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ドームの奥、じめったい空気とかび臭い匂いのなか一人の少女がある機械をいじっていた。
機械の周りには多くの工具が散らばっており、それこそ足の踏み場もないものである。
ただし、床とは違って少女はロボットに対してとても丁寧に扱っていた。
連日の作業で疲れているにもかかわらず少女――ルッカは長期間放置されていたロボットを修理した。ロボット――ロボは、起動するとともに記録の混乱などがあったが、いまあ落ち着いている。
「クロノサンとマールサンはドウシタノデスカ」
「あの二人なら監視者ドームにいったわ。理の賢者に会いにね」
ルッカはロボの動きを確認していた。
「やっぱりロボも『前の周』のこと覚えているのね」
「ハイ。クロノサンとの共に戦った日々。400年間フィオナの森を見続けた記録。全て残っていマス」
「そう、ね。ねえロボ。私達の周りで一体なにが起こっているのかな」
「やはり、ダレカの陰謀なのでショウカ?」
「まだ情報が足りなすぎるわ。ボッシュはなにも知らなかったけど、ガッシュやハッシュなら何か知っているのかもしれない、と思いたいけどあまり期待はできないわね」
「クロノサンとマールサンは知っているノデスカ?」
「ええ、でも可能性にかけてみたいじゃない? それにガッシュは……」
「訪ねたときにはナクナッテイマシタネ」
「ええ」
無言。
ルッカは作業をし続けた。
”サンダガ”
”サンダガ”
”サンダガ”
四回目の三連続の雷撃。
突き抜けた雷撃はクロウリーさまから放出される。
クロウリーさまの驚異的な復元能力を細胞の限界から焼きつかせる。
クロノはカタナを、マールは弓を構える。しかしクロウリーさまは限界をむかえて灰となり消え去った。
「マール、大丈夫?」
敵の脅威が去ったのを確認してクロノはマールにかけよる。手に持ったミドルポーションを傷口と体内に取り込ませる。
「少し頑張りすぎたみたい」
「復元にかかる時間差に気づかなければ大変だったよ」
「へへへ」
額に汗がにじみ、顔色も少し悪くなっているが、精一杯の笑顔を見せたマール。
マールの体調が十分に回復すると地下水道跡を出た。
地下水道跡を出ると、そこは前と変わらない風景が見えた。
死の山も監視者ドームも。変わらない風景。こわれた風景。
「死の山も、ドームも変わらないな」
二人は死の山の山道を通りすぐ、監視者ドームに歩いた。
ちょうど監視者ドーム入り口近くでマールが聞いてきた。
「ガッシュはわたし達のこと分かるのかな? ……といってもわたし達の会ったのはガッシュさん本人じゃないけど」
『前の周』ではクロノたちはガッシュの思考パターンが入ったヌゥと出会っていたが、ガッシュ本人とは会うことはなかった。
「ボッシュは聞いてもなにも知らなかったことを考えると、やっぱりルッカのいったとおりなにと考えたほうがいいかも……、あけるよ」
クロノは扉に手をかけ、監視者ドームの扉を開けると、そこは以前とは違った人の気配。今まで二人が訪れたどこのドームよりも人の気配があった。
しかし、ライトはついていなく、二人は目の前は薄暗い。足元にはガラクタ。二人は手を引きながらその気配のするほうへ向かう。
数メイトル歩いたところでクロノは足を止めた。
マールのそれに続いて足をとめる。
それからクロノは体を動かすことをとめた。
クロノの額には銃口。
人の気配があったことに油断していた。
いきなり銃口を突きつけられるとは、おもわずマールが動こうとするが背中から硬い何か、おそらく銃口を押し付けられた。
他にも数人がクロノとマールの周りを取り囲んでいる。
クロノはよくルッカにミラクルショットで殴られているが、こうやって突きつけられるのははじめてである。ガルディア王国の兵士にも銃士はいるのだが直接対峙することはなくここまで来た。と、ここでクロノは銃についてあまり知らないことに気づいた。クロノの技術の多くは、剣技に注がれている。ウェポンマスターと称される師匠からは剣技を中心に、中近接戦闘を主として鍛えられたためあまり遠距離に対しては覚えなかった。ある程度の基礎知識らしきものはあるのだが、正直忘れている。銃に関してはルッカの方が師匠から学んでいたのであまり気にしなかったせいもある。そのため、内心、まずいと感じながら、どのように対応するべきなのか考えていた。
「何用だ」
低い男性の声。クロノに銃を突きつけているほうの男が発した声。それほど歳を食ったわけではなく、年齢の近さが感じられる若者といった印象をクロノは受けた。
「人に会いに来た」
正直にクロノが答えると、男は少し黙り、さらに質問をしてきた。
「どこから来た」
「アリス、ドーム」
「……誰に会いに来たんだ?」
「ガッシュ、という老人に会いに来た」
「そんな人物は知らん」
男は即答した。
「魔神器、海底神殿、黒鳥号を見たことがある」
気配のいくつかが動くのを感じた。
男もその単語に何かあるのか、動きを止めていた。
しばらく、硬直状態が続くと、近づいてくる気配がある。そして、小声で何かの話が広まる。
やがて、銃口を突きつけている男に伝わる。
「少し歩いてももらう」
男は銃口をクロノからはずした、同じくマールの背中に突きつけられていた銃も離れる。
男が先導し、クロノとマールはその後ろを歩く。さらにその後ろからは何人か付いてくる。
50メイトルほど歩いたところにある部屋に入れられた。
部屋の中は簡素なもので、ソファーらしきものが二つとディスプレイがあるだけであった。
「座っていてくれ」
二人が腰掛けたのを見ると、男も座った。どうやら、客人として迎えているようだ。
男は二人を見て口を開いた。
「さっきはすまなかった。
最近物騒な輩が出歩いていて少し警備を強くしていたんだ」
「輩といいますと?」
「まあ、それはいい。
君達は他の大陸の人間なんだろ?」
「ええ、まあ」
「なら分かると思うが、この大陸は異常なほど機械が支配している場所。
おかげでこの大陸のドームの人々はみな生きる気力を無くしてしまっている。
そんな中でもこのドームは、おそらく唯一活気のあるドームなんだ」
「活気のあるドーム?」
「チーフ、喋りすぎでは?」
クロノたちの後ろに座っていた男が言った。
「大丈夫だ、それにいくつかの知らせるようにといわれていただろ?」
「しかし」
「心配するな」
先ほどまでクロノに銃口を向けていた人物とは思えないほどの笑顔で部下であろう男に言った。
部下であろう男も、チーフと呼ばれたこの男にそれ以上なにも言おうとはしなかった。ただし、少し納得がいかないといったことが顔に表われていた。
マールが顔を向けると、その部下であろう男は顔を背けた。
「まあ、話が折れたが、どこまで話したか……
え〜と、たしか唯一活気のあるドームというところまでだったかな」
「はい」
「君達はアリスドームから来たといっていたから、少しちがうだろ?」
「ええ」
「例えば、我々のようにドームを守る組織があること。
他のドームでは、ドームを守る組織はなかっただろ」
「はい」
「それには理由がある。
このドームは、他のドームから集まってきた人間で構成されている。
生まれたドームの暗い雰囲気になじめなかった者。
ドームの外に出てミュータントに襲われた者。
そんな人間が集まってこのドームを自分達で動かしている。
知っているかどうか分からないが、他のドームは人間が住むのに最低限な自動環境制御システムが働いている。しかし、このドームにはそれがない。
なぜか、それはこのドームが機械に反抗するレジスタンスでもあるからだ。
機械のヤツらは、オレたちがこのドームに集まり、機械に反抗するそぶりを見せていたために、かなりはじめのときに自動環境制御システムを破壊されたんだ。
他のドームはこのことを知っているから機械に手出しはしたくないと考えているのだろうが、それでは機械共の思うツボ。
だから、オレ達は何とか自動環境制御システム自分達の手で直そうとしたんだ。
でも、自動環境制御システムはもう100年近い前のシステム。
当時を知るものはいないから、ほとんど手探りで直していったでも、それも途中で難しくなった。そんなときに、数年前にこの大陸にガッシュさんが現れた。
ガッシュさんはオレ達の知らない技術で、いままでの自動環境制御システムを作り出したんだ。
そこからオレ達は仲間を集め、機械から再びこの大陸の支配権を取り戻すために戦っている。いまはまだ、このドームの守りを固めることを優先しているから、まだまだ機械共との戦いは避けている。
なんたって相手は無尽蔵に兵士がいる。
人間は有限だから、持久戦になったら確実に敗れるのはこっちだ。それに相手は面倒なことに学習機能を持っている。それを考えると、一気に畳み掛けるって言うのが…」
そこでチーフの話は終わった。なぜなら、部屋に青い服を着た小さな老人――ガッシュ、ガッシュに付き添うようにヌゥ、そしてガタイのいい男が入ってきたからだ。
「エド、彼らが……」
チーフは立ち上がり紹介した。
「ええ、彼らが先ほど伝えた二人です。
おっと、紹介が遅れた。オレは組織の自衛部門のチーフをやっているエドガーだ」
クロノとマールも立ち上がった。
「オレはクロノ、彼女はマール」
ガッシュはつぶれた声で紹介を始めた。
「私は、もう知っているかもしれないがこのドームの所長のガッシュだ。
後ろにいる、青いのはヌゥ。
となりにいるのがこのドームの責任者の一人、自衛部門のリーダーのトルエ」
ヌゥの方は全く動かないが、トルエの方は柔らかい直礼をした。
「すまないが、自衛団の人たちは少し外してもらえないか」
「なっ!!」
チーフのエドガーとリーダーのトルエ以外は、何か抗議しようとしたが、二人に制止される。しぶしぶ、エドガーとトルエに連れられて部屋を出る。
自衛団が外に出たをの確認すると、ガッシュは二人にソファーに座るように勧め、自分も二人の目の前の席に座る。
「おぬし達が見たという海底神殿、黒鳥号は本当の話か」
「はい、それでガッシュさんはわたし達に見覚えがありますか?」
「見覚え、か」
長い白い眉毛のそこに隠された目がうっすらと大きくした。
「いや、ないな。
おぬし達のような、懐かしい力を持ったものならば忘れないと思うが」
「懐かしい力?」
「過去に失われた力。
エレメントが広まるとともに次第に使われなくなった力。
時に神の法、魔の法と呼ばれる力。
自らを最も消費する力」
クロノとマールは自分たちのことを話し始めた。
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