強張る。
 師匠がかつて漏らしていた、ガルディア軍騎士長ジーノの本気の構え、習えにそって『一刀、即断』を行うのだろう。
 いまのクロノにそれを抑えることは、できるのか。
 二本のカタナを握りなおす。
 ジーノが動く。

  タンッ

 咄嗟にそれに相対する攻撃の型を取る。

   キンッ
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【160】-08- (第五章 王国裁判IIドラゴン戦車)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:53 -
  
  ドゴゴゴゴ

 石橋の先の方、空中刑務所の出口まで来て聞いたことのある音にルッカは止まった。
「さあ来なさい。」

  ドゴゴゴゴ
  ドゴゴゴゴ

 車輪の回る音と共に『前の周』よりひと回り大きいドラゴン戦車があらわれた。
 大臣はその後ろからひょっりと顔を見せる。その後ろにはふたりの護衛官がついている。
「マ、マールディア様。何でこんなところに、こっちにきてください」
 しかし石橋の上めいいっぱいに占められたドラゴン戦車の車体にはどこからも向こう側に移れるスペースはない。
 そんな中無理やり顔を出す大臣を護衛官は抑える。
「大臣、危険です」
 二人の護衛官は必死に大臣を抑えている。
「く、ぬぬぬ、王女様を人質にするとは」
「人質ではないわ! これから家出するんだもん!!」
「な、なんですと〜〜お! そんなこと許しませんぞ」
「許さなくたってもう決めたもん」
「マールディア様〜」
「大臣、危険ですって」
「分かっておる、ドラゴン戦車よ。マールディア様を傷つけるんじゃないぞぉぉ」
「大丈夫です。ドラゴン戦車には王族には傷つけないようしてありますから」
 そのまま護衛官に大臣は引きづられた。

  ”レーザー”

 いきなりドラゴン戦車が先制攻撃をはじめた。その後ろには「マールディア様〜〜」と叫んでいる。
「やっぱり強くなっているわね」
 ルッカはミラクルショットを構えた。
「いくよ」
 ミラクルショットのトリガーに力を入れる。

  ドォキョッン 

  コン

 弾丸はとも簡単にいとも簡単にはじかれた。

  ”アイス・ショット”

 「水」の魔力を加えた矢が戦車に当たる寸前に矢がはじかれるが、勢いのついた氷の魔法はそのままドラゴン戦車の車輪に当たる。
「物理攻撃に対しての完全防御みたいなものがあるのかしら」
 小さくつぶやくとルッカはスコープをつけた。
「ルッカ、矢も銃弾……」
「分かっているわ。おそらくは物理攻撃になにかしらのからくりがあるみたいだけど」
「どうする? 魔法は聞くみたいだから、魔法で攻める?」
「それはちょっと。あまり大規模な場合はこの石橋も壊れちゃうかもしれないわ」
「じゃあどうする」

  ドゴゴゴゴゴ

 ドラゴン戦車は車輪が回転し引っ付いた氷を引き剥がした。
 時間は刻々と過ぎていく。ドラゴン戦車自体の攻撃は単調なのでそれほど危険ではないので、十分に考える時間はある。基本はマールに攻撃を仕掛けてこないのでルッカ自身が気をつけていればよい。ただ大車輪にだけ気をつけていればいい。
 ただ、考える時間があるといっても時間がたてばそれがけこっちが消耗するし、扉外に警護官が集まってくる可能性もある。クロノの方も心配である。
「ルッカ、わたしが囮になるからその間に弱点を!!」
 ルッカの前にマールがでて、ワルキューレを構えなおす。
「でもマール」
「ルッカ……」
 マールは一回、後ろを振り向かずに答えた。
「……自分のできること、やることは、ねっ!」
 その言葉にルッカは言葉が出なかった。それは前に自分のいったことであった。
 ルッカはマールの決意に押され、すぐに新しく改良したスーパーサーチスコープをつけた分析を開始した。
 マールは、マールなりに色々考えていろいろな攻撃をし多くの情報をルッカに与えようとしている。それは、いままでずっと一緒に戦ってきたからこそのできるものであった。今までの戦いの中で、マールは確実に成長していた。(度胸は元々あったが)
 このスコープはいままではロボにつけていたサーチ機能を頼りにしていたが、ロボと分断されたときを考えて、構想だけはしてあったものだ。それをクロノが捕まっている間につくったもの。ちなみに今が試行中である。
 ルッカのあせる気持ちを何とか抑えるように、マールはなるべく落ち着いて戦っていた。
その気持ちが見ながら伝わってきてルッカも分析を続けることができていた。
 そんな中でスコープから、物理攻撃をはじき、魔法効果をわずかだが分散させる壁が存在し、瞬間的に発動し、ある変動が見られることが分かった。
「マール、戦車の弱点はアタマよ。
 前と弱点が変わっていないのは相変わらずあの大臣がやりそうなことね」
「でもどうするの? 物理攻撃が全部はじかれちゃうし、魔法も少しだけ分散させられるみたいだけど」
 やはりマールも魔法が少し分散させられていることに気づいていたようだ。これではアイス、ファイア級ではダメージを与えられないし、すぐに回復してしまう。
 ルッカは白い手袋をはめた。
「少しの間ならあの壁を消すことができる、と思う。
 だからその間にあの頭部を狙って、重点的に」
 さらにルッカはバッグからハンマーを取り出した。ハンマーはいつも近距離用にルッカが使っているものとは違った形をしていた。
 いままでルッカは近距離で銃が使えないときにハンマーを使っていたのだが、それは市販のハンマーをちょこっと合成したものであった。でも、それではどうにも威力が高くなく少しそれで悩んでいた。
 ルッカはいつも接近戦で役に立たなかった。そんな中、少年の言葉、そして中世でのヤクラのパワーアップ。今後強力な敵が現われたときに、あまり使わないからといってあの市販のハンマーを合成したでは十分な戦力にならない(実際にギガガイアで一度破壊されている)。そんななかで考え出されたのがこのハンマーである。また違う効果を持つマールの分も作ってある。
 ルッカはハンマーを手のひら小の弾丸状のものをハンマーの取っ手の付け根につけ、すぐにルッカは走り出した。マールを抜き、スコープで確認した壁ギリギリの場所で止まりハンマーを振り落とした。
「グラヴィティー・ショッ〜〜〜クッッッッ」
 ハンマーがドラゴン戦車の謎の壁にあたり、そこから光の粒子が放出する。それと共に壁が消失していく、マールはその光景に見とれていた。
 壁は少しずつ大きくなっていく。
 ふと我に返りマールはワレキューレを構えた。

  ”ヘイスト”

 狙いはドラゴン戦車の頭部。

  シュン シュン シュン

 十数発の矢は頭部を直撃し、壁が消えた。
 ルッカはそれを確認してすぐさまハンマーの効果を止め、左腕を上げ手をグー、ゆっくりと親指を出した。
 その合図にマールは簡単な魔法の構成を始める。
 ドラゴン戦車は頭部が破壊されたことにより処理能力が格段に落ち、動きが緩慢になっていた。
 魔法の構成が終わり、二人同時に放つ。
 狙いをつけるのはルッカ、範囲を指定するのはマール。
 お互いを補いつつ魔法を完成させる。

  ””反作用ボム―らいと―””

  ドォォォォォン

 ルッカの狙いで戦車の中心から少し上部へ吹き上げるように発動、マールの範囲指定で柱のように上空へ余分な破壊力が放出される。
 ドラゴン戦車の三分の一がつつまれ、巨大な車体は壊れ始めた。
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【159】-07- (第五章 王国裁判I脱出)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:51 -
  
 目が覚めたら、バンダナをした少年――クロノのひたいのバンダナはにはうっすらと汗が浮かび上がっていた。
 バンダナをはずし、服の袖で汗を拭う。
 それからクロノは現状を確認した。
 周囲は見た覚えのある汚れた壁と鉄格子。
 机の上には薄く輝いている銀色のカップ、そして真新しい袋が置いてあった。
「? 起きたか」
 鉄格子の外には、鉄のよろいをしたガードがいた。
「ここは空中刑務所。 覚えているか?
 お前は王女様誘拐および国家転覆の罪でここに捕まったんだ」
 いわれてクロノは少しずつ思い出していく。


「マールディア様〜!
 ご無事でしたか? 一体、今までどこに!?
 何者かにさらわれたという情報もあり 兵士達に国中を探させていたのですぞ!」
 現代のガルディア城に入ると、顔をゆがませた長いヒゲと小さな背が特徴的な男――大臣が階段を降りてきた。
 大臣が近づいてきたのはクロノの前にいた少女――マールであった。大臣は後ろのクロノに気づき。
「 ム! そこのムサいヤツ! そうか、お前だなッ!
 マールディア様がさらったというのは!
 なるほど、自分から罪の意識でやってきたというのか」
「ちょっと、なに言っているの!!」
 クロノを値踏みするように見た後、にらみつけた。
「フム、そのカタナ。 この城の中で刃物を持ち歩くとは何たることじゃ。
 も、もしやそのカタナでわしらを脅すつもりなのじゃな」
「大臣!!」
「マールディア様。ささ、早く離れてください。
 脅されていたのでしょう。 ガルディア城に真昼間から乗り込んでくるとは大胆なやつじゃ
 警護官!! ささっと、ひっとられよ!!!」
 マールの制止も聞かず、大臣の命令で続々と警護官が集まる。
 しかしクロノは、前の時間軸(ルッカの言う『前の周』)でかなりの経験とともに力を手に入れている、早々やすやすと捕まったりすることはない。
 ましてや、生身の人間に対してそうそう気絶することはありえない。
 だが、クロノの気は一瞬にして失われた。
 急所を完璧に突いたその攻撃に反応すらできなかった。
「クロノっっっっ!!!」
 マールも何が起こったのかわからず、クロノの名を呼ぶ。
 が、クロノは床に沈み立ち上がらない。
 すぐに横の警護官から抜け出し、近づこうとするがある男によって止められる。
「マールディア様、危険です」
 低い声でマールを呼び止めた警護官、この男がクロノを気絶させた。
 その男を睨みつけると、マールの表情は驚きに染まった。
「ジ、ジーノ!!」
 マールがジーノといった男は、他の警護官とは違う衣服に身を包んでいた。
 その男、マールの記憶をたどれば一年ほど前大臣の命により、西の大陸エストの国家への外交のために出て行った男。
 ジーノはマールの前にひざまづく。
「遅れながら、 ガルディア王国騎士長、ジーノ・ノーティア・コンフォート。
 西の大陸より帰還したことを報告します」
「どうして…」
 歴史が違っている。
 マールは言葉をのみこんだ。
 彼は前の時間軸ではヤクラによってすでに殺されてしまったはず。
 ジーノは、マールの弓術は彼の祖父に教えてもらったものであり、兄弟子にも当たる。若く30代にしてガルディアの騎士長(昔からの通例でそういった呼び名が使われている)になり、マールが城の中で数少ない理解者であるとともに信頼できる人物であったはずなのだが。
「千年祭では何か起こるかわかりませんですからな。
 早々に西の大陸との交渉を引き上げて、戻ってきてもらったのですよ」
 マールに向かいそう言うと、振りかえる。
 クロノを見下ろす大臣。そこには少し憎しみがこめられているように見えた。
「案の定。 このようなムシがマールディア様に取り付きおって」
「大臣!!」
 抗議を言おうとするが、前にジーノが立ちふさがる。
「警護官!!
 この男を裁判にかける。 上に連れて行け」
「クロノーッ!!」
 足が止まる警護官。
「かまわん。連れていけ」
 ジーノがそういうと、警護官は二人がかりで床に倒れたクロノを運び出す。
 その様子を何もできずにマールはただ見ているしかなかった。
 そしてもう一つ。
 どうしてジーノが生きていたのか。
 それが不思議であった。
 あれほど悲しんだことが、不思議と現実になると不安でしょうがなかった。
 歴史は自分が知っているものと少しずつズレている?
 自分があの時、中世で消えることがなく現代に戻ってきたから?
 それが関係あるの?
 やっぱり私は一回消えなくてはいけなかったの?
 マールの不安は高鳴っていくばかりであった。


 そして裁判。
「せいしゅくに! せいしゅくに! 判決が出た! 10対0で無罪とする!!
 ……しかしだ。誘拐の意思はなかったにせよ、マールディア王女をしばらく連れ出したのは事実。
 よって反省を促すため3日間の独房入りを命ず!!」
「連れて行け」
 大臣は警護官をよんだ。
 弁護士のピエールはまだ納得のいっていない模様である、ぶつぶつと次の対策を考えているようだ。
 無言で連れてかれるクロノ。
 マールはその様子をただ見ているしかなかった、横にはジーノ。
 ジーノを出し抜いてまでむかうのは難しい、それは今までの経験から分かっていた、それに下手今行動にでたら、クロノの待遇が悪くなる、そんな気がした。
 そしてジーノの様子を見ていてマールにはどうも違和感を覚えた。
 いったい西の大陸で何があったのか聞いてみたかったが、なかなか切り出せず、時間が経ち結局クロノの裁判の時間になってしまった。
 クロノが送られていくところを見ると隣のジーノはすっと立ち上がり、裁判所から出て行った。
 声をかけようにも、なんと言えばいいのか思いつかなかった。
 それはクロノのことがあるからなのか、今のマールには分からなかった。


 クロノは『前の周』と同じく逃げ出すべきかどうか悩んでいた。
 ふと机の上を見る。
 それは、無罪にもかかわらず独房入りを命じられたことに同情して差し入れをいれてくれたものだ、中にはエーテルが入っている。『前の周』は有罪でこんな事はなかった。そのエーテルを見て決心が固まった。


 クロノは決心してから行動が早くすぐに脱出した。
 一回通った道なので早いということもあるが、『前の周』は誰かいるかもしれないと思い見て回ったのだが、結局残っていたのは骸骨や亡霊だけであった。そのため今回はすぐに脱出しようと考えていた。
 今考えると、大臣は事件が起これば検事として、片っ端から気に食わない奴、関係ない奴を連れてきて処刑したのだろう。


 唯一の生き残りフリッツを助けるルートで、一体のモンスターがあらわれた。
「ギア」
 『前の周』は一階層下にいたはずである。
「脱獄者はおめえか」
「……」
「無言は、肯定とみなす」
 ギアはすぐに戦闘態勢に入りトゲのついたこん棒を振り上げた。
 クロノの目には雑な魔法の構成がかすかに見えた。

  ”クエイク”

 魔力の干渉を受けた石の床が変形盛り上がる。
 クロノは後ろに下がると、床が槍のように飛んできた。
 確かギアはこんな能力は持っていなかったはず。
 ふたたび雑で少しさっきより大きな魔法の構成が見えた。

  ”クエイラ”

 直感的にその場を離れると、床が大きく抉られていた。
 クロノは体勢を整え、ナイフを手にした。
 そのナイフに「天」の魔力を加える。

  ”サンダー・ショット”

 クロノはあまり魔力を扱うことが得意ではないが、何かに力を加えることが少しだけできる。その応用で、サンダーレベルの電撃を手持ちのナイフに加えたのだ。
 こん棒を持ったギアが反応した、反応できた瞬間、電撃の力を得たナイフがギアに放たれる。

  ズダンッ

 ギアの体を突きぬけ、壁にものすごい音を立てて突き刺さる。
 そのとき、ギアの体から何かが見えたかと思うとそのまま恐怖の顔をしてギアは逃げてしまった。
「今のは…」


 疑問が晴れないまま、というか『前の周』もギアは途中で逃げてしまったのだが、フリッツを助け空中刑務所の出口まで来た。
 そこで所長はすぐに逃げ出すが、
  ポカポカポカポカ
 小気味よい音とともにメットをかぶり、いつもよりバッグが膨れている少女――ルッカが登場する。
「クロノ! 助けに来たわよ! ……っていってもまた自力で逃げ出せたのね」
 相変わらず無事なクロノを見て
「……、なんか、つまんないなあ」
「物騒なことを」
 と、二人でやっていると
「じゃ〜ん! クロノ! 助けに来たよ!」
 マールがやってきたのだ。
「何であなたもここに来るのよ!」
「いや、どうせ家出するなら早いほうがいいかなって。
 ダメだった?」
「……」
 クロノとルッカは顔を見合わせる。
「あ、ああ、もういいわ
 こんな所はさっさとおさらばしましょう!」
 ルッカを先頭に外へ出ようとしたとき、一人の男が現われた。
「そこまでです、マールディア様
 そして、クロノくん。君を逃がすわけには行かない」
「だれよあんた」
「……確かルッカといったか、クロノ君の幼馴染の。
 脱獄という犯罪者を逃がす手伝いをしたなら補助罪としてつかまえますよ」
「……ジーノ」
「さあ戻ってくださいマールディア様」
「彼は?」
 勝手に話を進められ気に食わないルッカがマールに聞く。
「ガルディア王国騎士長ジーノ。王国で最も強い警護官」
「……騎士長って」
 ガルディア王国は、100年ほど前に騎士団を解散させ新たに軍隊として再組織された。そのなかで旧来より親しまれている騎士という称号を設け、軍部最高責任者を騎士長と任命している。この騎士長という称号は、軍の最高責任者であるとともに軍最強の人物に与えられるものとして知られている。
 ゆえに大臣は騎士長を殺したはずだったのだが。


 クロノはそのジーノという男にいやな気を感じていた。
 少し前にこの男によって気絶させられたことはなんとなく分かっていた。
 ルッカやマールには向けられていないが、自分に対して向けられる殺気。
 どことなく師匠を思いだす強力な剣気である。
「ふたりとも先に行ってくれ、どうも俺の方に用事があるみたいだ」
「クロノっ!」
 すでに一回気絶させられているところを知っているマールからすれば、クロノが無事ですまないのではないかと心配する。
「ちょ、ちょっと、ルッカ」
 ルッカはクロノとジーノの様子を見て立ち入ってはいけないような気がして、マールを引っ張る。
「いくわよ」
 クロノの雰囲気からジーノもそれに受ける。というか、そういう風に仕向けたのはジーノ自身である。
 クロノからすれば、ジーノはドラゴン戦車が二人を止めてくれるのではないかと思っていると考えた。
 それともはじめっからクロノ一人が目的だったのかどうにもわからない。
 クロノは自分の体に浸透しつつある負の感情を押さえ込む。
 二本のカタナのうち、にじ、そして使い慣れた一本、あおぞらの二本を抜く。
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【158】-06- (第四章 ただいま!)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:45 -
  
 現代に帰ってきた少年、少女の三人――クロノ、マール、ルッカは、リーネの鐘の前の広場で今後を話し合っていた。
「とりあえず。城でも話したように、クロノには空中刑務所に入ってもらわないといけないわね」
 ルッカはベンチに腰掛けた。
「多分、アレがガルディアの森のゲートを開くカギになっているんじゃなかったかって、前に話したことがあるわよね」
 マールもその隣に腰掛けた
「確かにそんなこといってたな」
「そう」
 ルッカは人差し指を立てた。
「私たちはそこまで時間を進めておく必要があるのよ」
「まあ、俺はもう覚悟しているから大丈夫だ」
「あるいはラヴォスを倒すのか。選択の時間だよ、クロノ、マール、ルッカ」
 聞き覚えのある声、三人はその方向へ向く。
「あの短時間でまた新しい未来ができたんだ。
 どうな未来か僕にはわずかしか分からないけど、さあどうする?」
 突然の来肪者―少年の言葉に、三人ははじめになにを言っているのか理解できなかった。
「忘れたの? ラヴォスゲートだよ、ラヴォスゲート。
 君たちはあのゲートがある限り、いつでもラヴォスに挑めるんだよ?」
「新しい未来って……」
「この世界には無数の可能性がある。
 君たちがいつラヴォスを倒し、いつ世界を救ったかによって未来は変わるんだ。
 君たちが物語を進めないでやっていたらこうなっていたかもしれない未来。前に、君たちが倒せなかったその瞬間に、もし、ラヴォスを倒せたらこんな世界になっている、って話さ」
「別の未来が見えるってこと?」
「まあ、考え方によってはそうなるね。ただし、これは過去の遺産、いやおまけみたいなものかな」
「おまけ?」
「そう、お・ま・け。
 現われた未来が、君たちの未来と繋がっているかどうか分からない。
 君たちの選択や他の選択、ほんの少し違っただけで未来は変わる。
 ラヴォスを倒して見れた未来が、すぐこの限定された時間の未来でないときもある」
「う〜〜ん、どういうこと?」
「さあ」
 話がややこしくなっていき、クロノとマールは付いてこれなくなってきた。
「まあ、分からなくてもいいさ。実際に見てみればいいんだし」
「ここに帰ってこれるの?」
「選択しだい」
 そういって少年は姿を消した。
「ルッカ、どういうこと」
「さあ、私にはあまり」
 少し理解できた部分もあるが、人に伝えるとなると、伝えにくくてあえてルッカははぐらかした。
「まあ、実際見てみればいいって話だからね。どうするクロノ?」
「まだ、ラヴォスを倒すのは早すぎると思うんだ」
 クロノはあくまで慎重にと考えていた。
「まだまだ先はあるから」
「でも、見てみたいな」
「そう?」
「だって、違う未来だよ。どうなっているのか面白そうじゃん」
「いやいや、とりあえず裁判を受けに行こう」
「ま、まあ、そこまでクロノ言うんだったらいいけど」
「ごめんマール」
「いいよ、ちょこっと興味があるってだけだから」
「……話はまとまった? お二人さん」
「ルッカ!!」
 驚いて、マールがベンチから飛び上がる。
「じゃあ、私は二代目ゲートホルダーや、
 この先に使えそうなものの案があるから、それをつくり終えたら助けに行くわ。
 じゃあ、ちょっとは周囲を気にしながらエスコートしなさいよクロノ」
「ルッカ!!!」
「あはははは、じゃあ、ねぁ〜〜」
 そう言い残し去っていった。
 しばらく黙るマール。
「じゃあ、いこっか」
「うん」
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【157】-05- (第三章 消えた王女下)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:42 -
  
「マール、どう? 大丈夫だった?」
 ガルディア城に戻った五人は、大臣とリーネ様、カエルに事情を説明してもらい、そのうちにクロノとルッカは王女の部屋に向かった。
 金髪の髪をドレスを着た少女――マールが無事にその部屋で座っていた・
「うん、少し自分が薄くなった感じだけど消えなかったよ。
 ありがとう、クロノ、ルッカ
 ところでカエルは元気にしていた」
 元気いっぱいに返事をする。
「ええ、やっぱりカエルもわたし達と同じだったわ」
「ふーん
 それでこれからどうする?
 このまま戻るとクロノ捕まっちゃうし」
「確かに、ここでこの時代の大臣を説得して
 裁判所をつくってもらわないようにしないと」
「そうだよ、それに父上を説得しなくいけないし」
「あの時点ではすでに
 ヤクラと本物の大臣が入れ替わっていたと考えたほうがよさそうね
 あの時期じゃ王様も説得するのは難しいし」
「じゃあどうする?
 城に戻るのは止めてそのまま未来に向かうって言うのは」
「それじゃダメだよマール」
「どうしてクロノ、自分が捕まっちゃうんだよ?」
「一回捕まらないとフリッツさんを助けることができない。
 やっぱり一回空中刑務所に入らないと」
「そうね、現代の大臣がヤクラなら
 裁判とかなくって裏でフリッツさんを亡き者とするでしょうね
 裁判があるから公にできるものだから
 そう考えると、クロノは独房に入るしかないか」
「もともとそのつもりだ」
「そう、やっぱり助けに行くべきよね
 ちょこっとつくりたいものがあるから
 それをつくってから向かうわ」
「ねえ、わたしも何か手伝えない?」
「そうね、ドラゴン戦車のとき補助としてきてくれるとありがたいわ」
「わかった」
「決まったな、次の行動が」
「さあ、今度は下で待っているリーネ様やカエルに挨拶しないと」


「カエルよ、この度そなたの活躍をきいた
 その功績で十分に騎士団に戻れるはず
 それでもこの城を去るのか」
 玉座に座り、その威厳をもつ王――ガルディア王は、目の前のカエルに話す。
「王の申し出はありがたいのですが
 わたしにも思うところがあります」
 カエルの違和感は大きかった。
 ルッカの言う『前の周』では、リーネ様誘拐の時点ではまだ自分は騎士団の中にいた。ただ一人独自にリーネ様を探していたはず。
 それなのに今回はどうだ。いつのまにやら、いや記憶は残っているのだが、大臣により自分が騎士団を辞めさせられてから、その後に、リーネ様が誘拐されたという。
 もうそのときにはヤクラは大臣と入れ替わっていたのだろう。
 あのヤクラもおかしかった、クロノたちしか知らないはずのサイラスとの事情を知っていたのだ。かつての自分がグレンだということは言っていないし、知られていないはずだ。
 事実、それまでサイラスとともにこの城に訪れることのあるグレンである、サイラスが行方不明になれば、グレンである自分に何か聞くはずであろう。
 いままで騎士団に所属していてそれを聞かれることはなかった。
 過去に調べたとき、グレンはサイラスとともに行方不明となっていた。
 自分はグレンという名を捨てた一人の亜人として生きていくことにしたと決心のついた瞬間でもあった。
「カエルよ、また騎士団の一員としてわたし達に力を貸してくれませんか」
 リーネ様の一言にもカエルは動じなかった。
「リーネよ、カエルを困らしてはいけない
 もう決心が固いようだ
 わしは引き止めることはしない
 思うように生きなさい
 それでも、いつでもこの地に戻ってきてその力を振るって欲しい」
「ありがたいお言葉」
 カエルは立ち上がり、扉の方へ歩く。


 下に降りたクロノたちはガルディア国王ガルディア21世と王妃リーネに挨拶をした。
 やはり大臣から裁判所をつくる提案がなされた。
 クロノたちはそれを複雑な模様で聞いていた。
 話が終わり、王の間を出るとマールが呼び止めた。
「ちょっと待って、食堂によってもいい」
「? お腹すいたの」
「それもあるけど」
 マールは恥ずかしそうに笑い、食堂の方へ走っていった。
 ルッカたちはその後を追う。
 食堂に入ったルッカとクロノは、すでに席についていたマールの横に座る。
「なにを待っているんだ」
「いいから、いいから」
 しばらく待つと調理場から甘い匂いとともにやってきた。
「これって」
 黄色く平たいもの・・・。
「クレープ?」
「そうクレープ」
 さっそくマールはもぐもぐと口に運ぶ。
「なかなかの出来ね」
「そうじゃないわよ、こういう現代のものを教えたら・・・」
 キョトンとしたマール。
「大丈夫、西の大陸ではすでに作られていたって調べたんだから」
「でも伝わるのはもっと後でしょう?」
 あっ、マールとクロノの時間が止まった。
「・・・どうしよう」
「どうするのよ」

 ふう

「まあ次に来たときまでに……」
「それじゃ遅いわよっ!!」
「なら、先に行ってくれ」
「なんで」
「オレが何とかする」
「どうするの?」
「内緒」
 のこりのクレープを口に運んだあと、クロノは立ち上がり、調理場の方へ歩いて行った。


 この時期のゼナン橋は穏やかである。
 もう2、3ヶ月経つと海流の流れが強くなり、海風がひどくなる。たとえ橋の上でもその強風はおおきく、たびたび通行止めになるのだが今は橋は完全に壊れている。
 先の戦いで橋を破壊されてしまった。
 橋を破壊されたことは偶然であったが、おかげで魔王軍の進行が一時的に止まったことは事実である。
 現在、北ゼナン橋にはガルディアの兵士が着々と橋をつなぐ準備をしていた。
 その端の方へカエルが立っていた。
「カエル待たせたわね」
「ああ、クロノはどうした?」
「あとから来るわ」
「そうか……で、これからどうするんだルッカ
 さっきの話から、色々限定されそうだが」
「さっきの話って」
「修道院で少しこの世界のことを話したんだ。
 それでこれから俺たちの行動はどうするのかってことを」
 ルッカはバックの中からゲートホルダーを取り出した。
「時間がなかったからこれ一つしか作れなかったの
 だからカエルを現代に連れて行くことはできないの
 とりあえず、ゲートホルダーをまたもう一個つくるから
 一度現代に戻らないと」
「で、おれは?
 さすがに『前の周』みたいに隠匿生活っていうのもまずいからな
 積極的に動いていかないと」
「そうね」
「ならカエルにはグランドリオンを先にとってきてもらおうよ」
「そうね、確かにこれから先少しスムーズになるわね
 お願いねカエル」
「あっ、ああそれくらいなら構わないが」
 そこへクロノが合流してきた。
「なんとか、大丈夫そうだ」
「ほんと」
 まだちょっと疑わしいという顔でクロノの顔を見るルッカ、それを話すようにマールは言った。
「もう、心配しすぎだよルッカ
 大丈夫クロノなら何とかしてくれているから」
「そ、そう
 まあ、クレープ一つくらいでさすがに歴史が
 大きくどうこうなるとは思わないけど」
「なんだ、クレープって?」
「こっちの話よ」
「ところでどこまで話が進んだんだ?」
「オレが先にグランドリオンを取りに行くってところまでさ」
「先に?」
「ああ」
「ちょうどいいわクロノが来たことだし話しておくわ
 私の今の考えを」
「考え?」
「ええ、私は、
 ってまあこの時間軸にきてから考えたんだけど
 私はちょうど魔王との闘いがあってから
 私たちが直接世界に影響してしてきたんだと思うの」
「確かに、あの魔王のヤローと戦って巨大ゲートができた
 それでオレたちは原始へ、魔王のヤローは古代へ飛ばされたんだよな」
「そう、原始で私たちがやったこと覚えている?」
「わすれないよ
 わたしたちは滅びるはずだった恐竜人を生き延びさせた」
「ええ、アザーラといった主要な恐竜人は滅びたけど
 彼に反する恐竜人が極東の大陸へ行くのを
 もう人類と争わず干渉しないという約束とともに」
「結果は巨人のツメの守護者として
 ふたたび私たちの前に現われた」
「古代では魔王が来たことにより
 三賢者が封じられ
 魔神器の改良、もっと強力なもの」
「そして、黒の夢の出現、大きく歴史を変革してしまった」


 カエルは北と南ゼナンを流れる、バムロー海峡を越え南ゼナンに渡り、クロノたちは現代に戻っていった。
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【156】-04- (第三章 消えた王女中)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:41 -
  
「カエルよ。
やはりお前は騎士団団長のアウロンよりも厄介だ。
 わしの最後の障害となりうる。サイラスと同じところへ行くがよい」
 その言葉にカエルはふっとした。
 誰もそのことサイラスが死んだということは、誰も、いや、クロノたち以外知らないはずの事実である。
 魔王とその配下ビネガーはその事実を隠していた。
 この姿となり魔物にも聞いたが、そんな事実は出てこなかった。

  “ニードル・グレート”

 今までで一番巨大なドリルがカエルを襲う。
 しかし、予備動作から予測していたカエルは防ぐ魔法を発動させた。

  “ウォータガ”

 巨大な水の塊がカエルの前に、ドリルの直線状に現われる。
 それはドリルを包み、勢いを相殺させ、ドリルそのものを水圧で圧縮させた。
 カエルはブレイブソードを強く握ぎり、攻勢に移ろうとする。
 が

  ガン

 “ニードル”発射後、すぐに行動を移していたヤクラの猛スピードのタックルによって自身が瀕死状態に陥る。
 魔法のコントロールによって少しの間ヤクラに気が行っていなかったので、予測できずまともに食らってしまった。
「さらばだカエル」
 そういったヤクラの顔は見れなかった。
 どうせ、憎々しくも笑っているのだろう。
 ヤクラはニードル発射口の照準を合わせる。

  ドォキョッン ドォキョォォン

 銃弾がヤクラの甲殻に当たる。
 ルッカが壁を背にし体勢を何とか固定して、銃弾を撃ったようだった。

  “プロテクト”

 自分への危機を感じ取り、すぐ防御の魔法を発動させた。

  ダダン

 ヤクラがその場で地響きを立てた。
 なんとか体勢を保っていたルッカが崩れる。
 ヤクラはなにやら紙のようなものを出現させた。

  ●リーフ

 にぶく低い声が発せられると、早さの乗った葉っぱが十数枚程度か、ルッカに向かう。

  ”断”

 虹の軌跡を描いた一線がその葉っぱをすべてたたき伏せる。
「ほう」
 現われたのは赤い髪とにじに輝くカタナといわれる武器を手にした少年――クロノであった。
「クロノ」
「どうやら間に合った」
 カタナ――にじを構えてヤクラと正面から対峙する。
 そして

  “サンダガ”
  “サンダガ”
  “サンダガ”

 強力な雷撃の三連発。
 一気にこの場の主導権を握るつもりだ。
 ヤクラは煙を吹き、電撃の中生き残る。
「貴様……」
 ヤクラが突撃の体制をとると

  “サンダー”
  “サンダー”
  “サンダー”

 雷撃によりその突撃体勢は崩される。
 クロノはおそらく接近戦に持ち込む気はないのだろう。
 ルッカの銃声が聞こえていた、しかしヤクラを見ると弾痕が甲殻のなかに見当たらないことから、通常攻撃は通じないと判断したのだろう。
(よく考えている)
「これなら……」
 またクロノが魔法を使おうとするが、ヤクラのおこなったのは赤い砂を撒き散らしただけだった。
「クロノ、それは毒!!」
 ルッカの声を聞きその場から下がるクロノ。
 だが、赤い砂はヤクラの周りを漂っているだけであった。

  ドウン ドウン ドウン ドウン

 聞いたことのある音。
 カエルは天井近くを見ると無数の針が回転しながら舞い、クロノだけでなくこの部屋にいる全員を巻き込むほど広範囲に広がっている。
「貴様らも道連れだ」
 笑うヤクラの低くにぶい声が聞こえた。
 道連れといってもヤクラの場合は頑丈な甲殻を持っている、助かるはずだ。
 大ダメージを受け動けないカエルとルッカ、無防備なリーネ様、すでにこの場から逃げ出すことはできなかった。
 『前の周』はこの反撃でみな倒れることはなかったが瀕死の、本当にギリギリの状態に陥ったことがある。
 クロノは一瞬考えて、すぐに呪文を唱えた。

  “サンダガ”

 手より放たれたイカズチの光が天井近くで、まさに落ちてくる寸前の針を破壊しつくした。


「大丈夫」
 ルッカ、カエルに声をかけるクロノ。
「来るのが遅いよ」
「13世並みに危なかった。
 一体なんだったんだ」
 カエルがヤクラの方を見るとすでにその姿は青色に固まっており、砂と化していた。
 確かに、カエルの言うとおりあのヤクラは奇妙であった。他の手下のモンスターは、『前の周』と同じ強さであったのにも関わらず、もしヤクラも同じ強さならカエルとルッカ、二人を苦しめることもなく十分に倒せたはずだ。
 何が変わったのか、何が変わっているのか。
 『前の周』のあの時と同じ部分があるのに、何かが違う。
 では何が違うのか。
「行くぞ、クロノ
 城の中のマールの様子を確かめないとな」
 にやりとするカエル。
「リーネさんがまだ生きているし
 予定よりも早く目的を達成できたからまだ大丈夫なはずよ
 代わりのマールが消えているってことはないと思う、って大丈夫」
 深刻な顔つきにルッカが体調を心配したようだが、クロノは大丈夫だと返した。
 考えが中断されてマールのことを思い出し早く行動しなければと気が急いでいた。
「マール? 城の中? 代わり?
 一体わたしがいない間にガルディアはどうなってしまったの?」
 カエル、ルッカともにどこまで話していいのか戸惑った。


「ということは、クロノさんとルッカさん、そしてわたしの子孫のマールは未来から来たって言うのね」
「信じられないでしょうけど」
「ええ、まだ少し
 いえ、魔物からわたしを救っていただいたのですから
 そこまでしていただいたのに
 信じないというのはおかしな話、信じますよ」
 にこりと笑ったリーネ様の表情からは少しの疑いも見られなかった。
「さあ、早く行きましょう
 マールが待っているのでしょう?
 わたしも遠い子供の姿を見てみたいわ」
 四人が奥の部屋から出ようとすると奥の宝箱が開き
「おーい、わしを忘れないでくれ」
 本物の大臣もここに捕まっていたことを思い出し、四人は大いに笑った。
 そして、五人はすっかり魔物の姿、気配の消えた修道院を後にした。
 だがクロノには言い知れぬ不安をその心に隠しつつ、マノリア修道院を見た。
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【155】クロノプロジェクト用語集みたいな。
 REDCOW  - 08/8/23(土) 11:27 -
  
クロノプロジェクト用語集

こちらでは、とりあえず掻い摘んで必要なCP用語を紹介!

・先天属性
 天水火冥のトリガーオリジナル4属性に「地」属性をプラスした5属性。クロノトリガーとクロノクロス両方の魔法効果を吸収する上で「地」属性を加えた5つの属性でエレメントを定義する為に追加。クロノクロス色属性を当てはめている。ただ、クロノクロス色属性は厳密な振り分けをすると、黄色属性などは地属性のアップヘイバルと天属性のライトニングが同居しているなど、判断の付け難いエレメントもあるため、大まかに分けてそれぞれの効果で判断しています。(苦しいなぁw)
 
天=緑+白
水=青
火=赤
地=黄
冥=黒
 
・ジャリー
 トリガーでおなじみの魔族のキャラクター。ジャリーは人間と殆ど変わらない寿命の種族で、違いは姿や肌の色だけで人間との交雑も可能な程人種が近い種族。彼らの一生の感覚は人間とほぼ同じで、同じ魔族でも長命なティエンレンからすると「あっという間」の人生といえる。そんな彼らはその短い寿命の中で人間と同様に努力する人々も多く、基本的には真面目な人々も多い。ただ、その迫害の歴史の長さ故に、地域やグループによっては歪んだ人々も多数いることは彼らの不幸と言える。
 スプリガンの夫として登場した男性もジャリーで、ティエンレンである彼女との人生の差を苦悩する姿が登場。
 
・ティエンレン
 魔族の有力者の血筋。長命でとても強力な魔力を秘める種族で、長らく魔族達を統率する指導者が多い。彼らの知識は総じて高く、メディーナでは古代文明から伝わると言われる程高度な技能を持つ技師も多い。彼らの技術は魔力と密接に関わり、魔力無くして全ての高度な技術は継承出来ない。そして、それは高度であればあるほど高い能力を必要とする為、種族内では純粋さを問う血族も多数いる。よって、婚姻はティエンレン同士が一般的。
 
・トラップフィールド
 クロノ・クロスでは特定の魔法を吸収する領域を作り出す魔法のこと。
 CPでは特定の攻撃の反属性魔法を自分周囲に放出することで、相手の魔法エネルギーを相殺するフィールドを一定範囲に張り巡らせる技術。フィールドは攻撃を受ける事で減少または消滅。
 強力な術者が使えば完全なバリアや地雷の様な攻撃的な効果も出せるが、相手より弱い場合や反属性ではない場合は、相手の魔法効果を低減させる緩衝剤や同化による無効化となる。CP内で使われる用語の使い分けとして現状で考えているのは、トラップフィールドが主に他属性の魔法による反撃フィールドであるのに対して、バリアフィールドと読んでいる方は同属性または相反属性による防御フィールドとなる方向ですが、作者も完璧に使い慣れているわけじゃないので、突っ込みは無用の方向でw
 
・フィオナの森
 AD600〜1000年の間に生まれた新しい大森林地帯。フィオナのもとに預けられたロボにカエルも後に加わって大きく発展する森の中に生まれた多人種が共生する森。幾度か人間達による攻撃に遭うが、その都度森の住民達は武装し撃退。その後カエルによってガルディア国王と話がつき、ガルディア国王がフィオナに封土する形で自治が認められ、正式にガルディア王国の保護領の一つとなることで王国側からの攻撃は無くなる。以後400年の時間の中で王国との通商関係も広がる。首都フィオリーナ他、いくつかの街を持つ。
●フィオナの森の人々
・蛙族
 主にカエルが過去に住んだ「お化け蛙の森」の住民達で構成。彼らは魔王戦争後、パレポリの人間達による攻撃に遭い、新たなる安住の地を求めていた。そこで長老の息子カエオ夫婦を中心に北に生まれた「新たな森」を作っているというカエルのもとへ移住する決断をする。カエルの側は開拓するにも人手不足であったこともあり快く彼らを受け入れた。以後、彼らは最も森の育成に貢献する。主な蛙族はカエオ。
・魔族
 魔族には幾つかの人種があるが、この森には魔王戦争時代の有力者の血筋であるティエンレン他、ジャリーやミアンヌなど多種の魔族が住まう。魔族達は蛙族を保護し、傷付いた魔族達を匿うかつての宿敵であるカエルを頼り、世界中で戦後迫害を受けた魔族達の安住の地として森を目指した。主なティエンレンは武器職人のギニアスやカエルの妻レンヌ。ジャリー種の代表的な人物はソイソー。
・亜人
 様々な生物の特徴を持った人間。亜人は魔族に一般的には属するものとされているが、元々魔力の無い人々も多く、姿形以外は人間と殆ど変わらない。中には強力な魔力を持つ「例外的」な種族も存在するが、基本的には普通の人間と同じ様な人々。
・人間
 フィオナの他にも多数の人間が住んでいる。彼らは主に魔族と恋に落ちた者たちなど、異種族間交際の結果生まれた両種族からの差別や迫害に苦しみこの森へ移住してきた人々。フィオナの他にギニアスの妻ハリーやカエル(グレン)もその1人と言える。
●フィオナの森の産業/文化
・木製品/繊維製品
 フィオナの森産の木製アクセサリーや衣服は現代では高級な輸出産品としてブランドが確立される。不思議な苗の力によって育まれた強力な魔力を秘める製品は、魔力に限らず一般の人々へも様々な効用を発揮し、王侯貴族は勿論、世界中の消費者に親しまれている。
・食品
 森の中のいくつかの地域で四季のあるフィオナの森では、様々な作物が生産されている。中でもデナドロ山方面の森で植生するデナドリュフは高級珍味として高値で取引されている。その他、東側の海岸沿いに幾つか漁労を中心とした集落もあり、海産品も重要な産品となっている。
・武器/防具
 武器職人ギニアスを中心に築き上げられた伝統の武具は、西のメディーナに匹敵する強力な魔力を秘めつつ軽量化を実現した武具が多数揃う。森に住まう彼らの為に最適化された軽装で動きやすい武具は、彼らの要求に応えるだけの耐久性も確保した。
・剣術
 カエルとソイソーによって築かれた住民達を守る為に生まれた剣術。カエルの剣術とソイソーの剣術は両刃刀と片刃刀の違いが有る為、両者の剣術は基本的には流派として融合する事は無かった。しかし、400年の時間の中で両派の後継者達が互いの剣術を極める事で両派は剣の違いを吸収し、ソイソーが伝えた「魔法剣」を育む。
 宗家であるフォレスト家とソイソー一族の下には一門衆としてそれぞれの人種の代表が集い、彼らはフィオナの森の外交等の議決に大きな権限を持つ。

・メディーナ
 AD600年の敗戦後、西の大陸である根拠地メディナにて発展した魔族の共和国。クロノ達の歴史改変によって恨みを持つ人々は消え、現実的に生活を改善し平和主義の人々が実権を握る。だが、王国歴1004年のパレポリによる戦争で方針を大きく転換。国父として崇められるボッシュを中心に組織された新メディーナ政府は、初代防衛大臣であるビネガー8世による「ビネガードクトリン」により、専守防衛不干渉主義を徹底、同時にパレポリに対しては同盟という形で条約が結ばれ、以後、軍事的に強化を怠りなくしつつ、ガルディア難民など世界中の難民を受け入れながら国力を大きく発展させる多民族国家。
 
・南メディーナ戦争(AD1004)
 パレポリ・チョラス連合艦隊が南メディーナ湾岸に集結し、パレポリ側全権大使としてディア・ノイアが砲艦外交を展開。メディーナ全権代表はパレポリ側の降伏要求を拒否し開戦。軍事力の差は圧倒的にパレポリに軍配が上がるかに見えたが、ボッシュ率いるメディーナ軍は徹底的に抗戦しこれを撃退。遂にパレポリ側が停戦交渉を持ち掛け停戦する。両国は同盟する形で結論を得るが、その当時の対戦でメディーナ国民は強い衝撃を受け、平和友好路線から現実路線に急速に転換して行く切っ掛けとなった。
 
・ボッシュ
 国父ボッシュのもとに集った門下生達が築き上げた学問と経済の都市。首都メディーナの西側に位置する草原地帯に生まれた都市は、次第に西側に広がり海まで延びて港湾都市となり商業的にも発展。ガルディア難民達も含めた多くの人々が住まう国際都市として世界的に有名な巨大都市に数えられる。近隣諸地域の中継点としても重要な都市となり、北のトルースを始めとして、西側のフィオナやエルニド、パレポリの船舶もボッシュを中継する。
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【154】Re:放課後レター
 柚子  - 08/8/22(金) 20:29 -
  
*3leeter*


「もぅ!!!聞いてよ、きみちゃぁ〜ん!」

あたしが甘えた声で親友のきみちゃんに言った。
“きみちゃん”っていうのは、もちろんあだ名。
木村 碧。【きむら みどり】だから、きみちゃん!!
あたしが考えたんだぁ★


きみちゃんは、高校に入ってからできた友達。
今はお互い親友同士!!!
こんなに気が合う子が見つかって、本当に嬉しいな。


「はい、はい、妃。また流晴くんとのノロケ話?」

「もぅ!!違うよぉ〜!!! サイテー朝から会っちゃって・・・
 お陰で始業式遅刻しちゃったよ!!」


そうなのだ・・・あそこでぐだぐだしていたせいで、結局遅刻してしまったのだ。
始業式が終わった後、流晴と2人でセンセに説教くらってたのだ。

もーーっ!!!センセ話長いんだからぁ。
でも、掃除はしなくて済んだけど・・・
みんなが掃除しているときに怒られてたんだから。


「だぁ〜れのせいだってぇ?」

後ろから覚えのある声がする。

「あ、流晴くん、おはよ。」

きみちゃんがあいさつした。

「おー! きみちゃん、おはよっ。」

あぁ〜!!!きみちゃんって言ったぁ〜〜・・・

「ダメッ!きみちゃんって呼ばないでっ!!」


きみちゃんと流晴が、きょとんとする。

「なぁに〜? もしかして・・・ヤキモチ?」

流晴が、からかったような顔をする。

「まぁ、まぁ、ヤクなって!お前のこともちゃん付けで呼んでやるから!!」

爽やかな笑顔でそう言う。

「違う!そんなんじゃない!!
 “きみちゃん”ってあたしが考えたのッ!!!
 それに、純粋なきみちゃんを汚さないでッ!!!」

「あたしより、妃の方が純粋だと・・・」

きみちゃんが苦笑いで言う。 

「はは〜ん・・・俺が汚れてると・・?!」

「じ・・自分の胸に聞いてみなさいよッ!」

「なぁんだと〜〜」


「おーーい!!また始まったぞー流晴と星埜のじゃれ合い〜」

クラスの男子が冷やかす。

「ちょっとーー流晴ッ!!妃ちゃんに構うんなら、あたし達も構ってェ〜〜」

うちのクラスの可愛いコ達が、甘い声を出す。


すると。


「構う、構う〜〜!!俺も混ぜてーー」

って流晴が女の子たちの所に行く。
これが普段の光景。

もーー。なんであんな奴がモテるんだろ?
しかも、流晴だって来る者拒まずの軽〜い男だし・・・
あたし、そんな人ヤダけどなぁ・・・


あたしなんかに構わないで、とっとと可愛いコたちの所に
行けばいいのに――・・・


「流晴くんがいっちゃって、寂しい?」

隣から声が聞こえた。

「え、えーー?!!なに言ってるの、きみちゃん!!!」

「流晴くんって軽く見られがちだけど、
 まだ誰とも付き合ったことないんだってよ?」

「え〜?!そんな訳ないじゃんッ!!!騙されたんだよ、それ!」

「でも、本人から聞いたよ?」

「えっ!?」


許せんーーー!!!きみちゃんまで、騙すとは・・
あたしなんか、しょっちゅう騙されてるのに――・・・


あたしの好きなアップルティーに「自分家で作った」とか言って
砂糖と塩を間違えたやつ、飲ませたり。
国語の授業中、先生が言ったページと違うページ教えて、大恥かいたり。
机の中に、へびのおもちゃ入れて、あたしを脅かしたり・・・

あぁ〜あれは気持ち悪かったなぁ・・・
机に手入れたら、ニュルって感触がするんだもん。
その後、大騒ぎになったのは、言うまでもない訳で・・・・


でも一番、酷いと思ったのは


あの手紙――――・・・・
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【153】放課後レター
 柚子  - 08/8/22(金) 19:22 -
  
*2leeter*


「・・・き、妃・・?」

その人があたしの名前を呼ぶ。

「りゅ・・・・・流晴・・??!!!」


さ・・・最悪っ!!!
よりによって、一瞬こんな奴のことを、優しい なんて思っちゃったじゃん!!!


「ちょっと!!さっきの‘ありがとう’返してよッ」

あ〜あ。こんな奴に‘ありがとう’とか言っちゃったよ・・・

「はぁ?!なに訳わかんねーこと言ってんだよ?!」

「あ〜ら!!さっきと随分、口調が違うことで!」
          
「俺、基本優しいからね?」


この・・・嘘つきッッ!!!!
あたしには、いぢわるばっかのくせに・・・っ!!!


あたしの前に立っているこの男・・。

町田 流晴。【まちだ りゅうせい】
高校1年生で、同じクラスの・・しかも隣の席・・・
そして出席番号も一緒・・・
‘まちだ’と‘ほしの’だもんね・・。
何でこの名字になってしまったんだか・・・本当に悲しくなったね・・・


そのせいで、あたしは何かとこの男に、絡まれてるわけで・・・・


「あ・・あのさ・・・」

急に流晴が言いずらそうに話し出した。

「な、何よ!?」

「その・・・」

ちょっと頬を赤く染めて。

「いつまで手ぇ握ってんの?」

「へっ?」

あたしの手を見ると、しっかり流晴の手と繋がっている。

「き・・きゃぁぁぁwww」

あたしは恥ずかしくなって、流晴を突き飛ばしてしまった。


ドン!!!
鈍い音がした。

「いってぇ〜」

「だっ、だってアンタが…」

「ひどッ。妃が転んでたから、手ぇ貸してあげただけなのに」

そ…そっか。忘れてた。流晴ってば、助けてくれたんだっけ・・・
なのに、あの態度・・
ちょっと失礼かも・・・。

「ごめん!!ちょっとびっくりして・・」

あたしは尻もちついている流晴の側に駆け寄って、しゃがんだ。

「・・・痛い?」

心配そうな顔で流晴に聞いた。

「別に」

そう言って、すぐに流晴は立ち上がってしまった。


ヤバ・・・怒った?
流晴ってあんまり怒んないから、怒らすと怖いんだよね・・・

「りゅ・・流晴?」

おそる、おそる名前を呼んでみる。


すると

「もーー妃って、もっと素直になれば可愛いのに・・」

そう言って流晴は振り返った。

え?何言ってんの・・・またからかって・・・

「ふん!そんな調子いいこと言って・・」

流晴はあたしにゆっくり近づいてきて、ニッと笑って。

「こーゅー妃の新鮮なリアクション好きだなぁ〜・・・」

と言ってあたしの頬にそっと手が触れた。

「な・・・なにす・・・」

あたしはパニックになってしまった。
自分でも心臓の音が早くなるのが分かる。


プニ

え・・・?

流晴の両手であたしの頬がつぶされる。


「あはは、妃の変な顔〜〜!!!」

「な、何すんのよ!?」

「まっかっかだゼ? 妃ちゃん♪」

バカにしたような流晴の笑い顔がある。

「な・・なぁ〜!!!」

あたしの声にならないような叫びを聞いて、笑いながら奴は去っていった。
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【152】Re:放課後レター
 柚子  - 08/8/22(金) 17:56 -
  
*1leeter*


夏休みが終わり、またいつものように学校が始まる。
いつものように起きて、いつものように朝食を食べて――・・・


・・・って、それじゃぁ学校遅刻する〜〜ッッ!!!


「もぉーーっ!なんで起こしてくれなかったのぉ〜?!」

お母さんに文句を言いながら、慌てて、パジャマから制服に着替える。
 
「ちゃんと起こしたわよ〜? でも、あんたが起きなかったんじゃない!!」

「あぁ〜はい、はい・・あたしが悪かったです・・・」

「ご飯は〜?!」

「そんなのいらない! じゃぁ、いってきまーす」


あたし、星埜 妃。【ほしの きさき】
高校1年生。

高校生になって初めての夏休みを終え、今日が始業式!


なんだけど・・・バカなあたしは、つい夏休みと同じように起きちゃって
今、遅刻しそう・・・


「もぅ〜始業式に遅刻したら、シャレになんないしッ!!」

なんて、独り言を言いながら学校までの道を急ぐ。


学校が見えてきて、校門までダッシュ〓のはずが・・・。

ドン!!!

誰かとぶつかってしまった。

「す・・・すいませんッッ!!!」

とっさに謝るあたし。

「い、いや。俺こそ悪かった。怪我とかしてない?」

「だ、大丈夫です!!全然ッ!!! ・・・・あの怪我は・・?」

「あぁ、俺こそ大丈夫。立てる?」

そう言って、あたしに手を差しのべてくれた。

な・・・なんて優しい人なんでしょうッ!!!
見ず知らずのあたしに・・・なかなか普通の人にはできないモンよ!!
きっとこの人は、すっごく優しい人なんだろうなぁ・・・・

なんて思いながら、その手に捕まって立ち上がる。

「あっあの、ありがとうございます!!」

お礼を言いながら、その人の顔を見上げる。

背が高い。
先輩かな?あんなことできちゃうんだから、きっとかっこいいんだろうなぁ〜

「あ…」

その人が声を上げた。

「え…?」

あたしもその拍子にその人の顔をよく見てしまった。


その瞬間、あたしの目に信じられないものが入ってきた――・・・
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【151】放課後レター
 柚子  - 08/8/22(金) 16:45 -
  
はじめまして痘M子と申します!!

小説を書くのは初めてで、みなさんが書いてるょーな
壮大なものは書けないと思いますが、ほのぼのとしたお話が書ければ
いいなと思っています。

更新は相当のろいと思いますが、大目に見てやって下さい☆笑
でわww
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【150】-03- (第三章 消えた王女上)
 Double Flags  - 08/8/15(金) 1:06 -
  
 重くはないのか少し不思議なメットをかぶりながらも必死に走るオレンジの服を着た少女――ルッカと背が低く、ぎょろっとした目のミドリの男、というよりカエル型の亜人――カエルは、最後のオルガントラップを解除して一気に扉へ入っていった。
 モンスターの力は正直弱かったので二人はどんどん進むことができた。
「そういえばグランドリオンはどうしたの?」
 最後の廊下を歩いるところで、カエルが帯刀しているものがなぜブレイブソードであるかを聞いた。
 自分にはちゃんと、あの時最後に使っていたミラクルショットがはじめから持っていたのだ。
 クロノもちゃんと刀を二本持っていた。おそらく、マールもワルキューレを持っているのだろう。それなのにカエルだけ持っていないのは不思議に思えた。

「いや分からない。
 とりあえず、手元にあったブレイブレードを使っているだけなんだが、そもそもいきなり時間が戻ったていうことに驚いていていて、それどころじゃなかったんだ」
 と、言いつつ内心はグランドリオンを持っていないことに動揺を覚えていた。
 ルッカの言う『この周』に来て一番初めに確認したのはグランドリオンの存在の有無であった。
 パレポリでリーネ様が消えたことを聞かなかったらそのままデナドロ山に向かっていたところなのだから。
「たしか、クロノもにじとかを持っていたし、わたしもこのミラクルショットがある」
 カチャン、とミラクルショットを取り出す。
 カエルから見てその銃の姿はあの最後の戦いから変わっていないように見えた。
「それは意思を持つもの。
 歴史に大きく干渉するものだから持ち越せなかったんだ」
 少年は突然現われた。
 奇妙な少年。
 意識はしていないが、そこに存在していたとはいえない。
 その少年は、いつか見たかもしれない、そんな少年、そんな風にカエルは印象を持った。
「こいつが例の少年?」
 聞くがルッカも少々驚いているようで肯くだけであった。
「お前は誰なんだ」
 短答直入に聞くと
「それは君が探すことだよ、グレン君、いや今はカエル君だったか」
 軽く返された。
 カエルには嫌味のようにも聞こえた。
 しかし、この姿でありながらも君の正体を知っているという脅しであるにも関わらず脅しらしく感じられなかった。
「名前もか」
「なまえ・・・」
 少年は驚いたようだった、済ました顔をして何でも知っているという顔をしていたため、カエルはしてやったりと少し満足した。
「名前か・・・。
 確かに僕は名乗っていなかった。
 そうだね
 東の大陸の言葉を借りるなら、フツヌシといったところかな? まあ、少年でもいいさ。
 さあ、この先の扉を開けるとヤクラが待っている。
 でも、ヤクラもその辺のモンスターと同じだと思ったら大違いだから、覚悟してね」
 それだけ言い残すと、姿がぼんやりと消えていった。
「フツヌシ? ルッカは聞いたことがあるか?」
「いや、全く。
 東の大陸の話なんて、なかなかゼナン大陸まで回ってこないもの。
 唯一接点があるとしたら、チョラスぐらいじゃない」
「だよな、まあ深く考えるのは後回しだ。
 早くリーネ様を助けに行こう」
 二人は扉の中へ入っていった。


 扉の先にはリーネ様がだけが居た。
 カエルは駆け出した。
「リーネ様、無事ですか」
「ああ、カエル助けに来てくれたのですか」
「リーネ様、ヤクラの奴はどこです」
「ヤクラとは?」
「ヤクラはリーネ様を誘拐した奴です」
「ああ、あの大臣の姿をしたものなら朝出てから帰っては来ていません」
「帰ってきていない」
(しまった、早すぎたか)
 端で会話を聞いていたルッカは心の中でつぶやいた。
(ちょっと急ぎすぎの)
「ではリーネ様、早く脱出を……」
 そんな時、扉近くで声がした。
「そうはさせんぞ、カエルの野郎」
 長く白いヒゲが生え、カエルと同じかそれ以下の身長で、いかにも立派な役職を持っているといわんばかりな格好――大臣が居た。
 姿は大臣であるがもう正体がばれていると分かっているのか、その口調が大臣のものではなかった。
「ガルディア王国崩壊には、その娘が必要なのだ。
 カエルの分際で邪魔するとは……。」
 大臣の目はすでに人間と思えないほど吊り上がり、凶悪な輝きを見せる。
 同時にモンスター特有の殺気を放つ。
「残念だがニセ大臣。
 いや、ヤクラ。
 これ以上、ガルディア王国を勝手にさせない」
 そんなカエルを見てフン、と笑った。
「そんなにも騎士団から追放されたのが悔しいか、アマガエルよ」
「言ってろ」
 カエルは剣を構え、踏み出した。


(馬鹿な、なぜこんなにも強く、早いのだ)
 ヤクラは予想外のカエルの力に翻弄されつつあった。
 騎士団にいたときはこれほどの力を持っていなかったはずだ。
 一体いつこれほどまでに力が上昇しているのか。
 一撃一撃、確実にヤクラを追い込んでいくカエル。
 カエルが少し離れるとすぐにメットの女から援護射撃がくる。
 ヤクラはあっという間に瀕死の状態となった。
 すでに体は人型からモンスターにかわった。
 ごつごつとした殻のような肉体に、牛のような顔とわずかに生えた角。顔は青色に、体は灰色と奇妙な体色である。
 はじめリーネは、なぜ大臣とカエルが戦っているのか分かっていない様子であったが、このヤクラの姿を見たら、なぜ自分がここにいるのか理解していることだろう。
 これでリーネの扱いが難しくなる。
「貴様らよくも」
 絞り出した声も、すでに死ぬ間際の一言になりそうだ。
 くそっ、くそっ、くそっ
 こんな事があってたまるか、やっとはるか西のここまでやってきたというのに
 またここでもか
 くそ
 カエルのやつめ
 くそ
 心の中で震わしても、相手との力の差は埋まらない。
 絶望といままでの苦心がヤクラをまだ少し、まだ少しと生き延びさせていた。
 それも時間の問題であろう。
 そんなときに声が聞こえた。
 ヤクラの中に響く何かを。
 それは何かを言っている。
 内容はあまり理解できない。
 しかし、
 このままでは自分は消える。
 そう、
 確実に消えるのだ。
 しかし、だが、だがこの力は。


 突然赤い砂が舞った。
「なによこれ」
 ヤクラに止めをとしていたなか、ルッカとカエルは吹き荒れる風に動きを止めた。
「リーネ様」
 しかし、リーネのところまで砂は飛んでいなかった。
 砂はやがて一つのところに、一つの塊になっていく。
 その中心にはヤクラがいる。
 砂は球状になっていく、次第に完全な球をつくったと思うと砂が薄れ、中の姿が現われる。
 それは、もとと何も変わっていないように思えるヤクラがいる。
 ルッカはかまわずミラクルショットを構えた。
「とどめよ」
  ドォキョォォン
 ミラクルショット特有の音が室内に響く。
 ルッカの放ったニードルが拡散して、ヤクラにダメージを与える。
 ぐっ、うめき後ろに下がるヤクラ。
 同時に、ヤクラに入ったニードルで傷ついたところから緑の何かが撒き散る。
 見方が悪ければ血液にも見えただろうが、それは粉末状、というより砂だった。
「リーネ様、もう少し離れてください」
 嫌な予感がし、少し近づき気味であったリーネにカエルは注意する。
 そしてカエルは膝を付いた。
 自分でも何の前振りもなく。
「カエル!!」
 近づこうとするリーネをルッカは止めた。
「リーネ様はなれて」
 リーネからすれば何を言っているんだ、と思ったがルッカの迫力に押され下がった。
 すぐにルッカはバックからあるものを出す。
  “火炎放射”
「カエル!!!!」
 リーネがまた声を引き上げる。
 火炎放射はそのまわりの砂を焼き払う。
「毒か」
 何とか立ち上がるカエル。
「前はこんな攻撃、なかったのに」
「これがあの少年の言ってたことか」
 カエルは先ほどの少年の声がよみがえる

「さあ、この先の扉を開けるとヤクラが待っている。
 でも、ヤクラもその辺のモンスターと同じだと思ったら大違いだから、覚悟してね」

(なるほど、たしかに大違いだ)
  “ファイア”
 炎の魔法がヤクラを直撃する。
 小規模の爆炎も生じ、煙が舞う。
  “ニードル”
 突如としてルッカの前に鋭いドリルが現われる。
 とっさにルッカはミラクルショットを盾にする。
  キュイン
 ドリルはその方向を曲げた、が爆煙のなかヤクラがタックルをし、ルッカは叩き付けられる。
「ルッカ!!!」
 声を上げるが返事はない。
 そこへカエルに衝撃が走る。
  ●ウーハー
 魔法とは感じの違う、緑の魔力のある風に吹き飛ばされる。
(この力は何なんだ)
 吹き飛ばされ、壁にぶつかる。
 心配顔のリーネ様が見える。
(魔法とはなにか感じが違う
 それに攻撃を受けたあとにもその力がこの空間に漂っている気がする)
 しかし今それを考えている暇はなかった。
「ヤクラ、貴様一体……」
 一体何が起きたのだというのだ。
 爆煙が収まってきたところにヤクラが何か紙のようなものを手にしている。
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【149】-02- (第二章 帰ってきた王妃)
 Double Flags  - 08/8/13(水) 14:17 -
  
 着いたのは予想通り裏山――ボーア山の開けた場所である。
「間違いない
 周囲にジャリがいる」
 モンスターの気配は把握し、後ろにいるメットをかぶった幼馴染の少女――ルッカに声をかける赤い髪、二本のカタナが目立つ少年――クロノ。
「分かっているわよそれぐらい」
 これも小声で話すルッカ。

  ガサガサ

 緑のモンスター――ジャリが草むらから現われる。

  "回転切り"

 すべてのモンスターにほぼ一撃ずつ与える。
 モンスターは一撃を受けて動く気配がなくなった。
 それらは、すぐに緑の砂になって山と一体化していく。
「弱いわね。強さも前の周のままなんて」
「まあ、早いほうがいい
 簡単に進めるならそれはそれで楽だ
 早く山を下りよう」
 二人は山を下り、クロノはガルディアの森へマールのもとに、ルッカはトルース村へ情報を集めに分かれた。


「あなたが情報屋のトマね」
 見慣れたトルース村の宿屋。
 宿屋は、いつになく暗い雰囲気を出していた。それは、この時代が今まさに戦争状態にあるからであろうか。宿屋一階にある食堂のカウンターはそのほとんど埋まっているのは人々が不安から逃れるために少しでも集まりたいという気持ちからのようにも見える。
 その中ではちまきをした見るからにおっさんの感じで出ている男――情報屋のトマにルッカは話しかけた。
 声をかけられ振り返るトマ。しかし、すぐに向き直ってしまう。
 無視されたと感じたルッカが何かを言おうと声を溜めると
「なんだい嬢ちゃん」
 返事をしてきたので、すぐにのどまで出ていた言葉を呑み込む。
「き、聞きたいことがあるの」
 ちょっと詰まりながらも別の言葉を出す。
「聞きたいことか…」
 空のコップを置いた。
「どこからやってきたのか分からないが
 さっさとこの土地から離れたほうがいい」
「どういうことよ」
「あんたの格好、ここの人間じゃないだろ?
 俺は情報屋というより冒険家なんでね
 世界中を回ってきたんだ
 少なくともこの中央大陸群にはあんたみたいな格好はいない
 別にあんたらが何者か知らないし、知る気もない
 今ここは戦争中
 旅はもっと安全な場所でしてきな」
「ちょっ、ちょっとある人の情報を探しているの」
「人探しは専門外だぜ」
「別に探してもらいたいわけじゃないわ。
 その人の情報がほしいだけ」
「なるほど
 その人がこの大陸にいるかもしれないからやってきたのか」
 トマは再びルッカの方を見た。
 一瞬驚いた様でもあったが、またいつものトマの表情に戻っていた。
 やっとこっちを向いたことに気をよくし、ルッカは話を進める。
「ちゃんと、一杯でも二杯でもおごるわよ」
 にやりとした。
 トマはカウンターの親父をを呼びつけ一杯を注いだ。
 ルッカは10ゴールドをカウンターの上に置いた。
「しっかり人の使い方わかっているじゃねえか。
 よし、なんでも聞いてくれ」
「ここにミドリのデカガエル見なかった」
「・・・デカガエル? 人じゃねえのかよ。
 巨大ガエルの料理でもつくるのか?」

  ドン

 思わずカウンターをたたく。
「そんなのどうでもいいでしょ?
 知っているの知らないの」
 迫力に押される。
 あたりの人もこっちを一瞬注目する。
 相手がトマと知ってか、すぐに自分たちの話題に戻っていく。
 トマ少々驚きはしたが、すぐに話し始めた。
「それは今二階にいる奴のことか?
 それともこの北ゼナン大陸に来たゴールデンフロッグのことか
 昔は南ゼナン大陸に居たんだが突然この来たゼナンに現われてな
 あの時は大変だったらしいが
 何でもガルディア騎士団団長に何年か前に退治されたらしい」
「う、上にいるの?」
 呆気に取られたようで少し止まる。
「ああカエルに似た亜人は確かに上にいるが・・・」
「ありがとう」
 トマの言葉を最後まで聞かず、ルッカは体をひるがえし階段を見ると会談から独特の足音が聞こえてくる。
「カエル!!」
 階段を下りてきた小柄な男に向かっていった。
 すぐにルッカが近づく。
 マントを着け、胸にはプロテクター、腰には剣が見られることから剣士である全身ミドリ色をした男――カエルはその言葉に反応した。
「ルッカか、久しぶりだな……? ん?」
 と、自分の言葉を頭の中に繰り返し、少し混乱し、固まった。
 そんな様子をルッカは見て、彼が何に混乱したのかのに気づいた。
「やっぱりカエルも同じ時間軸のカエルなのね」
「同じ時間軸? どういうことだ?」
「わたしの名前覚えているんでしょ」
「ああ」
「ううん
 今は時間がもったいないわ
 すぐにマノリア修道院に行くわよ」
「おい、ちょっとは説明しろ」
 そこへトマが近づいてくる。
「嬢ちゃん
 マノリア修道院は気をつけたほうがいい
 どうも最近のあの場所はきなきくさくてしょうがない
 オレが思うによからぬ事が起きているんじゃないかって思うんだ
 消えたここの王女様もそれに巻き込まれたんじゃないかって」
 その会話にマスターが関わってくる。
「はっはっは
 お嬢ちゃんにガセをつかませちゃいけないよ
 リーネ王女様はボーヤ山に見つかったて話じゃないか」
「そうか、見つかったのか
 でもあの場所には気をつけたほうがいい」
「分かったはトマ
 それとわたしは嬢ちゃんじゃなくてルッカよ
 さあ行くわよカエル」
「あ、ああ」
 ルッカは宿屋の出入り口に立つと
「トマ、無事に帰ってきたらもう一杯おごるわ」
「それはありがてぇ
 無事を祈っているぞ」
 笑顔で返事をすると、ルッカはカエルを押し出すように外へ出た。


 しばらくして
「マスター、不思議な奴だったな」
「あれがいつもあんたの言う西や東の大陸の人間か」
「いや、あのじょ…ルッカはちょっと違う
 なんか別の何かだ」
「へっ、相変わらずなに言ってんだ」
「そうだな、何を言っているんだろうな
 もしかすると、この世界を救うかもしれないな」
「大きく出たな」
「こういうことは大きく言った方がいいんだよ
 なんでもな
 まあ、なんとなくだが、何かをやりそうな目をしている」
「まあ、確かに不思議な感じをしていたが…」
 そこで二人の会話は終わった。
 トマはルッカに振り返った二度目、なにか強いものを感じていた。
 以前にも西や東の大陸で何度か見たことのあるそんな強い目をしてた。
 この中央大陸では魔王軍の勢力が強くなった今、あんな目をしている奴は見たことがない。
「なんか世の中いい方向に向かいそうな気がするぜ」
 誰に言うでもなく、一人トマはつぶやいた。


 一方のクロノは、いつの間にやら王の間に居た。
 王の間には二つ座。
 空席ともう片方にこの国の王、ガルディア王が座っていた。
 威厳と風格をかもし出すガルディア王、しかし戦争中ということもあってか少しやつれているように見える。これがしばらくたつと倒れこむまで心労を溜め込むのかと思うと少し心が痛い。
「おおそなたがリーネが外で世話になったという」
「ええまあ一応」
 どうも、先に着いたマールが色々と手を回してくれていたらしい。
「格好をみるに、この大陸、いや中央大陸のものではないな」
「ええ」
 多少、質問に答え難く、失礼かと思いながら短く済ます。
「なにやら不思議な感じのする少年だ
 リーネが裏山で見つかってここに帰ってきたときもこんな感じがした
 ふむ……なにやらそなたに感化されたのであろうか
 いや、まあよい
 外にでてしまい行方不明になってしまったリーネを助けたことに礼を言う
 近頃魔王軍の活動が活発になってきたせいなのか
 魔物も騒がしくなってきおった
 そなたに助けてもらわなければ今頃リーネはどうなっていたか
 想像するのも恐ろしい」
 クロノはただその言葉を膝を付いて聞いていた。
「今リーネは帰ってきた安心感からか自分の部屋で休んでおる
 そなたが来たら部屋に通して欲しいということだ
 よければ顔を見せてやってくれ」
「はい!」
「ふむ、なかなか元気がいい
 今度、他の大陸の話を聞かせてくれ」
「ええ、時間がありましたら」
「そうか、それは良い
 それにしても、あれほど大事にしていた髪飾りをなくしてしまうとは
 どこかに落としたのかもしれない
 そなたは知っているか」
「いえ」
(だってそれは今マノリア修道院あるから……)
「わたしも少し探してみます」
「いや、客人の手をわずらわすわけには」
「いえ、わたしもこの大陸を練り歩くつもりなので……」
「そうか」
「ではわたしは」
 そう言ってクロノはリーネの部屋へ向かう。
 同時にガルディア王の横に居た大臣が外へ向かう。
 大臣は侮蔑に満ちた目を向け、それをクロノは受け流す。
 この大臣の正体がヤクラという魔物だということを知っているだけに、今すぐに行動を起こしたいという衝動が起こる、がそれを押さえ込みマールの待つリーネの部屋へ向かう。
 大臣はクロノが見えなくなると、憎憎しくその方を睨んだ。
 しかしガルディア王が近くにいるため、すぐに足を外へ向ける。 

 相変わらず長い階段を登るクロノ。
 心の中ではすでに消えてしまったのではないかという焦りから少し強めに扉を開ける。
 そこには綺麗なドレスを着た、金髪でどうやったらその髪形ができるのか不思議な形の頭をした少女――マールがそこに居た。
(……か、かわいい)
 目のあったマールはキョトンとした。
「私はこのものと話があります
 少し席をはずしてください」
 さすが本当のお嬢様、堂に入っている。
 マールはお付きの者が部屋の外へ出たのを確認するとクロノに近づいてきた。
「クロノ、来てくれたんだ。結構早かったね」
「あたりまえだよ。でもすぐに行かないと…」
「分かっている、早くリーネ様救いに行ってあげて」
「わかってるよ」
「ガンバ、クロノ。
 あっ!
 それとこの紙を料理長に渡してくれる」
 机の引き出しから折りたたんだ紙を取り出し、クロノに渡した。
「わかった」
 じっとマールと見た。当のマールはまたキョトンとしている。
「行ってくる」
「よろしくね」
 クロノは一気に階段を下りていった。
引用なし
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