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星砂の男はタマゴを取り出す。
そのタマゴは、以前見たクロノ・トリガー、時の卵とは少し違っていた模様であった。
そして数を数え始めた。
「……4……3……2……1…0」
麻袋が一瞬光る。
「何をしたの??」
「マール!!」
「もう出してもいいぞ」
いわれて麻袋の中から手を取り出す。
出した手には何も無かった。
「一体、マールに何をした」
「ふん、お嬢さんには何もしていないさ。何かをしたというならその中に入っている”星砂”だ」
「?? 星砂に…」
「あんたらの時間のエンコード、いわゆる時間軸、場所、並行次元などいくつかの次元の座標、っつってもわかるか?」
「ええ、なんとか」「ハイ」
メンバーのインテリ、ルッカとロボが肯く。
「それをこのデコード・エッグ、またの名をクロノ・リペア、時の修復によってこの”星砂”に刻み込んだ。
これによってお前達の言う『前の周』の記憶を持たないものに、『前の周』の記憶を【思い出させる】ことができる」
「へっ」
「”星の砂”はこの星からはみ出たものだ、そしてこのときの最果て、この部屋に来るまでに、様々な時空間を通ってきた。
ゆえに、様々な時空間の記憶が凝縮されているということだ。それにこのデコード・エッグで少し細工すれば、相手にあんたらがかつて過ごしてきたときの時間平面の記憶が、あんたらの経験した時間に合わせて掘り起こすことができる。
いや、重ね合わせるといったほうがよいのか。話しを聞くと、今のあんたらは2つの記憶。『前の周』と『今の周』の記憶があるという。相手にもそれと同じ状態が生まれるということだ」
「じゃあ、この”星砂”を大陸中にばら撒けば」
「んなことしたら、大陸中大混乱でしょ」
「それもあるが、星のバランスが崩れる。
もともと”星砂”は余分なエネルギーの塊、あまり使うな。
それと…」
再び星砂の男はクロノに小さなものを投げた。
受け取るクロノが見ると、それは、
「砂時計?」
「それはオレ様が作った特別性の物だ。それをひっくり返して全て落ちていくところまで見せれば、さっきの”星砂”の効力はなくなる。
もちろん”星砂”は回収できないが、流れ出た”星砂”はやがて再びここにたどり着くから気にしなくてもいいぞ。
最終的にこの空間に戻ってくれば、星のバランスを崩さなくて済むからな」
「ありがとう」
「ふん、言われることのほどではない」
そういいながら、黒いローブで隠れた男の口が少しにやけているようにみえる。
「どうやら、あんたらがしっかりしていないと、この星も危ういらしいからな」
「星砂さんは何か知っているの?」
「知らんよ。さっき、あんたらから聞いた話以外はな
ほらさっさと行け、”星砂”が無くなったらまた来るがいい」
再び礼を言って、クロノたちはこの星砂の部屋を去った。
そして、星砂の男一人。
砂の落ちる音だけの世界。
星砂の男は作業に戻る。
「運命と因果か、皮肉なものだ」
自らでた言葉を振り払い、再び”星砂”を紡ぎ始めた。
「どうじゃった」
部屋の中央にいた老人――ハッシュは、時の最果ての二階部分から帰ってきた彼らを迎えた。
「ええ、貴重なものが手に入ったわ」
満足そうに、眼鏡をかけた勝気そうな少女――ルッカは言った。
「それにしても、あの男は一体何なの? 『前の周』にはいなかったわよ」
あの男というのは、砂に包まれていた階段の上の部屋にいた星砂の男と名乗る人物のことである。
「あいつはしばらく前にここに流れ着いてな。いつになっても元の時代に戻る気が起きないようだから仕事を与えてここに住まわしているのじゃよ」
「彼はここから出れないといっていたが?」
と、赤い髪と腰脇につけた刀が特徴的な少年――クロノが疑問調に言った。
「それはあやつでは『タイムゲート』を開くことが出来ないからじゃよ。
まあ、正確にはゲートを安定できないだけなんじゃが」
「じゃあ、このゲートホルダー(改)を使えば彼を元の時代に……」
「ふぉっふぉっふぉ、それでもあいつは戻らんじゃろう。
あやつの時代ゲートが閉じているということもあるが、戻ろうとする意志が見られん。それだとまたここへ戻ってきてしまうだろうからのう。
元の時代で何があったか知らんが、星砂の作業をするのはわしにはちと辛い、あやつにはまだまだやってもらわんといまはまずい。
まあ、頃合いをみて適当な時代に送り出すわい、気にせんでいい」
「ソウデスカというと、奥に部屋にいるヒトたちも同じナノデスカ」
「?」
老人は誰のことを言っているのか分からず、少し黙ったのち、口にした。
「ああ、あいつらのことか。あれはちょっと事情が違うあいつらは便利屋みたいなものじゃ」
「はあ」
「まあ、あいつらのことはあまり気にするな。
それよりその砂は大事に使いことじゃ、世界は微妙なバランスを保っているのだからのお」
「そうなんだ、注意してつかうわ、ありがとうハッシュさん」
笑顔でハッシュ老人に言った少女――マール。
「じゃあそろそろ行くわね」
「この先、何が起こるかわからん。知っている物語だからといって油断せんことじゃ」
「わかっています、ありがとうハッシュ」
「それじゃあそろそろ行くね」
「ああ、気をつけるのじゃ」
「アリガトウゴザイマシタ」
クロノは老人ハッシュに礼をすると、マールたちの後を追いかけた。
三人と一体が消えた後、老人ハッシュは再び眠りに付こうかと思ったところ。梯子から、カランカラン、と音を立てて何かが落ちてくる。
目を開け、老人ハッシュは見る。
手のひらに乗る小さなものは、さっき星砂の男が持っていたデコード・エッグであった。
「全く乱暴に扱ってからに」
これはもともと自分が作り、先ほど星砂の男に貸したものだ。
無論、少しの衝撃では壊れんが、万が一ということもある。
ほんの少し冷や冷やした。
老人ハッシュは卵を手に取り、今からやるべきことを思い出した。
迷子の少年を元の世界に送ることだった。
老人ハッシュはスペッキオの部屋を開けた。
「おい、ヌゥマモンジャーはいるか?」
そこにいたのは青い野カエルであった。
「んん? あいつら寝てるぞ」
ヌゥマモンジャーの部屋とスペッキオの部屋は出入り口とは別に、ちょっとした通路で繋がっている。
「じゃあ、さっさと起こせ。少年を元の世界に戻すぞ」
「少年? 少年ってこのボーズか?」
ひょっこりとスペッキオの後ろから少年が現われる。
「こいつすごいぞ。すごい魔法の才能を思っている。さっきのにーちゃんたちよりもだ」
「にーちゃんって、あの赤いツンツンした頭の? 確か、クロノ、マール、ルッカ、ロボだっけ?」
「ほら、記憶力もいい、将来、かなり化けるぞ」
「ほう、それはそれは楽しみじゃ。さてさて、元の時代に戻るぞ」
老人ハッシュは少年に近づく。
「僕、英雄になれるかな?」
「英雄?」
「そう、昔魔王軍を倒したっていう英雄と同じ英雄に」
「ああ、慣れるとも。さあ、スペッキオよ。ヌゥマモンジャーを起こすのじゃ」
「おう」
中央の部屋に、ハッシュ、スペッキオ、マモ、ヌウ、少年が集まる。
「さあヌゥマモンジャーよ、この子を無事送り届けるのじゃ」
「全く、魔物使いの荒いジジイダモ」
「そんなんだなぁ〜」
「つべこべ言うな」
老人ハッシュはデコード・エッグを発動させる。
ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
すると、少年を中心としてゲートが広がる。
もともとデコード・エッグはもののエンコードを読み取り、その時代へ飛ぶためのゲートを開く道具である。
もちろん、エンコードはそれぞれ別々であるから、開けるゲートも一種類のみであったため、クロノたちにはあまり意味がなさないものであった。
して、老人ハッシュは少年に一言。
「もう会うことは無いだろうが、元気でな」
「おじいちゃんもね」
グオォン
ゲートともに少年とヌゥマモンジャー、そしてスペッキオは消える。
「さて」
老人ハッシュは再びいつもと同じ定位置に戻った。
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