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【34】序章 REDCOW 06/8/14(月) 21:56

【35】目覚め REDCOW 06/8/14(月) 22:57
【36】アスファーン REDCOW 06/8/15(火) 0:09
【37】書庫 REDCOW 06/8/15(火) 3:24
【39】兄弟 REDCOW 06/8/15(火) 22:42
【42】奇跡 REDCOW 06/8/16(水) 23:19
【43】真っ黒と真っ白 REDCOW 06/8/17(木) 12:46
【44】光 REDCOW 06/8/18(金) 15:48
【49】お姉様 REDCOW 06/8/19(土) 11:41
【51】古文書 REDCOW 06/8/20(日) 21:24
【52】通力 REDCOW 06/8/21(月) 12:02
【53】運命の赤い麻紐 REDCOW 06/8/23(水) 20:50
【54】ジャストミート REDCOW 06/9/2(土) 5:13
【56】500 REDCOW 06/10/20(金) 2:01

【35】目覚め
 REDCOW  - 06/8/14(月) 22:57 -
  
 う〜ん、寒い。
 寒過ぎる。布団…布団………あれ?
 
「…え。」
 
 僕は目が覚めた。そして、目を疑った。
 慌てて目を擦って辺りを見回す。でも、見間違いではなかった。
 そう、僕は知らない所にいた。
 
 一面に茂る草原。
 青い空と白い雲。
 建物なんて無く、見えるのは自然の山や緑だけ。

 僕は立ち上がった。
 服は昨日着ていた服のままだった。
 あの時、僕は着替えることなく眠ってしまったっけ。

 でも、なんだこれ。何がどうなってるんだ?
 …そうだ、これは夢か!
 
「痛っ…いてぇ、スゲーリアルな夢。」
 
 頬をつねってみたが、そこにはとてもリアルな痛みがあった。
 おい、マジ。これ、本で見たことあるよ。
 テレビでも聴いたことあるけど、いわゆる夢の中で夢と自覚しながら好き放題やれるっていう、あの明晰夢ってやつ???………なら、思った通りになるんだよな!?よーし、
 
「出でよ!シェンロン!」
 
 僕の思いとは裏腹に、世界は虚しく僕の声を響き渡らせた。
 
「あは、あははははは…………、言葉が不味いのかな。ここはやっぱナ○ック語じゃなきゃ、いや、その前にドラ○ンボールないし、つかドラ○ンボールじゃないし。いやいや待てよ、このネタがダメなのか。」
 
 僕が独り言をいっていると、突然後方から声がした。
 
「おい、お前!そこで何をしている。」
 
 僕は思わず振り向いた。
 その声の主は、中世ヨーロッパの騎士って感じだろうか。歳は…僕より年上だと思うけど若い。つか、長身で金髪碧眼のハリウッド俳優っぽい美青年って奴?…すげーって思うけど、なんか癪に障る感じ?あと、とんでもないコスプレだけど、似合っているのが少しウケる。
 
「あ、あの、あなたは?」
「俺の質問に答えるのが先だ。」
 
 その男の声はとても威厳があって、なんか従わなくてはならないオーラがあった。
 
「え、あ、僕は眠っていたらここにいて、あの、何処にいるのか…さっぱり。」
「なんだ、記憶喪失か。その服装、見たことないな。流れ者か。」
「いや、記憶喪失ではなくて、あの、見たことない場所で、ほんとここ日本ですか?」
「二ホン?なんだそれは。ここはアスファーン王国だ。第一そんなふざけたほど短い名の国は聴いたことが無い。やっぱり流れ者で記憶喪失な様だな。」
 
 ふざけたほどってのはあんたのそのコスプレだろ!それに、そんな王国の方があるわけないじゃん!ここはどう見たって地球だろ!コスプレは世界に広がるってニュース見たけど、冗談キツイよ。
 僕は内心そんなことを思いつつ、そこは言葉に出さずに男の詳細を探ることにした。
 だって、もし本当なら…、僕は…、
 
「あ、あの、それであなたは?」
「俺か、流れ者なら仕方ない。俺はカーライル・シュテファン・バルムドゥール。アスファーンの第三王太子だ。」
「かーらいる・しゅとはん…ば、ばるむんく???」
「シュテファン・バルムドゥールだ!!」
「あ、はい、すみません。バルムドゥールさん。」
 
 突然教えられた名前が西洋貴族のような長たらしい名前。わかるわけないじゃん。あんなの一発で。僕は世界史でこのヨーロッパ貴族の名前を覚えるのが一番苦手だった。だって、カルヴァンだのカルビンだのって古典の活用形みたいに呼び方変わるしさ。
 だけど、カーライルは僕が記憶喪失の流れ者と納得すると、何故か突然優しい口調になった。
 彼は彼なりに心配してくれているらしい。
 
「お前の名は?覚えているか?」
「あ、僕の名前は車時雨。」
「クルマ・シグレ?聴いたことの無い響きだ。…ふむ。ならば、お前の名は、クルマと呼べばいいんだな?」
「え!?あ、違います、逆逆!あー、すみません、こっち風に言うならシグレ・クルマですね。シグレって呼んでください。」
「なんだ、違うのか。分かったシグレ。俺はカイルと呼ばれている。しかし、そうか。記憶喪失とは不憫よの。よし、俺の家に来い。記憶を取り戻す間、わが家に住むが良い。きっと父上も快く迎えてくれるだろう。」
 
 おいおい、どうしてそうなるんだよ。
 なんでそんな勝手に「俺の決定は絶対だ!」オーラ出しながら言うんだよ。
 僕は慌ててその申し出を断ろうとした。
 
「え、あの、僕は別に、そんな気は、」
「なに、気にすることは無い。部屋は空いている。その代わり、一つ条件がある。」
「え、あの、条件って、その、まだ答え決めてないのに…」
「条件は…俺と友達になる。それだけだ。」
「…あ、はい!僕で良ければ!!!…って、え?何で勝手にそうなっちゃうわけ!?」
「さぁ、帰るぜ!シグレ。」
 
 僕は彼に言われるがまま、ただなんとなく付いていってしまった。
 いや、内心それを望んでいなかったわけじゃない。
 今起きていること、そしてそこに現れた想像もつかない世界の住人。
 
 僕は何が何だかわからないけど、今はとりあえず彼に従っておくことにした。
 …別に悪そうな人にも見えないし。
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【36】アスファーン
 REDCOW  - 06/8/15(火) 0:09 -
  
 カイルは近くの街道に馬を待たせていた。
 僕は彼の後を仕方なく付いてゆくことにしたけど…
 
「さぁ、乗れ」
「え?」
「なんだ、馬にも乗ったことがないのか。よし、まず乗せてやる。」
 
 彼はそう言うと僕を先に馬に跨がせた。丁寧にまず左足から鐙(あぶみ)に足を掛けて、勢いをつけて弾むように鞍の上に跨がるように教えてくれた。彼は初めてにしては上手いと褒めてくれた。…ちょっと自慢できる?
 その後はカイルも後ろにまたがり、僕の後ろから手綱を引くと、馬をゆっくり歩かせ始めた。
 馬の上から見る景色は面白い。
 僕の背の高さより高いってのもあるけど、長い首がフラフラと揺れ動いて、まるで喜多方ラーメン屋とかに置いてある福島の民芸品の赤べこの首が動いている様な感じ。そう思うと、あぁ、昔の人って凄いんだなぁとか今更意味不明な感心をしてみたり。
 
 何より気持ちいい。
 心地よい爽やかな涼風が吹きつけ髪をなでる。
 
「しっかり掴まってろよ!」
「え”!?」
 
 カイルは唐突にそう言うと、手綱をしっかりもって足で馬の腹を叩いた。
 
「うあ、おぉぉおぉぉおぉおおおおおおお!?!な、な、は速いってぇ!!!」
「はっはっはっはっはっは!」
 
 僕が動揺しているのを楽しむかのように、奴は笑いながら街道を道なりに走らせていった。
 
 
-----------------
 

「うぅ、マジかよぉ。」
「おい、見えてきたぞ。」
「え、あ!街だ…っつか、街!?!」
「あれが、アスファーンだ。」
「…アスファーン。」
 
 前方に見えてきた街は四方を城壁で囲んだ城塞で、周囲は緑豊かな山で囲まれていた。
 城は奥に有り、その下が城下町って感じだろうか?…でっかい門があって、その前には堀まである典型的なお城って奴?
 
「あ、あの、カイル、ここが君の家?」
「はっはっは、あの奥に見えるだろう?あの城が俺の住む城だ。アスファーンは緑豊かな国だ。こんなに豊かな国は他に無いぞ。きっとお前も気に入る。」
 
 彼はそう言うと微笑みを浮かべて馬の足を再び速めた。でも、どうやら彼には気付かれているらしい。僕のお尻がちょっちやばい状況なのを察してくれたのは…よしとしよう。
 
 近づいてみるとめちゃくちゃデカイ街だった。
 門は平時は開かれている様で、行商人とかが自由に行き来できるっぽい。一応検問はあるみたいだけど、カイルは王子様だからか顏パスOKだった。
 街の中に入ると沢山の商店が並び、多くの家がひしめいていた。そして、何かを焼く匂いや油臭い匂いとか色々な生活臭って言うんだろうか?…独特の匂いを感じて日本とは違うんだと改めて思った。
 特に…ここは産業革命前って感じだろうか。電線も無ければ自動車も無い。交通手段は馬や馬車や荷車。人々は歩き、自転車さえも無い始末。どうやら本当に中世って感じ。
 でも、カイルが言う通り、街は豊かそうで人々の活気で溢れていた。確かに悪い感じはしない。でも、そんなことを考えているうちにどんどん街も通り過ぎ、城の門前に着いた。
 
「カーライルだ!開門!」
 
 彼がそう言うと、ごとごとと門が開かれた。
 彼は完全に開かれたのを確認すると、馬をゆっくり進めて門をくぐった。そして、潜り終えると手綱を引いて馬を止めた。
 
「降りるぞ。」
「あ、はい。」
 
 そう言うと颯爽と格好良く彼は馬の背から下り立った。
 僕はおっかなびっくりそぉっと静かに降りるので精一杯なのに。
 そこに兵士らしき人が近寄ってきてカイルに尋ねた。
 
「殿下、こちらの方は?」
「俺の友人だ。」
「おぉ、ご友人の方ですか。」
「あぁ。馬を頼む。」
「は!」
 
 兵士はカイルの命令に敬礼して従うと、すぐに馬を引いて厩舎の方へ連れていった。
 カイルが僕の方を振り向く。
 
「…ふむ、付いてこい。」
「あ、はい。」
 
 僕は彼の後を付いて歩いた。
 さすがに長身なだけに歩幅が長い。あっという間にさっさと歩いていってしまうので、半ば小走りに僕は彼を見失わないようにぴったりと張り付くというと変だけど、置いて行かれないよう歩いた。
 城内へは裏口から入った。裏口は城の側面の台所にあり、たぶん食材とかを倉庫から取寄せたりするために使っていると思われた。
 中ではフランスのシェフみたいなコック帽をかぶったおっさんと、それに従う若い衆って感じの人達がいて、カイルが入っても気にせずに気楽に挨拶をかけて仕事に専念している感じだった。まぁ、この城の働く人全ての胃袋を考えると…確かに構ってられないよな。
 
 カイルが歩くとどんな人も道を開ける。
 さっすが王子様。やっぱ「俺が決めるオーラ」は伊達じゃない。
 でも、その後に僕に対する不可解そうな視線がちょっと痛いかも。…まぁ、仕方ないけどさ。
 
 カイルは何処にも立ち寄ることなく一つの部屋の前で止まった。そこには爺やっぽい人が前に立っていて「お待ちください」と威厳たっぷりに言っていたんだけど、そんなことお構いなしに彼は扉を開いた。
 その扉の向うには大きな広間が広がり、その奥にRPGとかでもお馴染の玉座に座る人の姿があった。そう、ここは王の謁見の間。ただ、何やら準備中だったらしく化粧直し中の様だった。
 それでもお構いなくという風に、カイルはつかつかと僕をつれて彼の父の前に立った。
 
「おい、カイル!入る時は事前に爺を通せと言っておろうに。人がこんな無様な格好の時に。」
「父上、お話があります。」
「なんだ?」
「この少年を住まわせたいのです。」
「住まわせたい少年?」

 国王は僕の方を見ると、とても驚いたような顔をした。
 
「黒い瞳…伝説に聴く導く者の目。君は何者だい?」
「え、僕はシグレ・クルマ。日本という国から来た高校1年生のごく普通の少年というか…」
「二ホン?コウコウイチネンセイ?…わからぬ。だが、その漆黒の瞳はとても高名なる賢者の証。おぉ、我が国を神はお導きくださるというのか。」
「父上?」
「伝説に伝え聞く漆黒の賢者の話は知っておろう?」
「はい。書物によれば、漆黒の瞳持つ者、邪悪なるものを沈め、世に光溢れる道を示さん。漆黒の瞳持つ者、英知を運び、風を踊らせ、天高く舞い上がり、世を幸福に導く。」
 
 二人の話はさっぱり理解不能だったが、彼らにとって僕は特別な何からしい。
 僕の目を見てからの国王の反応はとても丁寧で、なんか僕が王様にでもなったような程の丁重な扱いになった。
 
「では、シグレ殿。我が城を我が家と思いごゆるりとお寛ぎください。このアスファーン王、ガメイレフ・ストラ・アスファーンがあなたの身の安全と衣食住を保障致します。」
「あ、は、はい。宜しくお願いします。」
 
 何だかよく分からないけど、僕は唐突に賢者になってしまった。
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【37】書庫
 REDCOW  - 06/8/15(火) 3:24 -
  
 僕は賢者になった。
 …いや、マジ唐突に。
 
 RPGとかでよくある回復も攻撃も抜群のアレ?いや、その前に魔法使えるのかな。
 カイルのお父上である国王様のお許しも有り、僕はとりあえず帰る方法が見つかるまではこの城で暮らせることが確定した。ここは素直に彼に感謝した方が良いんだろう。
 
「有り難う。カイル。」
「なんだ?唐突に。」
「いや、色々と助けてもらったし。」
 
 彼は僕の感謝の言葉に、先程と同様に笑顔で答えてくれた。
 
「ハハハ、そうか。困った時はお互い様だろ。それよりシグレ、お前賢者だったのか。」
「いや、僕にはさっぱり。この目は生まれつきだけど、別に賢いわけじゃないけど…」
「だよなぁ。どう見ても賢そうって顏じゃないもんな。」
「ぇえ!?普通そこ嘘でも良いから頭良さげとかいわない!?」
「へ、間抜けヅラを間抜けと言わん奴はいないな。」
「ブー!ブー!」
 
 僕の抗議のブーイングをよそに、彼は黙々と歩き続けた。
 僕らが向かっているのは書庫。何故書庫に向かっているかというと、単純に僕が見たかったから。
 まだ帰り方が分からないことは勿論、この世界のこともよくわからない。RPGの基本は情報収集っていうでしょ?で、情報の集まる場所は大抵図書館って決まってるじゃん。だから僕は王様とカイルに書庫への入室許可を貰ったんだ。
 王様は僕を賢者と思い込んでいるから、さっそく賢者らしい要求にすぐにOKを出してくれた。で、今カイルの案内で書庫に向かっている。
 
 しかし、この城は広い。今は一階の通路を歩いているんだけど、通路からは中庭にも出ることが出来て、中には沢山の木々と花が綺麗に手入れをされて植えられていた。
 全体をみれば西洋のお城の庭って感じがあるけど、庭の雰囲気だけを見る限りは日本庭園にも通じるものを感じる。そういえば今頃気付いたんだけど、カイルの腰に下げている剣もソードというよりは刀に思える。
 ここはよくよく観察していると、どうやら西洋と東洋の文化が折衷された様な場所に思えた。
 
 書庫は地下にある。
 地下というとこんな古い城だと湿気が凄そうな感じがするけど、ここの空調技術は進んでいるのか湿気を感じることは無かった。それより外の空気より少しひんやりとした風が吹きと通る静寂の空間という感じだ。
 
「ここが書庫だ。」
 
 扉を開いた向こうには意外なほど明るい空間があった。
 地下といってもここは山の上の城。構造的に地下となっているだけで、天井付近に窓があり、そこから斜めにまるで後光が射す様に床に光を落とし、その光は良く磨かれた大理石の反射と天井に張り詰められた鏡によって室内全体に光を行き渡らせていた。
 
「凄い。」
「おいおい、書庫に感激してどうする。本を見ろよ。」
「あ、うん。」
「読みたい本があったら持ってこい。あとは部屋で見れば良いからな。」
「うん。分かった。」
「じゃ、俺はそこで寝てるから、決まったら起こせよ。」
 
 そう言うとカイルは近くの長イスにどんと腰を据えたかと思うと、横になって足を伸ばして寝てしまった。しかも、ドラ○もんののび○もビックリな程の瞬間的な寝入り具合。有り得ねぇ。
 
 僕はとりあえず書庫を巡ることにした。
 不思議なことに、ここの書庫の言葉は何故か分かった。色々な本があるけど、手にとってみるとこの国の記録であったり、作家の詩集であったり様々なものがあった。でも、それらはそんなに面白そうなことは書いてないし、特に別段変わったことがかいてあるわけではなかった。
 よくよく棚を見ていると、一応コーナー分けされているらしい。
 僕が今見ている所は天候の記述で、歴史は向こう隣にあった。
 
 試しにアスファーン史の本を僕は開いてみた。
 
「漆黒の瞳持つ賢者様は言葉を託された。
 いずれ来る我を継ぎし者、世界を導く光となりて道を示さん。
 漆黒の瞳持つ者、邪悪なるものを沈め、世に光溢れる道を示さん。漆黒の瞳持つ者、英知を運び、風を踊らせ、天高く舞い上がり、世を幸福に導く。やがて世界は大いなる災厄から救われ、共に歩み始める。」
 
 先程のカイルの言葉の本文だろう。なんか本当にRPGチックな文だ。でも、これがここの歴史書の1ページ目に出ているってことは、相当重要なことなんだろう。僕は次のページを開いた。
 
「12神の怒り。
 古の12の神は遥か4万の日月の先に世界の時を止めた。世界は時の止まりと共に崩壊し、我ら人間の傲慢を厳しく罰した。
 時流れ人の世が再び時を刻み始めた頃、眠りを迎えていた神は再び目覚める。だが、人の子は黒き瞳の賢人を生む。漆黒の瞳の賢者は、世界を再び破壊せんとする神を罰し、固くその力を封印する。
 かくして世界は再び安定を迎え、平穏なる世界を築き始める。
 
 創世記」
 
 創世記…?
 この世界は賢者によって作られた世界…?
 
 それよりもっと気になることは、この本の破壊された世界として出ている絵の地図だった。
 僕は息を飲んだ。そこに描かれた図柄は、間違いなく僕の住んでいた世界の地図だった。
 
 どういうことだ?
 この世界は僕の世界の未来?
 
 いや、その前に12神ってなんなんだ???
 そいつが世界を破壊して、でも、賢者はそいつを封印して………あぁ、わかんないよ。
 
 僕はよく分からない不安を感じつつ、幾つかの本を取ってカイルを起こしに向かった。
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【39】兄弟
 REDCOW  - 06/8/15(火) 22:42 -
  
「まぁ!あなたが噂の猊下!きゃー!どうしましょ、あたしの好み〜♪」
 
 僕がカイルのもとに戻ると、そこにはとっても綺麗な女の人がいた。でも、声がどう考えても…男。スタイルも服装もルックスも完璧なのに、あれは絶対男!!
 その女もどき男は僕に駆け寄って力任せに抱きついてきた。
 
「ちょ、ちょっと離してください!僕はそんな趣味ありません!!!」
「まぁ〜、照れちゃって、素直にあたしの美貌に一目惚れって仰いなさい!」
「うわ〜〜!ちょ、ちょっと、顏近づけない!ぎゃー、か、カイル!助けてくれー!!!」
 
 その時僕の体はふわりと浮いた。
 いや、ひょいと持ち上げられたというのが正しい。
 僕の体は誰かの手によって軽々と持ち上げられたかと思うと、すぐ近くにそっと降ろされた。
 
「ダーグ!おまえはもっと静かに出来ないのか。」
 
 僕を軽々と持ち上げた人は、長身のメガネをかけたとってもインテリー!な感じの、いわゆる流行のメガネ君なにーちゃんって感じだった。髪は9:1分けで短く揃えられているサラサラとした濃紺で、見たことの無い毛色なのに違和感が無く自然だった。それより、彼の瞳の色もまた綺麗な青で、神秘的な輝きをたたえていた。
 
「いやん、クウォルツお兄様。あたしが可愛いものに目が無いのは知ってるでしょん♪」
「猊下に向かって何を言っている。」
 
 呆れたふうにクウォルツと呼ばれたメガネにーちゃんは言うと、僕の方を振り向いた。
 
「申し訳ありません。我が弟達の無礼をお許しください。特にそこで寝ているカイル!!!」
 
 クウォルツの声は、一発で長イスでグースカ眠っているカイルを起こした。
 
「あ、兄上!?俺眠ってません!!!」
「…猊下がもう少しでダーグの毒牙に襲われるところだったぞ。」
「え!?あ、ダーグ!!てめぇ、また趣味の悪いことを!!!」
 
 そう言って立ち上がると素早くダーグの胸ぐらを掴みかかる。
 ダーグはというと、そんなことにも動じずマイペースに、

「あら〜、良いじゃないのよぉ〜♪減るもんじゃないんだしぃ〜♪」
「減るもんだ!お前の薄汚い手をシグレに向けるな!!」
「まぁ、つれないわぁ。そう、あたしは悲劇の乙女。こんな哀しい瞬間は…可愛いモノに癒されたいと思う複雑な乙女心を理解出来ない弟を持って、あたしってホントに不幸ね。しくしく。」
 
 一連の男達の行動に半ば引きつつも、僕は彼らが兄弟であるという事実に妙な納得を覚えていた。いや、だって、カイルと良い、ダーグと良い、すげぇマイペースじゃん。それにこんな弟達を持っていても動じないクウォルツさんも相当に…。
 
「あ、あのぉ、皆さんはご兄弟なんですね。」
「そうよぉ!不本意だけどこの馬鹿カイルとクウォルツお兄様とは兄弟なの〜♪」
「お、お前なんかアニキじゃねぇ!!」
「あらぁ、あたしをお姉さまと認めてくれるの!まぁ!嬉しいわぁ〜♪」
「認めない!断じて認めん!!!」
 
 …あぁ、だめだこりゃ。
 僕は二人の掛け合いに付いていけないものを感じながら、まだ新たに現れた兄弟達に挨拶をしていないことに気付いた。ここはやっぱり暫くお世話になるわけだし、しっかりと挨拶をした方が良いだろう。
 
「あの、もうご存じかもしれませんが、しばらくこちらにお世話になります、シグレ・クルマと申します。宜しくお願いします。」
 
 僕の言葉に耳をピクつかせると、すぐにカイルとのじゃれあいをやめてダーグがまず反応した。
 彼は突然キリリとすると、イメージとは裏腹にまともに挨拶をしてくれた。

「私は、ダーグスタ・ブレニム・ドーリア。このアスファーンの第二王太子です。普段はドーリアの領主として働いておりますが、本日は用事できております。我が領地へ立ち寄られました際は是非お呼びください。」
 
 そう言うと片膝を付いて、よくある貴族の礼って奴?あれをしてくれた。実際に目前でやられると、なんか妙に照れ臭い。つか、恥ずかしい。
 
「では、私の番か。私はクウォルツェル・リード・スタインベルト。この二人の兄です。普段はこの国の執務をしています。何かあったら私に仰ってください。猊下。」
「あ、はい。お気遣い有り難うございます。」
 
 しかし、ここはこれで分かったことだけど、真面目に王国ってやつみたいだ。専制君主制って奴?…イマイチよくわからない世界だけど、暫く住むってことは…この人達と上手く付き合っていかなきゃならないんだよな。
 僕がそんなことを考えていることを知ってか知らずか、彼らの長兄であるクウォルツさんはダーグさんの腕を掴むと僕の方を振り向いて言った。
 
「では、猊下。私達は仕事がありますのでこれにて。」
「あ、はい。」
「さぁ、行くぞ、ダーグ!」
「いや〜ん。もぅ〜。」
 
 クウォルツさんはダーグさんを強引に引っ張って書庫を出ていった。いや、実際の見た感じはとっても軽々としているんだけど、ダーグさんの体格を考えると…あれは絶対普通の力加減ではないはず。その証拠にダーグさんは最後まで未練たらたらで、もうホントに渋々といった感じだろうか。
 カイルはそれを見届けると僕の方を振り向いた。
 
「シグレ、本は決めたのか?」
「あ、はい。」
「ははは、そう畏まるなよ。シグレ。」
「え、うん。」
「行くぞ。」
 
 カイルはそう言うと、颯爽と前を進む。
 その姿は本当に堂々としていて、僕とは大違いだと思う。
 
 なんであんなに自信たっぷりなんだろう。
 やっぱり王子様として生まれたからかな。
 
 彼が通るとみんな端に寄って礼をしたり、そうじゃなかったら会釈をしている。宮廷に務めている人ってのもカイルに負けず劣らず品が良いけど、やっぱオーラの差なんだろうか。
 僕がそんなことを考えていると、不意に彼が振り向かずに話しかけてきた。
 
「シグレは、本当に何もわからないのか。」
「え、…うん。この世界のことはわからないよ。」
「…そうか。なら、どこなら分かるんだ? 父上に話した二ホンという国のことか?」
「…そうかもね。」
 
 彼はその後は何も聞かずに歩き続けた。
 そして、僕らは城の三階の西側の部屋の前に来ていた。
 
「シグレ、この部屋がお前の部屋だ。」
「え、僕の部屋。」

 彼は頷くと鍵を開け扉を開いた。
 開かれた扉からは夕日が差し込み、白い壁は黄金に染め上げられていた。その広さは学校の教室の二つ分くらいありそうだった。
 カイルは中に入ると窓を開きテラスに出た。僕もいそいそとそこに続く。
 
「どうだ、綺麗だろ。」
「うん。」
 
 山の上にある城の三階という眺望は本当に息を飲むほど綺麗な景色だった。沈み行く赤方変異した大きな太陽は黄金のオーラで世界を包み込み、街は勿論、全ての野山の緑を金色に輝かせていた。
 都会に暮らしていた僕からすれば、確かにここは異世界であると同時に秘境と言えた。
 
「なぁ、お前の知っている日本という国は、こんな景色が見られるのか?」
「…僕の住んでいる世界は、ここにも負けないくらい沢山の人がいるけど、こんなに綺麗じゃないよ。」
「はは、そうか。なら、アスファーンの勝ちだな。」
「えー、勝ち負けの問題なのー?」
 
 僕の疑問に彼は答えず、静かに室内に戻っていった。
 僕は仕方なく彼の後に付くしかなかった。
 カイルはその後簡単に僕に城の人の呼び方とかを教えてくれた。…こうして接してみると、最初は「俺が絶対」って感じだったけど、案外良い奴なんだなって思った。
 
「さて、明日だが、シグレに会わせたい人がいる。」
「会わせたい人?」
「そうだ。俺の母上だ。」
「あ、お母さんか。うん分かった。」
「じゃあな。」
 
 カイルはそういうとまたまた颯爽とずんずん歩いて出ていった。
 扉が閉まった後、僕は思わず一息溜め息を吐いた。
 
 眠りから覚めたら変な田舎にいて、そこに現れたのは中世貴族のハリウッド張りなにーちゃん。そして、初馬乗り、王様、おかま、紺色髪のおにーさん。…有り得ないよなぁ。普通。

 僕は望んでいたはずの非日常を味わいながら、それを受け入れるなんて気持ちになれず、ただ脱力感にも似た疲労感に襲われてとぼとぼとベッドに足を運んだ。さっき、ホントは食事も誘われていたんだけど、正直食事もする気になれなかった。兎に角疲れたってのが本音だ。
 だが、休もうとベッドを見て僕は棒立ちになった。
 
「………あるんだな。まじで。」
 
 そこに有ったのはお約束とでも言うべきか、天蓋付きの大きなキングサイズの純白のベッドが置かれていた。なんか見ているだけで圧倒されるというか、自分が寝ている姿を想像するとおぞましいものを感じつつ、でも眠ってみたいとも思う好奇心をどう言い表したら良いのだろうか。
 それでも疲れというものは凄いもので、それはもう吸い寄せられるように僕の本能はベッドを欲し、ベッドもまた触れた僕を掴んで離さないような心地よい肌触りを伝えてくる。
 
 僕は程なくしてベッドの誘惑に落ちた。
 
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【42】奇跡
 REDCOW  - 06/8/16(水) 23:19 -
  
「う〜ん…」
 
 目が覚めた僕の前には、いつもの部屋が有った。
 何も変わらない僕の部屋。
 
 どうやら本当に眠っていたらしい。
 それにしても…凄くリアルな夢だった。
 何であんな夢を見ちゃったんだろう。
 
 僕は起き上がると背伸びをして窓の外を見た。
 外は明るく快晴でいい天気だ。…いい天気…アスファーンも天気が良かった。
 時計の針は7時を回っていた。あぁ、学校行かなくちゃ。
 
 部屋を出ると良い匂いがした。朝飯の匂い。母さんは早起きして料理をいつも作っている。
 
「あら、時雨。寝ぼすけのあんたにしては随分早いわねぇ。」
「おはよう。」
「えぇ、おはよう。」
 
 僕は居間のソファーに腰掛けた。寝起き特有の気怠さがまだ残っている。頭をぽりぽり掻きながら目前のガラステーブルの上に置いて有る新聞を手に取った。既に母さんは目を通したようで、折り目が変わっていた。 
 昔から本を読むことは苦にならなかった方だけど、新聞を読むってわけじゃない。でも、何故か今日は新聞を手に取りたくなった。何気なくぱらぱらと見てみる。
 
 政府は新たに見つかった関東新人遺跡について、正式にあたらしい遺跡と認定。新しい遺跡は紀元前1万年以上前のものと見られ、この発見は歴史を大きく書き換えることが確実視されており、今後の発掘調査が期待される。
 
 遺跡。
 その内容は妙に引っかかるものを感じた。
 
 いや、それだけじゃない。新聞そのものに何か違う違和感を感じる。もっと、なんだろう、こんなに簡単で良いんだろうか。凄く面倒なことが書いて有るのが新聞じゃないのか…とか。
 
「あら、あんたそれわかるの?」
「なんだよ、僕だって新聞くらいわかるよ。」
「ほんとぉ〜?じゃぁ、なんて書いてあったのか言ってみなさいよ。」
 
 母さんは料理をテーブルに出しながら疑惑の眼差しを僕に投げかけていた。たかが新聞ごときでそこまで見下される僕って一体。癪に障るからしっかりと説明してやった。
 そしたら母さんは目を丸くして、まるでぽかーんという書き文字が入っていそうなくらい呆気に取られた顔をして言った。
 
「あんた、凄いわね。いつのまに英字紙読めるようになったの。」
「へ?」
 
 アレ?…そういえば、ウチの新聞って母さんの仕事の関係もあって英字誌だよな。僕、英語読めたっけ???………いやいやいや、自慢じゃないが、英語ぺらぺらの親に育てられて15年!まともな英会話は勿論、英語の読み書きだって満足にできないぞ!!!
 うわ、僕、なんで分かるんだろ。すらすらと読める。いや、なんか新しいスイッチ入った!?まさか、今頃母さんの英語教育効果覚醒!?……つか、なんで僕戸惑ってるんだろ。これって素直に喜ぶべきじゃん。でも、喜んで良いことなのか?…あぁ、小心者な自分が嫌だ…。
 
「あ、うん。そりゃ僕だって英語くらいは。」
「まぁ〜〜〜〜!あんたが英語使える様になるなんて夢のようよ〜!やっぱり私が小さい頃から一生懸命に英語を教えた甲斐があったのね〜♪うふふ、じゃ、今日は奮発して夜はステーキ買っちゃお!あは。」
 
 母さんはとってもご機嫌で、食事後は鼻歌交じりに出勤した程。そりゃ、僕だって嬉しい。今まで苦手だった英語がわかるんだから、テストだって楽勝だし、何より沢山の洋書を見る楽しみを得たわけだし。でも、本当に何故読めたんだろう。
 僕はそんなことを思いつつ家を出た。
 
 学校への道はいつもの用水路公園の遊歩道を通り、突き当たりの県道沿いを進んで陸橋を渡れば僕の通う高校が有る。丁度陸橋を渡っている時、背後から僕の名前を呼んで肩に触れる手があった。
 
「よぉ、時雨!」
「あ、田中。おはよう。」
「うぃっす!」
 
 僕を呼び止めた奴は田中 光治(たなか こうじ)といって、僕の小学校の頃からの友達。彼は僕と違って活発な奴で、部活はサッカーをしている。背は僕と同じくらいの170cmくらい。性格も明るく明朗快活というのを絵にかいた様な爽やか小僧。
 でも、こいつには裏が有る。それは超がつくほどのゲームオタク。普段は女子にモテモテな癖に意外や意外というキャラの男だ。田中はいつも笑顔でウキウキって感じだけど、今日は一際嬉しそうだ。
  
「なぁなぁ!今日何の日かわかる。」
 
 唐突な質問に、僕は全く見当がつかない。適当に答えを羅列してみる。
 
「え、何の日って、誕生日じゃないし。う〜ん、彼女でもできた日?」
「それはそれでオッケーだけど…って違うって!今日はアレの発売日だろ?」
 
 なんとなく予想はしていたけど、やっぱりゲームか。
 田中の超ゲームオタク振りを考えれば答えは明白だったかもしれないけど…。
 ただ、発売日といわれてもピンと来なかった。いや、いつもなら浮かんでいても不思議じゃないけど、今日の僕は昨夜の夢に今朝のアレ。…正直、ゲームどころじゃなかった。
 適当に合せようと答えを探す僕。
 
「う〜ん、アレ、アレアレアレ…何だろ。」
「まだわからないのか?超大作RPGクロノ・リングだ!」
「あぁ、なんか超豪華メンバーで作られたゲームだっけ。そういえば今日発売日だっけ。」
「うんうん!たぶん今日帰った頃には届いていると思うんだぁ。なんか、そう思うと嬉しくて嬉しくて、マジさっさと放課後にならないかなぁ〜!あー、でも部活もあるし。くそぉ、さぼりてぇけど、先輩厳しーし。うがー、この俺の苦しみわかる!?」
 
 …相変わらずのテンションの高さに半ば呆れつつ、でもコイツのこんな所は結構好きだ。やっぱ世の中じめじめって感じよりは、コイツみたいに明るい奴の方が好かれるのは分かる。
 
「あはは、相変わらずだね。でも、それなら僕も買ってるから、うちにも放課後には届いてるかな。」
「あれ?お前買わないとか言ってなかったっけ?」
「うん。でも、この前店のデモムービーみたら格好良くてさ。」
「あー!やっぱり?俺もそうなんだよぉー。はぁ〜マジやりてぇ〜!」
 
 どうでも良いけど、大声で話すのは止めて欲しいと思う僕。コイツって結構モテるのに飾らないから良いんだけど、最後のマジやりてぇ〜だけ聞いたら女子が泣きそう。
 そんなこんなで話しているウチに校門も潜り、いつものように教室に入って授業を受ける。
 
 僕の席は窓側の後ろから2番目で、教室は二階にあることから階下のグラウンドで体育をしている別のクラスのサッカーの試合が見えた。よくよく見れば田中のクラスの奴みたいで、やっぱアイツの動きは別格と思うくらいに目立ってた。…楽しそうだな。
 
「あー、この定理について、車、解いてみなさい。」
「え!?あ…はい。」
 
 唐突に僕が指名された。
 …滅多に指名されたことないのに。

 あまりに突然過ぎて、僕は何の準備もしていなくて焦った。でも、指名されたからには出て行かないわけにも行かないし…まぁ、分からなければ分からないでいっか。そう思った僕は、とりあえず黒板に向かった。
 黒板にはいつもなら頭が痛くなるような数式が並んでいた。でも不思議とすらすら理解できる自分がいた。なんだか分からないけど分かる僕は。公式通りではないけど、たぶん合っていると思う答えを書いてみた。正直自信はないけど、僕の頭がこれしかないと言っている…気がする。
 
「これでいいですか?」
 
 僕の問い掛けに先生は暫く沈黙してメガネ前後に動かしながら眺めていた。
 
「…公式通りではないが…確かに合っている。戻って良い。」
「…はい。」
 
 なんか分からないけれど、難を乗り切ることができた。
 でも、この奇跡はこれだけに留まらなかった。
 
 僕はこの後の英語も国語も科学でも同様に全てを理解出来てしまうことに気がついた。それも当たり前の様に答えが頭に浮かび、本当に自然にその答えが導き出された。
 さすがにこんなことが続くと自分としてもおかしいと感じる。原因は…あの夢がやっぱり関係しているのだろうか?
 
 昼休み、僕は裏庭の植物園に来ていた。この学校には校長の趣味で植物園が有り、ガラス張りの温室の中に南国の木とか様々な植物が植えられている。もっとも夏の今時期は窓を開けて開放されていて、学生達は設置されているベンチで昼食を摂ったりしている。
 僕はというと、いつも植物園の裏手にある大きなメタセコイアの大木の下で食事をするのが日課みたいな感じ。ここは植物園ほど人がこない静かな場所で、昼休みを寝ころんで過すには丁度いい場所だ。ここにいると暑さもなんとなく和らいで感じる。
 
 昼食を食べた僕は、その木の幹を背に座り目をつぶった。
 瞳の奥には昨夜の風景が蘇った。
 
 そう、それはまるで本当にその人がそこにいたと錯覚するほど、あれはリアルだった。
 僕の空想が作り出したにしては、突拍子無さ過ぎて自分でも苦笑しちゃうほど変な夢。…誰かに話したら絶対おかしいって言われるのがオチだよな。
 
 あぁ、眠い。
 なんでこんなに眠いんだろう。

 僕は強い眠気に負けて眠ってしまった。
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【43】真っ黒と真っ白
 REDCOW  - 06/8/17(木) 12:46 -
  
「…ヴヴヴ、何故我らに逆らう。」
「…我が痛み、お前も分からぬはずは無かろう。」
「…誤りし生命の道を正すは我らの定め。お前は見たくないのか、夢を。」
 
 夢…、何を言っているんだ?
 
 僕は真っ暗な闇の中にいた。
 そんな闇の中にとても低い嫌な声が響いてくる。
 何が何だか分からないことをぶつぶつ呟く様に。
 
「わからないよ。何が言いたいの?」
 
 僕は思い切って声を発してみた。
 でも沈黙が波紋の様に広がって行くように吸い込まれて消えた。
 
「…グレ。」
 
 え?何??
 突然先程とは違う僕を呼ぶ声が聞こえる。
 
「シグレ。シグレ!!!」
 
 僕は目を開けた。そこには僕の名を呼ぶカイルの見下ろす顏があった。
 視線の先には天蓋の白い天井が見える。…アスファーンだ。
 
「あの、どうしたの?」
「どうしたも何も、もう朝だ。」
「…え、あ。」
 
 彼の言う通りだった。窓の外はちょっと陰って見えるが朝日だろう。
 山々がキラキラと光り輝いている。
 
 僕は起き上がりベッドから出た。ふとカイルの方を見ると、昨日とは違ってとっても軽装の服を着ていた。これが彼の普段着なのだろうか?…そんなことを考えつついると、カイルが口を開いた。
 
「お前、風呂でも入っとけ。」
「あ、うん。」
 
 そう言うと彼はベルを鳴らした。するとドアが開いて執事の人が現れたかと思うと、彼と小声で何やら話した。そして、執事の人がテレビとかでも見たこと有る使用人を呼ぶあのパンパンという手を叩く奴をやった。
 うへー、さっすがお城だとか思っていると、早速ぞろぞろと使用人の服を着た屈強そうな男達が現れた。スゲーとか思って見ていると、なにやら僕の方に近づいてくる。
 
「え、え!?えぇええええ!?!」
 
 男達は僕をひょいとまるで胴上げでもするかのごとく担ぎ上げると、ずんずんと部屋の外へ歩き出した。その足は徐々に早くなり駆け足と言っても良い。
 
「うわぁああああ!?おい、どうしちゃったわけ!?ねぇ、待ってよ!誰か止めて〜〜〜〜!!!」

 僕がそう叫んだ時、急にピタッと止まったかと思うとひょいっと投げ出された。
 
「え!」
 
 バッシャーーーン!!!
 
 僕は一瞬何が起こったのか分からなかった。
 …いやぁ、でも、良い湯加減。って違う!!!!
 あぁ!?何、風呂だけど、どうしてこうなんの!?…しかも服のまんまだし。
 僕が混乱していると、執事のおじさんがゆっくり恭しく現れた。
 
「猊下。着替えをご用意させていただきましたので、上がられましたらそちらにお着替えください。今お召しの服は私めがしっかりとクリーニングして後程お部屋の方へお運び申し上げますので、脱衣室にそのままお置きください。」
「は、はぁ。」
「着替えの服のサイズは猊下に合う様にお選びさせて頂きましたが、もしも合わぬようでしたら外に待機しております者をお呼びくだされば、すぐにご用意させて頂きます。では、ごゆっくりお寛ぎくださいませ。」
 
 な…、そんなことのために僕を担いで湯に放り投げちゃうわけ!?っていうか、何であんなに丁寧に話ながら猊下とか言いつつ放り投げちゃうわけ!?!って、僕そこに怒るべき!?………はぁ。
 
 あぁ、流されてる。色々な意味で流されてるよ僕。
 僕は仕方なく着ている濡れた服を脱いだ。まさかこんな広い風呂の中で服を脱ぐとは思わなかったけど、いや、ホントに広いなぁ。なんかどっかの観光地の1000人入れる風呂もビックリな感じ。っていうか、これ、温泉なのかな。なんとなく硫黄の香りがする。
 
「ぐぇぇぇぇ〜〜〜…。」
 
 温泉ってどうしてこんな声が出ちゃうんだろう。
 もう本能的に出てくるこの変な声。でも、なんか温泉って感じがするよな。
 
「まぁ!誰かと思ったら、あなたが噂の猊下ねぇ〜!」
「え”!?」
 
 突然女の人の声がしたかと思ったら、僕の目を後ろから両手で塞がれてしまった。
 
「いやぁ〜ん、可愛いお・は・だ!やっぱ若いって良いわねぇ〜♪」
「あ、あの、その、こ、これは何かの間違いで、あ、えーと、その、手を離してくれませんか。」
「ウフフ、駄〜目♪」
 
 その女の人はあろうことか僕に体を密着させてきた。僕の背中に温もりが伝わってくる。何よりアレやコレやあんなところが僕の背後で密着していると思うと、さすがに健康な男子である僕には刺激が強過ぎて…
 
「あ、あら、猊下!?」
 
 …あぁ、頭真っ白。
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【44】光
 REDCOW  - 06/8/18(金) 15:48 -
  
「…どこだ、ここ。」
  
 僕はどういうわけか空の上にいた。
 何がどうなって浮いているのか分からないが、じたばたしてみた所で落ちないことは分かった。
 なんとなく薄曇りの夕暮れ時だろうか、沢山の車が飛んでいる。SF映画みたいにさも当然の様に浮いているんだ。

 世界全体が鉛の様に鈍い輝きを帯びて太陽の光を照り返す。その姿は異様だが偉容でもある。こういうのを未来って言うんだろうな。
 
 ふと近づいてみたいと思ったけど、眼下の都市へはやっぱり降りることは出来ない。下を向こうが何をしようが、ただただくるくると回っているだけ。懸命な努力も虚しく疲れだけが残った。
 僕は仕方なく見ているしかなかった。すると突然視点が上昇し始めた。その早さは凄まじい重力を伴うような速さで、僕が打ち上げられている様な圧力を感じ目を閉じた。その圧力は10秒くらいだろうか。突然それが収まったので目を開けると、そこは宇宙だった。
 
 宇宙から見た地球なんて初めて見る。
 確かに有名な宇宙飛行士が残した言葉のように青い宝石。ここが僕の生れた世界。
 人生にとても印象深い感動のシーンを上げるなら、ここは間違いなくその場所の一つになるに違いない。そんなことを思っていると、突然前方に何かの光が一つ走った。
 
 いや、それだけじゃない。
 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十、十一、十二…もう、無いかな。
 その光はゆっくりと世界中に散らばって降りていく。その時地上からも幾筋もの光がまるで出迎えるかのように走る。だけど、それは途中で衝突して閃光をたて始めた。そして、地上の光はまもなく消滅し、宇宙からの光は地上に到達すると緋色の閃光をあげて、まるで核爆発を起こしたような巨大なドーム型の爆発を作り出すと、その波は波紋が広がるように広域に広がった。
 その爆発は他の地域に落ちた光からも生じ、次々に世界を飲み込んでいく。
 
 僕は何が起こっているのか理解できなかった。
 言えることは、綺麗な迫力ある映画のワンシーンにしか見えないってこと。でも、僕がこの真空の宇宙で呼吸して漂っているという非現実的な現象を除けば、視覚に映っているそれはとてもリアルな空間での出来事だった。
 
 僕はアスファーンの書庫で見つけた本の記述を思い出した。
 
「…古の12の神。」
 
 これがソレなのか?
 だとしたら………あんまりだ。
 
 僕の目から思わず涙が溢れてきた。
 そこに、何処からともなく声が聞こえる。
 
「…下。猊下。」
 
 僕は目をゆっくりと開いた。
 目前にはとても綺麗な金髪のお姉さんの姿。白いぴちぴちの綺麗なレースの刺繍のが入ったワンピースを着た彼女は、僕を膝枕していた。…って、膝枕!?思わず僕は飛び起きた。
 
「あ、あの、ぼ、僕は一体!?」
 
 飛び起きた僕の周囲には執事のおじいさんに、カイルの姿もある。
 カイルは複雑そうな顔をして苦笑交じりに僕に言った。
 
「…さすがに気絶は無いぞ。まぁ、姉上も年頃の女性が聖職者と混浴するという状況は話しにならないが。」
「なぁに、カイル。聖職者ですもの、間違いはないじゃないですの。ウフフ、ね?猊下?」
「え…」
 
 僕はどう応えていいか分からなかった。
 というか、あれ、僕、裸!?
 
「う、うわ!?あ、あの、ふ、服は!?!」
「ほれ。」
 
 僕はカイルから服を慌てて受け取った。
 なんてこった。失敗するにも程があるよ……。
 
「あ、ありがとう!っていうか!みんな出ていってください!!!」
「えー!今更良いじゃないですか〜!私は猊下の全てをもう知った仲ですのよぉ〜?」
「す全て!?って違う!そんなの絶対ダメ!っていや、あ、もう!!!はやく出ていってください!!!」
 
 僕は力の限り叫んだ。
 彼らは僕の剣幕にさすがに応じてくれて、渋々という感じだけど外に出ていってくれた。
 その後の僕は、泣きたい様な気持ちを胸に仕舞いながら、服を広げてみた。
 
「…え。」
 
 僕は思わず凍った。
 いや、これで終わるとは思わなかったけど、これは…。
 一挙に到来する情けなさとやるせなさと虚しさと…僕はさすがに自分を呪った。
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【49】お姉様
 REDCOW  - 06/8/19(土) 11:41 -
  
 出された服は白タイツに白いぴっちりシャツ。
 そして、頭からすっぽり被って前後にばさばさいっている、ドラ○エの僧侶が来ているようなアレ。

 そりゃ賢者ったら聖職者なのかもしれないけれど、僕別に悟り開いたわけでも無ければ、賢者って自覚すら無いんだけど…。しかし、置かれた服はこれのみ。まさか白タイツ白シャツ姿だけで出るわけにもいかず、とりあえず下着だけまず穿いた。
 
 ただ、下着が白ブリーフというのがまた…なんで今更僕は…。だけど、コイツを穿いてみて思ったのだけど、このまま誰かを呼ぶくらいなら白タイツコスプレの方がまだマシだと思えてくるのだから、なんとも術中にハマっているような気がしてならない。
 いや、絶対罠に決まってる。…って力説する自分が虚しいけど。
 
 仕方なくコスプレした僕は脱衣室を出ることにした。外にはあの3人が待っているに違いない。もはや裸まで晒したと半ば開き直りも入りつつ、思い切って僕はドアを開けた。
 そこには案の定3人の姿が…、
 
「まぁ、猊下!よくお似合いですわ!」
「孫にも衣装って奴だな。」
「サイズもぴったりでございますな、猊下。」
 
 三人三様に褒め言葉が飛び込んできた。でも、表情は絶対笑いを堪えている。…というか、あのお姉さんの顔を見たら、再度自分の痴態を晒してしまったことを急激に思い出す。さすがに簡単に割切れるものでは無いらしい…。
 
「あ、あの…。この服以外ありませんか。」
「えぇ〜!お似合いですよ〜!勿体ないわ〜!」
「そうだぞ!こんなおもし、もとい素晴らしい絵は見たことないぞ俺は。」
「お気に召しませんでしたか、猊下。」
 
 し、白々しい。くそぉ、完璧に遊ばれている。
 僕は沸々と湧き上がる怒りを感じていた。もはやここまで壊れてしまえば何も怖くない。
 
「すぐに僕の服を乾かして返してください。それがダメなら、他のあなた方が着ている様な一般的な服を用意してください。僕は悟りを開いたわけでも無ければ、賢者であると言った覚えはありません。」
 
 僕は今出し得る最大級の憎悪を燃やした表情で3人を睨み付け言い放った。それは3人を一瞬で串刺しにする。
 
「あ、あぁ、分かりましたわ猊下!ほ、ほら、カイル!あんた服あるでしょ!」
「あ、姉上!?お、ぉお!わ、わかりました。い、今すぐ用意しよう!!」
「バルムドゥール殿下、殿下の服では大き過ぎます。私めが殿下のお小さくなった服を取寄せさせますので、お任せください。」
「おう、ボブ、至急頼むぞ!!」
 
 その後15分程してカイルにボブと呼ばれていた執事のお爺さんが、一着の服を持ってやってきた。その服は青を基調にした制服みたいな服だった。袖などには銀糸でラインが入っていて、さすが王子様って感じの豪華さもある。…これはこれでちょっと恥ずかしかったけど、白タイツ姿よりは天地の差ほど違いがある。
 僕はその服に再び脱衣室で着替え直すと、3人のもとに戻った。
 
「まぁ、猊下!カイルのちょっと昔を見ているみたいで可愛い!」
「ほぅ。」
「いかがでございましょう、猊下。」
「うん、今度のはとても着心地が良いです。わがまま聞いてくれて有り難うございます。」
「いえ、お礼でございましたらバルムドゥール殿下へお伝えください。では、私はこれにて失礼させて頂きます。」
 
 そう言うとボブさんは礼をして静かにその場を去っていった。
 
「えっと、あの、あなたはカイル殿下のお姉様なんですよね?その、先程は本当に申し訳ありません。」
「いいえ。私も聖職者としてこの国の司祭をさせていただいております身。間違いなど起こり得ません。ご安心下さいませ。」
「え”!?司祭!?!」
「はい、猊下。宜しくご指導賜りたく申し上げます。」
 
 そう言うとお姉さんは深々と礼をしてきた。慌てて礼を返す僕。
 礼を直ると、お姉さんは続けた。
 
「それと、申し遅れました。私はジュリエット・マルーン・アスファーン。この子達の一番上の姉でございます。ジュリーとお呼びくださいませ。猊下。」
 
 ニッコリと微笑んだジュリーさんは、今までの15年の人生の中で奇跡的な程の綺麗な笑顔で、こんな人にこれから他に会う機会があるのだろうかと思うほどの絶世の美女だった。
 
「んと、えー、ジュリーさん…って、その、一番上?」
「はい。私が我が王国6人兄弟の一番上でございます。」
「六人兄弟!?」
「あら、存じ上げませんでしたか?猊下。」
「あ、はい。初耳です。」
 
 僕は驚いた。クウォルツさんが一番上で、その下くらいだろうと思っていたということもあるけど、その前にこの兄弟が6人もいるということが…。カーライル、クウォルツ、ダーグスタ、ジュリエットの4人は見たけど、この他に二人…どんな人なんだろう。というか、彼らの年齢構成が分からないのでイマイチポジションがハッキリしないけど。
 
「左様でしたか。では、ここではなんですから、お食事でもご一緒にしながら、お話でもいかがです?」
「あ、別に僕はそれほどお腹も空いていないので…」
「では、ティーと菓子ではいかがでしょうか。」
 
 その時のジュリエットさんの表情は、世の男という男全ては絶対服従したくなるんじゃないかと思えるほど、なんだか断るのが勿体なく感じた。カイルも微笑を讚えて彼女に従っているようだし、ここは彼と同様に従っておくとしよう。
 え?僕が単に食事がしたいんだろって?違うよ、仕方なくだよ、仕方なく。…とは言いつつも、確かに僕の心は踊っていた。
 
「あぁ、はい。では、お言葉に甘えて。」
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【51】古文書
 REDCOW  - 06/8/20(日) 21:24 -
  
 僕たちは城の前庭に来ていた。
 ここは色とりどりの花が咲き乱れるとても手入れの行き届いた庭園で、花の香りが風で運ばれてとても心地よい空間だった。そこに用意された白いテーブルに日傘と白い椅子が3脚。四角い白いテーブルには、東側を背にジュリエットさんが座り、南側にカイルが、北側に僕が座った。西側には給仕の係りの人がお茶とお菓子を出し入れするのにやってきてくれていた。
 僕は出されたお茶を飲んだ。
 
「美味しい!これ、なんていうお茶なんですか?」
「これはミレディティーですわ。」
「ミレディ?」
「あぁ、あそこに生えている赤い花がミレディ。」
 
 僕はジュリエットさんの指し示した方向をみた。そこには確かに赤い花が咲いていた。なんとなく薔薇に似ている。つまり、これはローズティーってことかな。
 
「…さて、そろそろ本題と行きましょうか。カイル。」
 
 彼女はそう言うと、カイルの方を向いた。カイルは彼女の言葉に頷くと僕の方を向いた。
 
「シグレ、お前の国は二ホンと言ったな。」
「うん。」
 
 僕が頷くと、ジュリエットさんはおもむろに本をテーブルの上に置いた。その本はとても古くてくたびれていた。
 
「これは?」
「我が国に代々伝わる古文書です。ここには創世の以前の世界のことが書かれています。」
「これをどうして僕に?」
「とにかく開いてみてください。」
「うん。」
 
 僕はその本を手にとり、ゆっくりとページを開いた。そこには僕にもわかる日本語で文字がかかれている。内容は日記のようだ。
 
 今日、連邦政府はガーディアンフォース12の使用許可を出した。…もう、これしかないのか。私はなぜあんなものを見つけてしまったのだろう。いや、まだ終わったわけではない。

 宇宙の動向が緊迫してきた。連邦木星基地がやられた。奴らは化け物か。ガーディアンフォース12の発射が間に合うかギリギリか。プランBも実行せざるを得ないか。
 
 アステロイドベルトを越えたという報告があった。奴らの技術をトレースしているが、それを上回るスピードで迫っている。連邦艦隊は火星に防衛ラインを張ったが、時間稼ぎにもなるかどうか…。
 
 今日、プランBを実行に移した。我が子にはすまないことをしたが、人類は今消えるわけにはいかない。彼らにも良心があるならば、我々の世界を…いや、もはやここまできてしまったのだ。楽観は控えるべきだ。…もうすぐ日本に帰る許可も下りる。
 
 火星軍が全滅したらしい。もう数日もせずに来るだろう。出来る限りのことはした。我が人生に悔いは無い…いや、一つあるか。最後くらいはリンと一緒にいたかった。愛している、リン。
 
 来たか。月防衛ラインを突破される前にはなんとか間に合った。ガーディアンフォース12を使っても世界の破滅は免れない。だが、彼らもただでは済まない。ざまあみろ。最後は我々が勝つ。
 
 この後の記述は無かった。
 この日記の文字は印刷された文字のようで、この作者の死後に作られたのだろうか。
 推測するに、これは「古の12の神」と関係があるんだろう。
 
「猊下、この本の内容は分かりましたか?」
「あ、はい。」
「では、どんな内容かお話してくださいませんか?」
「え、あぁ、わかりました。」
 
 僕は本の内容を聞かせた。二人は静かに僕の話を真面目に聴いてくれた。
 
「…姉上。」
 
 カイルがジュリエットさんの方を向いた。ジュリエットさんは頷くともう一冊の本を出した。
 
「猊下、この私が持っている本はあなたの読まれた本の翻訳本です。今あなたが読まれた本を読める方は、もはやこの世界には残っていないのです。」
「え、じゃぁ、その翻訳は?」
「これは何百年も昔の時代に訳された本の写本です。ですからこの本に書かれている内容と少しズレがありますが、大筋で猊下の読まれた原板と違いありません。…猊下、申し訳ありません。」
 
 突然ジュリエットさんが僕に深々と謝罪した。僕は突然過ぎて何がどうしたのかさっぱり分からなくて慌てて頭を上げるように促した。
 
「あの、何故謝るんですか?」
 
 僕の問い掛けにカイルが口を開いた。
 
「これは俺が言い出したことだ。お前が二ホンという国の名を出したから、大昔の国の名前じゃないかとおもってな。姉上の統べる教会に本は保管されている。だから姉上に無理を言って持ってきてもらったのさ。」
「それじゃ、僕を調べる為に?」
「あぁ。」
「ごめんなさい。猊下。」
 
 僕は呆気にとられた。
 あんなにコミカルなまでにとぼけた人達だと思ったのに、やっぱり彼らは政治家って人達で、僕が考えている以上に色々なことを考えている人達だったんだ。いや、確かにどこの馬の骨とも知れない少年にこれほどの待遇をする国ってのも変だけどさ…。
 
「謝ることはないよ。で、僕のことはどう思ったんですか?」
 
 僕の問い掛けにジュリエットさんは、

「猊下は、やっぱり猊下でした!」
「え!?」
「もう、この古代文字を解読できちゃうだけで最高ですわ!」
「あららら…」
 
 何か知らないけれど、僕はもっと信じてもらえることになったらしい。
 これは喜んでいいのやら…。
 僕はぽりぽり頭を掻きながらどうしたものかと考えていると、ふと昨日の言葉を想い出してカイルに尋ねた。
 
「あの、カイル。君のお母さんの所へ行くんじゃなかったっけ?」
「そうだ。」
「じゃぁ、会いに行こうよ。」
「だから、来ただろう。」
「え?」
 
 僕は頭が混乱した。
 ここにいるのは僕とカイルとジュリエットさん。他には給仕の人達くらい。
 
「えーと、どこ?」
 
 カイルは僕の問い掛けに指を指し示した。
 その先は…マジ。
 
「えーーー!!!!っていうか、だって、兄弟なんでしょ!?」
「そういうことになっている。」
「ウフフ、ひみつよ〜♪」
「な!?えーーー!?!っていうか、さっきカイルは年頃って!?」
「適齢期には変わりないだろう。」
「………いや、そうだけど…って違うでしょ!?」
 
 あぁ、なんか頭痛くなってきた。
 僕はこの王国の家族構成に激しく疑問を感じつつ、なんとなくこれだけでは済まされない暗雲を感じながら、苦笑を禁じ得なかった。
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【52】通力
 REDCOW  - 06/8/21(月) 12:02 -
  
「ジュリエットさんが…て、本当にどういうことなんですか?」
「…それ以上は秘密ですわ。ただ、この子を産んで後悔はしていません。こんなに男らしく育ったんですもの。」
 
 僕は詳しく聞くのはやめた。
 彼らには彼らにしかわからない事情があって、わざわざ秘密にしているんだろう。そこに僕みたいな外野が不必要に情報に触れることは良くないって思った。何より、誰が聞いているともしれないここでかれらが秘密にしなくてはならない事情を聴くことは、少なくとも適切な場所とは呼べない。
 僕は適当に話題を変えることにした。

「わかりました。えっと、では他に幾つか聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「はい、猊下。」
「その、この世界って戦争とか無いんですか?」
「戦争?……ございますわ。」
 
 ジュリエットさんはそういうと哀しげに近くの花壇に咲く花の方を見た。
 その花は黄色いすいせんの様な可愛らしい球根草だと思われた。
 
「わがアスファーンはこの地域に根ざす大国として知られています。しかし、我が国と他国の外交関係が決して良好であったわけではありません。古くは漆黒の瞳の賢者様が我が国は勿論、世界を導かれたこともある我が国ですが、今はそれ以来脈々と受け継がれる通力の力を怖れ、敵視する勢力があるのです。」
「通力?」
「えぇ。通力とは自然の力と通じて奇跡を起こす能力です。元は12の力が我が国に集いましたが、今では半分の力のみで、我が国に他国をどうこうするほどの意図も無ければ力も無いのが実情です。しかし、人は持てる者と持たざる者の差を気にするものです。我が国に今でも6つの力があるということは、彼らにしてみれば脅威なのでしょう。」
 
 なんだなんだ!?
 今度は突然RPGの定番の魔法っぽいものがあるっぽい発言がでてきたぞ。
 僕は内心わくわくしていた。

「あの、その通力って、僕も扱えるモノなの?」
「猊下ですか?…そうですねぇ、伝説の漆黒の瞳の賢者様は全ての力を調和したと言います。もしかしたら、猊下にも力があるのかもしれませんわ。」
「え、そうなんだ!」
 
 僕は心の中で万歳と両手を上げた。
 やっとなんとなく世界の雰囲気に合った夢の様な能力が使えそうな兆し。
 
「えっと、その力はどうやって使えば…」
 
 その時、城門から駆けてくる1人の兵士の姿があった。
 その兵士は城内を目指していたようだが、僕らを前庭に認めて駆け寄ってきた。
 
「バルムドゥール殿下!カールグリーフが我が国に兵を向けてきました。」
「何!?で、今何処だ。」
「は、現在、ドーリア領付近まで接近。ドーリア公が軍を率いて対峙しておられます。現在スタインベルト軍が援軍に向かっているという報が入っておりますが、カールグリーフの背後にエメレゲが動いているのではないかと…。」
「ガイファーか。よし、分かった。陛下の所へは俺もお前と一緒に付いていこう。来い!」
「は!」
 
 そういうと、カイルは兵士を連れて駆けて行った。
 僕は呆然とその状況を見ているしかなかった。でも、隣のジュリエットさんは哀しげな表情のまま花を見ていた。

 戦争が起こる。
 それはシミュレーションRPGみたいな争いなのかも知れないけれど、失われるのは本物の命。…僕は背筋が凍る様な嫌な感じや急激に冷や汗みたいなものが吹き出すのを感じた。
 
 遊びじゃない。
 誰かの命を失うなんて有っていいわけが無い。どんな人にも家族がいて、友達がいて、哀しむ人がいる。兵士だけじゃない。戦争をすれば沢山の人が家族を失い、命を消していくんだ…。
 
 …止めなきゃ。
 
 僕は無性に何かに突き動かされるように動いていた。
 
「…猊下?」
 
 気がついた時には馬小屋に走っていた。
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【53】運命の赤い麻紐
 REDCOW  - 06/8/23(水) 20:50 -
  
「猊下!お待ちください!」
 
 ジュリエットさんの声が近づく。
 彼女は思わず駆け出した僕のあとを付いてきていた。
 そして、
 
「私もお供致します。それに、猊下、乗馬はお得意で?」
「あ…いえ。」
「ウフフ、なら私が猊下を戦場へ送らせていただきますわ。」
 
 ジュリエットさんはニッコリと微笑むと、突然来ていたワンピースを豪快に脱ぎ捨てた。
 僕はあまりに突然の大胆な行動にあらぬ期待をしていたが、その期待はあっさりと裏切られ、彼女は勇壮な深紅に背中に金糸で唐獅子牡丹を描いたような軍服を着て現れた。…っていうか、何故軍服をワンピースの下に。っつか、ズボンはどっから!?いやいや、唐獅子牡丹!?!
 
「さぁ、行きますよ!」
 
 掛け声一声、彼女は厩舎の白馬に僕を乗せると颯爽とカイル同様に華麗に馬上に乗り、手綱を持って城内を駆け出した。その手綱捌きは手慣れたもので、馬はびゅんびゅんと速さを増した。 
 
「ジュリエットさん、そ、その、」
「ジュリーよ!」
「あ、ジュリーさん!どうして僕を?」
「…猊下、アスファーンは賢者様が開かれた国。そして私は司祭です。猊下にお仕えするのが務め。」
「ジュリーさん…。」
 
 彼女の言葉は、僕に何かを期待していることを示していた。でも、咄嗟に飛び出してしまっただけで僕に何か策があるわけじゃない。だけど…何もしないで後悔はしたくない!!!
 僕はジュリーさんの背から迫り来る視界を眺めていた。前方には広大な草原と、何の舗装も無い土で開かれた王国公道が続いた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーー

 
「ウフフ、まさかあなたと剣を交える日が来るとはね。でも、嫌いじゃないわ。」
 
 ドーリア公国軍を率いるダーグスタは馬上から敵軍勢を見据えていった。
 その彼の腕には輝く文様が現れていた。
 前方の敵軍勢は3000騎。ドーリア軍は2000騎であり、数の上でも相手側が優勢である。特にこの戦場は平地であり細かい策を弄することが出来ないため、純粋な数と練度がものを言う。しかし、それは本物の中世での話しだ。
 ドーリア公を中心に光の円陣が形成される。黄金に輝く円陣は次々にその支配域を広げ、広大な平地に展開する自軍兵力を包み込む様に形成された。
 
 それを見た敵側でも閃光が走る。
 敵軍将ガイファー・ブルーノ・カールグリーフ公爵の手から青い閃光が輝き、彼を中心に青き光の円陣が形成された。その支配域は急速に拡大し彼らの軍勢をドーリア軍同様に包み込んだ。
 
「ウフ、兄上だからって、容赦しないわよーーー!!!!」
 
 ドーリア軍が動く、V字型に形成された隊列陣形はカールグリーフ軍の正面を突破する戦術だ。これに対し、カールグリーフ公爵は隊列を崩さず対峙の構えを解かなかった。ドーリア軍の前衛とカールグリーフ軍の前衛が接触する。
 両軍の兵士との衝突面で青と黄金の閃光が走り弾き合う。二つの力は互角かどちらかというとドーリア公の力が上のようだ。カールグリーフ軍の前衛部隊が次々に黄金の陣営の中に取り込まれていく。すると、彼らはカールグリーフ軍からドーリア軍に投降し始めた。
 情勢の不利を悟ったカールグリーフ公爵は衝突部隊を徐々に後退させながら全軍を後退させ始めた。その間もドーリア軍は勢いに乗り次々にカールグリーフ軍を吸収していく。
 
「…かかった。」
 
 それは突然起こった。
 後退していたカールグリーフ軍は、後退していたと見せかけてドーリア軍を包囲していた。カールグリーフ公爵はこのチャンスを逃さなかった。
 
「ムン!!!」
 
 カールグリーフ公爵は自身の魔法陣でドーリア公の黄金の陣を包み込むと急速に力を抑圧させ始めた。
 
「っち、セコイ戦い方するのね。それだけの軍勢を持ちながら。」
「…フン。」
 
 それは兵士達の包囲が厚くなれば厚くなるほど上昇し、徐々にドーリア軍に寝返った兵士達は勿論、今度はドーリアの兵士達もカールグリーフ側につき始めた。すると、もっと強力な力が働き抑圧し始める。
 
「ダーグ。力はお前に譲る。俺は頭さ。」
「…嫌な男。腐ってるにも程があるわ。」
「そう言ってられるのも今の内。お前も俺の下僕になる運命だ。呪うなら賢者様とこのアスファーンの血を呪うんだな。」
 
 カールグリーフ公爵の力は遂にドーリア公1人を縛るに至る。…と思われたが、その時石つぶてがカールグリーフ公の顔面に直撃した。いや。よく見ると普通なら死ぬよと思うほど大きな漬物石…。憐れ、カールグリーフ公の顏は真っ平らに潰れてしまったと思われたが、彼はその悲劇を背負うのを低調にお断りするかのように、静かに片手で寸での所でその石を掴んでいた。
 彼が視線を向けた先には、一騎の馬に跨がる女性と少年の姿がみとめられた。
 
「ガイファー、あなたって人は。」
 
 ジュリエットは哀しみの目を彼に向けた。
 そのわなわなと震える可憐で細い片腕には、もう一つの漬物石を待機させて。
 
「…姉上、よしてください。そのような石で私を醜い姿に変えて、あなたは兄弟として恥ずかしく思われないのですか。」
「…思う。でも許せない!!!なら、一思いに醜い壁におなりなさい!!!」
 
 目茶苦茶だった。
 彼の後ろに乗る少年は、手綱を握るこの女性の側から離れてすぐにでも他人の振りをしたくてたまらなかった。しかし、彼と彼女は運命の赤い麻紐で固く結ばれていた。…もとい、結束されていた。

「…な、なんでこうなるわけ。」
 
 少年はじたばた動いた。しかし、彼女は自分の片腕にくくり付けた紐を引っ張る。するとキュッと締め上げられ、余計に少年は動けなくなった。
 
「…ジュ、ジュリーさん。どうしてぼくがしばられなくては…」
「だって、あなたがいなかったら、私が出てきた意味が無いじゃない。」
「え、だって、これじゃ僕全く関係ないじゃないですか。」
「そんなことないわ!私をここまで奮い立たせて下さったのも猊下のおかげ!かくなる上は私が全身全霊を賭けて愛して差し上げるのが務めですわ!!!」
 
 少年は自分がとんでもないものを起こしてしまったことを後悔した。
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【54】ジャストミート
 REDCOW  - 06/9/2(土) 5:13 -
  
 僕は何とかしてこの場をどうにかしたかった。
 彼らの軍勢は完全にドーリア軍を包囲していた。でも、ジュリーさんの攻撃は図らずもカールグリーフ公の集中力を解き、術の進行がストップしていた。
 
「ジュリーさん、兎に角落ち着いてください。ジュリーさんの力でなんとかならないんですか?」
 
 僕の言葉にジュリーさんは反応せず、まだ左手に漬物石を持ったままカールグリーフ公を見ていた。
 
「ガイファー、今すぐ軍を引きなさい。」
 
 その声はとても低かった。底知れぬ怒り、いや、哀しみだろうか。ジュリーさんの声の音色には僕には分からない彼との沢山の感情が詰まっている様に感じた。
 
「…幾ら姉上の命でも譲れない。…いや、最早手遅れだ。」
 
 彼はそういうと後方を振り向いた。
 僕等は彼の見た方角をみた。そこには沢山の軍隊の姿があった。その数は5000くらいだろうか、カールグリーフ軍とドーリア軍まで加えたなら一万を越える…。
 僕がそんなことを頭で思い描いている時、ジュリーさんは怒りに左腕をわなわな震わせていた。
 
「あれはエメレゲ都市同盟。」
「え、エメレゲ都市同盟?」
 
 ジュリーさんは僕の問い掛けには答えず、カールグリーフ公を睨むと左手に持った漬物石を器用にも利き腕の様に滑らかな動きで豪快に完璧なコントロールで投げ切った。漬物石は彼女が手から離す寸前に加えたひねりも入り、回転してまるで魔球の様に見えたに違いない。
 石はど真ん中ジャストミートでカールグリーフ公の腹に入ると、憐れカールグリーフ公は30m向こうまで吹っ飛ばされ、兵士達の頭上に落下した。
 僕はマジで目が点になった。いや、これがならないでいられるか!ってくらい…。
 でも、彼女はそれさえも計算ずくの様で、すぐに次の行動に移った。
 彼女は突然馬上から降りると、両手を上に上げて深呼吸するみたいな姿勢をすると、ふぅっと一息吐いて、両腕を真ん中で合掌して構えた。すると、彼女の体から白い光が輝いて地面に魔法陣が輝いた。
 あまりに突然のことに驚いたけど、彼女はまるで風の様にさらさらと流れるように動くと、それに合わせて風が舞い、その風がドーリア軍とカールグリーフ軍を包み込む。両軍を包み込んだ風は白い輝きの粒がキラキラと舞い散り、その輝きに触れた兵士達が次々に我に返り始めた。
 
「ジュリーさん…」
 
 僕は魔法の力は勿論、ジュリーさんの持つ力の凄さを知った。
 彼女はあれだけいがみ合っていた両軍の兵士をあっさりと呪縛から解いたのだから。
 ジュリーさんは一通りの行動を終えると、ダーグさんの方を向いて大声で言った。
 
「ダーグ!私は非戦なんだから、あなたしっかり指揮するのですよ!!負けたら承知しないわよ!」
 
 彼女はそういうと微笑んだ。
 当の言われた側はといえば、頭を掻きつつ苦笑しながら片手を上げて答えた。どうやら同意したらしい。彼は全軍に対して魔法陣を広げると、ドーリアとカールグリーフ両軍で5000の兵力をその指揮下におさめた。そして、
 
「我らが猊下の作りし大地を汚す不届き者を成敗する!いざ、我の願いに報いよ!!!」
 
 ダーグさんの声が木霊する。すると全軍がウォーーーー!!!って声と共に一声にエメレゲ都市同盟軍に向かって走り始めた。その速さは元々騎馬の多いアスファーン側だけに、エメレゲ軍も驚いたのか突然の攻撃に後退を始めた。
 
「ぐぅ、使えん男だ。引け!全軍退却だ!!!」
 
 エメレゲ都市同盟軍を率いた老将カント・ブル・ムスタークは全軍に退却を命じると、後退する軍の最後方に向けて手をかざした。すると、彼の手の平が輝いて横一文字に一斉に光線が飛んだ。その光線は追い上げるドーリア軍の手前を射ぬき、着地面が衝突時に爆音と共に砂ぼこりを吹き上げて視界と進軍を遮った。
 ドーリア公は怯まずに領域外部まで彼らの軍を追っていった。
 
 僕とジュリーさんは誰もいなくなった戦場に取り残された。
 …結局僕には何もできなかったけど、これで良かったのかな。
 
「ジュリーさん、最初からこうするつもりだったんですか?」
 
 ジュリーさんはまたも僕の問い掛けには答えず、黙々と突然前へ歩き始めた。
 僕は馬上でただ見ているだけしか出来ないでいると、彼女は前方で1人の男の人の姿を見つけた。
 僕は慌てて馬を降りてジュリーさんのもとに駆け寄ると、その人は先程ジュリーさんが漬物石で吹っ飛ばしたカールグリーフ公だった。
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【56】500
 REDCOW  - 06/10/20(金) 2:01 -
  
「…いいえ。幸運が重なっただけですわ。」
 
 ジュリーさんはそういうと僕の後方を目を細めてみやった。僕がそれにならって後ろを振り向くと、そこには王都からの援軍の姿があった。援軍を率いるのは白髪の初老の男性だった。とても品の良いルックスをしていて、どことなくカイルにも通じる物を感じる。
 その後ろにはカイルの姿もあった。カイルは僕等に気がつくと、初老の男に何かを告げたようだった。程なくして全軍の進軍が止まると、初老の男性とカイルが付きの者を従えて馬から下りて近づいてきた。
 ジュリーさんはそれを見ても動じずにカールグリーフ公の頭を膝に乗せていた。
 
「ジュリエット、カールか。」
「えぇ。」
 
 初老の男性は静かにそう問いかけると、ジュリーさんもまた静かに肯定するだけだった。二人の間には軍を利用し反旗を翻した謀反人をどうこうしようなんて気は無いように見える。そこにカイルがすぐに反応して付きの兵士達にカールグリーフ公を負傷者として丁重に運ぶよう命じた。彼の命令でカールグリーフ公は負傷者として運ばれていく。ジュリーさんは運ばれていくカールグリーフ公に付いて行った。
 
 僕はカイルと初老の男性に何を言っていいのか正直分からなかった。目前で展開される事柄の全てが非現実的過ぎて僕のキャパシティーを越えている事態ばかりだった。でも、おかしい。こんなに色々なことが起こったのに妙に落ち着いている。…まるで、昔経験していたかのように。
 運ばれていったのを見届けると、初老の男性が僕に話しかけてきた。

「君が賢者様の生まれ変わりという少年ですか?」
「あ、…えーと、僕にはわからないですが、そうらしいです。」
「分からない?…はっはっはっ、そうか。いや、そういうものだろうね。自分から賢者だというほうがよっぽど怪しい。なんとなく、私は君が自然に感じるよ。」
「ありがとうございます。あ、僕はシグレ・クルマと申します。失礼ですが、あなたのお名前は?」
「丁寧にありがとう。私はジスカール・アスファーン。我が王の弟だ。この王都の軍の指揮を預かっている。」
「あ、じゃぁ、追わない方が良いと思いますよ?」
「なぜ?」
「いや、敵軍の勢力は全部で5000ですが、追っていったダーグスタさんの軍は、彼の2000とカールグリーフ公の軍の3000を合わせて5000でした。同じ数で領内でしかも平地部という状況に、アスファーン軍側の構成が騎兵ということを考えても、圧倒的に有利だと思います。ダーグスタさんには援軍がこれる体制があると伝えて領外に追い出させたら、軍を引くように命じるだけで済むかと思います。もし不安に感じられて援軍を出したいということでしたら、騎兵で500程を国旗を持たせて横一列に突っ走らせてはどうでしょう?」
 
 僕の言葉にジスカールさんは驚いた表情で暫く止まっていた。何か不味いことを言ったかなと思っていると、突然シャキンとスイッチが入った様に矢継ぎ早に部下に命令を下し始めた。しかも、その命令の内容は僕の言った内容に沿ったものだった。
 
「今王都を空にするわけにはいきません。あなたはしっかりと敵と味方の勢力を把握している様に感じられる。ならば、あなたに従うのが正しい。」
「え、そんな、確かに数は正しいとは思いますが、これは飽くまで子どもの考えたことですよ?」
「子ども?タダの子どもかどうかは今にわかります。」
 
 彼はそういうと、500の軍勢を援軍としてカイルに任せて送り出し王都へ帰還の号令を出した。僕も彼に王都へ一緒に帰る様に言われたけど、カイルのことが気になった。たったの500人で何ができるんだろうか。もし僕の言葉が間違っていたら…カイルは殺されてしまうかも知れない。そう思ったら無責任に発した自分が嫌になる。

「僕もカイルの軍に同行させてください!」
 
 僕の突然の申し出に初老の男性は困ったような表情をしたが、優しく微笑んで言った。

「心配性の様ですな。あなたの采配は正しい。しかし、ご自分の采配に責任を持たれることもまた大切なことです。良いでしょう。部下を1人あなたにつけます。彼に連れていくよう指示しましょう。」
 
 そういうとジスカールさんは彼のすぐ後ろに仕えていた、緑の髪の僕とそう変わらない少年っぽい兵士に声を掛けて指示を与えた。彼は僕に馬を寄せると手を差し出した。
 
「どうぞ、お手を。」
「うん。」
 
 僕は右手で彼の手を握った。すると、彼が僕を握った手でふわりと軽々上に上げてくれた。なんか呆気ないくらいに簡単に馬上に乗った僕を確認すると、彼は僕に彼に捕まるよう促すと、すぐに馬を走らせ始めた。その視界の前方には先行するカイルの軍が見えた。
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