|
クロノはある物をイメージした。
イメージは魔法の構成などで養っているために、意外とリアルに想像できる。すると手元の白い板は変化を始める。
グォン
白い板は金属の板に変化していた。
「イメージしていたのとちがうな」
「イメージに失敗すると大抵は、金属の板になる、理由は知らんが」
周りを見るとルッカ以外は皆、金属の板になっていた。
「ああ、何でこう失敗しちゃうんだろ」
「機械に新たなイメージをサセルノハ難シイデス」
「イメージどおりの形にならないわね」
そんなクロノたちに老人ハッシュは、
「これがなくてはグリッドでエレメントが使いこなせないからのお。
ゆっくりやるといい、ゆっくり慣れていくのじゃ」
クロノは再びイメージする。
それはグリッドにゆっくりと伝わっていく。
グリットはそのイメージにゆっくりと合わせていく。
ブオン
クロノの手元にはリストバンドが現われていた。
マールやロボも自分がイメージしたとおりのものができたらしく、さっきの金属板のものではなくなっている。
「成功したようじゃな。では、どれどれ」
老人ハッシュはクロノのリストバンド(グリッド)に触れた。
するとリストバンドは消え、クロノの目の前の空間にグリッドが浮かぶ。
『え』
「このようにグリッドを知っているものが、それを認識しつつ、物質状態のグリッドをつかむと自分ではなく、相手のグリッドが開いてしまう。ここに注意しておいたほうがよい」
「誰かに盗まれることがあるのか」
「いや、グリッドは盗まれんがかわりに6時間以上はめたままのエレメントが盗まれてしまうのじゃ。
なかなか細工のしようがないからのお。
バレてしまえば一発じゃ、充分気をつけておくことじゃ。
……さて、それでは次どこに行く気なんじゃ」
「現代に戻ろうかと思う。
前にも話していたし、ハッシュの話を聞いてて、やっぱりオレたちがやってきたことが複雑に絡み合っているというのだったら、やっぱ同じ流れで進めていけば何かおかしなところが見つかりやすいんじゃないかって思って」
「なるほど、確かにそれが一番分かりやすいかもしれんのお。
じっくり考えるのじゃ、でなければみつからんこともある」
「ところでさっきここに来た子供は?」
「? ああ、さっきのは……なんじゃったかのお」
「おいおい」「ハッシュサン」
「おお、思い出した、確かその部屋で休んでもらっているのじゃ」
老人が指差したのは、先ほどまでいたスペッキオの部屋に入る扉の横。同じくらいの扉があった。
「?? さっきまではなかったのに」
「コレハ一体ドウイウコトナンデショウカ?」
「それに梯子も……」
先ほどまで見えなかった扉の隣には確かに梯子がかかっていた。
「不思議に思っておるな、これが認識じゃよ。
目に映るものが全てではなく、時に目に映らない大切なものがある……」
「ねえ、中でなんか聞こえるけど」「ん? どれどれ」
ガチャガチャ
ドアノブを押したり引いたり捻ったりしているが、開く気配はない。どうやらカギがかかっているようだ。
「ねえ、ここカギがかかっているんだけど」
「ふう」
話を途中で切られてしまいハッシュは少ししょんぼりとしていたが、それに答える。
「ああ、この中の住人がカギをかけておるのだろう。
全く普段は開けっ放しだというのにこんなときだけ」
「え! ここにはハッシュとスペッキオ以外に住んでいるの」
「? 知らんかったのか。
その扉の先には、あるとき突然この空間に落ちてきてな、勝手に住み込んできたのじゃ。
まあ、ときたまわしの使いとして他の時代に行ってもらうことがあるが、今ヤツらにさっきの子どもの世話をしてもらっているのだよ」
マールが扉に耳を近づけると、
「もっと静かに……モ」
「だなぁ〜〜」
「…!!!」
「あ、こら…………ダモ」
「確かに誰かいるわね。三人? かしら」
「まあ、あいつらにはあまり関わらんほうがよいだろう。それよりそこの梯子に登ってみるがいい」
「この先には何があるんですか?」
「そこは星砂の部屋につながっとる。まあ、行ってみるがいい」
言われて三人と一体は梯子を上った。
「夜の星みたいだ」
梯子を上って出た空間は、真上に夜の星空のようなものが広がっていた。瞬きを惜しむぐらいの綺麗な空。吸い込まれそうな暗い中に小さな点、星がパチパチと輝いている。
「綺麗な場所だな」
「そうね」
「それにしても、この黒。まるで魔王が出てきそうな雰囲気ね」
魔王というのは、『前の周』でかつて中世を支配する魔族の王としてクロノたちと敵対し、そして紆余曲折ありながら最後にはラヴォスと戦った古代人のことである。その魔力と古代人としての知識は幾度となくクロノたちを助けた。その魔王にはよく『闇』の中にいる。そんなイメージがあった。夜になるとふといなくなり、いつの間にかみんなとともに敵と戦っている。そんな不思議な人物であった。
「客か……」
くぐもった声がした。
クロノたちにはその気配を感じることはできず、それはすっと彼らの前に現われた。
黒いローブを身に纏い、見えるのは片目だけ、そのほとんどを布で覆っている。目立つ黒い色のローブも、この暗闇の空間では体型さえも分からない。
「ジャキ?」
マールの放った言葉に、その黒いローブの男は顔がこわばった。
「人違いだ。オレはそんな名前じゃない。
オレはただの男、この星砂の部屋の住人。
ん〜〜、そうだなこの部屋の名をとって星砂の男といったところか」
「星砂の男ねえ」
確かにその男、明らかに魔王とは雰囲気が違った。
何か傲慢な感じがする。
「そう、星砂。この部屋に広がる星砂を管理する役目を押し付けられた男だ」
「広がる星砂って」
ルッカは足元を見た。
そこには床とばかり思っていたが硬い砂が敷き詰められていた。
「コノ床ニアルモノガ星砂デスカ」
「そうだ、といってもお前達のいるところは少し固めてある。下のジジイがうるさくてな、しかたなく固めたんだ。少し歩けば感触の違う地面が広がっているからな。
砂って知っているか?」
「ええ」
「お前達が思っている砂とは少し感触が違うから、歩くときこけるなよ」
星砂の男はこちらに背を向けて歩き出した。
一度振り返り、
「付いて来い、どうせしたのジジイから何も聞いていないんだろ?」
いわれ、クロノたちはバランスを保ちながらも地面に砂と、上に夜空の浮かぶ空間を歩いた。
しばらく歩いたところで星砂の男は足を止めた。しばらくといっても、まだあの登ってきた梯子が見える位置だ。
星砂の男の隣には上の空間から落ちてくる砂の細い柱がみえる。そこでゆっくりと星砂の男は座った。
「おまえらもその辺で座れ」
促されたクロノたちは感触の悪い砂の上に座った。
「この砂って、空から落ちてくるの?」
「星空から落ちる砂、だから星砂だ。
そうそう、お前達の紹介がまだだったな。どうせ、下のジジイに言われてきたんだろ? あのジジイが呼んだって事は、なんかここに役立つものがあるんだろな。遠慮せず、お前らのことは話してみろ」
しかし、なんとなく話し辛い。
クロノたち、三人と一体は顔を見合わせた。
そんな、話しをすべきかどうか悩んでいるクロノたちを見て。
「あんま気にするな、おれはここの住人だ。たいていの事は驚かんし、悪い目で見ることもない。さっさと話しちまえ」
そう言われてクロノは自分たちのことを話し始めた。
|
|
|