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クルー全員が近くのシートにベルトで固定された。
全てのクルーはNTリンクコントロールに移行する。
「見せてやろう。これが我々の戦い方だ。」
変形を終えた艦は、その針路を突如変更し、連邦艦隊側へ突進を始めた。
インターセプトコースを取ろうとしたオルドー達も不意の針路転換に虚をつかれた。
月軍艦隊は敵母艦の急反転に一斉射撃で応戦するが、全く歯が立たない。
「やらせない!(オルドー、針路変更、追撃)」
「(了解)くそ、舐めた真似を!」
「むぅ(タロウ、敵艦が武器システムを起動。予想ポイントは…連邦艦隊だ)」
「くっ(カイル、フェイズ砲用意。オルドー、多少の無理は構わない。全速で頼む。)」
「了解(ガイア、フルインパルス)」
「了解(フェイズ砲充填、目標、敵母艦)」
「Fire!」
フェイズ砲が発射された。
しかし、第一撃の時と違い、今度のビームは透過せず敵のシールドに阻まれてしまった。彼らのシールドは僅かな時間で連邦の新型フェイズ砲のビーム波長に対応したのだ。
「ははは、やっぱ新型は良いねぇ。しびれるねぇ。こんなに爽快な気分は久々だぜ。さすがはDSAだ。こんな下っ端と思っても、どっこい、使えるじゃねーか?ははぁ、さて、遊びじゃないんでな。義理はキッチリ返すのがウチの流儀だぜっと。」
彼らの母艦から一発の魚雷が発射された。それは連邦艦隊に向けて放たれていた。
それは紛れも無い、コロニーを消し飛ばした原因そのものだ。
シスターフェアレディのブリッジでは、ジュドーが艦隊全体に緊急でシナプスからシールド起動命令を出し、起動させた。しかし、至近距離からの爆発は無傷では済まされないだろう。最悪の事態を覚悟する他なかった。
しかし、その時事態は急転した。
一機のMSが魚雷へ向けて発進していた。それは艦の防衛に当たっていたspitfireの姿だ。
「どいつもこいつも、こんなもので消せると思うな!!!」
彼の感応波が魚雷を制御し始める。
強力な感応波によって次第に統制下に入り始めた魚雷をみて、トヨトミは慌てて自身も感応波を強く集中する。
「(何だこいつ!?俺が…押されている、だと!?)」
「(魚雷、俺の命令に従え!お前は騙されている!大人しく従うんだ!!!)」
「(ぐぅうう、連邦のNT兵器とはいえ、これは何だ!?)
元々NT仕様で開発が進められたシスターフェアレディ向けの武装は、この魚雷も漏れなくNTによる制御が可能だ。しかし、NT兵器は敵の感応波に干渉されるという欠点も抱えている。故に、こうした兵器には感応波をジャミングする様々なシステムを搭載しているものだ。だが、いくら連邦製の兵器とはいえ、一度同期させたNTリンクに干渉するのは早々簡単な話ではない。
トヨトミは感応波をより強化しようと努めた。
「(くぅ、ニューロン、サイコミュジャマー強化、敵NTリンク感染防壁起動、マルチプルサイコミュリンケージ、オン)」
「(サイコミュジャマーは現在100%稼働中です。感染防壁は敵対リンクに対し、現在25%の効果で稼働中です。マルチプルリンケージ起動で防壁効果が5%上昇しました。)
「(ご、5%だと!?トータル30%!?…ばかな、そいつのシンクレベルは?)」
「(スキャンデータは、敵感応波をLv.7と確認しています。)」
「(レベル…7!?ジュドー・アーシタか!?)」
「(ニューロンはこの感応波をジュドー・アーシタと特定出来ません。)」
「(…どんな化け物だ。)」
遂に、魚雷はグレイの支配下に入り、その駆動を止めてしまった。
「(くそ。主砲発射!突っ切るぞ!)」
彼らの艦は反転すること無く連邦艦隊のど真ん中を突進し始めた。しかし、艦隊はグレイの持つSpitfireへの誤爆を恐れて、思う様に攻撃が出来なかった。
その隙を縫う様に、彼らは遮蔽を始めると、アステロイドベルト方向へ向けて再び針路を向けて消えて行った。
「一先ず深追いはしない。(全軍、空域の保安に当たれ)」
「(了解)」
ジュドーの命令下、全軍は停戦し保安と収拾に入った。
そこに、ブリッジで1人ジュドーへ抗議の声を上げる者がいた。
「アーシタ少佐!独断でのシナプス命令は越権行為ですぞ!准将閣下、どういたしますか!!」
ドーンの抗議の声に、向けられたルーは鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をしていた。
一息やれやれと言った風に溜め息を漏らすと、
「…そうね。艦長の仰る通りだわ。上にもそう報告しておきましょう。」
残存艦隊はニューダブリン空域を離れ、オークランドコロニーに集まることとなり、シスターフェアレディもそちらへ向かうこととなった。
オークランドコロニー到着後は、矢継ぎ早にナンジョー中将の命令で空域の保全が為されたが、シスターフェアレディのMS格納庫内では騒ぎが起きていた。
「どうした、アーカンソー軍曹。何事だ?」
「艦長、反応がないんです。スタインバーグ少尉の反応が。」
「反応が無い?どういうことだ?無事に帰還したはずだ。」
「はい、でも、シナプスもダウンしていて、外部からの呼びかけにも答えることがなく、コックピットから出て来る様子が無いそうです。」
アーカンソー軍曹の話を聴いて、ジュドーがMS格納庫へ向かって行った。
格納庫では救護のフォンテーヌ中尉が呼びかけているが、反応は無い様で確かにハッチは開かれていない。これまでの機体は外部にマニュアル式の開閉ボタンが存在していたが、この機体にはそうした機能をあえて設けておらず、パイロットと専任のメカニックにのみ開閉命令を出せるNT認証を採用している。しかし、パイロットが内部に居る場合はパイロットが優先される仕組みの為、整備主任のマリアが呼びかけても反応しない。
船医のクアデルノが到着したジュドーに生命には別状は無いと伝えた。ジュドーはそれを聞くと、颯爽と歩いて行きSpitfireのハッチの前に立った。
彼はそこで目を閉じて集中すると、Spitfireとその内部の状況を探った。
そこにはどんよりと黒い塊の様なものに包まれたグレイの姿が見えた気がした。彼は構わずにグレイを取り巻くSpitfireのシステムにアクセスを始めると、そこから強引にハッチを開ける命令を与えた。
プシュゥゥゥゥゥゥゥゥーーー
ハッチが開かれた。
そこには、虚空を眺めたままぶるぶると震えるグレイの姿があった。
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