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【147】強くてクロノTrigger まえがき Double Flags 08/8/12(火) 2:14

【195】-24- (第九章  魔の村の人々1邂逅) Double Flags 10/9/20(月) 20:39
【196】-25- (第九章  魔の村の人々2魔族と魔物) Double Flags 10/9/20(月) 20:40
【197】-26- (第九章 魔の村の人々3魔女) Double Flags 10/9/20(月) 20:45
【198】-27- (第九章 魔の村の人々4魔女その二) Double Flags 10/9/20(月) 20:53
【199】-28- (第九章 魔の村の人々5異国の来訪者) Double Flags 10/9/20(月) 20:54
【200】:-29- (第九章 魔の村の人々6師匠) Double Flags 10/9/20(月) 20:56
【201】-30- (第九章 魔の村の人々7北の洞窟) Double Flags 10/9/20(月) 20:58

【195】-24- (第九章  魔の村の人々1邂逅)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:39 -
  
「知っている。僕じゃ君を倒せない」
「同時にオレもお前を倒せない。
 『相克』
 それがお前らがオレに与えた呪い」
「でも、それは……」
「それで再び時間を繰り返そうというのか? 彼らに再び悪夢を見せようというのだな」
「………」
「オレは、オレはのやり方で変えてみせる。この世界を、自分の運命を」
「………それは……」
「邪魔をしたければ、邪魔をするがいい。思う存分に、彼らを使ってな。
 お前……お前達がオレ達にやったことをオレは赦せない」
「………」
「黙っているんだったら消えろ!!」
「…………………………………………また来るよ」
 少年は消えた。
 いつものように、もう何回も見た光景。
 いつものようにあの少年の後ろを追ってしまう。
 自分は少年に止めて欲しかったのだろうか。
 それはもう何回も考えた。
 でも自分の中の復讐は終わっていない。
「もう、あの頃の自分には戻れないんだ。過ぎた時間は戻せない」


 現代 メディーナ村


  グオォン

 民家のタンスから三人が飛び出してきた。クロノ、ルッカ、マールである。
「おおお、お兄ちゃん。タンスから人間が出てきたよ」
「全く、人様の家に無断で入ってくるとは礼儀を知らない奴だな」
 この家の主らしい魔族二人の言葉を聞いてマールはつぶやいた。
「また言われちゃったね」
「しかたないさ」
「さあ、二人とも離れて」
 ルッカは再びゲートホルダーを取り出し、起動させた。
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
「二人は先にボッシュの家に行ってて、魔族さんたち、ごめんねまた来るけど」
  グオォン
 タンスを開け、ルッカはロボを連れてくるために時空の壁を越えた。
「すごいね、最近の人間は消えたり現われたりできるんだ」
「人間もずいぶん忙(せわ)しなくなったものだな」
 感心している魔族の兄弟をよそにクロノとマールは外に出ようとする。
「ちょっと待つんだ」
「え、ええ?」
 二人は呼び止められ、思わず立ち止まる。
「ここがどこだか分かっているのか」
「メディーナ村だろ」
「そう、このメディーナ村は、魔族の村。
 400年前、人間との戦いに負けた魔族の子孫によってつくられた村だ。この村に住む魔族のほとんどは人間に対して憎しみを抱いている。
 気をつけな。
 西の山の洞窟の近くに、ちょっと変わった人間のおじいさんが住んでいるんだ。きっと兄ちゃん達の力になってくれるよ」
 クロノとマールは顔を見合わせた。
「教えてくれて、ありがとう!
 でも…… なぜ私達に親切にしてくれるの? 魔族は人間を憎んでいるのでしょう?」
 マールの言葉に魔族は、静かに答えた。
「人間と魔族が戦ったのは400年も昔の事だ。いつまでも過去に囚われていても仕方がない。
 まあ、私達のような考えを持った魔族はほとんどいないが……」
 その魔族の目には、今の魔族たちを哀れんでいるようでもあった。


 メディーナの村を出たクロノとマールは石の敷き詰められた街道を行く。
「前はただの草原に獣道っぽかったのに」
「……歴史が変わっているということなんだろうな。
 なにかメディーナの村との交易があるのかもしれない」
 その街道をしばらく歩いていくとボッシュの家が見えてきた。
「前より早くついたね」
「これもあの街道のおかげなんだろうな」
  キィィィィィイイ
 高い金属音が響く。
 二人は体を強張らせた。
「今のは……?」
 知っているわけではなかったが、マールを見る。
「早く行こうクロノ」
 二人は音の近く、ボッシュの小屋へ駆け出した。

 近づくと2つの何かの戦闘が行われていた。
 一つは巨大な目玉を持った緑色の巨人。大きさはボッシュの小屋ほどの大きさもある。
 緑の巨人が動くたびに、近くの木の葉が散る。さらには木の葉は地面に落ちる前に茶色に変色する。
 二人はさらに近づくいていくと、そこでは一人の人物が戦っていた。
 その姿が確認された後、クロノはすぐにカタナの柄を持つ。
「師匠!」
 先に一気に駆け抜けるクロノを援護するようにマールは瞬時に補助魔法の構成を行った。

  ”ヘイスト”

 クロノの体が濃い赤に包まれる。一気に加速する。
 そのタイミングを計ったように、師匠と呼ばれた人物は後ろへと下がる。

  ”流々舞”

 クロノの抜刀によって、巨人の片腕を切り落とす。
 巨人はバランスを失いかけるが、すぐに足を出し蹴り上げてきた。
 わざの直後でクロノは巨人の足にまともにぶつかる。
 クロノが師匠と呼んだ人物のさらに後方へととばされ、背を一回打ち付けられ、地面に転がり回転しながら止まった。
 クロノはすぐに体勢を立て直し、緑の巨人を見る。その姿はすでにもとのまま、斬り取られた片腕が生えていた。
「なっ!」
 片腕がいきなり生えた緑の巨人に、再びクロノはカタナを握る。
 そんなところで師匠と呼んだ人物がクロノに声をかけてきた。
「久しいなクロノ」
「お久しぶりです師匠。ですが、この状況は一体なんなのですか」
「油断していた」
 師匠が見せたのは右手にある折れた剣を見せた。
「まさか、観賞用の剣がこれほどまで脆いとは」
「あれを使ったんですか?」
 クロノの記憶の中に、ボッシュの小屋にてボッシュのいつも立っている場所にの後ろに飾ってあった剣を思い出した。
 観賞用であったために見栄えはよく、持ちやすいがどこか実戦で使ったら脆い感じが見えていたのだ。
「?」
「それよりなんでそんな折れた剣をいつまでも持っているんですか?」
 言われ師匠は自分の折れた剣を見る。
「これか? これにはこれの使い方があるんだ」
 師匠はマールを見て、
「マール、援護はいい。
 ボッシュとタァーー、亜人を守ってくれ」
 名前を呼ばれたマールは驚きながらも、すぐにボッシュの小屋をみてそこにいる二人、ボッシュと亜人の二人を見つけマールは二人に駆け寄り声をかけた。
 それを確認すると、再びのろのろと動く緑の巨人に向き直る師匠。
「師匠、これは一体?」
 この事態の説明を求めたがクロノは制止された。
「話も何も後にしろ、この『エレメント』を倒す。さっきのようにあいつを切り刻め」
「『エレメント』って」
「話は後だっていただろ?」
 やさしく言い返されクロノは剣を構え、師匠の前に出た。
 場所を代わりクロノが緑の巨人に対峙する。
 そのクロノに対して緑の巨人は大きな腕を振り下げた。
 クロノは飛び上がり、直撃を防ぐが、風と突然出現した葉っぱに弾き飛ばされてしまう。
 吹き飛ばされながらも体をひねり、地面に着地。攻撃対象を自分に向けさせるためにクロノはグリッドを開き、白のエレメントを発動させる。

  ●レーザー(白)

 高圧縮された光が一直線に放たれる。

  クアォォォォオォォォオオオオン

 光は緑の巨人におなかに穴を開けた。
 巨人の注意がこっちに向く。
 クロノは加速している体で素早く巨人の下にもぐりこみカタナで一閃した。
 しかし途中でクロノのカタナは止まる。
 緑の巨人から吹き出した葉っぱによって止められてしまう。
  ザザザザザ
 その葉っぱは巨人の体から放出される。クロノはたじろぐが、カタナを持ち直しわざを放つ。
  ”回転斬り”
  バササササササササ
 葉が割れるように斬られていく。
「もう大丈夫だ」
 その声と共にクロノの視界に影が映る。
 クロノはわざを止め、体についた葉っぱを払いながら巨人と距離をとるように後ろに下がる。
  ガガガ
 奇妙な鳴き声が響くと、巨人の巨大な目玉にさっきまで師匠が持っていた折れた剣が突き刺さっていた。
 口のない巨人がうななき、それでも巨人は倒れない。とくに目玉が弱点というわけではないらしかった。
 師匠はそれでもにやりと笑い、手元が強く光る。

  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)

 師匠は連続して青く見える氷を緑の巨人にぶつけ、凍らせていく。
 緑の巨人が半身凍ったところで、師匠は巨大な銃口を持つウェポンを手に持ち弾丸を放った。

  ズダン

  パアァァァァァァァァンンン

 近距離での弾丸は緑の巨人の氷の残骸を撒き散らした。
 あたりが冷たい空気と風につつまれていく。
 緑の巨人の半身は、その後薄くなり消えていった。
 師匠の手から光が消えた。
「師匠」
 クロノが師匠に走りよる。
「助かったよ。クロノ」
「今のは一体?」
 さっきの質問を再び行う。
「エレメントという物質がモンスター化した姿さ。
 見る限り魔族、魔物に似た姿をしているが全く別の不思議な生命体。
 最近になってこの中央大陸の東側で見られるようになった新種の生命体さ」
「エレメントのモンスター?」
 寄ってきたマールがつぶやいた。
「ああ、東の大陸じゃよく見られる生命体なんだが……」
「なんでそんな遠い所の生物がここまで来ているのか」
「さあ? この大陸でははじめて見たからな、原因はよく分かっていないんだ。
 ところで、なんでこの魔族の大陸にお前達が?」
「そ、それは……」
「? まあいい、話は後でゆっくり聞こうか」
 師匠に促されるようにボッシュの小屋に入っていった。
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【196】-25- (第九章  魔の村の人々2魔族と魔物)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:40 -
  
 時は少しさかのぼりA.D.600。
 ヤクラ戦後、一人中世に残ったカエルはデナドロ山に登っていた。
 グランドリオンを復活させるためにその刀身を求めていたために登っていたのだ。
 カエルは思いのほか順調に登っていた。魔物が多いデナドロ山でも威圧でなかなか出てこず、ほとんど襲ってこなかった。
「これは思ったより早く着きそうだな」
 一人つぶやき、カエルは思い出していた。
 かつてサイラスと共にこの山を登り、グランとリオンの試練をサイラスが受けたことを。


 青色の鋼のよろいを取り付け、その間から見られる鍛えられた筋肉。その重たい筋肉を感じさせない速さでグランに近づき、剣で叩きつけた。
 すでに目を回し倒れたリオン、そしてグラン。そう時間が経たないうちにグランドリオンを守る精霊が倒された。
「さすがだなサイラス」
 緑色の髪が特徴的な青年――グレンは、グランドリオンの精霊を倒した男――サイラスに激励を飛ばした。
「ああ、ひとまずはな」
 まだサイラスの表情は厳しい。
 グレンもその様子に気になり、ふとさっき倒れていた精霊が浮かび上がるのを見た。
「本当にすごいな。僕たちを本気にさせたのは久しぶりだよ」
「なっ!」
 驚きに声を上げるグレン。
「まだまだグランドリオンの試練は終わっていないようだな」
 サイラスは再び剣を構えた。
「君の名前は?」
 精霊の一人、リオンが声をかけてきた。
「サイラスだ」
「サイラスか、サイラス」
「ならサイラス。今度は僕たちも本気で行くからね」
「分かった」
「あはは、こんなにもあっさり負けたのは本当に久しぶりだからな」
「今回はどうなんだろうね、兄ちゃん」
 精霊はそれぞれの距離をとった。
「勇気のグランに――」
「――知恵のリオン!」
「「コンフュージョン」」
 二人の姿が重なり、光を放つ。
 その光量のため、目を閉じる。
 再び目を開けるとそこに現われたのは黄緑色の巨人。
 巨大な筋肉の団子といった形の体形に、力を象徴するような角をもつ巨人であった。


 思い起こしているうちのカエルは山頂にたどり着いていた。
 後は下っていき、風の洞窟へ行けばグランドリオンの元へたどり着けるはずだ。
 そして山頂にはいつもどおりマモが一人座っていた。
「よう」
 カエルは何気なく声をかけていた。
 マモは振り返りもせず一言。
「山はいいよね」
「ああ、確かに山はいいな」
「いいんだよねこれが」
「あんたはずっとここにいるのか?」
 なんとなくカエルは聞いてみた。
「そんなことないモ。
 マモは自由に旅をして、自由に山に登っていいるモ。
 マモ一族はそうやって生きてきたモ」
「同族には会うのか」
「年に一回会えばいいほうダモ」
「寂しくはないのか?」
「そんなことはないモ、昔はそうでもなかったけど、マモたちもう何百年も一人で旅をして、一人で一生を過ごしてきたモ。
 それはマモ一族でなくても、ほとんどの魔物はそうだモ。
 一緒に生きているのは、生きている場所が一緒だからだモ。
 いわゆる共生という奴だモ。
 だからマモのような旅の魔物はいつも一人が当たり前だモ。
 お前、おかしな事いうモ。
 そんなこと聞くなんてまるで人間みたいな事いうモ」
「人間みたいか・・・あはは」
「人間みたなにおいだけどちょっと違う。亜人どもとも微妙に臭いが違う。
 魔力を見ても魔物に近い奴なのに」
 マモは崖から起き上がり、カエルをじっと見た。
「それともお山の大将みたいに、魔物と魔族に人間の格好をさせている奴なのかモ」
「お山の大将?」
「この辺でお山の大将って言ったら奴しかいないモ。
 ヤクラの奴だモ。
 マモ一族には及ばないけど、少しの知恵と力があるからこの辺で威張り散らしていた馬鹿な奴も。
 あまつさえ人間に退治されるなんて大バカだモ。
 お前も誰かにつくときは、マモのような立派な奴につくモ。
 あんな馬鹿につくとろくな事がないモ」
(ふ〜〜ん、人間から見れば魔物も魔族もあまり変わらないように見えても、人間と同じ長い時間を過ごしてきたのだ。
 社会の形成がなされてもおかしくないか)
 少し魔物と魔族に興味が湧いたカエルはマモに次の質問をぶつけた。
「魔物と魔族は何が違うんだ?」
「・・・お前そんなことも知らないのか?
 全く最近の新種や若い魔物は一体何を学んでいるモ。
 あとで長寿会にしっかり言っておく必要があるモ」
「長寿会?」
「今のお前には関係ない話モ。
 そんなことより、マモが少し教授してやるからそこに座るモ」
 言われてカエルはその場に腰を下ろす。
 山頂近くといってもこのあたりは余り人も獣も通らないため、草のじゅうたんとなってカエルを包む。
「まずはお前が魔物だって言うことはわかっているモ?」
「あ、ああ」
 生返事をしたカエルを睨みつけるマモ。
「分からないって言う顔をしているモ」
「・・・・・・」
「まあいいも。
 これから説明するから、しかと聞くが言いモ。
 返事は!」
「はい」
 しぶしぶと声を上げるカエル。
「まず魔物だモ。
 魔物はすっとすっと昔から住んでいる種族のことだモ。
 人間や龍人よりももっともっと昔から、この星の自然のちから中で進化してきたものモ」
「龍人」
 聞きなれない言葉に思わずつぶやく。
「お前そんなことも知らないのか。
 龍人はここからもっともっと東、極東と呼ばれるところに住んでいる種族だモ。
 人間より少し前に出てきたヤツらが長い年月の中、自らは進化したとか言って龍人とか言っている世間知らずな奴モ。
 あいつらは、先祖が人間に助けられたからといって、大地のおきてに従い人間の住む世界には干渉しないと決めた奴だモ」
(なるほど、確かに前のときはマールが僅かな恐竜人を助けたのだったな。それが恐竜人の進化を呼び、龍人となったわけか)
「あんな偏屈な奴らはどうでもいいも、今は魔物の話だモ・
 魔物の中には、知能が高いマモのような種族もいれば知能が低い種族もいるモ。
 一般にこの人のはびこっている世界では、知能の低く人間を襲うものが魔物と呼ばれているモ」
「なるほど、でもそれはオレが魔物だっていう話にはならないぞ」
「そうだけど、これから話す、魔族の話がここに通じてくるわけなんだモ。
 魔族って言うのは、いわば人間の亜種だモ」
「!!」
「ふん、驚いているのかモ?」
「確かに共通点があるけど……」
 カエルの頭の中にはその事実はすんなり入っていかなかった。
「人間っていうのは、自然に感化されやすくひ弱な生き物だモ。
 天から魔法が降ってきたときに、その力に耐えられなかった人間が魔物化した人間が今では魔族と呼ばれているモ」
「人が魔物化……」
「姿や形が人に近いものが魔族といわれているけど、実際は違うモ。
 魔族は人間の機能の一部が以上発達したものモ。
 多くは魔法の力を得たりしている奴がいるけど、肉体的、体術などが強くなったものがいるモ。それが今の魔族の種族に関係しているモ」
「天から魔法が降ってきたというが……」
「マモたちはそれを魔素と読んでいるモ」
(魔素……、ラヴォスのことだな)
「遥か遥か昔、天より降った隕石が魔法の力を落とし、それを浴びた人間が魔族へ。
 魔物はさらに強力な生物へ、恐竜人は龍人へと進化していったものモ」
「他にも亜人というものがいるけど、あれはエレメントの影響で人間が魔族化したものモ。
 実際の人間とあんまり変わらないけど、少数だから稀にマモたちの世界に来ることがあるモ。
 まあ、亜人は世界に広まっていないからそんなに見ることは余りないモ」
(亜人か、確かにゼナンではあまり見ないな)
「勉強になったか?」
「ああ、色々と、ありがとう」
(ふむ、つまり自然に発生してきたものが人間、恐竜人、魔物。
 ラヴォスが降ってきたことにより、人間が魔族に、恐竜人が龍人になった。
 そして、エレメントによって、人間が亜人になった……のか?
 ? エレメントとは?)
「そうか、それは良かったモ。これをもっていくといいモ」
 マモはスコップをカエルに渡した。
「それはマモ一族の交友の証として渡すものモ。
 ありがたく受け取っておくモ」
 そのスコップはマモの手に合わせた小さいものであった。
「それを見せれば世界中のマモ一族がお前達に手を貸してくれるモ。
 それに地面を掘ることが出来る優れものだモ」
「? なぜ、このスコップを」
「マモはずっと一人で旅をしてきたモ。
 その中でなかなか他の魔物と話す機会が少ないモ。
 こんなに長くマモの話を交流場(コミュニティ)の場以外で聞いてくれたのは久しぶりだモ。
 ありがたく受けとるモ」
「有難く受け取っておくモ」
「堅苦しい奴モ。
 もっと気軽に生きて行くも」
「出来れば、そうなりたいものだが」
「本当に人間みたいな奴も、でもお前見たいな奴が人間だったら、この大陸はどんなに住みやすいことになるモ」
「はは」
 軽い笑い。
 この姿だからこそ、グランドリオンだけでなく手に入れられるものがあるか……。
「じゃあな」
 カエルは腰を上げ、立ち上がる。
「また来るモ」
 そしてしばしの休息は終わった。
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【197】-26- (第九章 魔の村の人々3魔女)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:45 -
  
 デナドロ山の風の洞窟近く。
 風が強く、まるでここに来るものを拒むようにも感じられる。
 その中で寄ってこなかったモンスターに打って変わって、ただ一匹。
 フリーランサーが襲いかかってきた。
 カエルはそれをやすやすと退け、グランドリオンのかけらのある風の洞窟の中に入っていった。
 わずかな光、それは神秘的な空間を作り出していた。固く湿った地面、太陽の光が最も集まる場所にそれはあった。
 それに近づくカエルの中に一つの疑問が浮かんだ。
 誰も止めてこないのである。
 いつもならグランとリオンが駆け寄って止めてくるはずなのに。
 カエルは周囲の気配を探った。
 ……。
 しかし、二人の気配は、ない。
「!」
 代わりにこの小さな洞窟全体に広がる奇妙な気配に気づいた。
 体が震えた。
 何者かがそこにあるという気配。
 別に戦う気も、探る気もない。
 ただあるだけの気配、その気配、カエルはどこかで感じたことがあった。
「私だ、醜きカエルよ」
 カエルは掴んでいたシャインブレードから手を離した。
「おっと、安心するのはまだ早いぞ。グレン・コンフォート」
「……何の様だ魔女」
 姿の見えない相手に向かいカエルに話しかける。
「少しな、借りを返さなくちゃいけないくてな」
「オレの呪いを解けなかった借りか?」
「私は解く情報を与えたはずだ。お前の対価ではそれしか出来ないよ」
「それなら何の様だ」
「試練だよ。私が考えた課題をこなすだけの話だ」
「? 納得できないが内容は」
「私と戦うことだよ」
「………」
 カエルは洞窟の入り口を見ると人影が見えた。
 カエルが魔女と呼んだ女――クレフォース・ムートン。
 かつてゼナン大陸に現われ、いくつもの奇跡を起こしたと言われている女性。魔王軍の出現と共にその姿を消し、魔王軍によって殺されたとさえ噂された。
 しかし実際、彼女は世界中を旅していたため、期間が経ちゼナンの地を去ったに過ぎなかったのだ。カエルはこの姿になって偶然彼女を見つけ出し、呪いを解く方法を聞いたが魔王を倒さなければならないと教えられる。
 その後聞いた対価としてたまに面倒なことを押し付けられることあった。そのことからカエルから魔女と呼ばれている。

  シュッ

 突然クレフォースからナイフが投げられ、カエルの足元に突き刺さる。
「……上手くよけたね」
「ふざけるなよ、一体誰がお前に俺を鍛えろっていうんだ」
「ふっ」
 不適に笑うクレフォース。
「依頼者のことは明かせないよ。
 それに私がそんなふざけたことを言うなんて一度もなかっただろ」
「……」
 カエルは苦い顔をした。
 何回もこき使われていたことを思い出し、たしかに彼女はふざけた事をいうことはなかった。
 いや、普通に考えたらふざけたことかもしれないが本人はまじめに言っているからたちが悪いのだ。
 彼女の気配が見える。
 こうなることは予想は付いていた。
(覚悟か)

 クレフォースは実際何も考えていなかった。
 今のカエルの実力を知るということで、簡単に戦うという選択をしたまでだ。
 現在、カエルの手にあるのは銘は知らないが、相当な魔力を秘めている剣だという。
 油断は出来ない。まあ、はじめからするつもりはないが。
 両手甲にそれなりの硬度のある金属。両足には別の金属が仕込んであるコンバットブーツ。
 女性の体には十分に重いはずだが、もう何年の前からこの装備で世界を歩いてきたクレフォースにとっては慣れたものである。
 クレフォースの考えでは、とりあえず体術のみで相手をしなければならないと考えていた。
 実力の程では自分を倒せるまでいけるか、少し分からない。
 依頼者からは自由にしていいといわれていたが、それはそれで困ったものである。


 カエルの斬撃はすべて手甲によって軌道をずらされ、焦りを感じていた。
 世界中を旅して手に入れたと思われる体力。
 一向に疲れが見られない。
 ついには強い脚力を持って攻撃され始めている。
 何か靴に仕込んであるのか、一発一発が重い。
 剣の間合いを取ることも出来ない。
 カエルの足が崩れる。
 しかし、カエルは自分の体制が崩れるのを利用した。
 不意に下がった大勢でクレフォースの隙を作る。

(ジャンプ斬り)

 下から、カエル自身の持つ脚力で斬り上げる。
 その攻撃にクレフォースは反応が遅れてしまい、斬られる。
 体が上下に交差し、カエルはクレフォースを飛び越え着地。
 すぐに振り返る。
 クレフォースは斬られた腕を押さえた。
 深くはない、十分に避けられたものでもあった。
 だからといって、浅くはなかった。
「まあ、よくやったといったところか」
 クレフォースはニヤリと顔を向けた。
「避けられたはずだ、が」
 構えをとかず、クレフォースを見るカエル。
「確かに避けられたかもしれないな。
 でもそれでは試練にならないだろう?」
 と言いつつ、クレフォースの額から汗がひたりと流れる。
(限界だったのか?)
「では第二の試練だ」

 簡単なことである。
 クレフォースはそう思っていた。
 相手の実力とこれから与える力の弱点を知らせればいい話だ。
 実体験として。
 としたものの、どのような試練にするか悩んでいたのは事実。
 とりあえず戦ってみてから考えるか、というは、実際行動をしてから考えるという自分の旅の信念に近いものがあると今さら思う。
 ずいぶん行き当たりばったりではあるが、この性格なかなか直らないものであると考えながら、クレフォースは小さく口を動かした。

(呪文か)
 カエルは身構え、自分の魔力を掴む。

  ●ヒール

 クレフォースの傷が瞬時に消えた。
(魔法の構成も見られなかった? 魔力の流れは少し違ったようだが)
 クレフォースは何が起きているかわからないカエルを見て眼を細くした。
 カエルは身震えを感じ、足に力を入れ、剣を握る。
 クレフォースに向かい突進をし、一閃。
 しかし、その目の前に白い光が被さる。
 足が地面から離れる。
 カエルがそれに気づいたときには、冷たい風の衝撃が全身を打ち付ける。
 引きずられるような形で、数メイトル飛ばされる。
 カエルがその風の範囲から避け、体勢を立て直すと同じ風が向かってきた。
(魔法ではないが、魔力を感じる。詠唱がないから異国の兵器か)
 二発目の風も避けながら、冷静に分析する。
 そして、その兵器の特性を見極めようとしていた。
 クレフォースもカエルが、この力を待っていることに気づき、動きを止めた。
 カエルが次の手を考えようとしたとき、クレフォースはカエルに急接近してきた。
「くっ」
 バランスの悪い中、カエルはクレフォースが放つわざに防御にはいる。

  ●踵落とし

  ダンッ

 クレフォースの放った蹴りは地面を打ち付ける、弱い地面は簡単にえぐれた。
 危険と判断したカエルは持ち前の脚力でその攻撃そのものを避けていたのだ。
 カエルはすぐに剣を動かす。
「破!」
 魔力を練りこんだ剣により、周囲の圧力を巻き込んだ大きな流れを作り出す。
 クレフォースは手甲を前に出し、同時に発動。

  ●プロテクト・フォール

 クレフォースの発動した何かがカエルの魔力を霧散させる。
 それを見たカエルは、クレフォースが魔力を使った何かを行っていることに気づく。
 少し間をとりカエルは考えながら、クレフォースの様子を見る。
 体力の消耗も、疲労も見られない。
 顔に出ないだけかとさっきは思っていたが、どうも動きが鋭くなってきている気がする。
 そこにクレフォースから魔力の流れが見えた。

  ●ヒート

 力を持ったな何かが、湿った空間であるこの洞窟が一気に乾く。

  クアォォォォオォンン

 ファイガに近い熱風がカエルを襲う。

(もし防げなければ終わりだな)
 そうクレフォースは考えていた。
 依頼者から明示されたのは、『エレメント』の使い方。
 今や一般技術に取り込まれつつあつ、この『エレメント』と言う技術。
 それをカエルが実戦で使えるようになる程度というなんともあやふやな形で言われていた。
 それを言われてクレフォースが一番初めに浮かんだのは、『エレメント』の有効性はどこにあるかというものであることと、ついでに未知の力に対する対処法である。
 『エレメント』というのは、魔法に比べて詠唱時間が少なく、使用する魔力もそれほど多くないなどの利点がある。
 だが、与えられた力をただ使っているだけではその不利な点が見えにくくなる。
 本当の実戦それを知ってからでは遅すぎる。
 だから、カエルには実体験としてエレメントの利点と不利な点の二つを示そうとしていた。
(まあ、どうやって知らしめるかを考えたのはついさっきだが……)
 しかも、カエルの場合はグランドリオンとか言う聖剣を手に入れる前と時間制限があったため急いでここまで来たのだ。
 はじめこの風の洞窟に入った時も急いでいたため奇妙な空気を作り出してしまっていた。
 ここまでしなければならないと面倒だと思いつつ、受けた借りは返さなければならないのがこの世界である。
(だが、自分の身を滅ぼすほどの借りを作ったもの。
 それに対する世界のバランスがいま崩れようとしているの事実である。
 世界の理の、いや自分の種族の理をもつ自分としてはなんとも苦しいものだろうか)
 クレフォースは思考をやめ、次のエレメントを手に持つ。
「何を掴んだ?」
(カエルの声!)
 気配に向けて放つ。

  ●ウィンド

 ヒートの熱気残る中、それを巻き込んで風を作り出す。
(避けたか)
 手ごたえがなかった。
 その姿を見失い、全方位へのエレメントを発動させる。

  ●ヘルプラント

 『エレメント』の力に答え、そこから放たれる魔力が形作る。
 巨大な植物の口が洞窟全体の生物を呑み込もうとした。
 そこに、魔力を含んだ斬撃がそれ自体、巨大な植物を消した。

 エレメントで作り上げられた植物が消え、クレフォースは手をあげた。
「私の負けだカエル」
 突き立てられたのは、剣。
 幾つか打開の策は浮かんだが、クレフォースはそれを全部消し去った。
 それを見たカエルは、何を言うでもなく剣を鞘に収めた。
「この魔力で破壊できる、その力は何だ?」
「これが君に与える次の力だ。ステップアップおめでとう」
「次の力?」
「そうだ。私が本気で使えば君の魔力で防御できないのは今のカエルなら分かるだろう?」
 確かに。
 魔法が使えるようになり、魔力の流れが見えるようになったカエルから見れば、この魔女がどれほどの魔力を持っているのか感じられる。
 しかしどこか引っかかる。
「何を知っているんだ魔女よ」
「大抵のことは分かっている。
 なんせ、私たちの一族は知識を集めるために世界を旅しているのだからな」
 カエルはこれで、この世界の謎がすこし明らかになるかもしれないということが浮かんだが、この魔女にやられたいままでのことを考えると容易な話ではない。
 あるいは、さらに複雑な事態が待っていることを予感せざるえなかった。
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【198】-27- (第九章 魔の村の人々4魔女その二)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:53 -
  
  風の洞窟。
 グランドリオンの刃を手に入れたカエルはその場でクレフォースという魔女から『エレメント』についての講義を乾いた地面の上で聴いていた。
 クレフォース、茶色の長髪を束ね、カエルを上回る長身、鋭いブルーアイ整ったら体型に、バックパック。身軽な格好であるがこれが彼女がいたるところで奇跡を起こし、何十年も生きていると知っていなかったら、魅力的な女性であっただろう。
(まあ、性格にも難ありだが)
 そんな視線に気づいたのかクレフォースのするどい眼がカエルを睨みつける。
「なんだ」
 裏声で脅すように、まためんどくさそうに発する言葉はすこし念がこもっているようにも感じられる。
 カエルは特に何もないといい、クレフォースは講義を続けた。
 その言い草からは、知らなくても知っていてもどうせどうせそう代わらないだろうということが暗に言われている様でもあった。
 何でも元々クレフォースは、エレメントについて教えるためにカエルを探していたのだと言う。
 このグランドリオンのある風の洞窟で二人が出会ったのはほとんど偶然だと言う話だ。
 クレフォースは講義が終わると、グランドリオンの刃を投げ渡した。
 それを斬らないように上手く受け取るカエル。
 もう慣れたことなので、「何をするんだ!」ということもいうつもりはなかった。
「それで、一体何が起きているんだ。こんなものは前はなかったぞ?」
 カエルは宙に浮かんだグリッドとエレメントを見る。
 まだ数えるほどしかグリッドの穴は開いていない。
 幾つかはクレフォースが選別としてもらっているが、まだ何か物足りない形はしている。
「それが歴史の改変の結果だ、といっていた依頼者の少年は」
「いいのか依頼者は明かさないんじゃなかったのか?」
「依頼が終わったからいいんだよ」
「そうなのか?」
(それにしても、少年か)
 カエルはマノリア修道院で出合った少年のことを思い出していた。
 恐らく同一人物だろう。
(名を確かフツヌシだったか)
「それで私はそいつに依頼されてお前を探していた。
 そのなかでお前らが何をやったのかも知っている」
「すべてを?」
「まあ、人から聞いた伝聞だ。どこまでが本当か私には判断が難しいがな」
「じゃあ、今オレがここにいる理由は……」
「まあ、伝聞の中で私がお前にいえることはそんなにない」
「……なぜだ?」
「それは私が関わるべき問題ではないからだ。
 私は本当はこの時期に君たちの前に現われることはない、そういう歴史だったはずだ。
 お前と私の関わり合いは、もっと前の時間に始まり終わっているはずだった。
 それに私もこの時期にゼナン大陸に寄るつもりはなかった。
 何らかの作用、この場合は少年であるがそれによってこの歴史は複雑になっている。
 これ以上複雑になれば、解決できるものも解決できなくなる。
 全ての始まりはなんだったのか?
 そんなことを気にしていては、この先の解決方法が見つからないんだよ。
 今を生きるものからすればね。
 問題なのは、時間と次元。空間と平面。
 世界はある一定の率で進んでいる」
「?」
 あまり理解してそうにないカエルの顔を見てため息をついた。
「簡単に言うと、一度起きた世界はその率が流れる。
 お前のように時間を跳躍するものに干渉されない限りは常に一定に保とうとしている。
 そして、お前達のようなものがいれば歴史は意外にも簡単に変わる。
 変わった事で様々な影響が現われる。
 しかし、歴史はその影響を最小限にするため、僅かな変化を作り出し、大きな変化を起こらないようにしている。
 あるときは記憶をかえ、あるときは物質をかえ、あるときは現象を変えてな。
 簡単に言うと星はその辻褄合せを行っているに過ぎないのだ」
「? ……」
「まだわからないようだな」
 クレフォースは手元から同じ型の十本のナイフを取り出した。
「例えばここに十本の同じ種類のナイフを突き刺す。
 そこでお前は歴史を登っていき、このうちの五本をとりお前はここに戻っておく。
 するとここには十五本のナイフが存在するわけだ。
 そして、お前が持ってきたナイフをそのままにここのナイフの内の五本を違う型のナイフにする。
 するとどうなる?」
「???」
「答えは簡単、歴史はお前が今もっている型のナイフを持ち出したことになる。
 違う型はそのままこの地面に埋まっているんだ。
 そこでお前は考える。
 抜き出したときは、無造作に取り出していた五本が全て同じ型のナイフである確率は100だ。
 しかし、今ではすべて同じ型である確率は50だ。
 だが、お前が同じ型のナイフを取る確率は100になる。
 なぜだか分かるか?」
「??」
 さらに混乱を極めるカエルに追い討ちをかけるようにクレフォースは説明を続ける。
「その歴史の矛盾を、歴史が書き換えているからだよ。
 お前の記憶の中では確かに全部同じ型のナイフだったかもしれない。
 しかし、実際は半分は違う型のナイフだ。
 ここでの矛盾を解消するために歴史はほんのすこし変化を起こす。
 例えば、途中の時代でこの半分のナイフの価値が上がり、誰かが盗んでいってしまったとか、嵐が起こり違う型だけが埋まってしまったとか、同じ型のナイフが取りやすい位置にまるでそれを取らんとするように置かれていたりとか。
 最後に、君の記憶違いだと言う思い過ごしを頭の中で書き換えられるわけだ」
「記憶を書き換えるだと?」
「考えられないことではないだろう? 世界のバランスを取るためにはそれはほんの小さな変化だ。
 誰が気にするでもないような、でも重要な違いだ。
 ふふ。
 まだ混乱しているな。
 答えはゆっくり探せ、私のような長く生きた人間は少しうがった見方をしてしまうかなら。
 自分ひとりで抱え込むことでもないからな、仲間にでも相談してみるといい。
 きっとその答えがこの世界で起きていることだと理解して欲しい。
 まあ、あくまでも私の見解だがな。
 カエルよ」
「なんだ」
 まだ、混乱と理解しようと考える中でせめぎあっているカエル。
「私はここで去るが言っておくことが一つある。
 この後、王が倒れ橋が襲撃され、お前はバッヂをタータ少年に渡す必要がある」
「そんなことまで知っているのか」
「大体はな、言っておくことは時間のバランスを崩さないことだ」
 カエルが何かを言い返そうとするが、クレフォースはそのままグレンの風に乗り洞窟から去ってしまった。
「時間のバランスを崩すな、か」
「でも、マスターはちゃんとやっていると思うよ。
 責められることはもう償ったはずさ」
 聖剣グランドリオンの精霊であるグランは姿を現しカエルに声をかけてきた。
 先ほどまでカエルがクレフォースに講義をしている間黙って聞いていたためにその存在を端の方に避けていた。
 ふわりと少年の姿でグランとリオンが姿を見せる。
「そうか?」
(こういうのは悩んでいてもしょうがないのよ。前を見て進むしかないんだから)
「「ドリーンねえちゃんん」」
「姉さん?」
 聞こえてきた第三の声。
 しかしその姿は見えず、ただただ声だけが残る。
 そしてその声に覚えがあった。
「エンハーサに居たドリーンか」
(覚えててくれてありがとうね。
 やっとグランとリオンのマスターに共鳴できたよ)
「今度は姉ちゃんもついてくるの?」
(ええ、そのつもりよ。
 カエル君が私の媒体を持っている限りはね)
「媒体?」
 考えるが、ドリーンの媒体となるものはもっていない。
 グランとリオンと姉弟と言うことだから、あの赤い石と同じもので出来ているものだろうと予想できるが、今のカエルには思う付かない。
(あなたが持っている『金の石』よ)
 言われてカエルは金の石を取り出した。
 すると目の前にグランとリオンに近い姿が現われる。
「フリーランサーから得た金の石か……」
 確かにこのデナドロ山で唯一挑んできたフリーランサーが落としたものである。
「何気なく持っていたが」
 確か前の周でも金の石を得たんだっけ。

 カエルはかつて、前の世界でサイラスの墓に行った後、しっかりと自分のケジメをつけるために新生グランドリオンと共に、デナドロ山を訪れた。
 そのときにもフリーランサーが襲ってきて、そこで受け取ったのだ。

(それでこれからどうするのカエル君?)
 ドリーンにいわれてしばし考えたカエル。
「タータにこのバッヂを渡すところからはじめようと思う」
(そう、じゃあグラン)
「何? ドリーン姉ちゃん」
(カエル君を山の麓まで風で送って)
「分かった」
 二つ返事でグランは風を起こし、その風はカエルを包み山の上に上昇し、ふんわりと麓まで降り立った。
 その間ほんの数秒。
 グランが調整しているためか、それほど気持ち悪くはならない。
 しかし、景色がいいとはいえ急激に高所から降り立つのはあまり体には良くはない。
 視覚的問題だ。
 いつもの通りカエルは降り立ったその場でうずくまり、自分の感覚を元に戻す。


 同刻 中世ガルディア城。
 さらに言うなら客人向けの寝室である。
 今は魔王軍と戦争中であるため、このガルディアに旅の客人が訪れることは少なく幾つかの部屋が使われずに残っている。
 その一室にはベッドが二つ、その一つのベッドには少女が静かな寝息を立ている。
 少女は半分以上が毛布に包まれているためによく分からないが、このガルディア王国ではめずらしい黒髪の少女であった。その黒髪は単髪で、簡単に結んでいた。寝ているためかまだ幼さの残る顔つき、まだ十代半ばといったところか。そんな顔の中はそれなりの歴史があるらしく、薄くだが傷跡が見られる。
 もうひとつのベッドで寝ていた主はすでに起き上がり、今寝ている少女を起こそうとしていた。これも黒髪の少女ではあるが、寝ている少女がすこし成長した感が見られる顔つき。すこしきつい印象をもたれるであろう細い顔に黒瞳。まだ寝起きらしく、髪の毛はぼさぼさであるが、長髪が上手く落ちている。その髪を直さずに少女はベッド揺すっていた。
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【199】-28- (第九章 魔の村の人々5異国の来訪者)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:54 -
  
 中世ガルディア城 客人向けの一室
 黒髪の少女は、少女はベッド揺すっていた。
「お……起きなさい」
 ベッドに寝ている別の少女は、くぅくぅと寝息を立てている。
「もう少し寝かしてあげたほうがよろしいのでは?」
 この部屋の清掃などを行う女性が言ってくるが少女はそれを断る。
「いいえ、これほど立派な部屋。
 それはこの国でよほど主要な地であることが考えられます。
 これ以上長居することは出来ません」
 そういった少女。
 ほんのすこし前にこの隣のベットで目が覚め、そのとき清掃していた彼女から自分たちが誰かに助けられ、眠っていたことを知ったばかりである。
 女性から見れは多少は混乱しているだろうと考えてしまう。
「私たちは気にしませんよ」
 やんわりとやさしくいう。
「ですが、聞けばここ数日とはいえこの場所を占領した挙句、海岸を打ち上げられたところを助けられるという、感謝しきれない恩人に挨拶をしなければいけません」
 ゆっくりと、丁寧な言葉遣いで話す少女。
 長髪の少女は、一般の同年代よりはしっかりしていることがうかがえた。
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。
 ガルディア国王様やリーネ様はとてもお優しいですから」
「? 今なんと?」
「え? 今急がなくても言いと」
「いえ、その後です」
「? ガルディア国王様とリーネ様ですか?」
「!! 王様と言うことはここはガルディア城内ですか!?」
「ええ、まあ」
 突然声を高くされ、言葉にどもる女性。
 少女はすこし固まり、状況を把握するために頭を回転させた。
「……」
「あ、あの」
 女性が突然固まった少女を気に声をかけるが反応はない。
 それでも心配でずっと見ていたら、突然動いた。
「ならなおさら!
 早く起きなさいスティア!!」
 思わず怒鳴ってしまった。それでもスティアと呼ばれた少女は起きない。
  コンコンコン
 早い音で三回ノックされると、軽い木の扉が開いた。
「どうしたんだ!?」
 一人の兵士が入ってきたのだ。
 おそらく
 少女の声が大きかったために、良くは聞こえなかったが何事かと入ってきたのだろう。
「いえ、ちょっと……」
 女性が言おうとするが、少女たちが薄着なのに気づいて兵士の身体の向きをムリヤリ変えた。
「ここは私に任せて持ち場に戻りなさい」
「だが……」
「言い訳無用ですよ、新人兵士さん」
 新人兵士。
 戦争が激化する中で、ガルディア王国は苦肉の策として徴兵を行っていた。
 力のある青年、あるいは働き盛りの青年、少年たちは、有志ではあるがガルディアの兵士として国の前線で戦うことが、義務ではないが公然となされ始めてきた。
 そのため、ガルディア城内では、騎士団の兵士より現在は町などの有志の兵士、新人兵士が多くなっていた。
 彼らに、訓練をつませると同時に城内の見回りを行わせていた。
 もちろん、ヤクラの件があってから魔物や魔族が人間の姿をしていると言うことも考えられるので、素性が分からないものは前線へ行かされたりしている。
 また、王族に関しては騎士団が直属に守っているのが現状である、そのため王様はともかくリーネ様を見たことがない兵士も多々いるのも確かである。
 そのような背景もあり、城内では特にイベントらしいイベントもおきず、刺激や変化に敏感な新人兵士たちは、ちょっとした変化(今回の場合は大声)でも、ノックの後、確認せずに突然部屋に入り込むことがしばしばあった。
 城内ではそれほど大きなことは起きないはずだが、初めて持ち場を任されたり、魔物たちの恐怖になれていない新人兵士はこのように空回りをしてしまうのである。それを昔から城内で働いている侍女たちからすれば、確かに刺激はあるが仕事の邪魔になったりと苦労をしているのであった。
 新人兵士を部屋の外に追い出すと、その騒ぎでベッドに居た少女がやっと起き出す。
「んんんうんん」
 半身を起こし、眼を擦り現状を把握。
 自分の身なりを半分眼が閉じた状態で行い、自分できゅっと頬をつねる。
 その行為を一通り行うと、首を振り辺りを見た。
「ルア姉さんおはようございます」
 おはようございます、といいつつ部屋の窓からはもう陽が高く昇りきりおり始めている。
「ふう、やっと起きたわね」
「はい。
 姉さん、ごめん。わたしの……」
「気にしないでいいわ。船が落ちのは、あなただけのせいじゃない。
 わたしの状況判断のミスとあの嵐が非常に大きかったこと。
 でも助かったんだからいいじゃない」
「……」
 ルアと呼ばれた少女は、女性に向き直った。
「あの、私たちの持ち物は……」
「ちゃんとあるわよ」
 女性はゆっくりとした歩きでベッドの端の方へ行き、タンスから彼女たちの持ち物を出した。
「とりあえず、拾えるものは拾ってきたわ。
 失礼と思ったけどこんなご時勢だから中身を拝見しちゃったけど……」
「そのへんは構いません。助けていただいただけでも十分ですから」
「この書状。ここの文字じゃないみたいだから読めなかったけど、すごいわね。海の水にあてられても消えないどころか、にじまないなんて」
「ええ、それはロウによって特殊に書かれた物ですから」
「ロウ?」
「はい」
「ところであなた達は、いったいどこから来たの?」
 ベッドに寝ていた少女が答える。
「わたし達はここから西に位置するエスト大陸からとある命のために来ました」
「エストから来たんですか。
 たしか戦争が始まってから、交易が止まってしまったのでとく内情はわからないのですが、なぜ今? 私たちの手を助けてくれるのですか」
 気体を込めて女性が言うが、あまりその感じはしない。
「わたし達は種族間の戦争には手を貸しません。
 それが私たちエストの民が長い間築きあげてきた歴史ですから、わたし達はある目的のためにここに来ました」
「そう、それであなた達の目的とは」
「それは……」
 ルアはいいよどむが、スティアが代わりに続けた。
「四精霊教会からの命で中央大陸に伝わる聖剣グランドリオンの封印あるいは破壊です」
 女性は目を丸くした。
「グランドリオンの、破壊?」
「はい、詳しくは述べられませんが、そのためにはるばる西の大陸からここに来ました。
 このことで相談したく、中央大陸の覇者ガルディア王国の王に会いたく……」
  ガシっ
 ルアは女性に肩をつかまれた。
「?」
「急ぐのですか? 急いだほうが?」
「え、ええ、早いほうが……」
「分かりました。特別に王に謁見することを許しましょう」
「?」「?」
「すぐに用意しますから、あなた達も身なりを整えておきなさい」
 女性の突然の物腰の変化にとまどうルア。
「あ、あの、そんなに早く会うことが出来るのでしょうか?」
 現在は戦乱の中である。
 戦時に重要な、それこそ西の大陸が全面協力してくれるという話ならば、これほど早くの謁見も可能であろうが、ことがことである。
 正直ルアは、数日はかかると考えていた。
 それがこれほどまでに早く、しかも直接王に意見を通さず決定してしまうこの女性。
 いったい何者?
「あなたはいったい……」
「申し遅れました。ガルディア王国の王妃リーネです。今後ともお見知りおきを……」
 女性、リーネは恭しく、綺麗に挨拶を述べると部屋から出て行った。
 その様子を見て、ルアはものすごい国であると感じた。

「ありがとうございました」
 謁見の間にて、ルアとスティアは深々と頭を下げた。
 再び顔を上げると、かわらずガルディア王とリーネ王妃がいた。
 リーネ王妃は、さっきまで来ていた服装とは違い、青白いドレスを着ていた。気品溢れる物腰でこちらをにこやかに見てる。ガルディア王はここ少しの間戦況が変化したこともあってか少しやつれ気味である。それでも一国の王をしての重責をもつ威圧感が出ていた。
「以前、ガルディアは異国の者に救われた経緯があるゆえ、異国のものに対しては礼を持って接しておるだけ」
「そうなのですか」
 ルアは手ごたえを感じていた。
 この国は現在戦争中である。
 最悪、間者と間違われる恐れもあった。
 そのため出立時にはそれらしきものはすべて置いていった。怪しいと言ったら先ほどみせた書状であろう。
 ルアは続けた。
「わたし達は西の大陸エスタットから来たのですが、私たちの同胞が建てたマノリア修道院。
 修道院が悪用されたという話を聞いたのですが」
 ガルディア王は責めるべきところを先に言われてしまい、しばし思考した。
 その思考が終わらないうちにルアは続ける。
「わたし達はそのマノリア修道院の取り壊しを提言します」
「……真か?」
「はい、本山の方からの達しでもあります。
 本来、聖の主体となるべき修道院が悪しき物に利用され、その地に住むものに迷惑をかけたのであるならば、わたし達四精霊教の教義に反します。
 取り壊していただきたい。
 もちろん、四精霊教からも補助はします」
「そうか。
 しかし、そなたらも分かっての通り現在戦争中でな、緊急避難の地としてあの場所は使われておる。
 早急にというのは無理な話だ。
「分かりました。
 ならば戦争後ということでお願いします」
「覚えておこう」
「それにわたし達もあまり、城の迷惑をかけるのはまずいかと思うので、そこで寝泊りさせてよろしいですか?」
「それほど迷惑と言うわけではないのですけど」
 とリーネ。
「わたし達はあまり一つのところに寝泊りしていると、兵の士気にも関わるかと思うます」
「そうか? まあ、許可をしておこう。
 自由に修道院は使って良いぞ」
「ありがとうございます。
 そしてもう一つおねがいが……」
「……グランドリオンのことだな」
「はい」
「ねにゆえグランドリオンを?」
「それは数ヶ月前のことです。
 わたし達が所属する四精霊教会と言うエスタット最大の教会で定例の神議があります。
 そこで行われた占術によって、グランドリオンがいずれ悪しき力により滅びをもたらすという結果がでたのです」
「せんじゅつ?」
「いわば占いのようなものです」
「しかし、聖剣と名のついたグランドリオンが悪しき力持つというのか。信じられん」
「わたし達はその原因を探るために、そして探った後の対処として危険とみなせば封印、あるいは破壊を行うためにきました」
「原因を探るか。二人には残念ながら帰ってもらうしかあるまい」
「! どういうことですか?
 それは協力してくれないと?」
「そうではない。
 現在グランドリオンの行方が分かっておらん。
 数年前にグランドリオンの使い手はたしかにこのガルディアにおった。
 しかしそれも消息不明、もっていたグランドリオンとともにだ。
 それゆえ、情報があまりないのだ」
「大丈夫です。
 そのあたりは調査済みです。
 わたし達はグランドリオンを探し出し、占術が正しいのかどうか確かめるためにここに来たのです。
 グランドリオンはこの中央大陸では聖剣とよばれるもの。
 そうは破壊という選択肢は取りません」
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【200】:-29- (第九章 魔の村の人々6師匠)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:56 -
  
 時代は現代、ボッシュの小屋。
 ボッシュの小屋の前で、『エレメント』を倒したクロノとマール、そしてクロノが師匠と呼ぶ三人と、小屋の入り口に居た老人――ボッシュとウサギに近い黒い羽の生えた亜人の少女が小屋の中にいる。
 さすがに、小屋の中に五人は窮屈に感じられる。
 そこに一人頭を下げ続けている者がいる。
「すみません。ありがとうございました。ありがとうございましたぁ」
 擬ウサギの亜人に頭を下げられクロノとマールは、あまりの必死さにまごついていた。
 クロノは普段人に頭を下げられるということに、慣れていないしマールの場合はこれほど真摯に頭を下げられるという場面に遭遇したことは少ない。
 それより何より、二人にとって亜人というのは珍しい種族であり、千年祭でもチラッとしか見たことが無いため、少々好奇の目が入ってしまっているといこともある。
「それよりターニィ怪我は無いか?」
 師匠の一言に顔を上げるウサギの亜人の少女。
「あ、はいぃっ!」
「それは良かった」
「いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけしまして」
 形がけでなく心からそういっているように聞こえ、クロノ、マールは好印象を持つような言葉であった。
「それよりあの『エレメント』の出自を調べておいてくれ」
 ターニィと呼ばれた擬ウサギの亜人の肩に手をかけやさしく言う。ほほが少し赤くなりながからもターニィはうなずく。
「よろしく頼むよ」
「わかりました、超特急でやってきますよぉ」
 ターニィは家の主人であるボッシュに挨拶もそこそこ、飛び出していった。
 大きな音を立てて扉を開け閉めする様子に、老人はいやな顔をするでもなく見ていた。おそらく彼女がこの部屋を出るときはいつもあのような感じなのだろう。
 その目は微笑ましいものを見るようでもあった。その目ががらりと変わり、何かを思い出すようにクロノたちを見る。
「お主たちは確か……千年祭におった」
「クロノです」「マールです」
「おお、確かあの時はそこのお嬢ちゃんがなにやら困っておったようだが無事、解決したのかね」
「ええ、だいたいは……」
 と、言葉を濁すマール。
 と言うのも、ボッシュとは千年祭でマールがこの千年祭初日に戻っていることについて何か知っているかの知れないと相談したのだが、相談されたボッシュには自分達のように『前の周』の記憶が無く途方にくれていたことがあった。あれだけ必死に説明したのがから顔を覚えられても不思議ではない、途中『前の周』と同じくペンダントについても聞かれたし、印象としてはばっちりだったかもしれない。
「何だ、クロノはボッシュさんを知り合いなのか?」
「ええ、ちょっと」
 やはり言葉を濁すクロノ。どうも、師匠を前にするとなんともいい難い気分になる。緊張が走ると言うのだろうか? マールはクロノの微妙な雰囲気を感じ取りあまりクロノを刺激しないようにと内心考えていた。
「ほう、シェアさんと知り合いなのかい?」
「まあな、このクロノには数年間生きる術を教えたことがある」
「い、生きる術……ですか」
 なんだか大きな言葉で表現された言葉に、意味が分からないマールであったがクロノにとっては相当ダメージを与えられたらしく動きがかくかくとなっている、ように見えた。
「まあ、ほんの少し剣術を指南しただけだよ、マールディア様」
 言葉の後半をボッシュには聞こえない程度の声で発し、一瞬でマールを石化させる。
 と、マールは記憶を引き出していた。
 実のところ、マールはシェアというクロノの師匠とは『前の周』で出会っているのである。
 中世の時代に南ゼナン大陸の中央に鎮座する巨大な砂漠をロボと中世にすむフィオナがよみがえられせた巨大な森。この周ではまだ砂漠であるがその中に建てられた神殿に行くとき、森で迷ったクロノたちとであったのが彼女である。
 なぜかそのとき師匠さんは弓術の訓練をしていたが、あの時危うくカエルが射抜かれそうになっていたのであった。
 その後にもガルディアでヤクラ親子の登場で苦戦を強いられた私たちの前に現われたこともあった。ガルディアの名家であるシェアの親族がヤクラによって不遇の死を受けたことにあるという出来事もあった。
 そのときに彼女にはマールの家柄はバレていはいるのだが……。
「なぜここにいるのかわかりませんが、おとなしく城へ帰ったほうがいいですよ」
 シェアはそうつぶやいた。
 その言葉から、シェアがわたし達と同じように『前の周』記憶があるという可能性が少なくなった。
 もし『前の周』のことを知っているのであれば、マールがガルディア王と喧嘩して家出していることやクロノたちと共に何の旅をしているのか知っているはずであったからである、とマールは考えた。
 シェアに対して苦笑いを返すしかない。
 それを乾いた笑いで返すシェア。
「そうそう、クロノ聞いたぞ? 何でも捕まっていたそうではないのか。よく無事だったな」
 振られたクロノはやっと硬直が解けたところであるタイミングで来た。
「ええ、執行猶予というやつですよ」
 言葉では平気を装っているが言葉尻がかすんでいる。
「ほお、それでなんだお前達はこの魔族の大陸にいるんだ?」
「それは……」
 言葉に詰まってしまう。
 というのも、ゼナン大陸とこの魔族の大陸であるコルゴー大陸とには連絡船が存在していないのだ。
「ちょっとチョラスに行ったついでにクロノに無理を行って寄ってもらったんですよ」
 すかさずマールが助けにはいる。
 それに事実、このコルゴー大陸とチョラスのあるクテラ大陸には連絡船が通ってる。
 チョラスのあるクテラ大陸はこの中央大陸群でもっとも商業の発達した大陸であり、多くの地域と貿易が行われている。というのもクテラ大陸周辺の海流の流れが他の場所よりゆるやかであることが大きな理由である。かつて、ゼナン大陸とコルゴー大陸との間にも連絡船をつなぐ計画があったのだが、両大陸の住民と海流がひどく強いため海流を上手く越えられるような船を建造することが難しく、安定した航海できずまたその必要性が無かったために、いつの間にか計画が頓挫されてしまったのだ。現在ではパレポリあたりでは、海流を越すことが出来る船も建造可能であるが、その必要性の無さから再びその計画が前に出ることがなくなっているのである。
「ふ〜ん、マールさんがね」
 ニヤニヤとしている師匠に居心地がさらに悪くなるクロノ。
「と、ところで師匠さんはなぜここに?」
「師匠さんと言うのはやめてくれよ。私は確かにクロノの師匠かもしれないが、君の師匠ではないんだ。
 気軽にシェアと呼んでくれればいいよ。
 で、ここに来た理由なんだが、出来の悪いお弟子様がなにやら捕まったらしいから。
 しかも裁判のお相手があの悪名高いガルディアの大臣と言う話ではないか、これは今回を逃したらもう二度と顔を崇められなくなるってことでやってきた訳だな」
 なんとなく、クロノを脅している雰囲気があるのは、無事であるクロノを喜んでいると同時になにやら言わんとしたいことがあるのであろう。
 今この場には他人であるわたしがいるからあまり言うことが出来ないのであろう。
 それが逆に師匠の印象を悪くしているように思える。
「というは建前で」
 ほっ、息をつくクロノ。
「実際は、さっきの『エレメント』だよ」
「『エレメント』?って」
 対先ほどまでスペッキオから出てきたあたらしい言葉がすぐに現代で聞くのは不思議に雰囲気がある、そんなことを考えながらおもわずつぶやいてしまったマール。
「そうか、確かに『エレメント』はゼナン大陸ではあまり聞かない言葉だな。
 まあ、簡単に言うとこの大自然のエネルギーが蓄積された物体といったところかな」
 そういってシェアは服の間からエレメントを取り出す。
「ゼナンでも、火を生み出したり夜の電灯などに応用されている」
「えっ、あれも全部エレメントなんですか!」
「まあ、全部とは言えないが大体はエレメントが使われているな」
 スペッキオから現代でも応用されているとは聞いていたが、まさかそんなところまで使われていることに驚くマール。
「その便利な便利なエレメントが最近、この中央大陸で暴走したりモンスター化したりして事件になっているんだ」
「? 聞いたことがないよ」
「聞いたことないのは、しょうがない事だよ」
 シェアはまるで世間話をするように口調を変えた。
「事件と言ってもチョラスといった中央の東の方の話だ。西に位置するガルディアまで届かない可能性があるし、ほんの二回ほどしか起こっていない。
 もともと『エレメント』が暴走、モンスター化するのは、東や西の大陸はよく起こっていたが中央大陸群の中では聞いたことが無い。
 その調査もかねてここにいるんだ」
「そんなんですか」
 と、一呼吸置いてマールが言葉を口にした。
「そんなこと話してもいいんですか? 話を聞くと大陸レベルでの話じゃないですか」
「まあね。でも、君たちなら何か知っているのかと思ってな」
「!」
 不注意にも二人は反応してしまう。
 『前の周』でも勘のいい人であったことを念頭に置くべくであったと感じた。
「まあ、あまり勘繰りを入れるのはよくないことだと思っているが、最近私の回りが物騒で、ほとほと困り果てていたところなんだよ」
「物騒なことですか?」
「まあ、最近損な役回りが悪くてな」
 シェアは遠く、別の空間を見ていた。
 こんなときに虚空を見られても困るのだが、この人は。
「それでこれからどうするんだ? ゼナンに戻るのか?」
「ええ、そのつもりです」
「なるほど、それでボッシュに会いに来たのか。道を尋ねるために」
「そうなんです」
「だそうだ、ボッシュ」
 それまで黙っていたこの小屋の主である老人――ボッシュに声をかけると、黒眼鏡をゆっくり動かした。
 いつみても温和な印象を受けるボッシュである。
 この人がまた現代になじんだ雰囲気とまだ何か別の雰囲気をまとう、長い人生を歩んできたものがもつ独特の雰囲気を出しているのは、彼が先にあったガッシュやハッシュと共に古代の三賢者と呼ばれ、古代より現代に飛ばされてきたことが少なくともうかがえる。
 そんなボッシュは歳を感じさせない軽い口調で話した。
「ふむ、客というわけではないのは残念だが、久々の人間じゃからのお。
 祭りでの縁もあることだし、すこし荒っぽいがゼナン大陸に向かう手っ取り早い方法を教えよう」
引用なし
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【201】-30- (第九章 魔の村の人々7北の洞窟)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:58 -
  
 ボッシュに教えられたのは北にある山のふもとの鍾乳洞。
 先を歩くシェアの剣技は鮮やかであった。
 無駄なく歩き、立ち向かってきたモンスターを有無をいわずに斬り去っていく。
 モンスターの習性なのかあるいは、シェアから何かが出ているのかモンスターは皆シェアに向かっていく。
 モンスターの近づく速さに合わせて、その歩調を微妙にずらし間合いに入った瞬間に金属の閃光と共に斬る。
 わずか一撃で瞬時に仕留めている。
 超人的技能と能力。
 この高いレベルであるクロノの速さが嘘のようである。
 その剣技に魅入りれながら安全な道をクロノ、マールが歩きその先を歩くシェア。
 歩いていながらシェアを見るとふと違和感に気づき、クロノが声をかけた。
「師匠。その剣は?」
 クロノが指したのは、シェアの腰にある黒塗りの鞘に納められたもの。
 見た目、剣そのものであるが、シェアが先ほどから使っているのはボッシュからもらった細い長剣。脇差の剣を抜こうともしない。
「これか」
 シェアは脇差の剣を黒塗りの鞘ごと片手で取った。
 正直、剣というのは金属のかたまりである。ふつうなら早々簡単に持てるものでもないのだが、シェアは軽々と持ち上げた。平均の筋力とはまた何はずれたものをもっていることがこの様子からもうかがえるが、それを口に出したら殴られるのは目に見えているのでクロノは単純な疑問の方を先に口を出した。
「武器を待たない主義の師匠がもっているんですから」
 昔から、シェアは武器というものをもたない。
 それはシェアの流儀はそこにある物を最大限に使い、ありとあらゆるものを武器とすることにある。
 足元にある石をはじめ、森の中でモンスターの退治を行ったときは、借り物の剣であったり木の枝だったりした。物に執着しないと始め思っていたが、そうでもないらしい。なんでも、固定の武器を持つことでの何かを防いでいるのだとか。
 真偽はクロノが直接聞いても教えてくれないために不明である。
 そんな師匠が大事そうに抱えている(ように見えた)剣があれば気になるものである。
「これは東の大陸でもらったものだ。この剣があるために……。
 クロノやマールさんは知っているか? 神剣の存在を……」


 同刻同時代 ボッシュの小屋
「え! ええ〜〜〜!!!」
 小屋の中に大きな声が響き渡る。
 声を出したのは少女――ルッカである。
 親切な魔族の家でクロノたちを別れ、一つしかないゲートホルダーのためロボを呼びに行き、再び現代のメディーナ帰ってきたのである。
 メディーナに着いたルッカとロボはすぐさまボッシュの小屋に向かった。のだが、クロノたちはもぬけの殻。思わず扉を開けるとき大きな声を出してしまったルッカからすれば、その恥ずかしさを含みつつボッシュに詰め寄り、話を聞いた。
「どぉゆうことよ。説明しなさいよ」
 ぐりんぐりんとボッシュの肩をゆらす。
「や、やめてくれ〜」
 言葉に出し、ほんの少しだけルッカの手が緩んだ。
「シェアという剣士とともにゼナン大陸に向かったよ」
 と、ルッカの手が止まった。
「シェア……シェアってあの有名な剣士の」
「そう、シェア・こん……」「なんでシェア師匠がここにいるのよ」
 ボッシュの言葉をさえぎるようにルッカが言葉を出した。
 あまりの勢いで思わずボッシュの言葉も止まる。
「それは知らんよ」
「……んん」
 ボッシュの顔を見るが、それは正直に知らないという顔を見せていた。
 そこでルッカは少し考えるが、思考を変える。
「ん? 別にシェア師匠の理由は知らなくていいよね。
 ボッシュ、それで彼らは北にある洞窟に行ったの?」
「ああ、このコルゴー大陸からのゼナン大陸への連絡船は出ておらん。
 北の洞窟から海の道を通って抜ける方法をとったんじゃが」
 ボッシュは一呼吸を置いた。
「確か、ヘケランが住んでおる。あやつを通り抜けてゼナンに抜けるのは一苦労じゃろう。
 まあ、シェアがおるから心配は無いだろうがおぬしらも行くのか?」
 それは、少し考えたほうがいいということなのだろうが、ルッカはそれに反してすぐに返答した。
「ええ」
 すっとルッカを見る。
「ふむ、そうか。ならこれを持っていくが良い」
 ゆっくりを何かを考えるように目を動かし、戸棚の引き出しから何かを取り出した。
 それをルッカに手を出させゆっくりを握らせる。ルッカに渡されたのは『エレメント』である。
 幾つかの『エレメント』がルッカの手のひらで見えている。
「これは」
 受け取ったルッカは、なぜこのようなものをと問うように聞いた。
 経験の浅いルッカにはそれがどれほどの『エレメント』であるか判断は出来ないが、そもそも『エレメント』自体早々見られるものではないことぐらい分かっている。
「彼らに渡そうと思っていたものだよ。彼らには世話になったからな、餞別と思ってくれていい」
「??」
「亜人の少女から渡されたものといえば分かってもらえるじゃろう」
 おそらくはここでクロノたちがやった何かであろうことに関係しているのだろう、ルッカは考えるのをやめ、にこりとしたボッシュから素直に受け取った。
「ええ、ありがとうボッシュさっきは失礼したわ」

 車両モードに変形したロボと共に北の洞窟の中を進むルッカ。
「ルッカサン、シェアサンハタシカ、ルッカサンの銃の師匠デシタネ」
 ガタガタと揺れるロボの車体上にしがみ付きながらその質問に答えた。
「ええ、私の銃の師匠であると共にクロノの剣の師匠でもあるわ。 おそらく現在にて単独においては最強といえるし、黒髪の英雄と呼ばれるぐらいの人。
 数年前にトルースの町にやってきて気まぐれに私たちに武器の使い方を教えてくれたのよ」
「ズイブンスゴイ人ナノデスネ。イゼンニ、お会いしたトキハ、ソノヨウナ感じはシマセンデシタ」
「ええ、師匠がこの話を人前でするの嫌がるからね」
「ソウナノデスカ」

   クォォォォォォォォォンンン

 奇妙な鳴き声が洞窟中に響き渡る。
「鳴き声??」
 そこへ緊急を告げるロボの声がする。
「ルッカサン、気をつけてください。冷風が近づいてきます」
 ロボが言葉に出した瞬間、目に白い波がこっちに向かってくるのがうつった。
  ”ファイア”
 瞬時に使い慣れた簡単な構成を紡ぎ、魔力を発動させる。
 赤い炎が冷風の進行を曲げる。だがわずかに冷風の方が強く暖風となって押し返される。
「くっ」
 生ぬるい程度の風であったため無事ルッカとロボはその場に留まった。

   フィユユユユユユュュュ

 さらに洞窟内で音が響きあい、奇妙な音を作り出していた。
「ダイジョウブデスカ? ルッカサン」
「何なの今の?」

   ガシャン ガシャン カシャン

 ルッカが周りを見ると、洞窟内の氷柱が少し大きくなっており、幾つかが落下する。
「魔法?」
「いえ、少し魔法とは違う波動パターンデス。おそらくエレメントなのでしょう」
「自然環境に関係しているとスペッキオが言っていたけど、影響範囲が広すぎるわ」
「クロノサンたちは大丈夫でショウカ?」
「シェア師匠がいるから心配はないと思うけど、進むわよロボ」
「ワカシマシタ」
引用なし
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