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【159】-07- (第五章 王国裁判I脱出)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:51 -
  
 目が覚めたら、バンダナをした少年――クロノのひたいのバンダナはにはうっすらと汗が浮かび上がっていた。
 バンダナをはずし、服の袖で汗を拭う。
 それからクロノは現状を確認した。
 周囲は見た覚えのある汚れた壁と鉄格子。
 机の上には薄く輝いている銀色のカップ、そして真新しい袋が置いてあった。
「? 起きたか」
 鉄格子の外には、鉄のよろいをしたガードがいた。
「ここは空中刑務所。 覚えているか?
 お前は王女様誘拐および国家転覆の罪でここに捕まったんだ」
 いわれてクロノは少しずつ思い出していく。


「マールディア様〜!
 ご無事でしたか? 一体、今までどこに!?
 何者かにさらわれたという情報もあり 兵士達に国中を探させていたのですぞ!」
 現代のガルディア城に入ると、顔をゆがませた長いヒゲと小さな背が特徴的な男――大臣が階段を降りてきた。
 大臣が近づいてきたのはクロノの前にいた少女――マールであった。大臣は後ろのクロノに気づき。
「 ム! そこのムサいヤツ! そうか、お前だなッ!
 マールディア様がさらったというのは!
 なるほど、自分から罪の意識でやってきたというのか」
「ちょっと、なに言っているの!!」
 クロノを値踏みするように見た後、にらみつけた。
「フム、そのカタナ。 この城の中で刃物を持ち歩くとは何たることじゃ。
 も、もしやそのカタナでわしらを脅すつもりなのじゃな」
「大臣!!」
「マールディア様。ささ、早く離れてください。
 脅されていたのでしょう。 ガルディア城に真昼間から乗り込んでくるとは大胆なやつじゃ
 警護官!! ささっと、ひっとられよ!!!」
 マールの制止も聞かず、大臣の命令で続々と警護官が集まる。
 しかしクロノは、前の時間軸(ルッカの言う『前の周』)でかなりの経験とともに力を手に入れている、早々やすやすと捕まったりすることはない。
 ましてや、生身の人間に対してそうそう気絶することはありえない。
 だが、クロノの気は一瞬にして失われた。
 急所を完璧に突いたその攻撃に反応すらできなかった。
「クロノっっっっ!!!」
 マールも何が起こったのかわからず、クロノの名を呼ぶ。
 が、クロノは床に沈み立ち上がらない。
 すぐに横の警護官から抜け出し、近づこうとするがある男によって止められる。
「マールディア様、危険です」
 低い声でマールを呼び止めた警護官、この男がクロノを気絶させた。
 その男を睨みつけると、マールの表情は驚きに染まった。
「ジ、ジーノ!!」
 マールがジーノといった男は、他の警護官とは違う衣服に身を包んでいた。
 その男、マールの記憶をたどれば一年ほど前大臣の命により、西の大陸エストの国家への外交のために出て行った男。
 ジーノはマールの前にひざまづく。
「遅れながら、 ガルディア王国騎士長、ジーノ・ノーティア・コンフォート。
 西の大陸より帰還したことを報告します」
「どうして…」
 歴史が違っている。
 マールは言葉をのみこんだ。
 彼は前の時間軸ではヤクラによってすでに殺されてしまったはず。
 ジーノは、マールの弓術は彼の祖父に教えてもらったものであり、兄弟子にも当たる。若く30代にしてガルディアの騎士長(昔からの通例でそういった呼び名が使われている)になり、マールが城の中で数少ない理解者であるとともに信頼できる人物であったはずなのだが。
「千年祭では何か起こるかわかりませんですからな。
 早々に西の大陸との交渉を引き上げて、戻ってきてもらったのですよ」
 マールに向かいそう言うと、振りかえる。
 クロノを見下ろす大臣。そこには少し憎しみがこめられているように見えた。
「案の定。 このようなムシがマールディア様に取り付きおって」
「大臣!!」
 抗議を言おうとするが、前にジーノが立ちふさがる。
「警護官!!
 この男を裁判にかける。 上に連れて行け」
「クロノーッ!!」
 足が止まる警護官。
「かまわん。連れていけ」
 ジーノがそういうと、警護官は二人がかりで床に倒れたクロノを運び出す。
 その様子を何もできずにマールはただ見ているしかなかった。
 そしてもう一つ。
 どうしてジーノが生きていたのか。
 それが不思議であった。
 あれほど悲しんだことが、不思議と現実になると不安でしょうがなかった。
 歴史は自分が知っているものと少しずつズレている?
 自分があの時、中世で消えることがなく現代に戻ってきたから?
 それが関係あるの?
 やっぱり私は一回消えなくてはいけなかったの?
 マールの不安は高鳴っていくばかりであった。


 そして裁判。
「せいしゅくに! せいしゅくに! 判決が出た! 10対0で無罪とする!!
 ……しかしだ。誘拐の意思はなかったにせよ、マールディア王女をしばらく連れ出したのは事実。
 よって反省を促すため3日間の独房入りを命ず!!」
「連れて行け」
 大臣は警護官をよんだ。
 弁護士のピエールはまだ納得のいっていない模様である、ぶつぶつと次の対策を考えているようだ。
 無言で連れてかれるクロノ。
 マールはその様子をただ見ているしかなかった、横にはジーノ。
 ジーノを出し抜いてまでむかうのは難しい、それは今までの経験から分かっていた、それに下手今行動にでたら、クロノの待遇が悪くなる、そんな気がした。
 そしてジーノの様子を見ていてマールにはどうも違和感を覚えた。
 いったい西の大陸で何があったのか聞いてみたかったが、なかなか切り出せず、時間が経ち結局クロノの裁判の時間になってしまった。
 クロノが送られていくところを見ると隣のジーノはすっと立ち上がり、裁判所から出て行った。
 声をかけようにも、なんと言えばいいのか思いつかなかった。
 それはクロノのことがあるからなのか、今のマールには分からなかった。


 クロノは『前の周』と同じく逃げ出すべきかどうか悩んでいた。
 ふと机の上を見る。
 それは、無罪にもかかわらず独房入りを命じられたことに同情して差し入れをいれてくれたものだ、中にはエーテルが入っている。『前の周』は有罪でこんな事はなかった。そのエーテルを見て決心が固まった。


 クロノは決心してから行動が早くすぐに脱出した。
 一回通った道なので早いということもあるが、『前の周』は誰かいるかもしれないと思い見て回ったのだが、結局残っていたのは骸骨や亡霊だけであった。そのため今回はすぐに脱出しようと考えていた。
 今考えると、大臣は事件が起これば検事として、片っ端から気に食わない奴、関係ない奴を連れてきて処刑したのだろう。


 唯一の生き残りフリッツを助けるルートで、一体のモンスターがあらわれた。
「ギア」
 『前の周』は一階層下にいたはずである。
「脱獄者はおめえか」
「……」
「無言は、肯定とみなす」
 ギアはすぐに戦闘態勢に入りトゲのついたこん棒を振り上げた。
 クロノの目には雑な魔法の構成がかすかに見えた。

  ”クエイク”

 魔力の干渉を受けた石の床が変形盛り上がる。
 クロノは後ろに下がると、床が槍のように飛んできた。
 確かギアはこんな能力は持っていなかったはず。
 ふたたび雑で少しさっきより大きな魔法の構成が見えた。

  ”クエイラ”

 直感的にその場を離れると、床が大きく抉られていた。
 クロノは体勢を整え、ナイフを手にした。
 そのナイフに「天」の魔力を加える。

  ”サンダー・ショット”

 クロノはあまり魔力を扱うことが得意ではないが、何かに力を加えることが少しだけできる。その応用で、サンダーレベルの電撃を手持ちのナイフに加えたのだ。
 こん棒を持ったギアが反応した、反応できた瞬間、電撃の力を得たナイフがギアに放たれる。

  ズダンッ

 ギアの体を突きぬけ、壁にものすごい音を立てて突き刺さる。
 そのとき、ギアの体から何かが見えたかと思うとそのまま恐怖の顔をしてギアは逃げてしまった。
「今のは…」


 疑問が晴れないまま、というか『前の周』もギアは途中で逃げてしまったのだが、フリッツを助け空中刑務所の出口まで来た。
 そこで所長はすぐに逃げ出すが、
  ポカポカポカポカ
 小気味よい音とともにメットをかぶり、いつもよりバッグが膨れている少女――ルッカが登場する。
「クロノ! 助けに来たわよ! ……っていってもまた自力で逃げ出せたのね」
 相変わらず無事なクロノを見て
「……、なんか、つまんないなあ」
「物騒なことを」
 と、二人でやっていると
「じゃ〜ん! クロノ! 助けに来たよ!」
 マールがやってきたのだ。
「何であなたもここに来るのよ!」
「いや、どうせ家出するなら早いほうがいいかなって。
 ダメだった?」
「……」
 クロノとルッカは顔を見合わせる。
「あ、ああ、もういいわ
 こんな所はさっさとおさらばしましょう!」
 ルッカを先頭に外へ出ようとしたとき、一人の男が現われた。
「そこまでです、マールディア様
 そして、クロノくん。君を逃がすわけには行かない」
「だれよあんた」
「……確かルッカといったか、クロノ君の幼馴染の。
 脱獄という犯罪者を逃がす手伝いをしたなら補助罪としてつかまえますよ」
「……ジーノ」
「さあ戻ってくださいマールディア様」
「彼は?」
 勝手に話を進められ気に食わないルッカがマールに聞く。
「ガルディア王国騎士長ジーノ。王国で最も強い警護官」
「……騎士長って」
 ガルディア王国は、100年ほど前に騎士団を解散させ新たに軍隊として再組織された。そのなかで旧来より親しまれている騎士という称号を設け、軍部最高責任者を騎士長と任命している。この騎士長という称号は、軍の最高責任者であるとともに軍最強の人物に与えられるものとして知られている。
 ゆえに大臣は騎士長を殺したはずだったのだが。


 クロノはそのジーノという男にいやな気を感じていた。
 少し前にこの男によって気絶させられたことはなんとなく分かっていた。
 ルッカやマールには向けられていないが、自分に対して向けられる殺気。
 どことなく師匠を思いだす強力な剣気である。
「ふたりとも先に行ってくれ、どうも俺の方に用事があるみたいだ」
「クロノっ!」
 すでに一回気絶させられているところを知っているマールからすれば、クロノが無事ですまないのではないかと心配する。
「ちょ、ちょっと、ルッカ」
 ルッカはクロノとジーノの様子を見て立ち入ってはいけないような気がして、マールを引っ張る。
「いくわよ」
 クロノの雰囲気からジーノもそれに受ける。というか、そういう風に仕向けたのはジーノ自身である。
 クロノからすれば、ジーノはドラゴン戦車が二人を止めてくれるのではないかと思っていると考えた。
 それともはじめっからクロノ一人が目的だったのかどうにもわからない。
 クロノは自分の体に浸透しつつある負の感情を押さえ込む。
 二本のカタナのうち、にじ、そして使い慣れた一本、あおぞらの二本を抜く。

引用なし
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【147】強くてクロノTrigger まえがき Double Flags 08/8/12(火) 2:14
【148】-01- (第一章 旅立ち!夢見る千年祭) Double Flags 08/8/12(火) 2:20
【149】-02- (第二章 帰ってきた王妃) Double Flags 08/8/13(水) 14:17
【150】-03- (第三章 消えた王女上) Double Flags 08/8/15(金) 1:06
【156】-04- (第三章 消えた王女中) Double Flags 08/8/31(日) 23:41
【157】-05- (第三章 消えた王女下) Double Flags 08/8/31(日) 23:42
【158】-06- (第四章 ただいま!) Double Flags 08/8/31(日) 23:45
【159】-07- (第五章 王国裁判I脱出) Double Flags 08/8/31(日) 23:51
【160】-08- (第五章 王国裁判IIドラゴン戦車) Double Flags 08/8/31(日) 23:53
【161】-09- (第五章 王国裁判IIIガルディアの護り... Double Flags 08/8/31(日) 23:57
【162】-10- (第五章 王国裁判IV脱出) Double Flags 08/8/31(日) 23:58
【165】-11- (第六章 廃墟を越えて……1.) Double Flags 08/9/24(水) 2:11
【166】-12- (第六章 廃墟を越えて……2.バンゴド... Double Flags 08/9/24(水) 2:12
【167】-13- (第六章 廃墟を越えて……3.アリスド... Double Flags 08/9/24(水) 2:29
【168】-14- (第六章 廃墟を越えて……4.ガードマ... Double Flags 08/9/24(水) 2:37
【169】-15- (第六章 廃墟を越えて……5.革命家.) Double Flags 08/9/24(水) 2:42
【186】-16- (第六章 廃墟を越えて……6ガードマシ... Double Flags 10/9/20(月) 19:56
【187】-16- (第七章 不思議の国の工場跡 一レジス... Double Flags 10/9/20(月) 20:11
【188】-17- (第七章 不思議の国の工場跡 二 古代... Double Flags 10/9/20(月) 20:13
【189】-18- (第八章 時の最果て@古代の賢者ハッ... Double Flags 10/9/20(月) 20:15
【190】-19- (第八章 時の最果てAエレメント) Double Flags 10/9/20(月) 20:17
【191】-20- (第八章 時の最果てBグリッド) Double Flags 10/9/20(月) 20:22
【192】-21- (第八章 時の最果てC梯子の先) Double Flags 10/9/20(月) 20:23
【193】-22- (第八章 時の最果てD星砂) Double Flags 10/9/20(月) 20:31
【194】-23- (第八章 時の最果てE現代へ) Double Flags 10/9/20(月) 20:33
【195】-24- (第九章  魔の村の人々1邂逅) Double Flags 10/9/20(月) 20:39
【196】-25- (第九章  魔の村の人々2魔族と魔物) Double Flags 10/9/20(月) 20:40
【197】-26- (第九章 魔の村の人々3魔女) Double Flags 10/9/20(月) 20:45
【198】-27- (第九章 魔の村の人々4魔女その二) Double Flags 10/9/20(月) 20:53
【199】-28- (第九章 魔の村の人々5異国の来訪者) Double Flags 10/9/20(月) 20:54
【200】:-29- (第九章 魔の村の人々6師匠) Double Flags 10/9/20(月) 20:56
【201】-30- (第九章 魔の村の人々7北の洞窟) Double Flags 10/9/20(月) 20:58
【202】-31- (第九章 魔の村の人々8近海の主) Double Flags 10/9/20(月) 21:04
【203】-31- (第九章 魔の村の人々9近海の主その二) Double Flags 10/9/20(月) 21:05
【204】-32- (第九章 魔の村の人々10ルッカの家) Double Flags 10/9/20(月) 21:07
【205】ご覧の皆様へ文字色について REDCOW 10/9/23(木) 14:18

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