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【84】CPss2第10話「新たなる乗客」
 REDCOW  - 07/9/3(月) 20:11 -
  
 更新遅くなりましたが、とりあえず10話掲載しておきます。
 楽しみにしていた方は、本当に遅くなり申し訳有りません。

第94話「新たなる乗客」(CPss2第10話)
 
 列車は途中の停車駅である首都メディーナ駅に到着しようとしていた。
 町は水晶のように輝き、青を基調とした美しい町並みは芸術品の様な輝きを持っていた。そして、この首都メディーナの玄関口であるこのメディーナ駅は、毎日数十万人の乗降客を誇るメディーナ交通の中心地でもある。
 
 メディーナ駅に入った列車はボッシュ駅同様に専用のホームへ誘導される。この街からも試練の洞窟への参加者は多数有り、ボッシュ駅と同様の人数が乗り込む予定だ。
 ホームには既に沢山の受験生が到着を待って並んでおり、それぞれがこの試験に対して相当の意気込みを持って参加していることは想像に難くない。そんなピリピリとした空気で張りつめていた。
 
「ハイド、君はもう少しリラックスした方が良い。」
 
 長身の若い魔族の男が、彼の仲間にそう諭す。
 ハイドと呼ばれた少年は、仲間の心配に謝意を告げた。
 
「すまない。つい。」
 
 だが、彼を諭した長身の男の方をいかにも面白くないという表情で、緋色の髪に黒い肌をした少女が少年を気遣うように言った。
 
「良いのよ。こんな状況で緊張しない方がおかしいんだから。ランタの言うことは気にすること無いわ。」
「…はは、ありがとう。ティタ。ランタ。」
 
 少年の反応に、二人は顔を見合わせてお互いの世話焼きっぷりに苦笑した。
 
 3人は列車の扉が開くと、一番手に車内に入っていった。
 
 沢山の受験者が車内へと入る。
 クロノ達も含めたこの試験に参加するのが初めての者は、その様子を車窓から眺めていた。
 
「すげーな。」
「随分いるのねぇ。」
 
 二人の感心の声に、同室の大学生風の魔族の青年…ベンが言った。
 
「僕も初めてなんですが、さすが首都ですね。」
「あぁ、すげーよな。でっけー駅。」
 
 クロノの反応に、後方から批判の声が上がる。
 
「ふつー、人の方を見るだろ!あれ見て何も感じないのかよ!!!」
 
 少年…後にベンから聞いて知ったヒカルは、クロノの緊張感の無さに苛立っている様だった。
 
「良いじゃない。私達がどんな反応しようと。私達には人より街の方が新鮮なの。OK?おわかり?」
「うっせー!ぶーす!」
「なにぉおお!?!」
 
 シズクが怒り少年にまるで猫の様に飛びかかった。それに対して驚く少年だが、負けじと応戦する。
 そんな二人の姿にベンがつぶやいた。
 
「…なんだかんだと良いながら、仲良いじゃないですか。」
 
 その呟きに二人はハモった。
 
「良くない!!!」
 
 彼らがそんなやり取りをしている頃、粗方列車に乗ったホームに上ってくる人影があった。階段を上るのは一人の女性と二人の男性。女性を先頭に二人の男はまるで付き人の様に背後を歩いていた。
 階段を上り終え、ホームに接続する車両のドア前に立つと、女性が右側を振り向き言った。
 
「ツー!」
 
 彼女の言葉に、背後の男が可愛らしい奇声を発した。
 
「キュー!」
 
 彼女はその返事を聞くと、すぐに左横を振り向き言った。
 
「カー!」
 
 すると左横の男性もまた、右横の彼同様に可愛らしい奇声で答えた。
 
「キュー!」
 
 彼女はその返事を確認すると頷き、車内に静かに侵入を開始する。
 背後の二人も右横の男性から先に、左横の男性が最後に乗り込んだ。
 
 彼らが乗り込むと、ホームに発車の音楽が鳴り響く。
 
 
「待て待て待て待てぇぇーーーーーーーー!!そこのれっしゃぁああ!!!」
 
 階段を駆け上る音がする。
 赤い髪を逆立てた青年が慌てて駆け上り、ドアが閉まらない様に手で押さえる。
 そこに少年の背後から少々遅れて少女が辿り着き中に入る。
 
「は、早く!ヤッパ!!!」
 
 彼女の呼びかける相手は、見事な巨体を揺らしてゆっくりと階段を上ってきていた。…いや、彼なりに急いでいるらしい。
 あまりの遅さに二人は見ていられず、青年が駆け寄って背後からヤッパと呼ばれた少年を押した。少女は先ほど青年がしていたように、ドアが閉まらぬよう押さえた。
 
「はよしぃ!もう列車出発するで!はよ!」
「…もぅ、だめ。」
 
 少年はそう言うとゆっくりとまるでスローモーションが掛かったようにゴロリと転がった。それは誰の目にも「終わった」と感じさせる瞬間だった。だが、奇跡は起こった。
 
「え゛!?ちょ、あ、きゃぁあああ!!!!」
 
 なんと、少年はそのままゴロリと転がりながら列車に乗り込んだ。…入り口でドアを押さえていた彼女を巻き込んで。それはあまりに突然の出来事で判断つけかねていた。だが、その時出発の合図がなり終わった。青年は我に返ると急いで列車に飛び乗った。
 
 プシューーーーーーッドン。
 
 間一髪飛び乗った彼の体は、少年の腹の上でぷにょぷにょとした感触を感じながら、ほっと一息吐いた。
 しかし、彼は忘れていた。

「(…どうして、あたしがこうなんのよ。)」
 
 彼らが彼女の犠牲を知るのは、列車がもう少し進んだ頃だった。
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【83】Re:B u r n M y D r e a d
 志乃 E-MAIL  - 07/8/31(金) 22:38 -
  
警察に保護された後。
オレは親父の家に引き取られた

親父の家に住むようになってから弟と過す時間が短くなった。
この訳の分からない意味不明な力は父親譲りらしく、
しかも修行次第では頭領になれると言われた(阿呆か)修行なんて馬鹿らしくてくだらなくてサボった。
弟と遊ぼうと部屋に行くと蛻の殻、親父の部屋に駆け込めば小さな動物用の檻に入れられた弟がいた(しかも眠ってやがる)
どうやら人質らしく、俺はこの家にいる間親父の命令を全て聞き入れなくてはならなくなった。『お前に自由などある筈無いだろう』と、偉そうに言った奴に俺は
くたばれ、と吐き捨てた。

とりあえず西洋・東洋は一通り習った。
どれもこれも単純過ぎて修行じゃなくて幼稚園で習うようなお遊戯程度のものだった
半年ぐらい経った頃、屋敷にいる連中は俺の事を『次期頭領』なんて言い始めた。最初は目にも入れなかったくせに、何て軽い奴等なんだろうと吐き気がした。
たかが七つの餓鬼に堅苦しい。阿呆くせぇ。テメェ等全員地獄に落ちろ。


「お兄ちゃん」


しもんはいつも擦り傷を作っていた。
普通に歩いているのに、何もない所でよく転ぶ。他の連中は『可愛い』なんてほざいてるが(いや確かに可愛いけど)
その原因を知っている俺は自分の無力さを嘆いた。
屋敷には結界が張られているのに、年代物の所為かたまに小さな綻びから低脳な奴等が侵入してくる(デカいのは見た事が無い)
ソイツ等は好き好んでしもんに近寄って足を引っ張り、転ばす。
攻撃系は申し分ないのに、防御系は何故か巧く出来なかった。
もっともっともっと、強くなって。速く速く速く、強くなって。しもんをしもんだけを、護れる様になりたいと祈った(他の連中なんざ知るか)
(勝手にくたばれば良い)あぁ、速く自由に成りたい。その時はすぐに訪れた。


「もう好きにしていいぞ」


高校の入学式から帰ると呼び出しを食らい、わざわざ部屋に行ってやると唐突にそんな
事を言われた。断る理由なんて皆無。


「今まで世話になった」


さっさとこんな部屋を出てしもんを迎えに行こう踵を返し、損ねる。偉そうな豚野郎が
正座している。んな事は見りゃ分かる。その隣に居るのは、


「何で此処に 森利(シンリ)が居るんだよ」
「条件があるんだ、森羅(シンラ)」
(会話のキャッチボールぐらいしようぜ、父親)


親父に寄りかかるように眠っている弟はは微動だにしない
どうせまた薬でも嗅がされたんだろうな なんて親だ 後遺症が残ったらどうしてくれる
檜で出来たテーブルの上に、紙が一枚置かれる。
小さな文字が並んでいて今の位置からは内容まで分からない。確実なのは、それがとても嫌な予感のする代物だと言う事。


「何だよ、これ」
「契約書だ」
「何の」
「お前の力を失うのは惜しい」
「知ったこっちゃねー」
「だがこっちの子供は必要無い」
「殺すぞ。」
「契約を結ぶのであれば、これはお前にやろう」
「とことん糞野郎だな。反吐が出る」
「お前にも同じ血は流れている」
(、だろうな)


利用出来る物は何でも利用する。拒否された場合、強制的に捻じ伏せる。
その事には大いに同意する。
まさか、自分がその立場に立たされるとは思ってもみなかったが(予想は、してたな)
契約書の内容は至ってシンプル。何か依頼や非常時が起きた場合、全てを投げ捨てただちに処理。
それだけ、たったそれだけの事に森利を巻き込みやがって。
もうコイツ殺した方が世界平和に繋がるんじゃないか?オレの能力は親父より強いし、
でもまだ未成年である自分には保護者が必要。
今はまだ飼われていよう。ぐったりしている森利を抱きかかえて、やっと部屋を後にする。


「飼い狗に手ぇ噛まれないよう気をつけろよ」
「その時は子犬を目の前で潰してやるさ」
(生きた侭捻じ切ったら面白いだろうな)


このまま


「兄さん、起きてよ。遅刻するよ」
「昨日遅かったんだから寝かせてくれよ」
「遅くまでゲームやってるからだよ」
「ラスボス倒さないと気になって眠れないんだよ」
「だからってオレのベッドでわざわざ来ないでよ」
「一人じゃ寂しくて眠れない」
「病院行けば」
( 冷 た い )


寝起きの悪い俺は毎朝森利に起こされて朝を迎える。
携帯のアラームを使ったり目覚まし時計を五個ぐらい常備しているのだが、何故か鳴らない。
と言うか鳴る前に破壊されている。不思議だ。携帯だけは無事だから尚更不思議だ。ベッドの上で背伸びをしているとピンクのフリフリエプロン(オレがやった)を付け呆れた顔でこっちを見ている森利と目があった。


「おはよ」
「・・・・・いい加減時計壊すのやめてよ」
「俺がやったのか?」
「動画で撮ってるから見る?」
「いや、」


ふるふる首を振って拒否ればポケットから携帯を取り出していた森利は『そぉ?』と
残念そうに仕舞いなおした。くそ、次買うならカメラが付いてない機種にしてやる(今時そんなのあったっけ?)俺は俺で何も変わらないのに(多分)
森利は随分と、


「したたかになったよな」
「・・・・・お陰様で」


何故か目を反らされてしまった。俺何かしたっけ?


掟で弟として育ててきた『妹』は こえぇ
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【82】B u r n M y D r e a d
 志乃 E-MAIL  - 07/8/31(金) 22:10 -
  
一番古い記憶は額から血を流した俺が気絶した弟を背負いながら、包丁振り翳して俺を生んだ女から逃げている所。中々強烈で、あんまり体験出来ない事だからよく覚えてる
あぁ鬼婆ってこんな奴なんだろう、なんて、思った。


化け物


俺は母親からその呼び名で呼ばれ続けていた 外見が他と違っていた訳じゃなく、内面的に違う箇所があったからだろう。
別に見たくもないのに、他の奴等には見えないモノが見えていた。
時には声も聞こえたし話しかけられる事もよくあった。
俺はその度に一緒に話したり笑いあった。
母親によく注意をされたが無視していた。
俺を人間扱いしない奴の言う事なんて聞く価値何かない。
俺をちゃんと人間扱いしてくれる家族なんて弟しか居なかった。
弟しかいらなかった。
でもそいつもそいつでやっぱ変な風に生まれていた。
俺は見えるし祓えたりもしたが
弟は見えないのに引き寄せる方だった。けれどその事に気付いていない母親は弟の方を可愛がっていた。
別に羨ましい、とは思わなかった 鬱陶しい、とは思った。こんな女なら捨てられて当然だった。


授業を終え家に帰ると、リビングで幼稚園から帰ったばかりの弟の首を母親が絞め
ていた。
とりあえず小さい自分じゃ突き飛ばせないだろうと思い、近くにあった椅子を
投げつけた。
痛みに呻く母親を無視して抱き起こした弟はかろうじて生きていた。
でもまぁとりあえずは病院だよな、と小さな体を背負おうとしたら包丁の柄で殴られた(痛い)
多分、絞め殺した後に包丁で喉でも切ろうと思っていたのだろう。
台所にいつも置かれている包丁を両手で握り締めその女は何か呟いていた。ぶつぶつぶつぶつぶつ、何かを呟いていた。
ぼんやり眺めていると殴られた時に切れたのだろう。額から血が流れてきた。舌で舐めると、鉄の味がした(良かったきっと俺の血は赤い)


「お前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だ」
「・・・・・何が」
「お前の所為で私は捨てられてしまったお前なんかを生んでしまった所為で」
「人のせいにすんなよ」
「じゃあどうして私は捨てられたの!?」
「てめぇがろくでなしだからだよ!!」

呆れたように返せば充血した目を見開いて包丁を握ったまま叫んでしまった(あぁ、五月蝿い)
せめて泣いていたなら少しは同情したかもしれないのにこの女、
なんて酷い顔してるんだろ。
まるで鬼だ。あぁそうか、鬼から産まれたから俺はこんな力なんて持ってるのか。
うん、納得。してる間に女は急に突進してきた。包丁を握り締めた女は何か
を叫んでいたが何を叫んでいるのかも分からなかった。
身を屈めて避けると同時に足を引っ掛けると馬鹿みたいに引っ掛かった女は食器棚に頭から突っ込んでいた。よろよろと起き上がる女を無視して気絶してしまった弟を背負い、家を出た。直後走った、情けないけれど、逃げるように走った。追いかけてきた(やっぱり)


「-------------------------!!」
「何言ってんのか解らねぇよ」


多分『待て』と言っているのだろうが、喉を潰したようにその音は不明瞭で音と言うよ
り雑音そのもので何とも耳障りだ。空は赤くて黒ずんでいた。道を歩いている奴等は驚いた顔をしていた(それもそうか)
でも誰も助けてくれない(当然だ)走って走って走って走って走った。
信号の色が青から赤に変わろうとしている(どうでもいいけど青ってより緑だよな、あれ)
青が点滅している、横断歩道の真ん中。黄色、渡り終えた。赤、後ろから急ブレーキの音、何かが轢かれる音、女の悲鳴、通行人の悲鳴。呼吸を整え
る為に足を止めて振り返る。


         出 来 立 て の 死 体 が 転 が っ て い た 。
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【81】CPss2第9話「食堂車」
 REDCOW  - 07/8/24(金) 12:04 -
  
第93話「食堂車」(CPss2第9話)
 
 
「すげー…。」
 
 
 クロノは思わずつぶやいた。
 
 二人はドアの中の空間に驚いていた。
 そこは、天井は一面六角形に切り抜かれたガラス窓があり、暮れ行く空を雲が流れて行くのが見える。両サイドの壁も全てフレーム以外は窓になっていて、メディーナの雄大な景色を一望できた。そのパノラマは壮麗で、押し寄せては消えて行く風の様な、そんな爽快感の味わえる空間となっていた。
 
「すげーな…、列車だけでもすげーと思ったけど、この中も凄くないか?」
「そ、そうね。…随分力が入ってるわね。聴いてみよっか?」
 
 シズクはそう言うと、食堂のテーブルに座る一人の魔族の女性に問いかけた。
 その女性は、青緑色の透き通るような美しい輝きをもった長い髪を白いリボンで束ね、尖った耳に白い肌をしていた。その表情は落ち着きがあり、服装もまた白を基調にエメラルドグリーンのラインを使用したスーツを着ており、少女とは違う大人の女性を感じられた。
 彼女のテーブルには赤ワインがあり、ワイングラスに注がれた赤ワインが車両の揺れで静かに揺れている。
 
「あの、すいません、私達初めてこの列車に乗ったのですが、凄いですね。この車両。」
 
 女性は彼女の問いかけににこやかに振り向くと、答えた。
 
「そうね。もうすぐ日も完全に暮れたら、星を見ながらディナーが楽しめる…確かそれがこの列車の触れ書きだったかしら。」
 
 女性はそういうと外へ視線を移した。
 二人もそれにつられて外を見た。

 外はもうすぐ日が完全に沈む薄明かりで、食堂車内のランプの様な照明が美しい輝きを損なわずその景観を楽しませてくれる。
 シズクが更に彼女に質問する。
 
「あのぉ、もしかして、…あなたも試練の洞窟へ?」
 
 彼女はシズクの質問に先ほどの少年達とは違って笑顔で答えてくれた。
 
「えぇ、これで5度目なんです。ふふふ、五回も落ちても諦めきれません。」
「え、五度目…あ、あのぉ、失礼ですが、何故落ちたのか理由を聞いても…?」
「あぁ、私の経験談を聞きたい?なら、立ち話もなんですし、良かったらご一緒にディナーでも楽しみません?」
 
 彼女の意外な提案に、二人はうんうんと頷いた。
 そんな二人を見て微笑むと、彼女は二人を向かい側の席に座るよう勧めた。
 二人はそれに応じて席に着いた。
 それを見て彼女は話し始めた。
 
「…理由は簡単よ。私の魔力が弱いから。」
「魔力の強さが一番問われるんですか?」
「えぇ、まず、一番必要なものはそれよ。でも、単なる強さは本当の強さではないわ。確かに力押しで何でも解決できれば楽な話だけど、実際はどんな力も使いようでしょ。この試験は私達魔族が持って生まれた力を、正確に、そして効果的に使うことが出来るかどうかを要求される。とはいえ、これは入り口。そう言う意味では、試されることはシンプルとも言えるわね。」
「えーと、それは、魔力をどう扱うことが試されるんですか?」
「それは試験を実際に受けたらわかるわ。でも、そうね、大切なことはコントロールすることかしら。ふふふ、私もなかなか上手く行かなくて人のこと言えないけど、それなりに努力を重ねてきたつもりよ。今度こそは。」
「そうですかぁ。でも、その意気ですよ!お互い頑張りましょうね!」

 シズクの励ましの言葉に彼女は微笑むと、突然手をあげた。
 すると、すぐにクロノ達の背後からウエイターがやってきて、二人にメニューを渡した。だが、渡されたメニューを見て二人は困惑した。
 
「うわ、これメディーナ語か?。」
「ここはメディーナなんだから当然じゃない。でも、困ったわねぇ、私にもよくわからない言葉だわ。」
 
 二人の困惑状況に、女性が思わず笑った。
 
「フフフ、その文字は私にもわからないわ。」
「え"ぇ〜〜〜〜〜!?!」
「その文字はメディーナ語でもないし、読むものでもないの。ただ、こうして目をつぶって文字の輪郭をなぞれば…見えてくるのよ。」
 
 二人は女性に促されて同じ様にしてみる。
 だが、いまいち何をしているのかさっぱりわからず、何が見えてくるのかも分からなかった。しかし、女性が嘘を言っているようにも見えず、更に謎が深まる。
 
「何かコツはあるんですか?」
 
 シズクの質問に、女性はワインを一口飲み答える。
 
「そうねぇ、このメニューはただなぞれば良いわけじゃないの。お二人とも何か重要なことを忘れていません?…この試験は?」
 
 女性がいたずらっぽく微笑んで二人に問いかける。
 シズクは彼女の問いかけにピンときたようだが、クロノはまだ全くわからない様だ。
 
「わかったわ、こういうことね。」
「え?え?」
 
 シズクはわからないクロノに構わず、まず自分一人で実践した。
 彼女は目を閉じると、メニューをなぞり始める。
 
 魔力が体から吹き出し、そしてメニューブックへと吸い込まれて行った。すると、突然メニューブックが宙を浮き、小さな爆発と共に煙に包まれ、ゆっくりとシズクの目前のテーブルに降下してきた。
 煙が晴れると、そこには前菜とスープの入った器と、スプーンなど一式があった。
 
「こういうことなのね〜!面白い!あぁ、でも、これだけ?ちょっと寂しいわねぇ。」
 
 そこに、背後から静かにウエイターがやってきてシズクに告げる。
 
「メインディッシュとデザートはいつ頃お運び致しましょうか?」
「え?あ、まだあるのね。良かった!そうねぇ、メインは出来次第で、デザートはそれが終わったら手を上げるから、その時に頼むわ。」
「畏まりました。」
「あ、一つ聴いて良いかしら?」
「何か?」
「この料理高そうだけど…その、私持ち合わせ無いから、払えそうにない金額ならやめたいんだけど?」
 
 シズクの質問に、ウエイターはにっこり微笑み答えた。
 
「ご安心下さい。こちらの料理は全てチケットに含まれております。」
「あら、そう?…後で色々言っても払えないからね。」
「大丈夫です。心置きなくお食事をお楽しみ下さい。」
 
 そう告げるとウエイターは下がっていった。
 二人のやり取りを見て、クロノが感心してみていた。
 
「うへぇ〜、タダ?…マジかよ。なら俺も!」
 
 彼はそういうと、シズク同様に魔力をメニューブックに注ぎ込む。
 すると同様に浮き上がり爆発したかと思うと、ゆっくり落ちてきてテーブルの上に乗った。
 煙が晴れると、そこにはシズクと同じ前菜とスープが乗っていた。
 そして、すぐにウエイターが飛んできて料理を運ぶ時間を尋ねたので、彼もシズクと同じにしてもらった。
 
「やったね!」
 
 二人はハイタッチを決めて喜んだ。そして、早速クロノがスプーンを持ってスープを口元に運ぶ。そんな二人を見て、にこやかに微笑みながら女性が祝福した。
 
「おめでとう。お二人とも。凄いわね。私は初めての時は料理を出すことすら出来なかったわ。お二人はすぐにできるなんて、相当の能力をお持ちですのね。」
「いやぁ、それほどでも。」
 
 クロノは女性の言葉に、照れてだらだらスープをこぼす。
 
「あ!汚い!もう、何鼻の下伸ばしてるの!…このことマールさんに言っちゃおっかなぁ〜?」
「な!?お、おい、それは勘弁!」
 
 シズクの言葉に、一瞬顔面蒼白になるクロノ。二人はその表情を見逃さなかった。
 ミネルバはシズクの出した名前の人物について訪ねた。
 
「マールさん?」
「あ、彼の奥さんです。」
「まぁ、ご結婚されていたのね。そうねぇ、これだけの色男を放っておく女性なんていないわよね。」
「あはは、それほどでもぉ。」
 
 クロノは彼女に煽てられて満更でもなく嬉しいらしい。
 彼女はクロノの反応に内心苦笑しつつ、それまでしていなかった肝心なことについて切り出した。
 
「そういえば、私達自己紹介していなかったわね。私はミネルバ。ボッシュ大学院で政治学の勉強をしています。宜しく。」
 
 彼女の自己紹介に、クロノは頭をかきながら笑って答える。
 
「オレはクロノ。今は失業中で…その、旅をしているんだ。この子とは旅先でたまたま出会って、目的が同じだから一緒に旅をしている。」
「シズクと言います。ミネルバさん、宜しく。」
 
 シズクが笑顔で会釈をした。
 彼女もまたにっこり微笑んで応じた。
 
「えぇ、こちらこそ。しかし、クロノさんは失業されたのですか。以前はどんなお仕事を?」
 
 彼女の質問にクロノは内心困りつつ、無難な所を選んだ。
 
「う〜ん、まぁ、公務員をね。」
「フフフ、わかった。何か不始末をしたのね?で、クビになったんでしょ?それも、普通のヘマじゃないわね。それで家を出ているって所かしら?」
「あははは、はは、ミネルバさんにはかなわないなぁ…」
 
 クロノの困りながらの発言に、ミネルバは勝手に推測して納得してくれた様だ。
 内心では当たらずもと遠からずと感じていたクロノだが、ポリポリ頭を掻きながら彼女がそれで納得してくれたならば良いと安堵して笑っていた。
 
 それからはゆっくりと食事の時間となった。
 3人は他愛もない話をしながら、夕日が沈み星が瞬き始めた空と大地を望み、流れ行く星空と大地のシルエットを楽しんだ。
 食事も済ませ、二人も飲み物を頼んで飲んでいる頃、彼女が二人に尋ねる。
 
「ところで、見た所二人だけのようだけど、他に誰かいるの?」
「へ?いや。」
「え、だって、試験は三人一組よ?もう一人いないと出られないじゃない?」
「えーと、動物とかって出られるのかなぁ…なんて?」
 
 クロノの質問に、ミネルバの目が点になり止まったかと思うと、突然笑いだした。
 
「フフフフ、何それ?それって、冗談よねぇ?試験は遺伝子的に人以外は駄目よ。」
「えー、うそ!?」
 
 ミネルバの発言に驚く二人。
 それまでぽちょでイケルと思っていただけに、不意打ちの発言だった。
 
「ねぇ、宛が無いなら、私と組まない?」
「え?ミネルバさんも1人???」

 ミネルバの意外な申し出に驚く二人。
 
「えぇ、私、いつも一緒に受けていた友達がみんな受かっちゃって。私独り最後に残っちゃったの。で、1人で受けることになったのよ。でも、この試験は3人一組でしょ?私もメンバーを探していたの。あなた達が良ければ、私と組みましょう?」
「えぇ、ミネルバさんならこちらこそ宜しくお願いします!」
「フフ!有り難う。じゃ、そうと決まったら乾杯しましょう?」
 
 ミネルバはウエイターを呼ぶと、シズクにあわせてソフトドリンクを頼み、ウエイターの持って来たオレンジジュースの満たされたグラスで乾杯した。
 
 3人はその後も暫く談笑した。
 ミネルバの話によると、試験には4つの関門があり、一つ一つクリアする中で振るいにかけられる様に絞られて行くという。
 
 降り口を決めて落ち合うことにした3人は、それぞれゆっくりと列車の旅を楽しんだ。
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【80】白いはちまき・前編
 623  - 07/8/21(火) 2:09 -
  
「クロノ!もっと肩をあげろ、そして隙をつくるな!」
今は、俺が8歳の時にリーネ広場で開く武道会のため、修行の真っ最中だ。
「集中しろ、よそ見してんじゃねー!」
そして、俺の目の前で怒鳴っているのがトルース町に滞在中のガイという、おじさんだ。
額には、白いはちまきを毎年付けているのが特徴だ。
いつも、旅に出てほとんど町にいないけど、この時期になると必ず戻ってきて、大会に出る人に武術を教えるのだ。しかも、おじさんと最初から最後まで1日も欠かさず、練習を続けると、トップ10にほぼ確実に入ると言う。
しかし、おじさんが町に戻って来るのは、1ヶ月くらい前なので、毎日の修行に耐えれる人は、4〜5人ぐらいしかいない。約この30日は、サバイバルに近かった。
そして現在15日目、最初は30人ほど参加していたが今は、13人しかいない。さて、今日が過ぎたら、又何人減るかな・・・
そんなこんなで5時間後
「今日はこれまで!」
終わりの声が辺り一帯を響かせる。その瞬間1人は、泣いて又1人は、ごく普通に帰ってく、そんな中1人の女の子が近づいてきた。ルッカだ!俺と幼なじみで大きな眼鏡をして夢は、発明家らしい。そんな奴が何故ここにいるのか・・・答えは、簡単2ヶ月ほど前にこういった。「ルッカなんかにガイおじさんの修行なんかに、耐えれないって1日でリタイヤだよ」この1言で彼女の何かを変えた。
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【78】ルート55
 わんり  - 07/8/20(月) 23:01 -
  
灼熱の太陽がアスファルトを白く焦がしていた。

ハイネは熱で溶けたタイヤをどうにかして元のように膨らませる方法を考えていた。

恋人のレビンは退屈そうにオープンカーのドアに寄りかかっていた。

真っ赤なオープンカー。

持ち主不明。

鍵がかかったままラジオからはいかにもオールディーズという感じのしゃがれた黒人の歌声がスローで少し音の外れたラッパと共に聞こえていた。

別にバスでも良かった。金があるならハイヤーでも使えばよかった。サイクリングには暑すぎる。ただそんな理由でこの真っ赤なオープンカーを乗り捨て馬に選んだわけだ。

レビンはハイネにイラついていた。

ハイネは穴の開いてゴムがぐにょぐにょになってる部分に指を突っ込んでは目に見えない想像上の糊でちぎれた部分の島と島をくっつけようとしているのだ。

地中海は幾ら引っ張ってもその穴を塞ぐことはできない。

穴の開いたセーターだって指で離れた糸と糸をぎゅっとつまんだところで直るわけじゃない。

ハイネの白くてぷよぷよしたきれいな手が石油製のゴムで汚されるのも嫌だった。
引用なし
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【77】CPss2第8話「原始的」
 REDCOW  - 07/8/17(金) 10:46 -
  
第92話「原始的」
 

 二人は部屋を出ると、車内をゆっくり歩き始めた。
 
「どうやら随分面倒らしいな。」
「えぇ。」
 
 二人は青年の話を思い出して考えていた。
 彼らの言う「魔力を駆使する」とはどういうことなのだろうか。この試験は強い魔力は勿論、高い魔力の制御能力が必要ということだが、自分達の魔法のコントロールがそれほど悪いものではないという自信はあった。だが、クロノは何故か腑に落ちないものを感じていた。
 もしも、今自分が使っている力の使い方が間違いで、実はより効率的に扱える方法や、より強力な力に変える方法が有るとしたなら、確かにこの試験の意味はある。
 
 その時クロノはふと思い出した。
 
 それは古代ジール文明の人々がクロノ達の魔法能力を「原始的」という表現で言い表していた事だった。彼らの言が正しく、そしてその文明で最高級地位に君臨した3賢者の一人であるボッシュが課した試験であるなら、確かにこの試験には深い意味があるのかもしれない。
 だが、二人にはもう一つ気になる事が有った。
 
「それより、あいつの言っていたことが一つ気になる。」
「もう一人の宛のこと?」
「あぁ。俺達は二人だけじゃないか?」
「チームであれば良いのなら、いるわよ?」
「え?」
「ポチョ!」
「はぁ?」
 
 彼女が呼ぶと、ポチョが彼女の胸元から飛び出してくる。
 
「ポー!」
 
 ポチョは元気いっぱいに飛び跳ねて応えた。
 クロノは思わず笑った。
 
「ハッハッハッ、ゴメン!ポチョのこと忘れてたぜ!」
「ポー!」
「ポチョはこう見えても結構凄いのよ!まともに彼と戦ったら、クロノとでも良い戦いができると思うわ?不足あるかしら?」
「へぇ、そっか?お前は強いんだな。頼りにしてるぜ!」
 
 クロノはそう言うとポチョの頭を撫でた。ポチョはエッヘンと胸を張るように立ってすましていた。
 
「腹が空いてきたなぁ。飯食わないか?」
「もう?」
「シズクは要らないのか?俺は燃費悪ぃんだよ。」
「んもぅ!仕方ないわねェ。確か切符に食堂の食券も付いていたわね。食堂に行きましょう。」
「おう。」
 
 二人の部屋は列車の後方二両目にある。この列車は全部で8両編成で中央5号車に食堂がある。その他、食堂車隣の4両目には売店もあり、試練の洞窟までのちょっとした旅行気分の味わえる寝台列車になっている。
 試練の洞窟までは列車で丸一日かかるため、この寝台列車の空間はとても有り難いものだった。
 
 二人は食堂車へ向けて歩みを進めた。6号車に入ると、恐ろしく研ぎ澄まされた様な目を持った背の高い少年と、冷静で落ち着いた物腰の端正な顔立ちの少年、そしてとても上品な服装をした少女の3人組がいた。彼らはクロノ達が入ると一斉に視線を向けた。
 
「(なんだなんだ!?異様な威圧…)やぁ、君達も試験を受けるんだね?」
 
 クロノが彼らに問いかけた。
 その問い掛けに端正な顔立ちの少年が答えた。
 
「はい。ということはあなたもお受けになるんですね。見たところ、相当な天力をお持ちですね。お隣の方も相当な魔力をお持ちなのでしょうか。」
 
 少年は一目見てクロノの能力を当てて尋ねてきた。そして、この反応は間違いなく他の二人も同様の答えに到達していたに違いない。
 クロノはシズクの方を見ると、彼女も構えている様で、やはり同じ驚きを感じているのだろうか。

「ははは、まぁ、試験受けるだけの能力はあると思うぜ。君らはもう3人組なのか?」
 
 クロノの答えに先ほどの少年はそれまでと違って笑顔で答えた。
 
「はい。まぁ、僕らにその質問を出されたと言う事は、まだお決まりじゃないんですね。でも、あなた方ならきっと良い方が現れますよ。二次試験でお会いしましょう。」
 
 少年はそう言うと、二人の仲間達と共に7号車側へ歩いて行った。
 二人は少年の最後の言葉が引っかかった。

「気が早ぇなぁ。もう二次試験かよ。」
「…よっぽどの自信というか、あの人達、確かに相当強そうだったわ。それほど的外れな話じゃないわね。」
「あぁ。…ったく、どうなってんだ。未来は。」
 
 シズクはクロノの感想をよそに、何やら怒っている様子だった。
 
「どうした?」
「…さっきの子、私達のメンバーが決まってないって断定したじゃない。気に入らないのよね。もう揃っているんだから。」
「あ!…そうか、俺すっかり聞き流していた。」

 クロノの反応に、彼女の怒りはまるでぷしゅーという音を立てて萎む風船の様に吹き飛び、墜落した。
 
「…上手がいたわ。」
 
 二人は再び進み、食堂車に到着した。
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【76】CPss2第7話「要件」
 REDCOW  - 07/8/11(土) 13:38 -
  
第91話「要件」
 
 徐々に速度が増す。
 次第に加速する早さに合わせて、レールとレールの接続部を渡る時の「ガタン」という音が早くなる。
 
「…走り出したわね。で、何を教えてくれるのかしら?」
 
 彼女の問い掛けに、青年は静かに答えた。
 
「あぁ、試練の洞窟のことだよ。」
「え、それがどうかしたの。」
 
 シズクの反応に、青年より先に下の少年がぶっきらぼうに言った。
 
「はぁ、何も知らないのか、マジ?…この列車に乗ったら皆敵だと思わなきゃな。この列車から試練は始まってるのさ。」
「…?、何それ。どういうこと?…ねぇ、私達は何も説明を受けてないのよぉ。あなた頭良さそうだから説明してくれない?」
 
 彼女はぶっきらぼうな少年を無視し、青年に向けて笑顔で問い掛けた。
 青年は彼女の笑顔の問い掛けに、先ほどまでの冷たい表情とは180度違った含羞む様な照れ笑いを浮かべて答えた。
 
「うーん、…仕方ないなぁ。試練の洞窟はメディーナ人にとって出世できるかどうかの重要な試練なんだ。ここをクリア出来ない人は、メディーナの最先端産業に務めることはまず無理だ。だからみんな必死に勉強したり修行をしてここに来るんだ。」
「へぇ、勉強するの。でも、修行って何?」
「ははは、本当に何も知らないんだなぁ。修行は魔力を高める訓練さ。ここは知恵だけじゃ乗り切ることは出来ない。」
 
 そう言うと青年はベッドから降りた。そして、片腕を二人に見えるように差し出し目をつぶり集中を始めると、彼の片腕にボウッと青い輝きが集まり、光の玉が浮かび上がった。見事な水の魔力の集中が伺える。
 
 「…強い魔力と、それを駆使する能力が無くてはクリア出来ないんだ。だから皆必死さ。魔族だからって誰もが強い魔力を持って、思い通りの魔法を使えるわけじゃないからね。」
 
 彼は話しの区切り良い所で魔力の集中を解き、光の玉を消した。
 そして二人に問いかけた。
 
「人間とのハーフなら尚更キツイだろう。だけど、見たところ君達は純粋な人間の様だね、大丈夫なのかい?」
 
 彼の問い掛けに、彼女は何ら不安な表情を浮かべず笑顔で答えた。
 
「私達は大丈夫よ。ね〜?」
 
 彼女がクロノに笑顔で同調を求める。クロノは笑いながらコクリと頷いてみせた。
 そんな二人のやり取りに青年も少年も疑問の表情は隠さなかった。
 
「本当かい?…しかし、何故魔族じゃないのに。まぁ、最近はハーフも増えたから人間の外見をしてる人も見かけるが、君達はどう見てもオリジナルだよね?」
「そうね。でも、魔力なら大丈夫よ。ほら!」
 
 彼女は青年がしたように片手を差し出し、そこに火の玉を浮かべて見せた。
 クロノも彼女の真似をするように片手を出して、そこに稲妻を走らせて見せた。
 青年も少年も驚いた。彼らは純粋な人間である二人が魔法を使っただけではなく、青年がしたような魔力の集中の為の時間をおかずに即座に魔力を集中し、とても小さな力で押さえた上で放出して見せた事だった。
 
「…ホントだ。」
「ね?大丈夫でしょ。」
「…君達は一体。」
「そんなことどうでも良いじゃない。それより折角こうして出会ったんだから、短い間でも楽しく過ごしましょう?」
 
 シズクはそう言うと青年に握手を求めた。
 青年は彼女の提案に笑顔で手を差し出したが、少年は違った。
 
「フン、おまえらわかってねぇな。俺達は試練を受けると決めた時点で敵同士なんだぞ。馴れ合ってる場合か。それとも、余裕だからそんな感覚でいられるのか。フン!」
 
 少年の反発に、彼女の顔から笑みが消える。
 
「…なによ!別にその場限りの戦いじゃない、なんでそんなのにストレス溜めなくちゃならないのよ!馬鹿馬鹿しい!」
 
 彼女の突然の豹変振りに青年は勿論、クロノも驚く。しかし、少年は全く怯まず言った。
 
「へん、どうせ現実の試験を知ってびびるのがオチさ。そうそう、そこのにーちゃんが言い忘れてるようだが、試験は3人一組だぜ?あんたらもう1人の宛はあるのか?ま、精々頑張るんだな。」
 
 少年は話し終えると、また横になり本を読み始めた。
 
「なんなのよ!!もう!」
「…シズク、少し歩こう。」
 
 クロノの呼び掛けに、彼女は怒りを渋々収めて同意した。
 彼らが部屋から去ると、青年は少年へ振り向き様水の玉を投げはなった。
 少年は冷静に片手を出すと、水の玉を受け止めた。
 
「にーちゃん、何のつもりだ。」
「…君は彼らにああは言ったが、宛ては有るのかい。」
「…。」
「僕はベン。ゾガリ一族の三男坊ってところだ。君の手の平のタトゥー、見たところイジューイン家の紋章だね。」
「…イジューインなんて関係ねぇよ。俺は奴らの系図にはいないからな。」
「そうなんだ。…じゃ、もう一度聞こう。何かの縁だ。もし宛てが無いなら、僕と組まないか?」
「…考えておく。」
「…そうか。なら、それはOKだと解釈しておくよ。」
 
 少年は青年の言葉に反応せず、尚も本を読んでいた。
 青年はそんな彼に微笑みを浮かべると、窓の方を向き外を眺めた。
 外は街を離れ、一面草原の道を進もうとしているところだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
作者のREDCOWです。

ここしばらく不安定な更新で申し訳有りません。ご迷惑お掛けしておりますが、サイトが更新されていなくても、こちらはなるべく早く更新するように務めておりますので、今後とも宜しくお願いします。

あと、シーズン1でやっていたhtml版の方ですが、こちらはとりあえずしばらく保留で、シーズン2についてはこの掲示板を継続利用していきます。また、クロノステーションでおなじみのxabyさんによるクロノプロジェクト携帯版サイトにてシーズン1(全80話)が全てご覧頂けるようになりました。お友達の中でPCが無い方でも携帯電話よりお読み頂けますので、良かったらお知らせ下さいましたら幸いです。

http://www.chronocenter.com/jp/i/cp/

また、クロステでもシーズン2を掲載初めました。場合によってはこちらの方が早い場合も有るかもしれません。良かったらクロステもご利用下さいましたら幸いです。

http://www.chronocenter.com/cs/
(携帯/PCどちらからもご登録・ご利用頂けます。無料です。)

今後ともクロノ・センターでお楽しみ下さい。
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【75】CPss2第6話「発車」
 REDCOW  - 07/8/3(金) 14:18 -
  
クロノプロジェクト第90話(シーズン2第6話)「発車」
 
 
 ボッシュ駅
 
 
「えーと、えーと、試練の洞窟へ行くのは…」
 
 シズクは駅の路線図を眺めていた。
 路線図には様々なラインが出ていた。確かに首都より先に試練の洞窟という駅がある。
 
「あったあった、えーと、これは四番線ね。」
 
 彼女に従ってクロノはその後を歩いた。
 改札で切符を見せてホームへ。
 一番ホームから地下の連絡通路に入る階段を降り、そのまま四番ホームへ。
 丁度夕方に差し掛かってきており、多くのビジネスマンや学生が歩き、帰宅ラッシュが始まろうとしていた。
 
 四番ホームへ上ると、そこには既に列車が止まっていた。
 見るとその列車は寝台車になっており、切符の指定席も寝台車に合わせてあった。その列車の終点が試練の洞窟になっており、乗ればそのまま試練の洞窟まで寝ながら行けるらしい。
 
「しっかし、すげーよなぁ。この機関車って奴はトルースのもメディーナのも、でけーのに速いよな。ほんの僅かな未来だぜ?信じられるか!?」
 
 クロノは目を輝かせて見ていた。
 これまでの旅では感心している暇もなかったが、こうして改めて余裕を持って眺めていられる時間が与えられると、初めて見た時同様に驚きと感動を感じていた。
 
「はいはい、そうね。」
 
 そんな彼の感想を他所に、シズクは粛々と事態を運びたい気持ちでいっぱいで、切符を眺めながら目的の車両を探していた。
 
「7号車のA1とA2だから……最後から二両目ね。」
 
 シズクは探しながら考えていた。というのも、他のホームには沢山の人がいたが、このホームにはそれほどの人数はいない。たぶん、このホームは一般客はあまり利用しないホームなのだろう。…つまり、今ここで待っている人々または乗り込む客全てが試練の洞窟へ向かう可能性が有るということ。
 車両は八両編成で寝台車という割には長い列車ではない。途中停車駅に首都メディーナが設定されている所を見ると、そこで新たに乗り込む客または客車の連結があるのだろうか。何より気になるのは、試練の洞窟は「そんなに小規模」な試験なのだろうか。
 
 彼女は書店で見た教科書コーナーの事を思い出していた。
 そこには確かに「対策!試練の洞窟」とか、「絶対受かる!試練の洞窟」などといった受験参考書が一つのコーナーを作る程の大きな割合を占めていた。つまり、この国でこの試験はとても重要なポジションを占めているということ。それがこれほどの小規模な車両で運ばれる事に違和感を覚えた。
 あの時興味も無かったので読まなかったが、仮に年に一度であるなら、この車両だけではなく沢山の本数があるだろう。しかし、このホームは特別なホーム扱いのようで、他のホームに有るような時刻表や広告といった掲示物は無かった。
 何れにせよ、この列車に乗らなければ話は始まらない。彼女は目的の車両を見つけると、先導するように乗車した。
 
 車両の入り口は各車両の端に一つだけ有り、押しボタンを押すとドアが開き入る事が出来る。車内に入るとすぐ向かい側にはもう一つ乗車口があり、向かい側ドア側に廊下が作られていた。廊下に入る前に内扉があり、入り口と客車が隔離されていた。二人の乗車した車両は、左側が8号車への連結部の入り口で、右側が7号車内への扉だった。
 彼女はドアノブを持ってスライドドアを開け入ると、車内は幾つかの部屋に分かれている様で、右サイドには数えたところ4つドアがあり、左サイド壁面には少し大きめの頭から膝丈ほどある大きな車窓が並び夕日が射し込んで輝いていた。幅は人二人分の幅で、すれ違うには十分といった程度だが、その分部屋は広いのかもしれない。
 
 二人の部屋は6号車側ドア付近の部屋だった。部屋のドアにプレートで「A01〜04」と出ており、どうやら二人の他にもう二人いる計算だ。
 
 シズクがドアを開けると、中は正面に廊下と比較すると控えめな車窓とテーブルと呼ぶには小さな棚がはりついている。そして、両サイドに二段ベッドが備え付けられていた。切符に表示されていた指定席のベッドは入って右側の二段で、下がA01で上がA02だ。二人はそれを見て上をシズクが、下をクロノが使うことにした。
 向かい側のベッドには既に横になりながら本を読む15〜6程度の少年が下のベッドに、上にはかなり頭の良さそうな顔をした大学生程度の青年が荷物を整理していた。彼らは二人の入室にも我関せずの態度で無反応だった。彼らの人種は勿論二人とも魔族だ。
 
「やぁ、君たちも試練の洞窟へ行くのかい?」
 
 クロノが問い掛けた。
 二人は彼の問い掛けに振り向くが、何も返事をせず自分の作業を再度始めてしまった。
 彼らの反応に内心腹が立ちつつも冷静に続ける。
 
「なぁ、まぁ、短い間だけど宜しくな。俺はクロノって言うんだ、上にいるのはシズクって言うんだ。」
「宜しくね!」
 
 今度はシズクもクロノの紹介に合わせて笑顔で声を掛けた。すると、彼女の声に反応して二人は「宜しく」とぼそりと答えた。
 覇気の無い返事に、内心彼女もいらいらが積もり始める。
 
「もう、大の男が揃って元気ないわねぇ。どうして?」
 
 シズクの問い掛けに、ようやく大学生風の青年が振り向き答えた。
 
「どうして…って、君達知らないの?」
「何を?」

 その時、車内放送が入り、会話が一時的に止まる。

「この列車は只今より、終点試練の洞窟へ向けて出発致します。現地への到着は9時間後、途中メディーナ駅で停車致します。それでは受験者の皆様、ご健闘をお祈りしています。なお、受験者の皆様は当列車4号車にございます食堂を無料でご利用になれます。ご利用の際は切符をお持ちになってお越し下さい。皆様のご利用をお待ちしております。」
 
 プラットホームでも発車の合図の音楽が流れていた。
 それが鳴り終わると、プシューという音と共に機械的な音が入り、ドアが閉まったようだ。
 
 一瞬の静寂。
 
 ガタンという音と共に、列車はゆっくりと線路を走り始めた。
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【74】CPss2第5話「条件」
 REDCOW  - 07/8/1(水) 11:15 -
  
 毎度ご覧下さっております皆様へお詫び
 
 ご覧の通りと言うか、クロノ・センターの更新もままならずこちらでの更新も連載と言いながら遅れて申し訳有りません。ここしばらくは私生活の仕事の処理など色々と山積しておりまして、サイトの更新が思うように行っておりません。ただ、この掲示板上での連載は今後も掲載を続けますので、センターのトップが更新されていなくとも、こちらの更新は出来る限り続けますので、宜しくお願いします。

第89話(CPss2第5話)「条件」
 
 
 翌日、クロノ達はフリッツから貰った手紙を持って再び国立研究院の門前に来ていた。
 門前にいる警備員はクロノ達に寄ってくる。
 
「失礼ですが、許可証または紹介状はお持ちですか?」
「許可証はないが、この手紙を貰ってきた。これでは駄目だろうか?」
 
 クロノはそう言うと警備員に手紙を手渡した。
 警備員は手紙を受け取ると、表のサインを見て答える。
 
「アンダーソン様より御紹介の方ですね?」
「あぁ。」
「確かに手紙を確認致しました。既にお通しするよう許可が出ておりますので、どうぞお通り下さい。」
「へ?あ、あぁ…ありがとう。」
 
 クロノ達はあまりに呆気無く手紙の中身も確認もせずに通してくれたので気が抜けた。門を潜り建物の入口に入ると正面にカウンターが有り、薄い桃色のスーツを着た若い女性が1人座っていた。
 
「ようこそ国立研究院へ。許可証はお持ちですか?」
 
 クロノは彼女の言葉に持ってきた手紙を渡した。受付嬢はその手紙を受け取り、サインを確認するとクロノに返した。
 
「確かに確認致しました。今日はどの様なご用件でお越しになりましたか?」
「ボッシュに会いたい。会えるか?」
 
 クロノの言葉に女性は困った様な顔をして返答した。
 
「申し訳有りませんが、ボッシュ所長は現在不在です。代理の者として所長に会いたい方は上級研究主任のルッコラ博士が応対しておりますので、ルッコラ博士にお取り次ぎ致します。では、応接室にご案内致しますので、こちらに。」
 
 そう言うと女性は立ち上がりカウンターから出ると、二人を応接室に案内した。
 応接室は入口から入って右の通路の突き当りに有り、中に入ると大きな窓から陽の光が入り、外の綺麗に手入れされた庭園が見える。
 窓の近くにテーブルとソファーが有り、二人はそこに座るよう促された。二人が座ると女性は暫くそのままお待ち下さいと言い残して、部屋を出ていった。

 二人はソファで寛いで待つことにした。
 部屋はしんと静かで、まるで時が止まったように音のしない落ち着いた空間だった。
 
 少しして先ほどの受付嬢とは違う女性が紅茶とお菓子をもって入って来た。彼女もまた薄桃色のスーツを着ていた。制服だろうか。彼女はテーブルに静かに置きにっこりと微笑んで挨拶をした。
 そんな彼女に二人は礼を言うと、女性は会釈をして部屋を静かに去って行った。
 二人は遠慮無くお菓子と茶を飲みルッコラ博士の登場を待った。しかし、数分待っても待ち人は来ない。
 
「遅いわねェ。」
「あぁ、まぁ急ぐわけじゃない。久々のゆっくりした時間だ、暇を楽しもうぜ。」
「それは良いけど、何するの?」
「そ、そうだな………しりとりでもするか?」
 
 シズクはクロノの意外な言葉に笑った。
 
「ハハハ、もう、何を言い出すかと思えば。えぇ、良いわよ!受けて立つわ!どちらから始める?」
 
 二人はしり取りをして暇を潰した。
 それから2時間後…
 
「り?またー?えー、う〜ん、無い!降参よ!もう。しかし、遅すぎるわ!どうなってるのかしら?」
「あぁ、さすがに遅すぎる。俺も疲れてきた。」
「こうなったら、こっちから出向きましょう!」
 
 シズクはそう言うとドアの方に歩いて行く。
 そして、ドアのノブに手をかけた時に、スピーカーがオンになって声がした。
 
「…遅くなりました。申し訳ない。私がボッシュ博士の代理を務めるルッコラです。」
 
 その声は男性で、年齢は思ったより若いだろうか。
 そんな落ち着いた声の主にシズクは憤りの声を上げる。
 
「キー!今頃スピーカーで!もう!」
「お怒りの御様子ですね、お嬢さん。では、私からお二人に是非受けて頂きたいお話があります。これはボッシュ博士の意志でもあるので、聴いて頂きたい。」
 
 二人は彼のボッシュの意志という言葉を聴いて首をかしげた。
 そんな彼らの疑問にお構いなく彼の話は続く。
 
「お二人にはここから東、首都メディーナより北東にある古代遺跡付近にある『試練の洞窟』に行って、試練を受けて頂きます。その試練については、お二人なら簡単でしょう。それを無事クリアした証を持ってまたおいで下さい。その時にボッシュ博士とのお話を取りなしましょう。」
「なんだと?…ボッシュと会うにはフリッツの紹介でも駄目なのか?って、伝わるわけないか。」
「いや、お二人の声は伝わっておりますよ。先程からのしりとりも、実に楽しそうに話している声が聴こえておりました。」
 
 ルッコラの話に二人が赤面する。
 
「…アンダーソン氏の紹介は承知しております。しかし、ボッシュ博士は必ず面会希望者に試練の洞窟のクリアを条件としております。これは彼と会う絶対条件なのです。」
「ここには今いないのか?」
「彼は所用で留守です。お会いしたくても今回は無理です。しかし、仮に居たとして、どんなに親しくとも彼は会わないでしょう。物事には順序がある。その順序を守れぬ相手をあなたならどう思いますか?」
「…一理ある。わかった。その試練、受けよう。」
「わかりました。では、受け付けの者に列車の切符を渡してありますので、お受け取り下さい。往復分あります。それで試練の洞窟へお向かい下さい。では、ご健闘を。」
 
 そう言うとスピーカーはオフになった。
 クロノが椅子から立ち上がる。
 
「よし、行こう。」
 
 シズクは彼の物分かりの良さが不可解だった。それに、彼の言う試練というものの内容も気になった。
 
「本当に、受けて良かったの?」
 
 彼女の疑問に対して、彼の方は既に割り切っているようだ。
 
「なに、簡単だと言っていただろ?それさえクリアできないなら、確かに会う資格ねぇじゃん。俺は受けるぜ!」
「ん、もう!面倒なことばっかり。」
「ははは、ぼやくなよ。」
「もう、あなたと旅した時点で諦めてますよーだ!ベー!」
 
 シズクは舌を出してクロノに意地悪く返答した。
 クロノは笑って部屋の戸を開けて出た。その後は受付嬢から切符を貰い、早速向かうことにした。
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【73】CPss2第4話「恩」
 REDCOW  - 07/7/24(火) 19:29 -
  
第88話(CPss2第4話)「恩」
 
 
「…なにか?」
 
 
 緊張が走る。
 張りつめた空気の中、クロノが老紳士に静かに問い掛けた。
 彼の問い掛けに、老紳士は姿勢を正すと、深くイスに身を沈めて答えた。
 
 
「いや、まさかな。…これは私の独り言だと思ってくれていい。私の名はフリッツ・アンダーソン。元はトルースに暮らす商人でした。だが、御存じの通り、ガルディアは今はもう無い。私はトルースから逃れて、このメディーナの地で商業を営んでおります。妻の名はエレン。」
 
 
 老人はそう話すと、イスから起き上がり、ワイングラスに手を伸ばした。彼は一口飲むと、一息呼吸して外の方を見ていた。
 わざとなのか、彼は目を合わせようとはしない。だが、その窓に映る表情はするどく鋭
敏な頭脳を働かせている様に思われた。
 クロノは外を眺める彼に倣い、外を見つめる老紳士に視線を合わせて話した。
 
 
「…あなたの仰る恩人とは、俺のことなのか?」
「…そう、思われますか?」
 
 
 クロノの静かな問いかけに、老紳士も静かに問い返した。
 クロノは正面のフリッツと名乗る老紳士が「自分の記憶の中にあるフリッツ」なのか…そして、そのフリッツが何故自分と接触したのかを考えていた。だが、答えは目前にある。元来深く考えるより行動することを優先する彼は、迷わず正面からぶつかる事にした。
 
 
「…少なくとも、あなたは俺と過去の恩人が似ていると思っているからこそ、この夕食に招待したわけだ。」
「…そうです。だが、私にはあなたが本人だと言う確証は無いし、そう思う根拠もない。確かに似ている。しかし、それもよく似たそっくりさんだと思っているにすぎない。第一、私の若い頃の話です。もし生きているなら、もう良い年ですな。」
 
 
 老人の言葉はもっともだ。
 彼の話は過去の人物の話であり、当然彼の言う通りに相当の年齢に達しているだろう。
 
 
「…確かに。だが、俺も…あなたを何故か知っている。」
「…ほう、是非聞かせて頂きたい。」
 
 
 クロノは彼の求めに頷き応じた。
 一息付くと、ゆっくりと話し始める。
 
 
「…あれは、俺の時間で五年前の話しだ。
 俺はヤクラの奴にはめられて、冤罪で牢に入れられた。
 だが、俺はそこに留まるつもりは無かった…」
 
 
 ー 五年前 ー
 
 
 …刑務所はとても寒かった。
 
 
 ガルディア大陸は北に位置しており、冬は雪が降り、夏もそう暑くならない。
 当時の季節は夏の終わり。…夜は夏と言えども寒かった。
 
 
 クロノは外が夕焼けになる頃を待って動き出した。
 看守を倒すことは容易かったが、道が入り組んでいて何処が出口なのかわからない。
 特に監獄に入る前に気絶させられていたために、何処をどう通ってきたのかまるでわからなかった。脱出するためには一つ一つ道を探るしかない。彼は一つ一つの道を慎重に探し歩いた。そして、その道の先で拷問部屋を見つけた。
 
 中に入ると人の気配がした。
 初めは亡霊かと思ったが、よく見ると古びた骨董品並みの処刑道具に人が仕掛けられていた。
 
 
「おい大丈夫か?今助けてやるよ。」
「あぁ、助かった。死ぬかと思ったよ。俺はトルースでグッズマーケットやってるフリッツだ。いやぁ、まさか、こんなことになるとは思わなかったよ。助かったぁ。」
「どうする?俺についてくるか?」
「いや、自由になれば何とかなる。それに先を急いでいるんじゃないか?俺は荷物を探してから出たい。」
「1人より2人の方が心強くないか?」
「まぁな。はは、出口で会えたらよろしくな。」
 
 
 フリッツはそう言うと荷物を探しに走って出て行った。
 クロノはその後刑務所を脱出し、助けにきたルッカと共にドラゴン戦車を倒し、マールと共にゲートから現代を脱出したのだった。
 
 
「…あの後、無事に出てからあなたの店に行った時、あなたはお礼にミドルポーションをくれたよな。エレンさんはあなたのことを心配していたから、無事帰って来たあの店で見せてくれた笑顔が忘れられないよ。」
 
 
 クロノの話に、フリッツは勿論、彼の隣に座るエレンも目をパチクリとしていた。
 
  
「…信じられん。まさか…あの話は本当だったのか。」
「あの話?」
「…あなたは、いや、殿下は千年祭のパレードの時にマールディア王女様と共に『未来を救った』という名目で祝われていたではないですか?…私共市民の側からしたら、当時は何がなんだかわからなかったが、…今の貴方の姿がそれを意味するのであれば…本当だったのかと。」
 
 
 フリッツは自分で話している今ですら半信半疑だった。だが、今目前にいる存在はどう見ても過去の記憶にあるその人としか言いようがなかった。
 クロノもまた、自分が出会った人物の未来をこの目で見る事になるとは、夢にも思わない気分だった。困惑する気持ちはお互い様であった。
 
 
「…確かに、俺にも説明しようがない。だが、俺が本人であることに変わりはないとしか言い様が無い。証明する根拠も物証すらも無いけどな。あと、殿下はやめてくれないか?今は殿下でもなんでもない。」
「いや、私の監獄のことを知っている人間はそうはいない。まして、どうして抜けられたかを知っている人間は1人しかいない。あなたが紛れも無く本人であることは確かでしょう。
 …しかし、驚いた。まさか25年目にして恩返しする時が来るとは。
 …神の思し召しだ。」
 
 
 フリッツの言葉に、クロノは静かに言った。
 その目は真剣だ。
 
 
「…恩返しか。なら、あなたはこんなことは可能か?」
「どんなことでしょう?」
「国立研究院に入る許可を取ることだ。」
 
 
 フリッツの眉が動く。一瞬険しい表情を見せたが、それはほんの一瞬であった。
 
 
「ほう、可能ですが、何故研究院などに?」
「ボッシュに会いたい。たぶん、今この時代でマールを救い出す策を持っている奴はボッシュしかいない。」
 
 
 クロノの言葉はフリッツの表情を曇らせた。
 
 
「マールディア様が………、何があったのです?」
 
 
 クロノは思わず顔をうつむかせ言った。
 
 
「パレポリにさらわれた。」
「なんと………、」
 
 
 クロノはこれまでの話をフリッツに話した。
 フリッツはその話を黙って静かに聴き、聞き終えると少し考えてから答えた。
 
 
「…わかりました。では、しばしお待ちを。」
「えぇ。」
 
 
 そう言うとフリッツはテーブルに置いてあるベルを鳴らした。
 すると、ベルボーイがやって来た。
 
「御用でございますか?」
「ペンと紙を持って来て欲しい。」
「畏まりました。すぐにご用意致します。」
 
 
 ボーイが言うや否や、すぐに後方から新たなボーイが現れて、ペンと紙がフリッツの目前に用意された。
 
 
「有難う。下がってくれ。」
 
 
 ボーイは一礼すると、静かにその場を去った。
 フリッツはペンを持つと、紙にすらすらと文を書き始めた。
 そして書き終えると、クロノにそれを渡した。
 
 
「これを研究院の入口で渡せば大丈夫でしょう。」
「これは…」
 
 
 そこにはフリッツによるボッシュへの紹介状が書かれていた。
 
 
「私からの紹介状です。それさえ有ればこの国の大抵の場所は入ることが出来ます。まぁ、会ったばかりで私のことを信用しろと言うのも難しいでしょうが、どうか信じてお使い下さい。」
 
 
 フリッツはそういうとにっこりと微笑んだ。
 婦人のエレンも微笑んでいた。
 クロノは二人に感謝の気持ちを込めて、深々と頭を下げた。
 
「有り難うございます。」
 
 フリッツは彼の礼に一瞬物を言うのを忘れた。
 彼の姿からは、何かオーラとでも言うのだろうか、とても常人の持ち合わせていない威厳の様な力が感じられた。
 
「あぁ、礼など要りません。頭を上げて下さい。今日は良い夕食だった。こちらこそ有難う。」
 
 そう言うと、フリッツはベルを鳴らした。
 後方からボーイが歩いてくる。
 
「さて、お疲れでしょう。今日は有り難う。私の名刺を渡しておこう。普段は飛び回っているが、ご連絡が有ればいつでもお力になります。」
 
 フリッツはポケットから名刺入れをとり出すと、クロノに手渡した。
 名刺にはアンダーソン・コーポレーションという企業名と連絡先、そして彼の名前が出ていた。クロノはこの名前に昔の記憶が呼び出された。
 
「あの、フリッツ。アンダーソンって、あのアンダーソン?」
「あのとは?」
「いや、王室ご用達のアンダーソン社だろ?」
「えぇ、仰る通りです。」
 
 クロノは今さらながら彼の身なりの理由が理解できた。彼の目前にいる人物は、ガルディア王国時代から王国を代表する商会の息子だったのだ。
 フリッツは側に来たボーイに言った。
 
 「お客様が部屋に戻られる。お部屋へ案内してくれないか?」
 
 ボーイは頷くと、二人のイスを引き部屋へ案内した。
 クロノ達はフリッツ夫婦にもう一度礼を告げると、ボーイに案内されて自分達の部屋へと去って行った。
 
 
 二人だけになった部屋。
 エレンは夜景を見ながら微笑んで言った。
 
 
「…不思議なこともあるのね。」
 
 
 彼女の言葉は彼も思っていた。
 フリッツはワインを一口含むと、彼もまた夜景を見て答える。
 
 
「…そうだな。だが、情報は本当だったらしい。…となれば、満更悪く無いではないか?」
 
 
 フリッツはそういうと国立研究院の森を見た。森の向こうには壮麗なモニュメンントタワーを持つ国立研究院があり、タワーの頂上が赤くサインを出している。
 
 
「そうね。こんな時代だからと暗いことばかりを信じるのは、…いい加減に終わりにしたいものね。」
「あぁ。」
 
 
 夫婦は暫く窓を見つめながら語っていた。
引用なし
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【72】CPss2感想
 ライオネス  - 07/7/15(日) 5:39 -
  
お久しぶり・・・というのは自分だけですかね;
クロノ・センターの掲示板で活動を続けていたとは知らなかったもんで、
すっかり足が遠のいてました・・・;
しかもCPss2もそちらでスタートしてたという・・・
7ヶ月以上も気がつかなかった自分逝ってよし; |i|i| ○| ̄|_

そういう訳で、1〜3話は今通しで読んだところです。
なので、感想も3話まとめてで勘弁して下さい;

1話では、懐かしい登場人物が出てきましたねw
2人のうちどちらなのかはこの際問題ではないとして、
それでも覚えてるってのはよほどあの時の印象が強かったんだろうなぁ、と(w

2話はかの爺様の偉大さが伝わる話でしたね。
至る所同じ名前だらけ、郵便屋さんはさぞ大変だろうなぁ(苦笑)
・・・でもあれ?彼って確か先行版で・・・(以下、ネタバレ禁止で略

3話では・・・物好きな人もいるなぁ、と思ったら、
なんかゆかりのありそうな人だったようで。
どんな役どころの人なんでしょう・・・

全体的に、これからどうなるのかが楽しみです。

ちなみに誤字脱字は、見たところ1〜3話のどこにもなかったようです。

では、これからは時間を見て来るようにしますね。

追伸:勝手に感想スレ立ててすいません;
引用なし
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【71】CPss2第3話「老紳士」
 REDCOW  - 07/7/13(金) 21:58 -
  
第87話(CPss2第3話)「老紳士」
 
 
 従業員は困惑の表情で二人を見ているしかなかった。
 
 そこに待ち合いのソファーで座っていた、白いスーツを着た老紳士というに相応し
い威厳と品を備えた男性が、フロントの方へにこやかにゆっくりとやってきた。
 
 
「君、良いかな?」
「はい?」
「こちらの方々の費用は私が払おう。部屋はいつもの部屋で良い。」
「宜しいのですか?」
「あぁ。」
 
 
 そう言うと老紳士は財布から1000メディーナゴールド分の小切手を取りだし払った。
 二人は驚いて老紳士を見た。
 
 
「あの…」
「いやぁ、良いんだ。さぁ、鍵を貰いなさい。」
「え、いや、そんな受け取れません。」
「ハハハ、若者は年寄りの厚意は素直に受け取るものだよ。」
 
 
 クロノは老紳士の笑顔に圧倒され、それ以上何も言えそうな気がしなかった。彼は老紳士の申し出に乗り、部屋の案内の説明を受けて鍵を貰った。
 二人は老紳士に深々と礼をすると、老紳士は笑顔で二人に言った。
 
 
「まぁ、お腹も空いているでしょう?どうです、私達とご一緒に食事でも?」
「食事まで!?そんな、見ず知らずの方にそのようなことまで…」
「いや、夫婦二人だけの食事より、お若いお二人を入れた食事の方が楽しい。食事は沢山の人と囲んだ方が楽しいと、そうは思いませんか?」
「た、確かに。…では、お言葉に甘えて。」
 
 
 二人は彼の食事の誘いも受けると、二人をロビーのソファに座る一人の年配の女性のもとへ案内した。
 
 
「私の妻です。」
「どうも。初めまして。お若い方とお食事できるなんて、今日はいい日ですわ。」
 
 
 彼が紹介した婦人はとても若々しく品の良い笑顔で、二人に静かに挨拶をした。
 クロノは彼女に手を差し出し握手を求めた。それに対し彼女は静かに応じ、二人と握手を交わした。それが終ると、老紳士夫妻の厚意にクロノは再び礼を伝えた。
 

「御配慮、有り難うございます。」
「フフフ、いいえ。礼には及びませんわ。ね?」
「ハハハ、まぁ、どうぞ我々の部屋へご案内しよう。」
 
 
 老紳士がそう言うと、どっからともなくそそくさとホテルのボーイ達が現れ、夫妻と二人の荷物持ち、彼らの上司が鍵を持ち先頭に立って老紳士夫妻とクロノ達を夫妻の部屋へ案内してくれた。
 その様子は半ば大名行列の様で、夫妻と二人の後を数人のボーイが綺麗に2列に並び進む異様な光景が展開されていた。
 部屋は最上階の西向きのスイートで、外側の壁は窓になっていてボッシュの街の夜のパノラマがネオンの光りを放っており、それはまるで宝石のように輝いていた。
 ボーイ達の上司が老紳士に伝える。
 
 
「こちらがアンダーソン様の今夜のお部屋にございます。」
「うむ。支配人ありがとう。では、早速だが食事の用意を頼みたい。」
「はい、畏まりました。早速ご用意致します。」
 
 
 二人は老紳士の言葉に驚いた。
 まさかあの中年の従業員が支配人だったとは…、確かにボーイよりは上司だろうことは想像ができたが、支配人だとは思いもしなかった。二人はこの老紳士がどのような人物なのか、少々不安を感じ始めていた。
 
 食事の用意は驚く程早くに整った。
 ものの五分もしない内に、入口から次々と料理が運ばれて来て食卓に並んだ。
 料理長らしき魔族の男性がメニューについて説明すると、老紳士はチップを渡して人払いをした。
 部屋にはクロノ達と夫妻だけになった。
 それを確認すると、老紳士が笑顔で言った。
 
 
「さぁ、頂きましょう。」
 
「では、お言葉に甘えて頂きます。」
「有り難うございます。頂きます。」
 

 二人はとにかく空腹だったので食べに食べた。
 もはやここまできてしまったらどれだけ食べようが多かれ少なかれ結果は同じ。ならばとばかりに二人の頭で弾き出された結論は明快であった。
 老夫婦はその様子をワインを飲み、マイペースに料理を口に入れつつ見ていた。
 クロノはある程度腹が満たされた段階で、コップの水で喉を潤すと老紳士に話し掛ける。
 
 
「なぜ、俺達の食事や宿の面倒を見てくれたのですか?俺はあなたを知らない。初対面だと思うのですが?」
 
 
 老紳士はクロノの質問にワインを一口飲んでから答えた。
 
 
「…いやぁ、似ているんですよ。」
「似ている?」
「そうです。私の古き記憶にある人物にあなたがよく似ておられたからですよ。あなたの顔を一目見た時からそうしたいと思いました。」
 
 
 クロノは老人の言葉掴めなかった。
 たぶん、自分に会ったことがある人間なのかもしれない。しかし、自分の記憶を辿ってもそれらしい顔は思い出せない。特に、こんなに立派な身なりの人間と親しい付き合いをした覚えは無かった。
 もしかしたら、自分とよく似た人がいるのかもしれない。もう少し先を聞いてみることにした。
 
 
「その方はどんな方なんですか?」
「私の命の恩人ですよ。その人がいなければ…今の私はいなかったと言っても過言じゃない。だが、その方は遠い昔に不運な運命を辿ってしまった。もう…二度とは会えない。その当時の私には今程の力は無かったので、結局恩返しはできずに終わってしまった。」
「それで、俺を通してその人に恩返しする気分になろうと?」
「はっはっはっ、まぁ、そんな所ですよ。若い時は全力で力を得ようとしましたが、今になってみれば、その力をもってすら過去を埋めることはできないのですよ。哀しい現実です。ははは、なんかしんみりしちゃいますな。」
 
 
 老紳士は微笑むとワインと一口飲んだ。
 そんな彼に婦人が微笑んで話しかける。
 
 
「いやねぇ。あなたったら。でも、皆さんはラッキーね。この人はいつもこんなにしゃべる人じゃないのよ。ね?」
「おいおい、私をさも暗そうに言わんでおくれよ。」
「あら、そう?」
「ははは、お前にはかなわんな。確かに何年ぶりだろう?こんな楽しい夕食を食べたのは。あの子が生きていれば、お嬢さんくらいの歳になるのかねぇ。」
「あなた、その話はよして。お客様の前で失礼よ。」
「あぁ、すまん。」
 
 
 そう言うと老人はワインをまた一口飲んで外を見た。
 窓からはメディーナ国立研究院の森が見える。
 
 
「あの、聞いて良いですか?」
「何かな?お嬢さん。」
「まだ、私達自己紹介をしていません。私はシズクです。そして彼はクロノです。」
「クロノ!?」
 
 老紳士の驚きの反応に二人は身構える。
 今まで和やかだった会食の雰囲気は凍りついた。
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【70】CPss2第2話「ボッシュ、ボッシュ、ボッシュ...
 REDCOW  - 07/7/6(金) 16:03 -
  
第86話「ボッシュ、ボッシュ、ボッシュ」
 
 
 機関車はヘケラン山を抜けると西南方向へと進んだ。
 現在のメディーナは首都メディーナの他に2つの都市がある。
 
 一つは過去の時代にパレポリ海軍と遭遇した土地に築かれた軍事都市「南メディーナ」、もう一つは西南に築かれた学問と経済の中心都市「ボッシュ」があった。
 
 クロノ達を乗せた機関車はボッシュの街へ向かって走っていた。
 ボッシュの街へ近付くにつれて人家が見え始め、草原が整備されて行くのが見える。
 街は多くの緑があり、石畳に煉瓦の建物のトルースの雰囲気とはまた違って、暖かみのある明るい町並みが見えてくる。
 
 
「よぉ、着いたぜ!はっはっは、終点だ!さぁ、降りた降りた!っといっても、外にホームはねぇがな。」
 
 
 カルロが大声で眠っている二人を起こした。
 
 
「…ふわぁ………着いたのか?」
「おぅよ!ボッシュの街へようこそ!」
「…ボッシュ。………えぇ!?ボッシュ!?!」
 
 
 クロノは耳を疑った。
 カルロが不思議そうに尋ねる。
 
 
「どうかしたかい?」
「いや、本当にここはボッシュって言うのか?」
「そうだぜ!メディーナの建国の父の名さ!」
「建国の父?」
 
 
 クロノの不思議そうな目に、カルロが自信満々に話し始めた。
 
 
「…その昔、メディーナをパレポリが大船団を率いて恫喝にきた時、ボッシュ様は俺等に勝つ為の策を示し、一致団結して国難の危機から救って下さったのさ。
 それ以来ボッシュ様を慕う俺等メディーナ人は、ボッシュ様が住んだこの地に集まり、ボッシュ様から様々な教えを請い、現在の繁栄を築いたというわけさ。へへ、ま、ガキでも知ってる話さ。」
 
 
 カルロの話はクロノも驚くべき内容だった。
 思わず言葉が漏れる。
 
 
「…へぇ〜。あのボッシュが…」
「お?クロノはボッシュ様と会ったことがあるのかい?」
「あ?あぁ、まぁ、それなりに…」
「おぉ、そいつぁすげぇ!一度話を聞かせてくれよ。」
「ははは、あぁ。まぁ、いつか…な。」
 
 
 クロノは苦笑しつつ機関車を降りた。
 カルロが降りたクロノ達に線路からの出口を教えてくれた。二人はそれに感謝を告
げると、彼の言葉に従ってまず線路をでて駅前の広場に出た。
 
 街はこの時代のトルースの同様に混み合い騒がしかったが、活気が違っている様に思えた。何より人々には笑みが溢れ、談笑しながら通りを行き交っていた。
 クロノはこの表情の違いに正直に驚いたと同時に、メディーナの活気を見て自分の知る過去のトルースの姿を重ねていた。
 
 
「クロノ、これからどこへ行くつもり?」
「そうだなぁ、折角ボッシュの名前が出たんだ…ボッシュに会いに行ってみようぜ。」
「さっきも知り合いみたいな話振りだけど、どこで知り合ったの?」
「ん?大昔からの縁さ。」
「何それ?」
「ははは、まぁ、とりあえず何処にいるか探してみようぜ。ま、随分と有名らしいからすぐわかりそうだな。」
 
 
 二人は街を歩いてみた。すると、二人の予想に違わずボッシュの名は沢山出て来た。しかし、その量は半端じゃ無かった。
 
 ボッシュ通り、ボッシュ銀行、ボッシュビル、ボッシュ書店、ボッシュ料理店、ボッシュ病院………街の至る所にボッシュの名が溢れていた。考えてみれば当然で、この街の名はボッシュなのだから、至る所にボッシュの名があっても何ら不思議は無い。
 二人はどこから取っ掛かりを付けて良いのかわからない程の量に困惑していた。
 
 
「なんなの?全部ボッシュじゃない!」
「す、すげぇなぁ。さすが街の名もボッシュ。ボッシュづくしってわけだ。逆に分かりにくい。」
「こういう場合は書店や図書館に限るわね。さっき見たボッシュ書店へ行ってみましょう。」
「あぁ。」
 
 
 ボッシュ書店は駅のすぐ近くのボッシュビルの1階にある書店で、その上にはボッシュ料理店の看板がある。書店の中は広く様々な書籍が所狭しと並んおり、本の種類によってコーナーが分けられていた。
 店頭には週刊誌などの雑誌が並び、奥には小説や写真集など様々な専門書が並んでいる棚があった。
 シズクは迷わずに教育書籍のコーナーに進んで行った。
 
「教科書のコーナー?」
「そう。ここが一番私達には必要なコーナーね。」
 
 シズクは棚の本を物色する。
 その中から近代メディーナという、高校教育用の教科書を取り出し目を通す。
 
 
「メディーナ語が読めるのか?」
「えぇ。メディーナ語は元はジール語なの。元々魔族の人達は一番ジールの文化を多く継承しているから。でも、それは基本的には世界の言語も同じで、難しそうに見えるけど、単語の文法的語順の関係とかは現代ガルディア語と一緒なのよ。あ、ほら、ここの並びなんか見てみて。この単語はガルディア語もジール語から派生したということがわかる言葉ね。」
「本当だ。これは国って言葉か?」
「そう。基本的には大きくガルディア語と違わないから、ガルディア語からメディーナ語に入るのはそう難しいことじゃないわ。」
「へぇ。」
「でも、面白いことがわかったわ。この国ではガルディアの人々も本当に多く暮らしているそうよ。だから教科書もほら、そこなんか表紙のタイトルはメディーナ語だけど、ガルディア語の教科書よ。まぁ、町中でも結構ガルディア語の看板もあったしね。」
 
 
 シズクはその書籍を指差す。
 クロノはそれを手に取り開いた。
 
 
「本当だ。」
「この本屋にはガルディア語の本も多く置いてあるわ。第二言語的位置付けみたいね。クロノも自分で見たい本を探してみるといいわ。」
「あぁ、じゃぁ、俺も他を見てくる。」
 
 
 二人は暫く本を立ち読みした。
 そこで分かったことは、カルロの言っていた通りの事が歴史として残っており、まだボッシュは生きており、この時代では国立研究院というメディーナ科学の最高機関で研究を続けているということであった。
 二人はそれを知ると、早速マップコーナーで立地を調べて店を出た。
 
 国立研究院は街のど真ん中にドデカイ敷地を構える複合教育施設で、国立研究院施設を中心にボッシュ大学やボッシュの街の教育機関が林立している。
 敷地の広さから、徒歩で行くより駅前から出ている無料送迎バスを利用した方が良いとガイドでは解説しており、二人もバスを利用することにした。
 駅から研究院までの所用時間は30分。
 多くの木々で囲まれたキャンパスの中に、手入れの行き届いているちょっと変わった庭園があり、その庭園の中央に目的地である国立研究院の豪華で奇抜な建物が立っていた。
 門前には警備員が立ち、鋭い視線を周囲に張り巡らせている。そこにクロノ達が門を通過しようとすると、警備員がその進路を妨害した。
 
 
「許可は受けていますか。当研究院への出入りは一般の方の立ち入りを禁止しております。」
「許可は無いが、古い友人のクロノが来たとボッシュに伝えてくれないか。」
「そのような要求はお受けできません。紹介状または許可証が無いのでしたら、残念ながらここをお通しすることは出来ません。お帰り下さい。」
「そこを何とか頼む!ボッシュに伝えてくれるだけで良いんだ!な?上司か誰かでも良いから俺の言っていることを伝えてくれないか。」
「申し訳有りませんがこれは規則ですので、我々の一存で変更できることではありません。お帰り下さい。」
 
 
 そう言うと警備員は二人を押し戻すかの様に一歩前進してきた。
 クロノは手荒な真似はしたくなかったので、仕方なく引き下がることにした。
 そんな彼にシズクが不満そうに言った。
 
 
「強引に入っちゃえばこっちのもんだったんじゃないの?知り合いなんでしょ?」
「まぁな。でも、この国でもお尋ね者はさすがにまずいだろ。」
 
 
 クロノはそう言うと苦笑した。
 シズクもそれをみて、なるほどと納得して自分も苦笑していた。
 
 二人はバスで再び駅へ戻ることにした。
 バスが駅に着く頃には空は夕焼けの黄色に染まり、二人は空腹を感じ始めていた。
 
 
「…腹減った。今日の宿を探そう。」
「そうね。」
「金も有ることだし、安宿は良くないんだろ?普通の所に泊まろうぜ。」
「フフフ、学習したのね。」
「…おいおい。」
 
 
 二人は駅前のホテルに入った。
 そのホテルはそれなりの外観を備えた街に合った洗練された雰囲気を持っており、エントランスからフロントまでの作り込みは、トルースのホテルにも負けない静かだが品の良いものだった。
 
 
「いらっしゃいませ。」
「泊まりたいんだが、部屋はあるか?」
「お客さまは、御予約はされていますか?」
「いや、すまないがしていない。なんとかなるか?」
「わかりました。では、どの程度のお部屋を御所望でございましょうか?スイート、ビジネス、エコノミーの3タイプを御用意しております。エコノミーでしたら価格も50Gとお安く御提供させてい頂いております。」
 
 
 クロノはシズクの方を振り向いて聞いた。
 
 
「どうする?」
「そうねぇ、ビジネスでも良いんじゃない?」
「そうか?なら、ビジネスで頼む。」
「ビジネスでございますね?わかりました。価格は100Gですが宜しいですか?当館では料金を前払いで頂いております。」
 
 クロノは財布をポケットから出そうと手を突っ込んだ。しかし、ガサゴソとするが、あるはずの物が無い。…額から汗が滲む。
 シズクがいつまでたっても財布を出さないのを見て心配し、恐るべき予想を察知する。
 
 
「もしかして…?」
「…あぁ。」
「どうして!?ちょっと、ちゃんとよく調べてよ?」
 
 
 二人のやり取りを見て困惑する従業員をよそに、二人は必死に探し始める。
 
 
「お客さま…」
「ちょ、ま、待ってくれ!今探しているから。」
 
 
 クロノは必死で探したが、元々軽装なので調べるべき所は限られていた。
 
 
「……ない。」
「………」
 
 
 二人は思わず石の様にその場にピシっと固まった。
引用なし
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【69】CPss2第1話「湿った闇の中で」
 REDCOW  - 07/6/29(金) 16:54 -
  
第85話「湿った闇の中で」

 
「う、うぅぅ……」
 
 
 ひんやりとした感触が頬に伝わる。
 ざーざーと流れたり、滴る水の音が聴こえる。
 全身に悪寒が走りとても寒い。
 
 開いた視界に入ってきたのは暗闇だった。
 深い闇にほんのりと輝く光苔の緑の光が若干の明かりとなって、辺りの景色がどのような物かを伝えてくれる。
 
 周囲の壁は一面石で出来ており、氷柱のようなものも見える。どうやら洞窟の中らしい。
 
「(…俺は…)」
 
 最後に残っていた記憶は、船長に促され救命ポッドに駆け込んだ事だった。その後激しい揺れが襲い、意識を失ったのだろう。
 一体ここは何処だろうか。そして、あの後どうやって自分はここに行き着いたのだろう。体を起こして周囲を見回した。だが、まだ目が慣れておらずよくわからない。ただハッキリ分かる事は、仄かな緑の光と体の感覚だった。
 
「痛っ…」
 
 あまり信心深い方ではないが、ここは正直に神に感謝すべきだろうか。
 奇跡的に体は若干の痛みはあるものの異常はなかった。だが、全身ずぶ濡れで非常に寒い。洞窟の温度も低く、寒さが堪える。
 目が慣れてきてから周りを眺めると、洞窟のおぼろげな姿と共に何人かの人が倒れているのが確認できた。そのうちの1人に仲間の姿があった。彼は彼女のもとに近寄り、口元に耳を近付ける。
 彼女は呼吸をしており、どうやら無事で眠っているだけのようだ。体の方も出血は見られず、無事にみえた。
 安堵した彼は、彼女の名前を呼びかけた。
 
 
「シズク、シズク。」
「うぅん、なーに?………え?ここは?」
「洞窟の中らしい。俺にもよくわからない。」
 
 
 シズクが起き上がる。
 寝ぼけてハッキリとしている様ではなかったが、どうやら彼女も異常は無いらしい。
 
 
「あ、クロノ、……私達、船が渦に巻き込まれたのよ…ね…?」
「あぁ。」
「でも、ここは………?」
「俺もさっき目覚めたばかりだ。わからない。だが、奇跡的に助かったことは確からしい。」
「そうね。…!、他にも助かった人がいるのかしら。」
 
 
 彼女はすっくと起きて立ち上がる。だが、立ち上がった瞬間、全身ずぶ濡れのため、洞窟の冷気も相まって悪寒が体中に走る。しかし、今はそんなことに気圧されているわけにはいかない。震えを押さえて急いで他の人を調べた。
 二人の他には四人の乗り組み員が倒れていた。いずれも彼らが同乗したポッドにいた人達で、その中には船長も含まれていた。
 シズクが辺りをよく見ると、壊れたポッドの破片らしきものが周囲に幾つも散らばっていることが確認できた。どうやらポッドはここまでバラバラになりつつも全員を運んだのだろう。
 
 
「船長さん、大丈夫ですか?」
 
 
 シズクが船長の頬に手を置き呼び掛ける。
 
 
「……。」
「…そんな。」
 
 
 シズクは脈を計るために首の頸動脈を探ったが、既に脈は無く体も冷たかった。
 
 
「他の人は!?」
 
 
 急いで他の者の安否を調べたが、彼女の期待とは裏腹に既に亡くなっていた。しかし、それを素直には受け入れられない彼女は、エレメント「ケア」を発動したが、既に体は受け付けなかった。
 
 
「…私達だけなのね。」
「…あぁ。」
 
 
 二人は黙祷し、4人の冥福を祈った。
 シズクは近くに散乱していた流木をかき集めて魔法で火をつけた。
 ボッという音と共にパチパチと燃え上がり、辺りを仄かなオレンジの光が包む。
 
 
「…まずは冷えきった体を温めましょう。幸いここは密閉されていない。さっきから向こうから風の音が聴こえるもの。」
 
 クロノは彼女の意外な程の冷静な状況判断に驚いた。確かに通気が無い場所に風の音など聞こえるはずはない。ならばこの風は確かに地上との接続を伝えるシグナルといえた。時々彼女の冷静さには驚かされる。
 
「ここはどこか見当がつくか?」
「…わからないわ。海底深くの鍾乳洞の様にも見えるわね。もしそうなら、死が若干伸びたに過ぎないわね。シーケンサーで調べられたらなんとかわかるかもしれないけど、シーケンサーも渦潮の衝撃で壊れてるみたい。」
 
 
 彼女はそういってゲートシーケンサーを見せた。確かに動かず何も表示されない。
 
 
「直せないのか?」
「そうしたいのはやまやまだけど、荷物も飲み込まれて消えてしまったから、精度の良い工具が無ければ、これの修理はここではとても無理だわ。」
「そうか。」
 
 
 二人は暖をとって体が十分に乾いた頃を見計らって動き出すことにした。
 
 洞窟はシズクの言った通り、奥から風が入ってきていた。風の来る方向へ進むと、細いながらも人が通れる道があった。そこを通り抜けると大きな空洞に通じ、何やら向こうの方で音が聴こえる。その音は何かを削る重機の音の様だ。
 
 
「この空洞には道が無いみたいだけど、何かの作業音がするわね。」
「しかし、出るにはどっかに穴を開ける必要があるな。」
 
 
 クロノが構えようとすると、シズクがそれを制止した。
 
 
「待って、こっちに向かって掘ってるわ。それも近い!」
 
 
 シズクはそう言うと壁から離れて待機する。
 クロノもそれに倣って後方に退いた。
 すると壁からの音が大きくなり、遂に目前の壁が大きく煙りを上げて突き破られた。
 現れたのは、人が1人乗れる大きさのドリルのついた重機だった。
 二人は開通に両手を上げて喜んだ。
 
 
「に、人間!?………あ、あんた方どっから来たべ!?」
 
 
 作業員の魔族の男性が驚いて二人に問う。
 無理もない。本来なら人なんて居るはずも無い場所から現れたのだから。
 
 
「わからない、だが、有難う!これで出られる。出口はどっちへ向かえば良い?」
 
 
 歓喜し訪ねるクロノに、半ば流される様に答える魔族の男性。…彼自身、あまりに飲み込めない事態に、流される様に答える他に何も浮かばなかった。
 
 
「んぁ?お、おぉ。出口はこの坑道を真直ぐ行って、突き当りを左に曲がればあとは看板出てるべ。」
「そうか!サンキュー!よし、行こうぜシズク!」
「はいな!」
 
 
 二人は足早にその場を去って行った。
 作業員は呆然として口を開けて座席に座りながら、そのまま後ろ姿を見送っていた。
 
 
 作業員の言に従い道を進むと、上り勾配の道に自然になっていた。
 二人は作業員の言葉の正しさを実感して、無事に脱出できることを喜びつつ夢中でただひたすら歩き続けた。そして前方に真っ白に輝く光で満たされた出口が見えた。
 
 出口を出ると、そこには大きな機関車のプラットホームらしきものが展開されていた。線路が何本も敷かれてあり、周囲には牽引車の無い貨物車に多くの石が積まれて置かれていた。積まれている石はトルースで見た石にも似ているが、色が少し違うようだ。どうやらここは鉱山だったのだろうか。
 二人はホームに上がった。そこに一台の機関車が前方からゆっくり入ってくるところだった。大きな駆動音と線路を擦る車輪の金属音が耳障りに聞こえる。
 
 目前の機関車は完全にプラットホームに停止した。すると、後方から何やら音がする。その音はレールを駆動する音、後方から登場したのは石を満杯にした沢山の貨物車だった。最後尾の機関車が牽引している。
 貨物車はゆっくりとホームに入り、既に止まっている機関車の連結部と連結した。それが終わると、最後尾の機関車が連結を外し、再び鉱山へ向かってゆっくりと出発する。
 
 
「この列車に乗って行こう。」
 
 
 突然クロノが言った。
 彼女は彼の提案に同意したいところだが、自分達は切符も無い。しかも客車でも無い貨物車に乗るのは不安があった。
 
 
「大丈夫かしら?」
「別に構わないじゃないか。乗れれば街に入れるんだろ?だったら使わない手はない。」
「まぁ…そうね。」
 
 
 彼女は苦笑しつつも同意した。確かに一番手っ取り早い。
 クロノはそう決めると、足早に先頭に止まっている機関車の運転席の方へ駆け寄った。そして、中にいる魔族の男性に声をかける。
 
 
「すまない!一つ頼みたいことがあるんだ!」
 
 
 クロノの呼び掛けに、魔族の男性は面倒そうにゆっくりと振り向く、男は呼び掛けた相手を見て驚愕の表情を見せた。
 
 
「え、ぇえ!?!お、おい…、あんた…昔タンスから出たことあるか?」
「タンス???……え?もしかして、君はあの時の!?!」
 
 
 驚いた事に、彼は昔ゲートで出た先に住む住人だった。まさかこんな形で会えるとも思わず、お互いがお互いの存在に驚くと同時に、懐かしさが込み上げた。
 
 
「本当に覚えが有るのか!?!マジかよ!?うぉお!久々だなぁ!懐かしい!どうしてまたこんな所に?」
「う、うーん、説明が難しいんだが…ははは。」
 
 
 クロノは今まで起こったことを順を追って簡単に説明した。その時にシズクを紹介した。運転士の名はカルロと言い、今もメディーナに住んでいるらしい。
 
 
「…ははは、あんたはいつも変わったことになってんな。ま、安心しな!このMBー1は長距離を走るマシンだからな、交代用の仮眠室が後部にある。あんたらはそこに乗ると良いぜ。ここで会ったのも何かの縁だ。楽しく行こうぜ!」
 
 
 カルロはそう言うと二人を機関車に乗るよう促した。どうやら出発時刻らしい。
 彼は二人が乗り込んだのを確認すると最後に乗り、施錠確認を行うと運転席についた。
 
 
「後方よーし!左右よーし!前方よーし!…出発進行!」
 
 
 出発の起動音が鳴り響く。
 システムがオンラインになりエンジンが駆動を始めると、車内にその駆動音が伝わり少々煩く感じた。
 機関車がゆっくりと動き始める。
 線路の継ぎ目を踏むガタンゴトンという音が徐々に早くなる。
 空いた窓から風がそよぎ、運転席から見える視界は次々に通り過ぎて行く。鉱山が遠くに見える頃には安定した駆動音に変わっていて、随分と煩く無くなっていた。
 いや、慣れただけかもしれないし、風の音で紛れたのかもしれない。だが、心地よい眠気を誘う揺れが、特にそう感じさせたのかもしれない。
 
 二人は疲れていた。
 沢山眠っていたかもしれないというのに、体と言うものはまったく不思議なものだ。
 様々なことがあり、ようやく安全が確保されたことに安堵したこともあるのだろう。二人は暫く深く眠りについた。
 
 列車は草原の中を駆け抜けた。
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【68】戦場に向かう者 後編
 上田・トリガー  - 07/4/17(火) 11:50 -
  
 ゼナンの橋に着いた。その光景に俺達は絶句した。
「あいつは……」
「ビネガーだ、まさか魔王直属の部下がくるとはな」
 食用カエルとは全然違うだろう。その遥か上をいくであろう実力をもつビネガー。
「俺達、勝てるのか? あの魔物に……」
 さすがのハードも震えている。
「大丈夫さ、勝てる。勝たなきゃ、俺達王国の未来はない!」
 騎士団長も気合が入っている。
「くるぞ! まずはあのスケルトンをなんとかしなくちゃな!」
 骨のモンスターがこっちに向かってきた。
 こいつもビネガーが連れてきたモンスターだ。食用カエルなんかよりもずっと強いだろう。
「よし、ハード! 行くぞ!」
 俺とハードはたくさんの仲間と共に前線に走り出した。
「うおお!!」
 目の前のスケルトンに渾身の一撃を与える。肩の骨が吹っ飛び、腕が落ちるが片方の腕で俺の方が攻撃してくる。
「あぶねえ!」
 すんでのところでそれをよけると俺は蹴りを一発入れるが、予想以上に奴は固く俺は転んでしまった。
「やば……」
 落ちた腕の剣を拾ったスケルトン、転んだ俺に向けて剣をふりかざす。
「おりゃあ!!」
 もうだめだと思った瞬間、ハードがそいつの頭をふっ飛ばしていた。
「おいおい、こんなところでくたばるんじゃねえよ?」
「ち、ありがとよ!」
 よく見るとハードはさっきのスケルトンの攻撃を受けていたようで怪我をしていた。
「だ、大丈夫か? ハード?」
「ああ、大丈夫じゃねえ。きっと致命傷だ」
 そういうとハードは倒れてしまった。
「お、おい! もう戦闘不能かよ! まじかよ!」
 俺はもっていたアテネの水をハードにぶっ掛けた。
「おおう!」
 天使がハードの周りを回り、目を覚ましたようだ。
「これでまた戦わなくちゃいけなくなったぜ」
「おい、もう水はないぞ! 致命傷は受けるな、ポーションでなんとかするぞ!」
 周りの兵士をみると、どんどんやられていく。
 こっちはどうみても劣勢だ。
「団長! まだはじまったばかりだけど敵が強すぎる!」
「分かってる! だが、ここを突破されるわけにはいかん!」
 団長は後方で戦況を見守っている。団長が死ねばここはおろか、国も全滅してしまうだろう。
「第二陣、進め!」
 国から援護にきた兵士がまた戦闘に加わる。
 だが、何か妙だ。スケルトンも何匹か倒しているのにいっこうに数が減らない。
「っけっけっけっけ」
「何!?」
 ビネガーが妙な魔法で兵士をスケルトンに変えてしまっていた。これでは埒があかない。まずい、俺達ここでスケルトンになるのか?
「ハード!」
「なんだ?」
「逃げろ! これはまずい、奴の思うつぼだ!」
「どういうことだ!?」
「奴は、死んだ兵士をスケルトンにしてるんだよ!」
「なんだって!?」
 もう大混乱だ。
 俺ももうポーションを使い果たそうとしている。
「ぐは!」
 隣で戦っていたハードが敵の一撃をまともにくらっていた。
「お、おい! ハード! ポーションだ!」
「だ、だめだ……」
 ハードから大量の血が吹き出てその場に倒れる。スケルトンはそのハードに容赦なく槍をさした。何度も、何度もさす。
「や、やめろー!」
 俺は怒りの一撃をスケルトンにぶつけ、奴を粉々した。
「ハード! 大丈夫か!?」
「だ……大丈夫にみえるかよ」
 奇跡的にまだ生きていた。アテネの水は、もうない。
 だめだ、ハードはもう死ぬ。
 いや、まだだ。この戦闘をはやく終わらせればなんとかできるはずだ!
「おらあああ!!」
 俺は剣を振りかざし、ビネガーの元につっぱしった。
「なに!? おい、お前ら! あいつをなんとかしろお!」
 ビネガーの命令を聞いてかそこらじゅうにいたスケルトンが俺の後をついてくる。
 この戦闘を終わらすにはビネガーを倒せばいいんだ。そしてその魔力からスケルトンが開放されれば……。
「ふん!!」
 俺はスケルトンを振り切り、ビネガーに一太刀をいれたはずだった。
「あ、あれ?」
 剣は真っ二つに俺、それはなんの役にもたたないものになってしまった。
「ありゃ? 残念だったね、さすがに焦ったけど魔法のバリアーはやぶれなかったみたいね」
 バリアー……ああ、だめだった。
「あ、いて」
 背中になんだか痛みを感じた。
 よく見ると腹から槍が突き抜けている。
 痛いというか、なんというか熱かった。そうか、痛みを越えると熱いんだという事がわかった。
 どんどん体を槍が貫いていくが、痛みが感じられなくてそこには絶望的な現実がまっていた。
「この、鉄砲が。お前も仲間に入れてやる」
 ビネガーが妙な魔法を唱えると、俺の肉体は消え去り、骨の体が現れた。
 ものすごい苦しさがどこで感じているのか分からないが俺を襲った。
「た、助けてくれ……」
 俺はその苦しさを消し去るために、かつての仲間に襲い掛かった。
 俺を殺してくれ。
 その時、死んでいるハードをみつけてちょっとほっとした。俺はハードを殺さなくてもいいから。
<了>

きっとゼナンの橋で戦っている男たちは骨になっちゃうんだろうなって思いました。
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【67】戦場に向かう者
 上田・トリガー  - 07/4/16(月) 18:16 -
  
「おい、俺って最強の戦士なんだぜ」
 同僚のハードが変な事を言い出した。
「じゃあ、お前、あの勇者様にも勝てるのか?」
「ああ、もちろん!」
 ハードは確かに弱くはないが、うわさの勇者様ほどではないと思う。
「じゃあ、魔王も倒せるのか?」
「も、もちろん」
 一瞬言葉を濁したから、やっぱり自信がないのだろうか。
「まあ、この時代だ。いつ魔王軍がせめてくるか分かったものじゃない。ただ、俺たちはやるべきことをやるだけだ」
「いつ死ぬか分からないしな」
 つらい時代に生まれたものだ。
 魔王軍と戦えば、ただではすまないだろう。いや、きっと死ぬと思う。俺はただの一兵士、勇者でもなければ才能のある戦士でもない。この間ある場所で食用カエルと戦ったが、本当に死ぬところだった。
 食用カエルってあんなに強かったのか? ギリギリで倒す事はできたが本当に辛い戦いだった。そういえばその時ハードもいたが、戦闘不能になってたな。
「なあ、ハード。ゼナンの橋は大丈夫か?」
「大丈夫さ、なんってったって俺がいるんだからよ!」
「大変だ! お前ら!」
 その時、騎士団長が慌ててやってきた。
「なんすか?」
「ゼナンの橋に魔王軍が現れた!」
「なんですって!」
「はやくこい! 出撃だ!」
 魔王軍と戦って勝てるわけないでしょ……うちら、食用カエルに瀕死だっつーの。
「燃えてきたぜ!」
 ハードを見るとやる気まんまんになっていた。お前、食用カエル相手に戦闘不能だったじゃん。
 俺たちは覚悟を決めるとゼナンの橋へ向かい走り出した。
 骨になる事も知らずに……
<了>

中途半端な小説を書いてしまいました。ゼナンの橋で骨になって襲ってくる兵士達。そんな人たちにも物語ってあるのかなって思って書きました。
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【66】あとがき
 冥香  - 07/2/16(金) 19:55 -
  
こちらの板には、久しぶりに投稿させていただきます。
冥香です。

さて、ずいぶんと長いモノを投下させていただきましたが、実は出来上がった話以上に製作期間は長かったりします。
5ヶ月間くらいでしょうか?
……そのほとんどがアイドリング状態という、情けないありさまだったわけですが(^^;

この話のテーマは「AD1999の世界崩壊」ですが、ネタに詰まったときにクロステのほうである方からネタを振っていただき、それに飛びついたという次第ですw
……慣れないテーマだったので、大変でしたね。
そして自分のなかで勝手に「アップはその方の誕生日にしよう!」などと決めていたので、当日の編集作業は大わらわでした;

やっと落ち着いてきましたので、クロステにて公開したときより若干加筆して、こちらの板に投稿させていただきました。

クロスへの複線は微妙に齧りつつ、厳密には繋がり得ないという、ちょっと扱いに困るモノになってしまった感もありますが、二次創作ということでどうかご容赦下さいませ(^^;

では、今回はこれにて失礼致します。
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【65】時の花 No,4
 冥香  - 07/2/16(金) 19:37 -
  
AD1000 ―花を咲かせる者たち―


 すっかり見慣れた星空だ。短くない眠りの間に星座の位置が変わったことなど、小さなことだ。自分が生まれたとき、空に星が存在することは知っていたが、それを見ることが可能であることを知ったのはずいぶんと後になってからだった。
 ふと、ロボはそんなことを思った。

 森は暗い。焚き火はまだ燃えていたが、弱々しい炎は周囲を照らす力をすでに失っていた。それでもロボには火を囲んで眠る仲間たちの姿が見える。

 “暗い世界で生きていかなくちゃならないから”

 彼を生み出した者のひとりが、そう言ってアイセンサーの集光装置のプログラムを入念に調整している姿を、今でも思い出すことができる。
 「思い出す」……?
 いや、それは正しくない表現なのではないか?なぜならその時、自分は未だ「生まれてはいなかった」のだから。
 それでもロボは知っている。会ったこともない、「生みの親たち」の想いを。

 微かな葉鳴りを、ロボの集音装置は拾った。火を挟んだ向かいで、「彼女」の面影を強く宿す少女が寝返りを打ったようだ。悪い夢でも見ているのか、時折煩わしげに首を動かす仕草が気にかかる。

 彼女の左隣で突然、くしゃみが上がった。周囲で眠る者たちの幾人かが、眠りながらもびくりと身をすくませるほど盛大なそれを放ったのは、硬質の赤毛を好き勝手に跳ねさせた少年だった。

 “こいつに全てを背負わせて……、もしかすると、おれたちはとんでもない酷いことをしてるのかもしれない”

 まだ生まれてさえいない、「生物」ですらない自分に、記憶のなかの「彼」は痛いほどの想いを込めて言ったのだ。

 “ごめんな。いっしょに闘えなくて……、ごめんな”

 何やらむにゃむにゃ言いながら手足を縮めて眠る少年に、ロボは「彼」の姿を重ねる。

 風が強くなってきたようだ。木々が茂らせた葉をざわめかせ、消えかかっていた焚き火は空気を孕んで再び赤々と燃え上がる。しかしそこで燃え止しを使い果たしたのか、風が再び落ち着きを取り戻したとき、それはひと筋の煙を残して今度こそ消えた。辺りを完全な闇が覆う。

 月のない夜だ。人の目はもはや役目を為さないはずだ。だが、ロボは確かに自分に向けられている視線に気づいた。星空の微かな光を集めて、獣のそれのように闇のなかで光る双眸がその主だった。
 「……余計なことを考えているようだな」
 双眸の持ち主が、闇の先から面白くもなさそうに声をかけてきた。彼の声もまた、ロボの最も古い記憶を揺さぶってくる。

 “心を与える……だと?つまらん。それこそ要らぬ苦痛を強いるだけだ”

 絶望の世界に生きることを生まれる前に定められた自分の行く末を、最も危惧した者。突き放すかのような声音の裏に、ひとの目の届きづらい心の奥に、自分自身で持て余すかのように不器用な優しさを抱いていた「彼」が、かつて自分に贈った言葉。

 「今は休め。せめて、赦されるあいだくらいは安らうことだ」

 ロボの返事を待たずに再び眠りに落ちた彼を、そして先の二人の少年と少女、さらに金の髪を束ねた高貴な面差しの少女、豪気ながら彼女と共通するけはいを持つ佳人、異形の剣士……、決戦を前にわずかな休息を取る戦士たちを順繰りに見回して、ロボは胸中に呟いた。

 ああ、自分は今再び、共に戦う仲間を得た。

 もう一度見上げる空は、相変わらずの星の海。この輝く夜空がいつの日か止まぬ砂嵐に閉ざされるとは、知っていても到底信じられぬ。
 いや、もう二度と、「この星を死なすこと」は赦されない。「土を耕した者たち」と、「種を蒔いた者たち」のためにも。

 今度は、自分たちがこの星に「花を咲かせる」番だ。

 「彼ら」との思い出は、遥か未来に築かれたものだ。まだ生まれてさえいない者たちとの思い出を抱くのは、おかしなことかもしれない。だが、
 「見てくれてイマスヨネ?ドン……、レイ……、アルノ……、リュート……、ヴァン……、そして、ティア……。アナタたちの育てた種は、もうすぐ花開キマス!」


                                    了
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【64】時の花 No,3
 冥香  - 07/2/16(金) 19:32 -
  
 薄暗い通路を進みながら、プロメテスは連綿と語る。それは彼が「生まれる前から」探し続けてきた、死に瀕した星に蒔くための「種」にまつわる話だった。

 「マザーが……イエ、まだ情報センターと呼ばれる施設のホストコンピュータだった『彼女』が保有していた古い情報から、ワタシはある興味深い人物のデータを見ツケマシタ」

 L.アシュティア。AD1000ごろのガルディアという王国にいたとされる工学博士。彼女が長からざる生涯のあいだに遺した「時空と並行世界に関する研究」のファイルが、情報センターの膨大な電子資料のなかには眠っていた。

 「断片的で、しかも研究そのものが彼女の死によって中断されてしまったようで、実証されるには至っていないのですが、コレが打開策にはならないだろうかと、ワタシは考エテイマス」
 「具体的にはどうするんだ?」
 注意深く周囲を見回しながら、リュートはプロメテスに問うた。

 プロメテドーム。マザーとリンクするコンピュータの制御するドームだが、すでにRシリーズによるダミー回路への待避が完了しているため、ガードロボの攻撃を受けることはない。だが、この時代に生きる者の習性として、気を抜くことができないのである。時代がかった愛用のサーベルは、抜き放たれて利き手に納まっている。

 「時を、越えることはできないデショウカ?」
 ヒトのように表情を変えることのないロボットであるが、プロメテスの表情はこのとき昂揚する気持ちに輝いたようにも見える。
 「時を、越える?」
 「……どういうこと?」
 ヴァンとティアも、相次いで訪ねた。
 「ドリームプロジェクトからのメッセージにもある『ラヴォス』という怪物を、監視しているひとがいるノデス。実際にお会いしたことはないノデスガ、どうもこの世界の機械文明とは違った科学に精通した方らしく、あるいは……」
 「……やり直す、というのか?ラヴォスとやらが現れる前の時代から?」
 鉄兜のような頭部を、プロメテスは器用にうなずかせた。リュートが、金色の大きな目を瞬かせて嘆息した。
 「途方も無い話だな」
 言いながら、彼は仲間が一人歩みを止めたことに気づいて振り返った。

 「……?どうした、ティア」
 「うん。……うん!やろうよ、それ!」
 「え?」
 「歴史を、変えちゃおう!」
 「ほ…本気か?ティア」
 「本気だよ。生き物の世界を取り戻すためには、何でもするって決めたよね?だったら、やろうよ。ね?ヴァン!リュート!」
 頭の高さのずいぶん違う二人は斜めに視線を交し合ったが、やがてどちらからとなく苦笑した。
 「そうだね、他に目ぼしいネタがあるわけでもない」
 「ああ、何てこった。人間てヤツぁ追い詰められるととんでもないことを考えてくれる」

 弱肉強食の世界を、決して「強」ではない立場で生き抜いてきた者たちである。無鉄砲なばかりではないはずだ。彼らは、この突拍子もない作戦に確かに光明を見た。それは、本当に暗い闇のなかだからこそ判別できたような、小さな小さな光明だったのかもしれないが。

 「では、これを預けておきマショウ」
 プロメテスが、ティアに何やら小さなものを差し出した。
 「これは……、種?」
 「新型の情報媒体デス。このなかに、アシュティア博士の『時を越えるマシンに関する研究資料』のデータをダウンロードしておきマシタ」
 「えっと、じゃあ……」

 不意にドーム内に警報が鳴り響き、ティアの質問は遮られた。警報に続いてそこここの扉が開閉する音が重なり、ドーム内の静穏は一瞬にして破られた。
 『侵入者アリ!侵入者アリ!B-1.B-2ぶろっくノがーでぃあんハ、タダチニさーちと迎撃を開始セヨ!』
 「何だとっ!?マザーとのリンクは切ってあるんじゃなかったのかっ!?」
 リュートは反射的にプロメテスに疑惑の目を向けたが、当のプロメテスも狼狽している様子だ。
 「まさか!そんなハズは!?」
 困惑するプロメテスのサーチシステムが、このドームには異質な反応を捕らえた。彼が向いた方向に、ヴァンが素早く目を向ける。何度となくロボットたちと闘った経験のある彼女も見たことのないモデルの、小さな虫のようなロボットが単眼をちかちかと光らせていた。
 「新型の斥候ロボットか!」
 素早く照準を合わせ、ヴァンは装備していた愛用のオートライフルのトリガーを引いた。すばらしい精度でロボットの単眼を破壊する。だがすでに、自分たちを取り巻く状況はこれ以上無いほどに悪化してしまっている。

 「伏せて下サイ!」
 プロメテスが叫ぶ。だが間に合わない。
 「うわあっ!」
 「きゃあっ!」
 ガードロボが横様に放ったレーザービームが、四人の肌と装甲を灼いた。
 「ぐっ、くそうっ!」
 後ろの二人を庇う形で広範囲に負傷を追ってしまったリュートが、呻き声を上げる。
 「リュート!」
 「リュートサン!」
 駆け寄る仲間たちを振り解くように、リュートは立ち上がった。そして叫ぶ。
 「ティア!行け!」
 「……え?」
 「逃げろ!」
 「な…何言ってるの!?そんな、わたしだけ」
 「種を!」
 「あっ!」
 ティアだけでなく、ヴァンもプロメテスも、顔を上げる。周囲を警戒しながら、プロメテスも言う。
 「行って下サイ。ティアサン。南の大陸の、『死の山』の麓へ。そこにいる監視者に、その種を渡して下サイ。お願イシマス」
 言い終わると同時に、プロメテスは三人を抱えるようにして後方に押しやった。それとほぼ同時だった。
 「プロメテスッ!!」
 複数のレーザービームが、プロメテスの背に横殴りの驟雨となって命中した。ドーム内が一瞬、漂白されたかのような白い閃光に満たされる。
 「プロメテスーッ!」

 自らも重ねて傷を負いながら、二人の人間と一人の亜人は、血の通わぬ仲間の名を叫んだ。ティアの手のなかで小さな種が、こんなときだというのに奇妙に温かい感触を彼女に伝えていた。
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