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「…ヴヴヴ、何故我らに逆らう。」
「…我が痛み、お前も分からぬはずは無かろう。」
「…誤りし生命の道を正すは我らの定め。お前は見たくないのか、夢を。」
夢…、何を言っているんだ?
僕は真っ暗な闇の中にいた。
そんな闇の中にとても低い嫌な声が響いてくる。
何が何だか分からないことをぶつぶつ呟く様に。
「わからないよ。何が言いたいの?」
僕は思い切って声を発してみた。
でも沈黙が波紋の様に広がって行くように吸い込まれて消えた。
「…グレ。」
え?何??
突然先程とは違う僕を呼ぶ声が聞こえる。
「シグレ。シグレ!!!」
僕は目を開けた。そこには僕の名を呼ぶカイルの見下ろす顏があった。
視線の先には天蓋の白い天井が見える。…アスファーンだ。
「あの、どうしたの?」
「どうしたも何も、もう朝だ。」
「…え、あ。」
彼の言う通りだった。窓の外はちょっと陰って見えるが朝日だろう。
山々がキラキラと光り輝いている。
僕は起き上がりベッドから出た。ふとカイルの方を見ると、昨日とは違ってとっても軽装の服を着ていた。これが彼の普段着なのだろうか?…そんなことを考えつついると、カイルが口を開いた。
「お前、風呂でも入っとけ。」
「あ、うん。」
そう言うと彼はベルを鳴らした。するとドアが開いて執事の人が現れたかと思うと、彼と小声で何やら話した。そして、執事の人がテレビとかでも見たこと有る使用人を呼ぶあのパンパンという手を叩く奴をやった。
うへー、さっすがお城だとか思っていると、早速ぞろぞろと使用人の服を着た屈強そうな男達が現れた。スゲーとか思って見ていると、なにやら僕の方に近づいてくる。
「え、え!?えぇええええ!?!」
男達は僕をひょいとまるで胴上げでもするかのごとく担ぎ上げると、ずんずんと部屋の外へ歩き出した。その足は徐々に早くなり駆け足と言っても良い。
「うわぁああああ!?おい、どうしちゃったわけ!?ねぇ、待ってよ!誰か止めて〜〜〜〜!!!」
僕がそう叫んだ時、急にピタッと止まったかと思うとひょいっと投げ出された。
「え!」
バッシャーーーン!!!
僕は一瞬何が起こったのか分からなかった。
…いやぁ、でも、良い湯加減。って違う!!!!
あぁ!?何、風呂だけど、どうしてこうなんの!?…しかも服のまんまだし。
僕が混乱していると、執事のおじさんがゆっくり恭しく現れた。
「猊下。着替えをご用意させていただきましたので、上がられましたらそちらにお着替えください。今お召しの服は私めがしっかりとクリーニングして後程お部屋の方へお運び申し上げますので、脱衣室にそのままお置きください。」
「は、はぁ。」
「着替えの服のサイズは猊下に合う様にお選びさせて頂きましたが、もしも合わぬようでしたら外に待機しております者をお呼びくだされば、すぐにご用意させて頂きます。では、ごゆっくりお寛ぎくださいませ。」
な…、そんなことのために僕を担いで湯に放り投げちゃうわけ!?っていうか、何であんなに丁寧に話ながら猊下とか言いつつ放り投げちゃうわけ!?!って、僕そこに怒るべき!?………はぁ。
あぁ、流されてる。色々な意味で流されてるよ僕。
僕は仕方なく着ている濡れた服を脱いだ。まさかこんな広い風呂の中で服を脱ぐとは思わなかったけど、いや、ホントに広いなぁ。なんかどっかの観光地の1000人入れる風呂もビックリな感じ。っていうか、これ、温泉なのかな。なんとなく硫黄の香りがする。
「ぐぇぇぇぇ〜〜〜…。」
温泉ってどうしてこんな声が出ちゃうんだろう。
もう本能的に出てくるこの変な声。でも、なんか温泉って感じがするよな。
「まぁ!誰かと思ったら、あなたが噂の猊下ねぇ〜!」
「え”!?」
突然女の人の声がしたかと思ったら、僕の目を後ろから両手で塞がれてしまった。
「いやぁ〜ん、可愛いお・は・だ!やっぱ若いって良いわねぇ〜♪」
「あ、あの、その、こ、これは何かの間違いで、あ、えーと、その、手を離してくれませんか。」
「ウフフ、駄〜目♪」
その女の人はあろうことか僕に体を密着させてきた。僕の背中に温もりが伝わってくる。何よりアレやコレやあんなところが僕の背後で密着していると思うと、さすがに健康な男子である僕には刺激が強過ぎて…
「あ、あら、猊下!?」
…あぁ、頭真っ白。
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