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時は少しさかのぼりA.D.600。
ヤクラ戦後、一人中世に残ったカエルはデナドロ山に登っていた。
グランドリオンを復活させるためにその刀身を求めていたために登っていたのだ。
カエルは思いのほか順調に登っていた。魔物が多いデナドロ山でも威圧でなかなか出てこず、ほとんど襲ってこなかった。
「これは思ったより早く着きそうだな」
一人つぶやき、カエルは思い出していた。
かつてサイラスと共にこの山を登り、グランとリオンの試練をサイラスが受けたことを。
青色の鋼のよろいを取り付け、その間から見られる鍛えられた筋肉。その重たい筋肉を感じさせない速さでグランに近づき、剣で叩きつけた。
すでに目を回し倒れたリオン、そしてグラン。そう時間が経たないうちにグランドリオンを守る精霊が倒された。
「さすがだなサイラス」
緑色の髪が特徴的な青年――グレンは、グランドリオンの精霊を倒した男――サイラスに激励を飛ばした。
「ああ、ひとまずはな」
まだサイラスの表情は厳しい。
グレンもその様子に気になり、ふとさっき倒れていた精霊が浮かび上がるのを見た。
「本当にすごいな。僕たちを本気にさせたのは久しぶりだよ」
「なっ!」
驚きに声を上げるグレン。
「まだまだグランドリオンの試練は終わっていないようだな」
サイラスは再び剣を構えた。
「君の名前は?」
精霊の一人、リオンが声をかけてきた。
「サイラスだ」
「サイラスか、サイラス」
「ならサイラス。今度は僕たちも本気で行くからね」
「分かった」
「あはは、こんなにもあっさり負けたのは本当に久しぶりだからな」
「今回はどうなんだろうね、兄ちゃん」
精霊はそれぞれの距離をとった。
「勇気のグランに――」
「――知恵のリオン!」
「「コンフュージョン」」
二人の姿が重なり、光を放つ。
その光量のため、目を閉じる。
再び目を開けるとそこに現われたのは黄緑色の巨人。
巨大な筋肉の団子といった形の体形に、力を象徴するような角をもつ巨人であった。
思い起こしているうちのカエルは山頂にたどり着いていた。
後は下っていき、風の洞窟へ行けばグランドリオンの元へたどり着けるはずだ。
そして山頂にはいつもどおりマモが一人座っていた。
「よう」
カエルは何気なく声をかけていた。
マモは振り返りもせず一言。
「山はいいよね」
「ああ、確かに山はいいな」
「いいんだよねこれが」
「あんたはずっとここにいるのか?」
なんとなくカエルは聞いてみた。
「そんなことないモ。
マモは自由に旅をして、自由に山に登っていいるモ。
マモ一族はそうやって生きてきたモ」
「同族には会うのか」
「年に一回会えばいいほうダモ」
「寂しくはないのか?」
「そんなことはないモ、昔はそうでもなかったけど、マモたちもう何百年も一人で旅をして、一人で一生を過ごしてきたモ。
それはマモ一族でなくても、ほとんどの魔物はそうだモ。
一緒に生きているのは、生きている場所が一緒だからだモ。
いわゆる共生という奴だモ。
だからマモのような旅の魔物はいつも一人が当たり前だモ。
お前、おかしな事いうモ。
そんなこと聞くなんてまるで人間みたいな事いうモ」
「人間みたいか・・・あはは」
「人間みたなにおいだけどちょっと違う。亜人どもとも微妙に臭いが違う。
魔力を見ても魔物に近い奴なのに」
マモは崖から起き上がり、カエルをじっと見た。
「それともお山の大将みたいに、魔物と魔族に人間の格好をさせている奴なのかモ」
「お山の大将?」
「この辺でお山の大将って言ったら奴しかいないモ。
ヤクラの奴だモ。
マモ一族には及ばないけど、少しの知恵と力があるからこの辺で威張り散らしていた馬鹿な奴も。
あまつさえ人間に退治されるなんて大バカだモ。
お前も誰かにつくときは、マモのような立派な奴につくモ。
あんな馬鹿につくとろくな事がないモ」
(ふ〜〜ん、人間から見れば魔物も魔族もあまり変わらないように見えても、人間と同じ長い時間を過ごしてきたのだ。
社会の形成がなされてもおかしくないか)
少し魔物と魔族に興味が湧いたカエルはマモに次の質問をぶつけた。
「魔物と魔族は何が違うんだ?」
「・・・お前そんなことも知らないのか?
全く最近の新種や若い魔物は一体何を学んでいるモ。
あとで長寿会にしっかり言っておく必要があるモ」
「長寿会?」
「今のお前には関係ない話モ。
そんなことより、マモが少し教授してやるからそこに座るモ」
言われてカエルはその場に腰を下ろす。
山頂近くといってもこのあたりは余り人も獣も通らないため、草のじゅうたんとなってカエルを包む。
「まずはお前が魔物だって言うことはわかっているモ?」
「あ、ああ」
生返事をしたカエルを睨みつけるマモ。
「分からないって言う顔をしているモ」
「・・・・・・」
「まあいいも。
これから説明するから、しかと聞くが言いモ。
返事は!」
「はい」
しぶしぶと声を上げるカエル。
「まず魔物だモ。
魔物はすっとすっと昔から住んでいる種族のことだモ。
人間や龍人よりももっともっと昔から、この星の自然のちから中で進化してきたものモ」
「龍人」
聞きなれない言葉に思わずつぶやく。
「お前そんなことも知らないのか。
龍人はここからもっともっと東、極東と呼ばれるところに住んでいる種族だモ。
人間より少し前に出てきたヤツらが長い年月の中、自らは進化したとか言って龍人とか言っている世間知らずな奴モ。
あいつらは、先祖が人間に助けられたからといって、大地のおきてに従い人間の住む世界には干渉しないと決めた奴だモ」
(なるほど、確かに前のときはマールが僅かな恐竜人を助けたのだったな。それが恐竜人の進化を呼び、龍人となったわけか)
「あんな偏屈な奴らはどうでもいいも、今は魔物の話だモ・
魔物の中には、知能が高いマモのような種族もいれば知能が低い種族もいるモ。
一般にこの人のはびこっている世界では、知能の低く人間を襲うものが魔物と呼ばれているモ」
「なるほど、でもそれはオレが魔物だっていう話にはならないぞ」
「そうだけど、これから話す、魔族の話がここに通じてくるわけなんだモ。
魔族って言うのは、いわば人間の亜種だモ」
「!!」
「ふん、驚いているのかモ?」
「確かに共通点があるけど……」
カエルの頭の中にはその事実はすんなり入っていかなかった。
「人間っていうのは、自然に感化されやすくひ弱な生き物だモ。
天から魔法が降ってきたときに、その力に耐えられなかった人間が魔物化した人間が今では魔族と呼ばれているモ」
「人が魔物化……」
「姿や形が人に近いものが魔族といわれているけど、実際は違うモ。
魔族は人間の機能の一部が以上発達したものモ。
多くは魔法の力を得たりしている奴がいるけど、肉体的、体術などが強くなったものがいるモ。それが今の魔族の種族に関係しているモ」
「天から魔法が降ってきたというが……」
「マモたちはそれを魔素と読んでいるモ」
(魔素……、ラヴォスのことだな)
「遥か遥か昔、天より降った隕石が魔法の力を落とし、それを浴びた人間が魔族へ。
魔物はさらに強力な生物へ、恐竜人は龍人へと進化していったものモ」
「他にも亜人というものがいるけど、あれはエレメントの影響で人間が魔族化したものモ。
実際の人間とあんまり変わらないけど、少数だから稀にマモたちの世界に来ることがあるモ。
まあ、亜人は世界に広まっていないからそんなに見ることは余りないモ」
(亜人か、確かにゼナンではあまり見ないな)
「勉強になったか?」
「ああ、色々と、ありがとう」
(ふむ、つまり自然に発生してきたものが人間、恐竜人、魔物。
ラヴォスが降ってきたことにより、人間が魔族に、恐竜人が龍人になった。
そして、エレメントによって、人間が亜人になった……のか?
? エレメントとは?)
「そうか、それは良かったモ。これをもっていくといいモ」
マモはスコップをカエルに渡した。
「それはマモ一族の交友の証として渡すものモ。
ありがたく受け取っておくモ」
そのスコップはマモの手に合わせた小さいものであった。
「それを見せれば世界中のマモ一族がお前達に手を貸してくれるモ。
それに地面を掘ることが出来る優れものだモ」
「? なぜ、このスコップを」
「マモはずっと一人で旅をしてきたモ。
その中でなかなか他の魔物と話す機会が少ないモ。
こんなに長くマモの話を交流場(コミュニティ)の場以外で聞いてくれたのは久しぶりだモ。
ありがたく受けとるモ」
「有難く受け取っておくモ」
「堅苦しい奴モ。
もっと気軽に生きて行くも」
「出来れば、そうなりたいものだが」
「本当に人間みたいな奴も、でもお前見たいな奴が人間だったら、この大陸はどんなに住みやすいことになるモ」
「はは」
軽い笑い。
この姿だからこそ、グランドリオンだけでなく手に入れられるものがあるか……。
「じゃあな」
カエルは腰を上げ、立ち上がる。
「また来るモ」
そしてしばしの休息は終わった。
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