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「カエルよ。
やはりお前は騎士団団長のアウロンよりも厄介だ。
わしの最後の障害となりうる。サイラスと同じところへ行くがよい」
その言葉にカエルはふっとした。
誰もそのことサイラスが死んだということは、誰も、いや、クロノたち以外知らないはずの事実である。
魔王とその配下ビネガーはその事実を隠していた。
この姿となり魔物にも聞いたが、そんな事実は出てこなかった。
“ニードル・グレート”
今までで一番巨大なドリルがカエルを襲う。
しかし、予備動作から予測していたカエルは防ぐ魔法を発動させた。
“ウォータガ”
巨大な水の塊がカエルの前に、ドリルの直線状に現われる。
それはドリルを包み、勢いを相殺させ、ドリルそのものを水圧で圧縮させた。
カエルはブレイブソードを強く握ぎり、攻勢に移ろうとする。
が
ガン
“ニードル”発射後、すぐに行動を移していたヤクラの猛スピードのタックルによって自身が瀕死状態に陥る。
魔法のコントロールによって少しの間ヤクラに気が行っていなかったので、予測できずまともに食らってしまった。
「さらばだカエル」
そういったヤクラの顔は見れなかった。
どうせ、憎々しくも笑っているのだろう。
ヤクラはニードル発射口の照準を合わせる。
ドォキョッン ドォキョォォン
銃弾がヤクラの甲殻に当たる。
ルッカが壁を背にし体勢を何とか固定して、銃弾を撃ったようだった。
“プロテクト”
自分への危機を感じ取り、すぐ防御の魔法を発動させた。
ダダン
ヤクラがその場で地響きを立てた。
なんとか体勢を保っていたルッカが崩れる。
ヤクラはなにやら紙のようなものを出現させた。
●リーフ
にぶく低い声が発せられると、早さの乗った葉っぱが十数枚程度か、ルッカに向かう。
”断”
虹の軌跡を描いた一線がその葉っぱをすべてたたき伏せる。
「ほう」
現われたのは赤い髪とにじに輝くカタナといわれる武器を手にした少年――クロノであった。
「クロノ」
「どうやら間に合った」
カタナ――にじを構えてヤクラと正面から対峙する。
そして
“サンダガ”
“サンダガ”
“サンダガ”
強力な雷撃の三連発。
一気にこの場の主導権を握るつもりだ。
ヤクラは煙を吹き、電撃の中生き残る。
「貴様……」
ヤクラが突撃の体制をとると
“サンダー”
“サンダー”
“サンダー”
雷撃によりその突撃体勢は崩される。
クロノはおそらく接近戦に持ち込む気はないのだろう。
ルッカの銃声が聞こえていた、しかしヤクラを見ると弾痕が甲殻のなかに見当たらないことから、通常攻撃は通じないと判断したのだろう。
(よく考えている)
「これなら……」
またクロノが魔法を使おうとするが、ヤクラのおこなったのは赤い砂を撒き散らしただけだった。
「クロノ、それは毒!!」
ルッカの声を聞きその場から下がるクロノ。
だが、赤い砂はヤクラの周りを漂っているだけであった。
ドウン ドウン ドウン ドウン
聞いたことのある音。
カエルは天井近くを見ると無数の針が回転しながら舞い、クロノだけでなくこの部屋にいる全員を巻き込むほど広範囲に広がっている。
「貴様らも道連れだ」
笑うヤクラの低くにぶい声が聞こえた。
道連れといってもヤクラの場合は頑丈な甲殻を持っている、助かるはずだ。
大ダメージを受け動けないカエルとルッカ、無防備なリーネ様、すでにこの場から逃げ出すことはできなかった。
『前の周』はこの反撃でみな倒れることはなかったが瀕死の、本当にギリギリの状態に陥ったことがある。
クロノは一瞬考えて、すぐに呪文を唱えた。
“サンダガ”
手より放たれたイカズチの光が天井近くで、まさに落ちてくる寸前の針を破壊しつくした。
「大丈夫」
ルッカ、カエルに声をかけるクロノ。
「来るのが遅いよ」
「13世並みに危なかった。
一体なんだったんだ」
カエルがヤクラの方を見るとすでにその姿は青色に固まっており、砂と化していた。
確かに、カエルの言うとおりあのヤクラは奇妙であった。他の手下のモンスターは、『前の周』と同じ強さであったのにも関わらず、もしヤクラも同じ強さならカエルとルッカ、二人を苦しめることもなく十分に倒せたはずだ。
何が変わったのか、何が変わっているのか。
『前の周』のあの時と同じ部分があるのに、何かが違う。
では何が違うのか。
「行くぞ、クロノ
城の中のマールの様子を確かめないとな」
にやりとするカエル。
「リーネさんがまだ生きているし
予定よりも早く目的を達成できたからまだ大丈夫なはずよ
代わりのマールが消えているってことはないと思う、って大丈夫」
深刻な顔つきにルッカが体調を心配したようだが、クロノは大丈夫だと返した。
考えが中断されてマールのことを思い出し早く行動しなければと気が急いでいた。
「マール? 城の中? 代わり?
一体わたしがいない間にガルディアはどうなってしまったの?」
カエル、ルッカともにどこまで話していいのか戸惑った。
「ということは、クロノさんとルッカさん、そしてわたしの子孫のマールは未来から来たって言うのね」
「信じられないでしょうけど」
「ええ、まだ少し
いえ、魔物からわたしを救っていただいたのですから
そこまでしていただいたのに
信じないというのはおかしな話、信じますよ」
にこりと笑ったリーネ様の表情からは少しの疑いも見られなかった。
「さあ、早く行きましょう
マールが待っているのでしょう?
わたしも遠い子供の姿を見てみたいわ」
四人が奥の部屋から出ようとすると奥の宝箱が開き
「おーい、わしを忘れないでくれ」
本物の大臣もここに捕まっていたことを思い出し、四人は大いに笑った。
そして、五人はすっかり魔物の姿、気配の消えた修道院を後にした。
だがクロノには言い知れぬ不安をその心に隠しつつ、マノリア修道院を見た。
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