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【34】序章
 REDCOW  - 06/8/14(月) 21:56 -
  
 僕は車 時雨(くるま しぐれ)15歳。
 どこにでもいるごく普通の高校生。
 
 成績も良くないし、運動神経だって抜群じゃない。部活もしたいって気がしないし、恋愛って感じでもないし、ルックスは自分で言うのもなんだけど中くらい?…そんな平凡な何処にでもいるような奴だと思う。
 別に人は嫌いじゃない。それどころか人並み(?)にお人よしで、たまに貧乏くじを引いている気もしなくないけど、頼まれたら最後までやるってのは礼儀だし。
 
 好きなことは漫画を見たり、本を読んだり、音楽聴いたり、たまに友達と遊んだり、あとは意味も無くぶらぶらして…。
 
 別に何も期待なんてしていない。
 
 突然分からない世界に旅立って、僕にしか出来ないことをやり遂げる…そんなのは夢であって、ホントに起きたらとんでもない。
 でも、そんな非日常を望んでいる自分もいる。
 
 両親は僕が2歳の頃に離婚していて、父親と暮らした記憶は僅かしかない。別に父親がいなかったからと、僕は不自由も無ければ恋しいとも思ったことは無い。実際に会ったことあるけど、別に彼も僕を必要としているわけでも無いし。
 母さんは女手一つといっても、温かく僕を育ててくれた。何も不満なんてない。
 
 見上げれば青い空があって、この空はいつも同じ空じゃないのに、僕の見ているこの道はずっと変わることが無いんだろうな。家の近くにある公園の遠くまで続く防風林の向こうには、ただの出口があって道路には車が走っている。遊歩道には人がつかつか忙しそうにあるいていたり、小さな子どもが自転車をキコキコとこいでいたり…変わらない日常がそこにある。
 
 学校の放課後はいつもこの公園を通る。
 公園は元々は用水路だったんだ。でも、土地開発やら危険防止やらで埋められていって、今では郊外に出て行かないと水路は見れない。それはつい2年前の出来事なんだけど、今では当たり前になっている。
 
 用水路ではお盆になると、毎年町内会で鐘楼流しをやっていたけど、もうそんな姿はここには無い。ただひたすら長い公園の遊歩道が続き、それには青い空と白い雲が流れていくだけだった。
 
 この空は何処へ続いているのだろう。
 この雲は何処へ行ってしまうのだろう。
 
 ゆっくりと、でも着実に、あの雲は東の空へ消えていくのだと思う。
 東の空の向うには隣町があり、その隣町を越えて海があり、太平洋を越えてアメリカまで行っちゃうのかもしれない。
 
 いいよな。雲って。


 -----------


「おかわり。」
「あら、あんたは昔から美味しいものとなると食が太いわね。」
「食べちゃ悪いの?」
「…かわいくないわねぇ〜。自分で盛りなさい。」
「へ〜い。」

 母さんは6時には帰宅して、しっかりと飯を作ってくれる。
 母さん曰く「鍵っ子にしても、ご飯だけは譲れない。」だそうだ。ま、そのおかげで、確かに毎日温かい飯にありつける。何処の家にもある風景なんだろうけど、こういうのって危ういのかもな。

 ずっと無理をしている。
 恋愛している風でも無いし、僕の大学進学の資金を稼ぐって頑張ってる。
 別に僕は大学に行きたいって言ったことは無い。正直自分が何をしたいのか、何に向いているのかなんてのもわからない。なんとなく、漠然と生きちゃっているって気がする。でも、母さんは今どき大学に行かなくて一人でしっかり生きていくなんて出来ないわだって。…そう言われても、実感ないよ。
 だって、母さんも大学行ってないけど、僕のことしっかり育ててるじゃん。勿論、苦労は多いと思う。大変なのには違いない。でも、生きていけるじゃん…。

 ご飯を食べた後、僕は部屋に入った。
 30年ローンで買った3000万弱の3LDKのマンション。
 母さんは昔語学留学して英語を覚えていた関係もあって、貿易会社で事務員として働いている。普通一般のおばちゃんの給料よりは良いそうだけど、このマンションを買ってからは自分でも独自に仕入れをしてネットを利用して商売しているらしい。
 元々商売はしたかったって言っていたけど、明らかに無理をしている。帰宅してから飯を作って、食べ終えてからは自室にこもって商売。それでも売れているから良いけど、これで売れなかったらローンどうしたんだろう。
 
 炊事以外は僕の仕事。
 掃除や洗濯とかはさすがに面倒掛けられないし、その前にやれって命令されてるし。(汗)
 
 何もすることがないから、僕はベッドに寝ころんだ。
 ベッド横の窓からまばらに見える星と、街の明かりが輝く。
 静かな家。
 遠くを走る車の音。
 
 変わらない。
 何も変わらない僕の日常。
 
 僕はいつの間にか眠っていた。

引用なし
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