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話を聞き終えた星砂の男はうなる。
「世界を救うね。あのバケモノ(ラヴォス)を倒したお前らなら可能かもしれないな。
それに、お前らの話からすれば『前の周』にはこの部屋は無かったというのだからな」
「この砂だらけのこの部屋、一体何なの?」
「さっきもいったがこの砂は”星砂”……オレは何年も…何十年もここで過ごしてきた、ように感じている。この砂とともに。
実際はどうかは分からないけどな。なんせ、この時の最果ては普通と時の流れが違う。それもこの空間の特性というもの」
「この空間の特性?」
「この空間の時の流れが違うということ。あえて言うなら、普通の空間と朝に食事を摂る時間が同じだとする」
一息ついて、星砂の男は続けた。
「五時間後に昼食を摂るとすると、あんたらの時間は、……そうだな現代という時間の中ではしっかり五時間後であるが、この時の最果てでは三時間ぐらいしか経過していない、お前らがおやつでも食っている時間にやっとこっちは昼食を摂るという具合に、ずれが生じているわけだ」
クロノとマールはイマイチ理解していないが、ルッカは簡単にまとめた。
「時間の進み方が違うってこと?」
「まあ、そういうことだな、ここに流れている時間も、他の空間の時間も一律ではあるが、二つは重なることも交差することも無い。
ゆえにここは時の最果て、どこの時間とも交わらない最も果てにある場所なわけだ。
まあ二周目? っていうのか?
それを経験しているあんたらならこのぐらい聞いたり、理解しているだろう?」
「いや、ぜんぜん」
マールが答え、クロノも首を横に振る。
なんとか理解しようとしているルッカ。
「ツマリハ、ワタシタチノ過ゴシタ『前の周』の時ノ最果テと、コノ二周目ノ時ノ最果テは全く同ジモノデアル、というのデスカ?」
「まあ、可能性の問題だ。お前らの『前の周』の時の最果てではここは無かったというのだから、俺がここに落とされる前で、下のジジイがここを作る必要がなかった時なのだろうな。
その一方で、もしかすると『前の周』とは違う時間平面の時の最果ての可能性もあるということだ」
「?」「?」
「でも、もし『前の周』の時の最果てと二周目の時の最果てが同じだとすると、いろいろな矛盾が起きる気がするのだけど」
「そう、そして、ここからが本題だ。
時間が変化することにより生じる矛盾、それを解決させるのがこの”星砂”だ」
星砂の男は一握りの砂、星砂を掴んだ。
パラパラと砂を落としてく。
「この”星砂”は、星の力を利用した純粋なエネルギーだ」
「星の力? 星の力って、魔法のこと?」
「近い存在ではある、ただし魔法のような物理的現象として現われる超常現象の類ではなく、これは純粋なエネルギーの塊だ」
「これが全て星のエネルギー?」
マールは両手一杯に砂をもつ。
じっくり見るが、特に黄金に輝くわけでもなく、光を放つわけでもない。
普通の砂より、ただ細かいようにも見える。
ただ、ただ、細かい粒。
そこからは魔力も、力も感じない。
「でもこれは一体」
「”星砂”は外から持ち込まれるエネルギーが、星の限界を超えない程度に取り出し、その余分なエネルギーを星が自らのエネルギーに変換し物質化させ、安定化させたもの。
余分なエネルギーはその分だけ、星を痛まさせる。人間でいう、肥満体質になるってことだな。余分なエネルギーを安定な状態にするためにこの”星砂”という形を取ってバランスを保っているわけだ」
「外から持ち込まれるエネルギー?」
「そう、星は様々なエネルギーが外から持ち込まれているのだ。
太陽の光をはじめ、重力、隕石といったものから、時間、空間、ありとあらゆるもののにエネルギーが存在している。
この星は常にエネルギーに当てられ、消費している。
そうやってバランスをとっていた」
「隕石って、ラヴォスもその外から持ち込まれたエネルギーだっていうの?」
「そう、ラヴォスもこの星にエネルギーを持ち込んだものの一つといえる」
「ラヴォスも……、?
でも、ラヴォスが存在していたときはこの部屋は無かった」
話の流れが掴みかけていたクロノがいった。
「……ということは、ラヴォスもこの星にエネルギーを持ち込んだのに、この部屋は『前の周』にはなかった。つまりは余分なエネルギーがそのとき発生していなかったってことか?」
「まあそうなるだろうな、生成と消費がバランスよくなっていたということなんだろう」
「それはラヴォスは、この星の生命の遺伝子を吸収し、この星のエネルギーを消費してバランスをとっていたっていうこと?」
「かもしれんな」
とルッカの問いに、あえて仮定で答える星砂の男。
「オソラク、ラヴォスハそうやって星のバランスヲ崩サズニ、ワレワレニ分カラナイヨウニしていたのではないデショウカ?」
「でも、わたし達がラヴォスを倒したから、この余分なエネルギーが生まれたって事?」
「そうなるわね」
「じゃあ、わたし達が……」
「おいおい、あんたらあんまり悪い方向に考えるなよ。
結局、ラヴォスは星を滅ぼしたんだろ? 滅ぼされたんじゃあ意味がない。 一体いくつの命を救ってきたの分からんだろう? そのエネルギーは、決して無駄なエネルギーではないはずだ。あんたらは十分よくやったよ。
それに、ラヴォスのせいでこの”星砂”が生成されたのかは実際のところは分からない」
「それは本当なの?」
「ああ、確かにラヴォスが倒されることが確定した時間平面、つまりこの平面においては
この部屋ができるほどの余分なエネルギーが生じたのは事実だが、それが決してラヴォスのせいとは言い切れない。実際わかっていないしな、調べるにしてもどうにも」
「つまり、他の何かが余分なエネルギーを出していたってことか」
「かもな」
「何か……たしかに、ガッシュさんが言っていたエネルギーの嵐っていうも、エネルギーの放出と考えれば、大量に余分なエネルギーが発生するてことにも繋がってくるね」
「んん!! なんか近づいて気がするわね。今回の原因に……」
一息ついたように星砂の男は立ち上がった。
「あんたらがこの余分なエネルギーの原因をなくしてもらえば、俺の仕事も楽になっていいがな」
「仕事って、あなたはここで何をしているの?」
「この余分なエネルギーを還元、外へ運んでいるのさ」
「外って?」
「この星の外、他のエネルギーの足りない星とか空間とかそんなものに向けて、宇宙空間に飛ばしている」
「この宇宙空間に、ってどういう風にこの星から飛ばせるの?」
「それは、教えられん。こっちにもいろいろあってな。話すわけにはいかないんだよな」
「なんで、ケチ」
「何とでも言え、こればっかりは話すとなかなかやり難くなる」
「う〜〜」
興味ありげに見るルッカの視線を外し、星砂の男は続けた。
「このエネルギーはジュースだ。星という名のコップに入るジュース」
星砂の男はどこからとも無く、取っ手の付いたコップと黄色いジュースの入ったボトルを手にしていた。
「コップの中には決められた量しか入らない、しかもその中にはコップの中に元々入っている水のある、この水はこの星が生み出すエネルギーだ」
星砂の男はクロノたちにコップの中を見せた。その中には透明な液体が入っている。
「これをコップに注ぐ」
ボトルに入ったジュースを注ぎ込んだ。
それは一定のスピードで注がれていく。
やがてコップの容量をこえて、ジュースはコップの外面を汚しながらこぼれていく。
「こぼれちゃっているけどいいの?」
「このこぼれた分が余分なエネルギーだ。さてどうする?」
突然星砂の男が質問をしてきた。
「飲む」
「分かった、飲んでみよう」
ジュルルルル
そういって、コップを空中に停止させ、またどこからとも無く長いストローを出し、器用にボトルからジュースを流しながら(なぜかジュースは無尽蔵に出てくる)、長いストローでジュースを飲みはじめるが、ボトルの口の方が大きく、全く追いつかず、ジュースは流れ出る。
「それが消費ね」
「そうだ」
ストローを口から外した星砂の男が言った。
「さて、このコップから流れ出るジュースを……」
星砂の男は少し深い皿を取り出し、コップの真下の空間に停止させた。
「この皿でとめる」
「その皿がこの空間ね」
「それはちょっと違う」
「?」
「正確にはこの空間は……」
星砂の男は、茶色の手袋をした手をその皿に向けた。
そして、その空間に魔法の構成が現われる。
”アイス”
カキィん
氷の魔法は、皿にではなくその中に入っているジュースを凍らした。
星砂の男は、その氷をボールに移し変え、アイスピックで割る(すでに星砂の男が何を取り出しても驚かなくなっている)。
ガッッズガツガツガツ
「皿はこの星が余分なエネルギーを星砂にするための器、そしてこのボールがこの空間だ。
ジジイもはじめは少量だったからほっといたが、次第に星砂の量が多くなっていくから、この部屋を作った。そして……」
ボールからジュースの氷を一粒取り出して…
ヒュン
マールに向けてやんわり投げた。
マールはそれをキャッチした
「食ってみろ」
首を立てに振り、氷の粒のジュースを噛み砕いた。
「ひゅめたふて(冷たくて)、ほいひぃぃ(おいしい)」
マールの笑顔に満足し、ルッカ、クロノ、ロボにも氷の粒を投げ渡す。
「この投げる仕事が俺の仕事」
「ツマリ、ワタシタチハ他ノ星トイウコトデスネ」
「といういこと、これが”星砂”のつくられる仕組み。これと似たようなものが、この星の中でも起こっている」
「ふひひなもほね(不思議なものね)」
とマール。
「口ん中、整理してから喋れ」
星砂の男に注意される。
「すごいシステムね」
「まあ、大自然の神秘ってところか。だが問題もある」
「ソウナノデスカ」
「ああ、コップはジュースがこぼれた時点でコップ自身を汚している。
注がれたジュースともともと中に入っていた水、この二つが混ざり合いコップを汚す。やがてコップの外側、外壁にべたべたしたものが付いていく。
このストローでも吸える量は違ってくるし、ジュースの量も水の量も変化する。
あるときは大量に液体がコップをあふれ出し、またあるときは少量の液体がコップをあふれ出す。
では、コップの外側が汚れていたら、君はどうする?」
「……洗う」
「洗う、確かに洗う。洗うためには水がいる。
水はこの星が生み出したエネルギーだ。
外からのエネルギーはすべてジュースだからな。
まあなんだ、ジュースにせよコップが汚れてしまうのには変わらないからな」
「それって……」
ルッカが何かを言おうとしたところで、クロノにさえぎられる。
「なら、外からのエネルギーを減らすしか」
「単純だな」
即返して、クロノを少しむっとさせた。
「外からのエネルギーは、あまり悪ものと考えるのはよくない。なぜなら、星は刺激がないと慢性的に弱ってくるからな。外のエネルギーという刺激があってこその生物の進化がある。
全てを否定するのは、それこそ自滅の道を歩まんとするものだ。その辺り気をつけろ。全てはバランスだ」
「ってことは、やっぱりエネルギーの嵐の原因は少しずつ探っていくしかないのか」
「ソレガ確実デスネ」
「楽な道は無いか」
「そうなるな。頑張れ若者よ」
(まあ、外のエネルギーをどうやって遮断するのかを考えるのが難しいと思うがな)
などと心の中でつぶやき、星砂の男はクロノに麻袋を投げ渡した。
クロノが中を広げるとそこには”星砂”がはいっていた。
「これは?」
そういったマールの手首を掴み、その麻袋の中に突っ込ませた。
「えっ? 何」
「抜くなよ」
星砂の男はタマゴを取り出す。
そのタマゴは、以前見たクロノ・トリガー、時の卵とは少し違っていた模様であった。
そして数を数え始めた。
「……4……3……2……1…0」
麻袋が一瞬光る。
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