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僕は賢者になった。
…いや、マジ唐突に。
RPGとかでよくある回復も攻撃も抜群のアレ?いや、その前に魔法使えるのかな。
カイルのお父上である国王様のお許しも有り、僕はとりあえず帰る方法が見つかるまではこの城で暮らせることが確定した。ここは素直に彼に感謝した方が良いんだろう。
「有り難う。カイル。」
「なんだ?唐突に。」
「いや、色々と助けてもらったし。」
彼は僕の感謝の言葉に、先程と同様に笑顔で答えてくれた。
「ハハハ、そうか。困った時はお互い様だろ。それよりシグレ、お前賢者だったのか。」
「いや、僕にはさっぱり。この目は生まれつきだけど、別に賢いわけじゃないけど…」
「だよなぁ。どう見ても賢そうって顏じゃないもんな。」
「ぇえ!?普通そこ嘘でも良いから頭良さげとかいわない!?」
「へ、間抜けヅラを間抜けと言わん奴はいないな。」
「ブー!ブー!」
僕の抗議のブーイングをよそに、彼は黙々と歩き続けた。
僕らが向かっているのは書庫。何故書庫に向かっているかというと、単純に僕が見たかったから。
まだ帰り方が分からないことは勿論、この世界のこともよくわからない。RPGの基本は情報収集っていうでしょ?で、情報の集まる場所は大抵図書館って決まってるじゃん。だから僕は王様とカイルに書庫への入室許可を貰ったんだ。
王様は僕を賢者と思い込んでいるから、さっそく賢者らしい要求にすぐにOKを出してくれた。で、今カイルの案内で書庫に向かっている。
しかし、この城は広い。今は一階の通路を歩いているんだけど、通路からは中庭にも出ることが出来て、中には沢山の木々と花が綺麗に手入れをされて植えられていた。
全体をみれば西洋のお城の庭って感じがあるけど、庭の雰囲気だけを見る限りは日本庭園にも通じるものを感じる。そういえば今頃気付いたんだけど、カイルの腰に下げている剣もソードというよりは刀に思える。
ここはよくよく観察していると、どうやら西洋と東洋の文化が折衷された様な場所に思えた。
書庫は地下にある。
地下というとこんな古い城だと湿気が凄そうな感じがするけど、ここの空調技術は進んでいるのか湿気を感じることは無かった。それより外の空気より少しひんやりとした風が吹きと通る静寂の空間という感じだ。
「ここが書庫だ。」
扉を開いた向こうには意外なほど明るい空間があった。
地下といってもここは山の上の城。構造的に地下となっているだけで、天井付近に窓があり、そこから斜めにまるで後光が射す様に床に光を落とし、その光は良く磨かれた大理石の反射と天井に張り詰められた鏡によって室内全体に光を行き渡らせていた。
「凄い。」
「おいおい、書庫に感激してどうする。本を見ろよ。」
「あ、うん。」
「読みたい本があったら持ってこい。あとは部屋で見れば良いからな。」
「うん。分かった。」
「じゃ、俺はそこで寝てるから、決まったら起こせよ。」
そう言うとカイルは近くの長イスにどんと腰を据えたかと思うと、横になって足を伸ばして寝てしまった。しかも、ドラ○もんののび○もビックリな程の瞬間的な寝入り具合。有り得ねぇ。
僕はとりあえず書庫を巡ることにした。
不思議なことに、ここの書庫の言葉は何故か分かった。色々な本があるけど、手にとってみるとこの国の記録であったり、作家の詩集であったり様々なものがあった。でも、それらはそんなに面白そうなことは書いてないし、特に別段変わったことがかいてあるわけではなかった。
よくよく棚を見ていると、一応コーナー分けされているらしい。
僕が今見ている所は天候の記述で、歴史は向こう隣にあった。
試しにアスファーン史の本を僕は開いてみた。
「漆黒の瞳持つ賢者様は言葉を託された。
いずれ来る我を継ぎし者、世界を導く光となりて道を示さん。
漆黒の瞳持つ者、邪悪なるものを沈め、世に光溢れる道を示さん。漆黒の瞳持つ者、英知を運び、風を踊らせ、天高く舞い上がり、世を幸福に導く。やがて世界は大いなる災厄から救われ、共に歩み始める。」
先程のカイルの言葉の本文だろう。なんか本当にRPGチックな文だ。でも、これがここの歴史書の1ページ目に出ているってことは、相当重要なことなんだろう。僕は次のページを開いた。
「12神の怒り。
古の12の神は遥か4万の日月の先に世界の時を止めた。世界は時の止まりと共に崩壊し、我ら人間の傲慢を厳しく罰した。
時流れ人の世が再び時を刻み始めた頃、眠りを迎えていた神は再び目覚める。だが、人の子は黒き瞳の賢人を生む。漆黒の瞳の賢者は、世界を再び破壊せんとする神を罰し、固くその力を封印する。
かくして世界は再び安定を迎え、平穏なる世界を築き始める。
創世記」
創世記…?
この世界は賢者によって作られた世界…?
それよりもっと気になることは、この本の破壊された世界として出ている絵の地図だった。
僕は息を飲んだ。そこに描かれた図柄は、間違いなく僕の住んでいた世界の地図だった。
どういうことだ?
この世界は僕の世界の未来?
いや、その前に12神ってなんなんだ???
そいつが世界を破壊して、でも、賢者はそいつを封印して………あぁ、わかんないよ。
僕はよく分からない不安を感じつつ、幾つかの本を取ってカイルを起こしに向かった。
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