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「知っている。僕じゃ君を倒せない」
「同時にオレもお前を倒せない。
『相克』
それがお前らがオレに与えた呪い」
「でも、それは……」
「それで再び時間を繰り返そうというのか? 彼らに再び悪夢を見せようというのだな」
「………」
「オレは、オレはのやり方で変えてみせる。この世界を、自分の運命を」
「………それは……」
「邪魔をしたければ、邪魔をするがいい。思う存分に、彼らを使ってな。
お前……お前達がオレ達にやったことをオレは赦せない」
「………」
「黙っているんだったら消えろ!!」
「…………………………………………また来るよ」
少年は消えた。
いつものように、もう何回も見た光景。
いつものようにあの少年の後ろを追ってしまう。
自分は少年に止めて欲しかったのだろうか。
それはもう何回も考えた。
でも自分の中の復讐は終わっていない。
「もう、あの頃の自分には戻れないんだ。過ぎた時間は戻せない」
現代 メディーナ村
グオォン
民家のタンスから三人が飛び出してきた。クロノ、ルッカ、マールである。
「おおお、お兄ちゃん。タンスから人間が出てきたよ」
「全く、人様の家に無断で入ってくるとは礼儀を知らない奴だな」
この家の主らしい魔族二人の言葉を聞いてマールはつぶやいた。
「また言われちゃったね」
「しかたないさ」
「さあ、二人とも離れて」
ルッカは再びゲートホルダーを取り出し、起動させた。
ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
「二人は先にボッシュの家に行ってて、魔族さんたち、ごめんねまた来るけど」
グオォン
タンスを開け、ルッカはロボを連れてくるために時空の壁を越えた。
「すごいね、最近の人間は消えたり現われたりできるんだ」
「人間もずいぶん忙(せわ)しなくなったものだな」
感心している魔族の兄弟をよそにクロノとマールは外に出ようとする。
「ちょっと待つんだ」
「え、ええ?」
二人は呼び止められ、思わず立ち止まる。
「ここがどこだか分かっているのか」
「メディーナ村だろ」
「そう、このメディーナ村は、魔族の村。
400年前、人間との戦いに負けた魔族の子孫によってつくられた村だ。この村に住む魔族のほとんどは人間に対して憎しみを抱いている。
気をつけな。
西の山の洞窟の近くに、ちょっと変わった人間のおじいさんが住んでいるんだ。きっと兄ちゃん達の力になってくれるよ」
クロノとマールは顔を見合わせた。
「教えてくれて、ありがとう!
でも…… なぜ私達に親切にしてくれるの? 魔族は人間を憎んでいるのでしょう?」
マールの言葉に魔族は、静かに答えた。
「人間と魔族が戦ったのは400年も昔の事だ。いつまでも過去に囚われていても仕方がない。
まあ、私達のような考えを持った魔族はほとんどいないが……」
その魔族の目には、今の魔族たちを哀れんでいるようでもあった。
メディーナの村を出たクロノとマールは石の敷き詰められた街道を行く。
「前はただの草原に獣道っぽかったのに」
「……歴史が変わっているということなんだろうな。
なにかメディーナの村との交易があるのかもしれない」
その街道をしばらく歩いていくとボッシュの家が見えてきた。
「前より早くついたね」
「これもあの街道のおかげなんだろうな」
キィィィィィイイ
高い金属音が響く。
二人は体を強張らせた。
「今のは……?」
知っているわけではなかったが、マールを見る。
「早く行こうクロノ」
二人は音の近く、ボッシュの小屋へ駆け出した。
近づくと2つの何かの戦闘が行われていた。
一つは巨大な目玉を持った緑色の巨人。大きさはボッシュの小屋ほどの大きさもある。
緑の巨人が動くたびに、近くの木の葉が散る。さらには木の葉は地面に落ちる前に茶色に変色する。
二人はさらに近づくいていくと、そこでは一人の人物が戦っていた。
その姿が確認された後、クロノはすぐにカタナの柄を持つ。
「師匠!」
先に一気に駆け抜けるクロノを援護するようにマールは瞬時に補助魔法の構成を行った。
”ヘイスト”
クロノの体が濃い赤に包まれる。一気に加速する。
そのタイミングを計ったように、師匠と呼ばれた人物は後ろへと下がる。
”流々舞”
クロノの抜刀によって、巨人の片腕を切り落とす。
巨人はバランスを失いかけるが、すぐに足を出し蹴り上げてきた。
わざの直後でクロノは巨人の足にまともにぶつかる。
クロノが師匠と呼んだ人物のさらに後方へととばされ、背を一回打ち付けられ、地面に転がり回転しながら止まった。
クロノはすぐに体勢を立て直し、緑の巨人を見る。その姿はすでにもとのまま、斬り取られた片腕が生えていた。
「なっ!」
片腕がいきなり生えた緑の巨人に、再びクロノはカタナを握る。
そんなところで師匠と呼んだ人物がクロノに声をかけてきた。
「久しいなクロノ」
「お久しぶりです師匠。ですが、この状況は一体なんなのですか」
「油断していた」
師匠が見せたのは右手にある折れた剣を見せた。
「まさか、観賞用の剣がこれほどまで脆いとは」
「あれを使ったんですか?」
クロノの記憶の中に、ボッシュの小屋にてボッシュのいつも立っている場所にの後ろに飾ってあった剣を思い出した。
観賞用であったために見栄えはよく、持ちやすいがどこか実戦で使ったら脆い感じが見えていたのだ。
「?」
「それよりなんでそんな折れた剣をいつまでも持っているんですか?」
言われ師匠は自分の折れた剣を見る。
「これか? これにはこれの使い方があるんだ」
師匠はマールを見て、
「マール、援護はいい。
ボッシュとタァーー、亜人を守ってくれ」
名前を呼ばれたマールは驚きながらも、すぐにボッシュの小屋をみてそこにいる二人、ボッシュと亜人の二人を見つけマールは二人に駆け寄り声をかけた。
それを確認すると、再びのろのろと動く緑の巨人に向き直る師匠。
「師匠、これは一体?」
この事態の説明を求めたがクロノは制止された。
「話も何も後にしろ、この『エレメント』を倒す。さっきのようにあいつを切り刻め」
「『エレメント』って」
「話は後だっていただろ?」
やさしく言い返されクロノは剣を構え、師匠の前に出た。
場所を代わりクロノが緑の巨人に対峙する。
そのクロノに対して緑の巨人は大きな腕を振り下げた。
クロノは飛び上がり、直撃を防ぐが、風と突然出現した葉っぱに弾き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされながらも体をひねり、地面に着地。攻撃対象を自分に向けさせるためにクロノはグリッドを開き、白のエレメントを発動させる。
●レーザー(白)
高圧縮された光が一直線に放たれる。
クアォォォォオォォォオオオオン
光は緑の巨人におなかに穴を開けた。
巨人の注意がこっちに向く。
クロノは加速している体で素早く巨人の下にもぐりこみカタナで一閃した。
しかし途中でクロノのカタナは止まる。
緑の巨人から吹き出した葉っぱによって止められてしまう。
ザザザザザ
その葉っぱは巨人の体から放出される。クロノはたじろぐが、カタナを持ち直しわざを放つ。
”回転斬り”
バササササササササ
葉が割れるように斬られていく。
「もう大丈夫だ」
その声と共にクロノの視界に影が映る。
クロノはわざを止め、体についた葉っぱを払いながら巨人と距離をとるように後ろに下がる。
ガガガ
奇妙な鳴き声が響くと、巨人の巨大な目玉にさっきまで師匠が持っていた折れた剣が突き刺さっていた。
口のない巨人がうななき、それでも巨人は倒れない。とくに目玉が弱点というわけではないらしかった。
師匠はそれでもにやりと笑い、手元が強く光る。
●アイスランス(青)
●アイスランス(青)
●アイスランス(青)
●アイスランス(青)
師匠は連続して青く見える氷を緑の巨人にぶつけ、凍らせていく。
緑の巨人が半身凍ったところで、師匠は巨大な銃口を持つウェポンを手に持ち弾丸を放った。
ズダン
パアァァァァァァァァンンン
近距離での弾丸は緑の巨人の氷の残骸を撒き散らした。
あたりが冷たい空気と風につつまれていく。
緑の巨人の半身は、その後薄くなり消えていった。
師匠の手から光が消えた。
「師匠」
クロノが師匠に走りよる。
「助かったよ。クロノ」
「今のは一体?」
さっきの質問を再び行う。
「エレメントという物質がモンスター化した姿さ。
見る限り魔族、魔物に似た姿をしているが全く別の不思議な生命体。
最近になってこの中央大陸の東側で見られるようになった新種の生命体さ」
「エレメントのモンスター?」
寄ってきたマールがつぶやいた。
「ああ、東の大陸じゃよく見られる生命体なんだが……」
「なんでそんな遠い所の生物がここまで来ているのか」
「さあ? この大陸でははじめて見たからな、原因はよく分かっていないんだ。
ところで、なんでこの魔族の大陸にお前達が?」
「そ、それは……」
「? まあいい、話は後でゆっくり聞こうか」
師匠に促されるようにボッシュの小屋に入っていった。
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