|
う〜ん、寒い。
寒過ぎる。布団…布団………あれ?
「…え。」
僕は目が覚めた。そして、目を疑った。
慌てて目を擦って辺りを見回す。でも、見間違いではなかった。
そう、僕は知らない所にいた。
一面に茂る草原。
青い空と白い雲。
建物なんて無く、見えるのは自然の山や緑だけ。
僕は立ち上がった。
服は昨日着ていた服のままだった。
あの時、僕は着替えることなく眠ってしまったっけ。
でも、なんだこれ。何がどうなってるんだ?
…そうだ、これは夢か!
「痛っ…いてぇ、スゲーリアルな夢。」
頬をつねってみたが、そこにはとてもリアルな痛みがあった。
おい、マジ。これ、本で見たことあるよ。
テレビでも聴いたことあるけど、いわゆる夢の中で夢と自覚しながら好き放題やれるっていう、あの明晰夢ってやつ???………なら、思った通りになるんだよな!?よーし、
「出でよ!シェンロン!」
僕の思いとは裏腹に、世界は虚しく僕の声を響き渡らせた。
「あは、あははははは…………、言葉が不味いのかな。ここはやっぱナ○ック語じゃなきゃ、いや、その前にドラ○ンボールないし、つかドラ○ンボールじゃないし。いやいや待てよ、このネタがダメなのか。」
僕が独り言をいっていると、突然後方から声がした。
「おい、お前!そこで何をしている。」
僕は思わず振り向いた。
その声の主は、中世ヨーロッパの騎士って感じだろうか。歳は…僕より年上だと思うけど若い。つか、長身で金髪碧眼のハリウッド俳優っぽい美青年って奴?…すげーって思うけど、なんか癪に障る感じ?あと、とんでもないコスプレだけど、似合っているのが少しウケる。
「あ、あの、あなたは?」
「俺の質問に答えるのが先だ。」
その男の声はとても威厳があって、なんか従わなくてはならないオーラがあった。
「え、あ、僕は眠っていたらここにいて、あの、何処にいるのか…さっぱり。」
「なんだ、記憶喪失か。その服装、見たことないな。流れ者か。」
「いや、記憶喪失ではなくて、あの、見たことない場所で、ほんとここ日本ですか?」
「二ホン?なんだそれは。ここはアスファーン王国だ。第一そんなふざけたほど短い名の国は聴いたことが無い。やっぱり流れ者で記憶喪失な様だな。」
ふざけたほどってのはあんたのそのコスプレだろ!それに、そんな王国の方があるわけないじゃん!ここはどう見たって地球だろ!コスプレは世界に広がるってニュース見たけど、冗談キツイよ。
僕は内心そんなことを思いつつ、そこは言葉に出さずに男の詳細を探ることにした。
だって、もし本当なら…、僕は…、
「あ、あの、それであなたは?」
「俺か、流れ者なら仕方ない。俺はカーライル・シュテファン・バルムドゥール。アスファーンの第三王太子だ。」
「かーらいる・しゅとはん…ば、ばるむんく???」
「シュテファン・バルムドゥールだ!!」
「あ、はい、すみません。バルムドゥールさん。」
突然教えられた名前が西洋貴族のような長たらしい名前。わかるわけないじゃん。あんなの一発で。僕は世界史でこのヨーロッパ貴族の名前を覚えるのが一番苦手だった。だって、カルヴァンだのカルビンだのって古典の活用形みたいに呼び方変わるしさ。
だけど、カーライルは僕が記憶喪失の流れ者と納得すると、何故か突然優しい口調になった。
彼は彼なりに心配してくれているらしい。
「お前の名は?覚えているか?」
「あ、僕の名前は車時雨。」
「クルマ・シグレ?聴いたことの無い響きだ。…ふむ。ならば、お前の名は、クルマと呼べばいいんだな?」
「え!?あ、違います、逆逆!あー、すみません、こっち風に言うならシグレ・クルマですね。シグレって呼んでください。」
「なんだ、違うのか。分かったシグレ。俺はカイルと呼ばれている。しかし、そうか。記憶喪失とは不憫よの。よし、俺の家に来い。記憶を取り戻す間、わが家に住むが良い。きっと父上も快く迎えてくれるだろう。」
おいおい、どうしてそうなるんだよ。
なんでそんな勝手に「俺の決定は絶対だ!」オーラ出しながら言うんだよ。
僕は慌ててその申し出を断ろうとした。
「え、あの、僕は別に、そんな気は、」
「なに、気にすることは無い。部屋は空いている。その代わり、一つ条件がある。」
「え、あの、条件って、その、まだ答え決めてないのに…」
「条件は…俺と友達になる。それだけだ。」
「…あ、はい!僕で良ければ!!!…って、え?何で勝手にそうなっちゃうわけ!?」
「さぁ、帰るぜ!シグレ。」
僕は彼に言われるがまま、ただなんとなく付いていってしまった。
いや、内心それを望んでいなかったわけじゃない。
今起きていること、そしてそこに現れた想像もつかない世界の住人。
僕は何が何だかわからないけど、今はとりあえず彼に従っておくことにした。
…別に悪そうな人にも見えないし。
|
|
|