|
監視者ドームの個室。
大きなディスプレイ、ソファーと机、そして青い物体ヌゥがいるだけの空間で
老人――ガッシュと若者二人――クロノとマールがソファーに座って話していた。
「時を越えて、か」
つぶれた声が部屋にひびく
「タイムトラベラー。
いや、タイムジャンパーとでも言うべきか。
ふむ、だが、わしの『時を翔ける翼』が役に立ったことは開発者として、十分な成果といえるか。
それで再びタイムゲートによって、お前さん達はラヴォスを倒したにもかかわらず、この未来のありようをみて、どうするべきか考えているということだな」
「ガッシュさん。
未来で生きているあなたならこの未来の原因は何か知っていませんか?」
「確かに、未来という時代を考えれば原因を探るのは一番だな。
この未来に落とされたわしもこの未来のありようをみれば、その原因がどこにあるのか、実際に調べたくなるものだ。
それにこのドームは、他のドームからデータを収集するために改造を施した。もちろん、このドームの人間に協力しながら。
はじめ、わしはラヴォスについて調べた。ここの落とされた原因がラヴォスにあったからな。そして私が調べた中では、おぬし達の言う『ラヴォスの日』以前に正確な時間は分からないが倒されていることが分かっている。
これは、おぬし達がラヴォスを倒すことが前提でこの時間平面があるのだろう。そして、AD1000年以降に何かが起こり、この星を滅ぼしたということ。では、なにが起きたのか。
このドームの中にもともと残っていたデータに面白いものが残っていた。どうもこのドームは、そもそもこの星に関係したエネルギー観測所を持っていたらしい」
ガッシュは手元から、手のひらに納まるほどの機械を取り出した。
そのような機械をクロノは見たことがあった。以前ルッカの発明で有線操作から無線操作を行うためにつくったリモートコントローラ、略してリモコンに似ていた。ただルッカが作ったものはもう少し大きく、また上手く操作できないということから完全自立自動型ロボをつくることにしていた。この未来の技術では、すでにリモコンの技術があるとは、少し知識があるだけに、クロノは驚いていた。
またここにルッカが居たらこういった技術にもっと驚いていただろう。ディスプレイから発せられる光から机の上の空間に立体的な映像を映し出す。
そこに映し出されたものはグラフであった。
ギザギザの折れ線グラフ。
ただクロノには、数字と線の羅列にしか見えず、なにを意味しているのかサッパリわからなかった。一方少し知識のあるマールは、横の数字がかろうじて年代を表していることぐらいしか分からなかった。
そこへガッシュが説明をしはじめた。
「このグラフから百年周期でエネルギーの異常な高さが見られる。
これが君たちのいう何かに関係しているのかもしれないな」
グラフには、AD1000年以降でいくつかのエネルギーの高さが見られる。
「これがエネルギーの異常ですか?」
マールがAD1000以降で一番最初の突出した場所をさす。
「いやこれはエネルギー革命だ。
他にもこういった産業上の革命というのが起きてな、分かりにくいから史実に基づいて少し分けてみるともう少し分かりやすい」
ガッシュはリモコンをさらに操作した。すると、立体的なグラフの線が黒から、赤と青に変わった。
さっきマールが示した点は、青で示されていた。
もう一つ、赤の線は、ほぼ百年周期で高い値を出していた。
「100年周期で何かが起きている?」
「その通り。
この記録を見るにはAD1010年近くからこの赤い線は始まり、十数年後に一度大きな値を示している。
これを始まりとして、AD1120〜1130年ごろ、AD1210〜1230年ごろ、AD1320〜1330年
ごろと少しずれているが、何かしらのエネルギーが発生している。
わしははじめ、これはラヴォスの影響ではないかと考えたのだが、どうもエネルギーの質が違うようなのだ。
ただし、このエネルギーの影響は多くのものに影響を与えていることはたしかのだ」
「それはどこまで分かっているの?」
「この影響は負の遺産と、わしは考えている。
ラヴォスでないにしろ、これほどまで長い時間この星に影響を与えているのだ。
そして今から200年ほど前、AD2100年の中頃にそれは起きた。
現在この大陸群を支配している存在、マザーブレインの暴走が明るみに出たときだ。
これにより、この時代の人類は知らないうちに機械に支配されていくようになっていった。
このAD2100年、人類はマザーブレインのヴァージョンアップ作業をしていたのだ。
今思えばマザーブレインはこの時をまっていたのかも知れんな。
そして、人に危害を加えるようになったロボット、機械知性体と人類との抗争いや戦争が始まった」
「その戦いは? まさか二百年も戦争が続いているわけではないだろう?」
「そう、この時の戦争は、お互いに消費し続け戦争は自然消滅した。
このときはまだ人類もロボットと十分な戦いをするだけの力を持っていたのだが、戦争が消滅し、人類は破壊された町で生きていくことになり、自然と文化レベルが下がっていった。
一方のロボット側は、戦争中につくった環境を操作し、人類を滅亡させるようなシステムがやがて自らにも影響を与えるようになり、主要なアンドロイドたちが動かなくなっていくなど、ロボットも文化レベルを下げることになってしまったんだな」
「では、なんでいまロボットが襲ってくるんですか?」
そしてガッシュは立ち上がり、部屋を一周した。
その様子をクロノとマールは不思議そうにみていた。
再びソファーに戻り座る。
「これでよし」
「なんなんですか?」
「いや、知っていると思うがここには監視カメラが設置されている。
これ以上の話はここの人間には聞かせられないのでな……」
「?」
「自分達にも制限が課されるようになったロボット、マザーブレインはロボットの生産を止め、必要以上の消費を抑えた。
しかし人類は戦争が終わると、人口が増加の一歩を辿っていった。
そこでマザーブレインは人間の人口を管理するために、人間を刈り取りはじめた」
「…………」
「そんな…」
二人の顔が変わる。
「マザーブレインにとっては星を守るためなのだろうな。
しかもマザーブレインの意図は人類には知らされていない。
人類は知らないので対抗しようとするが、マザーブレインからすればそれは自分の計画に邪魔になる存在、故に叩かれる。
それが何年も、何十年も続いている。
やがて人は生きる気力をなくし、今の時代のようになっているのだ」
「なんでガッシュさんはそれを教えてあげないんですか?」
「わしはこの時代の人間ではない。手助けはするがこういった本質には自分達で近づいていかなければならない。
それに本来ならもう十分に星の環境は元に戻っているはずだった。しかし再びAD2234年にエネルギーの嵐、しかも今まで出最大級のものが起き、この大陸の環境が悪化していったのだ。
ロボットは予想だにせず、十分な防衛策を持たずに、更なる暴走を、人類はすでに機械文明とは離れたものではあったが、ヒトの無気力を増大させていくものであった。
現状の環境は多くがこの最後のエネルギーの嵐が原因だ」
少し静かになったあとマールが立ち上がった。
「よし! これが今度の冒険の目標だね」
「?」
「だから、このエネルギーの嵐の原因を探ることが今度の目標。
このエネルギーの嵐の原因を探らなきゃ、このままこの星は悪くなっていくばかり、私達でそれを止めないと、きっとそれがあの少年の望んでいたことなんだよ」
クロノは少し考え口に出した。
「……そうだな、よしやろう」
クロノも立ち上がり、同意する。
「このエネルギー嵐の原因か、これは困難をきわめるぞ」
「覚悟の上です」
「そう、わたし達は一回世界を救っているんだから、今度も救ってみせるよ」
ガッシュは、クロノ、そしてマールをみた。
「たしかに覚悟はあるな。
まあ、時代を飛べるのなら可能かもしれないな。
再びここに来るときには『時を翔ける翼』を完成させておこう」
クロノたちは監視者ドームを去りしばらく経った後。
「これでよかったのか? 少年よ」
ガッシュの前には、子供、ただしこの未来の大陸では見たことのない服装を着た少年がいた。
「聞いている分には冷や冷やしたけどね」
「ふぁふぁふぁ」
「ふう、分かってやっているのならなお悪いよ」
「ここのレジスタンスも安定してきて、やっと自分の研究にはいれるからのう」
「古代の賢人ガッシュ、あなたの専門は……」
「わしは別に歴史を変えたいわけじゃない。
ただわしの研究と世界の関わりをもつのか知りたいだけなんだよ」
「ルッカ女史の研究は?」
「彼女はわしと少し考えが違っていた。
彼女の研究も完成されたものに近い、なんといっても最初のエネルギー革命を起こした火付け役でもあったからな。
ただし、わしの考える研究とは違った。
わしの元の時代、BC1万年以上前の頃、それからいままで、わし以上の研究の成果が見えないのだ」
「ふん、私以上の天才は居ないと?」
「それは違う。
参賢者の中で自分が天才と思っている人物は誰も居ない。
そうでなければ、自国の崩壊、女王とその系譜を救えたのだから」
|
|
|